説明

フィブリル化溶融液晶ポリマー繊維の製造方法

【課題】溶融液晶ポリマーのフィブリル化物を、低コスト、かつ廃液に由来する環境への負荷を低減して製造する方法を提供する。
【解決手段】溶融液晶ポリマーのフィブリル化物の製造方法は、数平均分子量1,000〜30,000の溶融液晶ポリマー繊維1を支持体3上に準備する準備工程と、
前記繊維1に対して、100〜300kgf/cmの水流を噴射して、前記繊維1をフィブリル化するフィブリル化工程と、
を少なくとも備える。支持体3上に載置する溶融液晶ポリマー繊維1は、織編物などの集合体であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性・耐薬品性・寸法安定性に優れた合成紙の原料として好適なフィブリル化溶融液晶ポリマー繊維の効率的な製造方法、およびこの製造方法により得られた溶融液晶ポリマー繊維からなるフィブリル化物に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融液晶ポリエステルからなるパルプ状物の製造方法としては、溶融成形した後に剪断力を加えて叩解する手法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この手法で得られるパルプ状物は、叩解に多大な時間と労力がかかるだけでなく、粉末状のパルプ屑が多く抄造性に欠ける。さらにこのようなパルプ状物で形成した合成紙は紙力(または紙強度)に劣る。
【0003】
また、叩解前に溶融液晶繊維を酸あるいはアルカリで処理する方法も開示されている(特許文献2参照)。この方法では、繊維が酸あるいはアルカリで処理されるため、叩解時間の短縮は可能であるものの、得られるパルプ状物は依然として抄造性に劣り、このような抄造性に劣るパルプ状物から形成された合成紙では紙力は向上できない。さらに、このような酸またはアルカリ処理により、繊維自体へ負荷がかかってしまう。
【0004】
これに対して、溶融液晶ポリエステルを島成分とする海島型複合繊維の海成分を除去する方法がいくつか知られている。易アルカリ減量性ポリエステルを海成分、溶融液晶ポリエステルを島成分とする海島繊維をアルカリ処理することにより、パルプ状物を得る方法が知られている(特許文献3参照)。海島繊維から海成分を除去することにより、細く分散性のよいパルプ状物が得られるが、このようなパルプ状物は、実質的な枝分かれを有していないためパルプ同士の絡み合いが少なくなり、紙力に欠けるという欠点がある。
【0005】
紙力を強化するために、島成分繊度・カット長の異なる2種類のカット繊維をブレンドし、同時にアルカリ減量することで絡み合いの多いパルプを得る方法(特許文献4参照)や太い短繊維とパルプ状物の混合物を1度に得ることができる紙料原料繊維の製造方法(特許文献5参照)、枝分かれを有する繊維と短繊維とを同時に得ることのできるパルプ製造法が開示されている(特許文献6参照)。これらの製造法では、海成分の除去により簡便に溶融液晶ポリエステルからなるパルプを得られるものの、海成分の除去が必須工程であり、コスト的に効率的でないだけでなく、廃液に由来する環境への負荷も大きい。また、このような製造方法で得られるパルプ状物は、パルプ同士の絡み合いが少なく、紙力を得ることは難しく、さらに薄い紙や地合に優れた紙を得ることは困難である。
【0006】
【特許文献1】特開平1−201518号公報
【特許文献2】特開平10−46431号公報
【特許文献3】特開平7−331581号公報
【特許文献4】特開平8−269824号公報
【特許文献5】特開平8−246242号公報
【特許文献6】特開2004−225203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、溶融液晶ポリマー繊維であっても、薬品処理や副生成物を発生させることなく、フィブリル化物を効率的に形成することができる製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、パルプ状物内部での分散性に優れている溶融液晶ポリマー繊維のフィブリル化物を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、紙力・地合に優れた合成紙を製造するのに好適な溶融液晶ポリマー繊維のフィブリル化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、溶融液晶ポリマーの性質について、以下の点について鋭意検討を行った。まず、本発明者らは、従来から行われている叩解で、溶融液晶ポリマー繊維の抄造性が劣る理由について検討した。
【0009】
すると、(1)溶融液晶ポリマー繊維は強力が高いため、叩解により繊維に対して線状または面状の力が加えられても、その強力故に、幹部分のフィブリル化を進行させることが困難であること、また、(2)パルプ状物の幹部分の直径を小さくするために叩解を繰り返すと、フィブリルの幹部分は依然として抄造するには太いままであるにもかかわらず、枝部分が紛体化してしまうため、パルプ状物の抄造性を向上することができないことが明らかとなった。
【0010】
そこで、次に、繊維に加えられる力に着目して検討したところ、特定の数平均分子量の溶融液晶ポリマー繊維に対してジェット水流、すなわち点状の力を与えると、一点に集中した力が、繊維内部の分子配向に沿って作用し、溶融液晶ポリマー繊維の強力性にもかかわらず、繊維を分割し、幹部分のフィブリル化を可能とすることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、溶融時に光学的異方性を示し、数平均分子量1,000〜30,000の液晶ポリマー繊維を支持体上に準備する準備工程と、前記繊維に対して、100〜300kgf/cmの水流を噴射して、前記繊維をフィブリル化するフィブリル化工程と、を少なくとも備え、フィブリル化溶融液晶ポリマー繊維を製造する方法である。
【0012】
前記準備工程において、支持体上には、溶融液晶ポリマー繊維の集合体(例えば、織編物など)を準備してもよい。
【0013】
本発明は、前記製造方法により形成された溶融液晶ポリマー繊維のフィブリル化物も包含する。このフィブリル化物は、通常、少なくとも繊維の一部に、繊維長が40μm以上、かつ繊維径が1μm以下の枝構造を有している。また、枝構造において、枝部分の平均繊維径は、0.1〜1μmであってもよい。
【0014】
本発明のフィブリル化物は、水圧により分割して繊維がフィブリル化するため、製造する際に脱海処理をする必要がない。そのため、前記フィブリル化物は、溶融液晶ポリマーを島成分とする際に用いられる脱海処理剤であるアルカリ化物または溶解パラメーターが10未満の低極性有機溶媒を実質的に含まなくてもよい。
【0015】
本発明は、さらにこのようなフィブリル化物で構成されるパルプ状物や合成紙も包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、特定の数平均分子量の溶融液晶ポリマー繊維が有する分子配向性を利用して、溶融液晶ポリマー繊維に高圧の水流を噴射することにより、溶融液晶ポリマー繊維であっても、薬品処理や副生成物を発生させることなく、フィブリル化物を効率的に形成することができる。このようなフィブリル化物は、パルプ状物内部での分散性に特に優れているとともに、紙力・地合に優れた合成紙を製造するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解される。図面は必ずしも一定の縮尺で示されておらず、本発明の原理を示す上で誇張したものになっている。
【0018】
本発明の溶融液晶ポリマー繊維のフィブリル化物(すなわち、フィブリル化した溶融液晶ポリマー繊維)の製造方法は、溶融時に光学的異方性を示す液晶ポリマー繊維を準備する準備工程と、前記繊維に対して、所定の水圧を有する水流を噴射して、前記繊維をフィブリル化するフィブリル化工程とを少なくとも備えている。
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。図1は、フィブリル化した溶融液晶ポリマー繊維の製造工程において、支持体上の溶融液晶ポリマー繊維に対して高圧ノズルから水流を噴射するフィブリル化する工程を示す概念図である。
【0020】
すなわち、フィブリル化物を製造するにあたっては、まず、準備工程において、溶融液晶ポリマー繊維1を送り出しロール2,2によって送り出される支持ベルト3に載置する。ついで、フィブリル化工程において、支持体(または支持ベルト)3上の溶融液晶ポリマー繊維1に対して、高圧噴射ノズル4を備えた水流噴射装置5から、所定の水圧を有する水流を噴射して、繊維のフィブリル化を行いつつ、引取りロール6,6によりフィブリル化された繊維を引き取っていく。
【0021】
[溶融液晶ポリマー繊維の準備工程]
(溶融液晶ポリマー繊維を構成するポリマー)
本発明で用いられる溶融時に光学的異方性を示す液晶ポリマー繊維(溶融液晶ポリマー繊維)を構成するポリマーは、溶融成形できる液晶性ポリマーであれば特にその化学的構成については特に限定されるものではないが、例えば、サーモトロピック液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入されたサーモトロピック液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。
また溶融液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0022】
本発明に用いられる溶融液晶ポリマーの具体例としては、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステルおよびサーモトロピック液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。ただし、高分子液晶を形成するためには、種々の原料化合物の組合せには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0023】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は表1参照)
【表1】

【0024】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【表2】

【0025】
(3)芳香族または脂肪族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【表3】

(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【0026】
【表4】

【0027】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として表5に示す構造単位を有する共重合体を挙げることができる。
【0028】
【表5】

【0029】
これらの共重合体のうち、好ましい組み合わせとしては、p―ヒドロキシ安息香酸を少なくとも繰り返し単位として含む重合体が好ましく、特に、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸の繰り返し単位を含む重合体が最も好ましい実施形態である。
【0030】
例えば、溶融液晶ポリマーが、少なくともp−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸の繰り返し単位を含む場合、繰り返し単位(A)のp−ヒドロキシ安息香酸と、繰り返し単位(B)の6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸とのモル比(A)/(B)は、液晶ポリマー中、(A)/(B)=10/90〜90/10程度であるのが望ましく、より好ましくは、(A)/(B)=50/50〜85/15程度であってもよく、さらに好ましくは、(A)/(B)=60/40〜80/20程度であってもよい。
【0031】
なお、本発明にいう溶融時における光学的異方性とは、例えば試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0032】
溶融液晶ポリマーとして好ましいものは、融点(以下、Mpと称す)が260〜360℃の範囲のものであり、さらに好ましくはMpが270〜350℃のものである。なお、Mpは示差走査熱量計(メトラー社DSC)により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0033】
前記溶融液晶ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。
【0034】
(溶融液晶ポリマーの紡糸方法)
次に、溶融液晶ポリマーの紡糸方法について述べる。溶融液晶ポリマーは、ノズルを通過する時のせん断速度を10〜10sec−1とすると、紡糸時に著しい分子配向が生じるため、通常のポリエチレンテレフタレート紡糸原糸などに行われている紡糸後の延伸を行なわなくとも、紡糸原糸のままで強度8cN/dtex以上、弾性率400cN/dtex以上の繊維となる。本発明にいうせん断速度γは、円形ノズルの場合は次式により求めることが出来る。
γ=4Q/πr(sec−1
但し r:ノズルの半径(cm)
Q:単孔当たりのポリマー吐出量(cm/sec)
【0035】
紡糸原糸は、強度・弾性率を向上させるため、必要に応じて、さらに熱処理を行ってもよい。熱処理方法としては段階的に温度を上昇させながら熱処理する方法が好ましい。熱処理雰囲気としては、窒素、アルゴン等の不活性ガスや空気等の活性ガス、あるいはそれらを組み合わせた雰囲気などが好適に用いられる。また上記熱処理を減圧下で行っても何等差し支えない。
【0036】
溶融液晶ポリマー繊維の数平均分子量は、繊維のフィブリル化を促進する観点から、例えば、1,000〜30,000程度であり、好ましくは2,000〜20,000、より好ましくは3,000〜14,000、さらに好ましくは4,000〜10,000程度であってもよい。
【0037】
準備工程における溶融液晶ポリマー繊維は、モノフィラメントであってもよいし、マルチフィラメントであってもよいし、さらにはステープルであってもよい。また、ポリマー繊維の直径は、繊維のフィブリル化が可能である限り、フィブリル化物に求められる性質に応じて適宜設定可能であるが、例えば、10〜50μm程度、好ましくは15〜45μm程度であってもよい。
【0038】
水流に対して噴射される前記溶融液晶ポリマー繊維の形状は、繊維がフィブリル化可能である限り特に限定されないが、通常、作業効率を高める観点から繊維が集合した繊維の集合体である場合が多い。
【0039】
繊維の集合体としては、トウ状、糸状(例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸など)、ロープ状、組ひも状などの一次元的繊維集合体;ウェブ状、織編布状、不織布状などの二次元的繊維集合体などが挙げられる。
これらのうち、水圧の高い水流に対して繊維が飛散するのを防止できるだけでなく、効率的に水流を噴射できるため、集合体は、織編物の形状を有しているのが好ましい。
【0040】
[フィブリル化工程]
フィブリル化工程では、支持体上に準備した繊維に対して、所定の水圧の水流を噴射し、繊維のフィブリル化を行う。
【0041】
図1に示すように、水流噴射装置5から高圧噴射ノズル4により噴射した水圧100〜300kgf/cmの水流は、支持体上の溶融液晶ポリマー繊維に対して、点状に作用する。それにより、液晶ポリマー繊維の分子配向に亀裂が入るとともに、亀裂の入った繊維に対して、さらに水流が噴射される。その結果、強力の高い液晶ポリマー繊維であっても、容易にフィブリル化することが可能となる。
【0042】
水流は、単独の高圧噴射ノズルから噴射されてもよいが、効率的に繊維のフィブリル化を進行させるためには、複数の高圧噴射ノズルから、移動する支持体上に載置された液晶ポリマー繊維に対して噴射することが好ましい。
【0043】
高圧噴射ノズルから噴射される水流の水圧は、液晶ポリマー繊維のフィブリル化を行うために、100〜300kgf/cmであることが必要であり、好ましくは150kgf/cm以上、さらに好ましくは180kgf/cmであってもよい。
【0044】
フィブリル化溶融液晶ポリマー繊維は、水流により分割して細分化されているため、少なくとも繊維の一部に、繊維長が40μm以上(好ましくは50μm以上、さらに好ましくは60μm以上)、かつ繊維径が1μm以下の枝構造を有する。なお、枝構造における繊維長の長さの最大値は、フィブリル化する前の溶融液晶ポリマー繊維の繊維長、または必要に応じて裁断される場合の繊維の裁断後の繊維長に応じて、適宜決定されるが、通常、10mm以下である場合が多い。
【0045】
したがって、フィブリル化溶融液晶ポリマー繊維の枝構造において、例えば、枝部分の平均繊維径は、0.1〜1μm程度であってもよく、好ましくは0.2〜0.9μm程度、さらに好ましくは0.3〜0.8μm程度であってもよい。
【0046】
フィブリル化工程によりフィブリル化された溶融液晶ポリマー繊維は、必要に応じて裁断などの裁断工程を経た後、水などの液媒体に分散される。そして、フィブリル化溶融液晶ポリマー繊維が液媒体に分散したパルプ状物を得ることができる。
【0047】
本発明のパルプ状物は、海島ブレンドにより枝分かれ構造を形成する液晶ポリマー繊維と異なり、海成分の除去が不要である。そのため、溶融液晶ポリマーを島成分とする場合の海成分を除去するために用いられる脱海処理剤[例えば、アルカリ化物(水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、リン酸三ナトリウムなど)、溶解パラメーターが10未満の低極性有機溶媒(キシレン、トルエン、シクロヘキサン、クロロホルムなど)など]を実質的に含むことなく、パルプ状物を形成できる。
【0048】
本発明のパルプ状物は、良好に叩解されているため、高いろ水度を示すことができる。例えば、本発明のパルプ状物のJIS P8121−1976に準拠して、カナディアン標準フリーネス(CFS値)(単位ml)により得られるろ水度は、350〜750ml程度であってもよく、好ましくは400〜700ml程度である。
【0049】
また、本発明で得られるフィブリル化物からは、公知または慣用の抄紙工程により、合成紙を形成することもできる。合成紙は、本発明のフィブリル化物のみから形成しても、紙力の優れた合成紙を得ることができるが、必要に応じて、他のパルプ成分(天然パルプ成分、合成パルプ成分)を混和して合成紙を形成してもよい。
【0050】
たとえば、合成紙における本発明のフィブリル化物の含有量は、例えば、10〜100重量%程度であってもよく、好ましくは20〜98重量%程度、さらに好ましくは30〜95重量%程度であってもよい。
【0051】
また、本発明のフィブリル化物から得られる合成紙は、フィブリル化物が良好に絡み合うためか、高い引張強度を示すことができ、JIS P 8113−1976に準拠して、その縦方向および横方向の裂断長を測定して、それぞれの方向の裂断長を平均した値は、例えば、1〜10km程度であってもよく、好ましくは1.5〜8km程度、さらに好ましくは2〜7km程度である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の製造方法は、環境に対する負荷を低減できるだけでなく、効率的にフィブリル化溶融液晶ポリマー繊維を形成することができる。そして、この方法で得られたフィブリル化物において、溶融液晶ポリマー繊維は、枝分かれ構造を有しているため、このようなフィブリル化物は、パルプ状物内部での分散性に優れている。
【0053】
したがって、前記フィブリル化物から形成された合成紙は、溶融液晶ポリマー繊維から形成されるにも係らず、紙力や地合に優れており、この合成紙は、例えば電池のセパレータ、フィルタなどとして、有用に利用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお以下の実施例において、溶融液晶ポリマー繊維の数平均分子量、およびフィブリル化物の枝部分の平均繊維径は下記の方法により測定したものを示す。
【0055】
[溶融液晶ポリマー繊維の数平均分子量]
試料0.1gを精秤してとり、n−プロピルアミン2mlを添加して、室温で3昼夜攪拌し完全溶解した。アミン分解液のHPLC測定を行うことにより、全末端数を把握し、数平均分子量を測定した。
【0056】
[フィブリル化物の枝部分の平均繊維径 (μm)]
フィブリル化物の電子顕微鏡写真を撮影し、その任意の10点について直径および長さを測定し平均値を求め、さらに他の任意の4ヶ所についても同様に撮影し、それぞれの箇所において同様にして平均値を求め、合計5箇所で得られた平均値の相加平均を直径とした。なお、枝部分の繊維長は40μm以上であった。
【0057】
[合成紙の裂断長]
下記の各例で得られた合成紙から縦×横=15mm×200mmの試験片を採取し、その試験片を用いて、JIS P 8113−1976に準拠して、その縦方向および横方向の裂断長を測定し、縦方向と横方向の平均値、すなわち、
{(縦方向裂断長+横方向裂断長)/2}(単位km)
で表した。なお、この裂断長は、主に合成紙の引張強度を示す目安である。
【0058】
[合成紙の地合]
合成紙の両面を肉眼で観察して、以下の基準を用いて評価した。
◎:いずれの面にも繊維および/またはパルプの浮き上がりやムラな部分がなく、平滑で均一な状態を呈している。
○:一方または両方の面に、繊維および/またはパルプの浮き上がりやムラな部分が見られるが、全体としては平滑で均一な状態を呈している。
×:一方または両方の面に繊維および/またはパルプの浮き上がりやムラな部分が存在し、面が平滑ではなく不均一な状態を呈している。
【0059】
(実施例1)
・ 溶融液晶ポリマー繊維の準備工程
パラアセトキシ安息香酸(A)と2,6−アセトキシナフトエ酸(B)の仕込み比を7:3(モル比)とし、重合温度310℃でアセテート法による重合を行い、繰り返し構成単位(A)と(B)のモル比が7:3である全芳香族ポリエステルポリマー(Mn=5,000、Mp=280℃)を作製した。この全芳香族ポリエステルを単軸押し出し機を用いて紡糸温度315℃にて0.15mm径、300ホールの口金より巻取り速度2000m/分で紡糸し、1670dtex/300フィラメントの紡糸原糸を得た。このフィラメントから溶融液晶ポリマー繊維の集合体(編物)を得た。
【0060】
(2)溶融液晶ポリマー繊維のフィブリル化工程
図1に示すように、前記準備工程(1)で得られた繊維集合体を、送り出しロール2,2によって送り出される支持ベルト3に載置し、5m/分の速度で、前記繊維集合体をベルトの長さ方向に移動させつつ、水流噴射装置5に接続された高圧噴射ノズル4から、水圧150kgf/cmの水流を繊維集合体に対して噴射し、繊維をフィブリル化した。
【0061】
(3)パルプ状物の製造工程
前記工程(2)で得られたフィブリル化物を、カッターを用いて繊維長1.5mmにカットした。なお、ろ水度はJIS P8121−1976に準拠して、カナディアン標準フリーネス(CFS値)(単位ml)より求めた。
【0062】
(4)合成紙の製造工程
目付約35g/mとなるように計量して水中に投じ、攪拌分散させた後、この分散物を80メッシュのステンレス金網により抄紙し、シート状物を得た。次いでこのシート状物を表面温度120℃のドラム乾燥機で処理して脱水乾燥させた。得られた紙を200℃、100kg/cmの条件でカレンダー処理した。
得られたフィブリル化物の平均繊維径、パルプ状物のろ水度、ならびに合成紙の裂断長および地合いについて、表6に示す。
【0063】
(実施例2)
実施例1の全芳香族ポリマーをMn=8,000とする以外は、実施例1と同様にした。
得られたフィブリル化物の平均繊維径、パルプ状物のろ水度、ならびに合成紙の裂断長および地合いについて、表6に示す。
【0064】
(実施例3)
実施例1の全芳香族ポリマーをMn=13,000とする以外は、実施例1と同様にした。
得られたフィブリル化物の平均繊維径、パルプ状物のろ水度、ならびに合成紙の裂断長および地合いについて、表6に示す。
【0065】
(比較例1)
実施例1で得られた紡糸原糸を、さらに乾燥窒素雰囲気下にて260℃で12時間熱処理し、処理後の紡糸原糸のMn=40,000とする以外は、実施例1と同様にした。
得られたフィブリル化物の平均繊維径、パルプ状物のろ水度、ならびに合成紙の裂断長および地合いについて、表6に示す。
【0066】
(比較例2)
実施例1で得られた紡糸原糸を、さらに乾燥窒素雰囲気下にて280℃で12時間熱処理し、処理後の紡糸原糸のMn=70,000とする以外は、実施例1と同様にした。
得られたフィブリル化物の平均繊維径、パルプ状物のろ水度、ならびに合成紙の裂断長および地合いについて、表6に示す。
【0067】
【表6】

【0068】
表6に示すとおり、実施例1〜3では、枝部分の平均繊維径が小さいフィブリル化物を得ることができた。また、パルプ状物のろ水度が低いため、叩解の程度が高い。さらに、実施例1〜3で得られた合成紙は、裂断長が大きく、合成紙の強度が高いだけでなく、合成紙の地合いも良好である。しかも、これらの実施例では、溶媒などによる脱海処理を要せずに、効率よくフィブリル化物を形成することができる。
【0069】
一方、比較例1および2では、フィブリル化物の枝部分の平均繊維径が大きく、このフィブリル化物から得られたパルプ状物は、ろ水度が高目であった。さらに、比較例1および2で得られた合成紙は、裂断長が小さいため合成紙としての強度が低いだけでなく、地合いも不良であった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るフィブリル化物の製造工程において、支持体上の溶融液晶ポリマー繊維に対して高圧ノズルから水流を噴射するフィブリル化工程を示す概念図である。
【符号の説明】
【0071】
1:溶融液晶ポリマー繊維
2:送り出しロール
3:支持ベルト
4:高圧噴射ノズル
5:水流噴射装置
6:引取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融時に光学的異方性を示し、数平均分子量1,000〜30,000の液晶ポリマー繊維を支持体上に準備する準備工程と、
前記繊維に対して、100〜300kgf/cmの水流を噴射して、前記繊維をフィブリル化するフィブリル化工程と、
を少なくとも備え、フィブリル化溶融液晶ポリマー繊維を製造する方法。
【請求項2】
請求項1において、準備工程において溶融液晶ポリマー繊維の集合体を準備する製造方法。
【請求項3】
請求項2において、溶融液晶ポリマー繊維の集合体が、織編物の形状である製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により形成された溶融液晶ポリマー繊維のフィブリル化物。
【請求項5】
請求項4において、少なくとも繊維の一部に、繊維長が40μm以上、かつ繊維径が1μm以下の枝構造を有しているフィブリル化物。
【請求項6】
請求項4または5において、枝部分の平均繊維径が0.1〜1μmであるフィブリル化物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項において、アルカリ化物または溶解パラメーターが10未満の低極性有機溶媒を実質的に含まないフィブリル化物。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか一項に記載のフィブリル化物で構成されるパルプ状物。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれか一項に記載のフィブリル化物で構成される合成紙。

【図1】
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【公開番号】特開2010−77548(P2010−77548A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244123(P2008−244123)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】