説明

ビードエイペックス用ゴム組成物およびそれを用いたビードエイペックスを有するタイヤ

【課題】加硫工程における加硫速度を最適化させることで押出し加工性を向上させ、さらに、剛性、操縦安定性および低燃費性を向上させることができるビードエイペックス用ゴム組成物、ならびに該ビードエイペックス用ゴム組成物を用いた操縦安定性を向上させることができ、転がり抵抗を低減させることができるビードエイペックスを有するタイヤ、および耐久性をさらに向上させた多目的スポーツ車(SUV)用タイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムに対して、フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂、硫黄、ヘキサメチレンテトラミン、加硫促進剤、ならびにシトラコンイミド化合物、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、有機チオスルフェート化合物および一般式R1−S−S−A−S−S−R2で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の加硫促進補助剤を含有するビードエイペックス用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビードエイペックス用ゴム組成物およびそれを用いたビードエイペックスを有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤのビードエイペックス用ゴム組成物は、複素弾性率(E*)を増大させて操縦安定性を向上させることのみ重視されてきた。
【0003】
*を増大させる方法としては、例えば、補強効果が大きいカーボンブラックを多量に使用する方法があるが、この場合、tanδが増大してしまうという問題があった。また、tanδを低減させる方法としては、例えば、硫黄などの加硫剤を増量させる方法などがあげられる。しかし、加硫剤を多量に使用すると、初期加硫速度が速すぎるため、押出し加工時にゴム焼けが発生しやすい。合成ゴム(特にスチレンブタジエンゴム)を所定量含有すれば、幾分初期加硫速度を遅くでき、リターダーPVIを用いれば、加工可能にはなる。しかし、依然として、生産性は低いままである。また、リターダーPVIも、ゴム成分100重量部に対して1.0重量部を超えて配合すると、ゴム加工中にブルームするので、改良には限界がある。
【0004】
特許文献1には、ゴム成分およびシトラコンイミド系化合物を所定量含有するビードエイペックス用ゴム組成物が開示されている。しかし、フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂を配合しておらず、複素弾性率(E*)を10MPa以上にすることができず、操縦安定性やハンドル応答性が充分ではないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−36832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、加硫工程における加硫速度を最適化させることで押出し加工性を向上させ、さらに、剛性、操縦安定性および低燃費性を向上させることができるビードエイペックス用ゴム組成物、ならびに該ビードエイペックス用ゴム組成物を用いた操縦安定性を向上させることができ、転がり抵抗を低減させることができるビードエイペックスを有するタイヤ、および乗用車用タイヤと比較して、セクションの高さに対するビードエイペックスの高さの比が大きい多目的スポーツ車(SUV)用タイヤにおいて耐久性をさらに向上させた多目的スポーツ車(SUV)用タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジエン系ゴム100重量部に対して、フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂を5〜25重量部、硫黄を5.1〜7.0重量部、ヘキサメチレンテトラミンを0.5〜2.5重量部、スルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤を2.0〜5.0重量部、ならびにシトラコンイミド化合物、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、有機チオスルフェート化合物および下記一般式
1−S−S−A−S−S−R2
(式中Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R1およびR2は、それぞれ独立にチッ素原子を含む1価の有機基を示す。)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の加硫促進補助剤を0.1〜5重量部含有するビードエイペックス用ゴム組成物に関する。
【0008】
前記ビードエイペックス用ゴム組成物において、ジエン系ゴム100重量部に対して、ヘキサメチレンテトラミン、ならびにスルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の合計含有量は、3.5〜7.5重量部であることが好ましい。
【0009】
前記ビードエイペックス用ゴム組成物において、加硫促進補助剤は、シトラコンイミド化合物および/または下記化学式
【0010】
【化1】

(式中、nは0または1〜10の整数であり、Xは2〜4の整数であり、Rは炭素数5〜12のアルキル基である)で表されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物であることが好ましい。
【0011】
前記ビードエイペックス用ゴム組成物において、シトラコンイミド化合物は、下記化学式
【0012】
【化2】

で表される1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼンであることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記ビードエイペックス用ゴム組成物を用いたビードエイペックスを有するタイヤに関する。
【0014】
また、本発明は、前記ビードエイペックス用ゴム組成物を用いたビードエイペックスを有する多目的スポーツ車用タイヤに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ジエン系ゴム、フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂、硫黄、所定の加硫促進剤および所定の加硫促進補助剤を所定量含有することにより、加硫工程における加硫速度を最適化させることで押出し加工性を向上させ、さらに、剛性、操縦安定性および低燃費性を向上させることができるビードエイペックス用ゴム組成物、ならびに該ビードエイペックス用ゴム組成物を用いた操縦安定性を向上させることができ、転がり抵抗を低減させることができるビードエイペックスを有するタイヤ、および耐久性をさらに向上させた多目的スポーツ車(SUV)用タイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明のビードエイペックスから構成される乗用車タイヤの部分断面図である。なお、本発明で、特に言及しない限りタイヤと記すときは乗用車用タイヤおよび多目的スポーツ車(SUV)用タイヤを意味する。
【0017】
本発明のタイヤは、図1に示すように、例えば乗用車タイヤが有するサイドウォール1、タイヤクリンチ2、ビードコア3、ビードエイペックス4、インナーライナー5、ベルト6およびトレッド7などのタイヤ部材で構成される。図1において、ビードエイペックス4は、ビードコア3から半径方向外側にのびるように、タイヤクリンチ2の内側に配されている。タイヤ外皮をなすサイドウォール1は、トレッド7の両端部からタイヤ半径方向内方に伸びるように配されている。タイヤクリンチ2は、各サイドウォール1の内方端に配されている。また、同タイヤ半径方向の内端は、金属製のリム8に接触することができる。
【0018】
図2は、本発明のビードエイペックスから構成される多目的スポーツ車(SUV)用タイヤの部分断面図である。
【0019】
本発明の多目的スポーツ車(SUV)用タイヤは、図2に示すように、サイドウォール11、タイヤクリンチ12、ビードコア13、ビードエイペックス14、インナーライナー15、ベルト16およびトレッド17などのタイヤ部材で構成され、その一般的な態様は図1で説明したとおりである。また、同多目的スポーツ車(SUV)用タイヤ半径方向の内端は、金属製のリム18に接触することができる。
【0020】
図2に示すように、多目的スポーツ車(SUV)用タイヤにおいては、タイヤ部材の中でもサイドウォール11およびビードエイペックス14の体積の占める割合が高いことから、タイヤ部材としてサイドウォール11およびビードエイペックス14の特性が成型タイヤの特性に与える影響は大きい。
【0021】
多目的スポーツ車(SUV)用タイヤは、悪路走行時ではショック吸収性、急ハンドル旋回性が期待される一方、良路走行時では良好な乗り心地、寒冷下での駐車時から走行を開始した際のスムースな乗り心地(Flat Spot性)などの特性が求められる。そこで、多目的スポーツ車(SUV)用タイヤのサイドウォール11およびビードエイペックス14には、永久変形(例えば、寒冷下でのセット変形)からの早期回復(例えば、タイヤ温度70℃、30分程度で通常回復できること)、および急ハンドル時での応答性(例えば、剛性(E*)が高い)などの特性が求められる。
【0022】
本発明のビードエイペックス用ゴム組成物は、ジエン系ゴム、フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂、硫黄、加硫促進剤ならびに加硫促進補助剤を含有する。
【0023】
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴム成分があげられる。これらのジエン系ゴムは、とくに制限はなく、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
フェノール樹脂としては、とくに制限されるわけではないが、フェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類を酸またはアルカリ触媒で反応させることにより得られるものなどがあげられる。
【0025】
変性フェノール樹脂としては、例えばカシューオイル、トールオイル、アマニ油、各種動植物油、不飽和脂肪酸、ロジン、アルキルベンゼン樹脂、アニリン、メラミンなどを使って変性したフェノール樹脂などがあげられる。
【0026】
フェノール樹脂または変性フェノール樹脂としては、硬度(Hs)を向上できるという理由から、変性フェノール樹脂が好ましく、カシューオイル変性フェノール樹脂またはロジン変性フェノール樹脂が好ましい。
【0027】
フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂の含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して5重量部以上、好ましくは7重量部以上である。フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂の含有量が5重量部未満では、充分なHsが得られない。また、フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂の含有量は25重量部以下、好ましくは20重量部以下である。フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂の含有量が25重量部をこえると、破断強度が低下する。
【0028】
本発明で使用される硫黄としては、加工中にブルームの発生を抑えることができ分散性に優れるという理由から、オイル処理した不溶性硫黄が好ましく、具体的には、フレキシス製のクリステックスHSOT20、三新化学工業(株)製のサンフェルEXなどがあげられる。
【0029】
ここで、不溶性硫黄とは、例えば二硫化炭素やゴム状炭化水素などに不溶の硫黄のことであるが、本発明でいう不溶性硫黄とは特に二硫化炭素に不溶な成分が80%以上の高分子量の硫黄のことをいう。また、二硫化炭素に不溶な成分が90%以上の高分子量の硫黄であってもよい。なお、不溶な成分が60%以上の硫黄もあるが、ジエン系ゴム100重量部に対して3重量部以上を配合するとブルームするため、本願発明に対しては好ましくない。
【0030】
硫黄の含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して5.1重量部以上、好ましくは5.25重量部以上である。硫黄の含有量が5.1重量部未満では、充分な硬度(Hs)が得られない。また、硫黄の含有量は7.0重量部以下、好ましくは6.5重量部以下である。硫黄の含有量が7.0重量部をこえると、加工中にブルームして、ゴムの粘着性が低下し、タイヤ成型時、ビードエイペックスが隣接するケースと密着せず、タイヤ内部に気泡が発生する(ポロシティー)等の不具合の原因となる。また、加硫中にも、表面にブルームし、加硫ゴムの硬度(Hs)に不均一が生じてしまう。なお、硫黄として不溶性硫黄を含有する場合、硫黄の含有量とは、不溶性硫黄中のオイル分を除いた硫黄の含有量を表す。
【0031】
加硫促進剤としては、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ならびにスルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤を含有する。
【0032】
ヘキサメチレンテトラミン(HMT)の含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して0.5重量部以上、好ましくは1.0重量部以上である。HMTの含有量が0.5重量部未満では、メチレン発生量が充分ではなく、フェノールの架橋反応が充分ではなく、Hsが低下する。また、HMTの含有量は2.5重量部以下、好ましくは2.0重量部以下である。HMTの含有量が2.5重量部をこえると、フェノールの架橋反応が飽和に達し、副生成分であるアンモニアが、ゴム焼け(スコーチ時間の短縮)の原因となる。
【0033】
ここで、本発明でいうゴム焼けとは、ゴムをバンバリーミキサーで混練り後、ゴムを押し出し成型加工する際に、押し出し生地にゴム焼けの塊が所々発生することや押し出し機の筒内に焼けゴムが溜まってくっつくことなどを意味する。スコーチ時間とは、所定の温度(本願では、例えば130℃の条件)で、ゴムの応力トルクが10%上昇するまでの時間(本願では、T10と記す)を意味する。そして、スコーチ時間とゴム焼けとの間には、スコーチ時間が短いとゴム焼けが生じ易いという関係がある。
【0034】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業(株)製のノクセラーNSなど)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZなど)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZなど)、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業(株)製のノクセラーMSA−Gなど)、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DPBS)などがあげられる。なかでも、スコーチが安定し、優れた加硫物性が得られるという理由から、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドおよびN,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが好ましい。
【0035】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール(大内新興化学工業(株)製のノクセラーMなど)、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(大内新興化学工業(株)製のノクセラーDMなど)、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール(大内新興化学工業(株)製のノクセラーMDBなど)、2−(N,N−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール(大内新興化学工業(株)製のノクセラー64など)などがあげられる。なかでも、適度なゴム加硫速度が得られるという理由から、2−メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0036】
スルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して2.0重量部以上、好ましくは2.5重量部以上である。スルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の含有量が2.0重量部未満では、充分なHsが得られない。また、スルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の含有量は5.0重量部以下、好ましくは4.5重量部以下である。スルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の含有量が5.0重量部をこえると、スコーチ時間が短くなり過ぎて、ゴム焼けの原因となる。
【0037】
加硫促進剤としてヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ならびにスルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の合計含有量は、必要な高度(Hs)を発現させることができるという理由から、ジエン系ゴム100重量部に対して3.5重量部以上が好ましく、4.0重量部以上がより好ましく、5.0重量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤としてヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ならびにスルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の合計含有量は、スコーチ時間を加工限界にする(すなわち、スコーチ時間を長くする)ことができるという理由から、ジエン系ゴム100重量部に対して7.5重量部以下が好ましく、7.0重量部以下がより好ましい。
【0038】
加硫促進剤としては、HMT、スルフェンアミド系加硫促進剤およびチアゾール系加硫促進剤以外にも、例えば、ジフェニルグアニジンなどのグアニジン系、ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)、ヘキサメトキシメチロールパンタメチルエーテル(HMMPME)などがあげられるが、フェノール樹脂の架橋と硫黄架橋とをともに行う(促進する)ことができ、適度な加工性(スコーチ時間)を得ることができるという理由から、HMT、ならびにスルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤が最適である。
【0039】
本発明では、加硫促進補助剤として、シトラコンイミド化合物、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、有機チオスルフェート化合物および下記一般式
1−S−S−A−S−S−R2
(式中Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R1およびR2は、それぞれ独立にチッ素原子を含む1価の有機基を示す。)
で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0040】
加硫促進補助剤として、スコーチ時間に影響しないという理由から、シトラコンイミド化合物を使用することが好ましい。
【0041】
シトラコンイミド化合物としては、熱的に安定であり、ゴム中への分散性に優れるという理由から、ビスシトラコンイミド類が好ましい。具体的には、1,2−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン、1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン、1,4−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン、1,6−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン、2,3−ビスシトラコンイミドメチルトルエン、2,4−ビスシトラコンイミドメチルトルエン、2,5−ビスシトラコンイミドメチルトルエン、2,6−ビスシトラコンイミドメチルトルエン、1,2−ビスシトラコンイミドエチルベンゼン、1,3−ビスシトラコンイミドエチルベンゼン、1,4−ビスシトラコンイミドエチルベンゼン、1,6−ビスシトラコンイミドエチルベンゼン、2,3−ビスシトラコンイミドエチルトルエン、2,4−ビスシトラコンイミドエチルトルエン、2,5−ビスシトラコンイミドエチルトルエン、2,6−ビスシトラコンイミドエチルトルエンなどがあげられる。なかでも、熱的に特に安定であり、ゴム中への分散性に特に優れ、高硬度(Hs)のゴム組成物を得ることができる(リバージョン制御)という理由から、1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼンが好ましい。
【0042】
1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼンとは、下記化学式で表されるものである。
【0043】
【化3】

【0044】
加硫促進補助剤として、より高硬度(Hs)のゴム組成物を得ることができるという理由から、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を使用することが好ましい。
【0045】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とは、下記化学式で表されるものである。
【0046】
【化4】

(式中、nは0または1〜10の整数であり、Xは2〜4の整数であり、Rは炭素数5〜12のアルキル基である)
【0047】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム中への分散性が良いという理由から、nは、0また1〜10の整数が好ましく、1〜9の整数がより好ましい。
【0048】
高硬度を効率よく発現させることができる(リバージョン抑制)という理由から、Xは、2〜4の整数が好ましく、Xは2であることがより好ましい。また、Xが4を超えると熱的に不安定となる傾向がある、Xが1であるとアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物中の硫黄含有率(硫黄の重量)が少ない。
【0049】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム中への分散性が良いという理由から、Rは、炭素数5〜12のアルキル基であることが好ましく、炭素数6〜9のアルキル基であることがより好ましい。
【0050】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の具体例として、nが0〜10、Xが2、RがC817のアルキル基であり、硫黄含有率が24重量%である田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(下記化学式)
【0051】
【化5】

があげられる。
【0052】
加硫促進補助剤として、高硬度(Hs)を得られる(リバージョン抑制)という理由から、下記一般式で表される有機チオスルフェート化合物を使用することが好ましい。
【0053】
MO3S−S−(CH2m−S−SO3
(式中、mは3〜10の整数であり、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトである。また、化合物は親水性であり、結晶水を含有していてもよい。)
【0054】
mは3〜10の整数が好ましく、3〜6の整数がより好ましい。mが2以下では、充分な耐熱疲労性が得られない傾向があり、mが11以上では、分子量が増大するわりに耐熱疲労性の改善効果が小さい傾向がある。
【0055】
Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトが好ましく、カリウムまたはナトリウムが好ましい。
【0056】
また、化合物は、分子内に結晶水を含んでいてもよい。
【0057】
本発明で使用することができる有機チオスルフェート化合物としては、常温、常圧下では、水和物が安定であるという性質から、具体的にナトリウム塩1水和物、ナトリウム塩2水和物などをあげることができ、塩化ナトリウム(NaCl)が安価であるなど経済的理由から、チオ硫酸ナトリウムからの誘導体、例えば1,6−ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物が好ましい。
【0058】
1,6−ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物とは、下記化学式で表されるものである。
【0059】
【化6】

【0060】
本発明で使用できる加硫促進補助剤としては、上記3種以外にも、ゴム中へ良く分散し、硫黄の供給が可能であること、あるいはアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の−Sx−架橋の中間に挿入されて、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とのハイブリッド架橋を形成することが可能であるという理由から、下記一般式
1−S−S−A−S−S−R2
(式中Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R1およびR2は、それぞれ独立にチッ素原子を含む1価の有機基を示す。)
で表される化合物を使用することが好ましい。
【0061】
Aは、アルキレン基が好ましい。アルキレン基としては、直鎖状、枝分かれ状、環状のものがあげられ、とくに制限はなく、いずれも使用することができるが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。
【0062】
Aの炭素数は2〜10が好ましく、4〜8がより好ましい。Aの炭素数が1以下では、熱的な安定性が悪く、S−S結合から得られるメリットが得られない傾向がある。また、Aの炭素数が11以上では、加硫促進補助剤を介したポリマー間の距離がS8架橋鎖以上の長さとなってしまい、該加硫促進補助剤が−Sx−に置換して、置き換わることが難しく、架橋が進行せず、加硫促進補助剤を添加する効果が得られない傾向がある。ここで−Sx−のxは8以下(つまり1〜8)の整数を意味する。
【0063】
上記条件を満たすアルキレン基(A)としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などがあげられる。なかでも、加硫促進補助剤を介したポリマー間の硫黄架橋にスムーズに−Sx−(x=2〜8)と置換し、熱的にも安定であるという理由から、アルキレン基(A)はヘキサメチレン基が好ましい。
【0064】
1およびR2としては、それぞれ独立にチッ素原子を含む1価の有機基が好ましく、芳香環を少なくとも1つ含むものがより好ましく、炭素原子がジチオ基に結合した=N−C(=S)−で表される結合基を含むものがさらに好ましい。
【0065】
1およびR2は、それぞれ同一でも、異なっていてもよいが、製造の容易さなどの理由から、同一であることが好ましい。
【0066】
上記条件を満たす化合物としては、例えば、1,2−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)エタン、1,3−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)プロパン、1,4−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ブタン、1,5−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ペンタン、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、1,7−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘプタン、1,8−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)オクタン、1,9−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ノナン、1,10−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)デカンなどがあげられる。なかでも、熱的に安定であり、ゴム中への分散性に優れるという理由から、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンが好ましい。
【0067】
下記一般式
1−S−S−A−S−S−R2
(式中Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R1およびR2は、それぞれ独立にチッ素原子を含む1価の有機基を示す。)
で表される市販の化合物としては、例えばバイエル(BAYER)社製のVULCUREN TRIAL PRODUCT KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)がある。
【0068】
上記の4種の加硫促進補助剤のなかでも、分子構造中に硫黄を含有しないため、熱的に安定であり、さらに、架橋の際に硫黄を放出することなく、初期加硫速度を過度にはやくすることがないという理由から、1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼンが好ましい。また、ベンゼン環とC817分岐鎖(アルキル基)の効果で、ゴム組成物中への分散性が良好であり、硫黄の放出も可能であり、超高硬度(Hs)が得られるという理由から、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物が好ましい。
【0069】
加硫促進補助剤の含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して0.1重量部以上、好ましくは0.25重量部以上である。加硫促進補助剤の含有量が0.1重量部未満では、十分な硬度が得られない。また、加硫促進補助剤の含有量は5重量部以下、好ましくは4重量部以下である。加硫促進補助剤の含有量が5重量部をこえると、加硫促進剤をブーストしゴム架橋を促進し、架橋網目が密になり、硬度を出す効果が飽和する。その結果、硬度が上昇せず、スコーチ時間のみが短くなる。
【0070】
なお、加硫促進補助剤としてシトラコンイミド化合物、有機チオスルフェート化合物またはR1−S−S−A−S−S−R2で表される化合物を含有する場合、含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して、0.5〜5.0重量部が好ましく、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含有する場合、スコーチ時間が短くなる傾向があるので、含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して、0.5〜3.0重量部が好ましい。
【0071】
加硫促進補助剤としては、シトラコンイミド化合物、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、有機チオスルフェート化合物およびR1−S−S−A−S−S−R2で表される化合物以外にも、例えば、フレキシス社製のテトラベンジルチウラムジサルファイド(TBZTD)などがあげられるが、硫黄の含有量が非常に多く、加硫速度がはやくなってしまうため、含まないことが好ましい。
【0072】
なお、加硫促進補助剤として、ゴム工業で通常使用される老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛などは必要に応じて適宜含有することができる。
【0073】
本発明では、前記ジエン系ゴム、フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂、硫黄、所定の加硫促進剤ならびに所定の加硫促進助剤を所定量含有することにより、加硫工程における加硫速度を最適化させることで押出し加工性を向上させ、さらに、剛性および低燃費性を向上させることができる。
【0074】
本発明のビードエイペックス用ゴム組成物には、前記ジエン系ゴム、フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂、硫黄、加硫促進剤ならびに加硫促進剤以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、石炭灰、クレー、マイカなどの充填剤、シランカップリング剤、N−シクロヘキシルチオ−フタルアミド(CTP)などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0075】
初期歪10%および動歪2%の条件下にて測定した70℃における本発明のビードエイペックス用ゴム組成物の複素弾性率(E*)は15MPa以上が好ましく、20MPa以上がより好ましい。本発明のビードエイペックス用ゴム組成物のE*が15MPa未満では、充分な操縦安定性およびハンドル応答性が得られない傾向がある。また、本発明のビードエイペックス用ゴム組成物のE*は60MPa以下が好ましく、55MPa以下がより好ましい。本発明のビードエイペックス用ゴム組成物のE*が60MPaをこえると、破断時伸び(EB)が小さくなり、縁石ダメージやリム組み時の変形などにより破損する傾向がある。
【0076】
本発明のビードエイペックスから構成される乗用車タイヤの部分断面図である図1により説明すると、ビードエイペックス4は、ビードコア3から半径方向外側にのびるように、タイヤクリンチ2の内側に配されるゴム部であり、トルクはリム8、タイヤクリンチ2、ビードエイペックス4、インナーライナー5の順に伝達され、操縦時のハンドル切れによる応答性(操縦安定性)を出す役割がある。
【0077】
本発明のビードエイペックス用ゴム組成物は、粘弾性(剛性)(E*)が高く、転がり抵抗(tanδ)が低いという理由から、タイヤ部材のなかでも、ビードエイペックスに用いることを考慮したゴム組成物である。
【0078】
本発明のタイヤ(乗用車用タイヤおよび多目的スポーツ車(SUV)用タイヤ)は、本発明のビードエイペックス用ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、必要に応じて前記配合剤を配合した本発明のゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのビードエイペックスの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0079】
図3は、乗用車用タイヤにおいて、セクションの高さに対する本発明のビードエイペックスの高さの比を模式的に表した図である。図3では、乗用車用タイヤのセクションの高さBに対する本発明のビードエイペックス4の高さAを模式的に示している。
【0080】
図4は、多目的スポーツ車(SUV)用タイヤにおいて、セクションの高さに対する本発明のビードエイペックスの高さの比を模式的に表した図である。図4では、多目的スポーツ車(SUV)用タイヤのセクションの高さDに対する本発明のビードエイペックス14の高さCを模式的に示している。
【0081】
多目的スポーツ車(SUV)用タイヤは、寒冷地で駐車時にビードエイペックスに永久変形が蓄えられ易く、Flat Spot振動を発生させ易い性質があり、急ハンドル時の応答性を要求される。そこで、剛性、耐久性および操縦安定性を向上させた本発明のビードエイペックス用ゴム組成物を用いたビードエイペックスは、セクションの高さに対するビードエイペックスの高さの比が大きく、タイヤ部材のなかでも、相対的にビードエイペックスが重要である多目的スポーツ車(SUV)用タイヤに用いることが好ましい。
【0082】
なお、本発明では、セクションの高さに対するビードエイペックスの高さの比は乗用車用タイヤにおいては図3のA/Bの値、多目的スポーツ車(SUV)用タイヤにおいては図4のC/Dの値を意味する。
【0083】
図5は、本発明のビードエイペックス用ゴム組成物を乗用車用タイヤのストリップエイペックスに使用した乗用車タイヤの部分断面図である。
【0084】
本発明のビードエイペックス用ゴム組成物は、剛性に優れることから、図5に示されるように、ビードエイペックス21の先端で、サイドウォール22とインナーライナー23に接する部分に、貼り付けたストリップエイペックス24(例えば、厚さ1mmシート)に用いるゴム組成物として好ましく用いることができる。
【0085】
また、本発明のビードエイペックス用ゴム組成物は、剛性に優れることから、レース用タイヤのインナーライナー用ゴム組成物としても、好ましく用いることができる。
【実施例】
【0086】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0087】
以下、実施例および比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
天然ゴム(NR):RSS#3
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550
シリカ:ローディア社製の115GR
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
変性フェノール樹脂:住友ベークライト(株)製のPR12686(カシューオイル変性フェノール樹脂)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日本油脂(株)製
硫黄:フレキシス社製のクリステックスHSOT20(硫黄80重量%およびオイル分20重量%含む不溶性硫黄。硫黄成分のうち、不溶性硫黄分は90%以上であり、可溶性硫黄分は10%以下である。)
加硫促進補助剤(1):フレキシス社製のPERKALINK900(1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン)
【化7】

加硫促進補助剤(2):田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、n:0〜10、X:2、R:C817のアルキル基、硫黄含有率:24重量%)
【化8】

加硫促進補助剤(3):フレキシス社製の1,6−ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物
【化9】

加硫促進補助剤(4):バイエル(BAYER)社製のVULCUREN TRIAL PRODUCT KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーH(ヘキサメチレンテトラミン、HMT)
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
N−シクロヘキシルチオ−フタルアミド(CTP):大内新興化学工業(株)製のCTP
【0088】
実施例1〜6および比較例1〜7
表1に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、硫黄、加硫促進補助剤(1)〜(4)、加硫促進剤(1)および(2)、およびN−シクロヘキシルチオ−フタルアミド(CTP)以外の薬品を混練りし、混練り物を得た。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄、加硫促進補助剤(1)〜(4)、加硫促進剤(1)および(2)、およびCTPを添加して混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、実施例1〜6および比較例1〜7の加硫ゴム組成物を作製した。
【0089】
なお、表1に示すように、実施例1では加硫促進補助剤(1)を2.5重量部、実施例2では加硫促進補助剤(2)を1.6重量部、実施例3では加硫促進補助剤(3)を2.5重量部、実施例4では加硫促進補助剤(1)を1.25重量部および加硫促進補助剤(2)を0.8重量部、実施例5では、加硫促進補助剤(4)を2.5重量部、実施例6ではシリカおよびシランカップリング剤を配合させない条件下で加硫促進補助剤(1)を2.5重量部含有しているが、これらはすべて同一の架橋密度となるように、含有量を調整した。ここで、本発明でいう同一の架橋密度とは、得られるゴム組成物の架橋密度が同一であることをいうが、架橋密度が同一であると膨潤度(Swell)、硬度(Hs)、複素弾性率(E*)などの性質もほぼ同一になることを意味する。
【0090】
(初期加硫速度)
JIS K6300「未加硫ゴム−物理特性−第1部:ムーニー粘度計による粘度およびスコーチタイムの求め方」に準じた。
【0091】
JIS K6300記載の「ムーニー・スコーチ試験」において、測定温度130℃とし、L形ローターを用いて、前記未加硫ゴム組成物(加硫可能なゴム配合)のムーニー粘度が、10M(Mはムーニー粘度を示す)単位まで上昇するまでの時間(ムーニー・スコーチ時間、t10とする)を求めた。なお、ムーニー・スコーチ時間(分)を測定するにあたり、ムーニー粘度と時間の関係を表すM−時間曲線(単位:分)を作成した。
【0092】
ムーニー・スコーチ時間(分)は、常温のゴムシートを押し出し機に投入し、熱入れされ、流動性が増し、ゴム焼けが発生せずに所望する形状に出ることが必要であり、排出時にはゴムは130℃付近に達する、ゴム押し出し機中での溜流時間を長めに確保できるという理由から、7.0分以上であることが必要であり、であり、7.0分以上であれば、加工可能であることを示す。また、ムーニー・スコーチ時間(分)は、タイヤ生カバーとして成形後、金型で加硫する際、生焼け(架橋不完全)が発生しないという理由から、30分以下であることが必要である。
【0093】
(粘弾性試験)
粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、初期歪10%および動歪2%の条件下で、70℃における加硫ゴム組成物の複素弾性率(E*)および損失正接(tanδ)を測定した。なお、E*が大きいほど剛性が高く、操縦安定性が優れることを示す。また、tanδが小さいほど低燃費性に優れることを示す。
【0094】
(操縦安定性)
前記未加硫ゴム組成物をビードエイペックスの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、多目的スポーツ車用タイヤ(SUV用タイヤ、サイズ:P265/65R17 110S)を製造した。
【0095】
また、前記未加硫ゴム組成物をビードエイペックスの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、乗用車用タイヤ(サイズ:195/65R15 91S)を製造した。
【0096】
製造したSUV用タイヤを装着した多目的スポーツ車(SUV:トヨタ ランドクルーザープラド)および製造した乗用車用タイヤを装着した乗用車(トヨタ ノア)により、テストコースを走行し、操縦安定性およびハンドル応答性についての官能試験を実施した。そして、比較例1の操縦安定性およびハンドル応答性を5と基準として、そのほかの操縦安定性およびハンドル応答性を6点満点で評価した。なお、点数が高いほど、操縦安定性およびハンドル応答性が良好であることを示し、5+とは、5より優れ、6より劣ることを示す。
【0097】
(転がり抵抗)
(株)神戸製鋼所製の転がり抵抗試験機を用い、製造したSUV用タイヤを、荷重30N、タイヤの内圧200kPa、速度80km/時間の条件下で走行させて、転がり抵抗を測定した。そして、下記計算式により、比較例1を基準(±0)とし、各配合の転がり抵抗変化率(%)を指数で表示した。なお、転がり抵抗変化率が小さいほど、転がり抵抗が低減され、好ましいことを示し、具体的には、マイナスであることが好ましい。
(転がり抵抗変化率)=(各配合の転がり抵抗−比較例1の転がり抵抗)
÷(比較例1の転がり抵抗)×100
【0098】
<室内耐久ドラム試験>
JIS規格の最大荷重(最大内圧条件)の230%荷重の条件で、SUV用タイヤを速度20km/hでドラム走行させ、ビードエイペックス部の膨れ発生までの走行距離を測定した。比較例1の走行距離の測定値を100として指数表示し、それぞれ指数表示した(室内耐久ドラム指数)。数値が大きいほど、耐久性が優れ、良好であることを示す。
(室内耐久ドラム指数)=(各配合の走行距離)
÷(比較例1の走行距離)×100
【0099】
上記試験の評価結果を表1および2に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明のビードエイペックスから構成される乗用車タイヤの部分断面図である。
【図2】本発明のビードエイペックスから構成される多目的スポーツ車(SUV)用タイヤの部分断面図である。
【図3】乗用車用タイヤにおいて、セクションの高さに対する本発明のビードエイペックスの高さの比を模式的に表した図である。
【図4】多目的スポーツ車(SUV)用タイヤにおいて、セクションの高さに対する本発明のビードエイペックスの高さの比を模式的に表した図である。
【図5】本発明のビードエイペックス用ゴム組成物を乗用車用タイヤのストリップエイペックスに使用した乗用車タイヤの部分断面図である。
【符号の説明】
【0103】
1、11、22 サイドウォール
2、12 タイヤクリンチ
3、13 ビードコア
4、14、21 ビードエイペックス
5、15、23 インナーライナー
6、16 ベルト
7、17 トレッド
8、18 リム
24 ストリップエイペックス
A ビードエイペックスの高さ
B セクションの高さ
C ビードエイペックスの高さ
D セクションの高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、
フェノール樹脂および/または変性フェノール樹脂を5〜25重量部、
硫黄を5.1〜7.0重量部、
ヘキサメチレンテトラミンを0.5〜2.5重量部、
スルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤を2.0〜5.0重量部、ならびに
シトラコンイミド化合物、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、有機チオスルフェート化合物および下記一般式
1−S−S−A−S−S−R2
(式中Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R1およびR2は、それぞれ独立にチッ素原子を含む1価の有機基を示す)
で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の加硫促進補助剤を0.1〜5重量部含有するビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項2】
ジエン系ゴム100重量部に対して、
ヘキサメチレンテトラミン、ならびにスルフェンアミド系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の合計含有量が3.5〜7.5重量部である請求項1記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項3】
加硫促進補助剤が、シトラコンイミド化合物および/または下記化学式
【化1】

(式中、nは0または1〜10の整数であり、Xは2〜4の整数であり、Rは炭素数5〜12のアルキル基である)
で表されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物である、請求項1または2記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項4】
シトラコンイミド化合物が、下記化学式
【化2】

で表される1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼンである、請求項1、2または3記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載のビードエイペックス用ゴム組成物を用いたビードエイペックスを有するタイヤ。
【請求項6】
請求項1、2、3または4記載のビードエイペックス用ゴム組成物を用いたビードエイペックスを有する多目的スポーツ車用タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−38140(P2008−38140A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170191(P2007−170191)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】