説明

ピンローラ形ピニオン装置

【課題】ラックに対するピニオン6の伝達精度が高くなることに伴い、良好な初期の作動状態を長期にわたって維持できるピンローラ形ピニオン装置7を提供する。
【解決手段】第1軸受13の第1ピンニードル17は、第1円孔9aの内周壁9Aとピンローラ8の一端部8aとの間に挿入配列され、第2軸受14の第2ピンニードル18は、第2円孔10aの内周壁10Aとピンローラ8の他端部8bとの間に挿入配列されている。このため、第1ピンニードル17の挿入時、第1円孔9aの内周壁9Aに外力が生じない。また、第2ピンニードル18の挿入時、第2円孔10aの内周壁10Aに外力が生じない。この結果、第1円盤9および第2円盤10の膨出変形が生じず、ラックに対するピニオン6の伝達精度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のピンローラがラックに噛合するピニオンを設けたピンローラ形ピニオン装置に係り、とりわけ、ピンローラを回転可能に支持する支持構造を改良したピンローラ形ピニオン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックとピニオンとを組合せた種々の作動機構のうち、動力伝達装置として知られたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の動力伝達装置は、第1円型板部と第2円型板部との間に複数のピンを掛け渡すことによりピニオンを構成している。
ピニオンのピンはラックに噛合し、ピニオンの回転に伴ってラックが長手方向に往復移動する。これにより、低騒音かつ低振動で、伝達抵抗が小さく、がたつきがなく、剛性の高いラック・ピニオンの構造体を実現している。
【0003】
この種の動力伝達装置は、ラック・ピニオンの構造体を工作機械、精密装置、ロボットの走行、ストッカー搬送や洗浄ライン搬送などに組込むことにより、生産現場で有効に活用されている。
なかでも、大規模な生産工場では、パーソナル・コンピュータなどの液晶表示部に設けられる極薄の硝子板を多数束ねて長尺なラックに沿って走行させている。この場合、ラックに対するピニオンの円滑な噛み合わせにより、迅速で騒音の少ない走行を確保する必要が生じている。
【0004】
このため、ピンの一端部と第1円型板部との間、およびピンの他端部と第2円型板部との間には、ピン支持ベアリングが設けられている。
ピン支持ベアリング49は、図7(a)に示すように、第1円型板部52に等角度間隔で形成された円孔54に設けられ、筒状の外輪50内に配列された多数のピンニードル51を有している。外輪50の端部は、図7(b)、(c)に示すように、環状の縁部50a、50bを形成し、ピンニードル51に対するリテーナとして機能している。外輪50内には、ピニオン55のピン56を挿入している。なお、図7(a)では、便宜上、中央の円孔54を代表させてピン支持ベアリング49を設けた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国登録特許第10−0945193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、ピン支持ベアリング49を第1円型板部52に取り付ける際、図7(c)に示すように、外輪50を円孔54に圧入して外輪50を円孔54内に固定する。
円孔54は、図7(a)に示すように、第1円型板部52の外周縁部52aに接近して形成されているので、円孔54と第1円型板部52の外周面部52bとの間の距離tが小さくなっている。このため、外輪50を円孔54に圧入する際、第1円型板部52の外周縁部52aが外力Hを受け、図7(a)に二点鎖線Kで示すように膨出変形する虞がある。
【0007】
第1円型板部52が膨出変形すると、ピニオン55の回転運動をラックに直線運動として伝達する際、ラックに対するピニオン55の伝達精度が悪化し、ピニオン55の回転が円滑さを失って振動して騒音が発生する虞がある。
ラックに対するピニオン55の伝達精度が悪化することに伴い、ラックとピニオン55との間に摩耗が発生し、ピニオン55に対してラックが担う負荷能力が減少し、作動不良を生じて短命化に繋がる虞れがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は第1軸受を第1円孔に配置し、第2軸受を第2円孔に配置する際、第1円盤および第2円盤の膨出変形を防ぐことにより、ラックに対するピニオンの伝達精度が高くなり、ラックとピニオンとの間に発生する摩耗を抑制し、ピニオンに対してラックが担う負荷能力が増加し、良好な初期の作動状態を長期にわたって維持することができるピンローラ形ピニオン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1について)
ピンローラ形ピニオン装置において、第1円盤は、ピッチ円上に等角度間隔で形成された複数の第1円孔を有している。第2円盤は、第1円盤に対面するように配置され、複数の第1円孔に対応する複数の第2円孔を有している。
ピニオンは複数のピンローラから成り、ピンローラの一端部が第1軸受を介して第1円孔内で回転可能に支持され、他端部が第2軸受を介して第2円孔内で回転可能に支持されている。
第1軸受は、第1円孔の内周壁とピンローラの一端部との間で軸方向に沿って挿入配列され、周方向に転動可能な複数の第1ピンニードルから成る。第2軸受は、第2円孔の内周壁とピンローラの他端部との間で軸方向に沿って挿入配列され、周方向に転動可能な複数の第2ピンニードルから成る。
【0010】
請求項1における第1軸受の第1ピンニードルは、第1円孔の内周壁とピンローラの一端部との間に挿入配列され、第2軸受の第2ピンニードルは、第2円孔の内周壁とピンローラの他端部との間に挿入配列されている。
このため、第1円孔を第1円盤の外周縁部に接近させて形成し、第2円孔を第2円盤の外周縁部に接近させて形成していながらも、第1ピンニードルの挿入時、外輪を圧入するものと異なり、第1円孔の内周壁に外力が生じない。また、第2ピンニードルの挿入時、外輪を圧入するものと異なり、第2円孔の内周壁に外力が生じない。
【0011】
これにより、第1軸受を第1円孔に配置し、第2軸受を第2円孔に配置する際、ピン支持ベアリングの外輪を第1円型板部の円孔に圧入する従来と異なり、第1円盤および第2円盤の膨出変形を防ぐことができる。
この結果、ピニオンの回転運動をラックに直線運動として伝達する際、ラックに対するピニオンの伝達精度が高くなり、ピニオンの回転が円滑になって振動がなくなり騒音の発生を抑制することができる。
ラックに対するピニオンの伝達精度が高くなることに伴い、ラックとピニオンとの間に生じる摩耗が減少し、ピニオンに対してラックが担う負荷能力が増加し、良好な初期の作動状態を長期にわたって維持することができる。
【0012】
(請求項2について)
第1軸受は、ピンローラの一端部を嵌着した筒状の第1内輪から成っている。第1内輪は、周方向に沿って等角度間隔で形成され、第1ピンニードルを転動可能に嵌合する複数の第1嵌合孔を有している。
また、第2軸受は、ピンローラの他端部を嵌着した筒状の第2内輪から成っている。第2内輪は、周方向に沿って等角度間隔で形成され、第2ピンニードルを転動可能に嵌合する複数の第2嵌合孔を有している。
【0013】
請求項2において、第1軸受の第1ピンニードルは、第1内輪の第1嵌合孔に嵌合し、第2軸受の第2ピンニードルは、第2内輪の第2嵌合孔に嵌合している。
このため、第1内輪に対する第1ピンニードルの保持状態が良好となり、第2内輪に対する第2ピンニードルの保持状態も良好となる。これにより、第1ピンニードルから成る第1軸受を第1円孔に配置し易くなり、第2ピンニードルから成る第2軸受を第2円孔に配置し易くなるので、第1軸受および第2軸受の取付作業性が向上する。
【0014】
(請求項3について)
第1軸受は、ピンローラの一端部の外周部を囲むように近接状態に配列され、第1円孔の内周壁に摺接する複数の第1ピンニードルから成っている。
第2軸受は、ピンローラの他端部の外周部を囲むように近接状態に配列され、第2円孔の内周壁に摺接する複数の第2ピンニードルから成っている。
【0015】
請求項3において、複数の第1ピンニードルがピンローラの一端部を囲むように配列され、複数の第2ピンニードルがピンローラの他端部を囲むように配列されているため、第1ピンニードルおよび第2ピンニードルが総ニードルを構成する。これにより、第1ピンニードルおよび第2ピンニードルが高負荷に耐えられるようになり、第1ピンニードルおよび第2ピンニードルが担う負荷能力の向上に寄与することができる。
【0016】
(請求項4について)
第1円孔の内周壁および第2円孔の内周壁は、外表面への肌焼きにより表面硬化されているため、第1円孔および第2円孔の各内周壁は、作動時の摺動力に対する耐摩耗性および破壊強度をともに向上させることができて長寿命化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ピンローラ形ピニオン装置を組み込んだラック・ピニオン伝動装置の斜視図である(実施例1)。
【図2】ピンローラ形ピニオン装置の分解斜視図である(実施例1)。
【図3】(a)はピンローラ、第1内輪、第2内輪、第1ピンニードルおよび第2ピンニードルを示す分解斜視図、(b)はピンローラ、第1軸受および第2軸受を示す分解斜視図である(実施例1)。
【図4】(a)は第1円孔内に配置した第1軸受およびピンローラの一端部を示す縦断面図、(b)は第2円孔内に配置した第2軸受およびピンローラの他端部を示す縦断面図、(c)は(a)および(b)のS−S線に沿う部分的な横断面図である(実施例1)。
【図5】(a)は第1円孔内に配置した第1軸受およびピンローラの一端部を示す縦断面図、(b)はリテーナ、第1ピンニードルおよびピンローラの一端部を示す分解斜視図である(実施例2)。
【図6】(a)は第1円孔内に配置した第1軸受の斜視図、(b)はピンローラの一端部で環状に配置した第1ピンニードルの斜視図である(実施例3)。
【図7】(a)は第1円型板部とともに示すピン支持ベアリングの縦断面図、(b)ピン支持ベアリングの斜視図、(c)は(a)のJ−J線に沿う横断面図である(従来技術)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るピンローラ形ピニオン装置では、ピンローラを第1ピンニードルおよび第2ピンニードルで回転可能に支持する構成を各実施例により具体化する。
【実施例】
【0019】
〔実施例1の構成〕
図1ないし図4に基づいて本発明の実施例1を説明する。以後の説明では、特に断らない限り、各部材の位置および方向の特定は、各実施例を通して対応する図面の左右および上下方向に従う。
【0020】
図1に示すラック・ピニオン伝動装置1において、組立生産工場などの設置面に固定した基盤2は、左右両側に断面T字形の搬送レール3、4を形成し、中央にラック5を長手方向Mに沿って形成している。ラック5は、使用対象に応じて決められた長さを有し、その上面にサイクロイド系プロフィールに基づく歯部5aをピッチ線Pに沿って連続形成している。
【0021】
ピニオン6はピンローラ形ピニオン装置7を構成するもので、ラック5の歯部5aに噛合する複数のピンローラ8を有している。ピニオン6は、例えば10本のピンローラ8を有し、ピンローラ8は互いに対面する二枚の第1、第2円盤9、10の間に掛け渡され、ピッチ円Eに沿って、例えば36°の等角度間隔で環状に配されている。
ハウジング11は、天井部11aと両側の外壁部11b、11cとから門型に形成されている。ハウジング11の外壁部11b、11cは、ラック5の両側に位置し、天井部11aはピニオン6を覆うように配されている。
【0022】
外壁部11b、11cの基端部には、長手方向Mを中心にして左右対称となるアングル状の擁壁部11d、11eがラック5を挟むように形成されている。一方の擁壁部11dは、搬送レール3に対して摺動可能に嵌合し、他方の擁壁部11eは、搬送レール4に対して摺動可能に嵌合している。
駆動軸12はピニオン6の中心部に固定状態に取り付けられている。駆動軸12の一端部12aは、一方の外壁部11bに回転可能となるように支持され、他端部12bは他方の外壁部11cに回転可能となるように支持されている。
【0023】
駆動軸12には、例えばハウジング11側に設けられた電動機の回転軸(図示せず)が連結されている。
このため、電動機の通電により、ピニオン6が図1に示す時計回り方向Fの回転力を受けると、ピニオン6がラック5の歯部5aに噛み合いながら同方向Fに回転し、ハウジング11の擁壁部11d、11eが搬送レール3、4に沿って長手方向Mへ摺動する。
【0024】
ピンローラ形ピニオン装置7における第1円盤9は、図2に示すように、外周縁部9eに接近するピッチ円E上に等角度間隔で形成され、ピンローラ8に応じた個数の第1円孔9aを有している。
【0025】
第2円盤10は、外周縁部10eに接近する位置で、第1円盤9に対面するように配置され、第1円孔9aに対応する第2円孔10aを有している。ピンローラ8の一端部8aは、第1軸受13を介して第1円孔9a内で回転可能に支持され、他端部8bは第2軸受14を介して第2円孔10a内で回転可能に支持されている。第1円孔9aの内周壁9Aおよび第2円孔10aの内周壁10Aには、機械的特性を高めるため、外表面への肌焼きによる熱処理(焼入れ)が施されて表面硬化されている。
【0026】
第1軸受13は、図3(a)に示すように、ピンローラ8の一端部8aを嵌着する筒状の第1内輪15から成っている。第1内輪15は、周方向に沿って等角度間隔で形成された第1嵌合孔15aを有している。第1嵌合孔15aは、例えば18〜20個形成されており、内部に第1ピンニードル17を転動可能に嵌合している{図3(b)参照}。
【0027】
第2軸受14は、ピンローラ8の他端部8bを嵌着する筒状の第2内輪16から成っている。第2内輪16は、周方向に沿って等角度間隔で形成された第2嵌合孔16aを有している。第2嵌合孔16aは、第1嵌合孔15aと同数形成されており、内部に第2ピンニードル18を転動可能に嵌合している。
【0028】
第1軸受13は、図4(a)に示すように、第1内輪15と一緒に第1円孔9a内に配設されている。この際、第1ピンニードル17は、第1円孔9aの内周壁9Aとピンローラ8の一端部8aとの間で軸方向に沿って挿入配列され、周方向Cpに沿って転動可能になっている。
【0029】
第2軸受14は、図4(b)に示すように、第2内輪16と一緒に第2円孔10a内に配設されている。この際、第2ピンニードル18は、第2円孔10aの内周壁10Aとピンローラ8の他端部8bとの間で軸方向に沿って挿入配列され、自転可能で周方向Cqに沿って転動可能になっている。
【0030】
〔実施例1の効果〕
上記構成では、電動機の通電により、ピニオン6がラック5の歯部5aに歯み合いながら時計回り方向Fに回転し、ハウジング11の擁壁部11d、11eが搬送レール3、4に沿って長手方向Mへ摺動する。
【0031】
この場合、ピニオン6がラック5に沿って直線的に摺動することから、大規模な生産工場では、ラック・ピニオン伝動装置1を用いて、極薄の硝子板をパーソナル・コンピュータなどの液晶表示部(図示せず)として多数束ねて搬送している。
すなわち、ラック・ピニオン伝動装置1を利用して、ハウジング11に設けたパレット(図示せず)などに、多数束ねた極薄の硝子板を載せることにより、硝子板を資材工程から組立工程へ迅速かつ円滑に搬送している。
【0032】
この際、ピンローラ形ピニオン装置7において、第1軸受13の第1ピンニードル17は、第1円孔9aの内周壁9Aとピンローラ8の一端部8aとの間に挿入配列され、第2軸受14の第2ピンニードル18は、第2円孔10aの内周壁10Aとピンローラ8の他端部8bとの間に挿入配列されている。
【0033】
このため、図4(c)に示すように、第1円孔9aを第1円盤9の外周縁部9eに接近させて形成し、第2円孔10aを第2円盤10の外周縁部10eに接近させて形成していながらも、第1ピンニードル17の挿入時、外輪を圧入するものと異なり、第1円孔9aの内周壁9Aに外力が生じない。また、第2ピンニードル18の挿入時、外輪を圧入するものと異なり、第2円孔10aの内周壁10Aに外力が生じない。
【0034】
これにより、第1軸受13を第1円孔9aに配置し、第2軸受14を第2円孔10aに配置する際、ピン支持ベアリングの外輪を第1円型板部の円孔に圧入する従来と異なり、第1円盤9および第2円盤10の膨出変形を防ぐことができる。
【0035】
この結果、ピニオン6の回転運動をラック5に直線運動として伝達する際、ラック5に対するピニオン6の伝達精度が高くなり、ピニオン6の回転が円滑になって振動がなくなり騒音の発生を抑制することができる。
ラック5に対するピニオン6の伝達精度が高くなることに伴い、ラック5とピニオン6との間に生じる摩耗が減少し、ピニオン6に対してラック5が担う負荷能力が増加し、良好な初期の作動状態を長期にわたって維持することができる。
【0036】
また、第1軸受13の第1ピンニードル17は、第1内輪15の第1嵌合孔15aに嵌合し、第2軸受14の第2ピンニードル18は、第2内輪16の第2嵌合孔16aに嵌合している。
このため、第1内輪15に対する第1ピンニードル17の保持状態が良好となり、第2内輪16に対する第2ピンニードル18の保持状態も良好となる。これにより、第1ピンニードル17から成る第1軸受13を第1円孔9aに配置し易くなり、第2ピンニードル18から成る第2軸受14を第2円孔10aに配置し易くなるので、第1軸受13および第2軸受14の取付作業性が向上する。
【0037】
さらに、第1円孔9aの内周壁9Aおよび第2円孔10aの内周壁10Aは、肌焼きにより表面硬化されているため、第1円孔9aおよび第2円孔10aの各内周壁9A、10Aは、作動時の摺動力に対する耐摩耗性および破壊強度をともに向上させることができて長寿命化に寄与する。
【0038】
〔実施例2〕
図5は本発明の実施例2を示す。実施例2が実施例1と異なるところは、第1内輪15および第2内輪16を用いる代わりに、環状のリテーナ19、20を適用したことである。
第1ピンニードル17は、図5(b)に示すように、一端部に突起部17aを形成し、他端部に突状部17bを形成している。一方のリテーナ19は周方向に形成した透孔19aを有し、他方のリテーナ20は周方向に形成した貫通孔20aを有している。
【0039】
一端部の突起部17aは、図5(a)に示すように、リテーナ19の透孔19aに嵌着され、他端部の突状部17bはリテーナ20の貫通孔20aに嵌着されている。これらリテーナ19、20により第1ピンニードル17は、自転可能で環状に並設されて第1軸受13として保持されている。
この場合、隣接する第1ピンニードル17同士は、互いに僅かな隙間Gsを有しており、第1ピンニードル17から成る第1軸受13の外径寸法d1は、リテーナ19、20の各外径寸法d2よりも僅かに大きく設定されている。このように構成しても、実施例1と同様な効果を奏することができる。
【0040】
なお、第2軸受14の第2ピンニードル18も、第1ピンニードル17と同様の構成を有するため、第2軸受14および第2ピンニードル18についての説明は省略した。この省略は、後述する実施例3、4、5でも同様である。
【0041】
〔実施例3〕
図6は本発明の実施例3を示す。実施例3が実施例2と異なるところは、リテーナ19、20を省略し、第1ピンニードル17同士を環状に配置したことである。
すなわち、第1ピンニードル17は、図6(b)に示すように、ピンローラ8の一端部8aを囲むように配列されて総ニードルを構成している。
この際、第1ピンニードル17同士は、互いに僅少な隙間Gpを介して自転可能に近接しており、グリースなど粘着性を有する潤滑油(図示せず)の塗布により、環状に連なり合って籠形状の第1軸受13として保持されている。
【0042】
実施例3において、第1ピンニードル17は、図6(a)に示すように、総ニードルを構成するので、第1ピンニードル17が高負荷に耐えられるようになり、第1ピンニードル17が担う負荷能力の向上に寄与することができる。
この場合、第1ピンニードル17を第1円孔9aに配置した後、第1円孔9aの左右側からキャップ(図示せず)を嵌着して、第1ピンニードル17が軸方向W1に変位することを規制してもよい。
【0043】
〔変形例〕
(a)実施例1では、ピニオン6をラック5に沿って走行させたが、基盤2を設置面に摺動可能に設け、ハウジング11をピニオン6の駆動軸12とともに設置面側に固定し、ピニオン6の回転に伴って、ラック5を基盤2とともに長手方向Mに移動させてもよい。
(b)実施例2では、第1軸受13を構成する際、隣接する第1ピンニードル17同士が互いに僅かな隙間Gsを有するように構成したが、第1ピンニードル17同士は、互いに自転可能で隙間なく密着していてもよい。
【0044】
(c)実施例1〜3において、第1円孔9aおよび第2円孔10aを10個設けたが、10個に限らず、使用状況などに応じて5〜9個あるいは11〜15個など所望の個数に設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のピンローラ形ピニオン装置では、第1軸受を第1円孔に配置し、第2軸受を第2円孔に配置する際、第1円盤および第2円盤の膨出変形を防ぐことができる。このため、ラックに対するピニオンの伝達精度が高くなり、ピニオンの回転が円滑になって振動がなくなり、騒音の発生を抑制することができる。これに伴い、ラックとピニオンとの間に生じる摩耗が減少し、ピニオンに対してラックが担う負荷能力が増加し、長寿命化に寄与することができる。長寿命化が実現する有益性が業者の需要を喚起し、関連部品の流通を介して機械産業に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ラック・ピニオン伝動装置
3、4 搬送レール
5 ラック
5a ラックの歯部
6 ピニオン
7 ピンローラ形ピニオン装置
8 ピンローラ
8a ピンローラの一端部
8b ピンローラの他端部
9 第1円盤
9a 第1円孔
9A 第1円孔の内周壁
9e 第1円盤の外周縁部
10 第2円盤
10a 第2円孔
10A 第2円孔の内周壁
10e 第2円盤の外周縁部
12 駆動軸
13 第1軸受
14 第2軸受
15 第1内輪
15a 第1内輪の第1嵌合孔
16 第2内輪
16a 第2内輪の第2嵌合孔
17 第1ピンニードル
18 第2ピンニードル
Cp 第1ピンニードルの周方向
Cq 第2ピンニードルの周方向
E 第1円盤および第2円盤のピッチ円
M ラックの長手方向
P ラックのピッチ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチ円上に等角度間隔で形成された複数の第1円孔を有する第1円盤と、
この第1円盤に対面するように配置され、前記複数の第1円孔に対応する複数の第2円孔を有する第2円盤と、
一端部が第1軸受を介して前記第1円孔内で回転可能に支持され、他端部が第2軸受を介して前記第2円孔内で回転可能に支持された複数のピンローラとから成るピニオンを有し、このピニオンをラックの歯部に噛み合わせて構成するピンローラ形ピニオン装置において、
前記第1軸受は、前記第1円孔の内周壁と前記ピンローラの前記一端部との間で軸方向に沿って挿入配列され、周方向に転動可能な複数の第1ピンニードルから成り、
前記第2軸受は、前記第2円孔の内周壁と前記ピンローラの前記他端部との間で軸方向に沿って挿入配列され、周方向に転動可能な複数の第2ピンニードルから成ることを特徴とするピンローラ形ピニオン装置。
【請求項2】
前記第1軸受は、前記ピンローラの前記一端部を嵌着した筒状の第1内輪から成り、前記第1内輪は、周方向に沿って等角度間隔で形成され、前記第1ピンニードルを転動可能に嵌合する複数の第1嵌合孔を有し、
前記第2軸受は、前記ピンローラの前記他端部を嵌着した筒状の第2内輪から成り、前記第2内輪は、周方向に沿って等角度間隔で形成され、前記第2ピンニードルを転動可能に嵌合する複数の第2嵌合孔を有することを特徴とする請求項1に記載のピンローラ形ピニオン装置。
【請求項3】
前記第1軸受は、前記ピンローラの前記一端部の外周部を囲むように近接状態に配列され、前記第1円孔の前記内周壁に摺接する前記複数の第1ピンニードルから成り、
前記第2軸受は、前記ピンローラの前記他端部の外周部を囲むように近接状態に配列され、前記第2円孔の前記内周壁に摺接する前記複数の第2ピンニードルから成ることを特徴とする請求項1に記載のピンローラ形ピニオン装置。
【請求項4】
前記第1円孔の前記内周壁および前記第2円孔の前記内周壁は、外表面への肌焼きにより表面硬化されていることを特徴とする請求項1に記載のピンローラ形ピニオン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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