説明

ビスマス系無鉛ガラス

【課題】 パターニング精度の低下が抑制されたビスマス系無鉛ガラスを提供することを課題としている。
【解決手段】 光照射によりパターニングされる光パターニングガラス材料に用いられ、365nmの波長の光に対する吸収係数が300〜3000cm-1であることを特徴とするビスマス系無鉛ガラスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によりパターニングされる光パターニングガラス材料に用いられるビスマス系無鉛ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の省スペース化、省エネルギー化需要の高まりにより、陰極線管式画像表示装置(以下「CRT」ともいう)に代わり、ディスプレイパネルが用いられている。
例えば、プラズマディスプレイパネル(以下「PDP」ともいう)や電界放出型ディスプレイ(以下「FED」ともいう)が広く用いられている。
【0003】
このPDPやFEDには、表面に電極が形成されたガラス板が互いに電極面を対向させて前面側と背面側とに2枚用いられている。
PDPでは通常、背面側のガラス板表面にストライプ状に電極が形成されており、この電極間にはガラスで形成された隔壁が立設されている。また、前面側ガラス板表面の電極は、背面側電極と直交する方向にストライプ状に形成されており、この前面側電極と背面側電極とは、通常、誘電体層とよばれるガラス層により被覆されている。そして、この前面側ガラスと背面側ガラスならびに隔壁で表示セルが画定され、該表示セルに配した蛍光体を、電極間のプラズマ放電により発光させて表示させている。
また、FEDでは、画素ごとに背面側の電極(陰極)から前面側の電極(陽極)へと電子を放出させて陽極に塗布した蛍光体に衝突させて発光させて画像を表示させている。通常、陰極は、ガラス板上に形成された誘電体層上に形成され、また陰極以外の電極は、誘電体層で被覆されている。この誘電体層は、電極やその引き出し線を被覆することで放電を防止する絶縁膜となる。この誘電体層は、一般にガラスペーストなどを用いた厚膜技術により形成されている。
【0004】
このようなことからPDPの隔壁や誘電体層、FEDの誘電体層に用いられるガラスは、精度良く加工されることが求められており、例えば、フォトリソグラフ法によるパターニングがされたりしている。このフォトリソグラフ法によるパターニングでは、通常、光不溶化型感光性樹脂あるいは光可溶化型感光性樹脂と粉末状に形成されたガラス(粉末ガラス)とが混合された感光性ガラスペーストあるいは感光性グリーンシートなどといった光パターニングガラス材料が用いられて形成されたりしている。例えば光不溶化型感光性樹脂が用いられた感光性グリーンシートによりFEDの誘電体層を形成する場合には、例えば、ガラス基板の上にこの感光性グリーンシートを積層して、誘電体層形成部分にのみ光が透過するよう作製されたフォトマスクをさらに積層して、i線と呼ばれる365nmの波長の光を水銀ランプなどを用いて照射することにより、誘電体層形成部分の感光性樹脂を露光して不溶化させ、可溶部分を溶剤等を用いて除去した後に、焼成する方法などが採用されたりしている。
【0005】
ところで、従来、このPDPやFEDの前面側、背面側のガラス基板には、ソーダライムガラスやアルカリ含有量を低減した高歪点ガラスが用いられている。そのため光パターニングガラス材料には、より低温で焼成させ得るものが求められており、この光パターニングガラス材料に用いられるガラスには低軟化温度(軟化点)のものが求められている。
この低軟化点を示すガラスについて、例えば、特許文献1には、PDPの隔壁に、PbOを主成分とする低融点のガラスを用いることが記載されている。
近年、環境意識の向上から、電気・電子機器においては無鉛化が要望されるようになっており、ホウ酸−アルミナ−シリカ系の無鉛ガラスを、PbOを主成分とするガラスに代えて用いることが特許文献2に記載されている。
しかし、ホウ酸−アルミナ−シリカ系の無鉛ガラスは、その軟化点を十分低下させることが困難であり、特許文献2に示すようなガラスではソーダライムガラスやアルカリ含有量を低減した高歪点ガラス上で焼成させるのに適した低い軟化点のガラスを得ることが困難である。
このことに対して、特許文献3には、ホウ酸−アルミナ−シリカ系に比べて低い軟化点のものが得られやすいビスマス系無鉛ガラスを用いてPDPの隔壁や誘電体層を形成させることが記載されている。
しかしビスマス系無鉛ガラスを用いて粉末ガラスを形成し、この粉末ガラスと感光性樹脂と混合して感光性ガラスペーストや感光性グリーンシートなどの光パターニングガラス材料としようとすると、パターニング精度が低下してしまう問題を有する。例えば、感光性樹脂として光不溶化型感光性樹脂を用いた場合にはフォトマスクのパターンよりも太くパターニングされやすく、一方、光可溶型感光性樹脂を用いた場合にはフォトマスクのパターンよりも細くパターニングされる傾向がある。
【0006】
すなわち、PDPの隔壁や誘電体層、FEDの誘電体層の形成などに用いられる光パターニングガラス材料において、従来のビスマス系無鉛ガラスは、光パターニングガラス材料のパターニング精度を低下させてしまうという問題を有している。
【0007】
【特許文献1】特開平8−119725号公報
【特許文献2】特開平11−92168号公報
【特許文献3】特開2003−128430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みパターニング精度の低下が抑制されたビスマス系無鉛ガラスを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、光パターニングガラス材料に用いられるビスマス系無鉛ガラスについて鋭意検討した結果、このビスマス系無鉛ガラスは、通常、ホウ酸−アルミナ−シリカ系やPbOを主成分とするガラスなどに比べて高い屈折率を有していること、ならびに、そのことによりフォトマスクの光透過部分を透過した光が拡散されてフォトマスクにより光が遮断されるべき部分までも露光させてしまっていること、さらには、このビスマス系無鉛ガラスを所定の吸収係数とすることで、この光の拡散を抑制させてパターニング精度の低下を抑制させ得ることを見出して本発明の完成に到ったのである。
【0010】
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべくなされたもので、ビスマス系無鉛ガラスにかかる請求項1記載の発明は、光照射によりパターニングされる光パターニングガラス材料に用いられ、365nmの波長の光に対する吸収係数が300〜3000cm-1であることを特徴としている。
なお、本明細書中において、吸収係数(α:cm-1)とは、ガラスに光を透過させたときのガラス透過後の透過光強度(I)とガラス透過前の入射光強度(I0)との比の自然対数と、このガラスの厚さ(d:cm)とによるランバート・ベールの法則(下記式1)により求められる値を意図しており、例えば、粉末ガラスを用いて数十μm厚さに焼成したガラス薄片を形成させ、このガラス薄片の厚さ(d)をマイクロメーターなどによって測定し、且つ、ガラス薄片の光の透過率(I0/I)を分光光度計を用いて測定することにより求めることができる。
α=(1/d)・log(I0/I)・・・式(1)
【0011】
また、ビスマス系無鉛ガラスにかかる請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、酸化物換算の質量%でBi23:40〜80%、SiO2:1〜20%、Al23:0.5〜10%、B23:5〜20%、ZnO:1〜20%、ZrO2:0〜5%、アルカリ土類金属の酸化物が合計0〜15%含有されており、光吸収成分であるTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euのいずれかの酸化物が合計0.1〜2%さらに含有されていることを特徴としている。
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記光吸収成分には、Feの酸化物が酸化物換算の質量%で0.1〜1%含有されていることを特徴とし、請求項4記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記光吸収成分には、酸化物換算の質量%でTi及びCoの少なくとも一方の酸化物が合計0.5〜2%含有されていることを特徴としている。
【0012】
また、ビスマス系無鉛ガラスにかかる請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発明において、粉末状態に形成され、感光性樹脂との混合状態で前記光パターニングガラス材料に用いられることを特徴としている。
【0013】
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において前記光パターニングガラス材料が感光性ガラスペーストであることを特徴とし、請求項7記載の発明は、請求項5記載の発明において前記光パターニングガラス材料が感光性グリーンシートであることを特徴としている。
【0014】
さらに、光パターニングガラス材料にかかる請求項8記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のビスマス系無鉛ガラスが粉末状態に形成されてなる粉末ガラスと感光性樹脂とが混合されていることを特徴としている。
また、光パターニングガラス材料にかかる請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明においてディスプレイパネルの誘電体層の形成に用いられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光照射によりパターニングされる光パターニングガラス材料に用いられるビスマス系無鉛ガラスが、365nmの波長の光に対する吸収係数が300〜3000cm-1であることからi線などの光の拡散を抑制させることができて光パターニングガラス材料のパターニング精度の低下を抑制させ得る。
【0016】
さらに、このビスマス系無鉛ガラスに、酸化物換算の質量%でBi23:40〜80%、SiO2:1〜20%、Al23:0.5〜10%、B23:5〜20%、ZnO:1〜20%、ZrO2:0〜5%、アルカリ土類金属の酸化物が合計0〜15%含有されており、光吸収成分であるTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euのいずれかの酸化物が合計0.1〜2%さらに含有されている場合には、ビスマス系無鉛ガラスの軟化温度を高歪点ガラスの実用的な熱処理上限温度(通常、600℃)よりも十分低い580℃以下の温度とすることができ、光パターニングガラス材料をPDPの隔壁や誘電体層、FEDの誘電体層の形成に好適なものとさせ得る。
また、このようなビスマス系無鉛ガラスが用いられた光パターニングガラス材料は、ビスマス系無鉛ガラスを用いることからホウ酸−アルミナ−シリカ系ガラスが用いられる場合よりも低温焼成可能となり、精緻なパターンを良好な作業性にて形成させ得るものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について光パターニングガラス材料を例に説明する。
【0018】
本実施形態の光パターニングガラス材料は、感光性樹脂と無鉛系の粉末ガラスが含有されている。この粉末ガラスは、ビスマス系無鉛ガラスが粉末状態にされたものであり、この粉末ガラスに用いられるビスマス系無鉛ガラスには、365nmの波長の光に対する吸収係数が300〜3000cm-1のものを用いる。ビスマス系無鉛ガラスの吸収係数がこのような範囲とされるのは、300cm-1未満である場合には、光の拡散抑制効果が十分なものとならず光パターニングガラス材料のパターニング精度が低下するためである。一方、3000cm-1を超える吸収係数とされた場合には、光パターニングガラス材料の厚さ方向への光の透過性が著しく低下するため、実質使用することができない。例えば、光の照射個所におけるパターニングガラス材料の感光性(感光性樹脂の不溶化あるいは可溶化)が不充分となり、パターニング精度が低下することとなる。
このような点において、前記吸収係数は500〜2500cm-1であることが好ましい。
【0019】
前記感光性樹脂は、光の照射により不溶化されるかあるいは可溶化される一般的な感光性樹脂を用いることができる。
この光の照射により不溶化される光不溶化型感光性樹脂としては、分子中に不飽和基などを一つ以上有するモノマーやオリゴマーをポリマーと混合したものや、芳香族ジアゾ化合物、有機ハロゲン化合物などの感光性物質を適当なポリマーと混合したもの、ポリマーに光反応性(感光性)の基をグラフトさせたもの、一般にジアゾ樹脂といわれるものなどを用いることができる。
【0020】
また光可溶型感光性物質としては、ジアゾ化合物の無機塩や有機酸との複合体、キノンジアゾ類をポリマーと混合したもの、フェノール、ノボラック樹脂のナフトキノン1,2−ジアジド−スルフォン酸エステルなどのキノンジアゾ類をポリマーと結合させたものなどを用いることができる。
【0021】
前記ビスマス系無鉛ガラスには、酸化物換算の質量%でBi23:40〜80%、SiO2:1〜20%、Al23:0.5〜10%、B23:5〜20%、ZnO:1〜20%、ZrO2:0〜5%、アルカリ土類金属の酸化物が合計0〜15%含有されており、光吸収成分であるTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euのいずれかの酸化物が合計0.1〜2%さらに含有されているものを好適に用いることができる。
上記組成のビスマス系無鉛ガラスを用いることで、粉末ガラスの軟化温度を高歪点ガラスの実用的な熱処理上限温度(通常、600℃)よりも十分低い580℃以下の温度とすることができ、光パターニングガラス材料をPDPの隔壁や誘電体層、FEDの誘電体層の形成に好適なものとさせ得る。
【0022】
前記Bi23は、このような580℃以下の軟化点を示すビスマス系無鉛ガラスを得るために必須な成分であり、その含有量が質量%で40〜80%とされているのは、含有量が40%未満の場合は、得られるビスマス系無鉛ガラスの軟化点が高くなり、580℃を上回るためである。また、80%を超えて含有されると結晶化し易くなり、焼成が困難となるためである。
【0023】
SiO2とAl23は、ガラス化範囲を広げてガラスを安定させるために必須な成分であり、SiO2の含有量が質量%で1〜20%とされ、Al23の含有量が質量%で0.5〜10%とされているのは、これらの範囲外ではビスマス系無鉛ガラスが不安定なものとなってしまうためである。また、上限を超えて含有される場合には、ビスマス系無鉛ガラスの軟化点が高くなり580℃を上回るおそれがある。
【0024】
前記B23も、580℃以下の軟化点を示すビスマス系無鉛ガラスを得るために必須な成分であり、B23の含有量が質量%で5〜20%とされているのは、B23もガラスの安定化に効果があり、しかも、ビスマス系無鉛ガラスの軟化点を下げる効果を有しており、含有量が5%未満の場合は、得られるビスマス系無鉛ガラスが不安定なものとなるおそれがある。また、20%を超えて含有されると得られるビスマス系無鉛ガラスの軟化点が高くなり、580℃を上回ってしまう。
【0025】
前記ZnOも、ガラスを安定化させるために必須な成分であり、ZnOの含有量が質量%で1〜20%とされているのは、含有量が1%未満の場合は、得られるビスマス系無鉛ガラスが不安定なものとなり、20%を超えて含有されると得られるビスマス系無鉛ガラスが結晶化を起こしやすくなるためである。
【0026】
前記ZrO2は、本実施形態のビスマス系無鉛ガラスに対して、任意な成分であり、ガラスの粘性や熱膨張係数の調整に効果を奏する。ただし、質量%で5%を超えて含有されると、形成されるガラス中に結晶が析出するおそれがあるため、5%以下の量で使用量が定められることが好ましい。
【0027】
前記アルカリ土類金属の酸化物、すなわちMgO、CaO、BaO、SrOなども、本実施形態のビスマス系無鉛ガラスに対しては任意な成分であり、ガラスの安定化、低融化させる効果を有するが、量を多く含有させると、ガラスの軟化点を上昇させたり、ガラスを不安定なものとさせたりするおそれがある。このようなことからアルカリ土類金属の酸化物の含有量は、質量%で合計15%以下とされることが好ましい。
【0028】
Ti、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euの酸化物は、いずれも光吸収成分であり、ビスマス系無鉛ガラスに含有されることで、365nmの波長の光に対するビスマス系無鉛ガラスの吸収係数を高める効果を有する。このビスマス系無鉛ガラスを580℃以下の軟化点としつつ吸収係数を300〜3000cm-1とさせるためにTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euの酸化物の合計含有量は、酸化物換算の質量%で0.1〜2%とされる。
このTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euの酸化物の合計含有量がこのような範囲とされるのは、酸化物換算の質量%で0.1%未満の場合、あるいは、2%を超える場合には、ビスマス系無鉛ガラスを580℃以下の軟化点としつつ365nmの波長の光に対する吸収係数を300〜3000cm-1とさせることができないためである。
【0029】
なお、これらTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euの酸化物として、V、Fe、Ni、Moの酸化物を用いる場合には、酸化物換算の質量%で0.1〜1%とされることが好ましく、0.2〜0.5%とされることがより好ましい。Ti、Cr、Co、Ce、Sm、Euの酸化物を用いる場合には、酸化物換算の質量%で0.5〜2%とされることが好ましく、1〜2%とされることがより好ましい。なかでも、Ti、CoあるいはFeを用いることが好ましく、特に、Feを用いる場合は、安価であり、しかもガラスの物性に影響を与えることを抑制しつつガラスの吸収係数を制御しやすいという優れた効果を奏する。
さらに、これらTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euは、それぞれ、Ti4+、V3+、Cr6+、Co2+、Fe3+、Ni2+、Mo3+、Ce4+、Sm3+、Eu2+の価数となる酸化物を用いることが好ましい。
【0030】
このような組成のビスマス系無鉛ガラスで粉末ガラスを形成する場合は、すべての原料を、例えば1000〜1100℃の温度で、混合溶融して均一なガラスを作製し、該ガラスをミルなどの粉砕手段により粉末とすることで均一な性状の無鉛系の粉末ガラスを得ることができる。
このとき、酸化雰囲気での溶融を実施することでビスマス系無鉛ガラス中のTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euの酸化物を、Ti4+、V3+、Cr6+、Co2+、Fe3+、Ni2+、Mo3+、Ce4+、Sm3+、Eu2+の価数となる酸化物として形成させやすくなる。
また、上記のような組成により作製された粉末ガラスと感光性樹脂ならびに溶剤などを用いて感光性ガラスペーストとすることができる。あるいは、スラリー化した後にシート化して感光性グリーンシートとしたりすることもできる。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜8、比較例1、2):
表1に示す配合組成となるよう原料を調合し、混合の後、1000〜1100℃の温度で1〜2時間溶融した。該溶融したガラスをステンレス製の冷却ロールにて急冷し、ガラスフレークを作製した。
次いで、ガラスフレークを粉砕した後、平均粒径0.5〜1.5μmとなるように分級して各実施例、比較例のビスマス系無鉛ガラス(粉末ガラス)を作製した。
また、この粉末ガラスと、バインダー樹脂、光重合性多官能モノマー、光重合促進剤、光重合開始剤などからなる光不溶化感光性樹脂とを混合して感光性ガラスペーストを作製した。
得られた感光性ガラスペーストを用いて、焼成後に20μmの厚さとなるように、ガラス基板(高歪点ガラス、旭硝子社製「PD−200」)上にスクリーン印刷と乾燥とを2回繰り返して実施した。この乾燥については、温風炉を用いて100℃で30〜45分間実施した。このようにして得られた、乾燥ガラスペースト膜を高圧水銀灯を光源とする露光機で50〜500mJ/cm2の露光量で露光し、アルカリ現像して、水洗、乾燥後に焼成を行った。この焼成は、ガラス基板が熱変形を生じるおそれのない520〜560℃の温度で30分間焼成し、ガラス基板上に、厚さ20μmのガラス膜を形成した。
【0032】
【表1】

【0033】
(評価)
1)吸収係数
各実施例、比較例の粉末ガラスが用いられて形成された厚さ20μmのガラス膜について(株)日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計(型名「U−3010(積分球なし)」)を用いて、365nmの光透過率(I/I0:なお、I0は入射光強度、Iは透過光強度を表す。)を測定した。
この光透過率(I/I0)とガラス膜厚(d:2×10-3cm)から、下記式(2)を用いて吸収係数(α:cm-1)を求めた。結果を表1に示す。
α=(1/d)・log(I0/I)・・・式(2)
2)軟化点
各実施例、比較例の粉末ガラスを、理学電機(株)社製DTA(型名「TG−8120」)を用いて、大気雰囲気下において20℃/分の昇温速度で示差熱分析測定を行い、溶融時の吸熱ピークが終了した点を接線法により求め軟化点とした。
3)精細性
各実施例、比較例の粉末ガラスを、高歪点ガラス(旭硝子株式会社製PD−200)上にスクリーン印刷法にて印刷・乾燥を行い、次いでフォトリソグラフ法にてストライプ状に線幅約50μm、高さ約20μm、ピッチ約220μmのパターンを形成し、空気中にて520〜560℃、30分間焼成して得たサンプルを用いて評価を行った。精細度はパターンの線幅、高さを光学顕微鏡による観察で評価し、線幅が45μm未満となったものを「×」、45μm以上50μm未満となったものを「○」、50μm以上となったものを「◎」とした。
【0034】
【表2】

【0035】
以上のように、光照射によりパターニングされる光パターニングガラス材料に用いられ、365nmの波長の光に対する吸収係数が300〜3000cm-1であることを特徴とするビスマス系無鉛ガラスを用いることで精細性に優れたパターニングができることがわかる。すなわち、ビスマス系無鉛ガラスを用いながらもi線などの光の拡散が抑制されていることがわかる。
また上記のようなビスマス系無鉛ガラスとして、質量%でBi23:40〜80%、SiO2:1〜20%、Al23:0.5〜10%、B23:5〜20%、ZnO:1〜20%、ZrO:0〜5%、アルカリ土類金属の酸化物を合計0〜15%含有されており、光吸収成分であるTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euのいずれかの酸化物が合計0.1〜2%さらに含有されているものを用いる場合には、無鉛系粉末ガラスの軟化温度を高歪点ガラスの実用的な熱処理上限温度(通常、600℃)よりも十分低い580℃以下の温度とすることができ、光パターニングガラス材料をPDPの隔壁や誘電体層、FEDの誘電体層の形成に好適なものとさせ得ることもわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射によりパターニングされる光パターニングガラス材料に用いられ、365nmの波長の光に対する吸収係数が300〜3000cm-1であることを特徴とするビスマス系無鉛ガラス。
【請求項2】
酸化物換算の質量%でBi23:40〜80%、SiO2:1〜20%、Al23:0.5〜10%、B23:5〜20%、ZnO:1〜20%、ZrO2:0〜5%、アルカリ土類金属の酸化物が合計0〜15%含有されており、光吸収成分であるTi、V、Cr、Co、Fe、Ni、Mo、Ce、Sm、Euのいずれかの酸化物が合計0.1〜2%さらに含有されている請求項1記載のビスマス系無鉛ガラス。
【請求項3】
前記光吸収成分には、Feの酸化物が酸化物換算の質量%で0.1〜1%含有されている請求項2に記載のビスマス系無鉛ガラス。
【請求項4】
前記光吸収成分には、酸化物換算の質量%でTi及びCoの少なくとも一方の酸化物が合計0.5〜2%含有されている請求項2に記載のビスマス系無鉛ガラス。
【請求項5】
粉末状態に形成され、感光性樹脂との混合状態で前記光パターニングガラス材料に用いられる請求項1乃至4のいずれか1項に記載のビスマス系無鉛ガラス。
【請求項6】
前記光パターニングガラス材料が感光性ガラスペーストである請求項5に記載のビスマス系無鉛ガラス。
【請求項7】
前記光パターニングガラス材料が感光性グリーンシートである請求項5に記載のビスマス系無鉛ガラス。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のビスマス系無鉛ガラスが粉末状態に形成されてなる粉末ガラスと感光性樹脂とが混合されていることを特徴とする光パターニングガラス材料。
【請求項9】
ディスプレイパネルの誘電体層の形成に用いられる請求項8に記載の光パターニングガラス材料。

【公開番号】特開2007−176726(P2007−176726A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375534(P2005−375534)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】