説明

ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼの変異酵素

【課題】ビタミンB6作用を持つ物質のひとつで、医薬品及びその合成中間体として有用なピリドキサミンを合成するのに有用なピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ(PPAT)は、アミノ基供与源として高価なアラニンを用いることから、これをより安価なアミノ基供与源を使用できるようにすることが求められている。
【解決手段】PPAT遺伝子に変異処理を施し、スクリーニングした結果、アミノ基供与源として、グルタミン酸を利用でき且つピリドキサミン生成能の高い変異酵素を取得し、該変異酵素あるいは、その酵素遺伝子を導入した組換え体を用い、ピリドキサミンを効率よく製造する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規に同定されたポリヌクレオチド(あるいは核酸)及びポリペプチド(あるいはタンパク質)(又はその一部)あるいはその塩;該ポリヌクレオチド(あるいは核酸)及びポリペプチド(あるいはタンパク質)の同族体を含む変異体及び誘導体;該ポリヌクレオチド(あるいは核酸)及びポリペプチド(あるいはタンパク質)、並びにそれらの同族体を含む変異体及び誘導体の製造法;該ポリペプチド(あるいはタンパク質)又は該ポリヌクレオチド(あるいは核酸)を使用した化合物の製造技術;並びに該ポリヌクレオチド(あるいは核酸)、ポリペプチド(あるいはタンパク質)、同族体、変異体及び誘導体の用途に関するものである。
特には、本発明は、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼの変異酵素及び本変異酵素を用いたピリドキサミン及び/又はその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピリドキサミン(PM)は、ピリドキサール(PL)、ピリドキシン(PN)とともにビタミンB6作用を持つ物質のひとつである。
【0003】
【化1】

【0004】
またリン酸化されたピリドキサミン5'‐リン酸は、アミノ酸代謝にあずかる酵素の補
酵素などとして重要な役割を果たしている。また、非酵素的におこるタンパク質の糖化より生ずるadvanced glycation end products(AGE)生成を阻害すること、脂質過酸化反応により生ずるタンパク質の修飾を阻害し、Advanced lipoxidation end productsの生成を阻害すること、活性カルボニル化合物のスカベンジャーとして作用することなどが見出されており、糖尿病合併症の治療薬として注目されており、また、抗老化物質として、食品、化粧品分野からも注目されている。
【0005】
酵素法や醗酵法を使用してピリドキサミン及び/又はその塩を生成する方法においては、これまで有効なピリドキサミン生産法は確立されていなかったが、こうした中、ピリドキサミン及び/又はその塩を生成する微生物菌株を見出し、当該微生物の菌体、培養物、または菌体処理物を用いて、ピリドキサミン及び/又はその塩を容易にかつ効率よく製造する方法が報告されている〔特許文献1: 国際公開第2007/142222号パンフレット(WO 2007/142222 A1)〕。
ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ(pyridoxamine-pyruvate aminotransferase (PPAT))としては、Pseudomonas sp. MA由来のものの報告がある(非特許文
献1: Walter B.D. et al., Biochemistry, 2, 1414-1419 (1963))が、上記特許文献1
に記載の微生物メソリゾビウム ロティ(Mesorhizobium loti)由来のPPAT及びその遺伝子
(ppat遺伝子)が非特許文献2〔Yu Yoshikane et. al., Biochem. J. (2006) 396, 499-507〕により公知となっている。
PPATは、下記反応:
【0006】
【化2】

【0007】
を触媒する酵素であるが、アミノ基供与源としてアラニンを用い、ピリドキサールからピリドキサミンとピルビン酸を生成する。しかし、使用するアミノ基供与源として、アラニンは高価であるため、工業的には、安価なグルタミン酸を利用できるような酵素が必要とされている。しかし、現在ピリドキサールとグルタミン酸からピリドキサミンを生成する酵素活性は不十分であり、その高活性な酵素が望まれている。
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/142222号パンフレット(WO 2007/142222 A1)
【非特許文献1】Walter B.D. et al., Biochemistry, 2, 1414-1419 (1963)
【非特許文献2】Yu Yoshikane et. al., Biochem. J. (2006) 396, 499-507
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高活性なPPAT酵素を提供することにある。より具体的には、遺伝子的手法を用い、PPAT酵素を改変(遺伝子変異)し、グルタミン酸を利用できる酵素を提供すること、および活性の高い酵素を提供することである。また、そのような酵素あるいは、その酵素遺伝子を導入した組換え体を用い、ピリドキサミンを効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決すべく、PPAT遺伝子に変異処理を施し、鋭意スクリーニングした結果、アミノ基供与源として、グルタミン酸を利用できる酵素およびピリドキサミン生成能の高い酵素を作製できた。
かくして、本発明では、以下のような好ましい態様が提供される。
〔1〕(1) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加を含むアミノ酸配列からなり、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天然のPPATの酵素活
性に比較して特徴的な利点を有しているポリペプチド、
(2) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において、少なくとも、70番目のバリン残基が他のアミノ酸に変異せしめられたアミノ酸配列からなり、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天然のPPATの酵
素活性に比較して特徴的な利点を有しているポリペプチド、及び
(3) 以下のいずれかの条件:
(a) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において70番目のバリン残基が、他のアミノ酸に変異させられている;
(b) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において35番目のチロシン残基が、他のアミノ酸に変異させられている;
(c) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において2番目のメチオニン残基が、他のアミノ
酸に変異させられている;
(d) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において212番目のグルタミン酸残基が、他のア
ミノ酸に変異させられている;
(e) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において247番目のフェニルアラニン残基が、他
のアミノ酸に変異させられている;
の1又はそれ以上を満たすもので、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対してアミノ酸レベルで少なくとも50%の同一性、少なくとも60%の同一性、少なくとも70%の同一性、少な
くとも80%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも93%の同一性、少なくとも96%の同一性、あるいは少なくとも98%の同一性を持つアミノ酸配列からなり、ピリドキサミン
−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天
然のPPATの酵素活性に比較して特徴的な利点を有しているポリペプチド
からなる群から選択されたものであることを特徴とするポリペプチド。
〔2〕上記〔1〕に記載のポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする核酸。
〔3〕上記〔2〕に記載の核酸の塩基配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAであることを特徴とする
核酸。
〔4〕上記〔2〕又は〔3〕に記載の核酸を含むことを特徴とする組換えプラスミド又はベクター。
〔5〕上記〔2〕又は〔3〕に記載の核酸あるいは上記〔4〕に記載の組換えプラスミド又はベクターで宿主細胞が形質転換されていることを特徴とする形質転換体。
〔6〕上記〔5〕に記載の形質転換体を培養する工程を含むことを特徴とするピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドの製造方法。
〔7〕アミノ基供与体存在下、ピリドキサール又はその塩と上記〔1〕に記載のポリペプチド又は上記〔5〕に記載の形質転換体の菌体、その培養物、それらの処理物及び抽出物、並びにそれらの固定化物からなる群から選択されたものとを接触せしめることを特徴とするピリドキサミン又はその塩の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明で確認された変異型ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼは、既知の酵素と比較して、グルタミン酸に対して高い活性を示し、その諸性質も既知の酵素とは異なり、ピリドキサミン及びその塩の製造に使用する上で、優れたものである。
かくして、様々な有用な生理活性を有しており、医薬品及びその合成中間体としても有用なピリドキサミン及びその塩を、簡単且つ経済的に有利に製造する途を開くものである。また、化粧品分野などで有効と期待されるピリドキサミン及びその誘導体の効能利用にも役立つ。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で同定され且つ特徴が明らかにされたピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ変異酵素(変異型PPAT)を取得するのに用いた天然型ピリドキサミン−ピルビ
ン酸アミノトランスフェラーゼ(PPAT)は、次のような手法でその遺伝子がクローニングされ、さらに組換え酵素を産生させることができ、新規なPPAT変異酵素を構築するのに応用される。
1)DNAの抽出および目的遺伝子のクローニング方法
ピリドキサミンを生産できる微生物、例えば、メソリゾビウム ロティ(Mesorhizobium loti)を培養して得られる培養物から遠心分離などで菌体を回収し、常法によりDNAを抽出する。
2)形質転換体の作成
本酵素を生産する形質転換体は、上記遺伝子を含む組換えDNAを用いて宿主を形質転換
することにより作製される。当該組換えDNAは宿主微生物で自律的に増殖し得るプラスミ
ドベクターあるいはファージベクターに本遺伝子を挿入することにより作製できる。
宿主‐ベクター系は、当該組換えDNAが自律的に増殖可能で安定に保持され、形質が発
現可能なものであればよい。宿主微生物に組換えDNAを導入して形質転換する方法として
は、公知の方法を用いることができ、たとえば塩化カルシウム法やエレクトロポーション法によって組換えDNAを導入することができる。
【0013】
3)組換え酵素の生産
上記方法で作成した形質転換体を培養し、培養物からPPATを採取することができる。
培養条件については宿主やベクターの種類に応じ適宜決定する。
たとえば大腸菌を宿主とする場合の培養条件は、LB培地、YT培地、M9培地などを用い
て、培養温度20〜40℃で培養時間4〜48時間である。
得られた培養物からの本酵素の採取は常法により行うことができ、たとえば、培養物から遠心分離により菌体を回収し、超音波処理、フレンチプレス等の方法で菌体細胞を破壊し、細胞残渣を遠心分離により除き、本酵素を採取することができる。菌体外に酵素を蓄積する場合には、培養上清をそのまま、あるいは濃縮し、本酵素を採取できる。
本酵素をさらに精製する場合には、硫安分画、透析、各種クロマトグラフィーなどの公知の方法を組み合わせる方法が挙げられる。
【0014】
本明細書中「変異型PPAT」は、天然のPPATアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸(例えば、1若しくは数個のアミノ酸)が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天然のPPATの酵素活性に比較して特徴的な利点を有し
ているポリペプチド又はタンパク質を意味している。「メソリゾビウム ロティ由来の天
然のPPATの酵素活性に比較して特徴的な利点」とは、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性においてグルタミン酸に対する反応性が向上していること、形質転換された宿主細胞、例えば、形質転換された大腸菌で発現した場合の発現量が高くなっていること、形質転換細胞で発現酵素活性の上昇が観察されること、安定性が向上せしめられていることなどのいずれかを備えていることを意味するものである。典型的な場合、本発明の変異型PPATは、配列番号2(SEQ ID NO: 2)に示されたアミノ酸配列において1又はそれより多くのアミノ酸(例えば、1若しくは数個のアミノ酸)が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天然のPPATの酵素活性に比較して
特徴的な利点を有する活性を有しているポリペプチド又はタンパク質である。ある場合には、当該変異型PPATのN末端側及び/又はC末端側の一部であって酵素活性発現に関与しない一部のアミノ酸の配列を変異、欠損又は付加したものが包含されてよく、さらに、下記するように融合タンパク質として産生せしめられ、各種のタグを有しているものも包含されてよい。
【0015】
一つの態様では、本発明の変異型PPATは、配列番号2に示されたアミノ酸配列において、少なくとも、70番目のバリン残基が他のアミノ酸に変異せしめられたアミノ酸配列から
なり、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天然のPPATの酵素活性に比較して特徴的な利点を有しているポリペプ
チド又はタンパク質である。当該他のアミノ酸としては、例えば、非極性(疎水性)アミノ酸又は陽電荷をもつアミノ酸(塩基性アミノ酸)から選択されるものであってよく、より具体的には、例えば、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、リジン、ヒスチジンなどから選択されてよく、好ましくは、アルギニン、リジン、ヒスチジンなどから選択されてよく、最も好ましくはリジンであってよい。
代表的な場合、本発明の変異型PPATは、以下のいずれかの条件の1又はそれ以上を満たすものである:
(1) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において70番目のバリン残基が、他のアミノ酸、例えば、リジン残基またはアルギニン残基に変異させられている;
(2) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において35番目のチロシン残基が、他のアミノ酸、例えば、ヒスチジン残基に変異させられている;
(3) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において2番目のメチオニン残基が、他のアミノ
酸、例えば、スレオニン残基に変異させられている;
(4) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において212番目のグルタミン酸残基が、他のア
ミノ酸、例えば、グリシン残基に変異させられている。
(5) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において247番目のフェニルアラニン残基が、他
のアミノ酸、例えば、システイン残基に変異させられている;
本発明の変異型PPATでは、上記条件は、その一つを満たすものであってよいし、二つを満たすもの、三つを満たすもの、四つを満たすもの、あるいは五つを全て満たすものであってよく、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天然のPPATの酵素活性に比較して特徴的な利点を有しているポリペ
プチド又はタンパク質である。
【0016】
高いピリドキサミン産生活性を持つPPATは、例えば、メソリゾビウム(Mesorhizobium)
属菌の培養物より精製することができる。メソリゾビウム属菌としては、メソリゾビウム
ロティ(Mesorhizobium loti)が特に本発明の対象たるPPATの産生能に優れる。
上記微生物は、TY培地等の微生物の培養に用いられる一般的な培地で培養される。培養培地は、該菌が増殖し得るものである限り特に限定されないが、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、有機栄養素等を含有する液体栄養培地などが使用できる。十分に増殖させた後に菌体を回収し(例えば、遠心分離などして回収し)、緩衝液中で破砕等(例えば、ガラスビーズを使用した物理的破砕、超音波処理あるいは酵素などによる生化学的手法)して無細胞抽出液とする。無細胞抽出液から、蛋白質の溶解度による分画(有機溶媒による沈澱や硫安などによる塩析など)、透析、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィーや、キレート、色素、抗体などを用いたアフィニティー・クロマトグラフィーなどを単独あるいは適宜組み合わせることにより精製する事ができる。例えば、DEAE-セファロース(Sepharose)などを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、ブルー-セファロースを用いたアフィニティー・クロマ
トグラフィー、Mono Q HR 5/5(FPLCシステム、アマシャム・ファルマシアバイオテク)などの高性能液体クロマトグラフィーシステム等を経て電気泳動的にほぼ単一バンドにまで精製することができる。
当該PPATは、それを生産し得る微生物から得ることができ、該微生物は野生株又は変異株のいずれであってもよい。さらに、細胞融合又は遺伝子組換え技術等の遺伝子操作や遺伝学的な手法により誘導される微生物あるいはそれ以外の細胞(例えば、形質転換された細胞を含む)も用いられる。
【0017】
本発明では、「遺伝子組換え技術」を利用して所定の核酸・ポリヌクレオチドなどを単離・配列決定したり、組換え体を作製したり、所定のタンパク質・ペプチドを得ることが
できる。本明細書中使用できる遺伝子組換え技術としては、当該分野で知られたものが挙げられ、例えば J. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (2nd Edition, 1989 & 3rd Edition, 2001); D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 3, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); "Methods in Enzymology" series, Academic Press, New York、例えば R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B)
& 101 (Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987); R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 216 (Recombinant DNA, Part G), Academic Press, New York (1992); R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 217 (Recombinant DNA, Part H) & 218 (Recombinant DNA, Part I), Academic Press, New York (1993); P. M. Conn ed., "Methods in Enzymology", Vol. 302 (Green Fluorescent Protein), Academic Press, New York (1999); S. Weissman ed., "Methods in Enzymology", Vol. 303 (cDNA Preparation and Characterization), Academic Press, New York (1999) などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法あるいはそれらと実質的に同様な方法や改変法が挙げられる(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる)。
【0018】
本明細書で用いる用語「ポリペプチド」としては、以下に記載するような如何なるポリペプチドを指すものであってもよい。ポリペプチドの基本的な構造は周知であり、当該技術分野において非常に数多くの参考書及びその他の刊行物に記載がある。こうしたことに鑑み、本明細書で用いる用語「ポリペプチド」は、ペプチド結合又は修飾したペプチド結合により互いに結合しているような2個又はそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチド又は任意のタンパク質を意味する。本明細書で用いる用語「ポリペプチド」としては、当該分野において、例えばペプチド、オリゴペプチドあるいはペプチドオリゴマーとも称せられる短い鎖のもの、及びタンパク質と一般的に言われ、多くの形態のものが知られている長い鎖のものの両方を通常意味してよい。ポリペプチドは、しばしば、通常、天然型アミノ酸(天然に存在しているアミノ酸: あるいは遺伝子でコードされるアミノ酸)と称さ
れるアミノ酸以外のアミノ酸を含有していてもよい。ポリペプチドは、また末端アミノ酸残基を含めて、その多くのアミノ酸残基が翻訳された後にプロセッシング及びその他の改変(あるいは修飾)がなされるといった天然の工程によるのみならず、当業者に周知の化学的改変技術によっても、上記のポリペプチドはそれが改変(修飾)できることは理解されよう。該ポリペプチドに加えられる改変(修飾)については、多くの形態のものが知られており、それらは当該分野の基礎的な参考書及びさらに詳細な論文並びに多数の研究文献にも詳しく記載されており、これらは当業者に周知である。幾つかのとりわけ常套的な改変・修飾としては、例えばアルキル化、アシル化、エステル化、アミド化、グリコシル化、ポリエチレングリコール修飾(PEG化)、脂質結合、硫酸化、リン酸化、グルタミン酸
残基のγ-カルボキシル化、水酸化及びADP-リボシル化等が挙げられ、例えばT. E. Creighton, Proteins-Structure and Molecular Properties, Second Edition, W. H. Freeman
and Company, New York, (1993); B.C.Johnson (Ed.), Posttranslational Covalent Modification of Proteins, Academic Press, New York, (1983) (Wold, F., "Posttranslational Protein Modifications: Perspective and Prospects", pp.1-12); Seifter et al., "Analysis for Protein Modifications and nonprotein cofactors", Methods in Enzymology, 182: 626-646 (1990); Rattan et al., "Protein Synthesis: Posttranslational Modification and Aging", Ann. N. Y. Acad. Sci., 663: p.48-62 (1992)等の記載
を参照できる。修飾の中には、固相化を可能にするための活性基の導入などが含まれてよい。
【0019】
本明細書中、「相同性」又は「同一性」とは、ペプチド配列(あるいはアミノ酸配列)又はヌクレオチド配列(あるいは塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同士又は各塩基同士の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、二つのペプチド配列(ポリペプチド配列を含む)又は二つのヌクレオチド配列(ポリヌクレオチド配列を含む)の間の配列相関性の程度を意味するものである。相同性は容易に算出できる。二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の相同性を測定する方法は数多く知られており、「相同性」(「ホモロジー」又は「同一性」とも言われる)なる用語は、当業者には周知である(例えば、Lesk, A. M. (Ed.), Computational Molecular Biology, Oxford University Press, New York, (1988);
Smith, D. W. (Ed.), Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Academic Press, New York, (1993); Grifin, A. M. & Grifin, H. G. (Ed.), Computer Analysis of Sequence Data: Part I, Human Press, New Jersey, (1994); von Heinje, G., Sequence
Analysis in Molecular Biology, Academic Press, New York, (1987); Gribskov, M. &
Devereux, J. (Ed.), Sequence Analysis Primer, M-Stockton Press, New York, (1991) 等)。二つの配列の相同性を測定するのに用いる一般的な方法には、Martin, J. Bishop (Ed.), Guide to Huge Computers, Academic Press, San Diego, (1994); Carillo, H.
& Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48: 1073 (1988) 等に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。相同性を測定するための好ましい方法としては、試験する二つの配列間の最も大きな適合関係部分を得るように設計したものが挙げられる。このような方法は、コンピュータープログラムとして組み立てられているものが挙げられる。二つの配列間の相同性を測定するための好ましいコンピュータープログラム法としては、GCGプログラムパッケージ(Devereux, J. et al., Nucleic Acids Research, 12(1): 387 (1984)), BLASTP, BLASTN, FASTA (Atschul, S. F. et al., J. Molec. Biol., 215: 403 (1990))等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、当該分野で公知の方法を使用することができるし、市販のものを使用できる。相同性検索にはデータベースを利用でき、例えば、GenBankTM, DNA DataBank of Japan (DDBJ), European Molecular Biology Laboratory (EMBL)などを対象にできる。本明細書で「高い相同性」とい
った場合当該対象配列の長さにもよるが、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、そして特定の場合には95%以上で、特に好ましくは97%以上であってよい

【0020】
本明細書中、「オリゴヌクレオチド」とは、比較的短い一本鎖又は二本鎖のポリヌクレオチドで、好ましくはポリデオキシヌクレオチドが挙げられ、Angew. Chem. Int. Ed. Engl., Vol.28, p.716-734 (1989)に記載されているような既知の方法、例えば、フォスフ
ォトリエステル法、フォスフォジエステル法、フォスファイト法、フォスフォアミダイト法、フォスフォネート法などの方法により化学合成されることができる。通常合成は、修飾された固体支持体上で合成を便利に行うことができることが知られており、例えば、市販されている自動化された合成装置、例えば、Applied Biosystems 3400 DNA synthesizer (Applied Biosystems), ABI 3900 High-Throughput DNA synthesizer (Applied Biosystems)などを用いて行うことができる。該オリゴヌクレオチドは、一つ又はそれ以上の修
飾された塩基を含有していてよく、例えば、イノシンなどの天然においては普通でない塩基あるいはトリチル化された塩基などを含有していてよいし、場合によっては、マーカーの付された塩基を含有していてよい。
【0021】
本明細書中、「ポリメラーゼ・チェイン・リアクション(polymerase chain reaction)
」又は「PCR」とは、一般的に、H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989などに記載されたような方法を指し、例えば、所望のヌクレオチド配列をインビトロ
で酵素的に増幅するための方法を指している。一般に、PCR 法は、鋳型核酸と優先的にハイブリダイズすることのできる2個のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、プライ
マー伸長合成を行うようなサイクルを繰り返し行うことを含むものである。典型的には、PCR法で用いられるプライマーは、鋳型内部の増幅されるべきヌクレオチド配列に対して
相補的なプライマーを使用することができ、例えば、該増幅されるべきヌクレオチド配列とその両端において相補的であるか、あるいは該増幅されるべきヌクレオチド配列に隣接しているものを好ましく使用することができる。プライマーは、好ましくは10個以上の塩基、さらに好ましくは15個以上の塩基からなるオリゴヌクレオチド、より好ましくは18〜30個の塩基からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。
PCR 反応は、当該分野で公知の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができるが、上記文献の他、例えばR. Saiki, et al., Science, 230: 1350, 1985; R. Saiki, et al., Science, 239: 487, 1988; D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); M. A. Innis et al. ed., "PCR Protocols: a guide to methods and applications", Academic Press, New York (1990)); M. J. McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991); M. A. Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998-9002 (1988)などに記載された方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法に従って行うことができる。また、PCR 法は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。
【0022】
PCR反応は、代表的な場合には、例えば鋳型(代表的にはDNA)と対象核酸に基づいてデザインされたプライマーとを、10×反応緩衝液(Taq DNA ポリメラーゼに添付されている
)、dNTPs(デオキシヌクレオシド三リン酸dATP, dGTP, dCTP, dTTPの混合物)、Taq DNAポリメラーゼ及び脱イオン蒸留水と混合する。混合物を、例えば、GeneAmpTM PCR system
9700 (Applied Biosystems)などの自動サーマルサイクラーを用いて一般的なPCR サイクル条件下にそのサイクルを25〜60回繰り返すが、増幅のためのサイクル数は適宜目的に応じて適当な回数とすることができる。PCRサイクル条件としては、例えば、変性90〜95℃ 5〜100秒、アニーリング40〜60℃ 5〜150秒、伸長65〜75℃ 30〜300秒のサイクル、好ま
しくは変性94℃ 15秒、アニーリング58℃ 15秒、伸長72℃ 45秒のサイクルが挙げられる
が、アニーリングの反応温度及び時間は適宜実験によって適当な値を選択できるし、変性反応及び伸長反応の時間も、予想されるPCR産物の鎖長に応じて適当な値を選択できる。
アニーリングの反応温度は、通常プライマーと鋳型DNAとのハイブリッドのTm値に応じて
変えることが好ましい。伸長反応の時間は、通常1000bpの鎖長当たり1分程度がおおよその目安であるが、より短い時間を選択することも場合により可能である。エラープローンPCR (error-prone PCR)とは、PCR反応の際に加える4種類のデオキシヌクレオチドの濃度を不揃いとすることによりDNAに変異を導入する技術である(生物化学実験法40「蛋白質
工学研究法」、井本黎治著「ランダム変異」, p63-69、ISBN4-7622-9822-0 (1996年))。
【0023】
所定の核酸を同定したりするには、ハイブリダイゼーション技術を利用することができる。該ハイブリダイゼーションは、上記「遺伝子組換え技術」を開示する文献記載の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。例えば、ハイブリダイゼーションは、DNAなどの核酸を含有しているサンプルを担体(ナイロンフィルター
などの膜を含めたもの)に転写せしめ、必要に応じ変成処理、固定化処理、洗浄処理などを施した後、その担体(例えば、膜など)に転写せしめられたものを、必要に応じ変成させた標識プローブDNA断片と、ハイブリダイゼーション用バッファ中で反応させて行われ
る。ハイブリダイゼーション処理は、普通約35℃〜約80℃、より好適には約50℃〜約65℃で、約15分〜約36時間、より好適には約1時間〜約24時間行われるが、適宜最適な条件を選択して行うことができる。例えば、ハイブリダイゼーション処理は、約55℃で約18時間行われる。ハイブリダイゼーション用バッファとしては、当該分野で普通に使用されるものの中から選んで用いることができる。転写した担体(例えば、膜など)の変成処理としては、アルカリ変性液を使用する方法が挙げられ、その処理後中和液や緩衝液で処理する
のが好ましい。また担体(例えば、膜など)の固定化処理としては、普通約40℃〜約 100℃、より好適には約70℃〜約90℃で、約15分〜約24時間、より好適には約1時間〜約4時間ベーキングすることにより行われるが、適宜好ましい条件を選択して行うことができる。例えば、フィルターなどの担体を約80℃で約2時間ベーキングすることにより固定化が行われる。転写した担体(例えば、膜など)の洗浄処理としては、当該分野で普通に使用される洗浄液、例えば1M NaCl、1mM EDTAおよび0.1% Sodium Dodecyl sulfate (SDS)含有
50mM Tris-HC1緩衝液,pH8.0などで洗うことにより行うことができる。膜を含めた担体
としては、当該分野で普通に使用されるものの中から選んで用いることができ、例えば、ナイロンフィルターなどを挙げることができる。
【0024】
上記アルカリ変性液、中和液、緩衝液としては、当該分野で普通に使用されるものの中から選んで用いることができ、アルカリ変性液としては、例えば、0.5M NaOHおよび1.5M NaClを含有する液などを挙げることができ、中和液としては、例えば、1.5M NaCl含有 0.5M Tris-HCl緩衝液,pH8.0などを挙げることができ、緩衝液としては、例えば、2×SSPE(0.36M NaCl、20mM NaH2PO4および2mM EDTA)などを挙げることができる。またハイブリダ
イゼーション処理に先立ち、非特異的なハイブリダイゼーション反応を防ぐために、必要に応じて転写した担体(例えば、膜など)はプレハイブリダイゼーション処理することが好ましい。このプレハイブリダイゼーション処理は、例えば、プレハイブリダイゼーション溶液[50% formamide, 5×Denhardt's溶液(0.2 %ウシ血清アルブミン、0.2% polyvinyl pyrrolidone), 5×SSPE, 0.1% SDS, 100μg/mL熱変性サケ精子DNA]などに浸し、約35℃
〜約50℃、好ましくは約42℃で、約4〜約24時間、好ましくは約6〜約8時間反応させることにより行うことができるが、こうした条件は当業者であれば適宜実験を繰り返し、より好ましい条件を決めることができる。ハイブリダイゼーションに用いる標識プローブDNA断片の変成は、例えば、約70℃〜約100℃、好ましくは約100℃で、約1分間〜約60分間
、好ましくは約5分間加熱するなどして行うことができる。ハイブリダイゼーションは、それ自体公知の方法あるいはそれに準じた方法で行うことができる。
本明細書で「ストリンジェントな条件」とは、特定のヌクレオチド配列との間で特定のハイブリッドが形成され、非特異性のハイブリッドは生成されない条件を包含する。該ストリンジェントな条件とは、例えば、配列番号:3、5、7、9、13、15、17、又は19に示される塩基配列からなるDNAに基づいて調製したプローブと、例えばナトリウム濃度に
関し、約15〜約50mM、好ましくは約19〜約40mM、より好ましくは約19〜約20mMで、温度については約35〜約85℃、好ましくは約50〜約70℃、より好ましくは約60〜約65℃の条件でハイブリッド形成を行うことを示す。典型的な場合、本ストリンジェントな条件とは、例えば、配列番号:3、5、7、9、13、15、17、又は19に示される塩基配列からなるDNA
に基づいて調製したプローブと、1×SSC及び0.1%SDSに相当する塩濃度、好ましくは0.1×SSC及び0.1%SDSに相当する塩濃度であって、60℃で洗浄が行われる条件であることも好ましい。該洗浄は、1回、好ましくは2、3回行われることである。プローブの長さは、ハイブリッド形成条件により適切に選択でき、通常100bp〜1kbpの範囲である。
【0025】
ハイブリダイゼーション完了後、フィルターなどの担体を十分に洗浄処理し、特異的なハイブリダイゼーション反応をした標識プローブDNA断片以外の標識プローブを取り除く
などしてから検出処理をすることができる。フィルターなどの担体の洗浄処理は、当該分野で普通に使用されるものの中から選んで用いて行うことができ、例えば、0.1% SDS含有
0.5×SSC(O.15M NaCl, 15mMクエン酸)溶液などで洗うことにより実施できる。ハイブリダイズした核酸は、代表的にはオートラジオグラフィーにより検出することができるが、当該分野では各種の技術手法が知られており、そうした方法の中から適宜選択して検出に用いることもできる。検出したシグナルに相当する核酸バンドを、適切な緩衝液、例えば、SM溶液(100mM NaClおよび10mM MgSO4含有50mM Tris-HCl緩衝液、pH7.5)などに懸濁し、ついでこの懸濁液を適度に希釈して、所定の核酸を単離・精製、そしてさらなる増幅処理にかけることができる。所定の核酸を保有するサンプル(例えば、ファージ粒子、組換え
プラスミド又はベクターなど)は、当該分野で普通に使用される方法でそれを精製分離することができ、例えば、グリセロールグラジエント超遠心分離法(Molecular cloning, a laboratory manual, ed. T. Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory, 2nd ed. 78, 1989)などにより精製することができる。ファージ粒子などからは、当該分野で普通に使用される方法でDNAを精製分離することができ、例えば、得られたファージなどをTM溶液(10mM MgSO4含有50mM Tris-HCl緩衝液、pH7.8)などに懸濁し、DNase IおよびRNase Aなどで
処理後、20mM EDTA, 50μg/ml Proteinase K及び0.5 %SDS混合液などを加え、約65℃、約1時間保温した後、これをフェノール抽出ジエチルエーテル抽出後、エタノール沈殿によりDNAを沈殿させ、次に得られたDNAを70%エタノールで洗浄後乾燥し、TE溶液(10mM EDTA
含有10mM Tris-HC1緩衝液、pH8.0)に溶解するなどして得られる。また、目的としているDNAは、サブクローニングなどにより大量に得ることも可能であり、例えばサブクローニングは、宿主として大腸菌を用いプラスミドベクターなどを用いて行うことができる。こうしたサブクローニングにより得られたDNAも、上記と同様にして遠心分離、フェノール抽
出、エタノール沈殿などの方法により精製分離できる。
【0026】
本明細書において、核酸は、一本鎖DNA、二本鎖DNA、RNA、DNA:RNAハイブリッド、合成DNA、合成RNAなどの核酸であり、またゲノムDNA、ゲノミックDNAライブラリー、細胞由来のcDNA、合成DNAのいずれであってもよい。核酸の塩基配列は、修飾(例えば、付加、除
去、置換など)されることもでき、そうした修飾されたものも包含されてよい。核酸は、本発明で記載するペプチドあるいはその一部をコードするものであってよく、好ましいものとしてはDNAが挙げられる。また核酸は、対象ポリペプチド(タンパク質)、あるいは
それらの部分配列と実質的に同等な抗原性などのそれと実質的に同等な生物学的活性を有するペプチド(それと実質的に同一のアミノ酸配列を含有するものを含むし、それと高い相同性を有するものも含まれてよい)をコードするといったそれと同効の塩基配列を含有するものであれば如何なるものであってもよい。該「同効の塩基配列」とは、例えばストリンジェントな条件で問題の配列を有するものにハイブリダイズするものであってよく、例えば当該塩基配列のうちの連続した5個以上の塩基配列、好ましくは10個以上の塩基配列、より好ましくは15個以上の塩基配列、さらに好ましくは20個以上の塩基配列とハイブリダイズし、当該ポリペプチドと実質的に同等のアミノ酸配列をコードするものなどが挙げられる。核酸は、化学合成によって得ることも可能である。その場合断片を化学合成し、それらを酵素により結合することによってもよい。
【0027】
当該PPATをコードするDNAは、例えば、以下のような方法によって単離することができ
る。対象となる酵素を精製後、N末端アミノ酸配列を解析する。該酵素のアミノ酸配列解析では、精製酵素を必要に応じて、リジルエンドペプチダーゼ、V8プロテアーゼなどの酵素により切断後、逆相液体クロマトグラフィーなどによりペプチド断片を精製後、プロテインシーケンサーによりアミノ酸配列を解析する。配列解析では、複数のペプチド断片を利用してそのアミノ酸配列を決めることができる。決定したアミノ酸配列を元にPCR用の
プライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAもしくは、cDNAライブラリーを鋳型とし、
アミノ酸配列から設計したPCRプライマーを用いてPCRを行うことにより本発明のDNAの一
部を得ることができる。さらに、得られたDNA断片をプローブとして、酵素生産株の染色
体DNAの制限酵素消化物をファージ、プラスミドなどに導入し、大腸菌を形質転換して得
られたライブラリーやcDNAライブラリーを利用して、コロニーハイブリダイゼーション
、プラークハイブリダイゼーションなどにより、本発明のDNAを得ることができる。PCRプライマーとしては、類似のPPATの公知の塩基配列を解析し、それから、設計することも可能である。
【0028】
また、PCRにより得られたDNA断片の塩基配列を解析し、得られた配列から、既知のDNA
の外側に伸長させるためのPCRプライマーを設計し、酵素生産株の染色体DNAを適当な制限酵素で消化後、自己環化反応によりDNAを鋳型としてインバースPCRを行うことにより(Och
man, H. et al., Genetics, 120: 621-623 (1988); Innis, M. et al. (Ed.), PCR: Application & Protocols, Academic Press, New York (1989))、また、RACE法(Rapid Amplification of cDNA Ends, Frohman, M.A. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 8998 (1988); Innis, M.A. et al. (Ed.), PCR Protocols: A guide to methods and applications, pp28-38, Academic Press, New York (1990), 駒野徹編、生物化学実験法47 PCR実験マニュアル、学会出版センター(JSSP))などにより本発明のDNAを得ることも可能である。なお、本発明のDNAは、以上のような方法によってクローニングされたゲノムDNA、あるいはcDNAの他、合成によって得ることもできる。このようにして単離された、本発明によるPPATをコードするDNAを公知の発現ベクターに挿入することにより、PPAT発現ベクタ
ーが提供される。また、この発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、該PPATや本発明の変異型PPATを組み換え体から得ることができる。
【0029】
本発明の酵素遺伝子であるDNAは、それが一旦単離取得されたならば、慣用方法に従っ
てそのDNA中の塩基配列の大部分あるいは一部分を利用して、それをプローブとして用い
て、検索に利用できる。その結果、様々な生物の保有する遺伝子のうちに、PPAT活性に関与する遺伝情報を担うものを見つけ出し、次にそのようにして同定された遺伝子を遺伝子組換え技術の手法を応用して切り出して、それを大量に得、それを本変異酵素と同様に用いることは、当業者であれば容易に理解し得るところのものである。なお、プローブなどを放射性同位体などによって標識するには、市販の標識キット、例えばランダムプライムドDNAラベリングキット(Boehringer Mannheim)などを使用してプローブ用DNAを[α-32P]dCTP (Amersham Biosciences)などを用いて標識し、放射活性を持つプローブを得ること
により行うことが出来る。また、該標識は、当該分野で知られた方法で行うことができ、例えばジゴキシゲニン、蛍光色素、ビオチン− アビジン系などによって行うこともでき
る。本発明のPPAT同族体の遺伝情報を担うDNA源としては、上記したような手法の適用で
きる微生物であって、当該活性を持つPPATをコードする遺伝子を有するものがあげられる。この他にも、独特の酵素遺伝子を有するものであれば、下等生物、高等生物の区別なく利用することが可能である。
【0030】
該取得されたDNAの塩基配列の決定は、代表的には次のように行うことができる。単離
取得された所定の遺伝子をコードするDNA領域を含む部分は、これを当業者によく知られ
たベクターに結合し、大腸菌などの宿主細胞を用い、得られた組換え体コロニーをハイブリダイゼーションの手法など、例えば、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、ハイブリダイゼーション・トランスレーションアッセイ法、プラス・マイナス法などによって同定して、当該遺伝子をコードするDNAを大量に調製でき
る。ハイブリダイゼーションは、上記したようにして実施できる。目的の遺伝子を保持するクローンの選択には、当該遺伝子の産物である酵素活性をアッセイすることを利用してもよい。こうして得られたDNAは、DNAの塩基配列を決定するのに適した程度まで断片化され、次に当該分野でよく知られた方法により処理されて、その塩基配列を決定することができる。DNA断片のDNA塩基配列の決定法としては、Maxam-Gilbert法、ジデオキシ法、例
えばジデオキシ・チェイン・ターミネーション法(Sanger, Science, 214, 1205 (1981))
、M13ジデオキシ法等が挙げられる。ジデオキシ法に用いられるポリメラーゼとしては、
例えば、DNAポリメラーゼ Iのクレノー・フラグメント、AMV逆転写酵素、Taq DNAポリメ
ラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、修飾T7 DNAポリメラーゼなどが挙げられる。また、市販のシークエンシングキットや、自動塩基配列決定装置を利用できる。所定のDNAの塩基配列
、例えば1本鎖DNAの塩基配列は、シークエンシングすることができ、例えば、BigDyeTMTerminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit V3.0 (Applied Biosystems)などを含
めたTaqダイプライマーサイクルシークエンシングキット(Applied Biosystems)などを使
用し、Applied Biosystems 3730 DNA Analyzer (Applied Biosystems)などを含めた蛍光DNAシーケンサーなどにより、その配列を決定することができる。
【0031】
このような方法の内には、適当な制限酵素を作用させ、制限酵素地図を作製した上で、必要な断片をサブクローン化する方法や、ショットガン・クローニング法、PCRにより遺
伝子を増幅する方法、核酸分解酵素によりディリーションする方法などの様々な手法が含まれていることはもちろんである。次に、こうしてDNA塩基配列の決定されたDNAのうちから所定のポリペプチドをコードしているDNA領域を決定する。決定したDNA塩基配列の中でオープン・リーディング・フレームを検索する。その中で標的酵素をコードすると思われるDNA領域を制限酵素で切り出し、再度これを用いて発現ベクターを構築し、それを適当
な宿主中で発現させ、こうして得られた発現物中の活性を所定の活性測定系にかけて検討し、最終的に確認されることもできる。次にこうして得られた所定のポリペプチドをコードするDNA部分を再度当業者によく知られたベクターに結合し大腸菌などの宿主細胞に導
入し、得られた組換え体を所定の酵素活性測定系にかけ、得られたクローンを検定して、標的酵素活性を有する形質転換体を得る。次にこの形質転換体から標的酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA領域を含む部分を制限酵素を用いて切りだすことが可能で
ある。また該解析された新規な酵素遺伝子の有しているDNA配列を基にセンスプライマー
とアンチセンスプライマーを合成することができる。オリゴヌクレオチドプライマーの作製は、上記したように当該分野で知られた方法で行うことができる。
【0032】
該形質転換体からの組換え体DNAおよび目的の酵素遺伝子を持つDNA断片の調製は通常の方法を用いて行うことができる。例えば、培地中で増殖させた該形質転換体を回収し、細胞壁をリゾチーム処理等の細胞破壊法として知られた方法により壊し、次に核酸画分を分離した後、密度勾配遠心などの方法により所望の画分に分ける。こうして得られたプラスミドを含有する画分は、次に適当な制限酵素で処理することにより、適度な断片にすることができると共にまた選択的に所望のポリペプチドをコードするDNA断片とすることがで
きる。得られた断片は、例えばゲル電気泳動などにより、所望のものに分離でき、適当なサイズのDNA断片を含むゲルは、例えばフェノール抽出−エタノール沈殿などによりDNA抽出処理される。抽出されたDNAは必要に応じ適当な制限酵素で切断し、さらに必要に応じ
精製処理したり、また必要に応じ5'末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼなどによりリン酸化した後、pUC18などのpUC系ベクターといった適当なプラスミドベクターにライゲーションし、適当なコンピテント細胞を形質転換する。クローニングされたDNA断片はその塩基
配列を解析される。上記のようにして構造解析されたDNAから、所定の遺伝子をコードす
るDNA以外の領域を除くには、様々な方法で不必要な領域を欠失させることによってなす
ことができる。このような方法としては、BAL31ヌクレアーゼやエキソヌクレアーゼIIIによる欠失法、制限酵素切断サイトを利用した組換え法などがあげられる。この際、本発明に従えば遺伝子の固有のプロモーターを他のものに変更したり、部位特異的変異を導入してプロモーターの強度を変化させることが、現在の遺伝子操作技術を用いることにより、容易に行いうる。従って、そのように一部を変更したDNA断片であっても、所定の酵素活
性を示すポリペプチドをコードするDNAを含むDNA断片であれば、全て本発明に含まれることは明白である。また、本発明の酵素活性を示すポリペプチドをコードするDNAを含むDNA断片としては、構造遺伝子をコードするDNAに加えて、その遺伝子を生体内で発現させる
のに重要な役割を担う制御領域、例えば、遺伝子の転写プロモーター、リボソーム結合部位、転写のターミネーターなどをコードするDNAをも含んだものがあげられる。
【0033】
本発明に従えば、一旦、標的酵素活性の活性中心の関与アミノ酸の改変技術が見出されているので、PPATポリペプチドをコードするDNAの塩基配列を利用して、その塩基の置換
、付加あるいは欠失を当該分野においてよく知られた方法を適用して効果的に行なうことができる。例えば、相当するアミノ酸をコードする遺伝暗号の縮重を利用したもの、生物の遺伝暗号の利用率を考慮した変換あるいはアミノ基転移反応の機能に悪影響を及ぼさないようなアミノ酸配列の変換のための塩基の置換、付加または欠失処理などがあげられ、好ましくは安価なアミノ基供与体の使用を可能にしたり、そうしたアミノ基供与体に対する親和性を増加せしめることなどが含まれてよい。更にまた、このような改変のうちには
、目的酵素反応に関与する酵素の活性中心のみを特定の変異としてそれを保存し、その他の部分を大幅に変化させるようにしたり及び/又はそのDNAの配列及び長さを変えること
も含まれる。従って、本発明の遺伝子をコードするDNAとしては、以上のような改変を施
したものすべてが含まれることは当業者であれば容易に理解し得るところのものである。以上のような事情に鑑み、本発明の変異型PPATタンパク質をコードする遺伝子は、本発明の思想を実質的に利用して得られ、本発明の該遺伝子と実質的に同一の機能(あるいは活性)を有するものすべてを含有するものである。
【0034】
本発明は、Mesorhizobium loti PPATをコードするDNAの同族体に関する。本発明のPPATをコードするDNAは、たとえば配列番号:1に示す塩基配列を含む。配列番号:1に示す
塩基配列は、配列番号:2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質をコードしており、このアミノ酸配列を含むタンパク質は、本発明におけるPPATを構成する。本発明の「変異型PPAT遺伝子」とは、本発明が対象とする変異型PPATをコードするものを指すとしてよい。変異型PPATをコードするDNA同族体とは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1も
しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、改良された酵素活性、例えば、グルタミン酸の利用の点で、有利な活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。当業者であれば、配列番号:1記載のDNAに、下記するPCR や部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res., 10: pp.6487 (1982); R. Wu, L. Grossman, ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100, pp.448, Academic Press, New York (1983); J. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition)",
Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); M. J.
McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, pp.200,
IRL Press, Oxford (1991)、DNAシャッフリング、ランダム変異、エラープローンPCRな
どを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することによりDNA
同族体を得ることが可能である。また、本発明のDNA同族体は、配列番号:3、5、7、
9、13、15、17、又は19に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハ
イブリダイズできるDNAであって、かつ、改良された酵素活性、例えば、グルタミン酸の
利用の点で、有利な活性を有するタンパク質をコードするDNAも含む。ハイブリダイズで
きるDNAとは、対象配列の特徴領域を含有する任意部分の少なくとも20個、好ましくは少
なくとも30個、例えば40、60または100個の連続した配列を一つまたは複数選択し、その
選択したDNAをプローブDNAとし、たとえばECL direct nucleic acid labeling and detection system (Amersham Biosciences社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(wash:42
℃、0.5×SSCを含むprimary wash buffer)において、ハイブリダイズするDNAを指してよ
い。さらに、本発明のDNA同族体は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%または90%、より好ましくは95%以上の相同性を有する
タンパク質をコードするDNAを含む。
【0035】
本明細書中、「PPAT遺伝子」とは、ピリドキサールに作用し、ピリドキサミンを生成するといった高い変換活性を有するメソリゾビウム属微生物(例えば、メソリゾビウム ロ
ティ(Mesorhizobium loti)株)が保有するPPAT活性に関与する遺伝子を意味してよい。本明細書中、「PPAT」とは、メソリゾビウム ロティ由来のピリドキサミン−ピルビン酸ア
ミノトランスフェラーゼを意味してよく、「変異型PPAT」とは、当該PPATに比較して有意の活性を示し、且つ、代表的にはピリドキサールに作用し、特異的な選択性、高い変換活性でもってピリドキサミンを生成するアミノ基転移活性を担う酵素タンパク質の全てあるいはその一部を意味してよい。該変異型PPAT遺伝子は、核酸からなるもので、通常ゲノム上では、DNAであるが、本明細書中で説明するいかなる形態のものであってよい。該PPAT
遺伝子は、代表的には配列表の配列番号:1のDNAのORFに対応する塩基配列、配列番号:2のアミノ酸配列をコードする塩基配列を包含する。本発明は、配列番号:1のPPAT遺伝子より誘導されたPPAT同族体を含むものである。配列番号:4、6、10、11、12、14、16、18又は20に示すアミノ酸配列を含むタンパク質は、本発明による変異型PPATの好ましい
態様を構成する。本発明のタンパク質は、代表的には配列番号:4、6、10、11、12、14、16、18又は20のアミノ酸配列あるいはそれと実質的に同等なアミノ酸配列により表されるタンパク質、配列番号:2のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列により表されるタンパク質、好ましくは改良されたピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を担う酵素活性に関与するタンパク質、さらにはその一部のフラグメントが挙げられる。本発明のPPAT同族体とは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を含む。また、該PPAT同族体とは、配列番号:4、6、10、11、12、14、16、18又は20に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%または90%、より好ましくは95%以上のホモロジーを有するタンパク質(但し、配列番号:2のアミノ酸配列において変異の生じている箇所は保持されている)であってよい。
【0036】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子(それに関連する核酸又はオリゴヌクレオチドを含む)としては、代表的には配列番号:4、6、10、11、12、14、16、18又は20のアミノ酸配列により表されるタンパク質をコードする核酸、配列番号:2のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列により表されるタンパク質をコードする核酸、さらにはその一部のフラグメント、配列番号:3、5、7、9、13、15、17、又は19の塩基配列から選択されたポリヌクレオチド又はそれを含有するものなどが挙げられる。該塩基配列と相同性を有するが、上記変異型ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性能に関し実質的に同等なタンパク質をコードしているといったそれと同効の塩基配列を含有するDNA配列でコードされる
ものであることができるし、さらにそれらと相補的なヌクレオチドなどであってよい。
本発明では、ピリドキサールに作用し、特異的な選択性及び高い酵素活性でもってピリドキサミンを生成する活性を持つ酵素タンパク質、あるいはそれと実質的に同等な機能(あるいは活性)を有するタンパク質またはその塩、そのタンパク質の特徴的な部分ペプチドまたはその塩、それらをコードする遺伝子、例えばDNA、RNAなど、その遺伝子を遺伝子組換え技術で操作することが可能なように含有しているベクターあるいはプラスミド、こうしたベクターなどで形質転換された宿主細胞、さらにはその宿主細胞を培養して該タンパク質またはその塩を製造する方法、こうして得られた該タンパク質またはその塩やそのタンパク質の特徴的な部分ペプチドまたはその塩を用いて得られた抗体、特にはモノクローナル抗体、その抗体を産生するハイブリドーマ細胞、該単離された遺伝子、例えばDNA
、RNAなどをプローブとして用いたり、該配列情報に基づいてデザインされたオリゴヌク
レオチドを使用する核酸増幅技術などあるいは該抗体やオリゴヌクレオチドを用いたり、組換え酵素を用いた測定手段並びに試薬、そして組換え酵素などの組換えタンパク質や、形質転換された宿主細胞、固定化酵素あるいは固定化菌体を使用した化合物合成法などが提供される。
【0037】
本発明に係わる遺伝子の塩基配列を基に遺伝子工学的に常用される方法を用いることにより、所定のポリペプチドのアミノ酸配列中に適宜、1個ないし複数個以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入、転移あるいは付加したごとき変異を導入した相当するポリペプチドを製造することができる。こうした変異・変換・修飾法としては、例えば日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法 II」、p105(広瀬進)、東京化学同人(1986); 日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA技術)」、p233(広瀬進)
、東京化学同人(1992); R. Wu, L. Grossman, ed., "Methods in Enzymology", Vol. 154, p. 350 & p. 367, Academic Press, New York (1987); R. Wu, L. Grossman, ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100, p. 457 & p. 468, Academic Press, New York (1983); J. A. Wells et al., Gene, 34: 315, 1985; T. Grundstroem et al., Nucleic Acids Res., 13: 3305, 1985; J. Taylor et al., Nucleic Acids Res., 13: 8765, 1985; R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 155, p. 568, Academic Press, New York (1987
); A. R. Oliphant et al., Gene, 44: 177, 1986などに記載の方法が挙げられる。例え
ば、PCR 、合成オリゴヌクレオチドなどを利用する位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法) (Zoller et al., Nucl. Acids Res., 10: 6487, 1987; Carter et al., Nucl. Acids Res., 13: 4331, 1986), カセット変異導入法 (cassette mutagenesis: Wells et al., Gene, 34: 315, 1985), 制限部位選択変異導入法 (restriction selection mutagenesis: Wells et al., Philos. Trans. R. Soc. London Ser A, 317: 415, 1986),アラニ
ン・スキャンニング法 (Cunningham & Wells, Science, 244: 1081-1085, 1989), PCR変
異導入法, DNAシャッフリング、ランダム変異、エラープローンPCR、Kunkel法, dNTP[
αS]法(Eckstein),亜硫酸や亜硝酸などを用いる領域指定変異導入法等の方法が挙げられ
る。
【0038】
また、遺伝子組換え法で製造する時に融合ポリペプチド(融合タンパク質)として発現させ、必要に応じて、生体内あるいは生体外で、所望のポリペプチドと実質的に同等の生物学的活性を有しているものに変換・加工してもよい。遺伝子工学的に常用される融合産生法を用いることができるが、こうした融合ポリペプチドはその融合部を利用してアフィニティクロマトグラフィーなどで精製することも可能である。こうした融合ポリペプチドとしては、ヒスチジンタグに融合せしめられたもの、あるいは、β-ガラクトシダーゼ(β-gal)、マルトース結合タンパク (MBP),グルタチオン-S-トランスフェラーゼ (GST)、チオレドキシン (TRX)又はCre Recombinaseのアミノ酸配列に融合せしめられたものなどが
挙げられる。同様に、ポリペプチドは、ヘテロジーニアスなエピトープのタグを付加され、該エピトープに特異的に結合する抗体を用いてのイムノアフィニティ・クロマトグラフィーによる精製をなし得るようにすることもできる。より適した実施態様においては、ポリヒスチジン(poly-His)又はポリヒスチジン−グリシン(poly-His-Gly)タグ、また該エピトープタグとしては、例えばAU5, c-Myc, CruzTag 09, CruzTag 22, CruzTag 41, Glu-Glu, HA, Ha.11, KT3, FLAG (registered trademark, Sigma-Aldrich), Omni-probe, S-probe, T7, Lex A, V5, VP16, GAL4, VSV-Gなどが挙げられる (Field et al., Molecular and Cellular Biology, 8: pp.2159-2165 (1988); Evan et al., Molecular and Cellular Biology, 5: pp.3610-3616 (1985); Paborsky et al., Protein Engineering, 3(6): pp.547-553 (1990); Hopp et al., BioTechnology, 6: pp.1204-1210 (1988); Martin et al., Science, 255: pp.192-194 (1992); Skinner et al., J. Biol. Chem., 266: pp.15163-15166 (1991); Lutz-Freyermuth et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: pp.6393-6397 (1990)など)。
【0039】
さらに融合ポリペプチドとしては、検出可能なタンパク質となるようなマーカーを付されたものであることもできる。より好適な実施態様においては、該検出可能なマーカーは、ビオチン/ストレプトアビジン系のBiotin Avi Tag、螢光を発する物質などであってよい。該螢光を発する物質としては、オワンクラゲ (Aequorea victorea)などの発光クラゲ由来の緑色螢光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)、それを改変した変異体(GFPバリアント)、例えば、EGFP (Enhanced-humanized GFP), rsGFP (red-shift GFP), 黄
色螢光タンパク質 (yellow fluorescent protein: YFP), 緑色螢光タンパク質 (green fluorescent protein: GFP),藍色螢光タンパク質 (cyan fluorescent protein: CFP), 青色螢光タンパク質 (blue fluorescent protein: BFP), ウミシイタケ (Renilla reniformis) 由来のGFPなどが挙げられる(宮脇敦史編、実験医学別冊ポストゲノム時代の実験講座3-GFPとバイオイメージング、羊土社 (2000年))。また、上記融合タグを特異的に認識する抗体(モノクローナル抗体及びそのフラグメントを含む)を使用して検出を行うこともできる。こうした融合ポリペプチドの発現及び精製は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。本発明の所定のペプチドは、天然に存在する形態に加えて、そのペプチドの機能と同等、又はより強力な、又はよりプラスの機能を有するペプチド類縁体のような他のポリペプチドも含む。
【0040】
本発明の変異型PPAT同族体のタンパク質は、1個以上のアミノ酸残基が同一性の点で天然のPPATと異なるもの、1個以上のアミノ酸残基の位置が天然のPPATと異なるものであってもよい。本発明のMesorhizobium loti株菌由来の変異型タンパク質は、当該タンパク質に特有なアミノ酸残基が1個以上(例えば、1〜80個、ある場合には1〜60個、さらには1〜40個、好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜15個、特には1〜10個、さらには1〜7個、特に好ましくは1〜5個、特には1〜2個など)欠けている欠失類縁体、特有のアミノ酸残基の1個以上(例えば、1〜40個、好ましくは1〜20個、ある場合には1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、さらには1〜7個、より好ましくは1〜5個、特には1〜2個など)が他の残基で置換されている置換類縁体、1個以上(例えば、1〜180個
、ある場合には1〜60個、さらには1〜40個、好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特には1〜2個など)のアミノ酸残基が付加されている付加類縁体も包含する。該PPATタンパク質の内に見出される共通の特徴であるドメイン構造あるいは酵素活性中心を形成する能力が維持されていれば、上記のごとき変異体は、全て本発明に包含される。また本発明のタンパク質は天然の当該酵素と実質的に同等の一次構造コンフォメーションあるいはその一部を有しているものも含まれてよいと考えられる。本発明の変異型PPAT同族体のタンパク質は、例えば、配列表の配列番号:2で示されるアミノ酸配列に対し、70%より高い相同性を有しており且つ酵素活性中心又はその近
傍で少なくとも一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は、付加したアミノ酸配列を有し、グルタミン酸の利用の点で、有利な活性を示すものが挙げられ、好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同アミノ酸配列を有しており且つ酵素活性中心又はその近傍で少なくとも一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は、付加したアミノ酸配列を有し、グルタミン酸の利用の点で、有利な活性を示すものが挙げられる。
【0041】
アミノ酸の置換、欠失、挿入、あるいは付加は、しばしばポリペプチドの生理的な特性や化学的な特性に大きな変化を生ぜしめないかあるいは良好な性状を与え、こうした場合、その置換、欠失、あるいは挿入を施されたポリペプチドは、そうした置換、欠失、挿入、あるいは付加のされていないものと実質的に同一であるとされるであろう。該アミノ酸配列中のアミノ酸の実質的に同一な置換体としては、そのアミノ酸が属するところのクラスのうちの他のアミノ酸類から選ぶことができよう。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、トリプトファン、メチオニンなどが挙げられ、極性(中性)としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンなどが挙げられ、陽電荷をもつアミノ酸(塩基性アミノ酸)としては、アルギニン、リジン、ヒスチジンなどが挙げられ、陰電荷をもつアミノ酸(酸性アミノ酸)としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
本明細書において、「実質的に同等」とはポリペプチドの活性、例えば、ピリドキサールに作用し、ピリドキサミンを生成する点で、高い選択性、高い酵素活性、高い安定性などのいずれかの活性、特には、グルタミン酸の利用の点で、有利な活性、それに対応する生理的な活性、生物学的な活性が実質的に同じであることを意味する。また、明細書中「実質的に同一」とは、上記「実質的に同等」と同様な意味で理解してよいが、より一致している程度が高いと理解することを妨げるものでない。これらの用語の意味の中には、実質的に同質の活性を有する場合を包含していてよく、該実質的に同質の活性としては、例えば、高い生産性、ピリドキサールに作用し、ピリドキサミンを生成する場合に、従来に比較して高い酵素活性などを挙げることができる。該実質的に同質の活性とは、それらの活性が性質的に同質であることを示し、例えば、生理的に、アミノ基転移反応的に、あるいは生物学的に同質であることを示す。例えば、該PPAT活性などの活性が、グルタミン酸の利用の点で、同等(例えば、約1〜10000倍、好ましくは約1〜1000倍、より好ましく
は約1〜200倍、さらに好ましくは約1〜10倍)であることが好ましいが、これらの活性の
程度、タンパク質の分子量などの量的な要素は異なっていてもよい。
【0042】
本発明の標的酵素関与遺伝子を持つ組換え体DNA(例えば、組換えベクター、組換えプ
ラスミドを含む)の作製について以下説明する。形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組み換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができ、例えば、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition (1989) & 3rd Edition (2001)), Cold
Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkなどに記載の上記「
遺伝子組換え技術」を利用して行うことができる。本発明の標的PPAT又は変異型PPATをコードするDNAを含む断片から、適当な手段を施して不必要な領域を欠失させたDNAは、それを適当なベクターDNAに再び組み込むことにより、宿主細胞に再び導入することが出来る
。本発明のPPAT関連遺伝子を宿主中などにおいて、発現させるためには、まず該宿主生物中において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクター中にこのDNAを導入し
、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5'側上流に、より好ましくはターミネー
ターを3'側下流に、それぞれ組み込めばよい。本発明の上記変異酵素などをコードするDNAを宿主細胞に導入し、そしてそれをその導入された宿主細胞内で発現させるために用い
られるベクターDNAとしては、適当な宿主細胞内で、所定の酵素遺伝子などを発現できる
ものであれば特に制限なく使用し得る。このようなベクターDNAとしては、上記変異酵素
などをコードするDNAを組み込むことの出来るものであり、組換えたベクターDNAで宿主細胞を形質転換できるものであり、そして得られた形質転換体の細胞内で導入された遺伝子産物をコードするDNAの発現ができるものであれば特に限定されず、如何なるものも使用
することが出来る。
【0043】
このようなベクターDNAとしては、宿主細胞中で自律複製可能であり、さらに組換え宿
主細胞のみを選別できるような適当な選択マーカーなどが付与されたものがあげられる。さらにまた、このようなベクターDNAは公知のベクターDNA等から当業者が容易に製造し得るようなものであってもよい。このようなベクターDNAとしては、例えばプラスミドベク
ター、ファージベクター、コスミドベクターから選ばれたものがあげられる。また、このようなベクターDNAは他の宿主株との間で遺伝子交換が可能なシャトルベクターであって
もよいし、ランナウェイベクターやスリーパーベクターなど遺伝子産物の発現効率を向上せしめるために特別に工夫されたものであってもよい。さらに、このようなベクターDNA
は、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、lppプロモーター、tufBプロモーター、recAプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等のプロモーター、trpA由来ターミネーター、ファージ由来ターミネーター、rrnBリボソーマルRNA由来ターミネーター等のターミネーター、エンハンサーなどの
制御因子を作動可能なように適宜付与されたものであってもよい。このような形質発現などに係わる因子等を導入するためには、遺伝子組換え技術の分野でよく知られた方法を適宜選択して適用することにより行うことができる。代表的な発現ベクターとしては、例えば、pBluescript SK+, pBluescript KS+, pUC18, pUC19, pBR322, pMW119, pET-16b, pET-32a(+), pET-21a, pET-22b, pCITE 4a, pGEX-5X-1, pGEX-5X-3, pMAL-p2, pMAL-c2, pBridge Vector, pKF18k DNA, pKF19k DNA, pSPORT 1, Charmomid 9-36 DNA, pEU-DFR, pIVEX 2.3-MCS, pIVEX 2.4c, pIVEX 2.3, pIVEX 2.4b Nde, pIVEX 2.4a, pETcocoTM System, pETBlueTM System, pCDF-1b DNA, pRSF-1b DNA, pNEB205A, pET-21aなどのpET Expression System (TaKaRa, Japan)とその誘導体などを挙げることができる。エシェリヒア(Escherichia)属微生物、特に大腸菌(E. coli)を宿主とするプラスミド(又はベクター)としては、例えばpBR322などのpBR系ベクター, pUC18, pUC19, pUC118, pUC119などのpUC系ベクター, pLAC11, pLAC21, pSP64, pSP65, pTZ-18R/-18U, pTZ-19R/-19U, pGEM-3, M-4, pGEM-3Z, pGEM-4Z, pGEM-5Zf(-)などのpGEX系ベクター, pBluescript KSTM (Stratagene)な
どのpBluescriptベクターが挙げられる。大腸菌での発現に適したプラスミドベクターと
しては、例えばpAS, pKK223 (Pharmacia), pMC1403, pMC931, pKC30, pET Expression System (TaKaRa, Japan), pSPORT, pPROEX, pRSET-B (Invitrogen), pQE (Qiagen)なども挙げられる。また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature, 315, 592-594 (1985))や菜種、トウモロコシ、
ジャガイモなどの植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系が開発されており、好適に利用できる。
【0044】
上記ベクターDNAに、上記所定タンパク質をコードするDNAを組み込むには、まず、上記ベクターDNAに適当な制限酵素を作用させ、得られたベクターDNA断片を、目的タンパク質をコードするDNA断片と混合し、これにDNAリガーゼを作用させることによりなしうる。この際、必要に応じ当該分野で知られたリンカー付与、ブラントエンド化等の処理を加えることもできる。このようにして得られた組換え体DNAは次に適当な宿主細胞の中に導入さ
れる。同一のプラスミド上に複数の所定遺伝子を組み込めば、より良好な結果が得られる。複数の酵素遺伝子などを組み込む際のその様式は、固有のプロモーターを持つ当該遺伝子が複数個導入されていてもよいし、複数の酵素遺伝子がポリシストロニックに転写されるオペロンとして導入されていてもよいし、またこれらの組み合わせであってもよい。導入する遺伝子の数に特に制限はなく、組換え体DNA及びそれを含む形質転換体の安定性を
損なわない範囲であればよい。組換え体DNAを作製する場合、このための技術としては制
限酵素による切断、リガーゼによる連結、化学合成DNAの利用、ヌクレアーゼによる欠失
、部位特異的変異による塩基置換など、通常の遺伝子操作で用いられる技術を適宜選択して適用することにより行なうことができるが、この際に、プロモーターの変更やその他の所定酵素遺伝子を発現させるための塩基配列の改変を行ってもよい。このようにして得られた組換え体DNAは次に適当な宿主細胞の中に導入される。
【0045】
本発明に従った、組換え体DNAの宿主細胞への導入について以下説明する。上記のよう
にして作製した組換え体DNAを導入するための宿主細胞としては、上記で得られた組換え
プラスミド(又はベクター)でもって形質転換されて、当該遺伝子を発現させることができるようなものであれば、特に制限なく使用することができる。宿主細胞としては、宿主ベクター系の開発されている細菌、放線菌、酵母、糸状菌、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞などが挙げられ、例えば大腸菌を含めたエシェリヒア属微生物の他、メソリゾビウム属、アグロバクテリウム属などの微生物が挙げられる。このような宿主細胞としては、本発明の目的に沿って標的酵素遺伝子の発現を達成し得る限り、グラム陰性菌あるいはグラム陽性菌の区別なく、さらには、下等細胞あるいは高等細胞の区別なく使用できる。
宿主細胞が、例えばエシェリヒア属、特に大腸菌の場合、例えば大腸菌K12株に由来す
るものが挙げられ、例えばM15, C600, DH1, DH5, DH11S, DH12S, DH5α, DH10B, HB101, MC1061, JM109, STBL2, STBL4, XL1-Blue系株, BL21(DE3)pLysSなどが挙げられる。
宿主細胞としては、ピリドキサミン及び/又はその塩の生産に使用できることの知られている微生物で細菌、酵母、カビのなかから選択されたものであってよく、例えば
アクロモバクター(Achromobacter)、アシネトバクター(Acinetobacter)、アエロモナス(Aeromonas)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、アミ
コラトプシス(Amycolatopsis)、アルスロバクター(Arthrobacter)、バシルス(Bacillus)
、ブレビバシルス(Brevibacillus)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、ブレブンデ
ィモナス(Brevundimonas)、セルロモナス(Cellulomonas)、シトロバクター(Citrobacter)、コマモナス(Comamonas)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、クルトバクテリウム(Curtobacterium)、ジエッチア(Dietzia)、エッシェリヒア(Escherichia)、エキシグオバクテリウム(Exiguobacterium)、ゴードニア(Gordonia)、ハフニア(Hafnia)、クレブシエ
ラ(Klebsiella)、コクリア(Kocuria)、レイフソニア(Leifsonia)、メソルヒゾビウム(Mesorhizobium)、メチロバクテリウム(Methylobacterium)、ミクロコッカス(Micrococcus)、マイクロバクテリウム(Microbacterium)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、ノカル
ディア(Nocardia)、ノカルディオイデス(Nocardioides)、ペクトバクテリウム(Pectobact
erium)、プロテウス(Proteus)、シュードモナス(Pseudomonas)、リゾビウム(Rhizobium)
、ロドコカッス(Rhodococcus)、サルモネラ(Salmonella)、セラチア(Serratia)、スフィ
ンゴバクテリウム(Sphingobacterium)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、キサントモナス(Xanthomonas)属に属する細菌、
カンジダ(Candida)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、デバリオマイセス(Debaryomyces)、ディポダスカス(Dipodascus)、ゲオトリクム(Geotrichum)、クロエッケラ(Kloeckera)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、リポマイセス(Lipomyces)、ピチア(Pichia)、ロドトルラ(Rhodotorula)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、サッカロマイコプシス(Saccharomycopsis)、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)、スポリジオボラス(Sporidiobolus)、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)、トルラスポラ(Torulaspora)、トリ
コスポロン(Trichosporon)、ウィリオプシス(Williopsis)、ヤロウィア(Yarrowia)、ジゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)に属する酵母、
アブジディア(Absidia)、アクレモニウム(Acremonium)、アルミルラリア(Armillaria)、
アルスロデルマ(Arthroderma)、アスペルギルス(Aspergillus)、アウレオバシジウム(Aureobasidium)、ベアウベリア(Beauveria)、カルダリマイセス(Caldariomyces)、セリノス
テルス(Cerinosterus)、クリソスポリウム(Chrysosporium)、クラドスポリウム(Cladosporium)、コリオラス(Coriolus)、シリンドロカーポン(Cylindrocarpon)、ダクチラリア(Dactylaria)、ユウロチウム(Eurotium)、フサリウム(Fusarium)、ガノデルマ(Ganoderma)、ゲオミセス(Geomyces)、ジベレラ(Gibberella)、グリオクラディウム(Gliocladium)、ヘ
リコスチラム(Helicostylum)、ヒポクレア(Hypocrea)、イルペックス(Irpex)、レンジテ
ス(Lenzites)、リオフィラム(Lyophyllum)、モルチエレラ(Mortierella)、ムコール(Mucor)、ノイロスポラ(Neurospora)、パエシロミセス(Paesilomyces)、パヌス(Panus)、ペニ
シリウム(Penicillium)、フィコミセス(Phycomyces)、ピソマイセス(Pithomyces)、ポリ
ポラス(Polyporus)、プルラリア(Pullularia)、ピクノポラス(Pycnoporus)、リゾプス(Rhizopus)、シゾフィラム(Schizophyllum)、スポロスリックス(Sporothrix)、トラメテス(Trametes)、トリコフィトン(Trichophyton)、トリチラチウム(Tritirachium)、ウンベロプシス(Umbelopsis)、バーチシリウム(Verticillium)、ジゴリンチュス(Zygorhynchus)に属するカビから選ばれてもよい。メソリゾビウム(Mesorhizobium)属菌、アグロバクテリウ
ム(Agrobacterium)属菌、例えば、メソリゾビウム ロティ(Mesorhizobium loti)、アグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)なども宿主細胞としてよ
い。
【0046】
組換えDNAを導入するのは、当業者によく知られた方法から適宜選択して行うことがで
き、例えば、組換えDNAをコンピテント細胞に接触せしめる、リン酸カルシウム沈殿法、
リポフェクタミン法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、インビトロパッケージング法、電子銃などを用いることができ、適当な増殖期にある宿主に、組換えベクター(組換えファージベクターを包含する)を導入する(感染させる)方法等などが適用される。本発明に従い、ポリペプチドをコードする核酸を含有する発現ベクターで形質転換された形質転換体は、必要に応じて適当な選択マーカーを用い、繰り返しクローニングを行うことにより、高い発現能を安定して有する細胞株を得ることができる。形質転換体を用いる場合、使用する菌株に応じてアンピシリン、クロラムフェニコール等の抗生物質を培養液に添加してもよい。本発明の形質転換体は、適当な栄養培地中で本発明のポリペプチドをコードする核酸が発現可能な条件下で培養し、それを大量に得ることができるし、さらに目的物を生成、蓄積せしめることもできる。該形質転換体は、当該分野で汎用されている培地中で培養することができる。例えば、大腸菌等の原核細胞宿主などを宿主としている形質転換体は、液体培地を好適に使用することができる。培地中には、該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他が含有せしめられる。炭素源としては、たとえばグルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など、窒素源としては、たとえばアンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイ
ン、肉エキス、麦芽エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質、無機物としては,例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。また、酵母、ビタミン類、カザミノ酸、生長促進因子などを添加してもよい。また、必要に応じて、培地には、微生物の活性を誘導する物質、培地のpH保持に有効な緩衝物質、消泡剤、さらにはシリコン、アデカノール、プルロニックなどを添加してもよい。必要によりプロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β-インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。
【0047】
微生物の培養は、生育に適した条件下で行うことができる。具体的には、培地のpH3〜10、好ましくは4〜9、温度0〜50℃、好ましくは20〜40℃で行うことができる。微生物
の培養は、好気的または嫌気的条件下で行うことができる。培養時間は、1〜300時間、
より好ましくは2〜300時間であるが、それぞれの微生物により適宜決められるべきであ
る。培養は、例えば大腸菌では通常約15〜約45℃で約3〜約75時間行い、必要により、通気や攪拌を加えることもできる。培養は通常約30℃〜約40℃で約15〜約72時間行い、必要に応じて通気や攪拌を加える。所定の遺伝子産物を発現している形質転換体はそのまま利用可能であるが、その細胞ホモジュネートとしても利用でき、さらに所定の遺伝子産物を単離して用いることもできる。上記培養細胞から抽出するに際しては、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過により粗抽出液を得る方法などを適宜用いることができる。緩衝液の中には尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白変性剤や、トリトン X-100(商品名)、ツウィーン-20(商品名)などの界
面活性剤を加えてあってもよい。培養液中に目的生成物が分泌される場合には、培養終了後、それ自体公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれる目的生成物は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせてその精製を行なうことができ、例えば硫酸アンモニウム沈殿法などの塩析、セファデックスなどによるゲルろ過法、例えばジエチルアミノエチル基あるいはカルボキシメチル基などを持つ担体などを用いたイオン交換クロマトグラフィー法、例えばブチル基、オクチル基、フェニル基など疎水性基を持つ担体などを用いた疎水性クロマトグラフィー法、色素ゲルクロマトグラフィー法、電気泳動法、透析、限外ろ過法、アフィニティ・クロマトグラフィー法、逆相クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法などにより精製して得ることができる。好ましくは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、抗体あるいはリガンドなどを固定化したアフィニティ・クロマトグラフィーなどで処理し精製分離処理できる。例えば、ゼラチン-アガロース・アフィニティ・クロマト
グラフィー、ヘパリン−アガロース・クロマトグラフィーなどが挙げられる。それらの方法は、単独あるいは適宜組み合わせて用いて適用することにより行うことが出来る。
【0048】
得られたタンパク質(ペプチドあるいはポリペプチドを包含していてよい)は、それを酵素免疫測定法など知られた手法で、適当な担体あるいは固相に結合せしめて固相化することができる。固相化タンパク質、固相化ペプチドは、便利に結合アッセイや物質のスクリーニング、さらにはピリドキサミン及び/又はその塩の製造などに使用できる。精製されたリコンビナントタンパク質は、モノクローナル抗体作製のための免疫抗原としても好適に使用できる。該ポリペプチドは、化学的な手法でその含有されるアミノ酸残基を修飾することもできるし、ペプチダーゼ、例えばペプシン、キモトリプシン、パパイン、ブロメライン、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼなどの酵素を用いて修飾したり、部分分解したりしてその誘導体などにすることができる。
タンパク質・ポリペプチドの構造の修飾・改変などは、例えば日本生化学会編、「新生化学実験講座1、タンパク質 VII、タンパク質工学」、東京化学同人(1993)を参考にし、そこに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法、さらにはそれらと実質的に同様な方法で行うことができる。またその生物学的活性のうちには、免疫的に活性、例えば抗原性を有するということも含まれてよい。該修飾・改変のうちには、アミノ基、SH基
及び/又はカルボキシル基の導入、シリル化、脱アミノ化、ヒドロキシル化、リン酸化、メチル化、アセチル化などのアシル化、酸化、還元、開環、閉環、PEG化、D-体アミノ酸
残基への置換などであってもよい。それらの方法は、当該分野で知られている。
【0049】
本発明は、前記変異型PPATのピリドキサールへのアミノ基転移によるピリドキサミンの製造用途を提供している。例えば、前記変異型PPAT存在下ピリドキサールとグルタミン酸などのアミノ基供与体とよりピリドキサミンを製造する方法、さらに該方法と組み合わせた、ピリドキサミン誘導体の製造法が提供される。本発明の変異型PPATは、グルタミン酸をアミノ基供与体とするアミノ基転移反応をより高活性に行うことから、特定の有用物質を変換するといった工業的な利用において有利である。変異酵素分子、その処理物、変異酵素分子を含む培養物、固定化変異酵素、あるいは変異酵素を生成する形質転換体微生物等(該形質転換体が生きた状態であっても固定化されていてもよい)を反応溶液と接触させることにより、目的とする酵素反応を行わせることができるが、酵素と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されるものではない。反応溶液は、基質や酵素反応に必要なものを、酵素活性の発現に望ましい環境を与える適当な溶媒に溶解したものである。本発明における変異型PPATを含む微生物の処理物には、具体的には界面活性剤やトルエンなどの有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したものなどが含まれる。該微生物の処理物には、例えば粗抽出液、培養菌体、凍結乾燥生物体、アセトン乾燥生物体、それらの菌体の磨砕物などが含まれてよい。
【0050】
本発明の一つの態様では、ピリドキサール及び/又はその塩を、本発明で特定された変異型PPAT、あるいは該変異酵素の産生能を有し且つ形質転換された微生物の菌体、その培養物、それらの処理物並びに抽出物から成る群から選ばれたもので処理してピリドキサミン及び/又はその塩を製造する方法に関する。本発明では、微生物の菌体又はその微生物培養物を使用する場合、エネルギー源の存在下に処理を行うことができる。菌体としては、上記微生物を培養液より回収したものあるいは培養液より集菌洗浄したもの、乾燥又はアセトンパウダー処理したもの等を挙げることができる。酵素や菌体は、そのままか、或いは固定化した形で使用することができる。固定化は、当業者に周知の方法(例えば、架橋法、物理的吸着法、包括法等)で行い得る。固定化担体としては、一般に用いられているものであれば何れでもよく、例えば、セルロース、アガロース、デキストラン、κ-カ
ラギナン、アルギン酸、ゼラチン、酢酸セルロース等の多糖類;例えばグルテン等の天然高分子;例えば活性炭、ガラス、白土、カオリナイト、アルミナ、シリカゲル、ベントナイト、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等の無機物;ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール、ウレタン等の合成高分子などが挙げられる。また、菌体は、マイクロカプセルに封入した形で使用することもでき、当該分野で知られた方法から適宜選択して使用できる。
【0051】
培養物としては、上記微生物を適当な培地で培養したものを挙げることができる。前記微生物の処理物及び抽出物としては、菌体又は培養物を、必要に応じて、緩衝液に懸濁させ、得られた懸濁液を自己消化して得たもの、あるいはフレンチプレス、超音波、ホモジナイザー等の物理的方法、更にはリゾチーム等の酵素的方法を組み合わせて破砕するなどして得られた菌体破砕物を指してもよいし、そうして得られた生成物から、水もしくは適当な緩衝液で抽出したもの、該抽出液に硫安もしくはアルコールを加えることにより得られる沈殿物及び該抽出液を限外濾過、ゲル濾過、疎水クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等を用いて分画したものを挙げることができる。また、該微生物の処理物及び抽出物としては、菌体又は培養物を、必要に応じて、熱処理したものあるいは該熱処理物に上記の処理を施したものなどであってもよい。該熱処理は、当該分野で知られた方法で行うことができ、具体的な条件については目的にあわせて実験などにより適宜それを決定することができる。熱処理の温度としては、約37℃以上の温度が挙げられるが、例
えば約40〜70℃、好ましくは約45〜60℃である。熱処理の時間としては、処理温度にもよるが、例えば、約5分間〜約24時間、好ましくは約30分間〜10時間、より好ましくは約1〜5時間である、代表的な熱処理は、例えば約45℃、約50℃あるいは約55℃で約2〜4時間処理するものであるが、好ましくは約45〜55℃で約3時間程度処理するものである。熱処理されたものを使用することにより、選択性、転換率などを含めて良好な結果を得ることもできる。
【0052】
本発明に係るピリドキサミン及び/又はその塩の製造における反応方法としては、ピリドキサール及び/又はその塩に、前記変異型PPAT、あるいは該変異酵素の産生能を有し且つ形質転換された微生物の菌体、その培養物、それらの処理物並びに抽出物から成る群から選ばれたものが作用して、対応するピリドキサミン及び/又はその塩を生成する方法であれば特に限定されず、原料化合物の水溶液に、単離された酵素、該酵素産生能を有する形質転換体の緩衝液または水などで洗浄した菌体、あるいは該形質転換体培養物、それらの処理物並びに抽出物から成る群から選ばれたものを混合することで反応を開始する。反応は、通常、水中、或いは水に実質的に不溶性ないし難溶解性の有機溶媒と水との液体二相系で行うことができるが、一般的には水性系で行うことが好ましい。また、ピリドキサール及び/又はその塩は、必要に応じて、適当な有機溶媒、例えばエタノール、メタノール、ジオキサン、ジメチルスルホキシド等に溶解した後に、該溶解液を水性溶液にして用いることもできる。
基質となるピリドキサールの製法は特に限定されるものでなく、化学的合成であっても、ピリドキサール生産能を有する微生物、形質転換体や該微生物から得られる酵素を利用した製法であってもよい。化学的合成法としては、ピリドキシンを二酸化マンガン、硫酸第二マンガン、過酸化水素など通常知られる酸化剤で酸化する方法が知られている。またピリドキサール生産能を有する微生物としては、ピリドキサール発酵生産菌でもピリドキシンからピリドキサールを生成する菌でもよく、後者としては例えば、シュードノカルディア(Pseudonocardia)、アクレモニウム(Acremonium)、アルミルラリア(Armillaria)、コリオラス(Coriolus)およびウンベロプシス(Umbelopsis)属が挙げられる。
【0053】
ピリドキサミンを生成せしめる場合には、通常、アミノ基供与体の存在下で行う。アミノ基供与体は、当該分野で広く各種のものが知られており、そうしたものの中から選択して使用できる。代表的なものとしては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リジン、アルギニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリンなどのアミノ酸及び/又はその塩、ペプチド、消化タンパク質混合物など、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素含有化合物などが挙げられるが、これらに限定されず、適宜適切なものを選んで使用してよい。本発明では、特には、安価なアミノ酸をアミノ基供与体として使用でき、例えば、グルタミン酸をアミノ基供与体として使用して、効率よく且つ工業的に有利な手法でピリドキサミンを製造できる。
【0054】
また、反応条件は、ピリドキサミン及び/又はその塩の生成を損なわない範囲で選択できる。基質であるピリドキサール及び/又はその塩の濃度は、好ましくは0.001〜20%、より好ましくは0.01〜10%である。さらに、反応液のpHは、好ましくは5〜9、より好まし
くは6〜8であり、反応温度は好ましくは10〜60℃、より好ましくは20〜50℃である。pHを安定させるために緩衝液を使用することもできる。さらに、pHを調節するために、酸、塩基を使用して調節することもできる。また、反応時間は、1〜200時間、好ましくは5
〜150時間であるが、それぞれの酵素濃度や使用形質転換体により適宜決められるべきで
ある。
また、反応をより効率的に進行させるために、補酵素、例えば、NAD+またはNADP+を単
独あるいは混合して用いてよい。NAD+またはNADP+は、形質転換体が、菌体内に含むもの
を用いても良いし、微生物が生合成するものを用いてもよい。また、それぞれの還元型のもの(NADHまたはNADPH)を酵素や形質転換体や別に添加した微生物で酸化し用いてもよ
い。基質であるピリドキサールを、以下のようにビタミンB6関連物質から化学的あるいは酵素的に転換することにより供給してもよい。すなわちピリドキシンあるいはピリドキシン塩酸塩をピリドキサールに転換する場合、ピリドキシン4−オキシダーゼやピリドキシン4−デヒドロゲナーゼなどを添加すればよい。
【0055】
形質転換体を使用する場合、反応をより効率的に進行させるために、グルコースなどの糖類、酢酸などの有機酸、エタノール、グリセロールなどのエネルギー物質を添加することができる。これらは、各々単独で用いてもよく、それらの混合物の形態で用いてもよい。添加量は、基質に対して好ましくは100分の1〜10倍量である。さらに、グルコースな
どの糖類、酢酸などの有機酸、グリセロールなどのエネルギー物質、補酵素、補酵素再生酵素および補酵素再生酵素の基質をそれぞれ組み合わせて用いてもよい。これらは、本来、菌体中に蓄積されているが、必要に応じてこれら物質を添加することにより、反応速度、収率等を上昇させることができる場合があり、適宜選択され得る。
必要に応じて反応系内には、基質、当該酵素、微生物の菌体、その培養物、それらの処理物並びに抽出物から成る群から選ばれたもの、さらにはその他のものを、逐次添加したり、連続的に添加することも可能である。生成物を連続的に取り出しながら反応を行うことにより、反応速度を高めることなどもできる。反応はバッチ式又は連続方式で行いうるし、膜リアクターなども使用できる。
反応によって生成したピリドキサミン及び/又はその塩は、慣用の分離精製手段によって単離精製できる。例えば、反応液から直接または菌体を分離した後、膜分離、有機溶媒(例えば、トルエン、クロロホルムなど)による抽出、カラムクロマトグラフィー、減圧濃縮、蒸溜、晶析、再結晶などの通常の精製方法に供することができる。例えば、反応終了後、酢酸ブチル、酢酸エチル、トルエン、クロロホルム等の有機溶媒で反応液から生成物を抽出し、溶媒を留去することにより粗生成物を得ることができる。該粗生成物は、それをそのまま次の工程に使用してもよいが、必要によりシリカゲルカラムクロマトグラフィー等の手段により精製した後、高速液体クロマトグラフィー等の手段により精製してもよい。さらにセルロース誘導体等の光学活性担体を使用した高速液体クロマトグラフィー等も使用できる。
【0056】
明細書及び図面において、用語は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。代表的な用語の意味を以下に示す。
アミノ酸配列に関しては:
A:アラニン(Ala) M:メチオニン(Met)
C:システイン(Cys) N:アスパラギン(Asn)
D:アスパラギン酸(Asp) P:プロリン(Pro)
E:グルタミン酸(Glu) Q:グルタミン(Gln)
F:フェニルアラニン(Phe) R:アルギニン(Arg)
G:グリシン(Gly) S:セリン(Ser)
H:ヒスチジン(His) T:スレオニン(Thr)
I:イソロイシン(Ile) V:バリン(Val)
K:リジン(Lys) W:トリプトファン(Trp)
L:ロイシン(Leu) Y:チロシン(Tyr)
ヌクレオチド配列に関しては:
A,a:アデニン G,g:グアニン U,u:ウラシル
C,c:シトシン T,t:チミン
【0057】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明の
ため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
以下の実施例における通常慣用されるDNAクローニングを含めた技術としては、標準的な
実験マニュアル、例えばJ. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989) & J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd Edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (2001)に記載されるようにして実施できる。また特にPCR法では、R. Saiki
et al., Science, 230: 1350, 1985; R. Saiki et al., Science, 239: 487, 1988; H. A. Erlich (ed.), PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. (ed.), "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); M. A. Innis et al. (ed.), "PCR Protocols: a guide
to methods and applications", Academic Press, New York (1990)); M. J. McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford
(1991)などに記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用い
ている場合はそれらに添付の指示書(protocols)や添付の薬品などを使用している。
【実施例1】
【0058】
〔ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ(PPAT)をコードする遺伝子の取得およびクローニング、形質転換株の取得〕
(1)DNA抽出
Mesorhizobium loti MAFF303099(独立行政法人 農業生物資源研究所 (〒305-8602 茨
城県つくば市観音台2-1-2)より分譲)をナチュラルTY培地(0.5% トリプトン(和光純薬工業株式会社)及び0.3% 酵母エキス(和光純薬工業株式会社)、0.1% 塩化カルシウム二水和物(和光純薬工業株式会社)、pH6.8)に植菌し、30℃で振盪培養を行った。AquaPure(登録商標) Genomic DNA Isolation Kit(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を
使用して、その説明書に従いMesorhizobium loti MAFF303099の培養菌体からゲノムDNAを精製した。
【0059】
(2)クローニング
上記(1)で得られたゲノムDNAに基づき、PCRにより酵素PPAT遺伝子を増幅した。
TaKaRa LA Taq(登録商標) with GC Buffer(タカラバイオ株式会社)を使用し、その説明書に従い、
プライマー F1: 5'-GGAGACAUGGATCCGAGCTGATGTACTCGCACGACAT 配列番号21
(インビトロジェン株式会社)

プライマー R1: 5'-GGGAAAGUTCAGGCGTCGGCGTCGA 配列番号22
(インビトロジェン株式会社)
【0060】
をプライマーとし、Mesorhizobium loti MAFF303099のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行っ
た。得られたPCR産物をpNEB205Aベクターへ連結せしめた。すなわち、そのPCR産物をUSER(登録商標) Friendly Cloning Kit(New England Biolabs Ltd.)を使用し、その説明書に
従いpNEB205Aに挿入した。構築したベクターをpNEB6806と命名した。
pNEB6806をEcoR I(タカラバイオ株式会社)とBamH I(タカラバイオ株式会社)で消化した後1%アガロース電気泳動に供し、E.Z.N.A.(登録商標) Gel Extraction Kit(Omega Bi
o-Tek Inc.)を使用してDNA断片を抽出した。抽出したDNA断片をpET-21a(Novagen Ltd.)のBamH I-EcoR Iサイトに挿入することにより、pET6806を構築した。
【0061】
〔変異酵素ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ(V70K) (PPAT(V70K))の取得〕
pET6806にコードされているピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ(PPAT、図1及び図2)とThermus thermophilus由来アスパラギン酸アミノトランスフェラ
ーゼ(PDB code : 1BKG)の活性中心構造比較から、PPATの70番目のバリン残基を塩基性残
基に置換するとγ−カルボキシル基を持つ基質の結合に有効であると考えられた。そこで、PPATの70番目のバリン残基をリジン残基に変異させた酵素(PPAT(V70K))の作製を行った。
【0062】
鋳型はpNEB6806、プライマーは
プライマー 1: 5'-GGATCCGAGCTGATGTACTCGCACGACAT 配列番号23

プライマー 2: 5'-GGCCGAGCTTCGGCTCGC 配列番号24
または
プライマー 3: 5'-GCGAGCCGAAGCTCGGCC 配列番号25

プライマー 4: 5'-GAATTCTCAGGCGTCGGCGTCGATTACG 配列番号26
【0063】
とし、KOD -plus-(東洋紡績株式会社)を使用してその説明書に従いそれぞれPCRを行っ
た。得られた各々のPCR産物の混合物を鋳型とし、プライマー 1 (SEQ ID NO: 23)とプラ
イマー 4 (SEQ ID NO: 26)をプライマーとして、KOD -plus-を使用してその説明書に従いPCRを行った。TArget Clone(登録商標) -plus-(東洋紡績株式会社)を使用して、その説明書に従い、得られたPCR産物をpTA2(東洋紡績株式会社)に挿入しpTA6806(V70K)を構築した。pTA6806(V70K)をBamH IとEcoR Iで消化し、1%アガロース電気泳動に供した後、E.Z.N.A.(登録商標) Gel Extraction Kitを使用してDNA断片を抽出した。抽出したDNA断片をpET-21aのBamH I-EcoR Iサイトに挿入することによりpET6806(V70K)を構築した。尚、pET6806(V70K)にコードされているPPAT(V70K)の遺伝子の塩基配列を図3(配列番号3)、アミノ酸配列を図4(配列番号4)に示した。
【実施例2】
【0064】
〔PPAT及び変異酵素PPAT(V70K)の発現並びに取得〕
実施例1で構築したpET6806またはpET6806(V70K)を塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3) (Novagen Ltd.)に遺伝子導入し、それぞれ大腸菌BL21(DE3)/pET6806または大腸菌BL21(DE3)/pET6806(V70K)とした。大腸菌BL21(DE3)/pET6806または大腸菌BL21(DE3)/pET6806(V70K)を50μg/mLのアンピシリンナトリウム(和光純薬工業株式会社)を含む5mLのLB
液体培地(1% ポリペプトン(和光純薬工業株式会社)及び0.5% 酵母エキス、1% 塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社)pH7.2)に植菌し、600nmの波長で吸光度が0.8に達するまで30℃で振盪培養した。その培養液を200mLの50μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地に植菌し、23℃で24時間振盪培養した。培養液を4℃で20分間、9000gで遠心分離することにより培養菌体を回収した。0.9%NaClを用いて回収した菌体を洗浄した。
【0065】
各々の洗浄した菌体について1mM ふっ化フェニルメチルスルホニル(和光純薬工業株式会社)を含む緩衝液A (20mM リン酸カリウム緩衝液(pH8.0、リン酸水素二カリウム(関東化学株式会社)とリン酸二水素カリウム(関東化学株式会社)を使用して作製)及び1mM エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(和光純薬工業株式会社))に懸濁し、懸濁液を4〜15℃に保ち、30秒間菌体破壊−1分間休止の超音波破壊を10回繰り返した。超音波破壊を行った後、4℃で20分間、9000gで遠心分離することにより得られた上清をクルードとし
た。
クルードに終濃度が10mMになるようピリドキシン塩酸塩(和光純薬工業株式会社)を加え、70℃で10分間インキュベーションした後直ちに氷中に移した。その溶液を4℃で20分間、9000gで遠心分離し、その上清に終濃度が3.5MになるようにKCl(和光純薬工業株式会社)を加え、3.5M KClを含む緩衝液Aで平衡化したbutyl-TOYOPEARL(東ソー株式会社)にアプライした。3.5M KClを含む緩衝液Aでカラムを十分に洗浄した後、3.5M KClから0M KClのグラジエントで溶出した。その溶出した酵素溶液を緩衝液Aに対して透析し、緩衝液A
で平衡化したQA52(ワットマンジャパン株式会社)にアプライした。緩衝液Aでカラムを
十分に洗浄した後、0M KClから0.3M KClのグラジエントで溶出した。その溶出した酵素溶液に終濃度が70%になるように硫酸アンモニウムを加え、しばらく穏やかに攪拌した後4℃で20分間、9000gで遠心分離し、沈殿物に少量の0.1M KClを含む緩衝液Aを加えた。そ
の酵素濃縮液を0.1M KClを含む緩衝液Aで平衡化したSephacryl S-200 High Resolution
(アマシャム バイオサイエンス株式会社)にアプライし、溶出した酵素をPPATまたはPPAT(V70K)の酵素とした。
【0066】
〔発現酵素活性の測定〕
0.1M CHES緩衝液(pH9.0、CHES(和光純薬工業株式会社)およびKOH(和光純薬工業株式会社)を使用して作製)及び3.3mM ピリドキサミン(和光純薬工業株式会社)、50mM 2-オキソグルタル酸(和光純薬工業株式会社)の溶液にPPATの酵素、またはPPAT(V70K)の酵素を加え反応液とした。30℃で10〜30分間インキュベーションを行った後、9M 硫酸(和光
純薬工業株式会社)を反応液に対し約17%加えた。反応の際、反応液のピリドキサミンま
たは2-オキソグルタル酸の濃度を変え、最大反応速度(Vmax)及びミカエリス−メンテン定数(Km)の測定を行った。反応生成物の検出は、391nmの吸光度の測定により行った。
活性測定した結果、PPATの2-オキソグルタル酸のKmは77mM、Vmaxは0.59U/mgであり、PPAT(V70K)の2-オキソグルタル酸のKmは117mM、Vmaxは1.8U/mgであった。ここでは1Uは、1分間あたり1μmolのピリドキサールを生成する活性とした。PPATとPPAT(V70K)を比較したところ、PPAT(V70K)の方が高い活性を示した。
【0067】
次に、0.1M CHES緩衝液(pH9.0)及び3.3mM ピリドキサミン、50mM 2-オキソグルタル酸
(または10mM ピルビン酸(和光純薬工業株式会社))の溶液にPPATのクルード、またはPPAT(V70K)のクルードを加え反応液とした。30℃で10〜30分間インキュベーションを行っ
た後、9M 硫酸を反応液に対し約17%加えた。反応生成物の検出は、391nmの吸光度の測定
により行った。
活性測定した結果、PPATのクルードの活性はピルビン酸を使用した場合は454±16.5 nmol/min/mg、2-オキソグルタル酸を使用した場合は1.63±0.486 nmol/min/mgであった。一方、PPAT(V70K)のクルードの活性はピルビン酸を使用した場合は109±8.89 nmol/min/mg
、2-オキソグルタル酸を使用した場合は4.63±0.440 nmol/min/mgであった。変異が生じ
ることによりピルビン酸に対する反応性が減少し2-オキソグルタル酸に対する反応性が向上したことから、基質特異性が変化した。言い換えると、PPAT酵素はピルビン酸をアラニンに変換し、また、2-オキソグルタル酸をグルタミン酸に変換する反応をすることから、変異が生じることによりアラニンに対する反応性が減少しグルタミン酸に対する反応性が向上したことが示唆された。
【0068】
〔酵素発現形質転換体の活性の測定〕
さらに、形質転換した大腸菌の評価を行った。大腸菌BL21(DE3)/pET6806または大腸菌BL21(DE3)/pET6806(V70K)を50μg/mLのアンピシリンナトリウムを含む5mLのLB液体培地に
植菌し、600nmの波長で吸光度が0.8に達するまで30℃で振盪培養した。その培養液を200mLの50μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地に植菌し、23℃で24時間振盪
培養した。培養液を4℃で20分間、9000gで遠心分離することにより、培養菌体を回収し
た。
50mM トリス塩酸緩衝液(pH9.0、トリス(和光純薬工業株式会社)及び塩酸(和光純薬
工業株式会社)を使用して作製)及び、2mM ピリドキサール、50mM L(+)-グルタミン酸水
素ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を含む溶液に、回収した菌体を3%(wet/vol)にな
るように加え、30℃で1時間インキュベーションした。Yagi, T., et al. (1993) Biosci. Biotech. Biochem., 57, 753-759に開示の方法に従い、HPLCを使用し、波長300nmでピ
リドキサミンを検出した。分析した結果、大腸菌BL21(DE3)/pET6806のピリドキサミンへ
の転換率は8.2%であった。一方、大腸菌BL21(DE3)/pET6806(V70K)のピリドキサミンへの
転換率は62.9%であった。また、大腸菌BL21(DE3)/pET6806または大腸菌BL21(DE3)/pET6806(V70K)を培養し、回収した菌体をそれぞれSDS-PAGEに供したところ、PPATをコードして
いる遺伝子の発現量とPPAT(V70K)をコードしている遺伝子の発現量は同じであった。遺伝子組換え菌を用いた反応及びSDS-PAGEの結果から、PPAT(V70K)の酵素活性向上は大腸菌の菌体を使用しても活性の向上をもたらし、大腸菌BL21(DE3)/pET6806(V70K)のピリドキサ
ミンを産生する活性は大腸菌BL21(DE3)/pET6806よりも高かった。
【実施例3】
【0069】
〔変異酵素ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ(Y35H/V70K) (PPAT(Y35H/V70K))の取得〕
pET6806(V70K)をEcoR IとBamH Iで消化した後1%アガロース電気泳動に供し、E.Z.N.A.(登録商標) Gel Extraction Kitを使用してDNA断片を精製した。そのDNA断片をpUC119(タカラバイオ株式会社)のBamH I-EcoR Iサイトに挿入することによりpUC6806(V70K)を構築した。
pUC6806(V70K)を鋳型としてエラープローンPCRを行った。
2.5 units BIOTAQ(登録商標) DNA polymerase(Bioline Ltd.)及び、0.2mM dNTPs(Bioline Ltd.)、4mM 塩化マグネシウム(Bioline Ltd.)、GC buffer I(タカラバイオ株式会社
)、20pmol プライマー
5'-CCCGGATCCGAGCTGATGTACTCGCACGACAT 配列番号27
(インビトロジェン株式会社)、20pmol プライマー
5'-CCCGAATTCTCAGGCGTCGGCGTCGATTACG 配列番号28
(インビトロジェン株式会社)を含む反応溶液に鋳型としてpUC6806(V70K)を加え、BIOTAQ(登録商標) DNA polymeraseの説明書に従いPCRを行った。PCR反応後、1% アガロース電
気泳動に供し、E.Z.N.A.(登録商標) Gel Extraction Kitを使用してPCR産物を精製した。
【0070】
精製したPCR産物をBamH IおよびEcoR Iで消化した後、pUC119のBamH I-EcoR Iサイトに挿入し、大腸菌JM109(タカラバイオ株式会社)に遺伝子導入した。大腸菌JM109への遺伝子導入は、大腸菌JM109の説明書に従った。形質転換した大腸菌JM109を0.1mM イソプロピル-β-D(-)-チオガラクトピラノシド(和光純薬工業株式会社)及び20μg/mL 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトシド(和光純薬工業株式会社)、50μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB寒天培地(1% ポリペプトン及び0.5% 酵母エキス、1% 塩化ナトリウム、2% アガー(和光純薬工業株式会社)、pH7.2)にプレーティングし、37℃で一晩
培養した。白色を示したコロニーを1.5mLの50μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB
液体培地に植菌し、37℃で約16時間振盪培養した。培養液を4℃で10分間、1200gで遠心
分離し集菌した。1.0mg/mL リゾチーム(和光純薬工業株式会社)を含む10mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0)を集菌した菌に110μL加えた。30℃で2時間インキュベーションした後、
4℃で10分間、1200gで遠心分離し、上清を得た。
【0071】
該上清50μLを150μLの50mM トリス塩酸緩衝液(pH9.0)及び1mM ピリドキサミン、50mM 2-オキソグルタル酸を含む溶液に加えた。37℃で2時間インキュベーションした後、吸光度405nmの波長を測定した。活性測定し活性比率が高かったクローンのベクターの塩基配
列をABI PRISM(登録商標) 3100-Avant Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ
ジャパン株式会社)およびBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(
アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)を使用し、その説明書に従い解析した。解析したところPPAT(V70K)をコードしている遺伝子に変異が見られ、103番目の塩基のチ
ミン(T)がシトシン(C)に変化した箇所及び111番目の塩基のCがTに変化した箇所が存在し
た(図5、配列番号5)。遺伝子変異が生じた結果、PPAT(V70K)の35番目のチロシン残基がヒスチジン残基に変化していた(図6、配列番号6)。このベクターをpUC6806(Y35H/V70K)と命名し、得られたPPAT(V70K)の変異酵素をPPAT(Y35H/V70K)とした。
【0072】
pUC6806(V70K)またはpUC6806(Y35H/V70K)を大腸菌JM109に遺伝子導入し、それぞれ大腸菌JM109/pUC6806(V70K)または大腸菌JM109/pUC6806(Y35H/V70K)とした。
大腸菌JM109/pUC6806(V70K)または大腸菌JM109/pUC6806(Y35H/V70K)を50μg/mLのアン
ピシリンナトリウムを含む5mLのLB液体培地に植菌し、600nmの波長で吸光度が0.8に達す
るまで37℃で振盪培養した。その培養液を200mLの50μg/mLのアンピシリンナトリウムを
含むLB液体培地に植菌し、37℃で約16時間振盪培養した。培養液を4℃で20分間、9000g
で遠心分離することにより、培養菌体を回収した。
50mM トリス塩酸緩衝液(pH9.0)及び、2mM ピリドキサール、50mM L(+)-グルタミン酸水素ナトリウムを含む溶液に、回収した菌体を3%(wet/vol)になるように加え、30℃で1時
間インキュベーションした。HPLCを使用し、波長300nmでピリドキサミンを検出した。分
析した結果、大腸菌JM109/pUC6806(V70K)のピリドキサミンへの転換率は62.9%であった。一方、大腸菌JM109/pUC6806(Y35H/V70K)のピリドキサミンへの転換率は75.7%であった。
また、大腸菌JM109/pUC6806(V70K)または大腸菌JM109/pUC6806(Y35H/V70K)を培養し、回
収した菌体をそれぞれSDS-PAGEに供したところ、PPAT(Y35H/V70K)をコードしている遺伝
子の発現量はPPAT(V70K)をコードしている遺伝子の発現量よりも高くなっていた。
【実施例4】
【0073】
〔その他の変異型ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼの取得〕
pET6806またはpET6806(V70K)、pUC6806(Y35H/V70K)を鋳型、
PPAT-S1 (5'-ATGATGCGCTATCCCGAACATGCCG 配列番号29)
(北海道システム・サイエンス株式会社)
及び
PPAT-A1 (5'-TCAGGCGTCGGCGTCGATTAC 配列番号30)
(北海道システム・サイエンス株式会社)
をプライマーとしてPCRを行った。PCRはKOD -plus-を使用し、その説明書に従って行った。各々のPCR断片をpQE-30(株式会社キアゲン)のSma Iサイトに挿入し、それぞれpQE-PPAT17またはpQE-PPAT、pQE-PPAT23とした。尚、Sma Iは東洋紡績株式会社の酵素を使用し
た。
【0074】
次にpQE-PPATを鋳型、pQE Sequencing-Primer Set(株式会社キアゲン)のPromoter RegionとReverse SequencingをプライマーとしてエラープローンPCRを行った。得られたPCR産物をBamH IおよびPst I(東洋紡績株式会社)で消化した後、pQE-30のBamH I-Pst Iサ
イトに連結し、大腸菌JM109に遺伝子導入した。形質転換した大腸菌JM109を100μg/mLの
アンピシリンナトリウムを含むLB寒天培地にプレーティングし、37℃で一晩培養した。得られたコロニーを1mM イソプロピル-β-D(-)-チオガラクトピラノシド及び100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地に植菌し、25℃で一晩振盪培養した。培養液を4℃で5分間、12krpmで遠心分離することにより培養菌体を回収した。
【0075】
2% ピリドキサール及び、400mM L(+)-グルタミン酸水素ナトリウム(和光純薬工業株式会社)、0.1M リン酸緩衝液(pH7.0、リン酸水素二ナトリウム(関東化学株式会社)とリ
ン酸二水素ナトリウム(関東化学株式会社)を使用して作製))、OD660=50 培養菌体(
波長660nmで吸光度が50を示す菌体量)になるように反応溶液を作製した。その反応溶液
を30℃で48時間振盪し、HPLCを使用してピリドキサミンを検出した。pQE-PPATを遺伝子導
入した大腸菌JM109(大腸菌JM109/pQE-PPAT)よりピリドキサミンを産生するクローンを
スクリーニングしたところ、3つのクローンが得られた。得られたクローンそれぞれを大腸菌JM109/pQE-PPAT9、そして、大腸菌JM109/pQE-PPAT22、大腸菌JM109/pQE-PPAT35とし
た。
【0076】
また、それぞれのクローンのベクターをpQE-PPAT9、そして、pQE-PPAT22、pQE-PPAT35
とし、ABI PRISM(商標) 310NT Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)とBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを使用して説明書に従い塩
基配列を解読したところ、PPAT(V70K)をコードしている遺伝子に変異が存在した。
pQE-PPAT9はPPAT(V70K)をコードしている遺伝子のうち、342番目の塩基のアデニン(A)
がグアニン(G)に変化した箇所及び635番目の塩基のAがGに変化した箇所が存在していた。遺伝子変異が生じた結果、PPAT(V70K)の212番目のグルタミン酸残基がグリシン残基に変
化していた。
pQE-PPAT22はPPAT(V70K)をコードしている遺伝子のうち、5番目の塩基のTがCに変化した箇所が存在していた。遺伝子変異が生じた結果、PPAT(V70K)の2番目のメチオニン残基がスレオニン残基に変化していた。pQE-PPAT35はPPAT(V70K)をコードしている遺伝子のうち、5番目の塩基のTがCに変化した箇所および12番目の塩基のTがCに変化した箇所、21番目の塩基のTがCに変化した箇所が存在していた。遺伝子変異が生じた結果、PPAT(V70K)の2番目のメチオニン残基がスレオニン残基に変化していた。
pQE-PPAT9及びpQE-PPAT22、pQE-PPAT35の変異が生じたPPAT(V70K)をコードしている遺
伝子の塩基配列について、それぞれ図7(配列番号7)及び図8(配列番号8)、図9(配列番号9)に示した。また、それぞれの変異が生じたPPAT(V70K)のアミノ酸配列についてそれぞれ図10(配列番号10)及び図11(配列番号11)、図12(配列番号12)に示した。
【0077】
次にエラープローンPCRにより得られたPPAT(V70K)の変異型をコードした遺伝子を使用
して、変異箇所の連結を行った。
pQE-PPAT9を鋳型、PPAT-A1 (SEQ ID NO: 30)及び
PPAT8-S1 (5'-ATGACGCGCTATCCCGAACATGCCG 配列番号31)
(北海道システム・サイエンス株式会社)をプライマーとし、KOD -plus-を使用して、説明書に従いPCRを行った。得られたPCR断片をpQE-30のSma Iサイトに挿入しpQE-PPAT19を
構築した。pQE-PPAT19はPPAT(V70K)をコードしている遺伝子のうち、5番目の塩基のTがCに変化した箇所及び342番目の塩基のAがGに変化した箇所、635番目の塩基のAがGに変化した箇所が存在しており、遺伝子変異の箇所を連結した結果、PPAT(V70K)の2番目のメチオニン残基がスレオニン残基に変化した箇所及び212番目のグルタミン酸残基がグリシン残
基に変化した箇所が存在している。
pQE-PPAT19の変異箇所を連結したPPAT(V70K)をコードしている遺伝子の塩基配列について図13(配列番号13)に示した。また、変異箇所を連結したPPAT(V70K)のアミノ酸配列について図14(配列番号14)に示した。
【0078】
pQE-PPAT23を鋳型、PPAT-A1及びPPAT8-S1をプライマーとし、KOD -plus-を使用して、
説明書に従いPCRを行った。得られたPCR断片をpQE-30のSma Iサイトに挿入しpQE-PPAT20
を構築した。pQE-PPAT20はPPAT(V70K)をコードしている遺伝子のうち、5番目の塩基のT
がCに変化した箇所及び103番目の塩基のTがCに変化した箇所、111番目の塩基のCがTに変
化した箇所が存在しており、遺伝子変異の箇所を連結した結果、PPAT(V70K)の2番目のメチオニン残基がスレオニン残基に変化している箇所及び35番目のチロシン残基がヒスチジン残基に変化している箇所が存在している。
pQE-PPAT20の変異箇所を連結したPPAT(V70K)をコードしている遺伝子の塩基配列について図15(配列番号15)に示した。また、変異箇所を連結したPPAT(V70K)のアミノ酸配列について図16(配列番号16)に示した。
【0079】
pQE-PPAT23を鋳型、
PPAT-A1 (SEQ ID NO: 30)及び
PPATm8-S1 (5'-ATGACGCGCTACCCCGAACACGCCG 配列番号32)
(北海道システム・サイエンス株式会社)
をプライマーとし、KOD -plus-を使用して、説明書に従いPCRを行った。得られたPCR断片をpQE-30のSma Iサイトに挿入しpQE-PPAT27を構築した。pQE-PPAT27はPPAT(V70K)をコー
ドしている遺伝子のうち、5番目の塩基のTがCに変化した箇所及び12番目の塩基のTがCに変化した箇所、21番目の塩基のTがCに変化した箇所、103番目の塩基のTがCに変化した箇
所、111番目の塩基のCがTに変化した箇所が存在しており、遺伝子変異の箇所を連結した
結果、PPAT(V70K)の2番目のメチオニン残基がスレオニン残基に変化している箇所及び35番目のチロシン残基がヒスチジン残基に変化している箇所が存在している。
pQE-PPAT27の変異箇所を連結したPPAT(V70K)をコードしている遺伝子の塩基配列について図17(配列番号17)に示した。また、変異箇所を連結したPPAT(V70K)のアミノ酸配列について図18(配列番号18)に示した。
【0080】
pQE-PPAT20をXho I(東洋紡績株式会社)で消化した後、1%アガロース電気泳動に供し
、約0.5kbpのバンドをE.Z.N.A.(登録商標) Gel Extraction Kitで精製し、このDNA断片とpQE-PPAT9をXho I(東洋紡績株式会社)で消化した後、1%アガロース電気泳動に供し約4.1kbpのバンドをE.Z.N.A.(登録商標) Gel Extraction Kitで精製したDNA断片を連結し、pQE-PPAT37を構築した。pQE-PPAT37はPPAT(V70K)をコードしている遺伝子のうち、5番目の塩基のTがCに変化した箇所及び103番目の塩基のTがCに変化した箇所、111番目の塩基のC
がT変化した箇所、342番目の塩基のAがGに変化した箇所、635番目の塩基のAがG変化した
箇所が存在しており、遺伝子変異を連結した果、PPAT(V70K)の2番目のメチオニン残基がスレオニン残基に変化した箇所及び35番目のチロシン残基がヒスチジン残基に変化した箇所、212番目のグルタミン酸残基がグリシン残基に変化した箇所が存在している。pQE-PPAT37の変異箇所を連結したPPAT(V70K)をコードしている遺伝子の塩基配列について図19
(配列番号19)に示した。また、変異箇所を連結したPPAT(V70K)のアミノ酸配列について図20(配列番号20)に示した。
尚、pQE-PPAT17及びpQE-PPAT、pQE-PPAT23、pQE-PPAT9、pQE-PPAT22、pQE-PPAT35、pQE-PPAT19、pQE-PPAT20、pQE-PPAT27、pQE-PPAT37にコードしているPPATの遺伝子または変
異型PPATの遺伝子の向きは、プロモーターと同じ向きであることをABI PRISM(商標) 310NT Genetic Analyzerを用いたシーケンス分析で確認した。
【0081】
pQE-30またはpQE-PPAT17、pQE-PPAT、pQE-PPAT23、pQE-PPAT9、pQE-PPAT22、pQE-PPAT35、pQE-PPAT19、pQE-PPAT20、pQE-PPAT27、pQE-PPAT37を大腸菌JM109に遺伝子導入し、得られた組換え大腸菌をそれぞれ大腸菌JM109/pQE-30または大腸菌JM109/pQE-PPAT17、大腸菌JM109/pQE-PPAT、大腸菌JM109/pQE-PPAT23、大腸菌JM109/pQE-PPAT9、大腸菌JM109/pQE-PPAT22、大腸菌JM109/pQE-PPAT35、pQE-PPAT19、大腸菌JM109/pQE-PPAT20、大腸菌JM109/pQE-PPAT27、大腸菌JM109/pQE-PPAT37とした。これら組換え大腸菌を1mM イソプロピル-β-D(-)-チオガラクトピラノシド及び100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB液体
培地に植菌し、25℃で一晩振盪培養した。培養液を4℃で5分間、12krpmで遠心分離することにより培養菌体を回収し、2%(100mM) ピリドキサール及び、400mM L(+)-グルタミン
酸水素ナトリウム、0.1M リン酸緩衝液(pH7.0)、OD660=50 培養菌体(波長660nmで吸光
度が50を示す菌体量)になるように反応溶液を作製した。その反応溶液を30℃で48時間振盪し、HPLCを使用してピリドキサミンを検出した。
【0082】
反応後の反応溶液中のピリドキサミンの濃度はブランク反応である大腸菌JM109/pQE-30を使用した場合のピリドキサミンの濃度を引いて計算した。大腸菌JM109/pQE-PPAT17を使用した場合は8mMそして、大腸菌JM109/pQE-PPATを使用した場合は14mM、大腸菌JM109/pQE
-PPAT23を使用した場合は24mM、大腸菌JM109/pQE-PPAT9を使用した場合は23mM、大腸菌JM109/pQE-PPAT22を使用した場合は31mM、大腸菌JM109/pQE-PPAT35を使用した場合は32mM、pQE-PPAT19を使用した場合は31mM、大腸菌JM109/pQE-PPAT20を使用した場合は40mM、大腸菌JM109/pQE-PPAT27を使用した場合は43mM、大腸菌JM109/pQE-PPAT37を使用した場合は66mMであった。PPATの遺伝子に変異が導入されるほど活性上昇がみられた。
【0083】
pUC6806(V70K)を鋳型とし、
プライマー 5'-CCCGGATCCGAGCTGATGTACTCGCACGACAT(配列番号27)、
プライマー 5'-CCCGAATTCTCAGGCGTCGGCGTCGATTACG(配列番号28)
をプライマーとしてエラープローンPCRを行った。PCR反応後、1% アガロース電気泳動に供し、E.Z.N.A.(登録商標) Gel Extraction Kitを使用してPCR産物を精製した。精製したPCR産物をBamH IおよびEcoR Iで消化した後、pUC119のBamH I-EcoR Iサイトに挿入し、大腸菌JM109に遺伝子導入した。大腸菌JM109への遺伝子導入は、大腸菌JM109の説明書に
従った。形質転換した大腸菌JM109を0.1mM イソプロピル-β-D(-)-チオガラクトピラノシド及び20μg/ml 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトシド、50μg/mlのアン
ピシリンナトリウムを含むLB寒天培地にプレーティングし、37℃で一晩培養した。白色を示したコロニーを1.5mlの50μg/mlのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地に植菌し
、37℃で約16時間振盪培養した。培養液を4℃で10分間、1200gで遠心分離し集菌した。1.0mg/ml リゾチームを含む10mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0)を集菌した菌に110μl加えた。37℃で2時間インキュベーションした後、4℃で10分間、1200gで遠心分離し、上清50μlを150μlの50mM トリス塩酸緩衝液(pH9.0)及び1mM ピリドキサミン、50mM 2-オキソグルタル酸を含む溶液に加えた。30℃で2時間インキュベーションした後、吸光度405nmの
波長を測定した。
【0084】
活性測定し活性比率が高かったクローンのベクターの塩基配列をABI PRISM(登録商標) 3100-Avant Genetic AnalyzerおよびBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを使用し、その説明書に従い解析した。解析したところPPAT(V70K)をコードしている遺伝子に変異が見られ、54番目の塩基のGがTに変化した箇所及び209番目の塩基のAがG
に変化した箇所、354番目の塩基のCがTに変化した箇所、740番目の塩基のTがCに変化した箇所が存在した(図21、配列番号33)。遺伝子変異が生じた結果、PPAT(V70K)の70番目のリジン残基がアルギニン残基に変化した箇所及び247番目のフェニルアラニン残基がシス
テイン残基に変化した箇所が存在した(図22、配列番号34)。このベクターをpUC6806(V70R/F247C)と命名し、得られたPPAT(V70K)の変異酵素をPPAT(V70R/F247C)とした。
【0085】
また、pUC6806(V70R/F247C)を鋳型、
5'-CATGATTACGATCCTGCATTCCAGCTCC 配列番号37
(インビトロジェン株式会社)及び
5'-AAGCACCGTACGGCCGAGGCC 配列番号38
(インビトロジェン株式会社)をプライマーとして、KOD -plus- Mutagenesis Kit(東洋紡績株式会社)を用いて103番目の塩基をTからCに変化させることによりpUC6806(Y35H/V70R/F247C)を構築した。pUC6806(Y35H/V70R/F247C)の変異型PPATの遺伝子配列は、PPAT(V70K)をコードしている遺伝子と比較すると、54番目の塩基のGがTに変化した箇所及び103番目の塩基がTからCに変化した箇所、209番目の塩基のAがGに変化した箇所、354番目の塩基のCがTに変化した箇所、740番目の塩基のTがCに変化した箇所が存在しており(図23、配
列番号35)、遺伝子変異が生じた結果、PPAT(V70K)の35番目のチロシン残基がヒスチジン残基に変化した箇所及び70番目のリジン残基がアルギニン残基に変化した箇所、247番目
のフェニルアラニン残基がシステイン残基に変化した箇所が存在している(図24、配列番号36)。得られたPPAT(V70K)の変異酵素をPPAT(Y35H/V70R/F247C)とした。
pUC6806(V70R/F247C)またはpUC6806(Y35H/V70R/F247C)を鋳型とし、PPAT-S1(配列番号29)及びPPAT-A1(配列番号30)をプライマーとしてPCRを行った。PCRはKOD -plus-を使
用し、その説明書に従って行った。各々のPCR断片をpQE-30のSma Iサイトに挿入し、それぞれpQE-PPAT38またはpQE-PPAT40とした。
【0086】
pQE-PPAT38またはpQE-PPAT40、を大腸菌JM109に遺伝子導入し、得られた組換え大腸菌
をそれぞれは大腸菌JM109/pQE-PPAT38または大腸菌JM109/pQE-PPAT40とした。これら組換え大腸菌と大腸菌JM109/pQE-30及び大腸菌JM109/pQE-PPATを1mM イソプロピル-β-D(-)-
チオガラクトピラノシド及び100μg/mlのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地に植
菌し、25℃で一晩振盪培養した。培養液を4℃で5分間、12krpmで遠心分離することにより培養菌体を回収し、2% ピリドキサール及び、400mM L(+)-グルタミン酸水素ナトリウム、0.1M リン酸緩衝液(pH7.0)、OD660=50 培養菌体(波長660nmで吸光度が50を示す菌体量)になるように反応溶液を作製した。その反応溶液を30℃で48時間振盪し、HPLCを使用してピリドキサミンを検出した。
反応後の反応溶液中のピリドキサミンの濃度はブランク反応である大腸菌JM109/pQE-30を使用した場合のピリドキサミンの濃度を引いて計算した。大腸菌JM109/pQE-PPATを使用した場合は14mMそして大腸菌JM109/pQE-PPAT38を使用した場合は24mM、大腸菌JM109/pQE-PPAT40を使用した場合は27mMであった。PPATの遺伝子に変異が導入されるほど活性上昇がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、特徴的な性状を示す変異型PPATを同定し、さらに該酵素をコードする遺伝子をクローニングし、工業的に該酵素を利用するための技術を提供している。本発明で、組換え酵素あるいは該酵素遺伝子で形質転換された宿主細胞を利用することで、ピリドキサミン又はその塩を製造するための工業的に有利な方法が提供される。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【配列表フリーテキスト】
【0088】
SEQ ID NO: 3, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding PPAT(V70K)
SEQ ID NO: 4, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of PPAT(V70K)
SEQ ID NO: 5, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding PPAT(Y35H/V70K)
SEQ ID NO: 6, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of PPAT(Y35H/V70K)
SEQ ID NO: 7, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT9 mutations are integrated
SEQ ID NO: 8, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT22 mutations are integrated
SEQ ID NO: 9, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT35 mutations are integrated
SEQ ID NO: 10, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT9 mutations are integrated
SEQ ID NO: 11, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT22 mutations are integrated
SEQ ID NO: 12, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT35 mutations are integrated
SEQ ID NO: 13, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT19 mutations are integrated
SEQ ID NO: 14, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT19 mutations are integrated
SEQ ID NO: 15, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT20 mutations are integrated
SEQ ID NO: 16, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT20 mutations are integrated
SEQ ID NO: 17, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT27 mutations are integrated
SEQ ID NO: 18, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT27 mutations are integrated
SEQ ID NO: 19, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT37 mutations are integrated
SEQ ID NO: 20, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of mutated PPAT(V70K) wherein pQE-PPAT37 mutations are integrated
SEQ ID NO: 21, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 22, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 23, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 24, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 25, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 26, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 27, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 28, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 29, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 30, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 31, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 32, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 33, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding PPAT(V70R/F247C)
SEQ ID NO: 34, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of PPAT(V70R/F247C)
SEQ ID NO: 35, Description of Artificial Sequence: Polynucleotide sequence encoding PPAT(Y35H/V70R/F247C)
SEQ ID NO: 36, Description of Artificial Sequence: Amino acid sequence of PPAT(Y35H/V70R/F247C)
SEQ ID NO: 37, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
SEQ ID NO: 38, Description of Artificial Sequence: Oligonucleotide to act as a primer for PCR
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】メソリゾビウム ロティ由来PPATの遺伝子の塩基配列。
【図2】メソリゾビウム ロティ由来PPATのアミノ酸配列。
【図3】変異酵素PPAT(V70K)の遺伝子の塩基配列。
【図4】変異酵素PPAT(V70K)のアミノ酸配列。
【図5】変異酵素PPAT(Y35H/V70K)の遺伝子の塩基配列。
【図6】変異酵素PPAT(Y35H/V70K)のアミノ酸配列。
【図7】pQE-PPAT9の変異が導入されたPPAT(V70K)の遺伝子の塩基配列。
【図8】pQE-PPAT22の変異が導入されたPPAT(V70K)の遺伝子の塩基配列。
【図9】pQE-PPAT35の変異が導入されたPPAT(V70K)の遺伝子の塩基配列。
【図10】pQE-PPAT9の変異が導入されたPPAT(V70K)のアミノ酸配列。
【図11】pQE-PPAT22の変異が導入されたPPAT(V70K)のアミノ酸配列。
【図12】pQE-PPAT35の変異が導入されたPPAT(V70K)のアミノ酸配列。
【図13】pQE-PPAT19の変異箇所が連結したPPAT(V70K)の遺伝子の塩基配列。
【図14】pQE-PPAT19の変異箇所が連結したPPAT(V70K)のアミノ酸配列。
【図15】pQE−PPAT20の変異箇所が連結したPPAT(V70K)の遺伝子の塩基配列。
【図16】pQE-PPAT20の変異箇所が連結したPPAT(V70K)のアミノ酸配列。
【図17】pQE-PPAT27の変異箇所が連結したPPAT(V70K)の遺伝子の塩基配列。
【図18】pQE-PPAT27の変異箇所が連結したPPAT(V70K)のアミノ酸配列。
【図19】pQE-PPAT37の変異箇所が連結したPPAT(V70K)の遺伝子の塩基配列。
【図20】pQE-PPAT37の変異箇所が連結したPPAT(V70K)のアミノ酸配列。
【図21】変異酵素PPAT(V70R/F247C)の遺伝子の塩基配列。
【図22】変異酵素PPAT(V70R/F247C)のアミノ酸配列。
【図23】変異酵素PPAT(Y35H/V70R/F247C)の遺伝子の塩基配列。
【図24】変異酵素PPAT(Y35H/V70R/F247C)のアミノ酸配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入又は付加を含むアミノ酸配列からなり、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天然のPPATの酵素活性に比
較して特徴的な利点を有しているポリペプチド、
(2) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において、少なくとも、70番目のバリン残基が他のアミノ酸に変異せしめられたアミノ酸配列からなり、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天然のPPATの酵素活性
に比較して特徴的な利点を有しているポリペプチド、及び
(3) 以下のいずれかの条件:
(a) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において70番目のバリン残基が、他のアミノ酸に変異させられている;
(b) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において35番目のチロシン残基が、他のアミノ酸に変異させられている;
(c) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において2番目のメチオニン残基が、他のアミノ
酸に変異させられている;
(d) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において212番目のグルタミン酸残基が、他のア
ミノ酸に変異させられている;
(e) 配列番号2に示されたアミノ酸配列において247番目のフェニルアラニン残基が、他
のアミノ酸に変異させられている;
の1又はそれ以上を満たすもので、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対してアミノ酸レベルで少なくとも50%の同一性、少なくとも60%の同一性、少なくとも70%の同一性、少な
くとも80%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも93%の同一性、少なくとも96%の同一性、あるいは少なくとも98%の同一性を持つアミノ酸配列からなり、ピリドキサミン
−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有し且つメソリゾビウム ロティ由来の天
然のPPATの酵素活性に比較して特徴的な利点を有しているポリペプチド
からなる群から選択されたものであることを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードする塩基配列を有することを特徴とする核酸。
【請求項3】
請求項2記載の核酸の塩基配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAであることを特徴とする核酸。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の核酸を含むことを特徴とする組換えプラスミド又はベクター。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の核酸あるいは請求項4に記載の組換えプラスミド又はベクターで宿主細胞が形質転換されていることを特徴とする形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養する工程を含むことを特徴とするピリドキサミン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドの製造方法。
【請求項7】
アミノ基供与体存在下、ピリドキサール又はその塩と請求項1に記載のポリペプチド又は請求項5に記載の形質転換体の菌体、その培養物、それらの処理物及び抽出物、並びにそれらの固定化物からなる群から選択されたものとを接触せしめることを特徴とするピリドキサミン又はその塩の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−291158(P2009−291158A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149978(P2008−149978)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(390010205)第一ファインケミカル株式会社 (23)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】