説明

ビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体およびその製造方法

【課題】 化学選択性、エナンチオ選択性、反応転化率、触媒活性を示す配位子及び生理活性物質として有用なビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表されるビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体:
【化1】


式中、R1、R2はホスフィノ基。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、遷移金属の配位子や生理活性物質として有用なビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】糖類は、立体配置が確立された多くの不斉炭素原子を持つことから、糖類を不斉炭素源として、いろいろな糖誘導体が研究され、また、立体特異的有機合成における一般的な戦略に有用な物質の一つとして今や定着しつつある。事実、絶対配置をそのまま利用できる天然物の合成から、置換反応、骨格転移などを駆使して複雑な天然物の合成まで多くの報告がある。例えば、ロイコマイシン、タイロシン、リファマイシン、エリスロマイシン、メンタンシン類等の大環状抗生物質、ポリエーテル抗生物質、β−ラクタム抗生物質、アルカロイド類、パリトキシン等が糖類から合成されている。
【0003】近年、リン原子を含有する糖類は注目されている。自然界の多くのバイオレギュレターは、リン原子を含む炭水化物であり、多くの生物学的に重要な生成物や酵素的モデルの重要な情報源として有用であることから、実際に、医薬、界面活性剤、酸化防止剤、試薬、触媒等として利用されている。リン原子を含有する糖類やその関連物質の研究は、段階的に進み、研究初期は一つのσ−結合によりリン原子と糖が結合した誘導体の研究であった。近年は、糖と結合するリン原子の性質、立体異性的特徴や化合物分子の大きさといったタイプの異なる、より複雑な環状構造の化合物の研究へと進んでいる。例えば、下記一般式(13)
【0004】
【化13】


【0005】で表わされる二環性糖亜リン酸エステルは、強固な骨格を持ち、また、医薬、農薬等の生理活性物質として用いる他、不斉合成のための光学活性触媒の配位子として使用する用途で興味がもたれている(E.E.Nifantyev,I.M.Petrova,Zh.Ohshch.Khim.,1970,Vol.40,2196-2199p)。
【0006】従来より、不斉水素化反応、不斉異性化反応、不斉ヒドロシリル化反応などの不斉合成反応の触媒として、多くの遷移金属錯体が使用されており、また、これらの遷移金属錯体について多くの報告がある。その中でも、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ニッケル等の遷移金属に光学活性な第三級ホスフィン化合物を配位させた錯体には、不斉合成反応の触媒として優れた性能を有するものが多く、この触媒の性能を更に高めるために、特殊な構造のホスフィン化合物がこれまでに数多く提案され開発されている。例えば、2,2’‐ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’‐ビナフチル(BINAP)は優れた配位子であり(日本化学会編 化学総説32「有機金属錯体の化学」、237〜238p、昭和57年;Asymmetric Catalysis In Organic Synthesis、野依良治、A Wiley-Interscience Publication)、BINAPを配位子としたロジウム錯体(特開昭55−61937号公報)、ルテニウム錯体(特開昭61−63690号公報)、等が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】遷移金属錯体を不斉合成反応に用いる立場から、従来のホスフィン化合物とは異なった化学選択性、エナンチオ選択性、反応転化率、触媒活性を示す配位子が求められており、本発明の2個の三級ホスフィン基を有する糖類は、従来の配位子より構造的なパラメーターが広がり、光学活性な配位子として別の特性を示すものと期待される。即ち、本発明は、生理活性物質や遷移金属の配位子として有用な新規な前記一般式(1)で表されるビスホスフィノ−α−D−グリコピラノース誘導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明が提供しようとする新規なビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体は、下記一般式(1):
【0009】
【化14】


【0010】{(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に下記一般式(2):
【0011】
【化15】


【0012】(式中、フェニル基は炭素1〜5の低級アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、フッ素、ハロゲン原子で置換されていてもよい)、下記一般式(3):
【0013】
【化16】


【0014】(式中、フェニル基は炭素1〜5の低級アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、フッ素、ハロゲン原子で置換されていてもよい)、下記一般式(4):
【0015】
【化17】


【0016】(式中、ジオキサホスホリナン基は炭素1〜5の低級アルキル基で置換されていてもよい)、下記一般式(5):
【0017】
【化18】


【0018】(式中、Yは炭素数1〜5の低級アルキル基を示す)、又は、下記一般式(6):
【0019】
【化19】


【0020】(式中、Yは炭素数1〜5の低級アルキル基を示す)で表されるホスフィノ基を示す}で表されることを構成上の特徴とする。また、その製造方法は、下記一般式(7):
【0021】
【化20】


【0022】で表される1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノースと、下記一般式(8):
【0023】
【化21】


【0024】(式中、 Xはハロゲン原子を示し、フェニル基は炭素1〜5の低級アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、フッ素、ハロゲン原子で置換されていてもよい)、下記一般式(9):
【0025】
【化22】


【0026】(式中、 Xは前記と同義。フェニル基は、炭素1〜5の低級アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、フッ素、ハロゲン原子で置換されていてもよい)、下記一般式(10):
【0027】
【化23】


【0028】(式中、Xは前記と同義、ジオキサホスホリナン基は炭素1〜5の低級アルキル基で置換されていてもよい)、下記一般式(11):
【0029】
【化24】


【0030】(式中、Xは前記と同様、Yは炭素数1〜5の低級アルキル基を示す)、又は、下記一般式(12):
【0031】
【化25】


【0032】(式中、Xは前記と同様、Yは炭素数1〜5の低級アルキル基を示す)で表されるハロゲン化ホスフィン化合物から選ばれた1種とを反応させることを構成上の特徴とする。
【0033】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。前記一般式(1)で表されるビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体の式中、R1およびR2は、前記一般式(2)、(3)、(4)、(5)および(6)で表されるホスフィノ基であり、前記一般式(2)および(3)の式中、フェニル基は、炭素1〜5の低級アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、フッ素、ハロゲン原子で置換されていてもよく、具体的には、p−トリル基、p−メトキシフェニル基、p−トリフルオロメチルフェニル基、p−フルオロフェニル基、p−トリフルオロメチルフェニル基、p−ジメチルアミノフェニル基、p−tert−ブチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、3,5−ジメチル−4−メトキシフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、3,5−ジトリフルオロメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、ビフェニル基等が挙げられる。前記一般式(4)の式中、ジオキサホスホリナン基は、炭素数1〜5の低級アルキル基で置換されていてもよく、具体的には、1,3,2−ジオキサホスホリナン、5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン、5,5−ジエチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン等が挙げられる。
【0034】前記一般式(5)および(6)の式中、Yは炭素数1〜5の低級アルキル基であり、具体的には、1,3−ジメチル−1,3,2−ジアザホスホリン、1,3−ジエチル−1,3,2−ジアザホスホリン、1,3−ジ−tert−ブチル−1,3,2−ジアザホスホリン、3−N−メチル−1,3,2−オキサアザホスホリン、3−N−エチル−1,3,2−オキサアザホスホリン、3−N−tert−ブチル−1,3,2−オキサアザホスホリン、等が挙げられる。
【0035】前記一般式(1)で表わされるビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体を具体的に例示すると、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジ−p−メトキシフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジ−p−トリフルオロメチルフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジ−p−フルオロフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジ−p−ジメチルアミノフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジp−tert−ブチルフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジ−p−ペンタフルオロフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イル)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イル)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(2,2’−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(4,4’−ジメチル−2,2’−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(4,4’−ジトリフルオロメチル−2,2’−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(4,4’−ジフルオロ−2,2’−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(4,4’−ジメチルアミノ−2,2’−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(4,4’−ジ−p− tert−ブチル−2,2’−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(ジペンタフルオロビスフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(1,3−ジメチル−1,3,2−ジアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(1,3−ジエチル−1,3,2−ジアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(1,3−ジ−tert−ブチル−1,3,2−ジアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(3−N−メチル−1,3,2−オキサアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(3−N−エチル−1,3,2−オキサアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノース、1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(3−N−tert−ブチル−1,3,2−オキサアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノース、等が挙げられる。
【0036】次いで、本発明の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、前記一般式(7)で表される1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノースと、前記一般式(8)、(9)、(10)、(11)又は(12)で表わされるハロゲン化ホスフィン化合物とを反応させることに特徴がある。かかる前記一般式(7)で表される1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノースは公知の方法で得ることができ、例えば下記反応式(1):
【0037】
【化26】


【0038】に従って、1−メチル−α−D−グルコピラノースから6−トシル誘導体を得た後、アルカリで加水分解することにより容易に得ることができる。
<ハロゲン化ホスフィン化合物>もう一方の反応原料である前記一般式(8)、(9)、(10)、(11)および(12)で表されるハロゲン化ホスフィン化合物の式中、 Xは塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子であり、残基は、前記一般式(2)、(3)、(4)、(5)および(6)で表されるホスフィノ基を表わし、ハロゲン化ホスフィン誘導体の具体的な化合物としては、例えば、ジフェニルクロロホスフィン、ジフェニルブロモホスフィン、ジp−トリルクロロホスフィン、ジp−トリルブロモホスフィン、ビス(p−メトキシフェニル)クロロホスフィン、ビス(p−メトキシフェニル)ブロモホスフィン、ビス(p−トリフルオロメチルフェニル)クロロホスフィン、ビス(p−トリフルオロメチルフェニル)ブロモホスフィン、ビス(p−フルオロフェニル)クロロホスフィン、ビス(p−フルオロフェニル)ブロモホスフィン、ビス(p−トリフルオロメチルフェニル)クロロホスフィン、ビス(p−トリフルオロメチルフェニル)ブロモホスフィン、ビス(p−フルオロフェニル)クロロホスフィン、ビス(p−フルオロフェニル)ブロモホスフィン、ビス(p−ジメチルアミノフェニル)クロロホスフィン、ビス(p−tert−ブチルフェニル)クロロホスフィン、ビス(3,5−ジメチルフェニル)クロロホスフィン、ビス(3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)クロロホスフィン、ビス(3,4,5−トリメトキシフェニル)クロロホスフィン、ビス(3,5−ジメチル−4−メトキシフェニル)クロロホスフィン、ビス(3,5−ジクロロフェニル)クロロホスフィン、ビス(3,5−ジトリフルオロメチル)フェニルクロロホスフィン、ビス(ペンタフルオロフェニル)クロロホスフィン、ビフェニルクロロホスフィン、2,2‘−ビフェノキシクロロホスフィン、4,4‘−ジメチル−2,2‘−ビフェノキシクロロホスフィン、2−クロロ−1,3,2−ジオキサホスホリナン、2−クロロ−5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン、2−クロロ−5,5−ジエチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン、2−クロロ−1,3−ジメチル−1,3,2−ジアザホスホリン、2−クロロ−1,3−ジエチル−1,3,2−ジアザホスホリン、2−クロロ−1,3−ジ−tert−ブチル−1,3,2−ジアザホスホリン、2−クロロ−3−N−メチル−1,3,2−ジアザホスホリン、2−クロロ−3−N−エチル−1,3,2−ジアザホスホリン、2−クロロ−3−N−tert−ブチル−1,3,2−ジアザホスホリン、等が挙げられる。
【0039】<反応条件>前記一般式(7)で表されるメチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノースに対する前記一般式(8)、(9)、(10)、(11)又は(12)から選ばれたホスフィン誘導体とのモル比は、通常2〜4、好ましくは2〜3である。反応温度は、通常0〜80℃、好ましくは5〜30℃であり、反応時間は1〜30時間、好ましくは2〜4時間である。なお、本発明では、更に塩基の存在下に上記反応を行うことにより、より円滑に反応を行うことができる。塩基としては、特に限定はなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン等のアミン類、ピペリジン、ピリジン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いられる。
【0040】かかる塩基の添加量は、前記一般式(7)で表される1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノース1モルに対して、通常0.5〜5.0モル当量である。反応溶媒としては、前記一般式(7)で表される1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノースと前記一般式(8)、(9)、(10)、(11)又は(12)のホスフィン誘導体に対して不活性な溶媒であれば特に限定はないが、例えば、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、クロロホルム等の1種又は2種以上が挙げられる。反応終了後、常法により、濾過、乾燥することにより、本発明の前記一般式(1)で表されるジホスフィン基を含有するα−D−グルコピラノース誘導体を得ることができるが、本発明では、更に、クロマトグラフィー、蒸留等により精製することができる。かくして本発明の前記一般式(1)で表されるビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体が得られるが、本発明の前記一般式(1)で表されるビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体は、例えば、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ニッケル、白金、コバルト、チタン等の所望の遷移金属と錯体を形成することができる。
【0041】
【実施例】以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明は、これらに限定されるものではない。
実施例1<1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホナリン−2−イル)−α−D−グルコピラノース>ベンゼン20mlに2−クロロ−5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホナリン8.3gを含有する溶液を、1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノース4.3g、トリエチルアミン5gを含有するベンゼン55mlに撹拌下に反応系内の温度を5℃に維持しながら40分かけて添加し、更に、25℃で3時間反応させた。次いで、反応液を濾過して、ろ液を減圧濃縮した。残留物をヘキサン(3×75ml)で洗浄し、減圧濃縮して目的物8.1g(収率76%)を得た。目的物を31P NMR分析、元素分析の結果、表1に示される構造の1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホナリン−2−イル)−α−D−グルコピラノースであることを確認した。
【0042】・同定データ融点;95−96℃Rf値;0.79(ベンゼン:ジオキサン=2:1)、0.51(ヘキサン:ジオキサン=3:1)
[α]D20 23.4(C=6.6、C66
31P NMR;δ 121.7(s)、122.4(s)
元素分析;実測値 C,46.25%、H,6.96%、P,13.85% 計算値 C173092 C,46.36%、H,6.82%、P,14.09%
【0043】実施例2<1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(2,4−ジフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノース>ベンゼン20mlにジフェニルクロロホスフィン4.41gを含有する溶液を、1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノース2.0g、トリエチルアミン2.12gを含有するベンゼン30mlに撹拌下に反応系内の温度を5℃に維持しながら1時間かけて添加し、更に、25℃で5時間反応させ後、一昼夜放置した。次いで、反応液をアルゴン雰囲気中で濾過して、ろ液を減圧濃縮した。残留物をヘキサンで洗浄し、減圧濃縮して目的物3.86g(収率71%)を得た。目的物を31P NMR分析、元素分析の結果、表1に示される構造の1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(2,4−ジフェニルホスフィノ)−α−D−グルコピラノースであることを確認した。
【0044】・同定データRf値;0.16(ベンゼン:ジオキサン=2:1)、0.55(ヘキサン:ジオキサン=3:1)
[α]D20 33.2(C=6.6、C66
31P NMR;δ 119.2(s)、119.4(s)
元素分析;実測値 C,68.25%、H,5.6%、P,11.21% 計算値 C313052 C,68.38%、H,5.51%、P,11.40%
【0045】実施例3<1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(2,2‘−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノース>1−メチル−3,6−ジヒドロキシ−α−D−グルコピラノース2.1g、トリメチルアミン2.3gおよびベンゼン30mlを含有する混合液を、ベンゼン25ml中に2,2−ビスフェノキシクロロホスフィン5.9gを含む溶液に、温度5℃で撹拌下に1時間かけて添加した。次いで、更に、4時間撹拌下に反応させた後、一昼夜放置した。反応液を濾過して、ろ液を減圧濃縮し、残留物をヘキサンで洗浄して、目的物6g(収率79%)を得た。目的物を31P NMR分析、元素分析の結果、表1に示される構造の1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(2,2‘−ビフェニルオキシホスフィノ)−α−D−グルコピラノースであることを確認した。
【0046】・同定データ融点;82−84℃Rf値;0.38(ベンゼン)、0.61(ヘキサン:ジオキサン=3:1)[α]D20 45.9(C=6.7、C66
31P NMR;δ 134.0(s)、142.6(s)
元素分析;実測値 C,61.61%、H,4.39%、P,10.18% 計算値 C312692 C,61.59%、H,4.30%、P,10.26%
【0047】実施例4<1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(1,3−ジ−tert−ブチル−1,3,2−ジアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノース>ベンゼン50m1に2−クロロ−1,3−ジ−tert−ブチル−1,3,2−ジアザホスホリンを1.5g含有する溶液を、1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノース0.52g、トリエチルアミン0.6gを合有するベンゼン30m1に撹拌下に反応系内の温度を5〜10℃に維持しながら添加し、更に25℃で3時間反応させ、一昼夜放置した。反応終了後、濾過して残量物を5m1のヘキサンに溶解し、更にアセトン15m1を加え、5℃で結晶化させた。次いで、得られた沈澱物をアセトンで洗浄し、減圧濃縮して目的物1.53g(収率86%)を得た。目的物を31P NMR、元素分析の結果、表1に示される構造の1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(1,3−ジ−tert−ブチル−1,3,2−ジアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノースであることを確認した。
【0048】・同定データ融点;158−160℃Rf値;0.35(ベンゼン:ジオキサン=1:1)
[α]D20 −52.1(C=0.5 DMFA)
31P NMR;δ121.1(d)、118.2(d)
元素分析;実測値 C,57.48%、H,9.50%、N,9.16%、 P,10.14% 計算値 C2958452 C,57.62%、H,9.60%、N,9.27%、 P,10.26%
【0049】実施例5<1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(3−N−メチル−1,3,2−オキサアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノース>ベンゼン15m1に2−クロロ−3−N−メチル−1,3,2−オキサアザホスホリンを3.07g合有する溶液を、1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノース2.0g、トリエチルアミン3.07gを合有するベンゼン25m1に撹拌下に反応系内の温度を6〜8℃に維持しながら添加し、更に25℃で2時間反応させた、次いで、減圧下に濃縮して溶媒を除いた後、残量物をヘキサン(3×15m1)で洗浄し、減圧濃縮して目的物4.1g(収率95%)を得た。目的物を31P NMR、元素分析の結果、表1に示される構造の1−メチル−3,6−アンヒドロ−2,4−ビス(3−N−メチル−1,3,2−オキサアザホスホリン−2−イル)−α−D−グルコピラノースであることを確認した。
【0050】・同定データRf値;0.27(ベンゼン:ジオキサン=1:1)
[α]D20 12.3(C=2 DMFA)
31P NMR;δ 139.8(s)、136.2(s)
元素分析;実測値 C,40.61%、H,6.17%、N,7.22%、 P,16.04% 計算値 C1324472 C,40.63%、H,6.28%、N,7.33%、 P,16.23%
【0051】
【表1】


【0052】
【発明の効果】上記したとおり、本発明の前記一般式(1)で表わされるビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体は、生理活性物質として有用であり、さらに遷移金属錯体を不斉合成反応に用いる立場から、従来のホスフィン化合物とは異なった化学選択性、エナンチオ選択性、反応転化率、触媒活性を示す配位子として有用であり、また、本発明の製造方法によれば工業的に有利な方法で容易に当該化合物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(1):
【化1】


{(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に下記一般式(2):
【化2】


(式中、フェニル基は炭素1〜5の低級アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、フッ素、ハロゲン原子で置換されていてもよい)、下記一般式(3):
【化3】


(式中、フェニル基は炭素1〜5の低級アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、フッ素、ハロゲン原子で置換されていてもよい)、下記一般式(4):
【化4】


(式中、ジオキサホスホリナン基は炭素1〜5の低級アルキル基で置換されていてもよい)、下記一般式(5):
【化5】


(式中、Yは炭素数1〜5の低級アルキル基)、又は、下記一般式(6):
【化6】


(式中、Yは炭素数1〜5の低級アルキル基を示す)で表されるホスフィノ基を示す}で表されることを特徴とするビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体。
【請求項2】 下記一般式(7):
【化7】


で表される1−メチル−3,6−アンヒドロ−α−D−グルコピラノースと、下記一般式(8):
【化8】


(式中、 Xはハロゲン原子を示し、フェニル基は炭素1〜5の低級アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、フッ素、ハロゲン原子で置換されていてもよい)、下記一般式(9):
【化9】


(式中、 Xは前記と同義、フェニル基は炭素1〜5の低級アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、フッ素、ハロゲン原子で置換されていてもよい)、下記一般式(10):
【化10】


(式中、Xは前記と同義、ジオキサホスホリナン基は炭素1〜5の低級アルキル基で置換されていてもよい)、下記一般式(11):
【化11】


(式中、Xは前記と同義、Yは炭素数1〜5の低級アルキル基を示す)、又は、下記一般式(12):
【化12】


(式中、Xは前記と同義、Yは炭素数1〜5の低級アルキル基を示す)で表されるハロゲン化ホスフィン化合物から選ばれた1種とを反応させることを特徴とする請求項1記載のビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体の製造方法。
【請求項3】 請求項2記載の反応は、塩基の存在下に行うものである請求項2記載のビスホスフィノ−α−D−グルコピラノース誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2001−206895(P2001−206895A)
【公開日】平成13年7月31日(2001.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−18569(P2000−18569)
【出願日】平成12年1月27日(2000.1.27)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(591082650)イスクラ産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】