説明

ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物の製造方法

1種以上の塩基、パラジウムを含む1種以上の触媒及び大気圧〜350kPaの圧力の水素ガスの存在下、水及び1種以上の有機溶媒を含む溶媒混合物中、1種以上のハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物を接触させる段階を含む、ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物の製造方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物の製造方法に関する。具体的には、本発明は、水素を還元剤として用いる触媒還元カップリング反応でビス(ヒドロキシ芳香族)化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物には、染料、プラスチック、医薬品及び農薬などの様々な化学的用途が見いだされている。特に、ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物は、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどのポリマーの合成に共通して用いられるモノマーである。ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物の還元カップリングによるビス(ヒドロキシ芳香族)化合物の製造方法は当技術分野で周知である。かかるカップリング反応に水素を化学量論的還元剤として使用することも周知である。Busch他は、Chmische Berichte、vol.62、pp.2612〜2620(1929)及びJ.Prakt.Chem.、vol.146、pp.1〜55(1936)に、ハロ置換芳香族出発原料からビアリール化合物を合成するための還元カップリング法について記載している。この方法では、高圧水素を還元剤として用いる。しかし、極性置換基も有するハロ置換芳香族原料では、ビアリール生成物の選択率が低くなる。例えば4−ブロモフェノールからは、わずか13%の4,4′−ジヒドロキシビフェニルしか得られない。そこで、出発原料からの転化率が高く、ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物生成物の選択率の高いビス(ヒドロキシ芳香族)化合物の合成法に対するニーズが依然として存在する。
【特許文献1】米国特許第5177258号明細書
【特許文献2】特開平01−224330号公報
【特許文献3】特開平01−299236号公報
【特許文献4】特開平02−053742号公報
【特許文献5】特開昭62−026238号公報
【特許文献6】特開昭61−137838号公報
【非特許文献1】M.Busch and W.Schmidt in Chemische Berichte,Catalytic Hydrogenation of Organic Halogen Compounds,Volume62,pp.2612〜2620(1929)
【非特許文献2】M.Busch et al in J.Prakt.Chem.,Formation of Carbon Chains in the Catalytic Reduction of Alkyl Halogen Compounds,Volume146,pp.1〜55(1936)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者等は、還元剤として低圧の水素を用いたハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物の還元カップリングによるビス(ヒドロキシ芳香族)化合物の製造方法を見出した。低圧水素還元剤の使用によって、出発原料の転化率及び所望ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物の選択率がいずれも驚くほど高いレベルとなる。低圧の使用によって、水素反応体の消費量が節約され、高価な高圧反応装置の必要性がなくなる。低圧水素還元剤を用いると、反応性の低いクロロ置換基を有するハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物を出発原料として用いることができ。
【0004】
一実施形態では、本発明は、ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物の製造方法であって、1種以上の塩基、パラジウムを含む1種以上の触媒及び大気圧〜350kPaの圧力の水素ガスの存在下で、水と1種以上の有機溶媒を含む溶媒混合物中、1種以上のハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物を接触させる段階を含む方法である。
【0005】
本発明の他の特徴、態様及び効果は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲を参照することで明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本明細書及び特許請求の範囲では多くの用語を用いるが、以下の意味を有するものと定義される。単数形で記載したものであっても、前後関係から明らかでない限り、複数の場合も含めて意味する。「適宜」という用語は、その用語に続いて記載された事象又は状況が起きても起きなくてもよいことを意味しており、かかる記載はその事象又は状況が起こる場合と起こらない場合を包含する。
【0007】
本発明のビス(ヒドロキシ芳香族)化合物は、ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物(以下、出発原料ともいう。)の触媒還元カップリングによって合成される。ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物は、出発原料の各ヒドロキシ芳香族環の反応性ハロ置換基を当初有していた炭素原子において結合している。例として、4−ハロフェノールは4,4′−ジヒドロキシビフェニルを生ずる。これに関して、具体的には、ヒドロキシ芳香族化合物は、ヒドロキシ置換基又はカップリング反応条件下でヒドロキシ置換基に転化可能な部分で1以上の芳香環の環炭素原子が置換された任意の芳香族部分を含む。好適なハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されないが、1以上のハロ置換基を有し、適宜さらに1以上の追加の置換基を有するフェノール化合物が挙げられる。特定の実施形態では、ハロ置換基は、ヨード、ブロモ又はクロロを含む。他の特定の実施形態では、ハロ置換基はブロモである。さらに他の特定の実施形態では、ハロ置換基はクロロである。ハロ置換基は、ヒドロキシ置換基に対して、触媒還元カップリングが進行し得る芳香環の位置にある。特定の実施形態では、ハロ置換基は、ヒドロキシ置換基を有する炭素原子に隣接した炭素原子、或いはヒドロキシ置換基を有する炭素原子とは1又は2以上の炭素原子で隔てられた芳香環の炭素原子にある。他の特定の実施形態では、ハロ置換基は、ヒドロキシ置換基を有する炭素原子から2以上の炭素原子で隔てられた芳香環の炭素原子にある。適宜追加し得る置換基は、ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物の触媒還元カップリングを妨げない置換基からなる。特定の実施形態では、適宜追加し得る置換基は、アルキル、アリール、エーテル、アルキルエーテル、アリールエーテル、カルボン酸、カルボン酸エステル、追加のヒドロキシ置換基などを含む。適宜追加し得る置換基は、1以上の他のハロ置換基を含んでいてもよいが、その場合、1つのハロ置換基のみが触媒還元カップリングに反応性で、残りのハロ置換基は立体構造的又は電子的な理由によって反応性が低いことが好ましいことがある。2以上の追加置換基を含む混合物がハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物に存在してもよい。
【0008】
本発明の方法で合成されるビス(ヒドロキシ芳香族)化合物は対称でも非対称であってもよい。対称ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物は、2モルの同一出発原料のホモカップリングで得ることができる。対称ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物は、1モルのジハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物と2モルのモノハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物のカップリングで得ることもできる。このジハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物は2つの反応性ハロゲン置換基を含む。非対称ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物は、1モルの第1ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物と1モルの第2ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物のヘテロカップリングで得ることができる。2種以上の生成物が生じ得る実施形態では、所望生成物は、生成した反応混合物から選択的に沈殿させることができる。
【0009】
本発明の様々な実施形態で用いる「アルキル」という用語は、炭素と水素原子を含み、適宜、炭素と水素に加えて他の原子、例えば周期律表の第15族、第16族及び第17族から選択される原子を含んでいてもよい線状アルキル、枝分れアルキル、アラルキル、シクロアルキル、ビシクロアルキル、トリシクロアルキル及びポリシクロアルキル基を意味する。「アルキル」という用語には、アルコキシド基のアルキル部分も包含される。様々な実施形態において、線状及び枝分れアルキル基は、炭素原子数1〜約32のものであり、その具体例としては、特に限定されないが、C〜C32アルキル(適宜C〜C32アルキル、C〜C15シクロアルキル又はアリールから選択される1以上の基で置換されていてもよい)、及びC〜C15シクロアルキル(適宜C〜C32アルキルから選択される1以上の基で置換されていてもよい)が挙げられる。具体例を幾つか挙げると、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル及びドデシルがある。シクロアルキル及びビシクロアルキル基の具体例としては、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、ビシクロヘプチル及びアダマンチルが挙げられる。様々な実施形態では、アラルキル基は炭素原子数7〜約14のものであり、その例としては、特に限定されないが、ベンジル、フェニルブチル、フェニルプロピル及びフェニルエチルが挙げられる。本発明の各種実施形態で用いるアリール基は、環炭素原子数6〜18の置換もしくは非置換アリール基又はヘテロアリール基である。これらのアリール基の具体例としては、特に限定されないが、C〜C15アリールが挙げられ、これらはC〜C32アルキル、C〜C15シクロアルキル又はアリールから選択される1以上の基で置換されていてもよい。アリール基の具体例を幾つか挙げると、置換又は非置換フェニル、ビフェニル、トルイル及びナフチルがあるが、これらに限らない。ヘテロアリール基には、環炭素原子数約3〜約10のものがあり、特に限定されないが、トリアジニル、ピリミジニル、ピリジニル、フラニル、チアゾリニル及びキノリニルが挙げられる。
【0010】
本発明のある特定の実施形態では、好適なハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物は、1以上の追加のアルキル置換基を有するハロ置換ヒドロキシベンゼン化合物を含む。本発明の他の特定の実施形態では、好適なハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物は、追加置換基をもたないハロ置換ヒドロキシベンゼン化合物を含む。さらに他の特定の実施形態では、好適なハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物は、ブロモ又はクロロ置換フェノール又はナフトールを含む。さらに他の特定の実施形態では、好適なハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されないが、2,6−ジメチル−4−ブロモフェノール、4−ブロモ−1−ナフトール、4−クロロ−1−ナフトール、4−ブロモ−o−アルキルフェノール、4−クロロ−o−アルキルフェノール、4−ブロモ−o−クレゾール、4−クロロ−o−クレゾール、4−ブロモフェノール、4−クロロ−フェノールなど、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0011】
本発明の還元カップリング反応は、還元剤としての水素ガスの存在下で実施される。水素ガスが好ましいが、カップリング反応は反応条件下で水素ガスを生じる1種以上の還元剤の存在下で実施することもできる。水素ガスは、特に限定されないが窒素又はアルゴンのような1種以上の不活性ガスで適宜希釈してもよい。希釈する場合、ガス混合物に存在する水素ガスの割合は、存在するガスの総モルを基準にして約40〜約99モル%、約50〜約98モル%、約60〜約98モル%又は約70〜約98モル%である。水素ガスは、適当な方法で反応混合物に添加すればよい。一実施形態では、水素を含むガスは、適当な速度で反応混合物にスパージされる。好ましい実施形態では、反応混合物は、水素ガスを含む雰囲気下で攪拌される。本発明の予想外の知見は、本発明の反応条件下で、出発原料の高い転化率及び所望のビス(ヒドロキシ芳香族)生成物の高い選択率のいずれについても、水素ガス還元剤が高圧よりも低圧の方が有効であることである。特定の実施形態では、反応を水素ガスを含む雰囲気下で実施する場合、水素ガスは、約350kPa未満、約275kPa未満、約200kPa未満、約150kPa未満又は約110kPa未満の圧力で存在する。他の特定の実施形態では、水素ガスは、約大気圧〜約200kPa、約大気圧〜約150kPa又は大気圧〜約110kPaの圧力で存在する。本発明において、「水素ガスの圧力」という概念は、純粋な水素ガスの圧力又は1種以上の他の不活性ガスとの混合物中での水素ガスの分圧をいう。本発明はいかなる実施理論にも束縛されるものではないが、本発明の奏する所望ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物の高い選択率は、従来技術の高圧水素反応条件下での出発原料の対応脱ハロゲン化ヒドロキシ芳香族化合物への還元傾向が低減することと少なくとも部分的に関連していると考えられる。
【0012】
還元カップリング反応の実施好適な触媒は、パラジウムを含むものである。本発明の特定の実施形態では、好適な触媒は、パラジウム金属又は反応条件下でパラジウム金属を形成する任意のパラジウム化合物を含む。パラジウム金属を触媒として用いる場合、不活性担体に適宜担持させてもよく、担体は反応媒体に不溶性である。担体の具体例としては、特に限定されないが、炭素、アルミナ、炭酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、シリカなどが挙げられる。パラジウムの使用量は、過度の実験を行わなくても当業者が容易に決定でき、一般に反応条件下で出発原料の高い転化率及び所望のビス(ヒドロキシ芳香族)生成物の高い選択率をもたらすのに充分な量である。ある実施形態では、パラジウムの使用量は、ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物の重量を基準にして約0.01〜約5重量%、約0.05〜約4重量%、約0.1〜約3重量%又は約0.5〜約2重量%である。
【0013】
本発明の還元カップリング反応は、1種以上の塩基の存在下で実施される。一般に、この塩基は、還元カップリング反応で生ずるハロゲン化水素を中和するのに充分な強度の塩基を含んでいればよい。通例、アルカリ土類水酸化物又はアルカリ金属水酸化物を用いればよい。本発明のある実施形態では、1種以上の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いる。塩基混合物も好適である。特定の実施形態では、水酸化カリウムの使用によって、本発明の反応条件下で出発原料の転化率及び所望ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物の選択率が大幅に向上するという予想外の知見が得られた。
【0014】
塩基の使用量は、少なくとも生成したすべてのハロゲン化水素を中和するのに充分な量である。本発明の他の実施形態では、塩基の使用量は、少なくとも反応混合物のすべての酸性種を中和するのに充分な量である。さらに他の実施形態では、塩基の存在量は、存在するハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物のモル数に対して1モル当量以上である。本発明の他の実施形態では、塩基は、ハロゲン化水素の生成量に対して化学量論的過剰に存在することができる。さらに他の実施形態では、塩基の存在量は、存在するハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物のモル数に対して2モル当量以上である。さらに他の実施形態では、塩基の存在量は、存在するハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物のモル数に対して4モル当量未満である。さらに他の実施形態では、塩基の存在量は、存在するハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物のモル数に対して約1.5〜約4モル当量、約1.8〜約4モル当量又は約2〜約4モル当量である。
【0015】
塩基は反応混合物に適当な方法で添加すればよい。ある実施形態では、塩基は、純品として又は水溶液として添加される。純粋な形態で添加する場合、固体塩基はその表面積を高めるため微粒化段階に適宜付してもよい。水溶液として添加する場合、塩基は、約5〜約95重量%度、約10〜約80重量%、約20〜約70重量%又は約40〜約60重量%の濃度で水溶液中に存在する。ある実施形態では、塩基の少なくとも一部は反応開始時に存在し、反応の進行に伴って追加の塩基を添加するか、出発原料が所望レベルまで転化した時点で追加の塩基を添加する。好ましい実施形態では、すべての塩基が反応の開始時に存在する。
【0016】
本発明の還元カップリング反応は、水及び1種以上の有機溶媒を含む溶媒混合物中で実施される。特定の実施形態では、溶媒混合物は、出発原料の溶解度が最大となる混合物である。他の特定の実施形態では、溶媒混合物は、塩基の溶解度が最大となる混合物である。さらに他の特定の実施形態では、溶媒混合物は、出発原料と塩基の溶解度がいずれも最大となる混合物である。特定の出発原料又は塩基、或いは出発原料と塩基の混合物の溶解度を最大にするのに好適な水と有機溶媒の比率は、過度の実験を行わなくても当業者が容易に決定できる。本発明の種々の実施形態では、有機溶媒は、実質的に水と混和性である。本発明において、実質的に混和性とは、反応条件下で、水と不混和性の有機溶媒の量が水と有機溶媒の総重量を基準にして約5重量%未満であることを意味する。ある特定の実施形態では、好適な有機溶媒は、実質的に水溶性であるアルキルアルコール又はアルキルグリコールを含む。他の特定の実施形態では、好適な有機溶媒は、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどを含む。有機溶媒の混合物も使用できる。
【0017】
本発明のある実施形態では、有機溶媒の量は、有機溶媒と水の重量を基準にして1重量%超、15重量%超、20重量%超、25重量%超、30重量%超、35重量%超、40重量%超、45重量%超又は50重量%超である。この範囲内で、有機溶媒の量は、有機溶媒と水の重量を基準にして80重量%未満、70重量%未満又は60重量%未満である。他の実施形態では、有機溶媒の量は、有機溶媒と水の重量を基準にして約5〜約60重量%、約10〜約55重量%、約15〜約50重量%、約20〜約45重量%又は約25〜約45重量%である。
【0018】
特定の実施形態では、溶媒混合物中の出発原料の濃度は、全反応混合物の重量を基準にして約5〜約50重量%、約10〜約45重量%、約15〜約35重量%又は約20〜約30重量%である。出発原料及び塩基は、最初は溶媒混合物に少なくとも部分的に不溶性であってもよく、反応の進行に伴って溶解量が徐々に増大し、出発原料及び塩基は溶液から除去される。
【0019】
還元カップリング反応混合物は、単一の反応混合物成分又は反応混合物の2種以上の成分の反応で生じる中間体を適宜含んでいてもよい。ある特定の実施形態では、還元カップリング反応混合物は、触媒と1種以上の他の反応混合物成分との反応で生じる中間体を適宜含んでいてもよい。
【0020】
触媒還元カップリングの実施に適した反応温度は、適度な速度でカップリング反応を促進してビス(ヒドロキシ芳香族)生成物を生ずる温度であり、過度の実験を行わなくても当業者が容易に決定できる。特定の実施形態では、好適な反応温度は、約45℃超である。他の特定の実施形態では、好適な反応温度は、約45℃乃至反応条件の圧力下での溶媒の沸点までである。さらに他の特定の実施形態では、好適な反応温度は、約45〜約100℃、約55〜約90℃又は約65〜約85℃である。
【0021】
還元カップリング反応は、回分法、半回分法又は連続法で実施できる。反応の持続時間は、所望のレベルのビス(ヒドロキシ芳香族)生成物が形成される時間である。好適な持続時間は、過度の実験を行わなくても当業者が容易に決定できる。ある実施形態では、反応の持続時間は、出発原料がそれ以上転化しない及び/又はそれ以上所望の生成物が生成しない時間である。ある特定の実施形態では、反応体の質量及び化学量論のような要因に応じて、反応の持続時間は約60〜120分である。
【0022】
反応の進行は、公知の方法でモニターすることができ、特に限定されないが、分析試料の採取と、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、核磁気共鳴分光法(NMR)、赤外分光法(IR)、紫外分光法(UV)などの少なくともいずれかによる分析が挙げられる。反応の進行は、分析試料を採取せずに、その場でモニターすることもできる。
【0023】
所望のレベルのビス(ヒドロキシ芳香族)生成物への転化に続いて、反応混合物を処理し、ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物を公知の方法を用いて単離すればよい。一実施形態では、不溶性触媒種は、濾過、遠心分離、デカンテーションなどの1以上の段階で反応混合物から除去できる。所望に応じて、触媒は、適宜、再活性化段階後に再使用してもよい。この反応のビス(ヒドロキシ芳香族)化合物生成物は、主として塩基と出発原料とのモル比に応じて、最初はビス(ヒドロキシ芳香族)化合物生成物及び塩基由来のカチオンを含むビス(芳香族水酸化物)塩として全体的又は少なくとも部分的に生成することがある。他の実施形態では、反応混合物を酸で奪活して、ビス(芳香族水酸化物)塩を中性ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物に転化する。溶媒の除去後、ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物を公知の方法で適宜精製してもよく、特に限定されないが、結晶化、蒸留、昇華、乾燥などの方法の1以上の段階が挙げられる。本発明の他の実施形態では、ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物は、溶媒混合物から単離せずに、後段のプロセスに使用してもよい。
【0024】
本発明の方法は、高い出発原料の転化率と所望ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物の高い選択率を与える。特定の実施形態では、出発原料の転化率は、20モル%超、25モル%超、30モル%超、35モル%超、40モル%超、45モル%超、50モル%超、55モル%超又は60モル%超である。他の特定の実施形態では、出発原料の転化率は、約20〜約90モル%、約25〜約90モル%、約30〜約90モル%、約35〜約90モル%、約40〜約90モル%、約45〜約90モル%、約50〜約90モル%又は約55〜約90モル%である。特定の実施形態では、所望ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物の選択率は、20モル%超、25モル%超、30モル%超、35モル%超、40モル%超、45モル%超、50モル%超、55モル%超又は60モル%超である。他の特定の実施形態では、所望ビス(ヒドロキシ芳香族)生成物の選択率は、約20〜約90モル%、約25〜約90モル%、約30〜約90モル%、約35〜約90モル%、約40〜約90モル%、約45〜約90モル%、約50〜約90モル%又は約55〜約90モル%である。
【0025】
本明細書の以上の説明から、当業者は本発明を最大限に活用できると思料する。以下の実施例は、本発明を実施する際の追加の指針を当業者に与えるためのものである。記載した実施例は、本出願の教示内容に寄与した研究の代表例にすぎない。これらの実施例は、特許請求の範囲に規定する本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0026】
実施例1〜22及び比較例1〜2
基本実験手順:典型的な回分実験では、攪拌子を入れた16個の3ドラムバイアルに、表1に記載の通り、4−ブロモフェノール出発原料のモル数に対して1モル%のパラジウム(5%パラジウム炭素として添加)、水、適宜有機溶媒及び4−ブロモフェノールを仕込んだ。次いで、バイアルをアルミブロックに入れ、アルミブロックを1ガロンParrオートクレーブ反応器に保持した。反応器を密閉した後、典型的には反応器のヘッドスペースに水素ガスを流し、その後、水素ガスで所定圧力に加圧した。比較例1及び2では高圧に加圧した。その後、反応器を75℃の温度に加熱し、90分間攪拌した。反応完了後、反応器を典型的には室温に冷却し、減圧した。16個の各バイアルから既知量のアリコートを採取し、未反応出発原料、4,4′−ジヒドロキシビフェニル及びフェノールのHPLC分析の常法で処理した。分析結果を表1に示す。「塩基の当量」という用語は、4−ブロモフェノールに対するモル当量をいう。溶媒の重量%は、水/有機溶媒の合計重量に対する重量%をいう。
【0027】
【表1】

比較例1及び2は、高圧水素下で実施した反応は、4−ブロモフェノール出発原料の高い転化率を与えるが、所望4,4′−ジヒドロキシビフェニル生成物の選択率は低いことを示している。対照的に、比較例1及び2と同様の条件下ではあるが、低圧水素で実施した本発明の実施例2及び3は、4−ブロモフェノール出発原料の高い転化率及び比較例に比べて格段に高い所望4,4′−ジヒドロキシビフェニル生成物の選択率を与える。水酸化ナトリウムに代えて水酸化カリウムを用いた実施例では、各種有機溶媒と水の混合物中で、格段に高い4,4′−ジヒドロキシビフェニル生成物の選択率を示す(実施例11〜14と実施例7〜10の対比)。水酸化ナトリウムの代わりに水酸化カリウムを用いた実施例では、メタノールと水の溶媒混合物中で、格段に高い出発原料の転化率と4,4′−ジヒドロキシビフェニル生成物の高い選択率を示す(実施例20〜22と実施例16〜18を対比)。実施例4〜6は、4,4′−ジヒドロキシビフェニルの選択率の上昇が、約1当量を超える水酸化カリウムの濃度で平らになり始めることを示している。メタノールと水の混合物を用いた実施例は、実施例15と実施例16〜18との対比及び実施例19と実施例20〜22との対比から認められるように、使用した塩基にかかわらず、溶媒として水を単独で用いた同様の実施例よりも格段に高い4,4′−ジヒドロキシビフェニル生成物の選択率を示す。
【0028】
実施例23
存在するガスの総モル数に対して存在する水素のモル%が約40〜約99モル%であり、水素ガスの分圧が103kPaとなるように、アルゴン又は窒素の不活性ガスで水素ガスを希釈した点を除いて、同じ反応混合物成分を用い、実施例21に記載したものと同じ条件で還元カップリング反応を行う。出発原料の転化率及び4,4′−ジヒドロキシビフェニル生成物の選択率は、反応混合物中の水素ガスの分圧が1723kPaのときに得られたものよりも高い。
【0029】
本発明を典型的な実施形態について例示し記載してきたが、本発明の技術的思想から逸脱せずに様々な修正及び置換をなすことができ、本発明は記載した詳細に限定されない。したがって、本明細書に開示した本発明のその他の修正及び均等は、ルーチン実験を用いて当業者が想到し得るものであり、かかる修正及び均等はすべて特許請求の範囲に規定する本発明の技術的思想及び技術的範囲に属する。本明細書で引用した特許文献の開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物の製造方法であって、1種以上の塩基、パラジウムを含む1種以上の触媒及び大気圧〜350kPaの圧力の水素ガスの存在下で、水と1種以上の有機溶媒を含む溶媒混合物中、1種以上のハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物を接触させる段階を含む方法。
【請求項2】
ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物がブロモ置換ヒドロキシ芳香族化合物、クロロ置換ヒドロキシ芳香族化合物及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物が、アルキル、アリール、エーテル、アルキルエーテル、アリールエーテル、アルキルアルコール、カルボン酸、カルボン酸エステル、追加のヒドロキシ置換基、追加のハロゲン置換基及びこれらの混合物からなる群から選択される1以上の置換基でさらに置換されている、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物が4−ブロモ−1−ナフトール、4−クロロ−1−ナフトール、4−ブロモ−o−アルキルフェノール、4−クロロ−o−アルキルフェノール、4−ブロモ−o−クレゾール、4−クロロ−o−クレゾール、4−ブロモフェノール及び4−クロロ−フェノールからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
有機溶媒が有機溶媒と水の重量を基準にして1重量%超乃至80重量%未満の量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
有機溶媒が有機溶媒と水の重量を基準にして約20〜約45重量%の量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
有機溶媒が実質的に水溶性である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒がアルキルアルコール、アルキルグリコール及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
有機溶媒がメタノール、エタノール、エチレングリコール及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物が全反応混合物の重量を基準にして約5〜約50重量%の濃度で溶媒混合物中に存在する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
塩基がアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属水酸化物及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
塩基が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
塩基がハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物のモル数に対して1モル当量以上のレベルで存在する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
塩基がハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物のモル数に対して化学量論的過剰に存在する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
塩基がハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物のモル数に対して約1.8〜約4モル当量のレベルで存在する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
触媒がパラジウム金属及び不活性担体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
触媒がハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物の重量を基準にして約0.05〜約4重量%のレベルで存在する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
水素ガスが約200kPa未満の圧力である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
水素ガスが約150kPa未満の圧力である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
水素ガスが約110kPa未満の圧力である、請求項1記載の方法。
【請求項21】
ビス(ヒドロキシ芳香族)化合物の製造方法であって、水酸化カリウム、パラジウムを含む1種以上の触媒及び大気圧〜350kPaの圧力の水素ガスの存在下、メタノールと水の重量を基準にして水と20〜45重量%のメタノールを含む溶媒混合物中、4−ブロモ−o−アルキルフェノール、4−クロロ−o−アルキルフェノール、4−ブロモ−o−クレゾール、4−クロロ−o−クレゾール、4−ブロモフェノール及び4−クロロ−フェノールからなる群から選択される1種以上のハロ置換ヒドロキシ芳香族化合物を接触させる段階を含む方法。

【公表番号】特表2007−507500(P2007−507500A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533865(P2006−533865)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【国際出願番号】PCT/US2004/028276
【国際公開番号】WO2005/040080
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】