説明

ピストンの冷却構造

【課題】エンジンを大型化することなく、冷却効率を向上させることができるようにした、ピストンの冷却構造を提供する。
【解決手段】クランクケース内に設けられたクランクシャフト13と、クランクシャフト13にコネクティングロッド12を介して設けられたピストン20と、クランクケース内に設けられ、クランクシャフト13に駆動されてクランクケース内で回転して流体をピストン20の裏面22側へ向けて送る供給手段30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのピストンの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの圧縮比を高圧縮比に設定することでエンジンの出力を向上させる手法が知られている。一方、圧縮比を高く設定しすぎるとノッキングが発生し、振動及び騒音が増大するほか、エンジンの耐久性を低下させる原因になることも知られている。そのため、圧縮比は、ノッキングが発生しない範囲内において高圧縮比に設定されているが、ノッキングの発生を防止することができれば、圧縮比をより高く設定することが可能である。
【0003】
ノッキングを防止する方法としては、例えば、燃焼室形状の変更によって燃焼期間を短縮させることや、エンジン冷却水の流れを改善することで燃焼室壁温を低下させること等が考えられる。また、特許文献1に記載のように、クランクケース内にオイルジェット機構を設け、このオイルジェット機構からピストンの裏面に向けて冷却用のオイルを噴射することでピストンを冷却する方法も採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−28626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1は、シリンダブロック内に、ピストンを冷却するためのオイルジェット機構に関連するオイルバスや動弁用カム等の部品を追加している。そのため、動弁用カムを回転駆動するための駆動軸をエンジンのカム室内に追加する必要が生じるほか、オイルバスとして機能する空間をシリンダヘッドに形成しなければならない。したがって、エンジン全体が大型化し、重量が増加してしまうという課題がある。
【0006】
また、上記の特許文献1の技術では、ピストンを冷却するための冷媒として液状のエンジンオイルを使用しており、オイルが当たる部分と当たらない部分とで熱伝達が異なり、部分的に冷却効率の大小が発生するという課題がある。すなわち、ピストンの熱を効率よく奪うには、ピストンの裏面全体にオイルを拡散させてピストンの熱をオイルに吸熱させる必要がある。しかし、特許文献1の技術では、ジェット形状の制約や噴射速度の確保等により極一部分にしかオイルを噴き付けることができないため、冷却されやすい部分もあればほとんど冷却されない部分もあり、ピストン全体で考えると、冷却効率が低下してしまうおそれがある。
【0007】
本件はこのような課題に鑑み案出されたもので、エンジンを大型化することなく、冷却効率を向上させることができるようにした、ピストンの冷却構造を提供することを目的の一つとする。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)ここで開示するピストンの冷却構造は、クランクケース内に設けられたクランクシャフトと、前記クランクシャフトにコネクティングロッドを介して設けられたピストンと、前記クランクケース内に設けられ、前記クランクシャフトに駆動されて前記クランクケース内で回転して流体を前記ピストンの裏面側へ向けて送る供給手段と、を備える。
(2)前記クランクシャフトは、前記コネクティングロッドに対向する面とは反対の面に複数のフィン部が形成されたカウンタウエイトを有し、前記供給手段が、前記カウンタウエイトによる遠心ファンであることが好ましい。
【0009】
(3)このとき、前記カウンタウエイトの外形状が、前記クランクシャフトの軸方向視において、前記コネクティングロッドの大端部に連結されていない側に前記カウンタウエイトの重心が位置するように片寄り形状に形成されていることが好ましい。
(4)或いは、前記カウンタウエイトの外形状が、前記クランクシャフトの軸方向視において、略円形に形成されていることが好ましい。
【0010】
(5)前記フィン部が、前記クランクシャフトの軸方向視において、前記コネクティングロッドの前記大端部に連結されていない側に前記カウンタウエイトの重心が位置するように形成されることが好ましい。
(6)前記クランクケース内に設けられ、前記供給手段による流体の流れを前記ピストンの前記裏面側のみに送るカバーをさらに備えることが好ましい。
【0011】
(7)前記供給手段が、前記クランクシャフトに設けられるカウンタウエイトとは別体で設けられたファンであることが好ましい。
(8)このとき、前記ファンによる流体の流れを前記ピストンの前記裏面側に送るガイドをさらに備えることが好ましい。
(9)前記ピストンの前記裏面には、溝が形成されていることが好ましい。
【0012】
(10)このとき、前記溝が、前記クランクシャフトの軸方向と同方向に形成されていることが好ましい。
(11)或いは、前記溝が、前記クランクシャフトの軸方向と直交する方向に形成されていることが好ましい。
(12)また、前記溝が、直線状に形成されていることが好ましい。
【0013】
(13)或いは、前記溝が、曲線状に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
開示のピストンの冷却構造によれば、エンジンを大型化することなく、クランクシャフトの回転に伴って駆動される供給手段により、クランクシャフト回転時は常時ピストンの裏面に流体を送ることができる。これにより、ピストン裏面での熱交換が活発になるため、ピストンを常時冷却することができ、冷却効率を向上させることができる。したがって、ピストンの過熱により発生するノッキングを抑制することができ、圧縮比を高圧縮比に設定することが可能となり、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に係るピストンの冷却構造を説明する模式的な全体構成図であり、(a)はクランクシャフトの軸方向から見た図、(b)は図1(a)のB方向矢視図である。
【図2】一実施形態に係るピストンの冷却構造が適用されたピストン裏面の模式的な断面図である。
【図3】他の実施形態に係る供給手段の模式的な軸方向矢視図である。
【図4】他の実施形態に係るピストンの冷却構造を説明する模式図であり、(a)はクランクシャフトの軸方向から見た図、(b)は図4(a)のB方向矢視図である。
【図5】他の実施形態にかかるピストンの冷却構造を示す模式図である。
【図6】他の実施形態に係るピストン裏面の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
[1.構成]
図1(a)及び(b)は、本実施形態にかかるピストンの冷却構造を説明するためのもので、図1(a)はクランクシャフトの軸方向から見た図、図1(b)はクランクシャフトの軸方向と直交する方向から見た図である。
【0017】
図1(a)及び(b)に示すように、エンジン10のシリンダ11内には、シリンダ11内を往復運動するピストン20が設けられている。ピストン20は、ピストンピン21によってコネクティングロッド12の一端(以下、小端部という)12aに連結されている。また、コネクティングロッド12の他端(以下、大端部という)12bは、クランクピン15によってクランクシャフト13に連結されている。すなわち、ピストン20とクランクシャフト13とは、コネクティングロッド12を介して連結されている。このようなリンク機構をクランクスライダ機構と呼ぶ。
【0018】
ピストン20の上方には図示しない燃焼室が形成されており、この燃焼室内での混合気の爆発力がコネクティングロッド12を介してクランクシャフト13に伝達されることにより、動力が生み出される。なお、この図1(a)及び(b)では、説明の簡略化のため、第1のシリンダ11内に設けられたピストン20の冷却構造のみを示すが、他のシリンダ内に設けられるピストンについても、ピストン20の冷却構造と同様の構造になっている。
【0019】
クランクシャフト13は、ピストン20の往復運動を回転運動に変換すべくクランク状に屈曲形成された軸であり、図示しないシリンダブロックの下部とオイルパンとで囲まれた空間であるクランクケース内に設けられている。クランクシャフト13は、主軸であるクランクジャーナル14と、コネクティングロッド12が取り付けられるクランクピン15と、バランスをとるためのカウンタウエイト(バランスウエイトともいう)30とを有している。また、カウンタウエイト30の一部(クランクジャーナル14とクランクピン15との間の部分)は、クランクジャーナル14とクランクピン15とを繋ぐアームとしても機能する。
【0020】
クランクジャーナル14はエンジン10の出力軸であり、クランクピン15の回転中心軸に対して平行に配置される。クランクジャーナル14の回転中心とクランクピン15の回転中心との間の距離は、コネクティングロッド12の大端部12bの回転運動の軌跡の半径に相当する。
カウンタウエイト30は、クランクジャーナル14とクランクピン15との間に設けられ、ここでは1気筒に2つずつ対になるように設けられている。カウンタウエイト30の外形状は、クランクシャフト13の軸方向視において、コネクティングロッド12の大端部12bに連結されている部分(以下、連結部という)30aからクランクジャーナル14を挟んだ反対の部分(すなわち、クランクジャーナル14を中心として、クランクピン15と反対側、以下、解放部という)30bにカウンタウエイト30の重心が位置するような、片寄り形状に形成されている。
【0021】
すなわち、カウンタウエイト30の重心位置は、クランクジャーナル14ではなく、解放部30b側に偏っている(すなわち、不均衡になっている)。これにより、カウンタウエイト30は、コネクティングロッド12の大端部12bの往復と回転の慣性力とのバランスをとり、エンジン10の振動を防ぐ。なお、カウンタウエイト30は、1気筒に2つずつ対になるように設けられていなくてもよく、バランスをとることができれば1つであってもよい。
【0022】
なお、本実施形態では、カウンタウエイト30は、図1(a)に示すように、クランクジャーナル14の回転中心とクランクピン15の回転中心とを結んだ線を中心として線対称に形成されており、解放部30bの外形状が円弧状になっている。そして、この円弧の中心がクランクジャーナル14の回転中心と一致するように形成されている。つまり、カウンタウエイト30の外形状(後記する対向板32の外形状)は、クランクジャーナル14の回転中心を中心とした略扇形と、コネクティングロッド12の大端部12bとクランクジャーナル14との間の間隔を長辺とする略長方形とを組み合わせたような形状となっている。
【0023】
カウンタウエイト30は、本リンク機構の回転節をなす部材であり、クランクシャフト13の回転に伴って回転駆動される。なお、クランクシャフト13は、図1(a)及び(b)中に矢印Aで示す方向に回転する。本冷却構造は、このカウンタウエイト30の回転を利用して、クランクケース内に存在するエンジンオイルやガス等の流体をピストン20の裏面側へ向けて送る。すなわち、本冷却構造では、カウンタウエイト30を供給装置(供給手段)とする。
【0024】
カウンタウエイト30には、コネクティングロッド12に対向する面と反対の面(すなわち、クランクジャーナル14側の面)に立設された複数のフィン部31が形成されている。なお、コネクティングロッド12に対向する板を対向板32という。フィン部31は、クランクジャーナル14を中心とした径方向外側であって、連結部30a及び解放部30bのいずれにも形成されている。フィン部31は、カウンタウエイト30の周方向に略等間隔に設けられ、連結部30aに設けられる数よりも解放部30bに設けられる数のほうが多い。また、フィン部31は、クランクシャフト13の軸方向視において湾曲して形成されている。フィン部31の湾曲する向きは、カウンタウエイト30の中心側から、クランクシャフト13の回転方向と同じ向きである。複数のフィン部31がこのように構成されているため、カウンタウエイト30は、クランクシャフト13が回転すると、その遠心方向に向かって風を流すことができる遠心ファンとなっている。
【0025】
次に、供給手段としてのカウンタウエイト30によって冷却されるピストン20について説明する。本冷却構造におけるピストン20は、その裏面22に溝部26が形成されている。
詳述すると、図2(a)に示すように、ピストン20の裏面22、すなわち、スカート部23,ピストンピン21のボス部24及びピストンピン21の孔部25以外の部分の面には、ピストンピン21の軸方向と同じ方向(すなわち、クランクシャフト13の軸方向と同じ方向)に延びる直線状の細長いくぼみである溝部26が、略等間隔で複数形成されている。なお、溝部26の形成される相互間隔やくぼみの深さは、適宜変更可能である。
【0026】
[2.作用,効果]
本実施形態にかかるピストンの冷却構造は上述のように構成されているため、ピストン20は以下のように冷却される。
ピストン20がシリンダ11内を往復運動することにより、クランクシャフト13は、図1(a)及び(b)中に矢印Aで示す方向に回転し、供給手段としてのカウンタウエイト30も回転する。カウンタウエイト30が回転すると、カウンタウエイト30に設けられたフィン部31が、クランクケース内にあるエンジンオイルやガス等を含む流体としての風をカウンタウエイト30の遠心方向に供給する。すなわち、カウンタウエイト30が遠心ファンとして機能する。
【0027】
フィン部31により流された風は、その一部がピストン20の裏面22に向かって流される。すなわち、クランクシャフト13の回転時は、常にピストン20の裏面22の近傍において風の流れが生成される。
一方、風の流れを受けるピストン20の裏面22には、クランクシャフト13の軸方向に沿った溝部26が形成されており、図1(a)中の白抜き矢印のように流れる風が、溝部26の延びる方向に沿って流れる。
【0028】
したがって、本実施形態にかかるピストンの冷却構造によれば、クランクシャフト13の回転に伴って回転駆動されるカウンタウエイト30により、クランクシャフト13の回転時は、常にピストン20の裏面22に風を送り、ピストン20の裏面22近傍において流れを発生させることができる。これにより、ピストン20の裏面22での熱交換が活発になるため、ピストン20を常時冷却することができる。また、エンジン10に新たな装置等を追加する必要がない。
【0029】
また、上記の冷却構造は、ピストン20を冷却するための冷媒としてクランクケース内の流体を流動させて直接利用する冷却構造である。すなわち、上記の冷却構造における供給手段は、クランクシャフト13に駆動されて回転しクランクケース内の流体をピストン裏面側へ送るファンである。ここで、ファンとは、プロペラ(翼)の回転運動によって流体を押圧して圧力を加え、流体を循環させて対流を生じさせるものである。これにより、冷媒として一部分にしか噴き付けることができない液体を用いた場合よりも熱伝達を向上させることができる。
【0030】
以上より、エンジン10を大型化することなく、ピストン20を効率的に冷却でき、ピストン20の過熱により発生するノッキングを抑制することができるため、圧縮比を高圧縮比に設定することが可能となり、燃費を向上させることができる。
また、供給手段が、カウンタウエイト30にフィン部31を設けて構成された遠心ファンであるため、従来からクランクシャフト13に設けられているカウンタウエイト30を利用することにより、部品点数の増加を防ぐことができ、コスト増を抑制することができる。また、カウンタウエイト30を遠心ファンとすることにより、クランクシャフト13の回転時は、常にカウンタウエイト30の遠心方向に流れを生成することができ、ピストン20を常に冷却することができる。
【0031】
また、カウンタウエイト30の外形状が、クランクシャフト13の軸方向視において、解放部30b側にカウンタウエイト30の重心が位置するような片寄り形状に形成されているため、慣性モーメントを大きくすることができ、カウンタウエイト30の本来の機能である、ピストン20の往復とクランクシャフト13の回転による慣性力とのバランスをとってエンジン10の振動を防ぐことができる。すなわち、バランスを保ちながら、ピストン20の冷却も行うことができる。
【0032】
また、ピストン20の裏面22に溝部26が形成されているため、ピストン20の裏面22の表面積を増やし、冷却効率を向上させることができる。特に、図2に示すように、スカート部23とピストンピン21のボス部24とで囲まれた内側の裏面22aは、面積が狭小であるため、溝部26によって表面積を増やすことにより、冷却効率を向上させることができる。
【0033】
さらに、溝部26がクランクシャフト13の軸方向と同じ方向に形成されているため、図1(b)中に白抜き矢印で示す風の流れ(すなわち、クランクシャフト13側からピストン20の裏面22側へ上昇する流れ)を溝部26に沿わせることができ、ピストン20をより効率的に冷却することができる。特に、図2に示すように、スカート部23とピストンピン21のボス部24とで囲まれていない外側の裏面22bに溝部26を設けることにより、上昇してきた風の流れがスムーズに溝部26に沿い、外側の裏面22bの内から外へ風が流されるため、ピストン20をより効率的に冷却することができる。
また、溝部26が直線状であるため、加工が容易である。
【0034】
[3.変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
[3−1.供給手段等の他の例]
例えば、上記実施形態で説明したピストン20の裏面22の形状を変えずに、供給手段を以下のようにすることができる。
【0035】
上記実施形態では、カウンタウエイト30の外形状を片寄り形状としていたが、例えば、図3に示すように、カウンタウエイト30′の外形状を略円形に形成してもよい。カウンタウエイト30′をこのように形成することにより、供給手段としての機能をより重視することができるため、より強い風の流れを生成することができ、ピストン20の冷却効率を向上させることができる。また、形状が簡素であるため、加工が容易でコストを削減することができる。
【0036】
また、このとき、図3に示すように、フィン部31がカウンタウエイト30′の周方向に等間隔ではなく、解放部30b′側の数が多くなるように設けられていてもよい。これにより、カウンタウエイト30′の外形状が略円形であっても、カウンタウエイト30′の重心位置を解放部30b′側に偏らせることができ、カウンタウエイト30′の機能を確保しながらピストン20の冷却効率を向上させることができる。
【0037】
また、カウンタウエイト30′の重心位置を解放部30b′側に偏らせる構成としては、上記のようにフィン部31の数を変える以外に、例えば、解放部30b′側に設けられるフィン部31の形状を大きくしてもよく、また、解放部30b′側に設けられるフィン部31の方が重くなるように材料を変更して密度を変更する等でもよい。このような構成により、カウンタウエイト30′の重心位置を解放部30b′側へ偏らせることができれば、上記した効果を得ることができる。
【0038】
なお、フィン部31の数や形状等によってカウンタウエイト30′の重心位置を偏らせる構成は、上記の実施形態で説明した片寄り形状のカウンタウエイト30にも適用可能である。すなわち、図1(a)に示す片寄り形状のカウンタウエイト30において、解放部30b側に設けられるフィン部31の数や形状等を変更してもよい。これにより、複数のフィン部31によってピストン20を冷却しながら、ピストン20の往復とクランクシャフト13の回転による慣性力とのバランスを調整することもできる。
【0039】
また、例えば、図4(a)及び(b)に二点鎖線で示すように、カウンタウエイト30による流体の流れを、ピストン20の裏面22側へのみに送ることができるカバー41を設けてもよい。これにより、複数のフィン部31によって生成された風の流れを全てピストン20の裏面22側に送ることができるため、ピストン20の冷却効率をさらに向上させることができる。
【0040】
なお、図4(a)及び(b)では、上記の実施形態で説明した、片寄り形状のカウンタウエイト30を供給手段として、これにカバー41を設けた例で説明したが、図3に示すような外形状が略円形のカウンタウエイト30′に適用することも可能である。また、フィン部31の数や形状等によって重心位置を偏らせるようにした片寄り形状のカウンタウエイト30及び略円形のカウンタウエイト30′にカバー41を設けることも可能である。このような構成であっても、上記したようにピストン20の裏面22側へのみ風を送ることができるため、ピストン20の冷却効率を上げることができる。
【0041】
また、これまで述べてきた実施形態では、供給手段がカウンタウエイト30又はカウンタウエイト30′によって構成されていたが、供給手段はカウンタウエイトに限られない。例えば、図5に示すように、カウンタウエイト40とは別体で、クランクシャフト13のクランクジャーナル14にファン43を設けて供給手段を構成するようにしてもよい。これにより、クランクシャフト13の回転時は常にファン43によってピストン20の裏面22側に風の流れを生成することができるため、上記した実施形態と同様に、ピストン20を冷却することができる。また、図5に示す例では、供給手段はファン43のみであって、カウンタウエイト40にはフィン部が形成されていない。したがって、簡素な構成とすることができる。
【0042】
また、このとき、図5に示すように、ファン43による風の流れをピストン20の裏面22側へ送るガイド部(ガイド)42を設けてもよい。ガイド部42により、ファン43で生成された風の流れを効率的にピストン20の裏面22側へ送ることができ、ピストン20をより冷却することができる。なお、図5に示す例では、ガイド部42をカウンタウエイト40と一体で設けたが、カウンタウエイト40とは別体でガイドを設けてもよい。
【0043】
また、図5のようにクランクシャフト13に直接ファン43を設けるのではなく、クランクシャフト13とは別の軸をクランクケース内に設けて、この別軸とクランクシャフト13とをギアを介して連結し、クランクシャフト13の回転に伴って回転するように構成して、この別軸にファン(図示略)を設けてもよい。このとき、ファンにより生成される流れがピストン20の裏面22に向かうようにファンを設ければ、クランクシャフト13の回転に伴って、確実にピストン20の裏面22に風を流すことができるため、ピストン20を効率的に冷却することができる。なお、この場合に、さらに上記のようなガイドを設けてもよい。
【0044】
また、ファン43等を、上記した実施形態にかかる冷却構造に適用してもよい。すなわち、供給手段を、複数のフィン部31を有する片寄り形状のカウンタウエイト30又は略円形のカウンタウエイト30′と、カウンタウエイト30又は30′とは別体で設けられたファン43等とで構成してもよい。供給機能を有するカウンタウエイト30又は30′とファン43等とを併用することによって、ピストン20の冷却効率をさらに上げることができる。なお、ここでいうカウンタウエイト30又は30′に設けられるフィン部31は、上記したいずれの構成であってもよい。また、供給手段に上記のようなカバー41が設けられていてもよい。さらに、ファン43等による風の流れをピストン20の裏面22側に送るガイドを設けてもよい。
【0045】
[3−2.ピストン裏面の他の例]
一方、供給手段により風を受ける側のピストン20の裏面22の形状も、上記実施形態のものに限られず、種々変更可能である。
例えば、図6に示すように、ピストンピン21の軸方向と直交する方向(すなわち、クランクシャフト13の軸方向と直交する方向)に延びる直線状の溝部26′を、略等間隔に複数形成されていてもよい。このような構成であっても、ピストン20の裏面22の表面積を増やし、冷却効率を向上させることができる。さらに、図2(a)中に白抜き矢印で示す風の流れ(すなわち、クランクシャフトの回転方向と同方向に回転する流れ)を溝部26′に沿わせることができ、ピストン20をより効率的に冷却することができる。特に、図6に示すように、外側の裏面22bに溝部26′を設けることにより、回転する風の流れをスムーズに溝部26に沿わせてピストン20を冷却することができる。
【0046】
なお、溝部26′は、直線状に限られず、曲線状に形成されていてもよい。この場合、よりピストン20の裏面22の表面積を増やすことができる。また、上記実施形態で説明した溝部26を曲線状としてもよい。その他、溝部26又は26′の相互間隔や深さ等は適宜変更可能であり、外側の裏面22bのみに溝部26又は26′が形成されていてもよい。
【0047】
[3−3.その他]
また、上記した供給手段等の他の例は、ピストン裏面の他の例とを種々組み合わせて構成することももちろん可能である。
また、供給手段はクランクシャフト13の回転に伴って駆動されてクランクケース内の風をピストン20の裏面22側へ向けて送るように構成されていれば、上記したものに限られない。また、カウンタウエイトを供給手段として利用する場合のカウンタウエイトの形状は、上記したものに限られず、遠心ファンとして機能すればよい。
【0048】
さらに、上記は例として、流体が風である場合を説明したが、気体でなく液体でもよい。この場合、例えば、クランクケース内に溜まっているエンジンオイルを供給手段により掻き上げて流れを発生させ、直接ピストン裏面全体に向けて流体としての液体を当てることができる。なお、流体が気体の場合は、供給手段を送風手段ともいえ、また、流体が液体の場合は、供給手段を送液手段ともいえる。
【符号の説明】
【0049】
10 エンジン
11 シリンダ
12 コネクティングロッド
12a 小端部
12b 大端部
13 クランクシャフト
14 クランクジャーナル
15 クランクピン
20 ピストン
21 ピストンピン
22 裏面
23 スカート部
24 ピストンピンのボス部
25 ピストンピンの孔部
26,26′ 溝部(溝)
30,30′ カウンタウエイト(供給手段)
31 フィン部
40 カウンタウエイト
41 カバー
42 ガイド部(ガイド)
43 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケース内に設けられたクランクシャフトと、
前記クランクシャフトにコネクティングロッドを介して設けられたピストンと、
前記クランクケース内に設けられ、前記クランクシャフトに駆動されて前記クランクケース内で回転して流体を前記ピストンの裏面側へ向けて送る供給手段と、を備える
ことを特徴とする、ピストンの冷却構造。
【請求項2】
前記クランクシャフトは、前記コネクティングロッドに対向する面とは反対の面に複数のフィン部が形成されたカウンタウエイトを有し、
前記供給手段が、前記カウンタウエイトによる遠心ファンである
ことを特徴とする、請求項1記載のピストンの冷却構造。
【請求項3】
前記カウンタウエイトの外形状が、前記クランクシャフトの軸方向視において、前記コネクティングロッドの大端部に連結されていない側に前記カウンタウエイトの重心が位置するように片寄り形状に形成されている
ことを特徴とする、請求項2記載のピストンの冷却構造。
【請求項4】
前記カウンタウエイトの外形状が、前記クランクシャフトの軸方向視において、略円形に形成されている
ことを特徴とする、請求項2記載のピストンの冷却構造。
【請求項5】
前記フィン部が、前記クランクシャフトの軸方向視において、前記コネクティングロッドの前記大端部に連結されていない側に前記カウンタウエイトの重心が位置するように形成される
ことを特徴とする、請求項3又は4記載のピストンの冷却構造。
【請求項6】
前記クランクケース内に設けられ、前記供給手段による流体の流れを前記ピストンの前記裏面側のみに送るカバーをさらに備える
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のピストンの冷却構造。
【請求項7】
前記供給手段が、前記クランクシャフトに設けられるカウンタウエイトとは別体で設けられたファンである
ことを特徴とする、請求項1記載のピストンの冷却構造。
【請求項8】
前記ファンによる流体の流れを前記ピストンの前記裏面側に送るガイドをさらに備える
ことを特徴とする、請求項7記載のピストンの冷却構造。
【請求項9】
前記ピストンの前記裏面には、溝が形成されている
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のピストンの冷却構造。
【請求項10】
前記溝が、前記クランクシャフトの軸方向と同方向に形成されている
ことを特徴とする、請求項9記載のピストンの冷却構造。
【請求項11】
前記溝が、前記クランクシャフトの軸方向と直交する方向に形成されている
ことを特徴とする、請求項9記載のピストンの冷却構造。
【請求項12】
前記溝が、直線状に形成されている
ことを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載のピストンの冷却構造。
【請求項13】
前記溝が、曲線状に形成されている
ことを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載のピストンの冷却構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−197778(P2012−197778A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64114(P2011−64114)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】