説明

ピストンポンプ

【課題】 電動機によりピストンを駆動するピストンポンプにおいて、ピストン穴からカム室に漏洩した流体による電動機のブラシの摩耗を防止する。
【解決手段】 カム室41に漏洩した流体を溜める液溜め室46を備える電動式ピストンポンプにおいて、カム室41の側壁面41aと液溜め室46との境界線のうち上部に位置する上部境界線Luを、電動機側から反電動機側に向かって下げる。これにより、ピストン穴42からカム室41に漏洩した流体は、上部境界線Luを伝って重力によって電動機側から反電動機側に向かって流れ、液体溜め室46に確実に導かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機によりピストンを往復動させて流体を吸入し吐出するピストンポンプに関するもので、このピストンポンプは、ABS制御等を行う車両用ブレーキ液圧制御装置における、ブレーキ液を高圧化するためのポンプに好適である。
【背景技術】
【0002】
従来のブレーキ液圧制御装置のピストンポンプは、電動機とともにカムが回転し、カムの回転に伴ってピストンがピストン穴内で往復動してブレーキ液を吸入し吐出するようになっている。また、ピストンとピストン穴との間からのブレーキ液の漏洩を抑制するために、シールリングがピストンに装着されている。
【0003】
そして、図14に示すように、ハウジング4には、ピストン穴42が形成されるとともに、カムが収納されるカム室41が形成されている。このカム室41の一端(図14中の右側)は電動機(図示せず)の内部空間に連通し、カム室41の他端は閉塞されている。また、ハウジング4には、ピストン穴42からカム室41に漏洩したブレーキ液を溜める液溜め室46が、カム室41の側壁面を窪ませて形成されている。
【0004】
さらに、カム室41の側壁面と液溜め室46との境界線(エッジ)のうち、上部に位置する上部境界線Luは略水平方向に延び、カム室41の側壁面41aと液溜め室46との境界線のうち、電動機側(図14中の右側)に位置する電動機側境界線Lmは略鉛直方向に延びている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開97/48583号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された従来のピストンポンプは、ピストン穴42からカム室41に漏洩したブレーキ液が、液溜め室46に流入せずに、電動機の内部空間に流入することがあった。
【0006】
すなわち、一般的に液体には表面張力が働き、突起、窪みおよび段差は流動の妨げになる。そのため、ピストン穴42からカム室41に漏洩したブレーキ液は、カム室41の側壁面と液溜め室46との境界線を超えて液溜め室46に流入することが難しく、上部境界線Luが略水平である場合は、図14に破線矢印で示すように、上部境界線Luおよび電動機側境界線Lmを伝ってカム室41の底部に向かって流れて、電動機の内部空間に流入してしまう。
【0007】
その結果、電動機のブラシにブレーキ液が付着し、ブラシの摩耗が促進されるという問題が発生する。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、電動機によりピストンを駆動するピストンポンプにおいて、ピストン穴からカム室に漏洩した流体による電動機のブラシの摩耗を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、ハウジング(4)と、ハウジング(4)に結合された電動機(5)と、電動機(5)とともに回転するカム(52、53)と、カム(52、53)の回転に伴って往復動して流体を吸入し吐出するピストン(6)とを備え、ハウジング(4)は、一端に電動機(5)が配置されるとともに他端が閉塞されてカム(52、53)が収納されるカム室(41)と、一端がカム室(41)の側壁面(41a)に開口するとともにピストン(6)が挿入されるピストン穴(42)と、カム室(41)の側壁面(41a)を窪ませて形成されるとともにピストン穴(42)からカム室(41)に漏洩した流体を溜める流体溜め室(46)とを備えるピストンポンプにおいて、カム室(41)の側壁面(41a)と流体溜め室(46)との境界線のうち上部に位置する境界線を上部境界線(Lu)としたとき、上部境界線(Lu)のうちピストン穴(42)の中心よりも電動機側に位置する部位は、電動機側から反電動機側に向かって下がっていることを特徴とする。
【0010】
これによると、上部境界線のうちピストン穴の中心よりも電動機側に位置する部位を伝う流体は、重力によって電動機側から反電動機側に向かって流れ、その後流体溜め室に流入する。
【0011】
因みに、上部境界線のうちピストン穴の中心よりも反電動機側に位置する部位を伝う流体は、電動機側に向かって流れる場合は、上部境界線のうちピストン穴の中心よりも電動機側に位置する部位に到達後に流体溜め室に流入し、一方、反電動機側に向かって流れる場合は、カム室の閉塞端面に到達後に流体溜め室に流入する。
【0012】
このように、ピストン穴からカム室に漏洩した流体は、流体溜め室に確実に導かれるため電動機の内部空間への流入が確実に防止され、カム室に漏洩した流体による電動機のブラシの摩耗を防止することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のピストンポンプにおいて、上部境界線(Lu)のうちピストン穴(42)の中心よりも電動機側に位置する部位と、上部境界線(Lu)のうちピストン穴(42)の中心よりも反電動機側に位置する部位は、電動機側から反電動機側に向かって連続して下がっていることを特徴とする。
【0014】
これによると、上部境界線を伝う全ての流体は、重力によってカム室の閉塞端面側に向かって流れ、カム室の閉塞端面に到達後に流体溜め室に流入する。したがって、ピストン穴からカム室に漏洩した流体が電動機の内部空間へ流入するのを確実に防止して、カム室に漏洩した流体による電動機のブラシの摩耗を防止することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のピストンポンプにおいて、上部境界線(Lu)における電動機側端部は、ピストン穴(42)におけるカム室側開口部のうちの電動機側端部(42a)よりも、電動機側まで延びていることを特徴とする。
【0016】
ところで、ピストン穴からカム室に漏洩する流体のうち、ピストン穴におけるカム室側開口部のうちの電動機側端部から漏洩する流体が、電動機側に流れる可能性が最も高いが、請求項3に記載の発明によれば、ピストン穴におけるカム室側開口部のうちの電動機側端部から漏洩する流体は、カム室の側壁面を伝って下降した後に確実に上部境界線に到達するため、ピストン穴からカム室に漏洩した流体が電動機の内部空間へ流入するのを確実に防止して、カム室に漏洩した流体による電動機のブラシの摩耗を防止することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明では、ハウジング(4)と、ハウジング(4)に結合された電動機(5)と、電動機(5)とともに回転するカム(52、53)と、カム(52、53)の回転に伴って往復動して流体を吸入し吐出するピストン(6)とを備え、ハウジング(4)は、一端に電動機(5)が配置されるとともに他端が閉塞されてカム(52、53)が収納されるカム室(41)と、一端がカム室(41)の側壁面(41a)に開口するとともにピストン(6)が挿入されるピストン穴(42)と、カム室(41)の側壁面(41a)を窪ませて形成されるとともにピストン穴(42)からカム室(41)に漏洩した流体を溜める流体溜め室(46)とを備えるピストンポンプにおいて、ハウジング(4)は、ピストン穴(42)におけるカム室側開口部と流体溜め室(46)とを連通させる連通溝(47)を備えることを特徴とする。
【0018】
これによると、ピストン穴からカム室に漏洩した流体は、連通溝を介して流体溜め室に確実に導かれるため電動機の内部空間への流入が確実に防止され、カム室に漏洩した流体による電動機のブラシの摩耗を防止することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明では、ハウジング(4)と、ハウジング(4)に結合された電動機(5)と、電動機(5)とともに回転するカム(52、53)と、カム(52、53)の回転に伴って往復動して流体を吸入し吐出するピストン(6)とを備え、ハウジング(4)は、一端に電動機(5)が配置されるとともに他端が閉塞されてカム(52、53)が収納されるカム室(41)と、ピストン(6)が挿入されるピストン穴(42)と、カム室(41)の側壁面(41a)を窪ませて形成されるとともにピストン穴(42)から漏洩した流体を溜める流体溜め室(46)とを備え、さらに、ピストン穴(42)におけるカム室側開口部は流体溜め室(46)に開口していることを特徴とするピストンポンプ。
【0020】
これによると、ピストン穴からカム室に漏洩した流体は、流体溜め室に直接流入するため電動機の内部空間への流入が確実に防止され、カム室に漏洩した流体による電動機のブラシの摩耗を防止することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載のピストンポンプにおいて、ピストン穴(42)におけるカム室側開口部の全てが、流体溜め室(46)に開口していることを特徴とする。これによると、請求項5の発明の効果を、一層確実に得ることができる。
【0022】
請求項7に記載の発明のように、請求項1ないし6のいずれか1つに記載のピストンポンプは、ブレーキ液を吸入し吐出するポンプとして用いることができる。
【0023】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るピストンポンプを含む車両用ブレーキ液圧制御装置の正面図、図2は図1の装置の左側面図、図3は図1の装置におけるピストンポンプを示すもので図2のA−A線に沿う断面図、図4は図1の装置におけるハウジング単体を示すもので図2のB−B線に沿う断面図、図5は図3の液溜め室の加工方法を示す断面図である。なお、図中に矢印で示した上下方向は、車両に搭載した状態での上下方向を示している。
【0025】
図1、図2に示す車両用ブレーキ液圧制御装置は、ABS制御等を行うためのものであって、ブレーキ液を高圧化するポンプ、ブレーキ液の通路を開閉する複数の電磁弁1、電磁弁1等の作動を制御する電子制御装置2、電磁弁1および電子制御装置2を覆うカバー3等を備えている。
【0026】
ポンプは、ハウジング4、ハウジング4の一端側にボルトにて結合された電動機5、ハウジング4内に収納されて電動機5により駆動されるピストン等から構成されている。
【0027】
図3に示すように、電動機5は、略水平に配置された回転軸51を備え、この回転軸51には、回転軸51の回転中心に対して偏心した偏心軸部52が一体に形成されている。そして、偏心軸部52の外周に、軸受け鋼等の金属よりなる円筒状のベアリング53が圧入されている。なお、偏心軸部52およびベアリング53は、本発明のカムを構成している。
【0028】
図3、図4に示すように、ハウジング4は、アルミニウム製であり、偏心軸部52およびベアリング53が配置されるカム室41が形成されている。カム室41は、一端が開口されるとともに他端が閉塞された円柱穴形状であり、回転軸51の軸線と平行に水平方向に延びている。そして、カム室41の一端の開口部を覆うようにして電動機5がハウジング4に結合されており、カム室41は一端の開口部を介して電動機5の内部空間に連通している。
【0029】
ハウジング4には、回転軸51の軸線に対して直交するとともに水平方向に延びる円柱穴形状のピストン穴42が、回転軸51を挟んで対称位置に1つずつ形成されている。
【0030】
ピストン穴42の一端は、カム室41の側壁面41aに開口しており、このピストン穴42に挿入されたピストン6(詳細後述)の一端面が、ベアリング53と当接するようになっている。そして、回転軸51とともにベアリング53が回転することにより、ピストン6が往復動する。
【0031】
図3に示すように、ピストン穴42の他端側には、円柱穴形状のプラグ穴43が形成されており、このプラグ穴43にプラグ7が挿入固定されて、ピストン穴42の他端側が閉塞されている。そして、プラグ7とピストン穴42とピストン6の他端面とによって、ポンプ室8が区画形成されている。
【0032】
ハウジング4には、ピストン穴42におけるピストン6が摺動する部位に開口する吸入通路44と、ポンプ室8に開口する吐出通路45とが形成されている。そして、ピストン6の往復動により、吸入通路44等を介してポンプ室8にブレーキ液が吸入され、高圧化されたブレーキ液がポンプ室8から吐出通路45へ吐出されるようになっている。
【0033】
ピストン6は、クロム鋼等の金属にて段付き円柱状に形成されており、ポンプ室8に配置されたスプリング9によりベアリング53側に向かって付勢されている。
【0034】
ピストン6の外周面には、環状の収納溝61が形成され、この収納溝61にゴム製のシールリング10が収納されている。そして、このシールリング10の外周面がピストン穴42の内周面に当接すると共に、シールリング10の内周面が収納溝61の表面に当接することにより、ポンプ室8からカム室41側へのブレーキ液の洩れを防止するようになっている。
【0035】
ピストン6はその軸方向に延びる縦穴62を有し、この縦穴62の一端は、ピストン6に形成された横穴63を介して吸入通路44に連通し、縦穴62の他端はポンプ室8に開口している。
【0036】
縦穴62のポンプ室8側開口部には、吸入通路44から横穴63および縦穴62を介してポンプ室8に向かうブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁11が配置されている。この逆止弁11は、縦穴62の開口部端面に接離するボール111と、このボール111を縦穴62の開口部端面に向かって付勢するスプリング112と、このスプリング112を保持するカバー113とからなる。
【0037】
図3、図4に示すように、ハウジング4には、カム室41における底部側の側壁面41aを窪ませて液溜め室46が形成されている。液溜め室46は、ポンプ室8側からピストン穴42を介してカム室41に漏洩したブレーキ液を溜めるものであり、本発明の流体溜め室に相当する。
【0038】
図5(a)〜(c)は液溜め室46の加工方法を示すもので、カム室41の一端側から他端側に向かって細くなる、換言すると、電動機側から反電動機側に向かって細くなる、テーパ状ないしは円錐台状の切削バイト12を用いる。
【0039】
まず、図5(a)、(b)に示すように、切削バイト12を回転させるとともに回転軸51の軸線方向に沿って電動機側から反電動機側に移動させて、切削バイト12の先端がカム室41の閉塞端面41bに当接する位置まで切削バイト12をカム室41内に侵入させる。
【0040】
次に、図5(b)、(c)に示すように、切削バイト12を回転軸51の軸線に対して直交する方向に沿って下降させて、カム室41における底部側の側壁面41aを切削し、これによりカム室41の底部に液溜め室46を形成する。
【0041】
このようにして形成された液溜め室46の具体的な構成について、図3、図4に基づいて説明する。
【0042】
ここで、カム室41の側壁面41aと液溜め室46との境界線(エッジ)のうち、上部に位置する境界線を上部境界線Luとし、カム室41の側壁面41aと液溜め室46との境界線のうち、電動機側に位置する境界線を電動機側境界線Lmとする。
【0043】
上部境界線Luにおける電動機側端部は、ピストン穴42におけるカム室側開口部のうちの電動機側端部42aよりも、電動機側まで延びている。一方、上部境界線Luにおける反電動機側端部は、ピストン穴42におけるカム室側開口部のうちの反電動機側端部42bよりも、反電動機側まで延びており、より詳細にはカム室41の閉塞端面41bまで延びている。
【0044】
また、上部境界線Luは、カム室41の一端側からカム室41の他端側に向かって、換言すると、電動機側から反電動機側に向かって、連続して直線的に下がっている。
【0045】
電動機側境界線Lmは、上部境界線Luにおける電動機側端部から、略鉛直方向に延びている。
【0046】
因みに、回転軸51の軸線に対する上部境界線Luの傾斜角θは、7°以上が望ましい。また、液溜め室46の深さdは、2〜3mmが望ましい。
【0047】
次に、上記構成になる車両用ブレーキ液圧制御装置のポンプの作動について説明する。
【0048】
電動機5により偏心軸部52およびベアリング53が回転されると、ピストン6がピストン穴42内を往復動する。そして、ピストン6がスプリング9によりベアリング53側に向かって押し戻される吸入行程では、ポンプ室8の圧力が吸入通路44の圧力よりも低くなるため、逆止弁11のボール111が縦穴62の開口部から離れて逆止弁11が開弁し、吸入通路44から横穴63および縦穴62を介してポンプ室8にブレーキ液が吸入される。
【0049】
一方、ピストン6がベアリング53によりプラグ2側に向かって押し出される吐出行程では、逆止弁11のボール111が縦穴62の開口部に当接して逆止弁11は閉弁し、ポンプ室8内の高圧化されたブレーキ液が吐出通路45に吐出される。
【0050】
このポンプは、シールリング10によりポンプ室8からカム室41へのブレーキ液の洩れを防止するようになっているが、ブレーキ液の洩れを完全に防止することができず、微量のブレーキ液が、ピストン6とピストン穴42との間を通ってカム室41へ洩れてしまう。
【0051】
カム室41へ洩れてくるブレーキ液は、図4に破線の矢印で示すように、まずピストン穴42におけるカム室側開口部からカム室41の側壁面41aを伝って下降して、上部境界線Luに至る。
【0052】
次に、上部境界線Luに到達したブレーキ液は、上部境界線Luを伝って電動機側から反電動機側に向かって流れ、換言すると、上部境界線Luを伝ってカム室41の閉塞端面41b側に向かって流れ、カム室41の閉塞端面41bに到達後に閉塞端面41bを伝って下降して液溜め室46に流入し、液溜め室46に溜められる。
【0053】
このように、ピストン穴42からカム室41に漏洩したブレーキ液が液溜め室46に確実に導かれるため、ブレーキ液が電動機5の内部空間へ流入するのが確実に防止され、カム室41に漏洩したブレーキ液による電動機5のブラシの摩耗を防止することができる。
【0054】
ところで、ピストン穴42からカム室41に漏洩するブレーキ液のうち、ピストン穴42におけるカム室側開口部のうちの電動機側端部42aから漏洩するブレーキ液が、電動機5側に流れる可能性が最も高い。
【0055】
これに対し、本実施形態では、上部境界線Luにおける電動機側端部を、ピストン穴42におけるカム室側開口部のうちの電動機側端部42aよりも、電動機側まで延ばしている。
【0056】
これにより、ピストン穴42におけるカム室側開口部のうちの電動機側端部42aから漏洩するブレーキ液は、カム室41の側壁面41aを伝って下降した後に確実に上部境界線Luに到達するため、ピストン穴42からカム室41に漏洩したブレーキ液が電動機5の内部空間へ流入するのを確実に防止して、カム室41に漏洩したブレーキ液による電動機5のブラシの摩耗を防止することができる。
【0057】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。図6は第2実施形態に係るピストンポンプにおけるハウジング単体の構成および液溜め室の加工方法を示す断面図、図7は図6のハウジングのC−C線に沿う断面図である。なお、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
本実施形態は、以下詳述するように、第1実施形態とは液溜め室46の形状が異なっている。
【0059】
図6、図7に示すように、本実施形態は、回転軸51の軸線方向中間部が細くなった鼓状の切削バイト12を用い、この切削バイト12を回転させつつ第1実施形態と同様に移動させて、カム室41の底部に液溜め室46を形成する。
【0060】
この液溜め室46は、最も細くなった部分がピストン穴42の中心の下方に位置している。そして、上部境界線Luのうちピストン穴42の中心よりも電動機側に位置する部位、換言すると、上部境界線Luのうち液溜め室46の最も細くなった部分よりも電動機側に位置する部位は、電動機側から反電動機側に向かって下がっている。
【0061】
一方、上部境界線Luのうちピストン穴42の中心よりも反電動機側に位置する部位、換言すると、上部境界線Luのうち液溜め室46の最も細くなった部分よりも反電動機側に位置する部位は、反電動機側から電動機側に向かって下がっている。
【0062】
上記構成において、カム室41へ洩れてくるブレーキ液は、まずピストン穴42におけるカム室側開口部からカム室41の側壁面41aを伝って下降して、上部境界線Luに至る。
【0063】
次に、上部境界線Luのうち液溜め室46の最も細くなった部分よりも電動機側に位置する部位に到達したブレーキ液は、上部境界線Luを伝って液溜め室46の最も細くなった部分側に向かって流れ、その後液溜め室46に流入する。
【0064】
一方、上部境界線Luのうち液溜め室46の最も細くなった部分よりも反電動機側に位置する部位に到達したブレーキ液も、上部境界線Luを伝って液溜め室46の最も細くなった部分側に向かって流れ、その後液溜め室46に流入する。
【0065】
このように、ピストン穴42からカム室41に漏洩したブレーキ液が液溜め室46に確実に導かれるため、ブレーキ液が電動機5の内部空間へ流入するのが確実に防止され、カム室41に漏洩したブレーキ液による電動機5のブラシの摩耗を防止することができる。
【0066】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。図8は第3実施形態に係るピストンポンプにおけるハウジング単体の構成および液溜め室の加工方法を示す断面図、図9は図8のハウジングのD−D線に沿う断面図である。なお、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0067】
本実施形態は、以下詳述するように、第1実施形態とは液溜め室46の形状が異なるとともに、ピストン穴42におけるカム室側開口部と液溜め室46とを連通させる連通溝47が追加されている。
【0068】
図8、図9に示すように、本実施形態は、同一径の円柱状の切削バイト12を用い、この切削バイト12を回転させつつ第1実施形態と同様に移動させて、カム室41の底部に液溜め室46を形成する。切削バイト12は同一径の円柱状であるため、上部境界線Luは略水平方向になっている。
【0069】
次いで、図示しないバイトにより、ピストン穴42におけるカム室側開口部と上部境界線Luとの間の側壁面41aを切削し、これにより、ピストン穴42におけるカム室側開口部と液溜め室46とを連通させる連通溝47を形成する。
【0070】
これによると、カム室41へ洩れてくるブレーキ液は、連通溝47を介して液溜め室46に確実に導かれるため、電動機5の内部空間への流入が確実に防止され、カム室41に漏洩したブレーキ液による電動機5のブラシの摩耗を防止することができる。
【0071】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。図10は第4実施形態に係るピストンポンプにおけるハウジング単体の構成および液溜め室の加工方法を示す断面図、図11は図10のハウジングのE−E線に沿う断面図である。なお、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0072】
本実施形態は、以下詳述するように、第1実施形態とは液溜め室46の形状や配置が異なっている。
【0073】
図10、図11に示すように、本実施形態は、回転軸51の軸線方向中間部が太くなった樽状の切削バイト12を用い、この切削バイト12を回転させつつ第1実施形態と同様に移動させて、カム室41の底部に液溜め室46を形成する。
【0074】
この液溜め室46は、最も太くなった部分がピストン穴42におけるカム室側開口部に直接連通している。換言すると、ピストン穴42におけるカム室側開口部が液溜め室46に直接開口している。
【0075】
因みに、本実施形態では、上部境界線Luのうち液溜め室46の最も太くなった部分よりも電動機側に位置する部位は、反電動機側から電動機側に向かって下がっている。一方、上部境界線Luのうち液溜め室46の最も太くなった部分よりも反電動機側に位置する部位は、電動機側から反電動機側に向かって下がっている。
【0076】
これによると、カム室41へ洩れてくるブレーキ液は、ピストン穴42におけるカム室側開口部から液溜め室46に直接流入するため、電動機5の内部空間への流入が確実に防止され、カム室41に漏洩したブレーキ液による電動機5のブラシの摩耗を防止することができる。
【0077】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。図12は第5実施形態に係るピストンポンプにおけるハウジング単体の構成および液溜め室の加工方法を示す断面図、図13は図12のハウジングのF−F線に沿う断面図である。なお、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0078】
本実施形態は、以下詳述するように、第1実施形態とは液溜め室46の形状や配置が異なっている。
【0079】
図12、図13に示すように、本実施形態は、同一径の円柱状の切削バイト12を用いて液溜め室46を形成する。この液溜め室46は、上部境界線Luがピストン穴42におけるカム室側開口部の上端よりも上方に位置するように、広く形成されている。
【0080】
したがって、この液溜め室46はピストン穴42におけるカム室側開口部に直接連通している。換言すると、ピストン穴42におけるカム室側開口部が液溜め室46に直接開口している。
【0081】
これによると、カム室41側へ洩れてくるブレーキ液は、ピストン穴42におけるカム室側開口部から液溜め室46に直接流入するため、電動機5の内部空間への流入が確実に防止され、カム室41に漏洩したブレーキ液による電動機5のブラシの摩耗を防止することができる。
【0082】
(他の実施形態)
上記実施形態では、車両用ブレーキ液圧制御装置のポンプとして用いる例を示したが、本発明になるポンプは他の用途にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1実施形態に係るピストンポンプを含む車両用ブレーキ液圧制御装置の正面図である。
【図2】図1の装置の左側面図である。
【図3】図1の装置におけるピストンポンプを示すもので図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】図1の装置におけるハウジング単体を示すもので図1のB−B線に沿う断面図である。
【図5】図3の液溜め室の加工方法を示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るピストンポンプにおけるハウジング単体の構成および液溜め室の加工方法を示す断面図である。
【図7】図6のハウジングのC−C線に沿う断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係るピストンポンプにおけるハウジング単体の構成および液溜め室の加工方法を示す断面図である。
【図9】図8のハウジングのD−D線に沿う断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係るピストンポンプにおけるハウジング単体の構成および液溜め室の加工方法を示す断面図である。
【図11】図10のハウジングのE−E線に沿う断面図である。
【図12】本発明の第5実施形態に係るピストンポンプにおけるハウジング単体の構成および液溜め室の加工方法を示す断面図である。
【図13】図12のハウジングのF−F線に沿う断面図である。
【図14】従来のピストンポンプにおけるハウジング単体の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
4…ハウジング、5…電動機、6…ピストン、41…カム室、41a…側壁面、42…ピストン穴、46…液溜め室(流体溜め室)、52…偏心軸部(カム)、53…ベアリング(カム)、Lu…上部境界線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(4)と、前記ハウジング(4)に結合された電動機(5)と、前記電動機(5)とともに回転するカム(52、53)と、前記カム(52、53)の回転に伴って往復動して流体を吸入し吐出するピストン(6)とを備え、
前記ハウジング(4)は、一端に前記電動機(5)が配置されるとともに他端が閉塞されて前記カム(52、53)が収納されるカム室(41)と、一端が前記カム室(41)の側壁面(41a)に開口するとともに前記ピストン(6)が挿入されるピストン穴(42)と、前記カム室(41)の側壁面(41a)を窪ませて形成されるとともに前記ピストン穴(42)から前記カム室(41)に漏洩した流体を溜める流体溜め室(46)とを備えるピストンポンプにおいて、
前記カム室(41)の側壁面(41a)と前記流体溜め室(46)との境界線のうち上部に位置する境界線を上部境界線(Lu)としたとき、
前記上部境界線(Lu)のうち前記ピストン穴(42)の中心よりも電動機側に位置する部位は、電動機側から反電動機側に向かって下がっていることを特徴とするピストンポンプ。
【請求項2】
前記上部境界線(Lu)のうち前記ピストン穴(42)の中心よりも電動機側に位置する部位と、前記上部境界線(Lu)のうち前記ピストン穴(42)の中心よりも反電動機側に位置する部位は、電動機側から反電動機側に向かって連続して下がっていることを特徴とする請求項1に記載のピストンポンプ。
【請求項3】
前記上部境界線(Lu)における電動機側端部は、前記ピストン穴(42)におけるカム室側開口部のうちの電動機側端部(42a)よりも、電動機側まで延びていることを特徴とする請求項1または2に記載のピストンポンプ。
【請求項4】
ハウジング(4)と、前記ハウジング(4)に結合された電動機(5)と、前記電動機(5)とともに回転するカム(52、53)と、前記カム(52、53)の回転に伴って往復動して流体を吸入し吐出するピストン(6)とを備え、
前記ハウジング(4)は、一端に前記電動機(5)が配置されるとともに他端が閉塞されて前記カム(52、53)が収納されるカム室(41)と、一端が前記カム室(41)の側壁面(41a)に開口するとともに前記ピストン(6)が挿入されるピストン穴(42)と、前記カム室(41)の側壁面(41a)を窪ませて形成されるとともに前記ピストン穴(42)から前記カム室(41)に漏洩した流体を溜める流体溜め室(46)とを備えるピストンポンプにおいて、
前記ハウジング(4)は、前記ピストン穴(42)におけるカム室側開口部と前記流体溜め室(46)とを連通させる連通溝(47)を備えることを特徴とするピストンポンプ。
【請求項5】
ハウジング(4)と、前記ハウジング(4)に結合された電動機(5)と、前記電動機(5)とともに回転するカム(52、53)と、前記カム(52、53)の回転に伴って往復動して流体を吸入し吐出するピストン(6)とを備え、
前記ハウジング(4)は、一端に前記電動機(5)が配置されるとともに他端が閉塞されて前記カム(52、53)が収納されるカム室(41)と、前記ピストン(6)が挿入されるピストン穴(42)と、前記カム室(41)の側壁面(41a)を窪ませて形成されるとともに前記ピストン穴(42)から漏洩した流体を溜める流体溜め室(46)とを備え、
さらに、前記ピストン穴(42)におけるカム室側開口部は前記流体溜め室(46)に開口していることを特徴とするピストンポンプ。
【請求項6】
前記ピストン穴(42)におけるカム室側開口部の全てが、前記流体溜め室(46)に開口していることを特徴とする請求項5に記載のピストンポンプ。
【請求項7】
前記流体はブレーキ液であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載のピストンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−307688(P2006−307688A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129049(P2005−129049)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】