説明

ピッチを定量する方法

【課題】 ピッチの測定方法として、ピッチ分抽出法、濁度測定法、アニオン量測定法、ヘマサイトメーターによる粒子カウント法などが用いられるが、測定対象にピッチ以外の成分が含まれる、個人差による測定誤差が大きい、手間がかかる等の問題があった。従って本発明は、個人差が少なく簡易的にピッチを測定できる方法を提供する。
【解決手段】 抄紙前の製紙原料、インレット、白水およびそれら濾液から選択される一つを検体として疎水性フィルムを前記検体に浸漬し、ピッチを吸着させ、ピッチが吸着したフィルムの透過濁度を測定することによって達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工程上、紙の汚れや断紙等様々なトラブルの要因となる、製紙原料、インレット及び白水中に含まれるピッチの定量方法に関する。詳しくは、製紙工程において製紙原料、インレット及び白水またはその濾液に疎水性フィルムを浸漬させてピッチを吸着し、そのフィルムの透過濁度を透過濁度計で測定することにより、ピッチを定量する方法に関する。また製紙工程において添加したピッチコントロール剤または凝結剤の効果を評価する方法、さらにピッチを吸着させたフィルムの透過濁度を測定することにより抄紙系内をモニタリングする抄紙系内の操業安定化方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パルプ及び紙の製造工程でピッチと言われているものは、木材、パルプ及び古紙、損紙などから遊離した天然樹脂やガム物質、更にはパルプ及び紙の製造工程で使用される添加薬品などに由来する、有機物を主成分とする疎水性、非水溶性の粘着物質である。ピッチは、パルプ及び紙の製造工程中、特に白水中では、コロイド状になって分散しているが、何らかの外的作用、例えば大きなせん断力、pHの急激な変化、硫酸バンドの過剰添加などにより、コロイド状態が破壊されて凝集、巨大化すると考えられている。凝集、巨大化したピッチは、その粘着性によりパルプや紙へ付着し、またファンポンプ、配管内、チェスト、ワイヤー、フェルト、ロールなどの製造装置類へ付着した後剥離して、パルプや紙へ再付着し、紙の汚点・欠点の発生による品質の低下や、断紙の発生による、生産性、作業性の低下などのピッチ障害を引き起こす。近年、紙の多様化による使用薬品類の増加と、工程で使用する水のクローズド化が進むにつれて従来にも増してピッチ障害が多発するとともに、複雑化している。
【0003】
これらのピッチトラブルを防止するため、製紙原料、インレットまたは白水に含まれるピッチの分析や、ピッチコントロール剤または凝結剤の添加によるピッチ低減の効果を確認する方法として、ピッチ分抽出法、濁度測定法、アニオン量測定法、ヘマサイトメーターによる粒子カウント法(文献1)などがある。
【0004】
しかしながら、ピッチ抽出法は手間がかかるため日常的に行うのは困難である。濁度測定法は、迅速且つ簡易的であるが、濁度成分全てを測定するため、ピッチだけを反映していない。アニオン量測定法は、ピッチがアニオン電荷を持つ性質を利用しており、迅速且つ簡易的であるが、疎水性や粘着性ピッチは表面のアニオン電荷が低いことや、ピッチ以外の可溶性のアニオン性物質が多い場合は、ピッチだけを反映していない。ヘマサイトメーターによる粒子カウント法は、希釈した製紙原料、インレットまたは白水の上澄み液等を顕微鏡で観察し、球形でミクロなブラウン運動している粒子をカウントすることにより、系内のピッチ濃度を測定する方法である。この方法は、ミクロなピッチ粒子を直接観察できるが、目視による計測のため測定者による誤差が大きかった。
【0005】
また、古紙パルプをスクリーンで処理して得られる残渣物を一旦濾紙上に分散させた後直ちにロールプレスを行ってポリエチレンテレフタレートのフィルムに移行させ、水洗により結束繊維等の非粘着異物を除去してからヒートセットを行い、画像解析装置により粘着異物を測定する方法がある(非特許文献2)。しかし、この方法はスクリーンで除去される粗大粘着異物の測定法であり、スクリーンで除去することができないミクロなコロイド状のピッチは測定できない。またパルプスラリー中の水分を通過させて繊維分を捕獲できるメッシュを有する平坦なワイヤーを用いて、このワイヤー面に対してパルプスラリーを相対的に移動させてワイヤー表面にパルプ繊維を堆積させてウェットシートを作製した後、このウェットシートの表面を平坦な透明板に押付け、この透明板を通してウェットシートの表面を反射光方式でCCDカメラに取込み、この画像を処理してウェットシート単位面積当りの夾雑物面積を測定するという方法が開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−200825号公報
【非特許文献1】紙パルプ技術タイムス 昭和56年4月号・5月号別刷
【非特許文献2】第72回紙パルプ研究発表会講演要旨集 p.44−49
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抄紙工程におけるピッチトラブルの防止及びピッチコントロール剤または凝結剤の効果を評価するため、製紙原料、インレット及び白水に含まれるピッチを測定者による誤差が少なく、また簡易的に測定する方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、製紙原料、インレット及び白水に含まれるピッチが疎水性フィルムに吸着され、そのフィルムの透過濁度とヘマサイトメーターによる粒子カウント法の結果に相関があることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、製紙工程において、抄紙前の製紙原料、インレット及び白水から選択される一つを検体として疎水性フィルムを浸漬し、前記抄紙前の製紙原料、インレットあるいは白水中のピッチを吸着させ、前記ピッチを吸着させたフィルムの透過濁度を透過型濁度計により測定することによりピッチを定量することができる。そのため測定者による誤差が少なく簡易的なピッチの定量化方法である。
【0009】
また本発明の方法をピッチコントロール剤または凝結剤を添加する前後の抄紙前の製紙原料などに適用することにより、ピッチコントロール剤または凝結剤の効果を評価することができる。ピッチコントール剤または凝結剤の添加により、製紙原料などの中に含まれるピッチはパルプに定着されるため、製紙原料またはその濾液に浸透させた疎水性フィルムに吸着されるピッチの量が少なくなり、疎水性フィルムの透過濁度も低くなる。従ってピッチコントール剤または凝結剤の添加前後の透過濁度を比較することにより、薬剤の効果を評価することができる。
【0010】
さらに本発明のピッチを定量する方法を、抄紙現場に適用することにより抄紙系内の操業を安定化することに応用可能である。抄紙系内ピッチ量をモニタリングし、その量の上昇、減少によってピッチコントロール剤あるいは有機・無機の凝結作用のある薬剤を添加あるいは、添加の停止を実施する。このように測定と薬剤の添加・停止を連動し、ピッチ量を一定値以下にコントロールし、成紙表面上の欠点あるいは断紙などを防止し、操業安定化を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における測定対象は、抄紙前の製紙原料、インレット及び白水(以下製紙原料などと記載する)あるいはその濾液である。ここで言う製紙原料とは、木材、機械パルプ、化学パルプ、古紙、損紙等である。インレットとは、ヘッドボックスからワイヤーパートに吹き付けられる直前の紙料である。白水とは、砕木機、抄紙機などから排出される微細繊維を含んだ水である。また、濾液はワットマン製濾紙NO.41を用いて濾過したものである。
【0012】
本発明で使用する疎水性フィルムとしては、最も好ましいのはポリエチレンテレフタレートであり、その他に塩化ビニール、ポリプロピレン、アクリル樹脂であるポリメタクリル酸メチルなど透明なものが好ましい。
【0013】
フィルムの浸透時間は、例えば1時間から一晩までの間であり、製紙原料などあるいはその濾液に浸漬させた疎水性フィルムにピッチが吸着されて表面が濁るまで行う。
【0014】
本発明のピッチを定量する方法は、製紙原料などあるいはそれらを希釈し、その中に透明な疎水性フィルムを浸漬し、前記製紙原料などの中のピッチ分を吸着させ測定することも可能であるが、前記製紙原料などの中には繊維分が多く含まれ、それら繊維分が疎水性フィルムにいっしょに吸着してしまうこともあり、ピッチの定量を妨害する場合もある。従って好ましくは前記製紙原料などを一度ワットマン製濾紙NO.41を用いて濾過した濾液を使用する。また濾液中のピッチを定量することにより、元の製紙原料などの実態を把握することは、以下の理由により可能である。すなわちヘマサイトメーターによる粒子カウント法は、希釈した上澄み液を測定するため、パルプに未定着のピッチを計測している。一方、本発明では、濾液に含まれるピッチを測定しているが、パルプに定着したピッチは、濾過を行っても濾液には含まれないため、両測定法の測定対象は相関がある。また濾液を使用することは以下のようなメリットがある。すなわち、濾過した後の濾液中には繊維分が少なくピッチ粒子のブラウン運動を妨げず、疎水性フィルムを浸漬しておくだけで攪拌も必要ない。攪拌によるピッチ粒子の粒度分布も変化しない。さらに繊維分が吸着していないので濁度測定の誤差にもならないなど優れた面を有することが分かる。
【0015】
抄紙前の製紙原料などあるいはその濾液から取り出した疎水性フィルムは、水で軽く洗浄しパルプ繊維等を除去した後に乾燥する。
【0016】
乾燥した疎水性フィルムは、透過型濁度計を使用し、その透過濁度を測定する。測定に用いる波長は、色の影響を避けるために860nmの赤外光線が好ましい。0校正は、未使用の疎水性フィルムを用いて透過濁度を0に合わせる。また実際の測定に際しては、乾燥させたフィルムを5箇所以上測定し、その平均値を用いると良い。
【0017】
本発明は、更にピッチコントロール剤または凝結剤の添加前後の製紙原料などあるいはその濾液に疎水性フィルムを浸漬し、フィルムの透過濁度を測定することにより、ピッチコントロール剤または凝結剤の効果を評価することができる。ピッチコントール剤または凝結剤の添加により、製紙原料などの中に含まれるピッチはパルプに定着されるため、製紙原料またはその濾液に浸透させた疎水性フィルムに吸着されるピッチの量が少なくなり、疎水性フィルムの透過濁度も低くなる。従ってピッチコントール剤または凝結剤の添加前後の透過濁度を比較することにより、薬剤の効果を評価することができる。
【0018】
また本発明のピッチを定量する方法は、抄紙前の製紙原料、インレット及び白水から選択される一つを検体として疎水性フィルムを浸漬し、前記抄紙前の製紙原料、インレットあるいは白水中のピッチを吸着させ、前記ピッチを吸着させたフィルムの透過濁度を透過型濁度計にて測定することによりピッチ量をコントロールすることが可能であるので、抄紙系内の操業を安定化することに応用可能である。すなわち本発明の方法により抄紙系内ピッチ量をモニタリングし、その量の上昇、減少によってピッチコントロール剤あるいは有機・無機の凝結作用のある薬剤を添加あるいは、添加の停止を実施する。
このように測定と薬剤の添加・停止を連動し、ピッチ量を一定値以下にコントロールし、成紙表面上の欠点あるいは断紙などを防止し、操業安定化を図ることが可能である。
【0019】
(実施例)以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0020】
DIP(脱墨パルプ、以下DIPと略記)原料(pH7.20、濁度737NTU、全ss3.32%、灰分0.33%、カチオン要求量0.060meq/L、ゼータポテンシャル−9mV)およびDIP原料にモデルピッチ:ポリアクリル酸エステルエマルジョン(接着剤として使用されている水性ラテックス)を対ss分5%添加した原料を各々200mL採取し、撹拌機にセットし、表1に示すように凝結剤(ポリアリキレンイミン変性物、カチオン当量値17.3meq/g、分子量500,000)をそれぞれ対ss分、無添加の0ppmから最大800ppmまで添加し、200回転数/分で60秒間撹拌した。その後、一部の試料をヘマサイトメーターによる粒子測定用試料として清水にて10倍希釈し、残りの試料はワットマン製NO.41(90mm)の濾紙にて濾過し、濾液に透明のポリエチレンテレフタレートのフィルムを4時間浸透した。その後、ポリエチレンテレフタレートのフィルムを取り出し、水で軽く洗浄して乾燥した。乾燥したフィルムは、HACH製DR/4000透過型濁度計、860nmの赤外光を用いて5箇所測定し、その平均値を求めた。ヘマサイトメーターによる粒子数カウント法は、顕微鏡800倍率にて完全球形でブラウン運動している粒子を5箇所計測し、その平均値から単位体積あたりの個数として算出した。結果を表1に示す。





【0021】
(表1)

凝結剤添加量:ppm
フィルムの透過濁度(本発明による方法):FAU
ピッチ粒子数(ヘマサイトメーターによる粒子カウント法)
:×10個/cm
【0022】
実施例の結果から、DIP原料およびDIP原料にモデルピッチとしてポリアクリル酸エステルを添加した試料に対して、凝結剤の添加量が増加するに伴い、浸漬させたフィルムの透過濁度の値も下がる傾向であった。ヘマサイトメーターによる粒子カウント法も同様の傾向であり、フィルムの濁度とヘマサイトメーターによる粒子カウント法との間に相関があり、本発明の定量方法が的確なものであることが理解される。また濁度を機器により測定するので、測定者による個人差も少なく、測定も短時間ですむ。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙工程において、抄紙前の製紙原料、インレット及び白水から選択される一つを検体として疎水性フィルムを前記検体に浸漬し、前記抄紙前の製紙原料、インレットあるいは白水中のピッチを吸着させ、前記ピッチを吸着させたフィルムの透過濁度を測定することを特徴とするピッチを定量する方法。
【請求項2】
前記検体が抄紙前の製紙原料、インレットあるいは白水を濾紙にて濾過した濾液であることを特徴とする請求項1に記載のピッチを定量する方法。
【請求項3】
前記透過濁度を透過型濁度計により測定することを特徴とする請求項1に記載のピッチを定量する方法。
【請求項4】
前記疎水性フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニール、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチルから選択される一種であることを特徴とする請求項1に記載のピッチを定量する方法。
【請求項5】
抄紙工程において、ピッチコントロール剤または凝結剤を添加する前後の抄紙前の製紙原料、インレット及び白水から選択される一つを検体として疎水性フィルムを浸漬し、前記抄紙前の製紙原料、インレットあるいは白水中のピッチを吸着させ、前記ピッチを吸着させたフィルムの透過濁度を測定することを特徴とするピッチコントロール剤または凝結剤の効果を評価する方法。
【請求項6】
製紙工程において、抄紙前の製紙原料、インレット及び白水から選択される一つを検体として疎水性フィルムを浸漬し、前記抄紙前の製紙原料、インレットあるいは白水中のピッチを吸着させ、前記ピッチを吸着させたフィルムの透過濁度を測定することにより抄紙系内をモニタリングする抄紙系内の操業安定化方法。




【公開番号】特開2007−333395(P2007−333395A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161859(P2006−161859)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】