ヒータ及びこのヒータを搭載する像加熱装置
【課題】 非通紙部昇温抑制効果のある長手分割搬送方向通電ヒータにおいて、スタンバイ加熱や長時間の加熱を要せずとも端部定着不良の無いヒータを提供する。
【解決手段】 通電により発熱する正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体が基板長手方向において複数に分割し、分割した複数の発熱抵抗体は電気的に直列に接続したヒータにおいて、少なくとも基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗が中央部よりも高くする。
【解決手段】 通電により発熱する正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体が基板長手方向において複数に分割し、分割した複数の発熱抵抗体は電気的に直列に接続したヒータにおいて、少なくとも基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗が中央部よりも高くする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタなどの画像形成装置に搭載される加熱定着装置に利用すれば好適なヒータ、及びこのヒータを搭載する像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンタに搭載する加熱定着装置として、耐熱樹脂や金属をベースにした筒状のフィルム(定着フィルム、定着ベルト)の内面に低熱容量のセラミックヒータを接触させ、フィルムを介して記録材を加熱するオンデマンドタイプ(フィルム加熱タイプとも呼ばれている)がある。
【0003】
この定着装置を搭載する画像形成装置で小サイズ紙を連続プリントすると、定着ニップ部長手方向において紙が通過しない領域の温度が徐々に上昇するという現象(非通紙部昇温)が発生する。非通紙部の温度が高くなり過ぎると装置内各パーツへのダメージの発生を招きやすくなる。また、非通紙部昇温が生じている状態で大サイズ紙にプリントすると、小サイズ紙の場合の非通紙部に相当する領域で高温オフセットが発生してしまう。
【0004】
この非通紙部昇温を抑える手法として、基板上の帯状発熱抵抗体を正の抵抗温度特性(温度が上がると抵抗が上がる特性、以後PTC特性と称す:PTC=Positive Temperature Coefficient)とし、発熱抵抗体の長手方向両側に沿って電極を形成したヒータが特許文献1に開示されている(以後搬送方向通電ヒータと称す)。
【0005】
また、長手方向において上記PTC特性を持つ発熱抵抗体と電極を複数に分割し、隣り合う電極部を互い違いに直列につなぐ構成が特許文献2に記載されている(以後長手分割搬送方向通電ヒータと称す)。
【0006】
一般的に発熱抵抗体を構成するペースト材料はシート抵抗が低いほどPTC特性が高い。特許文献1に記載されている搬送方向通電ヒータと、特許文献2に記載されている長手分割搬送方向通電ヒータでは発熱抵抗体の総抵抗、基板短手方向幅、厚みを同じとした場合、長手分割搬送方向通電ヒータのほうがシート抵抗を低くすることが出来るためPTC特性を高くし易く非通紙部昇温抑制効果を大きくすることも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−094260
【特許文献2】特開2005−209493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した長手分割搬送方向通電ヒータでも搬送方向通電ヒータと同じく発熱抵抗体の基板長手方向の長さ(長手分割搬送方向通電ヒータでは合計した長さ:以後発熱体総幅と称す)は端部での定着性を考慮し、記録材の通紙最大サイズにプラス数mmから10mm程度で構成されることが多い。
【0009】
このような構成下で定着器全体が冷えている状態からのヒータ加熱時は、発熱抵抗体端部近傍では基板端部、或いは定着器を構成する部材端部への放熱分があるためヒータ中央部の温度に対して低くなる、いわゆる端部温度低下現象が発生してしまう場合があった。この端部温度低下現象が記録材の通紙域で発生している状態で定着動作を行うと端部において定着不良が発生する。
【0010】
プリント開始前に定着器全体を加熱しておくスタンバイ加熱は上記端部温度低下現象に対して効果的ではあるが、省エネの観点、或いは電源オンからプリントレディになるまである一定時間必要とする点からも好ましくない。
【0011】
従って本出願に係る発明の目的は、非通紙部昇温抑制効果のある長手分割搬送方向通電ヒータにおいて、スタンバイ加熱や長時間の加熱を要せずとも端部定着不良の無いヒータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するための本発明は、基板と、前記基板上に設けられており通電により発熱する正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体に給電するための電極と導電パターンを有し、前記発熱抵抗体が基板長手方向において複数に分割され、分割された複数の発熱抵抗体は電気的に直列に接続されたヒータにおいて、少なくとも基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗が中央部よりも高いことを特徴とする。
【0013】
また、筒状のフィルムと、前記フィルムの内面に接触するヒータと、前記フィルムを介して前記ヒータとニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で画像を担持する記録材を挟持搬送しつつ記録材上の画像を加熱する像加熱装置において、前記ヒータが上述のヒータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発熱抵抗体が基板長手方向において複数に分割され、分割された複数の発熱抵抗体は電気的に直列に接続されたヒータにおいて、少なくとも基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗を中央部よりも高くしたことで、端部温度低下現象の発生を抑制できるため端部定着不良の発生が無い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】画像形成装置の概略構成図
【図2】定着装置の概略構成図
【図3】実施例1のヒータの平面図
【図4】図3のA−A断面図
【図5】比較例ヒータの平面図
【図6】実施例1のヒータの平面図(詳細図)
【図7】フィルム表面温度測定位置を示した図
【図8】比較例ヒータの常温状態における温度分布及び抵抗値分布を示した図
【図9】記録材を定着処理している時の比較例ヒータの温度分布及び抵抗値分布を示した図
【図10】実施例1のヒータの常温状態における温度分布及び抵抗値分布を示した図
【図11】記録材を定着処理している時の実施例1のヒータの温度分布及び抵抗値分布を示した図
【図12】一般的な長手方向通電ヒータの説明図
【図13】ヒータとB5サイズ紙との位置関係を示した図
【図14】各ヒータにおける非通紙昇温状態を示した図
【図15】実施例2のヒータの平面図
【図16】実施例2のヒータの平面図(詳細図)
【図17】実施例3のヒータの平面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)画像形成装置例
図1は本実施形態の像加熱装置を加熱定着装置として搭載した画像形成装置の一例の概略構成図である。本例の画像形成装置は転写式電子写真プロセス利用のレーザービームプリンターである。
【0017】
1は像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)であり、矢印aの時計方向に所定の周速度(プロセススピード)にて回転駆動される。感光ドラム1は、OPC・アモルファスSe・アモルファスSi等の感光材料層を、アルミニウムやニッケルなどのシリンダ(ドラム)状の導電性基体の外周面に形成した構成から成る。
【0018】
感光ドラム1はその回転過程で帯電手段としての帯電ローラ2により所定の極性・電位に一様に帯電処理される。その回転感光ドラム1の一様帯電面に対してレーザービームスキャナ3から出力される、画像情報に応じて変調制御(ON/OFF制御)されたレーザービームによる走査露光Lがなされることにより、回転感光ドラム面に目的の画像情報の静電潜像が形成される。
【0019】
その形成潜像が現像装置4でトナーTにより現像されて可視化される。現像方法としては、ジャンピング現像法、2成分現像法などが用いられ、イメージ露光と反転現像との組み合わせで用いられることが多い。
【0020】
一方、給紙ローラ8の駆動により給紙カセット9内に収容されている記録材Pが一枚ずつ繰り出されて、ガイド10・レジストローラ11を有するシートパスを通って感光ドラム1と転写ローラ5の圧接部である転写ニップ部に所定の制御タイミングにて給送され、その給送記録材Pの面に感光ドラム1面側のトナー画像が順次に転写されていく。
【0021】
転写ニップ部を出た記録材は感光ドラム1の面から順次に分離されて、搬送装置12で像加熱装置としての加熱定着装置6に導入されてトナー画像の熱定着処理を受ける。加熱定着装置6については次の(2)項で詳述する。
【0022】
加熱定着装置6を出た記録材Pは搬送ローラ13・ガイド14・排紙ローラ15を有するシートパスを通って、排紙トレイ16にプリントアウトされる。
【0023】
また、記録材分離後の回転感光ドラム面はクリーニング装置7により転写残りトナー等の付着汚染物の除去処理を受けて清浄面化され、繰り返して作像に供される。
【0024】
本実施の形態においては、プロセスピードが180mm/secのA4・LTRサイズ紙対応の画像形成装置を使用した。
【0025】
(2)加熱定着装置(像加熱装置)6
図2は本実施形態の像加熱装置としての加熱定着装置6の概略構成模型図である。本例の加熱定着装置6は、フィルム加熱方式である。なお、後述する実施例のヒータと比較例のヒータは、この加熱定着装置6に取り付けられる。
【0026】
本実施形態の加熱定着装置6は、筒状のフィルム23と、フィルム23の内面に接触するヒータ22と、フィルム23を介してヒータ22と定着ニップ部を形成する加圧ローラ(加圧部材)24と、を有する。ヒータ22は耐熱樹脂の保持部材21に保持されている。保持部材21はフィルム23の回転を案内するガイドの機能も有している。加圧ローラ24はモータMから動力を受けて矢印b方向に回転する。加圧ローラ24が回転することによってフィルム23が従動して回転する。
【0027】
保持部材21は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイト)や液晶ポリマー等の耐熱性樹脂の成形品である。
【0028】
ヒータ22は、ヒータ基板22aと、基板22a上に形成された発熱抵抗体22bと、導電パターン22fと、発熱抵抗体22b及び導電パターン22fを覆う絶縁性(本実施例ではガラス)の表面保護層22cを有する。
【0029】
ヒータ基板22aの裏面側にはサーミスタ等の温度検知素子22dが当接している。温度検知素子22dの検知温度に応じて発熱抵抗体22bへの通電が制御される。
【0030】
フィルム23の厚みは、良好な熱伝導性を確保するため20μm以上60μm以下程度が好ましい。フィルム23は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)・PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル)・PPS等の材質の単層フィルム、あるいはPI(ポリイミド)・PAI(ポリアミドイミド)・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)・PES(ポリエーテルスルホン)等の材質のベースフィルムの表面にPTFE・PFA・FEP(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル)等を離型層としてコーティングした複合層フィルムが好適である。また、高熱伝導性を有するSUS、Al、Ni、Cu、Zn等の純金属、合金等をベースフィルム層に用い、離型層に前述のコーティング処理、フッ素樹脂チューブの被服を行ったものも好適である。
【0031】
加圧ローラ24は、鉄やアルミニウム等の材質の芯金24aと、シリコーンゴム等の材質の弾性層24b、PFA等の材質の離型層24cを有する。
【0032】
記録材がニップ部Nで挟持搬送されることにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。ニップ部Nを通過した記録材Pは排紙トレイ16に搬送される。
【0033】
(3)ヒータ22
次に、ヒータ22を構成する材料、製造方法等について説明する。図3は実施例のヒータ22の平面図、図4は図3に示すA−A′面でのヒータ22の断面図である。
【0034】
基板22aの材質は、アルミナや窒化アルミニウム等のセラミックスである。発熱抵抗体22bは、(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合した発熱抵抗ペーストを基板22a上に印刷した後、焼成したものである。
【0035】
発熱抵抗ペーストを焼成すると(C)の有機結着成分が焼失し(A)、(B)が残る。したがって、焼成した後のヒータ基板上には、導電成分とガラス成分とを含有する発熱抵抗体が形成される。
【0036】
ここで、(A)の導電成分としては、酸化ルテニウム(RuO2)、銀・パラジウム(Ag・Pd)等の単独もしくは複合で用いられ、0.1Ω/□〜100Ω/□のシート抵抗値で抵抗温度係数(以後TCRと称す)を+300ppm/℃以上のPTC(正の抵抗温度特性)にするのが非通紙部昇温抑制の面で好適である。なお、シート抵抗は厚み10μmの場合の値とする。
【0037】
酸化ルテニウム(RuO2)は非金属系導電成分であり、固有抵抗値としては金属系導電成分ほどではないが、十分に抵抗の低い材料であり、発熱抵抗ペースト材料として好適である。
【0038】
なお、酸化ルテニウム(RuO2)を主体とした導電成分からなる発熱抵抗体22bは銀・パラジウム(Ag・Pd)を主体、もしくは銀・パラジウム(Ag・Pd)に酸化ルテニウム(RuO2)を加えた導電成分よりもシート抵抗が高くなる傾向にある。酸化ルテニウム(RuO2)を単独で用いる、銀・パラジウム(Ag・Pd)を単独で用いる、または酸化ルテニウム(RuO2)に銀・パラジウム(Ag・Pd)を加える、のいずれかを選択するかは、ヒータ22を設計する上で必要な発熱抵抗体22bの総抵抗値、PTC特性を考慮して適宜選択、或いは調整すれば良い。
【0039】
また、上記(A)〜(C)以外においても本発明の特性を損なわない程度の微量であれば他の材料が含まれる事は問題無い。
【0040】
また、(B)のガラス粉末の比率及び具体的材料の選定は、本発明の特性を損なわない範囲で適宜選択されれば良い。ガラス粉末の発熱抵抗ペースト材に占める割合としては、5重量%以上70重量%以下が好ましい。
【0041】
給電用電極22eと導電パターン22fは、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)や銀・白金(Ag・Pt)合金、銀・パラジウム(Ag・Pd)合金などを主体とする導電ペーストを用いてスクリーン印刷法にて形成している。給電用電極22eと導電パターン22fは発熱抵抗体22bに給電する目的で設けられているので、抵抗は発熱抵抗体22bに対して十分低くしている。
【0042】
22cは、発熱抵抗体22bのオーバーコート層であり、発熱抵抗体22bとフィルム23との電気的な絶縁性を確保すること、及びヒータ22とフィルム23との摺動性を確保することを主な目的として設けてある。本実施形態では、オーバーコート層として厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いた。
【0043】
(4)製造方法
次に、ヒータ22の製造方法を説明する。
まず、発熱抵抗ペーストを基板22a上にスクリーン印刷して塗布膜を形成する。この後、塗布膜を乾燥し、焼成炉中で焼成ピーク温度が約850℃で約10分間(焼成炉経過時間は約40分)焼成する。この焼成により発熱抵抗ペースト中に含まれていた有機結着成分類は蒸発飛散する。そして、無機結着成分であるガラス成分が溶融し、導電成分を基板22a上の表面に固着させて発熱抵抗体22bを形成する。
【0044】
次に、基板22a上に前述した導電ペーストをスクリーン印刷により塗布し、乾燥した後、発熱抵抗ペーストの場合と同様に焼成することにより給電用電極22eと導電パターン22fを形成する。
【0045】
その後、オーバーコート層22cを形成する。このオーバーコート層22cは、例えば酸化ケイ素(SiO2)を主成分とした酸化ケイ素(SiO2)−酸化亜鉛(ZnO)−酸化アルミニウム(Al2O3)系のガラス粉末と、エチルセルロール(有機結着成分)とともに有機溶剤で混練してなるガラスペーストを表面部分に隙間無く連続して塗膜を形成する。そして、この塗布膜を乾燥した後、焼成炉中で焼成ピーク温度が約850℃で約10分間(焼成炉経過時間は約40分)焼成して、厚さ15μmから100μmのガラス質のオーバーコート層を得る。厚みの必要に応じて適宜重ねて塗ることは何ら問題無い。
【0046】
(実施例1)
次に、本実施例1のヒータ22の形状・特性について更に詳細に説明する。
本実施例では基板22aとして幅12mm・長さ285mm・厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板を使用した。
【0047】
発熱抵抗体22bの導電成分は酸化ルテニウム(RuO2)を主体とし、総抵抗15Ω、+500ppm/℃のPTC特性のものを用いた。
【0048】
図3に示すように発熱抵抗体22bを長手方向にわたり7つの長方形にして分割し、分割された長方形の発熱抵抗体22bは電気的に直列に接続している。
【0049】
本実施例では発熱抵抗体22bに用いる発熱抵抗ペースト材料は全て同じものを用いて、発熱抵抗体22bの形状を変更することで、基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗を中央部よりも高い構成にした。
【0050】
具体的には、図6に示すように基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの基板短手方向の長さL1を2.2mmにし、それ以外の発熱抵抗体の基板短手方向の長さL2を2.0mm、基板長手方向の分割された発熱抵抗体長さL3は7つの発熱抵抗体ブロックで31mmに共通とすることで成し得た。つまり、基板長手方向両端部の発熱抵抗体ブロックはそれ以外の発熱抵抗体ブロックに比べて10%抵抗が高くなっている。発熱抵抗体ブロック間の隙間は0.5mmとし、発熱体総幅L20は220mmとした。
【0051】
ここで、定着器6の常温状態から通電によるヒータ22加熱時のフィルム23表面温度測定結果と、そのときの各発熱抵抗体ブロックの抵抗とジュール熱量について、イメージ図を用いて説明する。なお前述のフィルム23表面温度測定は図7に示すニップ部Nよりもフィルム23回転方向上流側のX−Y面で測定を行い、120Vを定着ヒータ22に印加して中央部が200℃に達した時のヒータ22長手位置の端部近傍の温度分布を評価した。
【0052】
まず、比較として図5に示す比較例の長手分割搬送方向通電ヒータから説明する。
図8(a)に示すように常温状態(25℃)の場合は発熱抵抗体22bの各ブロックにおいて温度差が無い。なお、グラフの横軸であるヒータ長手位置には実際のヒータ平面図を下に記して対比させた。
【0053】
この温度差が各発熱抵抗体ブロックで無い状態ではPTC特性の影響も無いため、図8(b)に示す分割された発熱抵抗体ブロックの個々の抵抗値r1からr3での差も無い。ここで、図8(b)では分割された個々の発熱抵抗体ブロックの抵抗値を100としたイメージ図を示した。
【0054】
次に基板長手方向両端の電極22e間に電圧を印加して通電した際のヒータ温度上昇過程について図9をもとに説明する。
【0055】
発熱抵抗体に通電すると個々の発熱抵抗体ブロックが発熱しヒータ基板全体も昇温していく。しかし図9(a)に示すように、基板長手中央部に比べて両端部は放熱の影響が大きいために、発熱抵抗体22bの存在する長手位置においてもヒータの温度が低下する端部温度低下現象が生じてしまう。
【0056】
図9(a)で明らかなように、記録材最大サイズ(本実施例ではLTRサイズ)通紙域端部において温度低下が見られ、この状態でトナーが転写された記録材が定着ニップNを通過した場合は端部定着不良となる。
【0057】
発熱抵抗体22bと記録材最大サイズ幅に関しては前述したように、記録材最大サイズ幅プラス数mm程度片側分で長くなるよう発熱抵抗体総幅を構成するのが一般的であり、本比較例構成では片側プラス2mmで構成している。
【0058】
ここで、発熱抵抗体総幅を記録材最大サイズに比べて充分長く取れば端部温度低下現象は記録材最大サイズ通紙域において抑制できるが、画像形成装置の小型化などの観点から好ましくない。
【0059】
一方、分割された個々の発熱抵抗体22bの抵抗値に着目すると、PTC特性の影響により個々の発熱抵抗体ブロックにおいて差が生じてくる。
【0060】
まず、比較例では+500ppm/℃のPTC特性を示す発熱抵抗ペーストを用いているため、温度の上昇に伴いシート抵抗、言い換えれば抵抗値が上がる特性を示す。しかし、図9(a)で示すように端部温度低下現象が生じているためシート抵抗の変化は中央部と両端部の発熱抵抗体ブロックでは異なり、中央部のシート抵抗の上昇量に比べて、両端部のシート抵抗の変化は少なくなる。
【0061】
実際は分割された個々の発熱抵抗体22bの中でも温度分布に従ってシート抵抗の異なる部分が存在するが、分割された発熱抵抗体ブロックの個々に着目し、各々の抵抗値をr1からr3としてイメージ図に表したものが図9(b)である。
【0062】
図9(b)に示すとおり、個々の発熱抵抗体22bの抵抗値自体は常温(25℃)のときの値である100に対して上がってはいるものの、基板長手方向において端部温度低下現象が生じているため、分割した発熱抵抗体22bの抵抗値であるr1からr3間では上昇度合いに差が生じてしまっていると予想される。
【0063】
このとき、個々の発熱抵抗体22bのジュール熱量Qは電流をIとするとI2×rで表され、分割された個々の発熱抵抗体ブロックに流れる総電流量Iは一定であることから、抵抗値に応じてジュール熱量に差が生じることになり、抵抗値が高いほどジュール熱量は大きくなる。
【0064】
このように比較例の長手分割搬送方向通電ヒータの場合、本来基板両端部でのジュール熱量を多くして「端部温度低下現象」を解消したいがPTC特性の影響によりジュール熱量自体も基板端部では減少していた。
【0065】
次に本実施例のヒータ22について同様にフィルム表面温度測定と、そのときの各発熱抵抗体ブロックの抵抗とジュール熱量について、イメージ図を用いて説明する。
図10(a)に示すように常温状態(25℃)の場合は発熱抵抗体22bの各ブロックにおいて温度差が無い。
この温度差が各発熱抵抗体ブロックで無い状態ではPTC特性の影響が無く、発熱抵抗体22bの形状因子のみで抵抗値が決まる。
【0066】
図10(b)に示すように、分割された発熱抵抗体ブロックの抵抗値r2、r3は同じ値を示し、抵抗値r1はr2とr3よりも10%高い抵抗値を示す。ここで、図10(b)では分割された個々の発熱抵抗体ブロックのうち、端部以外のr2、r3の抵抗値を100としたイメージ図を示した。
【0067】
次に基板長手方向両端の電極22e間に電圧を印加して通電したときのヒータの温度上昇過程について図11をもとに説明する。
発熱抵抗体22bに通電すると個々の発熱抵抗体ブロックが発熱しヒータ基板全体も昇温していく。基板長手中央部に比べて両端部は放熱の影響が本来大きいが、本実施例構成では図11(a)に示すように、端部の発熱抵抗体領域においても端部温度低下現象がない。
【0068】
これは、もともと両端部において発熱抵抗体22bの形状を変更し、分割された発熱抵抗体ブロック個々の抵抗値で見た場合に両端部の抵抗値を高くしておいたため、基板端部への放熱分をジュール熱量を多くして補うことが出来ているからである。
このとき分割された発熱抵抗体ブロックの個々に着目し、各々の抵抗値をr1からr3としてイメージ図に表したものが図11(b)である。
【0069】
図11(b)に示すとおり、個々の発熱抵抗体22bの抵抗値自体が常温(25℃)のときの値である100に対して上がっているのは比較例と同様であるが、本実施例の構成においては、端部の発熱抵抗体ブロックの抵抗値r1がr2、r3に対して高くなっておりジュール熱量(Q=I2×r)が高い状態になっている。
【0070】
この効果を確認すべく常温状態からプリントを開始し、端部定着性について検討したところ、比較例では定着不良が発生したが、本実施例の構成は良好な定着性を得ることが出来た。
【0071】
次に、図3に記す本実施例の長手分割搬送方向通電ヒータの構成と、図5に記す比較例の長手分割搬送方向通電ヒータの構成と、一般的な図12に記す長手方向通電ヒータの比較例構成について非通紙部昇温抑制効果を比較した。
【0072】
図12の長手方向通電ヒータは基板両端部に設けられた給電用の電極部22e間に発熱抵抗体22bを分割せずに基板長手方向に配置し、電流は基板長手方向に流れる構成になっている。
【0073】
基板22a構成は実施例1と同様のものを用い、発熱抵抗体22bの導電成分としては銀・パラジウム(Ag・Pd)を用い、総抵抗が15Ω、+500ppm/℃のPTC特性とした。
【0074】
図12の長手方向通電ヒータにも端部温度低下現象防止のために、発熱抵抗体端部においてジュール熱量を高くするための所謂絞り形状が設けてある。発熱抵抗体22bの各部の寸法は、L4が3.64mm、L5が4mm、L6は31mmである。
【0075】
非通紙部昇温はヒータ制御温度を200℃にした状態で、坪量64g/m2であるB5サイズ紙(182mm×257mm)を15ppmで300枚連続通紙したときのフィルム表面温度を比較した。図13に比較した3つのヒータとB5サイズ紙の関係を示す。
【0076】
表1、及び図14の評価結果からもわかる通り、一般的な長手方向通電ヒータ(図13の(1))の場合には定着性は良いが、非通紙部昇温温度が高い。一方、比較例構成の長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(2))は非通紙部昇温が低いが、定着性が悪い。本実施例の構成の長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(3))は非通紙部昇温が比較例構成の長手分割搬送方向通電ヒータに比べて若干劣るものの、長手方向通電ヒータに比べて非通紙部昇温が低く、定着性も問題ない。
【0077】
【表1】
【0078】
一般的な長手方向通電ヒータにおいて非通紙部昇温温度が高いのは以下の理由による。B5サイズなどの小サイズ通紙によって、(1)PTC特性を持つ発熱抵抗ペーストであるため、紙に熱を奪われない非通紙部の温度が上がる。(2)電流は基板長手方向に流れるため、非通紙部分のシート抵抗が通紙部に比べて上がる。(3)非通紙部分でのジュール熱量が通紙部分に比べて高くなる。
以上(1)〜(3)の悪循環を繰り返すことにより、長手方向通電ヒータ(図13の(1))は非通紙部昇温が高くなる。
【0079】
一方、比較例構成の長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(2))において非通紙部昇温温度が抑制できるのは以下の理由による。まず、(1)、(2)までは長手方向通電ヒータと同様である。そして電流は基板短手方向に流れるため、端部の発熱抵抗体ブロックの中で、(3´)非通紙部分のシート抵抗が高い部分には電流が流れにくく、シート抵抗の低い通紙部分に多く電流が流れる。(4´)非通紙部分でのジュール熱量が低くなる。
以上(3´)、(4´)の点で、長手方向通電ヒータとは異なり非通紙部昇温が抑制できる。
【0080】
そして、本実施例の構成である長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(3))は基本的な非通紙部昇温抑制メカニズムは比較例構成の長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(2))と同様である。しかしながら、長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(2))より端部の発熱抵抗体ブロックの抵抗を高くしているため、非通紙部昇温抑制効果としては若干下がる。但し、長手方向通電ヒータに比べて非通紙部昇温抑制効果は高く、定着不良の発生も無い。
【0081】
以上明らかなように、本実施例の構成を用いることで定着不良と非通紙部昇温が高いといった問題がないヒータを提供することが出来た。
【0082】
なお、本実施例においては基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの基板短手方向の長さのみを変更したが、複数個変更することや複数個の中で長さを変えることは、用いる定着器の仕様に応じて適宜調整すればよい。
【0083】
(実施例2)
次に、本実施例2のヒータ22の形状・特性について図15と図16をもとに説明する。
本実施例では基板22aは実施例1と同様のものを用い、発熱抵抗体22bの導電成分も実施例1と同様に酸化ルテニウム(RuO2)を主体とし、総抵抗15Ω、+500ppm/℃のPTC特性に調整した。
【0084】
図15に示すように発熱抵抗体22bを長手方向にわたり7つの長方形にして分割し、分割された長方形の発熱抵抗体22bは電気的に直列に接続しているのも実施例1と同様である。
【0085】
本実施例では、発熱抵抗体22bに用いるペースト材料は全て同じものを用いて、発熱抵抗体22bの基板長手方向長さを変更することで基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗を中央部よりも高い構成にした。
【0086】
具体的には図16に示すように、基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの基板長手方向の長さL7を28.9mmにし、それ以外の発熱抵抗体22bの基板長手方向の長さL8を31.8mm、基板短手方向の分割された発熱抵抗体長さL9は7つの発熱抵抗体ブロックで2.0mmに共通とすることで成し得た。つまり、基板長手方向両端部の発熱抵抗体ブロックはそれ以外の発熱抵抗体ブロックに比べて10%抵抗が高くなっている。発熱抵抗体ブロック間の隙間は0.5mmとし、発熱体総幅L21は219.8mmとした。
【0087】
本実施例2の構成においても実施例1と同様の評価をした結果、定着不良と非通紙部昇温が高いといった問題がないヒータを得ることが出来た。
【0088】
なお、本実施例においては基板長手方向両端部における発熱抵抗体の基板長手方向の長さのみを変更したが、複数個変更することや複数個の中で長さを変えることは、使用する定着器の仕様に応じて適宜調整すればよい。
【0089】
(実施例3)
次に、本実施例3のヒータ22の形状・特性について説明する。まず基板22a、発熱抵抗体22bの形状については図5と同様とした。本実施例では、発熱抵抗体22bに用いる発熱抵抗ペースト材を変更することで基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの抵抗値を中央部よりも高い構成にした。
【0090】
具体的には、図17に示す基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bのシート抵抗sr1を34.1Ω/□にし、それ以外の発熱抵抗体22bのシート抵抗sr2を31.0Ω/□とすることで成し得た。
【0091】
つまり、基板長手方向両端部の発熱抵抗体ブロックはそれ以外の発熱抵抗体ブロックに比べて10%抵抗が高くなっている。
【0092】
発熱抵抗体22bの導電成分も実施例1と同様に酸化ルテニウム(RuO2)を主体とし、総抵抗15Ω、sr1、sr2ともに+500ppm/℃のPTC特性に調整した。
【0093】
本実施例3の構成においても実施例1と同様の評価をした結果、定着不良と非通紙部昇温が高いといった問題がないヒータを得ることが出来た。
【0094】
なお、本実施例においては基板長手方向両端部における発熱抵抗体のシート抵抗のみを変更したが、複数個変更することや複数個の中でシート抵抗を変えることは、使用する定着器の仕様に応じて適宜調整すればよい。
【0095】
また、本実施例においては発熱抵抗ペースト材を変更することで基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの抵抗値を中央部よりも高い構成にしたが、基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの厚みを中央部よりも薄い構成にしても良い。
【0096】
本発明は、未定着トナー像を記録材に定着する定着装置だけでなく、記録材上に定着済みのトナー像を再度加熱することによって、画像の光沢度を向上させる光沢付与装置などの像加熱装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0097】
6 定着装置
21 フィルムガイド部材
22 ヒータ
23 フィルム
24 加圧ローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタなどの画像形成装置に搭載される加熱定着装置に利用すれば好適なヒータ、及びこのヒータを搭載する像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンタに搭載する加熱定着装置として、耐熱樹脂や金属をベースにした筒状のフィルム(定着フィルム、定着ベルト)の内面に低熱容量のセラミックヒータを接触させ、フィルムを介して記録材を加熱するオンデマンドタイプ(フィルム加熱タイプとも呼ばれている)がある。
【0003】
この定着装置を搭載する画像形成装置で小サイズ紙を連続プリントすると、定着ニップ部長手方向において紙が通過しない領域の温度が徐々に上昇するという現象(非通紙部昇温)が発生する。非通紙部の温度が高くなり過ぎると装置内各パーツへのダメージの発生を招きやすくなる。また、非通紙部昇温が生じている状態で大サイズ紙にプリントすると、小サイズ紙の場合の非通紙部に相当する領域で高温オフセットが発生してしまう。
【0004】
この非通紙部昇温を抑える手法として、基板上の帯状発熱抵抗体を正の抵抗温度特性(温度が上がると抵抗が上がる特性、以後PTC特性と称す:PTC=Positive Temperature Coefficient)とし、発熱抵抗体の長手方向両側に沿って電極を形成したヒータが特許文献1に開示されている(以後搬送方向通電ヒータと称す)。
【0005】
また、長手方向において上記PTC特性を持つ発熱抵抗体と電極を複数に分割し、隣り合う電極部を互い違いに直列につなぐ構成が特許文献2に記載されている(以後長手分割搬送方向通電ヒータと称す)。
【0006】
一般的に発熱抵抗体を構成するペースト材料はシート抵抗が低いほどPTC特性が高い。特許文献1に記載されている搬送方向通電ヒータと、特許文献2に記載されている長手分割搬送方向通電ヒータでは発熱抵抗体の総抵抗、基板短手方向幅、厚みを同じとした場合、長手分割搬送方向通電ヒータのほうがシート抵抗を低くすることが出来るためPTC特性を高くし易く非通紙部昇温抑制効果を大きくすることも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−094260
【特許文献2】特開2005−209493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した長手分割搬送方向通電ヒータでも搬送方向通電ヒータと同じく発熱抵抗体の基板長手方向の長さ(長手分割搬送方向通電ヒータでは合計した長さ:以後発熱体総幅と称す)は端部での定着性を考慮し、記録材の通紙最大サイズにプラス数mmから10mm程度で構成されることが多い。
【0009】
このような構成下で定着器全体が冷えている状態からのヒータ加熱時は、発熱抵抗体端部近傍では基板端部、或いは定着器を構成する部材端部への放熱分があるためヒータ中央部の温度に対して低くなる、いわゆる端部温度低下現象が発生してしまう場合があった。この端部温度低下現象が記録材の通紙域で発生している状態で定着動作を行うと端部において定着不良が発生する。
【0010】
プリント開始前に定着器全体を加熱しておくスタンバイ加熱は上記端部温度低下現象に対して効果的ではあるが、省エネの観点、或いは電源オンからプリントレディになるまである一定時間必要とする点からも好ましくない。
【0011】
従って本出願に係る発明の目的は、非通紙部昇温抑制効果のある長手分割搬送方向通電ヒータにおいて、スタンバイ加熱や長時間の加熱を要せずとも端部定着不良の無いヒータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するための本発明は、基板と、前記基板上に設けられており通電により発熱する正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体に給電するための電極と導電パターンを有し、前記発熱抵抗体が基板長手方向において複数に分割され、分割された複数の発熱抵抗体は電気的に直列に接続されたヒータにおいて、少なくとも基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗が中央部よりも高いことを特徴とする。
【0013】
また、筒状のフィルムと、前記フィルムの内面に接触するヒータと、前記フィルムを介して前記ヒータとニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で画像を担持する記録材を挟持搬送しつつ記録材上の画像を加熱する像加熱装置において、前記ヒータが上述のヒータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発熱抵抗体が基板長手方向において複数に分割され、分割された複数の発熱抵抗体は電気的に直列に接続されたヒータにおいて、少なくとも基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗を中央部よりも高くしたことで、端部温度低下現象の発生を抑制できるため端部定着不良の発生が無い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】画像形成装置の概略構成図
【図2】定着装置の概略構成図
【図3】実施例1のヒータの平面図
【図4】図3のA−A断面図
【図5】比較例ヒータの平面図
【図6】実施例1のヒータの平面図(詳細図)
【図7】フィルム表面温度測定位置を示した図
【図8】比較例ヒータの常温状態における温度分布及び抵抗値分布を示した図
【図9】記録材を定着処理している時の比較例ヒータの温度分布及び抵抗値分布を示した図
【図10】実施例1のヒータの常温状態における温度分布及び抵抗値分布を示した図
【図11】記録材を定着処理している時の実施例1のヒータの温度分布及び抵抗値分布を示した図
【図12】一般的な長手方向通電ヒータの説明図
【図13】ヒータとB5サイズ紙との位置関係を示した図
【図14】各ヒータにおける非通紙昇温状態を示した図
【図15】実施例2のヒータの平面図
【図16】実施例2のヒータの平面図(詳細図)
【図17】実施例3のヒータの平面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)画像形成装置例
図1は本実施形態の像加熱装置を加熱定着装置として搭載した画像形成装置の一例の概略構成図である。本例の画像形成装置は転写式電子写真プロセス利用のレーザービームプリンターである。
【0017】
1は像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光体(以下、感光ドラムと記す)であり、矢印aの時計方向に所定の周速度(プロセススピード)にて回転駆動される。感光ドラム1は、OPC・アモルファスSe・アモルファスSi等の感光材料層を、アルミニウムやニッケルなどのシリンダ(ドラム)状の導電性基体の外周面に形成した構成から成る。
【0018】
感光ドラム1はその回転過程で帯電手段としての帯電ローラ2により所定の極性・電位に一様に帯電処理される。その回転感光ドラム1の一様帯電面に対してレーザービームスキャナ3から出力される、画像情報に応じて変調制御(ON/OFF制御)されたレーザービームによる走査露光Lがなされることにより、回転感光ドラム面に目的の画像情報の静電潜像が形成される。
【0019】
その形成潜像が現像装置4でトナーTにより現像されて可視化される。現像方法としては、ジャンピング現像法、2成分現像法などが用いられ、イメージ露光と反転現像との組み合わせで用いられることが多い。
【0020】
一方、給紙ローラ8の駆動により給紙カセット9内に収容されている記録材Pが一枚ずつ繰り出されて、ガイド10・レジストローラ11を有するシートパスを通って感光ドラム1と転写ローラ5の圧接部である転写ニップ部に所定の制御タイミングにて給送され、その給送記録材Pの面に感光ドラム1面側のトナー画像が順次に転写されていく。
【0021】
転写ニップ部を出た記録材は感光ドラム1の面から順次に分離されて、搬送装置12で像加熱装置としての加熱定着装置6に導入されてトナー画像の熱定着処理を受ける。加熱定着装置6については次の(2)項で詳述する。
【0022】
加熱定着装置6を出た記録材Pは搬送ローラ13・ガイド14・排紙ローラ15を有するシートパスを通って、排紙トレイ16にプリントアウトされる。
【0023】
また、記録材分離後の回転感光ドラム面はクリーニング装置7により転写残りトナー等の付着汚染物の除去処理を受けて清浄面化され、繰り返して作像に供される。
【0024】
本実施の形態においては、プロセスピードが180mm/secのA4・LTRサイズ紙対応の画像形成装置を使用した。
【0025】
(2)加熱定着装置(像加熱装置)6
図2は本実施形態の像加熱装置としての加熱定着装置6の概略構成模型図である。本例の加熱定着装置6は、フィルム加熱方式である。なお、後述する実施例のヒータと比較例のヒータは、この加熱定着装置6に取り付けられる。
【0026】
本実施形態の加熱定着装置6は、筒状のフィルム23と、フィルム23の内面に接触するヒータ22と、フィルム23を介してヒータ22と定着ニップ部を形成する加圧ローラ(加圧部材)24と、を有する。ヒータ22は耐熱樹脂の保持部材21に保持されている。保持部材21はフィルム23の回転を案内するガイドの機能も有している。加圧ローラ24はモータMから動力を受けて矢印b方向に回転する。加圧ローラ24が回転することによってフィルム23が従動して回転する。
【0027】
保持部材21は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイト)や液晶ポリマー等の耐熱性樹脂の成形品である。
【0028】
ヒータ22は、ヒータ基板22aと、基板22a上に形成された発熱抵抗体22bと、導電パターン22fと、発熱抵抗体22b及び導電パターン22fを覆う絶縁性(本実施例ではガラス)の表面保護層22cを有する。
【0029】
ヒータ基板22aの裏面側にはサーミスタ等の温度検知素子22dが当接している。温度検知素子22dの検知温度に応じて発熱抵抗体22bへの通電が制御される。
【0030】
フィルム23の厚みは、良好な熱伝導性を確保するため20μm以上60μm以下程度が好ましい。フィルム23は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)・PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル)・PPS等の材質の単層フィルム、あるいはPI(ポリイミド)・PAI(ポリアミドイミド)・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)・PES(ポリエーテルスルホン)等の材質のベースフィルムの表面にPTFE・PFA・FEP(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル)等を離型層としてコーティングした複合層フィルムが好適である。また、高熱伝導性を有するSUS、Al、Ni、Cu、Zn等の純金属、合金等をベースフィルム層に用い、離型層に前述のコーティング処理、フッ素樹脂チューブの被服を行ったものも好適である。
【0031】
加圧ローラ24は、鉄やアルミニウム等の材質の芯金24aと、シリコーンゴム等の材質の弾性層24b、PFA等の材質の離型層24cを有する。
【0032】
記録材がニップ部Nで挟持搬送されることにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。ニップ部Nを通過した記録材Pは排紙トレイ16に搬送される。
【0033】
(3)ヒータ22
次に、ヒータ22を構成する材料、製造方法等について説明する。図3は実施例のヒータ22の平面図、図4は図3に示すA−A′面でのヒータ22の断面図である。
【0034】
基板22aの材質は、アルミナや窒化アルミニウム等のセラミックスである。発熱抵抗体22bは、(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合した発熱抵抗ペーストを基板22a上に印刷した後、焼成したものである。
【0035】
発熱抵抗ペーストを焼成すると(C)の有機結着成分が焼失し(A)、(B)が残る。したがって、焼成した後のヒータ基板上には、導電成分とガラス成分とを含有する発熱抵抗体が形成される。
【0036】
ここで、(A)の導電成分としては、酸化ルテニウム(RuO2)、銀・パラジウム(Ag・Pd)等の単独もしくは複合で用いられ、0.1Ω/□〜100Ω/□のシート抵抗値で抵抗温度係数(以後TCRと称す)を+300ppm/℃以上のPTC(正の抵抗温度特性)にするのが非通紙部昇温抑制の面で好適である。なお、シート抵抗は厚み10μmの場合の値とする。
【0037】
酸化ルテニウム(RuO2)は非金属系導電成分であり、固有抵抗値としては金属系導電成分ほどではないが、十分に抵抗の低い材料であり、発熱抵抗ペースト材料として好適である。
【0038】
なお、酸化ルテニウム(RuO2)を主体とした導電成分からなる発熱抵抗体22bは銀・パラジウム(Ag・Pd)を主体、もしくは銀・パラジウム(Ag・Pd)に酸化ルテニウム(RuO2)を加えた導電成分よりもシート抵抗が高くなる傾向にある。酸化ルテニウム(RuO2)を単独で用いる、銀・パラジウム(Ag・Pd)を単独で用いる、または酸化ルテニウム(RuO2)に銀・パラジウム(Ag・Pd)を加える、のいずれかを選択するかは、ヒータ22を設計する上で必要な発熱抵抗体22bの総抵抗値、PTC特性を考慮して適宜選択、或いは調整すれば良い。
【0039】
また、上記(A)〜(C)以外においても本発明の特性を損なわない程度の微量であれば他の材料が含まれる事は問題無い。
【0040】
また、(B)のガラス粉末の比率及び具体的材料の選定は、本発明の特性を損なわない範囲で適宜選択されれば良い。ガラス粉末の発熱抵抗ペースト材に占める割合としては、5重量%以上70重量%以下が好ましい。
【0041】
給電用電極22eと導電パターン22fは、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)や銀・白金(Ag・Pt)合金、銀・パラジウム(Ag・Pd)合金などを主体とする導電ペーストを用いてスクリーン印刷法にて形成している。給電用電極22eと導電パターン22fは発熱抵抗体22bに給電する目的で設けられているので、抵抗は発熱抵抗体22bに対して十分低くしている。
【0042】
22cは、発熱抵抗体22bのオーバーコート層であり、発熱抵抗体22bとフィルム23との電気的な絶縁性を確保すること、及びヒータ22とフィルム23との摺動性を確保することを主な目的として設けてある。本実施形態では、オーバーコート層として厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いた。
【0043】
(4)製造方法
次に、ヒータ22の製造方法を説明する。
まず、発熱抵抗ペーストを基板22a上にスクリーン印刷して塗布膜を形成する。この後、塗布膜を乾燥し、焼成炉中で焼成ピーク温度が約850℃で約10分間(焼成炉経過時間は約40分)焼成する。この焼成により発熱抵抗ペースト中に含まれていた有機結着成分類は蒸発飛散する。そして、無機結着成分であるガラス成分が溶融し、導電成分を基板22a上の表面に固着させて発熱抵抗体22bを形成する。
【0044】
次に、基板22a上に前述した導電ペーストをスクリーン印刷により塗布し、乾燥した後、発熱抵抗ペーストの場合と同様に焼成することにより給電用電極22eと導電パターン22fを形成する。
【0045】
その後、オーバーコート層22cを形成する。このオーバーコート層22cは、例えば酸化ケイ素(SiO2)を主成分とした酸化ケイ素(SiO2)−酸化亜鉛(ZnO)−酸化アルミニウム(Al2O3)系のガラス粉末と、エチルセルロール(有機結着成分)とともに有機溶剤で混練してなるガラスペーストを表面部分に隙間無く連続して塗膜を形成する。そして、この塗布膜を乾燥した後、焼成炉中で焼成ピーク温度が約850℃で約10分間(焼成炉経過時間は約40分)焼成して、厚さ15μmから100μmのガラス質のオーバーコート層を得る。厚みの必要に応じて適宜重ねて塗ることは何ら問題無い。
【0046】
(実施例1)
次に、本実施例1のヒータ22の形状・特性について更に詳細に説明する。
本実施例では基板22aとして幅12mm・長さ285mm・厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板を使用した。
【0047】
発熱抵抗体22bの導電成分は酸化ルテニウム(RuO2)を主体とし、総抵抗15Ω、+500ppm/℃のPTC特性のものを用いた。
【0048】
図3に示すように発熱抵抗体22bを長手方向にわたり7つの長方形にして分割し、分割された長方形の発熱抵抗体22bは電気的に直列に接続している。
【0049】
本実施例では発熱抵抗体22bに用いる発熱抵抗ペースト材料は全て同じものを用いて、発熱抵抗体22bの形状を変更することで、基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗を中央部よりも高い構成にした。
【0050】
具体的には、図6に示すように基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの基板短手方向の長さL1を2.2mmにし、それ以外の発熱抵抗体の基板短手方向の長さL2を2.0mm、基板長手方向の分割された発熱抵抗体長さL3は7つの発熱抵抗体ブロックで31mmに共通とすることで成し得た。つまり、基板長手方向両端部の発熱抵抗体ブロックはそれ以外の発熱抵抗体ブロックに比べて10%抵抗が高くなっている。発熱抵抗体ブロック間の隙間は0.5mmとし、発熱体総幅L20は220mmとした。
【0051】
ここで、定着器6の常温状態から通電によるヒータ22加熱時のフィルム23表面温度測定結果と、そのときの各発熱抵抗体ブロックの抵抗とジュール熱量について、イメージ図を用いて説明する。なお前述のフィルム23表面温度測定は図7に示すニップ部Nよりもフィルム23回転方向上流側のX−Y面で測定を行い、120Vを定着ヒータ22に印加して中央部が200℃に達した時のヒータ22長手位置の端部近傍の温度分布を評価した。
【0052】
まず、比較として図5に示す比較例の長手分割搬送方向通電ヒータから説明する。
図8(a)に示すように常温状態(25℃)の場合は発熱抵抗体22bの各ブロックにおいて温度差が無い。なお、グラフの横軸であるヒータ長手位置には実際のヒータ平面図を下に記して対比させた。
【0053】
この温度差が各発熱抵抗体ブロックで無い状態ではPTC特性の影響も無いため、図8(b)に示す分割された発熱抵抗体ブロックの個々の抵抗値r1からr3での差も無い。ここで、図8(b)では分割された個々の発熱抵抗体ブロックの抵抗値を100としたイメージ図を示した。
【0054】
次に基板長手方向両端の電極22e間に電圧を印加して通電した際のヒータ温度上昇過程について図9をもとに説明する。
【0055】
発熱抵抗体に通電すると個々の発熱抵抗体ブロックが発熱しヒータ基板全体も昇温していく。しかし図9(a)に示すように、基板長手中央部に比べて両端部は放熱の影響が大きいために、発熱抵抗体22bの存在する長手位置においてもヒータの温度が低下する端部温度低下現象が生じてしまう。
【0056】
図9(a)で明らかなように、記録材最大サイズ(本実施例ではLTRサイズ)通紙域端部において温度低下が見られ、この状態でトナーが転写された記録材が定着ニップNを通過した場合は端部定着不良となる。
【0057】
発熱抵抗体22bと記録材最大サイズ幅に関しては前述したように、記録材最大サイズ幅プラス数mm程度片側分で長くなるよう発熱抵抗体総幅を構成するのが一般的であり、本比較例構成では片側プラス2mmで構成している。
【0058】
ここで、発熱抵抗体総幅を記録材最大サイズに比べて充分長く取れば端部温度低下現象は記録材最大サイズ通紙域において抑制できるが、画像形成装置の小型化などの観点から好ましくない。
【0059】
一方、分割された個々の発熱抵抗体22bの抵抗値に着目すると、PTC特性の影響により個々の発熱抵抗体ブロックにおいて差が生じてくる。
【0060】
まず、比較例では+500ppm/℃のPTC特性を示す発熱抵抗ペーストを用いているため、温度の上昇に伴いシート抵抗、言い換えれば抵抗値が上がる特性を示す。しかし、図9(a)で示すように端部温度低下現象が生じているためシート抵抗の変化は中央部と両端部の発熱抵抗体ブロックでは異なり、中央部のシート抵抗の上昇量に比べて、両端部のシート抵抗の変化は少なくなる。
【0061】
実際は分割された個々の発熱抵抗体22bの中でも温度分布に従ってシート抵抗の異なる部分が存在するが、分割された発熱抵抗体ブロックの個々に着目し、各々の抵抗値をr1からr3としてイメージ図に表したものが図9(b)である。
【0062】
図9(b)に示すとおり、個々の発熱抵抗体22bの抵抗値自体は常温(25℃)のときの値である100に対して上がってはいるものの、基板長手方向において端部温度低下現象が生じているため、分割した発熱抵抗体22bの抵抗値であるr1からr3間では上昇度合いに差が生じてしまっていると予想される。
【0063】
このとき、個々の発熱抵抗体22bのジュール熱量Qは電流をIとするとI2×rで表され、分割された個々の発熱抵抗体ブロックに流れる総電流量Iは一定であることから、抵抗値に応じてジュール熱量に差が生じることになり、抵抗値が高いほどジュール熱量は大きくなる。
【0064】
このように比較例の長手分割搬送方向通電ヒータの場合、本来基板両端部でのジュール熱量を多くして「端部温度低下現象」を解消したいがPTC特性の影響によりジュール熱量自体も基板端部では減少していた。
【0065】
次に本実施例のヒータ22について同様にフィルム表面温度測定と、そのときの各発熱抵抗体ブロックの抵抗とジュール熱量について、イメージ図を用いて説明する。
図10(a)に示すように常温状態(25℃)の場合は発熱抵抗体22bの各ブロックにおいて温度差が無い。
この温度差が各発熱抵抗体ブロックで無い状態ではPTC特性の影響が無く、発熱抵抗体22bの形状因子のみで抵抗値が決まる。
【0066】
図10(b)に示すように、分割された発熱抵抗体ブロックの抵抗値r2、r3は同じ値を示し、抵抗値r1はr2とr3よりも10%高い抵抗値を示す。ここで、図10(b)では分割された個々の発熱抵抗体ブロックのうち、端部以外のr2、r3の抵抗値を100としたイメージ図を示した。
【0067】
次に基板長手方向両端の電極22e間に電圧を印加して通電したときのヒータの温度上昇過程について図11をもとに説明する。
発熱抵抗体22bに通電すると個々の発熱抵抗体ブロックが発熱しヒータ基板全体も昇温していく。基板長手中央部に比べて両端部は放熱の影響が本来大きいが、本実施例構成では図11(a)に示すように、端部の発熱抵抗体領域においても端部温度低下現象がない。
【0068】
これは、もともと両端部において発熱抵抗体22bの形状を変更し、分割された発熱抵抗体ブロック個々の抵抗値で見た場合に両端部の抵抗値を高くしておいたため、基板端部への放熱分をジュール熱量を多くして補うことが出来ているからである。
このとき分割された発熱抵抗体ブロックの個々に着目し、各々の抵抗値をr1からr3としてイメージ図に表したものが図11(b)である。
【0069】
図11(b)に示すとおり、個々の発熱抵抗体22bの抵抗値自体が常温(25℃)のときの値である100に対して上がっているのは比較例と同様であるが、本実施例の構成においては、端部の発熱抵抗体ブロックの抵抗値r1がr2、r3に対して高くなっておりジュール熱量(Q=I2×r)が高い状態になっている。
【0070】
この効果を確認すべく常温状態からプリントを開始し、端部定着性について検討したところ、比較例では定着不良が発生したが、本実施例の構成は良好な定着性を得ることが出来た。
【0071】
次に、図3に記す本実施例の長手分割搬送方向通電ヒータの構成と、図5に記す比較例の長手分割搬送方向通電ヒータの構成と、一般的な図12に記す長手方向通電ヒータの比較例構成について非通紙部昇温抑制効果を比較した。
【0072】
図12の長手方向通電ヒータは基板両端部に設けられた給電用の電極部22e間に発熱抵抗体22bを分割せずに基板長手方向に配置し、電流は基板長手方向に流れる構成になっている。
【0073】
基板22a構成は実施例1と同様のものを用い、発熱抵抗体22bの導電成分としては銀・パラジウム(Ag・Pd)を用い、総抵抗が15Ω、+500ppm/℃のPTC特性とした。
【0074】
図12の長手方向通電ヒータにも端部温度低下現象防止のために、発熱抵抗体端部においてジュール熱量を高くするための所謂絞り形状が設けてある。発熱抵抗体22bの各部の寸法は、L4が3.64mm、L5が4mm、L6は31mmである。
【0075】
非通紙部昇温はヒータ制御温度を200℃にした状態で、坪量64g/m2であるB5サイズ紙(182mm×257mm)を15ppmで300枚連続通紙したときのフィルム表面温度を比較した。図13に比較した3つのヒータとB5サイズ紙の関係を示す。
【0076】
表1、及び図14の評価結果からもわかる通り、一般的な長手方向通電ヒータ(図13の(1))の場合には定着性は良いが、非通紙部昇温温度が高い。一方、比較例構成の長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(2))は非通紙部昇温が低いが、定着性が悪い。本実施例の構成の長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(3))は非通紙部昇温が比較例構成の長手分割搬送方向通電ヒータに比べて若干劣るものの、長手方向通電ヒータに比べて非通紙部昇温が低く、定着性も問題ない。
【0077】
【表1】
【0078】
一般的な長手方向通電ヒータにおいて非通紙部昇温温度が高いのは以下の理由による。B5サイズなどの小サイズ通紙によって、(1)PTC特性を持つ発熱抵抗ペーストであるため、紙に熱を奪われない非通紙部の温度が上がる。(2)電流は基板長手方向に流れるため、非通紙部分のシート抵抗が通紙部に比べて上がる。(3)非通紙部分でのジュール熱量が通紙部分に比べて高くなる。
以上(1)〜(3)の悪循環を繰り返すことにより、長手方向通電ヒータ(図13の(1))は非通紙部昇温が高くなる。
【0079】
一方、比較例構成の長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(2))において非通紙部昇温温度が抑制できるのは以下の理由による。まず、(1)、(2)までは長手方向通電ヒータと同様である。そして電流は基板短手方向に流れるため、端部の発熱抵抗体ブロックの中で、(3´)非通紙部分のシート抵抗が高い部分には電流が流れにくく、シート抵抗の低い通紙部分に多く電流が流れる。(4´)非通紙部分でのジュール熱量が低くなる。
以上(3´)、(4´)の点で、長手方向通電ヒータとは異なり非通紙部昇温が抑制できる。
【0080】
そして、本実施例の構成である長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(3))は基本的な非通紙部昇温抑制メカニズムは比較例構成の長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(2))と同様である。しかしながら、長手分割搬送方向通電ヒータ(図13の(2))より端部の発熱抵抗体ブロックの抵抗を高くしているため、非通紙部昇温抑制効果としては若干下がる。但し、長手方向通電ヒータに比べて非通紙部昇温抑制効果は高く、定着不良の発生も無い。
【0081】
以上明らかなように、本実施例の構成を用いることで定着不良と非通紙部昇温が高いといった問題がないヒータを提供することが出来た。
【0082】
なお、本実施例においては基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの基板短手方向の長さのみを変更したが、複数個変更することや複数個の中で長さを変えることは、用いる定着器の仕様に応じて適宜調整すればよい。
【0083】
(実施例2)
次に、本実施例2のヒータ22の形状・特性について図15と図16をもとに説明する。
本実施例では基板22aは実施例1と同様のものを用い、発熱抵抗体22bの導電成分も実施例1と同様に酸化ルテニウム(RuO2)を主体とし、総抵抗15Ω、+500ppm/℃のPTC特性に調整した。
【0084】
図15に示すように発熱抵抗体22bを長手方向にわたり7つの長方形にして分割し、分割された長方形の発熱抵抗体22bは電気的に直列に接続しているのも実施例1と同様である。
【0085】
本実施例では、発熱抵抗体22bに用いるペースト材料は全て同じものを用いて、発熱抵抗体22bの基板長手方向長さを変更することで基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗を中央部よりも高い構成にした。
【0086】
具体的には図16に示すように、基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの基板長手方向の長さL7を28.9mmにし、それ以外の発熱抵抗体22bの基板長手方向の長さL8を31.8mm、基板短手方向の分割された発熱抵抗体長さL9は7つの発熱抵抗体ブロックで2.0mmに共通とすることで成し得た。つまり、基板長手方向両端部の発熱抵抗体ブロックはそれ以外の発熱抵抗体ブロックに比べて10%抵抗が高くなっている。発熱抵抗体ブロック間の隙間は0.5mmとし、発熱体総幅L21は219.8mmとした。
【0087】
本実施例2の構成においても実施例1と同様の評価をした結果、定着不良と非通紙部昇温が高いといった問題がないヒータを得ることが出来た。
【0088】
なお、本実施例においては基板長手方向両端部における発熱抵抗体の基板長手方向の長さのみを変更したが、複数個変更することや複数個の中で長さを変えることは、使用する定着器の仕様に応じて適宜調整すればよい。
【0089】
(実施例3)
次に、本実施例3のヒータ22の形状・特性について説明する。まず基板22a、発熱抵抗体22bの形状については図5と同様とした。本実施例では、発熱抵抗体22bに用いる発熱抵抗ペースト材を変更することで基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの抵抗値を中央部よりも高い構成にした。
【0090】
具体的には、図17に示す基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bのシート抵抗sr1を34.1Ω/□にし、それ以外の発熱抵抗体22bのシート抵抗sr2を31.0Ω/□とすることで成し得た。
【0091】
つまり、基板長手方向両端部の発熱抵抗体ブロックはそれ以外の発熱抵抗体ブロックに比べて10%抵抗が高くなっている。
【0092】
発熱抵抗体22bの導電成分も実施例1と同様に酸化ルテニウム(RuO2)を主体とし、総抵抗15Ω、sr1、sr2ともに+500ppm/℃のPTC特性に調整した。
【0093】
本実施例3の構成においても実施例1と同様の評価をした結果、定着不良と非通紙部昇温が高いといった問題がないヒータを得ることが出来た。
【0094】
なお、本実施例においては基板長手方向両端部における発熱抵抗体のシート抵抗のみを変更したが、複数個変更することや複数個の中でシート抵抗を変えることは、使用する定着器の仕様に応じて適宜調整すればよい。
【0095】
また、本実施例においては発熱抵抗ペースト材を変更することで基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの抵抗値を中央部よりも高い構成にしたが、基板長手方向両端部における発熱抵抗体22bの厚みを中央部よりも薄い構成にしても良い。
【0096】
本発明は、未定着トナー像を記録材に定着する定着装置だけでなく、記録材上に定着済みのトナー像を再度加熱することによって、画像の光沢度を向上させる光沢付与装置などの像加熱装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0097】
6 定着装置
21 フィルムガイド部材
22 ヒータ
23 フィルム
24 加圧ローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられており通電により発熱する正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体に給電するための電極と導電パターンを有し、前記発熱抵抗体が基板長手方向において複数に分割され、分割された複数の発熱抵抗体は電気的に直列に接続されたヒータにおいて、少なくとも基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗が中央部よりも高いことを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記両端部における発熱抵抗体の前記基板の短手方向における長さが中央部より長いことで両端部の抵抗が中央部より高い事を特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
前記両端部における発熱抵抗体の前記基板の長手方向における長さが中央部より短いことで両端部の抵抗が中央部より高い事を特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項4】
前記両端部における発熱抵抗体のシート抵抗値が中央部より高いことで両端部の抵抗が中央部より高い事を特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項5】
筒状のフィルムと、前記フィルムの内面に接触するヒータと、前記フィルムを介して前記ヒータとニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で画像を担持する記録材を挟持搬送しつつ記録材上の画像を加熱する像加熱装置において、
前記ヒータが請求項1乃至4のいずれか一項に記載のヒータであることを特徴とする像加熱装置。
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられており通電により発熱する正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体に給電するための電極と導電パターンを有し、前記発熱抵抗体が基板長手方向において複数に分割され、分割された複数の発熱抵抗体は電気的に直列に接続されたヒータにおいて、少なくとも基板長手方向両端部における発熱抵抗体の抵抗が中央部よりも高いことを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記両端部における発熱抵抗体の前記基板の短手方向における長さが中央部より長いことで両端部の抵抗が中央部より高い事を特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
前記両端部における発熱抵抗体の前記基板の長手方向における長さが中央部より短いことで両端部の抵抗が中央部より高い事を特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項4】
前記両端部における発熱抵抗体のシート抵抗値が中央部より高いことで両端部の抵抗が中央部より高い事を特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項5】
筒状のフィルムと、前記フィルムの内面に接触するヒータと、前記フィルムを介して前記ヒータとニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で画像を担持する記録材を挟持搬送しつつ記録材上の画像を加熱する像加熱装置において、
前記ヒータが請求項1乃至4のいずれか一項に記載のヒータであることを特徴とする像加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−189808(P2012−189808A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53299(P2011−53299)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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