説明

ピークファクタ低減装置および基地局、無線システム

【課題】 バースト波形のような無信号区間を有する信号を伝送する場合でも、無信号区間から脱したときの信号劣化を抑える。
【解決手段】 ピークファクタ低減装置に、無信号区間があるかどうかを示すScheduling情報をベースバンド側から入力し、無信号区間におけるピークファクタ閾値を自動調整させないよう制御する機能を追加する。また、ピークファクタ低減装置100Cでは、無信号区間検出回路131により、入力信号から無信号区間があるかどうかを検出し、その出力を積算器112に与えることで、無信号区間におけるピークファクタ閾値を自動調整させないよう制御する機能を追加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピークファクタ低減装置および基地局、無線システムに係り、特にRF信号送信機等に適用することができる、無信号伝送区間を考慮したピークファクタ低減装置および基地局、無線システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信分野において、周波数利用効率を向上させるため、ベースバンド信号を互いに直交する各サブキャリアで変調して送信するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式が重要視されている。OFDM信号は、正規分布に近い性質を持つことから、平均電力に対する瞬時電力比であるピークファクタ(Peak−to−Average Power Ratio)(またはクレストファクタともいう)が、CDMA等に比べて高くなる。このような信号を送信する場合、電力増幅器の入出力特性における線形性が十分に保たれていないと、送信周波数帯域外に非線形歪が発生する場合がある。この非線形歪は、他の無線システムに対する妨害波となる場合がある。
この妨害波の対策として、電力増幅器における動作点を下げて、飽和出力電力に対するバックオフを確保することで、送信周波数帯域外の非線形歪は改善される。しかし、OFDM方式のような、ピークファクタが大きい信号の場合、より大きなバックオフが必要となる。このため、RF信号送信機の送信電力効率が低下することになり、その結果、装置としての消費電力増大が懸念される場合がある。
このような課題を解決する方法として、例えば、次のような技術がある。
(1)電力増幅器の非線形歪を補償して、増幅器の動作範囲を拡大するプリディストーション、フィードフォワードといった歪補償技術、
(2)ベースバンド信号におけるピークファクタの発生を低減させる技術。
本発明は、特に、後者に関するものである。
後者を開示する文献として、特許文献1に記載されたピークファクタ低減装置が挙げられる。特許文献1のピークファクタ低減装置は、一様スペクトルを有する2種類の白色ベースバンド信号をそれぞれ実部、虚部とする複素入力信号を帯域制限する参照フィルターと、参照フィルターの伝播遅延に相当する時間だけ複素入力信号を遅延させる遅延器と、参照フィルター出力信号の振幅成分が設定値を超過した場合に超過分に比例する振幅を有する複素インパルス信号を出力する振幅制御部と、遅延器出力信号から振幅制御部出力信号を減算する減算器とから構成される。
また、特許文献2のピークファクタ低減装置は、一様スペクトルを有する少なくとも1キャリア以上の複素ベースバンド信号に対し、この複素ベースバンド信号に対応した周波数の複素指数関数信号を乗じて周波数変換をし、加算合成してマルチキャリア合成信号を生成する生成部と、マルチキャリア合成信号の瞬時振幅値を算出し、検出幅内において最大となるピーク振幅値を検出するピーク検出部と、ピーク検出回路により算出されたピーク振幅値とピークファクタ閾値とを比較し、このピークファクタ閾値からの超過レベルを計算し、この超過レベルについて前記ピーク振幅値で正規化した信号を出力する閾値比較部と、ピーク検出部と前記閾値比較部との処理遅延に相当するサンプル数だけ前記複数の複素ベースバンド信号を遅延させる第1の遅延器と、閾値比較部の出力と前記第1の遅延器の出力を乗算する第1の乗算器と、この第1の乗算器の出力の帯域制限を行なうフィルター部と、ピーク検出部と前記閾値比較部と前記フィルターとの処理遅延に相当するサンプル数だけ前記マルチキャリア合成信号を遅延させる第2の遅延器と、ピーク検出部と前記閾値比較部と前記フィルターとの処理遅延に相当するサンプル数だけ前記複素指数関数信号を遅延させる第3の遅延器と、フィルターの出力と前記第3の遅延器の出力とを乗じて周波数変換する第2の乗算器と、この第2の乗算器の出力を加算合成してピーク抑圧信号を生成する加算器と、第2の遅延器の出力から前記ピーク抑圧信号を減算する減算器と、第2の遅延器の出力とEVM目標値とを乗算した信号と、前記ピーク抑圧信号との電力算出を行ない、差分を出力する電力算出部と、前記電力算出部の出力を積算処理する積算器と、積算器の出力に、ピークファクタ閾値の初期値を加算したピークファクタ閾値を算出する加算器と、前記ピークファクタ閾値と、前記減算器の出力を振幅比較し、検出幅を出力する振幅比較部から構成される。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−124824号公報
【特許文献2】特開2011−019164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたピークファクタ低減装置は、ピーク振幅をある閾値以下にする際の指標となるピークファクタ閾値Vtが固定値であり、予めピークファクタ閾値Vtを設定する必要がある。このとき、ピークファクタ閾値Vtを低めに設定すると、ベクトル誤差の実効値(振幅誤差等)を示すEVM(Error Vector Magnitude)が増加する。EVMの増加は、送信における信号品質の劣化を意味する。一方、ピークファクタ閾値Vtの設定閾値を高めに設定すると、EVMは低いが、ピークファクタは大きくなり、電力増幅器への負担が大きくなる。つまり、EVMとピークファクタ閾値Vtの設定は、トレードオフの関係にある。
多くの無線基地局において、EVMの許容値は標準規格により規定されているため、EVM許容値を超過しない程度にピークファクタ閾値Vtを低く設定することが好ましい。しかし、送信周波数帯域幅やマルチキャリア時の離調周波数など送波条件により、ピーク発生頻度が変わり、最適なピークファクタ閾値Vtが変わる。またその値は、それら送波条件から一律には算出できない。
このような課題を解決するため、特許文献2に記載されたピークファクタ低減装置は、ピークファクタ低減装置に、EVMの目標値を設定することで、信号レベルに応じてピークファクタ閾値Vtを自動調整する。これにより、送波条件が変化した場合であっても、ピークファクタ低減におけるEVMを設定値通りにすることができた。
この特許文献2における更なる課題として、バースト波形のような無信号区間を有する信号を伝送する場合、電力増幅器への負荷の観点からピークファクタ閾値Vtを低く設定する制御が必要となるが、必要以上にピークファクタ閾値Vtを低下すると、無信号区間から脱したときの信号劣化が著しく大きくなる場合があるといった課題がある。とりわけ、現在、標準化団体である3GPPで議論協議中であるABS(Almost Blank Subframe)を有する信号を伝送する場合、無信号区間が、例えばmsオーダで発生することから、前記課題が深刻となる。
本発明は、以上の点に鑑み、無信号区間を有する信号を伝送する場合においても、論理規模を増大せずに、ピーク相殺を完全又は十分にするピークファクタ低減装置および基地局、無線システムを提供する。

【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するために為されたものである。ピークファクタ低減装置に、無信号区間を検出する回路を具備し、無信号区間におけるピークファクタ低減閾値Vtを自動調整しないように制御する。これにより、無信号区間から脱したときの信号劣化を軽減することができる。
少なくとも1キャリア以上の複素ベースバンド信号に対し、NCO(Numerical Controlled Oscillator)回路によって発生した各ベースバンド信号に対応した周波数の複素指数関数を乗じ、周波数変換を行った上、加算合成した信号Sinをピーク検出回路へ入力する。ピーク検出回路では、連続するNサンプル内での最大となる振幅値Vpを検出する。閾値比較回路では、ピーク検出回路より出力された振幅値Vpとピークファクタ閾値Vtとを振幅比較し、ピークファクタ閾値Vtからの超過レベルVp−Vtを計算し、ピーク検出回路出力値Vpで正規化した信号を出力する。この閾値比較回路出力と上記処理に相当するD1サンプル数を遅延させた遅延器出力とを乗算し、ピーク成分を入力信号レベルに換算する。次に、この出力信号をFIL回路にて帯域制限を行ない、NCO回路によって発生した出力信号を処理遅延に相当するD2サンプル分だけ遅延させた複素指数関数とを乗算し、加算合成を行うことでピーク抑圧信号PFRerrを生成する。そして、マルチキャリア合成信号Sinに対し、処理遅延に相当するD2サンプル分だけ遅延させた信号PFRthrと、ピーク抑圧信号PFRerrとを減算する。この出力信号Soutがピークファクタ低減後の複素信号である。
特許文献2(特に、図13及びその説明箇所参照)では、上述で説明した処理に加え、EVM目標値内で低減可能な最適となるピークファクタ閾値と、ピークの残留率を低減させるピーク検出幅の設定値を自動的に調整する機能をピークファクタ低減装置内に具備する。まず、電力算出器において、遅延器の出力信号PFRthrとEVM目標値とを乗算した、EVM目標値内で低減可能な電力レベルと、ピーク抑圧信号PFRerrである実際に低減する電力レベルとを減算し、差分を出力する。次に、積算器にて、差分値が”0”になるまで積算する。この差分が“0”となったとき、ピークファクタ低減における実際のEVMが、目標値と等しくなったことを意味する。そして、積算器出力値に、ピークファクタの初期値を加算したピークファクタ閾値Vtを閾値比較回路へフィードバックさせる。次に、振幅比較回路にて、ピークファクタ閾値Vtとピークファクタ低減後の信号Soutの瞬時振幅値を比較する。ピークファクタ閾値Vtの方が高い場合、現状のピーク検出幅で十分にピークを検出できているため、EVM緩和のために、ピーク検出幅を広くするようフィードバックさせる。その一方で、ピークファクタ低減後の信号Soutの方が高い場合は、ピークの相殺が不十分である可能性があるため、ピークの検出幅を狭くするようにフィードバックさせる。この比較結果を基に、ピーク検出幅を調整し、出力結果をピーク検出幅Nとしてピーク検出回路へ供給する。
【0006】
本発明は、上述で説明した処理・構成に加え、入力信号における無信号区間を検出し、無信号区間のピークファクタ閾値Vtを自動調整しないよう制御することを可能にしたピークファクタ低減装置である。入力信号における無信号区間を検出することに関して、無信号区間があるかどうかを示すScheduling情報をベースバンド側から入力させる手法と、ピークファクタ装置内で検出する手法の2種がある。
前者は、例えば3GPPで規格化されているABSであれば、基地局はABSパターンに従いSchedulingを行うことから、そのABSパターンをそのままピークファクタ低減装置へ入力すればよい。これ以外のケースでは、Scheduling情報に従い、ベースバンド回路内で、データのON/OFFを示すScheduling情報を生成し、ピークファクタ低減装置へ入力する。このScheduling情報を積算器に供給し、積算器では“0”が入力されたとき、ピークファクタ閾値を変動させないようスイッチで制御する。そして、積算器出力に、ピークファクタの初期値を加算したピークファクタ閾値Vtを閾値比較回路へフィードバックさせる。
次に、後者のピークファクタ装置内で入力信号における無信号区間を検出する手法について説明する。ピークファクタ装置内で入力信号における無信号区間を検出する手法として、マルチキャリア合成信号SinをD2サンプル分だけ遅延された信号PFRthrを用いて、入力信号における無信号区間を検出する。振幅判定回路において、遅延器の出力信号PFRthrにおける瞬時振幅値を算出する。この瞬時振幅値が、予め設定した無信号閾値以下かどうかを判定し、無信号閾値以下のときは、“0”を、それ以外の場合には“1”を出力する。この2値の情報がデータのON/OFFを示すScheduling情報に相当する。このScheduling情報を積算器に供給し、積算器では“0”が入力されたとき、ピークファクタ閾値を変動させないようスイッチで制御する。そして、積算器出力に、ピークファクタの初期値を加算したピークファクタ閾値Vtを閾値比較回路へフィードバックさせる。
ピークファクタ装置内で入力信号における無信号区間を検出する2つ目の手法として、前記同様、マルチキャリア合成信号SinをD2サンプル分だけ遅延された信号PFRthrを用いて、入力信号における無信号区間を検出する。無信号区間検出回路において、遅延器の出力信号PFRthrにおける瞬時振幅値を算出する。次に瞬時振幅値を遅延器に入力し、Mサンプル遅延させ、比較判定回路に供給する。比較判定回路では、入力されたMサンプル全て又は予め定められた数の瞬時振幅値が “0”以外かどうかを判定する。判定結果に基づき、Mサンプル全て又は予め定められた数の瞬時振幅値が“0”を検出した場合、“0”を検出した瞬間から所定時間、例えば、1ms間を無信号区間と判断し、1ms間“0”を出力する。それ以外の場合は“1”を出力する。この2値の情報がデータのON/OFFを示すScheduling情報に相当する。このScheduling情報を積算器に供給し、積算器では“0”が入力されたとき、ピークファクタ閾値を変動させないようスイッチで制御する。そして、積算器出力に、ピークファクタの初期値を加算したピークファクタ閾値Vtを閾値比較回路へフィードバックさせる。
【0007】
上述した課題は、複数の複素ベースバンド信号に対し、この複素ベースバンド信号に対応した周波数の複素指数関数信号を乗じて周波数変換をし、加算合成してマルチキャリア合成信号を生成する生成部と、マルチキャリア合成信号の瞬時振幅値を算出し、検出幅内において最大となるピーク振幅値を検出するピーク検出部と、ピーク検出回路により算出されたピーク振幅値とピークファクタ閾値とを比較し、このピークファクタ閾値からの超過レベルを計算し、この超過レベルについてピーク振幅値で正規化した信号を出力する閾値比較部と、ピーク検出部と閾値比較部との処理遅延に相当するサンプル数だけ複数の複素ベースバンド信号を遅延させる第1の遅延器と、閾値比較部の出力と、第1の遅延器の出力を乗算する第1の乗算器と、この第1の乗算器の出力の帯域制限を行なうフィルターと、ピーク検出部と閾値比較部とフィルターとの処理遅延に相当するサンプル数だけマルチキャリア合成信号を遅延させる第2の遅延器と、ピーク検出部と閾値比較部とフィルターとの処理遅延に相当するサンプル数だけ複素指数関数信号を遅延させる第3の遅延器と、フィルターの出力と第3の遅延器の出力とを乗じて周波数変換する第2の乗算器と、この第2の乗算器の出力を加算合成してピーク抑圧信号を生成する加算器と、第2の遅延器の出力から、ピーク抑圧信号を減算する減算器と、第2の遅延器の出力とEVM目標値とを乗算した信号と、ピーク抑圧信号における瞬時電力をそれぞれ算出し、LPFでそれぞれ帯域制限を行った後に減算し、2つの信号における電力差分を算出する電力算出回路と、電力算出回路の出力を積算する積算器と、積算器出力とPFR(Peak Factor Reduction)初期値とを加算する加算器と、加算器出力と減算器出力におけるピークファクタ低減後の複素信号における瞬時振幅値をそれぞれ計算し、それらの振幅比較を行い、比較結果にピーク検出幅初期値を加算し、出力する振幅比較回路から構成されるピークファクタ低減装置により、達成できる。
また、無線信号処理を行うリモートラジオヘッド部と、ベースバンド信号処理部とから構成される基地局において、リモートラジオヘッド部は、ベースバンド信号処理部から出力されたベースバンド信号を帯域制限する第2のフィルターと、この第2のフィルターの出力から平均電力に対する瞬時電力を抑圧する前記に記したようなピークファクタ低減装置と、このピークファクタ低減装置の出力信号に、後段の電力増幅器における非線形成分を補償するデジタルプリディストーション回路と、このデジタルプリディストーション回路の出力を電力増幅する電力増幅器とから構成される基地局により、達成できる。
【0008】
本発明の解決手段によると、
複数の複素ベースバンド信号に対し、前記複素ベースバンド信号に対応した周波数の複素指数関数信号を乗じて周波数変換し、加算合成してマルチキャリア合成信号を生成する第1の生成部と、
前記マルチキャリア合成信号に対し、設定された検出幅におけるピーク振幅値と、設定されたピークファクタ閾値とを比較した結果を、前記複数の複素ベースバンド信号に乗算し、前記複素指数関数信号を乗じて周波数変換し、加算合成してピーク抑圧信号を生成する第2の生成部と、
前記第2の生成部の処理遅延に相当するサンプル数だけ前記マルチキャリア合成信号を遅延させる第1の遅延器と、
前記第1の遅延器の出力から、前記第2の生成部が出力したピーク抑圧信号を減算して、出力信号を出力する減算器と、
前記第1の遅延器の出力と予め定められた振幅誤差目標値又はEVM目標値とを乗算した信号と、前記ピーク抑圧信号との電力差分を出力する電力算出部と、
前記電力算出部の出力を積算処理し、前記複数の複素ベースバンド信号の無信号区間を表す無信号情報信号が入力され、該無信号情報信号が無信号区間を表す第1の値であるときに、現在のピークファクタ閾値を保持するために、出力を保持する積算器と、
前記積算器の出力に、予め定められたピークファクタ閾値の初期値を加算した値を、前記第2の生成部のピークファクタ閾値として設定する加算器と、
前記加算器からのピークフアクタ閾値と、前記減算器からの出力信号とを振幅比較した出力を、前記第2の生成部の前記検出幅として設定する振幅比較部と
を備えたピークファクタ低減装置が提供される。
【0009】
また、本発明のひとつの態様によると、
上述のようなピークファクタ低減装置であって、
前記無信号情報信号は、基地局、基地局制御局、その他のベースバンド装置から、前記積算器に入力されること特徴とするピークファクタ低減装置を提供することができる。
また、本発明の他の態様によると、
上述のようなピークファクタ低減装置であって、
前記マルチキャリア合成信号に従い無信号区間を検出して無信号情報信号を作成し、前記積算器に前記無信号情報信号を出力する無信号検出部をさらに備えたこと特徴とするピークファクタ低減装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、無信号区間を有する入力信号においても、EVM目標値内でピークファクタ低減処理することを可能とし、ピークファクタ要因の残留率低減を可能とするピークファクタ低減装置および基地局を提供することができる。本発明を適用することで、無信号区間を有する信号において、無信号区間から脱した後のEVM劣化を抑えることができる。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ピークファクタ低減装置の第1の実施の形態の回路ブロック図である。
【図2】ピークファクタ低減装置の第2の実施の形態の回路ブロック図である。
【図3】ピークファクタ低減装置の第3の実施の形態の回路ブロック図である。
【図4】積算器の回路ブロック図である。
【図5】無信号区間を示すScheduling情報例である。
【図6】振幅判定回路の回路ブロック図である。
【図7】無信号区間検出回路の回路ブロック図である。
【図8】ピーク検出回路の回路ブロック図である。
【図9】閾値比較回路の回路ブロック図である。
【図10】電力算出回路の回路ブロック図である。
【図11】振幅比較回路の回路ブロック図である。
【図12】ピークファクタ低減回路における入出力波形である。
【図13】積算器内のスイッチによるピークファクタ閾値制御を示す図である。
【図14】本実施の形態におけるシミュレーション波形である。
【図15】ピークファクタ低減回路における振幅波形である。
【図16】リモートラジオヘッド部の回路ブロック図である。
【図17】無線システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、実施の形態を用い図面を参照しながら詳細に説明する。

1.実施の形態1
実施の形態1について、図1を参照して説明する。
図1は、ピークファクタ低減装置の回路ブロック図である。図1において、ピークファクタ低減装置100Aは、ピーク検出回路101、閾値比較回路102、NCO(Numerically Controlled Oscillators)103、遅延器104、3台の遅延器105、FIL(Filter)回路107、電力算出回路111、積算器112、振幅比較回路114、複数の加算合成回路115−1、115−2、複数の乗算器116−1〜116−4、減算器117、加算器118を備える。なお、第1の生成部151は、例えば、乗算器116−1、加算合成回路115−1を含むことができ、入力信号からマルチキャリア合成信号Sinを生成する。第2の生成部152は、例えば、遅延器104、乗算器116−2、FIL(Filter)回路107、遅延器105−1、乗算器116−3、加算合成回路115−2、ピーク検出回路101、閾値比較回路102を含むことができ、入力信号からピーク抑圧信号PFRerrを生成する。ピークファクタ低減装置100Aの入力は、入力信号、EVM目標値、スケジューリングパターン(P_S)、PFR(Peak Factor Reduction)初期閾値である。入力信号は、I、Q成分を持つ複素信号である。ピークファクタ低減装置100Aの出力は、ピークファクタを低減された出力信号Soutである。なお、以下の図面でブロック間の一点鎖線は、複数信号であることを意味する。
ピークファクタ低減装置100Aは、まず一様スペクトルを有する少なくとも1キャリア以上の複素ベースバンド信号に対し、乗算器116−1が、NCO回路103によって発生した各ベースバンド信号に対応した周波数を有する複素指数関数を乗じ、周波数変換を行なった上で、加算合成回路115−1により、加算合成する。ピークファクタ低減装置100Aは、加算合成したマルチキャリア合成信号Sinをピーク検出回路101へ入力する。ピーク検出回路101は、検出幅Nサンプル内での最大となる振幅値Vpを検出する。閾値比較回路102は、予め設定された閾値レベルVtを超過したサンプルを検出し、ピーク振幅値Vpにて正規化を行った後に出力する。乗算器116−2は、この閾値比較回路102出力と、処理に相当するD1サンプル数を遅延器104により遅延させた入力信号とを乗算し、ピーク成分を入力信号レベルに換算する。その後、FIL回路107にて帯域制限を行なう。
乗算器116−3は、FIL回路107の出力と、これら処理に相当するD2サンプル数を遅延器105−1により遅延させたNCO103出力である複素指数関数とを乗算し、加算合成回路115−2により加算合成を行うことでピーク抑圧信号PFRerrを生成する。そして、マルチキャリア合成信号Sinに対し、処理に相当するD2サンプル数だけ遅延器105−2により遅延させた信号PFRthrから、ピーク抑圧信号PFRerrを減算器117により減算する。以上の処理で、ピークファクタ低減装置100Aは、周波数帯域外スペクトラムを劣化させることなく、ピークファクタ低減したベースバンド信号Soutを出力する。
図8は、ピーク検出回路の回路ブロック図である。
図8において、ピーク検出回路101は、瞬時電力計算回路301、遅延器302、最大値検出回路303、検出幅生成回路304、振幅変換回路305を備える。瞬時電力計算回路301は、実部と虚部の自乗和を取ることで、瞬時的な電力成分を生成する。遅延器302は、(N−1)段の遅延素子dlyで構成され、N本の信号として出力する。検出幅生成回路304は、入力された検出幅Nに基づいて、最大値を検出する検出幅を生成する。検出幅のタップ長は予め定められ、例えば、(N−3)/2とし、有効タップを“0”、無効タップを“1”で示す。配列の並びとしては、例えば、無効タップ数+有効タップ数の順序で構成される。全タップ有効の場合、ALL0、全タップ無効の場合、ALL1となる。最大値検出回路303は、遅延器302の出力における連続したNサンプルにおいて、検出幅生成回路304で生成した有効タップの示す検出幅内から最大値を検出する。そして、振幅変換回路305は、電力値に対し、平方根を取ることで、振幅値に変換し、振幅値Vpとして出力する。
図1において、ピーク検出回路101より出力された振幅値Vpは、閾値比較回路102にて、ピークファクタ閾値Vtと閾値比較を行なう。
図9は、閾値比較回路の回路ブロック図である。
図9を参照して、閾値比較回路102を説明する。図9において、閾値比較回路102は、閾値比較回路311と、正規化回路312とを備える。閾値比較回路311は、ピーク検出回路101の出力値Vpからピークファクタ閾値Vtを減算し、負の出力を強制的に0へと変換する。正規化回路312は、閾値比較回路311の出力値をピーク振幅値Vpにて正規化した値を出力する。
【0013】
図1に戻って、ピークファクタ低減装置100Aは、閾値比較回路102の出力結果と、処理遅延に相当するD1サンプル数を遅延器104により遅延させた入力信号とを、乗算器116−2が乗算する。この結果、ピークファクタ低減装置100Aは、複素のピークパルス成分を出力する。その後、FIL回路107は、帯域制限を行なう。ピークファクタ低減装置100Aは、FIL回路107の出力と、上述した処理に相当するサンプル数を遅延器105−1により遅延させたNCO回路103出力とを、乗算器116−3により乗じ、加算器115−2により加算合成し、ピーク抑圧信号PFRerrを生成する。そして、ピークファクタ低減装置100Aは、マルチキャリア合成信号Sinに対し、処理に相当するD2サンプル数だけ遅延器105−2により遅延させた信号PFRthrから、ピーク抑圧信号PFRerrを減算器117により減算し、ピークファクタ低減後の出力信号Soutを出力する。
図12に、ピークファクタ低減装置100Aにおける入出力波形を示す。鎖線(PFR前)がマルチキャリア合成信号Sinに対し、処理に相当するD2サンプル数だけ遅延させた信号PFRthrを示し、実線(PFR後)がピークファクタ低減後の出力信号Soutを示し、破線(PFR閾値)がピークファクタ閾値Vtを示す。
ここから、ピークファクタ低減装置100Aは、マルチキャリア合成信号Sinに対し、処理に相当するD2サンプル数だけ遅延させた信号PFRthrと、ピーク抑圧信号PFRerrを用いて、最適となるピークファクタ閾値Vtを算出する。
図10は、電力算出回路の回路ブロック図である。
図10を参照して、電力算出回路111を説明する。図10において、電力算出回路111は、2台の電力計算回路321−1、321−2と、電力計算回路322の出力に接続された2台のLPF(Low−Pass Filter)322−1、322−2と、加算器323とを備える。電力算出回路111は、乗算器116‐4による、マルチキャリア信号PFRthrとEVM目標値との乗算結果をIn1の入力とする。EVM目標値は、例えば、仕様で規定されたEVM規定のうち、ピークファクタ低減回路での劣化許容値を参照し設定することができる。電力算出回路111は、ピーク抑圧信号PFRerrをIn2の入力とする。電力算出回路111は、In1のEVM目標値内で低減可能な電力レベルと、In2の実際に低減するピーク抑圧信号PFRerrの電力レベルを、それぞれ電力計算部321−1と321−2で算出する。電力算出回路111は、急峻なLPF(Low−Pass Filter)322−1、322−2をかけて電力レベルの帯域制限を行なう。ここで、複素信号を電力換算にする目的は、EVMの比較を行なうためである。
【0014】
【数1】

【数2】

【数3】

【0015】
まずEVM目標値EVMtgtを乗算した、目標値内で低減可能な電力レベルのEVMは、式(1)により算出する。式(1)において、Sはマルチキャリア合成信号Sinに対し、処理に相当するD2サンプル数だけ遅延させた信号PFRthrを示す。また、一般的なEVMは式(2)により算出される。Sは式(1)同様、マルチキャリア合成信号Sinに対し、処理に相当するD2サンプル数だけ遅延させた信号PFRthrを示し、Eはピーク抑圧信号PFRerrを示す。式(2)をエラー成分Eについて解くことで、式(3)が算出される。これら式(1)および式(3)について、電力算出回路111は、加算器323で減算処理を行なう。
図4は、積算器の回路ブロック図である。
図4を参照して、積算器112を説明する。図4において、積算器112は、スイッチ(SW:Switch)201と、遅延器202とを備える。積算器112における入力情報は、電力算出回路111の出力信号をIn、処理に相当するD2サンプル数だけ遅延器105−3により遅延させたスケジューリングパターン(P_S)をPinとする。
図5に、スケジューリングパターン(P_S)を示す。スケジューリングパターン(P_S)は、例えば、ベースバンド側より供給される信号であり、“0”及び“1”の2値から構成され、“0”が無信号区間に相当する。
再度図4に戻り、積算器112は、Switch201において、スケジューリングパターン(P_S)が“1”のとき、電力算出回路111の出力信号Inを出力する。このとき、電力算出回路111の後段の積算器112では、式(1)と式(3)の差分が“0”になるまで積算する。そのため、ピークファクタ低減装置100Aの動作直後は、正または負の傾きを持つが、次第に傾斜が緩やかになり、最終的には均衡を保つ。このとき、実際のEVMが目標値と等しくなったことを示す。その一方で、積算器112は、Switch201において、スケジューリングパターン(P_S)が“0”のとき、そのまま“0”を出力する。このとき、電力算出回路111の後段の積算器112では、“0”が積算される。
図13は、積算器内のスイッチによるピークファクタ閾値制御を示す図である。図13に示すように、無信号区間の間は、前回までに積算されていた値がそのまま出力されるため、結果的にピークファクタ閾値をホールドする。
【0016】
図1に戻って、加算器118は、積算器112の出力に、ピークファクタ閾値Vtの初期値(PFR初期閾値)を加算し、ピークファク閾値Vtとして閾値比較回路102へフィードバックさせる。PFR初期閾値は、例えば、電力増幅器におけるバックオフレベルを参照し、設定することができる。
図11は、振幅比較回路の回路ブロック図である。
図11を参照して、振幅比較回路114を説明する。図11(A)において、振幅比較回路114は、2台の瞬時振幅計算回路331−1、331−2と、振幅比較部332と、遅延器333と、セレクタ334と、加算器を備える。図11(B)に示すように、振幅比較部332は、比較部335、否定336、利得337、加算器とを備える。2台の瞬時振幅計算回路331−1、331−2は、それぞれ、ピークファクタ閾値Vtと、ピークファクタ低減後の信号Soutの瞬時振幅値を算出する。その出力信号に対し、振幅比較部332は、2者の振幅比較を行なう。比較部335において、In1(Vt)とIn2(Sout)の振幅値を比較し、ピークファクタ閾値Vtのほうが低い場合には、“1”を出力し、そうでない場合は、“0”を出力する。否定336は、0と1とを入れ替える。利得337の値は、1より十分に小さい値とする。振幅比較部332の目的としては、ピークファクタ閾値Vtの振幅値のほうが高い場合、現状のピーク検出幅の状態でも、ピークファクタ要因であるエラー成分を十分に検出しているため、ピークファクタの検出幅を広くすることで、EVMを緩和させる。その一方で、ピークファクタ低減後の信号Soutの振幅値のほうが高い場合、振幅比較部332は、エラー成分の検出が不十分であるため、ピークファクタの検出幅を狭くする。セレクタ334は、初期処理では、初期値のピーク検出幅と振幅比較部332の出力とを加算する。以降は、検出幅のタップ数を遅延器333で遅延させて、フィードバックさせ、加算処理を行なう。そして、振幅比較回路114の出力に相当するピーク検出幅のタップ数を、ピーク検出回路101へ供給する。
以上のように、実施の形態1によれば、無信号区間のピークファクタ閾値を自動調整しないよう制御し、EVM目標値内でピークファクタ低減を行うピークファクタ低減装置を実現することができる。
【0017】
2.実施の形態2
図2は、ピークファクタ低減装置の第2の実施の形態の回路ブロック図である。
実施の形態2について、図2を参照して説明する。実施の形態2のピークファクタ低減手法は、実施の形態1と同等である。図2において、ピークファクタ低減装置100Bは、ピーク検出回路101、閾値比較回路102、NCO(Numerically Controlled Oscillators)103、遅延器104、2台の遅延器105−1、105−2、FIL回路107、電力算出回路111、積算器112、振幅比較回路114、閾値判定回路121、複数の加算合成回路115−1、115−2、複数の乗算器116−1〜116‐4、減算器117、加算器118を備える。なお、第1の生成部151は、例えば、乗算器116−1、加算合成回路115−1を含むことができ、入力信号からマルチキャリア合成信号Sinを生成する。第2の生成部152は、例えば、遅延器104、乗算器116−2、FIL(Filter)回路107、遅延器105−1、乗算器116−3、加算合成回路115−2、ピーク検出回路101、閾値比較回路102を含むことができ、入力信号からピーク抑圧信号PFRerrを生成する。ピークファクタ低減装置100Bの入力は、入力信号、EVM目標値、無信号閾値、PFR閾値である。入力信号は、I、Q成分を持つ複素信号である。ピークファクタ低減装置100Bの出力は、ピークファクタを低減された出力信号である。
ピークファクタ低減装置100Bは、振幅判定回路121により、無信号閾値と、マルチキャリア合成信号PFRthrを用いて、閾値判定を行うことで無信号区間を検出し、無信号区間におけるピークファクタ閾値を自動調整しないよう制御を行なう。これを、図6を参照して、説明する。
図6は、振幅判定回路の回路ブロック図である。図6において、振幅判定回路121は、瞬時振幅計算器211と、比較部212とを備える。
図6において、瞬時振幅計算器211は、マルチキャリア合成信号PFRthrの瞬時振幅値を算出する。比較部212は、瞬時振幅計算器211の出力信号と入力情報である無信号閾値を用いて、閾値判定を行い、瞬時振幅計算器211の出力信号が無信号閾値以下のときは“0”を、それ以外の場合には“1”を出力する。この2値の情報が、図5に示すような、データのON/OFFを示すScheduling情報に相当する。そして、この比較部212の出力情報をScheduling情報として、積算器112に供給する。
【0018】
3.実施の形態3
図3は、ピークファクタ低減装置の第3の実施の形態の回路ブロック図である。
実施の形態3について、図3を参照して説明する。ピークファクタ低減手法は、実施の形態1と同等である。図3において、ピークファクタ低減装置100Cは、ピーク検出回路101、閾値比較回路102、NCO(Numerically Controlled Oscillators)103、遅延器104、2台の遅延器105−1、105−2、FIL回路107、電力算出回路111、積算器112、振幅比較回路114、無信号区間検出回路131、複数の加算合成回路115−1、115−2、複数の乗算器116−1〜116‐4、減算器117、加算器118を備える。なお、第1の生成部151は、例えば、乗算器116−1、加算合成回路115−1を含むことができ、入力信号からマルチキャリア合成信号Sinを生成する。第2の生成部152は、例えば、遅延器104、乗算器116−2、FIL(Filter)回路107、遅延器105−1、乗算器116−3、加算合成回路115−2、ピーク検出回路101、閾値比較回路102を含むことができ、入力信号からピーク抑圧信号PFRerrを生成する。
ピークファクタ低減装置100Cの入力は、入力信号、EVM目標値、PFR閾値である。入力信号は、I、Q成分を持つ複素信号である。ピークファクタ低減装置100Cの出力は、ピークファクタを低減された出力信号である。
ピークファクタ低減装置100Cは、無信号区間検出回路131により、マルチキャリア合成信号PFRthrを用いて、無信号区間を検出し、無信号区間におけるピークファクタ閾値を自動調整しないよう制御を行なう。これを、図7を参照して、説明する。
図7は、無信号区間検出回路の回路ブロック図である。図7において、無信号区間検出回路131は、瞬時振幅計算器221と、遅延器222、比較判定回路223とを備える。
図7において、瞬時振幅計算器221は、マルチキャリア合成信号PFRthrの瞬時振幅値を算出する。遅延器222は、(M−1)段の遅延素子dlyを備え、M本の信号として出力する。比較判定回路223は、連続したMサンプル全ての瞬時振幅値が “0”以外かどうかを判定する。この判定結果に基づき、連続したMサンプル全ての瞬時振幅値が“0”を検出した場合、“0”を検出した瞬間から所定期間、例えば、1ms間を無信号区間と判断し、1ms間“0”を出力する。それ以外の場合は“1”を出力する。この2値の情報が、図5に示すような、データのON/OFFを示すScheduling情報に相当する。そして、この比較部212の出力情報をScheduling情報として、積算器112に供給する。
【0019】
4.シミュレーション
図14は、本実施の形態におけるシミュレーション波形である。また、図15は、ピークファクタ低減回路における振幅波形である。
図14を参照して、本実施の形態(例、実施の形態3)と従来のピークファクタ低減装置におけるシミュレーション結果を説明する。図14において、入力信号は、サンプリング周波数7.68MHzの複素正規分布信号を4倍オーバーサンプルした、ABSを有する2キャリアのLTE(Long Term Evolution)信号である。図14は、ベースバンドフィルタとして、LTEベースバンドフィルタ用に設計されたフィルターを用い、図14(A)に、EVM目標値を5.0%としたときの、Gauss分布、ピークファクタ低減前、ピークファクタ低減後の従来技術を示し、図14(B)に、EVM目標値を5.0%としたときの、Gauss分布、ピークファクタ低減前、実施の形態3を適用したピークファクタ低減後におけるCCDF(Complementary Cumulative Distribution Function)をプロットした。CCDF(相補累積分布関数)は、振幅レベルの発生確率を示し、縦軸がCCDF、横軸が振幅である。図14で、破線はGauss分布、一点鎖線はピークファクタ低減前、実線は従来技術又は実施の形態3を適用したピークファクタ低減後のCCDFである。
図14より、従来のピークファクタ低減装置は、ピークファクタ低減前後におけるEVMが5.04%であるのに対し、本実施の形態のピークファクタ低減装置におけるピークファクタ低減前後のEVMは4.70%であることが確認できる。これは、従来技術におけるピークファクタ低減装置は、図15に示すように、ABS区間にピークファクタ閾値の自動調整を行ったため、必要以上にピークファクタ閾値が低くなり、劣化が大きくなったためである。また、必要以上にピークファクタ閾値が低くなったために、ABS検出区間から脱したときのEVM劣化が大きくなったためである。その結果として、EVM目標値内でのピークファクタ低減を遂行できない又は、低減が十分でない。しかしながら、本実施の形態におけるピークファクタ低減装置は、ABS区間におけるピークファクタ閾値調整を制御したため、従来技術よりもEVM劣化を軽減させることが出来た。従って、本発明におけるピークファクタ低減装置を適用することで、ピークファクタ低減前後のEVMを改善することを実現できた。
以上、説明したように、上述した実施の形態1〜3では、無信号区間におけるピークファクタ閾値の自動調整機能を制御することで、所望のEVM値の範囲内でピークファクタ低減を可能とするピークファクタ低減装置を実現できた。
【0020】
5.基地局、無線システム
図16は、リモートラジオヘッド部の回路ブロック図である。
次に、図16を参照して、ピークファクタ低減装置を用いた基地局を説明する。
図16において、RRH401は、BBFIL(Base Band Filter)回路413、ピークファクタ低減装置(PFR:Peak Factor Reduction)100、DPD(Digital Pre−Distortion)回路412、送信アンプ(PAU:Power Amplifier Unit)411、低雑音アンプ(LNA:Low Noise Amplifier)415、BBFIL回路416を備える。PFR100には、上述の各実施の形態のピークファクタ低減装置100A、100B又は100Cが用いられる。
送信系から説明する。ベースバンド信号処理部(BBU:Base Band Unit)より出力されたベースバンド信号について、BBFIL回路414は、帯域制限を行なう。帯域制限された信号について、PFR装置100は、帯域外に歪み成分を発生させることなく、平均電力に対する瞬時電力を抑圧する。PFR回路100より出力された信号について、DPD回路412は、後段の電力増幅器における非線形成分を補償する。電力増幅器の入出力特性は非線形であるため、DPD回路412は、この逆特性を付加することで、電力増幅器における入出力特性をリニアにする。そのため、DPD回路412は、電力増幅器の入出力特性と把握している必要があるため、PAU411の出力をフィードバックさせ、電力増幅器の入出力特性を補正する。そして、PAU411は、電力増幅を行ない、アンテナ端より伝送を行う。
受信系について、LNA部415は、アンテナ端より受信した信号の電力増幅を行なう。その後、電力増幅された受信信号はAD変換され、BBFIL回路416は、帯域制限を行なう。帯域制限された受信信号について、RRH401は、ベースバンド信号処理部へ供給する。
【0021】
図17は、無線システムのブロック図である。
次に、無線システムを説明する。図17において、無線システムは、基地局404と端末403とを備える。また、複数の基地局が基地局制御装置により制御される。基地局404は、BBU402と、RRH401と、アンテナ405、406を備える。BBU402は、ベースバンド信号処理を行なう。RRH401は、RF信号処理を行なう。基地局404は、端末403と無線通信を行う。アンテナ405は、送信用アンテナである。アンテナ406は受信用アンテナである。
基地局404は、上述したピークファクタ低減装置をRRH401に備えている。基地局404は、その結果、無信号区間を有する入力信号においても、EVM目標値内でピークファクタ低減処理を行なう。
【符号の説明】
【0022】
100…ピークファクタ低減装置、101…ピーク検出回路、102…閾値比較回路、103…NCO(Numerically Controlled Oscillators)回路、104…遅延器D1、105…遅延器D2、107…FIL回路、111…電力算出回路、112…積算器、114…振幅比較回路、121…振幅判定回路、131…無信号区間検出回路、201…Switch、202…遅延器、211…瞬時振幅計算器、212…比較部、221…瞬時振幅計算器、222…遅延器、223…比較判定回路、301…瞬時電力計算回路、302…遅延器、303…最大値検出回路、304…検出幅生成回路、305…振幅変換回路、311…閾値比較回路、312…正規化回路、321…瞬時電力計算器、322…LPF回路、331…瞬時振幅計算回路、332…振幅比較部、333…遅延器、334…セレクタ、335…比較部、336…否定、337…利得、401…RRH(Remote Radio Head)、402…BBU(Base Band Unit)、403…端末、404…基地局、405…送信専用アンテナ、406…受信専用アンテナ、411…PAU(Power Amplifier Unit)、412…DPD(Digital Pre−Distortion)、413…BBFIL(Base Band Filter)回路、415…LNA(Low Noise Amplifier)、416…BBFIL回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の複素ベースバンド信号に対し、前記複素ベースバンド信号に対応した周波数の複素指数関数信号を乗じて周波数変換し、加算合成してマルチキャリア合成信号を生成する第1の生成部と、
前記マルチキャリア合成信号に対し、設定された検出幅におけるピーク振幅値と、設定されたピークファクタ閾値とを比較した結果を、前記複数の複素ベースバンド信号に乗算し、前記複素指数関数信号を乗じて周波数変換し、加算合成してピーク抑圧信号を生成する第2の生成部と、
前記第2の生成部の処理遅延に相当するサンプル数だけ前記マルチキャリア合成信号を遅延させる第1の遅延器と、
前記第1の遅延器の出力から、前記第2の生成部が出力したピーク抑圧信号を減算して、出力信号を出力する減算器と、
前記第1の遅延器の出力と予め定められた振幅誤差目標値又はEVM目標値とを乗算した信号と、前記ピーク抑圧信号との電力差分を出力する電力算出部と、
前記電力算出部の出力を積算処理し、前記複数の複素ベースバンド信号の無信号区間を表す無信号情報信号が入力され、該無信号情報信号が無信号区間を表す第1の値であるときに、現在のピークファクタ閾値を保持するために、出力を保持する積算器と、
前記積算器の出力に、予め定められたピークファクタ閾値の初期値を加算した値を、前記第2の生成部のピークファクタ閾値として設定する加算器と、
前記加算器からのピークフアクタ閾値と、前記減算器からの出力信号とを振幅比較した出力を、前記第2の生成部の前記検出幅として設定する振幅比較部と
を備えたピークファクタ低減装置。

【請求項2】
請求項1に記載のピークファクタ低減装置であって、
前記第2の生成部は、
前記マルチキャリア合成信号の瞬時振幅値を算出し、検出幅内において最大となるピーク振幅値を検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部により算出されたピーク振幅値とピークファクタ閾値とを比較し、前記ピークファクタ閾値からの超過レベルを計算し、前記超過レベルについて前記ピーク振幅値で正規化した信号を出力する閾値比較部と、
前記ピーク検出部と前記閾値比較部との処理遅延に相当するサンプル数だけ前記複数の複素ベースバンド信号を遅延させる第2の遅延器と、
前記閾値比較部の出力と、前記第2の遅延器の出力を乗算する第1の乗算器と、
前記第1の乗算器の出力の帯域制限を行なうフィルターと、
前記ピーク検出部と前記閾値比較部と前記フィルターとの処理遅延に相当するサンプル数だけ前記複素指数関数信号を遅延させる第3の遅延器と、
前記フィルターの出力と前記第3の遅延器の出力とを乗じて周波数変換する第2の乗算器と、
前記第2の乗算器の出力を加算合成してピーク抑圧信号を生成する加算合成部と
を備えたこと特徴とするピークファクタ低減装置。

【請求項3】
請求項1に記載のピークファクタ低減装置であって、
前記複数の複素ベースバンド信号に対応した周波数の複素指数関数信号を発生する
Numerically Controlled oscillators(NCO)をさらに備えたこと特徴とするピークファクタ低減装置。

【請求項4】
請求項1に記載のピークファクタ低減装置であって、
前記無信号情報信号は、基地局、基地局制御局、その他のベースバンド装置から、前記積算器に入力されること特徴とするピークファクタ低減装置。

【請求項5】
請求項1に記載のピークファクタ低減装置であって、
前記無信号情報信号は、Almost Blank Subframe(ABS)パターンであること特徴とするピークファクタ低減装置。

【請求項6】
請求項1に記載のピークファクタ低減装置であって、
前記ピーク検出部と前記閾値比較部と前記フィルターとの処理遅延に相当するサンプル数だけ、無信号区間のスケジューリング情報を示す信号を遅延させることにより、前記無信号情報信号を出力する第4の遅延器をさらに備え、
前記第4の遅延器の出力を前記積算器に入力し、前記積算器は、前記無信号情報信号が前記第1の値を示すときに、現在のピークファクタ閾値を保持するよう制御することを特徴とするピークファクク低減装置。

【請求項7】
請求項1に記載のピークファクタ低減装置であって、
前記マルチキャリア合成信号に従い無信号区間を検出して無信号情報信号を作成し、前記積算器に前記無信号情報信号を出力する無信号検出部をさらに備えたこと特徴とするピークファクタ低減装置。

【請求項8】
請求項1に記載のピークファクタ低減装置であって、
前記マルチキャリア合成信号の瞬時振幅値と、前記無信号区間を検出するために予め設定する無信号閾値とを振幅比較して、第2の遅延器出力の瞬時振幅値が無信号閾値より小さいとき前記第1の値を出力する振幅判定回路をさらに備え、
前記振幅判定回路の出力を前記積算器に入力し、前記積算器は、前記振幅判定回路の出力が前記第1の値を示すときに、現在のピークファクタ閾値を保持するよう制御することを特徴とするピークファクタ低減装置。

【請求項9】
請求項1に記載のピークファクタ低減装置であって、
前記マルチキャリア合成信号の瞬時振幅が、予め定められたサンプル数の期間、無信号区間を示す値であることを検出した場合、予め設定された所定期間、前記第1の値を出力する無信号区間検出回路をさらに備え、
前記無信号区間検出回路の出力を前記積算器に入力し、前記積算器は、前記無信号区間検出回路の出力が前記第1の値を示すときに、現在のピークファクタ閾値を保持するよう制御することを特徴とするピークファクク低減装置。

【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載のピークファクタ低減装置を備えた基地局。

【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載のピークファクタ低減装置を備えた基地局であって、
前記基地局は、無線信号処理を行うリモートラジオヘッド部と、ベースバンド信号処理部とを備え、
前記リモートラジオヘッド部は、
前記ベースバンド信号処理部から出力されたベースバンド信号を帯域制限するベースバンドフィルターと、
前記ベースバンドフィルターの出力から平均電力に対する瞬時電力を抑圧する前記ピークファクタ低減装置と、
前記ピークファクタ低減装置の出力信号に、後段の電力増幅器における非線形成分を補償するデジタルプリディストーション回路と、
前記デジタルプリディストーション回路の出力を電力増幅する電力増幅器と
を備えたことを特徴とする基地局。

【請求項12】
請求項1乃至9のいずれかに記載のピークファクタ低減装置を備えた、複数の基地局と、
前記複数の基地局を制御するための基地局制御装置と
を備えた無線システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−62732(P2013−62732A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200770(P2011−200770)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】