説明

ヒドロキシメチルケトン誘導体

【課題】ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)の活性を選択的に阻害する新規化合物及び該化合物を含有する医薬を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


[式中、Rは、 無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、無置換または置換基を有していても良いベンジル基、無置換または置換基を有していても良いフェネチル基を表し、XはO、CH又はSを表し、YはCHを表し、X−Yは二重結合又は三重結合でも良く、ZはN又はCHを表し、R’は水素原子、低級アルキル基を表す]で表されるヒドロキシメチルケトン誘導体若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒストン脱アセチル化酵素6(以下、HDAC6とも記載する)の選択的阻害剤として有効なヒドロキシメチルケトン誘導体とその付加塩又はそれらの水和物、並びにこれらの化合物を含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
真核生物の核内における遺伝子の転写及び制御において、DNAとヒストンを主たる構成成分として構築されるクロマチン構造が重要な役割を果たしていることが知られている。クロマチンの基本構造単位は、146塩基対のDNAがヒストンオクタマー(ヒストンH2A,H2B,H3,及びH4各2分子より構成されている)を約二巻きした構造で、ヌクレオソームと呼ばれている(非特許文献1)。正常なヌクレオソーム構造中において、遺伝子の転写は抑制状態にあり、活性化されるためにはヌクレオソーム構造が弛緩されることが必要となる。この転写の活性制御に重要な機構の1つが、ヒストンのアセチル化及び脱アセチル化である(非特許文献2)。
【0003】
ヒストンのアセチル化及び脱アセチル化は、各々、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(ヒストンアセチル化酵素、HAT)及びヒストンデアセチラーゼ(ヒストン脱アセチル化酵素、以下、HDACとも記載する)によって行われている。これまでに、18ファミリーのHDACが同定されており、さらに、活性中心に亜鉛を含有する亜鉛依存的なグループ(HDAC1〜11)、NAD+依存的なグループ(SIRT1〜7)に分類される(非特許文献3)。亜鉛依存的なグループに含まれる各アイソフォームは、他の多数のタンパク質と相互作用することにより巨大複合体を構成し機能している。例えばHDAC1とHDAC2はSIN3複合体やNURD/Mi2複合体中に存在し、HDAC3はNCoRやSMRTと複合体を形成して、レチノイド受容体やチロイド受容体の転写抑制に関与していることが知られている。
【0004】
活性中心に亜鉛を含有するグループのうち、HDAC6は、他のHDACとは異なり細胞質に局在し、α−チューブリン、HSP90やコンタクチンなどの非ヒストン蛋白質を脱アセチル化して、微小管の安定性、分子シャペロンの活性制御及び細胞運動などへの関与が示唆される点でユニークな存在である(非特許文献3)。そして、HDAC6の阻害剤は非癌化細胞に影響を与えることなく、ミエローマ細胞の成長阻害を引き起こすこと(非特許文献4)などから、HDAC6阻害剤の制癌剤あるいは抗癌剤としての有用性が示唆されている。さらに、HDAC6の活性を阻害してチューブリンのアセチル化を促進すると、ハンチントン病などに特徴的な微小管依存的細胞内輸送の低下を改善することなどから(非特許文献5)、神経変性疾患の治療薬としても期待される。
【0005】
これまでに、HDAC阻害剤として、酪酸、トリコスタチンA、SAHA、MS−275など、多くの薬剤が知られており、細胞周期停止、形質転換細胞の形態正常化・分化誘導作用(非特許文献6)、細胞周期の低下作用や分化誘導能およびアポトーシス誘導(非特許文献7、8)を引き起こすことなどから、制癌剤又は抗癌剤としての有用性が示唆されている(非特許文献10)。
近年、HDACファミリーに属する各アイソフォームが固有の役割を担っている可能性が明らかとなりつつあり、中でもHDAC6は前述のごとく、細胞質に局在し他のアイソフォームとは異なる機能を果たしていることが報告されている。
従って、HDACの阻害作用を示す薬剤であっても従来の汎用性の高い薬剤より、むしろ、各アイソフォームに選択的に作用する阻害剤の開発が、副作用の低減などの面においても強く望まれている。これまでに、HDAC6に選択的に作用する薬剤が幾つか報告されているが(非特許文献3)、さらに選択性、活性及び安全性の面で優れた効果を示す薬剤の開発が求められている。
【0006】
【非特許文献1】Wolffeら,Cell,84:817−819,1996
【非特許文献2】Hebbesら,EMBO J,7:1395−1402,1988
【非特許文献3】Itohら,J.Med.Chem.,50:5425−5438,2007
【非特許文献4】Hideshimaら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,102:8567−8572,2005
【非特許文献5】Dompierreら,J.Neurosci.,27:3571−3583,2007
【非特許文献6】Counsensら,J.Biol.Chem.,254:1716−1723,1979
【非特許文献7】Yoshidaら,Cancer Res.,47:3688−3691,1987
【非特許文献8】Yoshidaら,Exp.Cell Res.,177:122−131,1988
【非特許文献9】Yoshidaら,J.Biol.Chem.,265:17174−17179,1990
【非特許文献10】Marksら,J.Natl.Cancer Inst.,92:1210−1216,2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、HDAC6の活性を選択的に(HDAC1〜5と比較して)阻害し、生体に対する毒性の低い新規化合物及びその製造方法の提供、並びに該新規化合物を有効成分として含むHDAC6阻害剤の提供を目的とする。
また、本発明は、該新規化合物を有効成分として含んでなる、HDAC6活性の亢進に伴う疾患の治療に有効な医薬の提供を目的とする。
さらに、本発明は上記医薬を用いた、HDAC6活性の亢進に伴う疾患の治療方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、下記の一般式(1)で表される新規ヒドロキシメチルケトン誘導体がHDAC6選択的な阻害作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
これまでに、HDAC阻害活性を有する化合物として、N−ヒドロキシカルバモイル基、チオール基、アミノベンザミド基又はアキシラニル基などを有する化合物が知られているが、いずれの化合物も生体内における安定性、毒性又は副作用の惹起の可能性が懸念されている。
本発明における化合物は、既存のHDAC阻害剤の問題点を克服すべく、亜鉛結合部位にα−ヒドロキシケトンを有する化合物で、HDAC6に選択的な阻害効果を発揮するものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
一般式(1)
【化3】


[式中、Rは、 無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、無置換または置換基を有していても良いベンジル基、無置換または置換基を有していても良いフェネチル基を表し、XはO、CH又はSを表し、YはCHを表し、X−Yは二重結合又は三重結合でも良く、ZはN又はCHを表し、R’は水素原子、低級アルキル基を表す]で表されるヒドロキシメチルケトン誘導体若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【0010】
一般式(1)
【化4】


[式中、Rは、 無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、無置換または置換基を有していても良いベンジル基、無置換または置換基を有していても良いフェネチル基を表し、XはO、CH又はSを表し、YはCHを表し、X−Yは二重結合又は三重結合でも良く、ZはN又はCHを表し、R’は水素原子、低級アルキル基を表す]で表されるヒドロキシメチルケトン誘導体若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、並びに薬理学上許容される担体を含有するHDAC6阻害剤又はHDAC6活性の亢進に起因する疾患の治療のための医薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は、構造上新規で、HDACアイソフォームの中でHDAC6の活性を選択的に阻害する。その結果、HDAC6活性の亢進に起因する疾患に選択的に効果を示す医薬の開発に有用である。
【0012】
本発明の化合物は、HDAC6に高い選択性を有しているため、他の汎用的効果を示すHDAC阻害化合物より、長期的服用に際し高い安全性が期待できる。
【0013】
本発明の化合物は、制癌剤又は抗癌剤の効果を相乗的に促進することから、癌などの細胞の異常増殖を伴う疾患の治療において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一般式(1)において、Rは、無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、無置換又は置換基を有していても良いベンジル基、無置換または置換基を有していても良いフェネチル基のいずれであってもよいが、例えば、4−メチルベンジル基、4−tert−ブチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−フェニルベンジル基、4−フェノキシベンジル基などが好ましい。
【0015】
一般式(1)において、XはO、CH又はSを表し、YはCHを表し、X−Yは二重結合又は三重結合でも良く、ZはN又はCHを表すが、例えば、XはO、YはCH及びZはNが好ましい。
【0016】
一般式(1)において、R’は、水素原子、低級アルキル基を表し、例えば、水素原子が好ましい。ここで「低級アルキル基」とは、炭素数が1〜14、好ましくは1〜10の直鎖状、分枝鎖状、環状又はそれらの組合せのいずれでもよい。
【0017】
本発明における一般式(1)で表される化合物の塩類は慣用のものであって、金属塩例えばアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩、マグネシウム塩など)、アルミニウム塩等その薬剤上許容される塩があげられる。
また、本発明における一般式(1)で表される化合物には、特に断らない限り、その幾何異性体(例えば、E体、Z体など)及び光学異性体も含まれる。
【0018】
一般式(1)で示される化合物及びその塩としては、限定はしないが、例えば次のものが挙げられる。
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−メチルベンジル)イソインドリン−1−オン及びその塩、
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−tert−ブチルベンジル)イソインドリン−1−オン及びその塩、
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−メトキシベンジル)イソインドリン−1−オン及びその塩、
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−フェニルベンジル)イソインドリン−1−オン及びその塩、
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−フェノキシベンジル)イソインドリン−1−オン及びその塩。
【0019】
本発明の一般式(1)で表される化合物のうち、式中、Rが無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、無置換または置換基を有していても良いベンジル基、無置換または置換基を有していても良いフェネチル基であり、XはOであり、YがCHであり、ZがNであり、R’が水素原子である一般式(1a)
【化5】


は例えば以下の方法により製造することができる(スキーム 1)。
【0020】
【化6】

【0021】
すなわち、一般式(1a)
【化7】


[式中式中、Rは無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、無置換または置換基を有していても良いベンジル基、無置換または置換基を有していても良いフェネチル基である]で示される化合物は公知化合物である5−ヒドロキシ−2−メチル安息香酸メチル(化合物2)の水酸基をt−ブチルジメチルシリル基(TBS)で保護(第一工程)することにより合成される5−t−ブチルジメチルシリルオキシ−2−メチル安息香酸メチル(化合物3)のメチル基を臭素化して(第二工程)得られる2−ブロモメチル−5−t−ブチルジメチルシリルオキシ安息香酸メチル(化合物4)に一般式(11)
【化8】


[式中、Rは無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、無置換または置換基を有していても良いベンジル基、無置換または置換基を有していても良いフェネチル基を表す]で表される化合物を反応させる(第三工程)ことにより得られる一般式(5)
【化9】


[式中、Rは前述の通りである]で表される化合物を脱保護(第四工程)することにより得られる一般式(6)
【化10】


[式中、Rは前述の通りである]で表される化合物にアリルブロマイドを反応させる(第五工程)ことにより得られる一般式(7)
【化11】


[式中、Rは前述の通りである]で表される化合物をオスミウム酸化(第六工程)することにより得られる一般式(8)
【化12】


[式中、Rは前述の通りである]で表される化合物の一級水酸基をTBSで保護(第七工程)することにより得られる一般式(9)
【化13】


[式中、Rは前述の通りである]で表される化合物の二級水酸基を酸化(第八工程)することによりことにより得られる一般式(10)
【化14】


[式中、Rは前述の通りである]で表される化合物のTBS基を脱保護(第九工程)することにより製造することができる。
【0022】
第一工程の反応はN,N−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキド等の溶媒中で実施する事ができる。反応温度としては−50℃から200℃にて、好適には0℃から100℃にて実施する事ができる。
第二工程の反応は四塩化炭素溶媒下かつタングステンランプまたはハロゲンランプの光の照射下または非照射下臭素化剤を用いて加熱することにより実施する事ができる。反応温度としては0℃から150℃にて、好適には50℃から100℃にて実施する事ができる。臭素化剤としては臭素、N−ブロモスクシンイミド等を用いることができる。
第三工程の反応はメタノール、エタノール、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、塩基として例えば水素化ナトリウムのようなアルカリ金属水素化物、水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属水酸化物、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、又はピリジン、トリエチルアミンのような有機塩基の存在下または非存在下に実施する事ができる。反応温度としては−20℃から150℃にて、好適には0℃から100℃にて実施する事ができる。
【0023】
第四工程の反応はテトラヒドロフラン、トルエン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、tertブチルアンモニウムフルオライド存在下実施する事ができる。反応温度としては−20℃から150℃にて、好適には0℃から100℃にて実施する事ができる。
第五工程の反応はテトラヒドロフラン、トルエン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、塩基として例えば水素化ナトリウムのようなアルカリ金属水素化物、水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属水酸化物、炭酸セシウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩の存在下実施する事ができる。反応温度としては0℃から200℃にて、好適には0℃から100℃にて実施する事ができる。
第六工程の反応は水とtertブタノールの混合溶媒中、AD−mix−α存在下実施する事ができる。反応温度としては−50℃から200℃にて、好適には0℃から100℃にて実施する事ができる。
第七工程の反応は塩化メチレン、クロロホルム等の溶媒中、塩基として4-ジメチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン存在下で行う事ができる。反応温度としては−50℃から200℃にて、好適には0℃から100℃にて実施する事ができる。
第八工程の反応は塩化メチレン、クロロホルム等の溶媒中、酸化剤としてデスマーチンパーイオディネート、ピリジニウムジクロメート、ピリジニウムクロロクロメートの存在下で行う事ができる。反応温度としては−50℃から200℃にて、好適には0℃から100℃にて実施する事ができる。
第九工程の反応はテトラヒドロフラン、エタノール、アセトン、ジオキサンならびにそれらの有機溶媒と水との混合溶媒中、酸として酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸等を用いて行うことができる。反応温度としては0℃から200℃にて、好適には室温から100℃にて実施する事ができる。
【0024】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、HDAC6活性を選択的に阻害することから、HDAC6活性の亢進に起因する疾患の治療剤として使用することができる。HDAC6活性の亢進に起因する疾患としては、例えば、癌や神経変性疾患などを挙げることができる。ここで、本発明の一般式(1)で表される化合物の治療対象としてあげられる癌としては、限定はしないが、脳腫瘍、神経芽細胞腫、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、白血病(特に、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病など)、骨髄腫、骨肉腫、ミエローマなどを挙げることができる。
また、本発明の一般式(1)で表される化合物の治療対象としてあげられる神経変性疾患としては、限定はしないが、球脊髄性筋萎縮症、ハンチントン病、脊髄小脳変性症1型(SCA1)、脊髄小脳変性症2型(SCA2)、Machado−Joseph病(MJD、又はSCA3)、脊髄小脳変性症6型(SCA6)、脊髄小脳変性症7型(SCA7)又は歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)などのポリグルタミン病の他、パーキンソン病、アルツハイマー病などが挙げられる。
【0025】
本発明の化合物は、生体に対して悪影響を及ぼさない医薬組成物の形態で医薬として使用することができる。通常、そのような組成物には、本発明の化合物の他、薬理学上許容される担体が含まれる。
「薬理学上許容される担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、アイソトニックに作用して吸着を遅らせる薬剤及びその類似物を含み、薬剤的投与に適するもののことである。該担体及び該担体を希釈するために好ましいものの例には、限定はしないが、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、及びヒト血清アルブミンなどが含まれる。また、リポソーム及び不揮発性油などの非水溶性媒体も用いられる。さらに、本発明の化合物の活性を保護又は促進するような特定の化合物が、該組成物中に包含されていてもよい。
【0026】
本発明の医薬は、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入なども含む)、経皮及び経粘膜への投与を含み、治療上適切な投与経路に適合するように製剤化される。非経口、皮内、又は皮下への適用に使用される溶液又は懸濁液には、限定はしないが、注射用の水などの滅菌的希釈液、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、ベンジルアルコール又は他のメチルパラベンなどの保存剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなどの無痛化剤、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝剤、塩化ナトリウム又はデキストロースなど浸透圧調製のための薬剤を含んでもよい。
pHは塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調製することができる。非経口的標品はアンプル、ガラスもしくはプラスチック製の使い捨てシリンジ又は複数回投与用バイアル中に収納される。
【0027】
注射に適する医薬組成物には、滅菌された注射可能な溶液又は分散媒を、使用時に調製するための滅菌水溶液(水溶性の)又は分散媒及び滅菌されたパウダーが含まれる。静脈内の投与に関し、適切な担体には生理食塩水、静菌水、又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が含まれる。注射剤として使用する場合、組成物は滅菌的でなくてはならず、また、シリンジを用いて投与されるために十分な流動性を保持していなくてはならない。該組成物は、調剤及び保存の間、化学変化及び腐食等に対して安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物由来のコンタミネーションを防止する必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及び適切な混合物を含む溶媒又は分散媒培地を使用することができる。例えば、レクチンなどのコーティング剤を用い、分散媒においては必要とされる粒子サイズを維持し、界面活性剤を用いることにより適度な流動性が維持される。種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、及びチメロサールなどは、微生物のコンタミネーションの防止に対して使用可能である。また、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール及び塩化ナトリウムのような等張性を保つ薬剤が組成物中に含まれてもよい。吸着を遅らせることができる組成物には、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの薬剤が含まれる。
【0028】
滅菌的な注射可能溶液は、必要な成分を単独で、又は他の成分と組み合わせた後に、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を加え、滅菌することで調製される。一般に、分散媒は、基本的な分散培地及び上述したその他の必要成分を含む滅菌的媒体中に活性化合物を取り込むことにより調製される。滅菌的な注射可能な溶液を調製するための滅菌的パウダーの調製方法には、活性な成分及び滅菌溶液に由来する何れかの所望な成分を含むパウダーを調製する真空乾燥及び凍結乾燥が含まれる。
【0029】
経口組成物には、不活性な希釈剤又は体内に取り込んでも害を及ぼさない担体が含まれる。経口組成物には、例えば、ゼラチンのカプセル剤に包含されるか、加圧されて錠剤化される。経口的治療のためには、活性化合物は賦形剤と共に取り込まれ、錠剤、トローチ又はカプセル剤の形態で使用される。また、経口組成物は、流動性担体を用いて調製することも可能であり、流動性担体中の該組成物は経口的に適用される。さらに、薬剤的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント物質などが包含されてもよい。
錠剤、丸薬、カプセル剤、トローチ及びその類似物は以下の成分又は類似の性質を持つ化合物の何れかを含み得る:微結晶性セルロースのような賦形剤、アラビアゴム、トラガント又はゼラチンなどの結合剤;スターチ又はラクトースなどの、アルギン酸、PRIMOGEL、又はコーンスターチなどの膨化剤;ステアリン酸マグネシウム又はSTRROTESなどの潤滑剤;コロイド性シリコン二酸化物などの滑剤;スクロース又はサッカリンなどの甘味剤;又はペパーミント、メチルサリチル酸又はオレンジフレイバーなどの香料添加剤。
【0030】
本発明の化合物は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0031】
本発明の化合物による特定の疾患の治療又は予防において、適切な投与量レベルは、投与される患者の状態、投与方法等に依存するが、当業者であれば、容易に最適化することが可能である。
注射投与の場合は、例えば、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約500mg/kgを投与するのが好ましく、一般に一回又は複数回に分けて投与され得るであろう。好ましくは、投与量レベルは、一日に約0.1μg/kgから約250mg/kgであり、より好ましくは一日に約0.5〜約100mg/kgである。
経口投与の場合は、組成物は、好ましくは1.0から1000mgの活性成分を含む錠剤の形態で提供され、好ましくは活性成分が1.0,5.0,10.0,15.0,20.0,25.0,50.0,75.0,100.0,150.0,200.0,250.0,300.0,400.0,500.0,600.0,750.0,800.0,900.0及び1000.0mgである。化合物は一日に1〜4回の投与計画で、好ましくは一日に一回又は二回投与される。
【0032】
医薬組成物又は製剤は、一定の投与量を保障すべく、均一単位投与量により構成されなくてはならない。単位投与量は、患者の治療に有効な一回の投与量を含み、薬剤的に受容可能な担体と共に製剤化された一単位のことである。本発明の単位投与量を決定する場合には、製剤化される化合物の物理的、化学的特徴、期待される治療上の効果、及び該化合物に特有な留意事項等が考慮される。
【0033】
さらに、本発明の化合物は、抗癌作用を示す薬剤と組み合わせて投与することで、顕著な制癌効果又は抗癌効果が期待される。従って、本発明の医薬を、制癌又は抗癌の目的で使用する場合には、他の制癌剤又は抗癌剤の1又はそれ以上をさらに配合してもよい。ここで、使用される制癌剤又は抗癌剤としては、限定はしないが、例えば、微小管に作用するタキサン系のドセタキセル、パクリタキセル、あるいは、白血病(特に、急性前骨髄球性白血病)などの分化誘導療法に用いられるオールトランスレチノイン酸(ATRA)などが使用可能である。
【0034】
本発明の医薬組成物はキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る薬剤組成物がキットとして供給される場合、該薬剤組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
【0035】
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトル、及び内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる。容器は、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有する。
【0036】
また、キットには使用説明書も添付される。当該医薬組成物からな成るキットの使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよい。詳細な使用説明は、キット内に実際に添付されていてもよく、あるいは、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0037】
さらに、本発明には、HDAC6活性の亢進によって発症する疾患に罹患した哺乳動物の該疾患に関する治療方法も含まれる。ここで「治療」とは、疾患に罹患するおそれがあるか又は罹患した哺乳動物において、該疾患の病態の進行及び悪化を阻止又は緩和することを意味し、これによって該疾患の諸症状等の進行及び悪化を阻止又は緩和することを目的とする治療的処置の意味として使用される。
【0038】
また、「疾患」とは、HDAC6活性の亢進に起因して発症する疾患全般のことを意味し、限定はしないが、例えば、脳腫瘍、神経芽細胞腫、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、白血病(特に、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病など)、骨髄腫、骨肉腫、ミエローマなどの癌、あるいは球脊髄性筋萎縮症、ハンチントン病、脊髄小脳変性症1型(SCA1)、脊髄小脳変性症2型(SCA2)、Machado−Joseph病(MJD、又はSCA3)、脊髄小脳変性症6型(SCA6)、脊髄小脳変性症7型(SCA7)又は歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)などのポリグルタミン病の他、パーキンソン病、アルツハイマー病などが神経変性疾患など挙げられる。
特に癌の治療の際には、本発明の化合物が他の制癌剤又は抗癌剤と組み合わせて使用することで、顕著な効果を示すことから、本発明の化合物と他の制癌剤又は抗癌剤を組み合わせて使用することが望ましい。ここで他の制癌剤又は抗癌剤としては、限定はしないが、例えば、微小管に作用するタキサン系のドセタキセル、パクリタキセル、あるいは、白血病(特に、急性前骨髄球性白血病など)などの分化誘導療法に用いられるオールトランスレチノイン酸(ATRA)などが使用可能である。
【0039】
次に本発明を具体例によって説明するがこれらの例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
〔実施例1〕6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−メチルベンジル)イソインドリン−1−オン
【化15】


6−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチルジメチルシリロキシ)−2−(4’−メチルベンジル)−イソインドリン−1−オン(58mg,0.132mmol)のCHCl(2mL)溶液にDMP(140mg,0.330mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。AcOEtで抽出、HO・飽和食塩水で洗浄、乾燥(MgSO)した。溶媒を留去し、CHCOOH/HO/THF(3mL/1mL/1mL)に溶かし、一晩撹拌した。AcOEtで抽出、HO・飽和食塩水で洗浄、乾燥(MgSO)した。溶媒を留去し、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(H:A =1:2→A)で精製し、標題化合物を白色固体として得た。
収量:42mg(98%)。
NMR(CDCl3) ppm:δ7.33(d, J = 2.6 Hz, 1H), 7.31(d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.19(d, J = 7.7 Hz, 2H), 7.14(d, J = 7.7 Hz, 2H), 7.13(dd, J = 2.6, 8.1 Hz, 1H), 4.79(s, 2H), 4.76(s, 2H), 4.59(s, 2H), 4.21(s, 2H), 2.33(s, 3H).
FAB-MS:C19H19NO4, exact mass:325.13, found:326(M+H)+.
【0041】
〔実施例2〕6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−tertブチルベンジル)イソインドリン−1−オン
【化16】


6−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチルジメチルシリロキシ)−2−(4’−tertブチルベンジル)イソインドリン−1−オン(75mg,0.155mmol)を原料に、実施例1と同様の方法で標題化合物を白色固体として得た。
収量:48mg(84%).
NMR(CDCl3) ppm:δ7.35-7.31(m, 4H), 7.23(d, J = 8.5 Hz, 2H), 7.13(dd, J = 2.6, 8.5 Hz, 1H), 4.80(s, 2H), 4.76(s, 2H), 4.59(s, 2H), 4.23(s, 2H), 1.30(s, 9H).
FAB-MS:C22H25NO4, exact mass:367.18, found:368(M+H)+.
【0042】
〔実施例3〕6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−メトキシベンジル)イソインドリン−1−オン
【化17】


6−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチルジメチルシリロキシ)−2−(4’−メトキシベンジル)イソインドリン−1−オン(120mg,0.263 mmol)を原料に、実施例1と同様の方法で標題化合物を白色固体として得た。
収量:73 mg(81%).
NMR(CDCl3) ppm:δ7.32(d, J = 2.6 Hz, 1H), 7.31(d, J = 8.6 Hz, 1H), 7.22(d, J = 8.5 Hz, 2H), 7.13(dd, J = 2.6, 8.6 Hz, 1H), 6.86(d, J = 8.5 Hz, 2H), 4.80(s, 2H), 4.73(s, 2H), 4.58(s, 2H), 4.20(s, 2H), 3.79(s, 3H).
FAB-MS:C19H19NO5, exact mass:341.13, found:342(M+H)+.
【0043】
〔実施例4〕6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−フェニルベンジル)イソインドリン−1−オン
【化18】


6−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチルジメチルシリロキシ)−2−(4’−フェニルベンジル)イソインドリン−1−オン(28mg,0.0540mmol)を原料に、実施例1と同様の方法で標題化合物を無色油状物として得た。
収量:15mg(72%).
NMR(CDCl3) ppm:δ7.56(d, J = 7.7 Hz, 2H), 7.56 (d, J = 7.7 Hz, 2H), 7.43(t, J = 7.7 Hz, 2H), 7.37-7.32(m, 5H), 7.15(dd, J = 2.1, 8.1 Hz, 1H), 4.84(s, 2H), 4.81(s, 2H), 4.59(s, 2H), 4.27(s, 2H).
FAB-MS:C24H21NO4, exact mass:387.15, found:388(M+H)+.
【0044】
〔実施例5〕6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−フェノキシベンジル)イソインドリン−1−オン
【化19】


6−(2−ヒドロキシ−3−tertブチルジメチルシリロキシ)−2−(4’−フェノキシベンジル)イソインドリン−1−オン(147mg,0.283mmol)を原料に、実施例1と同様の方法で標題化合物を白色固体として得た。
収量:84 mg(74%).
NMR(CDCl3) ppm:δ7.34-7.31(m, 3H), 7.27?7.25(m, 3H), 7.14(dd, J = 2.6, 8.1 Hz, 1H), 7.10(t, J = 7.5 Hz, 1H), 6.99(d, J = 7.5 Hz, 2H), 6.97(d, J = 7.5 Hz, 2H), 4.79(s, 2H), 4.77 (s, 2H), 4.59(s, 2H), 4.24(s, 2H).
FAB-MS:C24H21NO5, exact mass:403.14, found:404(M+H)+.
【0045】
〔実験例1〕HDAC阻害活性
HDAC阻害活性の測定に使用するHDAC反応溶液を以下の通り調製した。
100mmディッシュに293T細胞(1×10個)をまき、24時間後にヒトHDAC1、4又はマウスHDAC6を発現するベクター(1μg)をLipofectAmine 2000 reagent(Life Technologies,Inc.)を用いてトランスフェクションした。ここで、上記HDAC1発現ベクターは、pcDNA3−HD1(Yangら,J.Biol.Chem.,272:28001−28007,1997)、ヒトHDAC4発現ベクターは、pcDNA3.1(+)−HD4(Fischleら,J.Biol.Chem.,274:11713−11720,1999)、マウスHDAC6発現ベクターは、pcDNA−mHDA2/HDAC6(Verdelら,J.Biol.Chem.,274:2440−2445,1999)を用いた。
Dulbecco’s modfied Eagles’s medium(DMEM)中で24時間インキュベートして細胞を回収し、PBSで洗った後、lysis buffer(50mM Tris−HCl(pH7.5),120mM NaCl,5mM EDTA,0.5% Nonidet P−40)に懸濁し、ソニケーションした。上清を遠心分離により集め、proteinA/G plus agarose beads(Santa Cruz Biotechnologies,Inc.)を用いて、非特異的タンパク質を除いた。その後、anti−FLAG M2抗体(Sigma−Aldrich Inc.)を加え、4℃で2時間反応させた。この反応液にアガロースビーズ(proteinA/G plus agarose beads(Santa Cruz Biotechnologies,Inc.))を加えて、さらに4℃で3時間反応させた後、lysis bufferで、アガロースビーズを3回洗浄し、HD buffer(20mM Tris−HCl(pH8.0),150mM NaCl,10% グリセロール)で1回洗浄した。HD buffer(200μl)中FLAGペプチド(40μg)(Sigma−Aldrich Inc.)で4℃、1時間インキュベートしてアガロースビーズから結合したタンパク質を回収し、HDAC反応溶液とし、以下のHDAC阻害活性測定に用いた。
【0046】
HDAC1、HDAC4及びHDAC6の阻害活性を以下のように評価した。実施例1〜5に示す代表化合物をDMSOに溶解して、濃度10mMの原溶液を調製し、これを阻害剤の原溶液とした。アッセイは、被験化合物存在下、HDAC溶液とクマリンで標識したアセチル化ヒストンペプチド溶液を37℃で30分間インキュベートすることで行った(反応溶液20μl)。反応液に30μlのトリプシンを添加して、酵素反応で切り離されたアミノメチルクマリンを蛍光プレートリーダーで測定した。ネガティブコントロールとして、阻害剤を反応系に添加せず、同じ操作を行った。阻害活性は、ネガティブコントロールにおけるHDAC活性の50%阻害濃度(「IC50(μM)」)で示した(表1)。この結果から、本発明の化合物はHDAC6に対し選択的阻害活性を示すことが明らかとなった。
【表1】

【0047】
〔実験例2〕分化誘導促進活性
オールトランスレチノイン酸(ATRA)は活性型ビタミンA代謝物であり、細胞分化誘導を引き起こし、実際に、白血病治療薬として臨床応用されている。一方、HDAC阻害剤は細胞分化誘導活性を有することが知られており、ATRAと併用することでATRAの使用量を低減することができ、かつ、副作用の減少が期待される。そこで、ヒト前骨髄球性白血病細胞(HL−60)を用い、ATRA0.6nMの存在下において、本発明の実施例1に示す化合物の分化誘導促進活性評価を行った。その結果、本発明の実施例1に示す化合物は、HDAC阻害剤として知られているゾリンザ(ZolinzaTM、メルク社)と同様に、細胞の分化誘導活性を示すことが明らかとなった(図1)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の化合物は、HDAC6活性を選択的に阻害することから、HDAC6関連疾患の治療及びその治療薬の開発に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例1に示す化合物による、ATRA存在下における細胞の分化誘導促進活性を示す。controlは0.6nMのATRAのみの存在下、DMSOは0.6nMのATRA存在下において化合物の溶媒として使用したDMSOのみを添加した場合の細胞の分化誘導率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


[式中、Rは、 無置換又は置換基を有していても良いフェニル基、無置換または置換基を有していても良いベンジル基、無置換または置換基を有していても良いフェネチル基を表し、XはO、CH又はSを表し、YはCHを表し、X−Yは二重結合又は三重結合でも良く、ZはN又はCHを表し、R’は水素原子、低級アルキル基を表す]で表されるヒドロキシメチルケトン誘導体若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項2】
XがO、YがCH、ZがN及びR’が水素原子である請求項1に記載のヒドロキシメチルケトン誘導体若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項3】
Rが下記式(101)〜(105)のいずれかで表される置換基である請求項2に記載のヒドロキシメチルケトン誘導体若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【化2】

【請求項4】
前記ヒドロキシメチルケトン誘導体が、
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−メチルベンジル)イソインドリン−1−オン、
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−tert−ブチルベンジル)イソインドリン−1−オン、
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−メトキシベンジル)イソインドリン−1−オン、
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−フェニルベンジル)イソインドリン−1−オン、
6−(3−ヒドロキシ−2−オキソプロポキシ)−2−(4’−フェノキシベンジル)イソインドリン−1−オン、
からなるグループから選択される、請求項1に記載のヒドロキシメチルケトン誘導体若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のヒドロキシメチルケトン誘導体若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、並びに薬理学上許容される担体を含有するHDAC6阻害剤。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のヒドロキシメチルケトン誘導体若しくはその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、並びに薬理学上許容される担体を含有する、HDAC6活性の亢進に起因する疾患の治療のための医薬。
【請求項7】
前記疾患が癌であることを特徴とする請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
抗癌剤又は制癌剤の有効量をさらに含有する請求項7に記載の医薬。
【請求項9】
前記疾患が神経変性疾患であることを特徴とする請求項6に記載の医薬。
【請求項10】
前記疾患がポリグルタミン病であることを特徴とする請求項9に記載の医薬。

【図1】
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【公開番号】特開2009−191041(P2009−191041A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35479(P2008−35479)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】