説明

ヒ素(As)イオン吸着素子と、それを用いた水中のAsイオン濃度検出方法及び水中からのAs除去方法。

【課題】Asイオン吸着素子を用いて、水中のAsイオン濃度を短時間に検出する方法、及び水中のAsを除去する方法を提供する。
【解決手段】ナノ構造物からなる担体にAsイオン吸着素子を担持させて、Asイオンが吸着すると光学特性が変化するレセプターを用いて、Asイオンを検出、及び除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中のAsイオン濃度の提色による光学的なセンサー技術と同Asイオンの水中からの除去技術に関する。
【背景技術】
【0002】
Asイオンの用水への混入は、非特許文献1,2に示されるように生命の危険を伴うものであり、水中にどの程度混入されているのかを検出することは、安全な用水を提供する上で欠かせない事項である。また、万一用水中にAsイオンが存在していた場合には、それを除去して安全に用いることができれば、水資源の枯渇から人類を救う一助となるものである。
【0003】
Asの検出には、現在までに次に挙げるように多様な方法が開発されている。高度分析(非特許文献3,4)、ラマン・赤外分光法(非特許文献5,6)、ICP質量分析(非特許文献7)、電気化学分析(非特許文献8)、化学発光分析(非特許文献9)、原子吸光分析法(非特許文献10,11)、原子蛍光分光法(非特許文献12)そしてクロマトグラフィー(非特許文献13,14)である。これらの方法は確かに価値があり各方法とも独自の利点はあるが、欠点があることも否めない。
例えばZhu et al. (非特許文献15)は、誘電体バリア放電噴霧器を用いたAs検出において、水素化物発生原子蛍光分析法におけるAs3+の検出限界は0.04 ngl-1である、と発表したが、この方法では、温度による多大な影響が懸念される。また、Vincent et al.( 非特許文献16)は、衝突セル技術ICP‐MSシステムによるAsの検出を発表したが、高感度にもかかわらず、衝突セル内に多原子干渉形成が見られた。Heitland et al. (非特許文献17)は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)‐ICP/MSによる尿中Asの高速判定を発表したが、費用がかかるうえ、使用される多量の有機溶媒は有毒である。Matsunaga et al.(非特許文献4)は、新たに水溶性試料中の微量のAsに対する肉眼検出法を開発したが、適切に管理された高度な条件が必要となる。さらに、この方法における検出限界は1×10-6 mol dm-3で、反応も非常に遅い。
【0004】
水中に存在するAsイオンの除去には、凝集法、触媒法及び吸着法が知られている。

凝集法としては、特許文献1に示されるように、鉄塩やポリ塩化アルミニウム(PAC)(一般式〔Al(OH)Cl6−n (ただし1<n<5、m<10))を用いて、酸化凝集して除去する方法が知られ、その公報にはAs濃度を平成5年に採用された排水基準である0.001ppm未満を満たした0.001ppmまで減少させることが示されていた。
触媒法としては、特許文献2に示されているように、ロジウム(Rhodium)をアルミナに担持させた触媒(ロジウム含量5重量%、Aldrich社製)を触媒として用い、水素曝気によりイオンを還元除去することが示され、Asイオン濃度を10ppbにすることが可能であることが示されている。
吸着法については、以下の特許文献3から7に示したようなものが知られている。
特許文献3には、硫酸イオンを含有するジルコニウム系メソ構造体(細孔径D20〜50nm、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HTAB)含有量は39重量%、HTABの断面の直径30〜40nm)を吸着剤として用いることで、As濃度4000μmol/L以下としえることが示されている。
特許文献4には、繊維状セルロース粉末にN−メチル−D−グルカミンを固定化させたキレート繊維(キレスト株式会社,キレストファイバーGRY)からなるフィルターに透過させた水のAs濃度が0.1ppm以下であることが示されている。
特許文献5には、γ−アルミナ担体に希土類金属の酸化物又は水酸化物を5〜60質量%担持したもの(平均細孔径 119nm 細孔容積 0.713 cm/g 表面積 240 m/g 全細孔容積に占める90〜200nmの細孔の割合 88%)を吸着剤として用いた例では、As濃度0.8ppmとしえたことを示している。
特許文献6には、アミノプロピル基修飾磁性微粒子を吸着剤として用いた場合は、As濃度を0.1ppmとしえたことが示されている。
特許文献7には、ビス(2−エチルヘキシル)アンモニウム ビス(2−エチルヘキシル)ジチオカルバメート8gを多孔質ポリアクリル酸エステル樹脂20gに担持し、粒状体の含浸樹脂を使用することで、As濃度を9×10−7モル/リットルまで減少させることが示されている。
しかし、いずれも0.001ppm以下とするには数時間以上の長時間を要するものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情に鑑み、1時間未満の短時間で、水中のAsイオン濃度検出する方法及び水中からのAs除去する方法とそれに用いるAs吸着素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1は、水中のAsイオンを吸着するAs吸着素子であって、前記Asイオンを吸着して光学特性が変化するレセプターがナノ構造物に担持されていることを特徴とする。
発明2は、発明1のAs吸着素子において、前記レセプターがモリブテン酸アンモニウムであることを特徴とする。
発明3は、発明1又は2のAs吸着素子において、そのナノ構造物が、酸化チタンナノチューブであることを特徴とする。
【0007】
発明4は、水中のAsイオン濃度を検出する方法であって、発明1から3のいずれかのAs吸着素子を、酸性の被検出水中に投入攪拌し、この液をろ過して、前記As吸着素子を回収乾燥して、その分光学的特性(キャラクタリゼーション)を計測することを特徴とする。
【0008】
発明5は、水中のAsイオンを除去する方法であって、発明1から3のいずれかのAs吸着素子を、酸性の被清浄化水中に投入攪拌し、次に、この被清浄化水より前記As吸着素子を分離除去して、Asイオンを取り除いた清浄水をえることを特徴とする。
発明6は、発明4の検出方法または発明5のAsイオン除去方法で用いたAsを吸着したAs吸着素子の再生方法であって、Asを吸着したAs吸着素子をアルカリ性水中に投入攪拌し、吸着したAsイオンを、前記アルカリ水中に放出させることを特徴とする。
発明7は、発明4の検出方法または発明5のAsイオン除去方法において、請求項6にて再生したAs吸着素子を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のAs吸着素子は、Asとの結合により呈色するレセプターをナノ構造物に担持させることで、レセプターそれぞれが、水中にて分散されやすくなり、低濃度のAs5+を急速に吸着することができるようになったことによるのではないかと考えられるが、10−9M(モル)レベルの低濃度のAs5+イオンの存在も検出することができるものである。
特に、発明4のようにすることで、数十分で、低濃度のAs5+イオンの存在を明らかにすることが可能になった。
また、このような低濃度のAs5+の吸着は、発明5のようにすることで、被清浄水からのAs5+の除去することができ、実質的にAsイオンが含まれない清浄水にすることが可能になるものである。
さらに、本発明のAs吸着素子は、発明6のようにすることで、一旦吸着したAsを分離して、再使用することが可能であるから、発明7のようにすることで、Asの検出や除去のランニングコストを著しく向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のTiOナノチューブを示す高分解能透過電子顕微鏡写真と、その電子回折パターン。
【図2】実施例1のTiOナノチューブの走査型電子顕微鏡写真。
【図3】実施例1の70KにおけるTiOナノチューブアルミナ及び酸化亜鉛ナノロッドの窒素吸脱着等温線を示すグラフ。
【図4】実施例1のアルミナナノロッドを示す高分解能透過電子顕微鏡写真。
【図5】実施例1の酸化亜鉛ナノロッド走査型電子顕微鏡写真。
【図6】実施例1のアルミナナノロッドを示す写真。
【図7】実施例3のキャラクタリゼーションに用いるAs吸着素子の写真。
【図8】実施例3のAs検出後のチタニアとアルミナの吸収スペクトルの結果を示すグラフ。
【図9】As吸着素子担持物を使って汚染水からAsを除去して清浄水を製造する手順を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明は、Asイオン、特に、As5+イオンの検出及び除去に有用なAs吸着素子にかかるものである。
As3+イオンの存在は知られており、また、それをAs5+に変換する方法も特許文献8等により示され公知のものであり、本発明は、このような公知の手段を用いてAs3+イオンをAs5+イオンに変換した被検出水や被清浄水(以下、対象水と記す。)とすることをも含むものである。
なお、本発明の実施例では、以下のような方法により、As3+イオンをAs5+に変換した被検出水や被清浄水を用いている。
As3+イオンをAs5+イオンにする方法
As3+ イオンの酸化;最も一般的な酸化方法は、過酸化水素(H)、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、塩化第2鉄(FeCl)と過マンガン酸カリウム(KMnO)であるが、我々は今回 H とNaOCl のみを酸化剤として使用した
1. Hとの酸化
酸化反応 HAsO+H → HAsO +HO +H
As3+の量に1 mlのH 20% を加え20 mlの溶液を作る。
2. NaOClとの酸化
酸化はpH <7.5で作用する
酸化反応 HAsO+ HClO → HAsO + Cl + 2H
As3+の量に1 mlのNaOCl 10%を加え20 mlの溶液を作る。
【0012】
本発明のAs吸着素子は、前記Asイオンを吸着して呈色するレセプターとこれを担持するナノ構造物より構成されてなるものであるが、Asを吸着した当該素子の分光学的特性(キャラクタリゼーション)を計測することも重要な要素であるから、この計測を正確に行うには、その外乱となる要素をできるだけ有さないものとするのが望ましい。その意味で、レセプター並びにナノ構造物は無色のものが望ましい。
また、Asに干渉するナノ構造物は、レセプターのAs吸着を阻害する要因ともなりかねないので、シリカ(SiO2)、酸化鉄(Fe)、酸化クロム(CrO2)等を用いるのは好ましくない。
要するに、本願発明のAs吸着素子は、As5+に干渉したり呈色しない無色のナノ構造物に無色のレセプターを結合し担持した構造とするのが好ましい。
【0013】
下記実施例ではこのようなレセプターとして、モリブテン酸アンモニウムを用いた例を示したが、この他にも、無色でAsイオンを吸着し、下記のようなナノ構造物に結合し担持されるものであれば使用可能である。
また、下記実施例では、レセプターを担持するナノ構造物として、酸化チタンナノチューブ、アルミナナノロッド、酸化亜鉛ナノロッドを例示した。
これに限らず、無色でAsに干渉しないナノ構造物であれば、これらと同様に用いることが可能である。
なお、本明細書において、ナノ構造物とは、長さ又は太さ又は、ナノチューブのように殻を持つものではその殻の厚さのいずれかがミクロン未満の結晶体をいい、ナノチューブ、ナノロッドのみならず、コーン状、球状等の他の形状のものも含む概念で用いている。
【0014】
本発明の精密な吸着能力は、ナノ構造物を用いたことに起因するものと思われるが、そのメカニズムは解明されていない。
しかし、本発明では、ナノ構造物とはいえない、数十ミクロンのナノ構造物を用いたと仮定した場合、Asの吸着性を著しく低下させる可能性を否定することはできない。
【0015】
前記As吸着素子(Element Arsenic Adsorption、以下EAAと記す。)に、水中のAs5+イオンを吸着させるには、対象水のpH、温度及び攪拌(滞留)時間及びEAAの投入量を以下のようにするのが望ましい。
対象水のpHは、酸性とするのが望ましく、pHの下限を0.5、1.0、又は2.0とし、上限を6.0、5.0又は4.5とするのが望ましい。
なお、中性又はアルカリ性である場合は、As5+イオンを吸着できない。
対象水の温度は、常温もしくはそれ以上の高温度で、EAA、特にそのレセプターが変質しない温度にするのが望ましく、具体的には、30℃から50℃、35℃〜45℃とするのが望ましい。
なお、対象水を常温未満の低い温度にした場合は、As5+イオンの吸着時間が著しく長くなる。1時間以下の短い時間では高精度の吸着能力を発揮できない可能性がある。
このような対象水に投入するEAAの量は、6×10−9〜2×10−5mol/L、より好ましくは6.7×10−9〜1.4×10−5mol/Lとするのが望ましい。
このような分量を投入し、適度に攪拌することで、低濃度のAs5+を吸着することが可能である。
なお、EAAの投入量が過剰でも大きな問題が生じないが、EAAが無駄に使用されるので、できるだけ避けるべきである。
攪拌時間は、1時間未満で、15分〜45分程度にするのが望ましい。時間が短すぎると微量なAs5+が吸着できない可能性があるが、過剰に長い場合でも、As5+の吸着が増えるわけではない。
【0016】
紫外可視分光分析(UV−Vis spectrometry)は、EAAそれぞれの極大吸収波長(λmax)を用いて行うのが適切であり、酸化チタン担持モリブテン酸アンモニウム((NHMo24−TiO)では731 nm、酸化アルミナ担持モリブテン酸アンモニウム((NHMo24−Al)では、853 nm、酸化亜鉛担持モリブテン酸アンモニウム((NHMo24−ZnO)は、812 nmである。
この極大吸収波長(λmax)は、EAAの構造により異なるものであるから、図8に示すようなデータを取得し、その構造毎に特定すべきである。
【0017】
前記のようにしてAsを吸着したEAAは、アルカリ性水に投入、攪拌することで、吸着したAs5+を水中に放出する。
このことにより、EAAはAs5+の吸着能力を復活することとなるので、EAAは再使用可能になる。
水酸化ナトリウム(NaOH)の0.5mol/L濃度水は、EAAのレセプターとナノ構造物との結合状態に変化を与えずに、AsをEAAから離脱させることができる。
【0018】
前記方法により再生したEAAのAs5+イオンの吸着性能は、表1に示すようなものである。
なお、陽、陰イオンの溶液中に存在するイオンにより妨害されるので、再生したEAAのAs吸着能力は、As分離度合いよりも低下することとなったものと思われる。
【0019】
E%として次のように計算した。使用のセンサーの吸着度は、紫外・可視分光分析でAs5+吸着後を初期値((A0)未使用=100%)としていた。再生回数(例5回)後の吸着度(A5)を測定すると、効率性(E)(%)は、(A5/A0) x 100= %.となる。
【表1】

【0020】
本発明のEAAは、その優れたAs吸着能力により、Asイオンを含む被清浄水からAsイオンを除去して、清浄水とすることができる。
【実施例1】
【0021】
本実施例は、ナノ構造物の一例である酸化チタンナノチューブの創生方法を例示する。
フラスコにTiOSO8gと、エタノール10gと、HO/ HSO 1M (molか)5gを入れ混ぜ合わせ、乳白色の溶液を作った。次に、エタノール5gに、F108界面活性剤
(poly(ethylene glycol)‐blockpoly(propylene glycol)‐block‐poly(ethylene glycol))4gを溶かしたものを素早く加えた。
TiOSO:F108: HO/ HSOの質量比は、1:0.5:0.6だった。エタノールを40-45℃に加熱しながら、ロータリーエバポレーターにて、減圧除去すると、5分以内にゲル状固体が形成された。
その他の有機質部分は、450℃で8時間でか焼して除去した。
得られた酸化チタンナノチューブは、図1、図2、図3に示す構造を有し、その他の構造パタメータは、表3に示すとおりである。
これらデータから、得られた酸化チタンナノチューブの大きさは、表2に示すとおりである。
【0022】
酸化アルミナナノロッドの合成方法
酸化アルミナナノロッド構造の合成は次に示す方法で容易に得ることが出来る。まず20mlの水に8gの前駆体硝酸アルミニウム(Al(NO)を溶かす。次に10mlの水に4gの臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)界面活性剤を溶かして1時間混合撹拌する。そして濃縮アンモニア溶液を一滴づつ足しながらpH10になるまで30分間撹拌する。その反応混合物をテフロン樹脂ライナー付きステンレス製の加圧滅菌器に移して密閉した後、150℃に保たれたオーブンで24時間加熱する。加圧滅菌器を室温まで自然冷却したら、得られた混合物を遠心分離し、沈殿物を蒸留水とエタノールで3回十分に洗浄し、500℃で8時間か焼する。
カチオンAl(NO:CTAB:H2O の質量比は、1:0.5:3.75だった。
その特性は表3に、また大きさは表2に示すとおりである。
【0023】
酸化亜鉛ナノロッドの合成方法
酸化亜鉛ナノロッド構造の合成は次に示す方法で容易に得ることが出来る。まず30mlの水に1.36gの前駆体塩化亜鉛(ZnCl2)を溶かす。次に20mlの水に0.68gの臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)界面活性剤を溶かして1時間混合撹拌する。そして濃アンモニア水を一滴ずつ足しながらpH10になるまで30分間撹拌する。その反応混合物をテフロン樹脂ライナー付きステンレス製の加圧滅菌器に移して密閉した後、160℃に保たれたオーブンで16時間加熱する。加圧滅菌器を室温まで自然冷却したら、得られた混合物を遠心分離して、沈殿物を蒸留水とエタノールで3回十分に洗浄し、500℃で8時間か焼する。
ZnCl:CTAB:HO の質量比は、1:0.5: 36.76だった。
その特性は表3に、また大きさは表2に示すとおりである。
【表2】


【表3】

【実施例2】
【0024】
本実施例は、前記実施例1で得られた酸化チタンナノチューブにモリブテン酸アンモニウム(以下、(NHMo24と記す。)を担持させ、EAAを得る方法を例示する。
STEP1
40mlのエタノールに、チタニア1mgと臭化ジドデシルジメチルアンモニウム(DDAB)界面活性剤([CH(CH11(CHN.Br)0.3 gmを混合撹拌し、35℃にて30分間、ロータリーエバポレーターにて吸引排気し、次に、このエバポレーターに備付の真空ポンプを作動して、45℃にて真空乾燥した。
このようにして得られた固形物を水洗し、45℃で常圧乾燥する。
STEP2
このようにして得られた固形物を、50mlの水に0.3mgの(NHMo24.24HOを混入した液に混合し、12時間攪拌する。
STEP3
その混合水をろ過して、得られた固形物を水洗し、55℃で常圧乾燥する。
このようにして、チタニア表面に(NHMo24が担持されたEAAを得た。
その構造は図4、5に示し、構造パタメータは、表4に示すとおりである。
酸化アルミナナノロッドおよび酸化亜鉛ナノロッドに関しても上記方法と全く同様で、STEP1のチタニアを各々アルミナと酸化亜鉛に変更してセンサーを得ることが出来る。
なお、EAAの大きさは、前記ナノ構造物の大きさと大差の無いものであった。
【表4】

【実施例3】
【0025】
本実施例は、実施例2で得たEAAを用いて、被検出水のAs濃度の検出例を示す。
表5に示す12種類の被検出水を調整し、これにpH調整剤としての硫酸水と実施例2にて得た3種類のEAAを表5のとおりに混合した。
そして、この混合液を、40℃にて25min撹拌し、これをろ過して、EAAを回収して乾燥する。(図6参照)
これをキャラクタリゼーション(島津製作所 紫外・可視・近赤外 分光光度計SolidSpec−3700DUV)した結果を図8と表5に示す。
なお、アスコルビン酸(ascorbic acid)は、Asが吸着したレセプター((NH[As(Mo10]錯体)の六価モリブデン(VI)を(NH[As(Mo10] 錯体の五価モリブデン(V)に減少させ、青色に呈色させるために混入した。
表5及び図8から明らかなとおり、ppbレベルでのAsイオン濃度とキャラクタリゼーションによる吸収率(abs.)との間に明らかな相関関係を有していることより、不明な被検出水のAs5+イオンの濃度を、図8を参照することにより同定することが可能である。
なお、被検出水のAs濃度は、ヒ酸二ナトリウム(NaHAsO)の混合により調整したもので、
0.1ppbのAs濃度にするには、ヒ酸二ナトリウムを1.34 x 10−9 mol/L混合した。
pH値は、2〜2.5の範囲内で(0.5の差によって濃度に影響がでることはないため)あればOKとし、範囲外の場合は、As5+イオン検出方法に「5mgの個体センサと次の成分を混ぜる{( 0.5 ml HSO + 9.5 HO) + ( 2 ml ascorbic acid + ml added of NaHAsO+ complete by water to 10 ml)}」として、HSOを用いてその範囲内に調整した。
【表5】

【実施例4】
【0026】
本実施例は、実施例3で使用したEAA(As吸着済み、以下EAA−Asと記す。)の再生方法を例示する。
EAA−Asは、アルカリ水に投入することで、吸着したAsを分離することができる。
具体的には、濃度0.5 mol/L のNaOH水溶液にEAA−Asを投入し、攪拌することで、当該溶液中にEAA−AsからAsを放出させることができた。
そして、放出後のEAAを当該溶液から分離乾燥して、再生したEAA(以下、EAARと記す。)を得た。
このEAARを前記表5のNo.10の条件の下で、As5+の吸着能力を調べた。
その結果を表6のA欄に示す。
再生回数が増えるにつれ、吸着能力が低下しているが、概してセンサーが長期的な検出および再生サイクルの後もなお効果的であることが明らかになった。
【0027】
表7に示すような元素や有機物が許容限度(the tolerance limit (T))を超えた量含有された対象水からEAAにてAs5+を除去したEAA−Asを再生したEAARは、それを使用したAs吸着測定(キャラクタリゼーション)に外乱を生じさせる可能性がある。
特に、リン酸塩とシリカアニオンが、酸性状態でヘテロポリモリブデンを形成し、As測定において重大なポジティブエラーにつながる可能性が判明した。
この問題を回避するため、リン酸塩とシリカアニオンの除去が必要となる。リン酸塩を完全にAsイオンから分離させるためアニオン交換樹脂を用いた。結果、リン酸アニオン5ppmを含むサンプルが、アニオン交換樹脂(ダウエックス マラソン WBA)のカラムを通過したとき、リン酸アニオンは完全に除去された。同様にシリカはマスキング剤NaF(フッ化ナトリウム)(0.1 mol/L)を加えることで分離することができ、シリカアニオンはフッ化ナトリウム(0.1 mol/L)の存在下で10ppmまで耐性があることが分かった。表7のその他のイオンの存在は重要なポジティブエラーをもたらさないことを確認した。
このようにして処理した対象水を用いたEAARの測定結果を表6のB欄に示す。
なお、EAAを基準にして用いる場合は、EAARの吸着能力の低下をEAAにて補正する程度にEAAと混合して使用するのが望ましい。
【表6】


【表7】

【実施例5】
【0028】
本発明のEAAは、実施例3に示すように、酸性水中に含有されるAs5+を吸着する機能を有し、アルカリ性水に接触するまでその吸着状態を維持できるものである。
この機能を利用することで、水中に含有されるAs5+を除去し、清浄水とするのにも使用可能である。
実施例3と同様な操作で、20mlの被清浄水に20mgのEAAを投入し、被清浄水中のAs5+
をEAAに吸着させて除去した。この操作を行う前と行った後の被清浄水のAs5+含有濃度をICP発光分光分析装置を用いて検出した結果を表9に示す。表9に示すようにAs5+イオンが除去された清浄水とすることができる。
さらに、この浄化に用いたEAAも前記実施例4に示す方法により再生することができるのは無論である。
なおEAARを本実施例に用いる場合は、その吸着能力の低下を加味して、EAAより多くの量を使用するのが適切である。
また、表8に示す以上にAs残量を少なくする場合は、EAAの投入量を表8に示す以上に増加すれば可能と考えられる。
さらに、As5+の浄化のみに用いる場合は、EAAが着色されていても問題は無いので、検出のためには不適切であった有色材料を用いることも可能である。
【表8】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】

【特許文献1】特開平07−088482公報
【特許文献2】特開平9−327694公報
【特許文献3】特開2000−176441公報
【特許文献4】特開2005−000747公報
【特許文献5】特開2000−024647公報
【特許文献6】特開2005−046728公報
【特許文献7】特開平10−137504公報
【特許文献8】特開平08−267053公報
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】P.B. Tchounwou, J.A. Centeno, A.K. Patlolla, Mol. Cell. Biochem. 255 (2004) 47.
【非特許文献2】M.F. Hughes, Toxicol. Lett. 133 (2002) 1.
【非特許文献3】X. Peng, G.S. Chen, Chin. J. Anal. Chem. 31 (2003) 38.
【非特許文献4】H. Matsunaga , C. Kanno, T. M. Suzuki, Talanta 66 (2005) 1287.
【非特許文献5】C. Ludwig, H.J. Gotze, M. Dolny, Spectrochim. Acta Part A 56 (2000) 547.
【非特許文献6】C. Ludwig, M. Dolny, H.J. Gotze, Spectrochim. Acta Part A 53 (1997) 2363.
【非特許文献7】V. Dufailly, L. Noel, T. Guerin, Anal. Chim. Acta 611 (2008) 134.
【非特許文献8】R. Piech,W.W. Kubiak, J. Electroanal. Chem. 599 (2007) 59.
【非特許文献9】C. Lomonte, M. Currell, M.J.S. Richard, Anal. Chim. Acta 583 (2007) 72.
【非特許文献10】J. Michon, V. Deluchat, R.A. Shukry, C. Dagot, J.C. Bollinger, Talanta 71 (2007) 479.
【非特許文献11】C.G. Bruhn, C.J. Bustos, K.L. Saez, J.Y. Neira, S.E. Alvarez, Talanta 71 (2007) 81.
【非特許文献12】X. Li, Y. Su, K. Xu, Talanta 72 (2007 1728).
【非特許文献13】A.L. Lindberg,W. Goessler, M. Grander, B. Nermell, M. Vahter, Toxicol. Lett. 168 (2007) 310.
【非特許文献14】Y.C. Yip, H.S. Chu, C.F. Yuen,W.C. Sham, J. AOAC Int. 90 (2007) 284.
【非特許文献15】Z.L. Zhu, J. Liu, S.H. Zhang, Anal. Chim. Acta 607 (2008) 136.
【非特許文献16】D. Vincent, N. Laurent, G. Thierry, Anal. Chim. Acta 611 (2008) 134.
【非特許文献17】P. Heitland, H.D. Koster, J. Anal. Toxicol. 32 (2008) 308.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中のAsイオンを吸着するEAAであって、前記Asイオンを吸着して光学特性が変化するレセプターがナノ構造物に担持されていることを特徴とするEAA。
【請求項2】
請求項1に記載のEAAにおいて、前記レセプターがモリブテン酸アンモニウムであることを特徴とするEAA。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のEAAにおいて、そのナノ構造物が、酸化チタンナノチューブであることを特徴とするEAA。
【請求項4】
水中のAsイオン濃度を検出する方法であって、請求項1から3のいずれかに記載のEAAを、酸性の被検出水中に投入攪拌し、この液をろ過して、前記EAAを回収乾燥して、その分光学的特性を計測することを特徴とする水中のAsイオン濃度の検出方法。
【請求項5】
水中のAsイオンを除去する方法であって、請求項1から3のいずれかに記載のEAAを、酸性の被清浄化水中に投入攪拌し、次に、この被清浄化水より前記EAAを分離除去して、Asイオンを取り除いた清浄水をえることを特徴とする水中からのAsイオン除去方法。
【請求項6】
請求項4の検出方法または請求項5のAsイオン除去方法で用いたAsを吸着したEAAの再生方法であって、Asを吸着したEAAをアルカリ性水中に投入攪拌し、吸着したAsイオンを、前記アルカリ水中に放出させることを特徴とするEAAの再生方法。
【請求項7】
請求項4の検出方法または請求項5のAsイオン除去方法において、請求項6にて再生したEAAを用いることを特徴とするAsイオンの検出方法又は除去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−143737(P2012−143737A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6345(P2011−6345)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】