ファネロケーテ由来のセロビオヒドロラーゼの利用
【課題】セルロースの分解に相乗効果に貢献できるセロビオヒドロラーゼ及びそのセロビオヒドロラーゼのセルロースの分解への利用を提供する。
【解決手段】 Phanerochaete chrysosporium(ファネロケーテ・クリソスポリウム)由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を含有する、セルロース分解用酵素製剤とする。
【解決手段】 Phanerochaete chrysosporium(ファネロケーテ・クリソスポリウム)由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を含有する、セルロース分解用酵素製剤とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース等のバイオマスを利用するためのファネロケーテ由来のセロビオヒドロラーゼの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマスへの期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。なかでも、セルロースの利用が期待されている。セルロースは、糖であるグルコースがβ−1,4結合によって縮合した高分子化合物であり、分子間水素結合により強固な結晶構造を構成している。セルロースを効率よく単糖まで分解(糖化)するには、少なくとも3つのタイプのセルロース分解酵素(セルラーゼ)が必要であり、それらが協同して作用することによって初めて可能になると考えられている(以下、こうした効果を相乗効果ともいう。)。この3つのタイプのセルラーゼは、高分子のセルロースに対して作用するエキソ型(末端から2単糖づつ切断する)のセロビオヒドロラーゼ(CBH)と、エンド型(ランダムに切断する)のエンドグルカナーゼ(EG)と、これらの酵素によりある程度オリゴマー化されたものを単糖まで分解するβ−グルコシダーゼ(BGL)である。
【0003】
結晶性セルロースを含む高分子構造部分の分解は極めて困難であり、こうした高分子構造部分を十分に分解できる酵素及びセルロース分解の相乗効果のある組合せの取得が望まれている。
【0004】
そこで、組合せられた異なるタイプのセルラーゼが最も相乗的に作用して効率的にセルロースを分解できる組合せが種々検討されている。例えば、前記した3つの酵素の一つであるセロビオヒドロラーゼ(CBH)には、GHF7に属し、セルロース鎖の還元末端から切断するとされているCBH Iと、GHF6に属し同非還元末端から切断するとされているCBH IIが知られているが、セロビオヒドロラーゼについても種々の報告がある。例えば、ファネロケーテ属のPhanerochaete chrysosporiumが産生するセロビオヒドロラーゼにあっては、CBH IIよりもCBH Iの方が、他のタイプのセルラーゼと組み合わせたときのセルロース分解の相乗効果が高いとの報告がされている。例えば、Pc産生のCBH IとPc産生の他のCBH Iとの組合せは、Pc産生のCBH IとPc産生のCBH IIとの組合せよりも優れるとの報告がされている(非特許文献1)。また、Pc産生のCBH IとPc産生のEG(PcEG)との組合せは、PcCBH IIとPcEGとの組合せよりも優れるとの報告もされている(非特許文献2)。
【0005】
また、トリコデルマ属のTrichoderma reeseiについても、CBH IIよりもCBH Iの方が、他のタイプのセルラーゼと組み合わせたときのセルロース分解の相乗作用が高いとの報告がされている。例えば、PcEGIIIとTrCBH Iとの組合せは、PcEGIIIとTrCBH IIとの組合せよりも優れるとの報告がされている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Uzcatsguiら、J.Biotechnol.19(2-3):271-85
【非特許文献2】Uzcatsguiら、J.Biotechnol.21(1-2):143-59
【非特許文献3】Henrikssonら、Eur. J. Biochem. 259(1-2):88-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1〜3を始めとして、Phanerochaete chrysosporium産生するCBH IIがCBH Iよりも他のタイプのセルラーゼに組み合わせて用いるのに好ましいとの報告はなされていない。また、Phanerochaete chrysosporiumが産生するCBHIIに関しては、他の微生物起源のEGとの具体的な相乗効果の報告はなされていない。
【0008】
本発明は、セルロースの分解に相乗効果に貢献できるセロビオヒドロラーゼ及びそのセロビオヒドロラーゼのセルロースの分解への利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した現状に鑑み、セルロースの分解に必要な酵素のうちセロビオヒドロラーゼに着目し、特に、Phanerochaete chrysosporiumが産生するCBH II(PcCBH II)に着目した。PcCBH IIは、上述のようにPcCBHIよりセルロース分解の相乗効果に劣るとの評価がなされていたところ、本発明者らが新たに開発した評価系を用いてPcCBH2を評価したところ、PcCBH I及び他の起源のCBHと比較して相乗効果に寄与することができる酵素であるという知見を得た。さらに、このPcCBH IIを改変することにより相乗効果に強く貢献できるCBH IIを提供できるという知見を得た。本発明によれば、これらの知見に基づき以下の手段が提供される。
【0010】
本発明によれば、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を含有する、セルロース分解用酵素製剤が提供される。この酵素製剤において、前記改変体は、配列番号2に記載のアミノ配列における22位又はこれに相当する位置において、セリンがプロリンに置換されたアミノ酸変異を有する改変体とすることができる。
【0011】
また、前記改変体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列における表1に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される1種又は2種以上を有する改変体であってもよい。
【表1】
【0012】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5に属するエンドグルカナーゼを含んでいてもよく、好ましくは、当該他起源由来のGHF5に属するエンドグルカナーゼは、Trichoderma reesei、Aspergillus niger及びAspergillus oryzaeに由来するエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上とすることができる。また、前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF12に属するエンドグルカナーゼを含んでいてもよく、当該GHF12のエンドグルカナーゼは、Trichoderma reeseiのエンドグルカナーゼ、Aspergillus niger由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上とすることができる。前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF7に属するエンドグルカナーゼであってもよく、Trichoderma reesei由来及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上とすることができる。さらに、他起源のエンドグルカナーゼは、GHF45に属するエンドグルカナーゼであってもよく、Trichoderma reesei由来及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上とすることができる。
【0013】
本発明の酵素製剤においては、さらに、GHF7に属するセロビオヒドロラーゼを含んでいてもよい。また、本発明の酵素製剤は、Trichoderma reesei又はその形質転換体由来のセルラーゼ組成物を含有していてもよい。さらに本発明の酵素製剤は、β−グルコシダーゼを表層提示した細胞を利用したCBPプロセスを想定する場合には、グルコースによるCBHの反応阻害を回避できることから、β-グルコシダーゼを含有しなくてもよい。
【0014】
本発明によれば、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体を含有する、セルロースを分解するために他のセルラーゼと組み合わされて使用されるセルロース分解活性増強剤が提供される。本増強剤において、前記他のセルラーゼは、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上を含むことができ、前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5、GHF7、GHF12及びGHF45に属するエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上であってもよい。さらに、前記他起源のエンドグルカナーゼは、Trichoderma reesei、Aspergillus niger及びAspergillus orizaeからなる群から選択される1種又は2種以上を起源とすることができる。
【0015】
本発明によれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列における22位又はこれに相当する位置において、セリンがプロリンに置換されたアミノ酸変異を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質が提供される。本タンパク質は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有することが好ましい。また、本発明によれば、上記タンパク質をコードするDNAを含む、DNA構築物が提供され、本DNA構築物は、発現ベクターであってもよい。本発明によれば、本DNA構築物によって形質転換された形質転換体も提供される。
【0016】
本発明によれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列における表1に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される選択される1種又は2種以上を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質も提供される。
【0017】
本発明によれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列において表2の各改変体が有する変異の種類に示すアミノ酸変異又はこれらのアミノ酸変異に相当する変異を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質も提供される。
【表2】
【0018】
また、本発明によれば、上記タンパク質をコードするDNAを含む、DNA構築物が提供され、本DNA構築物は、発現ベクターであってもよい。本発明によれば、本DNA構築物によって形質転換された形質転換体も提供される。
【0019】
本発明によれば、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を発現する、形質転換体が提供される。本形質転換体において、前記セロビオヒドロラーゼ又はその改変体と前記他起源のエンドグルカナーゼとを細胞表層に保持する又は細胞外に分泌していてもよい。また、β−グルコシダーゼの発現が抑制されていてもよいし、前記セロビオヒドロラーゼ又はその改変体及び前記他起源のエンドグルカナーゼ以外のセルラーゼであって、内在性のセルラーゼの発現が抑制されていてもよい。さらに、前記形質転換体の宿主は、非セルラーゼ生産菌であってもよい。
【0020】
本発明によれば、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を製造する、セルロース分解用の酵素製剤の生産方法が提供される。
【0021】
本発明によれば、セルロースの存在下、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを低分子化する工程、を備える、セルロースの低分子化産物の生産方法が提供される。この生産方法において、前記低分子化工程は、β−グルコシダーゼの非存在下でセルロースを分解して、セルロースオリゴマーを得る工程としてもよいさらに、前記低分子化工程は、前記セルロースとともにリグニン及びヘミセルロースが共存していてもよい。
【0022】
また、本発明によれば、セルロースを原料として有用物質を生産する方法であって、セルロースの存在下、β−グルコシダーゼの非存在下で、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを分解してオリゴマーを生産する工程と、前記セルロースオリゴマーをβ−グルコシダーゼで分解してグルコースを生産する工程と、を備える、生産方法が提供される。この生産方法において、前記グルコース生産工程は、β−グルコシダーゼを発現する酵母などのエタノール生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いるエタノール発酵工程としてもよいし、前記グルコース生産工程は、β−グルコシダーゼを発現する有機酸生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いる有機酸発酵工程としてもよい。グルコースを炭素源とする微生物による全てのバイオファイナリー技術に展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】各種のセロビオヒドロラーゼとエンドグルカナーゼの組合せによるセルロース分解の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図2A】PcCBH IIと各種CBH I及びエンドグルカナーゼとの組合せによるセルロース分解の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図2B】AoCBH IIと各種CBH I及びエンドグルカナーゼとの組合せによるセルロース分解の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図2C】TrCBH IIと各種CBH I及びエンドグルカナーゼとの組合せによるセルロース分解の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図3】CBH II改変体によるセルロース分解活性の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図4】CBH II改変体によるPSC溶液の分解結果を示す図である。
【図5】CBH II改変体によるアビセル溶液の分解結果を示す図である。
【図6】市販酵素製剤に対するPcCBH2及び改変体の添加効果のPSC溶液による評価結果を示す図である。
【図7】市販酵素製剤に対するPcCBH2の添加効果のPSCプレートによる評価結果を示す図である。
【図8】市販酵素製剤に対するPcCBH2の添加効果の評価結果を相加予測値と実測値とから示す図である。
【図9】実施例5で得られた改変体の比活性測定結果を示す図である。
【図10】上位11クローンの相乗効果評価結果を示す図である。
【図11】シングル化改変体の相乗効果評価結果を示す図である。
【図12】PcCBH2の立体構造モデルと部位特異的変異導入部位とを示す図である。
【図13】基質結合トンネル周辺の部位特異的改変体の相乗効果評価結果を示す図である。
【図14】相加改変体のカクテルへの添加効果評価結果を示す図である。
【図15】相加改変体の市販酵素製剤への添加効果評価結果を示す図である。
【図16】実バイオマス由来セルロース成分に対する添加効果評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と他起源のエンドグルカナーゼとの組合せに関し、これらを含むセルロース分解用の酵素製剤のほか、セルロース分解活性増強剤、こうした組合せでセルラーゼを発現する形質転換体、こうした酵素製剤の生産方法、こうした組合せを有用物質の生産方法等に関する。
【0025】
本発明によれば、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ及びその改変体が、それぞれ他起源のエンドグルカナーゼと組み合わされることでセルロース分解の相乗効果に優れて貢献できる。このため、これらのセロビオヒドロラーゼと他起源のエンドグルカナーゼとの組合せによって、効率的にセルロースを分解できるようになる。したがって、この組合せをセルロースを利用する各種工程の上流側の工程で用いることで、効率的にセルロースオリゴマー、グルコースを生産でき、さらにはこれらを炭素源として用いる発酵に利用できる。また、実バイオマスに由来するリグニンやヘミセルロースが共存していても、セルロースを効率的に分解するおとができる。
【0026】
以下、本発明の実施形態を説明するが、まず、本発明におけるPhanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ及びその改変体について説明し、次いで、酵素製剤及びセルロース分解活性増強剤としてのこれらの生産方法及び利用等について説明する。なお、GHF(Glycoside Hydrolase Family)によるセルラーゼの分類は、CAZy(Carbohydrate active Enzymes)のホームページ(http://www.cazy.org/fam/acc_GH.html)において提供されている。
【0027】
(Phanerochaete chrysosporiumに由来しGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ)
本明細書において、「Phanerochaete chrysosporiumに由来する」とは、Phanerochaete chrysosporiumに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)が生産するGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ(CBH II)又は当該微生物の生産するタンパク質をコードする遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたCBH IIをいう。したがって、Phanerochaete chrysosporiumから取得したCBH IIをコードする遺伝子(又はその改変遺伝子)を導入した形質転換体によって生産された組換体タンパク質であるCBH IIも、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH IIに該当する。
【0028】
(PcCBH2)
本発明におけるCBHIIの一つの態様は、天然のPhanerochaete chrysosporiumから単離されるCBH II(以下、これを改変体と区別してPcCBH2という。)である。典型的なアミノ酸配列は、配列番号2に記載されている(Appl. Environ.Microbaial. 60(12),4387−4393(1994))。
【0029】
本発明のPcCBH2は、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH IIであれば、同種の個々の菌株から採取されるものであってもよい。例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列に基づいて他のPhanerochaete chrysosporium株から取得されたものであってもよい。PcCBH2としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して75%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有していてもよく、また当該相同性アミノ酸配列からなっていてもよい。
【0030】
PcCBH2は、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対してより好ましくは80%以上の相同性、さらに好ましくは85%以上の相同性、一層好ましくは90%以上の相同性を有し、最も好ましくは95%以上の相同性を有する。特定のアミノ酸配列に対する相同性は、NCBIのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)において利用可能なblastp, psi-blast, phi-blastを用いたprotein blastやblastxなどのプログラムを利用して取得することができる。
【0031】
PcCBH2は、また、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号1で表される塩基配列)の全体又はその一部をプローブとして用いるとき、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるものであってもよい。本明細書で言う「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 3nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989(以下、モレキュラークローニング第3版と略す)又は、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0032】
こうして得られるPcCBH2は、配列番号2で表されるアミノ酸配列及びこれと一定以上の相同性を有するアミノ酸配列のいずれかにおいて、また、1又は数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列を有していてもよく、また当該アミノ酸配列からなっていてもよい。アミノ酸変異の個数は特に限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、アミノ酸変異は、置換、欠失及び付加のいずれであってもよく、2種類以上の変異態様を同時に含んでいてもよい。
【0033】
(PcCBH2の改変体)
PcCBH2の改変体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において人工的にアミノ酸変異を導入したものであり、CBH II活性を有するタンパク質である。CBH II活性を有するとは、CBH II活性を有していれば足りるが、好ましくは、PcCBH2と同等程度又はそれ以上のセルロース分解時における相乗効果を有していることを意味している。
【0034】
アミノ酸変異は、各種の手法にて導入することができる。例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列や相同性配列をコードするDNA等の遺伝子情報を改変する方法を用いることができる。DNAに変異を導入して遺伝子情報を改変して本発明のタンパク質を得るには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan−K(TAKARA社製)やMutan−G(TAKARA社製))などを用いて変異の導入が行われる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、遺伝子の変異導入やキメラ遺伝子を構築することもできる。エラー導入PCR及びDNAシャッフリング手法は、当技術分野で公知の手法であり、例えばエラー導入PCRについてはChen K, and Arnold FH. 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 90: 5618-5622を、またDNAシャフリングやカセットPCR等の分子進化工学的手法は、例えば、Kurtzman,A.L.,Govindarajan, S., Vahle, K., Jones, J. T., Heinrichs, V., Patten P. A.,Advances in directed protein evolution by recursive genetic recombination: applications to therapeutic proteins. Curr. Opinion Biotechnol.,12, 361-370, 2001、及び、Okuta, A., Ohnishi, A. and Harayama, S., PCR isolation of catechol 2,3-dioxygenase gene fragments from environmental samples and their assembly into functional genes. Gene, 212, 221-228, 1998を参照することができる。なかでも、エラープローンPCR等によりランダム変異を導入する分子進化的手法を利用する無細胞タンパク質合成系を採用することが好ましい。エラープローンPCRに適用する無細胞タンパク質合成系としては、公知のあるいは本出願人が出願した特開2006−61080号公報及び特開2003−116590号公報に記載のタンパク質合成系を用いることができる。本出願人によるこれらの無細胞タンパク質合成系を用いることで活性型の酵素を容易に得ることができる。このため、これらのタンパク質合成系が適用されたエラープローンPCRは、本発明のタンパク質を取得する手法として好ましく用いることができる。
【0035】
改変体としては、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列の22位又はそれに相当する位置においてセリンがプロリンに置換(S22P)された配列を有するものが挙げられる。かかるアミノ酸配列を配列番号4に示し、当該、アミノ酸配列をコードするDNAにおける塩基配列の一例を配列番号3に示す。なお、配列番号2に記載のアミノ酸配列の22位に相当する位置は、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して比較するタンパク質のアミノ酸配列の相同性を考慮しつつ、アラインメントを行い、配列番号2の22位に相当する位置のセリンを決定することができる。
【0036】
さらに、改変体としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列における以下の表3に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される選択される1種又は2種以上を有するものが挙げられる.なお、本明細書において、「アミノ酸変異に相当するアミノ酸変異」は、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して比較するタンパク質のアミノ酸配列の相同性を考慮しつつアラインメントを行って、「配列番号2に記載のアミノ酸配列におけるアミノ酸変異に相当するアミノ酸変異」を決定できる。したがって、改変体は、特定のアミノ酸変異とそれに相当するアミノ酸変異との双方とを同時に有することはない。
以下の表3では、I群に属するアミノ酸変異は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるセルビロヒドロラーゼの全域に関する変異であり、II群に属するアミノ酸変異は、同セロビオヒドロラーゼの基質結合トンネル周辺の変異である。以下の表においては、I群に属するアミノ酸変異とII群に属するアミノ酸変異とを組み合わせて用いることが好ましい。また、以下の表3において有効性が「*」として表記されるもの用いるのが好ましく、より好ましくは、有効性が「**」として表記されるものを用いるのが好ましく、さらに好ましくは有効性が「***」として表記されるものを用いるのが好ましい。
【表3】
【0037】
改変体としては、より具体的には、配列番号2に記載のアミノ酸配列において以下の表4に示す各改変体が有する変異の種類に示すアミノ酸変異又はこれらのアミノ酸変異に相当する変異を有するタンパク質が挙げられる。なかでも、以下の表4において有効性が「**」として表記されるものを用いるのが好ましく、有効性が「***」として表記されるものを用いるのがさらに好ましい。特に、改変体52〜58として記載の改変体は、BGL、EG及びCBH Iと組み合わせたときのセルロースの分解活性は、親株(野生型)の4.5倍以上であった(最大値はおおよそ6.5倍程度であった)。
【0038】
【表4】
【0039】
本発明におけるPcCBH2及びその改変体は、他の起源由来のエンドグルカナーゼと組み合わせたときに、セルロースの分解に相乗効果を有する。このような相乗効果は、以下に説明する本発明者らによる評価系(特願2007−243626(特開2009−72102号公報)により評価することができる。
【0040】
セルロース分解の相乗効果は、セルロースを含有する固相体からなる評価領域にPcCBH2又はその改変体を供給し、当該領域の固相体中のセルロースを分解させて、セルロースの消失に基づいて形成されるハロ(固相体においてバイオマスの分解により淡色化又は無色化する領域)等として検出できる。評価領域には相乗効果に寄与すると考えられる他のセルラーゼを併せて供給することができる。
【0041】
固相体におけるセルロース消失に基づくハロは、通常、周囲よりも透明性の高い部分として形成され、そのままでも、目視等により視認することができる。ハロ検出時にコンゴレッドなどで、セルロースを染色することで明瞭にハロを検出することができる。また、バイオマスとして色素結合セルロース(例えば、Cellulose Azure、Sigma社製など)を用いた場合、セルロースの分解により色素が固相体中に拡散しハロを形成するため、容易にセルロース分解活性を検出することができる。同様に蛍光色素を結合したセルロースもバイオマスとして利用することでハロを容易に検出することができる。さらに、酸処理セルロースなどをバイオマスとして用いた場合にもセルロースの分解により透明なハロを形成するため、セルロース分解活性を容易に検出することができる。また、基質としてCMC等を用いて、DNS法やソモギ−ネルソン法により、セルロースの分解によって生じる還元糖を検出してもよい。
【0042】
ハロ形成用の固相体は、例えば、バイオマスを担持するゲルやフィルムが挙げられる。ゲルやフィルムの構成材料は特に限定しないで、天然又は人工の高分子材料を好ましく用いることができる。このような高分子材料としては、アガロース(寒天)を好ましく用いることができる。固相体は、例えば、ある程度精製されたバイオマスとしてのセルロースをアガロース溶液に懸濁又は溶解させた後、所定条件で固化することにより得ることができる。また、未精製のバイオマスを乾燥粉砕して得られた粉体をアガロース溶液に懸濁した後、固化することによっても得ることができる。固相体の形態及び固相体に含まれるセルロース量は、エンドグルカナーゼ活性を検出できる程度であればよい。ハロを検出するには、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、リン酸膨潤セルロース(PSC)、アビセル等を用いることができるが、結晶構造を有する不溶性セルロースに対する相乗効果を評価するには、PSCやアビセルを用いることが好ましい。
【0043】
本発明におけるPcCBH2及び改変体は、上述のようにタンパク質の無細胞合成系による遺伝子工学的手法によって取得することができるほか、本発明のタンパク質をコードするDNAで適当な宿主細胞を形質転換し、当該形質転換体において本発明のタンパク質を生産させる遺伝子工学的手法により取得することができる。形質転換体を用いた遺伝子工学的なタンパク質の生産方法は、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0044】
本発明のPcCBH2及び改変体は、Phanerochaete chrysosporium又は各種微生物を宿主とする形質転換体が産生するタンパク質であるときには、これらの菌を培養して培養上清を取得し、この培養上清からPcCBH2及び改変体を分離・精製すればよい。分離や精製には公知のタンパク質の分離・精製法を適用すればよい。なお、PcCBH2及び改変体を培養上清から分離精製することは必ずしも必要ではなく、培養上清をそのまま用いてもよい。
【0045】
(セルロース分解用酵素製剤)
本発明のセルロース分解用酵素製剤は、PcCBH2及び/又はその改変体(以下、PcCBH2と改変体とを特に区別する必要がない限り、この文言に代えて単にPcCBH2等を用いる。)と、Phanerochaete chrysosporium以外の他の起源のエンドグルカナーゼとを含有することができる。本発明のPcCBH2等は、Phanerochaete chrysosporium以外の他の起源のエンドグルカナーゼと組合せてセルロースを分解するとき、セルロース分解のための相乗効果に強く寄与することが本発明者らによって初めて見出された。したがって、PcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼとを組み合わせる酵素製剤は、セルロース分解用として有用である。
【0046】
本明細書において、セルロースは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合により重合した重合体及びその誘導体が挙げられる。グルコースの重合度は特に限定しない。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。また、セルロースは、その部分分解物である、セロオリゴ糖、セロビオースであってもよい。さらに、セルロースは、配糖体であるβグルコシド、リグニン及び/又はヘミセルロースとの複合体であるリグノセルロース、さらにペクチンなどとの複合体であってもよい。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよい。さらに、セルロースは、天然由来のものでも、人為的に合成したものでもよい。セルロースの由来も特に限定しない。植物由来のものでも、真菌由来のものでも、細菌由来のものであってもよい。また、セルロースは、上記したセルロースを含むセルロース含有材料であってもよい。セルロース含有材料は、綿や麻などの天然繊維品、レーヨン、キュプラ、アセテート、リヨセルなどの再生繊維品、稲ワラ、籾殻、木材チップなどのリグノセルロース系の農産廃棄物などのいわゆる実バイオマスであってもよいし、その前処理物であってもよい。
【0047】
他起源由来のエンドグルカナーゼにおける「他起源」とは、Phanerochaete chrysosporium以外の微生物を意味し、Phanerochaete chrysosporium以外であれば特に限定されないが、例えば、Trichoderma reesei、Aspergillus aculeatus、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Clostridium thermocellum、Hemicola insolens、Chaetomium globosum等の公知のセルラーゼを生産又はその遺伝子を保有する菌が挙げられる。なかでも、Trichoderma reesei、Aspergillus aculeatus、Aspergillus oryzae、Aspergillus niger等が好ましく挙げられる。より好ましくは、Trichoderma reeseiである。
【0048】
他起源由来のエンドグルカナーゼとしては、公知の各種エンドグルカナーゼが挙げられ、これらを単独であるいは2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。たとえば、GHF5に属するエンドグルカナーゼが挙げられる。GHF5に分類されるエンドグルカナーゼのなかでも、好ましくは、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、Aspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus niger由来のエンドグルカナーゼを好ましく用いることができる。より好ましくはTrichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼAspergillus niger由来のエンドグルカナーゼである。GHF5に分類されるエンドグルカナーゼは、こうしたエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0049】
エンドグルカナーゼとしては、GHF12に属するエンドグルカナーゼが挙げられる。なかでも、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、Aspergillus niger由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼが挙げられる。こうしたエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0050】
エンドグルカナーゼとしては、GHF7及びGHF45に属するエンドグルカナーゼであってもよい。なかでも、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼを好ましく用いることができる。
【0051】
本発明の酵素製剤は、Phanerochaete chrysosporium由来のエンドグルカナーゼを含んでいてもよい。Phanerochaete chrysosporium由来のエンドグルカナーゼは、CBHII及びその改変体をPhanerochaete chrysosporiumの培養物等から取得した場合においてPcCBH2及びその改変体とともに容易に取得できる。
【0052】
本発明の酵素製剤は、エンドグルカナーゼ以外の他のセルラーゼを含むことができる。例えば、GHF7に属するセロビオヒドロラーゼ(CBH I)を含有することができる。CBH Iは、CBH Iが、PcCBH2等と協動することにより、一層セルロース分解の相乗効果が発揮される。CBH Iは、Phanerochaete chrysosporium由来であってもよいし、他起源であってもよい。
【0053】
本発明の酵素製剤は、他起源のセルラーゼ生産菌の培養物(培養上清であってもよい)から取得された2種類以上のセルラーゼを含有していてもよい。セルラーゼ生産菌としては、特に限定されないで、適宜選択できるが、エンドグルカナーゼの起源としてTrichoderma reesei、Aspergillus aculeatus、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae等が好ましく挙げられる。より好ましくは、Trichoderma reeseiである。
【0054】
本発明の酵素製剤は、β−グルコシダーゼを含有していてもよいし、実質的に含有していなくてもよい。本発明の酵素製剤が、β−グルコシダーゼを実質的に含有していない場合、β−グルコシダーゼにより生成されるグルコースが他のセルラーゼに対して生産物阻害を生じない点において好ましい。したがって、β−グルコシダーゼを実質的に含有しない酵素製剤であれば、確実に生産物阻害を回避して、本発明者らが評価系で確認したセルロース分解の相乗効果を製剤においても得ることができる。なお、こうした酵素製剤は、グルコースにまで分解するものでなく、セルロースをセロビオース等のオリゴマーにまで分解する用途に用いることができる。
【0055】
なお、実質的にβ−グルコシダーゼを含有しないとは、β−グルコシダーゼを含有しないほか、β−グルコシダーゼによる生産物阻害を回避又は抑制できる範囲でβ−グルコシダーゼ量を含んでいてもよいことを意味している。本発明の酵素製剤は、好ましくは、β−グルコシダーゼを含有していない。β−グルコシダーゼを実質的に含有しない酵素製剤は、例えば、内在性のβ−グルコシダーゼ遺伝子を保持しない微生物(酵母や麹菌等)や内在性のβ−グルコシダーゼ遺伝子を有するが当該遺伝子を破壊した微生物に対して、PcCBH2等をコードする遺伝子並びに他起源のエンドグルカナーゼを導入した形質転換体の培養物から容易に得ることができる。
【0056】
本発明の酵素製剤は、PcCBH2等及び他起源のエンドグルカナーゼを、それぞれ精製したものとして含有していてもよいし、未精製タンパク質として他タンパク質やその他の成分を含んでいてもよい。また、その製剤形態は、特に限定されず、固形製剤(粉末(凍結乾燥体等)、タブレット等、顆粒等)であってもよいし、溶液(流通時においては凍結体であることが好ましい。)であってもよい。
【0057】
本発明の酵素製剤の生産方法は特に限定されない。例えば、他起源のエンドグルカナーゼ(上記のように他起源のセルラーゼ生産菌の培養物であってもよい)と、別に準備したPcCBH2等とを混合する形態であってもよいし、PcCBH2等と他の起源のエンドグルカナーゼを共発現する形質転換体を培養して得られる培養物から製造する形態であってもよい。さらに、これらを適宜組み合わせる形態であってもよい。
【0058】
(セルロース分解活性増強剤)
本発明のセルロース分解活性増強剤は、PcCBH2等を含有し、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼを組み合わせて使用される。本発明におけるPcCBH2等は、他起源のエンドグルカナーゼと組合せてセルロースを分解するのに良好な相乗効果を発揮するため、他起源エンドグルカナーゼに組み合わせて用いる増強剤(添加剤)の形態を採ることもできる。本発明の増強剤におけるPcCBH2及び改変体については、上記で説明した通りの各種態様が適用される。また、本増強剤を用いるのに好ましい他起源のエンドグルカナーゼも、本発明の酵素製剤において組み合わせることの好ましいエンドグルカナーゼの各種態様が適用される。また、本発明の増強剤の組合せ先には、本発明の酵素製剤において組み合わせるのが好ましい他のセルラーゼの各種態様が適用される。
【0059】
本発明の増強剤は、CBH Iを含んでいてもよい。CBH Iを含むことで、他起源のエンドグルカナーゼに組み合わされたときに、セルロース分解相乗効果が一層増強されるからである。CBH Iとしては、好ましくは、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH I(PcCBH1)が挙げられる。
【0060】
本発明の増強剤は、PcCBH2等を、それぞれ精製したものとして含有していてもよいし、未精製タンパク質として他タンパク質やその他の成分を含んでいてもよい。また、その製剤形態は、特に限定されず、固形製剤(粉末(凍結乾燥体等)、タブレット等、顆粒等)であってもよいし、溶液(流通時においては凍結体であることが好ましい。)であってもよい。
【0061】
本発明の増強剤の生産方法は、特に限定されない。天然由来のPcCBH2の場合には、当該PcCBH2を生産する微生物を培養等してタンパク質画分又はその一部として本発明の増強剤を得ることができる。なお、改変体については、遺伝子工学的に取得して本発明の増強剤とすることができる。なお、天然由来のPcCBH2であっても遺伝子工学的に取得することもできる。
【0062】
(DNA構築物)
本発明のDNA構築物は、本発明の改変体をコードするDNAを含んでいる。より具体的には、配列番号4に記載されるアミノ酸配列をコードするDNA、さらに具体的には、配列番号3に記載される塩基配列を有するDNAを含んでいる。また、上記した表1に含まれるアミノ酸変異の1種又は2種以上を有する各種改変体のアミノ酸配列をコードするDNAや上記した表2に記載の各改変体のアミノ酸配列をコードするDNAを含んでいる。本発明のDNA構築物は、主として適当な宿主細胞の形質転換を意図した発現ベクターとしての形態を採ることができる。形質転換の手法や宿主細胞における当該ポリヌクレオチドの保持形態(染色体に導入する形態や染色体外に保持する形態等)に応じて、上記コード領域以外の構成要素が適宜決定される。また、DNA構築物の形態は、使用形態に応じて様々な形態を採ることができる。例えば、DNA断片の形態を採ることができるほか、プラスミドやコスミドなどの適当なベクターの形態を採ることもできる。
【0063】
なお、本発明によれば、配列番号4に記載されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド及び配列番号3に記載される塩基配列を有するポリヌクレオチド他、各種態様のPcCBH2及びその改変体をコードするポリヌクレオチドも提供される。ポリヌクレオチドは、化学合成法や各種PCR法等により取得することができる。なお、ポリヌクレオチドは、DNA(二重鎖及び一重鎖のいずれであってもよい)、RNA、DNA/RNAハイブリット等、いずれの形態であってもよい。
【0064】
(形質転換体)
本発明の形質転換体の一態様は、本発明の改変体を発現する形質転換体であり、上記した本発明のDNA構築物で適当な宿主細胞を形質転換することによって得ることができる。例えば、本発明の改変体のみを細胞表層に保持し又は細胞外に分泌する形態で発現する形質転換体は、それ自体、本発明の増強剤として利用できる。また、こうした形質転換体を培養して得られる培養物は、本発明の増強剤の好ましい取得源として利用できる。
【0065】
本発明の形質展開体は、PcCBH2等と他起源のEGとを共発現する態様とすることもできる。こうした共発現形態の形質転換体によれば、セルロース分解の相乗効果を得ることができる組合せを一挙に得ることができ、酵素製剤の製造及び形質転換体によるセルロースの分解に有利である。この態様の形質転換体において発現される好ましいエンドグルカナーゼ及びそのほかのセルラーゼについては、本発明の酵素製剤に関し既に説明した各種態様が適用される。
【0066】
本発明の上記各種態様の形質転換体を得るのにあたり、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。遺伝子導入の宿主となる細胞は特に限定しないが、形質転換体によるセルロース分解及び酵素製剤の取得を考慮すると、例えば、Phanerochaete chrysosporium、Trichoderma reesei、Aspergillus aculeatus、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Clostridium thermocellum、Hemicola insolens、Chaetomium globosum等の公知のセルラーゼ産生菌のほか、酵母や麹菌から選択される公知の非セルラーゼ生産菌等が挙げられる。さらに、後述する有機酸発酵やエタノール発酵等を考慮すると、非セルラーゼ生産菌でもあるSaccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属の酵母、Schizosaccharomyces pombe,等のSchizosaccharomyces属の酵母、Candida shehatae等のCandida属の酵母、Pichia stipitis等のPichia属の酵母、Hansenula属の酵母、Trichosporon属の酵母、Brettanomyces属の酵母、Pachysolen属の酵母、Yamadazyma属の酵母、Kluyveromyces marxianus, Kluveromyces lactis等のKluveromyces属の酵母が挙げられる。
【0067】
共発現態様の形質転換体の作製にあたっては、本発明の組合せで酵素が発現されるように、宿主の種類に応じて、適宜、導入する遺伝子が決定される。例えば、Phanerochaete chrysosporiumを宿主とする場合には、PcCBH2遺伝子は内在されているため、他起源の、例えば、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ遺伝子を導入すればよい。また、Trichoderma reeseiを宿主とする場合には、他起源のエンドグルカナーゼ遺伝子が内在されているため、PcCBH2等をコードする外来遺伝子を導入する。さらに、非セルラーゼ生産菌に、PcCBH2等及び他起源のエンドグルカナーゼをそれぞれコードする外来遺伝子を導入してもよい。
【0068】
本発明の形質転換体においては、本発明において好適とされる組合せ以外のセルラーゼ遺伝子が発現されていてもよいが、その発現を抑制してもよい。好適な組合せ以外のセルラーゼ遺伝子の発現を抑制することで、必要なタンパク質のみをできるだけ多く発現させて、本発明の組合せによるセルロース分解相乗効果によりセルロースを効率的に分解できる。こうした形質転換体は、強力な相乗効果を発揮可能な酵素製剤の製造に有利である。
【0069】
例えば、Trichoderma reeseiにPcCBH2等をコードする外来遺伝子を導入して本発明の形質転換体を得る場合、Trichoderma reeseiのCBH I、CBH IIを発現させてもよいが、これらの遺伝子を破壊して不活性化しておいてもよい。また、酵母や麹菌から選択されるセルラーゼ非生産菌に、本発明において好適な組合せに係る酵素をコードする外来遺伝子を導入するようにして本発明の形質転換体を得ても良い。セルラーゼ非生産菌は、後述するように、内在性のβ−グルコシダーゼ遺伝子を有していないほか、外来遺伝子として導入するPcCBH2等やエンドグルカナーゼの発現量を調節して高発現させやすいという利点がある。こうした形質転換体は、強力な相乗効果を発揮可能な酵素製剤の製造に有利である。
【0070】
本発明の形質転換体においては、β−グルコシダーゼの発現が抑制されていてもよい。すなわち、内在性β−グルコシダーゼ遺伝子を有する宿主を利用した形質転換体にあっては、当該遺伝子が破壊されており、内在性β−グルコシダーゼ遺伝子を有しない宿主(例えば、セルラーゼ非生産菌など)を利用した形質転換体であってもよい。β−グルコシダーゼは、既に説明したように、生産物阻害によりセルロース分解を抑制するからである。こうした形質転換体は、酵素製剤、特に、セルロースをオリゴマーにまで低分子化するための酵素製剤として好ましい。特定遺伝子の破壊は、当業者であれば適宜実施できる。
【0071】
なお、上記した本発明のDNA構築物及び形質転換体の作製方法は、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0072】
なお、本発明の形質転換体においては、こうした組合せの酵素を細胞内に発現するようにしてもよいし、細胞表層に保持する又は細胞外に分泌するように構築してもよい。細胞表層に保持する形態又は細胞外に分泌する形態であれば、形質転換体をそのままセルロースに分解に利用できる。細胞外に分泌する形態は、培養上清から酵素製剤を取得するのにも有利である。
【0073】
(酵素製剤の生産方法)
本発明によれば、本発明の共発現態様の形質転換体を用いて本発明の酵素製剤を製造する方法が提供される。本発明によれば、好ましい組合せのセルラーゼからなる酵素製剤を一挙に得ることができる。本発明の生産方法には、上記した共発現態様の形質転換体において、特に酵素製剤の製造に好ましいとされる形質転換体を用いることで、効率的にかつ強力な酵素製剤を容易に得ることができる。
【0074】
形質転換体の培養については、用いた宿主や発現ベクター等を考慮して適宜決定される。培養により培養菌体及び/又は培養上清を取得して、これらからタンパク質を含む画分を取得し、必要に応じ分離・精製すればよい。分離や精製には公知のタンパク質の分離・精製法を適用すればよい。PcCBH2や他起源エンドグルカナーゼが分泌生産される場合には、培養上清をそのまま用いることもできる。得られた酵素画分は、必要に応じて乾燥等し粉末化するなどして各種形態の酵素製剤とすることができる。
【0075】
なお、酵素製剤が、他の他起源のセルラーゼ生産菌の培養物(培養上清であってもよい)から取得された2種類以上のセルラーゼを含有している場合には、こうした培養物も併せてタンパク質を分離してもよいし、本発明の共発現形質転換体とは別個に、こうした培養物からタンパク質を分離して本発明の共発現形質転換体の培養物あるいは製剤に添加してもよい。
【0076】
(セルロースの低分子化産物の生産方法)
本発明のセルロースの低分子化産物の生産方法は、セルロースの存在下、PcCBH2等と、他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを低分子化する工程を備えている。本発明によれば、効率的にセルロースを低分子化、セルロースオリゴマー又はグルコースを生産できる。グルコースまで低分子化するには、β−グルコシダーゼも用いる。
【0077】
低分子化工程においてセルロースを効率的にセルロースオリゴマーにまで分解するには、β−グルコシダーゼの実質的な非存在下でセルロースを分解することが好ましい。こうすることで、β−グルコシダーゼによる生産物阻害の影響を回避又は抑制できる。なお、「β−グルコシダーゼの実質的な非存在下」とは、β−グルコシダーゼが存在しないほか、β−グルコシダーゼによる生産物阻害を回避又は抑制できる範囲でβ−グルコシダーゼが存在していてもよい、ことを意味している。セルロースオリゴマーを得るためには、β−グルコシダーゼはこの酵素反応系内に存在しないことが好ましい。
【0078】
低分子化工程は、β−グルコシダーゼの非存在下、PcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼとを用いてセルロースを分解し、その後、得られたセルロースオリゴマーに対して、β−グルコシダーゼを供給して分解する工程とすることができる。こうすることで、効率的にセルロースをグルコースにまで分解できる。
【0079】
低分子化工程は、PcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼ(例えば、商業的に入手可能な酵素製剤等)と組み合わせて用いることができる。こうすることで、優れた相乗効果は発揮することができる。例えば、セルロースやリグニンやヘミセルロースを含む稲ワラ等のリグノセルロース系バイオマス(実バイオマス)の前処理物であっても、他起源のエンドグルカナーゼとの優れた相乗効果を得ることができる。すなわち、本発明の酵素の組み合わせによれば、リグニンやヘミセルロースの存在下であっても高効率にセルロースを分解できる。特に、改変体52〜58は、市販酵素製剤などのセルラーゼ製剤や、BGL+EG+CBH Iと組み合わせたとき、優れた相乗効果は発揮することができる。
【0080】
本発明の生産方法で用いるPcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼとの組合せは、上記のように本発明の酵素製剤として提供されていてもよいし、また、本発明の共発現形態の形質転換体の細胞表層に提示された状態で提供されていてもよい。さらに、PcCBH2等のみが酵素製剤として提供され、他起源エンドグルカナーゼが細胞表層や細胞外に分泌された形態で提供されていてもよい。細胞外への分泌及び細胞表層での保持させる方法としては、各種手法が知られているが、細胞表層提示のための公知のタンパク質や分泌用タンパク質をPcCBH2等や他起源のエンドグルカナーゼに連結した融合タンパク質を発現するように形質転換体を得る方法が挙げられる。
【0081】
以上説明した、本発明のセルロースの低分子化産物の生産方法において、用いるPcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼについては、既に説明した本発明の組合せの各種態様が適用される。そして、好ましい態様の組合せを用いることで、一層効率的なセルロースの分解が可能となる。
【0082】
(有用物質生産方法)
セルロースの存在下、PcCBH2等と、他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、実質的にβ−グルコシダーゼの非存在下でセルロースを分解してセルロースオリゴマーを生産する工程と、前記セルロースオリゴマーをβ−グルコシダーゼで分解してグルコースを生産する工程と、を備えることができる。本発明の有用物質を生産する方法は、一旦セルロースオリゴマーとした後で、好適には、こうしたオリゴマーを回収した後、これをさらにβ−グルコシダーゼで分解してグルコースを得る。こうすることで、セルロースオリゴマーをセルロースによる酵素反応の阻害を回避又は抑制して、効率的にセルロースオリゴマーを得、その後、このオリゴマーに対してβ−グルコシダーゼを作用させることで、効率的にグルコースを取得し、これを炭素源として用いて有用物質を生産できる。
【0083】
有用物質としては特に限定しないが、グルコースを利用して微生物が生成可能なものが好ましい。利用する微生物としては、特に限定しないが、酵母などのエタノール生産微生物や乳酸菌などの有機酸生産微生物が挙げられる。これらはいずれも人工的に取得された微生物であってもよい。例えば、グルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して得られる本来の代謝物でない化合物を産生可能に改変したものであってもよい。このような微生物を用いることで、例えば、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリンの生産、プラスチック・化成品原料を生産するなどのバイオリファイナリー技術に適用できる。
【0084】
例えば、本発明の有用物質生産方法は、グルコース生産工程で得られるグルコースを炭素源として利用できるが、グルコース生産工程を、β−グルコシダーゼを発現する微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いるエタノール発酵工程とすることができる。こうすることで、グルコースによる生産物阻害なく、効率的にセルロースを利用してエタノールを生産できる。また、グルコース生産工程を、β−グルコシダーゼを発現する有機酸生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いる有機酸発酵工程とすることができる。こうすることで、グルコースによる生産物阻害なく、効率的にセルロースを利用して有機酸を生産できる。
【0085】
なお、本明細書において、「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物であって、遊離の酸あるいはその塩である。「有機酸」が備える酸性基としては、カルボン酸基であることが好ましい。このような「有機酸」としては、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの「有機酸」は、D体、L体のほか、DL体であってもよい。「有機酸」は好ましくは、乳酸である。
【0086】
また、有機酸生産微生物としては、乳酸を発酵する微生物として、乳酸生産酵母が挙げられ、かかる酵母としては、例えば、特開2003−259878、特開2004−18763、特開2005−137306、特開2006−6271、特開2006−20602、特開2006−42719、特開2006−28318、特開2006−296377、特開2007−89466、特開2007−175029等に開示されている乳酸生産酵母等が挙げられる。
【0087】
以上説明した、本発明の有用物質の生産方法において用いるPcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼについては、既に説明した本発明の組合せの各種態様が適用される。そして、好ましい態様の組合せを用いることで、一層効率的なセルロースの分解が可能となり、有用物質を効率的に生産できるようになる。
【0088】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。
【実施例1】
【0089】
(各種セルラーゼの活性型での生産)
グリコシド結合を切断する酵素群(EC3.2.1.−)は、Glycoside Hydrolase Family(以下、GHF)により分類されており、各種セルラーゼもこれに含まれる。相乗効果を試験するために、CBHとEGについて、なるべく多くのGHFに分類される酵素を本実施例で評価した。CBH(EC3.2.1.91)は、GHF5,6,7,9,10,48に分類されるものが、EG(EC.3.2.1.4)は、GHF5,6,7,8,9,10,12,26,44,45,48,51,61,74に分類されるものが、BGL(EC.3.2.21)は、GHF1,3,9に分類されるものが報告されている。CBHについては、GHF5,6,7,9に属するものが知られている。そこで、CBHについて、4種類のGHFに分類される5種類の微生物(Trichoderma reesei、Phanerochaete chrysosporium、Aspergillus aculeatus、Aspergillus oryzae、Clostridium thermocellum)由来の13種類を用いた。EGについては、GHF5,6,7,8,9,12,45,48,61の9種類に分類される6種類の微生物(Trichoderma reesei、Phanerochaete chrysosporium、Aspergillus aculeatus、Aspergillus oryzae、Hemicola insolens、Clostridium thermocellum、Chaetomium globosum)由来の24種類のEGを用いた。BGLとしては、GHF3に属するPhanerochaete chrysosporium由来の1種類の酵素を用いた。
【0090】
各種セルラーゼの成熟タンパク質領域の上流側に開始コドン、T7プロモーター、リボソーム結合部位(rbs)をPCRにより連結した。下流側にT7ターミネーターをPCRにより連結した。全長のPCR産物をエタノール沈殿したものを、転写翻訳反応の鋳型として用いた。なお、鋳型DNAの作製に際し、以下の酵素をコードするDNAの塩基配列については、各種酵素につき、それぞれ以下に示すアクセッション番号によってNCB1のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から取得してPCRプライマーを設計した。
PcCBH II: S76141
TrCBH II: M16190
AoCBH II: AP007169
PcCBH I: M22220
TrCBH I: X69976
AaCBH I: AB002821
AoCBH I: AB089436
TrEG I: AAA34212.1
TrEG V: Z33381
AnEG II: AF331518
AoEGII: AB195229
TrEG II: AAA34213.1
AnEGIII: AJ224451
PcEG III: AY682744
TrEG III: BAA20140
【0091】
シャペロン(大腸菌由来のDnaK/DnaJ、GrpE、GroEL/GroES)を高発現した大腸菌を破砕後、S30画分を還元剤(ジチオスレイトール;DTT)未添加で調製したものを無細胞合成のための抽出液(媒体)として用いた。この抽出液に、上記の鋳型DNA、56.4mM Tris−acetate pH7.4、1.2mM ATP、1mM GTP、1mM CTP、1mM UTP、40mMクレアチンフォスフェート、0.7mM 20アミノ酸ミックス、4.1%(w/w)ポリエチレングリコール6000、35μg/ml フォリン酸、0.2mg/ml大腸菌tRNA、36mM 酢酸アンモニウム、0.15mg/ml クレアチンキナーゼ、10mM 酢酸マグネシウム、100mM 酢酸カリウム、10μg/ml リファンピリシン、7.7μg/ml T7RNAポリメラーゼ及びカビ由来PDIと1mM GSH/0.1mM GSSGを加え、26℃、1〜3時間、転写翻訳共役反応を行った。
【0092】
これらの酵素につき、カルボキシル化メチルセルロースに寒天を加えて固化させ、セルロース含有プレートを作製した。無細胞合成後の各反応液1μlを、セルロース含有プレート上にアレイ状に添加し、酵素反応を生じさせた。反応後、染色液(コンゴーレッド)をセルロース含有プレートに滴下重層して染色し、セルラーゼ反応部分が脱色されたハロが形成されるまで脱色反応を行った。すべての反応液について、ハロが検出されたことから、実施例1の無細胞合成系でCBHを活性型で合成できることがわかった。
【実施例2】
【0093】
(相乗効果の評価その1)
本実施例では、実施例1で無細胞合成した各種セルラーゼにつき、相乗効果に基づく不溶性のセルロースの分解を評価した。すなわち、マイクロタイタープレート上で、0.1%リン酸膨潤セルロース(以下、PSCという。)に寒天を加えて固化させ、高分子不溶性セルロース含有プレートとした。活性型で合成した実施例1のBGLをすべてのスポットに1μlづつ添加した。その上から、活性型で合成した実施例1の各種CBH及びEGを、縦列と横列にそれぞれ1μlづつ添加した。40℃で反応後、染色液(コンゴレッド)を寒天上に滴下重層して染色し、これらセルラーゼによる反応部分が脱色されハロ(脱色されて白い部分が大きいほど、高いセルロース分解活性を持つ)が、形成されるまで脱色反応を行った。形成したハロの大きさを測定し、相対活性で表示した。PSCは、高分子セルロースであり、相乗効果が強く認められたときにのみハロを形成する評価系である。結果を図1に示す。
【0094】
図1に示すように、BGLと各種EGに対して、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH II(PcCBH2)を添加した場合と比較して、顕著にセルロース分解活性が向上しており、セルロース分解のための相乗作用に強く寄与していることがわかった。PcCBH IIと相乗効果を示す組み合わせに効果が高いEGは、GHF5に分類されるTrichoderma reesei由来のTrEG II及びAspergillus oryzae由来のAoEGII、GHF12に分類されるTrEGIIIであった。また、GHF7に分類されるTrEGI及びGHF45に分類されるTrEGVも高い相乗効果が得られた。特に、PcCBH2とTrEG IIとの組み合わせが最も相乗効果が高かった。
【実施例3】
【0095】
(相乗効果の評価その2)
CBHには、GHF7に属するCBH Iと、GHF6に属するCBH IIが知られていることから、BGLとEGに加えるCBHとしては、CBH IとCBHIIとの双方を添加することが好ましいと考えられる。そこで、活性型で合成した実施例1のBGLを実施例2と同様にして作製した高分子不溶性セルロース含有プレートスポットした上に、CBH I及びEGとを各種の組合せで1μlづつスポットしたプレートを3種類作製し、それぞれのプレートに異なるCBH IIを1μlづつスポットした。40℃で反応後、染色液(コンゴレッド)をプレート上に滴下重層して染色し、セルラーゼ反応部分が脱色され、ハロが形成されるまで脱色反応を行った。形成したハロの大きさを測定し、相対活性で表示した。結果を図2に示す。
【0096】
図2A〜図2Cに示すように、Trichoderma reesei由来のCBH II(TrCBH2)(図2C)及びAspergillus aculeatus由来のCBH II(AcCBH2)(図2B)を添加した場合と比較して、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH II(PcCBH2)を添加した場合(図2A)、顕著にセルロース分解活性が向上しており、当該酵素がセルロース分解の相乗効果に強く寄与していることがわかった。Phanerochaete chrysosporium由来のCBH IIと相乗効果を示す組合せに効果の高いEGは、GHF5に分類されるEG(Trichoderma reesei由来のTrEGII、Aspergillus niger由来AnEGII)、GHF12に分類されるEG(Trichoderma reesei由来のTrEGIII、Aspergillus niger由来のAnEGIII、Phanerochaete chrysosporium由来のPcEGIII)であった。
【実施例4】
【0097】
(改変体ライブラリーの作製)
Phanerochaete chrysosporium由来のCBH IIのセルロース結合ドメインにランダム変異を導入した。ランダム変異は、エラープローンPCR(10mM、Tris−HCl pH9.0、50mMKCl、0.1%Triton X−100,5−10mMMgCl2、0.5〜2.0mM MnCl2、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、1mM dCTP、1mM dTTP、1〜100ng/μl MnP、0.3μM プライマー、25mU/μl、Promega Taq DNAポリメラーゼ)により増幅し、100塩基当たり平均0.5個の変異(エラー率0.5%)をランダムに導入し、ライブラリーを作製した。平均1分子/ウェルまで希釈後に、LA Taqポリメラーゼを用いて94℃で2分の加熱後に、96℃で10秒、65℃で5秒及び72℃で1分のサイクルを65回繰り返し、その後72℃で7分加熱して、1分子PCRを行った。PCR産物各1μlを鋳型として実施例1に示す組成の無細胞タンパク質合成反応液9μlに加え、転写・翻訳共役反応を行った。変異酵素ライブラリーを384プレート6枚に構築した。
【実施例5】
【0098】
(高活性改変体のスクリーニング)
酵素変異ライブラリー各1μlを、無細胞合成した実施例1で用いたのと同様のPhanerochaete chrysosporium由来のBGL、CBH I及びTrichoderma reesei由来のEGIIをそれぞれ既に0.1μlづつ実施例2で作製したのと同様の高分子不溶性セルロース含有プレート上に添加し、40℃で反応させた結果、野生型よりもハロが大きいウェルが得られた。ハロが大きいウェルの上位20個について、その1分子PCR産物を大腸菌にクローン化して、各ウェルの形質転換体の4〜10クローンについて、アミノ酸配列を決定した。変異が確認できたクローンのうち、配列が異なるものを選出し、無細胞合成を行い各改変体の分解活性を評価した。スクリーニング時と同様に、クローン化した各改変体の合成産物1μlを、BGL、EG、CBH Iをそれぞれ1μlづつスポットした高分子不溶性セルロース含有プレート上に添加し、40℃で反応させた。その結果、変異導入前よりセルロース分解の相乗効果の高い改変体が数個得られたことがわかった。最も効果が高かった改変体について、相乗効果(BGL、EG及びCBH Iの共存下)での高分子不溶性セルロース含有プレートでの評価結果を図3に示す。
【0099】
図3に示すように、CBH なし(BGL、EG及びCBH I)と比較して、野生型であるPcCBH2では白色部分が大きく、さらに改変体では大きくなること(野生型の約2倍)がわかった。
【実施例6】
【0100】
(改変体の評価)
無細胞合成した実施例1で用いたのと同様のPhanerochaete chrysosporium由来のBGL、CBH I及びTrichoderma reesei由来のEGIIのそれぞれ1μlづつを、1%PSC又は1%アビセルを含む水溶液に添加した。そこへ、野生型PcCBH2及び改変体を各1μl添加し、40℃で24時間反応後の還元糖量をTZアッセイ法(TZ法;Jouranl of Biochemical and Biophysical Methods, 11(1985))により測定した。PSC分解活性を図4に示す、アブセルロース分解活性を図5に示す。
【0101】
図4及び図5に示すように、いずれも野生型のPcCBH2活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合と、相乗効果ではなく単独でのPSC溶液分解時の還元糖量を測定した結果を示す。PSC分解活性では、改変体は、野生型PcCBH2よりも相乗効果が2.3倍強く、単独での分解活性は4倍程度強いことがわかった。アビセル分解活性は、相乗効果で1.3倍、単独活性では2.3倍であった。また、改変体のアミノ酸の置換部位はS22Pであった。
【実施例7】
【0102】
(市販酵素製剤に対する添加効果その1)
1%PSC水溶液200μlに、Trichoderma reesei由来の市販酵素製剤であるSigma製のセルクラストC2730を400ngを加え、野生型のPcCBH2、改変体、ネガティブコントロール(CBH添加なしの市販酵素製剤のみ)、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH I、Trichoderma reesei由来のCBH I、Trichoderma reesei由来のCBH II、Aspergillus aculeatus由来のCBH I、及びAspergillus oryzae由来のCBH Iの順に、無細胞合成した産物各3μlを、それぞれ添加し、40℃で反応させた。還元糖量を実施例6に示すTZ法で測定した。結果を図6に示す。
【0103】
図6に示すように、セルロース分解活性は、各活性からネガティブコントロールの数値を差し引いた後の野生型の分解活性を1とした相対活性で示す。野生型PcCBH2を添加した場合、他種微生物由来のCBHを添加した場合と比較して分解活性が高いことがわかった。また、野生型と改変体との比較では、改変体の方が添加効果が高かった。
【実施例8】
【0104】
(酵母による発現と精製)
野生型PcCBH2(Phanerochaete chrysosporium由来のCBH II)をPCRで増幅し、酵母分泌発現ベクターであるpRS436GAPSSRGにサブクローニングした。pRS436GAPSSRGは、TDH3プロモーターの下流に、分泌シグナルをもち菌体に酵素を分泌させることが可能である。本ベクターを酵母(MT8−2株)に形質転換し、SD−URA寒天培地(Yeast-nitrogen base without amino acids without ammonium sulfate1.7g、カザミノ酸5g、アミノ酸ミックス、グルコース20g、寒天20g、脱イオン水1000ml)で30℃で3日間培養した。本培養は、ファーメンターを用いてpHを5.5に維持しながら行った。生育したコロニーをSD−URA液体培地で前培養し、OD600=0.1となるように本培養液500mlに植菌し、25℃で3日間培養した。
【0105】
培養上清を回収し、硫安濃度70%で硫安沈殿を行った。硫安沈殿後のタンパク質をバッファ(1M硫安、0.1M Tris−HCl(pH7.0))で溶解し、限外ろ過で完全にバッファ置換したサンプルを精製用サンプルとした。
【0106】
同様のバッファで膨潤したアビセル溶液(アビセル10g、バッファー40ml)2mlをカラムに詰めアビセルカラムを作製した。ペリスタポンプを用いて1ml/分の流速でサンプルをカラムに流した。その後、同バッファー20ml(流速1ml/分)で洗浄し、滅菌水で溶出した(流速0.5ml/分)。1mlづつ回収した画分を、カルボキシメチルセルロース含有寒天のプレートに滴下してセルロース分解活性を確認後、SDS−PAGE解析の結果、活性型のCBH IIをほぼ単一バンドにまで精製できた。バイオラッド社のプロテインアッセイキットによりタンパク質を定量した。
【実施例9】
【0107】
(市販酵素製剤に対する添加効果その2)
【0108】
実施例8で得られた野生型PcCBH2のTrichoderma reesei由来の市販酵素製剤に対しての添加効果を評価した。市販酵素製剤として、Sigma製のセルクラストC2730を用い、上段には各60ng/μl、下段には120μg/μlをそれぞれ1μl、0.1%PSC含有プレートにスポットした。縦列には、左からネガティブコントロール(CBHなし)、PcCBH2(100ng/μl)をそれぞれ1μl、酵素製剤スポットの上から滴下し、40℃で反応させた。24時間後にコンゴレッドにより染色した。結果を図7に示す。
【0109】
図7に示すように、ネガティブコントロールと比較すると、PcCBH2をスポットした場合ではハロが大きい傾向があることがわかった。ハロの大きさから、PcCBH2を添加した場合の分解活性は、ネガティブコントロールの約1.5〜2倍であった。したがって、市販酵素製剤にPcCBH2を添加することで、セルロース分解効果を高める相乗効果が得られることがわかった。
【実施例10】
【0110】
(市販酵素製剤に対する添加効果その3)
Trichoderma reesei由来の市販酵素製剤Sigma製のセルクラストC2730に対してのPcCBH2の添加効果を評価した。無細胞合成したBGL、EG及びCBH Iのそれぞれ1μlづつを、1%PSC含有水溶液200μlに、セルクラスト0〜400ng及びPcCBH2 100〜0ngを添加した。40℃で24時間反応後の還元糖量をTZアッセイ法(TZ法;Jouranl of Biochemical and Biophysical Methods, 11(1985))により測定した。各濃度におけるセルクラスト単独とPcCBH2単独での活性を加算した相加予測値を図8に示す。
【0111】
図8に示すように、相加予測値よりも実測値のほうがPSC分解活性が高く、添加による相乗効果が認められた。また、PcCBH2の添加濃度はセルクラストの添加濃度の1/4程度であっても効果があることがわかった。
【実施例11】
【0112】
実施例5で得られたS22P改変体の他、2番目に活性が高かったQ2H改変体(配列番号2で表されるアミノ酸配列において第2番目のグルタミンがヒスチジンに置換した改変体である。表2に改変体1として示す。)について、合成量を合わせて比活性を測定した。合成量の測定は、無細胞合成時に蛍光標識されたリジン(FluoroTect GreenLys in vitro Translation Labeling System:プロメガ)を取り込ませ合成産物を蛍光ラベルした後、蛍光イメージアナライザー(FLA9000:富士フィルム株式会社)で検出、画像解析ソフトであるMulti Gaugeで解析を行った。無細胞合成したBGL、EG、CBHIのそれぞれ0.2μlずつを、0.5%PSCを含む水溶液に添加した。そこへ、野生型PcCBH2、S22P改変体、Q2H改変体について、野生型PcCBH2での1μl相当量を添加し、40℃で15時間反応後の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。図9に、野生型PcCBH2活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合の結果を示す。図9に示すように、S22P改変体及びQ2H改変体は、いずれも野生型よりも相乗効果を示した。
【実施例12】
【0113】
(PcCBH2の触媒ドメイン変異ライブラリーの作成)
実施例6で得られたS22P改変体を親遺伝子として、ランダム変異を導入した。error-prone PCR(10 mM Tris-HClpH 9.0, 50 mM KCl, 0.1%TritonX-100, 5-10 mM MgCl2, 0.5-2.0 mM MnCl2, 0.2 mM dATP, 0.2 mM dGTP,1 mM dCTP,1 mM dTTP,1-100 ng/μl DNA, 0.3μM primer, 25 mU/μl Promega Taq DNA polymerase)により増幅し、100塩基当たり平均0.5個の変異(error率0.5%)をランダムに導入し、ライブラリーを作製した。PCR産物各1μlを鋳型として実施例1に示す組成の無細胞タンパク質合成反応液7μlに加え、転写・翻訳共役反応を行った。変異酵素ライブラリーを384プレート8枚に構築した。
【実施例13】
【0114】
(スクリーニング方法)
酵素変異ライブラリー各1μlを、無細胞合成したBGL、EG、CBHIをそれぞれ0.1μlずつ加えた0.25%PSC溶液100μlに添加し、40℃で24時間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清の還元糖量をソモギ-ネルソン法により測定した。その結果、親遺伝子であるS22P改変体よりも還元糖量が向上したウェルが複数得られた。還元糖量の上位61ウェルについて、そのPCR産物を大腸菌にクローン化して、各ウェルの形質転換体の4〜10クローンについて再度ソモギ-ネルソン法により還元糖量を測定した。そのうち上位60クローンについて、アミノ酸配列を決定した。スクリーニングで得られた60クローンのうち配列が異なるものを、実施例11と同様にして合成量を合わせて比活性を測定した。その結果、比活性において親遺伝子であるS22P改変体よりも相乗効果が高い改変体が複数得られた。
【実施例14】
【0115】
(スクリーニングで得られた改変体の評価結果)
実施例13で得られた改変体のうち、上位11クローンの比活性を実施例11と同様に測定した結果を図10に示す。なお、以下の実施例において図表等において用いる改変体の種類は、表2に示す改変体の種類を表している。図10に示すように、最も活性の高かった改変体12では親遺伝子であるS22P改変体と比較して、相乗効果で2倍程度PSC分解活性が向上していた。アミノ酸置換はS22Pの他にGln2His(Q2H)、Leu29Pro(L29P)、Asn191His(N191H)のアミノ酸が置換されていた。Gln2His(Q2H)は、実施例5のスクリーニング時に取得した2番目に活性が高かったQ2H改変体(改変体1)(実施例11)と同じ位置の変異であった。他の改変体のアミノ酸置換を表5に示す。
【0116】
【表5】
【実施例15】
【0117】
(シングル化改変体の結果)
実施例14において比活性の向上していた改変体で、かつ複数の変異をもつクローンについて、変異を分離する事で、S22P改変体と比較した場合の各変異の影響を評価した。評価した改変体の一覧を表6に示す。無細胞合成したBGL、EG、CBHIをそれぞれ0.4μlずつ加えた0.5%PSC溶液200μlに、実施例11と同様にして合成量を測定した無細胞合成産物を添加し、40℃で数時間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。結果を図11に示す。図11に示すように、S22P改変体と比較して活性の向上が見られた改変体4、7、14、18が有する変異のうち、S22P以外の変異であるS60L、V28A、L29P、N191Hの4変異を有効な変異とした。
【0118】
【表6】
【実施例16】
【0119】
(PcCBH2立体構造モデルの構築)
CBHは主にセルロース結合ドメインと触媒ドメインが存在しており、両者はリンカーでつながった構造をとることが知られている。両ドメインの構造は、X線解析により別々に解かれており、CBHIIの触媒ドメインとしては、以下の2種類の酵素の構造がPDB(Protein Data Book)に報告されている。Trichoderma reesei由来CBHII (以下、TrCBH2)とCellotetraose complex ; PDB No. 1QK2、及びHumicola insolens 由来CBHIIとCellotetraose and Glucose complex ; PDB No. 2BVWである。PcCBH2の触媒ドメイン部分のアミノ酸配列のみを、genebankのPSI-BLAST (Position-Specific Iterated BLAST)で相同性検索した結果のうち、PDBに登録がある配列の上位2種類は、上記CBHIIの触媒ドメインであった。PcCBH2モデル構築の参照タンパク質として、相同性が高い方(56%)であるTrCBH2(PDB:1QK2)を用いることとした。
【0120】
分子の表示・モデルの構築・構造安定化計算等は、アクセルリス社製InsightIIを用いて実施した。PcCBH2とTrCBH2(1QK2)のアミノ酸配列のアライメント結果を基に、ホモロジーモデリングを行った。構築したモデルPcCBH2-CDとモデル構築時の参照タンパク質としたTrCBH2(1QK2)の主鎖構造の重ね合わせを行った結果、主鎖構造はほぼ一致しており、CBHの特徴である触媒アミノ酸残基、基質結合部位のトンネル、トンネル上部のループ構造が確認できたことから、ある程度信頼性のあるモデルが構築できたと考えられた。
【実施例17】
【0121】
(基質結合トンネル周辺の部位特異的改変体の作成)
実施例16で構築したモデルを元に、セルロース鎖結合トンネル周辺のアミノ酸で、基質結合や基質移動に影響を及ぼす可能性があると推測され、かつ、他のCBH2で完全保存されていないアミノ酸17ヵ所を抽出した(図12)。野生型PcCBH2のこれらのアミノ酸残基を表7に示す通りに置換した各種改変体を作製し、合成量当たりの活性を評価した。すなわち、無細胞合成したBGL、EG、CBHIのそれぞれ0.2μlを加えた1%PSCに、野生型PcCBH2、または各種改変体について、野生型での1μl相当量を添加し、40℃で15時間反応後の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。結果を図13に示す。
【0122】
【表7】
【0123】
図13には、野生型PcCBH2の活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合の結果を示す。図13に示すように、野生型PcCBH2の2倍程度向上していた改変体は11種類(表2中の改変体の番号:23、27、28、32、34,35、36、37、39、40、42)、1.5倍程度向上していた改変体は10種類(同:24、26、31、38、41、44、45、49、50、51)、1.3倍程度向上していた改変体は11種類(20、21、22、25、29、30、33、43、46、47、48)であった。特に、配列番号2において269番目のアミノ酸残基は、Trp(野生型)とPhe以外の他のアミノ酸に変換した場合に顕著に活性が向上することがわかった。疎水性で芳香環をもつアミノ酸残基が活性発現に影響していると推測される。また、266番目のTrp(野生型)は、モデルを構築した際に、最も揺らぎが大きいアミノ酸であった。アラニンに置換することで活性が向上したことから、酵素活性発現の安定性に寄与している可能性が示唆される。その他、活性が向上した改変体の置換アミノ酸残基は、263番目のHis(H263T、H263F)と99番目のTyr(Y99T)であった。
【実施例18】
【0124】
(相加改変体の作製)
変異の相加は、実施例11で有効変異を明らかにしたS22PとQ2H、実施例15で抽出したV28A、L29P、S60L、N191H、実施例17で抽出したW269A、W269R、W269M、Y99T、H263F、W266A、実施例14から推測されるL132V、F382Sを候補とした。これらの内、S22P、Q2H、L29P、N191Hは改変体12に含まれる変異である。そこで、変異の相加は改変体12をベースに、表8に示す通り、52〜58の7種類の相加改変体の作製を実施した。
【0125】
【表8】
【実施例19】
【0126】
(相加改変体によるカクテル効果)
表8に示す改変体について、無細胞合成したBGL、EG、CBHIをそれぞれ0.2μlずつ加えた0.5%PSC溶液200μlに、合成量を測定した無細胞合成産物を添加し、40℃で4時間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。図14に、野生型PcCBH2の活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合の結果を示す。
【0127】
相加のベースとした改変体12と比較して、無細胞合成したBGL、EG、CBHIとのカクテルによる相乗効果は、改変体52〜58で向上しており、野生型と比較すると約4.5〜6.5倍であった。また、市販酵素製剤との相乗効果は、改変体55で最も高く、野生型の約6.5倍であった。有効変異を相加して行くことにより更に活性が向上できる可能性が示された。
【実施例20】
【0128】
(相加改変体による市販酵素製剤添加効果)
表9に示す改変体について、市販酵素製剤(Sigma製のセルクラストC2730)を400ng加えた0.5%PSC溶液200μlに、合成量を測定した無細胞合成産物を添加し、40℃で4時間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。図15に、野生型PcCBH2の活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合の結果を示す。図15に示すように、改変体12及び相加改変体52〜58では、市販酵素製剤添加時の相乗効果が、野生型の約3.5〜6.5倍に向上していることがわかった。
【実施例21】
【0129】
(実バイオマス由来セルロース成分の市販酵素製剤による分解時の相乗効果)
水熱処理後の稲わらのセルロース成分に、市販酵素製剤(Sigma製のセルクラストC2730)を200mg/gバイオマスとなるように添加(図16の市販酵素製剤200)し、50℃で反応後に溶液のグルコース濃度を液体クロマトグラフィーにより測定した。更にPcCBH2を2%(w/v)添加した場合を図16の市販酵素製剤+PcCBH2に示す。2%のPcCBH2を添加しただけで、24時間後のグルコース生成量は、市販酵素製剤を400mg/gバイオマスとなるように添加した場合(図16の市販酵素製剤400)と同等の効果を示すことがわかった。実バイオマスを簡単な前処理したセルロース画分には、セルロース以外にリグニンやヘミセルロース成分が残存することから、純品のセルロースよりも分解効率低下することが懸念されるが、PcCBH2では実バイオマス由来セルロース成分の分解試験においても顕著な相乗効果が認められることがわかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース等のバイオマスを利用するためのファネロケーテ由来のセロビオヒドロラーゼの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマスへの期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。なかでも、セルロースの利用が期待されている。セルロースは、糖であるグルコースがβ−1,4結合によって縮合した高分子化合物であり、分子間水素結合により強固な結晶構造を構成している。セルロースを効率よく単糖まで分解(糖化)するには、少なくとも3つのタイプのセルロース分解酵素(セルラーゼ)が必要であり、それらが協同して作用することによって初めて可能になると考えられている(以下、こうした効果を相乗効果ともいう。)。この3つのタイプのセルラーゼは、高分子のセルロースに対して作用するエキソ型(末端から2単糖づつ切断する)のセロビオヒドロラーゼ(CBH)と、エンド型(ランダムに切断する)のエンドグルカナーゼ(EG)と、これらの酵素によりある程度オリゴマー化されたものを単糖まで分解するβ−グルコシダーゼ(BGL)である。
【0003】
結晶性セルロースを含む高分子構造部分の分解は極めて困難であり、こうした高分子構造部分を十分に分解できる酵素及びセルロース分解の相乗効果のある組合せの取得が望まれている。
【0004】
そこで、組合せられた異なるタイプのセルラーゼが最も相乗的に作用して効率的にセルロースを分解できる組合せが種々検討されている。例えば、前記した3つの酵素の一つであるセロビオヒドロラーゼ(CBH)には、GHF7に属し、セルロース鎖の還元末端から切断するとされているCBH Iと、GHF6に属し同非還元末端から切断するとされているCBH IIが知られているが、セロビオヒドロラーゼについても種々の報告がある。例えば、ファネロケーテ属のPhanerochaete chrysosporiumが産生するセロビオヒドロラーゼにあっては、CBH IIよりもCBH Iの方が、他のタイプのセルラーゼと組み合わせたときのセルロース分解の相乗効果が高いとの報告がされている。例えば、Pc産生のCBH IとPc産生の他のCBH Iとの組合せは、Pc産生のCBH IとPc産生のCBH IIとの組合せよりも優れるとの報告がされている(非特許文献1)。また、Pc産生のCBH IとPc産生のEG(PcEG)との組合せは、PcCBH IIとPcEGとの組合せよりも優れるとの報告もされている(非特許文献2)。
【0005】
また、トリコデルマ属のTrichoderma reeseiについても、CBH IIよりもCBH Iの方が、他のタイプのセルラーゼと組み合わせたときのセルロース分解の相乗作用が高いとの報告がされている。例えば、PcEGIIIとTrCBH Iとの組合せは、PcEGIIIとTrCBH IIとの組合せよりも優れるとの報告がされている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Uzcatsguiら、J.Biotechnol.19(2-3):271-85
【非特許文献2】Uzcatsguiら、J.Biotechnol.21(1-2):143-59
【非特許文献3】Henrikssonら、Eur. J. Biochem. 259(1-2):88-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1〜3を始めとして、Phanerochaete chrysosporium産生するCBH IIがCBH Iよりも他のタイプのセルラーゼに組み合わせて用いるのに好ましいとの報告はなされていない。また、Phanerochaete chrysosporiumが産生するCBHIIに関しては、他の微生物起源のEGとの具体的な相乗効果の報告はなされていない。
【0008】
本発明は、セルロースの分解に相乗効果に貢献できるセロビオヒドロラーゼ及びそのセロビオヒドロラーゼのセルロースの分解への利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した現状に鑑み、セルロースの分解に必要な酵素のうちセロビオヒドロラーゼに着目し、特に、Phanerochaete chrysosporiumが産生するCBH II(PcCBH II)に着目した。PcCBH IIは、上述のようにPcCBHIよりセルロース分解の相乗効果に劣るとの評価がなされていたところ、本発明者らが新たに開発した評価系を用いてPcCBH2を評価したところ、PcCBH I及び他の起源のCBHと比較して相乗効果に寄与することができる酵素であるという知見を得た。さらに、このPcCBH IIを改変することにより相乗効果に強く貢献できるCBH IIを提供できるという知見を得た。本発明によれば、これらの知見に基づき以下の手段が提供される。
【0010】
本発明によれば、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を含有する、セルロース分解用酵素製剤が提供される。この酵素製剤において、前記改変体は、配列番号2に記載のアミノ配列における22位又はこれに相当する位置において、セリンがプロリンに置換されたアミノ酸変異を有する改変体とすることができる。
【0011】
また、前記改変体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列における表1に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される1種又は2種以上を有する改変体であってもよい。
【表1】
【0012】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5に属するエンドグルカナーゼを含んでいてもよく、好ましくは、当該他起源由来のGHF5に属するエンドグルカナーゼは、Trichoderma reesei、Aspergillus niger及びAspergillus oryzaeに由来するエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上とすることができる。また、前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF12に属するエンドグルカナーゼを含んでいてもよく、当該GHF12のエンドグルカナーゼは、Trichoderma reeseiのエンドグルカナーゼ、Aspergillus niger由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上とすることができる。前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF7に属するエンドグルカナーゼであってもよく、Trichoderma reesei由来及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上とすることができる。さらに、他起源のエンドグルカナーゼは、GHF45に属するエンドグルカナーゼであってもよく、Trichoderma reesei由来及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上とすることができる。
【0013】
本発明の酵素製剤においては、さらに、GHF7に属するセロビオヒドロラーゼを含んでいてもよい。また、本発明の酵素製剤は、Trichoderma reesei又はその形質転換体由来のセルラーゼ組成物を含有していてもよい。さらに本発明の酵素製剤は、β−グルコシダーゼを表層提示した細胞を利用したCBPプロセスを想定する場合には、グルコースによるCBHの反応阻害を回避できることから、β-グルコシダーゼを含有しなくてもよい。
【0014】
本発明によれば、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体を含有する、セルロースを分解するために他のセルラーゼと組み合わされて使用されるセルロース分解活性増強剤が提供される。本増強剤において、前記他のセルラーゼは、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上を含むことができ、前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5、GHF7、GHF12及びGHF45に属するエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上であってもよい。さらに、前記他起源のエンドグルカナーゼは、Trichoderma reesei、Aspergillus niger及びAspergillus orizaeからなる群から選択される1種又は2種以上を起源とすることができる。
【0015】
本発明によれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列における22位又はこれに相当する位置において、セリンがプロリンに置換されたアミノ酸変異を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質が提供される。本タンパク質は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有することが好ましい。また、本発明によれば、上記タンパク質をコードするDNAを含む、DNA構築物が提供され、本DNA構築物は、発現ベクターであってもよい。本発明によれば、本DNA構築物によって形質転換された形質転換体も提供される。
【0016】
本発明によれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列における表1に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される選択される1種又は2種以上を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質も提供される。
【0017】
本発明によれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列において表2の各改変体が有する変異の種類に示すアミノ酸変異又はこれらのアミノ酸変異に相当する変異を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質も提供される。
【表2】
【0018】
また、本発明によれば、上記タンパク質をコードするDNAを含む、DNA構築物が提供され、本DNA構築物は、発現ベクターであってもよい。本発明によれば、本DNA構築物によって形質転換された形質転換体も提供される。
【0019】
本発明によれば、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を発現する、形質転換体が提供される。本形質転換体において、前記セロビオヒドロラーゼ又はその改変体と前記他起源のエンドグルカナーゼとを細胞表層に保持する又は細胞外に分泌していてもよい。また、β−グルコシダーゼの発現が抑制されていてもよいし、前記セロビオヒドロラーゼ又はその改変体及び前記他起源のエンドグルカナーゼ以外のセルラーゼであって、内在性のセルラーゼの発現が抑制されていてもよい。さらに、前記形質転換体の宿主は、非セルラーゼ生産菌であってもよい。
【0020】
本発明によれば、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を製造する、セルロース分解用の酵素製剤の生産方法が提供される。
【0021】
本発明によれば、セルロースの存在下、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを低分子化する工程、を備える、セルロースの低分子化産物の生産方法が提供される。この生産方法において、前記低分子化工程は、β−グルコシダーゼの非存在下でセルロースを分解して、セルロースオリゴマーを得る工程としてもよいさらに、前記低分子化工程は、前記セルロースとともにリグニン及びヘミセルロースが共存していてもよい。
【0022】
また、本発明によれば、セルロースを原料として有用物質を生産する方法であって、セルロースの存在下、β−グルコシダーゼの非存在下で、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを分解してオリゴマーを生産する工程と、前記セルロースオリゴマーをβ−グルコシダーゼで分解してグルコースを生産する工程と、を備える、生産方法が提供される。この生産方法において、前記グルコース生産工程は、β−グルコシダーゼを発現する酵母などのエタノール生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いるエタノール発酵工程としてもよいし、前記グルコース生産工程は、β−グルコシダーゼを発現する有機酸生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いる有機酸発酵工程としてもよい。グルコースを炭素源とする微生物による全てのバイオファイナリー技術に展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】各種のセロビオヒドロラーゼとエンドグルカナーゼの組合せによるセルロース分解の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図2A】PcCBH IIと各種CBH I及びエンドグルカナーゼとの組合せによるセルロース分解の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図2B】AoCBH IIと各種CBH I及びエンドグルカナーゼとの組合せによるセルロース分解の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図2C】TrCBH IIと各種CBH I及びエンドグルカナーゼとの組合せによるセルロース分解の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図3】CBH II改変体によるセルロース分解活性の相乗効果の評価結果を示す図である。
【図4】CBH II改変体によるPSC溶液の分解結果を示す図である。
【図5】CBH II改変体によるアビセル溶液の分解結果を示す図である。
【図6】市販酵素製剤に対するPcCBH2及び改変体の添加効果のPSC溶液による評価結果を示す図である。
【図7】市販酵素製剤に対するPcCBH2の添加効果のPSCプレートによる評価結果を示す図である。
【図8】市販酵素製剤に対するPcCBH2の添加効果の評価結果を相加予測値と実測値とから示す図である。
【図9】実施例5で得られた改変体の比活性測定結果を示す図である。
【図10】上位11クローンの相乗効果評価結果を示す図である。
【図11】シングル化改変体の相乗効果評価結果を示す図である。
【図12】PcCBH2の立体構造モデルと部位特異的変異導入部位とを示す図である。
【図13】基質結合トンネル周辺の部位特異的改変体の相乗効果評価結果を示す図である。
【図14】相加改変体のカクテルへの添加効果評価結果を示す図である。
【図15】相加改変体の市販酵素製剤への添加効果評価結果を示す図である。
【図16】実バイオマス由来セルロース成分に対する添加効果評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と他起源のエンドグルカナーゼとの組合せに関し、これらを含むセルロース分解用の酵素製剤のほか、セルロース分解活性増強剤、こうした組合せでセルラーゼを発現する形質転換体、こうした酵素製剤の生産方法、こうした組合せを有用物質の生産方法等に関する。
【0025】
本発明によれば、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ及びその改変体が、それぞれ他起源のエンドグルカナーゼと組み合わされることでセルロース分解の相乗効果に優れて貢献できる。このため、これらのセロビオヒドロラーゼと他起源のエンドグルカナーゼとの組合せによって、効率的にセルロースを分解できるようになる。したがって、この組合せをセルロースを利用する各種工程の上流側の工程で用いることで、効率的にセルロースオリゴマー、グルコースを生産でき、さらにはこれらを炭素源として用いる発酵に利用できる。また、実バイオマスに由来するリグニンやヘミセルロースが共存していても、セルロースを効率的に分解するおとができる。
【0026】
以下、本発明の実施形態を説明するが、まず、本発明におけるPhanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ及びその改変体について説明し、次いで、酵素製剤及びセルロース分解活性増強剤としてのこれらの生産方法及び利用等について説明する。なお、GHF(Glycoside Hydrolase Family)によるセルラーゼの分類は、CAZy(Carbohydrate active Enzymes)のホームページ(http://www.cazy.org/fam/acc_GH.html)において提供されている。
【0027】
(Phanerochaete chrysosporiumに由来しGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ)
本明細書において、「Phanerochaete chrysosporiumに由来する」とは、Phanerochaete chrysosporiumに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)が生産するGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ(CBH II)又は当該微生物の生産するタンパク質をコードする遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたCBH IIをいう。したがって、Phanerochaete chrysosporiumから取得したCBH IIをコードする遺伝子(又はその改変遺伝子)を導入した形質転換体によって生産された組換体タンパク質であるCBH IIも、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH IIに該当する。
【0028】
(PcCBH2)
本発明におけるCBHIIの一つの態様は、天然のPhanerochaete chrysosporiumから単離されるCBH II(以下、これを改変体と区別してPcCBH2という。)である。典型的なアミノ酸配列は、配列番号2に記載されている(Appl. Environ.Microbaial. 60(12),4387−4393(1994))。
【0029】
本発明のPcCBH2は、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH IIであれば、同種の個々の菌株から採取されるものであってもよい。例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列に基づいて他のPhanerochaete chrysosporium株から取得されたものであってもよい。PcCBH2としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して75%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有していてもよく、また当該相同性アミノ酸配列からなっていてもよい。
【0030】
PcCBH2は、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対してより好ましくは80%以上の相同性、さらに好ましくは85%以上の相同性、一層好ましくは90%以上の相同性を有し、最も好ましくは95%以上の相同性を有する。特定のアミノ酸配列に対する相同性は、NCBIのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)において利用可能なblastp, psi-blast, phi-blastを用いたprotein blastやblastxなどのプログラムを利用して取得することができる。
【0031】
PcCBH2は、また、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号1で表される塩基配列)の全体又はその一部をプローブとして用いるとき、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるものであってもよい。本明細書で言う「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 3nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989(以下、モレキュラークローニング第3版と略す)又は、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0032】
こうして得られるPcCBH2は、配列番号2で表されるアミノ酸配列及びこれと一定以上の相同性を有するアミノ酸配列のいずれかにおいて、また、1又は数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列を有していてもよく、また当該アミノ酸配列からなっていてもよい。アミノ酸変異の個数は特に限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、アミノ酸変異は、置換、欠失及び付加のいずれであってもよく、2種類以上の変異態様を同時に含んでいてもよい。
【0033】
(PcCBH2の改変体)
PcCBH2の改変体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において人工的にアミノ酸変異を導入したものであり、CBH II活性を有するタンパク質である。CBH II活性を有するとは、CBH II活性を有していれば足りるが、好ましくは、PcCBH2と同等程度又はそれ以上のセルロース分解時における相乗効果を有していることを意味している。
【0034】
アミノ酸変異は、各種の手法にて導入することができる。例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列や相同性配列をコードするDNA等の遺伝子情報を改変する方法を用いることができる。DNAに変異を導入して遺伝子情報を改変して本発明のタンパク質を得るには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan−K(TAKARA社製)やMutan−G(TAKARA社製))などを用いて変異の導入が行われる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、遺伝子の変異導入やキメラ遺伝子を構築することもできる。エラー導入PCR及びDNAシャッフリング手法は、当技術分野で公知の手法であり、例えばエラー導入PCRについてはChen K, and Arnold FH. 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 90: 5618-5622を、またDNAシャフリングやカセットPCR等の分子進化工学的手法は、例えば、Kurtzman,A.L.,Govindarajan, S., Vahle, K., Jones, J. T., Heinrichs, V., Patten P. A.,Advances in directed protein evolution by recursive genetic recombination: applications to therapeutic proteins. Curr. Opinion Biotechnol.,12, 361-370, 2001、及び、Okuta, A., Ohnishi, A. and Harayama, S., PCR isolation of catechol 2,3-dioxygenase gene fragments from environmental samples and their assembly into functional genes. Gene, 212, 221-228, 1998を参照することができる。なかでも、エラープローンPCR等によりランダム変異を導入する分子進化的手法を利用する無細胞タンパク質合成系を採用することが好ましい。エラープローンPCRに適用する無細胞タンパク質合成系としては、公知のあるいは本出願人が出願した特開2006−61080号公報及び特開2003−116590号公報に記載のタンパク質合成系を用いることができる。本出願人によるこれらの無細胞タンパク質合成系を用いることで活性型の酵素を容易に得ることができる。このため、これらのタンパク質合成系が適用されたエラープローンPCRは、本発明のタンパク質を取得する手法として好ましく用いることができる。
【0035】
改変体としては、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列の22位又はそれに相当する位置においてセリンがプロリンに置換(S22P)された配列を有するものが挙げられる。かかるアミノ酸配列を配列番号4に示し、当該、アミノ酸配列をコードするDNAにおける塩基配列の一例を配列番号3に示す。なお、配列番号2に記載のアミノ酸配列の22位に相当する位置は、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して比較するタンパク質のアミノ酸配列の相同性を考慮しつつ、アラインメントを行い、配列番号2の22位に相当する位置のセリンを決定することができる。
【0036】
さらに、改変体としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列における以下の表3に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される選択される1種又は2種以上を有するものが挙げられる.なお、本明細書において、「アミノ酸変異に相当するアミノ酸変異」は、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して比較するタンパク質のアミノ酸配列の相同性を考慮しつつアラインメントを行って、「配列番号2に記載のアミノ酸配列におけるアミノ酸変異に相当するアミノ酸変異」を決定できる。したがって、改変体は、特定のアミノ酸変異とそれに相当するアミノ酸変異との双方とを同時に有することはない。
以下の表3では、I群に属するアミノ酸変異は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるセルビロヒドロラーゼの全域に関する変異であり、II群に属するアミノ酸変異は、同セロビオヒドロラーゼの基質結合トンネル周辺の変異である。以下の表においては、I群に属するアミノ酸変異とII群に属するアミノ酸変異とを組み合わせて用いることが好ましい。また、以下の表3において有効性が「*」として表記されるもの用いるのが好ましく、より好ましくは、有効性が「**」として表記されるものを用いるのが好ましく、さらに好ましくは有効性が「***」として表記されるものを用いるのが好ましい。
【表3】
【0037】
改変体としては、より具体的には、配列番号2に記載のアミノ酸配列において以下の表4に示す各改変体が有する変異の種類に示すアミノ酸変異又はこれらのアミノ酸変異に相当する変異を有するタンパク質が挙げられる。なかでも、以下の表4において有効性が「**」として表記されるものを用いるのが好ましく、有効性が「***」として表記されるものを用いるのがさらに好ましい。特に、改変体52〜58として記載の改変体は、BGL、EG及びCBH Iと組み合わせたときのセルロースの分解活性は、親株(野生型)の4.5倍以上であった(最大値はおおよそ6.5倍程度であった)。
【0038】
【表4】
【0039】
本発明におけるPcCBH2及びその改変体は、他の起源由来のエンドグルカナーゼと組み合わせたときに、セルロースの分解に相乗効果を有する。このような相乗効果は、以下に説明する本発明者らによる評価系(特願2007−243626(特開2009−72102号公報)により評価することができる。
【0040】
セルロース分解の相乗効果は、セルロースを含有する固相体からなる評価領域にPcCBH2又はその改変体を供給し、当該領域の固相体中のセルロースを分解させて、セルロースの消失に基づいて形成されるハロ(固相体においてバイオマスの分解により淡色化又は無色化する領域)等として検出できる。評価領域には相乗効果に寄与すると考えられる他のセルラーゼを併せて供給することができる。
【0041】
固相体におけるセルロース消失に基づくハロは、通常、周囲よりも透明性の高い部分として形成され、そのままでも、目視等により視認することができる。ハロ検出時にコンゴレッドなどで、セルロースを染色することで明瞭にハロを検出することができる。また、バイオマスとして色素結合セルロース(例えば、Cellulose Azure、Sigma社製など)を用いた場合、セルロースの分解により色素が固相体中に拡散しハロを形成するため、容易にセルロース分解活性を検出することができる。同様に蛍光色素を結合したセルロースもバイオマスとして利用することでハロを容易に検出することができる。さらに、酸処理セルロースなどをバイオマスとして用いた場合にもセルロースの分解により透明なハロを形成するため、セルロース分解活性を容易に検出することができる。また、基質としてCMC等を用いて、DNS法やソモギ−ネルソン法により、セルロースの分解によって生じる還元糖を検出してもよい。
【0042】
ハロ形成用の固相体は、例えば、バイオマスを担持するゲルやフィルムが挙げられる。ゲルやフィルムの構成材料は特に限定しないで、天然又は人工の高分子材料を好ましく用いることができる。このような高分子材料としては、アガロース(寒天)を好ましく用いることができる。固相体は、例えば、ある程度精製されたバイオマスとしてのセルロースをアガロース溶液に懸濁又は溶解させた後、所定条件で固化することにより得ることができる。また、未精製のバイオマスを乾燥粉砕して得られた粉体をアガロース溶液に懸濁した後、固化することによっても得ることができる。固相体の形態及び固相体に含まれるセルロース量は、エンドグルカナーゼ活性を検出できる程度であればよい。ハロを検出するには、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、リン酸膨潤セルロース(PSC)、アビセル等を用いることができるが、結晶構造を有する不溶性セルロースに対する相乗効果を評価するには、PSCやアビセルを用いることが好ましい。
【0043】
本発明におけるPcCBH2及び改変体は、上述のようにタンパク質の無細胞合成系による遺伝子工学的手法によって取得することができるほか、本発明のタンパク質をコードするDNAで適当な宿主細胞を形質転換し、当該形質転換体において本発明のタンパク質を生産させる遺伝子工学的手法により取得することができる。形質転換体を用いた遺伝子工学的なタンパク質の生産方法は、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0044】
本発明のPcCBH2及び改変体は、Phanerochaete chrysosporium又は各種微生物を宿主とする形質転換体が産生するタンパク質であるときには、これらの菌を培養して培養上清を取得し、この培養上清からPcCBH2及び改変体を分離・精製すればよい。分離や精製には公知のタンパク質の分離・精製法を適用すればよい。なお、PcCBH2及び改変体を培養上清から分離精製することは必ずしも必要ではなく、培養上清をそのまま用いてもよい。
【0045】
(セルロース分解用酵素製剤)
本発明のセルロース分解用酵素製剤は、PcCBH2及び/又はその改変体(以下、PcCBH2と改変体とを特に区別する必要がない限り、この文言に代えて単にPcCBH2等を用いる。)と、Phanerochaete chrysosporium以外の他の起源のエンドグルカナーゼとを含有することができる。本発明のPcCBH2等は、Phanerochaete chrysosporium以外の他の起源のエンドグルカナーゼと組合せてセルロースを分解するとき、セルロース分解のための相乗効果に強く寄与することが本発明者らによって初めて見出された。したがって、PcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼとを組み合わせる酵素製剤は、セルロース分解用として有用である。
【0046】
本明細書において、セルロースは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合により重合した重合体及びその誘導体が挙げられる。グルコースの重合度は特に限定しない。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。また、セルロースは、その部分分解物である、セロオリゴ糖、セロビオースであってもよい。さらに、セルロースは、配糖体であるβグルコシド、リグニン及び/又はヘミセルロースとの複合体であるリグノセルロース、さらにペクチンなどとの複合体であってもよい。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよい。さらに、セルロースは、天然由来のものでも、人為的に合成したものでもよい。セルロースの由来も特に限定しない。植物由来のものでも、真菌由来のものでも、細菌由来のものであってもよい。また、セルロースは、上記したセルロースを含むセルロース含有材料であってもよい。セルロース含有材料は、綿や麻などの天然繊維品、レーヨン、キュプラ、アセテート、リヨセルなどの再生繊維品、稲ワラ、籾殻、木材チップなどのリグノセルロース系の農産廃棄物などのいわゆる実バイオマスであってもよいし、その前処理物であってもよい。
【0047】
他起源由来のエンドグルカナーゼにおける「他起源」とは、Phanerochaete chrysosporium以外の微生物を意味し、Phanerochaete chrysosporium以外であれば特に限定されないが、例えば、Trichoderma reesei、Aspergillus aculeatus、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Clostridium thermocellum、Hemicola insolens、Chaetomium globosum等の公知のセルラーゼを生産又はその遺伝子を保有する菌が挙げられる。なかでも、Trichoderma reesei、Aspergillus aculeatus、Aspergillus oryzae、Aspergillus niger等が好ましく挙げられる。より好ましくは、Trichoderma reeseiである。
【0048】
他起源由来のエンドグルカナーゼとしては、公知の各種エンドグルカナーゼが挙げられ、これらを単独であるいは2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。たとえば、GHF5に属するエンドグルカナーゼが挙げられる。GHF5に分類されるエンドグルカナーゼのなかでも、好ましくは、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、Aspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus niger由来のエンドグルカナーゼを好ましく用いることができる。より好ましくはTrichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼAspergillus niger由来のエンドグルカナーゼである。GHF5に分類されるエンドグルカナーゼは、こうしたエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0049】
エンドグルカナーゼとしては、GHF12に属するエンドグルカナーゼが挙げられる。なかでも、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、Aspergillus niger由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼが挙げられる。こうしたエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0050】
エンドグルカナーゼとしては、GHF7及びGHF45に属するエンドグルカナーゼであってもよい。なかでも、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼを好ましく用いることができる。
【0051】
本発明の酵素製剤は、Phanerochaete chrysosporium由来のエンドグルカナーゼを含んでいてもよい。Phanerochaete chrysosporium由来のエンドグルカナーゼは、CBHII及びその改変体をPhanerochaete chrysosporiumの培養物等から取得した場合においてPcCBH2及びその改変体とともに容易に取得できる。
【0052】
本発明の酵素製剤は、エンドグルカナーゼ以外の他のセルラーゼを含むことができる。例えば、GHF7に属するセロビオヒドロラーゼ(CBH I)を含有することができる。CBH Iは、CBH Iが、PcCBH2等と協動することにより、一層セルロース分解の相乗効果が発揮される。CBH Iは、Phanerochaete chrysosporium由来であってもよいし、他起源であってもよい。
【0053】
本発明の酵素製剤は、他起源のセルラーゼ生産菌の培養物(培養上清であってもよい)から取得された2種類以上のセルラーゼを含有していてもよい。セルラーゼ生産菌としては、特に限定されないで、適宜選択できるが、エンドグルカナーゼの起源としてTrichoderma reesei、Aspergillus aculeatus、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae等が好ましく挙げられる。より好ましくは、Trichoderma reeseiである。
【0054】
本発明の酵素製剤は、β−グルコシダーゼを含有していてもよいし、実質的に含有していなくてもよい。本発明の酵素製剤が、β−グルコシダーゼを実質的に含有していない場合、β−グルコシダーゼにより生成されるグルコースが他のセルラーゼに対して生産物阻害を生じない点において好ましい。したがって、β−グルコシダーゼを実質的に含有しない酵素製剤であれば、確実に生産物阻害を回避して、本発明者らが評価系で確認したセルロース分解の相乗効果を製剤においても得ることができる。なお、こうした酵素製剤は、グルコースにまで分解するものでなく、セルロースをセロビオース等のオリゴマーにまで分解する用途に用いることができる。
【0055】
なお、実質的にβ−グルコシダーゼを含有しないとは、β−グルコシダーゼを含有しないほか、β−グルコシダーゼによる生産物阻害を回避又は抑制できる範囲でβ−グルコシダーゼ量を含んでいてもよいことを意味している。本発明の酵素製剤は、好ましくは、β−グルコシダーゼを含有していない。β−グルコシダーゼを実質的に含有しない酵素製剤は、例えば、内在性のβ−グルコシダーゼ遺伝子を保持しない微生物(酵母や麹菌等)や内在性のβ−グルコシダーゼ遺伝子を有するが当該遺伝子を破壊した微生物に対して、PcCBH2等をコードする遺伝子並びに他起源のエンドグルカナーゼを導入した形質転換体の培養物から容易に得ることができる。
【0056】
本発明の酵素製剤は、PcCBH2等及び他起源のエンドグルカナーゼを、それぞれ精製したものとして含有していてもよいし、未精製タンパク質として他タンパク質やその他の成分を含んでいてもよい。また、その製剤形態は、特に限定されず、固形製剤(粉末(凍結乾燥体等)、タブレット等、顆粒等)であってもよいし、溶液(流通時においては凍結体であることが好ましい。)であってもよい。
【0057】
本発明の酵素製剤の生産方法は特に限定されない。例えば、他起源のエンドグルカナーゼ(上記のように他起源のセルラーゼ生産菌の培養物であってもよい)と、別に準備したPcCBH2等とを混合する形態であってもよいし、PcCBH2等と他の起源のエンドグルカナーゼを共発現する形質転換体を培養して得られる培養物から製造する形態であってもよい。さらに、これらを適宜組み合わせる形態であってもよい。
【0058】
(セルロース分解活性増強剤)
本発明のセルロース分解活性増強剤は、PcCBH2等を含有し、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼを組み合わせて使用される。本発明におけるPcCBH2等は、他起源のエンドグルカナーゼと組合せてセルロースを分解するのに良好な相乗効果を発揮するため、他起源エンドグルカナーゼに組み合わせて用いる増強剤(添加剤)の形態を採ることもできる。本発明の増強剤におけるPcCBH2及び改変体については、上記で説明した通りの各種態様が適用される。また、本増強剤を用いるのに好ましい他起源のエンドグルカナーゼも、本発明の酵素製剤において組み合わせることの好ましいエンドグルカナーゼの各種態様が適用される。また、本発明の増強剤の組合せ先には、本発明の酵素製剤において組み合わせるのが好ましい他のセルラーゼの各種態様が適用される。
【0059】
本発明の増強剤は、CBH Iを含んでいてもよい。CBH Iを含むことで、他起源のエンドグルカナーゼに組み合わされたときに、セルロース分解相乗効果が一層増強されるからである。CBH Iとしては、好ましくは、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH I(PcCBH1)が挙げられる。
【0060】
本発明の増強剤は、PcCBH2等を、それぞれ精製したものとして含有していてもよいし、未精製タンパク質として他タンパク質やその他の成分を含んでいてもよい。また、その製剤形態は、特に限定されず、固形製剤(粉末(凍結乾燥体等)、タブレット等、顆粒等)であってもよいし、溶液(流通時においては凍結体であることが好ましい。)であってもよい。
【0061】
本発明の増強剤の生産方法は、特に限定されない。天然由来のPcCBH2の場合には、当該PcCBH2を生産する微生物を培養等してタンパク質画分又はその一部として本発明の増強剤を得ることができる。なお、改変体については、遺伝子工学的に取得して本発明の増強剤とすることができる。なお、天然由来のPcCBH2であっても遺伝子工学的に取得することもできる。
【0062】
(DNA構築物)
本発明のDNA構築物は、本発明の改変体をコードするDNAを含んでいる。より具体的には、配列番号4に記載されるアミノ酸配列をコードするDNA、さらに具体的には、配列番号3に記載される塩基配列を有するDNAを含んでいる。また、上記した表1に含まれるアミノ酸変異の1種又は2種以上を有する各種改変体のアミノ酸配列をコードするDNAや上記した表2に記載の各改変体のアミノ酸配列をコードするDNAを含んでいる。本発明のDNA構築物は、主として適当な宿主細胞の形質転換を意図した発現ベクターとしての形態を採ることができる。形質転換の手法や宿主細胞における当該ポリヌクレオチドの保持形態(染色体に導入する形態や染色体外に保持する形態等)に応じて、上記コード領域以外の構成要素が適宜決定される。また、DNA構築物の形態は、使用形態に応じて様々な形態を採ることができる。例えば、DNA断片の形態を採ることができるほか、プラスミドやコスミドなどの適当なベクターの形態を採ることもできる。
【0063】
なお、本発明によれば、配列番号4に記載されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド及び配列番号3に記載される塩基配列を有するポリヌクレオチド他、各種態様のPcCBH2及びその改変体をコードするポリヌクレオチドも提供される。ポリヌクレオチドは、化学合成法や各種PCR法等により取得することができる。なお、ポリヌクレオチドは、DNA(二重鎖及び一重鎖のいずれであってもよい)、RNA、DNA/RNAハイブリット等、いずれの形態であってもよい。
【0064】
(形質転換体)
本発明の形質転換体の一態様は、本発明の改変体を発現する形質転換体であり、上記した本発明のDNA構築物で適当な宿主細胞を形質転換することによって得ることができる。例えば、本発明の改変体のみを細胞表層に保持し又は細胞外に分泌する形態で発現する形質転換体は、それ自体、本発明の増強剤として利用できる。また、こうした形質転換体を培養して得られる培養物は、本発明の増強剤の好ましい取得源として利用できる。
【0065】
本発明の形質展開体は、PcCBH2等と他起源のEGとを共発現する態様とすることもできる。こうした共発現形態の形質転換体によれば、セルロース分解の相乗効果を得ることができる組合せを一挙に得ることができ、酵素製剤の製造及び形質転換体によるセルロースの分解に有利である。この態様の形質転換体において発現される好ましいエンドグルカナーゼ及びそのほかのセルラーゼについては、本発明の酵素製剤に関し既に説明した各種態様が適用される。
【0066】
本発明の上記各種態様の形質転換体を得るのにあたり、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。遺伝子導入の宿主となる細胞は特に限定しないが、形質転換体によるセルロース分解及び酵素製剤の取得を考慮すると、例えば、Phanerochaete chrysosporium、Trichoderma reesei、Aspergillus aculeatus、Aspergillus niger、Aspergillus oryzae、Clostridium thermocellum、Hemicola insolens、Chaetomium globosum等の公知のセルラーゼ産生菌のほか、酵母や麹菌から選択される公知の非セルラーゼ生産菌等が挙げられる。さらに、後述する有機酸発酵やエタノール発酵等を考慮すると、非セルラーゼ生産菌でもあるSaccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属の酵母、Schizosaccharomyces pombe,等のSchizosaccharomyces属の酵母、Candida shehatae等のCandida属の酵母、Pichia stipitis等のPichia属の酵母、Hansenula属の酵母、Trichosporon属の酵母、Brettanomyces属の酵母、Pachysolen属の酵母、Yamadazyma属の酵母、Kluyveromyces marxianus, Kluveromyces lactis等のKluveromyces属の酵母が挙げられる。
【0067】
共発現態様の形質転換体の作製にあたっては、本発明の組合せで酵素が発現されるように、宿主の種類に応じて、適宜、導入する遺伝子が決定される。例えば、Phanerochaete chrysosporiumを宿主とする場合には、PcCBH2遺伝子は内在されているため、他起源の、例えば、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ遺伝子を導入すればよい。また、Trichoderma reeseiを宿主とする場合には、他起源のエンドグルカナーゼ遺伝子が内在されているため、PcCBH2等をコードする外来遺伝子を導入する。さらに、非セルラーゼ生産菌に、PcCBH2等及び他起源のエンドグルカナーゼをそれぞれコードする外来遺伝子を導入してもよい。
【0068】
本発明の形質転換体においては、本発明において好適とされる組合せ以外のセルラーゼ遺伝子が発現されていてもよいが、その発現を抑制してもよい。好適な組合せ以外のセルラーゼ遺伝子の発現を抑制することで、必要なタンパク質のみをできるだけ多く発現させて、本発明の組合せによるセルロース分解相乗効果によりセルロースを効率的に分解できる。こうした形質転換体は、強力な相乗効果を発揮可能な酵素製剤の製造に有利である。
【0069】
例えば、Trichoderma reeseiにPcCBH2等をコードする外来遺伝子を導入して本発明の形質転換体を得る場合、Trichoderma reeseiのCBH I、CBH IIを発現させてもよいが、これらの遺伝子を破壊して不活性化しておいてもよい。また、酵母や麹菌から選択されるセルラーゼ非生産菌に、本発明において好適な組合せに係る酵素をコードする外来遺伝子を導入するようにして本発明の形質転換体を得ても良い。セルラーゼ非生産菌は、後述するように、内在性のβ−グルコシダーゼ遺伝子を有していないほか、外来遺伝子として導入するPcCBH2等やエンドグルカナーゼの発現量を調節して高発現させやすいという利点がある。こうした形質転換体は、強力な相乗効果を発揮可能な酵素製剤の製造に有利である。
【0070】
本発明の形質転換体においては、β−グルコシダーゼの発現が抑制されていてもよい。すなわち、内在性β−グルコシダーゼ遺伝子を有する宿主を利用した形質転換体にあっては、当該遺伝子が破壊されており、内在性β−グルコシダーゼ遺伝子を有しない宿主(例えば、セルラーゼ非生産菌など)を利用した形質転換体であってもよい。β−グルコシダーゼは、既に説明したように、生産物阻害によりセルロース分解を抑制するからである。こうした形質転換体は、酵素製剤、特に、セルロースをオリゴマーにまで低分子化するための酵素製剤として好ましい。特定遺伝子の破壊は、当業者であれば適宜実施できる。
【0071】
なお、上記した本発明のDNA構築物及び形質転換体の作製方法は、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0072】
なお、本発明の形質転換体においては、こうした組合せの酵素を細胞内に発現するようにしてもよいし、細胞表層に保持する又は細胞外に分泌するように構築してもよい。細胞表層に保持する形態又は細胞外に分泌する形態であれば、形質転換体をそのままセルロースに分解に利用できる。細胞外に分泌する形態は、培養上清から酵素製剤を取得するのにも有利である。
【0073】
(酵素製剤の生産方法)
本発明によれば、本発明の共発現態様の形質転換体を用いて本発明の酵素製剤を製造する方法が提供される。本発明によれば、好ましい組合せのセルラーゼからなる酵素製剤を一挙に得ることができる。本発明の生産方法には、上記した共発現態様の形質転換体において、特に酵素製剤の製造に好ましいとされる形質転換体を用いることで、効率的にかつ強力な酵素製剤を容易に得ることができる。
【0074】
形質転換体の培養については、用いた宿主や発現ベクター等を考慮して適宜決定される。培養により培養菌体及び/又は培養上清を取得して、これらからタンパク質を含む画分を取得し、必要に応じ分離・精製すればよい。分離や精製には公知のタンパク質の分離・精製法を適用すればよい。PcCBH2や他起源エンドグルカナーゼが分泌生産される場合には、培養上清をそのまま用いることもできる。得られた酵素画分は、必要に応じて乾燥等し粉末化するなどして各種形態の酵素製剤とすることができる。
【0075】
なお、酵素製剤が、他の他起源のセルラーゼ生産菌の培養物(培養上清であってもよい)から取得された2種類以上のセルラーゼを含有している場合には、こうした培養物も併せてタンパク質を分離してもよいし、本発明の共発現形質転換体とは別個に、こうした培養物からタンパク質を分離して本発明の共発現形質転換体の培養物あるいは製剤に添加してもよい。
【0076】
(セルロースの低分子化産物の生産方法)
本発明のセルロースの低分子化産物の生産方法は、セルロースの存在下、PcCBH2等と、他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを低分子化する工程を備えている。本発明によれば、効率的にセルロースを低分子化、セルロースオリゴマー又はグルコースを生産できる。グルコースまで低分子化するには、β−グルコシダーゼも用いる。
【0077】
低分子化工程においてセルロースを効率的にセルロースオリゴマーにまで分解するには、β−グルコシダーゼの実質的な非存在下でセルロースを分解することが好ましい。こうすることで、β−グルコシダーゼによる生産物阻害の影響を回避又は抑制できる。なお、「β−グルコシダーゼの実質的な非存在下」とは、β−グルコシダーゼが存在しないほか、β−グルコシダーゼによる生産物阻害を回避又は抑制できる範囲でβ−グルコシダーゼが存在していてもよい、ことを意味している。セルロースオリゴマーを得るためには、β−グルコシダーゼはこの酵素反応系内に存在しないことが好ましい。
【0078】
低分子化工程は、β−グルコシダーゼの非存在下、PcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼとを用いてセルロースを分解し、その後、得られたセルロースオリゴマーに対して、β−グルコシダーゼを供給して分解する工程とすることができる。こうすることで、効率的にセルロースをグルコースにまで分解できる。
【0079】
低分子化工程は、PcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼ(例えば、商業的に入手可能な酵素製剤等)と組み合わせて用いることができる。こうすることで、優れた相乗効果は発揮することができる。例えば、セルロースやリグニンやヘミセルロースを含む稲ワラ等のリグノセルロース系バイオマス(実バイオマス)の前処理物であっても、他起源のエンドグルカナーゼとの優れた相乗効果を得ることができる。すなわち、本発明の酵素の組み合わせによれば、リグニンやヘミセルロースの存在下であっても高効率にセルロースを分解できる。特に、改変体52〜58は、市販酵素製剤などのセルラーゼ製剤や、BGL+EG+CBH Iと組み合わせたとき、優れた相乗効果は発揮することができる。
【0080】
本発明の生産方法で用いるPcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼとの組合せは、上記のように本発明の酵素製剤として提供されていてもよいし、また、本発明の共発現形態の形質転換体の細胞表層に提示された状態で提供されていてもよい。さらに、PcCBH2等のみが酵素製剤として提供され、他起源エンドグルカナーゼが細胞表層や細胞外に分泌された形態で提供されていてもよい。細胞外への分泌及び細胞表層での保持させる方法としては、各種手法が知られているが、細胞表層提示のための公知のタンパク質や分泌用タンパク質をPcCBH2等や他起源のエンドグルカナーゼに連結した融合タンパク質を発現するように形質転換体を得る方法が挙げられる。
【0081】
以上説明した、本発明のセルロースの低分子化産物の生産方法において、用いるPcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼについては、既に説明した本発明の組合せの各種態様が適用される。そして、好ましい態様の組合せを用いることで、一層効率的なセルロースの分解が可能となる。
【0082】
(有用物質生産方法)
セルロースの存在下、PcCBH2等と、他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、実質的にβ−グルコシダーゼの非存在下でセルロースを分解してセルロースオリゴマーを生産する工程と、前記セルロースオリゴマーをβ−グルコシダーゼで分解してグルコースを生産する工程と、を備えることができる。本発明の有用物質を生産する方法は、一旦セルロースオリゴマーとした後で、好適には、こうしたオリゴマーを回収した後、これをさらにβ−グルコシダーゼで分解してグルコースを得る。こうすることで、セルロースオリゴマーをセルロースによる酵素反応の阻害を回避又は抑制して、効率的にセルロースオリゴマーを得、その後、このオリゴマーに対してβ−グルコシダーゼを作用させることで、効率的にグルコースを取得し、これを炭素源として用いて有用物質を生産できる。
【0083】
有用物質としては特に限定しないが、グルコースを利用して微生物が生成可能なものが好ましい。利用する微生物としては、特に限定しないが、酵母などのエタノール生産微生物や乳酸菌などの有機酸生産微生物が挙げられる。これらはいずれも人工的に取得された微生物であってもよい。例えば、グルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して得られる本来の代謝物でない化合物を産生可能に改変したものであってもよい。このような微生物を用いることで、例えば、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリンの生産、プラスチック・化成品原料を生産するなどのバイオリファイナリー技術に適用できる。
【0084】
例えば、本発明の有用物質生産方法は、グルコース生産工程で得られるグルコースを炭素源として利用できるが、グルコース生産工程を、β−グルコシダーゼを発現する微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いるエタノール発酵工程とすることができる。こうすることで、グルコースによる生産物阻害なく、効率的にセルロースを利用してエタノールを生産できる。また、グルコース生産工程を、β−グルコシダーゼを発現する有機酸生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いる有機酸発酵工程とすることができる。こうすることで、グルコースによる生産物阻害なく、効率的にセルロースを利用して有機酸を生産できる。
【0085】
なお、本明細書において、「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物であって、遊離の酸あるいはその塩である。「有機酸」が備える酸性基としては、カルボン酸基であることが好ましい。このような「有機酸」としては、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの「有機酸」は、D体、L体のほか、DL体であってもよい。「有機酸」は好ましくは、乳酸である。
【0086】
また、有機酸生産微生物としては、乳酸を発酵する微生物として、乳酸生産酵母が挙げられ、かかる酵母としては、例えば、特開2003−259878、特開2004−18763、特開2005−137306、特開2006−6271、特開2006−20602、特開2006−42719、特開2006−28318、特開2006−296377、特開2007−89466、特開2007−175029等に開示されている乳酸生産酵母等が挙げられる。
【0087】
以上説明した、本発明の有用物質の生産方法において用いるPcCBH2等と他起源のエンドグルカナーゼについては、既に説明した本発明の組合せの各種態様が適用される。そして、好ましい態様の組合せを用いることで、一層効率的なセルロースの分解が可能となり、有用物質を効率的に生産できるようになる。
【0088】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。
【実施例1】
【0089】
(各種セルラーゼの活性型での生産)
グリコシド結合を切断する酵素群(EC3.2.1.−)は、Glycoside Hydrolase Family(以下、GHF)により分類されており、各種セルラーゼもこれに含まれる。相乗効果を試験するために、CBHとEGについて、なるべく多くのGHFに分類される酵素を本実施例で評価した。CBH(EC3.2.1.91)は、GHF5,6,7,9,10,48に分類されるものが、EG(EC.3.2.1.4)は、GHF5,6,7,8,9,10,12,26,44,45,48,51,61,74に分類されるものが、BGL(EC.3.2.21)は、GHF1,3,9に分類されるものが報告されている。CBHについては、GHF5,6,7,9に属するものが知られている。そこで、CBHについて、4種類のGHFに分類される5種類の微生物(Trichoderma reesei、Phanerochaete chrysosporium、Aspergillus aculeatus、Aspergillus oryzae、Clostridium thermocellum)由来の13種類を用いた。EGについては、GHF5,6,7,8,9,12,45,48,61の9種類に分類される6種類の微生物(Trichoderma reesei、Phanerochaete chrysosporium、Aspergillus aculeatus、Aspergillus oryzae、Hemicola insolens、Clostridium thermocellum、Chaetomium globosum)由来の24種類のEGを用いた。BGLとしては、GHF3に属するPhanerochaete chrysosporium由来の1種類の酵素を用いた。
【0090】
各種セルラーゼの成熟タンパク質領域の上流側に開始コドン、T7プロモーター、リボソーム結合部位(rbs)をPCRにより連結した。下流側にT7ターミネーターをPCRにより連結した。全長のPCR産物をエタノール沈殿したものを、転写翻訳反応の鋳型として用いた。なお、鋳型DNAの作製に際し、以下の酵素をコードするDNAの塩基配列については、各種酵素につき、それぞれ以下に示すアクセッション番号によってNCB1のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から取得してPCRプライマーを設計した。
PcCBH II: S76141
TrCBH II: M16190
AoCBH II: AP007169
PcCBH I: M22220
TrCBH I: X69976
AaCBH I: AB002821
AoCBH I: AB089436
TrEG I: AAA34212.1
TrEG V: Z33381
AnEG II: AF331518
AoEGII: AB195229
TrEG II: AAA34213.1
AnEGIII: AJ224451
PcEG III: AY682744
TrEG III: BAA20140
【0091】
シャペロン(大腸菌由来のDnaK/DnaJ、GrpE、GroEL/GroES)を高発現した大腸菌を破砕後、S30画分を還元剤(ジチオスレイトール;DTT)未添加で調製したものを無細胞合成のための抽出液(媒体)として用いた。この抽出液に、上記の鋳型DNA、56.4mM Tris−acetate pH7.4、1.2mM ATP、1mM GTP、1mM CTP、1mM UTP、40mMクレアチンフォスフェート、0.7mM 20アミノ酸ミックス、4.1%(w/w)ポリエチレングリコール6000、35μg/ml フォリン酸、0.2mg/ml大腸菌tRNA、36mM 酢酸アンモニウム、0.15mg/ml クレアチンキナーゼ、10mM 酢酸マグネシウム、100mM 酢酸カリウム、10μg/ml リファンピリシン、7.7μg/ml T7RNAポリメラーゼ及びカビ由来PDIと1mM GSH/0.1mM GSSGを加え、26℃、1〜3時間、転写翻訳共役反応を行った。
【0092】
これらの酵素につき、カルボキシル化メチルセルロースに寒天を加えて固化させ、セルロース含有プレートを作製した。無細胞合成後の各反応液1μlを、セルロース含有プレート上にアレイ状に添加し、酵素反応を生じさせた。反応後、染色液(コンゴーレッド)をセルロース含有プレートに滴下重層して染色し、セルラーゼ反応部分が脱色されたハロが形成されるまで脱色反応を行った。すべての反応液について、ハロが検出されたことから、実施例1の無細胞合成系でCBHを活性型で合成できることがわかった。
【実施例2】
【0093】
(相乗効果の評価その1)
本実施例では、実施例1で無細胞合成した各種セルラーゼにつき、相乗効果に基づく不溶性のセルロースの分解を評価した。すなわち、マイクロタイタープレート上で、0.1%リン酸膨潤セルロース(以下、PSCという。)に寒天を加えて固化させ、高分子不溶性セルロース含有プレートとした。活性型で合成した実施例1のBGLをすべてのスポットに1μlづつ添加した。その上から、活性型で合成した実施例1の各種CBH及びEGを、縦列と横列にそれぞれ1μlづつ添加した。40℃で反応後、染色液(コンゴレッド)を寒天上に滴下重層して染色し、これらセルラーゼによる反応部分が脱色されハロ(脱色されて白い部分が大きいほど、高いセルロース分解活性を持つ)が、形成されるまで脱色反応を行った。形成したハロの大きさを測定し、相対活性で表示した。PSCは、高分子セルロースであり、相乗効果が強く認められたときにのみハロを形成する評価系である。結果を図1に示す。
【0094】
図1に示すように、BGLと各種EGに対して、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH II(PcCBH2)を添加した場合と比較して、顕著にセルロース分解活性が向上しており、セルロース分解のための相乗作用に強く寄与していることがわかった。PcCBH IIと相乗効果を示す組み合わせに効果が高いEGは、GHF5に分類されるTrichoderma reesei由来のTrEG II及びAspergillus oryzae由来のAoEGII、GHF12に分類されるTrEGIIIであった。また、GHF7に分類されるTrEGI及びGHF45に分類されるTrEGVも高い相乗効果が得られた。特に、PcCBH2とTrEG IIとの組み合わせが最も相乗効果が高かった。
【実施例3】
【0095】
(相乗効果の評価その2)
CBHには、GHF7に属するCBH Iと、GHF6に属するCBH IIが知られていることから、BGLとEGに加えるCBHとしては、CBH IとCBHIIとの双方を添加することが好ましいと考えられる。そこで、活性型で合成した実施例1のBGLを実施例2と同様にして作製した高分子不溶性セルロース含有プレートスポットした上に、CBH I及びEGとを各種の組合せで1μlづつスポットしたプレートを3種類作製し、それぞれのプレートに異なるCBH IIを1μlづつスポットした。40℃で反応後、染色液(コンゴレッド)をプレート上に滴下重層して染色し、セルラーゼ反応部分が脱色され、ハロが形成されるまで脱色反応を行った。形成したハロの大きさを測定し、相対活性で表示した。結果を図2に示す。
【0096】
図2A〜図2Cに示すように、Trichoderma reesei由来のCBH II(TrCBH2)(図2C)及びAspergillus aculeatus由来のCBH II(AcCBH2)(図2B)を添加した場合と比較して、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH II(PcCBH2)を添加した場合(図2A)、顕著にセルロース分解活性が向上しており、当該酵素がセルロース分解の相乗効果に強く寄与していることがわかった。Phanerochaete chrysosporium由来のCBH IIと相乗効果を示す組合せに効果の高いEGは、GHF5に分類されるEG(Trichoderma reesei由来のTrEGII、Aspergillus niger由来AnEGII)、GHF12に分類されるEG(Trichoderma reesei由来のTrEGIII、Aspergillus niger由来のAnEGIII、Phanerochaete chrysosporium由来のPcEGIII)であった。
【実施例4】
【0097】
(改変体ライブラリーの作製)
Phanerochaete chrysosporium由来のCBH IIのセルロース結合ドメインにランダム変異を導入した。ランダム変異は、エラープローンPCR(10mM、Tris−HCl pH9.0、50mMKCl、0.1%Triton X−100,5−10mMMgCl2、0.5〜2.0mM MnCl2、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、1mM dCTP、1mM dTTP、1〜100ng/μl MnP、0.3μM プライマー、25mU/μl、Promega Taq DNAポリメラーゼ)により増幅し、100塩基当たり平均0.5個の変異(エラー率0.5%)をランダムに導入し、ライブラリーを作製した。平均1分子/ウェルまで希釈後に、LA Taqポリメラーゼを用いて94℃で2分の加熱後に、96℃で10秒、65℃で5秒及び72℃で1分のサイクルを65回繰り返し、その後72℃で7分加熱して、1分子PCRを行った。PCR産物各1μlを鋳型として実施例1に示す組成の無細胞タンパク質合成反応液9μlに加え、転写・翻訳共役反応を行った。変異酵素ライブラリーを384プレート6枚に構築した。
【実施例5】
【0098】
(高活性改変体のスクリーニング)
酵素変異ライブラリー各1μlを、無細胞合成した実施例1で用いたのと同様のPhanerochaete chrysosporium由来のBGL、CBH I及びTrichoderma reesei由来のEGIIをそれぞれ既に0.1μlづつ実施例2で作製したのと同様の高分子不溶性セルロース含有プレート上に添加し、40℃で反応させた結果、野生型よりもハロが大きいウェルが得られた。ハロが大きいウェルの上位20個について、その1分子PCR産物を大腸菌にクローン化して、各ウェルの形質転換体の4〜10クローンについて、アミノ酸配列を決定した。変異が確認できたクローンのうち、配列が異なるものを選出し、無細胞合成を行い各改変体の分解活性を評価した。スクリーニング時と同様に、クローン化した各改変体の合成産物1μlを、BGL、EG、CBH Iをそれぞれ1μlづつスポットした高分子不溶性セルロース含有プレート上に添加し、40℃で反応させた。その結果、変異導入前よりセルロース分解の相乗効果の高い改変体が数個得られたことがわかった。最も効果が高かった改変体について、相乗効果(BGL、EG及びCBH Iの共存下)での高分子不溶性セルロース含有プレートでの評価結果を図3に示す。
【0099】
図3に示すように、CBH なし(BGL、EG及びCBH I)と比較して、野生型であるPcCBH2では白色部分が大きく、さらに改変体では大きくなること(野生型の約2倍)がわかった。
【実施例6】
【0100】
(改変体の評価)
無細胞合成した実施例1で用いたのと同様のPhanerochaete chrysosporium由来のBGL、CBH I及びTrichoderma reesei由来のEGIIのそれぞれ1μlづつを、1%PSC又は1%アビセルを含む水溶液に添加した。そこへ、野生型PcCBH2及び改変体を各1μl添加し、40℃で24時間反応後の還元糖量をTZアッセイ法(TZ法;Jouranl of Biochemical and Biophysical Methods, 11(1985))により測定した。PSC分解活性を図4に示す、アブセルロース分解活性を図5に示す。
【0101】
図4及び図5に示すように、いずれも野生型のPcCBH2活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合と、相乗効果ではなく単独でのPSC溶液分解時の還元糖量を測定した結果を示す。PSC分解活性では、改変体は、野生型PcCBH2よりも相乗効果が2.3倍強く、単独での分解活性は4倍程度強いことがわかった。アビセル分解活性は、相乗効果で1.3倍、単独活性では2.3倍であった。また、改変体のアミノ酸の置換部位はS22Pであった。
【実施例7】
【0102】
(市販酵素製剤に対する添加効果その1)
1%PSC水溶液200μlに、Trichoderma reesei由来の市販酵素製剤であるSigma製のセルクラストC2730を400ngを加え、野生型のPcCBH2、改変体、ネガティブコントロール(CBH添加なしの市販酵素製剤のみ)、Phanerochaete chrysosporium由来のCBH I、Trichoderma reesei由来のCBH I、Trichoderma reesei由来のCBH II、Aspergillus aculeatus由来のCBH I、及びAspergillus oryzae由来のCBH Iの順に、無細胞合成した産物各3μlを、それぞれ添加し、40℃で反応させた。還元糖量を実施例6に示すTZ法で測定した。結果を図6に示す。
【0103】
図6に示すように、セルロース分解活性は、各活性からネガティブコントロールの数値を差し引いた後の野生型の分解活性を1とした相対活性で示す。野生型PcCBH2を添加した場合、他種微生物由来のCBHを添加した場合と比較して分解活性が高いことがわかった。また、野生型と改変体との比較では、改変体の方が添加効果が高かった。
【実施例8】
【0104】
(酵母による発現と精製)
野生型PcCBH2(Phanerochaete chrysosporium由来のCBH II)をPCRで増幅し、酵母分泌発現ベクターであるpRS436GAPSSRGにサブクローニングした。pRS436GAPSSRGは、TDH3プロモーターの下流に、分泌シグナルをもち菌体に酵素を分泌させることが可能である。本ベクターを酵母(MT8−2株)に形質転換し、SD−URA寒天培地(Yeast-nitrogen base without amino acids without ammonium sulfate1.7g、カザミノ酸5g、アミノ酸ミックス、グルコース20g、寒天20g、脱イオン水1000ml)で30℃で3日間培養した。本培養は、ファーメンターを用いてpHを5.5に維持しながら行った。生育したコロニーをSD−URA液体培地で前培養し、OD600=0.1となるように本培養液500mlに植菌し、25℃で3日間培養した。
【0105】
培養上清を回収し、硫安濃度70%で硫安沈殿を行った。硫安沈殿後のタンパク質をバッファ(1M硫安、0.1M Tris−HCl(pH7.0))で溶解し、限外ろ過で完全にバッファ置換したサンプルを精製用サンプルとした。
【0106】
同様のバッファで膨潤したアビセル溶液(アビセル10g、バッファー40ml)2mlをカラムに詰めアビセルカラムを作製した。ペリスタポンプを用いて1ml/分の流速でサンプルをカラムに流した。その後、同バッファー20ml(流速1ml/分)で洗浄し、滅菌水で溶出した(流速0.5ml/分)。1mlづつ回収した画分を、カルボキシメチルセルロース含有寒天のプレートに滴下してセルロース分解活性を確認後、SDS−PAGE解析の結果、活性型のCBH IIをほぼ単一バンドにまで精製できた。バイオラッド社のプロテインアッセイキットによりタンパク質を定量した。
【実施例9】
【0107】
(市販酵素製剤に対する添加効果その2)
【0108】
実施例8で得られた野生型PcCBH2のTrichoderma reesei由来の市販酵素製剤に対しての添加効果を評価した。市販酵素製剤として、Sigma製のセルクラストC2730を用い、上段には各60ng/μl、下段には120μg/μlをそれぞれ1μl、0.1%PSC含有プレートにスポットした。縦列には、左からネガティブコントロール(CBHなし)、PcCBH2(100ng/μl)をそれぞれ1μl、酵素製剤スポットの上から滴下し、40℃で反応させた。24時間後にコンゴレッドにより染色した。結果を図7に示す。
【0109】
図7に示すように、ネガティブコントロールと比較すると、PcCBH2をスポットした場合ではハロが大きい傾向があることがわかった。ハロの大きさから、PcCBH2を添加した場合の分解活性は、ネガティブコントロールの約1.5〜2倍であった。したがって、市販酵素製剤にPcCBH2を添加することで、セルロース分解効果を高める相乗効果が得られることがわかった。
【実施例10】
【0110】
(市販酵素製剤に対する添加効果その3)
Trichoderma reesei由来の市販酵素製剤Sigma製のセルクラストC2730に対してのPcCBH2の添加効果を評価した。無細胞合成したBGL、EG及びCBH Iのそれぞれ1μlづつを、1%PSC含有水溶液200μlに、セルクラスト0〜400ng及びPcCBH2 100〜0ngを添加した。40℃で24時間反応後の還元糖量をTZアッセイ法(TZ法;Jouranl of Biochemical and Biophysical Methods, 11(1985))により測定した。各濃度におけるセルクラスト単独とPcCBH2単独での活性を加算した相加予測値を図8に示す。
【0111】
図8に示すように、相加予測値よりも実測値のほうがPSC分解活性が高く、添加による相乗効果が認められた。また、PcCBH2の添加濃度はセルクラストの添加濃度の1/4程度であっても効果があることがわかった。
【実施例11】
【0112】
実施例5で得られたS22P改変体の他、2番目に活性が高かったQ2H改変体(配列番号2で表されるアミノ酸配列において第2番目のグルタミンがヒスチジンに置換した改変体である。表2に改変体1として示す。)について、合成量を合わせて比活性を測定した。合成量の測定は、無細胞合成時に蛍光標識されたリジン(FluoroTect GreenLys in vitro Translation Labeling System:プロメガ)を取り込ませ合成産物を蛍光ラベルした後、蛍光イメージアナライザー(FLA9000:富士フィルム株式会社)で検出、画像解析ソフトであるMulti Gaugeで解析を行った。無細胞合成したBGL、EG、CBHIのそれぞれ0.2μlずつを、0.5%PSCを含む水溶液に添加した。そこへ、野生型PcCBH2、S22P改変体、Q2H改変体について、野生型PcCBH2での1μl相当量を添加し、40℃で15時間反応後の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。図9に、野生型PcCBH2活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合の結果を示す。図9に示すように、S22P改変体及びQ2H改変体は、いずれも野生型よりも相乗効果を示した。
【実施例12】
【0113】
(PcCBH2の触媒ドメイン変異ライブラリーの作成)
実施例6で得られたS22P改変体を親遺伝子として、ランダム変異を導入した。error-prone PCR(10 mM Tris-HClpH 9.0, 50 mM KCl, 0.1%TritonX-100, 5-10 mM MgCl2, 0.5-2.0 mM MnCl2, 0.2 mM dATP, 0.2 mM dGTP,1 mM dCTP,1 mM dTTP,1-100 ng/μl DNA, 0.3μM primer, 25 mU/μl Promega Taq DNA polymerase)により増幅し、100塩基当たり平均0.5個の変異(error率0.5%)をランダムに導入し、ライブラリーを作製した。PCR産物各1μlを鋳型として実施例1に示す組成の無細胞タンパク質合成反応液7μlに加え、転写・翻訳共役反応を行った。変異酵素ライブラリーを384プレート8枚に構築した。
【実施例13】
【0114】
(スクリーニング方法)
酵素変異ライブラリー各1μlを、無細胞合成したBGL、EG、CBHIをそれぞれ0.1μlずつ加えた0.25%PSC溶液100μlに添加し、40℃で24時間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清の還元糖量をソモギ-ネルソン法により測定した。その結果、親遺伝子であるS22P改変体よりも還元糖量が向上したウェルが複数得られた。還元糖量の上位61ウェルについて、そのPCR産物を大腸菌にクローン化して、各ウェルの形質転換体の4〜10クローンについて再度ソモギ-ネルソン法により還元糖量を測定した。そのうち上位60クローンについて、アミノ酸配列を決定した。スクリーニングで得られた60クローンのうち配列が異なるものを、実施例11と同様にして合成量を合わせて比活性を測定した。その結果、比活性において親遺伝子であるS22P改変体よりも相乗効果が高い改変体が複数得られた。
【実施例14】
【0115】
(スクリーニングで得られた改変体の評価結果)
実施例13で得られた改変体のうち、上位11クローンの比活性を実施例11と同様に測定した結果を図10に示す。なお、以下の実施例において図表等において用いる改変体の種類は、表2に示す改変体の種類を表している。図10に示すように、最も活性の高かった改変体12では親遺伝子であるS22P改変体と比較して、相乗効果で2倍程度PSC分解活性が向上していた。アミノ酸置換はS22Pの他にGln2His(Q2H)、Leu29Pro(L29P)、Asn191His(N191H)のアミノ酸が置換されていた。Gln2His(Q2H)は、実施例5のスクリーニング時に取得した2番目に活性が高かったQ2H改変体(改変体1)(実施例11)と同じ位置の変異であった。他の改変体のアミノ酸置換を表5に示す。
【0116】
【表5】
【実施例15】
【0117】
(シングル化改変体の結果)
実施例14において比活性の向上していた改変体で、かつ複数の変異をもつクローンについて、変異を分離する事で、S22P改変体と比較した場合の各変異の影響を評価した。評価した改変体の一覧を表6に示す。無細胞合成したBGL、EG、CBHIをそれぞれ0.4μlずつ加えた0.5%PSC溶液200μlに、実施例11と同様にして合成量を測定した無細胞合成産物を添加し、40℃で数時間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。結果を図11に示す。図11に示すように、S22P改変体と比較して活性の向上が見られた改変体4、7、14、18が有する変異のうち、S22P以外の変異であるS60L、V28A、L29P、N191Hの4変異を有効な変異とした。
【0118】
【表6】
【実施例16】
【0119】
(PcCBH2立体構造モデルの構築)
CBHは主にセルロース結合ドメインと触媒ドメインが存在しており、両者はリンカーでつながった構造をとることが知られている。両ドメインの構造は、X線解析により別々に解かれており、CBHIIの触媒ドメインとしては、以下の2種類の酵素の構造がPDB(Protein Data Book)に報告されている。Trichoderma reesei由来CBHII (以下、TrCBH2)とCellotetraose complex ; PDB No. 1QK2、及びHumicola insolens 由来CBHIIとCellotetraose and Glucose complex ; PDB No. 2BVWである。PcCBH2の触媒ドメイン部分のアミノ酸配列のみを、genebankのPSI-BLAST (Position-Specific Iterated BLAST)で相同性検索した結果のうち、PDBに登録がある配列の上位2種類は、上記CBHIIの触媒ドメインであった。PcCBH2モデル構築の参照タンパク質として、相同性が高い方(56%)であるTrCBH2(PDB:1QK2)を用いることとした。
【0120】
分子の表示・モデルの構築・構造安定化計算等は、アクセルリス社製InsightIIを用いて実施した。PcCBH2とTrCBH2(1QK2)のアミノ酸配列のアライメント結果を基に、ホモロジーモデリングを行った。構築したモデルPcCBH2-CDとモデル構築時の参照タンパク質としたTrCBH2(1QK2)の主鎖構造の重ね合わせを行った結果、主鎖構造はほぼ一致しており、CBHの特徴である触媒アミノ酸残基、基質結合部位のトンネル、トンネル上部のループ構造が確認できたことから、ある程度信頼性のあるモデルが構築できたと考えられた。
【実施例17】
【0121】
(基質結合トンネル周辺の部位特異的改変体の作成)
実施例16で構築したモデルを元に、セルロース鎖結合トンネル周辺のアミノ酸で、基質結合や基質移動に影響を及ぼす可能性があると推測され、かつ、他のCBH2で完全保存されていないアミノ酸17ヵ所を抽出した(図12)。野生型PcCBH2のこれらのアミノ酸残基を表7に示す通りに置換した各種改変体を作製し、合成量当たりの活性を評価した。すなわち、無細胞合成したBGL、EG、CBHIのそれぞれ0.2μlを加えた1%PSCに、野生型PcCBH2、または各種改変体について、野生型での1μl相当量を添加し、40℃で15時間反応後の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。結果を図13に示す。
【0122】
【表7】
【0123】
図13には、野生型PcCBH2の活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合の結果を示す。図13に示すように、野生型PcCBH2の2倍程度向上していた改変体は11種類(表2中の改変体の番号:23、27、28、32、34,35、36、37、39、40、42)、1.5倍程度向上していた改変体は10種類(同:24、26、31、38、41、44、45、49、50、51)、1.3倍程度向上していた改変体は11種類(20、21、22、25、29、30、33、43、46、47、48)であった。特に、配列番号2において269番目のアミノ酸残基は、Trp(野生型)とPhe以外の他のアミノ酸に変換した場合に顕著に活性が向上することがわかった。疎水性で芳香環をもつアミノ酸残基が活性発現に影響していると推測される。また、266番目のTrp(野生型)は、モデルを構築した際に、最も揺らぎが大きいアミノ酸であった。アラニンに置換することで活性が向上したことから、酵素活性発現の安定性に寄与している可能性が示唆される。その他、活性が向上した改変体の置換アミノ酸残基は、263番目のHis(H263T、H263F)と99番目のTyr(Y99T)であった。
【実施例18】
【0124】
(相加改変体の作製)
変異の相加は、実施例11で有効変異を明らかにしたS22PとQ2H、実施例15で抽出したV28A、L29P、S60L、N191H、実施例17で抽出したW269A、W269R、W269M、Y99T、H263F、W266A、実施例14から推測されるL132V、F382Sを候補とした。これらの内、S22P、Q2H、L29P、N191Hは改変体12に含まれる変異である。そこで、変異の相加は改変体12をベースに、表8に示す通り、52〜58の7種類の相加改変体の作製を実施した。
【0125】
【表8】
【実施例19】
【0126】
(相加改変体によるカクテル効果)
表8に示す改変体について、無細胞合成したBGL、EG、CBHIをそれぞれ0.2μlずつ加えた0.5%PSC溶液200μlに、合成量を測定した無細胞合成産物を添加し、40℃で4時間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。図14に、野生型PcCBH2の活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合の結果を示す。
【0127】
相加のベースとした改変体12と比較して、無細胞合成したBGL、EG、CBHIとのカクテルによる相乗効果は、改変体52〜58で向上しており、野生型と比較すると約4.5〜6.5倍であった。また、市販酵素製剤との相乗効果は、改変体55で最も高く、野生型の約6.5倍であった。有効変異を相加して行くことにより更に活性が向上できる可能性が示された。
【実施例20】
【0128】
(相加改変体による市販酵素製剤添加効果)
表9に示す改変体について、市販酵素製剤(Sigma製のセルクラストC2730)を400ng加えた0.5%PSC溶液200μlに、合成量を測定した無細胞合成産物を添加し、40℃で4時間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清の還元糖量をTZアッセイ法により測定した。図15に、野生型PcCBH2の活性を1とした相対活性で、相乗効果で評価した場合の結果を示す。図15に示すように、改変体12及び相加改変体52〜58では、市販酵素製剤添加時の相乗効果が、野生型の約3.5〜6.5倍に向上していることがわかった。
【実施例21】
【0129】
(実バイオマス由来セルロース成分の市販酵素製剤による分解時の相乗効果)
水熱処理後の稲わらのセルロース成分に、市販酵素製剤(Sigma製のセルクラストC2730)を200mg/gバイオマスとなるように添加(図16の市販酵素製剤200)し、50℃で反応後に溶液のグルコース濃度を液体クロマトグラフィーにより測定した。更にPcCBH2を2%(w/v)添加した場合を図16の市販酵素製剤+PcCBH2に示す。2%のPcCBH2を添加しただけで、24時間後のグルコース生成量は、市販酵素製剤を400mg/gバイオマスとなるように添加した場合(図16の市販酵素製剤400)と同等の効果を示すことがわかった。実バイオマスを簡単な前処理したセルロース画分には、セルロース以外にリグニンやヘミセルロース成分が残存することから、純品のセルロースよりも分解効率低下することが懸念されるが、PcCBH2では実バイオマス由来セルロース成分の分解試験においても顕著な相乗効果が認められることがわかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Phanerochaete chrysosporium(ファネロケーテ・クリソスポリウム)由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、
Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、
を含有する、セルロース分解用酵素製剤。
【請求項2】
前記改変体は、配列番号2に記載のアミノ配列における22位又はこれに相当する位置において、セリンがプロリンに置換されたアミノ酸変異を有する改変体である、請求項1に記載の酵素製剤。
【請求項3】
前記改変体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列における以下の表に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される1種又は2種以上を有する改変体である、請求項1又は2に記載の酵素製剤。
【表9】
【請求項4】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5、GHF7、GHF12及びGHF45に属するエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の酵素製剤。
【請求項5】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5に属し、かつ、Trichoderma reesei(トリコデルマ・リーゼイ)由来のエンドグルカナーゼ、Aspergillus niger(アスペルギルス・ニガー)由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae(アスペルギルス・オリザ)由来のエンドグルカナーゼからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項6】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF12に属し、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、Aspergillus niger由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項7】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF7に属し、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼから選択される、請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項8】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼである、請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項9】
さらに、GHF7に属するセロビオヒドロラーゼを含有する、請求項1〜8のいずれかに記載の酵素製剤。
【請求項10】
Trichoderma reesei又はその形質転換体由来のセルラーゼ組成物を含有する、請求項1〜9のいずれかに記載の酵素製剤。
【請求項11】
実質的にβ−グルコシダーゼを含有しない、請求項1〜10のいずれかに記載の酵素製剤。
【請求項12】
Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体を含有する、セルロースを分解するために他のセルラーゼと組み合わされて使用されるセルロース分解活性増強剤。
【請求項13】
前記他のセルラーゼは、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上を含む、請求項12に記載の増強剤。
【請求項14】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5、GHF7、GHF12及びGHF45に属するエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上である、請求項13に記載の増強剤。
【請求項15】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、Trichoderma reesei、Aspergillus niger及びAspergillus oryzaeから選択される1種又は2種以上を起源とする、請求項14に記載の増強剤。
【請求項16】
配列番号2に記載のアミノ酸配列における22位又はこれに相当する位置において、セリンがプロリンに置換されたアミノ酸変異を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項17】
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する、請求項16に記載のタンパク質。
【請求項18】
配列番号2に記載のアミノ酸配列における以下の表に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される1種又は2種以上を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質。
【表10】
【請求項19】
配列番号2に記載のアミノ酸配列において以下の表に示す各改変体が有する変異の種類に示すアミノ酸変異又はこれらのアミノ酸変異に相当する変異を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質。
【表11】
【請求項20】
請求項16又は17に記載のタンパク質をコードするDNAを含む、DNA構築物。
【請求項21】
請求項18又は19に記載のタンパク質をコードするDNAを含む、DNA構築物。
【請求項22】
発現ベクターである、請求項20又は21に記載のDNA構築物。
【請求項23】
請求項20又は21に記載のDNA構築物によって形質転換された形質転換体。
【請求項24】
Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を発現する、形質転換体。
【請求項25】
前記セロビオヒドロラーゼ又はその改変体と前記他起源のエンドグルカナーゼとを細胞表層に保持する又は細胞外に分泌する、請求項24に記載の形質転換体。
【請求項26】
β−グルコシダーゼの発現が抑制されている、請求項24又は25に記載の形質転換体。
【請求項27】
前記セロビオヒドロラーゼ又はその改変体及び前記他起源のエンドグルカナーゼ以外のセルラーゼであって、内在性のセルラーゼの発現が抑制されている、請求項24〜26のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項28】
前記形質転換体は、非セルラーゼ生産菌である、請求項24〜26のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項29】
請求項23〜28のいずれかに記載の形質転換体を用いて、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を製造する、セルロース分解用の酵素製剤の生産方法。
【請求項30】
セルロースの存在下、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを低分子化する工程、を備える、セルロースの低分子化産物の生産方法。
【請求項31】
前記低分子化工程は、β−グルコシダーゼの非存在下でセルロースを分解して、セルロースオリゴマーを得る工程である、請求項30に記載の生産方法。
【請求項32】
前記低分子化工程は、前記セルロースとともにリグニン及びヘミセルロースが共存している、請求項30又は31に記載の生産方法。
【請求項33】
セルロースを原料として有用物質を生産する方法であって、
セルロースの存在下、β−グルコシダーゼの非存在下で、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを分解してオリゴマーを生産する工程と、
前記セルロースオリゴマーをβ−グルコシダーゼで分解してグルコースを生産する工程と、
を備える、生産方法。
【請求項34】
前記グルコース生産工程は、β−グルコシダーゼを発現するエタノール生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いるエタノール発酵工程である、請求項33に記載の生産方法。
【請求項35】
前記グルコース生産工程は、β−グルコシダーゼを発現する有機酸生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いる有機酸発酵工程である、請求項33に記載の生産方法。
【請求項1】
Phanerochaete chrysosporium(ファネロケーテ・クリソスポリウム)由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、
Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、
を含有する、セルロース分解用酵素製剤。
【請求項2】
前記改変体は、配列番号2に記載のアミノ配列における22位又はこれに相当する位置において、セリンがプロリンに置換されたアミノ酸変異を有する改変体である、請求項1に記載の酵素製剤。
【請求項3】
前記改変体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列における以下の表に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される1種又は2種以上を有する改変体である、請求項1又は2に記載の酵素製剤。
【表9】
【請求項4】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5、GHF7、GHF12及びGHF45に属するエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の酵素製剤。
【請求項5】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5に属し、かつ、Trichoderma reesei(トリコデルマ・リーゼイ)由来のエンドグルカナーゼ、Aspergillus niger(アスペルギルス・ニガー)由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae(アスペルギルス・オリザ)由来のエンドグルカナーゼからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項6】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF12に属し、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、Aspergillus niger由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項7】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF7に属し、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ及びAspergillus oryzae由来のエンドグルカナーゼから選択される、請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項8】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼである、請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項9】
さらに、GHF7に属するセロビオヒドロラーゼを含有する、請求項1〜8のいずれかに記載の酵素製剤。
【請求項10】
Trichoderma reesei又はその形質転換体由来のセルラーゼ組成物を含有する、請求項1〜9のいずれかに記載の酵素製剤。
【請求項11】
実質的にβ−グルコシダーゼを含有しない、請求項1〜10のいずれかに記載の酵素製剤。
【請求項12】
Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体を含有する、セルロースを分解するために他のセルラーゼと組み合わされて使用されるセルロース分解活性増強剤。
【請求項13】
前記他のセルラーゼは、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上を含む、請求項12に記載の増強剤。
【請求項14】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、GHF5、GHF7、GHF12及びGHF45に属するエンドグルカナーゼから選択される1種又は2種以上である、請求項13に記載の増強剤。
【請求項15】
前記他起源のエンドグルカナーゼは、Trichoderma reesei、Aspergillus niger及びAspergillus oryzaeから選択される1種又は2種以上を起源とする、請求項14に記載の増強剤。
【請求項16】
配列番号2に記載のアミノ酸配列における22位又はこれに相当する位置において、セリンがプロリンに置換されたアミノ酸変異を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項17】
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する、請求項16に記載のタンパク質。
【請求項18】
配列番号2に記載のアミノ酸配列における以下の表に示すアミノ酸変異及びこれらに相当するアミノ酸変異からなる群から選択される1種又は2種以上を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質。
【表10】
【請求項19】
配列番号2に記載のアミノ酸配列において以下の表に示す各改変体が有する変異の種類に示すアミノ酸変異又はこれらのアミノ酸変異に相当する変異を有し、GHF6に属するセロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパク質。
【表11】
【請求項20】
請求項16又は17に記載のタンパク質をコードするDNAを含む、DNA構築物。
【請求項21】
請求項18又は19に記載のタンパク質をコードするDNAを含む、DNA構築物。
【請求項22】
発現ベクターである、請求項20又は21に記載のDNA構築物。
【請求項23】
請求項20又は21に記載のDNA構築物によって形質転換された形質転換体。
【請求項24】
Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を発現する、形質転換体。
【請求項25】
前記セロビオヒドロラーゼ又はその改変体と前記他起源のエンドグルカナーゼとを細胞表層に保持する又は細胞外に分泌する、請求項24に記載の形質転換体。
【請求項26】
β−グルコシダーゼの発現が抑制されている、請求項24又は25に記載の形質転換体。
【請求項27】
前記セロビオヒドロラーゼ又はその改変体及び前記他起源のエンドグルカナーゼ以外のセルラーゼであって、内在性のセルラーゼの発現が抑制されている、請求項24〜26のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項28】
前記形質転換体は、非セルラーゼ生産菌である、請求項24〜26のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項29】
請求項23〜28のいずれかに記載の形質転換体を用いて、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を製造する、セルロース分解用の酵素製剤の生産方法。
【請求項30】
セルロースの存在下、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを低分子化する工程、を備える、セルロースの低分子化産物の生産方法。
【請求項31】
前記低分子化工程は、β−グルコシダーゼの非存在下でセルロースを分解して、セルロースオリゴマーを得る工程である、請求項30に記載の生産方法。
【請求項32】
前記低分子化工程は、前記セルロースとともにリグニン及びヘミセルロースが共存している、請求項30又は31に記載の生産方法。
【請求項33】
セルロースを原料として有用物質を生産する方法であって、
セルロースの存在下、β−グルコシダーゼの非存在下で、Phanerochaete chrysosporium由来であってGHF6に属するセロビオヒドロラーゼ又はその改変体と、Phanerochaete chrysosporium以外の他起源のエンドグルカナーゼと、を用いて、セルロースを分解してオリゴマーを生産する工程と、
前記セルロースオリゴマーをβ−グルコシダーゼで分解してグルコースを生産する工程と、
を備える、生産方法。
【請求項34】
前記グルコース生産工程は、β−グルコシダーゼを発現するエタノール生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いるエタノール発酵工程である、請求項33に記載の生産方法。
【請求項35】
前記グルコース生産工程は、β−グルコシダーゼを発現する有機酸生産微生物を用いて前記セルロースオリゴマーを分解し、得られるグルコースを炭素源として用いる有機酸発酵工程である、請求項33に記載の生産方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−41996(P2010−41996A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166712(P2009−166712)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願、平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/セルロースエタノール高効率製造のための環境調和型統合プロセス開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願、平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/セルロースエタノール高効率製造のための環境調和型統合プロセス開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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