説明

ビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸およびそれの製造方法

【課題】ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンからビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸を製造する方法の提供。
【解決手段】ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンを、有機リン化合物を錯塩結合して含有する、元素の周期律表の第VIII族の遷移金属化合物および過剰の有機リン化合物の存在下に均一な有機相中で合成ガスと70〜160℃の温度および5〜35MPaの圧力で反応させ、得られた3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを酸化するか、あるいは、得られた3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンに水素化し、さらに該ジオールをアルカリ溶融物中で反応させることを特徴とするビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸およびそれをビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンから製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環中に孤立二重結合を有する縮合された脂環式不飽和炭化水素は、重要な用途のある化合物に転化される価値ある原料である。この場合、環状に構成され且つ縮合された炭化水素骨格は特別な性質を与える。これらの化合物群の重要な一つの例には、シクロペンタジエンの二量体化によって簡単に製造できそして工業的規模でも製造されるジシクロペンタジエン(DCP)があり、このものは用途のある重要な化合物に転化される。それのトリシクロデカン骨格は特別な性質を付与する。DCPから誘導される、トリシクロデカン構造を有する化合物は文献でしばしばTCD−誘導体とも称されている(Chemiker-Zeitung、98、1974、第 70 〜76頁参照)。
【0003】
特にDCPのヒドロホルミル化は、TCD−ジアルデヒドとも称される3(4),7(8)−ビスホルミル−トリシクロ[5.2.1.02.6]デカンの様な興味あるTCD−アルデヒドをもたらす。この化合物は重要な中間生成物に更に加工される。蒸留処理の過程で損失を生じさせる熱不安定性のためにTCD−ジアルデヒドは殆ど純粋な状態で単離されずに、ヒドロホルミル化反応の粗生成物として更なる加工に供される。
【0004】
一酸化炭素と水をオレフィン性二重結合に接触的に付加することによってアルデヒドを製造することは公知である。この反応は以前には触媒として殆ど専らコバルトを用いて実施されてきたが、最近の方法では触媒として単独でまたは錯塩形成性リガンド、例えば有機ホスフィンまたは亜リン酸のエステルと一緒に使用される金属ロジウムまたはロジウム化合物を用いて実施されている。業界で共通の意見によれば、反応条件のもとで有効な触媒は一般式H(Rh(CO)4−x)によって表されるロジウムのヒドリドカルボニル化合物である。上記式中、Lはリガンドを意味しそしてxは0または1〜3の整数である。
【0005】
特別な場合はジエンをヒドロホルミル化するものである。ヒドロホルミル化の場合には共役ジエンからオキソ合成の通例の条件の下で専らモノアルデヒドが得られるが、孤立二重結合を持つジシクロペンタジエン(DCP)からはモノ置換生成物の他にジ置換生成物も製造される。DCPのヒドロホルミル化生成物は非常に重要なので、DCPのヒドロホルミル化反応並びに粗生成物の後続の後処理に関する沢山の方法が文献に掲載されている。例えばドイツ特許出願公開第3,822,038号(A1)明細書および英国特許第1,170,226号明細書では、DCPをロジウムの存在下に有機溶剤中で高温高圧のもとでヒドロホルミル化することを提案している。ジシクロペンタジエンのヒドロホルミル化についての総括的説明は“Chemiker-Zeitung 98”、1974、第70〜76頁にあり、ここでも粗ヒドロホルミル化混合物の蒸留処理の際に多大な生成物損失をもたらすTCD−アルデヒドの熱不安定性が同様に言及されている。それ故にTCD−ジアルデヒドは殆ど純粋の状態では単離されず、オキソ合成の副生成物との混合物の状態で更に加工される。従来技術、例えばヨーロッパ特許出願公開第1,065,194号(A1)明細書および米国特許第5,138,101号(A)明細書には熱を負荷せずに抽出処理する方法に言及されている。この場合には極性の有機溶剤、例えば多価アルコールまたはメタノール/水−混合物で有機系粗混合物が抽出処理され、その際にTCD−ジアルデヒドが極性のアルコール相中に移りそしてヒドロホルミル化触媒が炭化水素相中に残留する。
【0006】
TCD−ジアルデヒドは重要な中間生成物に更に加工される。例えばTCD−ジアルデヒドを酸化すると、化学工業の価値ある中間生成物として経済的に非常に価値を有するFCD−酸DSとも称されるトリシクロ[5.2.1.02.6]デカン−3(4),8(9)−ジカルボン酸がもたらされる(J.Prakt. Chem. 14, (1961), 71; Chemiker-Zeitung 98, 1974, 第70-76頁)。
【0007】
このジカルボン酸への別のルートは、TCD−アルデヒドの水素化によって製造されるTCD−アルコールDMの{3(4),8(9)−ジヒドロキシメチル−トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン}をアルカリ溶融することによって開かれる。このアルカリ溶融はアルコールと溶融アルカリ金属水酸化物とを高温高圧で反応させることによって行われそして水素の放出下に酸がアルカリ金属塩となる(米国特許第2,881,208(A)号明細書、同第2,875,244(A)号明細書、フランス特許出願公開第1,155,677(A)号明細書)。
【0008】
二価のTCD−酸DSは多方面での種々の用途にとって工業的に非常に興味が持てるものであり、例えば塗料および合成樹脂調製物において、可塑剤のためにおよび潤滑油において酸成分として非常に興味が持てるものである(米国特許第2,875,244(A)号明細書,同第2,881,208(A)号明細書)。
【0009】
それ故に、縮合された脂環式炭化水素をベースとするジカルボン酸が経済的に非常に重要であるので、縮合された環を持つ環状構造化された炭化水素骨格を持つジカルボン酸を高純度で更に価格的に有利に製造するという要求がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故に本発明は、ビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸なる化合物に関する。
【0011】
同様に本発明は、ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンをヒドロホルミル化し次いで酸化することによってビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸を製造する方法に関する。この方法は、ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンを、有機リン化合物を錯塩結合して含有する、元素の周期律表の第VIII族の遷移金属化合物および過剰の有機リン化合物の存在下に均一な有機相中で合成ガスと70〜160℃の温度および5〜35MPaの圧力で反応させ、そしてこうして得られた3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを次いでビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸に酸化することを特徴とする。
【0012】
更に、本発明はビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンをヒドロホルミル化し、次いで水素化しそしてアルカリ溶融物中で後続反応させることによってビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸を製造する方法にある。この方法は、ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンを、有機リン化合物を錯塩結合して含有する、元素の周期律表の第VIII族の遷移金属化合物および過剰の有機リン化合物の存在下に均一な有機相中で合成ガスと70〜160℃の温度および5〜35MPaの圧力で反応させ、こうして得られた3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンに水素化し、そうして得られる3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを高温高圧でアルカリ溶融物中で反応させそして次にビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸を放出することを特徴とする。
【0013】
本発明の化合物は、ブタジエンとシクロペンタジエンとのディールス・アルダー反応によって工業的に製造されそしてそれゆえに価格的に有利な量で容易に製造されるビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンから誘導される。
【0014】
不飽和の二環式炭化水素中に結合した炭素原子の番号付けは次の順序に従う:
【化1】

【0015】
ただし両方の構造式は同一である。
【0016】
本発明の化合物のビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸は、六員環中のカルボニル基が3−位または4−位に一つありそして五員環のカルボニル基が7−位または8−位で結合していてもよい種々の異性体の混合物である。
【0017】
Chemiker-Zeitung, 98, 1974, 第70〜76頁に従うTCD−誘導体についての慣用の表示法と同様に本発明の化合物のビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸は次の様な式で記載することができる:
【化2】

【0018】
ただし両方の構造式は同一である。
【0019】
出発生成物のビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンはそのままでまたは溶液状態でヒドロホルミル化に供給することができる。適する溶剤は、出発物質、反応生成物および触媒を溶解しそして反応条件のもので不活性の挙動を示すものであり、例えば水不溶性のケトン、ジアルキルエーテル、脂肪族ニトリル、芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、異性体キシレンまたはメシチレン、および飽和脂環式炭化水素、例えばシクロペンタンまたはシクロヘキサン、または飽和脂肪族炭化水素、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタンまたはn−オクタンである。反応媒体中の溶剤の割合は広い範囲で変更することができ、反応混合物を規準として一般に10〜80重量%、好ましくは20〜50重量%である。
【0020】
ヒドロホルミル化段階は均一な反応系で実施する。均一な反応系とは、場合によっては反応段階で添加される溶剤、触媒、過剰の有機燐化合物、未反応出発化合物およびヒドロホルミル化生成物で実質的に組成される均一な溶液を意味する。
【0021】
触媒としては、錯塩結合した有機燐化合物を含有する、元素周期律表の第VIII族の遷移金属化合物を用いる。殊にコバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、鉄、白金、パラジウムまたはルテニウムの錯塩化合物、特にコバルト、ロジウムおよびイリジウムの錯塩化合物を使用するのが有利である。中でも、リガンドとして有機燐(III)-化合物を含有するロジウム錯塩化合物を用いるのが有利である。この種の錯塩化合物およびそれの製造法は例えば米国特許第3,527,809(A)号明細書、同第4,148,830(A)号明細書、同第4,247,486(A)号明細書、同第4,283,562(A)号明細書から公知である。これらは1種類の錯塩化合物としてもまたは種々の錯塩化合物の混合物としても使用することができる。反応媒体中のロジウム濃度は均一な反応混合物を規準として、5〜1000重量ppmの範囲内にあり、好ましくは10〜700重量ppmである。均一な反応混合物を規準として、20〜500重量ppmの濃度でロジウムを使用するのが特に有利である。ヒドロホルミル化はロジウム−有機燐錯塩化合物と遊離の、即ちロジウムと一緒に錯塩化合物中に入り込んでいない過剰の有機燐リガンドとよりなる触媒系の存在下に実施する。遊離の有機燐リガンドはロジウム錯塩化合物中のものと同じでもよいし、これと異なるリガンドを使用してもよい。遊離リガンドは一様な化合物であってもまたは異なる有機燐化合物の混合物で組成されていてもよい。触媒として使用できるロジウム−有機燐錯塩化合物の例は米国特許第3,527,809(A)明細書に記載されている。ロジウム−錯塩触媒中の特に有利なリガンドには例えばトリフェニルホスフィンの様なトリアリールホスフィン;トリアルキルホスフィン、例えばトリ(n−オクチル)−ホスフィン、トリラウリルホスフィン、トリ−(シクロヘキシル)−ホスフィン;アルキルアリールホスフィン;アルキルホスフィット;アリールホスフィット;アルキルジホスフィットおよびアリールジホスフィットがある。例えば一般式
P(OR1)(OR2)(OR3)
[式中、R1、R2およびR3はオルト位で置換されたフェニル環である。]
で表されるアリールホスフィットを錯塩結合して含有するロジウム錯塩化合物も同様に使用できる。適する錯塩リガンドとしてはトリス(2−第三ブチルフェニル)ホスフィットまたはトリス(2−第三ブチル−4−メチルフェニル)ホスフィットが実証されている。ホスフィットで変性された錯塩化合物を用いてオレフィンをロジウムの触媒作用でヒドロホルミル化することはヨーロッパ特許出願公開第0,054,986(A1)号明細書から公知である。容易に入手できることからトリフェニルホスフィンが特に有利によく使用される。
【0022】
一般に、均一な反応混合物中でのロジウムと燐とのモル比は1:5〜1:200であるが、有機燐化合物の状態の燐のモル割合は更に多くても良い。ロジウムと、有機的に結合した燐とは1:10〜1:100のモル比で使用するのが有利である。
【0023】
ヒドロホルミル化段階においてロジウム以外の周期律表の第VIII族の遷移金属を使用する場合には、遷移金属の濃度および遷移金属と燐とのモル比は、ロジウムの場合にも選択される範囲内にある。個別での最適な値はその都度に使用される遷移金属毎に簡単な予備実験によって決められる。
【0024】
ヒドロホルミル化が進められる条件は広い範囲で変更することができ、個々の状況に適合させることができる。このような条件は中でも、使用される材料、選択される触媒系および意図する転化率に左右される。一般にビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンのヒドロホルミル化は70〜160℃の温度で実施する。特に80〜150℃の温度、中でも90〜140℃の温度を維持するのが有利である。全圧は5〜35MPa、好ましくは10〜30MPa、特に好ましくは20〜30MPaの範囲内にある。水素と一酸化炭素とのモル比は一般に1:10〜10:1の間で変動し、水素と一酸化炭素とを3:1〜1:3、特に約1:1のモル比で含有する混合物が特に適している。
【0025】
触媒は一般に遷移金属または遷移金属化合物、有機燐化合物および合成ガスからヒドロホルミル化反応の条件のもとで反応混合物中で形成する。しかしながら触媒を最初に予め形成し、それを次いで個々のヒドロホルミル化段階に供給することも可能である。この場合、予備形成の条件は一般にヒドロホルミル化条件に一致している。
【0026】
ヒドロホルミル化触媒を製造するために、元素周期律表の第VIII族の遷移金属、特にロジウムを金属の状態でまたは化合物として使用する。遷移金属は、金属の状態では微細粒子としてまたは担体、例えば活性炭、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、アルミナ等に薄い層として担持させて使用する。遷移金属化合物としては脂肪族のモノおよびポリカルボン酸の塩、例えば遷移金属−2−エチルヘキサノエート、−酢酸塩、−蓚酸塩、−プロピオン酸塩または−マロン酸塩等が適している。更に無機系水素−および酸素酸の塩、例えば硝酸塩または硫酸塩、種々の遷移金属酸化物または遷移金属カルボニル化合物、例えばRh3(CO)12、Rh6(CO)16、Co2(CO)8、Co4(CO)16、Fe(CO)5、Fe2(CO)9、Ir2(CO)8、 Ir4(CO)12等、または遷移金属錯塩化合物、例えばシクロペンタジエニル−ロジウム化合物、ロジウムアセチルアセトナート、シクロペンタジエニル−コバルト−シクロオクタジエン−1,5、Fe(CO)3−シクロオクタジエン−1,5、[RhCl(シクロオクタジエン−1,5]2またはPtCl2(シクロオクタジエン−1,5)を使用することができる。遷移金属ハロゲン化合物はハロゲン化物イオンの腐食挙動のためにあまり適していない。
【0027】
特に遷移金属酸化物、中でも遷移金属アセテートおよび−2−エチルヘキサノエートが特に適している。酸化ロジウム、酢酸ロジウム、2−エチルヘキサン酸ロジウム、酸化コバルト、酢酸コバルトおよび2−エチルヘキサン酸コバルトが特に適していることが判っている。
【0028】
ヒドロホルミル化段階は不連続的にも連続的にも実施することができる。本発明の方法によれば原料オレフィンのビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンが殆ど完全に反応しそして、粗ヒドロホルミル化生成物を規準として一般に75重量%以上の高含有量で所望のビスホルミル生成物を含有する粗ヒドロホルミル化生成物が得られる。
【0029】
ヒドロホルミル化段階の反応生成物は一般に更に精製することなしにおよび触媒を分離せずに後加工されるが、後加工の前にジアルデヒドを蒸留精製するのが合目的的である。
【0030】
本発明の方法の一つの実施態様においては、有利にも精製したアルデヒドを酸素または酸素含有ガスと、または一般的な酸化剤、例えば過酸化水素、アルカリ金属次亜塩素酸塩または過マンガン酸カリウムの存在下に反応させる。酸素または酸素含有ガスを酸化触媒の不存在下にまたは存在下に使用するのが有利である。
【0031】
この種類のガス混合物の別の成分は不活性ガス、例えば窒素、希ガスおよび二酸化炭素である。酸素含有ガス混合物の不活性成分の割合は90容量%まで、特に30〜80容量%までである。特に有利な酸化剤は酸素または空気である。
【0032】
酸化段階のための触媒としては好ましくは遷移金属の塩が適し、特にコバルトおよびマンガンの塩並びにドイツ特許第10,010,771(C1)号明細書から公知のクロム、鉄、銅、ニッケル、銀およびバナジウムの塩が適する。弱酸のアルカリ金属塩を添加することも所望のジカルボン酸の選択率に有利な効果を示す。
【0033】
アルデヒドは反応条件の下で不活性の溶剤に溶解して使用する。溶剤の添加は、酸化反応の際に生じるビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸が室温で固体なので必要である。適する溶剤の例にはアセトンの様なケトン類、エステル類、例えば酢酸エチル、炭化水素、例えばトルエン、および窒素系炭化水素、例えばニトロベンゼンがある。アルデヒドの濃度は溶剤へのそれの溶解性並びに生じるジカルボン酸の溶解性によって制限される。
【0034】
酸化段階は不連続的にも連続的にも実施できる。未反応の反応成分の回収は両方の場合に可能である。
【0035】
実証された一つの実施態様によれば、3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを溶剤、例えばトルエンと一緒に適当な反応器、例えば場合によっては充填物を含有するフロートレーを備えたチューブ状反応器に最初に導入しそして酸素または酸素含有ガスを、底部からアルデヒドを通して導入する。反応成分同志を20〜80℃、好ましくは40〜80℃の温度範囲内で常圧で反応させる。しかしながら高めた圧力を用いることも排除されない。一般に常圧〜1.0MPaの範囲内、好ましくは常圧〜0.8MPaの範囲内で実施する。
【0036】
別の一つの実施態様によれば、反応器として充填物を含有する細流塔(trickle tower)を使用する。アルデヒドは充填物を通って細流流下させ、同時に並流または向流状態で酸素または酸素含有ガスを導入する。
【0037】
所望のビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸が溶剤の除去後に固体として得られる。このものは適当な手段によって、例えば再塩化および再結晶化によって更に精製することができる。
【0038】
本発明の方法の別の一つの実施態様においては、最初に3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを水素化して3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンとし、次いで高温高圧の下でアルカリ金属溶融物中で反応させる。
【0039】
粗3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンまたは場合によっては精製された3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを、一般的な通例の反応条件のもとで慣用の水素化触媒の存在下に水素化する。一般に水素化温度は70〜170℃であり、使用される圧力は1〜30MPaである。水素化触媒としては特にニッケル触媒が適している。
【0040】
触媒活性金属を担体に、触媒の総重量を規準として一般に約5〜約70重量%、好ましくは約10〜約65重量%、特に好ましくは約20〜約60重量%の量で担持させる。担持触媒の担体としては慣用のあらゆる担体材料、例えば酸化アルミニウム、色々な形態の水酸化アルミニウム、二酸化珪素、珪藻土を含めたポリ珪酸(シリカゲル)、シリカキセロゲル類(silica xerogels)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムおよび活性炭が適する。主成分のニッケルおよび担体の他に触媒は添加物を二次的な量で含有していてもよい。それには例えばその水素化活性および/またはその寿命および/またはその選択性を向上させる働きをするものがある。この種の添加物は公知であり、それらには例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウムおよびクロムの酸化物がある。これらは触媒に100重量部のニッケルを規準として一般に合計で0.1〜50重量部の割合で添加される。
【0041】
しかしながら担体の無い触媒、例えばラネーニッケルまたはラネーコバルトも水素化段階で使用することができる。
【0042】
水素化段階は、懸濁された触媒を含有する液相においてまたは固定触媒床を用いて液相または気相で不連続的にもまたは連続的にも実施される。連続的に実施するのが特に有利である。
【0043】
水素化は好ましくは純粋の水素を用いて行うのが有利である。しかしながら遊離水素、およびその他に水素化条件のもとで不活性である成分を含有する混合物も使用することができる。いずれの場合にも、水素化ガスは硫黄化合物または一酸化炭素のような触媒毒を有害な量で含有しない様に注意するべきである。
【0044】
こうして得られるジオールを次いで有利には蒸留精製し、次いで高温、一般に220〜350℃でそして高圧、一般に0.5〜5MPaでアルカリ溶融物中で反応させる。アルカリ溶融物を製造するためにアルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム並びにそれらの混合物を使用する。一般にジオールとアルカリ金属水酸化物の重量比は1:2.1〜1:2.6、好ましくは1:2.1〜1:2.3である。反応の間に水素が放出され、その結果反応は好ましくは密閉された耐圧容器中で実施される。反応は高沸点の不活性溶剤の存在下でも実施することができるにもかかわらず、溶剤の不存在下に実施するのが好ましい。反応の終了後に反応混合物を水と混合しそして中性の副反応生成物を有機溶剤、例えばトルエンで抽出処理してもよい。次いで水性相を酸性化しそして生じる有機相中の遊離ジカルボン酸を分離する。ここでも適当な有機溶剤を使用してもよい。必要な場合には、こうして製造されたジカルボン酸から減圧下に、使用した有機溶剤を留去するかまたは再結晶化によって更に精製してもよい。
【0045】
本発明の方法は簡単に且つ経済的にビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸を高収率で且つ高純度でもたらす。本発明の方法に従って製造されるジカルボン酸は色々な用途で有利に使用され、例えば塗料および合成樹脂調製物の、可塑剤のおよび潤滑油中の成分として使用される。
【0046】
以下に本発明の方法を幾つかの実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は記載した実施例に限定されない。
[実施例]
ビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸の製造:
【実施例1】
【0047】
3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンの製造:
マグネットスタラーを含有するスチール製オートクレーブ中に、1000gの工業用品質のビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンおよび1000gのトルエンを最初に導入する。12.75gのトリフェニルホスフィン並びに50mgのRh(7062mgのRh/gの含有量のRh−2−エチルヘキサン酸塩のトルエン溶液の状態)の添加後に、この混合物を130℃に加熱し、26MPaの圧力のもとで合成ガスで処理する。8時間の反応時間の後に、ヒドロホルミル化反応を終了する。
【0048】
有機相をガスクロマトグラフィーで試験する:
GC−分析(トルエンなしでの面積%)
初留成分 0.2
ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエン領域 0.1
各成分 4.6
3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナン 89.1
トリフェニルホスフィン/トリフェニルホスフィンオキシド 1.2
高沸点成分 4.8
【実施例2】
【0049】
ビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸の製造:
2.1: 3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンのアルカリ溶融物
2.1.1: 3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンの製造
ヒドロホルミル化の後で得られる粗3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを薄層蒸発器での蒸留によって殆どトルエンを留去する(ジャケット温度:140℃、圧力:100hPa)。ガスクロマトグラフィー分析によると6.7%のトルエンおよび83.8%の3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンの他に未だ9.5%の成分を含有している残留物が得られる。
【0050】
次いで300gのイソブタノールで希釈した700gの残留物および42gのJohnson Matthey Plc社のNi 52/35−触媒を3Lのオートクレーブ中に最初に導入する。この反応混合物を130℃に加熱しそして10.0MPaの圧力で8時間の反応時間、反応させる。反応終了後に冷却し、圧力開放しそして触媒を濾去する。こうして得られる反応生成物をガスクロマトグラフィー分析する。
GC−分析(面積%):
初留成分 1.3%
イソブタノール/トルエン/メチルシクロヘキサン 29.2%
3(4),7(8)-ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナン 62.8%
その他 6.7%
後処理するために粗水素化生成物をクライゼン蒸留システムを用いて蒸留する。825.3gを使用した場合には、1hPaの圧力で178〜179℃の沸点範囲の主要留分459.3gが得られ、以下の組成を有している:
GC−分析(面積%):
初留成分 0.1%
3(4),7(8)-ジヒドロキシメチルビシクロ[4.3.0]ノナン 97.3%
その他 2.6%
2.1.2: 3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンのアルカリ溶融物
3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンの水素化および続く蒸留の後に得られる3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンをアルカリ溶融物中で使用する。
【0051】
184.3gのこのジオールを12.0gの酢酸と一緒に1Lのオートクレーブ中に最初に導入し、57.6gのNaOH(固体、純粋)並びに62.6gのKOH(固体、85%の純度)と混合する。攪拌下にこの混合物を250℃に加熱し、その際に圧力を2MPaに調整する。250℃で2時間後に温度を280℃に高め、圧力は2MPaのままとする。280℃で2時間の反応時間の後に、混合物を冷し、その際に約160℃で300gの量の水をポンプ供給する。生じる溶液を185.0gのトルエンと混合し、1813.0gの20%濃度硫酸を添加することによって酸性化する。次いで有機相を300.0gの水で5回抽出処理する。溶剤を留去した後に所望のジカルボン酸が蒸留残さ中に固体として析出する。ビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸の重量は99.07%の純度で197.1gであった。
【0052】
特徴:
元素分析
C11H16O4(212,2)計算値: C 62.3 %、 H 7.6 %、 O 30.2 %
測定値: C 63.3 %、 H 7.2 %、 O 27.7 %
NMR−データ
1H-NMR (500 MHz、DMSO-d6、ppm): 1,06-2,88 (m, 14 H, CH およびCH2)、11,95 (s, 2H, COOH)
13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6, ppm): 21,02-49,24 (CH およびCH2), 174,64〜177,97 (COOH)
IR−データ(Diamant-ATR-IR 分光分析法)
n (cm-1) 3000 (m, br)、2933 (m)、2865 (m)、1691 (s)、926 (m)
2.2: 3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンの酸化
3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンからビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸への液相酸化を、触媒を添加せずに38mmの内径および150cmの長さを有するガラス製泡鐘塔反応器で実施する。反応挙動次第で反応器を、熱交換器に連結された水循環系による側面ジャケットで冷却または加熱し、従って内部温度を一定に維持する。酸素の供給は泡鐘塔反応器に連結された最大孔幅16〜40μmのガラス製濾過板を通して下方から行う。
【0053】
酸化反応の際に、15.6%のトルエン、71.4%の3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナン並びに13.0%の他の成分を含有する、実施例2.1.1に従って薄層蒸発器で溶剤を留去した後に生じた467.8gのジアルデヒドを使用する。この生成物を322.0gのトルエン、並びに2−エチルヘキサン酸カリウムおよび2−エチルヘキサン酸よりなるカリウム含有量5.7%の42.5gの溶液と混合する。
【0054】
60℃に一定にして6時間の反応時間の後に以下の組成の粗酸が得られる:
GC−分析(トルエンおよび2−エチルヘキサン酸を含まない面積%):
3(4),7(8)-ジヒドロキシメチルビシクロ[4.3.0]ノナン 4.7%
ビシクロ[4.3.0]ノナン-3(4),7(8)-ジカルボン酸 75.5%
その他の成分 19.8%
本発明の方法は、高収率でビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸を製造する明快なルートを明らかにした。新規の化合物のビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸は縮合された環を持つ脂環式環構造を有し、塗料および合成樹脂調製物の成分として卓越的に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンをヒドロホルミル化し次いで酸化することによってビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸を製造する方法において、ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンを、有機リン化合物を錯塩結合して含有する、元素の周期律表の第VIII族の遷移金属化合物および過剰の有機リン化合物の存在下に均一な有機相中で合成ガスと70〜160℃の温度および5〜35MPaの圧力で反応させ、こうして得られた3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを次いでビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸に酸化することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンをヒドロホルミル化し、次いで水素化しそしてアルカリ溶融物中で後続反応させることによってビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸を製造する方法において、ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,7−ジエンを、有機リン化合物を錯塩結合して含有する、元素の周期律表の第VIII族の遷移金属化合物および過剰の有機リン化合物の存在下に均一な有機相中で合成ガスと70〜160℃の温度および5〜35MPaの圧力で反応させ、こうして得られた3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンに水素化し、そうして得られる3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンを高温高圧でアルカリ溶融物中で反応させそして次にビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸を放出することを特徴とする、上記方法。
【請求項3】
有機燐化合物としてトリアリールホスフィン、トリアルキルホスフィン、アルキルアリールホスフィン、アルキルホスフィット、アリールホスフィット、アルキルジホスフィットまたはアリールジホスフィットよりなる群から選択される有機燐(III)化合物を使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
トリアリールホスフィンとしてトリフェニルホスフィンをそしてアリールホスフィットとしてトリス(2−第三ブチルフェニル)ホスフィットまたはトリス(2−第三ブチル−4−メチルフェニル)ホスフィットを使用する、請求項3の方法。
【請求項5】
元素周期律表の第VIII族の遷移金属化合物として、ロジウム、コバルト、イリジウム、ニッケル、パラジウム,白金、鉄またはルテニウムの化合物を使用する、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
元素周期律表の第VIII族の遷移金属化合物として、ロジウムの化合物を使用する、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
ロジウムを均一反応混合物を規準として5〜1000重量ppmの濃度で使用する、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
ロジウムを均一反応混合物を規準として10〜700重量ppm、好ましくは20〜500重量ppmの濃度で使用する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ロジウムと燐とのモル比が1:5〜1:200である、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
ロジウムと燐とのモル比が1:10〜1:100である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ヒドロホルミル化の際に80〜150℃の温度、好ましくは90〜140℃の温度でそして10〜30MPa、好ましくは20〜30MPaの圧力で実施する、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
水素化をニッケル触媒の存在下に70〜170℃の温度および1〜30MPaの圧力で実施する、請求項2〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
3(4),7(8)−ジヒドロキシメチル−ビシクロ[4.3.0]ノナンをアルカリ溶融物中で220〜350℃の温度および0.5〜5MPaの圧力で反応させる、請求項2〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
3(4),7(8)−ビスホルミル−ビシクロ[4.3.0]ノナンの酸化を20〜80℃の温度および常圧〜1.0MPaの圧力で実施する、請求項1、3または11に記載の方法。
【請求項15】
酸化剤として酸素または空気を用いる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ビシクロ[4.3.0]ノナン−3(4),7(8)−ジカルボン酸なる化合物。

【公開番号】特開2007−204471(P2007−204471A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17461(P2007−17461)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(398010667)セラニーズ・ケミカルズ・ヨーロッパ・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシユレンクテル・ハフツング (11)
【Fターム(参考)】