説明

ビスホスフィンオキシドの製造方法

【課題】本発明は、ビスホスフィンオキシドの自由な分子設計を可能としつつ、簡便に、かつ、高収率でビスホスフィンオキシドを製造するための方法を提供する。
【解決手段】
(I)触媒存在下、ホスホニウム塩(2)とリン化合物(3)又はリン化合物(4)とを反応させることにより、リン化合物(5)を得る工程、及び
(II)リン化合物(5)をアルカリ加水分解することによりビスホスフィンオキシド(1)を得る工程、
を含む、ビスホスフィンオキシド(1)の製造方法、並びに
(I)ホスホニウム塩(2)をアルカリ加水分解することにより、ホスフィンオキシド(8)を得る工程、及び
(II)触媒存在下、ホスフィンオキシド(8)とリン化合物(3)又はリン化合物(4)とを反応させることによりビスホスフィンオキシド(1)を得る工程、
を含む、ビスホスフィンオキシド(1)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスホスフィンオキシドの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスホスフィンオキシドは、2座配位子として様々な金属に配位し金属錯体を形成することができるため、産業上有用な種々のファインケミカルズ合成に使用する金属錯体触媒の配位子、LED蛍光体用金属錯体の配位子、金属抽出剤等として利用されている。また、ビスホスフィンオキシドは公知の技術、例えばクロロシラン及びトリアルキルアミンの混合物による還元等により、容易にビスホスフィンに変換できる。そのため、ビスホスフィンオキシドは、ビスホスフィンを合成するための中間体としても有用である。ビスホスフィンもまたビスホスフィンオキシドと同様、2座配位子として金属錯体を形成し、様々な触媒反応に利用されている。
【0003】
ビスホスフィンオキシドを配位子とする金属錯体は、触媒反応、LED蛍光体等において、その配位子の電子的要因及び立体的要因により様々な機能を発現させる。すなわち、1)リン原子が有する置換基及び2)2つのリン原子間の炭素数を適宜選択することにより、触媒反応の活性及び選択性を大きく向上させることが期待できる。また、LED蛍光体の発光強度を著しく増大させ、蛍光体の寿命を著しく延ばすことも可能となる。
【0004】
一般に、ビスホスフィンオキシドの製造方法とてして下記の(1)〜(6)が知られている。
(1)ジハライドX−(CH−X(n≧4)から調製されるジグリニャール反応剤をジオルガノホスフィン酸クロライドと反応させる方法(非特許文献1)。
(2)ジオルガノホスフィンオキシドにブチルリチウムのような強塩基を作用させ、続けて、ジハライドX−(CH−Xを作用させる方法(特許文献1)。
(3)Se含有ホスフィンオキシドに低温でフェニルリチウムを作用させ、続けて、ジハライドを作用させる方法(非特許文献2、特許文献2)。
(4)アミノホスフィンとジオールとを高温で反応させることにより、アミンを留去しつつ、ジホスフィナイトを合成した後、続けて、ジブロモエタンを滴下し、高温で加熱することにより、ジホスフィナイトをビスホスフィンオキシドへ異性化させる方法(特許文献3)。
(5)カルボン酸基を有するホスフィンオキシドをコルベ電解カップリング反応させる方法(特許文献4)。
(6)水素化ナトリウム又はブチルリチウムのような強塩基存在下、非プロトン性溶媒中、ジオルガノホスフィンオキシドとオキシラン化合物とを反応させる方法(特許文献5)。
【0005】
前記(1)の製造方法は、ジハライドX−(CH−X(n≧4)を用いてなるジグリニャール反応剤を使用して、ビスホスフィンオキシドを製造する方法であり、比較的一般的な方法である。しかしなら、前記ジハライドは、n≦3の場合、不安定で分解しやすくグリニャール反応剤の収率が極めて悪いことが知られており(非特許文献3及び非特許文献4)、n≦3の場合、ビスホスフィンオキシドを好適に製造することができない。
【0006】
前記(2)及び(6)の製造方法は、高価な水素化ナトリウム、ブチルリチウム等を使用しており、コスト面において問題がある。また、ビスホスフィンオキシド製造に際し、原料1molに対し、1molの水素又はブタンが発生するため、安全面においても問題がある。
【0007】
前記(3)の製造方法は、原料として、有毒なセレンを含む化合物を使用し、さらに、−78℃という低温反応が必要であるため、工業生産には不適である。
【0008】
前記(4)の製造方法は、原料として合成が難しいアミノホスフィンを使用している。また、(4)の製造方法は、高温、かつ、多段階の反応を必要とする。
【0009】
前記(5)の製造方法は、原料として多段階の合成が必要な、カルボン酸基含有ホスフィンオキシドを使用している。また、前記(5)の製造方法は、コルベ電解反応を採用しており、原料1molに対し、1molの二酸化炭素の副生、単位容積あたりの収量が少ない、電解反応のためスケールアップが困難である等の問題を有する。
しかも、前記(1)〜(5)の製造方法は、非対称ビスホスフィンオキシドの製造には適さない。ここで、非対称ビスホスフィンオキシドとは、2つのリン原子が互いに異なる置換基を有する場合をいう。
例えば、前記(3)の方法に関し、特許文献2には、2種類のSe含有ホスフィンオキシドにフェニルリチウムを反応させ、続けて、1,ω-ジブロモアルカンを反応させることにより、3種類のビスホスフィンオキシド混合物(対称体2種類+非対称体1種類)を得た後、前記混合物から目的とする非対称ビスホスフィンオキシドだけを単離精製する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、目的とする非対称ビスホスフィンオキシドの生成率は最大50%であり、しかも、3種類の異性体混合物及びその他不純物から目的の非対称ビスホスフィンオキシドを単離精製することは極めて困難である。従って、特許文献2に開示の方法は、実用的な非対称ビスホスフィンオキシドの製造方法にはなり得ない。
【0010】
前記(1)、(2)、(4)及び(5)の製造方法に関しても同様であり、2種類の原料を使用すれば3種類のビスホスフィンオキシド混合物(対称体2種類+非対称体1種類)が得られる。従って、前記(1)、(2)、(4)及び(5)の製造方法もまた実用的な非対称ビスホスフィンオキシドの製造方法にはなり得ない。
【0011】
前記(6)の製造方法は、唯一、非対称ビスホスフィンオキシドを比較的高い収率で製造できる方法である。しかしながら、前記(6)の製造方法は、オキシラン化合物を使用して、非対称ビスホスフィンオキシドを製造する方法である。すなわち、前記(6)の製造方法により得られる非対称ビスホスフィンオキシドは、2つのリン原子をつないでいる炭素鎖がオキシラン化合物由来のものに限定されてしまう。また、前記(6)の製造方法は、1)高価なブチルリチウムの使用、2)長時間反応及び3)大量のDMFの使用という点でコスト面の問題がある。さらに、前記(6)の製造方法は、ブタンを発生させるため、安全面においても問題がある。
【0012】
種々の触媒反応における触媒活性及び選択性の向上並びにLED蛍光体の発光強度の増大及び蛍光体の寿命の向上という様々な機能発現のために、ビスホスフィンオキシドの1)リン原子が有する置換基及び2)2つのリン原子をつなぐ炭素数を適宜選択することにより自由な分子設計を可能とする、実用的なビスホスフィンオキシドの製造方法の開発が切望されている。
【特許文献1】特開平10−1491
【特許文献2】特開2005−15564
【特許文献3】US3532774
【特許文献4】特開平11−228586
【特許文献5】特開昭59−130298
【非特許文献1】G. M. Kosolapoff, et al., J. Chem. Soc., 1959, 3950.
【非特許文献2】T. Kawashima, et al., Chem. Lett., 1993, 1531.
【非特許文献3】H. R. Rogers, et al., J. Am. Chem. Soc., 1980, 102, 217.
【非特許文献4】J. W. F. L. Seetz, et al., Tetarahedron Lett., 1982, 23, 1497.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ビスホスフィンオキシドの自由な分子設計を可能としつつ、簡便に、かつ、高収率でビスホスフィンオキシドを製造するための方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の製造プロセスを採用することにより、前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記のビスホスフィンオキシドの製造方法に係る。
1. 一般式:
【0016】
【化1】

【0017】
[式中R、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す。]
で表されるビスホスフィンオキシド(以下「ビスホスフィンオキシド(1)」と略記する場合がある)の製造方法であって、
(I)触媒存在下、一般式:
【0018】
【化2】

【0019】
[式中Xは脱離基を示し、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスホニウム塩(以下「ホスホニウム塩(2)」と略記する場合がある)と一般式:
【0020】
【化3】

【0021】
[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物(以下「リン化合物(3)」と略記する場合がある)、又は、一般式:
【0022】
【化4】

【0023】
[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物(以下「リン化合物(4)」と略記する場合がある)とを反応させることにより、一般式:
【0024】
【化5】

【0025】
[式中X、R、R、R、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるリン化合物(以下「リン化合物(5)」と略記する場合がある)を得る工程、並びに
(II)前記一般式(5)で表されるリン化合物をアルカリ加水分解することにより前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシドを得る工程、
を含む、ビスホスフィンオキシドの製造方法。
2. 前記一般式(1)、(2)及び(5)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、上記項1に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
3. 前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩は、
一般式:
【0026】
【化6】

【0027】
[式中R、R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物(以下「リン化合物(6)」と略記する場合がある)と、一般式:
【0028】
【化7】

【0029】
[式中X、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるハロゲン化物(以下「ハロゲン化物(7)」と略記する場合がある)とを反応させることにより得られる、上記項1に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
4. 前記一般式(7)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、上記項3に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
5. 前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、上記項1〜4のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
6. 前記ビスホスフィンオキシドが、非対称ビスホスフィンオキシドである、上記項1〜5のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
7. 一般式:
【0030】
【化8】

【0031】
[式中Xは脱離基を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す。]
で表されるリン化合物の製造方法であって、
触媒存在下、一般式:
【0032】
【化9】

【0033】
[式中X、R、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスホニウム塩と一般式:
【0034】
【化10】

【0035】
[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物、又は、一般式:
【0036】
【化11】

【0037】
[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物とを反応させることにより、一般式:
【0038】
【化12】

【0039】
[式中X、R、R、R、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるリン化合物を得る、リン化合物の製造方法。
8. 前記一般式(2)及び(5)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、上記項7に記載のリン化合物の製造方法。
9. 前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩は、
一般式:
【0040】
【化13】

【0041】
[式中R、R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物と、一般式:
【0042】
【化14】

【0043】
[式中X、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるハロゲン化物とを反応させることにより得られる、上記項7に記載のリン化合物の製造方法。
10. 前記一般式(7)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、上記項9に記載のリン化合物の製造方法。
11. 前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、上記項7〜10のいずれかに記載のリン化合物の製造方法。
12. 一般式:
【0044】
【化15】

【0045】
[式中R、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す。]
で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、
(I)一般式:
【0046】
【化16】

【0047】
[式中Xは脱離基を示し、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスホニウム塩をアルカリ加水分解することにより、一般式:
【0048】
【化17】

【0049】
[式中R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスフィンオキシド(以下「ホスフィンオキシド(8)」と略記する場合がある)を得る工程、並びに
(II)触媒存在下、前記一般式(8)で表されるホスフィンオキシドと一般式:
【0050】
【化18】

【0051】
[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物又は、一般式:
【0052】
【化19】

【0053】
[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物とを反応させることにより前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシドを得る工程、
を含む、ビスホスフィンオキシドの製造方法。
13. 前記一般式(1)、(2)及び(8)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、上記項12に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
14. 前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩は、
一般式:
【0054】
【化20】

【0055】
[式中R、R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物と、一般式:
【0056】
【化21】

【0057】
[式中X、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるハロゲン化物とを反応させることにより得られる、上記項12に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
15. 前記一般式(7)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、上記項14に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
16. 前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、上記項12〜15のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
17. 前記ビスホスフィンオキシドが、非対称ビスホスフィンオキシドである上記項12〜16のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
18. 一般式:
【0058】
【化22】

【0059】
[式中R、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す。]
で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、
触媒存在下、一般式:
【0060】
【化23】

【0061】
[式中R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスフィンオキシドと一般式:
【0062】
【化24】

【0063】
[式中R及びRは、前記に同じ。]
で表されるリン化合物又は、一般式:
【0064】
【化25】

【0065】
[式中R及びRは、前記に同じ。]
で表されるリン化合物とを反応させることにより前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシドを得る、
ビスホスフィンオキシドの製造方法。
19. 前記一般式(1)及び(8)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、上記項18に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
20. 前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、上記項18又は19に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
21. 前記ビスホスフィンオキシドが、非対称ビスホスフィンオキシドである、上記項18〜20のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【0066】

<ビスホスフィンオキシド(1)について>
本発明のビスホスフィンオキシドの製造方法によれば、一般式:
【0067】
【化26】

【0068】
[式中R、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す。]
で表されるビスホスフィンオキシドを好適に製造できる。
【0069】
、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよい。
【0070】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の飽和炭化水素基としては、特に限定されず、例えばC〜C20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基並びにC〜C12シクロアルキル基が挙げられる。具体的には、C〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イコシル基等を例示できる。また、C〜C12シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロドデシル基等を例示できる。
【0071】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、特に限定されるものではないが、例えばアルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、(ジ)アルキルアミノ基、アミド基、(ジ)アルキルアミド基、水酸基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホキシド基、スルホン基、シアノ基、ホルミル基、ケトン基、エステル基、アセタール基、カルボキシル基、トリアルキルシリル基、トリアルキルシリルオキシ基等が挙げられる。アルコキシ基としては、例えばC1−6アルコキシ基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。アリールオキシ基としては、例えばC6−12アリールオキシ基が挙げられる。具体的には、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。
【0072】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されるものではない。
【0073】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、特に限定されず、例えばC6−14アリールが挙げられる。具体的には、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、アンスリル等を例示できる。
【0074】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、特に限定されるものではない。例えばC1−6アルキル基、C1−6ハロアルキル基、C6−14アリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、(ジ)アルキルアミノ基、アミド基、(ジ)アルキルアミド基、水酸基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホキシド基、スルホン基、シアノ基、ホルミル基、ケトン基、エステル基、アセタール基、カルボキシル基、トリアルキルシリル基、トリアルキルシリルオキシ基等が挙げられる。
【0075】
1−6アルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
【0076】
1−6ハロアルキル基としては、例えばC1−6フルオロアルキル基等が挙げられる。
【0077】
6−14アリール基としては、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等が挙げられる。
【0078】
5〜10員芳香族複素環基としては、例えば2−又は3−チエニル、2−,3−又は4−ピリジル、2−,3−,4−,5−又は8−キノリル、1−,3−,4−又は5−イソキノリル、1−,2−又は3−インドリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾ[b]チエニル、ベンゾ[b]フラニル等が挙げられる。
【0079】
アルコキシ基としては、例えばC1−6アルコキシ基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。
【0080】
アリールオキシ基としては、例えばC6−12アリールオキシ基が挙げられる。具体的には、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。
【0081】
シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。
【0082】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。
【0083】
置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置、置換基の数は、特に限定されるものではない。
【0084】
置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、特に限定されず、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子から選ばれる原子を1〜3個含む、縮環していてもよい5〜14員芳香族複素環基が挙げられる。具体的には、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、カリボリニル、フェナンスリジニル及びアクリジニル等を例示できる。
【0085】
置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基の種類、置換基の位置及び置換基の数は、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基の種類、置換基の位置及び置換基の数と同様である。
【0086】
置換されていてもよいアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。置換されていてもよいアラルキル基の置換基の種類、置換基の位置及び置換基の数は、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基の種類、置換基の位置及び置換基の数と同様である。
【0087】
前記R及びR並びにR及びRが形成する環としては、例えばピペリジン環、ピロリジン環またはモルホリン環等が挙げられる。
【0088】
特に、本発明の製造方法によれば、非対称ビスホスフィンオキシドを簡便に、かつ、高収率で製造できる。ここで、本発明でいう非対称ビスホスフィンオキシドとは、RP(O)基とRP(O)基とが互いに異なる場合をいう。
【0089】
3、R4及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここでR、R4及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよい。
【0090】
置換されていてもよい飽和炭化水素基については、上記R、R、R及びRで述べたものと同様である。
【0091】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、特に限定されるものではないが、例えばアルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、アミノ基、(ジ)アルキルアミノ基、アミド基、(ジ)アルキルアミド基、水酸基、チオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホキシド基、スルホン基、スルホン酸基、ニトロ基、ニトロソ基、アゾ基、イミノ基、シアノ基、ホルミル基、ケトン基、エステル基、アセタール基、カルボキシル基、トリアルキルシリル基等を例示できる。前記例示のアルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基については、上記R、R、R及びRで述べたものと同様である。
【0092】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されるものではない。
【0093】
置換されていてもよいアリール基のアリール基については、上記R、R、R及びRで述べたものと同様である。
【0094】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、特に限定されるものではない。例えばC1−6アルキル基、C6−14アリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、アミノ基、(ジ)アルキルアミノ基、アミド基、(ジ)アルキルアミド基、水酸基、チオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホキシド基、スルホン基、スルホン酸基、ニトロ基、ニトロソ基、アゾ基、イミノ基、シアノ基、ホルミル基、ケトン基、エステル基、アセタール基、カルボキシル基、トリアルキルシリル基等を例示できる。前記例示のC1−6アルキル基、C6−14アリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基については、上記R、R、R及びRで述べたものと同様である。
【0095】
置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置、置換基の数は、特に限定されるものではない。
【0096】
置換されていてもよいヘテロアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基については、上記R、R、R及びRで述べたものと同様である。
【0097】
、R及びRから選ばれる2つの基が形成する環については、上記R、R、R及びRで述べたものと同様である。
【0098】
nは0以上の整数であればよいが、通常0≦n≦20、好ましくは0≦n≦8、より好ましくは1≦n≦8、更に好ましくは1≦n≦4の条件を満たす。
【0099】
本発明の製造方法によれば、R、RとR、Rとがそれぞれ同一又は異なって、飽和炭化水素基(例えばC〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基)、置換又は無置換のアリール基(例えばC6−14アリール)或いは、置換又は無置換のヘテロアリール基(例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子から選ばれる原子を1〜3個含む5〜14員芳香族複素環基)、R3、R及びRが水素原子或いはC〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基並びにnが0≦n≦20、好ましくは0≦n≦8、より好ましくは1≦n≦8の条件を満たすビスホスフィンオキシドを好適に製造できる。
【0100】
特に、本発明の製造方法によれば、下記式(1a)のビスホスフィンオキシドをより好適に製造できる。
【0101】
【化27】

【0102】
[式中、pは3〜10、好ましくは3〜6の整数を示し、R、R、R及びRは、同一又は異なってそれぞれC〜C12アルキル基、置換又は無置換アリール基或いは置換又は無置換ヘテロアリール基を示す。]
<ビスホスフィンオキシド(1)の製造方法>
本発明のビスホスフィンオキシドの製造方法によれば、下記反応式1のA法又はB法に従って、ビスホスフィンオキシド(1)を製造する。
[反応式1]
【0103】
【化28】

【0104】
本発明によれば、上記A法又はB法の一連のプロセスを採用することにより、自由に分子設計しつつ、簡便に、かつ、高収率でビスホスフィンオキシドを製造することができる。
【0105】
以下、A法及びB法について詳細に説明する。
【0106】
<A法について>
本発明のビスホスフィンオキシド(1)の製造方法(A法)は、
(I)触媒存在下、一般式:
【0107】
【化29】

【0108】
[式中Xは脱離基を示し、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスホニウム塩と一般式:
【0109】
【化30】

【0110】
[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物、又は、一般式:
【0111】
【化31】

【0112】
[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物とを反応させることにより、一般式:
【0113】
【化32】

【0114】
[式中X、R、R、R、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるリン化合物を得る工程、並びに
(II)前記一般式(5)で表されるリン化合物をアルカリ加水分解することにより前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシドを得る工程、
を含む。
【0115】
工程(I)
工程(I)では、触媒存在下、ホスホニウム塩(2)とリン化合物(3)又はリン化合物(4)とを反応させることによりリン化合物(5)を得る。
【0116】
脱離基としては、例えば、トルエンスルホニルオキシ基(OTs基)、メタンスルホニルオキシ基(OMs基)、ハロゲン原子等が挙げられる。ハロゲン原子としては、F、Cl、Br、I等が挙げられる。特に、前記Xとしては、後記ハロゲン化物(7)の反応性及び経済性の観点からCl及びBrが好ましい。
【0117】
一般式(2)のRに関し、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基については、上記R、R、R及びRで述べたものと同様である。特に、Rとしては、置換又は無置換のアリール基又はアラルキル基が好ましく、フェニル基又はベンジル基がより好ましい。
【0118】
一般式(2)中、R、R及びRについては、上記と同様である。特に、R、R及びRとしては、水素原子が好ましい。
【0119】
また、R及びRとしては、置換されていてもよい飽和炭化水素基或いは置換されていてもよいアリール基が好ましい。前記飽和炭化水素基としては、C1−20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、C3−12の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましい。置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、C1−6アルコキシ基、C6−12アリールオキシ基、トリアルキルシリル基、トリアルキルシリルオキシ基が好ましい。置換されていてもよいアリール基としては、C6−12のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。置換されていてもよいアリール基の置換基としては、C1−6アルキル基、C1−6フルオロアルキル基、C1−6アルコキシ基、トリアルキルシリル基、トリアルキルシリルオキシ基が好ましい。
【0120】
一般式(2)中、nは0以上の整数であればよいが、通常0≦n≦20、好ましくは0≦n≦8、より好ましくは1≦n≦8、さらに好ましくは1≦n≦4の条件を満たす。
【0121】
前記触媒としては、例えばラジカル開始剤型触媒、遷移金属錯体触媒等が挙げられる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。この中でも特に、ラジカル開始剤型触媒を用いることが好ましい。ラジカル開始剤型触媒を用いることにより、目的のリン化合物(5)をより高い収率で製造できる。
【0122】
ラジカル開始剤型触媒としては、例えばアゾ化合物、有機過酸化物、トリアルキルボラン等が挙げられる。アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(AMVN)、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等を例示できる。有機過酸化物としては、ジベンゾイルパーオキシド(BPO)、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジイソブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチル−O)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカネート等を例示できる。トリアルキルボランとしては、トリエチルボラン、トリブチルボラン等のトリアルキルボラン等を例示できる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。
【0123】
遷移金属錯体触媒としては、例えばFe錯体、Ni錯体、Pd錯体等が挙げられる。
Fe錯体としては、[CpFe(CO)、Fe(CO)等を例示できる。Ni錯体としては、NiCl(PPh、NiBr(PPh等を例示できる。Pd錯体としては、PdCl(PPh、PdCl(PhCN)、PdCl(CHCN)等を例示できる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。
【0124】
触媒としてラジカル開始剤型触媒を用いる場合、ラジカル開始剤型触媒の使用量は限定的ではないが、ホスホニウム塩(2)1molに対し、通常、0.001〜0.5mol、好ましくは0.01〜0.3mol、より好ましくは0.03〜0.2molである。
【0125】
また、触媒として遷移金属錯体触媒を用いる場合、遷移金属錯体触媒の使用量は限定的ではないが、ホスホニウム塩(2)1molに対して、通常0.001〜0.5mol、好ましくは0.01〜0.3mol、より好ましくは0.03〜0.2molである。
【0126】
前記リン化合物(3)は、下記反応式2のように、互変異性体のリン化合物(4)との平衡状態で存在する。
[反応式2]
【0127】
【化33】

【0128】
リン化合物(3)又は(4)は、市販されているか又は公知の方法に従って容易に製造することができる。具体的には、以下の公知の方法に準じてリン化合物(3)を製造できる。例えば、R. Hays, J. Org. Chem., 1968, 33, 3691. に記載の方法、すなわち、ジエチルホスファイトに、ジエチルホスファイト1molに対して、3molのグリニャール反応剤を反応させることにより製造できる。また、前記、T. L. Emmick, et al., J. Am. Chem. Soc., 1968, 90, 3459., G. M. Kosolapoff, et al., J. Chem. Soc.(C), 1967, 1789., A. D. Brown Jr., et al., J. Chem. Soc.(C), 1968, 839.及びP. C. Crofts, et al., J. Chem. Soc., (C), 1970, 332.に記載の方法によっても製造することができる。
【0129】
また、リン化合物(3)は、M. M. Rauhut, et al., J. Org. Chem., 1961, 26, 4626. 及びW. Klaeui, et al., Inorg. Chem., 1989, 28, 3845.に記載の方法に従って製造することもできる
その他、W. J. Bailey, et al., J. Org. Chem., 1962, 27, 4404. に記載の方法によっても製造できる。
【0130】
一般式(3)及び(4)中、R及びRについては、上記と同様である。特に、前記R及びRとしては、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基が好ましい。
【0131】
置換されていてもよい飽和炭化水素基としては、C1−20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、C1−12の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、C4−8の直鎖状のアルキル基がさらに好ましい。
【0132】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、C6−12のアリール基が好ましい。置換されていてもよいアリール基の置換基としては、C1−6アルキル基、C1−6フルオロアルキル基、C1−6アルコキシ基、トリアルキルシリル基、トリアルキルシリルオキシ基、(ジ)アルキルアミノ基が好ましい。
【0133】
置換されていてもよいヘテロアリール基としては、硫黄原子、酸素原子又は窒素原子を1個含む5〜6員芳香族複素環基が好ましい。
リン化合物(3)(又はリン化合物(4))の使用量は限定的ではないが、ホスホニウム塩(4)1molに対し、通常、0.5〜2mol、好ましくは0.8〜1.2mol、より好ましくは0.9〜1.1molである。
【0134】
ホスホニウム塩(2)とリン化合物(3)(又はリン化合物(4))との反応は、前記触媒存在下、例えば攪拌しながら無溶媒又は溶媒中で行う。特に、溶媒中で行うことが好ましい。
【0135】
前記溶媒は、触媒機能が効果的に発現するものであればよく、特に限定されるものではない。例えば芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。前記芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等を例示できる。前記脂肪族炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン等を例示できる。前記アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール等を例示できる。前記エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、1,2―ジメトキシエタン等を例示できる。前記エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等を例示できる。前記アミド系溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド等を例示できる。スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド等を例示できる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。
前記ホスホニウム塩(2)、リン化合物(3)(又はリン化合物(4))並びに触媒は、反応効率の観点から、溶媒に完全に溶解することが好ましい。なお、本発明においては、前記ホスホニウム塩(2)等は、反応しながら溶解してもよい。
前記ホスホニウム塩(2)とリン化合物(3)(又はリン化合物(4))との反応は、バッチ式、連続式のいずれの反応形式で行っても良い。
【0136】
反応圧力は通常、常圧〜100kg/cm2の範囲で行う。
【0137】
反応温度は、前触媒の種類等に応じて適宣設定すればよいが、通常−20℃〜200℃、好ましくは0℃〜150℃である。例えば常圧で反応を行う場合、0℃〜反応溶媒の還流温度の範囲が好ましい。
【0138】
反応時間は特に限定されず、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常15分間〜48時間、好ましくは1時間〜24時間である。
【0139】
反応後は、必要に応じて、得られたリン化合物(5)を単離、精製してもよい。単離、精製方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、反応終了後に得られた混合液に有機溶媒を加えることによりリン化合物(5)を抽出分離する方法、前記混合液を濃縮した後、得られた濃縮液又は濃縮残渣に有機溶媒を加えることによりリン化合物(5)を抽出分離する方法等が挙げられる。得られた抽出液はそのまま濃縮乾燥して単離しても良いし、必要に応じて、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により精製してもよい。
【0140】
ホスホニウム塩(2)の調製
工程(I)にて使用するホスホニウム塩(2)は、例えば、一般式:
【0141】
【化34】

【0142】
[式中R、R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物と、一般式:
【0143】
【化35】

【0144】
[式中X、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるハロゲン化物とを反応させることにより得ることができる。
【0145】
前記リン化合物(6)及び前記ハロゲン化物(7)は、市販品又は公知の方法に従って合成することにより容易に入手できる。
【0146】
例えば、前記リン化合物(6)は下記反応式3のようにリン化合物(9)とグリニャール反応剤、有機リチウム反応剤、有機亜鉛反応剤等の有機金属反応剤(10)との反応により合成することができる。
[反応式3]
【0147】
【化36】

【0148】
前記R及びRについては、目的とするリン化合物(6)が得られるように適宜設定すればよい。
【0149】
前記Yとしては、ハロゲン原子、アルコキシ等が挙げられる。
【0150】
前記Mとしては、MgZ、Li、ZnZ等が挙げられる。なお、前記Zはハロゲン原子を示す。
【0151】
前記mは1≦m≦3の条件を満たす整数である。
【0152】
前記リン化合物(6)と前記ハロゲン化物(7)との反応は、例えば攪拌しながら溶媒中で行う。
【0153】
前記溶媒としては、特に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジブチルホルムアミド等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、シクロペンチルメチルエーテル、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、アニソール等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒等を使用できる。前記例示の溶媒については、二種以上を混合して使用することもできる。
【0154】
前記反応液中における前記リン化合物(6)と前記ハロゲン化物(7)とのモル比は、特に限定されないが、1:0.5〜2が好ましく、1:0.7〜1.5がより好ましい。
【0155】
前記リン化合物(6)と前記ハロゲン化物(7)との反応は、バッチ式又は連続式のいずれの反応形式で行っても良い。
【0156】
前記反応は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0157】
反応圧力は、常圧〜100kg/cm2の範囲でよい。
【0158】
反応温度は、特に限定されないが、通常0〜300℃、好ましくは25〜200℃である。例えば、常圧で反応を行う場合の反応温度は、25℃〜反応溶媒の還流温度が好ましい。
【0159】
反応時間は、反応圧力、反応温度等に応じて適宜設定すればよく限定されるものではない。
反応後は、必要に応じて、ホスホニウム塩(2)を単離、精製してもよい。単離、精製は公知の方法に準じて行えばよい。
【0160】
また、ホスホニウム塩(2)を単離、精製せずに、前記工程(I)へ移行してもよい。
【0161】
工程(II)
工程(II)では、リン化合物(5)をアルカリ加水分解することによりビスホスフィンオキシド(1)を得る。
【0162】
具体的には、水単独又は水と共溶媒との混合溶媒系に前記リン化合物(5)及び塩基を加えて加水分解反応を行う。
【0163】
前記共溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒が好ましい。これらは一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0164】
前記塩基としては、例えば、NaOH、KOH、Ca(OH)等を用いることができる。これら塩基については、単独で又は二種以上を併用して用いることができる。
【0165】
塩基の使用量については、前記リン化合物(5)1分子に対して、少なくとも1当量以上となるように設定することが好ましい。
【0166】
なお、工程(II)では、前記ビスホスフィンオキシド(1)とともに、R−H(Rは前記と同じ)が生成するが、R−Hはアルカリ加水分解反応を妨げるものではない。
【0167】
前記加水分解反応は、必ずしも均一系反応である必要はないが、不均一系の場合、反応を加速させるために界面活性剤や相関移動触媒をさらに添加しても良い。
【0168】
アルカリ加水分解反応は、バッチ式、連続式のいずれの反応形式で行っても良い。
【0169】
反応圧力は、常圧〜100kg/cm2の範囲でよい。
【0170】
反応温度は、特に限定されないが、通常0℃〜300℃、好ましくは25℃〜200℃である。例えば、常圧で反応を行う場合の反応温度は、60℃〜反応溶媒の還流温度が好ましい。
【0171】
反応時間は、反応の進行状況等に応じて適宜設定すればよく限定されるものではない。
【0172】
反応後は、必要に応じて、得られたビスホスフィンオキシド(1)を単離、精製してもよい。単離、精製方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、反応終了後に得られた混合液に有機溶媒を加えることによりビスホスフィンオキシド(1)を抽出分離する方法、前記混合液を濃縮した後、得られた濃縮液又は濃縮残渣に有機溶媒を加えることによりビスホスフィンオキシド(1)を抽出分離する方法等が挙げられる。得られた抽出液はそのまま濃縮乾燥して単離しても良いし、必要に応じて、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により精製してもよい。
【0173】
<B法について>
本発明のビスホスフィンオキシド(1)の製造方法(B法)は、
(I)前記ホスホニウム塩(2)をアルカリ加水分解することにより、一般式:
【0174】
【化37】

【0175】
[式中R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスフィンオキシドを得る工程、並びに
(II)触媒存在下、前記ホスフィンオキシド(8)と前記リン化合物(3)又は前記リン化合物(4)とを反応させることによりビスホスフィンオキシド(1)を得る工程、
を含む。
【0176】
工程(I)
工程(I)では、ホスホニウム塩(2)をアルカリ加水分解することによりホスフィンオキシド(8)を得る。
【0177】
具体的には、水単独又は水と共溶媒との混合溶媒系に、ホスホニウム塩(2)及び塩基を加えて加水分解反応を行う。
【0178】
一般式(2)中、R、R及びRについては、上記と同様である。特に、R、R及びRとしては、水素原子が好ましい。
【0179】
一般式(2)中、R及びRについては、上記と同様である。特に、R及びRとしては、置換されていてもよい飽和炭化水素基或いは置換されていてもよいアリール基が好ましい。前記飽和炭化水素基としては、C1−20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、C3−12の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましい。置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、C1−6アルコキシ基が好ましい。置換されていてもよいアリール基としては、C6−12のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0180】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、C1−6アルキル基、C1−6フルオロアルキル基、C1−6アルコキシ基、トリアルキルシリル基、トリアルキルシリルオキシ基、が好ましい。
【0181】
一般式(2)中、Rについては、上記と同様である。特に、Rとしては、置換又は無置換のアリール基又はアラルキル基が好ましく、フェニル基又はベンジル基がより好ましい。
【0182】
一般式(2)中、nは0以上の整数であればよいが、通常0≦n≦20、好ましくは0≦n≦8、より好ましくは1≦n≦8、さらに好ましくは1≦n≦4、最も好ましくは2≦n≦4の条件を満たす。
【0183】
前記共溶媒については、上記A法の工程(II)にて例示した共溶媒を一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0184】
前記塩基については、上記A法の工程(II)にて例示した塩基を一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0185】
塩基の使用量については、前記ホスホニウム塩(2)1分子に対して、少なくとも1当量以上となるように設定することが好ましい。
【0186】
前記加水分解反応は、必ずしも均一系反応である必要はないが、不均一系の場合、反応を加速させるために界面活性剤や相関移動触媒をさらに添加しても良い。
【0187】
アルカリ加水分解反応は、バッチ式、連続式のいずれの反応形式で行っても良い。
【0188】
反応圧力は、常圧〜100kg/cm2の範囲でよい。
【0189】
反応温度は、特に限定されないが、通常0℃〜300℃、好ましくは25℃〜200℃である。例えば、常圧で反応を行う場合の反応温度は、60℃〜反応溶媒の還流温度が好ましい。
【0190】
反応時間は、反応の進行状況等に応じて適宜設定すればよく限定されるものではない。
【0191】
反応後は、必要に応じて、得られたホスフィンオキシド(8)を単離、精製してもよい。単離、精製方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、反応終了後に得られた混合液に有機溶媒を加えることによりホスフィンオキシド(8)を抽出分離する方法、前記混合液を濃縮した後、得られた濃縮液又は濃縮残渣に有機溶媒を加えることによりホスフィンオキシド(8)を抽出分離する方法等が挙げられる。得られた抽出液はそのまま濃縮乾燥して単離しても良いし、必要に応じて、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により精製してもよい。
【0192】
工程(II)
工程(II)では、触媒存在下、前記ホスフィンオキシド(8)と前記リン化合物(3)又は前記リン化合物(4)とを反応させることによりビスホスフィンオキシド(1)を得る。
【0193】
前記触媒としては、上記A法の工程(I)で述べたものと同様のものを使用できる。特に、ラジカル開始剤型触媒を用いることが好ましい。ラジカル開始剤型触媒を用いることにより、目的のビスホスフィンオキシド(1)をより高い収率で製造できる。
【0194】
触媒としてラジカル開始剤型触媒を用いる場合、ラジカル開始剤型触媒の使用量は限定的ではないが、ホスフィンオキシド(8)1molに対し、通常、0.001〜0.5mol、好ましくは0.01〜0.3mol、より好ましくは0.03〜0.2molである。
【0195】
また、触媒として遷移金属錯体触媒を用いる場合、遷移金属錯体触媒の使用量は限定的ではないが、ホスフィンオキシド(8)1molに対して、通常0.001〜0.5mol、好ましくは0.01〜0.3mol、より好ましくは0.03〜0.2molである。
【0196】
一般式(3)及び(4)中、R及びRについては、上記と同様である。特に、前記R及びRとしては、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基が好ましい。
【0197】
置換されていてもよい飽和炭化水素基としては、C1−20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、C3−12の直鎖又は分子鎖状のアルキル基がより好ましく、C4−8の直鎖状のアルキル基がさらに好ましい。
【0198】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、C6−12のアリール基が好ましい。置換されていてもよいアリール基の置換基としては、C1−6アルキル基、C1−6フルオロアルキル基、C1−6アルコキシ基、トリアルキルシリル基、トリアルキルシリルオキシ基、(ジ)アルキルアミノ基が好ましい。
【0199】
置換されていてもよいヘテロアリール基としては、硫黄原子、酸素原子又は窒素原子を1個含む5〜6員芳香族複素環基が好ましい。
リン化合物(3)(又はリン化合物(4))の使用量は限定的ではないが、ホスフィンオキシド(8)1molに対し、通常、0.5〜2mol、好ましくは0.8〜1.2mol、より好ましくは0.9〜1.1molである。
【0200】
ホスフィンオキシド(8)とリン化合物(3)(又はリン化合物(4))との反応は、前記触媒存在下、例えば攪拌しながら無溶媒又は溶媒中で行う。特に、溶媒中で行うことが好ましい。
【0201】
前記溶媒としては、上記A法の工程(I)で述べたものと同様のものを使用できる。
前記ホスフィンオキシド(8)、リン化合物(3)(又はリン化合物(4))並びに触媒は、反応効率の観点から、溶媒に完全に溶解することが好ましい。なお、本発明においては、前記ホスフィンオキシド(8)等は、反応しながら溶解してもよい。
前記ホスフィンオキシド(8)とリン化合物(3)(又はリン化合物(4))との反応は、バッチ式、連続式のいずれの反応形式で行っても良い。
【0202】
反応圧力は通常、常圧〜100kg/cm2の範囲で行う。
【0203】
反応温度は、前触媒の種類等に応じて適宣設定すればよいが、通常−20℃〜200℃、好ましくは0℃〜150℃である。例えば常圧で反応を行う場合、0℃〜反応溶媒の還流温度の範囲が好ましい。
【0204】
反応時間は特に限定されず、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常15分間〜48時間、好ましくは1時間〜24時間である。
【0205】
反応後は、必要に応じて、得られたビスホスフィンオキシド(1)を単離、精製してもよい。単離、精製方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、反応終了後に得られた混合液に有機溶媒を加えることによりビスホスフィンオキシド(1)を抽出分離する方法、前記混合液を濃縮した後、得られた濃縮液又は濃縮残渣に有機溶媒を加えることによりビスホスフィンオキシド(1)を抽出分離する方法等が挙げられる。得られた抽出液はそのまま濃縮乾燥して単離しても良いし、必要に応じて、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により精製してもよい。
【発明の効果】
【0206】
本発明のビスホスフィンオキシド(1)の製造方法(前記A法及びB法)によれば、高収率で、かつ、簡便に多様性のあるビスホスフィンオキシドを製造することができる。
【0207】
特に、本発明の製造方法によれば、非対称ビスホスフィンオキシドを高収率で、かつ、簡便に製造できる点に特徴がある。すなわち、本発明の製造方法によれば、目的に応じた非対称ビスホスフィンオキシドの分子設計が可能となる。
【0208】
このような非対称ビスホスフィンオキシドは、様々な触媒反応において、金属錯体の配位子として使用することにより、反応の活性及び選択性を大きく向上させることができる。また、非対称ビスホスフィンオキシドは、LED蛍光体に使用する希土類金属錯体の配位子として使用することにより、発光強度を著しく増大させ、蛍光体の寿命を著しく延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0209】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0210】
製造例1(ホスホニウム塩(2)の製造)
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた300ml四ツ口フラスコに、リン化合物(6)に対応するトリフェニルホスフィン30.0g(0.114mol)及びベンゼン(反応溶媒)30mlを仕込み、攪拌しながら内温67〜70℃まで加熱した。前記溶液を攪拌しながらハロゲン化物(7)に対応する3−ブロモ−1−プロペン18.0g(0.149mol)を約10分間かけて滴下し、同一温度条件で1時間攪拌し、室温(25℃)まで冷却して析出した結晶を吸引濾過した。得られた結晶を減圧乾燥することにより、ホスホニウム塩(2)に対応するトリフェニル−1−プロペニルホスホニウムブロミド40.6g(0.106mol)を得た。収率は93%であった。結果を表1に示す。
【0211】
製造例2〜12(ホスホニウム塩(2)の製造)
製造例1の方法に準じて、表1の通りビスホスフィンオキシドを製造した。
【0212】
【表1】

【0213】
実施例1(A法)
(1)工程(I)
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた300ml四ツ口フラスコに、リン化合物(3)に対応するジ(m−トルイル)ホスフィンオキシド13.80g(0.0599mol)、ホスホニウム塩(2)に対応する1−ブテニル−トリフェニルホスホニウムブロミド19.90g(0.0501mol)、AMVN0.50g(0.0020mol)及びメタノール40mlを添加し攪拌することにより溶液を得た。次いで、前記溶液を攪拌しながら内温65℃まで加熱し16時間反応させた。その間、前記反応液に対してAMVN0.50g(0.0020mol)を2回添加した。得られた反応液をエバポレーターで減圧濃縮して、リン化合物(5)に対応する化合物34.00gを得た。
【0214】
(2)工程(II)
撹拌機、温度計及び冷却器を備えた300ml四ツ口フラスコに、リン化合物(5)に対応する化合物17.00g、メタノール20g及び10%水酸化ナトリウム水溶液20g(0.05mol)を加えた。得られた混合溶液を攪拌しながら内温60℃まで加熱し同温度で5時間反応させることにより反応液を得た。
エバポレーターで前記反応液からメタノールを留去した後、トルエン100ml加えて抽出、分液し水層を除去した。有機層を水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、さらに減圧濃縮した。
【0215】
得られた濃縮物をカラム分離で精製することにより、ビスホスフィンオキシド(1)に対応する化合物9.50g(0.0195mol)を得た。ホスホニウム塩からの収率は78%であった。
【0216】
結果を表2に示す。
【0217】
実施例2〜13(A法)
実施例1の方法に準じて、表2〜表3の通りビスホスフィンオキシドを製造した。
【0218】
結果を表2〜3に示す。
【0219】
【表2】

【0220】
【表3】

【0221】
実施例14(B法)
(1)工程(I)
攪拌機、温度計及び冷却器を備えた300ml四ツ口フラスコにホスホニウム塩(2)に対応する1−ブテニル−トリフェニルホスホニウムブロミド19.90g(0.0501mol)及び10%水酸化ナトリウム水溶液40g(0.10mol)を加えた。得られた混合溶液を攪拌しながら内温85℃まで加熱し同温度で5時間反応させることにより反応液を得た。
冷却後、前記反応液にトルエン60mlを加えて抽出、分液し、水層を除去した。有機層を水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、さらに減圧濃縮することにより、ホスフィンオキシド(8)に対応する1−ブテニルジフェニルホスフィンオキド11.50g(0.0449mol)を得た。収率は90%であった。
【0222】
(2)工程(II)
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた100ml四ツ口フラスコに、リン化合物(3)に対応するジ(m−トルイル)ホスフィン4.49g(0.0195mol)、ホスフィンオキシド(8)に対応する1−ブテニルジフェニルホスフィンオキシド5.00g(0.0195mol)、AIBN0.10g(0.0006mol)及びトルエン20mlを添加することにより混合液を得た後、前記フラスコを内温85℃まで加熱し同温で12時間、前記混合液を攪拌した。
【0223】
得られた反応液を冷却後、エバポレーターで減圧濃縮することにより濃縮物を得た。前記濃縮物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、ビスホスフィンオキシド(1)に対応する化合物7.78g(0.0160mol)を得た。収率は82%であった。
【0224】
結果を表4に示す。
【0225】
実施例15〜24(B法)
実施例14の方法に準じて、表4〜表5の通りビスホスフィンオキシドを製造した。
【0226】
結果を表4〜5に示す。
【0227】
【表4】

【0228】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

[式中R、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す。]
で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、
(I)触媒存在下、一般式:
【化2】

[式中Xは脱離基を示し、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスホニウム塩と一般式:
【化3】

[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物、又は、一般式:
【化4】

[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物とを反応させることにより、一般式:
【化5】

[式中X、R、R、R、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるリン化合物を得る工程、並びに
(II)前記一般式(5)で表されるリン化合物をアルカリ加水分解することにより前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシドを得る工程、
を含む、ビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)、(2)及び(5)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、請求項1に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項3】
前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩は、
一般式:
【化6】

[式中R、R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物と、一般式:
【化7】

[式中X、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるハロゲン化物とを反応させることにより得られる、請求項1に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項4】
前記一般式(7)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、請求項3に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項5】
前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、請求項1〜4のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項6】
前記ビスホスフィンオキシドが、非対称ビスホスフィンオキシドである、請求項1〜5のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項7】
一般式:
【化8】

[式中Xは脱離基を示し、R、R、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す。]
で表されるリン化合物の製造方法であって、
触媒存在下、一般式:
【化9】

[式中X、R、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスホニウム塩と一般式:
【化10】

[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物、又は、一般式:
【化11】

[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物とを反応させることにより、一般式:
【化12】

[式中X、R、R、R、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるリン化合物を得る、リン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記一般式(2)及び(5)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、請求項7に記載のリン化合物の製造方法。
【請求項9】
前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩は、
一般式:
【化13】

[式中R、R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物と、一般式:
【化14】

[式中X、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるハロゲン化物とを反応させることにより得られる、請求項7に記載のリン化合物の製造方法。
【請求項10】
前記一般式(7)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、請求項9に記載のリン化合物の製造方法。
【請求項11】
前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、請求項7〜10のいずれかに記載のリン化合物の製造方法。
【請求項12】
一般式:
【化15】

[式中R、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す。]
で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、
(I)一般式:
【化16】

[式中Xは脱離基を示し、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスホニウム塩をアルカリ加水分解することにより、一般式:
【化17】

[式中R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスフィンオキシドを得る工程、並びに
(II)触媒存在下、前記一般式(8)で表されるホスフィンオキシドと一般式:
【化18】

[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物又は、一般式:
【化19】

[式中R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物とを反応させることにより前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシドを得る工程、
を含む、ビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項13】
前記一般式(1)、(2)及び(8)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、請求項12に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項14】
前記一般式(2)で表されるホスホニウム塩は、
一般式:
【化20】

[式中R、R及びRは前記に同じ。]
で表されるリン化合物と、一般式:
【化21】

[式中X、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるハロゲン化物とを反応させることにより得られる、請求項12に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項15】
前記一般式(7)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、請求項14に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項16】
前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、請求項12〜15のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項17】
前記ビスホスフィンオキシドが、非対称ビスホスフィンオキシドである請求項12〜16のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項18】
一般式:
【化22】

[式中R、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R及びRはそれぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R及びRはそれらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、nは0以上の整数を示す。]
で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、
触媒存在下、一般式:
【化23】

[式中R、R、R、R、R及びnは前記に同じ。]
で表されるホスフィンオキシドと一般式:
【化24】

[式中R及びRは、前記に同じ。]
で表されるリン化合物又は、一般式:
【化25】

[式中R及びRは、前記に同じ。]
で表されるリン化合物とを反応させることにより前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシドを得る、
ビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項19】
前記一般式(1)及び(8)中、R及びRがそれぞれ水素原子であり、nが1≦n≦8の条件を満たす、請求項18に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項20】
前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、請求項18又は19に記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項21】
前記ビスホスフィンオキシドが、非対称ビスホスフィンオキシドである、請求項18〜20のいずれかに記載のビスホスフィンオキシドの製造方法。

【公開番号】特開2009−107943(P2009−107943A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279425(P2007−279425)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】