説明

フィラメントワインディング装置

【課題】フィラメントワインディング装置を用いて、略円筒状物を製造する場合の、ユーザの作業性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】繊維を、略円柱状を成すマンドレルに巻きつける、フィラメントワインディング装置であって、マンドレルに巻き付けるための繊維を供給する給糸口と、マンドレルを、回転可能に支持するマンドレル支持部と、給糸口から供給される繊維の先端を固定する繊維端固定部と、を備え、繊維端固定部は、マンドレルがマンドレル支持部に支持された場合の、マンドレルの回転軸を中心に回転し、繊維固定部が、マンドレルと同期して回転することによってマンドレルに繊維が巻きつけられることを特徴とするフィラメントワインディング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フィラメントワインディング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックで円筒状の製品を製造する場合に、フィラメントワインディング法で製造することがある。フィラメントワインディング法では、略円柱状を成すマンドレルを、円の中心を貫く回転軸を中心に回転させながら、マンドレル外周に、樹脂を含浸させた糸を巻きつけて繊維層を構成する。従来、マンドレル外周に糸を巻きつける際には、マンドレルや、回転軸に、糸端を固定している(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−278543号公報
【特許文献2】特開2003−200503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、マンドレルに巻きつける糸を繰り出す給糸部は、フィラメントワインディング装置が備えているため、マンドレルや回転軸に、糸端を固定する場合、ユーザは、マンドレルを、フィラメントワインディング装置にセットした状態で、給糸口から糸を繰り出して、糸端を固定する必要がある。しかしながら、マンドレルを、フィラメントワインディング装置にセットした状態では、作業スペースが狭いため、作業し難く、特に、給糸口を複数備える多給糸型では、ユーザは、複数の糸をマンドレルに固定しなければならないため、作業性が悪いという問題があった。
【0005】
このような問題は、繊維強化プラスチック容器を製造する場合に限定されず、中空のパイプ等、フィラメントワインディング装置を用いて、略円筒状を成す物を製造する場合に共通する問題である。
【0006】
そこで、本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、フィラメントワインディング装置を用いて、略円筒状物を製造する場合の、ユーザの作業性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1] 繊維を、略円柱状を成すマンドレルに巻きつける、フィラメントワインディング装置であって、
前記マンドレルに巻き付けるための繊維を供給する給糸口と、
前記マンドレルを、回転可能に支持するマンドレル支持部と、
前記給糸口から供給される前記繊維の先端を固定する繊維端固定部と、
を備え、
前記繊維端固定部は、
前記マンドレルが前記マンドレル支持部に支持された場合の、前記マンドレルの回転軸を中心に回転し、
前記繊維固定部が、前記マンドレルと同期して回転することによって前記マンドレルに前記繊維が巻きつけられることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【0009】
このようにすると、フィラメントワインディング装置自体に、マンドレルに巻きつける繊維の先端を固定することができる。そのため、マンドレルを、フィラメントワインディング装置に、セットする前に、繊維端を固定する作業をすることができる。したがって、フィラメントワインディング装置を用いて、略円筒状物を製造する場合の、ユーザの作業性を向上させることができる。
【0010】
[適用例2] 適用例1に記載のフィラメントワインディング装置において、
前記給糸口を複数備えると共に、
前記繊維端固定部を、前記給糸口と同数備え、
複数の前記繊維端固定部は、前記マンドレルが前記マンドレル支持部に支持された場合の、前記マンドレルの回転軸を中心とする一つの円上に全て配置されると共に、全ての前記繊維端固定部が、同時に、前記マンドレルと同期して回転することを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【0011】
フィラメントワインディング装置が、給糸口を複数備える場合に、繊維端固定部を同数備えると、各給糸口からの供給される繊維を、それぞれ、別の繊維端固定部に固定することができる。また、全ての繊維端固定部が、同一の円状に配置されると共に、全ての繊維端固定部が同時に、マンドレルと同期して回転するため、繊維端がマンドレルに固定されているのと同様に、マンドレルに繊維が巻きつけられる。
【0012】
[適用例3] 適用例1または2に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記繊維端固定部は、前記マンドレルの最大直径よりも大きい直径の円上を移動するように設けられ、
前記給糸口と前記繊維端固定部との間に配置され、前記繊維を、前記マンドレルの直径方向に、前記マンドレルの回転軸中心に近づくように案内する案内部を、さらに備えることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【0013】
このようにすると、例えば、給糸口を複数備える場合に、給糸口を、繊維端固定部と同じ高さにして、各繊維間の距離を、マンドレルよりも大きくしておけば、繊維端を繊維端固定部に固定した後に、容易に、マンドレルをセットすることができる。また、案内部を備えることにより、繊維をマンドレルの回転軸中心に近づけることができるため、繊維端固定部をマンドレルから離れた位置に配置していても、マンドレルに繊維を巻きつけることができる。
【0014】
[適用例4] 適用例1ないし3のいずれか1つに記載のフィラメントワインディング装置において、
前記繊維端固定部が配置され、円の中心を中心に回転する第1の回転式リングをさらに備え、
前記第1の回転式リングの回転中心は、前記マンドレルが前記マンドレル支持部に支持された場合の、前記マンドレルの回転軸上にあることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【0015】
このようにすると、第1の回転式リングを、マンドレルと同期させて回転させることにより、容易に、繊維端固定部をマンドレルの回転軸を中心にマンドレルと同期して回転させることができる。
【0016】
[適用例5] 適用例3に記載のフィラメントワインディング装置において、
前記繊維端固定部が配置され、円の中心を中心に回転する第1の回転式リングと、
前記案内部が配置され、円の中心を中心に回転する第2の回転式リングと、
を備え、
前記第1の回転式リングの回転中心と、前記第2の回転式リングの回転中心は、前記マンドレルが前記マンドレル支持部に支持された場合の、前記マンドレルの回転軸上にあることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【0017】
このようにすると、第1の回転式リングおよび第2の回転式リングを回転させることにより、容易に、繊維端固定部および案内部をマンドレルの回転軸を中心に回転させることができる。
【0018】
[適用例6] 適用例3に記載のフィラメントワインディング装置において、
前記案内部は、
ピン状を成し、その先端に、前記繊維を切断する刃部を備えることを特徴とするフィラメントワインディング装置。ことを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【0019】
このようにすると、繊維は、ピンに沿って、マンドレルの中心に向かって移動し、所定の力が加わると、その先端に備えられた刃によって、切断される。従って、マンドレルに繊維が巻きついて、繊維がマンドレルに固定されたときに、繊維が刃部によって切断されるような所定の力が加わるようにすれば、簡単な構成で、自動的に、繊維を切断することができる。
【0020】
[適用例7] 適用例5に記載のフィラメントワインディング装置において、
前記第2の回転式リングは、一部が切断され、隙間が空いていることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【0021】
このようにすると、第2の回転式リングの中心を、マンドレルの回転軸が通る場合に、第2の回転式リングに設けられた隙間から、マンドレルの回転軸を第2の回転式リング内に入れることができるため、マンドレルを容易にセットすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
A.実施例:
A1.実施例の構成:
図1は、本発明の実施例としてのフィラメントワインディング装置100の構成を示す説明図である。本実施例において、フィラメントワインディング装置100は、圧縮水素が充填される高圧タンクを製造する。本実施例では、ナイロン製の樹脂ライナーと、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)製の外殻を供える高圧タンクを製造する。
【0023】
フィラメントワインディング装置100は、図1に示すように、マンドレル支持部20、22と、第1の回転式リング30と、第2の回転式リング40と、クリール50、60と、レール58、68と、制御部90と、を主に備える。
【0024】
マンドレル支持部20、22は、後述するマンドレル10を、回転可能に支持する。クリール50、60は、繊維の張力を制御して、繊維を繰り出す装置である。クリール50は、給糸口52u、52lを備え、所定の張力で、給糸口52u、52lを介して炭素繊維を繰り出す。また、クリール50は、図示するように、レール58に沿って、図中に示す矢印方向(後述する図2に示すマンドレル10の長さ方向)移動することができる。また、クリール50は、給糸口52u、52lを、後述するマンドレル10の直径方向に移動させることができる。なお、クリール50は、内部に、炭素繊維に樹脂を含浸させるための樹脂槽を備え、樹脂が含浸された炭素繊維を、繰り出す。クリール60も同様に、2つの給糸口62u、62lを備え、2箇所から樹脂含浸炭素繊維を繰り出す。なお、例えば、予め樹脂を含浸させたプリプレグ樹脂を用いる場合には、クリール50、60は、樹脂槽を備えない構成にしてもよい。
【0025】
すなわち、本実施例のフィラメントワインディング装置100は、4つの給糸口を備える、多給糸フィラメントワインディング装置である。なお、本実施例において、マンドレル10に巻きつける繊維として、炭素繊維を用いているが、その他、ガラス繊維等、強度のある種々の繊維を用いることができる。また、炭素繊維に含浸させる樹脂として、エポキシ樹脂を用いているが、エポキシ樹脂に限定されず、耐強度、耐環境性の高い他の樹脂を用いてもよい。また、ライナーとしては、ナイロン樹脂製に限定されず、他の樹脂から成る、ガスバリア性を有するライナーを用いてもよい。また、金属製のライナーを用いてもよい。
【0026】
制御部90は、マンドレル10の回転およびクリール50、60の移動等を制御する。制御部90は制御盤92を備え、ユーザは、制御盤を操作することによって、クリール50からの給糸(繊維の張力、給糸口の移動、クリール50、60の移動を含む)を制御したり、マンドレル10の回転・停止を行なう。
【0027】
図1では、フィラメントワインディング法によって、高圧タンクを作る場合の、準備段階として、ユーザが、制御盤92を操作して、給糸口52u、52l、62u、62lを介して、エポキシ樹脂含浸炭素繊維を繰り出して、繰り出された繊維の先端を、後述する第1の回転式リング30の備える、繊維端固定部(図示しない)に固定した状態を示している。
【0028】
図2は、フィラメントワインディング装置100に、マンドレル10がセットされた状態を示す説明図である。図2では、マンドレル10に炭素繊維が巻きつけられている途中の状態を示している。マンドレル10は、中空の略円柱状を成す。本実施例では、マンドレル10として、ナイロン樹脂製のライナーを用いている。マンドレル10を回転させる回転軸14が、マンドレル10の断面円の中心を、長さ方向に貫通しており、マンドレル10は回転軸14に固定されている。そして、その回転軸14が、フィラメントワインディング装置100のマンドレル支持部20、22に支持されることにより、マンドレル10が、フィラメントワインディング装置100にセットされる。マンドレル支持部20、22によって、回転軸14が回転し、それに伴い、マンドレル10が回転する。なお、回転軸14は、マンドレル10を貫通する構成に限定されず、2本の回転軸が、それぞれ、マンドレル10の両端に固定される構成にしてもよい。
【0029】
図3は、第1の回転式リング30の構成を概略的に示す説明図である。図3(a)は平面図、図3(b)は、図3(a)におけるC−C切断面を示す断面図である。第1の回転式リング30は、図3(a)に示すように、リング状を成す第1の回転式リング基部31と、第1の回転式リング基部31の内周に設けられた、繊維端固定部32、33、34、35と、を備える。図3(a)に示すように、繊維端固定部32、33、34、35は、ピン状を成し、第1の回転式リング基部31の内周に、等間隔で配置されている。なお、図3(b)では、繊維端固定部32、33の位置を、円形で簡単に示している。ユーザは、繊維端を、繊維端固定部32に結びつけることにより、固定する。
【0030】
図4は、第2の回転式リング40の構成を概略的に示す説明図である。図4(a)は平面図、図4(b)は、図4(a)におけるX1部を拡大して模式的に示している。第2の回転式リング40は、図4(a)に示すように、Oリングの一部を切り欠いて、切れ目41Cが形成された、Cリング状を成す第2の回転式リング基部41と、第2の回転式リング基部41の内周に設けられた、繊維案内部42〜45と、を備える。図示するように、繊維案内部42〜45は、4本のピンから成り、各ピンが、第2の回転式リング基部41の直径に対して所定の角度を成すように、第2の回転式リング基部41の内周に、等間隔で配置されている。なお、本実施例における繊維案内部42〜45が、請求項における案内部に相当する。
【0031】
そして、繊維案内部45のピンの先端には、図4(b)に示すように、糸切り刃45cが設けられている。同様に、繊維案内部42〜45の各ピンの先端には、それぞれ、糸切り刃が設けられている。繊維案内部42〜45が、糸切り刃を備えることにより、後述するように、繊維が自動的に切断される。
【0032】
第1の回転式リング30と、第2の回転式リング40とは、図2に示すように、略同一の直径のリング状(Oリングと、Cリング)を成し、その円の中心が一致した状態で、平行に、フィラメントワインディング装置100に配置されている。そして、図示するように、その2つの円の中心を、回転軸14が通るように、マンドレル10が支持される。
【0033】
本実施例において、各給糸口52u、52l、62u、62lから供給される繊維F2、F3、F4、F5は、それぞれ、4本の繊維が束ねられた状態で供給される。給糸口52uから繰り出された繊維F2は、ユーザによって、4本に分けられて、繊維案内部42の各ピンの間に通されて、再び束ねられて、繊維端固定部32に結びつけられる。同様に、その他の給糸口から繰り出された繊維は、繊維案内部を通して、繊維端固定部に結び付けられる。図1は、このようにして、各給糸口52u等から繰り出された繊維F2等の端を、第1の回転式リング30の繊維端固定部32にそれぞれ結びつけた状態を示している。
【0034】
上記したように、第2の回転式リング40は、第2の回転式リング基部41がCリング状を成しているため、その切れ目41Cから、回転軸14を通して、図2に示すように、マンドレル支持部20、22に、回転軸14をセットすることができる。図1において、第2の回転式リング40の切れ目41Cは、クリール60側に配置されている(図1では、第1の回転式リング30に隠れている)ため、ユーザは、繊維端を、繊維端固定部に結び付けて、繊維端を固定した状態で、図1のクリール60側から、第2の回転式リング40の切れ目41Cを介して、回転軸14を通すと共に、マンドレル10を、繊維F4とF5との間を通すことによって、繊維端を繊維端固定部に固定した後に、マンドレル10を、フィラメントワインディング装置100にセットすることができる。従って、ユーザは、マンドレル10がセットされていない状態で、繊維端を固定する作業をすることができるため、容易に繊維端を固定することができるようになる。
【0035】
A2.実施例の動作:
図5〜8は、本実施例の動作を説明するための説明図である。図5〜8(b)は、マンドレル支持部22側からマンドレル10を見て示している。なお、図5〜8(b)では、第2の回転式リング40の構成を明瞭に示すために、第1の回転式リング30の記載を、省略している。図5〜8では、(b)に示すように、マンドレル10の回転軸14を通る平面を境にして左側をA側、右側をB側とする。そして、図5〜8の(a)は、給糸口52u、52lと、固定部32、33と、繊維案内部42、43と、繊維F2、F3の、マンドレル10に対する位置を示している。図5〜8の(a)では、給糸口52u、52lと、固定部32、33と、繊維案内部42、43と、繊維F2、F3と、がA側にある場合は実線で、B側にある場合は、破線で表示している。本実施例の動作について、図5〜8に基づいて説明する。
【0036】
最初は、図5(b)に示すように、給糸口52u、52l、62u、62lは、第2の回転式リング40よりも外側に配置されている。そのため、図5(a)に示すように、繊維はマンドレル10から離れた位置に、所定の張力で張られている。
【0037】
以下、本実施例の動作について、給糸口52u、52lと、固定部32、33と、繊維案内部42、43と、繊維F2、F3と、に注目して説明する。図5(a)、(b)に示すように、給糸口52u、52lと、固定部32、33と、繊維案内部42、43と、繊維F2、F3とは、B側に配置されている。
【0038】
ユーザは、制御盤92を操作して、マンドレル10に対する繊維の巻き付けを開始させる。フィラメントワインディング装置100は、第1の回転式リング30およびマンドレル10を回転させず、第2の回転式リング40のみを、図5(b)に矢印で示すように回転させると共に、給糸口52u、52lを、図5(a)、(b)に矢印で示すように、回転軸14に向かって、マンドレル10の直径方向に移動させる。
【0039】
図6(b)に示すように、第2の回転式リング基部41を、図5に対して、約30度回転させると共に、給糸口52u、52lを、マンドレル10近傍まで移動させると、図6(a)に示すように、繊維F2、F3は、それぞれ、繊維案内部42、43に沿って、マンドレルに近づくように移動する。そうすると、繊維F2、F3は、それぞれ、図示するように、マンドレル10の胴体部分に沿うように張られた状態になる。このとき、図5(a)、(b)に示すように、給糸口52u、52lと、固定部32、33と、繊維案内部42、43と、繊維F2、F3とは、B側に配置されている。
【0040】
さらに、第2の回転式リング40のみを、図6(b)に矢印で示すように、図6(b)に対して、約180度回転させると共に、給糸口52u、52lを、図6(a)、(b)に矢印で示すように、回転軸14に向かって、直径方向に移動させる。そうすると、図7(a)、(b)に示すように、繊維案内部42、43が、A側に配置される。給糸口52u、52l、および繊維端固定部32、33は、B側に配置されているため、図7(a)に示すように、繊維F2は、マンドレル10の胴体部分に沿って、A側に所定の張力で密着され、繊維F3は、マンドレル10の胴体部分に沿って、B側に所定の張力で密着される。
【0041】
給糸口62u、62lと、繊維案内部44、45と、繊維F4、F5の、マンドレル10に対する位置は、上記した、給糸口52u、52l、繊維案内部42、43、繊維F2、F3の位置と、回転軸14に対して対称である。したがって、図5に示す位置から、図7に示す位置まで、第1の回転式リング30およびマンドレル10を回転させず、第2の回転式リング40のみを、図5(b)に矢印で示すように回転させると共に、給糸口62u、62lを、回転軸14に向かって、直径方向に移動させると、繊維F2、F3、F4、F5が、互いに重なりあって、マンドレル10に対して、固定される。
【0042】
その後、第1の回転式リング30、第2の回転式リング40を、マンドレル10に同期して回転させると共に、従来のヘリカル巻きを行なう場合と同様に、給糸口52u、52l、62u、64lを、図8(a)に矢印D1、D2で示すように、移動させると、図8(b)に示すように、マンドレル10に、繊維F2〜F5が重なりあって巻きついて、マンドレル10の外周に固定されていく。
【0043】
なお、給糸口52uが、マンドレル10の軸中心に、最も近づいた状態から、図8(a)に示す矢印D1に沿って、1回移動する途中で、図8(a)に示すように、繊維F2が重なって、給糸口52uが、回転軸14に向かって移動すると、繊維F2が、給糸口52u近くの繊維F2によって上から押さえられるため、繊維F2が、上記した、図4(b)に示した糸切り刃によって切断されるような力が加わる。したがって、F2が、糸切り刃によって、自動的に切断される。同様に、F3、F4、F5も、給糸口52l、62u、64lが、それぞれ、マンドレル10の軸中心に、最も近づいた状態から、図8(a)に示す矢印D1に沿って、1回移動する途中で、同様に、自動的に切断される。このとき、すでに、各繊維F2〜5は、互いに重なり合って、マンドレル10に固定されている。すなわち、繊維F2〜5が切断されても、繊維F2〜5は、マンドレルに固定されているため、給糸口52l等から供給される繊維F2等の張力は維持される。したがって、その後、第1の回転式リング30と第2の回転式リング40の回転は、停止され、マンドレル10が回転すると共に、給糸口52u、52l、62u、64lが、矢印D1、D2のように、移動を繰り返すことにより、従来のヘリカル巻きを行なう場合と同様に、マンドレル10に繊維がヘリカル巻きで巻きつけられる。
【0044】
A3.実施例の効果:
本実施例のフィラメントワインディング装置100では、フィラメントワインディング装置100が備える第1の回転式リング30に、繊維端が固定される。そのため、フィラメントワインディング装置100に、マンドレル10をセットする前に、繊維端をフィラメントワインディング装置100に固定しておくことができる。従って、従来のように、マンドレルや、マンドレルを回転させる回転軸に、繊維端を固定する場合と比べて、マンドレルをセットするためのスペースが空いているため、作業スペースが多く、フィラメントワインディング装置100のユーザは、容易に繊維端を固定することができる。したがって、フィラメントワインディング装置100のユーザの作業性が向上される。
【0045】
そして、本実施例のフィラメントワインディング装置100によれば、第1の回転式リング30と第2の回転式リング40とを利用して、自動的に、マンドレル10に繊維が固定されるため、従来と同様に、マンドレル10を回転させると共に、給糸口52l等を移動させることにより、従来と同様に、ヘリカル巻きにて、マンドレル10に、繊維を巻きつけることができる。
【0046】
また、本実施例のフィラメントワインディング装置100では、第2の回転式リング40がCリング状に形成されている。そのため、回転軸14を、第2の回転式リング40の切れ目41Cを介して、第2の回転式リング40の中に入れて、フィラメントワインディング装置100に、マンドレル10を、容易にセットすることができる。従って、ユーザの作業性が向上する。
【0047】
また、本実施例のフィラメントワインディング装置100では、第1の回転式リング30および第2の回転式リング40の直径は、マンドレル10の直径よりも大きい。そのため、給糸口52l等を、マンドレル10よりも外周に配置して、繊維端を繊維端固定部32等に固定すれば、例えば、繊維F4と繊維F5との間が、マンドレルの直径よりも大きくなる。通常、マンドレル10をセットする場合には、クリール50またはクリール60側から、x軸方向にマンドレル10を動かして、セットする。本実施例のフィラメントワインディング装置100によれば、繊維F4と繊維F5との間を通して、マンドレルをセットすることができるため、容易にマンドレル10をフィラメントワインディング装置100にセットすることができる。
【0048】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0049】
(1)上記した実施例において、給糸口を4つ備えるフィラメントワインディング装置100を示したが、給糸口の数は、4つに限定されず、1つ以上備えていればよい。そのような場合であっても、フィラメントワインディング装置100が、繊維を供給する給糸口と、繊維端を固定する繊維端固定部と、の両方を備えることにより、マンドレルをフィラメントワインディング装置にセットする前に、繊維端を固定しておくことができるため、ユーザの作業性が向上される。
【0050】
(2)また、上記した実施例において、フィラメントワインディング装置100は、繊維端固定部32等が配置される、第1の回転式リング30を備えているが、第1の回転式リング30を備えない構成にしてもよい。また、繊維端固定部32の形状も、上記した実施例に限定されない。例えば、繊維端固定部32を、クリップ等で繊維端を挟持するように構成してもよいし、周知の固定手段で固定するようにしてもよい。
【0051】
図9は、繊維端固定部32等の変形例の構成を概略的に示す説明図である。例えば、図9(a)に示す、変形例1の繊維端固定部32A等は、円板状を成す台座31Aに、切り込みを入れて形成される爪状を成す。ユーザは、繊維端を、爪状を成す繊維端固定部32Aに引っ掛けて挟むことによって、繊維端を固定することができる。また、台座31Aには、回転軸14を挿通する挿通孔31hが設けられている。台座31Aは、円の中心を中心に回転するように構成されている。そのため、上記した実施例の第1の回転式リング30に代えて、台座31Aを用いると、繊維端固定部32A等は、回転軸14を中心に回転するため、上記した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0052】
例えば、図9(b)に示す、変形例2の繊維端固定部32A等は、クロス(+)状を成す台座31Bの端部に、円柱状を成す突起状に設けられている。ユーザは、繊維端を、繊維端固定部32Bに結びつけることによって、繊維端を固定することができる。また、台座31Bには、回転軸14を挿通する挿通孔31hが設けられている。台座31Bは、挿通孔31hの中心を中心に回転するように構成されている。そのため、上記した実施例の第1の回転式リング30に代えて、台座31Bを用いると、繊維端固定部32B等は、回転軸14を中心に回転するため、上記した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0053】
(3)上記した実施例において、また、上記した実施例において、フィラメントワインディング装置100は、繊維案内部42等が配置される、第2の回転式リング40を備えているが、繊維案内部の構成は、上記した実施例に限定されず、繊維を、マンドレルの回転中心に向かって近づけることが可能な構成であればよい。
【0054】
図10は、繊維案内部42等の変形例の構成を概略的に示す説明図である。例えば、図10に示す、変形例3の繊維案内部42A等は、円板状を成す台座41Aに設けられたスリット状を成す。また、台座41Aには、回転軸14を挿通する挿通孔41hが設けられている。台座41Aは、挿通孔41hの中心を中心に回転するように構成されている。そのため、上記した実施例の第2の回転式リング40に代えて、台座41Aを用いた場合に、ユーザは、繊維を、繊維案内部42A等の各スリットに通しておくと、上記した実施例と同様に、繊維は、スリットに沿って、マンドレルの回転中心に向かって移動する。そのため、上記した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0055】
(4)上記した実施例において、Cリング状を成す第2の回転式リング40を用いているが、第2の回転式リング40の形状は、Oリング状であってもよい。例えば、第2の回転式リング40を横切らなくても、マンドレル10をフィラメントワインディング装置100にセットすることが可能な構成であればよい。
【0056】
(5)上記した実施例において、繊維案内部42等は、先端に糸切り刃を備えるものを示したが、糸切り刃を備えない構成にしてもよい。糸切り刃を備えない構成の場合には、所定のタイミングで、ユーザが、糸を切断すればよい。また、繊維案内部と給糸口との間に、繊維を切断する切断部(カッター、鋏等)を、備え、制御部90によって、切断部を制御して、所定のタイミングで、繊維を切断する構成にしてもよい。
【0057】
(6)上記した実施例において、フィラメントワインディング装置100として、圧縮水素が充填される高圧タンクを製造するものを、例示したが、高圧タンクを製造する場合に限定されず、本発明は、中空のパイプ等、略円筒状を成す製品を製造するフィラメントワインディング装置に適用することができる。
【0058】
(7)上記した実施例において、フィラメントワインディング装置100は、給糸口の数と同数の繊維端固定部を備えるが、繊維端固定部の数は、給糸口の数と同数でなく、少なくてもよい。例えば、複数の給糸口に対して、繊維端固定部を1つ備えるようにしてもよい。このようにしても、繊維をマンドレル10に固定することができるため、従来と同様に、マンドレルを回転させると共に、給糸口を移動させることによって、ヘリカル巻きにて、マンドレルに繊維を巻きつけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例としてのフィラメントワインディング装置100の構成を示す説明図である。
【図2】フィラメントワインディング装置100にマンドレル10がセットされた状態を示す説明図である。
【図3】第1の回転式リング30の構成を概略的に示す説明図である。
【図4】第2の回転式リング40の構成を概略的に示す説明図である。
【図5】本実施例の動作を説明するための説明図である。
【図6】本実施例の動作を説明するための説明図である。
【図7】本実施例の動作を説明するための説明図である。
【図8】本実施例の動作を説明するための説明図である。
【図9】繊維端固定部32等の変形例の構成を概略的に示す説明図である。
【図10】繊維案内部42等の変形例の構成を概略的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
14...回転軸
20、22...マンドレル支持部
30...第1の回転式リング
31...第1の回転式リング基部
31A、31B...台座
31h...挿通孔
32、32A、32B...繊維端固定部
40...第2の回転式リング
41...第2の回転式リング基部
41A...台座
41h...挿通孔
42、42A、43、44、45...繊維案内部
45c...刃
50、60...クリール
52l、52u、62l、62u...給糸口
58...レール
90...制御部
92...制御盤
100...フィラメントワインディング装置
F2、F3、F4、F5...繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を、略円柱状を成すマンドレルに巻きつける、フィラメントワインディング装置であって、
前記マンドレルに巻き付けるための繊維を供給する給糸口と、
前記マンドレルを、回転可能に支持するマンドレル支持部と、
前記給糸口から供給される前記繊維の先端を固定する繊維端固定部と、
を備え、
前記繊維端固定部は、
前記マンドレルが前記マンドレル支持部に支持された場合の、前記マンドレルの回転軸を中心に回転し、
前記繊維固定部が、前記マンドレルと同期して回転することによって前記マンドレルに前記繊維が巻きつけられることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフィラメントワインディング装置において、
前記給糸口を複数備えると共に、
前記繊維端固定部を、前記給糸口と同数備え、
複数の前記繊維端固定部は、前記マンドレルが前記マンドレル支持部に支持された場合の、前記マンドレルの回転軸を中心とする一つの円上に全て配置されると共に、全ての前記繊維端固定部が、同時に、前記マンドレルと同期して回転することを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記繊維端固定部は、前記マンドレルの最大直径よりも大きい直径の円上を移動するように設けられ、
前記給糸口と前記繊維端固定部との間に配置され、前記繊維を、前記マンドレルの直径方向に、前記マンドレルの回転軸中心に近づくように案内する案内部を、さらに備えることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のフィラメントワインディング装置において、
前記繊維端固定部が配置され、円の中心を中心に回転する第1の回転式リングをさらに備え、
前記第1の回転式リングの回転中心は、前記マンドレルが前記マンドレル支持部に支持された場合の、前記マンドレルの回転軸上にあることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項5】
請求項3に記載のフィラメントワインディング装置において、
前記繊維端固定部が配置され、円の中心を中心に回転する第1の回転式リングと、
前記案内部が配置され、円の中心を中心に回転する第2の回転式リングと、
を備え、
前記第1の回転式リングの回転中心と、前記第2の回転式リングの回転中心は、前記マンドレルが前記マンドレル支持部に支持された場合の、前記マンドレルの回転軸上にあることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項6】
請求項3に記載のフィラメントワインディング装置において、
前記案内部は、
ピン状を成し、その先端に、前記繊維を切断する刃部を備えることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項7】
請求項5に記載のフィラメントワインディング装置において、
前記第2の回転式リングは、一部が切断され、隙間が空いていることを特徴とするフィラメントワインディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−226770(P2009−226770A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75730(P2008−75730)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】