説明

ピストンの内部欠陥検査方法

【課題】非破壊法によってピストンの内部欠陥を簡便にかつ容易に検査する。
【解決手段】オイル流路40に所定温度の液状熱媒体を注入しながら、冠面10の昇温速度に関連した物理量を測定し、その物理量を予め決められた基準値と比較する。
内部欠陥が存在する部位は断熱性が高いため伝熱経路が長くなり、欠陥品と基準品とで冠面10の昇温速度が異なる。したがって基準品との昇温速度の差を比較することで、内部欠陥の有無を判別できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられるピストンの鋳巣などの内部欠陥を、非破壊法によって検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車においては、地球温暖化の抑制の一環としてエンジンの燃焼効率をさらに向上させることが望まれ、さらなる燃費の向上が課題となっている。
【0003】
自動車のエンジンにおいて、燃費を向上させるためにはピストン冠部を冷却し、ノッキングを防止して圧縮比を向上させることが有効である。そのため、例えば実開昭59−130020号公報には、ピストン冠部に中空部を形成するとともに、中空部とピストン外部とを連通するオイル流入口とオイル流出口を形成したピストンが記載されている。このピストンによれば、オイル流入口からオイルを中空部内に供給し、中空部内のオイルをオイル排出口から排出することで、中空部を流れるオイルによってピストン冠部を冷却することができる。
【0004】
また特開平05−288049号公報には、ピストン冠部の内部に渦巻き状のオイル流路を形成し、そのオイル流路を流れるオイルによってピストン冠部を冷却するようにしたピストン冷却装置が記載されている。
【0005】
またシリンダ内へ燃料を直接噴射するシステムにおいては、ピストン冠部の表面である冠面における噴霧燃料の分布が燃焼効率に対して重要な因子であり、表面積の増大と燃費の向上を目的として、冠面の形状を凹凸形状とすることも行われている。
【0006】
このようなピストンは、一般に、アルミニウム合金などから鋳造によって製造されている。ところがピストンの形状が複雑になるほど、鋳造時に鋳巣が発生しやすいという問題がある。特にピストン冠部の内部に鋳巣が発生すると、その鋳巣には空気が存在していることから、空気の断熱作用によって冷却効率が低下し、その結果、燃費の向上度合いが低くなってしまう。
【0007】
またオイル流路を形成するために、鋼材などからなる別部材を鋳包むことが行われている。さらに、ピストンリングによる摩耗を抑制するために、リング溝をもつ鋳鉄製の耐摩環を鋳包むことも行われている。ところが、これらの別部材を鋳包む場合には、別部材とピストン本体との接合不良が生じ、別部材とピストン本体との界面で剥離が生じる場合があった。このような剥離部分には空気が存在し、鋳巣と同様にその断熱作用によって冷却効率が低下してしまう。
【0008】
そこで、生産されたピストンを検査して、鋳巣や剥離の存在する不良品を検出する必要がある。この検査は、非破壊検査で行うことが望ましく、各種の検査方法が提案されている。
【0009】
例えば実開平06−078808号公報には、超音波を用いてピストンの内部欠陥を検出する方法が記載されている。しかしこの検査方法では、超音波の入射波がピストン冠部の凹凸や別部材との界面で複雑に反射し、検査精度が低いという問題がある。また被検体を回転させたり、複数の探触子の作動と非作動の切換などを行わなければならず、検査工数が大きいという不具合もある。
【0010】
また特開平01−156662号公報には、繊維強化部をもつピストンについて、アコースティック・エミッション法を利用して内部欠陥を検査する方法が記載されている。ところがアコースティック・エミッション法では、冷却中に進展するクラックなど動的に発生する欠陥は検出できるものの、鋳巣など静的に発生した欠陥を検出することは困難である。
【特許文献1】実開昭59−130020号公報
【特許文献2】特開平05−288049号公報
【特許文献3】実開平06−078808号公報
【特許文献4】特開平01−156662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、非破壊法によってピストンの内部欠陥を簡便にかつ容易に検査できるようにすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明のピストンの内部欠陥検査方法の特徴は、ピストン冠部を上底とする有底筒状をなし、ピストン冠部にオイル流入口とオイル流出口をもつオイル流路を備えたピストンを用い、ピストン冠部の内部欠陥を非破壊で検査する方法であって、
オイル流路に所定温度の液状熱媒体を注入しながらピストン冠部の表面である冠面の昇温速度に関連した物理量を測定し、その物理量を予め決められた基準値と比較することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のピストンの内部欠陥検査方法では、オイル流路に所定温度の液状熱媒体を注入しながら冠面の昇温速度に関連した物理量を測定する。鋳巣や剥離部などの内部欠陥が存在する部位は、他の正常な部位より断熱性が高いため、オイル流路内の液状熱媒体からの熱は内部欠陥を避けるように伝熱し、伝熱距離が長くなる。したがって、内部欠陥の存在しない基準品の所定位置の昇温速度に関連した物理量を基準値として予め測定しておくことで、検体の同一位置における同物理量に基準値と差が生じていれば、検体には内部欠陥が存在すると判定される。
【0014】
すなわち本発明のピストンの内部欠陥検査方法によれば、非破壊で精度高く内部欠陥の有無を検査することができ、かつ検査工数も小さい。したがって全数検査が可能となり、製品の信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のピストンの内部欠陥検査方法は、ピストン冠部にオイル流路を備えたピストンに適用される。ピストン冠部の形状、オイル流路の形状には、特に制限がない。ピストン冠部には、オイル流路と外部とを連通するオイル流入口とオイル流出口が形成されている。
【0016】
オイル流路がピストン冠部の局部的に形成されていると、オイル流路から遠い部位における内部欠陥の存在の検出精度が低下する。したがってオイル流路は、ピストン冠部の表面から見て均一に分布していることが望ましい。しかし、ピストン冠部の表面から見て全面に均一に分布している必要はなく、少なくともオイル流路がピストン冠部を略一周するように形成されていれば足りる。
【0017】
本発明のピストンの内部欠陥検査方法では、先ずオイル流路に所定温度の液状熱媒体が注入される。この液状熱媒体としては、水、高沸点有機溶媒、各種オイル、グリコール類などを用いることができる。室温で液状であり、沸点が50℃以上であり、かつ熱容量が高いものが望ましく、オイル流路に残存しても弊害の無いエンジンオイルが特に望ましい。オイル流路に注入される液状熱媒体の温度は特に制限されないが、検体であるピストンの温度との温度差が50〜 100℃程度が推奨される。温度差が小さすぎても大きすぎても、内部欠陥の検出精度が低下する場合がある。
【0018】
オイル流路への液状熱媒体の注入は、使用時のオイルの供給と同様に、オイル流入口又はオイル排出口へ向かってノズルから液状熱媒体を噴出させて行うことができる。噴出中の液状熱媒体の冷却を防止するために、ノズルの先端をオイル流入口又はオイル排出口に差し込む、あるいはオイル流入口又はオイル排出口に密着させた状態で噴出させることが望ましい。
【0019】
オイル流路に所定温度の液状熱媒体が注入された後、ピストン冠部の表面である冠面の昇温速度に関連した物理量が測定される。液状熱媒体は、オイル流路内に滞留した状態であってもよい。しかしオイル流路内に滞留していると、伝熱によって液状熱媒体の温度が徐々に低下するので、昇温速度に関連した物理量の基準品との差が小さくなり、検査精度が低くなる場合がある。したがって、所定温度の液状熱媒体が一定流速でオイル流路内を常に流動した状態であることが望ましい。液状熱媒体の流速にばらつきが生じると、検出精度が低下する場合がある。
【0020】
昇温速度に関連した物理量としては、所定時間経過後の所定部位の温度、所定部位の温度が所定温度に到達するまでの時間、所定部位の到達最高温度などから選択することができる。このうち一つでもよいし、複数の物理量を測定することも好ましい。また所定部位は一箇所のみでもよいが、複数箇所とすることが望ましい。
【0021】
所定時間経過後の所定部位の温度、あるいは所定部位の温度が所定温度に到達するまでの時間を測定することで、鋳巣などの存在を検出することができる。また所定部位の到達最高温度を測定することで、オイル流路の閉塞などの異常も検出することができる。
【0022】
昇温速度に関連した物理量を測定するには、液状熱媒体の注入時からの時間を測定するとともに、熱電対を接触させて冠面の所定点の表面温度を測定する方法、冠面の遠赤外線強度を検出して画像分析する方法など、公知の手段を用いることで測定することができる。
【0023】
測定された昇温速度に関連した物理量は、予め決められた基準値と比較される。予め決められた基準値とは、内部欠陥が存在しないことが予めわかっている基準品を用い、上記と同様に液状熱媒体を注入して測定された値である。基準品は、検体と同一形状をなし、同一材料から製造されたものである。
【0024】
本発明の内部欠陥検査方法においては、基準品及び検体の初期温度は同一温度とし、基準品及び検体の測定時に注入される液状熱媒体の温度も同一とする必要がある。基準品及び検体の初期温度は特に制限されないが、液状熱媒体の温度と検体の温度との温度差を50〜 100℃程度とする場合には、初期温度は室温程度とすることが好ましい。室温程度の初期温度とすれば、製造されたピストンを初期温度とするまでの時間が短いので、検査工数をさらに小さくすることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0026】
(実施例1)
図1に、本実施例で用いた自動車のディーゼルエンジン用のピストンの断面図を示す。このピストンは、アルミニウム合金から鋳造によって一体に形成され、上底を構成する有底円筒状のピストン冠部1と、ピストン冠部1の下部に形成された薄肉のスカート部2とを備えている。スカート部2には、コンロッドを枢支するピンが保持される一対のピン孔20が形成されている。
【0027】
ピストン冠部1は、上面に凹凸形状をなす冠面10を備え、ピストン冠部1の外周には複数のリング溝11が形成されている。最上部のリング溝11は、断面コ字状の鋳鉄製の耐摩環3から形成されている。また耐摩環3の背面には断面C字形状の鋼リング4が配置され、耐摩環3の内周表面と鋼リング4とで囲まれたリング状空間が冷却用のオイル流路40を構成している。オイル流路40は、ピストン冠部1を一周している。耐摩環3及び鋼リング4は、ピストンの鋳造時に鋳ぐるまれて一体化されている。
【0028】
ピストン冠部1の内周表面には、オイル流入口12とオイル排出口13とが開口し、オイル流入口12とオイル排出口13とは共に連通路14を介してオイル流路40と連通している。
【0029】
先ず、超音波探傷法によって内部欠陥が存在しないことが明らかとなったピストンの基準品を用意した。この基準品は、検体であるピストンと同一形状であり、同一材質である。
【0030】
図2に示すように、基準品を検査装置にセットした。この検査装置は、ピストン冠部1の冠面10の表面温度を測定する表面温度計5と、オイル流路40にエンジンオイルを供給するオイル供給装置6とから構成されている。表面温度計5には、複数の熱電対50が接続されている。複数の熱電対50は、冠面10の所定部位にそれぞれ当接している。表面温度計5は、複数の熱電対50の信号を同時に処理し、冠面10の複数の所定部位における表面温度を同時に検出する。
【0031】
オイル供給装置6は、エンジンオイル60を蓄えた容器61と、ポンプ62と、ヒータ63と、ノズル64とから構成されている。ポンプ62は、容器61内のエンジンオイル60を所定圧力でヒータ63へ送り、ヒータ63で所定温度に加熱されたエンジンオイル60がノズル64から所定圧力で噴出する。ノズル64の先端はオイル流入口12に密着し、オイル流入口12から連通路14を介してオイル流路40にエンジンオイル60が注入される。オイル流路40を流れたエンジンオイル60は、オイル排出口13から排出されて容器61に戻る。
【0032】
検査の間はポンプ62及びヒータ63が常に駆動され、オイル流路40には常に一定温度( 100℃)のエンジンオイル60が一定流速( 0.5m/秒)で流れている。
【0033】
基準品は室温(25℃)の状態で検査装置にセットされ、 100℃のエンジンオイル60がオイル流路40に注入されると、エンジンオイル60はオイル流路40を一定流速( 0.5m/秒)で循環する。表面温度計5は、オイル注入直後から冠面10の複数の部位の温度を検出して時間と共に連続的に測定する。ある一つの熱電対50が当接している部位における測定結果を図3に実線で示す。その部位の表面温度は、エンジンオイル60の注入直後から直線的に上昇し、所定時間経過後は一定温度となる。
【0034】
次に、基準品に代えて検体のピストン(25℃)を検査装置にセットし、上記と同様にして冠面10の同じ部位の表面温度の変化を測定した。結果を図3に一点鎖線で示す。その部位の表面温度は、エンジンオイル60の注入直後から直線的に上昇し、所定時間経過後は基準品と同一の一定温度となる。しかしピストン冠部1に内部欠陥が存在すると、基準品に比べて昇温速度が低下する。
【0035】
すなわち図4に示すように、ピストン冠部1に鋳巣 100が存在すると、エンジンオイル60からの熱は鋳巣 100を避けるように伝熱され、鋳巣 100の存在しない場合に比べて伝熱経路が長くなる。そのため、その伝熱経路の延長上にある冠面の部位における昇温速度が低下する。また鋼リング4の背面に剥離部 101が存在する場合にも同様の現象が生じ、剥離部 101に近い冠面の部位における昇温速度が低下する。
【0036】
そして鋳巣 100や剥離部 101の数が多いほど、あるいはその容積が大きいほど、昇温速度の低下度合いが大きい。そこで図3から、エンジンオイル60の注入開始から所定時間(t)経過後(例えば10秒後)の温度を読み取る。その時点における基準品の表面温度はTs であるのに対し、検体の表面温度はTs からΔTだけ低いT1 である。したがってΔTの値を標準値と比較することで、検体の品質の合否を判定することができる。
【0037】
(実施例2)
本実施例では、検体の品質の合否の判定方法が異なること以外は実施例1と同様に測定した。
【0038】
すなわち図5に示すように、基準品及び検体ともに、冠面10の所定部位の温度が所定温度(T:例えば60℃)となるまでに要した時間(基準品:ts 、検体:t1 )を計測した。その結果、検体はΔt=t1 −ts だけ遅くなるため、Δtの値を標準値と比較することで、検体の品質の合否を判定することができる。
【0039】
(実施例3)
本実施例も、検体の品質の合否の判定方法が異なること以外は実施例1と同様に測定した。
【0040】
すなわち図6に示すように、基準品及び検体ともに、冠面10の所定部位における到達最高温度(基準品:Ts 、検体:T1 )を計測した。このように到達最高温度に差があり、その差(ΔT)が所定値より大きい場合には、オイル流路40に何らかの異常が存在することが推察される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のピストンの内部欠陥検査方法は、自動車エンジン用のピストンに限らず、各種内燃機関に用いられるピストンを検査するのに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例に用いたピストンの断面図である。
【図2】本発明の一実施例における検査装置の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施例における測定結果を示し、測定時間と表面温度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施例に用いた鋳巣をもつピストンの断面図である。
【図5】本発明の第2の実施例における測定結果を示し、測定時間と表面温度との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第3の実施例における測定結果を示し、測定時間と表面温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1:ピストン冠部 2:スカート部 5:表面温度計
10:冠面 40:オイル流路 50:熱電対
60:エンジンオイル 62:ポンプ 63:ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン冠部を上底とする有底筒状をなし、該ピストン冠部にオイル流入口とオイル流出口をもつオイル流路を備えたピストンを用い、該ピストン冠部の内部欠陥を非破壊で検査するピストンの内部欠陥検査方法であって、
該オイル流路に所定温度の液状熱媒体を注入しながら該ピストン冠部の表面である冠面の昇温速度に関連した物理量を測定し、該物理量を予め決められた基準値と比較することを特徴とするピストンの内部欠陥検査方法。
【請求項2】
前記測定は、前記オイル流路に該液状熱媒体を一定流速で流通させながら行う請求項1に記載のピストンの内部欠陥検査方法。
【請求項3】
前記ピストン冠部には耐摩環をもつリング溝を備え、前記オイル流路は該耐摩環の背面に形成されて前記ピストン冠部を略一周している請求項1又は請求項2に記載のピストンの内部欠陥検査方法。
【請求項4】
前記物理量は、所定時間経過後の所定部位の温度、所定部位の温度が所定温度に到達するまでの時間、所定部位の到達最高温度から選ばれる少なくとも一つである請求項1〜3のいずれかに記載のピストンの内部欠陥検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−216416(P2009−216416A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57588(P2008−57588)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】