説明

ヒト胚幹細胞由来の膵島細胞

本開示は、胚幹細胞から膵島細胞を産生する系を提供する。内胚葉細胞への分化を開始させ、膵島前駆細胞および成熟インスリン分泌細胞の出現を促進する試薬を用いて焦点を合わせる。研究、薬剤スクリーニング、または再生医療で使用するための高品質の膵島細胞集団を、商業的な量で産生することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、細胞生物学、胚幹細胞、および細胞分化の分野に関する。より具体的には、本発明は、膵内分泌機能を有する分化細胞を提供する。
【0002】
関連出願の参照
本願は、2001年12月7日に出願された米国特許仮出願第60/338,885号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
背景
米国糖尿病協会では、現在、米国には糖尿病であると確認された人が500万人おり、1,000万人を上回る人が糖尿病の危険性があると推定している。
【0004】
この疾患およびその後遺症のアメリカ経済に対するコストは驚異的である。糖尿病の治療は1年当たり総額980億ドルを消費し、米国における医療費の7分の1を占める。毎年、糖尿病に起因する失明の新たな症例は24,000件である。糖尿病は腎不全の主要原因であり、新たな透析患者の約40%をもたらしている。糖尿病は下肢切断の最も頻度の高い原因でもあり、毎年56,000件の下肢が失われる。一人当たりに生じる医療費は、糖尿病にかかっていない人では年間2,669ドルであるのに対し、糖尿病患者では10,071ドルである。
【0005】
1型糖尿病(別名、インスリン依存型糖尿病)は、全糖尿病の5〜10%を占める重篤な病態である。患者の膵臓内のインスリン分泌β細胞が自己免疫反応によって排除されるために、症状が生じる。現行の治療では、規則的なインシュリン注射、食事に対する恒常的な注意、およびインスリン投与を調整するための血糖値の持続的なモニタリングによって、病態を管理する。組換えインスリンの市場は、2005年までに40億ドルに達すると推定されている。もちろん、インスリンが使用できることにより1型糖尿病患者の命を救うことができる。しかし、糖尿病患者が従わなければならない日々の療法は非常に面倒であり、万人に有効なわけではないことに疑問の余地はない。
【0006】
そのため、ドナー膵臓から単離された膵島細胞を糖尿病患者に移植するいくつかの臨床試験が進行中である。これは、膵島細胞の単離および培養における近年の進歩により可能となった。米国特許第4,797,213号では、ランゲルハンス島の分離について記載している。米国特許第4,439,521号では、自己再生する膵島様構造を産生する方法について報告している。米国特許第5,919,703号では、膵島の調製および保存について報告している。米国特許第5,888,816号では、視床下部および下垂体抽出物を用いた膵細胞の細胞培養技術について報告している。国際公開公報第00/72885号では、非膵島組織において制御された膵ホルモン産生を誘導する方法について報告している。国際公開公報第00/78929号では、膵島細胞の作製方法について報告している。Kimら(Genes Dev. 15:111、2001)は、膵臓の発達および機能を制御する細胞間シグナルについて概説している。Yamaokaら(Int. J. Mol. Med. 3:247、1999)は、膵島の発達、ならびにソニック・ヘッジホッグおよびアクチビン等の因子、PDX1およびIsl1のような転写因子、EGFおよびHGFのような増殖因子、インスリンおよび成長ホルモンのようなホルモン、およびN-CAMおよびカドヘリン等の細胞接着分子の推定上の役割について概説している。
【0007】
Peckら(Ann. Med. 33:186、2001)は、1型糖尿病を治療するためのより優れた代理膵島の基礎的要素として、膵幹細胞を用いることを提案している。国際公開公報第00/47721号では、インスリン陽性前駆細胞の誘導方法について報告している。国際公開公報第01/39784号では、膵島細胞から単離されたネスチン陽性である膵幹細胞について報告している。国際公開公報第01/77300号では、腺房細胞、管細胞、および膵島細胞に分化する能力を有することが提唱されるヒト膵上皮前駆細胞について報告している。Deutschら(Development 128:871、2001)は、胚性内胚葉内に存在する膵臓および肝臓への二分化能の前駆細胞集団について記載している。Zulewskiら(Diabetes 50:521、2001)は、内分泌、外分泌、および肝臓の表現型に分化する、成人膵島から単離された多能性ネスチン陽性幹細胞について記載している。米国特許第6,326,201号(Curis Inc.)は、膵管から細胞を解離して培養することによって作製される膵前駆細胞について報告している。膵島細胞移植の現在の臨床経験については、Bretzelら(Exp. Clin. Endocrinol. Diabetes 190 (Suppl.2):S384、2001)およびOberholzerら(Ann. N.Y. Acad. Sci. 875:189、1999)により概説されている。現在の臨床試験は典型的に、少なくとも二人の膵臓ドナー由来の細胞を注入する段階を含む。この治療が成功したことが判明したとしても、1型糖尿病に値する全患者を治療するためには、現在の供給源から得られる材料は不足している。
【0008】
胚由来の多能性幹細胞が他の細胞種に分化する見込みを活用する発生の研究が、いくつもの機関で行われている。報告によれば、膵島細胞系譜の特徴を有する細胞がマウスの胚細胞から導出された。例えば、Lumelskyら(Science 292:1389、2001)は、マウス胚幹細胞の、膵島に類似したインスリン分泌構造への分化を報告している。Soriaら(Diabetes 49;157、2000)は、マウス胚幹細胞由来のインスリン分泌細胞が、ストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスにおいて糖血症を正常化することを報告している。
【0009】
残念ながら、胚幹細胞発生のマウスモデルはそれ自体特異な例であり、他の種に適用可能な分化のストラテジーがもたらされていない。実際に、多能性幹細胞は、他の哺乳動物種からは再現性よくほとんど単離されていない。ごく最近になって、Thomsonらがヒト胚盤胞から胚幹細胞を単離した(Science 282:114、1998)。同時に、Gearhartらが胎児性腺組織からヒト胚生殖(hEG)細胞株を得た(Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998)。単に白血病抑制因子(LIF)と共に培養することにより分化から回避され得るマウス胚幹細胞とは異なり、ヒト胚幹細胞は非常に特別な条件下で維持されねばならない(米国特許第6,200,806号;国際公開公報第99/20741号;国際公開公報第01/51616号)。したがって、ヒト多能性細胞を十分に機能的な分化細胞種に分化させる、全く新しいパラダイムを開発することが必要である。
【0010】
Jacobsonら(Transplant. Proc. 33:674、2001)により、アカゲザル胚幹細胞からの腸および膵臓の内胚葉の分化を報告された。Assadyら(Diabetes 50:1691、2001)は、培養液の免疫組織化学法および酵素結合免疫測定法により、胚様体に分化したヒト胚幹細胞によるインスリンの産生を同定した。当然のことながら胚様体は非常に様々な異なる細胞種を含むため(国際公開公報第01/51616号)、Assadyはインスリン分泌細胞の単離も濃縮された集団を産生する分化条件の決定も試みなかった。
【0011】
胚幹細胞由来の膵島細胞は商業的に実行可能な計画となるため、高純度の膵島細胞集団を提供する新しい手順を開発する必要性が存在する。
【発明の開示】
【0012】
概要
本発明は、多能性細胞から膵島細胞系譜の細胞に分化した霊長動物細胞を効率的に産生する系を提供する。膵島前駆細胞が大幅に濃縮された細胞集団について記載する。次には、膵島前駆細胞は、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、またはこれら全3種類の組み合わせを分泌する細胞を含むコロニーにさらに分化され得る。
【0013】
したがって、本発明の1つの態様は霊長動物多能性幹(pPS)細胞(胚幹細胞等)を分化させることによって得られる細胞集団であり、その細胞集団では少なくとも5%の細胞が内因性遺伝子由来の4つの膵島細胞タンパク質の少なくとも1つを分泌する:ホルモンであるインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、および膵ポリペプチドとして知られる明らかに不活性な産物。細胞は3つの内分泌物のそれぞれを分泌する細胞を含む塊中にあってよく、他の組織種を最低限の比率で含むように処理され得る。本発明の細胞は、本開示内で後に記載する表現型マーカーによって同定され得る。機能的効果は、高血糖被験者に投与された場合の、空腹時グルコースレベルを改善する能力によって確認することができる。
【0014】
本発明の別の態様は、自己複製ができ、成熟膵島細胞である子孫を形成できる分化細胞集団である。これは、細胞はもはや多能性ではないものの、増殖時に膵島細胞を形成する能力を保持することを意味する。集団内の未分化多能性細胞の比率は好ましくは最低限に抑えられ、残りの未分化細胞はさらなる増殖において膵島細胞の形成に関与する細胞ではない。選択的に、テロメラーゼ活性を増加させることにより幹細胞の複製能力を改善することができる。
【0015】
本発明の別の態様はポリペプチド分泌細胞を取得する方法であり、この場合pPS細胞の分化は、例えば胚様体または初期外胚葉を含む他の形態を形成させることにより開始される。次に、ノギンのようなTGF-βアンタゴニスト、アクチビンA、n-ブチラート、または以下に記載する他の因子の組み合わせ等の分化因子の混合物中で細胞を培養する。さらに、または別の方法として、細胞を遺伝子改変してニューロゲニン3等の膵転写因子の発現をもたらすことができる。
【0016】
本発明のさらなる態様は、本発明の細胞組成物を用いて、膵島細胞機能を調節する能力について化合物をスクリーニングする方法である。
【0017】
本発明の別の態様は、本発明の膵島細胞を増殖させることにより、インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンを作製する方法である。また、本発明の細胞を含む薬学的な組成物および装置も含まれる。本発明の細胞、組成物、および装置は、特に1型糖尿病を治療するためであるがそれに限定されず、被験者における膵島細胞機能の再構成に有用である。
【0018】
本発明のこれらおよび他の態様を、以下の記載によりさらに説明する。
【0019】
詳細な説明
本発明は、多能性幹細胞からヒト膵島細胞を効率的に分化させる方法を示すことにより、それらの細胞の大きな集団を産生するという問題を解決する。
【0020】
内胚葉系譜に向けて分化を開始させ、膵島細胞の増殖を促進する因子の存在下で培養することによって分化過程に焦点を合わせることにより、幹細胞が膵島細胞分化経路に沿って誘導され得ることを見出した。本発明は、成熟膵島を形成することが可能な多能性膵島細胞前駆細胞が濃縮された細胞集団を産生する系を提供する。必要に応じて、成熟内分泌細胞を維持するために分化過程を継続することができる。
【0021】
分化過程を最適化する助けとして、本開示は分化経路を一連の順次的な段階に分割するストラテジーを提供する。このような方法で、細胞を分化経路の各部分に沿って進めるのに効果的な因子が同定され得る。
【0022】
実施例5に記載する例において、分化過程は以下のように進行した。段階1では、懸濁培養において、無フィーダー培養由来の未分化ヒト胚幹細胞を、内胚葉細胞を含む混合細胞凝集塊を形成するように分化させた。最初の分化剤として、レチノイン酸を濃縮因子セレンおよびT3と組み合わせて使用した。段階2では、ノギン(200 ng/ml)、EGF(20 ng/ml)、およびbFGF(2 ng/ml)を含む培地中で培養することにより、膵前駆細胞への分化をもたらした。段階3では、ノギン、EGF、およびbFGFを取り除き、代わりに細胞を10 mMニコチンアミドと共に培養することにより、最終段階の膵島細胞への分化を誘導した。図4に示すように、抗体検出可能なレベルのインスリンのc-ペプチドおよびソマトスタチンを合成する細胞塊が得られた。
【0023】
pPS細胞は無期限に増殖させることができるため、pPS細胞から膵島幹細胞を効率的に産生する方法は重要である。本発明は、無限量の膵島前駆細胞、および成熟膵島細胞を形成するように拘束された子孫を産生するために使用され得る系を提供する。
【0024】
以下の開示は、本発明の膵島細胞を産生および試験する上でのさらなる情報を提供する。また、膵島細胞機能障害に関連する病態の研究、医薬開発、および治療管理において、これらの細胞がいかに用いられ得るかの広範な例を提供する。
【0025】
定義
本開示の目的上、「膵島細胞」という用語は、最終分化膵内分泌細胞、および通常膵内分泌として分類される子孫を形成するように拘束された任意の前駆細胞を意味する。細胞は、いくつかの一般的に認められる形態学的特徴および膵島細胞系譜に特有の表現型マーカー(以下に例示する)を表す。成熟α細胞はグルカゴンを、成熟β細胞はインスリンを、成熟δ細胞はソマトスタチンを、PP細胞は膵ポリペプチドを分泌する。
【0026】
「膵島前駆細胞(islet progenitor)」、「膵島前駆細胞(islet precursor)」または「膵島幹細胞」は、実質的に内分泌物を分泌しないが、増殖して最終分化細胞を産生する能力を有する膵島細胞である。また、自己複製能を有する場合もある。初期膵島前駆細胞は多能性であり、このことはこれらの細胞が少なくとも2つおよび潜在的には4つのすべての成熟膵島細胞種を形成できることを意味する。
【0027】
「膵前駆細胞」、前駆細胞、または幹細胞は、膵内分泌細胞および膵外分泌細胞のどちらをも形成可能である。
【0028】
細胞の個体発生との関連では、形容詞「分化した」とは相対語である。「分化細胞」とは、比較する細胞よりも発生経路をさらに下流に進行した細胞のことである。通常の個体発生過程における多能性胚幹細胞は、最初に膵細胞および他の内胚葉細胞種を形成し得る内胚葉細胞に分化するというのが、本発明の仮説である。さらなる分化により膵臓経路に導かれ、約98%の細胞が外分泌細胞、小管細胞、または基質細胞になり、約2%の細胞が内分泌細胞になる。初期内分泌細胞は膵島前駆細胞であり、この細胞は次に、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチドの分泌に専門化した機能的内分泌細胞にさらに分化する。
【0029】
本開示で用いる「分化剤」とは、膵島系譜の分化細胞(前駆細胞および
最終的分化細胞を含む)を産生するために、本発明の培養系に用いる一群の化合物の1つを指す。化合物の作用形態に関しては限定しない。例えば、薬剤は、表現型の変化を誘導または補助することにより、特定の表現型により細胞の増殖を促進することによりもしくは他の増殖を遅延させることにより、分化過程を補助する可能性がある。それはまた、培地中に存在する、または、そうでなければ望まれない細胞種への経路に分化させる細胞集団によって合成される可能性がある他の因子に対する阻害剤として作用することができる。
【0030】
原型の「霊長動物多能性幹細胞」(pPS細胞)は、受精後任意の時点の前胚組織、胚組織、または胎児組織由来の全能性細胞であり、8〜12週齡のSCIDマウスで奇形腫を形成する能力等の標準技術として公認の試験によると、適切な条件下で3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)すべての派生物であるいくつかの様々な細胞種の子孫を産生し得る特徴を有する。この用語には、様々な種類の幹細胞の樹立株および記載の方法で多能性である初期組織から得られる細胞の両方を含む。
【0031】
pPS細胞の定義には、Thomsonら(Science 282:1145、1998)によって記載されるヒト胚幹(hES)細胞、アカゲザル幹細胞(Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995)、マーモセット幹細胞(Thomsonら、Biol. Reprod. 55:254、1996)等の他の霊長動物の胚幹細胞、およびヒト胚生殖(hEG)細胞(Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998)に例示される様々な種類の胚細胞が含まれる。他の種類の多能性細胞もまた、この用語に含まれる。胚組織、胎児組織、または他の供給源由来であるか否かにかかわらず、全3胚葉の派生物である子孫を産生し得る霊長動物起源の任意の細胞が含まれる。pPS細胞は、好ましくは悪性の供給源由来ではない。細胞は核型が正常であることが望ましい(必ずしも必要とは限らない)。
【0032】
pPS細胞培養物は、集団中の幹細胞およびその派生物の実質的な割合が、胚起源または成体起源の分化細胞と明らかに区別できる未分化細胞の形態学的特徴を示す場合に、「未分化である」と記載される。未分化pPS細胞は当業者により容易に認識され、2次元の顕微鏡視野において、典型的に、高い核/細胞質比および顕著な核小体を有する細胞のコロニーとして見える。集団内の未分化細胞のコロニーは、分化した隣接細胞に囲まれていることが多いと理解されている。
【0033】
「フィーダー細胞」とは、他の種類の細胞と共培養され、第2の種類の細胞が増殖できる環境を提供する1つの種類の細胞である。ある種類のpPS細胞は、初代マウス胚線維芽細胞、不死化マウス胚線維芽細胞、またはhES細胞から分化したヒト線維芽細胞様細胞により支持され得る。pPS細胞集団は、分割後にpPSの増殖を支持するための新鮮なフィーダー細胞を添加せずに少なくとも1回増殖した場合、フィーダー細胞を「本質的に含まない」と称される。
【0034】
「胚様体」という用語は「凝集体」と同義の専門用語であり、pPS細胞が単層培養において過剰増殖した場合または懸濁培養液中で維持される場合に現れる、分化細胞および未分化細胞の凝集塊を意味する。胚様体は、形態学的基準および免疫細胞化学法により検出可能な細胞マーカーによって識別可能ないくつかの胚葉に典型的に由来する、様々な細胞種の混合物である。
【0035】
「増殖環境」とは、目的の細胞がインビトロにおいて増殖、分化、または成熟する環境のことである。環境の特徴には、細胞を培養する培地、存在し得る増殖因子または分化因子、存在する場合には支持構造(例えば、固体表面上の基層)が含まれる。
【0036】
任意の適切な人工的操作手段によりポリヌクレオチドが細胞に導入された場合、または細胞がそのポリヌクレオチドを受け継いだ最初に改変された細胞の子孫である場合、その細胞は「遺伝的に改変された」または「トランスフェクトされた」と称される。
【0037】
一般的技術
分子遺伝学および遺伝子工学における一般的な方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrookら、Cold Spring Harbor);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (MillerおよびCalos編);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(F.M. Ausubelら編、Wiley & Sons) の現行版に記載されている。分子生物学、タンパク質化学、および抗体技術は、Current Protocols in Protein Science(J.E. Colliganら編、Wiley & Sons);Current Protocols in Cell Biology(J.S. Bonifacinoら、Wiley & Sons)、およびCurrent Protocols in Immunology(J.E. Colliganら編、Wiley & Sons)に見出すことができる。本開示で引用する遺伝子操作用の試薬、クローニングベクター、およびキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、ClonTech、およびSigma-Aldrich Co.等の市販業者から入手可能である。
【0038】
細胞培養法は、一般に、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique(R.I. Freshney編、Wiley & Sons);General Techniques of Cell Culture(M.A. HarrisonおよびI.F. Rae、Cambridge Univ. Press)、およびEmbryonic Stem Cells: Methods and Protocols(K. Turksen編、Humana Press)の現行版に記載されている。組織培養用の供給品および試薬は、Gibco/BRL、Nalgen-Nucn International、Sigma Chemical Co.、およびICN Biomedicals等の市販業者から入手可能である。
【0039】
本開示に関連する専門化した研究には、J.E. BrinnによるThe Comparative Physiology of the Pancreatic Islet 、Springer-Verlag 1988;E.J. Vinikら編によるPancreatic Islet Cell Regeneration and Growth、Kluwer 1992;およびR.P.Lanzaら編によるImmunomodulation of Pancreatic Islet (Pancreatic Islet Transplantation、Vol 2)、Springer-Verlag 1994が含まれる。
【0040】
幹細胞の供給源
本発明は、様々な種類の幹細胞を用いて実施され得る。幹細胞のうち本発明での使用に適した細胞は、胚盤胞または妊娠中の任意の時点で採取される胎児組織もしくは胚組織等の、妊娠後に形成される組織由来の霊長動物幹(pPS)細胞である。限定されない例は、以下に例示するような、胚幹細胞または胚生殖細胞の初代培養または樹立株である。
【0041】
本発明の技術は初代胚組織または胎児組織に直接実行することも可能であり、この場合、最初に未分化細胞株を樹立することなく、膵島細胞を生じる可能性を有する初代細胞から直接膵島細胞を導出する。ある状況下では、臍帯血、胎盤、またはある成人組織由来の多能性細胞を用いて、本発明の方法が行われる場合もある。
【0042】
胚幹細胞
胚幹細胞は、霊長動物種のメンバーの胚盤胞から単離できる(米国特許第5,843,780号、Thomsonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844、1995)。ヒト胚幹(hES)細胞は、Thomsonら(米国特許第6,200,806号;Science 282:1145、1998;Curr. Top. Dev. Biol. 38:133 ページ以降、1998)およびReubinoffら、Nature Biotech. 18:399、2000の記載する技術により、ヒト胚盤胞細胞から調製することが可能である。hES細胞に相当する細胞種には、国際公開公報第01/51610号(Bresagen)に概説されるような、原始外胚葉様(EPL)細胞等のその多能性派生物が含まれる。
【0043】
hES細胞をヒトの着床前胚から得ることができる。または、インビトロで受精した(IVF)胚を使用することもできる、または1細胞期のヒト胚を胚盤胞段階まで増殖させることもできる(Bongsoら、Hum Reprod 4: 706、1989)。G1.2培地およびG2.2培地で、胚を胚盤胞段階まで培養する(Gardnerら、Fertil. Steril. 69:84、1998)。プロナーゼ(Sigma)に短時間曝露することにより、発生した胚盤胞から透明帯を除去する。胚盤胞を1:50希釈したウサギ抗ヒト脾臓細胞抗血清に30分間曝露し、DMEMで5分間3回洗浄し、1:5希釈したモルモット補体(Gibco)に3分間曝露する免疫手術(Solterら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72:5099、1975)により、内部細胞塊を単離する。DMEMでさらに2回洗浄した後、穏やかにピペッティングして無傷の内部細胞塊(ICM)から溶解した栄養外胚葉細胞を除去し、ICMをmEFフィーダー層上にプレーティングする。
【0044】
9〜15日後、1 mM EDTAを添加したカルシウムおよびマグネシウムを含まないリン酸緩衝食塩水(PBS)に曝露することにより、ディスパーゼもしくはトリプシンに曝露することにより、またはマイクロピペットで機械的に解離することにより、内部細胞塊に由来する増殖物を凝集塊に解離し、新鮮な培地中のmEF上に再度プレーティングする。未分化の形態を有して増殖するコロニーをマイクロピペットで個別に選択し、機械的に凝集塊に解離し、再度プレーティングする。ES様の形態は、細胞質に対して核の比率が明らかに高く顕著な核小体を有する小型のコロニーとして特徴づけられる。得られたES細胞は、短時間トリプシン処理してダルベッコPBS(2 mM EDTAを含む)に曝露し、IV型コラゲナーゼ(約200 U/mL;Gibco)に曝露することにより、またはマイクロピペットで個別にコロニーを選択することにより、1〜2週間ごとに日常的に分割する。凝集塊の大きさは、約50〜100細胞が最適である。
【0045】
胚生殖細胞
ヒト胚生殖(hEG)細胞は、最終月経期から約8〜11週間後に得られるヒト胎児物質中に存在する始原生殖細胞から調製することができる。適切な調製方法は、Shamblottら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726、1998および米国特許第6,090,622号に記載されている。
【0046】
簡単に説明すると、生殖隆線を処理し、非凝集細胞を形成した。EG増殖培地は、DMEM、4500 mg/L D-グルコース、2200 mg/L mM NaHCO3;15% ES認定された胎児コウシ血清(BRL);2 mM グルタミン(BRL);1 mMピルビン酸ナトリウム(BRL)、1000〜2000 U/ml ヒト組換え白血病阻害因子(LIF、Genzyme);1〜2 ng/mL ヒト組換えbFGF(Genzyme);および10 μmフォルスコニン(10% DMSO)である。96ウェル組織培養プレートを、LIF、bFGF、およびフォルスコリンを含まない改変EG増殖培地で3日間培養したフィーダー細胞(例えば、STO細胞、ATCC番号CRL 1503)のサブコンフルエントな層で調製し、5000ラドのγ-照射で不活性化する。各ウェルに、初代生殖細胞(PGC)懸濁液約0.2 mLを添加する。7〜10日後に1回目の継代をEG増殖培地で行い、各ウェルを、あらかじめ照射したSTOマウス線維芽細胞で調製した24ウェル培養皿の1ウェルに移す。EG細胞と一致する細胞形態が観察されるまで、毎日培地を交換してこの細胞を培養するが、典型的にこれは7〜30日後または1〜4継代後である。
【0047】
未分化状態におけるpPS細胞の増殖
pPS細胞は、分化を促進せずに増加を促進する培養条件を用いて培養し、連続的に増殖させることが可能である。血清を含む代表的なES培地は、80% DMEM(ノックアウトDMEM、Gibco等)、20%の既知組成ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone)または血清代替品(国際公開公報第98/30679号)のどちらか、1%非必須アミノ酸、1 mM L-グルタミン、および0.1 mMβ-メルカプトエタノールから作製する。使用する直前に、ヒトbFGFを4 ng/mLになるように添加する(国際公開公報第99/20741号、Geron Corp.)。従来通り、ES細胞は、典型的には胚または胎児組織由来の線維芽細胞であるフィーダー細胞層上で培養する。
【0048】
Geronの研究者は、pPS細胞がフィーダー細胞なしでも未分化状態で維持され得ることを見出した。フィーダーを含まない培養環境には、適切な培養基層、特にマトリゲル(Matrigel)(登録商標)またはラミニン等の細胞外基質が含まれる。典型的には、細胞が完全に分散される前に酵素消化を停止する(例えば、コラゲナーゼIVで〜5〜20分)。約10〜2000細胞の凝集塊を、さらに分散させることなく基層上に直接プレーティングする。
【0049】
無フィーダー培養は、分化させることなく細胞の増殖を支持する因子を含む栄養培地により支持する。そのような因子は、照射した(約4,000ラド)初代マウス胚線維芽細胞、テロメア化したマウス線維芽細胞、またはpPS細胞由来の線維芽細胞様細胞等のそのような因子を分泌する細胞と共に培地を培養することにより、培地中に導入され得る。フィーダーを20% 血清代替品および4 ng/mL bFGFを添加したKO DMEM等の無血清培地で約5〜6 x 104 cm-2の密度でプレーティングすることにより、培地を馴化することができる。1〜2日間馴化した培地にさらにbFGFを添加し、これを用いてpPS細胞培養液を1〜2日間支持する。無フィーダー培養法の特徴は、国際公開公報第01/51616号およびXuら、Nat.Biotechnol. 19:971、2001においてさらに考察されている。
【0050】
顕微鏡下で、ES細胞は、高い核/細胞質比、顕著な核小体、細胞の接合部がほとんど識別できない小型のコロニー形成を伴って見える。霊長動物ES細胞は、時期特異的胚抗原(SSEA)3および4、ならびにTra-1-60およびTra-1-81と称する抗体を用いて検出可能なマーカーを発現する可能性がある(Thomsonら、Science 282:1145、1998)。マウスES細胞をSSEA-1の陽性対照として、ならびにSSEA-4、Tra-1-60、Tra-1-81の陰性対照として使用できる。インビトロにおけるpPS細胞の分化では、SSEA-4、Tra-1-60、およびTra-1-81の発現が消失し、未分化hES細胞でも認められるSSEA-1の発現が増加する。
【0051】
膵島細胞およびその派生物を調製するための材料および手順
本発明の膵島細胞は、所望の表現型を有する細胞を濃縮する特殊な増殖環境で幹細胞を培養、分化、または再プログラミングすることにより得られる(所望の細胞の増殖によるか、または他の細胞種の阻害もしくは死滅による)。これらの方法は、前項に記載した霊長類多能性幹(pPS)細胞を含む多くの種類の幹細胞に適用可能である。
【0052】
段階的分化
pPS細胞からの膵島細胞の産生および濃縮は、膵細胞および他の細胞種の形成について多能性である初期段階の前駆細胞を形成することによって促進され得ることが、本発明の仮説である。一般的な意味では、本ストラテジーは、関連性のある拘束された共通前駆細胞について濃縮された細胞集団を形成する最初の段階、および膵島の形成に向けてますます特殊化したより成熟した細胞にさらに分化させる次の段階を含む。このストラテジーに従い、いくつかの計画的段階において、成熟膵島に向けたpPS細胞の分化が行われる。
【0053】
未分化pPS細胞と成熟膵島との間の1つの中間体は、未成熟の内胚葉細胞である。個体発生の初期に、内胚葉細胞は、GI管および呼吸器系の上皮細胞ならびに重要な消化器官(肝臓および膵臓)を形成することができる。膵島細胞は、2段階のアプローチによって産生されうる。段階1は、共通内胚葉前駆細胞の集団を取得する段階を含む。段階2は、内胚葉前駆細胞を膵内分泌に成熟させる段階を含む。実施例3で説明するように、pPS細胞は、肝細胞分化剤n-ブチラートと共に培養することにより内胚葉分化経路に沿って開始され得る。肝細胞分化パラダイムのさらなる詳細は、国際公開公報第01/81549号(Geron Corporation)に記載されている。ソニック・ヘッジホッグは肝臓の特定化に関与すると考えられており、よって培養液中にシクロパミン(ソニック・ヘッジホッグの阻害剤)を含めることは、細胞を膵臓系譜に向けて移すことに役立つと考えられる。その後、最終分化因子ニコチンアミドを用いて(シクロパミンおよびアクチビンAの存在下で)、次の段階で分化をさらに進めることができる。
【0054】
本アプローチのさらなる明示において、分化経路は3段階に分けられる。まずpPS細胞を内胚葉に分化させ(段階1)、次に第2の中間体に分化させる(段階2)‐おそらく(マーカーPdx1を用いて同定可能な)拘束された膵前駆細胞のレベルにある。さらなる分化段階(段階3)は、使用者が成熟膵島の取得を望む場合に実行され得る。例として、段階1を達成させるため、n-ブチラートおよびアクチビンAの組み合わせを使用して、pPS細胞を消化管内胚葉のマーカーを有する細胞に分化させることができる(実施例4)。または、濃縮剤(セレンおよびT3等の甲状腺ホルモン)の存在下においてpPS細胞をレチノイン酸と共に培養することにより、内胚葉細胞を含む不均一な集団を調製することができる(実施例5)。段階2を達成させるためには、細胞をマイトジェン(おそらくはEGFまたはベータセルリンと組み合わせた、FGFファミリーのメンバー)と組み合わせてノギン等のTGF-βアンタゴニストと共に培養することができる(実施例5)。シクロパミンを用いてヘッジホッグシグナル伝達を遮断することが役立つ場合もある。段階3は、すでに記載したように、最終分化剤としてニコチンアミドを用いて達成され得る(実施例5)。または、Pdx1陽性膵前駆細胞から成熟膵島細胞への進行を起こす直接的な操作により、転写因子を活性化することができる。(実施例6)
【0055】
この分化の段階的アプローチは当業者への手引きとして意図したものであり、特記しない限り本発明を限定するものではない。分化経路はさらなる段階に分類することが可能であり、段階的分化は付加的様式で最適化することができる。例えば、膵前駆細胞と成熟膵島の間の潜在的中間体は、膵内分泌を形成するように拘束された前駆細胞である。一方、状況に応じて、効果的な分化剤を組み合わせ、異なる段階の細胞に同時に作用させても、または分化経路を下るカスケード効果を促進してもよい。
【0056】
所望の最終段階の細胞集団は、一部その使用目的に依存することになる。例えば、拘束された膵島前駆細胞は、汎発性膵島機能不全の治療およびインビトロでの膵島分化の研究に非常に価値がある場合がある。初期の前駆細胞ほど自己複製のより優れた能力を有する可能性がある。ホルモンの即時産生が必要とされる場合は、高レベルのインスリン合成または他の内分泌物合成を示す成熟細胞集団である。分化過程を目的に応じて合わせ、所望の成熟レベルをもたらす段階で過程を停止させる。
【0057】
以下の項では、記載した方法で分化を促進する上で効果的な、組織培養および遺伝子トランスフェクション技術を提供する。
【0058】
分化過程の開始
内胚葉細胞に向けてpPS細胞の分化を開始するには、2つのアプローチが存在する。1つは、細胞を新しい基層上にプレーティングすること、または培地を交換して細胞外基質または分化を阻害する可溶性因子を除去することである。これは「直接分化法」と称される場合があり、国際公開公報第01/51616号および米国特許公報第20020019046号において一般用語として記載されている。通常、直接分化法では、分化過程における残りのフィーダー細胞に起因して起こりうる問題を回避するために、pPS細胞の無フィーダー培養から開始することが好ましい。実施例4は、初期分化因子を含む培地を導入することにより、消化管内胚葉が直接分化によって産生される例を提供する。
【0059】
もう一方のアプローチは未分化pPS細胞を懸濁培養中に添加することであり、これにより頻繁に細胞に胚様体または凝集塊を形成させることになる。例えば、短時間のコラゲナーゼ消化によりpPS細胞を回収し、塊に解離し、非接着性の細胞培養プレート中で継代する。数日おきに凝集塊に培地を添加し、適切な期間後、典型的には4〜8日後に回収する(実施例1および5)。いくつかの例においては、培地中の他の因子により分化が増強される:例えば、レチノイン酸(実施例5)またはジメチルスルホキシド(DMSO)。条件に応じて、凝集塊は一般に、実質的頻度の内胚葉細胞を含む細胞種の不均一な集団を形成することから開始することになる。次に胚様体を分散させ、分化過程の次の段階のために、非接着性のプレートおよび適切な培地を用いて、ラミニンまたはフィブロネクチン等の基層上に再プレーティングするか、または懸濁培養で継代することができる。
【0060】
直接分化または凝集塊での分化は、以下に記載するマーカーを用いて内胚葉細胞の存在についてモニターすることができる。十分な比率の内胚葉が得られると、細胞を再プレーティングするか、またはさもなくば段階IIを開始するように操作する。ある状況において、膵島細胞の分化または維持は、α細胞、β細胞、およびδ細胞が直接相互作用できるように細胞が微量塊(例えば、50〜5,000細胞)として維持される場合に増強され得る。
【0061】
このような方法で共通前駆細胞が作製されると、以下の項に記載するように、この細胞を特異的分化因子と共に培養する、および/または膵島特異的遺伝子またはプロモーターで誘導することができる。
【0062】
可溶性因子を用いての膵島細胞にさらに向けた分化の駆動
培養物を膵島経路のさらに下流の段階に向けて駆動するため、pPS細胞またはその分化した子孫を膵島分化因子の混合物中で培養してもよい。それぞれの因子は、単独でまたは組み合わせで、所望の細胞種への変換頻度を増加させ、膵島表現型を有する細胞の増殖をもたらし、他の細胞種の増殖を阻害し、または別の様式で膵島細胞を濃縮する可能性がある。本発明を実施するために、膵島細胞が濃縮される機構を理解する必要はない。以下は候補分化因子の限定されないリストである。
【0063】
(表1)pPS細胞から膵島細胞を分化させるための因子


【0064】
同じ受容体に結合する他のリガンドまたは抗体も、本開示に引用する任意の受容体リガンドと同等物であると考えられ得る。
【0065】
典型的に、分化混合物中では少なくとも2つ、3つ、またはそれ以上のそのような因子が組み合わされる。ヒトタンパク質が好ましいが、種相同体および変種も使用され得る。任意のこれら因子の代わりに、当業者は、受容体特異的抗体等の、同じ受容体に結合するまたは同じシグナル伝達経路を促進する他のリガンドを使用してもよい。さらに、分化を異なる経路の下流に駆動するように存在する可能性がある他の因子の効果を中和するために、培地中に他の化合物を含めてもよい。
【0066】
マトリックスストラテジーを用いて任意のこれら因子の有効性を実験的に決定し、膵島細胞経路の1段階または複数段階下流に分化を促進し得る組み合わせを導き出すことができる。有効性は、以下に記載するような表現型マーカーを用いて、意図する中間体または最終段階の細胞の表現型の出現をモニターすることにより評価する。例えば、膵臓内分泌部の分化または増殖を誘導すると思われる因子を、標準培養条件においてPdx1発現を誘導する能力について、続いてインスリン発現を誘導する能力について試験する。
【0067】
一部要因配置実験ストラテジーを用いて、効果的な様式でいくつかの化合物をスクリーニングすることができる。各因子を2つのレベルに割り当てる。例えば、培養マトリックスに、1つのレベルにはフィブロネクチンをもう1つのレベルにてはラミニンを割り当てる。64の因子の組み合わせ(64実験)において、統計学的に確固とした様式で、(15〜20の群による)どの因子が分化に有意に影響を及ぼすかを決定することが可能である。本ストラテジーによる解析に適切な組み合わせには、シクロパミン、TGFファミリーメンバー(TGF-α、アクチビンA、アクチビンB、TGFβ1、TGFβ3)、エキセンディン4、ニコチンアミド、n-ブチラート、DMSO、オールトランスレチノイン酸、GLP-1、骨形態形成タンパク質(BMP-2、BMP-5、BMP-6、BMP-7)、インスリン様増殖因子(IGF-I、IGF-II)、線維芽細胞増殖因子(FGF7、FGF10、bFGF、FGF4)、他の増殖因子(EGF、ベータセルリン、成長ホルモン、HGF)、他のホルモン(プロラクチン、コレシトキニン、ガストリンI、胎盤性ラクトゲン)、TGF-βファミリーアンタゴニスト(ノギン、フォリスタチン、コルディン)、IBMX、ウォルトマンニン、デキサメタゾン、Reg、INGAP、cAMPまたはcAMP活性化因子(フォルスコリン)、および細胞外基質成分(ラミニン、フィブロネクチン)が含まれる。表現型マーカーにより出現する細胞集団を評価し、かつ発現パターンを解析して、分化経路においてどの因子が正または負の影響を有するかを決定する。
【0068】
遺伝子改変細胞を用いた分化の方向づけまたはモニタリング
分化または分離のストラテジーを最適化する上で、組織特異的プロモーターがレポーター遺伝子の発現を駆動する、ベクターで遺伝子改変した細胞を用いることが役立つ場合がある。
【0069】
膵島前駆細胞に特異的である適切なプロモーターには、Pdx1(NT_009799)、ニューロゲニン3(NT_008583)、ニューロ(Neuro)D1(NT_005265)、ネスチン(NT_004858)、およびPtf1a-p48(NT_008705)の転写を駆動するプロモーターが含まれる。成熟膵島細胞に特異的である適切なプロモーターは、インスリン(Genabankアクセッション番号NT_009308)、グルカゴン(NT_022154)、ソマトスタチン(NT_005962)、または膵ポリペプチド(NT_010755)の発現を駆動するプロモーターである。選択したプロモーターの最小限の効果的な配列(上流配列の約0.5〜5 kB)をPCRにより増幅し、適切なレポーター遺伝子の発現を駆動する位置で、標準的なプラスミド、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、またはレトロウイルスベクターに結合する。適切なレポーター遺伝子は、蛍光分子(緑色蛍光タンパク質またはルシフェラーゼ等)をコードするか、検出可能な酵素(アルカリホスファターゼ等)をコードするか、または抗体またはレクチン結合によって検出され得る細胞表面抗原(任意の異種性タンパク質または炭水化物)を産生する。
【0070】
組織特異的プロモーターをトランスフェクションした細胞を用いて、既に記載した様式で分化手順を最適化することができる。例えば、トランスフェクションした未分化pPS細胞または分化の初期段階にある細胞を様々な分化計画に供し、次に膵島特異的プロモーターにより駆動されるレポーター遺伝子を発現する細胞の比率について解析することができる。これにより、効果的な分化剤、培養環境、およびタイミングの迅速な読み取りが提供される。次に最適な手順を未分化細胞に用いて、天然の遺伝子型を有する高品質な膵島系譜集団を産生することができる。
【0071】
組織特異的プロモーターをトランスフェクションした細胞を、機械的選別を達成する手段として使用することもできる。例えば、プロモーターは、ネオマイシン耐性遺伝子(薬剤G418に対する耐性を付与する)またはブラストサイジン耐性遺伝子等の薬剤耐性表現型の発現を駆動してよい。この場合、ひとたび細胞を分化させたら、所望の細胞種の増殖を促進する薬剤と共にそれら細胞を培養する。または、レポーター遺伝子は、蛍光分子をコードするかまたは検出可能な表現抗原の発現をもたらしてもよい。この場合、関心対象の細胞は、直接的もしくは間接的蛍光に基づく細胞選別により、または免疫吸着により、分化細胞集団から選別される。選別段階中に非複製型である非組み込み型ベクター(アデノウイルスベクター等)を一過性トランスフェクションに用いることができ、このベクターは次の細胞の増殖に際に細胞の天然の遺伝子型をそのままにして希釈除去されることになる。
【0072】
細胞を膵島細胞またはその前駆細胞の分化経路のさらに下流に直接駆動させる目的で、細胞を遺伝子改変することもできる。通常膵島細胞で発現されるある遺伝子の意図的な上方制御により、それほど分化していない細胞に、より成熟した膵島細胞に適した遺伝子発現プロファイルが補充されることが仮定される。適切な遺伝子には、下流遺伝子の発現に影響を及ぼし得る転写制御因子をコードする遺伝子が含まれる。膵臓個体発生のための候補には、(およそ経路でのその位置の順に)Sox17(Genabankアクセッション番号NM_022454)、Hlxb9(NT_005515)、Pdx1(NT_000209)、ニューロゲニン3(NM_020999)、Pax4(NM_006193)またはニューロD1(NM_002500)、Isl1(NM_002202)、Nkx2.2(NM_002509)、およびNkx6.1(NM_006168)が含まれる。
【0073】
本アプローチの例を実施例6に提供する。膵島細胞分化パラダイムにおいて細胞の形質導入によって誘導されるニューロゲニン3の発現は、下流の制御遺伝子および膵島ホルモンをコードする遺伝子の発現を増強する。ニューロゲニンはneuroD関連bHLH転写因子のファミリーである:神経系の発達において活発な神経決定遺伝子。
【0074】
分化細胞の特徴
細胞は、形態学的特徴の顕微鏡観察、発現された細胞マーカーの検出または定量等の表現型基準、インビトロで測定可能な機能的基準、および宿主動物に注入した際の挙動に従い、特徴づけされ得る。
【0075】
表現型マーカー
本発明の細胞は、それらが様々な種類の膵島細胞に特有の表現型マーカーを発現するか否かに従って特徴づけされ得る。有用なマーカーには、表2に示すマーカーが含まれる。
【0076】
(表2)細胞同定のための表現型マーカー

【0077】
組織特異的マーカーは、細胞表面マーカーについてのフロー免疫細胞化学法、または細胞内または細胞表面マーカーについての免疫組織化学法(例えば、固定化細胞または組織切片)等の、任意の適切な免疫学的技術を用いて検出することができる。フローサイトメトリー解析の詳細な方法は、Gallacherら、Blood 96:1740、2000に記載されている。細胞表面抗原の発現は、標準的な免疫細胞化学法またはフローサイトメトリーアッセイ法において、選択的に細胞を固定化した後、および選択的に標識二次抗体または標識を増幅する他の結合体を用いて、有意に検出可能な量の抗体が抗原に結合した場合に陽性と定義される。特異的抗体の現在の供給源には以下のものが含まれる:インスリン、Sigma Aldrich(I2018);グルカゴン、Sigma Aldrich(G2654);ソマトスタチン、Santa Cruz Biotech(sc-7820);ニューロゲニン3、Chemicon(AB5684);ネスチン、BD Transduction Labs(N17220);α-アミラーゼ、Sigma Aldrich(A8273);Glut-2、Alpha Diagnostics(GT-22A)。
【0078】
組織特異的遺伝子産物の発現は、ノーザンブロット解析法、ドットブロットハイブリダイゼーション解析法、または標準的な増幅方法において配列特異的プライマーを用いる逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)によりmRNAレベルで検出することもできる。さらなる詳細については、米国特許第5,843,780号を参照されたい。本開示に記載する特定マーカーの配列データは、GenBank等の公的データベースから入手可能である。
【0079】
最初の評価は、広範な個体発生プロファイルを提供するマーカーの組み合わせを用いて行われ得る:例えば、初期膵細胞についてのPdx1;初期膵内分泌細胞についてのNgn3;および成熟β細胞についてのインスリン。上記の分化パラダイムから定期的に(例えば週に1度)細胞を回収し、分化速度を決定する。これらのマーカーについて試験結果が陽性であった細胞は、次にIAPPおよびNkx6.1等の他のマーカーの発現について解析することができる。細胞が特徴づけられると、分化因子の組み合わせおよび各段階のタイミングを最適化することができる。
【0080】
本発明のある態様は、少なくとも2%、5%、10%、またはそれ以上の細胞が、先に引用した表面マーカーを単独でまたは組み合わせて有する集団に関連する。内分泌機能は多くの研究および治療応用に重要であり、その場合、そのような内分泌細胞に分化し得る前駆細胞と同様に、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチドを分泌する細胞を少なくとも5%含む集団に特に関心が持たれる。α細胞、β細胞、およびδ細胞間の相互作用が、脱分化の防止および効果的な内分泌の維持に重要である可能性があることは、本発明の仮説である。本発明はまた、自身の作製する基質に結合した、培養液中に供給される基質成分に結合した、またはマイクロカプセル化された、これらの細胞種を2つまたは3つ含む細胞の集団または塊(おそらく大きさは50〜5,000細胞)を含む。
【0081】
未分化pPS細胞が残存する比率が低い集団もまた望ましい。好ましい集団は、SSEA-4+ve、Oct-4+ve、または内因性テロメラーゼ逆転写酵素の発現陽性が1%または0.2%未満である。好ましい集団はまた、肝細胞(アルブミン陽性細胞)、骨格筋細胞(myoD陽性)、平滑筋細胞(平滑筋アクチン)、線維芽細胞形態を有する細胞、または神経細胞(β-チューブリンIIIまたはNCAM陽性細胞)等のある種の他の細胞種を、比較的低い比率で(<5%、1%、または0.2%)有する。
【0082】
本発明の細胞集団および単離される細胞がpPS細胞の樹立株に由来する場合、これらの細胞はその由来の元となった株と同じゲノムを有することになる。このことは、任意の核型異常のほかに、pPS細胞と膵島細胞との間で染色体DNAが90%を超えて同一であることを意味し、膵島細胞が未分化株から通常の有糸分裂の過程を経て得られることが推測され得る。導入遺伝子を導入する、または内因性遺伝子をノックアウトするために組換え法により処理された膵島細胞は、未操作の遺伝子エレメントはすべて保存されているため、依然として元となった株と同じゲノムを有すると見なされる。
【0083】
動物モデル実験
臨床応用における膵島細胞の目的に対して持たれる多大な関心は、細胞集団が宿主動物の膵島系を再構成する能力である。再構成は、いくつかの確立した動物モデルを用いて試験され得る。
【0084】
非肥満糖尿病(NOD)マウスは、数週齢で膵島炎を示す遺伝的欠陥を保有する(Yoshidaら、Rev. Immunogenet. 2:140、2000)。60〜90%の雌は、20〜30週までに明白な糖尿病を発症する。免疫関連病態は、ヒト1型糖尿病に類似しているようである。1型糖尿病の他のモデルは、導入遺伝子およびノックアウト変異を有するマウスである(Wongら、Immunol. Rev. 169:93、1999)。自然発症1型糖尿病のラットモデルは、Lenzenら(Diabetologia 44:1189、2001)によって最近報告された。高血糖症はまた、ストレプトゾトシンの単回腹腔内注射(Soriaら、Diabetes 49:157、2000)、またはストレプトゾトシンの連続的低用量(Itoら、Environ. Toxicol. Pharmacol. 9:71、2001)によっても誘導され得る。移植した膵島細胞の有効性を試験するため、マウスをグルコースの正常レベル(<200 mg/dL)への回復についてモニターする。
【0085】
より大きな動物は、慢性高血糖症の続発症を追跡するのに優れたモデルである。膵臓を除去することにより(J. Endocrinol. 158:49、2001)、またはガラクトースを与えることにより(Kadorら、Arch. Opthalmol. 113:352、1995)、イヌをインスリン依存性にすることができる。また、キースホンド犬には1型糖尿病の遺伝モデルが存在する(Am. J. Pathol. 105:194、1981)。犬モデルを用いた初期の研究により(Bantingら、Can. Med. Assoc. J. 22:141、1922)、1925年2月、二人のカナダ人がストックホルムへの長い船旅を行うこととなった。
【0086】
例として、以下の動物でpPS由来膵島細胞を用いて予備実験を行うことができる:a) 非糖尿病ヌード(T細胞欠損)マウス;b) ストレプトゾトシン処理により糖尿病にしたヌードマウス;およびc) 部分的膵切除後に膵島を再生している過程のヌードマウス。移植する細胞数は、腎臓皮膜下、肝臓内、または膵臓内に移植される約1000〜2000個の正常ヒト膵島に相当する。非糖尿病マウスでは、評価項目は、移植片残存の評価(組織学的検査)、および生化学的解析法、RIA法、ELISA法、および免疫組織化学法によるインスリン産生の測定である。ストレプトゾトシン処理したおよび部分的膵切除した動物も、生存、代謝調節(血糖)、および体重増加について評価され得る。
【0087】
分化細胞の遺伝子改変
本発明の膵島前駆細胞は、実質的な増殖能を有する。必要に応じて、内因性遺伝子からの転写を増加させることによって、または導入遺伝子を導入することによって、細胞中のテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のレベルを増加させることにより複製能をさらに増強することができる。特に適切なのは、国際公開公報第98/14592号に提供されているヒトテロメラーゼ(hTERT)の触媒成分である。ヒト細胞におけるテロメラーゼのトランスフェクションおよび発現は、Bodnarら、Science 279:349、1998およびJiangら、Nat. Genet. 21:111、1999に記載されている。遺伝子改変細胞は、標準的な方法に従って、RT-PCR法、テロメラーゼ活性(TRAPアッセイ法)、hTERTの免疫細胞化学染色、または複製能により、hTERTの発現について評価することができる。myc、SV40ラージT抗原、またはMOT-2をコードするDNAで細胞を形質転換する等の、細胞を不死化する他の方法もまた意図している(米国特許第5,869,243号、国際公開公報第97/32972号、および国際公開公報第01/23555号)。
【0088】
必要に応じて、本発明の細胞を調製またはさらに処理し、インビトロで未分化細胞を除去すること、またはインビボで復帰細胞を防ぐことができる。集団から未分化幹細胞を減少させる1つの方法は、TERTプロモーターまたはOCT-4プロモーター等の未分化細胞において優先的な発現を引き起こすプロモーターの制御下にエフェクター遺伝子があるベクターを、集団にトランスフェクションすることである。エフェクター遺伝子は、緑色蛍光タンパク質等の細胞選別に導くレポーターであってよい。エフェクターは、例えば毒素またはカスパーゼ等のアポトーシスの介在物質をコードし、細胞に対して直接溶解性であってよい(Shinouraら、Cancer Gene Ther. 7:739、2000)。エフェクター遺伝子は、抗体またはプロドラッグ等の外部薬剤の毒素効果に対して細胞を感受性にさせる効果を有してもよい。例示的には、発現する細胞をガンシクロビルに対して感受性にさせる単純ヘルペスチミジンキナーゼ(tk)遺伝子である(米国特許出願第60/253,443号)。または、エフェクターは、未分化表現型に復帰する任意の細胞をインビボで天然抗体に感受性にさせる、外来決定因子の細胞表面発現を引き起こし得る(米国特許出願第60/253,357号)。
【0089】
研究および臨床療法における膵島細胞の使用
本発明は、多数の膵島前駆細胞および成熟膵島細胞を産生する方法を提供する。これらの細胞集団は、様々な重要な研究、開発、および商業目的に使用することができる。
【0090】
本発明の細胞を用いて、他の系譜の細胞で優先的に発現されるcDNAに比較的汚染されないcDNAライブラリーを調製することができる。本発明の分化細胞を用いて、標準的な方法に従い、膵島前駆細胞およびその派生物のマーカーに特異的なモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を調製することも可能である。
【0091】
特に関心が持たれるのは、薬剤開発および臨床療法を目的とした本発明の組成物の使用である。
【0092】
薬剤スクリーニング
本発明の膵島細胞を用いて、膵島前駆細胞およびその様々な子孫の特徴に影響を及ぼす因子(溶媒、小分子薬剤、ペプチド、ポリヌクレオチド等)または環境条件(培養条件または操作等)をスクリーニングすることができる。
【0093】
主要な例は、インスリンの合成または分泌を上方制御または下方制御する能力を有する小分子薬剤の効果に対する、膵島細胞塊または均一なβ細胞調製物の使用である。細胞を試験化合物と混合し、次に、例えばRT-PCRまたは培養液の免疫測定により、発現または分泌速度における変化をモニターする。
【0094】
本発明の他のスクリーニング方法は、膵島細胞の増殖、発達、または毒性への潜在的効果についての薬学的化合物の試験に関する。この種のスクリーニングは、化合物が膵島細胞への薬学的効果を有するように設計される場合ばかりでなく、他所での主要な薬理学的効果のために設計された化合物の膵島に関連する副作用を試験するためにも適している。
【0095】
第三の例では、pPS細胞(未分化または分化)を用いて、膵島細胞への成熟を促進する、または長期培養において膵島細胞の増殖および維持を促進する因子をスクリーニングする。例えば、候補分化因子または成熟因子を異なるウェル中の細胞に添加し、その後さらなる培養および細胞の使用に関する所望の基準により生じる任意の表現型変化を判定することにより、それら因子を試験する。これにより、pPS由来の膵島ばかりでなく膵臓から単離される膵島細胞およびその前駆細胞についても、導出および培養方法の改善が導き出され得る。
【0096】
当業者は一般に、標準的な教科書「In Vitro Methods in Pharmaceutical Research」、Academic Press、1997および米国特許第5,030,015号を参照する。候補薬学的化合物の活性の評価は、一般に本発明の分化細胞を、単独または他の薬剤と組み合わせた候補化合物と混合することを伴う。研究者は、化合物に起因する細胞の形態、マーカー表現型、または機能的活性における任意の変化を判断し(未処理細胞または不活性化合物で処理した細胞と比較して)、化合物の効果を観察された変化と関連づける。
【0097】
まず細胞生存度、残存、形態、ならびに特定のマーカーおよび受容体の発現に及ぼす影響により、細胞毒性を判断することが可能である。染色体DNAに及ぼす薬剤の影響は、DNA合成または修復を測定することにより判断し得る。特に細胞周期の不定期における[3H]-チミジンまたはBrdUの取り込み、または細胞複製に必要なレベルを上回る取り込みが、薬剤の影響と一致する。望まれない効果には、中期の拡散によって判断される姉妹染色分体交換の異常な比率も含まれる。さらなる詳細については、当業者はA. Vickers(「In vitro Methods in Pharmaceutical Reseach」、Academic Press、1997の375〜410ページ)を参照されたい。
【0098】
膵島機能の再構成
本発明はまた、そのような療法を必要とする患者において膵島機能を回復するための、膵島前駆細胞またはその派生物の使用を提供する。膵内分泌(インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチン)の不適切な産生、または適切に分泌を制御できないことに関する任意の病態には、必要に応じて本発明に従って調製される細胞による治療が考慮され得る。特に関心が持たれるのは、1型(インスリン依存型)糖尿病の治療である。
【0099】
外因性インスリンの投与への慢性的長期依存性および許容されるリスクプロファイルに基づいて、治療を受ける患者が選択される。患者は、kg体重当たり約10,000個の膵島同等物を受け取る。アロタイプミスマッチを克服するため、患者は手術前に、FK506およびラパマイシン(経口)ならびにダクリズマブ(静脈内)等の拒絶反応抑制剤から始める。膵島細胞は、門脈中のカテーテルを介して注入される。次に、患者は腹部の超音波検査および血液検査を受け、肝機能が測定される。毎日のインスリン必要量を追跡記録し、必要に応じて患者は2回目の移植を受ける。経過観察モニタリングには、薬剤レベルを測定する頻繁な血液検査、免疫機能、全身の健康状態、および患者がインスリン非依存性のままであるか否かが含まれる。
【0100】
糖尿病患者を管理する一般的方法は、W.N. Kelley編によるTextbook of Internal Medison、第三版、Lippincott-Raven、1997等の標準的な教科書;およびD. Leroith編によるDiabetes Mellitus: A Fundamental and Clinical Text、第二版、Lippincott Williams & Wilkins 2000;C.R. Kahnら編によるDiabetes (Atlas of Clinical Endocrinology Vol.2)、Blackwell Science 1999;およびMedical Management of Type 1 Diabetes、第三版、McGraw Hill 1998等の専門化した参考文献に提供されている。1型糖尿病の治療への膵島細胞の使用は、L. Rosenberg らによるCellular Inter-Relationships in the Pancreas: Implications fos Islet Transplantation、Chapman & Hall 1999;およびC.M. Petersonら編によるFetal Islet Transplantation、Kluwer 1995において詳細に考察されている。
【0101】
いつもと同様、患者選択の最終責任、投与形態、および膵内分泌細胞の投与量は、管理する臨床医の責任である。
【0102】
商品流通できるように、本発明の膵島細胞は、典型的にヒト投与に十分に無菌的な条件下で調製される等張賦形剤を含む薬学的組成物の形態で提供される。本発明はまた、その生産、流通、または使用中のいかなる時点においても存在する細胞セットを含む。細胞セットは、同じゲノムを共有する場合がある未分化pPS細胞または他の分化細胞種と組み合わせた、分化したpPS由来細胞の種類(膵島細胞、その前駆細胞、サブタイプ等)に例示されるがこれらに限定されない、本開示に記載する2つまたはそれ以上の細胞集団の任意の組み合わせを含む。セット中の各細胞種は、一緒に包装してももしくは同じ施設内の別の容器に包装しても、または事業関係を共有する同じ事業体または別の事業体の管理下で別の場所で包装してもよい。
【0103】
細胞組成物の医薬品における一般原則については、当業者には、G. MorstynおよびW. Sheridan編によるCell Therapy: Stem Cell Transplantation、Gene Therapy、およびCellular Immunotherapy、Cambridge University Press、1996を参照されたい。組成物は、選択的に、糖尿病の治療等の所望の目的のための取扱説明書を添付した適切な容器に包装される。
【0104】
装置
本発明の細胞はまた、膵島細胞の1つまたは複数の内分泌ポリペプチドを産生させるように設計された機械装置中の機能的組成物としても使用され得る。
【0105】
最も簡便な形式では、装置は、装置中に細胞集団を保持しつつそれらの通過を防ぐが、細胞集団によって分泌されるインスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの通過を可能にする半透膜の後方にpPS由来膵島細胞を含む。これはマイクロカプセル化された膵島細胞を含み、典型的には脱分化を阻害する細胞相互作用を可能にする細胞塊の形態でマイクロカプセル化されている。例えば米国特許第4,391,909号では、インスリンの大きさのタンパク質に対しては透過性であるが100,000 mol. wt.を超える分子に対しては不透過性であるように、架橋した>3,000 mol. wtの多糖ポリマーで構成される球状の半透膜中にマクロカプセル化された膵島細胞について記載している。米国特許第6,023,009号では、アガロースおよびアガロペクチンでできた半透膜中にマクロカプセル化された膵島細胞について記載している。この種のマイクロカプセルは糖尿病患者の体腔への投与に適しており、組織適合性問題または細菌への感受性を減少させる上でいくらかの利点を有すると考えられる。
【0106】
糖尿病患者への移植のため、または体外療法のためのさらに複雑な装置もまた意図している。米国特許第4,378,016号では、体外部分、皮下部分、およびホルモン産生細胞を含む交換式外皮を含む人工内分泌線について記載している。米国特許第5,674,289号では、周囲の組織に開放された1つまたは複数の血管新生チャンバーに対して半透膜によって分離された膵島チャンバーを有する、バイオ人工膵臓について記載している。有用な装置は典型的に、膵島細胞を含むのに適したチャンバー、および膵島細胞から分泌されたタンパク質を収集し、かつまた膵島細胞に例えば循環グルコースレベル等のシグナルを戻すことも可能にし得る、半透膜によって膵島細胞から分離されたチャンバーを有する。
【0107】
本発明の特定の態様の限定されないさらなる例として、以下の実施例を提供する。
【0108】
実施例
実施例1:胚幹細胞の無フィーダー増殖
未分化ヒト胚幹(hES)細胞の樹立株は、基本的にフィーダー細胞を含まない培養環境で維持した。
【0109】
標準的な手順に従って単離した初代マウス胚線維芽細胞(mEF)を用いて、馴化培地をあらかじめ調製した(国際公開公報第01/51616号)。
【0110】
hES細胞は、マトリゲル(登録商標)をコーティングしたプレート上で継代した。播種から1週間後、培養物はコンフルエントになり継代可能となった。これらの条件下で180日を超えて維持した培養物は、ES用の形態を示し続けた。SSEA-4、Tra-1-60、Tra-1-81、およびアルカリホスファターゼは、免疫細胞化学法によって評価されるようにhESコロニーから発現されていたが、コロニー間の分化細胞からは発現されていなかった。多能性は、それら培養物を特定の細胞種を形成する確立した手順に供することにより確認した。
【0111】
実施例2:hES細胞からの肝細胞の導出
サブコンフルエントな培養物中でDMSOを用いる全体的な分化過程を開始するストラテジーにより、未分化hES細胞をヒト肝細胞の特徴を有する細胞に分化させた。次にNa-ブチラートを添加することにより、細胞を誘導して肝細胞用様細胞を形成させる。
【0112】
手短に説明すると、分割後2〜3日間、hES細胞を未分化培養条件下で維持した。この時点で、細胞は50〜60%コンフルエントであり、培地を1% DMSOを含む非馴化SR培地と交換した(段階II)。4日間毎日培養物にSR培地を添加し、その後1% DMSOおよび2.5% Na-ブチラートを含む非馴化SR培地に交換し、6日間毎日培養物にこの培地を添加した(段階III)。次にこの培養物をコラーゲン上に再プレーティングし、肝細胞増殖因子の混合物を含む肝細胞成熟培地中で培養した(段階IV)。手順を表3に要約する。
【0113】
(表3)肝細胞分化手順

【0114】
図1は得られた肝細胞様細胞を示す。左列:倍率10 X;右列:倍率40 X。ブチラートの存在下で4日目までは、培養物中の80%を超える細胞は直径が大きく、大きな核および顆粒状の細胞質を含む(A列)。SR培地中で5日後、細胞をHCMに切り替えた。2日後、多くの細胞が多核化し、大きな多角形型を有する(列B)。HCM中で4日目までに、多核化多角形細胞が一般的になり色の濃い細胞質を有するが(列C)、このような基準からこれらの細胞は新たに単離されたヒト成人肝細胞(列D)または胎児肝細胞(列E)に類似していると言える。
【0115】
実施例3:肝細胞経路における初期細胞からのインスリン分泌細胞の取得
インスリン分泌細胞は、先の実施例に記載する肝細胞分化手順を改変して用い、H9株のhES細胞から導出した。
【0116】
簡潔に説明すると、段階Iでは、実施例1に記載するようにマウス胚線維芽細胞によって馴化したSR培地を用いて、hES細胞を最終継代後7〜8日間を超えてコンフルエントになるまで増殖させた。段階IIでは、培地を1% DMSOを含む非馴化SR培地と交換し、そこに10μMシクロパミンを添加して細胞を4日間培養した。段階IIIでは、0.5 mMブチラート(肝細胞手順よりも5倍低い)、10μMシクロパミン、4 nMアクチビンA、および10 mMニコチンアミドを含む、B27添加物を加えたRPMI1640中で、細胞を11日間培養した。次に細胞を回収し、固定し、インスリン発現について染色するとともに(Sigmaマウスモノクローナル抗インスリン抗体を1:500に希釈して使用)、核を検出するためDAPIで対比染色した。段階IVでは、B27を添加しかつ潜在的膵島分化因子を含むRPMI(RPMI1640/B27)中で11日間培養することにより、細胞が成熟化する。
【0117】
図2は、段階IVにおいて、細胞を4 nMアクチビンA、4 nMベータセルリン、10 nM IGF-1、および10 mMニコチンアミドと共に培養した結果を示す。上のパネルの円は、DAPIで青く染まった核を表す。視野の中心部にある拡散した染色は赤色蛍光染色であり、細胞内で合成され固定されたインスリンを表す。ウェル内の約1%の細胞がインスリンを産生していると推測された。同じスライド上の他の細胞塊またはアイソタイプ対照中には、インスリン染色は認められなかった。
【0118】
実施例4:消化管内胚葉形成の最適化による膵島細胞経路への導入
本実施例では、子宮で起こる通常の発達を模倣した、pPS細胞からの膵島の段階的誘導の例を提供する。
【0119】
標準的な無フィーダー条件によりhES細胞のH7株およびH9株をコンフルエントになるまで増殖させ、これを実験の出発材料とした。分化を開始させるため、培地をB27(Invitrogen)および以下の選択肢のうちの1つを添加したRPMI1640に交換した:
・さらなる添加物なし(培地対照)
・4 nMアクチビンA(R&D Systems)
・0.5 mMブチラートナトリウム(Sigma)
・アクチビンAおよびブチラートの両方。
全部で8日間の処理日数の期間、培地を毎日交換した(1日を除いて)。
【0120】
この期間の最後に、培地を除去して細胞をPBSですすぎ、RTL溶解緩衝液(Qiagen)400μLを添加して細胞溶解液を調製した。製造業者の説明に従ってQiagen RNAイージーミニキット(RNAeasy Mini kit)を使用し、RNAを調製した。RNAをDNAseで処理し、製造業者の説明に従ってInvitrogen増幅前一本鎖cDNAキット(Preamplification First Strand cDNA kit)を使用し、ランダムにプライミングした一本鎖cDNAを調製した。Sox17、HNF1α、およびHNF3βに対するプライマーおよびプローブセットを使用し、各cDNA試料について標準的なリアルタイムRT-PCR(タックマン(Taqman))を実施した。発現レベルを標準化するため、シコフィリン(cycophilin)(Applied Biosystems)に対するプローブおよびプライマーセットを用いて平行したタックマンアッセイを行った。膵臓標準物質と比較した各試料の相対存在量は、デルタデルタCt法(delta delta Ct method)(Applied Biosystems)により算出した。
【0121】
図3は、消化管内胚葉のマーカーの発現レベルを示す。結果は、ヒト胎児膵臓における発現レベルに対して標準化してある。比較のため、未分化hES細胞(開始細胞株)における発現レベルも示してある。3つのマーカーは、アクチビンAおよび酪酸ナトリウムの組み合わせによって最も効果的に誘導された。Sox17は未分化H9株において高レベルで発現されたが(2.3相対発現)、2つの添加物により32相対発現レベルにまで誘導された(100倍を超える増加)。H7株では誘導レベルはより劇的であり、胎児膵臓の0.007倍から胎児膵臓の79倍になった(10,000倍を超える増加)。HNF3βは、0.5未満の相対発現から5.1または6.3にまで増加した(10倍を超える増加)。HNF4αのレベルは、0.1未満の相対発現から1.0を超えるまでに増加した(10倍を超える増加)。
【0122】
これら3つのマーカーの強力な誘導により、これらのhES由来細胞が消化管内胚葉の重要な特徴を有することが確認される。次にこれらの細胞を継代培養し、膵臓形成を誘導する因子で処理し、重要な膵臓マーカーPdx1の誘導によってモニターする。
【0123】
実施例5:長期凝集塊培養における添加物の使用による膵島細胞の取得
hES細胞のH7株を、実施例1のようにmEF培地中で未分化形態で増殖させた。次に、1:1のmEF馴化培地とDFB+からなる混合培地中で、これらの細胞を懸濁培養で(胚様体を形成する)増殖させた。DFB+培地とは、B27添加物(1x)、インスリン(25μg/ml)、プロゲステロン(6.3 ng/ml)、プトレシン(10μg/ml)、セレン(セレナイトの形態、100 ng/ml)、トランスフェリン(50μg/ml)、および甲状腺ホルモン受容体リガンドT3(40 ng/ml)を添加したDMEM/F12培地である。翌日、10μMオールトランスレチノイン酸を添加した。3日目に培地を10μMオールトランスレチノイン酸を添加したDFB+に交換し、その後7日間1日おきに培地を添加した(段階1)。
【0124】
段階2を開始するため、オールトランスレチノイン酸を除去し、ノギン(200 ng/ml)、EGF(20 ng/ml)、およびbFGF(2 ng/ml)を含む培地と交換した。14日間、1日おきに細胞に培地を添加した。
【0125】
段階3では、ノギン、EGF、およびbFGFを取り除き、細胞をニコチンアミド(10 mM)を含むDFB+中で培養した。5日間、1日おきに培地を交換した。次にコーティングしたチャンバースライド上に細胞をプレーティングして1日培養し、固定してインスリンのc-ペプチドまたはソマトスタチンに対する抗体で染色した。c-ペプチドとは、分泌前に除去されるプロインスリンの成分である。これは、細胞から合成されるインスリンを、培地中の成分として存在するインスリンと識別するのに有用である。
【0126】
図4は結果を示す。上と中央のパネルは低倍率および高倍率でのインスリンc-ペプチドについての染色を示すものであり、これにより成熟膵β細胞の塊が示される。下のパネルは、膵島δ細胞のマーカーであるソマトスタチンについての染色を示す。タックマンリアルタイムRT-PCRにより、インスリンおよびグルカゴンがこれらの細胞によって発現されることがmRNAレベルで確認された。
【0127】
実施例6:ニューロゲニン3遺伝子発現による最終段階の膵島経路の駆動
本実験は、分化の段階IIIの期間中に膵島細胞系譜に特有の遺伝子発現プロファイルを補充する上での、膵島関連遺伝子の過剰発現の有効性を実証する。
【0128】
構成的プロモーターの制御下に転写制御遺伝子ニューロゲニン3(Ngn3)を含む、アデノウイルスベクターを構築した。AdNgn3は、AdMAX(商標)ベクター構築キット(Microbix Biosystems、トロント)を用いて構築した、複製欠損である、E1およびE3が欠失した組換えアデノウイルス5に基づくベクターである。Ngn3 cDNA 645 bp(Genbankアクセッション番号NT_020999)を、pDC515シャトルベクターのmCMV(マウスサイトメガロウイルス前初期遺伝子)プロモーターの下流にクローニングした。ATG開始コドンのすぐ上流にある天然配列TAGAAAGGを、共通コザック配列GCCACCと置換した。相同組換えが起こるように、Ngn3挿入断片を含むシャトルプラスミドとAdゲノムプラスミド(AdMAXプラスミド)を、E1を発現する293細胞に同時トランスフェクションした。プラークを単離してウイルス保存液を293細胞で増幅し、その後CsCl密度勾配遠心法により精製した。A260での吸光度を測定してウイルス粒子濃度を決定し、標準的なプラークアッセイ法により感染力価を決定した。
【0129】
実施例5のように、H7株のヒトES細胞を混合培地中に懸濁して培養した。翌日、培地にオールトランスレチノイン酸(10μM)を添加した。7日後、EBをEGF(20 ng/ml)およびbFGF(2 ng/ml)を添加したDFB+培地中のマトリゲル(登録商標)上にプレーティングした。培養してから5日後、細胞に感染効率50でAdNgn3を感染させた。AdGFP(緑色蛍光タンパク質の遺伝子を含む同等のベクター、直接分化は見込まれない)を陰性対照として使用した。感染効率50のAdNgn3またはAdGFPを、6ウェルプレート中のEGF(20 ng/ml)を含むDFB+培地1 mL中の細胞に添加して4時間直接作用させ、その後各ウェルに同じ培地をさらに2 mL添加した。その後、1日おきに培地を補充した。感染から2日後または8日後に細胞を回収し、実施例4と同様にリアルタイムRT-PCRによる解析のためにRNAを単離した。免疫組織化学法のためにチャンバースライド上にプレーティングした細胞を4%パラホルムアミドで固定し、ブロッキングし、グルカゴンに対する抗体(1:1000)で、その後FITC標識ヤギ抗マウスIgG(1:500)で染色した。
【0130】
図5は、形質導入から9日後の、ニューロゲニン3形質導入細胞の免疫細胞化学染色を示す。このプレーティングされた胚様体は、実質的なレベルの抗体検出可能なグルカゴン発現を示す。
【0131】
図6(A)および6(B)は、陰性対照(斜線棒)と比較したニューロゲニン3形質導入細胞(黒棒)におけるmRNA発現レベルを示す。リアルタイムRT-PCRデータは、ヒト胎児膵臓における発現レベルに対して標準化してある。
【0132】
ニューロゲニン3の下流に存在するいくつかの遺伝子が、対照と比較して、形質導入細胞において特異的に上方制御されていることが認められた。ニューロD1およびNkx2.2はどちらも2日目までに実質的に上方制御され;Nkx6.1は8日目までに上方制御されていた。インスリンおよびグルカゴン発現もまた8日目までに上方制御されており、このことから、遺伝子トランスフェクションストラテジーにより臨床的に重要な膵島細胞の最終段階産物を作製する細胞への成熟が実質的に改善されることが示された。
【0133】
当業者は、本発明の精神または添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、本発明が日常的な最適化の問題として変更され得ることを理解すると考えられる。
【0134】
多数の従属する特許請求の範囲を認める管轄において要求されるべき本発明の態様には、以下のものが含まれる。
1. 少なくとも5%の細胞が内因性遺伝子由来の以下のタンパク質の1つまたは複数を分泌する、霊長動物多能性幹(pPS)細胞を分化させることによって得られる単離された細胞集団:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド。
2.インスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、およびソマトスタチン分泌細胞を含む、霊長動物多能性幹(pPS)細胞を分化させることによって得られる単離された細胞塊。
3. 少なくとも5%の細胞が以下のマーカーの少なくとも2つを発現する、前記請求項のいずれか一項記載の細胞集団:Pdx1、Ngn3、インスリン、IAPP、およびNkx6.1。
4. 含んでいる未分化pPS細胞が1%未満である、前記請求項のいずれか一項記載の細胞集団。
5. 高血糖NODマウスに移植した場合に、空腹時グルコースレベルを200 mg/dL未満に低下させる、前記請求項のいずれか一項記載の細胞集団。
6. テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を高レベルで発現するように遺伝子改変した、前記請求項のいずれか一項記載の細胞集団。
7. 霊長動物胚幹細胞の樹立株と同じゲノムを有する、前記請求項のいずれか一項記載の細胞集団。
8. 前記請求項のいずれか一項記載の分化細胞集団、およびそれが得られる元となった未分化pPS細胞株を含む、2つの細胞集団。
9. 膵島細胞分化因子の混合物中でpPS細胞またはその子孫を培養し、それによって少なくとも5%の細胞が内因性遺伝子由来の以下のタンパク質の少なくとも1つを分泌する細胞集団を取得する段階を含む、ポリペプチド分泌細胞を取得するための方法:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド。
10. pPS細胞が分化して、胚様体、または肝細胞もしくは腸管内皮の特徴を有する細胞を形成する、請求項9記載の方法。
11. 膵島細胞分化因子の混合物が以下の少なくとも1つを含む、請求項9〜10記載の方法:アクチビンA、ニコチンアミド、シクロパミン、ベータセルリン、およびIGF-1。
12. 膵島細胞分化因子の混合物がTGF-βアンタゴニストおよび1つまたは複数のマイトジェンを含む、請求項9〜10記載の方法。
13. 細胞を遺伝子改変してニューロゲニン3等の膵転写因子の発現をもたらす段階をさらに含む、請求項9〜12記載の方法。
14. 請求項9〜13のいずれか一項記載の方法に従って得られる、請求項1〜8記載の分化細胞集団。
15.
a) 請求項1〜8記載の分化細胞集団または請求項9〜13記載の方法によって得られる分化細胞集団を培養する段階、および
b) 培養細胞によって分泌されるインスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンを回収する段階
を含む、インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンを産生する方法。
16.
a) 請求項1〜8記載の分化細胞集団または請求項9〜13記載の方法によって得られる分化細胞集団、および
b) 細胞集団の通過を妨げるが、細胞集団によって分泌されるインスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの通過を可能にする半透膜
を含む、インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンを産生する装置。
17. 請求項1〜8記載の分化細胞集団または請求項9〜13記載の方法によって得られる分化細胞集団を含む、薬学的組成物。
18. 化合物を請求項1〜8記載の分化細胞集団または請求項9〜13記載の方法によって得られる分化細胞集団と混合する段階、化合物と混合したことに起因する細胞集団における任意の表現型変化または代謝変化を判定する段階、およびその変化を化合物がインスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの分泌を調節する能力と関係づける段階を含む、膵島細胞機能を調節する能力について化合物をスクリーニングする方法。
19. 被験者に請求項1〜8記載の分化細胞集団または請求項9〜13記載の方法によって得られる分化細胞集団を投与する段階を含む、被験者において膵島細胞機能を再構成する方法。
20. 被験者に請求項1〜8記載の分化細胞集団または請求項9〜13記載の方法によって得られる分化細胞集団を投与する段階を含む、被験者において1型糖尿病を治療する方法。
21. インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの欠損に関連する病態を治療する医薬品の調製における、請求項1〜8記載の分化細胞集団または請求項9〜13記載の方法によって得られる分化細胞集団の使用。
22. 病態が1型糖尿病である、請求項18記載の使用。
23. pPS細胞がヒト胚盤胞から得られる細胞の子孫である、前記請求項のいずれか一項記載の細胞集団、装置、方法、または使用。
24. pPS細胞がヒト胚幹細胞である、前記請求項のいずれか一項記載の細胞集団、装置、方法、または使用。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】分化および成熟の過程のhES由来肝細胞を示す(10X、40X)。A列は、5 mM n-酪酸ナトリウムを含む培地中で培養してから4日後の細胞を示す。培養物中の80%を超える細胞が、大きな核および顆粒状の細胞質を含む。細胞を特殊化した肝細胞培地に切り替えて2〜4日間培養した(列BおよびC)。多核化多角形細胞が一般的でなる。ES由来肝細胞は、新たに単離されたヒト成人肝細胞(列D)および胎児肝細胞(列E)と形態学的特徴を共有する。
【図2】インスリンを発現しているhES由来細胞を示す。分化ストラテジーは、肝細胞と膵細胞は共通の初期前駆細胞を有するという仮説に基づく。シクロパミンを培地中に含めたことを除いては、初期の分化は肝細胞のものと類似している。次に細胞を、膵島分化因子であるアクチビンA、ニコチンアミド、シクロパミン、および低濃度のn-ブチラートと共に培養した。最後に、細胞をアクチビンA、ベータセルリン、ニコチンアミド、およびIGF-1と共に11日間培養し、膵島細胞の増殖を促進した。DAPIに染まった細胞核を上のパネルに示す。下のパネルの対応する視野は、インスリンに対する拡散した赤色抗体染色を示す。
【図3】hES細胞が段階的様式で膵島個体発生の経路に沿って方向づけられる手順の結果を示す。3つの消化管内胚葉マーカーの発現をmRNAレベルでアッセイし、膵臓での発現レベルに対して標準化した。未分化細胞または非特異的に分化した細胞における発現は低かったが、n-ブチラートおよびアクチビンAの組み合わせは消化管内胚葉の特徴を有する細胞の分化または選択をもたらした。
【図4】hES細胞が、移行する培地、および次のマイトジェンおよび膵島分化因子ノギンを含む培地中の長期凝集塊培養物に添加される手順の結果を示す。上と中央のパネルは低倍率および高倍率でのインスリンc-ペプチドについての染色を示すものであり、これにより成熟膵β細胞の塊が示される。下のパネルは、δ細胞のマーカーであるソマトスタチンについての染色を示す。
【図5】転写制御遺伝子ニューロゲニン3を含むベクターをトランスフェクションしてから9日後の、膵島細胞分化パラダイムにおける細胞を示す。細胞は、高レベルの抗体検出可能なグルカゴン発現を示す。
【図6】陰性対照(斜線棒)と比較したニューロゲニン3形質導入細胞(黒棒)におけるmRNA発現レベルを示す。トランスフェクションした遺伝子は、2日目には下流遺伝子ニューロD1およびNkx2.2の上方制御を引き起こし、ひいてはインスリンおよびグルカゴンの発現増強をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも5%の細胞が内因性遺伝子由来の以下のタンパク質の1つまたは複数を分泌する、霊長動物多能性幹(pPS)細胞を分化させることによって得られる単離された細胞集団:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド。
【請求項2】
インスリン分泌細胞、グルカゴン分泌細胞、およびソマトスタチン分泌細胞を含む、霊長動物多能性幹(pPS)細胞を分化させることによって得られる単離された細胞塊。
【請求項3】
少なくとも5%の細胞が以下のマーカーの少なくとも2つを発現する、前記請求項のいずれか一項記載の細胞集団:Pdx1、Ngn3、インスリン、IAPP、およびNkx6.1。
【請求項4】
含んでいる未分化pPS細胞が1%未満である、請求項1記載の細胞集団。
【請求項5】
高血糖NODマウスに移植した場合に、空腹時グルコースレベルを200 mg/dL未満に低下させる、請求項1記載の細胞集団。
【請求項6】
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を高レベルで発現するように遺伝子改変した、請求項1記載の細胞集団。
【請求項7】
霊長動物胚幹細胞の樹立株と同じゲノムを有する、請求項1記載の細胞集団。
【請求項8】
pPS細胞がヒト胚盤胞から得られた細胞の子孫である、請求項1記載の細胞集団。
【請求項9】
pPS細胞がヒト胚幹細胞である、請求項1記載の細胞集団。
【請求項10】
請求項1記載の分化細胞集団、およびそれが得られる元となった未分化pPS細胞株を含む、2つの細胞集団。
【請求項11】
膵島細胞分化因子の混合物中でpPS細胞またはその子孫を培養し、それによって少なくとも5%の細胞が内因性遺伝子由来の以下のタンパク質の少なくとも1つを分泌する細胞集団を取得する段階を含む、ポリペプチド分泌細胞を取得するための方法:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド。
【請求項12】
pPS細胞が分化して、胚様体、または肝細胞もしくは腸管内皮の特徴を有する細胞を形成する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
膵島細胞分化因子の混合物が以下の少なくとも1つを含む、請求項11記載の方法:アクチビンA、ニコチンアミド、シクロパミン、ベータセルリン、およびIGF-1。
【請求項14】
膵島細胞分化因子の混合物がTGF-βアンタゴニストおよび1つまたは複数のマイトジェンを含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
細胞を遺伝子改変してニューロゲニン3等の膵転写因子の発現をもたらす段階をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項16】
a) 請求項1記載の分化細胞集団を培養する段階、および
b) 培養細胞によって分泌されるインスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンを回収する段階
を含む、インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンを産生する方法。
【請求項17】
a) 請求項1記載の分化細胞集団、および
b) 細胞集団の通過を妨げるが、細胞集団によって分泌されるインスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの通過を可能にする半透膜
を含む、インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンを産生する装置。
【請求項18】
請求項1記載の分化細胞集団を含む、薬学的組成物。
【請求項19】
化合物を請求項1記載の分化細胞集団と混合する段階、化合物と混合したことに起因する細胞集団における任意の表現型変化または代謝変化を判定する段階、およびその変化を化合物がインスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの分泌を調節する能力と関係づける段階を含む、膵島細胞機能を調節する能力について化合物をスクリーニングする方法。
【請求項20】
被験者に請求項1記載の分化細胞集団を投与する段階を含む、被験者において膵島細胞機能を再構成するまたは1型糖尿病を治療する方法。
【請求項21】
インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの欠損に関連する病態を治療する医薬品の調製における、請求項1記載の分化細胞集団の使用。
【請求項22】
病態が1型糖尿病である、請求項21記載の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも5%の細胞が内因性遺伝子由来以下のタンパク質の1つまたは複数を分泌する、霊長動物多能性幹(pPS)細胞を分化させることによって得られる単離された細胞集団:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載の分化細胞集団、およびそれが得られる元となった未分化pPS細胞株を含む、膵ホルモン分泌細胞を作製するための系
【請求項3】
少なくとも5%の細胞が以下のマーカーの少なくとも2つを発現する、前記請求項のいずれか一項記載の分化細胞集団:Pdx1、Ngn3、インスリン、IAPP、およびNkx6.1。
【請求項4】
高血糖NODマウスに移植した場合に、空腹時グルコースレベルを200 mg/dL未満に低下させる、前記請求項のいずれか一項記載の分化細胞集団。
【請求項5】
膵島細胞分化因子の混合物中でpPS細胞またはその子孫を培養し、それによって少なくとも5%の細胞が内因性遺伝子由来の以下のタンパク質の少なくとも1つを分泌する細胞集団を取得する段階を含む、ポリペプチド分泌細胞を取得するための方法:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド。
【請求項6】
膵島細胞分化因子の混合物が
以下の少なくとも1つ:アクチビンA、ニコチンアミド、シクロパミン、ベータセルリン、およびIGF-1;および/または
TGF-βアンタゴニストおよび1つまたは複数のマイトジェンを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
細胞を遺伝子改変してニューロゲニン3等の膵転写因子の発現をもたらす段階をさらに含む、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
a) 請求項1〜4のいずれか一項記載の分化細胞集団、および
b) 細胞集団の通過を妨げるが、細胞集団によって分泌されるインスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンの通過を可能にする半透膜
を含む、インスリン、グルカゴン、またはソマトスタチンを産生する装置。
【請求項9】
1型糖尿病、またはインスリン、グルカゴン、もしくはソマトスタチンの欠損に関連する病態を治療する医薬品の調製における、請求項1〜3のいずれか一項記載の分化細胞集団の使用。
【請求項10】
pPS細胞がヒト胚幹細胞、またはヒト胚盤胞から得られた細胞の子孫である、前記請求項のいずれか一項記載の産物、方法、または用途

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2006−500003(P2006−500003A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−551271(P2003−551271)
【出願日】平成14年12月6日(2002.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2002/039089
【国際公開番号】WO2003/050249
【国際公開日】平成15年6月19日(2003.6.19)
【出願人】(595161223)ジェロン・コーポレーション (32)
【氏名又は名称原語表記】GERON CORPORATION
【Fターム(参考)】