説明

ピペット検査装置及びそれを取り付けたピペット

医療及び医薬品の研究室で小容量の液体を移すのに広く使用されているピペットは、隠れた性能低下と操作者のミスとによる影響を受けやすい。ピペットの操作運転は、監視することなくして行うことができない。この発明は、軸(13)を用いて、予め定められた体積の液体を吸引し、次いで供給するためのピストン(11)を有するピペット用の検査装置(16)に関する。この装置は、変位した体積の測定を行い、この測定値を所望の値と比較し、測定された体積と該所望の値との差の表示を発生する第一の手段と、前記第一の手段に応答し、前記表示に関する情報を伝達する第二の手段とを必須の要素として含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非常に少量、通常は1ナノリットル〜数ミリリットルを、高い精度で移すことのできる液体供給システムに関する。
【0002】
より具体的には、この発明は、ピペット検査装置と該装置を取り付けたピペットとに関する。
【背景技術】
【0003】
マイクロピペットと称されることもよくある、現在市販されているピペットは、軸部と供給先端部を有するシリンダとこのシリンダ中をスライドするピストンとを備えたシリンジである。このピストンは、人手又はモータによって駆動することができ、適当な計測器を用いて操作者が決定した距離を動くことができる。
【0004】
操作中、ピストンはその終端位置に押し下げられ、軸部の供給先端部は試料を取得する液体中に浸される。次いで、計測器に示された液体の体積に対応する距離だけピストンを上げる。ピストンが上方に動くことによって、所望量の液体が先端部から吸い込まれ、この液体は、ピストンを再度下方に動かすと、目的物中に注出することができる。
【0005】
この種のピペットは、手動式のものも電動式のものも、例えば、米国特許第5,983,733号、第6,179,343号、及び第6,254,832号に開示されている。多軸ピペットも、例えば、米国特許第4,779,467号及び第5,456,879号に開示されている。
【0006】
ピペットに適用される「実験室及び製造現場における好適なプロセス」の要件によると、供給される液体の体積に関して、監視及び記録手段を採用するのがよいとされている。ピペットが誤動作すると、その機器を使用して実施された全ての試験を再検討しなければならず、これは経費のかかる作業になる。
【0007】
さらに、ピペットの動作の質は時間と共に必然的に低下する。一定回数以上使用した後に、各ピペットは予防的なメンテナンス手続を経る必要がある。このように、操作者は、何回ピペットを使用した後にこのようなメンテナンスを行わなくてはならないかを決めなければならないばかりか、ピペットの較正記録もつけなければならない。
【0008】
最後に、ピペットの正確さは、多かれ少なかれ熟練しているであろう、操作者によるところもある。操作者は、機器の温度は吸引する空気の体積に影響する機器の温度を決定する。
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,983,733号
【特許文献2】米国特許第6,179,343号
【特許文献3】米国特許第6,254,832号
【特許文献4】米国特許第4,779,467号
【特許文献5】米国特許第5,456,879号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明の目的は、これまで述べてきた品質制御要件を満たすことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
より正確には、この発明は、軸を用いて、所定容積の液体を吸引し、次いで供給するピストンを備えたピペット用の検査装置に関する。この装置は、必須の要素として
−変位分の体積測定を行い、この測定値を所望の値と比較し、測定された体積と該所望の値との差の表示を発生する第一の手段と、
−前記第一の手段に応答し、前記表示に関する情報を伝達する第二の手段と
を含む。
【0012】
直前に定義された装置は、次の主要な特徴も有する。
−前記第一の手段は、前記軸の2点で圧力測定を行うことのできるセンサと;この測定から軸内で変位した体積を計算するようにプログラムされており、この体積が所望の体積に対応するかどうかを検査し、この検査に関する表示を発生するマイクロプロセッサとを含む。
−前記センサは、さらに、軸内の温度を測定することができる。
−前記第二の手段は、ディスプレイと、好ましくは音響警報機とを含む。
−前記第二の手段は、前記マイクロプロセッサが制御記録ユニットと通信するのを可能にするトランシーバを含む。
−前記マイクロプロセッサは、前記ユニットから該マイクロプロセッサに送られた指示を保存し、測定された体積と所望の値との差に関する情報を前記ユニットに送るようにプログラムされている。
−前記装置がモータによって作動されるピストンを有するピペット用であるときには、吸引された体積が所望の値に対応するように前記モータを制御するように、前記マイクロプロセッサがプログラムされている。
−前記装置が現存するピペットに取り付けることのできるモジュールである。
【0013】
この発明は、先に限定した検査装置を一体に組み込んだピペットにも関する。
【0014】
最後に、この発明はこれまでに開示された検査装置を取り付けた複数のピペットを管理する制御記録ユニットに関する。このユニットは、より簡便に、この機能を果たすことのできるマイクロプロセッサ装置に縮小することのできるコンピュータと、該コンピュータが前記複数のピペットの各々のトランシーバと通信するのを可能にするトランシーバとを含む。
【0015】
以下の作業が実行されるようにこのユニットのコンピュータがプログラムされていると好ましい。
−実行されるピペット操作の手順を各ピペットに送ること、
−各ピペットによる測定遂行を記録すること、
−操作者が行ったことを記録すること、及び
−一連のピペット操作の間、操作者をガイドすること。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の他の特徴及び効果は、添付の図面を参照してなされる以下の記載から理解されるであろう。
【0017】
図1に示されるピペットは、従来の方法で、人手によって作動されるピストン11をその中にスライドさせることができる円筒状のチャンバ10を有している。シール部材12が、シリンダ10とピストン11との接触部位をシールしている。シリンダ10は、その基部から軸13に続いており、該軸13の端部には、取り外し可能な円錐形の供給先端部14が取り付けられている。最後に、計測器15によって、操作者は供給される液体の体積を決定することができる。この指示に従って、ピストン11の移動距離は自動的に決定される。
【0018】
ピストン11は、操作者による人手を用いた動作に代えて、モータによって駆動することもできる。
【0019】
図示されている例では、シリンダ10の延長部を占有すると共に次の要素を含む検査モジュール16を備えているという点において、このピペットは独特である。
−空気又は他のあらゆる流体の圧力を軸13の2つの点で測定すると共にその温度を測定するセンサ17、
−前記測定の結果から、軸13内に吸入、又は軸13から注出される液体の体積を表示し、この体積が所望の体積に対応するかどうかを検査し、該検査に関する表示を発生するマイクロプロセッサ18、
−LCDディスプレイ20、音響警報機21、制御ボタン22、及びトランシーバ23を含む、操作者との通信インターフェース18、並びに
−前記モジュールに電力を供給するのに使用される電池又は蓄電池24。
【0020】
センサ17は、流体制限器を介して、前記軸に流れ込む流体の通路中に直列に挿入されると共に弾力的に変形可能な壁を有する2つのチャンバを必須の要素として備えている。各チャンバの弾力性のある壁にそれぞれ関連する2台の電子−機械トランスデューサは、そこの圧力を示す電気信号を送出する。温度センサは、前記流体制限器の近傍に配置される。この装置は、WO 02/071001公報に開示されており、この引用によって完全な記載に代える。
【0021】
最後に、トランシーバ23は、ピペットの外側でわずかに離れた位置にある、コンピュータ26と連絡している他のトランシーバ25と通信する。これによって、複数のピペットを扱うことのできる中央制御記録ユニットを形成する。この明細書で使用されている「コンピュータ」という単語は、このユニットに使用することのできるいかなるマイクロプロセッサ装置をも意味する場合がある。複数のピペットと中央ユニットとの間の通信機能は、電線、赤外、又は無線(IEEE 802.15又はBluetooth)通信などの当業者には公知である適切な手段によって達成される。
【0022】
この発明によると、検査モジュール16は、ピペットに一体化された部分とすることもできるし、現存するピペットに取り付けることもできる。ピペットに一体化された部分とする場合は、軸13に沿ってセンサ17のみを配置すればよく、他の部品はピペットの胴部に組み入れて、当業者が入手することのできるあらゆる手段によって相互連結することができる。現存するピペットに取り付ける場合は、モジュール16を軸13の端部とその供給先端部14との間に挿入してもよいし、ピストン11と軸13とを連結する組立体に組み入れることもできる。
【0023】
次に、ピペットのマイクロプロセッサ18(図中右側)と外部コンピュータ26(図中左側)とによってなされる主な操作について示している図2を参照する。
【0024】
操作者が、一連の液体試料採取と貯蔵とを行いたいときは、ステップ27において、コンピュータ26に対して、操作者確認を行うと共に、操作開始の時刻と日付とを示し、次いで、例えば次の変数を特定することによって、操作を開始する。
−ピペットの型と識別番号
−供給手続:実行される、貯蔵試料の量と数
−許容誤差
勿論、これより少ない変数を特定することもできるし、多い変数を特定することもできる。
【0025】
制御ボタン22を用いて識別されたピペットのスイッチを入れると、ステップ28で、操作を開始するコマンドを与えることができる。そして、コンピュータ26は、ステップ29で、必要な指示をピペットに送る。
【0026】
ステップ30で、これらの指示をその時点で動作可能な状態になっているピペットのマイクロプロセッサ18が受け取る。
【0027】
計測器15を供給される体積値に設定した後、操作者は従来の方法で液体の試料を採取する。これは、吸引によって、ピペットの供給先端部14でなされる。
【0028】
操作の間、マイクロプロセッサ18はセンサ17から、温度とその2つのチャンバの各圧力とを示す信号を受け取る。これら3項目の情報から、ステップ31で、軸13に流入する流体流量、そして、その供給先端部14に吸引された液体の体積を、積分によって計算することができる。
【0029】
続く操作は、ステップ32で、計測された体積とコンピュータから受け取った所望の値との比較であり、次いで、ステップ33で、吸引された体積が与えられた誤差範囲内にあること、又はないことを示すメッセージをLCD20上に表示することである。
【0030】
所望の値が達成されていれば、操作者はピペットを作動させて液体を対象に向けて注出することができる。逆に、所望の値が達成されていない場合には、音響警報機21が作動される。
【0031】
マイクロプロセッサ18は、ステップ34で、前記比較の結果をコンピュータに送り、該結果は35で受信され、次いで、「実験室及び製造現場における好適なプロセス」の規則に従って品質のチェックを行うようにステップ36で処理される。
【0032】
通常、ある特定のピペットについて、コンピュータ26によって作られ、ステップ36で保存される情報は次のようである(完全なリストではない。)。
【0033】
−各吸引された液体の体積について、許容誤差の範囲内か否か
−1セットの操作の標準偏差
−1セットの操作の変動係数
−最後のメンテナンスからの操作回数
−次回のメンテナンスまでの操作回数
−各操作について測定された温度
−較正記録
−失敗のパーセンテージ
−特定の操作者についての失敗のパーセンテージ
−重要でない失敗(較正を要するわずかな誤差限界違反)のパーセンテージ
−重要な失敗(吸引中の早過ぎる段階で先端を除去してしまったこと、先端の詰まり、他のピペット障害による大きな誤差限界違反)のパーセンテージ。
【0034】
次の操作は、ステップ37で、操作が成功であったか失敗であったかを決定する。
【0035】
失敗であった場合は、コンピュータ26は、失敗の原因となる欠陥を修復して液体の試料をもう一度採取するようにという命令を、ステップ38で、ピペットに送り、該命令はステップ30で受信される。
【0036】
操作が成功であった場合は、コンピュータ26は、ステップ39で、手続に定められている操作が完了したかどうかを判定する。
【0037】
操作が完了していない場合は、ステップ40で、コンピュータ26は操作を続行するようにという命令をピペットに送り、該命令はステップ30で受信される。逆に、操作が完了している場合は、コンピュータはステップ27に戻り、新しいシリーズの液体試料採取と貯蔵とを開始する。
【0038】
ピストンがモータなどの作動機によって駆動されているピペットの場合は、ピペットのマイクロプロセッサ18は、ステップ41で、作動機のスレイブ化を実行するために、ステップ32で行われる、測定された体積と所望の体積との間の比較の結果を任意に使用することができる。作動機のスレイブ化がなされると、ピストンの移動距離によって、所望の値によって定められる体積の液体が吸引されるように、ピストンを駆動することができるようになる。
【0039】
最後に、図1の右側に示された別の態様について述べる。図1の右側に示されたピペットにおいて、図1の要素と共通する要素には、同じ参照符号が付されている。図1の右側に示された態様のピペットにおいては、ピストン11はより直径の小さい部分42につながっており、該部分はスライドして軸13の上部に入る。液密性は、シール部材43によって保たれる。この変形例によると、ピペットの動作がピストンの動きにより敏感になる。
【0040】
このように、その動作を検査して、ピペットを制御・監視する中央ユニットからの補助を得る装置を備えた、情報処理能力を有するピペットの設計が提案されている。現代的で効率的な高品質のシステムの全ての要件が、こうして満たされた。
【0041】
この発明による設計を単軸ピペットシステムにも多軸ピペットシステムにも適用することができるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、この発明によるピペットと、該ピペットが接続される制御記録ユニットとの概略図である。右側のピペットは、左側のピペットとは別の態様を示している。
【図2】図2は、前記ピペットとユニットとのプログラム論理を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸を用いて、予め定められた体積の液体を吸引し、次いで供給するためのピストンを有するピペット用の検査装置であって、
−変位した体積の測定を行い、この測定値を所望の値と比較し、測定された体積と該所望の値との差の表示を発生する第一の手段と、
−前記第一の手段に応答し、前記表示に関する情報を伝達する第二の手段と
を含むことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記第一の手段が、
−前記軸の2点で圧力測定を行うことのできるセンサと、
−この測定値から軸内で変位した体積を計算するようにプログラムされており、この体積が所望の体積に対応するかどうかを検査し、この検査に関する表示を発生するマイクロプロセッサと
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記センサが、さらに、軸内の温度を測定することができることを特徴とする、請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記第二の手段がディスプレイを含むことを特徴とする、請求項1に記載の検査装置。
【請求項5】
前記第二の手段が音響警報機を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記第二の手段が、そのマイクロプロセッサが制御記録ユニットと通信するのを可能にするトランシーバを含むことを特徴とする、請求項2、4、及び5のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記マイクロプロセッサが、前記ユニットから該マイクロプロセッサに送られた指示を保存するようにプログラムされていることを特徴とする、請求項6に記載の検査装置。
【請求項8】
前記マイクロプロセッサが、測定された体積と所望の値との差に関する情報を、マイクロプロセッサのトランシーバから前記ユニットに送るようにプログラムされていることを特徴とする、請求項7に記載の検査装置。
【請求項9】
前記検査装置がそのピストンが作動装置によって駆動されるピペットに使用され、吸引された体積が所望の値に対応するように前記作動装置を制御すべく、前記マイクロプロセッサがプログラムされていることを特徴とする、請求項2に記載の検査装置。
【請求項10】
前記装置が現存するピペットに取り付けることのできるモジュールを形成することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項11】
軸を用いて、予め定められた体積の液体を吸引し、次いで供給するためのピストンを有するピペットであって、請求項1〜10のいずれか一項に記載の検査装置を含むことを特徴とするピペット。
【請求項12】
請求項8に記載の検査装置を取り付けた複数のピペットを管理する制御記録ユニットであって、該ユニットが、コンピュータと、該コンピュータが前記複数のピペットの各々のトランシーバと通信するのを可能にするトランシーバとを含むことを特徴とする制御記録ユニット。
【請求項13】
−実行されるピペット操作の手順を各ピペットに送ること、
−各ピペットによる測定遂行を記録すること、及び
−操作者が行ったことを記録すること、
という作業が実行されるように、前記コンピュータがプログラムされていることを特徴とする、請求項12に記載の制御記録ユニット。
【請求項14】
各ピペットによって採取される貯蔵試料の量及び数と許容誤差とを送るように、コンピュータがプログラムされていることを特徴とする、請求項13に記載の制御記録ユニット。
【請求項15】
一連のピペット操作の間、操作者をガイドするように、コンピュータがプログラムされていることを特徴とする、請求項13及び14のいずれか一項に記載の制御記録ユニット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−520719(P2007−520719A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552088(P2006−552088)
【出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/003824
【国際公開番号】WO2005/085775
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(506267433)
【出願人】(505282983)アーテル インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】