説明

ピロロキノリンキノン類を含む液体の保存方法

【課題】ピロロキノリンキノン類を含む液体の安定に保存する方法の提供。
【解決手段】ピロロキノリンキノン類を含む液体を遮光状態で、保存温度が40℃以下、液体のpHが5から9で保存することを特徴とするピロロキノリンキノン類の保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ピロロキノリンキノンは新たな栄養補助食品として期待されている。本発明はピロロキノリンキノンを含む液体、特に水溶液状態での保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗酸化機能を有する栄養補助食品は人気があり、錠剤として提供されるだけでなく、飲料として配合されることも多い。また、取り扱い上、液体で操作を行うことは工業的にも粉体より容易であることから液体として安定に扱えることが重要である。ピロロキノリンキノン(以下「PQQ」と称す)は新しいビタミンの可能性があることが提案されて(例えば、非特許文献1参照)注目を集めている。さらには細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っている。また、PQQについて近年までに細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、創傷治癒作用、抗アレルギ−作用、逆転写酵素阻害作用およびグリオキサラ−ゼI阻害作用−制癌作用など多くの生理活性が明らかにされている。このPQQ類は、有機化学的合成法(非特許文献2)および発酵法(特許文献1)などにより製造することが可能である。しかし、栄養補助食品として飲料用途に使用する場合も多く、この物質が液体状態では長時間の安定性にかける面があり、その保存方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−218597号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】理化学研究所 平成15年4月24日 プレス発表情報一覧 「半世紀ぶりの新種ビタミンPQQ(ピロロキノリンキノン)」
【非特許文献2】JACS、第103巻、第5599〜5600頁(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題はこのPQQ類を含む液体を安定に保存する方法である。特に1年以上安定に保存することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者はこのPQQの安定性が損なわれる原因を詳細に検討した結果、光反応により安定性が阻害されていることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、PQQ類を含む液体を遮光状態で保存することを特徴とし、さらには保存温度が40℃以下にすることで安定に保存できる。さらには液体のpHが5から9でより安定に保存できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明により長期間安定にPQQを液体状態で保存することができることから、飲料に使用することが容易になるだけでなく、また、水溶液として取り扱う際に分解せずに行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で使用するPQQ類とは、4,5−ジヒドロ−4,5−ジオキソ−1H−ピロロ[2,3−f]キノリン−2,7,9−トリカルボン酸およびその塩であり、PQQならびにPQQのナトリウム塩およびPQQのカリウム塩などのPQQ塩類を意味する。本発明ではこのPQQ類を液体とした状態の安定に関する。本発明でいう液体状態とはこのPQQ類を液体の溶媒に完全に溶解、もしくは過剰に添加して懸濁状態になった状態を意味する。
【0009】
本発明でPQQ類を溶解または懸濁させるのに適切な液体は水、油脂、アルコール、またはこれらの混合物で、好ましくは水である。
このような液体に含まれるPQQ類の濃度は0.001から10g/Lで、好ましくは0.01から3g/Lである。
【0010】
このPQQ類は他の物質と共存し提供されても良く、糖類、酸類、アミノ酸、水溶性ポリマー、着色剤、香料、甘味料等と共存してもなんら問題がない。具体的にはショ糖、異性化糖、キシリトール、グルコース、フルクトース、ソルビトール、パラチニット、トレハロース、リン酸、クエン酸、酢酸、酒石酸、アスコルビン酸、塩酸、硫酸、アラニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、ポリエチレングリコール、寒天、カラギーナン、ポリビニルアルコール、ポリリジン、コチニール色素、キャベツ色素、酢酸エチル、アスパルテーム等があげられる。
【0011】
この液体のPQQ類を遮光状態で保存することで1年以上の安定性を保持することが可能になる。光反応は光の吸収で生じるために吸収波長を持つ領域の光をさえぎればよい。特に遮光するべき光は390nm以下の波長であり、より好ましくは420nm以下の広い範囲での光を遮断することである。遮光の方法は光を通さない容器であればよく、着色ガラス容器、着色プラスチック容器、アルミ被覆容器、金属性容器が使用できる。また、ペットボトルのような容器の場合、光を通さないような色素やフィルムを張ることで防止できる。水溶液を入れた容器を、光を通さない材質の箱等に収納してもよい。
【0012】
PQQ類の分解について詳細なメカニズムは明らかでないが、本発明者はキノン類が光反応を起こすことが知られていることから、それに類似する機構でラジカルの関与する反応を起こしていると考えている。
【0013】
本発明では温度も重要な要因で40℃以下にすることでより安定に保存することが可能である。さらにPQQ類の溶液のpHは重要でpHが5から9でさらに安定に保存することができる。pHの制御は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、コリン、リン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム、酢酸、クエン酸、塩酸、硫酸のような酸、アルカリを加えて調整すればよい。
【実施例】
【0014】
実施例1
三菱瓦斯化学製ピロロキノリンキノン-2Na塩をイオン交換水に溶解し、1g/Lの濃度とした。この溶液のpHは3.6であった。
この溶液を透明ガラス容器に入れ、5℃で遮光下の環境で24ヶ月保存した。保存前のピロロキノリンキノン-2Na塩に対する分解量(%)を、高速液体クロマトグラフィーを使用し、吸光度検出器で測定した。24ヵ月後の分解量は0.4%であった。
【0015】
実施例2
遮光下30℃で保存した以外は実施例1と同様の操作を行った。24ヵ月後の分解量は0.9%であった。
【0016】
実施例3
ピロロキノリンキノン-2Na塩を燐酸バッファーに溶解し、1g/Lの濃度とした。この溶液のpHは6であった。
この溶液を5℃で遮光下の環境で24ヶ月保存した。この時の分解量は0.4%であった。
【0017】
実施例4
遮光下30℃で保存した以外は実施例3と同様の操作を行った。24ヵ月後の分解量は0.4%であった。
【0018】
実施例5
遮光下−20℃で保存した以外は実施例3と同様の操作を行った。24ヵ月後の分解量は0.3%であった。
【0019】
比較例1
光源として島津GLC製20-D-65蛍光ランプを使用し、測定箇所では1575ルックスであった。この光源は医薬品承認審査ハーモナイゼーション国際会議のSTEP-2で採択された三極調和安定性試験のガイドラインに準拠している。実施例1と同様に調製したサンプルをガラス製サンプル瓶にいれ、30℃で光照射下に保存した。
12ヵ月後の分解量は38%であった。
【0020】
比較例2
比較例1と同様に実験を行った。24ヵ月後の分解量は78%であった。
【0021】
比較例3
実施例3と同様に調整したpH6のサンプルを比較例1と同様に光照射下に保存した。12ヵ月後の分解量は19%であった。
【0022】
比較例4
実施例3と同様に調整したpH6のサンプルを比較例1と同様に光照射下に保存した。24ヵ月後の分解量は36%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノン類を含む液体を遮光状態で保存することを特徴とするピロロキノリンキノン類の保存方法。
【請求項2】
保存温度が40℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ピロロキノリンキノン類を含む液体のpHが5から9であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。

【公開番号】特開2011−26226(P2011−26226A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172324(P2009−172324)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】