説明

ビナフチル誘導体およびその製造方法

【課題】 精製・分離が簡便で、クロスカップリング反応に対する活性が比較的高く、優れた不斉誘起能を有するビナフチル誘導体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 一般式(A);
【化1】


[RおよびRはそれぞれ独立してヨウ素原子または水素原子(但し、RおよびRは同時に水素原子ではない);RおよびRはそれぞれ独立して−P(=O)(Rまたは−P(R(Rは置換基を有しても良いフェニル基)]で表されるヨウ素化ビナフチル誘導体。2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル類またはそのオキシド誘導体をビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボレートと反応させることを特徴とするヨウ素化ビナフチル誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビナフチル誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(略称BINAP)は野依らにより開発された触媒的不斉合成のための不斉配位子である。BINAPは優れた不斉誘起能を有するため、多くの不斉合成に用いられている。しかしながら、BINAPを骨格に持つBINAP誘導体はBINAPからの誘導化が困難なため、その開発は遅れている。
【0003】
例えば、BINAP誘導体の一例として、ブロモ化BINAPが報告されているが、ブロモ化BINAPとしてモノブロモ体およびジブロモ体が生成し、それらの精製・分離が困難であった。しかも、ブロモ化BINAPはクロスカップリング反応に対する活性が低く、各種誘導体への展開が制限されていた。またブロモ化のためのブロモ化剤は毒性が高く、液体であるため、取扱いが煩雑であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、精製・分離が簡便で、しかもクロスカップリング反応に対する活性が比較的高いビナフチル誘導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明はまた、精製・分離が簡便で、しかも優れた不斉誘起能を有するビナフチル誘導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般式(A);
【化1】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立してヨウ素原子または水素原子である(但し、RおよびRは同時に水素原子ではない);RおよびRはそれぞれ独立して−P(=O)(Rまたは−P(R(Rは置換基を有しても良いフェニル基を示す)である]で表されるヨウ素化ビナフチル誘導体に関する。
【0007】
本発明はまた、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル類を酸化してオキシド誘導体を得る工程;および
オキシド誘導体をビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボレートと反応させてヨウ素化オキシド誘導体を得る工程;
を含むことを特徴とする上記ヨウ素化ビナフチル誘導体の製造方法に関する。
【0008】
本発明はまた、一般式(B);
【化2】

[式中、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子、または置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基もしくはシリル基である(但し、R11およびR12は同時に水素原子ではない);R13およびR14はそれぞれ独立して−P(=O)(R15または−P(R15(R15は置換基を有しても良いフェニル基を示す)である]で表されるビナフチル誘導体に関する。
【0009】
本発明はまた、上記一般式(A)で表されるヨウ素化ビナフチル誘導体を用いて、遷移金属を用いたクロスカップリング反応を行うことを特徴とする上記一般式(B)で表されるビナフチル誘導体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
前記一般式(A)で表される本発明のビナフチル誘導体(以下、ビナフチル誘導体(A)という)(ヨウ素化物)はクロスカップリング反応に対する活性が比較的高いので、各種誘導体へのさらなる展開が可能である。
前記一般式(B)で表される本発明のビナフチル誘導体(以下、ビナフチル誘導体(B)という)は優れた不斉誘起能を有しているので、不斉合成のための不斉配位子として有用である。
また本発明のビナフチル誘導体(A)および(B)の製造過程では、ビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボレートによるヨウ素化が行われ、またそのようなヨウ素化剤は固体であって、比較的穏和な条件で使用されるため、製造が簡便である。
さらにビナフチル誘導体(A)および(B)は精製・分離が簡便であり、特にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製・分離が有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(ビナフチル誘導体)
本発明のビナフチル誘導体(A)は、下記一般式(A);
【化3】

で表されるヨウ素化ビナフチル誘導体である。
【0012】
式(A)中、RおよびRはそれぞれ独立してヨウ素原子または水素原子である。但し、RおよびRは同時に水素原子ではない。好ましいRおよびRは同時にヨウ素原子である。
【0013】
およびRはそれぞれ独立して−P(=O)(Rまたは−P(Rである。Rは置換基を有しても良いフェニル基を示す。Rが有しても良い置換基は炭素数1〜3のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。好ましいRおよびRはそれぞれ独立して−P(=O)(Ph)、−P(Ph)、−P(=O)(−C−CHまたは−P(−C−CHであり、より好ましくは同時に−P(=O)(Ph)または−P(Ph)、特に−P(=O)(Ph)である。本明細書中、「Ph」はフェニル基を示すものとする。「C」はフェニレン基を示すものとする。
【0014】
ビナフチル誘導体(A)の具体例として、例えば、以下に示すBINAP誘導体が挙げられる。
【0015】
【化4】

【0016】
ビナフチル誘導体(A)はクロスカップリング反応に対する活性が比較的高いので、ビナフチル誘導体(B)等の各種誘導体を簡便に誘導可能である。
【0017】
本発明のビナフチル誘導体(B)は、下記一般式(B);
【化5】

で表されるビナフチル誘導体である。
【0018】
式(B)中、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子、または置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基もしくはシリル基である。但し、R11およびR12は同時に水素原子ではない。
【0019】
アルキル基は炭素数1〜22、特に1〜8、10、12、16、20、22のものが好適である。アルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
【0020】
アルケニル基は分枝状または非分枝状のアルケンの任意の炭素原子から1個の水素原子を除去した1価の不飽和炭化水素基であり、炭素数2〜22、特に2〜8、18、20、22のものが好適である。遊離原子価は、例えばビニル基(CH=CH−)のように不飽和炭素原子上にあってもよいし、または例えばアリル基(CH=CHCH−)のように飽和炭素原子上にあってもよい。
【0021】
アルキニル基は分枝状または非分枝状のアルキンの任意の炭素原子から1個の水素原子を除去した1価の不飽和炭化水素基であり、炭素数2〜6、特に2〜3のものが好適である。遊離原子価は、例えばエチニル基(CH≡C−)のように不飽和炭素原子上にあってもよいし、または例えばプロパルギル基(CH≡CCH−)のように飽和炭素原子上にあってもよい。
【0022】
アリール基は単環式または多環式の芳香族炭化水素の環構成炭素原子から1個の水素原子を除去した1価の基であり、炭素数6〜16のものが好適である。アリール基の具体例として、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基等が挙げられる。
【0023】
11またはR12のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基またはシリル基は1またはそれ以上の置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基およびヘキシルオキシ基等のアルコキシ基;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;アリル基;トリメチルシリル基およびトリエチルシリル基等のアルキルシリル基;−COOR16(R16は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である)で表される酸型またはエステル型カルボキシル基;および−CON(R17)(R18)(R17およびR18はそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基である)で表されるアミド基が挙げられる。
【0024】
酸型またはエステル型カルボキシル基の具体例として、例えば、カルボキシル基、−COOMe、−COOEt、−COO−n-Pr、−COO−i-Pr等が挙げられる。
【0025】
アミド基の具体例として、例えば、−CONH、−CONH(Me)、−CONH(Et)、−CONH(n-Pr)、−CONH(i-Pr)、−CONH(Ph)等が挙げられる。
【0026】
好ましいR11およびR12は同時にアルケニル基、アルキニル基、アリール基またはシリル基、特にアルキニル基またはアリール基である。R11およびR12が有しても良い好ましい置換基はフッ素原子、メトキシ基、エトキシ基、エチル基、フェニル基、アリル基、トリメチルシリル基、カルボキシル基、−COOEt、−CONH、−CONH(Et)、−CONH(Ph)である。
【0027】
特に、R11および/またはR12としてのシリル基は前記したアルコキシ基およびアリル基等の置換基を有することが好ましく、そのような好ましいシリル基の具体例として、例えば、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリアリルシリル基、ジアリルモノメトキシシリル基、ジアリルモノエトキシシリル基等が挙げられる。
【0028】
13およびR14はそれぞれ独立して−P(=O)(R15または−P(R15である。R15は置換基を有しても良いフェニル基を示す。R15が有しても良い置換基は炭素数1〜3のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。好ましいR13およびR14はそれぞれ独立して−P(=O)(Ph)、−P(Ph)、−P(=O)(−C−CHまたは−P(−C−CHであり、より好ましくは同時に−P(=O)(Ph)または−P(Ph)、特に−P(Ph)である。
【0029】
ビナフチル誘導体(B)の具体例として、例えば、以下に示すBINAP誘導体が挙げられる。
【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
ビナフチル誘導体(B)は優れた不斉誘起能を有するので、不斉合成のための不斉配位子として用いると、エナンチオ過剰率が顕著に高い化合物を誘導し得る。ビナフチル誘導体(B)はまた蛍光色素等の光材料としても有用である。
【0036】
(製造方法)
本発明のビナフチル誘導体(A)は、
2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル類を酸化してオキシド誘導体を得る工程(酸化工程);
オキシド誘導体をビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボレート(以下、単に「IPyBF」という)と反応させてヨウ素化オキシド誘導体を得る工程(ヨウ素化工程);および
所望によりヨウ素化オキシド誘導体を還元してヨウ素化誘導体を得る工程(還元工程);
を含む方法によって製造可能である。
【0037】
2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル類とは、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(以下、単に「BINAP」という)だけでなく、当該BINAPにおいてリン原子が有するフェニル基が所望の置換基を有する化合物を包含して表すものとする。すなわち、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル類とは、リン原子が有するフェニル基が所望の置換基を有してもよいBINAPである。
【0038】
以下、ビナフチル誘導体(A)を得るための製造ルートの一例を示すスキーム1を用いて説明する。ここでは、リン原子が有するフェニル基が置換基を有さないBINAPを用いて前記ヨウ素化BINAP誘導体(a1)〜(a4)を製造する場合について説明するが、リン原子が有するフェニル基が所望の置換基を有するもの(例えば、2,2’−ビス[ジ(4−メチルフェニル)ホスフィノ]−1,1’−ビナフチル)を原料として使用することによって、対応するヨウ素化BINAP誘導体(例えば、前記ヨウ素化BINAP誘導体(a5)〜(a8))が製造可能であることは明らかである。
【0039】
【化11】

【0040】
詳しくは、酸化工程では例えば、BINAPをアセトン中、過酸化水素水とともに室温で約11時間撹拌することにより、ホスフィノ基が酸化され、BINAPジオキシド誘導体(1)が得られる。BINAPジオキシド誘導体は、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の手段によって精製・分離が簡便に達成され、90%以上の高収率で単離可能である。
BINAPは市販品として入手可能であり、例えば、関東化学、アルドリッチ社、和光純薬工業、東京化成工業、ストレム社より入手可能である。
【0041】
次いで、ヨウ素化工程では、BINAPジオキシド誘導体(1)をジクロロメタン中、約2.9倍モル量のトリフルオロメタンスルホン酸の存在下、約1〜6倍モル量のビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボレート(以下、IPyBFという)と、−30〜25℃で20〜80時間反応させることにより、ヨウ素化BINAPジオキシド誘導体が得られる。このとき、IPyBFの量、反応温度および反応時間等の反応条件を適宜選択することにより、ジヨウ素化物(a1;ジヨウ素化BINAPジオキシド誘導体)およびモノヨウ素化物(a3;モノヨウ素化BINAPジオキシド誘導体)が種々の生成比率で得られる。ジヨウ素化物およびモノヨウ素化物はそれぞれ、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の手段によって簡便に精製・分離され得る。
【0042】
本発明においては、酸化とヨウ素化を上記のように酸化工程とヨウ素化工程との2段階で行わなくても、1段階で行うこともできる(酸化・ヨウ素化工程)。すなわち、BINAPを過剰量のIPyBFと反応させることにより、ヨウ素化BINAPオキシド誘導体を得ることができる。
【0043】
詳しくは、酸化・ヨウ素化工程では、例えば、BINAPをジクロロメタン中、約5倍モル量のトリフルオロメタンスルホン酸の存在下、約10倍モル量という過剰量のIPyBFと反応させることにより、1段階でホスフィノ基の酸化とヨウ素化が起こって、ヨウ素化BINAPジオキシド誘導体が得られる。このとき、反応温度および反応時間等は適宜選択されればよく、通常は約25℃で約20時間反応させる。酸化・ヨウ素化工程ではジヨウ素化物(a1)のみが選択的に得られる。
【0044】
ヨウ素化BINAPジオキシド誘導体を得た後は、所望により、還元を行うことができる。例えば、ジヨウ素化BINAPジオキシド誘導体(a1)および/またはモノヨウ素化BINAPジオキシド誘導体(a3)をトルエン中、約33倍モル量のトリクロロシランの存在下で還流することにより、−P(=O)(Ph)基が還元されてホスフィノ基に変換され、それぞれ対応するジヨウ素化BINAP誘導体(a2)および/またはモノヨウ素化BINAP誘導体(a4)が、例えば、92%という高収率で定量的に得られる。ここで得られるジヨウ素化物およびモノヨウ素化物も、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の手段によって簡便に精製・分離され得る。
【0045】
還元工程においては反応条件を適宜弱めることにより、ジヨウ素化BINAPジオキシド誘導体(a1)およびモノヨウ素化BINAPジオキシド誘導体(a3)が有する2個の−P(=O)(Ph)基のうち一方のみを還元することができる。
【0046】
ビナフチル誘導体(B)は、ビナフチル誘導体(A)、特にRおよび/またはRとして−P(=O)(Ph)基を有するビナフチル誘導体(A)を用いて、遷移金属を用いたクロスカップリング反応を行うことにより製造可能である。そのようなクロスカップリング反応に対してビナフチル誘導体(A)は比較的高い活性を示すためである。クロスカップリング反応として、例えば、いわゆる薗頭反応、鈴木−宮浦反応、ヘック反応、スティレ反応等が挙げられる。
【0047】
例えば、BINAP誘導体(b1)〜(b12)のような、R11および/またはR12としてアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基が導入されたビナフチル誘導体(B)は、ジヨウ素化BINAPジオキシド誘導体(a1)を薗頭カップリング反応に供することによって製造可能である。以下、製造ルートの一例を示すスキーム2を用いて説明する。
【0048】
【化12】

【0049】
すなわち、ジヨウ素化 BINAP ジオキシド誘導体(a1)を、THF中、約0.1倍モル量の[PdCl(PPh]、約0.1倍モル量のCuIおよび約8倍モル量のトリエチルアミンの存在下、約2.5倍モル量のトリメチルシリルアセチレンと反応させることにより、BINAP誘導体(b1)が得られる。かかる誘導体はシリカゲルカラムクロマトグラフィー等の手段によって簡便に精製・分離され得る。
【0050】
次いで、BINAP誘導体(b1)を、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)中、約2.5倍モル量のメチルトリフラートの存在下で撹拌した後、さらに約5倍モル量のリチウムアルミニウムハイドライドを加えて撹拌することにより−P(=O)(Ph)基が還元されてホスフィノ基に変換され、BINAP誘導体(b2)が得られる。かかる誘導体もまたシリカゲルカラムクロマトグラフィー等の手段によって簡便に精製・分離され得る。
【0051】
その後、BINAP誘導体(b2)を、THF中、約6倍モル量のテトラブチルアンモニウムフルオライドの存在下、撹拌することにより、トリメチルシリル基を脱離させて、BINAP誘導体(b4)が得られる。かかる誘導体もまたシリカゲルカラムクロマトグラフィー等の手段によって簡便に精製・分離され得る。
【0052】
得られたBINAP誘導体(b4)は、ビナフチル誘導体(A)を得るための前記酸化工程と同様の方法により酸化させることによって、BINAP誘導体(b3)を得ることができる。
【0053】
またBINAP誘導体(b1)〜(b4)が有する3重結合に対して水素を付加反応させることにより、対応するBINAP誘導体(b5)〜(b8)およびBINAP誘導体(b9)〜(b12)を得ることができる。
【0054】
スキーム2ではジヨウ素化 BINAP ジオキシド誘導体(a1)が用いられているために、R11およびR12の両方に所定の置換基が導入されたビナフチル誘導体(B)(例えば、BINAP誘導体(b1)〜(b12))が製造されるが、モノヨウ素化 BINAP ジオキシド誘導体(a3)を用いることによって、所定の置換基がR11またはR12の一方にだけ導入されたビナフチル誘導体(B)の製造も可能である。
【0055】
また例えば、BINAP誘導体(b13)〜(b22)のような、R11および/またはR12としてアリール基が導入されたビナフチル誘導体(B)は、ジヨウ素化BINAPジオキシド誘導体(a1)を鈴木−宮浦カップリング反応に供することによって製造可能である。以下、製造ルートの一例を示すスキーム3を用いて説明する。
【0056】
【化13】

【0057】
すなわち、ジヨウ素化 BINAP ジオキシド誘導体(a1)を、アセトン中、約0.04倍モル量のPd(OAc)、約4.0倍モル量の炭酸カリウムおよび約2000倍モル量の水の存在下、所定のアリール基Rを有するR−B(OH)(約2.2倍モル量)と反応させることにより、R11およびR12の両方に所定のアリール基が導入されたビナフチル誘導体(B)(例えば、BINAP誘導体(b13)、(b15)、(b17)、(b19)および(b21))が得られる。
【0058】
BINAP誘導体(b13)、(b15)、(b17)、(b19)および(b21)は、ビナフチル誘導体(A)を得るための前記還元工程と同様の方法により還元させることによって、BINAP誘導体(b14)、(b16)、(b18)、(b20)および(b22)を得ることができる。
【0059】
スキーム3ではジヨウ素化 BINAP ジオキシド誘導体(a1)が用いられているために、R11およびR12の両方に所定のアリール基が導入されたビナフチル誘導体(B)(例えば、BINAP誘導体(b13)〜(b22))が製造されるが、モノヨウ素化 BINAP ジオキシド誘導体(a3)を用いることによって、所定のアリール基がR11またはR12の一方にだけ導入されたビナフチル誘導体(B)の製造も可能である。
【0060】
また例えば、BINAP誘導体(b23)〜(b26)のような、R11および/またはR12として酸型またはエステル型カルボキシル基含有ビニル基が導入されたビナフチル誘導体(B)は、ジヨウ素化BINAPジオキシド誘導体(a1)をヘック反応に供することによって製造可能である。以下、製造ルートの一例を示すスキーム4を用いて説明する。
【0061】
【化14】

【0062】
すなわち、ジヨウ素化 BINAP ジオキシド誘導体(a1)を、DMF中、約0.03倍モル量のPd(OAc)、約0.12倍モル量のトリフェニルホスフィンおよび約2.0倍モル量の酢酸ナトリウムの存在下、所定のアクリル酸類(スキーム4中、R16は前記と同様である)約2.2倍モル量と反応させることにより、R11およびR12の両方に所定のビニル基が導入されたビナフチル誘導体(B)(例えば、BINAP誘導体(b23)、および(b25))が得られる。
【0063】
BINAP誘導体(b23)および(b25)は、ビナフチル誘導体(A)を得るための前記還元工程と同様の方法により還元させることによって、BINAP誘導体(b24)および(b26)を得ることができる。
【0064】
スキーム4ではジヨウ素化 BINAP ジオキシド誘導体(a1)が用いられているために、R11およびR12の両方に所定のビニル基が導入されたビナフチル誘導体(B)(例えば、BINAP誘導体(b23)〜(b26))が製造されるが、モノヨウ素化 BINAP ジオキシド誘導体(a3)を用いることによって、所定のビニル基がR11またはR12の一方にだけ導入されたビナフチル誘導体(B)の製造も可能である。
【0065】
(用途)
ビナフチル誘導体(A)は前記したようにクロスカップリング反応に対する活性が比較的高いので、ビナフチル誘導体(B)等の他のビナフチル誘導体の原料として有用である。またビナフチル誘導体(A)は優れた立体選択性を有しており、原料からの変換はラセミ化なしに進行するので、原料のエナンチオ過剰率を保持する。すなわちビナフチル誘導体(A)の立体構造は、原料として使用されるBINAPの立体構造に依存し、例えば、原料としてR体のBINAPを使用した場合にはR体のビナフチル誘導体(A)が、また例えば、原料としてS体のBINAPを使用した場合にはS体のビナフチル誘導体(A)がラセミ化なしに得られる。
【0066】
ビナフチル誘導体(B)は優れた不斉誘起能を有しているので、不斉合成のための不斉配位子として有用である。またビナフチル誘導体(B)は優れた立体選択性を有しており、ビナフチル誘導体(A)からの変換はラセミ化なしに進行するので、ビナフチル誘導体(A)のエナンチオ過剰率を保持する。すなわち、ビナフチル誘導体(B)の立体構造は、原料として使用されるビナフチル誘導体(A)の立体構造に依存し、例えば、原料としてR体のビナフチル誘導体(A)を使用した場合にはR体のビナフチル誘導体(B)が、また例えば、原料としてS体のビナフチル誘導体(A)を使用した場合にはS体のビナフチル誘導体(B)がラセミ化なしに得られる。
【実施例】
【0067】
以下、化合物番号は前記番号に対応するものである。
<実験例A>
(製造例A1)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)−1,1’−ビナフチル(BINAPジオキシド(1))の製造
J. Org. Chem., 2001,66,8854-8858 (Toyoshi Shimada et al.)に従った。詳しくは、(R)−BINAP(3.11g,5.00mmol)をアセトン150mlに溶かした後、35%H水溶液(10ml,103mmol)を室温で加え、11時間撹拌した。その後、少量の二酸化マンガンを加えて15分間撹拌した後、ろ過し、濃縮した。その残渣をクロロホルムで抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3.02gのBINAPジオキシド(1)を92%収率で得た。
【0068】
(製造例A2)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)−5,5’−ジヨード−1,1’−ビナフチル(ジヨウ素化 BINAP ジオキシド(a1))の製造
ビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボレート(395mg,1.06mmol)とBINAP ジオキシド(1)(229mg,0.35mmol)のジクロロメタン溶液6mlに、トリフルオロメタンスルホン酸(0.19ml,2.12mmol)を0℃で滴下した。室温下(25℃)で20時間撹拌後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えジクロロメタンで抽出した。有機層は飽和食塩水を用いて洗浄し、無水の硫酸マグネシウムで乾燥させ、その後濃縮した。得られた粗生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/2)によって精製し、304mgのジヨウ素化 BINAP ジオキシド(a1)を92%収率で得た。
【0069】
ジヨウ素化 BINAP ジオキシド(a1)の分析結果を以下に示す。
Mp 325−327℃;[α]20+299.6(c 0.50,ベンゼン); H NMR(CDCl)δ8.14(dd,J=8.9Hz,1.9Hz,2H),7.93(dd,J=7.3Hz,0.8Hz,2H),7.68(ddd,J=12.1Hz,7.0Hz,1.4Hz,4H),7.51(dd,J=11.3Hz,8.9Hz,2H),7.21−7.41(m,16H),6.73(d,J=8.6Hz,2H),6.46(dd,J=8.6Hz,7.3Hz,0.8Hz,2H); 13C NMR(CDCl)δ99.46(C−I); 31P NMR(CDCl)δ28.03. HRMS−FAB(m/z) M4430計算値905.9810,分析値905.9797. C4430計算値:C,58.24;H,3.34.分析値:C,58.24;H,3.20.
【0070】
(製造例A3)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)−5−ヨード−1,1’−ビナフチル(モノヨウ素化 BINAP ジオキシド(a3))の製造
ビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボレート(151mg,0.406mmol)とBINAP ジオキシド(1)(133mg,0.203mmol)のジクロロメタン溶液4mlに、トリフルオロメタンスルホン酸(72μl,0.812mmol)を−30℃で滴下し、−30℃で80時間撹拌する。その後、反応混合液に飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えてジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水と水で洗浄したのち、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥させ、濃縮後得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製し、モノヨウ素化 BINAP ジオキシド(a3)を75.3mg(15%)得た。
【0071】
モノヨウ素化 BINAP ジオキシド(a3)の分析結果を以下に示す。
H NMR(CDCl)δ8.11(dd,J=8.9Hz,1.9Hz,1H), 7.93(d,J=7.3Hz,1H), 7.86(dd,J=8.4Hz,2.2Hz,2H), 7.80(d,J=8.9Hz,2H), 7.64−7.72(m,9H), 6.73(d,J=8.6Hz,2H), 6.46(dd,J=8.6Hz, 7.3Hz,0.8Hz,2H); 13C NMR(CDCl)δ99.46(C−I); 31P NMR(CDCl)δ28.03. HRMS−FAB(m/z)M4430780.0844,分析値780.0819.
【0072】
(製造例A4)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5,5’−ジヨード−1,1’−ビナフチル(ジヨウ素化BINAP(a2))の製造
ジヨウ素化BINAPジオキシド(a1)(1.93g,2.12mmol)のトルエン溶液(120ml)にトリクロロシラン(7.0ml,69.4mmol)を滴下し、3時間還流する。その後、過剰のトリクロロシランとトルエンを真空下に除去し、残査をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製して1.71g(92%)のジヨウ素化BINAP(a2)を得た。
【0073】
ジヨウ素化BINAP(a2)の分析結果を以下に示す。
Mp 259−261℃;[α]20+163.1(c 0.50,ベンゼン); H NMR(CDCl)δ8.15(d,J=8.1Hz,2H), 7.89(d,J=7.3Hz,2H), 7.50(d,J=8.1Hz,2H), 7.19−6.98(m,20H), 6.68(d,J=8.6Hz,2H), 6.51(t,J=8.6Hz,2H); 13C NMR(CDCl)δ99.4(C−I); 31P NMR(CDCl)δ−14.98. HRMS−FAB(m/z)M4430計算値874.9912,分析値874.9891
【0074】
(製造例A5)
ジヨウ素化 BINAP ジオキシド(a1)およびモノヨウ素化BINAP ジオキシド(a3)の製造
IPyBFの量、反応温度(25℃)および反応時間(20時間)を表1に記載のように変更したこと以外、製造例A2と同様の方法によって、製造を行った。粗生成物をH NMR分析に供し、ジヨウ素化BINAP ジオキシド(a1)、モノヨウ素化BINAP ジオキシド(a3)および残留するBINAP ジオキシド(1)の生成比率を求めた。
【0075】
【表1】

【0076】
表中、IPyBFの量は原料;BINAP ジオキシド(1)に対する値である。
生成比率はH NMRに基づいて算出した値である。
【0077】
(製造例A6)
ジヨウ素化BINAP ジオキシド(a1)の製造
20mlのシュレンクにビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボレート(298mg,0.8mmol)を取り、脱水ジクロロメタン2mlを加えた。その溶液に(R)−BINAP(50mg,0.08mmol)を脱水ジクロロメタン4.5mlに溶かした溶液を加え、さらに脱水ジクロロメタン1.2mlに106μl(1.2mmol)のトリフルオロメタンスルホン酸を溶かした溶液を0℃で滴下し、25℃で24時間撹拌した。その後、溶媒を真空下に除去し、残渣にジクロロメタンを加えた。有機層にチオ硫酸ナトリウム水溶液を加えた後、10%塩酸、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過し、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/2)によって精製して、生成物を70.2mg(97%収率)得た。
【0078】
(比較製造例A1)
IPyBFの代わりにBINAP ジオキシド(1)に対して2.5倍モル量のICl(一塩化ヨウ素)を用いたこと以外、製造例A2と同様の方法によって、製造を行った。粗生成物をH NMR分析に供したところ、原料;BINAP ジオキシド(1)しか確認されなかった。
【0079】
(比較製造例A2)
IPyBFの代わりにBINAP ジオキシド(1)に対して2.2倍モル量のN−ヨードスクシンイミドを用いたこと、およびトリフルオロメタンスルホン酸の使用量をBINAP ジオキシド(1)に対して0.6倍モル量としたこと以外、製造例A2と同様の方法によって、製造を行った。粗生成物をH NMR分析に供したところ、原料;BINAP ジオキシド(1)しか確認されなかった。
【0080】
<実験例B>
(製造例B1)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)−5,5’−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’−ビナフチル(ビス TMS エチニル BINAP ジオキシド(b1))の製造
ジヨウ素化 BINAP ジオキシド(a1)(4.8g,5.26mmol)、[PdCl(PPh](369.2mg,0.526mmol)、CuI(100.2mg,0.526mmol)の混合物を120mlのTHFに溶かし、トリエチルアミンを加えた。その後、0℃でトリメチルシリルアセチレン(1.3g,13.15mmol)を加え室温下、5日間撹拌した。撹拌後、濃縮し、ジエチルエーテルと飽和塩化アンモニア水溶液を加え抽出した。有機層は飽和食塩水で洗浄し、無水の硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後濃縮して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/2)によって精製し、ビス TMS エチニル BINAP ジオキシド(b1)を得た(3.82g,86%)。
【0081】
ビス TMS エチニル BINAP ジオキシド(b1)の分析結果を以下に示す。
Mp 274−277℃;[α]20+377.5(c 0.50,ベンゼン); H NMR(CDCl)δ8.40(dd,J=8.6Hz,2.2Hz,2H), 7.74(dd,J=12.2Hz,7.6Hz,4H), 7.55−7.47(m,4H), 7.41−7.23(m,16H), 6.63(m,4H), 0.32(s,18H); 13C NMR(CDCl)δ102.7, 99.8(エチニル C);31P NMR(CDCl)δ28.48. C5448Si計算値: C,76.57;H, 5.71.分析値: C,76.27;H, 5.59.
【0082】
(製造例B2)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5,5’−ビス(トリメチルシリルエチニル)−1,1’−ビナフチル(ビス TMS エチニル BINAP(b2))の製造
ビス TMS エチニル BINAP ジオキシド(b1)(6.34g,7.48mmol)を90mlのシクロペンチルメチルエーテル(CPME)に溶かし、0℃でメチルトリフラート(2.11ml,18.6mmol)を加え室温下で2時間撹拌した。2時間後、0℃でリチウムアルミニウムハイドライド(1.42g,37.4mmol)を加え、5時間撹拌した。撹拌後、1.4mlの水、1.4mlの15%水酸化ナトリウム水溶液、さらに4.2mlの水を順次加えた後、脱気ベンゼン(20ml×3)で抽出した。合わせた有機層は無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濃縮した。得られた粗生成物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製し、ビス TMS エチニル BINAP(b2)を得た(4.92g,82%)。
【0083】
ビス TMS エチニル BINAP(b2)の分析結果を以下に示す。
Mp 134−136℃;[α]20+199.0(c 0.50,ベンゼン); H NMR(CDCl)δ8.42(d,J=8.6Hz,2H), 7.55−7.50(m,4H), 7.39−6.99(m,20H), 6.77−6.59(m,4H), 0.38(s,18H); 13C NMR(CDCl)δ82.07, 81.72(エチニル C); 31P NMR(CDCl)δ−15.22. HRMS−FAB(m/z)M5448Si計算値814.2770,分析値 814.2742.
【0084】
(製造例B3)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5,5’−ジエチニル−1,1’−ビナフチル(ジエチニルBINAP(b4))の製造
ビス TMS エチニル BINAP(b2)(558.3mg,0.685mmol)をTHF3.4mlに溶かし、テトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF)(4.1ml,4.11mmol)を加える。室温下で2時間撹拌後、ジエチルエーテルで薄めて飽和食塩水で洗浄した。有機層は無水の硫酸マグネシウムで乾燥させ、その後濃縮して粗生成物を得た。その後PTLC(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製し、ジエチニルBINAP(b4)を得た(449mg,98%)。
【0085】
ジエチニル BINAP(b4)の分析結果を以下に示す。
Mp 138−140℃;[α]20+170.7(c 0.50,ベンゼン); H NMR(CDCl)δ8.43(d,J=8.9Hz,2H), 7.57−7.51(m,4H), 7.35−7.00(m,20H), 6.81−6.69(m,4H), 3.41(s,2H); 13C NMR(CDCl)δ82.07, 81.73; 31P NMR(CDCl)δ−15.04. HRMS−FAB(m/z)[M+H]4832計算値672.1979,分析値672.2109.
【0086】
(製造例B4)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)−5,5’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル(BINAPジオキシド(b13))の製造
ジヨウ素化 BINAP ジオキシド(a1)(499mg,0.55mmol),Pd(OAc) (4.9mg,0.022mmol),フェニルボロン酸(147.5mg,1.21mmol)を凍結脱気したアセトン(20ml)に溶かし、0.9M脱気炭酸カリウム水溶液(2.4ml)を加え、アセトンと水の量が等しくなるように脱気水(17ml)を加えた。その後75℃で138時間還流した。還流後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、無水の硫酸ナトリウムで乾燥させ、その後濃縮して得られた粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/5)によって精製した(326.5mg,74%)。
【0087】
BINAPジオキシド(b13)の分析結果を以下に示す。
H NMR(CDCl) δ(ppm):7.94−7.90(dd,J=8.9Hz,2.2Hz,2H),7.71−7.64(m,4H),7.52−7.18(m,30H),6.92−6.85(m,4H);31P NMR(CDCl) δ(ppm):28.59
【0088】
(製造例B5)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5,5’−ジフェニル−1,1’−ビナフチル(BINAP誘導体(b14))の製造
BINAPジオキシド(b13)(362.2mg,0.45mmol)をトルエン(50ml)に溶かし、0℃でトリクロロシラン(0.9ml,8.98mmol)を加え、110℃で8時間還流した。還流後、真空ポンプでトリクロロシランとトルエンを飛ばし、脱気酢酸エチルに溶かしてセライトを通してろ過をし、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製した(268.9mg,77%)。
【0089】
BINAP誘導体(b14)の分析結果を以下に示す。
H NMR(CDCl) δ(ppm):7.96(d,J=8.6Hz,2H),760−7.33(m,12H),7.30−7.27(dd,J=6.5Hz,1.6Hz,2H),7.13−7.08(m,20H),7.00−6.88(m,4H);31P NMR(CDCl) δ(ppm):−14.45
【0090】
(製造例B6)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)−5,5’−ビス(3,4−ジメトキシフェニル)−1,1’−ビナフチル(BINAPジオキシド(b15))の製造
ジヨウ素化 BINAP ジオキシド(a1)(101.8mg,0.11mmol),Pd(OAc) (2.5mg,0.011mmol),3,4−ジメトキシフェニルボロン酸(46.4mg,0.25mmol)を凍結脱気したアセトン(10ml)に溶かし、0.9M脱気炭酸カリウム水溶液(0.5ml)を加え、アセトンと水の量が等しくなるように脱気水を加えた。その後75℃で13時間還流した。還流後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、無水の硫酸ナトリウムで乾燥した。その後濃縮して得られた粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/5)で精製した(98mg,94%)
【0091】
BINAPジオキシド(b15)の分析結果を以下に示す。
H NMR(CDCl) δ(ppm):7.99−7.95(dd,J=8.9Hz,2.2Hz,2H),7.71−7.63(m,4H),7.50−7.18(m,20H),7.08(d,J=6.8Hz,4H),7.00(d,J=8.6Hz,2H),6.95−6.87(m,4H),3.97(s,6H),3.94(s,6H);31P NMR(CDCl) δ(ppm):28.95
【0092】
(製造例B7)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5,5’−ビス(3,4−ジメトキシフェニル)−1,1’−ビナフチル(BINAP誘導体(b16))の製造
BINAPジオキシド(b15)(620.1mg,0.67mmol)をトルエン(30ml)に溶かし、0℃でトリクロロシラン(1.4ml,13.4mmol)を加え、110℃で14時間還流した。還流後、真空ポンプでトリクロロシランとトルエンを飛ばし、脱気酢酸エチルに溶かしてセライトを通してろ過をし、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/5)で精製した(456.8mg,76%)。
【0093】
BINAP誘導体(b16)の分析結果を以下に示す。
H NMR(CDCl) δ(ppm):8.01(d,J=8.9Hz,2H),7.41(d,J=8.9Hz,2H),7.32−7.29(dd,J=6.4Hz,1.1Hz,2H),7.20−7.09(m,20H),7.02−6.91(m,6H);31P NMR(CDCl) δ(ppm):−14.85
【0094】
(製造例B8)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)−5,5’−ビス(3,5−ジフルオロフェニル)−1,1’−ビナフチル(BINAPジオキシド(b17))の製造
ジヨウ素化 BINAPジオキシド(a1)(100mg,0.11mmol),Pd(OAc) (2.5mg,0.011mmol),3,5−ジフルオロフェニルボロン酸(40mg,0.25mmol)を凍結脱気したアセトン(10ml)に溶かし、0.9M脱気炭酸カリウム水溶液(0.5ml)を加え、アセトンと水の量が等しくなるように脱気水を加えた。その後75℃で60時間還流した。還流後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、無水の硫酸ナトリウムで乾燥した。その後濃縮して得られた粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/5)によって精製した(85.8mg,89%)。
【0095】
BINAPジオキシド(b17)の分析結果を以下に示す。
H NMR(CDCl) δ(ppm):7.92−7.88(dd,J=9.2Hz,2.2Hz,2H),7.70−7.63(m,4H),7.47−7.20(m,20H),7.11−7.07(dd,J=8.1Hz,2.4Hz,4H),6.98−6.85(m,6H); 31P NMR(CDCl) δ(ppm):29.12
【0096】
(製造例B9)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5,5’−ビス(3,5−ジフルオロフェニル)−1,1’−ビナフチル(BINAP誘導体(b18))の製造
BINAPジオキシド(b17)(192.9mg,0.22mmol)をトルエン(35ml)に溶かし、0℃でトリクロロシラン(0.44ml,4.38mmol)を加え、110℃で30時間還流した。還流後、真空ポンプでトリクロロシランとトルエンを飛ばし、脱気酢酸エチルに溶かしてセライトを通してろ過をし、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製した(154.1mg,83%)。
【0097】
BINAP誘導体(b18)の分析結果を以下に示す。
H NMR(CDCl) δ(ppm):7.92(d,J=8.6Hz,2H),7.44−7.41(dd,J=8.9Hz,1.4Hz,2H),7.26−7.23(dd,J=6.2Hz,1.6Hz,2H),7.17−7.06(m,24H),6.97−6.83(m,6H); 31P NMR(CDCl) δ(ppm):−14.73
【0098】
(製造例B10)
(R)−2,2’−ビス(ジフェニルホスフィニル)−5,5’−ビス[2−(カルボエトキシ)エテニル]−1,1’−ビナフチル(BINAPジオキシド(b25))の製造
ジヨウ素化 BINAP ジオキシド(a1)(1.297g、1.426mmol)、酢酸パラジウム(9.7mg、0.043mmol)、トリフェニルホスフィン(45.7mg、0.174mmol)を反応容器に加え、DMF(140ml)に溶かし室温で5分攪拌した。その後酢酸ナトリウム(233mg、2.840mmol)、アクリル酸エチル(0.34ml、3.137mmol)を加え、130℃で92時間還流させた。室温冷却後、蒸留水を過剰に加え、ジクロロメタンで抽出し、有機層を無水の硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後濃縮して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/5)で精製した。(0.9965g、82%)
【0099】
BINAPジオキシド(b25)の分析結果を以下に示す。
H NMR(CDCl) δ(ppm):8.50(d,J=15.9Hz,2H),8.22(d,J=7.0Hz,2H),7.71−7.35(m,24H),6.87−6.76(m,4H),6.48(d,J=15.7Hz,2H);31P NMR(CDCl) δ(ppm):28.68
【0100】
<実験例C>
(実施例1)
ロジウム触媒を用いた不斉1,4−付加反応
Rh(acac)(C (2.6mg,0.01mmol),フェニルボロン酸(121.9mg,1.0mmol),不斉配位子としての0.02mmolのBINAP誘導体の混合物を1mlの1,4−ジオキサンに溶かした。この溶液に2−シクロヘキセン−1−オン(19.2mg,0.2mmol)を加え、続いて脱気した水を加えてあらかじめ100℃にしておいたオイルバスで撹拌した。撹拌後、濃縮し酢酸エチル,飽和炭酸水素ナトリウム水を用いて抽出を行った。有機層は無水の硫酸マグネシウムで乾燥させ粗生成物を得た。得られた粗生成物はPTLC(hexane / EtOAc = 4 / 1)により精製を行い3−フェニルシクロヘキサン−1−オンを得た。
H NMR(CDCl)δ7.36−7.31(m,2H),7.30−7.20(m,3H),3.07−2.94(m,1H),2.62−2.30(m,4H),2.18−2.02(m,2H),1.93−1.67(m,2H).
【化15】

【0101】
BINAP誘導体としては表2に記載のものを用いた。なお、(R)−BINAPの使用量は12.5mg、(R)−BINAP誘導体(b2)の使用量は16.3mg、(R)−BINAP誘導体(a2)の使用量は17.5mgであった。
生成物の収率およびエナンチオ過剰率を表2に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
表2中、収率はシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる単離収率である。
エナンチオ過剰率は高性能液体クロマトグラフィー(HPLC;Daicel Chiralpak OD, eluent:hexane/2-propanol = 99.5/0.5)によって測定した。
Rh/Lは不斉配位子に対するロジウム触媒使用量を示す。
【0104】
(実施例2)
ロジウム触媒を用いた不斉1,4−付加反応
Rh(acac)(C (2.6mg,0.01mmol),フェニルボロン酸(121.9mg,1mmol),不斉配位子としてのBINAP誘導体(0.02mmol)をジオキサン(1ml)に溶かし、trans−クロトン酸メチル(20.0mg,0.2mmol),脱気水(0.1ml)を加え、100℃に温めたオイルバスに反応容器をつけ、すばやくセプタムを外し、蓋をして密閉系にして100℃で3時間攪拌した。攪拌後、ジオキサンと水をエバポレーターで飛ばした後、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水の硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、PTLC(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製した。
H NMR(CDCl) δ(ppm):7.33−7.19(m,6H),3.62(s,3H),3.35−3.21(m,1H),2.68−2.50(m,2H),1.31−1.28(d,J=7.0Hz,3H)
【化16】

【0105】
BINAP誘導体としては表3に記載のものを用いた。
生成物の収率およびエナンチオ過剰率を表3に示す。
【0106】
【表3】

【0107】
表3中、収率はシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる単離収率である。
エナンチオ過剰率は高性能液体クロマトグラフィー(HPLC;Daicel Chiralpak OD, eluent:hexane/2-propanol = 99.5/0.5)によって測定した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
ビナフチル誘導体(A)は、種々の不斉配位子および不斉材料として期待できるビナフチル誘導体(B)の原料として有用である。
ビナフチル誘導体(B)は有機合成反応の分野における不斉合成の触媒、特に不均一触媒、均一触媒のための不斉配位子または光触媒として有用である。またビナフチル誘導体(B)は分析化学の分野の光学異性体分離カラム用分割剤として有用である。またビナフチル誘導体(B)はセンサーの分野の蛍光材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(A);
【化1】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立してヨウ素原子または水素原子である(但し、RおよびRは同時に水素原子ではない);RおよびRはそれぞれ独立して−P(=O)(Rまたは−P(R(Rは置換基を有しても良いフェニル基を示す)である]で表されるヨウ素化ビナフチル誘導体。
【請求項2】
2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル類を酸化してオキシド誘導体を得る工程;および
オキシド誘導体をビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボレートと反応させてヨウ素化オキシド誘導体を得る工程;
を含むことを特徴とする請求項1に記載のヨウ素化ビナフチル誘導体の製造方法。
【請求項3】
一般式(B);
【化2】

[式中、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子、または置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基もしくはシリル基である(但し、R11およびR12は同時に水素原子ではない);R13およびR14はそれぞれ独立して−P(=O)(R15または−P(R15(R15は置換基を有しても良いフェニル基を示す)である]で表されるビナフチル誘導体。
【請求項4】
請求項1に記載のヨウ素化ビナフチル誘導体を用いて、遷移金属を用いたクロスカップリング反応を行うことを特徴とする請求項3に記載のビナフチル誘導体の製造方法。



【公開番号】特開2007−77022(P2007−77022A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262628(P2005−262628)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第85春季年会−講演予稿集II」(講演番号:2E2−07)に発表、平成17年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第85春季年会−講演予稿集II」(講演番号2PC−218)に発表、平成17年8月31日 社団法人近畿化学協会有機金属部会出版の「第52回有機金属化学討論会予稿集」に発表
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】