説明

ヒト腎臓疾患の診断

【課題】新規の、改善され、かつ有効な、ヒトにおける腎臓疾患の重篤度を低減し、腎臓疾患を診断しかつ治療する方法を開発すること。
【解決手段】ヒトにおける進行性腎臓疾患を治療するための、鉄キレート化剤を含有してなる医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトにおける腎臓疾患の診断および治療に関する
【背景技術】
【0002】
関連出願
本出願は、共に1999年4月23日に出願された米国仮特許出願第60/130,903号および第60/130,908号の恩恵を主張する。これらの教示は参照として本明細書にすべて組み込まれる。
発明の背景
腎臓疾患は進行性であり得、終末期の腎疾患、そして最終的には死に至る。毎年、世界規模で約650,000人のヒトの患者が終末期の腎疾患を患い、治療コストは約2百億ドルになると見積もられている(非特許文献1)。
【0003】
腎臓疾患、特に進行性腎臓疾患を診断する現行の方法には、蛋白質レベルの増大について尿素をモニターし、腎生検を行なうことが含まれる。腎臓疾患、特に進行性腎臓疾患の有用な治療には、ステロイド、アルキル化剤およびシクロスポリンの使用が含まれる(非特許文献2)。上記の診断方法は、診断の前に腎臓への有意なダメージが発生し得るので、不十分であることが多い。同様に、上記の治療は、細胞毒性や全身性毒性などの有害な副作用を伴うことが多いため、頻繁に腎臓疾患の進行を停止するのに失敗し、したがって、不十分なものである。
【0004】
動物モデルをいくつかの腎臓疾患を研究するために使用したが、ヒトの腎臓疾患の診断や治療にまで拡大すると、動物モデルは多くの制限を受ける。例えば、腎臓疾患の動物モデルは、ヒトの腎臓疾患を必ずしも描いておらず、ステロイドの投与は、実験動物モデルにおける腎臓疾患の治療に適度に有効であるが、ヒトにおける腎臓疾患の治療には比較的無効である(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。したがって、動物モデル系は、一般に、ヒトにおいて進行性腎臓疾患の進行を停止し、その重篤度を低減し、進行性腎臓疾患を治療し、または診断する方法を規定し且つ同定するために使用することができない。したがって、新規の、改善され、かつ有効な、ヒトにおける腎臓疾患の重篤度を低減し、腎臓疾患を診断しかつ治療する方法を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Klahr,S.,Contrib.Nephrol.118:1−5(1996)
【非特許文献2】de Mattos,A.M.ら、861−885頁、In:“Immunologic Renal Diseases,”、Neilson,E.G.ら編、Lippincott−Raven Publishers,Philadelphia,PA(1997)
【非特許文献3】Siegel,N.J.ら、Kidney Int.25:906−911(1984)
【非特許文献4】Cronin,R.E.ら、Am.J.Physiol.248:F332−F339(1985)
【非特許文献5】Cronin,R.E.ら、Am.J.Physiol.251:F408−F416(1986)
【非特許文献6】Seiken,G.ら、Kidney Int.45:1622−1627(1994)
【非特許文献7】Shaw,S.G.ら、J.Clin.Invest.80:1232−1237(1987)
【非特許文献8】Allgren,R.L.ら、N.Eng.J.Med.336:828−834(1997)
【非特許文献9】Paller,M.S.、Sem.Nephrol.18:482−489(1998)
【非特許文献10】Savill,J.ら、In:“Oxford Textbook of Clinical Nephrology”、Davison,A.M.ら編、Oxford Medical Publications、403−439頁(1998)
【非特許文献11】Hirschberg,R.ら、Kidney Int.55:2423−2432(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、新規の、改善され、かつ有効な、ヒトにおける腎臓疾患の重篤度を低減し、腎臓疾患を診断しかつ治療する方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕ヒトにおける進行性腎臓疾患を治療するための、鉄キレート化剤を含有してなる医薬、
〔2〕鉄キレート化剤が、デフェリプロン、デフェロキサミン、ポリアニオン性アミンおよび置換ポリアザ化合物からなる群より選択される、〔1〕記載の医薬、
〔3〕該医薬による鉄キレート化剤の投与により、該ヒトの尿中触媒鉄含量が本質的に一定になるものである、〔1〕記載の医薬、
〔4〕該医薬による鉄キレート化剤の投与量が、1日あたり20mg/kgヒト体重〜150mg/kgヒト体重の範囲である、〔1〕記載の医薬、
〔5〕該ヒトが、原発性糸球体腎炎および続発性糸球体腎炎からなる群より選択される少なくとも1つの進行性腎臓疾患に罹患している、〔1〕記載の医薬、
〔6〕該医薬の投与により、腎臓疾患の進行が停止するものである、〔1〕記載の医薬、
〔7〕該医薬の投与により、進行性腎臓疾患の重篤度が低減されるものである、〔1〕記載の医薬、
〔8〕該医薬が、反復投与されるものである、〔1〕記載の医薬、
〔9〕該医薬が、経口投与されるものである、〔1〕記載の医薬、
〔10〕該医薬の投与により、腎機能の損失速度が低減されるものである、〔1〕記載の医薬、
〔11〕該医薬の投与により、蛋白尿の進行速度が低減するものである、〔10〕記載の医薬、
〔12〕該医薬の投与により、尿クレアチニンの上昇速度が低減されるものである、〔11〕記載の医薬、
〔13〕該医薬の投与により、糸球体濾過速度の低下が低減されるものである、〔10〕記載の医薬、
〔14〕該医薬の投与により、尿中蛋白質、血液尿素窒素、および血清または血漿クレアチニンからなる群の少なくとも1つが低下する、〔10〕記載の医薬、
〔15〕原発性糸球体腎炎が、膜性腎症、巣状分節状硬化症、IgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、および半月体形成性糸球体腎炎からなる群より選択される少なくとも1つである、〔5〕記載の医薬、
〔16〕続発性糸球体腎炎が、糖尿病性腎症、全身性エリテマトーデス、溶血性尿毒症症候群およびヘーノホ−シェーンライン紫斑病からなる群より選択される少なくとも1つである、〔5〕記載の医薬、
〔17〕進行性腎臓疾患が虚血性腎症である〔1〕記載の医薬、
〔18〕進行性腎臓疾患が、腎臓の間隙への損傷の結果として生じる、〔1〕記載の医薬
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、新規の、改善され、かつ有効な、ヒトにおける腎臓疾患の重篤度を低減し、腎臓疾患を診断しかつ治療する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、腎臓疾患を有していない(対照)、糖尿病性微量アルブミン尿症を有している(DM Micro)、糖尿病性(DM)蛋白尿、糸球体腎炎(GM)および虚血性腎症を有しているヒトから採取した尿中の触媒鉄含量(nmol/mg尿クレアチニン)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の要約
本発明は、ヒトにおける腎臓疾患の診断方法および治療方法に関する。特に本発明は、進行性腎臓疾患の治療方法に関する。
【0011】
一つの実施態様において、前記方法は、尿サンプル中の触媒鉄を測定する工程を含む、ヒトの腎臓疾患の診断を包含する。好ましい実施態様において、前記触媒鉄は、参照蛋白質に関して測定される。特に好ましい実施態様において、参照蛋白質は尿クレアチニンである。
【0012】
別の実施態様において、本発明は、ヒトから採取された尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程、および尿サンプル中の触媒鉄含量を対照サンプル中の触媒鉄含量と比較する工程を含むヒトの腎臓疾患の治療方法に関する。対照サンプル中の触媒鉄含量より多い尿サンプル中の触媒鉄含量は腎臓疾患を示す。
【0013】
また、別の実施態様において、本発明は、ヒトに鉄キレート化剤を投与する工程を含む、約15nmol/mg参照蛋白質を超える尿中の触媒鉄含量を有するヒトにおける腎臓疾患の治療方法を含む。
【0014】
さらなる実施態様において、本発明は、対照サンプルの触媒鉄含量を超える尿中の触媒鉄含量を有するヒトに投薬量の鉄キレート化剤を投与する工程およびヒトから初回尿サンプルを採取する工程を含むヒトにおける腎臓疾患の治療方法を含む。初回尿サンプル中の触媒鉄含量を測定し、対照サンプル中の触媒鉄含量における触媒鉄含量と比較する。
【0015】
前記方法は、少なくとも一つの第2投薬量の鉄キレート化剤を投与する工程をさらに有することができる。前記第2投薬量の量は、尿サンプル中の測定された触媒鉄含量と対照サンプル中の触媒鉄含量との比較により決定される。
【0016】
別の実施態様において、前記方法は、少なくとも一つの第2尿サンプルを採取する工程および第2尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程をさらに含む。第2尿サンプル中の触媒鉄含量は、初回尿サンプル、対照サンプルまたはその両方の中の触媒鉄含量と比較される。
【0017】
また、本発明の別の実施態様は、ヒトにおける腎臓疾患の進行を決定することを含む。ヒトから採取された初回尿サンプルおよび少なくとも一つの追加の尿サンプル中の触媒鉄含量が測定される。追加の尿サンプル中の触媒鉄含量は、初回尿サンプル中の触媒鉄含量と比較される。初回尿サンプル中の触媒鉄含量より多い追加の尿サンプル中の触媒鉄含量の増大は、ヒトにおける腎臓疾患の進行を示す。
【0018】
また、他の実施態様において、本発明は、進行性腎臓疾患に罹患したヒトを治療するために鉄キレート化剤を投与する有効性を評価する方法に関する。ヒトから採取された初回尿サンプル中の触媒鉄含量は、ヒトから採取された第2尿サンプルの触媒鉄含量と比較される。第2尿サンプルは、初回尿サンプルを採取した後および鉄キレート化剤の投与後に採取される。第2尿サンプル中と初回尿サンプル中の触媒鉄含量の比較は、腎臓疾患の進行を軽減するための鉄キレート化剤の投与の有効性を示す。
【0019】
別の実施態様において、本発明は、前記鉄キレート化剤を用いる進行性腎臓疾患の治療の恩恵を受ける、進行性腎臓疾患に罹患するヒトを同定する方法に関する。ヒトから採取された尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する。約15nmol/mg参照蛋白質より多い尿サンプル中の触媒鉄含量は、前記鉄キレート化剤を用いる進行性腎臓疾患の治療の恩恵を受ける、進行性腎臓疾患に罹患するヒトを同定する。
【0020】
また、別の実施態様において、本発明は、対照サンプルを超える尿中の触媒鉄含量を有する微量アルブミン尿症に罹患したヒトに、投薬量の鉄キレート化剤を投与する工程を含む、ヒトにおける微量アルブミン尿症の治療方法に関する。初回尿サンプルをヒトから採取し、そして初回尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する。初回尿サンプル中の触媒鉄含量は、対照サンプル中の触媒鉄含量と比較される。
【0021】
本明細書で記載される発明は、ヒトにおける腎臓疾患の診断方法、治療方法、その進行を停止する方法、およびその重篤度を低減する方法を提供する。請求される発明の利点には、例えば、動物モデルには記載されておらず、腎臓疾患の現存の動物モデルからも予期しえない手法での、ヒトにおける進行性腎臓疾患の治療が含まれる。本発明の方法は、有意な副作用なしに、ヒトにおいて進行性腎臓疾患を治療することができる。本発明の方法は、腎臓疾患を治療し、最終的に終末期の腎疾患を防ぐのに有効な手法を提供する。
【0022】
したがって、鉄キレート化剤を用いる対照レベルより多い尿中の触媒鉄含量を有するヒトの治療は、腎臓疾患の進行を停止し、逆行させ、またはその重篤度を低減することができ、それにより、生活の質や平均余命を増大する。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明の特徴および他の詳細を、本発明の工程または本発明の部分の組み合わせのいずれかとしてより詳しく記載し、特許請求の範囲において示す。本発明の特定の実施態様は、説明のために示され、本発明の制限として示すのではない。本発明の主な特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく様々な実施態様に使用され得る。
【0024】
本発明は、ヒトの尿中の触媒鉄が腎臓疾患の存在の指標であり得るという発見に関する。本発明は、さらに、鉄キレート化剤の投与が腎臓疾患に罹患するヒトの尿中の蛋白質含量を低減するという発見に関する。特に、鉄キレート化剤であるデフェリプロン(deferiprone)は、進行性腎臓疾患に罹患するヒトから採取した尿中の蛋白質含量と血清クレアチニン、両方とも腎臓損傷の指標である、を低減することがわかっている。
【0025】
「腎臓疾患」とは、一般に、ヒトにおける腎臓の機能(例えば、蛋白質の漏出を防ぐ、窒素性老廃物の排泄を防ぐ)を傷つける少なくとも一つの腎臓の疾患を意味する。腎臓疾患は、腎臓の初期の病状(例えば、糸球体または細管を損傷する)または生物学的な機能を行なう(例えば、蛋白質を保持する)腎臓の能力に有害な影響を与える別の器官(例えば、膵臓)の初期の病状に由来しうる。したがって、ヒトにおける腎臓疾患は、疾患の直接または間接の作用であり得る。腎臓に対する間接的な作用の結果または帰結としての腎臓疾患の例は、糖尿病または全身性狼瘡の帰結としての腎臓疾患である。腎臓疾患という用語は、「腎臓の疾患」という言い回しで、互換的に使用される。腎臓疾患は、例えば、腎臓の腎皮質または腎髄質のいずれかにおける糸球体、細管または間質組織に対する何らかの変化、損傷、または外傷の結果または帰結であり得る。
【0026】
本発明の好ましい実施態様において、腎臓疾患は進行性腎臓疾患である。本明細書に用いられるように「進行性腎臓疾患」は、経時的(例えば、数日、数週間、数カ月、数年)に腎機能の欠損を導く腎臓のあらゆる疾患を意味する。「腎機能」は、一般に、蛋白質を保持し、それにより蛋白尿を防ぐ能力のような、腎臓の生理的な特徴を意味する(例えば、尿クレアチニン、約0.15g/24時間より大きな量の蛋白質の排出)。腎機能は、例えば、糸球体の濾過速度(例えば、クレアチニンクリアランス)、尿中の蛋白質の排出、血液尿素窒素、血清または血漿クレアチニン、またはそれらの組み合わせにより評価され得る。
【0027】
糸球体濾過速度は、一般に、腎(本明細書では腎臓ともいう)排出能と呼ばれる腎機能の指標である。糸球体の濾過を評価するための指標には、例えば、クレアチニンクリアランスおよびイヌリンクリアランスが含まれる。糸球体濾過速度(例えば、クレアチニンクリアランス)を含む、腎機能を評価するための技術の実施例の記載および議論は、例えば、Larsen,K.Clin.Chem.Acta.41:209−217(1972);Talke,H.ら、Klin,Wscr 41:174(1965);Fujita,Y.ら、Bunseki Kgaku 32:379−386(1983);Rolin,H.A.III,ら、In:“The Principles and Practice of Nephrology”、第2版、Jacobson,H.R.ら、Mosby−Year Book,Inc.,St.Louis,MO,8−13頁(1995);Carlson,J.A.ら、In:“Diseases of the Kidney”、第5版、Schrier,R.W.ら編、Little,Brown and Co.,Inc.,Boston,MA,361−405頁(1993)に見られる、これらの全ての教示は、参照により、全て本明細書に組み込まれる。例えば、内因性クレアチニンクリアランスは、以下のようにして決定される:
Cr=Ucr V/PCr
〔式中、Cr=クレアチニンのクリアランス(ml/min);Ucr=尿素クレアチニン(mg/dl)、V=尿素の容量(ml/min−24時間の容量について1400で割る、そしてPCr=血漿クレアチニン(mg/dl)〕
【0028】
本明細書で記載された方法により治療される進行性腎臓疾患には、最終的に、終末期の腎疾患を導き得るあらゆる腎臓疾患が含まれる。本発明の進行性腎臓疾患は、例えば、地中海貧血または鎌状赤血球貧血などの疾患において輸血を繰り返した結果として、外因性鉄過負荷に由来する腎臓の疾患ではない。本発明の方法により診断されまたは治療され得る進行性疾患は、例えば、腎臓(例えば、糸球体、細管)における内因性鉄沈着物に関連し得る。内因性鉄は、例えば、ヒトにおけるフェリチン、ミトコンドリアまたはシトクロームP450から放出され得る。
【0029】
より好ましい実施態様において、腎臓疾患は、進行性糸球体腎臓疾患である。本発明の方法による治療に特に好適な進行性糸球体腎臓疾患には、例えば、糖尿病性腎症(例えば、I型もしくはII型の糖尿病、または全身性狼瘡の結果として)、原発性糸球体腎炎(例えば、膜性腎症、巣状分節状糸球体硬化症、膜増殖性糸球体腎炎、広汎増殖性糸球体腎炎、膜性巣状分節状糸球体硬化症) および続発性糸球体腎炎(例えば、糖尿病性腎症、虚血性腎症)が含まれる。
【0030】
腎臓疾患は、ヒトの尿中の触媒鉄を測定することにより、本発明の方法によってヒトにおいて診断され得る。ヒトは、本明細書において、患者または個体ともいう。好ましい実施態様において、尿中の触媒鉄含量が約15nmol/mg参照蛋白質よりも大きい場合、腎臓疾患についてヒトを診断することができる。
【0031】
「触媒鉄」は、Fe2+をいう。触媒鉄は、フリーラジカル反応を触媒することが可能なものである。Fe2+状態の鉄は、ハーバー−ワイス反応を触媒することができ、それは過酸化水素を還元し、ヒドロキシルラジカルの形成を促進する。ハーバー−ワイス反応は、以下のように示される:
2- + Fe3+ → O2 + Fe2+
Fe2+ + H22 → Fe3+ +OH・ +OH-
2- + H22 → O2 +OH・ +OH-
【0032】
触媒鉄は、ハーバー−ワイス反応以外の反応においてヒドロキシラジカルの形成を生じ得ることも想像される。
【0033】
触媒鉄含量を決定する方法は公知であり(例えば、Gutteridge,J.M.C.ら、Biochem J.199:263−265(1981);Yergey,A.L.J.Nutrition 126:355S−361S(1996);Iancu,T.C.ら、Biometals 9:57−65(1996);Artiss,J.D.ら、Clin.Biochem.14:311−315(1981);Smith,F.E.ら、Clin.Biochem.17:306−310(1984);Artiss,J.D.ら、Microchem.J.28:275−284(1983)を参照のこと、これらの教示は全て参照により本明細書に組み込まれる)、実施例に記載されている。前記方法には、分光測光、質量分析法(例えば、熱イオン化質量分析、レーザーミクロプローブ質量解析、誘導架橋化プラズマ質量分析法、原子衝撃二次イオン質量分析)が含まれる。また、触媒鉄含量は、触媒鉄の量、レベルまたは濃度ともいう。
【0034】
好ましい態様において、触媒鉄含量を尿サンプル中の参照蛋白質に関して測定する。「参照蛋白質に関して」という言い回しは、本明細書に使用されるように、尿中の蛋白質の濃度(例えば、ミリグラム)あたりの測定の単位(例えば、ナノモル)として尿中の触媒鉄含量を示すことを意味する。触媒鉄は、例えば、尿中の蛋白質のミリグラム(mg)あたりの触媒鉄のナノモル(nmol)として示され得る。好ましい態様において、参照蛋白質は、尿クレアチニンである。
【0035】
さらに、あるいはまた、触媒鉄含量を、糸状体濾過速度、特に前記のクレアチニンクリアランスに関して測定する。
【0036】
好ましくは、腎臓疾患(例えば、蛋白尿、血液尿素窒素の増加、血清クレアチニンの増加)の臨床的な症状(本明細書では腎臓疾患の臨床的徴候ともいう)の発現前にヒト由来の尿サンプルで触媒鉄含量を測定する。さらに、あるいはまた、腎臓疾患(例えば、蛋白尿)の臨床的な症状の発現後にヒトから採取した尿サンプル中で触媒鉄含量を測定する。腎臓疾患に罹患しているヒトの触媒鉄を測定し、腎臓疾患に罹患していないヒトと比較する(表1および2を参照)。
【0037】
「鉄キレート化剤」は、Fe3+由来の触媒鉄の形成を防ぐため、またはハーバー−ワイス反応もしくはヒドロキシルラジカルを発生し得る他の反応において鉄(Fe3+もしくはFe2+)の相互作用、作用もしくは関与を妨げる、阻害するもしくは妨害するために、鉄、Fe3+またはFe2+のいずれか、と相互作用することができる分子をいう。鉄キレート化剤と鉄、Fe3+またはFe2+のいずれか、または両方との間の相互作用は、例えば、結合相互作用、立体障害の結果としての相互作用または鉄と鉄キレート化剤との間の互変(reciprocal) 効果であり得る。鉄キレート化剤は、例えば、Fe3+からFe2+への変換を妨げることができ、それにより、過酸化水素の還元とハーバー−ワイス反応におけるヒドロキシルラジカルの形成を間接的に妨げる。かわりに、あるいはまた、鉄キレート化剤はFe2+と直接的に相互作用し、例えば、ハーバー−ワイス反応においてヒドロキルラジカルの形成を妨げることができる。
【0038】
鉄キレート化剤は天然または非天然(例えば、天然には見られないアミノ酸)アミノ酸からなるペプチド、ポリエチレングリコールカルバメート、脂肪親和性または非脂肪親和性のポリアミノカルボン酸、多価陰イオン性アミン類または置換ポリアザ化合物であり得る。好ましい実施態様において、鉄キレート化剤は、デフェリプロン(1,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−ピリド−4−オン)L1である。鉄キレート化剤は、市販のものであるか、または日常的な手法を用いて生物学的供給源から合成もしくは精製され得る。鉄キレート化剤についての例示的な記載および議論は、幾つかの参照文献、例えば、米国特許第5,047,421号(1991);米国特許第5,424,057号(1995);米国特許第5,721,209号(1998);米国特許第5,811,127号(1998);Olivieri,N.F.ら、New Eng.J.Med.332:918−922(1995);Boyce,N.W.ら、Kidney International.30:813−817(1986);Kontoghiorghes,G.J.Indian J.Peditr.60:485−507(1993);Hershko,C.ら、Brit.J.Haematology 101:399−406(1998);Lowther,N.ら、Pharmac.Res.16:434(1999)に見られる、これらの教示は参照により全て本明細書に取り込まれる。
【0039】
「有効量」は、鉄キレート化剤の量に関連する場合、腎臓疾患を患っているヒトに投与される際に、治療の有効性に十分な鉄キレート化剤の量(本明細書では投薬量ともいう)として定義されている(例えば、尿中の触媒鉄含量、尿中の全蛋白質含量、進行性腎臓疾患を有するヒトから採取された血液サンプル中の血液尿素窒素またはクレアチニンを低減するのに十分な量)。鉄キレート化剤の有効量は、ヒトに投与される場合、鉄キレート化剤を用いる治療の前、または治療の間に測定される尿中の触媒鉄含量と比較された、尿触媒鉄含量のさらなるまたは付加的な増加を妨げるような鉄キレート化剤の量も意味する。触媒鉄は、鉄キレート化剤の投与の前、投与間または投与後に、鉄キレート化剤を用いる治療を受けているヒトの尿において測定され得る。
【0040】
一つの実施態様において、鉄キレート化剤を単回投薬量で投与する。別の実施態様において、鉄キレート化剤を反復投与する。好ましい実施態様において、鉄キレート化剤を約20mg/kgヒト体重から約150mg/kgヒト体重の間の範囲の投薬量で経口投与する。特に好ましい実施態様において、鉄キレート化剤を1日に3回、約20mg/kgヒト体重から約150mg/kgヒト体重の間の範囲の投薬量で少なくとも2〜6カ月間投与する。
【0041】
本発明の別の面は、鉄キレート化剤を用いる腎臓疾患の治療を受けている進行性腎臓疾患を患っているヒトの尿中における蛋白質含量を測定することに関する。蛋白質含量の測定は、尿中の全蛋白質(本明細書では全蛋白質含量ともいう)であり得る。腎臓疾患に罹患しているヒトの尿中の蛋白質含量は、鉄キレート化剤の投与前、投与間または投与後の1以上の時点で測定することができる。
【0042】
典型的には、尿中の蛋白質含量は、当業者に周知の日常的なアッセイを用いて決定される。好適な方法には、計量棒、免疫沈降、比濁(例えば、スルホサリチル酸(sulphosaliclic acid) 、トリコロラセチック(tricholoracetic) 、ベンゼトニウムクロライド)アッセイ、色素結合(例えば、クーマシーブルー、ポンソー)アッセイ、ビウレット(例えば、ツチヤ試薬を用いる沈殿)アッセイおよびフォーリン−ローリー(Folin-Lowry) アッセイが含まれる。(「Oxford Textbook of Clinical Nephrology”、Davison,A.M.ら編、第2版、Oxford University Press,New York,NY(1998);“Primer on Kidney Diseases”、Greenberg,A.編,第2版、Academic Press,New York,NY(1998)、これらの教示は参照により全て本明細書に取り込まれる)。
【0043】
別の態様において、クレアチニン、血液尿素窒素、またはその両方は、腎臓疾患に罹患しているヒトへの鉄キレート化剤の投与前、投与間または投与後の1以上の時点でヒトから採取された血液サンプルにおいて測定される。血液サンプルは、動脈血液サンプルまたは静脈血液サンプルであり得る。血液サンプルは、血清または血漿の血液サンプルであり得る。血液サンプルを採取するための方法および血液尿素窒素含量やクレアチニン含量を決定するために血液サンプルを処理する方法は、当業者に周知のものである。(例えば、Karlinsky,M.L.ら、Kidney Int.17:293−302(1980);Tomford,R.C.ら、J.Clin.Invest.68:655−664(1981);Baliga,R.ら、Biochem J.291:901−905(1993)を参照のこと、これらの教示は参照により全て本明細書に組み込まれる)。
【0044】
腎臓疾患に罹患しているヒトにおける血液尿素窒素、尿蛋白質含量または血清クレアチニン含量は、腎臓疾患が進行するにつれて、ヒトにおいて増加しうる。同様に、腎臓疾患に罹患しているヒトにおける血液尿素窒素、全尿蛋白質含量および血清クレアチニン含量は、腎臓疾患の進行が本発明の方法を用いる鉄キレート化剤の投与により停止されまたは妨げられる場合、減少または安定化(例えば、同じ、実質的に一定に維持)し得る。
【0045】
好ましい実施態様において、尿中の全蛋白質含量、ヒトの血液サンプル中の血液尿素窒素またはクレアチニン含量を対照のレベルのものとほぼ同じまで低下させるのに有効な量で鉄キレート化剤を腎臓疾患を持つヒトに投与する。
【0046】
別の実施態様において、鉄キレート化剤を用いる治療の前の触媒鉄量(本明細書において治療前尿中触媒鉄量ともいう)と比べて尿中の全蛋白質含量、ヒトの血液サンプル中の血液尿素窒素およびクレアチニン含量のさらなる増加を妨げるのに有効な量で鉄キレート化剤を腎臓疾患を持つヒトに投与する。
【0047】
また、別の実施態様において、尿中の全蛋白質含量、ヒトの血液サンプル中の血液尿窒素およびクレアチニンを対照レベルよりも大きなレベルに増加するのを妨げるのに有効な量で鉄キレート化剤を腎臓疾患もつヒトに投与する。
【0048】
特に、本発明は、投薬量の鉄キレート化剤(例えば、鉄キレート化剤約20mg/体重kgおよび鉄キレート化剤約150mg/体重kgの間の範囲)を対照サンプル中の触媒鉄含量のものを超える(例えば、約15nmol触媒鉄/mg参照蛋白質を超える)尿中の触媒鉄含量を有するヒトに投与する工程を含む、ヒトにおける腎臓疾患の治療方法に関する。ヒトが始めに処置される投薬量は、「初回投薬量」ともいう。
【0049】
一つの実施態様において、鉄キレート化剤の投与前に尿サンプルをヒトから採取する(本明細書では、治療前尿サンプルともいう)。別の実施態様において、尿サンプルを鉄キレート化剤の投与後に採取する。したがって、尿サンプルは、ヒトに鉄キレート化剤を投与し、触媒鉄含量を測定する前、測定中または測定後にヒトから採取することができる。
【0050】
好ましい実施態様において、鉄キレート化剤(例えば、デフェリプロン)は、尿サンプル中の触媒鉄含量を約15nmol/mg参照蛋白質(例えば、尿クレアチニン)より多い量で約20mg/kgヒト体重から約150mg/kgヒト体重の間の範囲の投薬量でヒトに投与される。
【0051】
本明細書に規定されるように、「対照サンプル」は、腎臓疾患に罹患しておらず、必要であれば治療されるヒトと年齢、性別、民族性および健康履歴などの変数が一致したヒトにおける目的のパラメーター(例えば、尿中の触媒鉄含量、尿中の蛋白質含量、血液サンプル中の血液尿素窒素、血液サンプル中のクレアチニン)のレベル(本明細書では量または含量ともいう)を意味する。対照サンプルは、また、ヒトにおける目的のパラメータの予期されるレベルであり得る。本発明の方法で治療されたヒトにおける目的のパラメーターの「予期されるレベル」は、腎臓疾患に罹患していないヒトにおいて一般に観察されるレベルであり得、または腎臓疾患をもつヒトより低いが、腎臓疾患に罹患しているヒトよりも高いレベルであり得る。予期されたレベルは、治療前レベルよりも下であるかまたは本明細書に規定された方法による治療を受けていないヒトにおける腎臓疾患の進行の間に予期されるレベルよりも低い、目的のパラメーターの任意のレベルでもあり得る。目的のパラメーターの「標的レベル」は腎臓疾患を患っているヒトについて、ヒトが腎臓疾患を発症する前にヒトの目的のパラメーター(例えば、尿中の触媒鉄含量)のレベルに基づいて、または腎臓疾患を呈していないヒトにおいて観察されるレベルと比較して選択され得る。好ましい実施態様において、対照サンプルは、約15nmol/mg参照蛋白質(例えば、クレアチニン)の触媒鉄含量を有する。
【0052】
鉄キレート化剤の投与後、ヒトにおける触媒鉄含量を初回尿サンプルにおいて測定する。「初回尿サンプル」は、進行性腎臓疾患の治療法に関していう場合は、鉄キレート化剤の投与後の任意の時間においてヒトから採取した尿サンプルをいう。初回尿サンプルは、例えば、鉄キレート化剤の投与の数日後、数週後、数ヶ月後または数年後に得てもよい。尿サンプル(例えば、初回尿サンプル)中における触媒鉄含量を、対照サンプル中の触媒鉄含量と比較する。初回尿サンプル中の触媒鉄含量はまた、鉄キレート化剤の初回投薬量の投与前または投与後にヒトから採取した尿サンプル中の触媒鉄含量と比較することもできる。
【0053】
該方法は、第2(subsequent)投薬量の鉄キレート化剤をヒトに投与する工程をさらに含みうる。第2投薬量は、初回尿サンプル中の触媒鉄含量を対照サンプル中の触媒鉄含量と比較することにより決定される。
【0054】
該方法は、ヒトから少なくとも1種の(as least one)第2尿サンプルを採取する工程をさらに含みうる。「第2尿サンプル」は、初回尿サンプル採取後の任意の時間にヒトから採取した任意の尿サンプルである。1種以上の第2尿サンプルをヒトから採取することができる。1種を超える第2尿サンプルを、1日で、または数日、数ヶ月もしくは数年にわたって採取することができる。
【0055】
ヒトの第2尿サンプル中の触媒鉄含量を、初回尿サンプル、対照サンプルまたはその両方における触媒鉄含量と比較する。ヒトに投与する鉄キレート化剤の投薬量は、ヒトの尿中の触媒鉄含量が対照サンプル中の触媒鉄含量とほぼ同じになるまで、または第2尿サンプル中の触媒鉄含量が本質的に一定となるまで調整しうる(例えば、増加させうる)。調整された投薬量もまた「第2投薬量」という。例えば、ヒトに対し、約75mg/kg体重の投薬量の鉄キレート化剤を投与し、尿サンプルまたは初回尿サンプル中の参照サンプルが約55nmol/mgであるのに対して第2尿サンプル中の触媒鉄含量が約35nmol/mgの参照蛋白質である場合、鉄キレート化剤の第2投薬量は、約75mg/kg体重未満に調整する。
【0056】
本発明の別の態様では、第2投薬量の鉄キレート化剤を、第2尿サンプル中の触媒鉄が対照の触媒鉄とほぼ同じか、または本質的に一定となるまで投与する。「本質的に一定」(本明細書では「本質的に一定値」もしくは安定化した、ともいう)とは、尿中の触媒鉄含量が経時的に(例えば、数日、数週間、数ヶ月または数年)ほぼ同じ値であることをいう。
【0057】
好ましい態様では、尿中の触媒鉄含量が、対照サンプルの触媒鉄含量とほぼ同じか、または本質的に一定である場合、少なくとも2種の第2投薬量における鉄キレート化剤の投薬量は、約10mg/kgヒト体重だけ異なる。10mg/kg増加分の調整後、1種以上の第2尿サンプル中の触媒鉄含量を測定し、対照または本質的に一定値と比較し、第2尿サンプル中の触媒鉄含量が対照サンプルまたは本質的に一定値を超える場合は鉄キレート化剤の投薬量を調整しうる(例えば、増加させうる)。例えば、一定投薬量の鉄キレート化剤において、ヒトの第2尿サンプル中の触媒鉄含量が対照サンプル(例えば、約15nmol/mg参照蛋白質)を超える場合は、腎臓疾患に罹患したヒトの尿中の触媒鉄を低下させるために鉄キレート化剤の投薬量を増加しうる。同様に、第2尿サンプル中の触媒鉄含量が変化しない(remain)場合(例えば、対照含量または本質的に一定である場合)は、鉄キレート化剤の投薬量を減少することができる。
【0058】
さらにまた別の態様では、尿サンプル(例えば、鉄キレート化剤での治療前または治療後)および少なくとも1種の第2尿サンプル中の尿蛋白質含量(例えば、総蛋白質含量)を測定する。第2尿サンプル中の尿蛋白質含量を決定し、鉄キレート化剤での治療前または治療後に採取した尿サンプル、対照サンプルまたはその両方における蛋白質含量と比較する。第2尿サンプル中の尿蛋白質含量を対照サンプルと比較し、治療の進行、さらなる治療の必要性(例えば、投与回数もしくは投与期間)またはヒトに投与する鉄キレート化剤の投薬量の調整の必要性(例えば、mg/kg体重)を決定しうる。
【0059】
鉄キレート化剤の「投薬量の調整」(本明細書では鉄キレート化剤の第2投薬量ともいう)は、初回の鉄キレート化剤投薬量における任意の変更または修正(例えば、増加または減少)をいう。鉄キレート化剤の量における変更は、例えば、鉄キレート化剤の投与回数の増加または減少(例えば、1日の回数、日数、月数、年数)でありうる。さらにまた、あるいはまた、鉄キレート化剤の量における変更は、例えば、ヒトに投与する鉄キレート化剤の投薬量の増加または減少(例えば、ヒトの体重1キログラムあたりの鉄キレート化剤のミリグラム数)でありうる。
【0060】
本発明の別の態様では、ヒトから採取した血液サンプル中のクレアチニン含量または血液尿素窒素含量を、対照サンプルよりも多い尿中触媒鉄含量を有する、腎臓疾患に罹患したヒトへの鉄キレート化剤の投与前、投与中または投与後の一回以上の時点で測定する。
【0061】
進行性腎臓疾患の重篤度の低下のさらなる指標は、例えば、血液尿素窒素、血清クレアチニン増加、糸球体濾過速度低下、または終末期腎臓疾患発症の遅延の予測される割合の低下でありうる。糸球体濾過速度低下は、例えば、全尿蛋白の増加により評価しうる。
【0062】
鉄キレート化剤の投与前にヒトから採取した血液サンプルを「治療前血液サンプル」という。また、鉄キレート化剤の投与後または投与中にヒトから採取した血液サンプルを「第2血液サンプル」という。少なくとも1種の第2血液サンプル中の血液尿素窒素含量およびクレアチニン含量を、少なくとも1種の治療前血液サンプルまたは対照サンプル中の血液尿素窒素含量およびクレアチニン含量と比較する。同様に、血液尿素窒素含量およびクレアチニン含量を、鉄キレート化剤投与後の治療期間の異なる時間にヒトから採取した少なくとも1種の第2血液サンプルにおいて比較する。
【0063】
鉄キレート化剤の投薬量は、尿中の蛋白質含量、第2血液サンプル中の血液尿素窒素、クレアチニン含量、またはその任意の組み合せに応じて調整しうる。例えば、治療前サンプルまたは対照サンプルと比べた第2尿サンプルまたは第2血液サンプル中における尿蛋白、血液尿素窒素またはクレアチニン含量の低下(本明細書では減少ともいう)は、腎臓疾患が鉄キレート化剤により治療されており、鉄キレート化剤の投薬量を低減しうることを示す。
【0064】
本発明の別の態様では、ヒトにおける腎臓疾患を診断する。ヒトから採取した尿サンプルにおいて触媒鉄含量を測定し、対照サンプルにおける触媒鉄含量と比較する。この態様では、ヒトから採取した尿サンプル中の触媒鉄含量が対照サンプル中の触媒鉄含量を超えることは、腎臓疾患を示す。
【0065】
別の態様では、本発明は、尿サンプル中に約15nmol/mg参照蛋白質を超える触媒鉄含量を有するヒトにおける進行性腎臓疾患の重篤度を低下する方法に関する。進行性腎臓疾患(例えば、糖尿病性腎症、原発性糸球体腎炎、続発性糸球体腎炎)に罹患したヒトに鉄キレート化剤を投与する。鉄キレート化剤は、ヒトから採取した尿中の触媒鉄含量を低下させ、それにより進行性腎臓疾患の重篤度を低減する。
【0066】
「重篤度を低減する」(本明細書では重篤度の低下ともいう)という用語は、進行性腎臓疾患に関していう場合は、腎機能を損なう腎臓への進行性障害の任意の減衰、改善または低減をいう。腎機能を評価するためのよく知られた指標を用いて腎臓疾患の重篤度の低下を決定することができる。これらの指標には、鉄キレート化剤の投与前にヒトから採取したサンプルまたは対照サンプルと比べた、例えば、尿中の蛋白質含量の低下、血液尿素窒素の低下、血清または血漿クレアチニンの低下、糸球体濾過速度の低下、終末期腎臓疾患の発症の遅延またはそれらの任意の組み合せが含まれ得る。
【0067】
腎臓疾患の重篤度の低下は、例えば、腎臓の原発的病状(例えば、糸球体または細管の障害)、または腎臓が生物学的機能を発揮する能力(例えば、蛋白の保持)に有害な影響を与えた別の臓器(例えば、膵臓)の原発的病状の改善により生じうる。したがって、ヒトにおける腎臓疾患の重篤度の低下は、腎臓疾患の低減の直接または間接的な効果でありうる。
【0068】
本発明の別の態様は、ヒトから採取した1種以上の尿サンプルにおける触媒鉄を測定する工程を含む、ヒトにおける腎臓疾患の進行の決定方法である。ヒト由来の尿サンプルにおける触媒鉄含量の経時的な(例えば、数週間、数ヶ月または数年)増加は、腎臓疾患の進行を示す。尿中の触媒鉄含量は、参照蛋白質(例えば、クレアチニン)に対して測定しうる。
【0069】
「腎臓疾患の進行」は、腎臓の疾患の拡大または増加をいう。腎臓疾患の進行には、例えば、ヒトが腎臓疾患に最初に罹患した時または罹患していると診断された時には障害されていなかった腎臓の区(segment) (例えば、ネフロン、細管、間隙)に対する継続的または追加的な障害が含まれ得る。例えば、ヒトは、糸球体障害を有しえないか、または経時的に、糸球体のみへの障害の増大につながるか、または腎臓疾患が進行するにつれて細管障害をもたらす腎臓疾患に至る糸球体のみへの障害を有しうる。ヒトにおいて腎臓疾患が進行するにつれて、尿中の触媒鉄含量は、腎臓へのさらなる障害前のレベルを超えて増加するか、または進行性腎臓疾患に罹患していないヒトと比べて増加しうる。進行性腎臓疾患を有するヒトから採取した尿中の触媒鉄含量を決定し、種々の段階の進行性腎臓疾患を有する別の異なるヒトにおける尿中触媒鉄含量と比較して、腎臓疾患の進行を識別することができる。
【0070】
腎臓疾患の進行はまた、例えば、触媒鉄含量に加え、腎臓疾患に罹患したヒトの尿中の蛋白質含量を測定することによりモニターすることができる。腎臓疾患が進行するにつれて、尿中の蛋白質含量は増加しうる。さらにまた、ヒトにおける腎臓疾患の進行は、ヒトから採取した血液サンプル中の血液尿素窒素含量またはクレアチニン含量を経時的に測定することにより評価することができる。ヒトにおける経時的な血液尿素窒素含量またはクレアチニン含量の増加もまた、ヒトにおける腎臓疾患の進行を示す。同様に、例えば上述のようなクレアチニンクリアランスにより評価される糸球体濾過の低下もまた、腎臓疾患の進行の指標としての尿中触媒鉄含量と合わせて使用しうる。
【0071】
別の態様では、本発明は、ヒトから採取した初回尿サンプルおよび少なくとも1種の追加の尿サンプル中における触媒鉄含量を測定する工程を含む、ヒトにおける腎臓疾患の進行の決定方法に関する。腎臓疾患の進行を決定する際において、「初回尿サンプル」とは、腎臓疾患の進行を決定する前の任意の時点でヒトから採取した尿の最初のサンプルをいう。「追加の尿サンプル」とは、初回尿サンプル採取後の任意の時点でヒトから採取した尿サンプルをいう。
【0072】
追加の尿サンプル中の触媒鉄含量を少なくとも1種の追加の尿サンプル中の触媒鉄含量と比較する。初回尿サンプルと比べた追加の尿サンプル中の触媒鉄の上昇は、腎臓疾患の進行を示す。同様に、初回尿サンプルと比べた追加の尿サンプル中の触媒鉄の低下は、腎臓疾患が進行していないか、または重篤度が低下していることを示す。
【0073】
ヒトにおける腎臓疾患の進行の測定方法は、腎臓疾患に罹患したヒトから採取した初回尿サンプルおよび少なくとも1種の追加の尿サンプル中の蛋白質含量ならびに初回血液サンプルおよび少なくとも1種の追加の血液サンプル中のクレアチニン含量を測定する工程をさらに含みうる。「初回血液サンプル」とは、腎臓疾患の進行を決定する前の任意の時点においてヒトから採取した最初の血液サンプルをいう。「追加の血液サンプル」とは、初回血液サンプル採取後の任意の時点でヒトから採取した血液サンプルをいう。
【0074】
追加の尿サンプル中の蛋白質含量を初回尿サンプル中の蛋白質含量と比較し、追加の血液サンプル中のクレアチニン含量を初回血液サンプルと比較しうる。追加の尿サンプル中の蛋白質含量が初回尿サンプル中の蛋白質含量を超えること、および/または追加の血液サンプル中のクレアチニン含量が初回血液サンプル中のクレアチニン含量を超えることは、ヒトにおける腎臓疾患の進行を示しうる。また、追加の尿サンプル中の蛋白質含量が初回尿サンプル中の蛋白質含量未満に減少すること、および/または追加の血液サンプル中のクレアチニン含量が初回血液サンプル中のクレアチニン含量未満に減少することは、ヒトにおいて腎臓疾患が進行していないことを示す。同様に、追加の尿サンプル中の蛋白質含量が本質的に一定であることは、腎臓疾患が進行していないことを示しうる。
【0075】
さらにまた、ヒトにおける腎臓疾患の進行の決定方法は、追加の血液サンプル中の血液尿素窒素を初回血液サンプルと比較する工程をさらに含みうる。追加の血液サンプル中の血液尿素窒素含量が初回血液サンプル中の血液尿素窒素含量を超えて上昇することは、ヒトにおける腎臓疾患の進行を示す。同様に、追加の血液サンプル中の血液尿素窒素含量の減少または本質的に一定の血液尿素窒素含量が初回血液サンプル中の血液尿素窒素未満であることは、腎臓疾患が進行していないことを示す。
【0076】
本発明の別の態様では、腎臓疾患を患うヒトにおいて鉄キレート化剤での治療の有効性を評価する。ヒトから採取した少なくとも2種の尿サンプルにおける触媒鉄含量を比較する。「有効性の評価」とは、鉄キレート化剤により腎臓疾患、特に進行性腎臓疾患、とりわけ進行性糸球体性腎臓疾患に罹患したヒトの腎臓疾患が治療される(例えば、腎臓疾患が進行しない)程度の治療の成功の評価をいう。
【0077】
鉄キレート化剤での治療の有効性を評価するためにヒトから採取した尿サンプルには、治療前の時点でヒトから採取した治療前尿サンプル、および治療前尿サンプル採取後の少なくとも1回の第2時点でヒトから採取した少なくとも1種の第2尿サンプルが含まれる。「治療前の時点」とは、鉄キレート化剤投与前の任意の時点をいう。「第2時点」とは、鉄キレート化剤投与後の任意の時点をいう。
【0078】
第2尿サンプル中の触媒鉄含量が治療前尿サンプル中の触媒鉄含量未満の量に減少することは、腎臓疾患の治療の有効性を示す。鉄キレート化剤での治療の有効性の評価は、治療前尿サンプルおよび少なくとも1種の第2尿サンプル中の蛋白質含量を比較する工程をさらに含み得る。第2尿サンプル中の蛋白質含量が治療前尿サンプル中の蛋白質含量未満に減少することは、腎臓疾患を患うヒトにおける鉄キレート化剤での治療の有効性を示す。
【0079】
本発明のさらに別の態様では、鉄キレート化剤での治療の有効性の評価は、ヒトから採取した初回血液サンプルおよび第2血液サンプル中の血液尿素窒素含量およびクレアチニン含量を測定する工程をさらに含みうる。第2血液サンプル中の血液尿素窒素含量およびクレアチニン含量を、初回血液サンプル中の血液尿素窒素含量およびクレアチニン含量と比較する。第2血液サンプル中の血液尿素窒素含量またはクレアチニン含量が、初回血液サンプル中の血液尿素窒素含量またはクレアチニン含量未満に低下することは、腎臓疾患を患うヒトにおける鉄キレート化剤での治療の有効性を示す。
【0080】
したがって、鉄キレート化剤での治療の有効性は、治療前サンプルまたは対照サンプルと比べた尿中触媒性含量、尿蛋白質含量、血液サンプル中の血液尿素窒素含量およびクレアチニン含量の低下を評価することにより評価しうる。
【0081】
本発明の別の態様は、ヒトに鉄キレート化剤を投与する工程を含む、尿中に約15nmol/mg参照蛋白質を超える触媒鉄を有するヒトにおける腎臓疾患の進行を遅延させる方法に関する。鉄キレート化剤は、尿から得た尿中の触媒鉄含量を低下させ、それによりヒトにおける腎臓疾患の進行を遅延しうる。
【0082】
腎臓疾患の「進行を遅延させる」とは、腎臓疾患が進展または発生する割合もしくは速度または程度が低下することをいう。例えば、さらなる糸球体障害または糸球体障害とともに始まる腎臓細管に対するさらなる障害が、鉄キレート化剤を投与されていない腎臓疾患に罹患したヒトの腎臓に対する同様の障害発生より後の時点まで生じないように、腎臓疾患の進行を遅延させうる。したがって、腎臓疾患の進行の遅延はまた、鉄キレート化剤を投与されていないヒトにおいて、進行性腎臓疾患、特に進行性糸球体性腎臓疾患または最終的には終末期腎臓疾患をもたらすのに要する時間量(例えば、日数、月数、年数)の増加をいう。
【0083】
ヒトへの鉄キレート化剤投与後の触媒鉄含量が鉄キレート化剤の投与前に測定した触媒鉄含量未満に減少することは、腎臓疾患の進行が遅延されているか否かを評価する指標として使用しうる。さらにまた、あるいはまた、鉄キレート化剤を投与したヒトにおける腎臓疾患の進行の遅延を示す他のパラメータには、例えば、鉄キレート化剤の投与前の尿蛋白質含量、ヒトから採取した血液サンプル中の血液尿素窒素またはクレアチニン、あるいは対照サンプルとほぼ同じレベルと比べた、鉄キレート化剤の投与中または投与後の尿蛋白質含量、ヒトから採取した血液サンプル中の血液尿素窒素またはクレアチニンの減少が含まれ得る。
【0084】
さらにまた別の態様では、本発明は、鉄キレート化剤による進行性腎臓疾患の治療の恩恵を受ける、進行性腎臓疾患を患うヒトの同定方法に関する。「恩恵を受ける(ヒト)」という用語は、尿中に約15nmol/mg参照蛋白質を超える触媒鉄含量を有するヒト、またはヒトにおける腎臓疾患、特にヒトにおける進行性糸球体性腎臓疾患の進行を遅延させるため、該腎臓疾患の重篤度を低下させるため、または該疾患の進行を停止するために鉄キレート化剤で治療しうるヒトをいう。
【0085】
進行性腎臓疾患の治療の恩恵を受けるヒトを同定するため、ヒトから採取した尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する。尿サンプル中の触媒鉄含量が約15nmol/mg参照蛋白質を超えることは、鉄キレート化剤による進行性腎臓疾患の治療の恩恵を受けるか、または受けうる進行性腎臓疾患を患うヒトを同定する。
【0086】
さらに別の態様では、本発明は、ヒトにおける腎臓疾患の進行を停止する方法に関する。「停止する」とは、ヒトにおける腎臓疾患の進行に関していう場合、ヒトにおける腎臓疾患の進行を一時的または永続的に止めることをいう。腎臓疾患の進行は、例えば、進行性腎臓疾患を有するヒトにおいて障害された腎臓の任意の区(例えば、糸球体、細管、間隙)に対する任意のさらなる障害を予防または減衰することにより停止しうる。したがって、ヒトにおける腎臓疾患の進行の停止は、糸球体障害の減衰、または他の場合では進行性腎臓疾患を有するヒトにおいて障害されない腎臓の区に対する障害の予防(例えば、糸球体性腎障害を有するヒトにおける細管障害を予防する)でありうる。
【0087】
ヒトにおける腎臓疾患の進行を停止するため、ヒトから採取した治療前尿サンプル中の触媒鉄含量および蛋白質含量を測定する。治療前尿サンプル中に約15nmol/mg参照蛋白質を超える量の触媒鉄含量を有するヒトに鉄キレート化剤を投与する。鉄キレート化剤は、約20mg/kgヒト体重〜約150mg/kgヒト体重の投薬量で投与しうる。好ましい態様では、鉄キレート化剤はデフェリプロン(deferiprone )である。
【0088】
ヒトにおける触媒鉄含量および蛋白質含量を、鉄キレート化剤の投与中または投与後にヒトから採取した少なくとも1種の第2尿サンプルにおいて測定する。このヒトの第2尿サンプル中の触媒鉄含量および蛋白質含量を、尿サンプル(例えば、治療前尿サンプル、初回尿サンプル)中の触媒鉄含量および蛋白質含量と比較する。一態様において、ヒトに投与する鉄キレート化剤の投薬量は、そのヒトの第2尿サンプル中の触媒鉄含量が対照(例えば、15nmol/mg参照蛋白質)未満となるまで調整(例えば、ヒトに最初に投与した投薬量に対して増加または減少)する。第2尿サンプル中の蛋白質含量が対照サンプル中の蛋白質含量の約25パーセント(25%)低い場合、尿中蛋白のさらなる低下が生じなくなるまで、または尿中蛋白が本質的に一定となるまで(例えば、3〜4ヶ月間)ヒトを鉄キレート化剤投与下に維持する。次いで、鉄キレート化剤の投薬量を約10mg/kg体重だけ低下させる。
【0089】
鉄キレート化剤の投薬量を10mg/kg体重低減した後、尿中触媒鉄含量を少なくとも1種の第2尿サンプルにおいて測定する。鉄キレート化剤の投薬量は、触媒鉄が本質的に一定か、または対照レベルであれば、10mg/kg体重だけさらに低減しうる。尿中触媒鉄含量、尿中蛋白、血液サンプル中の血液尿素窒素およびクレアチニンは、鉄キレート化剤の投薬量を低下する度に以後モニターする。尿中触媒鉄、全尿中蛋白、血液サンプル中の血液尿素窒素またはクレアチニンが増加した場合、鉄キレート化剤の投薬量を10mg/kgヒト体重だけ増加しうる。好ましい態様では、ほぼ3ヶ月毎に鉄キレート化剤の投薬量を約10mg/kg体重だけ低減する。尿中触媒鉄、全尿中蛋白、血液尿素窒素または血清クレアチニンが本質的に一定量に至る、最後の投薬量より約10mg/kg体重多い鉄キレート化剤投与下にヒトを維持しうる(本明細書では、鉄キレート化剤の「維持投与」ともいう)。
【0090】
ヒトを鉄キレート化剤の維持投与下においている間に尿中触媒鉄含量、尿中蛋白質含量、血液尿素窒素または血中クレアチニンを測定することができ、例えば、対照サンプルとほぼ同じ尿中蛋白質含量を達成するために鉄キレート化剤の投薬量を調整することができる。同様に、鉄キレート化剤の維持投与下のヒトから採取した第2尿サンプル中の触媒鉄含量が約15nmol/mg参照蛋白質を超える場合、鉄キレート化剤の投薬量を(例えば、20〜150mg/kg体重に)増加しうる。
【0091】
鉄キレート化剤の投薬量は、ヒトから採取した尿サンプル中の触媒鉄含量が、鉄キレート化剤の投薬量を維持投薬量より大きく調整した後も上昇し続ける場合、さらに増加しうる。同様に、維持投薬量に比較して鉄キレート化剤の投薬量を増加した後に、ヒトから採取した尿サンプル中の触媒鉄含量が減少する場合は、鉄キレート化剤の投薬量を減少しうる。鉄キレート化剤の投薬量のさらなる調整の必要性は、尿中触媒鉄含量、尿中蛋白質含量、血液サンプル中の血液尿素窒素、クレアチニン、またはその任意の組み合せをモニターすることにより決定しうる。
【0092】
さらに、本発明は、微量アルブミン尿症(microalbuminuria)を呈するヒトを診断および治療するための鉄キレート化剤の使用に関する。好ましい態様では、鉄キレート化剤はデフェリプロンである。
【0093】
「微量アルブミン尿症」という用語は、尿中のアルブミンが約20〜200μg/分または約30〜300mg/24時間の割合で排泄される、任意の疾患、障害、病気または健康状態をいう(例えば、Abbott, K.C.ら、Arch. Internal Med. 154:146-153 (1994)を参照のこと、その教示は参照によりそのまま本明細書に取り込まれる)。微量アルブミン尿症を検出および診断する方法は、当業者に周知であり、ラジオイムノアッセイ、ラテックス体(latex body)を使用するイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、凝集阻害、免疫比濁分析(immunoturbidimetry)、免疫比濁分析(immunonephelometry)および放射免疫拡散アッセイが含まれる。(Keen, H.ら、Lancet 2:913-916 (1968); Silver, A. ら、Clin. Chem 32:1303-1306(1986); Close, C.ら、Diabet. Med. 4:491-492 (1987); Harmoinen, A.ら、Clin. Chim. Acta 166:85-89 (1987); Marre, M.ら、Clin. Chem. 33:209-213 (1987); McCormik, C.P. ら、Ann. Clin. Lab Sci. 19:944-951 (1989); Cambiaso, C.L. ら、Clin. Chem. 34:416-418 (1988); Niwa, T. ら、Clin. Chim. Acta 186:391-396 (1990) 、これらすべての教示は、そのまま本明細書に取り込まれる。)鉄キレート化剤での治療前および治療後の尿中のアルブミンレベルまたは総蛋白レベルを決定することができ、微量アルブミン尿症を軽減するのに必要とされる投与回数または投薬量を、治療を受けている各個人の必要に応じて調整することができる。微量アルブミン尿症は、糖尿個体の糖尿病性腎症に関連しているため(Mattock, M.B. ら、Diabetes 41:736-741(1992);Neil, A. ら、Diabetes Care 16:996-1003 (1993); Abbott, K.C.ら、Arch. Intern. Med. 154:146-153(1994)、これらすべての教示は、そのまま本明細書に取り込まれる)、本発明の方法は、微量アルブミン尿症の進行の停止に使用でき、したがって、糖尿病性腎症の発症を予防できることが期待される。
【0094】
微量アルブミン尿症を軽減するのに有効な量は、尿中アルブミンレベルを回復するか、または尿中アルブミンレベルのさらなる増加を抑制する鉄キレート化剤の量でありうる。好ましい態様では、尿中アルブミンレベルは、対照個体とほぼ同じレベルまで回復される。「回復する」という用語は、尿中アルブミンレベルを、個体が微量アルブミン尿症を発現する前に観察されるレベル、または対照個体において観察されるレベル程度まで戻すことをいう。微量アルブミン尿症に罹患したヒトに鉄キレート化剤の投与は、微量アルブミン尿症の進行を停止するために使用することができる。一態様では、微量アルブミン尿症の進行は、ヒトへの鉄キレート化剤(例えば、約20mg/kg体重〜約150mg/kg体重)の投与により停止される。
【0095】
別の態様では、本発明は、ヒトから採取した治療前尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程、および治療前尿サンプル中に対照サンプル中の触媒鉄含量を超える触媒鉄含量を有するヒトに対して投薬量の鉄キレート化剤を投与する工程を含む、ヒトにおける微量アルブミン尿症の進行を停止する方法に関する。ヒトから採取した少なくとも1種の第2尿サンプル中の触媒鉄含量を、鉄キレート化剤の投与中または投与後に測定し、治療前尿サンプル、対照サンプルまたはその両方における触媒鉄含量と比較する。ヒトに投与する鉄キレート化剤の投薬量は、そのヒトの尿中の触媒鉄含量が対照サンプルの触媒鉄含量とほぼ同じになるまで調整する。
【0096】
「対照」レベルとは、微量アルブミン尿症を発現しているヒトの治療に関していう場合、対照レベルが腎臓疾患に罹患したヒトで記載したように総蛋白レベルでなく、尿中アルブミンレベルをいう以外は、腎臓疾患に罹患したヒトに関して上述したように定義される。
【0097】
微量アルブミン尿症は進行しえ、最終的に糖尿病性腎症、進行性腎臓疾患につながる(Mattock, M.B. ら、Diabetes 41:736-741 (1992); Neil, A.ら、Diabetes Care 16:996-1003 (1993); Abbott, K.C.ら、Arch. Intern. Med. 154:146-153 (1994) 、これらすべての教示は、そのまま本明細書に取り込まれる)。したがって、本発明の別の局面は、ヒトから採取した治療前尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程、および治療前尿サンプル中に約15nmol/mg参照蛋白質を超える量の触媒鉄含量を有するヒトに対し、デフェリプロンを約20mg/kgヒト体重〜約150mg/kgヒト体重の投薬量で投与する工程を含む、ヒトにおける微量アルブミン尿症の進行を停止する方法に関する。デフェリプロンの投与中または投与後にヒトから採取した少なくとも1種の第2尿サンプルにおいて触媒鉄含量を測定する。該ヒトの第2尿サンプル中の触媒鉄含量を、治療前尿サンプル中の触媒鉄含量と比較し、ヒトに投与するデフェリプロンの投薬量を、該ヒトの第2尿サンプル中の触媒鉄含量が約15nmol/mg参照蛋白質未満になるまで調整する。
【0098】
本発明の方法は、腸溶的または非経口的手段による鉄キレート化剤の投与により行いうる。具体的には、投与経路は、経口摂取(例えば、錠剤、カプセル形態)である。また、本発明により包含される他の投与経路には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下経路および経鼻投与が含まれる。座剤または経皮的貼布剤(transdermal patch )もまた使用しうる。
【0099】
鉄キレート化剤は、ヒトに投与する際、単独で、または任意の組み合せで使用しうる。例えば、腎臓疾患(例えば、糖尿病性腎症、原発性糸球体腎炎、続発性糸球体腎炎、微量アルブミン尿症)を治療するために、デフェリプロンをデフェロキシアミン(deferoxiamine )などの別の鉄キレート化剤と共投薬することができる。また、例えば腎臓疾患を治療するため、腎臓疾患の進行を停止するため、腎臓疾患の重篤度を低減するために、1種以上の鉄キレート化剤を別の治療薬(例えば、ステロイド)と共投薬することも想定される。共投薬とは、2種以上の鉄キレート化剤の同時投与または逐次投与を含むことが意図される。また、1種以上の鉄キレート化剤を投与するために複数の投与経路(例えば、筋肉内、経口、経皮)を使用しうることも想定される。
【0100】
鉄キレート化剤は、単独で、または従来の賦形剤、例えば、鉄キレート化剤と有害な反応を起こさない、腸溶的投与または非経口投与に適した薬学的または生理学的に許容されうる有機系または無機系担体物質との混合物として投与し得る。好適な薬学的に許容されうる担体としては、水、塩溶液(リンゲル液など)、アルコール、油、ゼラチンおよびラクトース、アミロースまたはデンプンなどの炭水化物、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセスロース(hydroxymethycellulose )、ならびにポリビニルピロリジンが挙げられる。かかる調製物は、滅菌することができ、所望により、鉄キレート化剤と有害な反応を起こさない潤滑剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩類、バッファー、着色剤および/または香料などの助剤(auxillary agent)と混合し得る。
【0101】
非経口投与が必要または所望される場合、鉄キレート化剤に特に好適な混合物は、注射用滅菌溶液、好ましくは油性もしくは水性溶液ならびに懸濁液、エマルジョンまたは座剤を含む埋没物である。特に、非経口投与のための担体としては、デキストロースの水溶液、生理食塩水、精製水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、ピーナツ油、ゴマ油、ポリオキシエチレンブロックポリマーなどが挙げられる。アンプルは簡便な単位用量である。鉄キレート化剤はまた、経皮的ポンプ(transdermal pump)または貼布剤により投与しうる。本発明における使用に好適な医薬混合物は当業者に周知であり、例えば、Pharmaceutical Sciences (17 版、Mack Pub. Co., Easton, PA)および国際特許出願第 WO 96/05309号(両者の教示は参照により本明細書に取り込まれる)に記載されている。
【0102】
ヒトに投与する鉄キレート化剤の用量および回数(単回投与または反復投与)は、そのヒトの体格、年齢、性別、健康状態、体重、ボディマス指数および食事;治療している腎臓疾患(例えば、糖尿病性腎症、微量アルブミン尿症)の性質および症状の程度、併用療法(例えば、ステロイド)の種類、腎臓疾患、微量アルブミン尿症による合併症または他の健康上の問題点を含む種々の要因により変わりうる。好ましい態様では、腎臓疾患を有するヒトを、1日あたり約30mg/kg体重〜約75mg/kg体重の投薬量の鉄キレート化剤(例えば、デフェリプロン500mgのカプセル)を1日3回で、約2〜6ヵ月間治療する。他の治療法または治療剤を、本発明の鉄キレート化剤治療法と組み合せて使用しうる。例えば、鉄キレート化剤の投与は、ステロイド投与により行いうる。確立された投薬の調整および操作(例えば、頻度および継続時間)は、当業者の能力内で十分である。
【0103】
本発明は以下の実施例によりさらに説明されるが、それはいかなる限定をも意図しない。
【実施例】
【0104】
実施例
実施例1:腎臓疾患を伴う患者における尿の触媒鉄
腎臓疾患を伴う患者の選別
ヒト患者(n=70)をこれらの研究に使用した。対照は、腎臓疾患、高血圧、糖尿病または腎臓に影響する他の疾患の病歴のない健康なヒト患者であった。男性と女性を研究に使用した。ヒト患者の年齢は、4歳〜70歳の範囲であった。患者の民族性は、白色人種、アフリカ系アメリカ人およびスペイン系人を含んだ。
【0105】
尿中の異常な量の蛋白質および/または異常な腎臓機能の存在により、患者における腎臓疾患を検出した。尿中の蛋白質の異常な量は、Fujita, Y.ら、Bunseki Kgaku 32:379-386(1983)(その教示は全体に参照により本明細書に組み込まれる)に記載されたピロガロールレッドモリデート(red-molydate)法の適応による測定で、約0.15g/24hより多い全蛋白質の量である。多くの患者が、通常の精密検査の一部として、腎臓疾患の性質の診断を与える腎臓生検を受けた。
【0106】
ヒトにおける腎糸球体濾過速度を、血清クレアチニン(正常値は、女性に対して0.96mg/dl、および男性に対して1.16mg/dl、値が1.4mg/dlを超えると異常とみなされる)、クレアチニンクリアランスまたはその両方を測定することにより評価する。クレアチニンクリアランスを、標準式Cr=Ucr V/PCr、式中、Cr=クレアチニンのクリアランス(ml/min);Ucr=尿のクレアチニン(mg/dl)、V=尿の容量、およびPCr=血漿クレアチニン(mg/dl)により計算した。
【0107】
腎臓疾患を伴う患者は、以下の患者群を含む:
【0108】
糸球体腎炎。この診断は、異常に多量の尿蛋白質(約150mg/24時間より多い)を有する患者に基づき、ネフローゼ症候群を伴う患者(約3.5gm蛋白質より多い)を含む。糸球体腎炎の診断は、腎臓の組織学的な検査で行なわれ、それは、通常の方法を用いる光学顕微鏡法、免疫蛍光法、電子顕微鏡法を含んだ。診断は、膜性腎症、巣状分節状硬化症、IgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、および半月形糸球体腎炎等の一次原因、ならびに全身性エリテマトーデス(erythematosis )、溶血性尿毒症症候群またはヘーノホ−シェーンライン紫斑病等の二次原因の両方を含んだ。
【0109】
微量アルブミン尿症を有し糖尿病を伴なう微量アルブミン尿症患者は、抗原−抗体反応の間に形成された複合体の結果として溶液に懸濁した粒子由来の散乱光での速度の増加を使用する方法により測定したときまたは軽量棒法により測定したとき、24時間に約30mg〜約300mgの間の範囲の尿アルブミンを有した。
【0110】
糖尿病腎症。24時間試料で明白な蛋白尿(約150mg/24時間より多い)がある糖尿病腎症を有した糖尿病を伴う患者。糖尿病腎症の診断は、明白な蛋白尿の存在、糖尿病の病歴、および臨床検査における網膜症の存在に基づいた。
【0111】
虚血症腎症は、臨床および放射線学の知見に基づいた。
腎臓疾患を伴うおよび伴わない(対照)ヒトから尿試料を得て、以下に記載した確立された方法を用いて触媒鉄含量およびクレアチニン含量に対して評価した。
【0112】
腎臓疾患を伴うおよび伴わないヒトにおける尿の触媒鉄およびクレアチニン
十分確立されたブレオマイシンアッセイ(Gutteridge J.M.C.ら、Biochem J 199:263−265(1981)、その教示は全体として本明細書に組み込まれる)を用いて、尿中の触媒鉄含量を測定した。
【0113】
インビボで、鉄は主にヘムまたは非ヘム蛋白質に結合し、ヒドロキシラジカルまたは類似の酸化体の生成を直接触媒しない(Gutteridge J.M.C.ら、Biochem J 199:263−265(1981)、その教示は全体として本明細書に組み込まれる)。これらの研究に使用される触媒鉄アッセイにおいて、抗生物質のブレオマイシンはフリーラジカル反応を触媒可能な鉄の複合体を検出する。ブレオマイシンは、鉄の塩および適切な還元剤の存在下で、チオバルビツール酸と反応してクロモゲンを形成する産物の形成とともにDNAに結合し、分解する。ブレオマイシン−鉄複合体のDNAへの結合は反応部位を特異的にし、抗酸化体はほとんど干渉しない。したがって、この方法により検出される鉄は、試料から入手できる鉄のブレオマイシンに対する測定であった。本アッセイ条件は、蛋白質を含む鉄による干渉を妨げる。トランスフェリン、ラクトフェリン、フェリチン、または鉄含有酵素に結合する鉄は、ブレオマイシンアッセイで検出されない(Gutteridge J.M.C.ら、Biochem J 199:263−265(1981)、その教示は全体として本明細書に組み込まれる)。
【0114】
詳細には、アッセイを以下のように行った:
【0115】
試薬調製
1. Chelex−処理された発熱物質遊離H2 O(Chelex H2 O)
5gのchelex100樹脂(Bio−Rad、カタログ番号:142−2842:200〜400メッシュ:ナトリウム形)を100mlの発熱物質遊離水(Baxter)に添加し、十分に攪拌する。4℃で一晩放置して、ボトルフィルターシステム(0.22μmフィルター)を用いてChelexを濾過して除く。アッセイに使用される全溶液のChelex処理の後、Chelexを注意深く除去し、樹脂による汚染を避ける。
【0116】
2. DNA(1mg/ml)
50mgのDNA(タイプI:コウシ胸腺、Sigma D−1501)を50mlのChelex H2 Oに添加し、4℃で一晩放置し、溶液を得る。この溶液を15mgのChelex 100樹脂で4℃で一晩処理し、30分間3000rpmで遠心分離してChelexを除去する。溶液中にまだいくらかのChelex粒子がある場合は、それを再び約15分間3000rpmで遠心分離する。再構成DNAは、4℃で保存した場合、混合後約7日間アッセイでの使用に適切である。
【0117】
3. 硫酸ブレオマイシン(1U/ml)
15mlのChelex H2 O中に15Uの硫酸ブレオマイシン(Bleoxane,Nippon Kayaku Co.Ltd,Tokyo,Japan)。再構成ブレオマイシンは、調製後約1ヶ月間アッセイでの使用に適切である。
【0118】
4. 塩化マグネシウム(50mM)
10mlのChelex H2 O中に0.1gのMgCl2 ・6H2 O(FW.203.3)を添加する。溶液を3gのChelex 100樹脂と処理し、10分間3000rpmで遠心分離してChelexを除去する。
【0119】
5. 塩酸(40mM)
10mlのChelex H2 O中に33.2μlのHCl(Ultrapure,Baker6900−05)。
【0120】
6. NaOH(40mM)
10mlのChelex H2 O中に16mgのNaOH。
【0121】
7. アスコルビン酸(8mM)
1mlのChelex H2O中に70mgのアスコルビン酸(FW.176.1)。50mgのChelex100樹脂で溶液を処理し、30分間3000rpmで遠心分離してChelexを除去する。使用前にChelex H2Oで1:50に希釈する。アッセイに使用する直前に調製する。
【0122】
8. EDTA(0.1M)
10mlのChelex H2 O中に0.37gのEDTA。
【0123】
9. チオバルビツール酸(TBA)(50mM NaOH中に1% w/v)
100mlの50mM NaOH(Chelex H2 Oで調製されたNaOH)中に1gのTBA。
【0124】
10. HCl(25% v/v)
100mlのChelex H2 O中に25ml HCl(Ultrapure,Bakerカタログ番号6900−05)。
【0125】
11. 標準鉄
10mlのChelex H2 O中に16mgのFeCl3 (FW.162.2)。保存溶液(100nmol/ml)に対して1:100に希釈し、次いで1:1に希釈して50.25、12.5、6.25および3.125nmol/mlの標準濃度ならびにChelex H2 Oを作製した。アッセイに使用する直前に標準物を調製した。
【0126】
手順
1. 粒子を除去するために、尿試料を約10分間約3000rpmで遠心分離して、得られた上清みをブレオマイシンアッセイで使用した。
【0127】
2. 以下のものをプラスチックチューブに以下の順番で入れる:
0.5ml DNA
0.05ml硫酸ブレオマイシン(ブランクにはChelex H2 Oを添加)
0.1ml MgCl2
0.1ml標準Fe溶液または尿試料
0.1mlアスコルビン酸
【0128】
3. アスコルビン酸の添加の前後に十分混合する。各試料または標準物について比較ブランクを調製する。試料と標準のブランクは、ブレオマイシンが除かれている以外は同一の試験反応混合物である。
【0129】
4. 全ての標準物、試料およびそれらのブランクのpHを40mM HClまたは40mM NaOHを用いて約pH7.2〜7.8に調整する。
【0130】
5. 全てのチューブを100rpmの温度調節攪拌器で、約2時間約37℃でインキュベートする。
【0131】
6. 0.1ml EDTAの添加により反応を停止する。
【0132】
7. 1ml TBAおよび1ml 25%HClを添加して、十分に混合する。
【0133】
8. 新しいまたは酸で洗浄したガラスチューブに混合物を移し、約15分間約100℃で加熱する。
【0134】
9. 冷却後溶液を4.5mlのキュベットに移し、対応するブランク(ブレオマイシンなし)に対して532nmの吸光度を読む。
【0135】
10. 各実験で得られた標準曲線から、試験試料中のブレオマイシン−検出可能な鉄含有量の量を計算する。試薬における鉄汚染を反映するゼロ標準(Chelex H2 Oのみを含む)の吸光度を、全ての試験試料から差し引く。
【0136】
11. 尿のブレオマイシン−検出可能な鉄をnmol/mgクレアチニンとして表わす。尿試料におけるクレアチニンを、クレアチニンアッセイキット(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO555−A)を用いて測定する。
【0137】
統計解析
ナノモル触媒鉄/mgクレアチニンの平均±SEMとしてデータを表わした。非対t検定を用いて群平均間の有意な差異を決定した。対のt検定を用いて患者のデータを対照と比較し、0.05未満のp値を有意とみなした。
【0138】
結果および結論
図1、表1および表2に示されるように、尿の触媒鉄は、腎臓疾患のない患者に比較して、広範囲で様々な腎臓疾患を伴う患者において高められる。したがって、尿の触媒鉄は、腎臓疾患において役割を果たし、ヒトにおける腎臓疾患を示す。
【0139】
実施例2:鉄キレート化剤を用いる腎臓疾患を伴う患者の治療
腎臓疾患を伴う患者の選択
腎臓生検を実施することにより腎臓疾患の診断を行なった。前記診断は、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症、巣状分節状糸球体硬化症、IgA腎症、および糖尿病を伴う患者を包含した。
【0140】
腎臓疾患を伴う患者の鉄キレート化剤治療
異常に高い尿蛋白質を有する腎臓疾患を伴う患者を、鉄キレート化剤デフェリプロン(1,2−ジメチル−3−ヒドロキシピリド−4−オン)(L1)で治療した。
【0141】
デフェリプロンを以前記載したカプセルとして合成し(Kontoghiorghes A.J. ら、Inorganica Chimica Acta 136 :L11 −L12 (1987)、その教示は参照により全体として本明細書に組み込まれる)、カプセル当たり500mgのデフェリプロンを含有するカプセルに調剤した。
【0142】
デフェリプロンの投与前に前記のように尿の蛋白質および血清クレアチニンを測定した。1日3回、1日当たり体重1キログラム当たり約30mg〜約75mgの範囲のデフェリプロンの経口摂取により患者を治療した。尿の蛋白質および血清クレアチニンを、鉄キレート化剤の投与から2〜6ヶ月後に得た。表3に示されるように、鉄キレート化剤での治療は、腎臓疾患を伴う患者における全ての尿蛋白質および血清クレアチニンの量を有意に低減した。デフェリプロンの投与の前(例えば、治療前)および後に測定した全ての尿の蛋白質および血清クレアチニンを対のt検定を用いて比較し、0.05未満のp値を有意とみなした。
【0143】
これらのデータは、鉄キレート化剤が腎臓疾患を治療したことを示す。したがって、触媒鉄の効果は有意に低減されうるか、または腎臓に直接または間接に作用して腎臓を損傷し、それにより治療されないまま(鉄キレート化剤なし)であると全ての尿蛋白質含量および血清クレアチニンの増加を生じる腎臓疾患を引き起こすのを妨ぎうると考えられる。
【0144】
【表1】

【0145】
【表2】

【0146】
【表3】

【0147】
均等物
本発明をその好ましい態様に関して特に示し、記述したが、添付した特許請求の範囲に規定されたような本発明の意図および範囲から逸脱することなく、本明細書で形態および詳細について種々の変更を行なうことができることが、当業者により理解されるであろう。
【0148】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1]ヒト由来の尿サンプル中の触媒鉄を測定する工程を含む、ヒトにおける腎臓疾患を診断するための方法。
[2]触媒鉄を尿サンプル中の参照蛋白質に関して測定する、[1]記載の方法。
[3]参照蛋白質が尿クレアチニンである、[2]記載の方法。
[4]尿サンプルを糖尿病性腎症、原発性糸球体腎炎および続発性糸球体腎炎からなる群より選ばれる進行性腎臓疾患を有するヒトから採取する、[1]記載の方法。
[5](a)ヒトから採取した尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程、および
(b)尿サンプル中の触媒鉄含量を対照サンプル中の触媒鉄含量と比較する工程を含み、
対照サンプル中の触媒鉄含量より多い尿サンプル中の触媒鉄含量が腎臓疾患であることを示す、ヒトにおける腎臓疾患の診断方法。
[6]鉄キレート化剤をヒトに投与する工程を含む、約15nmol/mg参照蛋白質より多い尿中触媒鉄含量を有するヒトにおける腎臓疾患の治療方法。
[7]鉄キレート化剤が糖尿病性腎症、原発性糸球体腎炎および続発性糸球体腎炎からなる群より選ばれる進行性腎臓疾患を有するヒトに投与される、[6]記載の方法。
[8]鉄キレート化剤がデフェリプロン(deferiprone)、デフェロキサミン、多価陰イオン性アミン類および置換ポリアザ(polyaza)化合物からなる群より選ばれる、[6]記載の方法。
[9]鉄キレート化剤が一日あたり約20mg/kgヒト体重から約150mg/kgヒト体重の間の範囲の投薬量で投与される、[6]記載の方法。
[10]鉄キレート化剤が反復投与される、[6]記載の方法。
[11]鉄キレート化剤が経口投与される、[6]記載の方法。
[12]参照蛋白質が尿クレアチニンである、[6]記載の方法。
[13]ヒトから採取した尿サンプル中の蛋白質含量を測定する工程をさらに含む、[6]記載の方法。
[14]ヒトから採取した尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程をさらに含む、[6]記載の方法。
[15]ヒトから採取した血液サンプル中のクレアチニンを測定する工程をさらに含む、[6]記載の方法。
[16]ヒトから採取した血液サンプル中の血液尿素窒素を測定する工程をさらに含む、[6]記載の方法。
[17]a)対照サンプルの触媒鉄含量を超える尿中の触媒鉄含量を有するヒトに投薬量の鉄キレート化剤を投与する工程、
b)ヒトから初回尿サンプルを採取する工程、
c)初回尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程、および
d)初回尿サンプル中の触媒鉄含量を対照サンプル中の触媒鉄含量と比較する工程を含む、ヒトにおける腎臓疾患の治療方法。
[18]第2投薬量の鉄キレート化剤を投与する工程をさらに含み、前記第2投薬量の量が尿サンプル中の測定された触媒鉄含量と対照サンプル中の触媒鉄含量との比較により決定される、[17]記載の方法。
[19]a)少なくとも一つの第2尿サンプルをヒトから採取する工程、
b)第2尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程、および
c)第2尿サンプル中の触媒鉄含量を初回尿サンプル、対照サンプルまたはその両方における触媒鉄含量と比較する工程をさらに有する、[18]記載の方法。
[20]第2投薬量の鉄キレート化剤を、第2尿サンプル中の尿の触媒鉄含量が本質的に一定となるまで投与する、[19]記載の方法。
[21]第2投薬量の鉄キレート化剤を、第2尿サンプル中の本質的に一定の尿中触媒鉄含量が対照サンプルのものとほぼ同じとなるまで投与される、[20]記載の方法。
[22]少なくとも2つの第2投薬量で投与される鉄キレート化剤の投薬量が約10mg/kgヒト体重異なる、[20]記載の方法。
[23]ヒトから採取した血液サンプル中のクレアチニンを測定する工程をさらに有する、[17]記載の方法。
[24]ヒトから採取した血液サンプル中の血液尿素窒素を測定する工程をさらに有する、[17]記載の方法。
[25]鉄キレート化剤がデフェリプロン、デフェロキサミン、多価陰イオン性アミン類および置換ポリアザ化合物からなる群より選ばれる、[17]記載の方法。
[26]鉄キレート化剤が一日あたり約20mg/kgヒト体重から約150mg/kgヒト体重の間の範囲の投薬量で投与される、[17]記載の方法。
[27]尿サンプルが糖尿病性腎症、原発性糸球体腎炎および続発性糸球体腎炎からなる群より選ばれる進行性腎臓疾患を有するヒトから採取される、[17]記載の方法。
[28]尿サンプルが進行性糸球体腎臓疾患を有するヒトから採取される、[17]記載の方法。
[29]触媒鉄含量が参照蛋白質に関して測定される、[17]記載の方法。
[30]参照蛋白質が尿クレアチニンである、[29]記載の方法。
[31]鉄キレート化剤の投与がヒトにおける腎臓疾患の進行を本質的に停止させる、[17]記載の方法。
[32]鉄キレート化剤の投与がヒトにおける進行性腎臓疾患の重篤度を低減する、[17]記載の方法。
[33]a)ヒトから採取された初回尿サンプルおよび少なくとも一つの追加の尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程、ならびに
b)ヒトから採取された追加の尿サンプル中の触媒鉄含量を初回尿サンプル中の触媒鉄含量と比較する工程を含み、
初回尿サンプル中の触媒鉄含量より多い追加の尿サンプル中の触媒鉄含量の上昇がヒトにおける腎臓疾患の進行を示す、ヒトにおける腎臓疾患の進行の測定方法。
[34]ヒトから採取された初回尿サンプルの触媒鉄含量を第2尿サンプルの触媒鉄含量と比較する工程を含み、前記第2尿サンプルが初回尿サンプルを得た後であってかつ鉄キレート化剤の投与後に採取されたものであり、それにより前記の比較が腎臓疾患の進行を軽減するための鉄キレート化剤の投与の有効性を示す、進行性腎臓疾患に罹患しているヒトを治療するために鉄キレート化剤を投与する有効性の評価方法。
[35]ヒト由来の尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程を含み、約15nmol/mg参照蛋白質を超える尿サンプル中の触媒鉄含量が、鉄キレート化剤を用いる進行性腎臓疾患の治療の恩恵を受ける、進行性腎臓疾患に罹患しているヒトを同定する、鉄キレート化剤による進行性腎臓疾患の治療の恩恵を受ける、進行性腎臓疾患に罹患しているヒトを同定する方法。
[36]a)対照サンプルを超える尿中触媒鉄含量を有する微量アルブミン尿症(microalbuminuria) に罹患しているヒトに投薬量の鉄キレート化剤を投与する工程、
b)ヒトから初回尿サンプルを採取する工程、
c)初回尿サンプル中の触媒鉄含量を測定する工程、および
d)初回尿サンプル中の触媒鉄含量を対照サンプル中の触媒鉄含量と比較する工程を含む、ヒトにおける微量アルブミン尿症の治療方法。
[37]第2投薬量の鉄キレート化剤を投与する工程をさらに有し、前記第2投薬量の量が尿サンプル中の測定された触媒鉄含量と対照サンプル中の触媒鉄含量との比較により決定される、[36]記載の方法。
[38]鉄キレート化剤の投与がヒトにおける微量アルブミン尿症の進行を本質的に停止する、[36]記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおける進行性腎臓疾患を治療するための、鉄キレート化剤を含有してなる医薬。
【請求項2】
鉄キレート化剤が、デフェリプロン、デフェロキサミン、ポリアニオン性アミンおよび置換ポリアザ化合物からなる群より選択される、請求項1記載の医薬。
【請求項3】
該医薬による鉄キレート化剤の投与により、該ヒトの尿中触媒鉄含量が本質的に一定になるものである、請求項1記載の医薬。
【請求項4】
該医薬による鉄キレート化剤の投与量が、1日あたり20mg/kgヒト体重〜150mg/kgヒト体重の範囲である、請求項1記載の医薬。
【請求項5】
該ヒトが、原発性糸球体腎炎および続発性糸球体腎炎からなる群より選択される少なくとも1つの進行性腎臓疾患に罹患している、請求項1記載の医薬。
【請求項6】
該医薬の投与により、腎臓疾患の進行が停止するものである、請求項1記載の医薬。
【請求項7】
該医薬の投与により、進行性腎臓疾患の重篤度が低減されるものである、請求項1記載の医薬。
【請求項8】
該医薬が、反復投与されるものである、請求項1記載の医薬。
【請求項9】
該医薬が、経口投与されるものである、請求項1記載の医薬。
【請求項10】
該医薬の投与により、腎機能の損失速度が低減されるものである、請求項1記載の医薬。
【請求項11】
該医薬の投与により、蛋白尿の進行速度が低減するものである、請求項10記載の医薬。
【請求項12】
該医薬の投与により、尿クレアチニンの上昇速度が低減されるものである、請求項11記載の医薬。
【請求項13】
該医薬の投与により、糸球体濾過速度の低下が低減されるものである、請求項10記載の医薬。
【請求項14】
該医薬の投与により、尿中蛋白質、血液尿素窒素、および血清または血漿クレアチニンからなる群の少なくとも1つが低下する、請求項10記載の医薬。
【請求項15】
原発性糸球体腎炎が、膜性腎症、巣状分節状硬化症、IgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、および半月体形成性糸球体腎炎からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5記載の医薬。
【請求項16】
続発性糸球体腎炎が、糖尿病性腎症、全身性エリテマトーデス、溶血性尿毒症症候群およびヘーノホ−シェーンライン紫斑病からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5記載の医薬。
【請求項17】
進行性腎臓疾患が虚血性腎症である請求項1記載の医薬。
【請求項18】
進行性腎臓疾患が、腎臓の間隙への損傷の結果として生じる、請求項1記載の医薬。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−248242(P2010−248242A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167370(P2010−167370)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【分割の表示】特願2000−614035(P2000−614035)の分割
【原出願日】平成12年4月21日(2000.4.21)
【出願人】(501411905)シヴァ バイオメディカル,エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】