説明

ピロリジン置換フラボンのエナンチオ選択的合成

本発明は、サイクリン依存性キナーゼの阻害剤であり、癌のような増殖障害の治療のために用いることができる、式1
【化1】


(式中、Arは請求項に示されるような意味を有する)によって表わされる、フラボンで置換されたピロリジンの(+)−トランスエナンチオマーまたはその塩のエナンチオ選択的合成に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクリン依存性キナーゼの阻害剤であり、癌のような増殖障害の治療のために用いることができる式1またはその塩の化合物によって表わされる、フラボンで置換されたピロリジンの(+)−トランスエナンチオマーのエナンチオ選択的合成に関する。
【背景技術】
【0002】
サイクリン依存性キナーゼ(Cdk)は細胞周期進行の制御のための必須酵素である。サイクリン依存性キナーゼの阻害剤は、様々な増殖性疾患(特に癌)に対する治療上の有用性を有すると予想される。この結果として、CDKは創薬のための標的とされ、CDKの多数の低分子阻害剤が同定および研究されてきた。
【0003】
以下の一般式1;
【0004】
【化1】

【0005】
(式中、Arは、発明の詳細な説明において定義される)によって表わされるCDK/サイクリン複合体の阻害剤は、PCT特許出願第PCT/IB2006/052002号において記載されており、参照することにより本明細書に組み入れられる。これらの化合物は、様々な増殖細胞株に対する優れた選択性および細胞傷害性を示す。前述の特許出願に開示される新規化合物は、2つのキラル中心を有しており、従って4つのエナンチオマー(すなわち、(+)−トランス、(−)−トランス、(+)−シスおよび(−)−シス)として存在することができる。これまでに開発された薬剤のうち80%を超える薬剤がキラル特性を有するという事実によって証明されるように、キラリティーの医薬品工業に対する重要性は増加している。様々なエナンチオマーは、生体中で全く異なる効果を発揮する可能性があり、そのため、投与された2つまたは複数のエナンチオマー形態のうちの1つのみが有効であるかもしれない。式1の化合物の場合において、(−)−トランスエナンチオマーは不活性であり、一方(+)−トランスエナンチオマーにのみに活性があることが観察された。式1のラセミ化合物およびそれらの個別のエナンチオマーの有効性の本発明者による広範囲な研究は、本出願人によるPCT特許出願第PCT/IB2006/052002号をもたらした。式1によって表わされる化合物の任意のものの活性のある(+)−トランスエナンチオマー(その他の異性体は実質的に存在しない)の投与は、本質的には薬物の用量の減少を可能にするだろう。サイクリン依存性キナーゼの阻害剤として式1によって表わされる化合物の(+)−トランスエナンチオマーの重要性のために、これらの産生のための経済的かつ効率的な合成法を開発させる必要性がある。
【0006】
出願人によるPCT特許出願第PCT/IB2006/052002号は、以下の式1;
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、Arは発明の詳細な説明において定義される)によって表わされる、フラボンで置換されたピロリジンの(+)−トランスエナンチオマーの調製方法を記述する。PCT特許出願第PCT/IB2006/052002号に記載の方法は、中間体化合物の分割、および分割された中間体化合物の式1によって表わされる化合物への続いて行なわれる変換を含む。例えば、(+)−トランス−2−(2−クロロフェニル)−5,7−ジヒドロキシ−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−クロメン−4−オンは、中間体(すなわち(±)−トランス−[1−メチル−3−(2,4,6−トリメトキシ−フェニル)−ピロリジン−2−イル]メタノール)の分割、および中間体の(−)−トランス異性体の(+)−トランス−2−(2−クロロフェニル)−5,7−ジヒドロキシ−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−クロメン−4−オンへの続いて行なわれる変換によって調製された。中間体の(−)−トランス−異性体の調製は、対応する(+)−および(−)−トランスジアステレオマー塩を得るためにキラル補助基によりそのラセミ化合物を処理する工程、続いて結晶化によって所望のジアステレオマー塩を分離する工程、およびこれを塩基により処理し、所望の(−)−トランスエナンチオマーを産出する工程を含む。この分割法は重要な処理を含み、さらに分割剤の使用により費用がかかる方法となる。分割剤の部分的な再利用は実行可能であるが、追加の処理を必要とし、廃棄物生成もまた伴うので、そのような再利用には費用がかかる。所望されないエナンチオマーは再利用することができず廃棄される。得られた鍵となる中間体の最大の理論的収量は、ラセミ化合物の半分の損失のために、実験室規模の合成においてはわずか50%である。高キラル純度(>95%エナンチオマー過剰率)が必要であると、この収率はさらに減少するかもしれない。したがって、効率的かつより特異的に所望の(+)−トランスエナンチオマーを提供する、代替の不斉合成を開発する明らかな必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、式1によって表わされる化合物の(+)−トランスエナンチオマーの調製に対する別法(エナンチオ選択的方法)を提供することを目的とする。本発明の方法は従来の分割技術の欠点の克服によって効率的な大規模合成を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、式1;
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、Arは発明の詳細な説明において定義される)によって表わされる化合物の(+)−トランスエナンチオマーのエナンチオ選択的合成のための新規方法を提供する。
【0013】
本発明の方法は、式1の化合物のキラル前駆体である、以下の式A;
【0014】
【化4】

【0015】
の化合物のエナンチオ選択的合成もまた含んでいる。
【0016】
本発明の方法は、前述の方法の欠点を回避する、式1の化合物の(+)−トランスエナンチオマーのエナンチオ選択的合成を提供する。
【0017】
この方法において中間体はすべて結晶状であり、精製をそれ以上必要としないので、本発明の方法は費用および時間の点からもまた付加的な長所を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、具体的には式1;
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、Arはフェニルであり、無置換、またはハロゲン、ニトロ、シアノ、C−C−アルキル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ヒドロキシル、C−C−アルコキシ、カルボキシ、C−C−アルコキシカルボニル、C−C−アルキレンヒドロキシル、CONH、CONR、SONR、シクロアルキル、NRおよびSRから選択される、1、2または3個の同一または異なる置換基によって置換され;
ここで、RおよびRは各々、水素、C−C−アルキル、C−C−アルキルカルボニルおよびアリールから独立して選択されるか、またはRおよびRは、それらが結合される窒素原子と共に、任意で少なくとも1つの追加ヘテロ原子を含んでもよい5員環または6員環を形成し;
は、水素、C−C−アルキル、アリールおよびSRから選択され、ここでRは、C−C−アルキルまたはアリールである)によって表わされる化合物の(+)−トランスエナンチオマーのエナンチオ選択的合成方法に関する。
【0021】
本開示の目的で、本発明の化合物について記述するために用いられる様々な用語の定義を下記に示す。これらの定義は、個別にまたはより大きな基の一部として用いられている場合も、明細書全体にわたって、それら用語に適用されている(特定の場合に特に限定される場合を除いて)。それらは文字どおりの意味で解釈されるべきでない。それらは一般的な定義でなく、本出願のためにのみ関連する。
【0022】
用語「アルキル」は、直鎖アルキル基および分枝鎖アルキル基を含む、飽和脂肪族基のラジカルを指す。更に、特に明記しない限り、用語「アルキル」は、1つまたは複数の異なる置換基によって置換されるアルキル基と同様に無置換アルキル基も含んでいる。1〜20の炭素原子を含むアルキル残基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシルおよびエイコシル、これらすべての残基のn−異性体、イソプロピル、イソブチル、1−メチルブチル、イソペンチル、ネオペンチル、2,2−ジメチルブチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、イソヘキシル、2,3,4−トリメチルヘキシル、イソデシル、sec−ブチル、またはt−ブチルなどが挙げられる。
【0023】
用語「シクロアルキル」は、無置換、または1つまたは複数の異なる置換基によって置換されてもよい約3〜7個の炭素原子の非芳香族の単環式環系または多環式環系を指す。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。
【0024】
本明細書において用いられるような用語「アルコキシ」は、それに結合する酸素ラジカルを有する、上で定義されたようなアルキル基を指す。代表的なアルコキシル基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、t−ブトキシなどが挙げられる。
【0025】
用語「ハロゲン」は塩素、臭素、フッ素およびヨウ素を指す。
【0026】
用語「ヘテロ原子」は窒素、酸素、硫黄およびリンを指す。
【0027】
用語「エナンチオマー過剰率」は、生成物混合物中に存在する1つのエナンチオマーの量と他のエナンチオマーの量の間の差を指す。したがって、例えば、96%のエナンチオマー過剰率は、98%の1つのエナンチオマーおよび2%の他のエナンチオマーを有する生成物混合物を指す。
【0028】
立体化学が構造で示される場合、それは、絶対配置よりもむしろ相対配置を表わす。
【0029】
本発明の1つの実施形態では、以下の式Aによって表わされる化合物、(−)−トランス−(1−メチル−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−イル)メタノール;
【0030】
【化6】

【0031】
(以下、化合物Aと呼ぶ)、またはその薬学的に許容される塩のエナンチオ選択的合成方法が提供され、この方法は、
(a)錯体触媒、塩基およびモレキュラーシーブの存在下の溶媒中で、(E)−メチル−2−ニトロ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)アクリレートへのマロン酸ジメチルの立体選択的マイケル付加を行って(ここで、錯体触媒はキラルビス(オキサゾリン)配位子および金属錯体を含む)、以下の式B;
【0032】
【化7】

【0033】
(以下、化合物Bと呼ぶ)によって表わされる、(+)−トリメチル3−ニトロ−2−(2,4,6−トリメトキシフェニル)プロパン−1,1,3−トリカルボキシラートを得る工程と;
(b)適切な溶媒中にて、工程(a)において得られるような化合物Bを還元剤で処理し、以下の式C;
【0034】
【化8】

【0035】
(以下、化合物Cと呼ぶ)によって表わされる、(+)−ジメチル5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)−ピロリジン−2,4−ジカルボキシラートを得る工程と;
(c)溶媒中にて化合物Cを塩化ナトリウムで処理し、結果として生じる反応混合物を120〜170℃の範囲内の温度まで熱して、以下の式D;
【0036】
【化9】

【0037】
(以下、化合物Dと呼ぶ)によって表わされる、シスおよびトランスの異性体の混合物としての(+)−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラートを得る工程と;
(d)溶媒中でメチル化剤ならびにアルカリ金属水素化物およびアルカリ金属炭酸塩から選択される塩基と化合物Dとを反応させ、続いて結果として生じるシスおよびトランスの化合物の混合物を、50〜100℃の範囲内の温度まで加熱しながら、アルコール中のアルカリ金属水酸化物によりアルカリ加水分解し、単一トランス異性体として以下の式E;
【0038】
【化10】

【0039】
(以下、化合物Eと呼ぶ)によって表わされる、(−)−トランス−1−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)−ピロリジン−2−カルボン酸を得る工程と;
(e)溶媒中にて、還元剤で化合物Eを処理し、式Aによって表わされる所望の(−)−トランス−(1−メチル−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−イル)−メタノールを得る工程とを含む。
【0040】
1つの実施形態において、本発明は、式1によって表わされる化合物の調製のための、記述された新規方法によって得られるような化合物Aの使用を提供する。
【0041】
本発明の別の実施形態に従って、式1;
【0042】
【化11】

【0043】
(式中、Arはフェニルであり、無置換、またはハロゲン、ニトロ、シアノ、C−C−アルキル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ヒドロキシル、C−Cアルコキシ、カルボキシ、C−Cアルコキシカルボニル、C−Cアルキレンヒドロキシル、CONH、CONR、SONR、シクロアルキル、NRおよびSRから選択される、1、2または3個の同一または異なる置換基によって置換され;
ここで、RおよびRは各々、水素、C−C−アルキル、C−C−アルキルカルボニルおよびアリールから独立して選択されるか、またはRおよびRは、それらが結合される窒素原子と共に、任意で少なくとも1つの追加ヘテロ原子を含んでもよい5員環または6員環を形成し;
は、水素、C−C−アルキル、アリールおよびSRから選択され、ここでRは、C−C−アルキルまたはアリールである)
によって表わされる化合物の(+)−トランスエナンチオマー;またはその薬学的に許容される塩の調製方法が提供され;この方法は、
(i)触媒の存在下において無水酢酸を化合物A(上記)で処理し、以下の式F;
【0044】
【化12】

【0045】
(以下、化合物Fと呼ぶ)によって表わされる、(−)−トランス−酢酸3−(3−アセチル−2−ヒドロキシ−4,6−ジメトキシ−フェニル)−1−メチル−ピロリジン−2−イルメチルエステルを得ることと;
(ii)アルカリ水溶液で化合物Fを処理し、反応混合物の温度を約50℃まで上昇させて、以下の式G;
【0046】
【化13】

【0047】
(以下、化合物Gと呼ぶ)によって表わされる、(−)−トランス−1−[2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−4,6−ジメトキシ−フェニル]−エタノンを得ることと;
(iii)化合物Gを、窒素雰囲気下で塩基および適切な溶媒の存在下において、式ArCOOCH(式中、Arは式1において定義されるようなものである)のエステルと反応させ、続いて酸触媒環化を行って、以下の式2;
【0048】
【化14】

【0049】
(以下、化合物2と呼ぶ)によって表わされるジメトキシ化合物を生じさせることと;
(iv)120〜180℃の範囲内の温度で脱メチル化剤と共に熱することによって、化合物2を脱メチル化し、式1によって表わされる化合物の所望の(+)−トランスエナンチオマーを得ることとを含む。
【0050】
最も好ましい実施形態において、本発明は、一般式1の化合物においてAr基が塩素で置換されたフェニルを表わす場合には、式1A;
【0051】
【化15】

【0052】
(以下、化合物1Aと呼ぶ)によって以下に表わされる(+)−トランス−2−(2−クロロ−フェニル)−5,7−ジヒドロキシ−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−クロメン−4−オンのエナンチオ選択的合成方法を提供し、この方法は、
(i)化合物Aを触媒の存在下において無水酢酸で処理し、以下の式F;
【0053】
【化16】

【0054】
(以下、化合物Fと呼ぶ)によって表わされる、(−)−トランス−酢酸3−(3−アセチル−2−ヒドロキシ−4,6−ジメトキシ−フェニル)−1−メチル−ピロリジン−2−イルメチルエステルを得ることと;
(ii)アルカリ水溶液により化合物Fを処理し、反応混合物の温度を約50℃まで上昇させて、以下の式G;
【0055】
【化17】

【0056】
(以下、化合物Gと呼ぶ)によって表わされる、(−)−トランス−1−[2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−4,6−ジメトキシ−フェニル]−エタノンを得ることと;
(iii)化合物Gを、窒素雰囲気下で塩基および適切な溶媒の存在下において、メチル2−クロロベンゾエートと反応させ、続いて酸触媒環化を行い、以下の式2A;
【0057】
【化18】

【0058】
(以下、化合物2Aと呼ぶ)によって表わされる、(+)−トランス−2−(2−クロロフェニル)−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−5,7−ジメトキシ−クロメン−4−オンを生じさせることと;
(iv)120〜180℃の範囲内の温度でピリジン塩酸塩と共に熱することによって化合物2Aを脱メチル化し、化合物1Aを得ることと;
(v)任意で、化合物1Aを、従来の手段によって、その塩酸塩((+)−トランス−2−(2−クロロフェニル)−5,7−ジヒドロキシ−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−クロメン−4−オン塩酸塩)のような、その薬学的に許容される塩に変換することとを含む。
【0059】
工程(a)において用いられる化合物(E)−メチル−2−ニトロ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)アクリレートは、酢酸アンモニウムおよび硫酸マグネシウムの存在下において、2,4,6−トリメトキシベンズアルデヒドとニトロ酢酸メチルとの間の反応によって調製されてもよい。化合物、2,4,6−トリメトキシベンズアルデヒドは、塩化ホスホリルおよびN,N−ジメチルホルムアミドとの反応によって2,4,6−トリメトキシベンゼンから従来の方法によって調製することができる。化合物ニトロ酢酸メチルは、従来の方法(例えば塩基(例えば水酸化カリウム)と共に160℃でニトロメタンの加熱、続いて硫酸およびメタノールによる15℃での処理)によってニトロメタンから調製することができる。
【0060】
上述の工程(a)において用いられる錯体触媒は、キラルビス(オキサゾリン)配位子および金属錯体を含む。触媒的不斉合成におけるキラルビス(オキサゾリン)配位子の使用は、広く報告されている。(ゴッシュ(Ghosh),A.K.;マチバナン(Mathivanan),P.;カピエロ(Cappiello),J.Tetrahedron);Asymmetry 1998,9,1−45)。本発明によれば、好ましいキラルビス(オキサゾリン)配位子は、(3aS,3a’S,8aR,8a’R)−2,2’(シクロプロパン−1,1−ジイル)ビス(8,8a−ジヒドロ−3aH−インデノ[1,2d]オキサゾール)であり、これは、J.Am.Chem.Soc.2002,124(44),13097−13105において報告される方法の通り調製することができ、参照により本明細書に援用する。反応は、わずか4〜6mol%キラルビス(オキサゾリン)配位子を用いて行なうことができる。
【0061】
錯体触媒の提供のために適切な金属錯体は、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸ランタン、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル、臭化マグネシウム、臭化銅、臭化亜鉛、臭化ニッケル、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛、ヨウ化ニッケル、マグネシウムアセチルアセトネート、銅アセチルアセトネート、亜鉛アセチルアセトネートおよびニッケルアセチルアセトネートを含んでいる。本発明によれば、好ましい金属錯体はトリフルオロメタンスルホン酸マグネシウムである。
【0062】
工程(a)において用いられる塩基は、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、2,6−ルチジン、N−メチルモルホリン、N−エチルピペリジン、イミダゾールおよび5,6−ジメチルベンズイミダゾールから選択されてもよい。好ましくは、N−メチルモルホリンが塩基として用いられる。
【0063】
工程(b)において用いられるような還元剤は、塩化第一スズまたはラネーニッケルであってもよい。塩化第一スズが還元剤として用いられる場合、化合物Cは単一異性体として得られる。ラネーニッケルが還元剤として用いられる場合、H NMRによって示されるように、化合物Cは異性体の混合物として得られる。異性体を分離するために、異性体の混合物の少量のサンプルをカラムクロマトグラフイーによって精製すると、異性体のうちの1つは、還元剤として塩化第一スズを用いて得られる単一異性体と同一であることが確認できる。工程(b)において用いられる溶媒は、好ましくは、酢酸エチル、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミドおよびテトラヒドロフランのような非プロトン性溶媒である。還元が塩化第一スズで行われる場合、用いられる溶媒は好ましくは酢酸エチルであり、還元がラネーニッケルで行われる場合、用いられる溶媒は、好ましくは、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびN,N−ジメチルホルムアミドから選択される。
【0064】
脱炭酸工程(c)において用いられる溶媒は、好ましくは、N−メチルピロリドンおよびジメチルスルホキシドのような極性非プロトン性溶媒である。
【0065】
工程(d)において用いられるメチル化剤は、ヨウ化メチルまたは硫酸ジメチルであってもよい。工程(d)において用いられる溶媒は、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランおよびジオキサンから選択される、極性非プロトン性溶媒である。アルカリ金属炭酸塩は、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムであってもよい。アルカリ金属水素化物は、水素化ナトリウムであってもよい。アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであってもよい。用いられるアルコールは、好ましくは、非環式アルコールである。より好ましくは、アルコールは、エタノール、メタノールおよびイソプロパノールから選択される。
【0066】
工程(e)において用いられる還元剤は、好ましくは水素化物であり、より好ましくは、水素化物は、水素化アルミニウムリチウム、ジイソブチル水素化アルミニウムおよび水素化ホウ素ナトリウムから選択される。還元工程において用いられる溶媒は、好ましくは、エーテルである。より好ましくは、溶媒は、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびジエチルエーテルから選択される。
【0067】
式Aの中間体化合物からの式1の化合物の調製方法において、工程(i)において用いられる触媒は、ルイス酸およびポリリン酸から選択されてもよい。ルイス酸触媒は、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素および三臭化ホウ素から選択されてもよい。最も好ましいルイス酸触媒は、三フッ化ホウ素である。
【0068】
工程(ii)において用いられるアルカリは、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであってもよい。
【0069】
工程(iii)において用いられる塩基は、水素化ナトリウム、n−ブチルリチウム、リチウムヘキサメチルジシラジドおよびリチウムジイソプロピルアミドから選択されてもよい。用いられる塩基には、水素化ナトリウムが好ましい。工程(iii)において用いられる溶媒は、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミドおよびジオキサンから選択されてもよい。用いられる溶媒は、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミドである。
【0070】
工程(iv)において用いられる脱メチル化剤は、ピリジン塩酸塩、三臭化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラートおよび三塩化アルミニウムから選択されてもよい。好ましい脱メチル化剤は、ピリジン塩酸塩である。
【0071】
したがって、本発明の方法によると、式Aの化合物は、99%ee(エナンチオマー過剰率)より高いキラル純度の式1の化合物をもたらす97%eeより高いキラル純度で得られる。
【0072】
本発明の新規方法によって得られた式1の化合物は、任意でそれらの対応する薬学的または毒物学的に許容される塩、特にそれらの薬学的に利用可能な塩へ変換されてもよい。
【0073】
1つまたは複数の塩基性基(すなわちプロトン化されうる基)を含む、式1の化合物は、非毒性の無機酸または有機酸と共にそれらの付加塩の形態で本発明に従って用いることができる。適切な無機酸の例としては、ホウ酸、過塩素酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸、および当業者に公知の他の無機酸などが挙げられる。適切な有機酸の例としては、酢酸、グルコン酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸、ケトグルタル酸、ベンゼンスルホン酸、グリセロリン酸、および当業者に公知の他の有機酸などが挙げられる。酸性基を含む式1の化合物は、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩のようなアルカリ金属塩として、本発明に従って用いることができる。本発明の薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、被験化合物(塩基性部分および酸性部分を含んでいる)から合成することができる。一般に、塩は、適切な溶媒または分散媒中で、所望の塩を形成する無機または有機の酸または塩基の化学量論的な量または過剰量に、遊離塩基または遊離酸を接触させることによって、または他の塩との陰イオン交換もしくは陽イオン交換によって、調製される。適切な溶媒は、例えば、酢酸エチル、エーテル、アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサンまたはこれらの溶媒の混合物である。
【0074】
本発明の様々な実施形態のキラリティーに影響しない反応条件の変更は、本明細書において開示された本発明内に含まれることが理解される。したがって、以下の実施例は、本発明を説明するが、限定しないことが意図される。
【実施例1】
【0075】
(E)−メチル−2−ニトロ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)アクリレート
2,4,6−トリメトキシベンズアルデヒド(20.75g、0.105mol)をジクロロメタン(300mL)中で溶解し、この溶液に、硫酸マグネシウム(15g、0.124mol)および酢酸アンモニウム(10g、0.129mol)およびニトロ酢酸メチル(12.60g、0.105mol)を加えて2時間室温で撹拌した。2時間の終了時に、水(300mL)を反応生成量まで加え、有機層を分離し、水層をジクロロメタン(2×100mL)により抽出した。有機層を組み合わせ、減圧下で濃縮して固体を得て、この固体をメタノール(100mL)から結晶化した。
【0076】
収率:22g(66.82%)
H NMR(CDCl):δ8.37(s,1H),6.08(s,2H),3.86(s,3H),3.84(s,3H),3.82(s,6H).
MS(ES+):298(M+1)
【実施例2】
【0077】
(+)−トリメチル3−ニトロ−2−(2,4,6−トリメトキシフェニル)プロパン−1,1,3−トリカルボキシラート
窒素下で維持された二首の500mL丸底フラスコ中で、クロロホルム(10mL)、マグネシウムトリフラート(0.161g、0.5mmol)および水(0.036mL、2.0 mmol)を加えた。この撹拌された溶液に、(3aS,3a’S,8aR,8a’R)−2,2’(シクロプロパン−1,1−ジイル)ビス(8,8a−ジヒドロ−3aH−インデノ[1,2d]オキサゾール)(ビス(オキサゾリン))(0.196g,0.55mmol)を加え、反応混合物を1時間撹拌した。1時間の終了時に、クロロホルム(30mL)およびモレキュラーシーブ(2g)を加え、その混合物をさらに90分間撹拌した。(E)−メチル−2−ニトロ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)アクリレート(3.1g、0.01mol)、マロン酸ジメチル(1.92g、0.014mol)およびN−メチルモルホリン(0.06g、0.6 mmol)を加え、反応混合物を12時間撹拌し、続いて40℃で4時間加熱した。石油エーテル(15mL)を反応混合物へ加え、10分間撹拌し、その混合物をろ過した。モレキュラーシーブをメチル−t−ブチルエーテルにより洗浄し、組み合わせた有機層を、5%リン酸(10mL)およびブライン(15mL)により洗浄した。有機層を減圧下で濃縮し、油脂を生じさせた。油脂をメタノール(10mL)中に溶解させ、白色冷却し、濾過して、結晶性固体を生じさせた。
【0078】
収率:2.9g(67.82%)
H NMR(CDCl):δ6.05(br.s,1H),6.03(br.s,1H),6.0(d,1H,12.0Hz), 5.24 (dd,1H,9.0Hz,12.0Hz),4.26 (d,1H,9.0Hz),3.83(s,6H),3.77(s,3H),3.76(s,3H),3.72(s,3H),3.4(s,3H).
MS(ES+):430(M+1)
【実施例3】
【0079】
(+)−ジメチル5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2,4−ジカルボキシラート
方法1:
(+)−トリメチル3−ニトロ−2−(2,4,6−トリメトキシフェニル)プロパン−1,1,3−トリカルボキシラート(7.8g、0.018mol)を酢酸エチル(100mL)中に溶解させた。この溶液に、塩化第一スズ二水和物(25g、0.118mol)を、撹拌下で10分間にわたって小分けにして加えた。反応混合物を55℃まで2時間加熱した。その混合物を10℃まで冷却し、10%水酸化ナトリウム溶液によりpH9まで塩基性化し、セライトパッドを介して濾過し、パッドを酢酸エチル(50mL)により洗浄した。水層を酢酸エチル(2×100mL)により抽出した。有機層を組み合わせ、無水硫酸ナトリウムの上で乾燥させ、減圧下で濃縮して、白色固形物として表題化合物を生じさせた。
【0080】
収率:4.5g(67.44%)
H NMR(CDCl):δ6.06(br.s,2H),6.00(br.s,1H),4.98(dd,1H),4.59(d,1H),3.96(d,1H),3.79(s,3H),3.76(s,9H),3.35(s,3H).
MS(ES+):368(M+1)
【0081】
方法2
1L圧力反応装置へ、テトラヒドロフラン(100mL)およびラネーニッケル(20g)を加え、続いてテトラヒドロフラン(300mL)中の(+)−トリメチル3−ニトロ−2−(2,4,6−トリメトキシフェニル)プロパン−1,1,3−トリカルボキシラート(32g、0.074mol)溶液を加えた。撹拌下で、反応装置を窒素により3回、続いて水素によりパージした。反応混合物を80psiの水素圧力下で一晩撹拌した。反応の終了時に、ラネーニッケルをろ過して除去し、窒素下でテトラヒドロフラン(150mL)により洗浄した。有機層を減圧下で濃縮して、白色固形物を産出させた。H NMRにより、異性体の混合物の存在が示された。シスおよびトランスの異性体の混合物が、25g(91.32%)の収率で得られた。クロロホルム中の5%のメタノールを溶出剤として用いたカラムクロマトグラフイーによって、反応混合物の一部を精製して異性体を分離させ、分離された異性体のうちの1つを、H NMR、質量スペクトルおよびHPLCによって確認すると、塩化第一スズを用いた還元によって得られた異性体と同一であることが分かった。
【0082】
H NMR(CDCl):δ6.06(br.s,2H),6.00(br.s,1H),4.98(dd,1H),4.59(d,1H),3.96(d,1H),3.79(s,3H),3.76(s,9H),3.35(s,3H).
MS(ES+):368(M+1)
【実施例4】
【0083】
(+)−メチル5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラート
(+)−ジメチル5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2,4−ジカルボキシラート(4.0g、0.0109mol)を、N−メチルピロリドン(15mL)中に溶解させた。塩化ナトリウム(0.631g、0.0109mol)および水(0.196mL、0.0109mol)を加え、反応混合物を5時間170℃まで加熱した。反応混合物を氷(50g)上に注ぎ、固体を濾過し、乾燥させた。
【0084】
収率:1.5g(44.5%)
【0085】
産物は、H NMRで分かるように、シスおよびトランスの異性体の混合物であった。異性体の混合物は、分離することなくさらなる反応のために用いられた。シスおよびトランスの異性体のスペクトル特性評価のために、カラムクロマトグラフイー(クロロホルム中の5%メタノール)によって、少量の混合物を精製した。
【0086】
(+)−シス−メチル5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラート
H NMR(CDCl):δ6.08(s,2H),5.89(br.s,1H),4.62(m,1H),4.48(d,1H,9.6Hz),3.79(s,3H),3.76(s,6H),3.34(s,3H),2.74(dd,1H),2.60(dd,1H).
MS(ES+):310(M+1)
【0087】
(+)−トランス−メチル5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラート
H NMR(CDCl):δ6.15(s,2H),5.87(br.s,1H),4.42(d,1H,7.5Hz),4.26(m,1H),3.82(s,3H),3.81(s,6H),3.68(s,3H),2.76(dd,1H),2.53(dd,1H).
MS(ES+):310(M+1)
【実施例5】
【0088】
(+)−メチル−1−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラート
(+)−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラート(1.7g、0.0055mol)を、N,N−ジメチルホルムアミド(15mL)中に溶解させ、溶液を0℃まで冷却した。水素化ナトリウム(0.134g、0.0056mmol)を、10分間にわたって小分けにして加え、0℃でさらに20分間撹拌した。ヨウ化メチル(0.514mL、0.0082mol)を一滴づつ加え、反応を1時間で室温まで温めた。反応混合物を、砕いた氷(20g)と1:1塩酸溶液(5mL)の混合物上にゆっくり注いだ。混合物を酢酸エチル(2×50mL)により抽出し、ブラインにより洗浄し、無水硫酸ナトリウムの上で乾燥させ、減圧下で濃縮して油脂を産出させた。石油エーテルで油脂をこね、結果として生じる固体を濾過した。
【0089】
収率:1.7g(96.04%)
【0090】
産物は、H NMRで分かるように、シスおよびトランスの異性体の混合物であった。異性体の混合物は、分離することなくさらなる反応のために用いられた。シスおよびトランスの異性体のスペクトル特性評価のために、カラムクロマトグラフイー(クロロホルム中の5%メタノール)によって、少量の混合物を精製した。
【0091】
(+)−シス−メチル1−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラート
H NMR(CDCl):δ6.07(s,2H),4.44(dd,1H),4.27(d,1H,9.6Hz),3.79(s,3H),3.74(s,6H),3.38(s,3H),3.20(dd,1H),2.90(s,3H),2.45(dd,1H)
MS(ES+):324(M+1)
【0092】
(+)−トランス−メチル−1−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラート
H NMR(CDCl):δ6.12(s,2H),4.13(d,1H,6.3Hz),4.05(dd,1H),3.80(s,3H),3.76(s,6H),3.70(s,3H),2.88(s,3H),2.64(m,2H).
MS(ES+):324(M+1)
【実施例6】
【0093】
(−)−トランス−1−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボン酸
メチル−1−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラート(1.6g、0.0049mol)のシスおよびトランスの異性体の混合物を、メタノール(15mL)中に溶解させた。これに水(4mL)中の水酸化カリウム(0.96g、0.017mol)溶液を加え、反応混合物を65℃で3時間加熱した。メタノールを減圧下で除去し、15mLの水を加え、混合物を1:1塩酸溶液によりpH2まで酸性化した。結果として生じる固体を濾過し、水により洗浄し、乾燥させた。
【0094】
収率:0.94g(61.44%)
H NMR(CDCl):δ6.13(s,2H),4.16(m,2H),3.80(S,3H),3.77(S,6H),2.93(S,3H),2.74(m,1H),2.62(m,1H).
MS(ES+);310(M+1)
[α]25:−37.83°(c=0.518,MeOH)
【実施例7】
【0095】
(−)−トランス−(1−メチル−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−イル)メタノール
水素化アルミニウムリチウム(0.304g、0.008mol)を、窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン(40mL)中で撹拌した。(−)−トランス−1−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボン酸(1.0g、0.032mol)を小分けにして加え、反応混合物を50℃で加熱して90分間撹拌した。反応混合物を10℃まで冷却し、撹拌下で水(2.5mL)および15%水酸化ナトリウム溶液(0.6mL)により希釈した。固体を濾過し、酢酸エチル(10mL)により洗浄した。有機層を組み合わせ、減圧下で濃縮して、白色固形物を生じさせた。
【0096】
収率:0.91g(100%)
H NMR(CDCl):δ6.16(s,2H),3.98(m,1H),3.64(s,9H),3.62(dd,1H),3.43(d,1H),3.21(m,1H),2.78(m,1H),2.63(m,1H),2.44(s,3H),2.04(m,2H)
MS(ES+):282(M+1)
[α]25:−20°(c=0.2,MeOH)
【実施例8】
【0097】
(−)−トランス−酢酸3−(3−アセチル−2−ヒドロキシ−4,6−ジメトキシ−フェニル)−1−メチル−ピロリジン−2−イルメチルエステル
三フッ化ホウ素ジエチルエーテル(25.2g、0.178mol)を、窒素雰囲気下の0℃で、無水酢酸(18g、0.178mol)中の(−)−トランス−(1−メチル−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−イル)メタノール(10g、0.0356mol)の溶液へ撹拌しながら一滴づつ加えた。反応混合物を2時間室温で撹拌した。それを砕いた氷(1kg)の上に注ぎ、飽和炭酸ナトリウム水溶液を用いて塩基性化し、酢酸エチル(3×200mL)を用いて抽出した。有機抽出物をブラインにより洗浄し、乾燥させ(無水硫酸ナトリウム)、濃縮して、表題化合物を得た。
【0098】
収率:10g(80%)
H NMR(CDCl3,):δ14.20(s,1H),5.96(s,1H),4.10(d,2H),3.90(s,3H),3.89(s,3H),3.85(m,1H),3.26(m,1H),2.82(m,1H),2.74(m,1H),2.66(s,3H),2.52(s,3H),2.21(m,2H),2.10(s,3H).
【実施例9】
【0099】
(−)−トランス−1−[2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−4,6−ジメトキシ−フェニル]−エタノン
メタノール(25mL)中の(−)−トランス−酢酸−3−(3−アセチル−2−ヒドロキシ−4,6−ジメトキシ−フェニル)−1−メチル−ピロリジン−2−イルメチルエステル)(10g、0.0284mol)の溶液に、10%水酸化ナトリウム水溶液(25mL)溶液を撹拌しながら室温で加えた。反応混合物の温度を45分間50℃まで上昇させ、室温まで冷却し、1:1塩酸溶液を用いて酸性化し、濃縮してメタノールを除去した。これを飽和水溶性の炭酸ナトリウム溶液を用いて塩基性化した。沈殿した化合物を濾過し、水により洗浄し、乾燥した。
【0100】
収率:7.14g(81.1%)
IR(KBr):3400,3121,3001,1629,1590cm−1
H NMR(CDCl):δ5.96(s,1H),3.93(m,1H),3.90(s,3H),3.88(s,3H),3.59(dd,1H),3.37(d,1H),3.13(m,1H),2.75(m,1H),2.61(s,3H),2.59(m,1H),2.37(s,3H),2.00(m,2H).
MS(ES+):m/z310(M+1)
【実施例10】
【0101】
(+)−トランス−2−(2−クロロフェニル)−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−5,7−ジメトキシ−クロメン−4−オン
水素化ナトリウム(50%、0.54g、0.01125mol)を、窒素雰囲気下の0℃で撹拌しながら、N,N−ジメチルホルムアミド(15mL)中の(−)−トランス−酢酸3−(3−アセチル−2−ヒドロキシ−4,6−ジメトキシ−フェニル)−1−メチル−ピロリジン−2−イルメチルエステル(0.7g、0.0022mol)の溶液へ、小分けにして加えた。10分後に、メチル2−クロロベンゾエート(1.15g、0.00675mol)を加えた。反応混合物を25℃で2時間撹拌した。メタノールを20℃以下の温度で注意深く加えた。反応混合物を砕いた氷(300g)の上に注ぎ、pH2まで1:1塩酸溶液により酸性化し、酢酸エチル(2×100mL)を用いて抽出した。水層を、飽和炭酸ナトリウム溶液を用いてpH10へ塩基性化し、クロロホルム(3×200mL)を用いて抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムの上で乾燥させ、濃縮した。この残留物に濃塩酸(25mL)を加え、2時間室温で撹拌した。反応混合物を砕いた氷(300g)の上に注ぎ、飽和炭酸ナトリウム溶液を用いて、塩基性にした。混合物をクロロホルム(3×200mL)を用いて抽出した。有機抽出物を水により洗浄し、無水硫酸ナトリウムの上で乾燥および濃縮し、表題化合物を得た。
【0102】
収率:0.67g(68.88%)
mp:95―97℃
IR(KBr):3400,1660cm−1
[α]25=+5.8°(c=0.7,メタノール)
H NMR(CDCl):δ7.7(dd,1H),7.41(m,1H),7.45(m,2H),6.55(s,1H),6.45(s,1H),4,17(m,1H),4.05(s,3H),3.95(s,3H),3.65(dd,1H),3.37(dd,1H),3.15(m,1H),2.77(d,1H),2.5(m,1H),2.3(s,3H),2.05(m,2H).
MS:m/e 430(M),398(M−31)
【実施例11】
【0103】
(+)−トランス−2−(2−クロロフェニル)−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−5,7−ジヒドロキシ−クロメン−4−オン
融解されたピリジン塩酸塩(4.1g、0.0354mol)を、(+)−トランス−2−(2−クロロフェニル)−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−5,7−ジメトキシ−クロメン−4−オン(0.4g、0.0009mol)へ加え、180℃で1.5時間加熱した。反応混合物を25℃まで冷却し、メタノール(10mL)により希釈し、炭酸ナトリウムを用いてpH10まで塩基性化した。混合物を濾過し、有機層を濃縮した。残留物を水(5mL)中に懸濁し、30分間撹拌し、濾過および乾燥させて、表題化合物を得た。
【0104】
収率:0.25 g(66.86%)
IR(KBr):3422,3135,1664,1623,1559cm−1
H NMR(CDCl):δ7.56(d,1H),7.36(m,3H),6.36(s,1H),6.20(s,1H),4.02(m,1H),3.70(m,2H),3.15(m,2H),2.88(m,1H),2.58(s,3H),2.35(m,1H),1.88(m,1H).
MS(ES+):m/z 402(M+1)
分析:C2120ClNOC,62.24(62.71);H,5.07(4.97);N,3.60(3.48);Cl,9.01(8.83).
【実施例12】
【0105】
(+)−トランス−2−(2−クロロ−フェニル)−5,7−ジヒドロキシ−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−クロメン−4−オン塩酸塩
(+)−トランス−2−(2−クロロフェニル)−8−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−5,7−ジメトキシ−クロメン−4−オン(0.2g、0.48mmol)を、メタノール(2mL)中に懸濁させ、エーテルHCl(5mL)を加えた。懸濁物を撹拌して、清澄溶液を得た。この溶液を減圧下で濃縮し、表題化合物を得た。
【0106】
収率:0.21g(97%)
[α]25=+21.2°(c=0.2,メタノール)
H NMR(CDOD,300MHz):δ7.80(d,1H),7.60(m,3H),6.53(s,1H),6.37(s,1H),4.23(m,1H),3.89(m,2H),3.63(m,1H),3.59(dd,1H),3.38(m,1H),2.90(s,3H),2.45(m,1H),2.35(m,1H).
MS(ES+):m/z 402(M+1)、遊離塩基。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1;
【化1】

(式中、Arはフェニルであり、無置換、またはハロゲン、ニトロ、シアノ、C−C−アルキル、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ヒドロキシル、C−C−アルコキシ、カルボキシ、C−C−アルコキシカルボニル、C−C−アルキレンヒドロキシル、CONH、CONR、SONR、シクロアルキル、NRおよびSRから選択される、1、2または3個の同一または異なる置換基によって置換され;ここで、RおよびRは各々、水素、C−C−アルキル、C−C−アルキルカルボニルおよびアリールから独立して選択されるか、またはRおよびRは、それらが結合される窒素原子と共に、任意で少なくとも1つの追加ヘテロ原子を含んでもよい5員環または6員環を形成し;およびRは、水素、C−C−アルキル、アリールおよびSRから選択され、ここでRは、C−C−アルキルまたはアリールである)によって表わされる、フラボンで置換されたピロリジンの(+)−トランスエナンチオマーまたはその薬学的に許容される塩の調製方法であって;
(a)、以下の式A;
【化2】

(以下、化合物Aと呼ぶ)によって表わされる化合物を、ポリリン酸、ならびに塩化亜鉛、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素および三臭化ホウ素から選択されるルイス酸、から選択される触媒の存在下において無水酢酸により処理して、以下の式F;
【化3】

(以下、化合物Fと呼ぶ)によって表わされる、(−)−トランス−酢酸3−(3−アセチル−2−ヒドロキシ−4,6−ジメトキシ−フェニル)−1−メチル−ピロリジン−2−イルメチルエステルを得る工程と;
(b)水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選択されるアルカリ水溶液により化合物Fを処理し、約50℃まで反応混合物の温度を上昇させて、以下の式G;
【化4】

(以下、化合物Gと呼ぶ)によって表わされる、(−)−トランス−1−[2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシメチル−1−メチル−ピロリジン−3−イル)−4,6−ジメトキシ−フェニル)−エタノンを得る工程と;
(c)窒素雰囲気下で、水素化ナトリウム、n−ブチルリチウム、リチウムヘキサメチルジシラジドおよびリチウムジイソプロピルアミドから選択される塩基、ならびにテトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミドおよびジオキサンから選択される溶媒の存在下において、式ArCOOCH(式中、Arは式1において定義されるようなものである)のエステルと化合物Gを反応させ、続いて酸触媒環化を行ない、以下の式2;
【化5】

(以下、化合物2と呼ぶ)によって表わされるジメトキシ化合物を得る工程と;
(d)ピリジン塩酸塩、三臭化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラートおよび三塩化アルミニウムから選択される脱メチル化剤と共に、化合物2を、120℃〜180℃の範囲内の温度で加熱することによって、化合物2を脱メチル化する工程と;
(e)任意で、式1の結果として生じる化合物を薬学的に許容される塩に変換する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
Arが塩素で置換されたフェニルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法の工程(a)に記載される、式A;
【化6】

によって表わされる、化合物(−)−トランス−(1−メチル−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−イル)−メタノールの調製方法であって;以下の式E;
【化7】

(以下、化合物Eと呼ぶ)の化合物(−)−トランス−1−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボン酸を溶媒中の還元剤により処理することを含む方法。
【請求項4】
化合物Eが、
(a)錯体触媒、塩基およびモレキュラーシーブの存在下の溶媒中で(E)−メチル−2−ニトロ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)アクリレートへのマロン酸ジメチルの立体選択的マイケル付加を行ない(ここで、錯体触媒はキラルビス(オキサゾリン)配位子および金属錯体を含む)、以下の式B;
【化8】

(以下、化合物Bと呼ぶ)によって表わされる、(+)−トリメチル−3−ニトロ−2−(2,4,6−トリメトキシフェニル)プロパン−1,1,3−トリカルボキシラートを得ること;
(b)溶媒中の還元剤により工程(a)中で得られるような化合物Bを処理し、以下の式C;
【化9】

(以下、化合物Cと呼ぶ)によって表わされる、(+)−ジメチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)−ピロリジン−2,4−ジカルボキシラートを得ること;
(c)溶媒中の塩化ナトリウムにより化合物Cを処理し、結果として生じる反応混合物を120℃〜170℃の範囲内の温度まで加熱し、シスおよびトランスの異性体の混合物として以下の式D;
【化10】

(以下、化合物Dと呼ぶ)によって表わされる、(+)−メチル−5−オキソ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニル)ピロリジン−2−カルボキシラートを得ること;
(d)溶媒中のメチル化剤、ならびにアルカリ金属水素化物およびアルカリ金属炭酸塩から選択される塩基と化合物Dを反応させ、続いて結果として生じるシスおよびトランスの化合物の混合物をアルコール中のアルカリ金属水酸化物によりアルカリ加水分解し、結果として生じる反応混合物を50℃〜100℃の範囲内の温度まで加熱し、単一トランス異性体として化合物Eを得ること、
によって調製される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において用いられる前記キラルビス(オキサゾリン)配位子が、(3aS,3a’S,8aR,8a’R)−2,2’(シクロプロパン−1,1−ジイル)ビス(8,8a−ジヒドロ−3aH−インデノ[1,2d]オキサゾール)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)において用いられる前記金属錯体が、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸ランタン、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル、臭化マグネシウム、臭化銅、臭化亜鉛、臭化ニッケル、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛、ヨウ化ニッケル、マグネシウムアセチルアセトネート、銅アセチルアセトネート、亜鉛アセチルアセトネートおよびニッケルアセチルアセトネートから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記金属錯体がトリフルオロメタンスルホン酸マグネシウムである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項4の工程(a)において用いられる前記塩基が、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、2,6−ルチジン、N−メチルモルホリン、N−エチルピペリジン、イミダゾールおよび5,6−ジメチルベンズイミダゾールから選択される、請求項4〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基が、N−メチルモルホリンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項4の工程(b)における前記還元剤が、塩化第一スズである、請求項4〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒が酢酸エチルである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項4の工程(b)における前記還元剤が、ラネーニッケルである、請求項4〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒が、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびN,N−ジメチルホルムアミドから選択される、請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2009−542796(P2009−542796A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518985(P2009−518985)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【国際出願番号】PCT/IB2006/052294
【国際公開番号】WO2008/007169
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(502435661)ピラマル・ライフ・サイエンシーズ・リミテッド (15)
【Fターム(参考)】