ピアシングを行うレーザ加工方法及びレーザ加工装置
【課題】ワークのセルフバーニングを回避するための加工条件(レーザ出力等)に制約されることなく、ピアシングに要する時間を短縮する。
【解決手段】第1工程では、ワークWの表面WFから焦点FPを離隔させた状態でレーザ光LBをワーク表面WFに照射して、ワークWに、表面WFに開口する筒状内周面21a及び底面21bを有する有底孔21を形成する。第2工程では、有底孔21の内側にアシストガスAGを吹き付ける一方で開口21cの周辺域Sにはアシストガスを吹き付けないようにしながら、有底孔の底面21bにレーザ光を照射して、ワークWを貫通する貫通穴を形成する。有底孔21から流出するアシストガスAGは、周辺域Sに沿って流れないから、有底孔内でセルフバーニングが発生したとしてもワーク表面WFへは延焼しない。第2工程のレーザ光の出力は、セルフバーニングの発生を回避する上限に制限されず、ピアシングに要する時間が短縮される。
【解決手段】第1工程では、ワークWの表面WFから焦点FPを離隔させた状態でレーザ光LBをワーク表面WFに照射して、ワークWに、表面WFに開口する筒状内周面21a及び底面21bを有する有底孔21を形成する。第2工程では、有底孔21の内側にアシストガスAGを吹き付ける一方で開口21cの周辺域Sにはアシストガスを吹き付けないようにしながら、有底孔の底面21bにレーザ光を照射して、ワークWを貫通する貫通穴を形成する。有底孔21から流出するアシストガスAGは、周辺域Sに沿って流れないから、有底孔内でセルフバーニングが発生したとしてもワーク表面WFへは延焼しない。第2工程のレーザ光の出力は、セルフバーニングの発生を回避する上限に制限されず、ピアシングに要する時間が短縮される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法及びレーザ加工装置に関し、特に、レーザ切断に先立ってワークの切断開始点に貫通穴を形成するためのピアシングを行うレーザ加工方法及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工の一種であるレーザ切断は、一般に、レーザ光の熱によりワークを溶融し、アシストガスの吹き付けによりワークの溶融物を除去していくことで行われる。レーザ光の熱に加えてワークの燃焼熱を利用するために、アシストガスに高純度酸素を使用する場合もある。切断の開始に際しては、アシストガスの吹き付けにより、レーザ光を照射するワークの表面とは反対側の裏面からワークの溶融物を円滑に除去できる状態にあることが望ましい。そこで、レーザ切断において、切断の開始に先立ち、ワークの切断開始点に貫通穴を形成するためのいわゆるピアシングを行うことが知られている(例えば特許文献1〜4参照)。
【0003】
特許文献1には、レーザ光の焦点をワークの表面から所定距離だけ離した状態で穴明け時の設定値よりも高いレーザ出力とアシストガス圧とでワークの表面に凹所を形成する第1ステップと、次いで焦点をワークの内部に入り込む方向へ所定量移動させた状態で第1ステップより低いレーザ出力とアシストガス圧とで穴明けを行う第2ステップとからピアッシングを行うレーザ加工方法が記載されている。第1ステップで、ワークの表面に大径でかつ浅い凹所を瞬時に形成し、第2ステップで、凹所の底部から連続して穴明けを行うことで、アシストガスを凹所に効率よく供給し、ピアッシングを安定して良好に行うことができる、と説明されている。また、第2ステップでは、ギャップ量を徐々に減少させながら、ワークの表面に爆発を生じない程度に第1ステップより低く設定されたレーザ出力及びアシストガス圧でレーザ光を照射する、と説明されている。
【0004】
特許文献2には、第1のピアシング条件にてレーザビームを被加工物に照射しピアシング加工を行う第1の工程と、第1の工程後、レーザビームの照射を0.5秒以上停止する第2の工程と、第2の工程後、第1の工程にて加工した部分に第2のピアシング条件にてレーザビームを照射しピアシング加工を完了する第3の工程とを備えたレーザ加工方法が記載されている。第1の工程で選択された第1のピアシング条件により、被加工物の板厚の途中までピアシング穴が形成され、続く第2の工程にてビーム照射が一旦停止することから、途中まで進行した酸化燃焼反応は遮断され、続く第3の工程でレーザビームが再度照射されるが、余剰な入熱が存在しないため、小径のピアシング穴を形成でき、以って、スパッタ量を減らすとともに加工時間を短縮できる、と説明されている。また、第1の工程で第1のピアシング加工前にスパッタ付着防止剤を噴射し、第2の工程でエアー及びスパッタ付着防止剤を噴射し、第3の工程で第2のピアシング加工後にエアーを噴射することにより、ピアシング穴周囲のスパッタの残存、固着を効果的に防止できる、と説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3110504号公報(請求項1、0012、0017)
【特許文献2】特開2007−75878号公報(請求項1、0016、0029〜0031)
【特許文献3】特開平7−9175号公報
【特許文献4】特開平10−323781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のレーザ加工方法では、第1ステップで形成した大径で浅い凹所の底部に対し、第2ステップで、ワークの表面に爆発を生じない程度に第1ステップよりも低く設定したレーザ出力及びアシストガス圧で穴明けを行っているから、ピアシングに要する時間を短縮することが困難である。特許文献2に記載のレーザ加工方法では、加工時間の短縮効果が得られているが、ピアシング穴周囲にスパッタが残存し固着する傾向があるのでそれを防止する手立てが提供されており、しかも冷却のための第2の工程を要することから加工時間の短縮効果が限定的なものとなる。
【0007】
ピアシングを行うレーザ加工方法及びレーザ加工装置においては、加工点の過熱や加工点周辺に付着する残留溶融物に起因したワークの持続的燃焼(いわゆるセルフバーニング)を回避するための加工条件(レーザ出力等)に制約されることなく、ピアシングに要する時間を短縮することが所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ワークの表面から焦点を離隔させた状態でレーザ光を該表面に照射して、該ワークに、該表面に開口する筒状内周面及び底面を有する有底孔を形成する第1工程と、前記有底孔の開口の内側にアシストガスを吹き付ける一方で該開口の周辺域には該アシストガスを吹き付けないようにしながら、前記有底孔の前記底面にレーザ光を照射して、前記ワークを貫通する貫通穴を形成する第2工程と、を具備することを特徴とするレーザ加工方法である。
【0009】
本発明の他の態様は、レーザ発振器から出射されたレーザ光を集光してワークに照射するとともに該ワークにアシストガスを吹き付ける加工ヘッドと、前記加工ヘッドの動作を制御する制御部であって、前記ワークの表面から焦点を離隔させた状態で前記レーザ光を該表面に照射して、該ワークに、該表面に開口する筒状内周面及び底面を有する有底孔を形成する第1工程と、前記有底孔の開口の内側に前記アシストガスを吹き付ける一方で該開口の周辺域には前記アシストガスを吹き付けないようにしながら、前記有底孔の前記底面に前記レーザ光を照射して、前記ワークを貫通する貫通穴を形成する第2工程とを制御する制御部と、を具備することを特徴とするレーザ加工装置である。
【発明の効果】
【0010】
一態様によるレーザ加工方法及び他の態様によるレーザ加工装置によれば、第1工程で形成した特徴的形状の有底孔に対し、第2工程において、有底孔の開口の内側のみにアシストガスを吹き付けるようにすることで、有底孔の開口の周辺域が、アシストガスに曝されなくなる。したがって、第2工程において、セルフバーニングを回避するための上限値に加工条件(レーザ出力等)を制限することなく貫通穴を形成でき、以って、ピアシングに要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態によるレーザ加工装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】一実施形態によるレーザ加工方法の第1工程を説明する図で、ワークに対して加工ノズルを位置決めした準備状態を概略的に示す。
【図3】同第1工程を説明する図で、ワークの表面にレーザ光を照射する状態を概略的に示す。
【図4】同第1工程を説明する図で、ワークの表面に有底孔が形成される状態を概略的に示す。
【図5】一実施形態によるレーザ加工方法の第2工程を説明する図で、ワークに対して加工ノズルを位置決めした準備状態を概略的に示す。
【図6】同第2工程を説明する図で、有底孔の底面にレーザ光を照射する状態を概略的に示す。
【図7】同第2工程を説明する図で、ワークに貫通穴が形成される状態を概略的に示す。
【図8】第1工程における加工ノズルのギャップと有底孔の開口径及び加工時間との関係を示すグラフである。
【図9】第1工程における加工ノズルのギャップと有底孔の形状との関係を示す有底孔の写真及び断面図である。
【図10】第1工程におけるアシストガスの圧力と有底孔の加工時間との関係を示すグラフである。
【図11】第1工程におけるアシストガスの圧力と溶融物の付着との関係を示す写真である。
【図12】一実施形態によるレーザ加工方法と従来技術によるレーザ加工方法とを有底孔の形状で対比する図である。
【図13】第2工程における有底孔の開口径と周辺域の酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図14】第2工程における有底孔の深さと周辺域の酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図15】第2工程における加工ノズルのギャップと有底孔の周辺域の酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図16】第2工程におけるセルフバーニングの有無と平均貫通所要時間及びピアシング加工時間との関係を示す表である。
【図17】第2工程におけるレーザ光の焦点位置と平均貫通所要時間との関係を示す表である。
【図18】第1工程と第2工程との間でのレーザ光の照射停止時間と加工不良との関係を示す表である。
【図19】第2工程におけるレーザ光の出力と溶融物の付着との関係を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、一実施形態によるレーザ加工装置11の構成を概略的に示す。レーザ加工装置11は、レーザ発振器14から出射されたレーザ光LBを集光してワークWに照射するとともにワークWにアシストガスAGを吹き付ける加工ヘッド17と、加工ヘッド17の動作を制御する制御部16とを備えている。
【0013】
図示のように、レーザ加工装置11では、XYZの直交3軸の基準座標系が設定される。レーザ加工装置11は、ワークWを受け止める可動テーブル12と、可動テーブル12に対向して配置される加工ヘッド17と、加工ヘッド17の先端に装着される加工ノズル13と、レーザ光LBを出射して加工ヘッド17に供給できるレーザ発振器14と、加工ヘッド17の内部に装着されてレーザ光LBを集光する光学要素(図では集光レンズ15)とを備える。可動テーブル12は、例えばワークWの輪郭に沿ってワークWを受け止める枠体から形成される。
【0014】
図示構成では、可動テーブル12はX軸及びY軸に沿って移動することができ、加工ヘッド17は、加工ヘッド17に装着されている加工ノズル13及び集光レンズ15を伴って、Z軸に沿って移動することができる。こうして、可動テーブル12すなわちワークWと、加工ヘッド17すなわち加工ノズル13及び集光レンズ15とは、基準座標系において相対移動することができる。図示構成では、加工ノズル13は加工ヘッド17の先端に固定され、集光レンズ15は加工ヘッド17内でZ軸と平行な軸に沿って変位することができる。したがって図示構成では、加工ノズル13と集光レンズ15とを、Z軸上で各々独立して位置決めすることができる。なお、可動テーブル12(ワークW)と加工ヘッド17(加工ノズル13及び集光レンズ15)との上記相対移動、及び加工ノズル13と集光レンズ15との上記独立変位を実現するための機械構成は、上記構成に限定されず、他の様々な機械構成を選択できる。
【0015】
レーザ発振器14は、例えばCW(連続波)モード又はPW(パルス波)モードで、例えば光軸に直交する断面が円形のレーザ光LBを出射することができる。出射されたレーザ光LBは、加工ヘッド17の集光レンズ15によって集光され、焦点FPを形成するとともに、加工ノズル13の先端の開口18を通ってワークWに照射される。集光レンズ15のZ軸方向の変位に伴って、焦点FPもZ軸方向に変位する。すなわち、ワークWに対する焦点FPのZ軸方向の位置は、加工ヘッド17のZ軸移動及び加工ヘッド17内での集光レンズ15のZ軸変位によって決まる。
【0016】
加工ノズル13には、アシストガスAGを供給する供給源(図示せず)が接続される。アシストガスAGには、例えば99.95vol%以上の高純度の酸素が用いられる。アシストガスAGは、加工ノズル13内で所定の圧力となるように供給源から供給され、加工ノズル13の先端の開口(すなわちガス放出口)18からワークWに向かって吹き付けられる。図示構成では、レーザ光LBと加工ノズル13とは互いに同軸に配置され、両者の中心線CLは、Z軸に平行(すなわちワークWの表面WFに直角)に規定される。アシストガスAGは、レーザ光LBの中心線CLに沿ってワークWに吹き付けられ、ワークWの燃焼の促進や、レーザ光LBの照射により発生したワークWの溶融物の除去などに用いられる。
【0017】
レーザ加工装置11の制御部16は、数値制御(NC)装置の形態で用意される。制御部(NC装置)16は、レーザ発振器14のレーザ光LBの出力条件やオンオフの指令を作成する。また制御部(NC装置)16は、可動テーブル12、加工ノズル13及び集光レンズ15の移動指令を作成する。移動指令には、例えば、ワークWの加工点の割り出しデータ、並びに割り出し後の加工点に対応した可動テーブル12、加工ノズル13及び集光レンズ15の位置を示す座標値データが含まれる。また制御部(NC装置)16は、アシストガスAGの圧力やオンオフの指令を作成する。
【0018】
制御部(NC装置)16は、例えば記憶部(図示せず)に格納された加工プログラムを解析して、上述した種々の指令を作成する。加工プログラムには、ピアシングやワークWの切断加工に必要な情報が記述される。制御部(NC装置)16は、例えばレーザ光LBの出力条件や、可動テーブル12、加工ノズル13及び集光レンズ15の位置及び速度、その他の加工条件を表示する表示装置(図示せず)を備えることができる。表示装置には例えば液晶ディスプレイ(LCD)が用いられる。また、制御部(NC装置)16は、各種の加工条件やデータを入力する入力装置(図示せず)を備えることができる。入力装置には例えばキーボードやマウスが用いられる。
【0019】
次に図2〜図7を参照して、一実施形態によるレーザ加工方法を説明する。図示のレーザ加工方法は、例として図1のレーザ加工装置11によって実行されるものであり、制御部(NC装置)16による制御の下で、レーザ切断に先立ってワークWの切断開始点に貫通穴を形成するためのピアシングを行うものである。図2に示すように、加工対象のワークWを用意し、加工ノズル13の中心線CLが、ワークW上に設定される切断開始点を通るように、可動テーブル12(図1)によりワークWをXY平面内で指令位置に位置決めする。
【0020】
また、加工ノズル13と集光レンズ15(図1)とを、前述したように独立変位させて、Z軸上の第1指令位置にそれぞれ位置決めする。第1指令位置は、集光レンズ15を通してワークWに照射されるレーザ光LBの焦点FPが、ワークWの表面WFから予め定めた距離だけ離隔して配置される位置であり、また、加工ノズル13からアシストガスAGをワークWの表面WF上の加工点に吹き付けることができる位置である(図3)。一般に、加工ノズル13のZ軸方向の位置は、Z軸上の座標値ではなく、加工ノズル13の先端面13aとワークWの表面WFとの間の最短距離(すなわちギャップG)で表される相対値として指令される。
【0021】
次に、指令値としての所定の圧力で加工ノズル13に供給されたアシストガスAGを、加工ノズル13の先端の開口(ガス放出口)18からワークWの表面WFに吹き付ける。この状態で、レーザ加工装置11は以下の第1工程を実施する。
【0022】
第1工程の実施にあたって、レーザ発振器14は、指令された所定の出力条件でレーザ光LBを出射する。図3に示すように、ワークWの表面WFから離隔した位置で焦点FPを結んだ後のレーザ光LBは、ビーム径が徐々に拡大して、ワークWの表面WFに到達した時点で、焦点FPの位置に応じた所定直径の円形スポットを形成する。こうして、いわゆるデフォーカスされた状態で、レーザ光LBはワークWの表面WFに照射される。レーザ光LBの照射により、ワークWの表面WFの、レーザ光LBが照射されている円形スポット内が加熱され、溶融する。
【0023】
図4に示すように、レーザ光LBの照射により生じるワークWの溶融物22は、アシストガスAGにより吹き飛ばされ、加工点(円形スポット)から除去される。こうして、ワークWに、レーザ光LBの中心線CLを実質的中心軸として表面WFに一端で開口する筒状内周面21aと筒状内周面21aの他端を閉じる底面21bとを有する有底孔21を形成していく。前述のように、レーザ光LBはデフォーカスされた状態でワークWに照射されることから、ワークWの表面WFにおける単位面積あたりかつ単位時間あたりの加熱量、すなわちパワー密度は、レーザ光LBの焦点FPをワークWの表面WFに合わせてレーザ光LBを照射した場合と比較して、小さくなる。その結果、ワークWから発生する溶融物22は、レーザ光LBの焦点FPをワーク表面WFに合わせた場合に比べて、小粒でかつ単位時間当りの発生量が少なくなる。溶融物22は、アシストガスAGによって加工点(円形スポット)から除去された後、ワークWの表面WFの、加工点(円形スポット)から離れた位置に落下する。しかし、小粒かつ単位時間当り少量の溶融物22は、ワークWの表面WFに落下する前に殆どが凝固するから、ワークWの表面WFに付着して後段のレーザ加工(切断)に支障を来たすことはない。
【0024】
デフォーカスしたレーザ光LBによる有底孔21の形成は、レーザ光LBの焦点FPをワーク表面WFに合わせてレーザ光LBを照射した場合と比較して、スポット径の拡大の結果としてワークWの溶融除去部分の体積が大きくなるため、所定深さの有底孔21を形成するには、レーザ光LBの焦点FPをワーク表面WFに合わせた場合に比べて長い時間を要する。比較的大きなスポット径で比較的長い時間をかけて形成した有底孔21は、ワークWの表面WFに対して略垂直方向に切り立った筒状内周面21aを有するようになる。なお、ワークWの表面WFに形成される有底孔21の開口21cは、図示のように、表面WFに隣接して筒状内周面21aの直径が局部的に漸増することで縁が丸まって形成される場合がある。また有底孔21は、図示のように、底面21bに隣接して筒状内周面21aの直径が局部的に漸減することで形成された半球状の隅部を有する場合がある。
【0025】
ワークWの表面WFに有底孔21を形成した後、レーザ光LBの照射を停止し、第1工程が終了する。第1工程の終了後、後述する第2工程の実施に先立って、レーザ加工装置11は、第1工程における種々の設定の変更を実施する。例えば、ギャップG、レーザ光LBの出力条件、レーザ光LBの焦点FPの位置、及びアシストガスAGの圧力を変更する。この実施形態では、ワークWのXY平面上の位置は変更しない。なお、第1工程終了後の設定変更に際し、ワークWのXY平面上の位置を適当に変更することにより、第2工程における有底孔21の中でのアシストガスAGの流れ方向を適当に調整することもできる。
【0026】
図5に示すように、設定変更後は、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けるようにする一方で、ワークWの表面WFの、開口21cを取り囲む領域S(本明細書で周辺域Sと称する)には、アシストガスAGを吹き付けないようにする。例えば、加工ノズル13を有底孔21に可及的に接近させることで、確実に有底孔21の開口21cの内側のみにアシストガスAGを吹き付けることができる。この場合の加工ノズル13の位置(つまりギャップG)は、集光レンズ15(したがってレーザ光LBの焦点FP)の位置と共に、Z軸上の第2指令位置として指令される。或いは、第1工程で、加工ノズル13の開口(ガス放出口)18の直径よりも大きな開口径を有する有底孔21を形成することで、有底孔21の開口21cの内側のみにアシストガスAGを確実に吹き付けることができる。また、加工ノズル13の開口(ガス放出口)18の直径よりも有底孔21の開口径が小さい場合であっても、加工ノズル13が、例えば徐々に集束するガス流を吹き出すような構造を有することにより、有底孔21の開口21cの内側のみにアシストガスAGを吹き付けることができる。なお、有底孔21の開口径とは、開口21cの局部的に縁が丸まった部分を除いた、筒状内周面21aの開口端の直径を意味する。
【0027】
有底孔21の開口21cの内側に吹き付けられたアシストガスAGは、有底孔21の底面21bに衝突した後に筒状内周面21aに沿って流れ、その流れ方向を実質的に維持しながら有底孔21から流出する。このため、有底孔21から流出したアシストガスAGは、有底孔21の開口21cの周辺域Sに沿っては実質的に流れず、主としてワークWの表面WFから離れた空間領域を流れるようになる。これらの設定変更が完了した段階で、図示のレーザ加工方法は以下の第2工程に移行する。
【0028】
ここで、図示のレーザ加工方法は、第2工程の実施に先立って行う前述した設定変更作業に付随して、所定時間に渡りレーザ光LBの照射を一時的に停止する中間工程をさらに有することができる。中間工程を実施することにより、ギャップGの変更やアシストガスAGの圧力の変更に伴うアシストガスAGの流れの遷移を、第2工程の実施に先立ち確実に完了させて流れを安定させることができる。
【0029】
図6に示すように、第2工程では、第1工程の終了時に停止したレーザ光LBの照射を再開し、有底孔21の開口21cの内側にアシストガスAGを吹き付ける一方で開口21cの周辺域SにはアシストガスAGを吹き付けないようにしながら、有底孔21の底面21bにレーザ光LBを照射する。このとき、レーザ光LBの焦点FPを、有底孔21の底面21bに合わせるか、又は有底孔21の底面21bを越えてワークWの内部に合わせることができる。
【0030】
第2工程において、有底孔21の中で発生するワークWの溶融物22は、アシストガスAGによって有底孔21の開口21cから外部に吹き飛ばされる。その結果、有底孔21内でのワークWの溶融及び有底孔21からの溶融物22の除去が円滑に進み、最終的に図7に示すように、有底孔21がワークWの裏面WBまで延長されて、ワークWを貫通する貫通穴23が形成される。このようにして、ピアシングが完了する。
【0031】
ピアシングが完了した瞬間に、アシストガスAGはワークWの貫通穴23を通って裏面WBの開口23aから外部へ流出し、溶融物22はアシストガスAGによりワークWの裏面WBから外部に除去される。このようにして、ワークWの裏面WBからワークWの溶融物22を円滑に除去できる状態が確保されるので、貫通穴23を切断開始点としてレーザ切断を開始することができる。
【0032】
図示のレーザ加工方法では、第1工程で形成した特徴的形状の有底孔21に対し、第2工程において、有底孔21の開口21cの内側のみにアシストガスAGを吹き付けるようにすることで、有底孔21から流出したアシストガスAGが、有底孔21の開口21cの周辺域Sに沿っては実質的に流れず、主としてワークWの表面WFから離れた空間領域を流れるようにしている。その結果、第2工程において、ワークWの表面WFの、有底孔21の開口21cの周辺域Sは、アシストガスAG(例えば高純度酸素)に曝されないことになる。有底孔21の周辺域SがアシストガスAGに曝されない状態であれば、ワークWに貫通穴23を形成する第2工程において、有底孔21の中で過熱に起因するセルフバーニングが発生したとしても、セルフバーニングが有底孔21の周辺域Sまで延焼することは回避される。したがって図示のレーザ加工方法では、第2工程で設定されるレーザ光LBの出力は、セルフバーニングの発生を回避するための上限値に制限されることがない。
【0033】
既述の特許文献1に記載されるような従来のレーザ加工方法では、第1ステップで形成した大径で浅い凹所の底部に対し、第2ステップで穴明けを行なう際に、浅い凹所内で加工点の過熱に起因するセルフバーニングが発生する可能性がある。このとき、溶融物を除去する目的で加工点に吹き付けられるアシストガスは、浅い凹所の内面に沿って流れてワーク表面に流出するので、凹所内で発生したセルフバーニングが、アシストガス(例えば高純度酸素)の存在によりワーク表面に広く延焼する懸念がある。セルフバーニングが広範囲に延焼すると大量の溶融物が発生し、溶融物がワーク表面に付着して突起を形成するため、その後のレーザ切断の実行が困難になる。既述の特許文献2に記載されるような従来のレーザ加工方法においても、比較的小径のピアシング穴に入りきらずにワーク表面に衝突するアシストガスが、ピアシング穴内で発生したセルフバーニングのワーク表面への延焼を誘発することが懸念される。したがって、従来のレーザ加工方法では、前段の工程で予備的に形成した有底孔の中で、後段の貫通穴形成工程においてセルフバーニングが発生しないように留意する必要があり、結果として、後段の工程で設定されるレーザ光の出力が、有底孔の中でのセルフバーニングの発生を回避するための上限値に制限されることになる。
【0034】
図示のレーザ加工方法では、第2工程において、レーザ光LBの焦点FPを、有底孔21の底面21bに合わせるか、又は有底孔21の底面21bを越えてワークWの内部に合わせた場合に、レーザ光LBの焦点FPをワークWの表面WBに合わせてレーザ光LBを照射した場合と比較して、レーザ光のパワー密度が高くなり、貫通穴23を一層迅速に形成できるようになる反面、加工点が過熱し易くなる。しかし前述の通り、第2工程では有底孔21の中でのセルフバーニングの発生を回避する必要がないため、レーザ光LBを高いパワー密度で有底孔21の底面21bに照射することができる。
【0035】
さらに、有底孔21の中でのセルフバーニングの発生を回避する必要がないことを利用して、第2工程において、有底孔21の中で意図的にセルフバーニングを発生させるようにレーザ光LBの出力を設定してもよい。有底孔21の中でセルフバーニングを意図的に発生させることにより、レーザ光LBによる加熱に加えて、ワークW自体の燃焼熱をワークWの溶融に利用でき、貫通穴23の形成すなわちピアシングの進行を一層促進できる。
【0036】
前述したように図示のレーザ加工方法では、第1工程において、有底孔21を所定の(つまり第2工程における上記した作用・効果を確保できる)深さまで加工するためには、比較的長い時間を要する。しかし、第2工程においては、有底孔21の中でのセルフバーニングの発生を回避する必要が無い加工条件(レーザ出力等)、或いは意図的に有底孔21の中でセルフバーニングを発生させる加工条件(レーザ出力等)で、貫通穴23を極めて迅速に形成できる。したがって、第2工程(貫通穴加工)において短縮される時間が、第1工程(有底孔加工)で増加する時間よりも長くなるように、第2工程の加工条件を設定することにより、両工程の加工時間の合計を含むピアシング加工時間(後述する)を短縮することができる。
【0037】
なお、第1工程終了後の設定変更作業に付随して実施可能な中間工程は、前述したように、第2工程の実施に先立ちアシストガスAGの流れを安定させることを目的とするものである。このような中間工程に要する時間は、既述の特許文献2に記載される従来のレーザ加工方法における冷却のための第2の工程に要する時間に比べて、十分に短いものとなる。
【0038】
上記実施形態によるレーザ加工装置11及びレーザ加工方法を、以下の実施例に従ってさらに詳細に説明する。
【0039】
第1の実施例では、レーザ発振器14に、定格出力が4kWのCO2レーザを使用し、加工ノズル13に、先端の開口18の直径が2.0mmのものを用い、アシストガスAGに、高純度の酸素(99.95vol%)を用いて、レーザ加工装置11を構成し、板厚16mmの軟鋼(SS400材)からなるワークWに上記レーザ加工方法(ピアシング)を実施した。第1工程では、加工ノズル13のギャップGを30mmに設定し、レーザ光LBの焦点FPを加工ノズル13の先端面13aと同一平面上の位置に設定した。すなわち、レーザ光LBの焦点FPをワークWの表面WFから30mm離隔させる設定を行った。また、アシストガスAGの圧力を0.04MPaに設定した。レーザ加工装置11において、一般的な待機状態からこれら条件の設定を完了するまでの時間(本明細書で準備時間と称する)に、0.4秒を要した。続けて、4kW、CWモードの出力設定にてレーザ光LBを0.3秒間ワークWに照射した。その結果、ワークWの表面WFに、開口径4mm、深さ5mmの有底孔21が形成された。
【0040】
有底孔21の形成後、レーザ光LBの照射を停止して、加工ノズル13のギャップGを4mmに設定し、レーザ光LBの焦点FPを加工ノズル13の先端面13aから10mm離隔した位置に設定した。これにより、レーザ光LBの焦点FPは、深さ5mmの有底孔21の底面21bを越えて、底面21bからワークWの内部に1mm入り込んだ位置に設定された。また、アシストガスAGの圧力を0.08MPaに設定した。レーザ加工装置11において、これら条件の設定変更に、0.3秒を要した。この設定変更時間に加え、中間工程としてさらに0.1秒間、レーザ光LBの照射を停止した。続いて、第2工程では、レーザ光LBを、ピーク出力4kW、パルス周波数200Hz及びパルスディーティ40%のPWモードで1.7秒間に渡って、有底孔21の底面21bに照射した。その結果、有底孔21はワークWの裏面WBまで延長されて、ワークWの裏面WBに直径2.5mmで開口する貫通穴23が形成された。上述の通り、第1の実施例における各工程の所要時間の合計(本明細書でピアシング加工時間と称する)は2.8秒であった。
【0041】
ピアシング加工時間は、第1工程におけるレーザ光LBの照射開始から第2工程でレーザ光LBがワークWを貫通するまでに要する時間(本明細書で貫通所要時間と称する)に、準備時間を加えるとともに、貫通所要時間のバラつきを考慮して算定される。貫通所要時間には、第1工程終了後の設定変更の時間と、中間工程(実施する場合)の時間とが含まれる。レーザ加工プログラムを作成する際には、試行により貫通所要時間の平均値と貫通所要時間のバラつきを表す標準偏差とを求め、当該平均値に、標準偏差の数倍の時間(本明細書で余裕時間と称する)と準備時間とを加算して、ピアシング加工時間を設定する。貫通所要時間に余裕時間を加えることで、貫通穴23の形成をより確実なものとすることができる。なお、貫通所要時間の標準偏差が大きいと、設定されるピアシング加工時間が長くなるが、上記実施形態によるレーザ加工方法は、後述するように標準偏差を小さくする効果を奏する。
【0042】
第1の実施例の加工条件で50回のピアシングを実施し、加工の安定性と実用性を検証した。50回のピアシングで測定された貫通所要時間の平均値は2.0秒であり、貫通所要時間の標準偏差は0.1秒であった。ピアシングの未貫通(貫通穴23の形成不良)や、有底孔21の周辺域Sにおけるセルフバーニングの発生といった不具合は、一度も発生しなかった。また、形成された貫通穴23を切断開始点として、50回のレーザ切断加工を実施した結果、切断開始時の加工不良は一度も発生しなかった。
【0043】
第2の実施例では、レーザ発振器に、定格出力が4kWのCO2レーザを使用し、加工ノズル13に、先端の開口18の直径が4.0mmのものを用い、アシストガスAGに、高純度の酸素(99.95vol%)を用いて、レーザ加工装置11を構成し、板厚22mmの軟鋼(SS400材)からなるワークWに上記レーザ加工方法(ピアシング)を実施した。第1工程では、加工ノズル13のギャップGを45mmに設定し、レーザ光LBの焦点FPを加工ノズル13の先端面13aと同一平面上の位置に設定した。すなわち、レーザ光LBの焦点FPをワークWの表面WFから45mm離隔させる設定を行った。また、アシストガスAGの圧力を0.01MPaに設定した。レーザ加工装置11において、一般的な待機状態からこれら条件の設定を完了するまでの準備時間に、0.4秒を要した。続けて、4kW、CWモードの出力設定にてレーザ光LBを0.6秒間ワークWに照射した。その結果、ワークWの表面WFに、開口径6mm、深さ6mmの有底孔21が形成された。
【0044】
有底孔21の形成後、レーザ光LBの照射を停止して、加工ノズル13のギャップGを5mmに設定し、レーザ光LBの焦点FPを加工ノズル13の先端面13aから11mm離隔した位置に設定した。これにより、レーザ光LBの焦点FPは、深さ6mmの有底孔21の底面21bに設定された。また、アシストガスAGの圧力を0.04MPaに設定した。レーザ加工装置11において、これら条件の設定変更に、0.3秒を要した。この設定変更時間に加え、中間工程としてさらに0.1秒間、レーザ光LBの照射を停止した。
【0045】
第2の実施例では、第2工程を2段階に分割した。分割した前半部分である第2工程の前半工程では、レーザ光LBを、第1工程と同じ設定のCWモードで0.1秒間に渡ってワークWに照射した。続いて、レーザ光LBの照射を停止して、加工ノズル13のギャップGを4mmに設定した。レーザ加工装置11において、この設定変更に0.2秒を要した。第2工程の後半工程では、レーザ光LBを、ピーク出力4kW、パルス周波数200Hz及びパルスディーティ50%のPWモードで3.0秒間に渡ってワークWに照射した。その結果、有底孔21はワークWの裏面WBまで延長されて、ワークWの裏面WBに直径3.0mmで開口する貫通穴23が形成された。上述の通り、第2の実施例における各工程の所要時間の合計(すなわちピアシング加工時間)は4.7秒であった。
【0046】
第2の実施例の加工条件で50回のピアシングを実施し、加工の安定性と実用性を検証した。50回のピアシングで測定された貫通所要時間の平均値は3.7秒であり、貫通所要時間の標準偏差は0.2秒であった。ピアシングの未貫通(貫通穴23の形成不良)や、有底孔21の周辺域Sにおけるセルフバーニングの発生といった不具合は、一度も発生しなかった。また、形成された貫通穴23を切断開始点として、50回のレーザ切断加工を実施した結果、切断開始時の加工不良は一度も発生しなかった。
【0047】
上記実施形態によるレーザ加工装置11及びレーザ加工方法の作用・効果の検証を、上記した実施例に関連して説明する。
【0048】
(実験1)
第1の実施例の第1工程における加工ノズル13のギャップGの大きさと形成される有底孔21の開口径及び有底孔21の形成に要する加工時間との関係を、以下の実験1により検証した。ギャップGの大きさ及びレーザ光LBの照射時間を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第1工程での設定の通りとした。
【0049】
ギャップGの大きさを変化させて、深さ約5mmの有底孔21を形成し、個々のギャップGに対応する有底孔21の開口径及び加工時間を測定した。図8は、ギャップGの大きさ(mm)と有底孔21の開口径(mm)及び加工時間(秒)との関係を示す。図示のように、ギャップGが10mmから45mmに増大するにつれて、有底孔21の開口径は増大する。また、ギャップGが増大するにつれて、深さ5mmの有底孔21の形成に要する加工時間も増大する。ギャップGの増大によりレーザ光LBが照射される範囲のスポット径が増大し、これに反比例して、照射される範囲におけるレーザ光LBのパワー密度は低下する。結果として、有底孔21が形成される際の深さの進行速度が遅くなり、加工時間が増大するものと考えられる。
【0050】
図9は、実験1において、第1の実施例の第1工程を異なるギャップGで実施した結果として得られた有底孔21及びその周辺域Sの状態を、ワークWの表面WFの写真と有底孔21の断面図とによって示している。ギャップGは、それぞれ(a)10mm、(b)20mm、(c)30mm、(d)40mmに設定した。それぞれ(a)0.11秒、(b)0.21秒、(c)0.31秒、(d)0.45秒の加工時間で有底孔21が形成された。有底孔21の開口径は、それぞれ(a)2.5mm、(b)3.3mm、(c)4.2mm、(d)5.5mmであった。
【0051】
図9に示すように、(a)のギャップGでは、ほぼ逆円錐形状の有底孔21が形成された。(b)のギャップGでは、(a)に比べて有底孔21の内径が増大したものの、(a)と同様にほぼ逆円錐形状の有底孔21が形成された。(c)のギャップGでは、筒状内周面21aと底面21bとを有する有底孔21が形成された。(d)のギャップGでは、(c)よりも内径及び開口径が増大した筒状内周面21aを有する有底孔21が形成された。有底孔21は、ワークWの表面WFに隣接して開口21cの縁が丸まっていたり、底面21bに隣接して半球状の隅部を有していたりする。
【0052】
実験1により、第1実施例の第1工程において、加工ノズル13のギャップGを30mm以上に設定することで、第2工程において有効に作用する筒状内周面21aを有する有底孔21を形成できることが検証された。
【0053】
(実験2)
第1の実施例の第1工程におけるアシストガスAGの圧力と有底孔21の加工時間及び加工品質との関係を、以下の実験2により検証した。アシストガスAGの圧力及びレーザ光LBの照射時間を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第1工程での設定の通りとした。
【0054】
アシストガスAGの圧力を変化させて、深さ約5mmの有底孔21を形成し、個々のアシストガス圧力に対応する有底孔21の加工時間を計測した。図10は、アシストガスAGの圧力(MPa)と有底孔21の加工時間(秒)との関係を示す。図示のように、アシストガスAGの圧力が0.15MPaから減少するにつれて、深さ5mmの有底孔21の形成に要する加工時間が増大する。
【0055】
図11は、実験2において、第1の実施例の第1工程を異なるアシストガス圧力で実施した結果として得られた有底孔21及びその周辺域Sの状態を、ワークWの表面WFの写真によって示している。アシストガスAGの圧力を、それぞれ(a)0.15MPa、(b)0.07MPa、(c)0.04MPa、(d)0.02MPaに設定した。それぞれ(a)0.24秒、(b)0.27秒、(c)0.30秒、(d)0.38秒の加工時間で有底孔21が形成された。アシストガスAGの圧力を0.15MPaから下げていくと、有底孔21の周辺域Sに対する溶融物22の付着が徐々に減少し、0.04MPaにおいて最小限に抑制された。さらにアシストガス圧力を下げて0.02MPaに設定すると、再び溶融物22の付着が増大した。アシストガスAGの圧力が低すぎることによって、アシストガスAGによる溶融物22を吹き飛ばす作用が減少したためと考えられる。
【0056】
第2の実施例の第1工程についても、第1の実施例と同様に、アシストガスAGの圧力と有底孔21の加工時間及び加工品質との関係を検証した。アシストガスAGの圧力及びレーザ光LBの照射時間を除く加工条件は、全て前述した第2の実施例の第1工程での設定の通りとした。アシストガスAGの圧力を変化させて、深さ約6mmの有底孔21を形成し、個々のアシストガス圧力に対応する有底孔21の加工時間を計測するとともに、有底孔21の周辺域Sの状態を観察した(図示せず)。アシストガスAGの圧力の低下に伴い、有底孔21の周辺域Sに対する溶融物22の付着が減少することが検証された。また、アシストガスAGの圧力が0.01MPaのときに周辺域Sへの溶融物22の付着が最小限に抑制され、同0.007MPaのときに再び溶融物22の付着が増大することが観察された。
【0057】
(実験3)
第1の実施例における有底孔21の形状と有底孔21の周辺域Sの酸素濃度との関係を、以下の実験3により検証した。まず、図12に示すように、(c)第1の実施例の第1工程によりワークWに有底孔21を形成する一方、比較例(a)、(b)として、既述の特許文献1及び2に記載のレーザ加工方法の再現によって同じワークWに有底孔21A、21Bを形成した。次に、第2工程を模擬して加工ノズル13のギャップGを4mmに設定し、アシストガスAGを有底孔21、21A、21Bに吹き付けながら、有底孔21、21A、21Bの周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。酸素濃度の計測は、内径0.5mmのチューブで計測点のガスを吸引するガルバニ電池方式の酸素濃度計によって行った。
【0058】
計測された酸素濃度は、それぞれ(a)60%、(b)65%、(c)22%であった。有底孔21、21A、21Bの周辺域Sの酸素濃度は、比較例(a)、(b)では大気中濃度の数倍に達しているのに対し、第1の実施例(c)においては大気中濃度と同じ程度に留まっている。比較例(a)、(b)においては、アシストガスAGが周辺域SでワークWの表面WFに沿って流れるのに対し、第1の実施例(c)では、アシストガスAGがワークWの表面WFから離れた空間領域を流れるためと考えられる。
【0059】
(実験4)
第1の実施例における有底孔21の開口径と有底孔21の周辺域Sの酸素濃度との関係を、以下の実験4により検証した。実験1で形成した異なる開口径で深さ5mmの有底孔21に対し、第1の実施例の第2工程を模擬して加工ノズル13のギャップGを4mmに設定して、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けながら、有底孔21の周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。酸素濃度の計測は、実験3と同様にして行った。
【0060】
図13は、有底孔21の開口径(mm)と計測した酸素濃度(%)との関係を示す。酸素濃度は、有底孔21の開口径が3.3mm以下の場合に大気中濃度の数倍に達しているのに対し、有底孔21の開口径が3.8mm以上の場合には大気中濃度の2割増し程度に留まっている。加工ノズル13の先端の開口18からアシストガスAGをワークWに吹き付ける際に、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側のみに確実に吹き付けるとともに、有底孔21から流出するアシストガスAGが有底孔21の周辺域SにおいてはワークWの表面WFから離れた空間領域を安定して流れるようにするためには、所定寸法以上の開口径を有する有底孔21を形成することが望ましいと検証された。
【0061】
実験4により、第1の実施例の第1工程においては、開口径が3.8mm以上の有底孔21を形成することが望ましいことが検証された。なお、開口径が3.8mm以上の有底孔21を形成するためには、実験1から、第1工程における加工ノズル13のギャップGを25mm以上に設定すればよいことが理解される。ただし、実験1では、第2工程において有効に作用する筒状内周面21aを有する有底孔21を形成するために、加工ノズル13のギャップGを30mm以上に設定することが望ましいと検証されているので、実験4では、第1の実施例の第1工程を実施するに際し、ギャップGを30mに設定した。
【0062】
第2の実施例についても、同様の実験を行った。第1工程で、開口径の異なる深さ6mmの有底孔21を形成し、第2の実施例の第2工程を模擬して加工ノズル13のギャップGを5mmに設定して、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けながら、有底孔21の周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。計測された酸素濃度は、有底孔21の開口径が5.5mm以下の場合に大気中濃度の数倍に達したのに対し、有底孔21の開口径が6.0mm以上の場合には大気中濃度の2割増し程度に留まった。開口径が6.0mmの有底孔21を形成するには、実験1から、第1工程の加工ノズル13のギャップGを45mmに設定すればよいことが検証されているので、第2の実施例ではギャップGを45mmに設定した。アシストガスAGを吹き付ける加工ノズル13の先端の開口18の直径は、第1の実施例では2.0mmであったの対し、第2の実施例では4.0mmと大きくなっている。このため、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側のみに吹き付けるとともに、周辺域Sにおける酸素濃度を低下させるために望ましい有底孔21の開口径が、第1の実施例に比べて増大していると考えられる。
【0063】
(実験5)
第1の実施例における有底孔21の深さと有底孔21の周辺域Sの酸素濃度との関係を、以下の実験5により検証した。レーザ光LBの照射時間を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第1工程で設定した通りとして、第1工程により深さの異なる有底孔21を形成した。深さの異なる有底孔21に対し、第1の実施例の第2工程を模擬して加工ノズル13のギャップGを4mmに設定して、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けながら、有底孔21の周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。酸素濃度の計測は、実験3と同様にして行った。
【0064】
図14は、有底孔21の深さ(mm)と計測した酸素濃度(%)との関係を示す。酸素濃度は、有底孔21の深さが1mmの場合に、大気中濃度の数倍に達している。酸素濃度は、有底孔21の深さが増大するにつれて低下し、深さ3.0mm以上で、大気中濃度の1割増し程度まで低下している。加工ノズル13の先端の開口18からアシストガスAGをワークWに吹き付ける際に、有底孔21から流出するアシストガスAGが、有底孔21の周辺域SにおいてワークWの表面WFから離れた空間領域を安定して流れるようにするためには、所定寸法以上の深さを有する有底孔21を形成することが望ましいと検証された。
【0065】
(実験6)
第1の実施例の第2工程における加工ノズル13のギャップGの大きさと有底孔21の周辺域Sの酸素濃度との関係を、以下の実験6により検証した。第1の実施例の第1工程で有底孔21を形成した後、第2工程を模擬して、異なるギャップGでアシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けながら、有底孔21の周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。酸素濃度の計測は、実験3と同様にして行った。
【0066】
図15は、第2工程におけるギャップG(mm)と計測した酸素濃度(%)との関係を示す。酸素濃度は、ギャップGが5.5mm以上の場合に大気中濃度の数倍に達しているが、ギャップGが5.0mm以下の場合には大気中濃度の3割増し程度まで低下している。実験6により、第2工程の加工ノズル13のギャップGは5mm以下に設定することが望ましいことが検証された。
【0067】
(実験7)
第1の実施例の第2工程における有底孔21内でのセルフバーニングの発生の有無によるピアシング加工時間の違いを、以下の実験7により検証した。前述した第1の実施例の第2工程の加工条件では、有底孔21内でセルフバーニングが発生し、第1の実施例の第2工程の加工条件中、レーザ光LBのパルスディーティを40%から20%に低下させた加工条件では、有底孔21内でセルフバーニングが発生しなかった。それぞれの加工条件で、50回のピアシングを実施した。
【0068】
図16に示すように、有底孔21内でセルフバーニングが発生した場合(「あり」)は、発生しない場合(「なし」)に比べて、貫通穴23の形成に要する平均の貫通所要時間を0.4秒短縮でき、貫通所要時間の標準偏差を0.2秒縮小できた。前述したように、第1の実施例においては、第1工程の準備時間を含めて、準備時間0.4(秒)+平均の貫通所要時間2.0(秒)+4×貫通所要時間の標準偏差0.1(秒)=2.8(秒)のピアシング加工時間を設定した。同様の計算により、有底孔21内でセルフバーニングが発生しない場合は、準備時間0.4(秒)+平均の貫通所要時間2.4(秒)+4×貫通所要時間の標準偏差0.3(秒)=4.0(秒)のピアシング加工時間を設定する必要がある。これらのことから、第2工程において有底孔21内で意図的にセルフバーニングを発生させることにより、セルフバーニングを発生させない場合と比較して、ピアシング加工時間を短縮できることが検証された。
【0069】
実験7においては、第1の実施例の第2工程における有底孔21内でのセルフバーニングの発生の有無による、ワークWの裏面WBにおける貫通穴23の開口径の違いも検証した。ワークWの裏面WBにおける貫通穴23の開口径は、有底孔21内でセルフバーニングが発生した場合には2.5mmであったのに対し、有底孔21内でセルフバーニングが発生しない場合には1.0mmであった。さらに、こうして形成された貫通穴23を切断開始点としてレーザ切断加工を開始する際の、不良率の違いも検証した。有底孔21内でセルフバーニングが発生した場合には、50回実施したレーザ切断加工において、切断開始時の加工不良は一度も発生しなかった。これに対し、有底孔21内でセルフバーニングが発生しなかった場合には、10回実施したレーザ切断加工において、切断開始時の加工不良が3回発生した。このように、第2工程において有底孔21内で意図的にセルフバーニングを発生させることにより、セルフバーニングを発生させない場合と比較して、切断開始時の加工不良の発生を抑制できることが検証された。一般的に、レーザ切断加工は、アシストガスAGの吹き付けによりワークWの裏面WBからワークWの溶融物22を円滑に除去できる状態のもとで、開始することが望ましい。上記したように、第2工程において有底孔21内で意図的にセルフバーニングを発生させると、ワークWの裏面WBにおける貫通穴23の開口径が大きくなり、アシストガスAGの流れが一層安定することから、切断開始時の加工不良の発生を抑制できるものと考えられる。
【0070】
(実験8)
第1の実施例の第2工程におけるレーザ光LBの焦点FPの位置を、以下の実験8により検証した。レーザ光LBの焦点FPの位置を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第2工程での設定の通りとした。第2工程におけるレーザ光LBの焦点FPの位置を変化させて、第1工程におけるレーザ光LBの照射開始から第2工程でレーザ光LBがワークWを貫通するまでの貫通所要時間を計測した。貫通所要時間の計測は、個々の焦点FPの位置で20回ずつ実施した。
【0071】
図17は、個々の焦点FPの位置ごとに、貫通所要時間の20回平均値を示す。焦点FPの位置としては、加工ノズル13の先端面13aの位置を基準(0mm)として、ワークWに接近する方向へ2mm、4mm、8mm、10mm及び12mmの5点を設定した。図示のように、レーザ光LBの焦点FPをワークWに接近させるにつれて貫通所要時間は短くなり、有底孔21の底面21bを1mm越えたワークWの内部の位置に相当する、ノズル先端面13aから10mmの位置で、貫通所要時間が最短となった。実験8により、第2工程におけるレーザ光LBの焦点FPの位置は、有底孔21の底面21bに合わせるか、又は底面21bを越えてワークWの内部に合わせることが望ましいと検証された。
【0072】
(実験9)
第1及び第2の実施例において第1工程と第2工程との間でレーザ光LBの照射を一時的に停止する中間工程の時間を、以下の実験9により検証した。前述したように、第1及び第2の実施例では、第1工程から第2工程への移行時に、ギャップGの寸法やアシストガスAGの圧力等の、加工条件の設定変更のために、レーザ光LBの照射を0.3秒間停止することに加えて、中間工程として、0.1秒間だけ照射を停止している。この中間工程の時間を変更して、貫通穴23の加工不良の発生率を計測した。
【0073】
図18に示すように、0.3秒の設定変更時間のみ(つまり中間工程無し)の場合には貫通穴23の加工不良率が35%であったのに対し、0.1秒の中間工程を実施してレーザ光LBの照射を合計0.4秒停止すると、貫通穴23の加工不良は発生しなかった。また、0.2秒の中間工程を実施してレーザ光LBの照射を合計0.5秒停止した場合にも、貫通穴23の加工不良は発生しなかった。レーザ光LBの照射停止時間を設定変更時間に追加することによって、有底孔21から開口21cの外部へ流出するアシストガスAGの流れが安定し、有底孔21の周辺域SにおいてアシストガスAGがワークWの表面WFから確実に離れて流れるようになるからであると考えられる。
【0074】
(実験10)
第1の実施例の第2工程におけるレーザ光LBの出力について、以下の実験10により検証した。レーザ光LBの出力を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第2工程での設定の通りとした。第2工程におけるレーザ光LBの出力を変化させて、第1工程で形成した有底孔21に貫通穴23を形成し、ワークWの表面WFの状態を観察した。
【0075】
図19は、第2工程において異なるレーザ光LBの出力で貫通穴23を形成したときの、ワークWの表面WFに付着する溶融物22を写真で示す。(a)は、レーザ光LBの出力を、前述した第1の実施例の設定通りの、ピーク出力4kW、パルス周波数200Hz及びパルスディーティ40%のPWモードに設定したときの、ワークWの表面WFに付着する溶融物22を示す。(b)は、レーザ光LBの出力を、ピーク出力4kW、パルス周波数200Hz及びパルスディーティ50%のPWモードに設定したときの、ワークWの表面WFに付着する溶融物22を示す。パルスデューティが40%から50%に増加すると、ワークWの表面WFにおける周辺域Sへの溶融物22の付着が増大した。このことは、レーザ光LBの出力の増加により、加工点における溶融物22の単位時間当りの発生量が増大して溶融物22が大粒になるため、アシストガスAGによる溶融物22の除去が追いつかなくなったことが原因と考えられる。このように、第2工程では、アシストガスAGにより溶融物22を円滑に除去できるように、レーザ光LBの出力を設定することが望ましいことが検証された。
【符号の説明】
【0076】
11 レーザ加工装置
13 加工ノズル
14 レーザ発振器
16 制御部(NC装置)
21 有底孔
23 貫通穴
LB レーザ光
CL 中心線
AG アシストガス
W ワーク
S 周辺域
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法及びレーザ加工装置に関し、特に、レーザ切断に先立ってワークの切断開始点に貫通穴を形成するためのピアシングを行うレーザ加工方法及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工の一種であるレーザ切断は、一般に、レーザ光の熱によりワークを溶融し、アシストガスの吹き付けによりワークの溶融物を除去していくことで行われる。レーザ光の熱に加えてワークの燃焼熱を利用するために、アシストガスに高純度酸素を使用する場合もある。切断の開始に際しては、アシストガスの吹き付けにより、レーザ光を照射するワークの表面とは反対側の裏面からワークの溶融物を円滑に除去できる状態にあることが望ましい。そこで、レーザ切断において、切断の開始に先立ち、ワークの切断開始点に貫通穴を形成するためのいわゆるピアシングを行うことが知られている(例えば特許文献1〜4参照)。
【0003】
特許文献1には、レーザ光の焦点をワークの表面から所定距離だけ離した状態で穴明け時の設定値よりも高いレーザ出力とアシストガス圧とでワークの表面に凹所を形成する第1ステップと、次いで焦点をワークの内部に入り込む方向へ所定量移動させた状態で第1ステップより低いレーザ出力とアシストガス圧とで穴明けを行う第2ステップとからピアッシングを行うレーザ加工方法が記載されている。第1ステップで、ワークの表面に大径でかつ浅い凹所を瞬時に形成し、第2ステップで、凹所の底部から連続して穴明けを行うことで、アシストガスを凹所に効率よく供給し、ピアッシングを安定して良好に行うことができる、と説明されている。また、第2ステップでは、ギャップ量を徐々に減少させながら、ワークの表面に爆発を生じない程度に第1ステップより低く設定されたレーザ出力及びアシストガス圧でレーザ光を照射する、と説明されている。
【0004】
特許文献2には、第1のピアシング条件にてレーザビームを被加工物に照射しピアシング加工を行う第1の工程と、第1の工程後、レーザビームの照射を0.5秒以上停止する第2の工程と、第2の工程後、第1の工程にて加工した部分に第2のピアシング条件にてレーザビームを照射しピアシング加工を完了する第3の工程とを備えたレーザ加工方法が記載されている。第1の工程で選択された第1のピアシング条件により、被加工物の板厚の途中までピアシング穴が形成され、続く第2の工程にてビーム照射が一旦停止することから、途中まで進行した酸化燃焼反応は遮断され、続く第3の工程でレーザビームが再度照射されるが、余剰な入熱が存在しないため、小径のピアシング穴を形成でき、以って、スパッタ量を減らすとともに加工時間を短縮できる、と説明されている。また、第1の工程で第1のピアシング加工前にスパッタ付着防止剤を噴射し、第2の工程でエアー及びスパッタ付着防止剤を噴射し、第3の工程で第2のピアシング加工後にエアーを噴射することにより、ピアシング穴周囲のスパッタの残存、固着を効果的に防止できる、と説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3110504号公報(請求項1、0012、0017)
【特許文献2】特開2007−75878号公報(請求項1、0016、0029〜0031)
【特許文献3】特開平7−9175号公報
【特許文献4】特開平10−323781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のレーザ加工方法では、第1ステップで形成した大径で浅い凹所の底部に対し、第2ステップで、ワークの表面に爆発を生じない程度に第1ステップよりも低く設定したレーザ出力及びアシストガス圧で穴明けを行っているから、ピアシングに要する時間を短縮することが困難である。特許文献2に記載のレーザ加工方法では、加工時間の短縮効果が得られているが、ピアシング穴周囲にスパッタが残存し固着する傾向があるのでそれを防止する手立てが提供されており、しかも冷却のための第2の工程を要することから加工時間の短縮効果が限定的なものとなる。
【0007】
ピアシングを行うレーザ加工方法及びレーザ加工装置においては、加工点の過熱や加工点周辺に付着する残留溶融物に起因したワークの持続的燃焼(いわゆるセルフバーニング)を回避するための加工条件(レーザ出力等)に制約されることなく、ピアシングに要する時間を短縮することが所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ワークの表面から焦点を離隔させた状態でレーザ光を該表面に照射して、該ワークに、該表面に開口する筒状内周面及び底面を有する有底孔を形成する第1工程と、前記有底孔の開口の内側にアシストガスを吹き付ける一方で該開口の周辺域には該アシストガスを吹き付けないようにしながら、前記有底孔の前記底面にレーザ光を照射して、前記ワークを貫通する貫通穴を形成する第2工程と、を具備することを特徴とするレーザ加工方法である。
【0009】
本発明の他の態様は、レーザ発振器から出射されたレーザ光を集光してワークに照射するとともに該ワークにアシストガスを吹き付ける加工ヘッドと、前記加工ヘッドの動作を制御する制御部であって、前記ワークの表面から焦点を離隔させた状態で前記レーザ光を該表面に照射して、該ワークに、該表面に開口する筒状内周面及び底面を有する有底孔を形成する第1工程と、前記有底孔の開口の内側に前記アシストガスを吹き付ける一方で該開口の周辺域には前記アシストガスを吹き付けないようにしながら、前記有底孔の前記底面に前記レーザ光を照射して、前記ワークを貫通する貫通穴を形成する第2工程とを制御する制御部と、を具備することを特徴とするレーザ加工装置である。
【発明の効果】
【0010】
一態様によるレーザ加工方法及び他の態様によるレーザ加工装置によれば、第1工程で形成した特徴的形状の有底孔に対し、第2工程において、有底孔の開口の内側のみにアシストガスを吹き付けるようにすることで、有底孔の開口の周辺域が、アシストガスに曝されなくなる。したがって、第2工程において、セルフバーニングを回避するための上限値に加工条件(レーザ出力等)を制限することなく貫通穴を形成でき、以って、ピアシングに要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態によるレーザ加工装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】一実施形態によるレーザ加工方法の第1工程を説明する図で、ワークに対して加工ノズルを位置決めした準備状態を概略的に示す。
【図3】同第1工程を説明する図で、ワークの表面にレーザ光を照射する状態を概略的に示す。
【図4】同第1工程を説明する図で、ワークの表面に有底孔が形成される状態を概略的に示す。
【図5】一実施形態によるレーザ加工方法の第2工程を説明する図で、ワークに対して加工ノズルを位置決めした準備状態を概略的に示す。
【図6】同第2工程を説明する図で、有底孔の底面にレーザ光を照射する状態を概略的に示す。
【図7】同第2工程を説明する図で、ワークに貫通穴が形成される状態を概略的に示す。
【図8】第1工程における加工ノズルのギャップと有底孔の開口径及び加工時間との関係を示すグラフである。
【図9】第1工程における加工ノズルのギャップと有底孔の形状との関係を示す有底孔の写真及び断面図である。
【図10】第1工程におけるアシストガスの圧力と有底孔の加工時間との関係を示すグラフである。
【図11】第1工程におけるアシストガスの圧力と溶融物の付着との関係を示す写真である。
【図12】一実施形態によるレーザ加工方法と従来技術によるレーザ加工方法とを有底孔の形状で対比する図である。
【図13】第2工程における有底孔の開口径と周辺域の酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図14】第2工程における有底孔の深さと周辺域の酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図15】第2工程における加工ノズルのギャップと有底孔の周辺域の酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図16】第2工程におけるセルフバーニングの有無と平均貫通所要時間及びピアシング加工時間との関係を示す表である。
【図17】第2工程におけるレーザ光の焦点位置と平均貫通所要時間との関係を示す表である。
【図18】第1工程と第2工程との間でのレーザ光の照射停止時間と加工不良との関係を示す表である。
【図19】第2工程におけるレーザ光の出力と溶融物の付着との関係を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、一実施形態によるレーザ加工装置11の構成を概略的に示す。レーザ加工装置11は、レーザ発振器14から出射されたレーザ光LBを集光してワークWに照射するとともにワークWにアシストガスAGを吹き付ける加工ヘッド17と、加工ヘッド17の動作を制御する制御部16とを備えている。
【0013】
図示のように、レーザ加工装置11では、XYZの直交3軸の基準座標系が設定される。レーザ加工装置11は、ワークWを受け止める可動テーブル12と、可動テーブル12に対向して配置される加工ヘッド17と、加工ヘッド17の先端に装着される加工ノズル13と、レーザ光LBを出射して加工ヘッド17に供給できるレーザ発振器14と、加工ヘッド17の内部に装着されてレーザ光LBを集光する光学要素(図では集光レンズ15)とを備える。可動テーブル12は、例えばワークWの輪郭に沿ってワークWを受け止める枠体から形成される。
【0014】
図示構成では、可動テーブル12はX軸及びY軸に沿って移動することができ、加工ヘッド17は、加工ヘッド17に装着されている加工ノズル13及び集光レンズ15を伴って、Z軸に沿って移動することができる。こうして、可動テーブル12すなわちワークWと、加工ヘッド17すなわち加工ノズル13及び集光レンズ15とは、基準座標系において相対移動することができる。図示構成では、加工ノズル13は加工ヘッド17の先端に固定され、集光レンズ15は加工ヘッド17内でZ軸と平行な軸に沿って変位することができる。したがって図示構成では、加工ノズル13と集光レンズ15とを、Z軸上で各々独立して位置決めすることができる。なお、可動テーブル12(ワークW)と加工ヘッド17(加工ノズル13及び集光レンズ15)との上記相対移動、及び加工ノズル13と集光レンズ15との上記独立変位を実現するための機械構成は、上記構成に限定されず、他の様々な機械構成を選択できる。
【0015】
レーザ発振器14は、例えばCW(連続波)モード又はPW(パルス波)モードで、例えば光軸に直交する断面が円形のレーザ光LBを出射することができる。出射されたレーザ光LBは、加工ヘッド17の集光レンズ15によって集光され、焦点FPを形成するとともに、加工ノズル13の先端の開口18を通ってワークWに照射される。集光レンズ15のZ軸方向の変位に伴って、焦点FPもZ軸方向に変位する。すなわち、ワークWに対する焦点FPのZ軸方向の位置は、加工ヘッド17のZ軸移動及び加工ヘッド17内での集光レンズ15のZ軸変位によって決まる。
【0016】
加工ノズル13には、アシストガスAGを供給する供給源(図示せず)が接続される。アシストガスAGには、例えば99.95vol%以上の高純度の酸素が用いられる。アシストガスAGは、加工ノズル13内で所定の圧力となるように供給源から供給され、加工ノズル13の先端の開口(すなわちガス放出口)18からワークWに向かって吹き付けられる。図示構成では、レーザ光LBと加工ノズル13とは互いに同軸に配置され、両者の中心線CLは、Z軸に平行(すなわちワークWの表面WFに直角)に規定される。アシストガスAGは、レーザ光LBの中心線CLに沿ってワークWに吹き付けられ、ワークWの燃焼の促進や、レーザ光LBの照射により発生したワークWの溶融物の除去などに用いられる。
【0017】
レーザ加工装置11の制御部16は、数値制御(NC)装置の形態で用意される。制御部(NC装置)16は、レーザ発振器14のレーザ光LBの出力条件やオンオフの指令を作成する。また制御部(NC装置)16は、可動テーブル12、加工ノズル13及び集光レンズ15の移動指令を作成する。移動指令には、例えば、ワークWの加工点の割り出しデータ、並びに割り出し後の加工点に対応した可動テーブル12、加工ノズル13及び集光レンズ15の位置を示す座標値データが含まれる。また制御部(NC装置)16は、アシストガスAGの圧力やオンオフの指令を作成する。
【0018】
制御部(NC装置)16は、例えば記憶部(図示せず)に格納された加工プログラムを解析して、上述した種々の指令を作成する。加工プログラムには、ピアシングやワークWの切断加工に必要な情報が記述される。制御部(NC装置)16は、例えばレーザ光LBの出力条件や、可動テーブル12、加工ノズル13及び集光レンズ15の位置及び速度、その他の加工条件を表示する表示装置(図示せず)を備えることができる。表示装置には例えば液晶ディスプレイ(LCD)が用いられる。また、制御部(NC装置)16は、各種の加工条件やデータを入力する入力装置(図示せず)を備えることができる。入力装置には例えばキーボードやマウスが用いられる。
【0019】
次に図2〜図7を参照して、一実施形態によるレーザ加工方法を説明する。図示のレーザ加工方法は、例として図1のレーザ加工装置11によって実行されるものであり、制御部(NC装置)16による制御の下で、レーザ切断に先立ってワークWの切断開始点に貫通穴を形成するためのピアシングを行うものである。図2に示すように、加工対象のワークWを用意し、加工ノズル13の中心線CLが、ワークW上に設定される切断開始点を通るように、可動テーブル12(図1)によりワークWをXY平面内で指令位置に位置決めする。
【0020】
また、加工ノズル13と集光レンズ15(図1)とを、前述したように独立変位させて、Z軸上の第1指令位置にそれぞれ位置決めする。第1指令位置は、集光レンズ15を通してワークWに照射されるレーザ光LBの焦点FPが、ワークWの表面WFから予め定めた距離だけ離隔して配置される位置であり、また、加工ノズル13からアシストガスAGをワークWの表面WF上の加工点に吹き付けることができる位置である(図3)。一般に、加工ノズル13のZ軸方向の位置は、Z軸上の座標値ではなく、加工ノズル13の先端面13aとワークWの表面WFとの間の最短距離(すなわちギャップG)で表される相対値として指令される。
【0021】
次に、指令値としての所定の圧力で加工ノズル13に供給されたアシストガスAGを、加工ノズル13の先端の開口(ガス放出口)18からワークWの表面WFに吹き付ける。この状態で、レーザ加工装置11は以下の第1工程を実施する。
【0022】
第1工程の実施にあたって、レーザ発振器14は、指令された所定の出力条件でレーザ光LBを出射する。図3に示すように、ワークWの表面WFから離隔した位置で焦点FPを結んだ後のレーザ光LBは、ビーム径が徐々に拡大して、ワークWの表面WFに到達した時点で、焦点FPの位置に応じた所定直径の円形スポットを形成する。こうして、いわゆるデフォーカスされた状態で、レーザ光LBはワークWの表面WFに照射される。レーザ光LBの照射により、ワークWの表面WFの、レーザ光LBが照射されている円形スポット内が加熱され、溶融する。
【0023】
図4に示すように、レーザ光LBの照射により生じるワークWの溶融物22は、アシストガスAGにより吹き飛ばされ、加工点(円形スポット)から除去される。こうして、ワークWに、レーザ光LBの中心線CLを実質的中心軸として表面WFに一端で開口する筒状内周面21aと筒状内周面21aの他端を閉じる底面21bとを有する有底孔21を形成していく。前述のように、レーザ光LBはデフォーカスされた状態でワークWに照射されることから、ワークWの表面WFにおける単位面積あたりかつ単位時間あたりの加熱量、すなわちパワー密度は、レーザ光LBの焦点FPをワークWの表面WFに合わせてレーザ光LBを照射した場合と比較して、小さくなる。その結果、ワークWから発生する溶融物22は、レーザ光LBの焦点FPをワーク表面WFに合わせた場合に比べて、小粒でかつ単位時間当りの発生量が少なくなる。溶融物22は、アシストガスAGによって加工点(円形スポット)から除去された後、ワークWの表面WFの、加工点(円形スポット)から離れた位置に落下する。しかし、小粒かつ単位時間当り少量の溶融物22は、ワークWの表面WFに落下する前に殆どが凝固するから、ワークWの表面WFに付着して後段のレーザ加工(切断)に支障を来たすことはない。
【0024】
デフォーカスしたレーザ光LBによる有底孔21の形成は、レーザ光LBの焦点FPをワーク表面WFに合わせてレーザ光LBを照射した場合と比較して、スポット径の拡大の結果としてワークWの溶融除去部分の体積が大きくなるため、所定深さの有底孔21を形成するには、レーザ光LBの焦点FPをワーク表面WFに合わせた場合に比べて長い時間を要する。比較的大きなスポット径で比較的長い時間をかけて形成した有底孔21は、ワークWの表面WFに対して略垂直方向に切り立った筒状内周面21aを有するようになる。なお、ワークWの表面WFに形成される有底孔21の開口21cは、図示のように、表面WFに隣接して筒状内周面21aの直径が局部的に漸増することで縁が丸まって形成される場合がある。また有底孔21は、図示のように、底面21bに隣接して筒状内周面21aの直径が局部的に漸減することで形成された半球状の隅部を有する場合がある。
【0025】
ワークWの表面WFに有底孔21を形成した後、レーザ光LBの照射を停止し、第1工程が終了する。第1工程の終了後、後述する第2工程の実施に先立って、レーザ加工装置11は、第1工程における種々の設定の変更を実施する。例えば、ギャップG、レーザ光LBの出力条件、レーザ光LBの焦点FPの位置、及びアシストガスAGの圧力を変更する。この実施形態では、ワークWのXY平面上の位置は変更しない。なお、第1工程終了後の設定変更に際し、ワークWのXY平面上の位置を適当に変更することにより、第2工程における有底孔21の中でのアシストガスAGの流れ方向を適当に調整することもできる。
【0026】
図5に示すように、設定変更後は、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けるようにする一方で、ワークWの表面WFの、開口21cを取り囲む領域S(本明細書で周辺域Sと称する)には、アシストガスAGを吹き付けないようにする。例えば、加工ノズル13を有底孔21に可及的に接近させることで、確実に有底孔21の開口21cの内側のみにアシストガスAGを吹き付けることができる。この場合の加工ノズル13の位置(つまりギャップG)は、集光レンズ15(したがってレーザ光LBの焦点FP)の位置と共に、Z軸上の第2指令位置として指令される。或いは、第1工程で、加工ノズル13の開口(ガス放出口)18の直径よりも大きな開口径を有する有底孔21を形成することで、有底孔21の開口21cの内側のみにアシストガスAGを確実に吹き付けることができる。また、加工ノズル13の開口(ガス放出口)18の直径よりも有底孔21の開口径が小さい場合であっても、加工ノズル13が、例えば徐々に集束するガス流を吹き出すような構造を有することにより、有底孔21の開口21cの内側のみにアシストガスAGを吹き付けることができる。なお、有底孔21の開口径とは、開口21cの局部的に縁が丸まった部分を除いた、筒状内周面21aの開口端の直径を意味する。
【0027】
有底孔21の開口21cの内側に吹き付けられたアシストガスAGは、有底孔21の底面21bに衝突した後に筒状内周面21aに沿って流れ、その流れ方向を実質的に維持しながら有底孔21から流出する。このため、有底孔21から流出したアシストガスAGは、有底孔21の開口21cの周辺域Sに沿っては実質的に流れず、主としてワークWの表面WFから離れた空間領域を流れるようになる。これらの設定変更が完了した段階で、図示のレーザ加工方法は以下の第2工程に移行する。
【0028】
ここで、図示のレーザ加工方法は、第2工程の実施に先立って行う前述した設定変更作業に付随して、所定時間に渡りレーザ光LBの照射を一時的に停止する中間工程をさらに有することができる。中間工程を実施することにより、ギャップGの変更やアシストガスAGの圧力の変更に伴うアシストガスAGの流れの遷移を、第2工程の実施に先立ち確実に完了させて流れを安定させることができる。
【0029】
図6に示すように、第2工程では、第1工程の終了時に停止したレーザ光LBの照射を再開し、有底孔21の開口21cの内側にアシストガスAGを吹き付ける一方で開口21cの周辺域SにはアシストガスAGを吹き付けないようにしながら、有底孔21の底面21bにレーザ光LBを照射する。このとき、レーザ光LBの焦点FPを、有底孔21の底面21bに合わせるか、又は有底孔21の底面21bを越えてワークWの内部に合わせることができる。
【0030】
第2工程において、有底孔21の中で発生するワークWの溶融物22は、アシストガスAGによって有底孔21の開口21cから外部に吹き飛ばされる。その結果、有底孔21内でのワークWの溶融及び有底孔21からの溶融物22の除去が円滑に進み、最終的に図7に示すように、有底孔21がワークWの裏面WBまで延長されて、ワークWを貫通する貫通穴23が形成される。このようにして、ピアシングが完了する。
【0031】
ピアシングが完了した瞬間に、アシストガスAGはワークWの貫通穴23を通って裏面WBの開口23aから外部へ流出し、溶融物22はアシストガスAGによりワークWの裏面WBから外部に除去される。このようにして、ワークWの裏面WBからワークWの溶融物22を円滑に除去できる状態が確保されるので、貫通穴23を切断開始点としてレーザ切断を開始することができる。
【0032】
図示のレーザ加工方法では、第1工程で形成した特徴的形状の有底孔21に対し、第2工程において、有底孔21の開口21cの内側のみにアシストガスAGを吹き付けるようにすることで、有底孔21から流出したアシストガスAGが、有底孔21の開口21cの周辺域Sに沿っては実質的に流れず、主としてワークWの表面WFから離れた空間領域を流れるようにしている。その結果、第2工程において、ワークWの表面WFの、有底孔21の開口21cの周辺域Sは、アシストガスAG(例えば高純度酸素)に曝されないことになる。有底孔21の周辺域SがアシストガスAGに曝されない状態であれば、ワークWに貫通穴23を形成する第2工程において、有底孔21の中で過熱に起因するセルフバーニングが発生したとしても、セルフバーニングが有底孔21の周辺域Sまで延焼することは回避される。したがって図示のレーザ加工方法では、第2工程で設定されるレーザ光LBの出力は、セルフバーニングの発生を回避するための上限値に制限されることがない。
【0033】
既述の特許文献1に記載されるような従来のレーザ加工方法では、第1ステップで形成した大径で浅い凹所の底部に対し、第2ステップで穴明けを行なう際に、浅い凹所内で加工点の過熱に起因するセルフバーニングが発生する可能性がある。このとき、溶融物を除去する目的で加工点に吹き付けられるアシストガスは、浅い凹所の内面に沿って流れてワーク表面に流出するので、凹所内で発生したセルフバーニングが、アシストガス(例えば高純度酸素)の存在によりワーク表面に広く延焼する懸念がある。セルフバーニングが広範囲に延焼すると大量の溶融物が発生し、溶融物がワーク表面に付着して突起を形成するため、その後のレーザ切断の実行が困難になる。既述の特許文献2に記載されるような従来のレーザ加工方法においても、比較的小径のピアシング穴に入りきらずにワーク表面に衝突するアシストガスが、ピアシング穴内で発生したセルフバーニングのワーク表面への延焼を誘発することが懸念される。したがって、従来のレーザ加工方法では、前段の工程で予備的に形成した有底孔の中で、後段の貫通穴形成工程においてセルフバーニングが発生しないように留意する必要があり、結果として、後段の工程で設定されるレーザ光の出力が、有底孔の中でのセルフバーニングの発生を回避するための上限値に制限されることになる。
【0034】
図示のレーザ加工方法では、第2工程において、レーザ光LBの焦点FPを、有底孔21の底面21bに合わせるか、又は有底孔21の底面21bを越えてワークWの内部に合わせた場合に、レーザ光LBの焦点FPをワークWの表面WBに合わせてレーザ光LBを照射した場合と比較して、レーザ光のパワー密度が高くなり、貫通穴23を一層迅速に形成できるようになる反面、加工点が過熱し易くなる。しかし前述の通り、第2工程では有底孔21の中でのセルフバーニングの発生を回避する必要がないため、レーザ光LBを高いパワー密度で有底孔21の底面21bに照射することができる。
【0035】
さらに、有底孔21の中でのセルフバーニングの発生を回避する必要がないことを利用して、第2工程において、有底孔21の中で意図的にセルフバーニングを発生させるようにレーザ光LBの出力を設定してもよい。有底孔21の中でセルフバーニングを意図的に発生させることにより、レーザ光LBによる加熱に加えて、ワークW自体の燃焼熱をワークWの溶融に利用でき、貫通穴23の形成すなわちピアシングの進行を一層促進できる。
【0036】
前述したように図示のレーザ加工方法では、第1工程において、有底孔21を所定の(つまり第2工程における上記した作用・効果を確保できる)深さまで加工するためには、比較的長い時間を要する。しかし、第2工程においては、有底孔21の中でのセルフバーニングの発生を回避する必要が無い加工条件(レーザ出力等)、或いは意図的に有底孔21の中でセルフバーニングを発生させる加工条件(レーザ出力等)で、貫通穴23を極めて迅速に形成できる。したがって、第2工程(貫通穴加工)において短縮される時間が、第1工程(有底孔加工)で増加する時間よりも長くなるように、第2工程の加工条件を設定することにより、両工程の加工時間の合計を含むピアシング加工時間(後述する)を短縮することができる。
【0037】
なお、第1工程終了後の設定変更作業に付随して実施可能な中間工程は、前述したように、第2工程の実施に先立ちアシストガスAGの流れを安定させることを目的とするものである。このような中間工程に要する時間は、既述の特許文献2に記載される従来のレーザ加工方法における冷却のための第2の工程に要する時間に比べて、十分に短いものとなる。
【0038】
上記実施形態によるレーザ加工装置11及びレーザ加工方法を、以下の実施例に従ってさらに詳細に説明する。
【0039】
第1の実施例では、レーザ発振器14に、定格出力が4kWのCO2レーザを使用し、加工ノズル13に、先端の開口18の直径が2.0mmのものを用い、アシストガスAGに、高純度の酸素(99.95vol%)を用いて、レーザ加工装置11を構成し、板厚16mmの軟鋼(SS400材)からなるワークWに上記レーザ加工方法(ピアシング)を実施した。第1工程では、加工ノズル13のギャップGを30mmに設定し、レーザ光LBの焦点FPを加工ノズル13の先端面13aと同一平面上の位置に設定した。すなわち、レーザ光LBの焦点FPをワークWの表面WFから30mm離隔させる設定を行った。また、アシストガスAGの圧力を0.04MPaに設定した。レーザ加工装置11において、一般的な待機状態からこれら条件の設定を完了するまでの時間(本明細書で準備時間と称する)に、0.4秒を要した。続けて、4kW、CWモードの出力設定にてレーザ光LBを0.3秒間ワークWに照射した。その結果、ワークWの表面WFに、開口径4mm、深さ5mmの有底孔21が形成された。
【0040】
有底孔21の形成後、レーザ光LBの照射を停止して、加工ノズル13のギャップGを4mmに設定し、レーザ光LBの焦点FPを加工ノズル13の先端面13aから10mm離隔した位置に設定した。これにより、レーザ光LBの焦点FPは、深さ5mmの有底孔21の底面21bを越えて、底面21bからワークWの内部に1mm入り込んだ位置に設定された。また、アシストガスAGの圧力を0.08MPaに設定した。レーザ加工装置11において、これら条件の設定変更に、0.3秒を要した。この設定変更時間に加え、中間工程としてさらに0.1秒間、レーザ光LBの照射を停止した。続いて、第2工程では、レーザ光LBを、ピーク出力4kW、パルス周波数200Hz及びパルスディーティ40%のPWモードで1.7秒間に渡って、有底孔21の底面21bに照射した。その結果、有底孔21はワークWの裏面WBまで延長されて、ワークWの裏面WBに直径2.5mmで開口する貫通穴23が形成された。上述の通り、第1の実施例における各工程の所要時間の合計(本明細書でピアシング加工時間と称する)は2.8秒であった。
【0041】
ピアシング加工時間は、第1工程におけるレーザ光LBの照射開始から第2工程でレーザ光LBがワークWを貫通するまでに要する時間(本明細書で貫通所要時間と称する)に、準備時間を加えるとともに、貫通所要時間のバラつきを考慮して算定される。貫通所要時間には、第1工程終了後の設定変更の時間と、中間工程(実施する場合)の時間とが含まれる。レーザ加工プログラムを作成する際には、試行により貫通所要時間の平均値と貫通所要時間のバラつきを表す標準偏差とを求め、当該平均値に、標準偏差の数倍の時間(本明細書で余裕時間と称する)と準備時間とを加算して、ピアシング加工時間を設定する。貫通所要時間に余裕時間を加えることで、貫通穴23の形成をより確実なものとすることができる。なお、貫通所要時間の標準偏差が大きいと、設定されるピアシング加工時間が長くなるが、上記実施形態によるレーザ加工方法は、後述するように標準偏差を小さくする効果を奏する。
【0042】
第1の実施例の加工条件で50回のピアシングを実施し、加工の安定性と実用性を検証した。50回のピアシングで測定された貫通所要時間の平均値は2.0秒であり、貫通所要時間の標準偏差は0.1秒であった。ピアシングの未貫通(貫通穴23の形成不良)や、有底孔21の周辺域Sにおけるセルフバーニングの発生といった不具合は、一度も発生しなかった。また、形成された貫通穴23を切断開始点として、50回のレーザ切断加工を実施した結果、切断開始時の加工不良は一度も発生しなかった。
【0043】
第2の実施例では、レーザ発振器に、定格出力が4kWのCO2レーザを使用し、加工ノズル13に、先端の開口18の直径が4.0mmのものを用い、アシストガスAGに、高純度の酸素(99.95vol%)を用いて、レーザ加工装置11を構成し、板厚22mmの軟鋼(SS400材)からなるワークWに上記レーザ加工方法(ピアシング)を実施した。第1工程では、加工ノズル13のギャップGを45mmに設定し、レーザ光LBの焦点FPを加工ノズル13の先端面13aと同一平面上の位置に設定した。すなわち、レーザ光LBの焦点FPをワークWの表面WFから45mm離隔させる設定を行った。また、アシストガスAGの圧力を0.01MPaに設定した。レーザ加工装置11において、一般的な待機状態からこれら条件の設定を完了するまでの準備時間に、0.4秒を要した。続けて、4kW、CWモードの出力設定にてレーザ光LBを0.6秒間ワークWに照射した。その結果、ワークWの表面WFに、開口径6mm、深さ6mmの有底孔21が形成された。
【0044】
有底孔21の形成後、レーザ光LBの照射を停止して、加工ノズル13のギャップGを5mmに設定し、レーザ光LBの焦点FPを加工ノズル13の先端面13aから11mm離隔した位置に設定した。これにより、レーザ光LBの焦点FPは、深さ6mmの有底孔21の底面21bに設定された。また、アシストガスAGの圧力を0.04MPaに設定した。レーザ加工装置11において、これら条件の設定変更に、0.3秒を要した。この設定変更時間に加え、中間工程としてさらに0.1秒間、レーザ光LBの照射を停止した。
【0045】
第2の実施例では、第2工程を2段階に分割した。分割した前半部分である第2工程の前半工程では、レーザ光LBを、第1工程と同じ設定のCWモードで0.1秒間に渡ってワークWに照射した。続いて、レーザ光LBの照射を停止して、加工ノズル13のギャップGを4mmに設定した。レーザ加工装置11において、この設定変更に0.2秒を要した。第2工程の後半工程では、レーザ光LBを、ピーク出力4kW、パルス周波数200Hz及びパルスディーティ50%のPWモードで3.0秒間に渡ってワークWに照射した。その結果、有底孔21はワークWの裏面WBまで延長されて、ワークWの裏面WBに直径3.0mmで開口する貫通穴23が形成された。上述の通り、第2の実施例における各工程の所要時間の合計(すなわちピアシング加工時間)は4.7秒であった。
【0046】
第2の実施例の加工条件で50回のピアシングを実施し、加工の安定性と実用性を検証した。50回のピアシングで測定された貫通所要時間の平均値は3.7秒であり、貫通所要時間の標準偏差は0.2秒であった。ピアシングの未貫通(貫通穴23の形成不良)や、有底孔21の周辺域Sにおけるセルフバーニングの発生といった不具合は、一度も発生しなかった。また、形成された貫通穴23を切断開始点として、50回のレーザ切断加工を実施した結果、切断開始時の加工不良は一度も発生しなかった。
【0047】
上記実施形態によるレーザ加工装置11及びレーザ加工方法の作用・効果の検証を、上記した実施例に関連して説明する。
【0048】
(実験1)
第1の実施例の第1工程における加工ノズル13のギャップGの大きさと形成される有底孔21の開口径及び有底孔21の形成に要する加工時間との関係を、以下の実験1により検証した。ギャップGの大きさ及びレーザ光LBの照射時間を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第1工程での設定の通りとした。
【0049】
ギャップGの大きさを変化させて、深さ約5mmの有底孔21を形成し、個々のギャップGに対応する有底孔21の開口径及び加工時間を測定した。図8は、ギャップGの大きさ(mm)と有底孔21の開口径(mm)及び加工時間(秒)との関係を示す。図示のように、ギャップGが10mmから45mmに増大するにつれて、有底孔21の開口径は増大する。また、ギャップGが増大するにつれて、深さ5mmの有底孔21の形成に要する加工時間も増大する。ギャップGの増大によりレーザ光LBが照射される範囲のスポット径が増大し、これに反比例して、照射される範囲におけるレーザ光LBのパワー密度は低下する。結果として、有底孔21が形成される際の深さの進行速度が遅くなり、加工時間が増大するものと考えられる。
【0050】
図9は、実験1において、第1の実施例の第1工程を異なるギャップGで実施した結果として得られた有底孔21及びその周辺域Sの状態を、ワークWの表面WFの写真と有底孔21の断面図とによって示している。ギャップGは、それぞれ(a)10mm、(b)20mm、(c)30mm、(d)40mmに設定した。それぞれ(a)0.11秒、(b)0.21秒、(c)0.31秒、(d)0.45秒の加工時間で有底孔21が形成された。有底孔21の開口径は、それぞれ(a)2.5mm、(b)3.3mm、(c)4.2mm、(d)5.5mmであった。
【0051】
図9に示すように、(a)のギャップGでは、ほぼ逆円錐形状の有底孔21が形成された。(b)のギャップGでは、(a)に比べて有底孔21の内径が増大したものの、(a)と同様にほぼ逆円錐形状の有底孔21が形成された。(c)のギャップGでは、筒状内周面21aと底面21bとを有する有底孔21が形成された。(d)のギャップGでは、(c)よりも内径及び開口径が増大した筒状内周面21aを有する有底孔21が形成された。有底孔21は、ワークWの表面WFに隣接して開口21cの縁が丸まっていたり、底面21bに隣接して半球状の隅部を有していたりする。
【0052】
実験1により、第1実施例の第1工程において、加工ノズル13のギャップGを30mm以上に設定することで、第2工程において有効に作用する筒状内周面21aを有する有底孔21を形成できることが検証された。
【0053】
(実験2)
第1の実施例の第1工程におけるアシストガスAGの圧力と有底孔21の加工時間及び加工品質との関係を、以下の実験2により検証した。アシストガスAGの圧力及びレーザ光LBの照射時間を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第1工程での設定の通りとした。
【0054】
アシストガスAGの圧力を変化させて、深さ約5mmの有底孔21を形成し、個々のアシストガス圧力に対応する有底孔21の加工時間を計測した。図10は、アシストガスAGの圧力(MPa)と有底孔21の加工時間(秒)との関係を示す。図示のように、アシストガスAGの圧力が0.15MPaから減少するにつれて、深さ5mmの有底孔21の形成に要する加工時間が増大する。
【0055】
図11は、実験2において、第1の実施例の第1工程を異なるアシストガス圧力で実施した結果として得られた有底孔21及びその周辺域Sの状態を、ワークWの表面WFの写真によって示している。アシストガスAGの圧力を、それぞれ(a)0.15MPa、(b)0.07MPa、(c)0.04MPa、(d)0.02MPaに設定した。それぞれ(a)0.24秒、(b)0.27秒、(c)0.30秒、(d)0.38秒の加工時間で有底孔21が形成された。アシストガスAGの圧力を0.15MPaから下げていくと、有底孔21の周辺域Sに対する溶融物22の付着が徐々に減少し、0.04MPaにおいて最小限に抑制された。さらにアシストガス圧力を下げて0.02MPaに設定すると、再び溶融物22の付着が増大した。アシストガスAGの圧力が低すぎることによって、アシストガスAGによる溶融物22を吹き飛ばす作用が減少したためと考えられる。
【0056】
第2の実施例の第1工程についても、第1の実施例と同様に、アシストガスAGの圧力と有底孔21の加工時間及び加工品質との関係を検証した。アシストガスAGの圧力及びレーザ光LBの照射時間を除く加工条件は、全て前述した第2の実施例の第1工程での設定の通りとした。アシストガスAGの圧力を変化させて、深さ約6mmの有底孔21を形成し、個々のアシストガス圧力に対応する有底孔21の加工時間を計測するとともに、有底孔21の周辺域Sの状態を観察した(図示せず)。アシストガスAGの圧力の低下に伴い、有底孔21の周辺域Sに対する溶融物22の付着が減少することが検証された。また、アシストガスAGの圧力が0.01MPaのときに周辺域Sへの溶融物22の付着が最小限に抑制され、同0.007MPaのときに再び溶融物22の付着が増大することが観察された。
【0057】
(実験3)
第1の実施例における有底孔21の形状と有底孔21の周辺域Sの酸素濃度との関係を、以下の実験3により検証した。まず、図12に示すように、(c)第1の実施例の第1工程によりワークWに有底孔21を形成する一方、比較例(a)、(b)として、既述の特許文献1及び2に記載のレーザ加工方法の再現によって同じワークWに有底孔21A、21Bを形成した。次に、第2工程を模擬して加工ノズル13のギャップGを4mmに設定し、アシストガスAGを有底孔21、21A、21Bに吹き付けながら、有底孔21、21A、21Bの周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。酸素濃度の計測は、内径0.5mmのチューブで計測点のガスを吸引するガルバニ電池方式の酸素濃度計によって行った。
【0058】
計測された酸素濃度は、それぞれ(a)60%、(b)65%、(c)22%であった。有底孔21、21A、21Bの周辺域Sの酸素濃度は、比較例(a)、(b)では大気中濃度の数倍に達しているのに対し、第1の実施例(c)においては大気中濃度と同じ程度に留まっている。比較例(a)、(b)においては、アシストガスAGが周辺域SでワークWの表面WFに沿って流れるのに対し、第1の実施例(c)では、アシストガスAGがワークWの表面WFから離れた空間領域を流れるためと考えられる。
【0059】
(実験4)
第1の実施例における有底孔21の開口径と有底孔21の周辺域Sの酸素濃度との関係を、以下の実験4により検証した。実験1で形成した異なる開口径で深さ5mmの有底孔21に対し、第1の実施例の第2工程を模擬して加工ノズル13のギャップGを4mmに設定して、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けながら、有底孔21の周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。酸素濃度の計測は、実験3と同様にして行った。
【0060】
図13は、有底孔21の開口径(mm)と計測した酸素濃度(%)との関係を示す。酸素濃度は、有底孔21の開口径が3.3mm以下の場合に大気中濃度の数倍に達しているのに対し、有底孔21の開口径が3.8mm以上の場合には大気中濃度の2割増し程度に留まっている。加工ノズル13の先端の開口18からアシストガスAGをワークWに吹き付ける際に、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側のみに確実に吹き付けるとともに、有底孔21から流出するアシストガスAGが有底孔21の周辺域SにおいてはワークWの表面WFから離れた空間領域を安定して流れるようにするためには、所定寸法以上の開口径を有する有底孔21を形成することが望ましいと検証された。
【0061】
実験4により、第1の実施例の第1工程においては、開口径が3.8mm以上の有底孔21を形成することが望ましいことが検証された。なお、開口径が3.8mm以上の有底孔21を形成するためには、実験1から、第1工程における加工ノズル13のギャップGを25mm以上に設定すればよいことが理解される。ただし、実験1では、第2工程において有効に作用する筒状内周面21aを有する有底孔21を形成するために、加工ノズル13のギャップGを30mm以上に設定することが望ましいと検証されているので、実験4では、第1の実施例の第1工程を実施するに際し、ギャップGを30mに設定した。
【0062】
第2の実施例についても、同様の実験を行った。第1工程で、開口径の異なる深さ6mmの有底孔21を形成し、第2の実施例の第2工程を模擬して加工ノズル13のギャップGを5mmに設定して、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けながら、有底孔21の周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。計測された酸素濃度は、有底孔21の開口径が5.5mm以下の場合に大気中濃度の数倍に達したのに対し、有底孔21の開口径が6.0mm以上の場合には大気中濃度の2割増し程度に留まった。開口径が6.0mmの有底孔21を形成するには、実験1から、第1工程の加工ノズル13のギャップGを45mmに設定すればよいことが検証されているので、第2の実施例ではギャップGを45mmに設定した。アシストガスAGを吹き付ける加工ノズル13の先端の開口18の直径は、第1の実施例では2.0mmであったの対し、第2の実施例では4.0mmと大きくなっている。このため、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側のみに吹き付けるとともに、周辺域Sにおける酸素濃度を低下させるために望ましい有底孔21の開口径が、第1の実施例に比べて増大していると考えられる。
【0063】
(実験5)
第1の実施例における有底孔21の深さと有底孔21の周辺域Sの酸素濃度との関係を、以下の実験5により検証した。レーザ光LBの照射時間を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第1工程で設定した通りとして、第1工程により深さの異なる有底孔21を形成した。深さの異なる有底孔21に対し、第1の実施例の第2工程を模擬して加工ノズル13のギャップGを4mmに設定して、アシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けながら、有底孔21の周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。酸素濃度の計測は、実験3と同様にして行った。
【0064】
図14は、有底孔21の深さ(mm)と計測した酸素濃度(%)との関係を示す。酸素濃度は、有底孔21の深さが1mmの場合に、大気中濃度の数倍に達している。酸素濃度は、有底孔21の深さが増大するにつれて低下し、深さ3.0mm以上で、大気中濃度の1割増し程度まで低下している。加工ノズル13の先端の開口18からアシストガスAGをワークWに吹き付ける際に、有底孔21から流出するアシストガスAGが、有底孔21の周辺域SにおいてワークWの表面WFから離れた空間領域を安定して流れるようにするためには、所定寸法以上の深さを有する有底孔21を形成することが望ましいと検証された。
【0065】
(実験6)
第1の実施例の第2工程における加工ノズル13のギャップGの大きさと有底孔21の周辺域Sの酸素濃度との関係を、以下の実験6により検証した。第1の実施例の第1工程で有底孔21を形成した後、第2工程を模擬して、異なるギャップGでアシストガスAGを有底孔21の開口21cの内側に吹き付けながら、有底孔21の周辺域Sにおいて、ワークWの表面WFに隣接する空間領域の酸素濃度を計測した。酸素濃度の計測は、実験3と同様にして行った。
【0066】
図15は、第2工程におけるギャップG(mm)と計測した酸素濃度(%)との関係を示す。酸素濃度は、ギャップGが5.5mm以上の場合に大気中濃度の数倍に達しているが、ギャップGが5.0mm以下の場合には大気中濃度の3割増し程度まで低下している。実験6により、第2工程の加工ノズル13のギャップGは5mm以下に設定することが望ましいことが検証された。
【0067】
(実験7)
第1の実施例の第2工程における有底孔21内でのセルフバーニングの発生の有無によるピアシング加工時間の違いを、以下の実験7により検証した。前述した第1の実施例の第2工程の加工条件では、有底孔21内でセルフバーニングが発生し、第1の実施例の第2工程の加工条件中、レーザ光LBのパルスディーティを40%から20%に低下させた加工条件では、有底孔21内でセルフバーニングが発生しなかった。それぞれの加工条件で、50回のピアシングを実施した。
【0068】
図16に示すように、有底孔21内でセルフバーニングが発生した場合(「あり」)は、発生しない場合(「なし」)に比べて、貫通穴23の形成に要する平均の貫通所要時間を0.4秒短縮でき、貫通所要時間の標準偏差を0.2秒縮小できた。前述したように、第1の実施例においては、第1工程の準備時間を含めて、準備時間0.4(秒)+平均の貫通所要時間2.0(秒)+4×貫通所要時間の標準偏差0.1(秒)=2.8(秒)のピアシング加工時間を設定した。同様の計算により、有底孔21内でセルフバーニングが発生しない場合は、準備時間0.4(秒)+平均の貫通所要時間2.4(秒)+4×貫通所要時間の標準偏差0.3(秒)=4.0(秒)のピアシング加工時間を設定する必要がある。これらのことから、第2工程において有底孔21内で意図的にセルフバーニングを発生させることにより、セルフバーニングを発生させない場合と比較して、ピアシング加工時間を短縮できることが検証された。
【0069】
実験7においては、第1の実施例の第2工程における有底孔21内でのセルフバーニングの発生の有無による、ワークWの裏面WBにおける貫通穴23の開口径の違いも検証した。ワークWの裏面WBにおける貫通穴23の開口径は、有底孔21内でセルフバーニングが発生した場合には2.5mmであったのに対し、有底孔21内でセルフバーニングが発生しない場合には1.0mmであった。さらに、こうして形成された貫通穴23を切断開始点としてレーザ切断加工を開始する際の、不良率の違いも検証した。有底孔21内でセルフバーニングが発生した場合には、50回実施したレーザ切断加工において、切断開始時の加工不良は一度も発生しなかった。これに対し、有底孔21内でセルフバーニングが発生しなかった場合には、10回実施したレーザ切断加工において、切断開始時の加工不良が3回発生した。このように、第2工程において有底孔21内で意図的にセルフバーニングを発生させることにより、セルフバーニングを発生させない場合と比較して、切断開始時の加工不良の発生を抑制できることが検証された。一般的に、レーザ切断加工は、アシストガスAGの吹き付けによりワークWの裏面WBからワークWの溶融物22を円滑に除去できる状態のもとで、開始することが望ましい。上記したように、第2工程において有底孔21内で意図的にセルフバーニングを発生させると、ワークWの裏面WBにおける貫通穴23の開口径が大きくなり、アシストガスAGの流れが一層安定することから、切断開始時の加工不良の発生を抑制できるものと考えられる。
【0070】
(実験8)
第1の実施例の第2工程におけるレーザ光LBの焦点FPの位置を、以下の実験8により検証した。レーザ光LBの焦点FPの位置を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第2工程での設定の通りとした。第2工程におけるレーザ光LBの焦点FPの位置を変化させて、第1工程におけるレーザ光LBの照射開始から第2工程でレーザ光LBがワークWを貫通するまでの貫通所要時間を計測した。貫通所要時間の計測は、個々の焦点FPの位置で20回ずつ実施した。
【0071】
図17は、個々の焦点FPの位置ごとに、貫通所要時間の20回平均値を示す。焦点FPの位置としては、加工ノズル13の先端面13aの位置を基準(0mm)として、ワークWに接近する方向へ2mm、4mm、8mm、10mm及び12mmの5点を設定した。図示のように、レーザ光LBの焦点FPをワークWに接近させるにつれて貫通所要時間は短くなり、有底孔21の底面21bを1mm越えたワークWの内部の位置に相当する、ノズル先端面13aから10mmの位置で、貫通所要時間が最短となった。実験8により、第2工程におけるレーザ光LBの焦点FPの位置は、有底孔21の底面21bに合わせるか、又は底面21bを越えてワークWの内部に合わせることが望ましいと検証された。
【0072】
(実験9)
第1及び第2の実施例において第1工程と第2工程との間でレーザ光LBの照射を一時的に停止する中間工程の時間を、以下の実験9により検証した。前述したように、第1及び第2の実施例では、第1工程から第2工程への移行時に、ギャップGの寸法やアシストガスAGの圧力等の、加工条件の設定変更のために、レーザ光LBの照射を0.3秒間停止することに加えて、中間工程として、0.1秒間だけ照射を停止している。この中間工程の時間を変更して、貫通穴23の加工不良の発生率を計測した。
【0073】
図18に示すように、0.3秒の設定変更時間のみ(つまり中間工程無し)の場合には貫通穴23の加工不良率が35%であったのに対し、0.1秒の中間工程を実施してレーザ光LBの照射を合計0.4秒停止すると、貫通穴23の加工不良は発生しなかった。また、0.2秒の中間工程を実施してレーザ光LBの照射を合計0.5秒停止した場合にも、貫通穴23の加工不良は発生しなかった。レーザ光LBの照射停止時間を設定変更時間に追加することによって、有底孔21から開口21cの外部へ流出するアシストガスAGの流れが安定し、有底孔21の周辺域SにおいてアシストガスAGがワークWの表面WFから確実に離れて流れるようになるからであると考えられる。
【0074】
(実験10)
第1の実施例の第2工程におけるレーザ光LBの出力について、以下の実験10により検証した。レーザ光LBの出力を除く加工条件は、全て前述した第1の実施例の第2工程での設定の通りとした。第2工程におけるレーザ光LBの出力を変化させて、第1工程で形成した有底孔21に貫通穴23を形成し、ワークWの表面WFの状態を観察した。
【0075】
図19は、第2工程において異なるレーザ光LBの出力で貫通穴23を形成したときの、ワークWの表面WFに付着する溶融物22を写真で示す。(a)は、レーザ光LBの出力を、前述した第1の実施例の設定通りの、ピーク出力4kW、パルス周波数200Hz及びパルスディーティ40%のPWモードに設定したときの、ワークWの表面WFに付着する溶融物22を示す。(b)は、レーザ光LBの出力を、ピーク出力4kW、パルス周波数200Hz及びパルスディーティ50%のPWモードに設定したときの、ワークWの表面WFに付着する溶融物22を示す。パルスデューティが40%から50%に増加すると、ワークWの表面WFにおける周辺域Sへの溶融物22の付着が増大した。このことは、レーザ光LBの出力の増加により、加工点における溶融物22の単位時間当りの発生量が増大して溶融物22が大粒になるため、アシストガスAGによる溶融物22の除去が追いつかなくなったことが原因と考えられる。このように、第2工程では、アシストガスAGにより溶融物22を円滑に除去できるように、レーザ光LBの出力を設定することが望ましいことが検証された。
【符号の説明】
【0076】
11 レーザ加工装置
13 加工ノズル
14 レーザ発振器
16 制御部(NC装置)
21 有底孔
23 貫通穴
LB レーザ光
CL 中心線
AG アシストガス
W ワーク
S 周辺域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面から焦点を離隔させた状態でレーザ光を該表面に照射して、該ワークに、該表面に開口する筒状内周面及び底面を有する有底孔を形成する第1工程と、
前記有底孔の開口の内側にアシストガスを吹き付ける一方で該開口の周辺域には該アシストガスを吹き付けないようにしながら、前記有底孔の前記底面にレーザ光を照射して、前記ワークを貫通する貫通穴を形成する第2工程と、
を具備することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記第1工程は、前記第2工程で前記有底孔の前記開口の内側に前記アシストガスを吹き付けるために用いられる加工ノズルのガス放出口の直径よりも、大きな開口径を有する前記有底孔を形成する、請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第2工程は、前記レーザ光の焦点を、前記有底孔の前記底面に合わせるか、又は前記底面を越えて前記ワークの内部に合わせた状態で、前記底面に前記レーザ光を照射する、請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記第1工程と前記第2工程との間に、前記レーザ光の照射を一時的に停止する中間工程をさらに具備する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
レーザ発振器から出射されたレーザ光を集光してワークに照射するとともに該ワークにアシストガスを吹き付ける加工ヘッドと、
前記加工ヘッドの動作を制御する制御部であって、前記ワークの表面から焦点を離隔させた状態で前記レーザ光を該表面に照射して、該ワークに、該表面に開口する筒状内周面及び底面を有する有底孔を形成する第1工程と、前記有底孔の開口の内側に前記アシストガスを吹き付ける一方で該開口の周辺域には前記アシストガスを吹き付けないようにしながら、前記有底孔の前記底面に前記レーザ光を照射して、前記ワークを貫通する貫通穴を形成する第2工程とを制御する制御部と、
を具備することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2工程で前記有底孔の前記開口の内側に前記アシストガスを吹き付けるために用いられる加工ノズルのガス放出口の直径よりも、大きな開口径を有する前記有底孔を形成するように前記第1工程を制御する、請求項5に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記レーザ光の焦点を、前記有底孔の前記底面に合わせるか、又は前記底面を越えて前記ワークの内部に合わせた状態で、前記底面に前記レーザ光を照射するように、前記第2工程を制御する、請求項5又は6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1工程と前記第2工程との間に、前記レーザ光の照射を一時的に停止する中間工程をさらに設けて制御する、請求項5〜7のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項1】
ワークの表面から焦点を離隔させた状態でレーザ光を該表面に照射して、該ワークに、該表面に開口する筒状内周面及び底面を有する有底孔を形成する第1工程と、
前記有底孔の開口の内側にアシストガスを吹き付ける一方で該開口の周辺域には該アシストガスを吹き付けないようにしながら、前記有底孔の前記底面にレーザ光を照射して、前記ワークを貫通する貫通穴を形成する第2工程と、
を具備することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記第1工程は、前記第2工程で前記有底孔の前記開口の内側に前記アシストガスを吹き付けるために用いられる加工ノズルのガス放出口の直径よりも、大きな開口径を有する前記有底孔を形成する、請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記第2工程は、前記レーザ光の焦点を、前記有底孔の前記底面に合わせるか、又は前記底面を越えて前記ワークの内部に合わせた状態で、前記底面に前記レーザ光を照射する、請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記第1工程と前記第2工程との間に、前記レーザ光の照射を一時的に停止する中間工程をさらに具備する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
レーザ発振器から出射されたレーザ光を集光してワークに照射するとともに該ワークにアシストガスを吹き付ける加工ヘッドと、
前記加工ヘッドの動作を制御する制御部であって、前記ワークの表面から焦点を離隔させた状態で前記レーザ光を該表面に照射して、該ワークに、該表面に開口する筒状内周面及び底面を有する有底孔を形成する第1工程と、前記有底孔の開口の内側に前記アシストガスを吹き付ける一方で該開口の周辺域には前記アシストガスを吹き付けないようにしながら、前記有底孔の前記底面に前記レーザ光を照射して、前記ワークを貫通する貫通穴を形成する第2工程とを制御する制御部と、
を具備することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2工程で前記有底孔の前記開口の内側に前記アシストガスを吹き付けるために用いられる加工ノズルのガス放出口の直径よりも、大きな開口径を有する前記有底孔を形成するように前記第1工程を制御する、請求項5に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記レーザ光の焦点を、前記有底孔の前記底面に合わせるか、又は前記底面を越えて前記ワークの内部に合わせた状態で、前記底面に前記レーザ光を照射するように、前記第2工程を制御する、請求項5又は6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1工程と前記第2工程との間に、前記レーザ光の照射を一時的に停止する中間工程をさらに設けて制御する、請求項5〜7のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【図11】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【図11】
【図19】
【公開番号】特開2013−27907(P2013−27907A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166237(P2011−166237)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]