説明

ピリミジンヌクレオシド化合物およびその利用

【課題】光により構造および光特性の可逆的変化を引き起こすことができるヌクレオシド化合物およびこれを利用した技術を提供する。
【解決手段】本発明に係るピリミジンヌクレオシド化合物は、ピリミジン核の5位の炭素原子に、エチレン性二重結合を介してアリール基またはヘテロアリール基が結合している化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ピリミジンヌクレオシド化合物に関し、より詳細には、光照射により可逆的に異性化可能な新規ピリミジンヌクレオシド化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸は、高次構造を取ることにより様々な機能を得ている。したがって、核酸の高次構造を光などの外部刺激によって制御することができれば、核酸の機能を容易に制御することができ、生物学分野および医学分野などにおいて大きな意義があると考えられる。
【0003】
核酸の構造を制御する試みとして、光応答性を有する置換基を核酸に導入する手法が開発されている。このような手法として、例えば、光解離基を核酸塩基に導入したケージド核酸が提案されている(非特許文献1〜5)。これによれば、光照射により核酸の構造を変化させることが可能となる。
【0004】
また、核酸のバックボーンまたは糖に、光照射によりE−Z異性化反応をおこすアゾベンゼンを導入する手法が提案されている(非特許文献6〜9)。これによれば、アゾベンゼンのE−Z異性化における核酸高次構造への影響の差により、活性のON/OFFを可逆的に制御することができる。
【0005】
さらに、デオキシグアノシンの塩基部分にスチレンを導入する手法が提案されている(非特許文献10)。これによれば、光照射によりエチレン性二重結合部のE−Z異性化反応を引き起こすことができ、高次構造の変化を引き起こすことができる。また、繰り返しの光異性化が可能となる。
【非特許文献1】X. Tang, J. Swaminathan, A. M. Gewirtz, and I. J. Dmochowski, Nucleic Acids Res. 2008, 36, 559-569.
【非特許文献2】S. Shah, S. Rangarajan, and S. H. Friedman, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 1329-1332.
【非特許文献3】L. Krock, and A. Heckel, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 471-473.
【非特許文献4】C. Hobarter, and S. K. Silverman, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 7305-7309.
【非特許文献5】H. Lusic, D. D. Young, M. O. Lively, and A. Deiters, Org. Lett. 2007, 9, 1903-1906.
【非特許文献6】H. Asanuma, D. Matsunaga, and M. Komiyama, Nucleic Acids Symposium Series. 2005, 49, 35-36.
【非特許文献7】D. Matsunaga, H. Asanuma, and M. Komiyama, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 11452-11453.
【非特許文献8】M. Z. Liu, H. Asanuma, and M. Komiyama, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 1009-1015.
【非特許文献9】S. Keiper, and J. S. Vyle, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 3306-3309.
【非特許文献10】S. Ogasawara, I. Saito, and M. Maeda, Tetrahedron Lett. 2008, 49, 2479-2482.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のケージド核酸においては、その光反応は不可逆的であり、一度かぎり、かつ一方向への制御しかできないという問題がある。また蛍光を制御することができない。
【0007】
一方、核酸のバックボーンまたは糖へアゾベンゼンを導入した核酸においては、光反応を可逆的に起こすことができる。そのため、活性のON/OFFを可逆的に制御することができる。しかし、嵩高いアゾベンゼンを導入することによって、E体およびZ体何れの場合でも核酸高次構造をゆがめてしまい、活性が低下するといった問題点がある。これは、アゾベンゼンを複数導入したときにさらに顕著に表れる。しかし、核酸高次構造を制御するためには複数のアゾベンゼンを要するため、ジレンマが生じる。またケージド核酸同様に蛍光を制御することができない。
【0008】
非特許文献10に記載の8−スチリル−2’−デオキシグアノシン(以下、8STGと称する)は、光異性化可能なヌクレオシドである。これによれば、上記ケージド核酸およびアゾベンゼン導入核酸における問題点を回避した、光異性化可能な核酸を提供することができると考えられる。
【0009】
ところで、高次構造は塩基のみで形成し得るため、高次構造制御の点からは、塩基部分で異性化を起こすことが望ましい。また、修飾されている部位が塩基部分である場合には、DNAの二重らせん構造形成、RNAの高次構造形成(例えばリボザイムおよびアプタマー)を阻害しない点で好ましい。そのため、塩基部分において光異性化が可能な、さらなるヌクレオシドの開発が望まれている。
【0010】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光照射により可逆的に異性化可能な新規ヌクレオシド化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために発明者らは鋭意検討した結果、ピリミジンヌクレオシドの5位にエチレン性二重結合を介しアリール基またはヘテロアリール基を導入することにより、光により可逆的に異性化し得る新規ヌクレオシドが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係るピリミジンヌクレオシド化合物は、上記課題を解決するために、ピリミジン核の5位の炭素原子に、下記一般式(1)で表される基が結合しているピリミジンヌクレオシド化合物である。
【0013】
【化1】

【0014】
(一般式(1)中、Aはアリール基またはヘテロアリール基を表し、該アリール基および該ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、*1はピリミジン核の5位の炭素原子との結合位置を表す。)
本発明に係るピリミジンヌクレオシド化合物は、ウリジン誘導体であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るピリミジンヌクレオシド化合物では、上記Aは環構成原子数10〜20のアリール基またはヘテロアリール基であることが好ましい。
【0016】
本発明に係るピリミジンヌクレオシド化合物では、上記Aがピレニル基または9H−フルオレニル基であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る異性化する方法は、上記ピリミジンヌクレオシド化合物に光を照射することにより、該ピリミジンヌクレオシド化合物を異性化する方法である。
【0018】
また、本発明に係る光特性を変化させる方法は、上記ピリミジンヌクレオシド化合物に光を照射することにより、該ピリミジンヌクレオシド化合物の光特性を変化させる方法である。
【0019】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ピリミジンヌクレオシド化合物に由来する塩基を含むポリヌクレオチドである。
【0020】
また、本発明に係る熱的安定性を変化させる方法は、上記ポリヌクレオチドに光を照射することにより、該ポリヌクレオチドの熱的安定性を変化させる方法である。
【0021】
また、本発明に係る光スイッチング型デバイス材料は、上記ピリミジンヌクレオシド化合物および上記ポリヌクレオチドの少なくとも何れか一方を含む光スイッチング型デバイス材料である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るピリミジンヌクレオシド化合物は、以上のように、ピリミジン核の5位の炭素原子に、上記一般式(1)で表される基が結合している化合物である。そのため、光により構造および光特性を可逆的にスイッチングできる新たなヌクレオシド化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
〔ピリミジンヌクレオシド化合物〕
本発明に係るピリミジンヌクレオシド化合物は、ピリミジン核の5位の炭素原子に、下記一般式(1)で表される基が結合しているピリミジンヌクレオシド化合物である。
【0025】
【化2】

【0026】
(一般式(1)中、Aはアリール基またはヘテロアリール基を表し、該アリール基および該ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、*1はピリミジン核の5位の炭素原子との結合位置を表す。)
一般式(1)で表される基は、波長が互いに異なる2種類の光によりエチレン性二重結合部のE−Z異性化を可逆的に起こし得る。そのため、上記基を導入することによって、光照射により可逆的に構造変化し得るヌクレオシド化合物を得ることができる。
【0027】
以下、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物について、さらに詳細に説明する。
【0028】
本明細書において、ある官能基または原子が置換基を有し得る場合、置換基の種類、その数および置換位置は特に限定されるものではないが、置換基の具体例としては、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子、好ましくは臭素原子)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、フルオレニル基およびピレニル基)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜20の置換または無置換のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基およびトリチル基)を挙げることができる。また、ある基について「炭素数」とは、置換基を有する基については、この置換基を含まない部分の炭素数をいうものとする。
【0029】
本明細書において「ピリミジンヌクレオシド化合物」とは、ピリミジン塩基と糖の還元基とがグリコシド結合によって結合した、ピリミジン核を含む配糖体化合物である。
【0030】
また、本明細書において「ピリミジン核」とは、下記一般式(2)または(3)で表される構造をいうものとする。
【0031】
【化3】

【0032】
(上記一般式(2)および(3)中、Zはアミノ基またはその保護基を表し、*2は糖との結合位置を表す。)
における保護基としては、トリアゾール、ジメチルホルムアミジン、ジイソブチルホルムアミジン、アセチル基、イソブチル基、ベンゾイル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)およびtert−ブトキシカルボニル基(Boc)などが挙げられる。
【0033】
本発明のピリミジンヌクレオシド化合物では、ピリミジン核の5位の炭素原子に、一般式(1)で表される基が結合している。ピリミジンヌクレオシド化合物は、エチレン性二重結合部の異性化によりE体またはZ体の何れかとなる。具体的には、ピリミジン核として例えば上記一般式(3)の構造を有するピリミジンヌクレオシド化合物の場合には、下記のE体またはZ体の何れかとなる。
【0034】
【化4】

【0035】
(上記において、Aおよび*2は、それぞれ、上述の一般式(1)〜(3)におけるAおよび*2と同義である。)
一般式(1)におけるAとして表されるアリール基は、単環式または縮合環式のいずれでもよく、またアリール基は置換基を有していてもよい。このようなアリール基としては、例えば、フェニル基;ナフチル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、アセナフチレニル基、9H−フルオレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、テトラフェニル基、ナフタセニル基およびペリレニル基など環構成原子数10〜20のアリール基;ピセニル基、ペンタフェニル基およびペンタセニル基など環構成原子数21〜30のアリール基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。アリール基として好ましくは、環構成原子数10〜20のアリール基、および置換基を有するフェニル基である。置換基を有するフェニル基としては、ニトロ基、ジエチルアミノ基、ジメチルアミノ基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、カルボニル基およびハロゲンなどの電子供与基または電子吸引基を置換基として有しているフェニル基が挙げられる。これらの中でも、アリール基としては、環構成原子数10〜20のアリール基がより好ましく、ナフチル基、9H−フルオレニル基およびピレニル基がさらに好ましい。
【0036】
一般式(1)におけるAとして表されるヘテロアリール基としては、例えば、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される1または2以上のヘテロ原子を環構成原子として含むヘテロアリール基を挙げることができ、単環式または縮合環式のいずれでもよい。また、ヘテロアリール基は置換基を有していてもよい。このようなヘテロアリール基としては、例えば、ピロリル基およびイミダゾリル基などヘテロ原子として窒素原子を含む環構成原子数5または6の単環式ヘテロアリール基;インドリル基などヘテロ原子として窒素原子を含む環構成原子数7〜9の縮合環式ヘテロアリール基;イソキノリニル基、2,7−ナフチリジニル基、2,6−ナフチリジニル基、1,6−ナフチリジニル基、1,5−ナフチリジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、9H−カルバゾリル基、9H−β−カルボリニル基、フェナントリジニル基、1H−ペリミジニル基、4,7−フェナントロリニル基、3,8−フェナントロリニル基および2,9−フェナントロリニル基などのフェナントロリニル基、フェナジニル基、テベニジニル基ならびに10H−キンドリニル基などヘテロ原子として窒素原子を含む環構成原子10〜20のヘテロアリール基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ヘテロアリール基として好ましくは、環構成原子数10〜20のヘテロアリール基である。これらの中でもヘテロアリール基としては、置換基を有する、または無置換の9H−カルバゾリル基がより好ましく、無置換の9H−カルバゾリル基がさらに好ましい。
【0037】
なお、本明細書において「環構成原子数」とは、置換基を考慮せずに、環を構成している原子数を表す。アリール基の場合には、環構成原子数は環を構成している炭素原子数であり、例えばピレニル基であれば16である。ヘテロアリール基の場合には、環構成原子数は環を構成している炭素原子およびヘテロ原子の総数であり、例えばキノキサリニル基であれば10である。
【0038】
アリール基およびヘテロアリール基における、エチレン性二重結合との結合位置は特に限定されるものではなく、使用する基および合成方法などにより適宜決定すればよい。後述する実施例においては、2−9H−フルオレニルおよび2−ピレニルである。また、ナフチル基である場合には、2−ナフチルが好ましい。
【0039】
一般式(1)におけるAが、環構成原子数10〜20のアリール基、置換基を有するフェニル基、または環構成原子数10〜20のヘテロアリール基である場合には、E→Z異性化およびZ→E異性化何れにおいても、Aが例えば置換基を有していないフェニル基である場合よりも長波長側の光(例えば、後述の異性化方法において例示する波長の光)を使用して異性化反応を起こすことができる。具体的には、Z→E異性化を290nm以上の光を用いて行うことができる。したがってこの場合には、光によるピリミジンヌクレオシド化合物の損傷、および本発明のピリミジンヌクレオシド化合物由来の塩基を含むオリゴヌクレオチドの損傷(例えば、ピリミジンダイマーの形成)を軽減することができ、より安定なピリミジンヌクレオシド化合物、およびオリゴヌクレオチドを提供できる。また、置換基を有していないフェニル基よりも嵩高さが増加するため、当該化合物由来の塩基が組み込まれているオリゴヌクレオチドの立体構造を、より効果的に制御することができる。
【0040】
一般式(1)で表される基が結合しているピリミジン核がグリコシド結合する糖部分の構造は、特に限定されるものではなく、公知のヌクレオシド化合物に含まれる糖部分を挙げることができ、より具体的には、後述する一般式(4)および(5)に含まれる糖部分を挙げることができる。
【0041】
本発明のピリミジンヌクレオシド化合物の好ましい態様としては、ピリミジン核の5位の炭素原子に一般式(1)で表される基が結合している、下記一般式(4)で表されるウリジン誘導体、および下記一般式(5)で表されるシチジン誘導体を挙げることができる。なお、下記一般式(4)および(5)にはE体を示すが、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物はE体に限定されるものではなくZ体でもあってもよい。
【0042】
【化5】

【0043】
(上記一般式(4)および(5)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水酸基もしくはその保護基、オリゴヌクレオチドの製造のために導入され得る反応性基、またはヌクレオシド誘導体の自己組織化を利用する際に導入され得る原子団を表す。Rは水素原子、水酸基もしくはその保護基、オリゴヌクレオチドの製造のために導入され得る反応性基、またはヌクレオシド誘導体の自己組織化を利用する際に導入され得る原子団を表す。Rはアミノ基またはその保護基を表す。Aは上述の一般式(1)〜(3)におけるAと同義である。)
〜Rにおける保護基としては、イソブチル、tert−ブチルジメチルシリル(TBDMS)、トリイソプロピルシリルオキシメチル(TOM)およびジメトキシトリチル(DMTr)などを挙げることができる。上記反応性基としては、2−シアノエチル−N,N,N’,N’−テトライソプロピルホスホロアミダイトなどを挙げることができる。また、上記原子団の詳細は、K. Araki, I. Yoshikawa, Top. Curr. Chem., 2005, 256, 133-165.に記載されている。原子団の具体例としては、アシル鎖およびエステル鎖を挙げることができる。また、R〜Rは、2つ以上が連結して環を形成してもよい。Rにおける保護基としては、トリアゾール、ジメチルホルムアミジン、ジイソブチルホルムアミジン、アセチル基、イソブチル基、ベンゾイル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)およびtert−ブトキシカルボニル基(Boc)などを挙げることができる。
【0044】
一般式(4)で表されるウリジン誘導体のさらに具体的な態様としては、下記一般式(4−1)および(4−2)で表される化合物を挙げることができる。また、一般式(5)で表されるシチジン誘導体のさらに具体的な態様としては、下記一般式(5−1)および(5−2)で表される化合物を挙げることができる。
【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
(上記式中、Aは、上述のAと同義である。)
本発明のピリミジンヌクレオシド化合物の合成方法は特に限定されるものではないが、例えば5位の炭素原子がハロゲン化されたピリミジンヌクレオシド誘導体(以下、「ハロゲン化ヌクレオシド誘導体」ともいう)の5位ハロゲン原子を、ビニル基に置換し、ビニル基の水素をアリール基またはヘテロアリール基と置換することにより、一般式(1)で表される基が結合しているピリミジンヌクレオシド化合物を得ることができる。
【0048】
具体的には、5’−OHをDMTrで保護した5−ヨードウリジン(IDU)を、パラジウム触媒の存在下110℃でトリブチルビニルすずと反応させ、ピリミジン核の5位をビニル基に置換した5−ビニルウリジンを得る(Stilleカップリング)。次いで、得られた5−ビニルウリジンを、パラジウム触媒の存在下115℃で2−ブロモピレンと反応させることにより、ビニル基の水素をピレンと置換した5−ピレニルビニルウリジンを得ることができる(Heck反応)。
【0049】
本発明に係るピリミジンヌクレオシド化合物の合成反応の詳細は、後述の実施例を参照できる。また、反応に使用する原料および試薬は、公知の方法で合成可能であり、市販品として入手できるものもある。合成反応後、必要に応じて公知の方法で精製を行うことにより、目的物質を得ることができる。目的物質が得られたことは、NMRおよび質量分析などの同定方法によって確認できる。なお、上述のピリミジンヌクレオシド化合物は、官能基および置換基の種類によっては塩を形成する場合があり、遊離の状態または塩の状態で水和物または溶媒和物を形成することもあるが、これらの状態も本発明の範囲に含まれるものとする。
【0050】
本発明のピリミジンヌクレオシド化合物は、構造変化(異性化)を可逆的に制御することができる。また、光源のON/OFFにより構造を変化させることができ構造制御が容易である。また、適当なポリメラーゼの使用により核酸合成にも利用可能と期待される。
【0051】
塩基部分に光応答性基を導入することは、分子構造全体への影響が少ないため、核酸の機能を保持しつつ活性を制御することができると考えられる。本発明のピリミジンヌクレオシド化合物に由来する塩基を含むポリヌクレオチドは、塩基部分が修飾されているため、DNAの二重らせん構造、ならびにRNAのリボザイムおよびアプタマーなどの高次構造形成を、上記修飾の影響を受けることなく良好に行うことができる。本発明のピリミジンヌクレオシド化合物はピリミジン核の5位に光応答性基が導入されているため、ポリヌクレオチドにおいて相補鎖との水素結合を阻害することがない。また、特にB型二重らせんを制御する場合に、E体においてバックボーンとの立体障害をほとんどなくすことができる。
【0052】
本発明のピリミジンヌクレオシド化合物は同様の理由によりPCR法またはRCA法などの核酸増幅技術によって簡便にポリヌクレオチドに導入することができる。また、公知の核酸合成技術により、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物由来のヌクレオチドを用いて、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物に由来する塩基を含むポリヌクレオチドを合成することも可能である。
【0053】
〔異性化方法および光特性を変化させる方法〕
さらに本発明は、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物に光を照射することにより、該化合物を異性化する方法、および本発明のピリミジンヌクレオシド化合物に光を照射することにより、該化合物の光特性を変化させる方法に関する。
【0054】
先に説明したように、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物は、一般式(1)で表される基のエチレン性二重結合部のE−Z異性化を、可逆的に起こすことができる。本発明のピリミジンヌクレオシド化合物は、E体およびZ体何れにおいても高い安定性を有するため、光照射しない限り異性化が進行せず、光照射によって異性化(E→Z異性化およびZ→E異性化)を制御することができる。E→Z異性化は、E体に対して紫外光または可視光の光(例えば、波長350〜500nmの光)を照射することにより起こすことができる。Z→E異性化は、Z体に対して、E→Z異性化に使用する光より短波長の光(例えば波長290〜350nm)を照射することにより起こすことができる。E→Z光異性化およびZ→E光異性化何れにおいても、室温で容易に進行し得る。また、異性化のための光照射時間、使用する光源および照射光の強度等の異性化条件は、適宜設定すればよい。異性化条件については、後述の実施例も参照できる。
【0055】
本発明のピリミジンヌクレオシド化合物は、E体とZ体との間で吸収スペクトル、蛍光強度、および量子収率などの光特性が異なる。したがって、光照射による異性化により、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物の光物性を変化させることができる。さらに、光異性化は可逆的に起こすことができるため、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物へ異なる波長の光を繰り返し照射することにより、化合物の光特性を可逆的に変化させることができる。光特性を変化させるための光照射条件については、上述の通りである。
【0056】
〔熱的安定性を変化させる方法〕
さらに本発明は、本発明のポリヌクレオチドに光を照射することにより、該ポリヌクレオチドの熱的安定性を変化させる方法に関する。
【0057】
本発明のポリヌクレオチドは、上述のピリミジンヌクレオシド化合物に由来する塩基を含んでいるため、エチレン性二重結合を介して一般式(1)で表される基が結合したピリミジン核を含んでいる。そのため、このエチレン性二重結合部のE−Z異性化を、光照射により可逆的に起こすことができる。本発明のポリヌクレオチドは、E体とZ体との間で融解温度(T値)などの熱的安定性が異なる。
【0058】
したがって、光照射による異性化により、本発明のポリヌクレオチドの熱的安定性を変化させることができる。さらに、光照射による熱的安定性の変化は可逆的に起こすことができる。熱的安定性を変化させるための光照射条件については、上述のピリミジンヌクレオシド化合物を異性化させるための光照射条件と同じである。
【0059】
なお、本明細書において、ポリヌクレオチドがE体(Z体)であるとは、ポリヌクレオチド中に上述のピリミジンヌクレオシド化合物に由来する塩基を1塩基含む場合において、一般式(1)で表される基と、この基が結合しているピリミジン核との位置関係がE体(Z体)である、ポリヌクレオチドを指すものとする。また、本実施形態においては、上述のピリミジンヌクレオシド化合物に由来する塩基を1塩基含むポリヌクレオチドについて説明しているが、本発明のポリヌクレオチドに含まれる、上述のピリミジンヌクレオシド化合物に由来する塩基の数は1塩基に限定されるものではない。
【0060】
〔光スイッチング型デバイス材料〕
さらに本発明は、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物および当該ピリミジンヌクレオシド化合物由来のポリヌクレオチドの少なくとも何れか一方を含む光スイッチング型デバイス材料に関する。
【0061】
本発明の光スイッチング型デバイス材料は、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物および1種以上の上記ポリヌクレオチドの少なくとも何れかを含んで構成される。また、本発明の光スイッチング型デバイス材料は、エレクトロニックデバイスに通常使用される他の成分を含むこともできる。
【0062】
本発明において「光スイッチング型」とは、光照射により機能や構造をスイッチングすることができる性質をいう。先に説明したように、本発明のピリミジンヌクレオシド化合物は、光照射により可逆的に異性化し、構造を変化させることができ、それに伴い光特性を変えることができる。この性質を利用し、例えばE体の状態をオンまたはデジタル信号におけるビットの1とし、Z体の状態をオフまたはデジタル信号におけるビットの0とすることにより、スイッチング素子および記憶素子などのエレクトロニックデバイスを形成することができる。特に、本発明の光スイッチング型デバイス材料は、光駆動型ナノデバイスの光スイッチとして好適である。
【0063】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【0064】
なお、以下の実施例は、下記の概略スキーム1を参照して説明する。
【0065】
【化8】

【実施例】
【0066】
〔実施例1:5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−ヨード−2’−デオキシウリジンの合成〕
2.0gの5−ヨード−2’−デオキシウリジン(スキーム1中の化合物1)を2口ナス型フラスコに入れ、ピリジン(10mL)で3回共沸した。次いで減圧および窒素置換を3回繰り返し、系内を十分に窒素置換した。そこへ30mLのピリジン、および6mLのトリエチルアミンを加え、さらに、ピリジン(10mL)に溶解させた2.10gのジメトキシトリチルクロライドを、0℃でゆっくり滴下した。その後、反応溶液を室温で5時間攪拌した。反応後、エバポレーターで溶媒を除去し、次いで中圧液体クロマトグラフにより精製した。その際、展開溶媒にはクロロホルム/メタノールを使用した。目的物を含むフラクションを回収し展開溶媒を除去することにより、2.97gの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−ヨード−2’−デオキシウリジン(スキーム1中の化合物2)を白色粉末として得た。同定結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ: 8.15 (s, 1H), 7.22-7.42 (m, 11H), 6.84 (m, 4H), 6.32 (dd, J = 7.8, 6.4, 1H), 4.55 (m, 1H), 4.10 (m, 1H), 3.79 (s, 6H), 3.41 (dd, J = 10.7, 2.9, 1H), 3.36 (dd, J = 10.7, 2.9, 1H), 2.51 (ddd, J = 13.7, 5.4, 2.0, 1H), 2.29 (m, 1H). FAB MS (M+H)+Calculated: 657.12; Found: 657.14.。
【0067】
〔実施例2:5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−ビニル−2’−デオキシウリジンの合成〕
実施例1において得られた700mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−ヨード−2’−デオキシウリジンを2口ナス型フラスコに入れ、3mLのN−メチルピロリドンを加えた後、溶液をアルゴンガスで10分間バブリングした。次いで134mgのテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム、および0.62mLのトリブチルビニルすずを加え、反応溶液を110℃で1時間加熱還流した。反応後、中圧液体クロマトグラフにより精製した。その際、展開溶媒にはクロロホルム/メタノールを使用した。目的物を含むフラクションを回収し展開溶媒を除去することにより、176mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−ビニル−2’−デオキシウリジン(スキーム1中の化合物3)を白色粉末として得た。同定結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ: 9.09 (s, 1H), 7.68 (s, 1H), 7.39 (d, J = 7.3, 1H) 7.32-7.23 (m, 9H), 6.86-6.81 (m, 4H), 6.40 (t, J = 7.32, 1H), 4.93 (dd, J = 10.3, 3.4, 1H), 4.56 (s, 1H), 4.10 (d, J = 2.9, 1H), 3.45 (dd, J = 10.7, 3.4, 1H), 3.37 (dd, J = 10.7, 3.4, 1H), 2.47 (ddd, J = 13.6, 5.4, 2.9, 1H), 2.32-2.26 (m, 1H), 1.81 (s, 1H). 13C NMR (CDCl3) δ: 161.9, 158.7, 149.6, 144.2, 136.7, 136.1, 135.4, 135.3, 130.0, 128.1, 128.0, 127.5, 127.1, 123.8, 116.4, 113.3, 113.2, 112.8, 86.9, 86.2, 85.0, 77.2, 72.1, 63.4, 55.2, 41.1. FAB MS (M+H)+ Calculated: 557.23; Found: 557.19.。
【0068】
〔実施例3:5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−((E)−2−(ピレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジンの合成〕
141mgのトリフェニルフォスフィンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧および窒素置換を3回繰り返し、系内を十分に窒素置換した。そこへ10mLのDMF、48.5mgのパラジウム(II)アセテイト、および449mLのトリエチルアミンを加え、60℃で10分間攪拌した。反応溶液がワインレッドに変色するのを確認した後、DMF(5mL)に溶解させた911mgの1−ブロモピレン、およびDMF(5mL)に溶解させた実施例2において得られた1.2gの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−ビニル−2’−デオキシウリジンを順に加え、115℃で1時間加熱還流した。反応後、触媒を濾去し、濾液を中圧液体クロマトグラフにより精製した。その際、展開溶媒にはクロロホルム/メタノールを使用した。目的物を含むフラクションを回収し展開溶媒を除去することにより、1.04gの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−((E)−2−(ピレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジン(スキーム1中の化合物4)をオレンジ色のオイルとして得た。同定結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ: 9.37 (s, 1H), 8.54 (d, J = 16.1, 1H), 8.20 (d, J = 9.8, 1H), 8.12-7.58 (m, 8H), 7.51-7.08 (m, 9H), 6.68 (d, J = 8.8, 1H), 6.53 (dd, J = 7.8, 6.3, 1H), 6.35 (d, J = 16.1, 1H), 4.61 (s, 1H), 4.18 (s, 1H), 3.64-3.58 (m, 1H), 3.35 (dd, J = 10.7, 2.9, 1H), 2.61-2.56 (m, 1H), 2.47-2.40 (m, 1H). 13C NMR (CDCl3) δ: 162.6, 162.0, 158.6, 149.5, 144.2, 137.3, 135.3, 135.2, 132.1, 131.4, 130.9, 130.6, 129.9, 128.2, 128.1, 127.7, 127.3, 127.2, 127.1, 125.8, 125.0, 124.9, 124.8, 124.7, 123.5, 123.4, 123.3, 123.1, 86.9, 86.6, 85.4, 77.2, 72.5, 63.5, 54.9, 41.4, 36.5, 31.4. FAB MS (M+H)+ Calculated: 757.29; Found: 757.23.。
【0069】
〔実施例4:5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−((E)−2−(フルオレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジンの合成〕
141mgのトリフェニルフォスフィンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧および窒素置換を3回繰り返し、系内を十分に窒素置換した。そこへ10mLのDMF、48.5mgのパラジウム(II)アセテイト、および449mLのトリエチルアミンを加え、60℃で10分間攪拌した。反応溶液がワインレッドに変色するのを確認した後、DMF(5mL)に溶解させた794mgの2−ブロモフルオレン、およびDMF(5mL)に溶解させた実施例2において得られた1.2gの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−ビニル−2’−デオキシウリジンを順に加え、115℃で1時間加熱還流した。反応後、触媒を濾去し、濾液を中圧液体クロマトグラフにより精製した。その際、展開溶媒にはクロロホルム/メタノールを使用した。目的物を含むフラクションを回収し展開溶媒を除去することにより、854mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−((E)−2−(フルオレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジン(スキーム1中の化合物5)を黄色粉末として得た。同定結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ: 9.33 (s, 1H), 8.03 (s, 1H), 7.70 (d, J = 7.8, 1H), 7.11-7.53 (m, 14H), 6.90-6.96 (m, 2H), 6.77 (m, 4H), 6.49 (m, 1 H), 6.36 (d, J = 16.1, 1H), 4.57 (s, 1H), 4.15 (m, 1H), 3.59-3.69 (m, 8H), 3.31 (m, 1H), 2.54 (m, 1H), 2.39 (m, 1H), 1.85 (s, 1H). 13C NMR (CDCl3) δ: 162.1, 158.6, 149.6, 144.3 143.5, 143.2, 141.4, 141.0, 136.0, 135.8, 135.5, 135.4, 130.6, 129.9, 128.0, 127.2, 126.7, 126.5, 126.4, 125.6, 124.9, 122.7, 119.8, 119.5, 113.3, 113.1, 86.8, 86.5, 85.3, 72.4, 63.5, 55.1, 41.4, 36.6. FAB MS (M+H)+ Calculated: 757.29; Found: 757.23.。
【0070】
〔実施例5:5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−3’−O−(2−シアノエトキシ−(N,N−ジイソプロピルアミノ)−フォスフィノ)−5−((E)−2−(ピレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジンの合成〕
実施例3において得られた620mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−((E)−2−(ピレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧および窒素置換を3回繰り返し、系内を十分に窒素置換した。そこへジクロロメタンを5mL、2−シアノエチルテトライソプロピルフォスフォロジアミダイトを449mL、およびアセトニトリルに溶解した0.25Mのテトラゾールを3.95mL加え室温で1時間攪拌した。反応後、溶媒を除去し中圧液体クロマトグラフにより精製した。その際、展開溶媒にはジクロロメタン/メタノールを使用した。目的物を含むフラクションを回収し展開溶媒を除去することにより、454mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−3’−O−(2−シアノエトキシ−(N,N−ジイソプロピルアミノ)−フォスフィノ)−5−((E)−2−(ピレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジン(スキーム1中の化合物6)を黄色粉末として得た。同定結果を以下に示す。
FAB MS (M+H)+ Calculated: 957.40; Found: 957.50.。
【0071】
〔実施例6:5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−3’−O−(2−シアノエトキシ−(N,N−ジイソプロピルアミノ)−フォスフィノ)−5−((E)−2−(フルオレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジンの合成〕
実施例4において得られた620mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−5−((E)−2−(フルオレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジンを2口ナス型フラスコに入れ、減圧および窒素置換を3回繰り返し、系内を十分に窒素置換した。そこへジクロロメタンを5mL、2−シアノエチルテトライソプロピルフォスフォロジアミダイトを301mL、およびアセトニトリルに溶解した0.25Mのテトラゾールを3.79mL加え、室温で1時間攪拌した。反応後、溶媒を除去し中圧液体クロマトグラフにより精製した。その際、展開溶媒にはジクロロメタン/メタノールを使用した。目的物を含むフラクションを回収し展開溶媒を除去することにより、512mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−3’−O−(2−シアノエトキシ−(N,N−ジイソプロピルアミノ)−フォスフィノ)−5−((E)−2−(フルオレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジン(スキーム1中の化合物7)を黄色粉末として得た。同定結果を以下に示す。
FAB MS (M+H)+ Calculated: 921.40; Found: 921.12.。
【0072】
〔実施例7:5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−3’−O−(2−シアノエトキシ−(N,N−ジイソプロピルアミノ)−フォスフィノ)−4−(1,2,4−トリアゾリル)−5−((E)−2−(ピレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジンの合成〕
1.17gの1,2,4−トリアゾールを2口ナス型フラスコに入れ、減圧および窒素置換を3回繰り返し、系内を十分に窒素置換した。そこへ25mLのアセトニトリル、334mLの塩化スルホリル、および2.36mLのトリエチルアミンを加え、0℃で30分間攪拌した。次いで、アセトニトリルに溶解させた実施例5において得られた5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−3’−O−(2−シアノエトキシ−(N,N−ジイソプロピルアミノ)−フォスフィノ)−5−((E)−2−(ピレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジンを250mg加え、0℃で2時間攪拌した。反応後、溶媒を除去し中圧液体クロマトグラフにより精製した。その際、展開溶媒にはジクロロメタン/メタノールを使用した。目的物を含むフラクションを回収し展開溶媒を除去することにより、165mgの5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−3’−O−(2−シアノエトキシ−(N,N−ジイソプロピルアミノ)−フォスフィノ)−4−(1,2,4−トリアゾリル)−5−((E)−2−(ピレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジン(スキーム1中の化合物8)を黄色粉末として得た。同定結果を以下に示す。
FAB MS (M+H)+ Calculated: 1010.44; Found: 1010.63.。
【0073】
〔実施例8:光異性化反応および光特性の変化〕
5−(2−(ピレニル)ビニル)−2’−デオキシウリジン(以下、5PVUと称する)を含有する11merのオリゴヌクレオチド(5’−CAGTAXGTACG−3’)とその相補鎖(5’−CGTACATACTG−3’)(配列番号1)をそれぞれ5mMになるよう反応溶液(100mM NaCl,10mM リン酸バッファー;pH7.0)を調製し、ストックソリューションとした(図1(a))。オリゴヌクレオチド中のXは図1(b)に示す構造の塩基である。ストックソリューションから200mLを1cm角の石英セルに移し、暗所で430nmの光を室温で4分間照射し、E体からZ体へ光異性化させた。この際、光源には(株)朝日分光のMAX−302を使用し、フィルターには同社のMX0430を使用した。E体およびZ体それぞれのUV/可視光吸収スペクトルを図1に、蛍光スペクトルを図2に示す。
【0074】
図2および図3に示すように、Z体ではE体に比べ、吸収および蛍光スペクトル共にブルーシフト(短波長側にシフト)していることが分かる。これは異性化に典型的な変化である。
【0075】
〔実施例9:異性化による二本鎖の熱的安定性の変化〕
実施例8におけるストックソリューションから200mLを1cm角の石英セルに移し、暗所で430nmの光を室温で4分間照射し、E体からZ体へ光異性化させた。この際、光源には(株)朝日分光のMAX−302を使用し、フィルターには同社のMX0430を使用した。E体およびZ体それぞれの融解温度(T値)をT曲線(図3)より算出した。E体のT値は29℃、Z体のT値は22.5℃であり、その差(ΔT)は6.5℃であった。このように光異性化を利用し、二本鎖の熱的安定性をコントロールできる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、光により構造および光特性の可逆的変化を引き起こすことができるヌクレオシドを提供できるので、光により可逆的に機能を制御し得るポリヌクレオチドを製造することができる。そのため、生化学分野および医学分野などの産業において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本実施例に係るオリゴヌクレオチドを示す図であり、(a)は本発明の5PVUを含有する11merのオリゴヌクレオチドの配列、およびその相補鎖の配列を示しており、(b)は(a)中のXで表されている5PVUの構造を示している。
【図2】本実施例に係るオリゴヌクレオチドのUV/可視光吸収スペクトルを示す図である。
【図3】本実施例に係るオリゴヌクレオチドの蛍光スペクトルを示す図である。
【図4】本実施例に係るオリゴヌクレオチドのT曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリミジン核の5位の炭素原子に、下記一般式(1)で表される基が結合しているピリミジンヌクレオシド化合物。
【化1】

(一般式(1)中、Aはアリール基またはヘテロアリール基を表し、該アリール基および該ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、*1は上記ピリミジン核の5位の炭素原子との結合位置を表す。)
【請求項2】
ウリジン誘導体であることを特徴とする請求項1に記載のピリミジンヌクレオシド化合物。
【請求項3】
上記Aは環構成原子数10〜20のアリール基またはヘテロアリール基であることを特徴とする請求項1または2に記載のピリミジンヌクレオシド化合物。
【請求項4】
上記Aがピレニル基または9H−フルオレニル基であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のピリミジンヌクレオシド化合物。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のピリミジンヌクレオシド化合物に光を照射することにより、該ピリミジンヌクレオシド化合物を異性化する方法。
【請求項6】
請求項1から4の何れか1項に記載のピリミジンヌクレオシド化合物に光を照射することにより、該ピリミジンヌクレオシド化合物の光特性を変化させる方法。
【請求項7】
請求項1から4の何れか1項に記載のピリミジンヌクレオシド化合物に由来する塩基を含むポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドに光を照射することにより、該ポリヌクレオチドの熱的安定性を変化させる方法。
【請求項9】
請求項1から4の何れか1項に記載のピリミジンヌクレオシド化合物および請求項7に記載のポリヌクレオチドの少なくとも何れか一方を含む光スイッチング型デバイス材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−59116(P2010−59116A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228013(P2008−228013)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】