説明

ビスマス系酸化物超電導線材およびその製造方法

【課題】 Cuの外部拡散を防止して優れた特性のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3であるビスマス系酸化物超電導材料を金属シースに充填して、1次熱処理をした後、塑性加工または押圧加工し、さらに2次熱処理を施す、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法において、前記超電導材料を中心から外側にかけてCuの組成比を大きくすることを特徴とする、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法に関し、特にCuの組成比に特徴を有するビスマス系酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化物超電導線材の1つとして、ビスマス(Bi)系の酸化物超電導線材が知られている。このBi系の酸化物超電導線材は、液体窒素温度での使用が可能であり、比較的高い臨界電流密度を得ることができる。また、このBi系の酸化物超電導線材は、長尺化が比較的容易なため、超電導ケーブルやマグネットへの応用が期待されている。
【0003】
このようなBi系の酸化物超電導材料においては、粉末を熱処理した後に金属シースにて被覆し、伸線加工および圧延加工を施した後、さらに熱処理することにより、高い臨界電流密度を有する単芯の酸化物超電導線材が得られている。
【0004】
また、酸化物超電導材料を主成分とする粉末を熱処理した後に金属シースにて被覆し、伸線加工を施した後嵌合して多芯線とし、伸線加工および圧延加工を施した後、さらに熱処理することにより、同様に高い臨界電流密度を有する酸化物超電導多芯線材が得られている。
【0005】
さらに、従来、このような酸化物超電導線材の製造において、圧延加工および熱処理のステップを複数回繰返すことにより、より高い臨界電流密度を有する酸化物超電導線材が得られることが知られている。
【0006】
また、ビスマス系酸化物超電導体には、臨界温度が110Kのものと、臨界温度が80Kおよび10Kのものとがあることが知られている。さらに、110K相の超電導体を製造しようとするとき、非超電導相が一部において現われることも知られている。
【0007】
ビスマス系酸化物超電導体において、上述した110K相は、Biまたは(Bi,Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3といわれている2223相を有しており、80K相は、この組成比が略2:2:1:2である2212相を有していることが知られている。
【0008】
ビスマス系酸化物超電導体を、安価な液体窒素(77.3K)を冷却媒体として、安定して使用するためには、臨界温度の高い110K相である2223相をできるだけ多く生成させることが望ましい。
【0009】
また、超電導体を線材として使用する場合には、高い臨界電流密度だけではなく、高い臨界電流を得る必要がある。
【0010】
このようなビスマス系酸化物超電導体として、下記特許文献1には、組成比が(Bi+Pb):Sr:Ca:Cu=2.2:2:2:3を中心とし、それぞれの組成比を±5%の範囲内で、かつ0.3≦Pb≦0.4となる組成の粉末を金属シースに充填するステップと、粉末を充填した金属シースを塑性加工して線材化するステップと、この線材を1次熱処理するステップと、熱処理後の線材を塑性加工または押圧加工するステップと、加工後の線材を2次熱処理するステップとを備えるビスマス系酸化物超電導線材の製造方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、上記ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法において、ビスマス系超電導線材で構成されているフィラメント内のCuが線材熱処理中に銀シース部を通って外に抜ける。このため、線材の外側に近いフィラメントほど、Cuの少ない組成になっている。
【0012】
これは、次のような現象が起こっていると考えられる。すなわち、熱処理後の線材表面を観察すると、線材表面にCuOまたはCuOが析出している。これは線材の熱処理時間が長くなるほど顕著である。
【0013】
また、熱処理後の線材断面を観察すると、線材熱処理時間が増えるほど、フィラメントの外周部ほど白い層状のBi2212相が増えている。これは、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cu=2:2:2:3で構成されるBi2223組成からCuとCaが抜けた(Bi,Pb):Sr:Ca:Cu=2:2:1:2で構成されるBi2212相の析出が目立つ。この相はCuの線材表面への拡散による欠損により生成していることがわかる。EDXにより各フィラメントの組成分析をすると外周部ほどCuが欠損していることが判明した。
【0014】
商業的には、超電導電流量を増やすことにより商品価値を上げるため、線材の断面のフィラメントの割合を増やす手段がとられるが、このようにフィラメントの割合を増大させると、フィラメントにおけるCuの移動が顕著であり、Bi2212相が析出してBi2223相が減少し、問題であった。
【特許文献1】特開平4−292812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、Cuの外部拡散を防止して優れた特性のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の1つの局面によれば、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3であるビスマス系酸化物超電導材料を金属シースに充填して、1次熱処理をした後、塑性加工または押圧加工し、さらに2次熱処理を施す、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法において、超電導材料を中心から外側にかけてCuの組成比を大きくすることを特徴とする、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法が提供される。
【0017】
本発明の別の局面によれば、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3であるビスマス系超電導材料の第1粉末を第1金属シースに充填するステップと、第1粉末よりCuの組成比が大きい第2粉末を第2金属シースに充填するステップと、第2粉末よりCuの組成比が大きい第3粉末を第3金属シースに充填するステップと、第1〜第3金属シースの各々を塑性加工して第1〜第3粉末をそれぞれ線材化するステップと、線材化した第1〜第3線材を1次熱処理するステップと、1次熱処理後の第1〜第3線材を塑性加工または押圧加工するステップと、塑性加工または押圧加工後の第1〜第3線材を、第1線材を中心として、第1線材の長軸方向を中心としてその外周に、第2線材および第3線材をこの順番で第4金属シース中に配置し、第1〜第3線材に2次熱処理するステップと、を包含する、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法が提供される。
【0018】
好ましくは、第3線材のCuの組成比は、第1線材のCuの組成比より10%以下の範囲内で高い。
【0019】
好ましくは、第2線材のCuの組成比は、第1線材のCuの組成比より5%以下の範囲内で高い。
【0020】
好ましくは、第4金属シースは、Cuを含有する合金線が嵌合部に用いられている。
【0021】
好ましくは、第2金属シースおよび/または第3金属シースは、Cuを含有する合金線が用いられている。
【0022】
好ましくは、合金線は、0.5質量%の範囲内のCuを含有する。
【0023】
本発明の別の局面によれば、上記の製造方法によって製造されたビスマス系酸化物超電導線材が提供される。
【0024】
本発明の別の局面によれば、上記のビスマス系酸化物超電導線材を用いた超電導機器が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法によれば、線材中のCuの組成比を調整することにより、Cuの外部拡散に起因する臨界電流を防止することができ、優れた特性を有するビスマス系酸化物超電導線材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法は、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3であるビスマス系酸化物超電導材料を金属シースに充填して、1次熱処理をした後、塑性加工または押圧加工し、さらに2次熱処理を施す、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法において、前記超電導材料を中心から外側にかけてCuの組成比を大きくすることを特徴とする。
【0027】
このように、超電導線材中のCuの組成比を中心から外側にかけて大きくすることにより、2次熱処理後にCuが外部に拡散しても外側においてCuの組成比が小さくなりすぎず、Bi2223相からBi2212相へ変更するのを防止し、結果として優れた臨界電流を得ることができる。
【0028】
特に、本発明のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法は、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3であるビスマス系超電導材料の第1粉末を第1金属シースに充填するステップと、第1粉末よりCuの組成比が大きい第2粉末を第2金属シースに充填するステップと、第2粉末よりCuの組成比が大きい第3粉末を第3金属シースに充填するステップと、第1〜第3金属シースの各々を塑性加工して第1〜第3粉末をそれぞれ線材化するステップと、線材化した第1〜第3線材を1次熱処理するステップと、1次熱処理後の第1〜第3線材を塑性加工または押圧加工するステップと、塑性加工または押圧加工後の第1〜第3線材を、第1線材を中心として、第1線材の長軸方向を中心としてその外周に、第2線材および第3線材をこの順番で第4金属シース中に配置し、第1〜第3線材に2次熱処理するステップと、を包含する。
【0029】
本発明は、このようにCuの組成比が異なる線材を準備し、中心から外側にかけて当該組成比が大きくなるように配置して熱処理することにより、線材の外側においてCuが拡散することによるCuの欠損を防止し、結果として高い超電導電流を得ることができるようにしたものである。
【0030】
ここで、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3であるビスマス系超電導材料とは、ビスマス(必要に応じて、ビスマスと共に鉛を含む)とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その組成、すなわち原子比(酸素を除く)として、ビスマス(またはビスマス+鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:2:3と近似して表されるBi−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体相を含む材料のことである。当該相についてBi−2223相または2223相と示す場合もある。なお、2223組成とは、上記のとおり上記原子比の近似値比をいう。
【0031】
同様に、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:1:2であるビスマス系超電導材料とは、ビスマス(必要に応じて、ビスマスと共に鉛を含む)とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)として、ビスマス(またはビスマス+鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:1:2と近似して表されるBi−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体相を含む材料のことである。当該相について、Bi−2212相または単に2212相と示す場合もある。なお、2212組成とは、上記のとおり上記原子比の近似値比をいう。
【0032】
本発明のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法において、Cuの組成比を線材の中心から外側にかけて大きくしたのは、従来の技術において記載したように、熱処理中にCuが拡散して金属シースから外部に拡散してしまうため、線材の外側におけるCuが欠損し、Bi2223相が減少し、Bi2212相が増加する。超電導線材においては上述のとおりBi2223相が多いことが好ましいので、このようなCuの欠損によるBi2223相の減少を防止する必要がある。そこで、本発明このようなCu組成比を有する構成を採用したものである。なお、熱処理中のCuの拡散については比較例において詳細に説明する。
【0033】
本発明において、第1粉末は、(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3であるビスマス系超電導材料である。このような材料は、当該分野で公知のものを用いることができ、たとえば、Bi、PbO、SrCO、CaCO、およびCuOの各粉末を混合して、当該分野で慣用の条件により、熱処理を行って粉砕することにより当該粉末を得ることができる。
【0034】
また、このようにして得られた粉末は、第1金属シースに充填して次の熱処理に供されることとなる。ここで、第1金属シースのうち、第1とは第1粉末用のという意味であり、他の金属シースと材質・機能等が異なることを意味するものではない。すなわち、Cuの組成比が異なる粉末ごとに、金属シースを準備するという意味である。
【0035】
ここで、金属シースとしては、代表的に、銀シースを用いることができ、その他のものとしては、Ag−Mn、Ag−Mg、Ag−Sbなどを用いることができる。
【0036】
同様に、本発明において、第1粉末よりCuの組成比が大きい第2粉末を準備する。ここで、当該第2粉末の組成比は、第1粉末より5%以下の範囲内で高いことが好ましい。5%を超えると、得られる臨界電流が低下するおそれがあるためである。より好ましくは、1%以上3%の範囲内である。
【0037】
なお、当該第2粉末は、第1粉末と同様にして作製することができるが、Cuの組成比が上記の規定の範囲内で所望する値になるように原材料の混合を考慮する必要がある。
【0038】
また、得られた粉末は、第1粉末と同様に、第2金属シースに充填されて、次の熱処理に供されるものである。ここで、第2金属シースは、第1金属シースと同様のものを用いることができる。
【0039】
同様に、本発明において、第1および第2粉末よりCuの組成比が大きい第3粉末を準備する。ここで、当該第3粉末の組成比は、第1粉末より10%以下の範囲内で高いことが好ましい。10%を超えると、得られる臨界電流が低下するおそれがあるためである。より好ましくは、1%以上7%の範囲内である。
【0040】
なお、当該第3粉末は、第1粉末と同様にして作製することができるが、Cuの組成比が上記の規定の範囲内で所望する値になるように原材料の混合を考慮する必要がある。
【0041】
また、得られた第3粉末は、第1粉末と同様に、第3金属シースに充填されて、次の熱処理に供されるものである。ここで、第3金属シースは、第1金属シースと同様のものを用いることができる。
【0042】
次に、このようにして得られた上記第1〜第3のビスマス系酸化物超電導材料の粉末を、それぞれの金属シースにおいて塑性加工し、当該粉末をそれぞれ線材化するものである。
【0043】
ここで、塑性加工とは、所定の直径になるまで伸線加工する工程と、所定の厚さになるまで圧延加工する工程とを含む。
【0044】
次いで、線材化された第1線材、第2線材および第3線材を、1次熱処理する。熱処理の時間は、たとえば、30〜70時間の範囲内の時間とすることができる。また、温度は、820〜845℃の範囲内の温度とすることができる。
【0045】
その後、1次熱処理した後の第1線材、第2線材および第3線材を塑性加工または押圧加工する。塑性加工は、上述したとおりである。また、押圧加工とは、圧延加工、プレス加工、CIP加工などのことをいう。押圧加工の条件としては、圧延加工の場合で圧下率70〜85%の範囲内とすることができる。ここで、圧下率は、式:((圧延加工前の線材径(厚み))−(圧延後の線材厚み))/(圧延加工前の線材径(厚み))で表すことができ、百分率(%)表示する場合はこの結果に100をかけたものである。
【0046】
次いで、当該加工後の第1〜第3の線材について、第1線材を中心とし、該第1線材の長軸方向を中心としてその外周に、第2線材および第3線材をこの順番で第4金属シース中に配置し、このように配置された第1〜第3の線材に対し2次熱処理を施す。ここで、その外周とは、第1線材の長軸方向に、第3線材および第4線材の長軸方向が平行になるようにし、かつ第1線材の長軸方向を中心とする周りに、という意味である。たとえば、このように第1〜第3線材が配置された状態で長軸方向に垂直な面で切断した場合、図1に示すような構成、すなわち、第1線材を中心としてその略円周上に第2線材および第3線材がこの順に配置されるものである。ただし、図1は概略図であるので、完全に一致する必要はない。
【0047】
当該2次熱処理の条件としては、時間が50〜150時間の範囲内、温度が820〜840℃の範囲内とすることができる。
【0048】
なお、このようにして製造されたビスマス系酸化物超電導線材において、線材の長軸方向に垂直な断面で切断した際、当該断面の円の半径における、第1線材:第2線材:第3線材の比は、1:6:12〜91:36:42とすることができる。理由は、高い臨界電流を得るためである。より好ましくは、7:18:18〜7:18:24の範囲内である。
【0049】
また、上記のような断面の円の半径にするためには、第4金属シースに充填する際に、第1〜第3線材の充填量を調節することによって制御することができる。
【0050】
また、本発明において、第4金属シースには、Cuを含有する合金線が嵌合部に用いられていることが好ましい。Cuを含有する合金線により、熱処理の際に当該シースから外部にCuが拡散するのを抑制することができるためである。なお、嵌合部とは、第4の金属シースのことをいう。
【0051】
また、本発明において、第2金属シースおよび/または第3金属シースにも同様に、Cuを含有する合金線が用いられていることが好ましい。線材の外側にある第2金属シースおよび第3金属シースにCu含有合金線が用いられていることにより、外側では特にCuが外部に拡散しやすいが、これを抑制することができるためである。
【0052】
なお、上記の合金線は、Cuの含有率が0.5質量%以下の範囲内で含有することが好ましい。0.5質量%を超えると、質の悪いCuが線材に混入して超電導特性に悪影響を及ぼすためである。より好ましくは、0.01質量%以上0.3質量%以下の範囲内である。
【0053】
本発明において、上述したビスマス系酸化物超電導線材は、超電導機器の用途として優れた特性を発揮する。当該超電導機器は、超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、超電導電力貯蔵装置を挙げることができる。
【0054】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されることを意図しない。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
Bi、PbO、SrCO、CaCOおよびCuOの原料粉末を、Bi:Pb:Sr:Ca:Cuが1.8:0.3:1.9:2.0:3.0のモル比になるような割合で混合し、超電導材料の粉末混合物を用意した。
【0056】
この粉末混合物について、熱処理と混合を繰り返し、第1粉末として(Bi,Pb):Sr:Ca:Cu=2:2:1:2で近似されるBi2212相と非超電導相で構成される粉末にした。また、第2粉末および第3粉末を、第一粉末から下記の表1に示されるようにCuの組成を変化させた粉末とした。
【0057】
これらの第1〜第3の粉末を、それぞれ銀パイプである第1金属シース〜第3金属シースへ充填し、銀パイプを圧延加工および伸線加工してそれぞれ第1〜第3の超電導線材を得た。
【0058】
次いで、これらの第1〜第3の超電導線材に、大気雰囲気下、温度845℃で50時間1次熱処理を行った。得られた第1〜第3の線材にさらに塑性加工または押圧加工を、圧下率80%まで行った。
【0059】
次に、7本の第1線材を中心として束ね、当該第1線材の長軸方向を中心としてその外周に18本の第2線材を束ね、さらに当該第2線材の外周に第3線材を18本束ねて、銀パイプである第4金属シースに充填した。
【0060】
当該第4金属シースに、大気雰囲気下、温度840℃、時間100時間の条件の下、2次熱処理ステップを行い、Cuの組成比の異なるビスマス系酸化物超電導線材の多芯線を得た。
【0061】
当該線材は、銀比1.6、55芯の第1〜第3の線材で構成された幅4.1mm、厚さ0.21mmのテープ形状の銀被覆線材である。
【0062】
得られた超電導線材について、臨界電流(Ic)を評価した。測定条件としては、4端子法を用いて、液体窒素中で行った。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果より、Cuの量を増加しすぎるとIcは下がってしまうが、第3線材において約10%程度増加し、第2線材において約5%程度増加した線材の臨界電流の特性が良好であることが明らかとなった。
【0065】
(実施例2)
第4の金属シースとして、表2に示すような比率のCuを含有させたAg−Cuパイプを用いた以外は、上記実施例1と同一の手順により行った。結果を表2に示す。
【0066】
(実施例3)
第2および第3の金属シースとして、表2に示すような比率のCuを含有させたAg−Cuパイプを用いた以外は、上記実施例2と同一の手順により行った。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2の結果より、実施例2においては、Cu含有量が1.0質量%を超えると臨界電流が低下している。これは、銀パイプ中に銅が過剰に入っているため当該銀パイプから線材へ銅が拡散してしまうことに起因すると考えられる。よって、第4金属シース中には1.0質量%未満の範囲でCuを含有することが好ましい。
【0069】
また、実施例3においては、Cu含有量が0.5質量%を超えると臨界電流が低下している。これは、実施例2の場合と同様に銀パイプ中に銅が過剰に入っているため当該銀パイプから線材へ銅が拡散してしまうことに起因すると考えられる。よって、第2および第3金属シース中には0.5質量%未満の範囲でCuを含有することが好ましい。
【0070】
(比較例1)
実施例1において、第2粉末および第3粉末を第1粉末と同一のもの、すなわち、第1〜第3粉末をすべて第1粉末と同一の組成にした以外は、同一の手段で行った。
【0071】
なお、2次熱処理は、30時間、50時間、および80時間毎に第1〜第3線材の組成比と臨界電流を測定した。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3より、保持時間が長くなるにつれて、線材全体の外側に位置する第2線材および第3線材のCuの組成比が減少していることがわかる。さらに、保持時間が長くなるにつれて、臨界電流も減少していることがわかる。これは、Cu(その酸化物)が2次熱処理の時間とともに外部へ拡散していることに起因すると考えられる。
【0074】
また、図2に示すような得られた線材の断面について線材表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真を図3および図4に示す。ここで、図3は、2次熱処理を50時間した後の線材の表面を示し、図4は、2次熱処理を80時間した後の線材の表面を示す。線材の表面をエネルギ分散型X線分光法(EDX)で黒い点について測定した結果、CuOまたはCuOで構成されるCuの酸化物であることが明らかとなった。なお、図3および図4において、全体のグレー部分は銀シースを示す。図3および図4を比較すると、2次熱処理時間が経過するにつれて、銀シースにおける黒色部分、すなわち銅酸化物の量が増加していることがわかる。したがって、2次熱処理時間の経過とともに銅が超電導相から外部へ拡散し、銀シースにおいて酸化されたものと考えられる。
【0075】
また、各線材の断面を研磨処理してSEMにより評価して、図5および図6を得た。断面は、図2の一部を拡大したものである。図5は、2次熱処理時間が50時間後のものを示し、図6は2次熱処理時間が80時間後のものを示す。なお、図5および図6において、白色は銀シースを示し、グレー色はBi2223相を示し、グレー色中にある黒色は未反応相を示し、上部の最も黒い部分は線材の外部を示す。
【0076】
図6における2次熱処理時間の長い80時間の線材は、図5に記載の線材と比べて、外側のグレー部分のBi2223相から伸びる直線状のものが多い。当該直線状のものは、Bi2212相であり、2次熱処理時間が長い図6のほうが、線材全体のうち外周部ほどBi2212相が多く観察された。また、各第1〜第3の線材の組成分析を行うと、外周部ほど仕込み組成よりもCuが少ない組成と評価された。
【0077】
さらに、図3および図4で示した線材表面写真で黒領域が占める割合を画像解析で評価すると図7のようになった。図7より、2次熱処理の保持時間が長くなるにつれて、線材表面の黒色分率が高くなっていることがわかる。
【0078】
また、2次熱処理の保持時間をさらに変化させたときの77Kにおける臨界電流値(Ic)を測定した。当該臨界電流の測定は直流4端子法によって行った。結果を図8に示す。図8より、保持時間が150時間を超えると臨界電流が低下していくことが明らかとなった。
【0079】
また、2次熱処理時間を変化させたときの、第3線材におけるBi2223相とBi2212相との割合を測定した。測定方法は、銀被覆を剥いで線材のみにし、これにX線回折法を用いて得られたピークのうち、(0010)面のピーク強度をBi2223相のピーク、(008)面のピーク強度をBi2212相のピークとして、次の式:
Bi2223相分率(%)=((0010)面ピーク強度)/((0010)面ピーク強度+(008)面ピーク強度)
により計算した。その結果を、図9に示す。図9より、Bi2223相の分率は125時間まで上昇し、125時間から低下していることがわかる。これは、2次熱処理時間の保持時間に対するIcの関係と略一致していることがわかる。
【0080】
以上の測定結果より、線材の2次熱処理工程において、線材全体の特に最外部の線材、すなわち第3線材よりCuが線材表面に出て行く(欠損する)と考えられる。この現象は保持時間が長いほど多くなり、図7で示すような傾向から明らかである。また線材のIcは図8、9で示されるようにBi2223相の線材内の分率が増えるごとにIcも上昇する。しかし、保持時間150時間前後を境にBi2223相の分率およびIcは低下する傾向を示す。これは線材内のCuの欠損と関連していると考えることができ、Bi2223相を形成するために必要なCuの量を満たさず、Cuが線材表面に移動したため、Bi2223相の分率が減少し、Icが落ちたと考えられる。
【0081】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法によって製造された線材の、線材の長軸方向に垂直な面で切断した際の概略断面図である。
【図2】一般的なビスマス系酸化物超電導線材の、長手方向に垂直な面で切断した際の概略断面図である。
【図3】図2の断面の表面を、2次熱処理を50時間した後SEMで観察した際の写真を表す図である。
【図4】図2の断面の表面を、2次熱処理を80時間した後SEMで観察した際の写真を表す図である。
【図5】図2の断面の表面を研磨処理した後、2次熱処理を50時間した後SEMで観察した際の写真を表す図である。
【図6】図2の断面の表面を研磨処理した後、2次熱処理を80時間した後SEMで観察した際の写真を表す図である。
【図7】図3および図4で示したような線材表面写真で各時間における黒領域が占める割合を画像解析で評価した結果を、グラフを用いて表す図である。
【図8】2次熱処理時間を変化させたときの77Kにおける臨界電流値(Ic)を、グラフを用いて表す図である。
【図9】2次熱処理時間を変化させたときのBi2223相分率を、グラフを用いて表す図である。
【符号の説明】
【0083】
1 第1線材、2 第2線材、3 第3線材、4 第1金属シース、5 第2金属シース、6 第3金属シース、7 第4金属シース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3であるビスマス系酸化物超電導材料を金属シースに充填して、1次熱処理をした後、塑性加工または押圧加工し、さらに2次熱処理を施す、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法において、前記超電導材料を中心から外側にかけてCuの組成比を大きくすることを特徴とする、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
(Bi+Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3であるビスマス系酸化物超電導材料の第1粉末を第1金属シースに充填するステップと、
前記第1粉末よりCuの組成比が大きい第2粉末を第2金属シースに充填するステップと、
前記第2粉末よりCuの組成比が大きい第3粉末を第3金属シースに充填するステップと、
前記第1〜第3金属シースの各々を塑性加工して前記第1〜第3粉末をそれぞれ線材化するステップと、
前記線材化した第1〜第3線材を1次熱処理するステップと、
前記1次熱処理後の第1〜第3線材を塑性加工または押圧加工するステップと、
前記塑性加工または押圧加工後の第1線材〜第3線材を、該第1線材を中心として、該第1線材の長軸方向を中心としてその外周に、第2線材および第3線材をこの順番で第4金属シース中に配置し、該第1線材〜第3線材に2次熱処理するステップと、を包含する、ビスマス系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記第3線材のCuの組成比は、前記第1線材のCuの組成比より10%以下の範囲内で高いことを特徴とする、請求項2に記載のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記第2線材のCuの組成比は、前記第1線材のCuの組成比より5%以下の範囲内で高いことを特徴とする、請求項2または3に記載のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記第4金属シースは、Cuを含有する合金線が嵌合部に用いられていることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記第2金属シースおよび/または前記第3金属シースは、Cuを含有する合金線が用いられていることを特徴とする、請求項2〜5のいずれかに記載のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記合金線は、0.5質量%の範囲内のCuを含有することを特徴とする、請求項5または6に記載のビスマス系酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7の製造方法によって製造されたビスマス系酸化物超電導線材。
【請求項9】
請求項8に記載のビスマス系酸化物超電導線材を用いた超電導機器。

【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−236940(P2006−236940A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53793(P2005−53793)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】