説明

フィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置及び方法

本発明はフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出するための装置及び方法に係り、より詳しくは合成ガスから合成油を製造するフィッシャー・トロプシュ合成反応において、固体触媒粒子と生成物とのスラリーを供給ガスの周期パルスによって連続的に分離することだけでなく、生成物を反応器の下部を通して排出させて、長鎖炭化水素であるワックスを含むフィッシャー・トロプシュ合成物を安定して得ることができるフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置及び方法に関する。
反応器の上部に設置され、反応物のスラリーレベルを感知するレベル感知手段と、前記反応器の下部に設置され、反応器の内部に混合されたスラリーから液体生成物を分離して排出させる固体触媒/生成物分離手段及び排出手段と、前記レベル感知手段から感知信号を受信して前記排出手段の開閉動作を制御する制御部とを有し、前記分離手段は固体触媒を濾過し、前記排出手段はレベル感知手段が測定した合成生成物の量に従って、固体触媒から分離された生成物を反応器の下部から連続的に排出させるフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィッシャー・トロプシュ合成反応用液体生成物と固体触媒を連続して分離して排出するための装置、及び方法に係り、より詳しくは、合成ガスから合成油を製造するフィッシャー・トロプシュ合成反応において、固体触媒粒子と生成物のスラリーを供給ガスの周期パルス(pulse)によって連続的に分離するだけでなく、液体生成物を反応器の下部に排出させ、長鎖炭化水素(long−chain hydrocarbon)であるワックスを含むフィッシャー・トロプシュ合成の生成物を安定して連続的に生産するようにしたフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出する装置、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油の価格が急激に高騰し、輸送用燃料や石油化学産業の原料として石油に代わって天然ガスを用いるガス液化油(GTL)工程に対する関心が高まってきている。実際に、一酸化炭素の水素化反応であるフィッシャー・トロプシュ合成(Fischer−Tropsch Synthesis)に関する研究は1970年代初頭まで活発ではなかったが、近年の石油価格の高騰により、フィッシャー・トロプシュ法に関する関心が再び高くなっている。
【0003】
GTL工程に含まれる技術には、合成ガス改質、精製技術などのさまざまな技術があるが、合成ガスから合成炭化水素を製造するフィッシャー・トロプシュ合成反応は核となる技術とみなされている。
合成ガス(CO+H2)から合成油を生成するために、フィッシャー・トロプシュ合成工程で使用される合成ガスの組成及び触媒によって多様な生成物が合成される。
【0004】
一般に、H2/COの比が2以上の合成ガスを使ってフィッシャー・トロプシュ合成工程を行う場合、大量の硬質炭化水素生成物が合成され、一方、H2/COの比が2未満の合成ガスを使ってフィッシャー・トロプシュ合成工程を行う場合、ガソリン(C5〜C11)、ディーゼル(C12〜C18)、ワックス(>C24)などが合成される。
前記のH2/COの比に従って、鉄基、またはコバルト基のフィッシャー・トロプシュ触媒が工業規模で使用されている。
また、合成条件を変えて多様な化学製品(炭化水素、アルコール、エーテル、酢酸など)を生産することができる。
【0005】
米国特許第5543437A号(Charles B.Benham,Arvada)、及び国際公開公報第WO2005/090521号(Compact GTL plc、Mike Bowe、Joseph)には、天然ガスから合成油などの長鎖炭化水素を製造する方法が開示されている。
【0006】
一般に、フィッシャー・トロプシュ合成のための反応装置は、固定床反応器(FBR)、スラリー気泡塔反応器(SBCR)、及び流動床反応器に分類され、現在固定床反応器とスラリー気泡塔反応器が一般に使用されている。
【0007】
フィッシャー・トロプシュ合成に用いられるパイロット規模の反応器として、スラリー気泡塔反応器は固定床反応器に比べて次のような利点を持っている。
スラリー気泡塔反応器は、
1)熱伝逹効率が高い
2)反応器の軸方向に沿った圧力降下、及び温度勾配(すなわち、ホットスポット)がない
3)運転中でも触媒の添加、排出及び再生が可能である
4)設置が容易である
5)効率のよい方法で設置可能である
6)収率(反応器容積当たりの生産量)が高い
7)大容量の反応器を有する。
【0008】
このような利点によりスラリー気泡塔反応器は固定床反応器よりも広く使用されている。しかし、スラリー気泡塔反応器はスラリーの再循環手段、及びスラリーから固体触媒と液状生成物とを分離することができる分離手段が必要となる。
また、スラリー気泡塔反応器内の触媒粒子は、運転時間が経過するにつれて、すり減ってより微細な粒子となり、スラリー再循環手段及び分離手段の効率が低下して、スラリー気泡塔反応器の外部に排出されるおそれがある。従って、スラリー気泡塔反応器の内部のスラリー濃度、及び運転条件が変わるため、生成物を均一、且つ持続的に得ることができなくなる。
【0009】
米国特許第5,599,849A号(Berend Jager)には、スラリー気泡塔フィッシャー・トロプシュ合成反応器において、スラリー分離手段としてスラリー気泡塔反応器の上部に設置された複数の濾材ユニット(filtering medium unit)を用いて液体生成物を連続的に分離排出させ、スラリー分離手段で8バール(bar)以上の圧力降下が発生すると、液体生成物と高圧ガスを利用してスラリー分離手段を初期状態に戻す逆洗過程(back flush)が開示されている。
【0010】
しかしながら、前記特許は、運転時間の経過とともにスラリー分離手段に作用する圧力損失が増加することになり、これにより反応器の圧力が上昇して反応物の高さが高くなり、スラリー濃度が低くなる。このような運転条件の変化は、均一なフィッシャー・トロプシュ合成反応を誘導しにくいだけでなく、逆洗過程において逆洗媒体である生成物及び高圧ガスが反応器内の圧力をさらに高めて正常運転に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0011】
また、分離手段、及び生成物排出手段は、反応器の上部に配置されており、鎖成長によって粘性、及び比重が増加して、フィッシャー・トロプシュ反応によって生成される所望の生成物が反応器の下部に位置するので、所望の長鎖炭化水素の代わりに短鎖の炭化水素が得られる。
【0012】
米国特許第5,422,375A号(Erling Rytter)には、フィッシャー・トロプシュ合成反応器の内部に圧力変動用スラリー分離手段を備えることで、反応物の高さが上昇すればスラリー分離手段にかかる真空を感知してスラリーを連続的に分離、排出する方法が開示されている。
しかし、前記方法は実用的ではなく、分離手段に欠陷が発生すれば修復しにくいという欠点を持っている。
【0013】
また、米国特許第7,144,924B2号(Gabriele Carlo Ettore Clerici)は、スラリー分離方法として水力サイクロン(hydro−cyclone)について開示している。水力サイクロンの効率はスラリー濃度及び触媒粒子の大きさ分布によって大きな影響を受ける。
しかし、残念ながら、スラリー気泡塔反応器での触媒粒子は運転時間の経過とともに摩耗するので、水力サイクロンは実用的ではない。
【0014】
従って、フィッシャー・トロプシュ合成用スラリー気泡塔反応器において固体触媒、及び生成物混合スラリーを連続的に分離するとともに、生成された生成物の量だけ質の高い長鎖炭化水素生成物を均一に排出させることができるフィッシャー・トロプシュ合成方法の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,543,437A号(Charles B.Benham,Arvada)1996.08.06
【特許文献2】国際公開公報第WO2005/090521号(CompactGTL plc,Mike Bowe,Joseph)2005.09.29
【特許文献3】米国特許第5,599,849A号(Berend Jager)1997.02.04
【特許文献4】米国特許第5,422,375A号(Erling Rytter)1995.06.06
【特許文献5】米国特許第7,144,924B2号(Gabriele Carlo Ettore Clerici)2006.12.06
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、固体触媒粒子と液体生成物の混合スラリーとを連続的に分離するだけでなく、生成物を生成量の分だけ排出させて反応器の内部のスラリー濃度を均一に維持することによって、安定した運転条件下で、長鎖炭化水素合成油を連続的に製造するようにしたフィッシャー・トロプシュ合成反応用の固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出するための装置及び方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、スラリー分離手段の圧力降下が増加して分離効率が低下した場合、反応条件を変更せず、スラリー分離手段の分離効率を初期状態に回復させて均一な反応を維持させることができるようにしたフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出するための装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、供給ガスから合成油を合成するフィッシャー・トロプシュ合成反応のための固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出するための装置において、反応器の内部に設置され、反応物の高さを感知するレベル感知手段と、前記反応器の下部に設置され、反応器の内部で混合された固体触媒と生成物とを分離して排出させる固体触媒/液体生成物分離手段及び排出手段と、前記レベル感知手段から感知信号を受信して前記排出手段の開閉動作を制御する制御部とを有し、前記分離手段は固体触媒を濾過し、前記排出手段は前記固体触媒から分離された液体生成物を前記反応器の下部で前記スラリーレベル感知手段によって測定された合成生成物の生成量の分だけ連続的に排出するフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出するための装置が提供される。
また、前記連続分離排出装置は、前記分離手段の上下部に設置され、前記分離手段の上下部で生じる圧力降下を感知する差圧センサーと、供給ガスを利用して前記分離手段に周期的なガスパルスを供給して、固体触媒が融着、或いは沈積された分離手段を初期状態に戻すフィルター再生手段とを有し、前記制御部は、前記差圧センサーから感知信号を受信し、圧力降下が所定のレベルにまで増加すると、フィルター再生手段の動作を制御することができる。
前記レベル感知手段は、レーダー式、又は超音波式レベルセンサーと熱電対のいずれか一方、或いはレベルセンサーと熱電対の両方を有し、前記熱電対は、スラリー状態の反応物と排ガスが満たされた空間の間の温度差によって反応物の高さを感知することができる。
前記分離手段は、一定の細孔サイズを持つ固体触媒、及び生成物とを分離するためのフィルターであってもよい。
前記分離手段は、平面フィルター、又は分離面積が平面フィルターに比べて相対的に大きいカートリッジ式フィルターであってもよい。
前記排出手段は、前記反応器の下部に形成された排出口と、前記排出口を開閉する生成物排出用流量制御バルブと、前記流量制御バルブの開閉動作を制御する駆動手段とを有し、前記駆動手段はモーター、又はシリンダーである。
前記フィルター再生手段は、供給ガスを前記反応器の内部に均一に注入するだけでなく、固体触媒/生成物混合物が前記分離手段に流入することを妨げないために、複数のノズルを持つガス分配器と、前記ガス分配器に供給ガスを供給するガス注入用流量制御バルブと、前記ガス注入用流量制御バルブの開閉動作を制御する駆動手段とを有し、前記駆動手段はモーター、又はシリンダーである。
前記ガス分配器は内部でガスが流れる管状のシリンダーを有し、前記管状のシリンダーは複数列で平行に配置されているか、又は中心部から放射方向に延びている。
本発明の他の面によれば、フィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物とを連続して分離して排出するための方法において、反応の進行具合に応じてレベル感知手段によって反応物の高さを測定し、前記レベル感知手段によって反応物が第1の基準レベル(高レベル)に達したと感知した場合、反応器の下部に備えられた分離手段によって固体触媒を濾過した後、前記分離手段の下部に設置された生成物排出用流量制御バルブを開放して生成物を排出し、前記生成物排出用流量制御バルブによって生成物を排出することにより反応物の高さが下がり、前記レベル感知手段によって反応物が第2の基準レベル(低レベル)に達したと感知した場合、前記生成物排出用流量制御バルブを遮断するフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための方法が提供される。
前記連続分離排出方法は、前記反応器の上下部に設置された差圧センサーは、前記生成物排出用流量制御バルブの排出回数が増加するにつれて分離手段に融着、及び堆積した固体触媒量の増加量によって生じる圧力降下を感知し、前記差圧センサーから受信した感知信号に基づいて圧力降下量が所定のレベルを超過する場合、供給ガスを前記分離手段に供給して前記堆積した固体触媒を除去するフィルター再生段階を有する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によるフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置及び方法によれば、レベル感知手段によって反応物の高さを均一に維持し、反応器の下部に設置された生成物分離及び排出手段によって生成物を反応器の下部を通って連続的に分離、排出することにより、フィッシャー・トロプシュ反応によって生成された生成物を連続的に得ることができる。
【0020】
また、生成物分離のためのフィルターに周期的なガスパルスを噴射させてフィルターを初期状態に戻すことにより、分離、排出及び周期的な復元過程によって生成物を長期間連続的に製造することができる。
【0021】
また、従来のフィッシャー・トロプシュ反応用気泡塔反応器に必要不可欠であった水力サイクロン及びスラリー再循環手段などが要求されないので、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応器を簡単に製作し、容易に運転することができ、触媒の摩耗によるFT反応器の効率低下を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来のフィッシャー・トロプシュ合成のためのスラリー気泡塔反応器の概略図である。
【図2】本発明によるフィッシャー・トロプシュ合成のためのスラリー気泡塔反応器の概略図である。
【図3】カートリッジ形態の固体触媒/ワックス分離手段の平面図、及び正面図である。
【図4】a、b:ガス分配器の平面図、及び正面図である。
【図5】生成物排出回数に基づいた、分離手段に作用する圧力降下、及び生成物排出速度を示す。
【図6】ガスパルスの時間に基づいた、分離手段に作用する圧力降下、及び生成物排出速度を示す。
【図7】本発明によるベンチスケールのフィッシャー・トロプシュ合成反応器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図2は本発明によるフィッシャー・トロプシュ合成反応のための固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置を概略的に示している。
図2を参照すると、スラリー気泡塔反応器12の上部には反応物の高さを感知することができるレベルセンサー(level sensor)10、及び熱電対(thermocouples)11が備えられ、スラリー気泡塔反応器12の下部には固体触媒/生成物(ワックス)分離手段と生成物排出手段が備えられている。
【0024】
一般に、フィッシャー・トロプシュ合成のためのスラリー気泡塔反応器12において、CO及びH2を含む供給ガスはスラリー気泡塔反応器12の下部を通って注入され、スラリー気泡塔反応器12内にスラリー状態の固体触媒15と化学反応を起こして下記式1に示すようにワックスなどの炭化水素(hydrocarbon)を合成する。本フィッシャー・トロプシュ合成は発熱反応であるので、冷却手段が必要となる。
【0025】
【数1】

【0026】
フィッシャー・トロプシュ反応に広く利用される触媒としては、コバルト(Co)基触媒、及び鉄(Fe)基触媒がある。コバルト触媒は200〜260℃、1.0〜3.0MPaの反応条件で合成油、及びワックスを生成させることができ、鉄触媒は300〜350℃、1.0〜3.0MPaの反応条件でディーゼル、及びナフサ(naphtha)を合成させることができる。
【0027】
本発明はコバルト触媒存在下でのワックス合成に関するものである。フィッシャー・トロプシュ反応によって合成されたワックスは、C12〜C200程度のハイドロカーボンであり、望ましくはC23〜C48程度のハイドロカーボンである。カーボン原子の数は、運転方式及び条件を制御することによって調節される。また、スラリー反応用フィッシャー・トロプシュ反応に利用されるコバルト触媒の平均粒子の大きさは30〜150μm程度である。
一般に、フィッシャー・トロプシュ反応によって合成された生成物は、触媒/生成物混合スラリー状態で反応器1の外部に排出され、分離手段2に移動して最終生成物が得られる。図1に示すように、反応器1の外部で分離された触媒を反応器1の内部に再注入するためにスラリーポンプ3のようなスラリー再循環手段が必要とされる。
【0028】
米国特許第5,599,849A号(Berend Jager)に示すように、反応器内部の上部に備えられた触媒/生成物分離手段を利用して反応器12の外部に直接生成物を排出させることもできる。
前記のように、従来のフィッシャー・トロプシュ合成に用いられる気泡塔反応器で合成された生成物は反応器の上部を通って排出される。しかしながら、長鎖炭化水素を有するワックスは、高品質、高粘性、高比重、及び高沸点であるので、フィッシャー・トロプシュ合成の生成物であるワックスは反応器の下部に位置する。
【0029】
図2に示すように、本発明によれば、分離/排出手段はスラリー気泡塔反応器12の下部に備えられているので、フィッシャー・トロプシュ反応によって合成された長鎖炭化水素を有するワックスを効果的に得ることができる。
スラリー気泡塔反応器12においてフィッシャー・トロプシュ合成反応が進むにつれて、スラリー状態の反応物の高さはフィッシャー・トロプシュ合成で生成された生成物の量だけ増加することになる。スラリー気泡塔反応器12の上部に備えられたレベルセンサー10または熱電対11によって、スラリー気泡塔反応器12の内部の反応物の高さを感知する。反応物の高さが所定の高レベル値に達すると、スラリー気泡塔反応器12の下部に備えられた生成物排出用駆動手段17が、レベルセンサーから信号を受信し、生成物排出流量制御バルブ18を開いて反応物の高さが所定の低レベル値に達するまで生成物を排出する。
【0030】
この際、スラリー状態の反応物の中で、スラリー気泡塔反応器12の下部に設置された焼結金属フィルター24によって固体触媒15が濾過され、液体生成物がスラリー気泡塔反応器12の外部に排出される。反応物が低レベルに到逹すれば、駆動手段17がレベルセンサーから信号を受信して生成物排出用流量制御バルブ18を閉鎖状態にし、生成される生成物によってスラリー気泡塔反応器12の内部の反応物の高さは高レベルまで上昇することになる。
このような過程を繰り返すことにより、レベルセンサー10または熱電対11が受信する信号によって生成物排出用流量制御バルブ18が開かれることになり、生成物がスラリー気泡塔反応器12の外部に所定量排出される。均一な運転条件を持つために、スラリー気泡塔反応器12の内部の反応物の高さ、及びスラリー濃度が一定に維持されるようにすることにより、高純度の生成物を得ることができる。
【0031】
レベル感知手段としては、レーダー式、または超音波式高温高圧レベルセンサー10と熱電対11のいずれも使用可能である。フィッシャー・トロプシュ反応において、スラリー段階の反応物はスラリー気泡塔反応器(SBCR)の軸方向に沿って温度勾配がないが、スラリー段階の反応物と排ガスで満たされた気相スペースでは、10〜30℃の範囲の温度差があるので、熱電対11がレベル感知手段として使用可能である。
【0032】
特に、スラリー気泡塔反応器12の規模が小さくてレベルセンサー10を設置することができない場合、或いはレベルセンサー10にたびたび不具合が生じる場合には、スラリー気泡塔反応器12においては、出力信号を伝達することができる熱電対11の方がレベルセンサー10より効率的に使用される。
また、固体触媒/生成物の分離手段としては、高温高圧に耐えられる細孔径約5〜15μmの焼結金属フィルター24が好ましい。焼結金属フィルター24の細孔径が小さすぎる場合は、焼結金属フィルター24の上下部に著しい圧力降下がかかって、触媒、及びワックスの分離速度が低下する。一方、焼結金属フィルター24の細孔径が大きすぎる場合は、細かく摩耗された触媒を効果的に分離することができない。従って、焼結金属フィルター24は、約5〜15μmの細孔径が好ましい。
【0033】
前記スラリー分離及び生成物排出過程が連続的に進む過程で、スラリー分離手段である焼結金属フィルター24の極小細孔に触媒粒子が融着するか堆積し、生成物が円滑に分離/排出されない場合には、焼結金属フィルター24の上下部の圧力降下が増加することになる。
このような問題点を解決するために、本発明では、焼結金属フィルター24の上下部に電子式差圧センサー20を設置しており、焼結金属フィルター24の上部、或いは下部で圧力降下が発生すると、焼結金属フィルター24の上下部に設置された電子式差圧センサー20が圧力降下を感知し、制御部16で感知された信号を受信して駆動手段21に制御信号を伝送し、駆動手段21によってガス注入用流量制御バルブ22を制御する。
【0034】
前記感知信号によって生成物排出用流量制御バルブ18は閉鎖され、それ以上の生成物は排出されなくなる。スラリー気泡塔反応器12の側面に配置されたガス注入用流量制御バルブ22は、スラリー気泡塔反応器12の下部で生成物を排出する配管方向に開放され、焼結金属フィルターに供給ガスを用いた周期的なガスパルスを供給して、焼結金属フィルター24の上下部で増加する圧力降下を初期状態に戻す。従って、連続的なスラリーの分離、及び生成物の排出を初期状態に戻すことができる。
【0035】
ここで、駆動手段17、21は流量制御バルブ18、22を開閉するための駆動力を提供する手段であり、ギアとモーターアッセンブリー、或いは油圧ピストンとシリンダーアッセンブリーによって構成される。
また、焼結金属フィルター24のガスパルスとして利用されるガスはフィッシャー・トロプシュ反応の供給ガスであり、ガスパルスのために使用された後、スラリー気泡塔反応器12に移され、フィッシャー・トロプシュ反応の供給ガスとして使用される。
【0036】
供給ガスを利用した焼結金属フィルター24の逆洗によれば、逆洗過程でもフィッシャー・トロプシュ反応の条件を変化させることがない。
フィッシャー・トロプシュ合成は高温、且つ高圧で行われるので、円滑に生成物を排出するためには、生成物バッファタンク19が用いられることが好ましい。
【0037】
図3は、カートリッジ式の固体触媒/ワックス分離手段の平面図、及び正面図を示す。本発明で使用される焼結金属フィルターとしては、平面フィルター24、あるいは図3のようなカートリッジ式フィルター25のいずれも可能である。
平面焼結金属フィルター24は実験室規模、或いはベンチスケールのスラリー気泡塔反応器12で用いられ、複数のカートリッジユニットを用い、広い分離面積を有するカートリッジ式焼結金属フィルター25は、パイロットスケール気泡塔反応器12、或いはより大規模な反応器で用いられる。
【0038】
カートリッジ式フィルター25は平面フィルター24よりも分離面積が広いので、固体触媒/ワックスの分離速度を増加させ、カートリッジ式フィルター25を用いるガスパルスの周期を遅らせることによって、ガス注入用流量制御バルブ22の寿命を延ばすことができる。
【0039】
図4a、及び図4bはガス分配器23(或いはスパージャー)を示し、図4aは多列管式ガス分配器であり、図4bはスパイダー式ガス分配器である。
ガス分配器23は供給ガスをスラリー気泡塔反応器12に均一に注入することができ、さらに、固体触媒/生成混合物と焼結金属フィルター24との接触を妨げることがない。従って、ガス分配器23には、所定サイズの穴を有する板型よりも、多数のノズル27を持つ管式(図4a)、或いは多数のノズル27を持つスパイダー式(図4b)が好適であり、ガス分配器23は、焼結金属フィルター24の上部に備えられてもよい。
【0040】
本発明を以下の実施例に基づいてより詳細に説明するが、以下の実施例は例示を目的としているのであって、本発明の範囲が以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例及び比較例
図5は、直径0.05m、高さ1.5mのフィッシャー・トロプシュ合成反応器(220℃、20bar)における、実施例1、及び比較例1の固体触媒/ワックスの分離排出回数に基づく焼結金属フィルターに作用する圧力降下、及び生成物(ワックス)の排出速度を示している。
図5(実施例1(ガスパルス))に示されるように、固体触媒/ワックスの分離排出回数が増加するにつれて、焼結金属フィルターの上下部に生じる圧力降下が増加する。圧力降下が増加すると、ワックスの排出速度も落ちることになる。
【0042】
生成物排出が8回行われ、ワックスの排出速度が約0.01L/cm2/min(基準値を0.02L/cm2/minとする場合)になると、供給ガスを利用して焼結金属フィルターにガスパルスを供給する。
ガスパルスを2分間供給すると、圧力降下、及びワックスの排出速度は初期状態に戻る。以後さらに9回生成物を排出すれば、圧力降下がさらに増加して、ワックスの排出速度が約0.01L/cm2/minに減少する。ガスパルスを10分間供給することによって、圧力降下、及びワックス排出速度は、初期状態よりも優れた状態に戻される。この過程を繰り返すことにより、固体触媒/ワックスの分離手段を最適化した状態で運転することができる。
【0043】
一方、図5の比較例1に示されるように、ガスパルスを実施しない場合、固体触媒/ワックスの分離排出回数が10回以上になると、焼結金属フィルターの上下部で生じる圧力降下が融着された触媒ケーキによって9バール(bar)まで増加することになり、圧力降下の急増によってワックスの排出も不可能になる。
【0044】
図6は、フィッシャー・トロプシュ合成反応器において、ガスパルス時間に基づく焼結金属フィルターに作用する圧力降下、及び生成物排出速度を示す。
焼結金属フィルターに作用する圧力降下は、ガスパルスの時間が経過するにつれて減少し、ワックス排出速度が増加する。ワックス排出速度は10分後には最高値に達し、その後も一定に維持されることが分かる。
【0045】
図5、及び図6を参照すると、直径5cmのフィッシャー・トロプシュ反応器の焼結金属フィルターの逆洗浄は、固体触媒/ワックスの分離排出を8回行った後、10分間のガスパルスを行うことによって最適化される。焼結金属フィルターの上下部で7バールの圧力降下が検知されると、逆洗浄はレベルセンサー10、差圧センサー20、及び触媒/ワックス分離手段によって自動的に行われ、それによって最適化された条件でフィッシャー・トロプシュ反応を継続的に行う。
【0046】
図7は本発明によるベンチ−スケール(0.1バーレル/日)のフィッシャー・トロプシュ合成反応器12を概略的に示している。
【0047】
本発明によれば、従来のフィッシャー・トロプシュ合成用スラリー気泡塔反応器には必要不可欠な固体触媒/ワックスの分離手段である水力サイクロンとスラリー再循環手段である高温高圧スラリーポンプが必要なく、さらに、合成されたワックスをスラリー気泡塔反応器12の下部を通って排出させることにより、動作条件を一定に維持させながら高品質の長鎖炭化水素生成物を連続的に得ることができ、触媒の摩耗によるFT反応器の効率低下を抑制することができる。
【0048】
当業者であれば、本発明の精神、または範囲から逸脱することなく、様々な改変、及びバリエーションを行うことが可能であろう。本発明から想起される他の実施例は、ここに開示した本発明の明細書を考慮し、実施することによって、当業者には明らかであるだろう。本発明の明細書、及び実施例は、例としてみなされるべきであり、本発明の正確な範囲、及び精神は以下の特許請求の範囲によって示されるものとする。
【符号の説明】
【0049】
10: レベルセンサー
11: 熱電対
12: スラリー気泡塔反応器
15: スラリー状態の固体触媒
16: 制御部
17: 生成物排出用駆動手段
18: 生成物排出用流量制御バルブ
19: 生成物バッファタンク
20: 電子式差圧センサー
21: ガス注入用駆動手段
22: ガス注入用流量制御バルブ
23: ガス分配器
24: 固体触媒/生成物混合焼結金属フィルター
25: カートリッジ式フィルター
26: 金属シール
27: ノズル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給ガスから合成油を合成することによるフィッシャー・トロプシュ合成反応のための固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出するための装置であって、前記装置は、
反応器の内部に設置され、スラリー段階の反応物の高さを感知するレベル感知手段と、
前記反応器の下部に設置され、前記反応器の内部で混合された固体触媒と液体生成物とを分離して排出させる固体触媒/液体生成物分離手段、及び排出手段と、
前記スラリーレベル感知手段から感知信号を受信して前記排出手段の開閉動作を制御する制御部とを有し、
前記分離手段は前記固体触媒を濾過し、前記排出手段は前記固体触媒から分離された液体生成物を前記反応器の下部でスラリーレベル感知手段によって測定された合成生成物の生成量の分だけ連続的に排出することを特徴とするフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出するための装置。
【請求項2】
前記分離手段の上下部に設置され、前記分離手段の上下部で生じる圧力降下を感知する差圧センサーと、供給ガスを利用して前記分離手段に周期的なガスパルスを供給して、固体触媒が融着、または沈積された分離手段を逆洗して、初期状態に戻すフィルター再生手段とを有し、
前記制御部は、前記差圧センサーから感知信号を受信し、圧力降下が所定のレベルに増加すると、フィルター再生手段の動作を制御することを特徴とする請求項1に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出するための装置。
【請求項3】
前記レベル感知手段は、レーダー式、または超音波式レベルセンサーと熱電対のいずれか一方、或いはレベルセンサーと熱電対の両方を有し、
前記熱電対は、スラリー段階の反応物と排ガスが満たされた気体段階の空間の間の温度差によって反応物のスラリーレベルを感知することを特徴とする請求項1、又は2に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と液体生成物を連続して分離して排出するための装置。
【請求項4】
前記分離手段は、一定の細孔サイズを持つ固体触媒、及び液体生成物とを分離するためのフィルターであることを特徴とする請求項3に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置。
【請求項5】
前記分離手段は、平面フィルター、又は分離面積が平面フィルターに比べて相対的に大きいカートリッジ式フィルターあることを特徴とする請求項4に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置。
【請求項6】
前記排出手段は、前記反応器の下部に配置された排出口と、前記排出口を開閉する生成物排出用流量制御バルブと、前記流量制御バルブの開閉動作を制御する駆動手段とを有し、前記駆動手段はモーター、又はシリンダーであることを特徴とする請求項5に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置。
【請求項7】
前記フィルター再生手段は、供給ガスを前記反応器の内部に均一に注入し、固体触媒/生成物混合物が前記分離手段に流入することを妨げないために、複数のノズルを持つガス分配器と、前記ガス分配器に供給ガスを供給するガス注入用流量制御バルブと、前記ガス注入用流量制御バルブの開閉動作を制御する駆動手段とを有し、前記駆動手段はモーター、又はシリンダーであることを特徴とする請求項2に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置。
【請求項8】
前記ガス分配器は内部でガスが流れる管状のシリンダーを有し、前記管状のシリンダーは複数列で平行に配置されているか、又は中心部から放射方向に延びていることを特徴とする請求項7に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための装置。
【請求項9】
フィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物とを連続して分離して排出するための方法であって、前記方法は、
反応の進行具合に応じてレベル感知手段によって反応物のスラリーレベルを測定し、
前記レベル感知手段によって反応物が第1の基準レベル(高レベル)に達したと感知した場合、反応器の下部に備えられた分離手段によって固体触媒を濾過した後、前記分離手段の下部に設置された生成物排出用流量制御バルブを開放して液体生成物を排出し、
前記生成物排出用流量制御バルブによって生成物を排出することにより反応物の高さが下がり、前記レベル感知手段によって反応物が第2の基準レベル(低レベル)に達したと感知した場合、前記生成物排出用流量制御バルブを遮断することを特徴とするフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための方法。
【請求項10】
前記反応器の上下部に設置された差圧センサーは、前記生成物排出用流量制御バルブの排出回数が増加するにつれて分離手段に融着及び堆積した固体触媒量の増加量によって生じる圧力降下を感知し、
前記差圧センサーから受信した感知信号に基づいて、圧力降下量が所定のレベルを超過する場合、供給ガスを前記分離手段に供給して前記堆積した固体触媒を除去するフィルター再生段階を有することを特徴とする請求項9に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための方法。
【請求項11】
前記分離手段は平面フィルター、又は分離面積が平面フィルターより相対的に大きいカートリッジ式フィルターであり、一定サイズの微細孔を持つ固体触媒及び生成物分離用フィルターであることを特徴とする請求項9、又は10に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための方法。
【請求項12】
前記フィルター再生手段は、供給ガスを前記反応器の内部に均一に注入し、固体触媒/液体生成物の混合物が前記分離手段に流入することを妨げないために、複数のノズルを持つガス分配器と、前記ガス分配器に供給ガスを供給するガス注入用流量制御バルブと、前記ガス注入用流量制御バルブの開閉動作を制御する駆動手段とを有し、前記駆動手段はモーター、又はシリンダーであることを特徴とする請求項11に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用固体触媒と生成物を連続して分離して排出するための方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−522900(P2011−522900A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−548602(P2010−548602)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007250
【国際公開番号】WO2009/107927
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(301040648)コーリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー (4)
【出願人】(509300706)デリム インダストリアル カンパニー リミテッド (3)
【出願人】(509300739)コーリア ナショナル オイル コーポレイション (3)
【出願人】(509300717)ヒュンダイ エンジニアリング カンパニー リミテッド (4)
【出願人】(510256182)エスケイ エナジー カンパニー リミテッド (2)
【出願人】(502144914)コーリア ガス コーポレーション (3)
【氏名又は名称原語表記】KOREA GAS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】215, Jeongja−dong, Bundang−ku Seongnam−si, Kyeonggi−do 463−754,                            The Republic of Korea
【Fターム(参考)】