説明

ビニル系重合体の製造方法

【課題】原子移動ラジカル重合に用いた、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族の遷移金属を中心金属とする金属錯体の触媒を効率的に除き、遷移金属の含有量が極めて低いビニル系重合体を得る。
【解決手段】原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を、非水溶性溶剤に溶解し、純水または無機塩を溶解した水溶液と接触させ、水側に触媒として使用した周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族の遷移金属錯体を移行させ、油水分離操作において触媒を取り除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル系重合体の製造方法、および金属触媒の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系重合体の精密合成法としてリビング重合法が一般的に知られている。リビング重合は分子量、分子量分布のコントロールが可能であるというだけでなく、末端構造が明確な重合体が得られる。従って、リビング重合は重合体末端に官能基を導入する有効な方法の一つとして挙げられる。最近、ラジカル重合においても、リビング重合が可能な重合系が見いだされ、リビングラジカル重合の研究が活発に行われている。特に原子移動ラジカル重合を利用することにより分子量分布の狭いビニル系重合体が得られる。原子移動ラジカル重合の例として有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒とする重合系が挙げられる。(例えば、非特許文献1から4を参照)。
【0003】
しかしながら、原子移動ラジカル重合で製造されるビニル系重合体には重合触媒である遷移金属錯体が残存するため、重合体の着色、物性面への影響および環境安全性等の問題が生ずる。例えば、原子移動ラジカル重合法を利用して製造された末端にアルケニル基を有するビニル系重合体においては残存触媒等がヒドロシリル化反応の触媒毒として働くため、ヒドロシリル化反応が阻害され、高価なヒドロシリル化触媒が多く必要になるという問題が生じる。よって実用上、重合反応を行った後は、重合体から重合触媒を取り除く必要がある。
【0004】
重合触媒の除去方法としては、たとえば、特許文献1に開示された、活性炭、活性アルミナ、アルミニウムシリケート、二酸化ケイ素などの吸着剤に接触させ、引き続き吸着剤を取り除くことによってビニル系重合体を精製する方法などがあげられる。また特許文献2には、固体の有機酸を添加して錯体を破壊し、金属を不溶化させて除去する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、前者の方法においては、吸着剤が高コストであったり、吸着に時間がかかったり、吸着が不完全であることが問題となる場合があった。後者の方法においては、固体酸の溶媒中への溶解性が低く、固体酸を錯体に対して過剰に投入する必要があり、触媒失活反応に長時間を有することがあった。
【0006】
また、特許文献3、特許文献4には、重合体を水と接触させて金属触媒を除去する方法も報告されているが、前者はキレートや酸を添加した洗浄水を作成する必要があり、除去後の廃水処理に負担がかかったり、また洗浄性および油水分離性を上げるためにあらかじめ重合体を多量の有機溶剤で希釈する必要があって生産性がひくかったりと、実用性が低いものとなっており、後者は有機溶剤による希釈は行わないものの、洗浄水との接触後の製品中に触媒金属が数百ppmも残っており、触媒金属の除去率が低いことから、前者と同じく実用性が低いものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−193307号公報
【特許文献2】特開2003−147015号公報
【特許文献3】特開2005−105265公報
【特許文献4】特開2006−299070号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Matyjaszewskiら,「Journal of American Chemical society」,1995年,第117巻,p.5614
【非特許文献2】Matyjaszewskiら,「Macromolecules」,1995年,第28巻,p.7901
【非特許文献3】Matyjaszewskiら,「Science」,1996年,第272巻,p.866
【非特許文献4】Sawamotoら,「Macromolecules」,1995年,第28巻,p.1721
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は特定の有機溶剤を選択し、純水または無機塩を溶解した水溶液で洗浄する、金属触媒除去を容易に行うことが可能なビニル系重合体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ビニル系重合体の製造の際、重合反応が終了した後、重合体を非水溶性溶剤に溶解し電解質を含有した水と接触させることで、効率よく金属錯体を不溶化させ除去することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族の遷移金属(M)を中心金属とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を非水溶性溶剤に溶解し、水と任意成分として電解質を混合した洗浄水に、重合体溶液を接触させることによって重合体中に残存する金属触媒を除去することを特徴としたビニル系重合体の製造方法に関する。
【0012】
ビニル系重合体を溶解する非水溶性溶剤が炭素数4以上のアルコール、酢酸エステル、トルエンであることが好ましい。
【0013】
ビニル系重合体を溶解する非水溶性溶剤が炭素数4以上のアルコールであることが好ましい。
【0014】
また、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族の遷移金属を中心金属とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を水溶性溶剤であるn−プロパノールに溶解し、水と必須成分として電解質を混合した洗浄水に、重合体溶液を接触させることによって重合体中に残存する金属触媒を除去することを特徴としたビニル系重合体の製造方法に関する。
【0015】
洗浄水に含まれる電解質が無機塩であることが好ましい。
【0016】
無機塩が硫酸ナトリウムであることが好ましい。
【0017】
Mを中心金属とする金属錯体が、ハロゲン化されたMと、窒素を含有する配位子との反応により生成したものであることが好ましい。
【0018】
窒素を含有する配位子が、2以上の配位座を有するキレート配位子であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、上記方法で製造されたことを特徴とする重合体(請求項10)に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のビニル系重合体の製造方法によれば、重合に用いた遷移金属触媒の含有量が著しく低減した重合体を容易に得ることができる。吸着剤による触媒除去に比べ水で洗浄することにより、固形廃棄物の削減や、吸着剤を固液分離操作等で取り除くために要する時間も短縮することが可能である。その結果、生産性を向上させつつ設備コストの面で有利な生産工程を提供することができ、その工業的価値は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0022】
本発明は、有機ハロゲン化物などを開始剤とし、遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)により製造されるビニル系重合体の製造方法に関し、詳しくは、重合体溶液を水と接触することにより、効率的に金属錯体を除去する方法に関する。
【0023】
原子移動ラジカル重合
まず始めに原子移動ラジカル重合について詳述する。本発明における原子移動ラジカル重合とは、リビングラジカル重合の一つであり、有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、遷移金属(M)を中心金属とする金属錯体を触媒としてビニル系モノマーをラジカル重合する方法である。具体的には、例えば、Matyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、7901頁,サイエンス(Science)1996年、272巻、866頁、WO96/30421号公報,WO97/18247号公報、WO98/01480号公報,WO98/40415号公報、あるいはSawamotoら、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、1721頁、特開平9−208616号公報、特開平8−41117号公報などが挙げられる。
【0024】
この原子移動ラジカル重合では、有機ハロゲン化物、特に反応性の高い炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物(例えば、α位にハロゲンを有するカルボニル化合物や、ベンジル位にハロゲンを有する化合物)、あるいはハロゲン化スルホニル化合物等が開始剤として用いられる。具体的に例示するならば、
65−CH2X、C65−C(H)(X)CH3
65−C(X)(CH32
(ただし、上の化学式中、C65はフェニル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
3−C(H)(X)−CO24
3−C(CH3)(X)−CO24
3−C(H)(X)−C(O)R4、R3−C(CH3)(X)−C(O)R4
(式中、R3、R4は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、またはアラルキル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
3−C64−SO2
(上記の各式において、R3は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、またはアラルキル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
等が挙げられる。
【0025】
有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤としてビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を行うことにより、一般式(1)に示す末端構造を有するビニル系重合体が得られる。
−C(R1)(R2)(X) (1)
(式中、R1及びR2はビニル系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基を示す。Xは塩素、臭素又はヨウ素を示す。)
【0026】
原子移動ラジカル重合の開始剤として、重合を開始する官能基とともに重合を開始しない特定の反応性官能基を併せ持つ有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を用いることもできる。このような場合、一方の主鎖末端に特定の反応性官能基を、他方の主鎖末端に一般式(1)に示す末端構造を有するビニル系重合体が得られる。このような特定の反応性官能基としては、アルケニル基、架橋性シリル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。これらの反応性官能基の反応性を利用して一段階又は数段階の反応を経ることによりビニル系重合体に他の適当な官能基を導入することができる。
【0027】
アルケニル基を有する有機ハロゲン化物としては限定されず、例えば、一般式(2)に示す構造を有するものが例示される。
67C(X)−R8−R9−C(R5)=CH2 (2)
(式中、R5は水素、またはメチル基、R6、R7は水素、または、炭素数1〜20の1価のアルキル基、アリール基、またはアラルキル、または他端において相互に連結したもの、R8は、−C(O)O−(エステル基)、−C(O)−(ケト基)、またはo−,m−,p−フェニレン基、R9は直接結合、または炭素数1〜20の2価の有機基で1個以上のエーテル結合を含んでいても良い、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
【0028】
置換基R6、R7の具体例としては、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。R6とR7は他端において連結して環状骨格を形成していてもよい。
【0029】
一般式(2)で示される、アルケニル基を有する有機ハロゲン化物の具体例としては、
XCH2C(O)O(CH2nCH=CH2
3CC(H)(X)C(O)O(CH2nCH=CH2
(H3C)2C(X)C(O)O(CH2nCH=CH2
CH3CH2C(H)(X)C(O)O(CH2nCH=CH2
【0030】
【化1】

【0031】
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
XCH2C(O)O(CH2nO(CH2mCH=CH2
3CC(H)(X)C(O)O(CH2nO(CH2mCH=CH2
(H3C)2C(X)C(O)O(CH2nO(CH2mCH=CH2
CH3CH2C(H)(X)C(O)O(CH2nO(CH2mCH=CH2
【0032】
【化2】

【0033】
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
o,m,p−XCH2−C64−(CH2n−CH=CH2
o,m,p−CH3C(H)(X)−C64−(CH2n−CH=CH2
o,m,p−CH3CH2C(H)(X)−C64−(CH2n−CH=CH2
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
o,m,p−XCH2−C64−(CH2n−O−(CH2m−CH=CH2
o,m,p−CH3C(H)(X)−C64−(CH2n−O−(CH2m−CH=CH2
o,m,p−CH3CH2C(H)(X)−C64−(CH2n−O−(CH2mCH=CH2
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
o,m,p−XCH2−C64−O−(CH2n−CH=CH2
o,m,p−CH3C(H)(X)−C64−O−(CH2n−CH=CH2
o,m,p−CH3CH2C(H)(X)−C64−O−(CH2n−CH=CH2
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
o,m,p−XCH2−C64−O−(CH2n−O−(CH2m−CH=CH2
o,m,p−CH3C(H)(X)−C64−O−(CH2n−O−(CH2m−CH=CH2
o,m,p−CH3CH2C(H)(X)−C64−O−(CH2n−O−(CH2m−CH=CH2
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
【0034】
アルケニル基を有する有機ハロゲン化物としてはさらに一般式(3)で示される化合物が挙げられる。
2C=C(R5)−R9−C(R6)(X)−R10−R7 (3)
(式中、R5、R6、R7、R9、Xは上記に同じ、R10は、直接結合、−C(O)O−(エステル基)、−C(O)−(ケト基)、または、o−,m−,p−フェニレン基を表す)
【0035】
9は直接結合、または炭素数1〜20の2価の有機基(1個以上のエーテル結合を含んでいても良い)であるが、直接結合である場合は、ハロゲンの結合している炭素にビニル基が結合しており、ハロゲン化アリル化物である。この場合は、隣接ビニル基によって炭素−ハロゲン結合が活性化されているので、R10としてC(O)O基やフェニレン基等を有する必要は必ずしもなく、直接結合であってもよい。R9が直接結合でない場合は、炭素−ハロゲン結合を活性化するために、R10としてはC(O)O基、C(O)基、フェニレン基が好ましい。
【0036】
一般式(3)の化合物を具体的に例示するならば、
CH2=CHCH2X、
CH2=C(CH3)CH2X、
CH2=CHC(H)(X)CH3、CH2=C(CH3)C(H)(X)CH3
CH2=CHC(X)(CH32、CH2=CHC(H)(X)C25
CH2=CHC(H)(X)CH(CH32
CH2=CHC(H)(X)C65、CH2=CHC(H)(X)CH265
CH2=CHCH2C(H)(X)−CO2R、
CH2=CH(CH22C(H)(X)−CO2R、
CH2=CH(CH23C(H)(X)−CO2R、
CH2=CH(CH28C(H)(X)−CO2R、
CH2=CHCH2C(H)(X)−C65
CH2=CH(CH22C(H)(X)−C65
CH2=CH(CH23C(H)(X)−C65
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基)
等を挙げることができる。
【0037】
アルケニル基を有するハロゲン化スルホニル化合物の具体例を挙げるならば、
o−,m−,p−CH2=CH−(CH2n−C64−SO2X、
o−,m−,p−CH2=CH−(CH2n−O−C64−SO2X、
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
等である。
【0038】
上記架橋性シリル基を有する有機ハロゲン化物としては特に限定されず、例えば一般式(4)に示す構造を有するものが例示される。
67C(X)−R8−R9−C(H)(R5)CH2−[Si(R112-b(Y)bO]m−Si(R123-a(Y)a (4)
(式中、R5、R6、R7、R8、R9、Xは上記に同じ、R11、R12は、いずれも炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、または(R’)3SiO−(R’は炭素数1〜20の1価の炭化水素基であって、3個のR’は同一であってもよく、異なっていてもよい)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、R11またはR12が2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Yは水酸基または加水分解性基を示し、Yが2個以上存在するときそれらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0,1,2,または3を、また、bは0,1,または2を示す。mは0〜19の整数である。ただし、a+mb≧1であることを満足するものとする)
【0039】
一般式(4)の化合物を具体的に例示するならば、
XCH2C(O)O(CH2nSi(OCH33
CH3C(H)(X)C(O)O(CH2nSi(OCH33
(CH32C(X)C(O)O(CH2nSi(OCH33
XCH2C(O)O(CH2nSi(CH3)(OCH32
CH3C(H)(X)C(O)O(CH2nSi(CH3)(OCH32
(CH32C(X)C(O)O(CH2nSi(CH3)(OCH32
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、ヨウ素、nは0〜20の整数、)
XCH2C(O)O(CH2nO(CH2mSi(OCH33
3CC(H)(X)C(O)O(CH2nO(CH2mSi(OCH33
(H3C)2C(X)C(O)O(CH2nO(CH2mSi(OCH33
CH3CH2C(H)(X)C(O)O(CH2nO(CH2mSi(OCH33
XCH2C(O)O(CH2nO(CH2mSi(CH3)(OCH32
3CC(H)(X)C(O)O(CH2nO(CH2m−Si(CH3)(OCH32
(H3C)2C(X)C(O)O(CH2nO(CH2m−Si(CH3)(OCH32
CH3CH2C(H)(X)C(O)O(CH2nO(CH2m−Si(CH3)(OCH32
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、ヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
o,m,p−XCH2−C64−(CH22Si(OCH33
o,m,p−CH3C(H)(X)−C64−(CH22Si(OCH33
o,m,p−CH3CH2C(H)(X)−C64−(CH22Si(OCH33
o,m,p−XCH2−C64−(CH23Si(OCH33
o,m,p−CH3C(H)(X)−C64−(CH23Si(OCH33
o,m,p−CH3CH2C(H)(X)−C64−(CH23Si(OCH33
o,m,p−XCH2−C64−(CH22−O−(CH23Si(OCH33
o,m,p−CH3C(H)(X)−C64−(CH22−O−(CH23Si(OCH33
o,m,p−CH3CH2C(H)(X)−C64−(CH22−O−(CH23Si(OCH33
o,m,p−XCH2−C64−O−(CH23Si(OCH33
o,m,p−CH3C(H)(X)−C64−O−(CH23Si(OCH33
o,m,p−CH3CH2C(H)(X)−C64−O−(CH23−Si(OCH33
o,m,p−XCH2−C64−O−(CH22−O−(CH23−Si(OCH33
o,m,p−CH3C(H)(X)−C64−O−(CH22−O−(CH23Si(OCH33
o,m,p−CH3CH2C(H)(X)−C64−O−(CH22−O−(CH23Si(OCH33
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
等が挙げられる。
【0040】
上記架橋性シリル基を有する有機ハロゲン化物としてはさらに、一般式(5)で示される構造を有するものが例示される。
(R123-a(Y)aSi−[OSi(R112-b(Y)bm−CH2−C(H)(R5)−R9−C(R6)(X)−R10−R7 (5)
(式中、R5、R7、R8、R9、R10、R11、R12、a、b、m、X、Yは上記に同じ)
このような化合物を具体的に例示するならば、
(CH3O)3SiCH2CH2C(H)(X)C65
(CH3O)2(CH3)SiCH2CH2C(H)(X)C65
(CH3O)3Si(CH22C(H)(X)−CO2R、
(CH3O)2(CH3)Si(CH22C(H)(X)−CO2R、
(CH3O)3Si(CH23C(H)(X)−CO2R、
(CH3O)2(CH3)Si(CH23C(H)(X)−CO2R、
(CH3O)3Si(CH24C(H)(X)−CO2R、
(CH3O)2(CH3)Si(CH24C(H)(X)−CO2R、
(CH3O)3Si(CH29C(H)(X)−CO2R、
(CH3O)2(CH3)Si(CH29C(H)(X)−CO2R、
(CH3O)3Si(CH23C(H)(X)−C65
(CH3O)2(CH3)Si(CH23C(H)(X)−C65
(CH3O)3Si(CH24C(H)(X)−C65
(CH3O)2(CH3)Si(CH24C(H)(X)−C65
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基)
等が挙げられる。
【0041】
上記ヒドロキシル基を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物としては特に限定されず、下記のようなものが例示される。
HO−(CH2n−OC(O)C(H)(R)(X)
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは1〜20の整数)
【0042】
上記アミノ基を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物としては特に限定されず、下記のようなものが例示される。
2N−(CH2n−OC(O)C(H)(R)(X)
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは1〜20の整数)
【0043】
上記エポキシ基を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物としては特に限定されず、下記のようなものが例示される。
【0044】
【化3】

【0045】
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは1〜20の整数)
【0046】
反応性官能基を1分子内に2つ以上有する重合体を得るためには、2つ以上の開始点を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物が開始剤として用いるのが好ましい。具体的に例示するならば、
【0047】
【化4】

【0048】
【化5】

【0049】
等があげられる。
【0050】
重合触媒として用いられる遷移金属錯体としては特に限定されないが、好ましくは周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体である。更に好ましいものとして、0価の銅、1価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄又は2価のニッケルの錯体が挙げられる。なかでも、銅の錯体が好ましい。1価の銅化合物を具体的に例示するならば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅等である。
【0051】
上記触媒の活性を高めるため、窒素を含有する配位子を添加するのが好ましく、窒素を含有する配位子が、2以上の配位座を有するキレート配位子であることがより好ましい。この場合の触媒は、ハロゲン化されたMと窒素を含有する配位子との反応により生成したものであることが好ましい。
【0052】
上記2以上の配位座を有するキレート配位子としては2,2′−ビピリジル若しくはその誘導体、1,10−フェナントロリン若しくはその誘導体、又はテトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン若しくはヘキサメチルトリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン等が挙げられる。金属Mが銅の場合、上記窒素を含有する配位子が好ましい。
【0053】
また、2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl2(PPh33)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合は、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類が添加される。更に、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl2(PPh32)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl2(PPh32)、及び、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr2(PBu32)も、触媒として好適である。
【0054】
この重合において用いられるビニル系モノマーとしては特に制約はなく、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。なかでも、生成物の物性等から、スチレン系モノマー及び(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくは、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーであり、特に好ましくはアクリル酸エステルモノマーであり、更に好ましくは、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−2−メトキシエチルである。なお上記表現形式で例えば(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/あるいはメタクリル酸を表す。
【0055】
重合反応は、無溶媒でも可能であるが、各種の溶媒中で行うこともできる。溶媒の種類としては特に限定されず、例えば、ベンジエン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンジエン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンジエン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒等が挙げられる。これらは、単独でもよく、2種以上を併用してもよい。また、エマルジョン系もしくは超臨界流体CO2を媒体とする系においても重合を行うことができる。
【0056】
限定はされないが、重合は、0〜200℃の範囲で行うことができ、好ましくは、室温〜150℃の範囲である。
【0057】
ビニル系重合体について
次に本発明におけるビニル系重合体について詳述する。
【0058】
ビニル系重合体は特に限定されないが、ビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合により製造されるものである。このようなビニル系モノマーとしては特に限定されず、既に例示されたものを用いることができる。これらのビニル系モノマーは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。なかでも、生成物の物性等から、スチレン系モノマー及び(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくは、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーであり、特に好ましくはアクリル酸エステルモノマーであり、更に好ましくは、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸ステアリルである。本発明においては、これらの好ましいモノマーを他のモノマーと共重合、更にはブロック共重合させても構わなく、その際は、これらの好ましいモノマーが重量比で40%以上含まれていることが好ましい。
【0059】
ビニル系重合体の分子量分布、すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量と数平均分子量の比は、特に限定されないが、好ましくは1.8未満であり、好ましくは1.7以下であり、より好ましくは1.6以下であり、さらに好ましくは1.5以下であり、特に好ましくは1.4以下であり、最も好ましくは1.3以下である。本発明でのGPC測定においては、通常、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにておこない、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。
【0060】
ビニル系重合体の数平均分子量は特に制限はないが、500〜1,000,000の範囲が好ましく、1000〜100,000がさらに好ましい。分子量が低くなりすぎると、ビニル系重合体の本来の特性が発現されにくく、また、逆に高くなりすぎると、取扱いが困難になる。
【0061】
本発明の精製方法はビニル系重合体の重合後すぐに行ってもよいが、重合後のビニル系重合体の分子内に反応性官能基を付けてから行ってもよい。分子内に反応性官能基を有する場合には側鎖又は分子鎖末端のいずれに存在していてもよい。反応性官能基としては特に限定されないが、例えばアルケニル基、水酸基、アミノ基、架橋性シリル基、重合性炭素−炭素二重結合基等が挙げられる。
【0062】
さらに、官能基の導入方法としては、特に限定されず、様々な方法が利用される。例えば下記方法等が例示される。
(1) 官能基を有するビニル系モノマーを、原子移動ラジカル重合条件下で、所定のビニル系モノマーと共重合させる方法、
(2) 官能基を有するラジカル重合性の低いオレフィン化合物を、ビニル系重合体の末端ハロゲン基に原子移動ラジカル重合条件下で反応させる方法、
(3) 官能基を有する特定の化合物により、ビニル系重合体の末端ハロゲン基を置換する方法、
(4) ビニル系重合体の末端ハロゲンと、一般式(6)
+-OC(O)C(R)=CH2 (6)
(式中、Rは水素、又は、炭素数1〜20の有機基を表す。A+はアルカリ金属、又は4級アンモニウムイオンを表す。)
で表される化合物を反応させる方法。
【0063】
反応性官能基を一段階もしくは数段階で別の適当な官能基へ変換することもできる。例えば本発明においても水酸基等の反応性官能基を変換することによりアルケニル基を有するビニル系重合体が合成される。
【0064】
ビニル系重合体の精製方法
次に金属触媒の除去方法について説明する。
【0065】
重合によって得られたビニル系重合体溶液は、重合体および触媒である遷移金属錯体を含んでいるため、重合活性を消失させるとともに、これら遷移金属を分離除去する必要がある。本発明では非水溶性溶剤と任意成分として電解質を含む水溶液を用いて精製処理することにより、遷移金属成分を除去する。
【0066】
本発明の遷移金属除去操作は、ビニル系重合体を非水溶性溶剤で溶解した上で行う。重合体の溶解には、以下のような各種溶媒を選択することが出来る。非水溶性溶剤としては、たとえばn−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの飽和炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソールなどの芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、四塩化炭素、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミルなどのエステル系溶媒;n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノールなどの炭素数4以上のアルコール系溶媒などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中で好ましい溶剤は、入手も容易で毒性や環境負荷も低く、金属除去後の溶剤除去を簡便に行えるn−ブタノール、n−ヘキサノール、酢酸ブチル、トルエン、メチルシクロヘキサンであり、より好ましい溶剤は、銅抽出効率の良いn−ブタノール、n−ヘキサノールである。
【0067】
混合攪拌後の油水分離性を確保するために、重合体の溶解には非水溶性溶剤を用いることが好ましいが、以下に記載の電解質成分を必須成分とすることにより、水溶性溶剤であるn−プロパノールを用いることも可能である。 上記溶剤の使用量は、特に限定されない。通常はビニル系重合体100重量部に対して、10〜2000重量部の範囲が好ましく、経済性と操作面から重合体に対して50〜200重量部の範囲が好ましい。
【0068】
使用する水については、重合体の汚染防止を考慮すること以外に選択条件はない。50μm以下のフィルターを通した水が好ましく、イオン交換樹脂で処理した純水がより好ましい。
【0069】
本発明では重合体溶液との分離性を高めるために、水に電解質成分を混合させても良い。水に溶解する電解質成分の例は、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、フタル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウムおよびメタクリル酸ナトリウムである。これらのナトリウム塩はカリウム塩もしくはアンモニウム塩でもよい。この中では、入手が容易であり、中性塩で廃水処理における負荷の低い、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムが好ましく、硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0070】
水に加える電解質の含有量は特に限定されないが、完全に溶解している必要があるため、それぞれ電解質の溶解度に対応して添加量を調整することが好ましい。電解質水溶液と重合体溶液とを混合した後の分離性を促進するためには、電解質の添加量を水100重量部に対して、1〜15重量部にすることが好ましく、廃水処理の負荷を低減するために1〜10重量部にすることが好ましい。
【0071】
水もしくは電解質成分を溶解した水溶液と重合体溶液を接触させる際の水の使用量は特に制限はないが、経済性と操作面からビニル系重合体100重量部に対して50〜1000重量部の範囲が好ましい。
【0072】
水もしくは電解質成分を溶解した水溶液と重合体溶液の液々接触には様々な実施態様が可能であるが、撹拌混合と液々分離を回分操作で行う回分式のほか、水と重合体を向流方式で容器に通液する抽出塔方式やスプレー塔方式等も利用できる。さらに必要に応じて撹拌による混合分散に加えて、容器の振とう、超音波の利用など、分散効率を向上させる諸操作を取り入れることができる。2相を混合させる駆動力を必要としない方法として、スプレー塔、充填塔、バッフル塔、多孔板抽出塔、オリフィス塔、スタティックミキサーなどのフローミキサーと呼ばれる方法などが挙げられる。また、駆動力を必要とする方法としては、脈動式充填塔、脈動式多孔板塔、振動板塔、ポドビルニアク抽出機やルウェスタ抽出機のような遠心式抽出装置が挙げられる。駆動力として撹拌方式を用いる装置は様々な方式があり、ミキサーセトラー抽出装置や、シャイベル塔、回転円板抽出塔、オルドシュー−ラシュトン塔、ARD塔などが上げられる。
【0073】
水もしくは電解質成分を溶解した水溶液と重合体溶液を接触させる際の温度としては特に限定されず、一般に0〜200℃であればよい。好ましくは20〜100℃であり、より好ましくは60〜100℃である。温度を高くすれば、重合体溶液の粘度が下がり分散する油滴が小さくなるため、水との接触面積が大きくなり、金属触媒の抽出が促進されるので好ましい。ただし高すぎるとビニル系重合体の品質が悪化する恐れがある。
【0074】
上記接触を行う時間も特に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲内であればよい。重合体を溶解する非水溶性溶剤や電解質の種類を限定することにより、1分程度の混合攪拌により精製を完了する組み合わせもある。その他の組み合わせでも、通常、5〜300分程度で行うことができる。
【0075】
水もしくは電解質成分を溶解した水溶液と重合体溶液との油水分離には、比重差を利用する遠心分離または静置分離、あるいは電気的性質の違いを利用する静電浄油などを利用することが出来る。上記油水分離を行う時間も特に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲内であればよい。通常、5〜300分程度で行うことが出来る。
【0076】
上記の水もしくは電解質成分を溶解した水溶液と重合体溶液との接触および油水分離の回数は特に限定されず、一回でも数回行ってもかまわない。
【0077】
残留触媒を除去するためには、上記の方法に濾過剤や吸着剤などを用いる精製処理を併用してもよい。吸着剤の例は、活性炭、イオン交換樹脂(酸性、塩基性またはキレート形)、および無機系吸着剤である。無機系吸着剤の例は、シリカ、酸化マグネシウム、活性アルミナ、酸性白土、活性白土、ゼオライト、カオリン、ベントナイト、ケイソウ土などである。イオン交換樹脂や無機系吸着剤と重合体溶液の固液接触を併用する場合は、撹拌混合と固液分離を回分操作で行う回分式の方法が利用できる。この他に、吸着剤を容器に充填し重合体溶液を通液する固定層方式、吸着剤の移動層に液を通じる移動層式、吸着剤を液で流動化して吸着を行う流動層式などの連続式の方法も利用できる。さらに必要に応じて、撹拌による混合分散操作に、容器の振とうまたは超音波の利用などの、分散効率を向上させる操作を組み合わせることができる。重合体溶液を濾過剤もしくは吸着剤に接触させた後、濾過、遠心分離、沈降分離等の方法で除去し、必要に応じて水洗処理を行い、さらに精製度を上げることができる。
【0078】
上記の精製処理により、本発明の重合体における遷移金属成分の含有量を重合体1kgに対して50mg以下にすることができる。そして、水との接触を繰り返すことにより遷移金属の含有量を5mg以下、更には1mg以下とすることも可能である。
【0079】
以上において本発明にかかる方法は、原子移動ラジカル重合によるビニル系重合体の製造の際に、広範に適用することが出来る。
【実施例】
【0080】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0081】
<分子量測定法>
本実施例に示す分子量は以下に示すGPC分析装置で測定し、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めた。システムとして、ウォーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムに、昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)を用いた。
【0082】
<重合反応の転化率測定法>
本実施例に示す重合反応の添加率は以下に示す分析装置、条件で測定した。
使用機器:(株)島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC−14B
分離カラム:J&W SCIENTIFIC INC製、キャピラリーカラムDB−17、0.32mmφ×30m
分離条件:初期温度50℃、3分間保持
昇温速度40℃/min
最終温度140℃、1.5分間保持
インジェクション温度250℃
ディテクター温度250℃
試料調整:サンプルを酢酸エチルにより約10倍に希釈し、アセトニトリルを内部標準物質とした。
【0083】
<重合体中の銅の定量方法>
試料約0.1gをPTFE製分解容器にとり、超高純度硫酸および超高純度硝酸を加えてマイルストーンゼネラル社製マイクロウェーブ分解装置MLS−1200MEGAで加圧酸分解し、分解物を50mLに定容した。この溶液について、ICP質量分析器(Agilent7500C、横川アナリティカルシステムズ社製)を使用し、ノーマルプラズマ条件で、内部標準物質を用いて絶対検量線法で定量し、同時に実施したブランク試験値を減算した。
【0084】
<水中の銅の定量方法>
本実施例に示す水中の銅含有量は以下に示す分析装置、条件で測定した。
使用機器:(株)共立理化学研究所製 デジタルパックテストDPM−Cu
分析方法:バソクプロイン吸光光度法による
検水約1.5mlを試験用セルに取り、パックテストWAK−Cu((株)共立理化学研究所製)と接触させて呈色させ、その色変化をデジタルパックテストによって測定することで水中の銅含有量を換算した。
【0085】
〔製造例1〕
(アクリル酸n−ブチルの重合)
以降、重合体100kgあたりの必要量について記述する。攪拌機、ジャケット付きの反応機にCuBr(0.84kg)を仕込み、反応容器内を窒素置換した。アセトニトリル(8.79kg)を加え、ジャケットに温水を通水し80℃で30分間攪拌した。これにアクリル酸ブチル(100kg)、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル(3.51kg)を加え、さらに80℃で25分間撹拌した。これにペンタメチルジエチレントリアミン(以下、トリアミンと表す)を加え、反応を開始した。反応途中トリアミンを適宜添加し、反応開始から6時間後1,7−オクタジエン(21.5kg)、トリアミンを添加して6時間撹拌を続け、重合体溶液を得た。この重合体溶液を80℃、真空条件下で溶剤を除去し、銅触媒含有ビニル系重合体[重合体1]を得た。得られたビニル系重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが12700、分子量分布Mw/Mnが1.18であった。
【0086】
(不溶な重合触媒の除去)
溶剤を除去した重合体100kgを酢酸ブチル100kgに溶解した後、濾過助剤としてラヂオライト#900(昭和化学製)を重合体に対して1重量部の1.0g加え攪拌した後、この溶液を加圧濾過器で濾過することにより、銅触媒の未溶解分を除去した重合体溶液を得た。銅触媒の溶解分のみ含有するビニル系重合体溶液を再度80℃、真空条件下で溶剤を除去し、銅触媒含有ビニル系重合体[重合体2]を得た。この[重合体2]は濃い緑色で粘ちょうな液体であった。また[重合体2]に含まれる銅量は、元素分析の結果、重合体1kgに対して220mgであった。
【0087】
〔実施例1〕
製造例1で得られた[重合体2]100gに、n−ブタノール100gを加え攪拌することで、[重合体溶液1]を得た。1Lのセパラブルフラスコ(攪拌機、およびジャケット付き)に純水を400g仕込み、無水硫酸ナトリウム(以下、芒硝と表す)を40g添加し、室温条件下で攪拌して、芒硝水溶液を作成した。芒硝水溶液を攪拌しながら、[重合体溶液1]を滴下していき、全量滴下後に約10分間攪拌を行った。攪拌停止後には速やかに油相と水相が分離され、油相は淡黄色に、水相は青色に変化した。20分間静置後に、油相と水相を分離回収した。この水相に含まれる銅量は、純水1kgに対し55mgであった。純水は重合体の4倍量入っているため、重合体1kgに対しては220mg除去されたと推定できた。さらに油相をロータリーエバポレータを用いて溶剤および水分を減圧留去し、淡黄色の[重合体3]を得た。この重合体に含まれる銅量は、重合体1kgに対し16mgであった。
【0088】
〔実施例2〕
実施例1と同様に、[重合体溶液1]を得た。1Lのセパラブルフラスコ(攪拌機、およびジャケット付き)に純水のみを400g仕込み、室温条件下で純水を攪拌しながら、[重合体溶液1]を滴下していき、全量滴下後に約10分間攪拌を行った。攪拌停止100分後に油相と水相が分離され、油相は黄白色に、水相は青色に変化した。150分間静置後に、油相と水相を分離回収した。この水相に含まれる銅量は、純水1kgに対し47mgであった。純水は重合体の4倍量入っているため、重合体1kgに対しては188mg除去されたと推定できた。さらに油相をロータリーエバポレータを用いて溶剤および水分を減圧留去し、淡黄色の[重合体4]を得た。この重合体に含まれる銅量は、重合体1kgに対し42mgであった。
【0089】
〔実施例3〕
製造例1で得られた[重合体2]100gに、n−ヘキサノール100gを加え攪拌することで、[重合体溶液2]を得た。1Lのセパラブルフラスコ(攪拌機、およびジャケット付き)に純水を400g仕込み、芒硝を40g添加し、室温条件下で攪拌して、芒硝水溶液を作成した。芒硝水溶液を攪拌しながら、[重合体溶液2]を滴下していき、全量滴下後に約10分間攪拌を行った。攪拌停止後には速やかに油相と水相が分離され、油相は淡黄色に、水相は青色に変化した。20分間静置後に、油相と水相を分離回収した。この水相に含まれる銅量は、純水1kgに対し42.5mgであった。純水は重合体の4倍量入っているため、重合体1kgに対しては170mg除去されたと推定できた。
【0090】
〔実施例4〕
製造例1で得られた[重合体2]100gに、n−プロパノール100gを加え攪拌することで、[重合体溶液3]を得た。1Lのセパラブルフラスコ(攪拌機、およびジャケット付き)に純水を400g仕込み、芒硝を80g添加し、室温条件下で攪拌して、芒硝水溶液を作成した。芒硝水溶液を攪拌しながら、[重合体溶液3]を滴下していき、全量滴下後に約10分間攪拌を行った。攪拌停止後には速やかに油相と水相が分離され、油相は透明に、水相は青色に変化した。20分間静置後に、油相と水相を分離回収した。この水相に含まれる銅量は、純水1kgに対し55mgであった。純水は重合体の4倍量入っているため、重合体1kgに対しては220mg除去されたと推定できた。さらに油相をロータリーエバポレータを用いて溶剤および水分を減圧留去し、淡黄色の[重合体5]を得た。この重合体に含まれる銅量は、重合体1kgに対し10mgであった。
【0091】
〔比較例1〕
1Lのセパラブルフラスコ(攪拌機、およびジャケット付き)に純水を400g仕込み、芒硝を80g添加し、80℃条件下で攪拌して、芒硝水溶液を作成した。芒硝水溶液を80℃で攪拌しながら、[重合体2]を添加していき、全量添加後に約60分間攪拌を行った。攪拌停止10分後に油相と水相が分離され、油相は乳白色に、水相は薄青色に変化した。20分間静置後に、油相と水相を分離回収した。この水相に含まれる銅量は、純水1kgに対し15mgであった。純水は重合体の4倍量入っているため、重合体1kgに対しては60mg除去されたと推定できた。
【0092】
〔比較例2〕
1Lのセパラブルフラスコ(攪拌機、およびジャケット付き)に純水のみを400g仕込み、80℃条件下で純水を攪拌しながら、[重合体2]を添加していき、全量添加後に約60分間攪拌を行った。攪拌停止30分後に油相と水相が分離された。このとき実施例1〜4および比較例1と異なり、油相が下層に水相が上層となった。油相は乳白色に、水相は薄青色に変化した。静置後に、油相と水相を分離回収した。この水相に含まれる銅量は、純水1kgに対し12mgであった。純水は重合体の4倍量入っているため、重合体1kgに対しては48mg除去されたと推定できた。さらに油相をロータリーエバポレータを用いて溶剤および水分を減圧留去し、淡黄色の[重合体6]を得た。この重合体に含まれる銅量は、重合体1kgに対し180mgであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族の遷移金属(M)を中心金属とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を非水溶性溶剤に溶解し、水と任意成分として電解質を混合した洗浄水に、重合体溶液を接触させることによって重合体中に残存する金属触媒を除去することを特徴とするビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
ビニル系重合体を溶解する非水溶性溶剤が炭素数4以上のアルコール、酢酸エステル、トルエンである、請求項1に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
ビニル系重合体を溶解する非水溶性溶剤が炭素数4以上のアルコールである、請求項1〜2のいずれか1項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族の遷移金属(M)を中心金属とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を水溶性溶剤であるn−プロパノールに溶解し、水と必須成分として電解質を混合した洗浄水に、重合体溶液を接触させることによって重合体中に残存する金属触媒を除去することを特徴としたビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
洗浄水に含まれる電解質が無機塩である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
無機塩が硫酸ナトリウムである、請求項5記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
遷移金属錯体の中心金属Mが銅である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項8】
Mを中心金属とする金属錯体が、ハロゲン化されたMと、窒素を含有する配位子との反応により生成したものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項9】
窒素を含有する配位子が、2以上の配位座を有するキレート配位子である、請求項8記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の金属触媒の除去方法。

【公開番号】特開2011−231236(P2011−231236A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103519(P2010−103519)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】