説明

ヒータユニット

【課題】被加熱物の温度を低温領域において急速に高くする場合に優れた昇温特性を発揮することができるヒータユニットを提供する。
【解決手段】ヒータユニットは、板状の炭化ケイ素を含むヒータ部1と、被加熱物が載置される、ヒータ部1の上面に載置される試料台3と、ヒータ部1の上面と、試料台3の被加熱物が載置される面に対する反対面とを接着する接着剤2とから構成されおり、積層構造且つ一体化構造を有する。試料台は、窒化アルミを含む材料で構成していることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばウェハプロセス等において被加熱物を加熱するヒータユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
被加熱物の温度変化により被加熱物の状態を変化させるウェハプロセスにおいて、高速且つ精密な温度制御技術は基本的かつ重要な技術と位置付けられる。近年、このウェハプロセスにおけるヒータユニットとしては、低温状態の被加熱物の温度を、350℃以下といった低温領域内で急速に上昇をさせるものが要望されている。
【0003】
従来において知られているヒータユニットとしては、下記の特許文献1や特許文献2に記載されたものが知られている。
【0004】
その一例を図3に示すように、既存のヒータユニットとしては、炭化ケイ素の面状ヒータ101と、面状ヒータ101の下面に設けられた石英の絶縁材102と、絶縁材102の下面に設けられた炭化ケイ素のリフレクタ103とを、石英のベース104に収容し、当該ベース104の上端部によって試料台105を支持して構成されている。
【0005】
このようなヒータユニットは、面状ヒータ101で発せられた輻射熱によって試料台105を加熱し、試料台105に載置された被加熱物を加熱するようになっている。
【特許文献1】特開平7−296954号公報
【特許文献2】特開2004−344706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した面状ヒータ101、ランプ加熱、抵抗加熱といった輻射熱により被加熱物を加熱するによって、低温領域内において温度上昇させる制御は困難である。すなわち、輻射熱は、面状ヒータ101を350℃以下といった低温領域よりも高い温度とした場合に発生するために、低温領域において輻射熱によって被加熱物を急速に加熱しようとすると、輻射可能な温度領域から外れて、輻射熱による温度制御が困難となる。また、輻射熱によって低温領域において急速に被加熱物の温度を上昇させると、目標温度値を超えてしまうオーバーシュートが生じる問題がある。
【0007】
また、熱伝導型のヒータを使用した場合には、試料台や被加熱物の熱容量が大きくなると、図3に示す隙間106等が被加熱物の昇温性能に大きく影響してしまう。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、被加熱物の温度を低温領域において急速に高くする場合に優れた昇温特性を発揮することができるヒータユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明を適用したヒータユニットは、板状の炭化ケイ素を含むヒータ部と、被加熱物が載置される、前記ヒータ部の上面に載置される試料台と、前記ヒータ部の上面と、前記試料台の前記被加熱物が載置される面に対する反対面とを接着する接着剤とから構成されおり、積層構造且つ一体化構造を有する。
【0010】
また、本発明を適用したヒータユニットは、試料台を、窒化アルミを含む材料で構成していることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るヒータユニットによれば、ヒータ部と試料台とを接着剤で接着した積層構造且つ一体化構造としたので、熱容量の抑制、熱伝導性能の向上を実現でき、被加熱物の温度を低温領域において急速に高くする場合に優れた昇温特性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るヒータユニットについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明は、例えば図1に示すように構成されたヒータユニットに適用される。このヒータユニットは、板状の炭化ケイ素を含むヒータ部1と、被加熱物が載置されるヒータ部1の上面に載置される試料台3と、ヒータ部1の上面と試料台3の被加熱物が載置される面に対する反対面とを接着する接着剤2とから構成されている。ウェハプロセスの加熱工程において試料台3上に載置される被加熱物の形状が円形である場合には、ヒータ部1及び接着剤2は円形とされる。
【0014】
ヒータ部1は、急速昇温が可能且つ耐熱性に優れた多結晶での焼結体からなる。具体的には、ヒータ部1は、例えば特開平10−163079号公報などに記載された、本願出願人により既に出願されている炭化ケイ素多結晶からなる。この炭化ケイ素多結晶を製造するにあたって、まず、炭化ケイ素粉末と、非金属系焼結助剤とを均質に混合するが、非金属系焼結助剤であるフェノール樹脂をエチルアルコールなどの溶媒に溶解し、炭化ケイ素粉末と十分に混合する。混合は公知の混合手段、例えば、ミキサー、遊星ボールミルなどによって行うことができる。混合は、10〜30時間、特に、16〜24時間にわたって行うことが好ましい。十分に混合した後は、溶媒の物性に適合する温度、例えば、先に挙げたエチルアルコールの場合には50〜60℃の温度、で溶媒を除去し、混合物を蒸発乾固させたのち、篩にかけて混合物の原料粉体を得る。なお、高純度化の観点からは、ボールミル容器及びボールの材質を金属をなるべく含まない合成樹脂にする必要がある。また、乾燥にあたっては、スプレードライヤーなどの造粒装置を用いてもよい。
【0015】
焼結工程は、粉体の混合物又は後記の成形工程により得られた粉体の混合物の成形体を、温度2000〜2400℃、圧力300〜700kgf/cm2、非酸化性雰囲気下で成形金型中に配置し、ホットプレスする工程である。
【0016】
ここで使用する成形金型は、得られる焼結体の純度の観点から、成形体と金型の金属部とが直接接触しないように、型の一部又は全部に黒鉛製等の材料を使用するか、金型内にテフロン(登録商標)シート等を介在させることが好ましい。
【0017】
ホットプレスの圧力は300〜700kgf/cm2の条件で加圧ことができるが、特に、400kgf/cm2以上の加圧した場合には、ここで使用するホットプレス部品、例えば、ダイス、パンチ等は耐圧性の良好なものを選択する必要がある。
【0018】
ここで、焼結工程を詳細に説明するが、焼結体を製造するためのホットプレス工程の前に所定の好適な条件で加熱、昇温を行って不純物を十分に除去し、炭素源の炭化を完全に行わせしめた後、前記条件のホットプレス加工を行うことが好ましい。
【0019】
即ち、以下の2段階の昇温工程を行うことが好ましい。まず、炉内を真空下、室温から700℃に至るまで、緩やかに加熱する。ここで、高温炉の温度制御が困難な場合には、700℃まで昇温を連続的に行ってもよいが、好ましくは、炉内を10-4torrにして、室温から200℃まで緩やかに昇温し、該温度において一定時間保持する。その後、さらに緩やかに昇温を続け、700℃まで加熱する。さらに700℃前後の温度にて一定時間保持する。この第1の昇温工程において、吸着水分や結合剤の分解が行われ、炭素源の熱分解による炭化が行われる。200℃前後或いは700℃前後の温度に保持する時間は結合剤の種類、焼結体のサイズによって好適な範囲が選択される。保持時間が十分であるか否かは真空度の低下がある程度少なくなる時点をめやすにすることができる。この段階で急激な加熱を行うと、不純物の除去や炭素源の炭化が十分に行われず、成形体に亀裂や空孔を生じさせる虞があるため好ましくない。
【0020】
一例を挙げれば、5〜10g程度の試料に関しては、10-4torrにして、室温から200℃まで緩やかに昇温し、該温度において約30分間保持し、その後、さらに緩やかに昇温を続け、700℃まで加熱するが、室温から700℃に至るまでの時間は6〜10時間程度、好ましくは8時間前後である。さらに700℃前後の温度にて2〜5時間程度保持することが好ましい。
【0021】
真空中で、さらに700℃から1500℃に至るまで、前記の条件であれば6〜9時間ほどかけて昇温し、1500℃の温度で1〜5時間ほど保持する。この工程では二酸化ケイ素、酸化ケイ素の還元反応が行われると考えられる。ケイ素と結合した酸素を除去するため、この還元反応を十分に完結させることが重要であり、1500℃の温度における保持時間は、この還元反応による副生物である一酸化炭素の発生が完了するまで、即ち、真空度の低下が少なくなり、還元反応開始前の温度である1300℃付近における真空度に回復するまで、行うことが必要である。この第2の昇温工程における還元反応により、炭化ケイ素粉体表面に付着して緻密化を阻害し、大粒成長の原因となる二酸化ケイ素が除去される。この還元反応中に発生するSiO、COを含む気体は不純物元素を伴っているが、真空ポンプによりこれらの発生気体が反応炉へ絶えず排出され、除去されるため、高純度化の観点からもこの温度保持を十分に行うことが好ましい。
【0022】
これらの昇温工程が終了した後に、高圧ホットプレスを行うことが好ましい。温度が1500℃より高温に上昇すると焼結が開始するが、その際、異常粒成長を押さえるために300〜700kgf/cm2程度までをめやすとして加圧を開始する。その後、炉内を非酸化性雰囲気とするために不活性ガスを導入する。この不活性ガスとしては、窒素あるいは、アルゴンなどを用いるが、高温においても非反応性であることから、アルゴンガスを用いることが望ましい。
【0023】
炉内を非酸化性雰囲気とした後、温度を2000〜2400℃、圧力300〜700kgf/cm2となるように加熱、加圧をおこなう。プレス時の圧力は原料粉体の粒径によって選択することができ、原料粉体の粒径が小さいものは加圧時の圧力が比較的小さくても好適な焼結体が得られる。また、ここで1500℃から最高温度である2000〜2400℃までへの昇温は2〜4時間かけて行うが、焼結は1850〜1900℃で急速に進行する。さらに、この最高温度で1〜3時間保持し、焼結を完了する。
【0024】
ここで最高温度が2000℃未満であると高密度化が不十分となり、2400℃を超えると成形体原料が昇華(分解)する虞があるため好ましくない。また、加圧条件が500kgf/cm2未満であると高密度化が不十分となり、700kgf/cm2を超えると黒鉛型などの成形型の破損の原因となり、製造の効率から好ましくない。
【0025】
この焼結工程においても、得られる焼結体の純度保持の観点から、ここで用いられる黒鉛型や加熱炉の断熱材等は、高純度の黒鉛原料を用いることが好ましく、黒鉛原料は高純度処理されたものが用いられるが、具体的には、2500℃以上の温度で予め十分ベーキングされ、焼結温度で不純物の発生がないものが望ましい。さらに、使用する不活性ガスについても、不純物が少ない高純度品を使用することが好ましい。
【0026】
このような焼結工程を行うことにより優れた特性を有する炭化ケイ素焼結体が得られるが、最終的に得られる焼結体の高密度化の観点から、この焼結工程に先立って以下に述べる成形工程を実施してもよい。以下にこの焼結工程に先立って行うことができる成形工程について説明する。ここで、成形工程とは、炭化ケイ素粉末と、炭素源とを均質に混合して得られた原料粉体を成形金型内に配置し、80〜300℃の温度範囲で、5〜60分間にわたり加熱、加圧して予め成形体を調整する工程である。ここで、原料粉体の金型への充填は極力密に行うことが、最終的な焼結体の高密度化の観点から好ましい。この成形工程を行うと、ホットプレスのために試料を充填する際に嵩のある粉体を予めコンパクトになしうるので、繰り返しにより高密度の成形体や厚みの大きい成形体を製造し易くなる。
【0027】
加熱温度は、80〜300℃、好ましくは120〜140℃の範囲、圧力60〜100kgf/cm2の範囲で、充填された原料粉体の密度を1.5g/cm3以上、好ましくは、1.9g/cm3以上とするようにプレスして、加圧状態で5〜60分間、好ましくは20〜40分間保持して原料粉体からなる成形体を得る。ここで成形体の密度は、粉体の平均粒径が小さくなる程高密度にしにくくなり、高密度化するためには成形金型内に配置する際に振動充填等の方法をとることが好ましい。具体的には、平均粒径が1μm程度の粉体では密度が1.8g/cm3以上、平均粒径が0.5μm程度の粉体では密度が1.5g/cm3以上であることがより好ましい。それぞれの粒径において密度が1.5g/cm3又は1.8g/cm3未満であると、最終的に得られる焼結体の高密度化が困難となる。
【0028】
この成形体は、次の焼結工程に付す前に、予め用いるホットプレス型に適合するように切削加工を行うことができる。この成形体を前記の温度2000〜2400℃、圧力300〜700kgf/cm2、非酸化性雰囲気下で成形金型中に配置し、ホットプレスする工程即ち焼成工程に付して、高密度、高純度の炭化ケイ素焼結体を得るものである。
【0029】
以上により生成した炭化ケイ素焼結体は、十分に高密度化されており、密度は2.9g/cm3以上である。得られた焼結体の密度が2.9g/cm3未満であると、曲げ強度、破壊強度などの力学的特性や電気的な物性が低下し、さらに、パーティクルが増大し、汚染性が悪化するため好ましくない。炭化ケイ素焼結体の密度は、3.0g/cm3以上であることがより好ましい。
【0030】
このように製造されるヒータ部1は、図示しない対の電極を介して電力供給装置が接続されている。このヒータ部1は、被加熱物を加熱するに際して、当該正電極と負電極との間に印加される電圧が制御されて、発熱する。
【0031】
試料台3は、絶縁部材であり高い熱伝導率の窒化アルミ(AIN)を含んだ材料で構成されている。試料台3には、ウェハプロセスの加熱工程において、被加熱物が直接載置される試料台となる。試料台3を窒化アルミを含む構成した理由は、絶縁性が高く且つ熱伝導性の高い材料であるからである。なお、試料台3の材料としては、窒化アルミのみならず、絶縁性が高く且つ熱伝導性の高い材料であれば、他の材料を含むことが望ましい。
【0032】
接着剤2は、耐熱性が高く有機系の材料のものからなる。この接着剤2の材料としては、ポリイミド系、エポキシ系の材料などが挙げられる。
【0033】
このようなヒータユニットは、接着剤2によってヒータ部1と試料台3とを接着していることによって積層構造となっている。また、ヒータユニットは、ヒータ部1と試料台3とを接着剤2によって接着しているのでヒータ部1と試料台3との間の隙間がない。これによりヒータユニットは、ヒータ部1と試料台3とを組み合わせて実現できる最小の構成となっている。
【0034】
このように積層構造とすることにより、ヒータユニットの熱容量を小さくでき、且つ、隙間がない構成とすることにより、隙間が昇温特性に影響を与えることを回避できる。また、隙間をなくすことにより、ヒータユニットを一体構造としているので、熱容量を小さくすることにも貢献できる。
【0035】
更に、このヒータユニットは、被加熱物を試料台3に直接載置して、当該被加熱物を加熱するウェハプロセスを行うことが可能となるので、ヒータ部1から発生した熱の損失を少なくして当該ヒータ部1から発生した熱を被加熱物に伝導させることができる。これにより、ヒータ部1の温度の変化に対する、被加熱物の温度の変化の応答が速くなる。したがって、このヒータユニットによれば、例えば350℃以下といった低温領域にある被加熱物の温度を、急速に上昇をさせることができ、被加熱物の温度の目標値を超えて加熱してしまうオーバーシュートを抑制できる。
【0036】
更にまた、このヒータユニットによれば、試料台3の高い均熱性を実現できる。これにより、被加熱物における温度むらを抑制したウェハプロセスを実現できる。
【0037】
〔実施例〕
実施例では、試験環境を大気圧窒素化雰囲気とし、被加熱物を常温から目標温度200℃まで上昇させるように、接着剤2の温度(制御温度)をモニタしてヒータ部1の出力を上昇させた。このときの経過時間と、接着剤2の温度及び被加熱物(ウェハ)の温度との関係を図2に示す。なお、図2では、ウェハの温度変化として、単一の温度変化を示しているが、この単一の温度変化は、ウェハ上の複数点で測定した温度を平均化したものである。
【0038】
図2に示すように、接着剤2の温度は、200℃付近で一定となり、被加熱物であるウェハの温度は、接着剤2の温度から遅れて200℃付近で一定とすることができた。また、ウェハの温度の均一性は、目標温度の200℃から±2℃(±1%)となった。
【0039】
このような実施例より、本発明を適用したヒータユニットによれば、低温領域において、短時間で被加熱物の温度を上昇させることができ、ウェハの温度のオーバーシュートを抑制でき且つウェハの温度の高い均一性を実現でき、優れた昇温特性を発揮することができる。
【0040】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を適用したヒータユニットの断面図である。
【図2】本発明を適用したヒータユニットの実施例を示す、経過時間と接着剤の温度及びウェハの温度との関係を示す図である。
【図3】従来のヒータユニットの断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ヒータ部
2 接着剤
3 試料台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の炭化ケイ素を含むヒータ部と、
被加熱物が載置される、前記ヒータ部の上面に載置される試料台と、
前記ヒータ部の上面と、前記試料台の前記被加熱物が載置される面に対する反対面とを接着する接着剤と
から構成されることを特徴とするヒータユニット。
【請求項2】
前記試料台は、窒化アルミを含む材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のヒータユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−118272(P2010−118272A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291326(P2008−291326)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】