説明

ヒュージング構造、及びヒュージング構造を備えた端子

【課題】コストを抑えつつ、ヒュージングに際して電線の径方向へのズレを防止すると共に、局所的な発熱を抑制する技術を提供する。
【解決手段】ヒュージング構造1は、固定側熱カシメ板4a(第1の熱カシメ板)及び支持側熱カシメ板4b(第2の熱カシメ板)を有する。固定側熱カシメ板4a及び支持側熱カシメ板4bの間に巻線2(電線)を挟んだ状態で固定側熱カシメ板4a及び支持側熱カシメ板4bを固定側電極5a(電極)及び支持側電極5b(電極)で挟んでヒュージングを行う。支持側熱カシメ板4bには、ヒュージングの際に、巻線2の一部を収容可能な巻線収容溝20(溝)が製造されている。巻線収容溝20の溝深さdは、巻線収容溝20をプレス加工で製造する際に、巻線収容溝20の支持側対向面19(加工面)に対して裏側の面である支持側非対向面21(裏面)の平面度を損なわないように浅く設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒュージング構造、及びヒュージング構造を備えた端子に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒュージングとは、電線を挟んだ状態の略U字状ターミナルを一対の溶接電極で挟み込み、ターミナルに電流を流すことで電線の被覆を溶融除去しターミナルと電線との導通を確保した上で、ターミナルと電線を固相接合する技術である。
【0003】
この種の技術として特許文献1は、本願の図15に示すように、ヒュージング用のターミナル100を開示している。ターミナル100は、リード線101が載置される支持片102と、支持片102の側方から上側に折り曲げられている固定片103とから形成されている。支持片102から立ち上がって固定片103として折り曲げられている部位が曲げコーナー104である。また、固定片103の先端103aと後端(曲げコーナー104)との間の略中央の接合面105には、外方に突出するようにして内方にリード線101が収容可能な大きさに形成された凹部106が設けられている。凹部106が形成された部位において外方に突出した部位が凸部107である。
【0004】
以上の構成によれば、ヒュージング前にリード線101を凹部106に収容することで、リード線101の径方向への位置決めが確実に行われる。
【0005】
また、ターミナル100の上下両方向には、電極108及び電極109が配置されている。上方に位置する電極108には、固定片103の凸部107を収容することができるような大きさに形成された収容凹部110が形成されている。
【0006】
以上の構成によれば、電極108及び電極109が固定片103を加圧したときでもリード線101に力が集中することがないので、リード線101のつぶれや断線等を防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−68173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、仮に、特許文献1の構成で、電極108に収容凹部110を形成しないこととすると、電極108が固定片103の凸部107に対して小さな面積で接触することになる。すると、電極108と凸部107との接触抵抗が過大となって局所的に発熱することになり、この結果、凸部107が電極108に溶着してしまったり、凸部107を有する固定片103自体が溶融してしまうことがある。
【0009】
一方では、電極108に収容凹部110を形成することにすると電極108の加工コストの問題が残る。
【0010】
本願発明の目的は、コストを抑えつつ、ヒュージングに際して電線の径方向へのズレを防止すると共に、局所的な発熱を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明の第1の観点によれば、第1の熱カシメ板と、前記第1の熱カシメ板に対向する第2の熱カシメ板と、を有し、前記第1及び第2の熱カシメ板の間に電線を挟んだ状態で前記第1及び第2の熱カシメ板を一対の電極で挟んでヒュージングを行う、ヒュージング構造は、以下のように構成されている。前記第1及び第2の熱カシメ板の少なくとも何れか一方には、ヒュージングの際に、前記電線の少なくとも一部を収容可能な溝が製造されている。前記溝のある面に対して裏側の面である裏面が平坦面である。
本願発明の第2の観点によれば、第1の熱カシメ板と、前記第1の熱カシメ板に対向する第2の熱カシメ板と、を有し、前記第1及び第2の熱カシメ板の間に電線を挟んだ状態で前記第1及び第2の熱カシメ板を一対の電極で挟んでヒュージングを行う、ヒュージング構造は、以下のように構成されている。前記第1及び第2の熱カシメ板の少なくとも何れか一方には、ヒュージングの際に、前記電線の少なくとも一部を収容可能な溝が製造されている。前記溝の溝深さは、前記溝をプレス加工で製造する際に、前記溝の加工面に対して裏側の面である裏面の平面度を損なわないように浅く設定される。
好ましくは、前記電線は、導線と、前記導線を絶縁被覆する熱可塑性樹脂と、によって構成されている。
好ましくは、前記溝の断面形状は、円弧状である。
好ましくは、前記溝の断面形状である円弧の半径は、前記電線の前記導線の半径よりも大きい。
好ましくは、各熱カシメ板と各電極との接触面積は等しい。
好ましくは、前記第1及び第2の熱カシメ板の何れかの縁部には、前記電線を前記第1及び第2の熱カシメ板の間に円滑に挿入するためのガイドが形成されている。
好ましくは、前記第1及び第2の熱カシメ板は、一枚の金属板を180度折り返すことによって形成されている。
好ましくは、前記第1及び第2の熱カシメ板間の隙間は、前記第1及び第2の熱カシメ板が略平行に対向した状態で、前記電線の直径よりも大きい。
好ましくは、前記溝の溝深さは、前記熱カシメ板の板厚の10〜15%である。
上記のヒュージング構造を備えた端子が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、前記一対の電極に特別な加工をすることなく、局所的な発熱を抑制することができる。従って、コストを抑えつつ、ヒュージングに際して前記電線の径方向へのズレを防止すると共に、局所的な発熱を抑制する技術が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、巻線端子のヒュージング構造の斜視図である。(第1実施形態)
【図2】図2は、ヒュージングの第1説明図である。(第1実施形態)
【図3】図3は、ヒュージングの第2説明図である。(第1実施形態)
【図4】図4は、ヒュージングの第3説明図である。(第1実施形態)
【図5】図5は、電線の断面図である。(第1実施形態)
【図6】図6は、巻線端子のヒュージング構造の斜視図である。(第1実施形態)
【図7】図7は、図6のVII-VII線端面図である。(第1実施形態)
【図8】図8は、図7のA部拡大図である。(第1実施形態)
【図9】図9は、ヒュージングの第4説明図である。(第1実施形態)
【図10】図10は、ヒュージングの第5説明図である。(第1実施形態)
【図11】図11は、図10のB部拡大図である。(第1実施形態)
【図12】図12は、ヒュージングの第6説明図である。(第1実施形態)
【図13】図13は、図8に相当する図である。(第2実施形態)
【図14】図14は、図8に相当する図である。(第3実施形態)
【図15】図15は、特許文献1の図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、図1〜12を参照しつつ、本願発明の第1実施形態を説明する。
【0015】
(ヒュージング構造1の概要:図1〜4)
図1に示す本実施形態のヒュージング構造1は、例えば高出力型ブラシレスモータ向けレゾルバの励磁巻線や検出巻線といった巻線2(電線)に取り付けられる巻線端子3(端子)に適用されるものである。ヒュージング構造1は、固定側熱カシメ板4a(第1の熱カシメ板)と支持側熱カシメ板4b(第2の熱カシメ板)を有している。そして、図2に示すように固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bの間に巻線2を挟んだ状態で、固定側熱カシメ板4a及び支持側熱カシメ板4bを固定側電極5a及び支持側電極5bで挟み、図2及び図3に示すように固定側電極5aを支持側電極5bに対して近接させつつ、固定側電極5aと支持側電極5bの間に電圧を印加させることで、やがて図4に示すようにヒュージングが完了する。このヒュージングにより、巻線2はヒュージング構造1を介して巻線端子3に電気的に接続されることになる。
【0016】
(巻線2:図5)
本実施形態において巻線2は、図5に示すように、銅線6(導線)と、銅線6を絶縁被覆するアミドイミド樹脂7(熱可塑性樹脂)と、によって構成されている。銅線6の半径R1は75マイクロメートルであり、アミドイミド樹脂7の厚みt1は20マイクロメートルである。即ち、巻線2の直径Qは、190マイクロメートルである。
【0017】
(巻線端子3:図6〜8)
本実施形態において図6の巻線端子3は、黄銅薄板を精密板金加工することにより一体的に形成されており、前述のヒュージング構造1と支持部8、嵌合部25を備えて構成されている。
【0018】
(嵌合部25)
図6において二点鎖線で略示する嵌合部25は、相手側コネクタの端子と嵌合する部分である。
【0019】
(支持部8)
支持部8は、ヒュージング構造1をレゾルバのハウジングに支持させるためのものである。支持部8は、第1支持部9と第2支持部10によって構成されている。
【0020】
第1支持部9は、基部11と連結部12によって構成されている。基部11は、レゾルバのハウジングによって直接支持される部分である。基部11は、嵌合部25に接続している。連結部12は、ヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bを基部11に連結する部分である。連結部12は、支持側熱カシメ板4bに対して接続しており、固定側熱カシメ板4aから離れる方向へ90度折り曲げられて形成されている。基部11は、連結部12に対して接続しており、支持側熱カシメ板4bに対して平行となるように外側に90度折り曲げられて形成されている。
【0021】
第2支持部10は、基部13と連結部14によって構成されている。基部13は、レゾルバのハウジングによって直接支持される部分である。連結部14は、ヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bを基部13に連結する部分である。連結部14は、支持側熱カシメ板4bに対して接続しており、固定側熱カシメ板4aから離れる方向へ90度折り曲げられて形成されている。基部13は、連結部14に対して接続しており、支持側熱カシメ板4bに対して平行となるように外側に90度折り曲げられて形成されている。
【0022】
以上の構成で、第1支持部9の連結部12と第2支持部10の連結部14は、ヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bを挟んで対向している。ここで、図6において、「巻線セット方向D」を、第1支持部9の連結部12と、第2支持部10の連結部14と、が対向する方向と定義する。
【0023】
(ヒュージング構造1)
図6及び図7には、巻線2が固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bの間に挿入される前のヒュージング構造1が示されている。ヒュージング構造1を構成する固定側熱カシメ板4a及び支持側熱カシメ板4bは、図6及び図7に示すように、一枚の金属板である黄銅薄板を巻線セット方向Dと直交する方向に180度折り返すことによって形成されている。固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bは、略C字状に湾曲する湾曲連結部15によって連結されている。図6に示す状態で、固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bは相互に略平行となっている。本実施形態において、固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bとの間の隙間w(図8参照)は、200マイクロメートルであって、図5に示す巻線2の直径Qより僅かに大きく設定されている。
【0024】
(固定側熱カシメ板4a)
図6に示すように、固定側熱カシメ板4aは、平面視で略正方形状であって、湾曲連結部15が形成された辺と対向する辺(縁部)には、巻線2を固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bの間に円滑に挿入するためのガイド16が形成されている。ガイド16は、支持側熱カシメ板4bから離れる方向へ屈曲している。
【0025】
また、巻線セット方向Dにおいて対向する各辺には、固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bの間に挿入された巻線2が固定側熱カシメ板4aとの接触によって断線しないよう羽根部17が夫々形成されている。各羽根部17は、支持側熱カシメ板4bから離れる方向へ緩やかに湾曲している。
【0026】
図7に示すように、固定側熱カシメ板4aは、支持側熱カシメ板4bに対して対向する固定側対向面18を有している。
【0027】
(支持側熱カシメ板4b)
図6に示すように、支持側熱カシメ板4bも固定側熱カシメ板4a同様、底面視で略正方形状である。
【0028】
図7に示すように、支持側熱カシメ板4bは、固定側熱カシメ板4aに対して対向する支持側対向面19を有している。この支持側対向面19には、図6に示すように、巻線セット方向Dに延びる巻線収容溝20(溝)が形成されている。巻線収容溝20は、ヒュージングの際に、巻線2の一部を収容可能な溝である。本実施形態において巻線収容溝20は、図6に示すようにヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bと支持部8の第1支持部9の連結部12に跨るように、また、ヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bと支持部8の第2支持部10の連結部14に跨るように十分長く形成されている。
【0029】
図8に示すように、巻線収容溝20の断面形状は円弧状である。巻線収容溝20の断面形状である円弧の半径R2は、図5に示す巻線2の銅線6の半径R1よりも大きくなるように設定されている。また、巻線収容溝20の溝深さdは、巻線収容溝20をプレス加工(所謂コイニング)で形成する際に、巻線収容溝20の加工面である支持側対向面19に対して裏側の面である支持側非対向面21(裏面)の平面度を損なわないように浅く(小さく)設定されている。ここで、「支持側非対向面21の平面度を損なわないように」とは、例えば「支持側非対向面21が巻線収容溝20の形成に伴って部分的に隆起することがないように」を意味している。具体的な数値を用いて言えば、例えば、「支持側非対向面21の平面度が支持側熱カシメ板4bの厚みt2の1%未満に収まるように」を意味する。このため、本実施形態では、巻線収容溝20の溝深さdは、支持側熱カシメ板4bの厚みt2の10〜15%に設定される。これにより、支持側非対向面21は平坦面となっている。
【0030】
なお、本実施形態において黄銅薄板(支持側熱カシメ板4b等)の厚みt2は200マイクロメートルであり、黄銅薄板には予め5マイクロメートル程度の錫メッキが施されている。また、好適には、巻線収容溝20の溝深さdは20マイクロメートルであり、巻線収容溝20の半径R2は600マイクロメートルである。
【0031】
(固定側電極5a及び支持側電極5b)
固定側電極5aは、図2に示すように、例えばタングステンなどの導電性の円柱である。固定側電極5aは、図9に示すように、ヒュージング構造1の固定側熱カシメ板4aに対して対向する押圧面22を有している。本実施形態において押圧面22は、略平面である。
【0032】
支持側電極5bも同様に、図2に示すように、例えばタングステンなどの導電性の円柱である。支持側電極5bは、図9に示すように、ヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bの支持側非対向面21に対して対向する押圧面23を有している。本実施形態において押圧面23は、略平面である。
【0033】
そして、図9の状態で、固定側電極5aの押圧面22は、ヒュージング構造1の固定側熱カシメ板4aに対して面接触している。同様に、支持側電極5bの押圧面23は、ヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bに対して面接触している。また、固定側電極5aの直径と支持側電極5bの直径は等しい。従って、ヒュージング構造1の固定側熱カシメ板4aと固定側電極5aとの接触面積と、ヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bと支持側電極5bとの接触面積は等しくなっている。
【0034】
(ヒュージング)
次に、図9〜12を参照して、ヒュージング構造1と巻線2とのヒュージングについて説明する。
【0035】
先ず、図2及び図9に示すように、ヒュージング構造1を固定側電極5aと支持側電極5bの間に挟んだ状態で、巻線2を、図9の挿入方向Sに沿って、ヒュージング構造1の固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bの間に挿入する。図9の状態では、固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bは相互に平行のままであり、固定側電極5aは固定側熱カシメ板4aに対して軽く接触しているだけである。支持側電極5bについても同様で、支持側電極5bは支持側熱カシメ板4bに対して軽く接触しているだけである。また、このとき、ヒュージング構造1の固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bの間に挿入された巻線2がヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bに形成されている巻線収容溝20に対してオーバーラップするように巻線2の位置決めを行う。
【0036】
次に、固定側電極5aと支持側電極5bの間に所定の電圧を印加する。すると、固定側熱カシメ板4aと湾曲連結部15、支持側熱カシメ板4bを介して、固定側電極5aと支持側電極5bの間に電流が流れる。このとき、固定側電極5aと固定側熱カシメ板4aとの間の接触抵抗の存在により固定側熱カシメ板4aが発熱する。同様に、支持側電極5bと支持側熱カシメ板4bとの接触抵抗の存在により支持側熱カシメ板4bが発熱する。
【0037】
上記の電圧の印加開始と前後して、図10に示すように、固定側電極5aを支持側電極5b側へ下降させる。すると、固定側熱カシメ板4aが支持側熱カシメ板4b側へ押し下げられることで、固定側熱カシメ板4aが巻線2に対して接触すると共に、巻線2が支持側熱カシメ板4bに対して接触する。これにより、固定側熱カシメ板4aで発生した熱と、支持側熱カシメ板4bで発生した熱が巻線2に伝熱されて巻線2が加熱される。この結果、図11に示すように、銅線6を絶縁被覆していた熱可塑性のアミドイミド樹脂7は溶融して支持側熱カシメ板4bの巻線収容溝20内に流れ込むと共に銅線6が露出する。そして、銅線6が露出することで、銅線6が固定側熱カシメ板4a及び支持側熱カシメ板4bと電気的に接触する。
【0038】
このとき、図10及び図11に示すように固定側熱カシメ板4aは支持側熱カシメ板4bに対して一時的に若干傾くことになるが、巻線2は、部分的に巻線収容溝20内に収容されているので湾曲連結部15側へ大きく移動してしまうことはない。
【0039】
続けて、固定側電極5aを支持側電極5b側へ下降させると、図12に示すように、固定側熱カシメ板4aが支持側熱カシメ板4b側へ更に押し下げられ、巻線2は、巻線収容溝20内に部分的に収容されたまま、上下に押し潰される。そして、図12の状態を一定時間保持することで、巻線2の銅線6は、ヒュージング構造1の固定側熱カシメ板4a及び支持側熱カシメ板4bに対して固相接合し、もって、ヒュージングが完了する。
【0040】
なお、図9の状態で固定側電極5aを支持側電極5b側へ下降させ、やがて図12の状態となる間に、図10及び図11に示すように固定側熱カシメ板4aが支持側熱カシメ板4bに対して若干傾く時間帯があるが、その時間帯は実際には極めて瞬間的なものである。従って、図9の状態から図12の状態に至るまで、固定側電極5aと固定側熱カシメ板4aとの接触面積は常に略一定であると言うことができる。
【0041】
以上に、本願発明の好適な第1実施形態を説明したが、上記第1実施形態は、要するに、以下の特長を有している。
【0042】
ヒュージング構造1は、固定側熱カシメ板4a(第1の熱カシメ板)及び支持側熱カシメ板4b(第2の熱カシメ板)を有する。固定側熱カシメ板4a及び支持側熱カシメ板4bの間に巻線2(電線)を挟んだ状態で固定側熱カシメ板4a及び支持側熱カシメ板4bを固定側電極5a(電極)及び支持側電極5b(電極)で挟んでヒュージングを行う。支持側熱カシメ板4bには、ヒュージングの際に、巻線2の一部を収容可能な巻線収容溝20(溝)が製造されている。巻線収容溝20の溝深さdは、巻線収容溝20をプレス加工で形成する際に、巻線収容溝20の支持側対向面19(加工面)に対して裏側の面である支持側非対向面21(裏面)の平面度を損なわないように浅く設定される。換言すれば、支持側非対向面21は、平坦面となっている。以上の構成によれば、支持側電極5bに特別な加工をすることなく、支持側熱カシメ板4bの局所的な発熱を抑制することができる。従って、コストを抑えつつ、ヒュージングに際して巻線2の径方向へのズレを防止すると共に、支持側熱カシメ板4bの局所的な発熱を抑制する技術が実現される。
【0043】
ここで、「支持側電極5bに特別な加工をすることなく」について若干補足説明する。即ち、一般に、支持側電極5bは例示したタングステンのような極めて硬い材料によって形成されているので、特許文献1のような加工は決して容易ではない。また、一度、特許文献1のように支持側電極5bを加工してしまうと、支持側電極5bは巻線端子3向けの専用電極とならざるを得ない。このような種々の観点によれば、支持側電極5bに特別な加工を施すこと必要がない、ということはコスト面で大きなメリットがあると認められる。
【0044】
なお、図9に示すように、本実施形態において巻線収容溝20は、ヒュージング構造1の支持側熱カシメ板4bのみに形成することとしたが、これに代えて、ヒュージング構造1の固定側熱カシメ板4aに形成することとしてもよいし、ヒュージング構造1の固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bの双方に形成してもよい。
【0045】
また、図8に示す巻線収容溝20の断面形状である円弧の半径R2は、図5に示す巻線2の銅線6の半径R1よりも大きい。以上の構成によれば、図11に示すように、ヒュージングの際に溶融状態となったアミドイミド樹脂7が、支持側熱カシメ板4bと銅線6との間からスムーズに排出される。従って、支持側熱カシメ板4bと銅線6との接触面積を問題なく確保することができる。
【0046】
また、図9に示すように、固定側熱カシメ板4aと固定側電極5aとの接触面積と、支持側熱カシメ板4bと支持側電極5bとの接触面積は、等しい。以上の構成によれば、ヒュージングによって生成された固定側熱カシメ板4aと銅線6との結合力と、同じくヒュージングによって生成された支持側熱カシメ板4bと銅線6との結合力を揃えることができ、もって、結合力に偏りのない理想的なヒュージングが実現される。
【0047】
また、図8に示すように、固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bとの間の隙間wは、固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bが略平行に対向した状態で、巻線2の直径Qよりも大きい。以上の構成によれば、固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bを押し広げることなく、固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bの間に巻線2を挿入することができる。
【0048】
以上に本願発明の好適な第1実施形態を説明したが、上記第1実施形態は例えば以下のように変更できる。
【0049】
即ち、上記第1実施形態において固定側熱カシメ板4aと支持側熱カシメ板4bは、略C字状に湾曲する湾曲連結部15によって連結されているとしたが、これに代えて、略U字状や略Ω字状に湾曲する湾曲連結部によって連結されていてもよい。
【0050】
また、上記第1実施形態において固定側熱カシメ板4aや支持側熱カシメ板4bは黄銅薄板により形成することとしたが、これに代えて、アルミニウム板により形成することとしてもよいし、これ以外の材料によって形成してもよい。
【0051】
(第2実施形態)
次に、図13を参照しつつ、本願発明の第2実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0052】
上記第1実施形態において巻線収容溝20の断面形状は円弧状であるとしたが、これに代えて、図13に示すように、巻線収容溝20の断面形状は楕円弧状であってもよい。なお、ここで言う楕円は、図13において破線でイメージしている。
【0053】
(第3実施形態)
次に、図14を参照しつつ、本願発明の第3実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0054】
上記第1実施形態において巻線収容溝20の断面形状は円弧状であるとしたが、これに代えて、図14に示すように、巻線収容溝20の断面形状はV字状であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 ヒュージング構造
2 巻線(電線)
3 巻線端子(端子)
4a 固定側熱カシメ板(第1の熱カシメ板)
4b 支持側熱カシメ板(第2の熱カシメ板)
5a 固定側電極(電極)
5b 支持側電極(電極)
6 銅線(導線)
7 アミドイミド樹脂(熱可塑性樹脂)
8 支持部
9 第1支持部
10 第2支持部
11 基部
12 連結部
13 基部
14 連結部
15 湾曲連結部
16 ガイド
17 羽根部
18 固定側対向面
19 支持側対向面(加工面)
20 巻線収容溝(溝)
21 支持側非対向面(裏面)
22 押圧面
23 押圧面
25 嵌合部
d 溝深さ
D 巻線セット方向
R1 半径
R2 半径
t1 厚み
t2 厚み
w 隙間
Q 直径
S 挿入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の熱カシメ板と、前記第1の熱カシメ板に対向する第2の熱カシメ板と、を有し、前記第1及び第2の熱カシメ板の間に電線を挟んだ状態で前記第1及び第2の熱カシメ板を一対の電極で挟んでヒュージングを行う、ヒュージング構造であって、
前記第1及び第2の熱カシメ板の少なくとも何れか一方には、ヒュージングの際に、前記電線の少なくとも一部を収容可能な溝が製造されており、
前記溝のある面に対して裏側の面である裏面が平坦面である、
ヒュージング構造。
【請求項2】
第1の熱カシメ板と、前記第1の熱カシメ板に対向する第2の熱カシメ板と、を有し、前記第1及び第2の熱カシメ板の間に電線を挟んだ状態で前記第1及び第2の熱カシメ板を一対の電極で挟んでヒュージングを行う、ヒュージング構造であって、
前記第1及び第2の熱カシメ板の少なくとも何れか一方には、ヒュージングの際に、前記電線の少なくとも一部を収容可能な溝が製造されており、
前記溝の溝深さは、前記溝をプレス加工で製造する際に、前記溝の加工面に対して裏側の面である裏面の平面度を損なわないように浅く設定される、
ヒュージング構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヒュージング構造であって、
前記電線は、導線と、前記導線を絶縁被覆する熱可塑性樹脂と、によって構成されている、
ヒュージング構造。
【請求項4】
請求項3に記載のヒュージング構造であって、
前記溝の断面形状は、円弧状である、
ヒュージング構造。
【請求項5】
請求項4に記載のヒュージング構造であって、
前記溝の断面形状である円弧の半径は、前記電線の前記導線の半径よりも大きい、
ヒュージング構造。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のヒュージング構造であって、
各熱カシメ板と各電極との接触面積は等しい、
ヒュージング構造。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のヒュージング構造であって、
前記第1及び第2の熱カシメ板の何れかの縁部には、前記電線を前記第1及び第2の熱カシメ板の間に円滑に挿入するためのガイドが形成されている、
ヒュージング構造。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載のヒュージング構造であって、
前記第1及び第2の熱カシメ板は、一枚の金属板を180度折り返すことによって形成されている、
ヒュージング構造。
【請求項9】
請求項8に記載のヒュージング構造であって、
前記第1及び第2の熱カシメ板間の隙間は、前記第1及び第2の熱カシメ板が略平行に対向した状態で、前記電線の直径よりも大きい、
ヒュージング構造。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載のヒュージング構造であって、
前記溝の溝深さは、前記熱カシメ板の板厚の10〜15%である、
ヒュージング構造。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載のヒュージング構造を備えた端子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−221796(P2012−221796A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87366(P2011−87366)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】