説明

フィルタエレメント,不織布及びフィルタエレメント用の不織布の製造方法

【課題】襞折り状態の各折曲部に通気性を持たせることができて、濾過能力を向上させることができるフィルタエレメントを提供する。
【解決手段】フィルタエレメント11は、不織布12を襞折りして構成する。エア流Aの上流側及び下流側に配置される折曲部11a,11bのうちの少なくとも一方の折曲部の繊維密度を、他の部分の繊維密度よりも低くなるように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンに対する吸気のためのエアクリーナに用いられるフィルタエレメント、そのフィルタエレメントに加工される不織布及びそのフィルタエレメントを形成するための不織布の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のフィルタエレメントとしては、例えば特許文献1に開示されるような構成が提案されている。この従来構成においては、図8(a)に示すように、繊維密度を均一にした所定厚さの不織布41を襞状に折り曲げ成形することにより、図8(b)に示すように、複数の折曲部42a,42bを有するフィルタエレメント42が形成されている。そして、このフィルタエレメント42を用いてエアクリーナのフィルタエレメントを構成した場合、フィルタエレメント42のひとつおきの折曲部42aがエア流Aの上流側に配置されるとともに、残りの折曲部42bがエア流の下流側に配置されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−284012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、この従来構成においては、前記のように不織布41,すなわちフィルタエレメント42の繊維密度が均一である。このため、その不織布を襞状に折り曲げた状態においては、各折曲部42a,42bの部分が薄肉になって繊維密度が高くなるとともに、その折曲部42a,42bの両側部分が重ねられて通気性が悪くなる。このため、各折曲部42a,42b及びその近傍部分の濾過能力の低下と通気抵抗の増加とを招くという問題があった。
【0005】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、襞折り状態の各折曲部及びその近傍部分に充分な通気性を持たせることができて、濾過能力を向上させることができるとともに、通気抵抗を低くすることができるフィルタエレメント,不織布及びフィルタエレメント用の不織布の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、不織布を襞折りして構成されたフィルタエレメントにおいて、エア流の上流側及び下流側に配置される折曲部のうちの少なくとも一方の折曲部の繊維密度を、各折曲部間の傾斜壁部の繊維密度よりも低くなるように形成したことを特徴としている。
【0007】
従って、この発明のフィルタエレメントにおいては、折曲部の繊維密度が低いために、折曲部及びその近傍部分の通気性を確保することができる。よって、フィルタエレメント全体の濾過能力を向上させることができるとともに、通気抵抗を低減できる。
【0008】
前記不織布の繊維密度の低い部分に折曲部の折り線を形成するとよい。このようにすれば、折曲部の形成を容易に行うことができる。なお、この折り線としては、折曲部の折り曲げを容易にするために、不織布に形成した線状の溝部等がある。
【0009】
また、この発明は、一方向に移動される移動体上にメルトブローンにより繊維を供給して、フィルタエレメント用の不織布を製造する製造方法において、前記不織布上でフィルタエレメントの襞の折曲部となる位置の繊維密度を、他の部分の繊維密度よりも低くなるように形成することを特徴としている。
【0010】
従って、この発明の製造方法によれば、襞折り状のフィルタエレメントの形成に適応するように、繊維密度を変化させた不織布をメルトブローンにより容易に製造することができる。
【0011】
前記の製造方法において、前記移動体の移動速度を速くすることにより、繊維密度を低くするとよい。このようにした場合には、移動体の移動速度を変化させるという簡単な制御により、不織布の繊維密度を変更することができる。
【0012】
前記の製造方法において、供給される繊維の量を少なくすることにより、繊維密度を低くするとよい。このようにした場合には、メルトブローで供給される繊維の量を変化させるという簡単な制御により、不織布の繊維密度を変更することができる。
【0013】
前記移動体にその移動方向に間隔をおいて移動方向と直交する方向に延びる凹部及び凸部を交互に形成するとよい。このようにすれば、折り線を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、この発明によれば、襞折り状態の各折曲部に通気性を持たせることができて、濾過能力を向上と通気抵抗の低下とを達成させることができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態のフィルタエレメントを示す要部斜視図。
【図2】(a)は図1のフィルタエレメントを形成するための不織布を示す部分断面図、(b)は同不織布により形成されたフィルタエレメントを示す要部断面図。
【図3】図2の不織布及びフィルタエレメントを製造するための製造方法を示す斜視図。
【図4】(a)は第2実施形態のフィルタエレメントを形成するための不織布を示す部分断面図、(b)は同不織布により形成されたフィルタエレメントを示す要部断面図。
【図5】第3実施形態のフィルタエレメントを形成するための不織布を示す部分断面図。
【図6】図5の不織布を製造するための製造方法を示す斜視図。
【図7】図6の製造装置のコンベアを示す部分斜視図。
【図8】(a)は従来のフィルタエレメントを形成するための不織布を示す部分断面図、(b)は同不織布により形成されたフィルタエレメントを示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下に、この発明を具体化したフィルタエレメントの第1実施形態を、図1及び図2(a)(b)に従って説明する。
【0017】
図1及び図2(b)に示すように、この実施形態のフィルタエレメント11は、不織布12を襞状に折り曲げ成形して、一定周期的に連続した複数の折曲部11a,11bを有するように構成されている。各折曲部11a,11bは、鋭角状をなしている。そして、このフィルタエレメント11を用いてエアクリーナのフィルタエレメントを構成した場合、フィルタエレメント11の図2(b)の下部側に位置するひとつおきの折曲部11aがエア流Aの上流側に配置されるとともに、残りの折曲部11bがエア流の下流側に配置される。
【0018】
図2(a)に示すように、前記フィルタエレメント11に用いられる不織布12には、繊維密度の低い部分12aと、繊維密度の高い部分12bとが交互に設けられている。そして、図2(b)に示すように、不織布12における繊維密度の低い部分12aによりフィルタエレメント11の折曲部11a,11bが形成されるとともに、繊維密度の高い部分12bにより折曲部11a,11b間の傾斜壁部11cが形成される。その結果、不織布12が襞状に折り曲げられた状態においては、その折曲部11a,11b及びその両側部分の繊維密度が高くなることが防止され、それらの部分の通気性が傾斜壁部11cとほぼ同等に確保される。
【0019】
次に、前記のように構成されたフィルタエレメント11の不織布12を製造するための製造方法を、図3に従って説明する。
さて、この不織布の製造方法においては、水平面上に配置された移動体としてのコンベア16が図3の矢印方向に走行されながら、メルトブロー装置17の下面に列設された複数のノズル17aからコンベア16上に溶融状態の合成樹脂繊維18がブローされながら供給される。この合成樹脂繊維18の供給により、コンベア16上にシート状の不織布12が連続的に形成される。この場合、コンベア16の移動速度が、通常速度とそれよりも速い速度とに交互に切り換えられる。この速度の切り換えにより、不織布12には、繊維密度の高い部分12bと、繊維密度の低い部分12aとが交互に形成される。つまり、コンベア16の速度が速いときにメルトブロー装置に対向する部分においては、不織布12の繊維密度が低くなる。
【0020】
そして、不織布12の移動方向の下流側において、一対の上方ブレード19及び1枚の下方ブレード20が不織布12に対して接近及び離間の方向へ往復移動されることにより、不織布12が襞折りされて、複数の折曲部11a,11bを有するフィルタエレメント11が形成される。この場合、不織布12に対向配置された透光素子21aと受光素子21bとよりなる光センサ21により、不織布12上の繊維密度の低い部分12aが検出される。そして、繊維密度の低い部分が規則的に一定ピッチで形成されるように、光センサ21による前記検出に基づいてコンベア16の移動速度が調節される。また、繊維密度の低い部分12aに折曲部11a,11bが規則的に一定ピッチで形成されるように、光センサ21による前記検出に基づいて両ブレード19,20の作動タイミングが決定される。
【0021】
そして、以上のようにして襞折りされた不織布12が適宜な大きさに切断されて、フィルタエレメント11となる。このようにして襞状に構成されたフィルタエレメント11は、折曲部11a,11b及びその近傍部分である両側部分の繊維密度が傾斜壁部11cの繊維密度とほぼ等しくなるため、エアがフィルタエレメント11全体にわたってそのエレメント11の繊維間を均等に透過する。このため、フィルタエレメント11全体にわたって均等な濾過能力を得ることができるとともに、通気抵抗を低くすることができて、エンジンの燃焼効率を向上できる。
【0022】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) このフィルタエレメント11においては、襞折り状態の各折曲部11a,11bとなる部分の繊維密度が、傾斜壁部11cの繊維密度よりも低くなるように形成されている。このため、エレメント11全体が均等な通気性を確保することができ、濾過能力と通気抵抗低下とを達成できる。
【0023】
(2) フィルタエレメント11においては、繊維密度の低い部分が、周期的に形成されているため、軽量化が可能となる。また、前記のように、濾過能力を向上できるため、フィルタエレメント11を小形化でき、従って、さらなる軽量化が可能となる。このため、このフィルタエレメント11は、自動車のエアクリーナ用として好適である。
【0024】
(3) このフィルタエレメント用の不織布の製造方法においては、メルトブローンにより不織布12を形成する際に、コンベア16の速度を変化させるのみで繊維密度の低い部分12aを形成している。このため、繊維密度を変化させた不織布12を容易に製造することができる。
【0025】
(第2実施形態)
次に、この発明を具体化した第2実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0026】
さて、この第2実施形態においては、図4(a)に示すように、フィルタエレメント11用の不織布12が基布(不織布)24と、その基布24上に所定間隔おきで重ね合わされた重合布(不織布)25とより構成されている。基布24は全体が均一な繊維密度である。基布24と重合布25とはニードルパンチングによって一体化されている。以上の構成により、不織布12において重合布25が設けられていない部分に繊維密度の低い部分12aが形成されるとともに、重合布25の設けられている部分に繊維密度の高い部分12bが形成されている。
【0027】
そして、図4(b)に示すように、この不織布12よってフィルタエレメント11を襞折りする際に、重合布25が存在しない繊維密度の低い部分12aにより、フィルタエレメント11の折曲部11a,11bが形成されている。それとともに、重合布25が存在する繊維密度の高い部分12bにより、折曲部11a,11b間の傾斜壁部11cが形成されている。
【0028】
従って、この第2実施形態においても、前記第1実施形態に記載の(1)(2)の効果と同様な効果を得ることができる。
(第3実施形態)
次に、この発明を具体化した第3実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0029】
さて、この第3実施形態においては、図5に示すように、前記第1実施形態と同様で、フィルタエレメント11用の不織布12に繊維密度の低い部分12aと、繊維密度の高い部分12bとが交互に設けられている。そして、繊維密度の低い部分12aには、幅方向に延びる下向きの折り溝26及び上向きの折り溝27が交互に形成されている。これらの折り溝26,27は折り曲げ線を構成し、この折り曲げ線において不織布12を襞折りして、フィルタエレメント11の折曲部11a,11bを形成するようになっている。
【0030】
次に、前記不織布12を製造するための製造方法について説明する。図6及び図7に示すように、この不織布12の製造方法に使用されるコンベア16には、その移動方向と直交する方向である幅方向に延びる凹部28及び凸部29が交互に一定ピッチで形成されている。凹部28には、複数の小孔30が形成されている。メルトブロー装置17に対応して、コンベア16の下方にエア吸引装置31が配置されている。そして、このエア吸引装置31により、コンベア16上の凹部28の小孔30を介してエアが吸引されながら、メルトブロー装置17からコンベア16上に合成樹脂繊維18が供給されて、不織布12が形成される。
【0031】
この場合、前記第1実施形態の場合と同様に、コンベア16の移動速度が、通常速度とそれよりも高い速度とに切り換えされることにより、不織布12に繊維密度の高い部分12bと、繊維密度の低い部分12aとが交互に形成される。そして、不織布12に繊維密度の低い部分12aが形成される際に、コンベア16上の凹部28及び凸部29により、繊維密度の低い部分12aに折り溝26,27が形成される。
【0032】
従って、この第3実施形態においても、前記第1実施形態に記載の効果とほぼ同様な効果を得ることができる。
また、この第3実施形態においては、以下の効果がある。
【0033】
(4) 不織布12の繊維密度の低い部分12aに折り曲げ線としての折り溝26,27が形成されるため、これらの折り曲げ線に沿って、不織布12を容易に襞折り加工することができる。
【0034】
(5) コンベア16の凹部28には小孔30が形成され、エア吸引装置31によりその小孔30からエアが吸引されるため、凹部28上に供給された合成樹脂繊維18は、凹部28の内面に沿う形状となる。このため、合成樹脂繊維18が凹部28内に至ることなく凹部28の開口部を跨いでしまうことを防止でき、その凹部28によって折り溝26を適切に形成できる。
【0035】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記各実施形態においては、不織布12の製造に際して、コンベア16の移動速度を周期的に一時速くすることにより、繊維密度の低い部分12aを形成しているが、メルトブロー装置17から供給される合成樹脂繊維18の量を周期的に少なくすることにより、繊維密度の低い部分12aを形成するように変更すること。あるいは、コンベア16の移動速度を周期的に速くするとともに、それと同期して合成樹脂繊維18の供給量を少なくすること。
【0036】
・ 前記各実施形態においては、エア流Aの上流側及び下流側に配置される両折曲部11a,11bの繊維密度を、他の部分の繊維密度よりも低くなるように形成しているが、エア流Aの上流側及び下流側に配置される両折曲部11a,11bのうちで、一方のみ、例えば下流側に配置される一方の折曲部11bのみの繊維密度を他の部分の繊維密度よりも低くなるように形成すること。
【0037】
・ 前記第2実施形態においては、不織布12の基布24上に複数の重合布25を所定間隔おきで配置しているが、メルトブロー装置により基布24を形成した後に、別のメルトブロー装置により基布24上に重合布25を一体に形成すること。
【0038】
・ 前記第3実施形態においては、コンベア16上の凹部28及び凸部29により、不織布12の繊維密度の低い部分12aに折り線としての折り溝26,27を形成しているが、平板状の不織布12を形成した後、襞折り加工に先立って、ブレード等により繊維密度の低い部分12aに浅溝状の折り溝26,27を形成すること。
【符号の説明】
【0039】
11…フィルタエレメント、11a,11b…折曲部、11c…傾斜壁部、12…不織布、12a…繊維密度の低い部分、12b…繊維密度の高い部分、16…移動体としてのコンベア、17…メルトブロー装置、18…合成樹脂繊維、28…凹部、29…凸部、A…エア流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布を襞折りして構成されたフィルタエレメントにおいて、
エア流の上流側及び下流側に配置される折曲部のうちの少なくとも一方の折曲部の繊維密度を、各折曲部間の傾斜壁部の繊維密度よりも低くなるように形成したことを特徴とするフィルタエレメント。
【請求項2】
請求項1のフィルタエレメントに用いられる不織布であって、折曲部に相当する部分の繊維密度を低く形成し、その繊維密度の低い部分に折曲部の折り線を形成したことを特徴とする不織布。
【請求項3】
一方向に移動される移動体上にメルトブローンにより繊維を供給して、フィルタエレメント用の不織布を製造する製造方法において、
前記不織布上でフィルタエレメントの襞の折曲部となる位置の繊維密度を、他の部分の繊維密度よりも低くなるように形成することを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項4】
前記移動体の移動速度を速くすることにより、繊維密度を低くすることを特徴とする請求項3に記載の不織布の製造方法。
【請求項5】
移動体上に供給される繊維の量を少なくすることにより、繊維密度を低くすることを特徴とする請求項3または4に記載の不織布の製造方法。
【請求項6】
前記移動体にその移動方向に間隔をおいて移動方向と直交する方向に延びる凹部及び凸部を交互に形成したことを特徴とする請求項3〜5のうちのいずれか一項に記載の不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−253369(P2010−253369A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105483(P2009−105483)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】