説明

フィルタ

【目的】 触媒によるガス分解性能を向上させる。
【構成】 触媒を担持した多孔質のガス吸着性担体からなる主活性成分を触媒を担持しない多孔質のガス吸着性担体からなる吸着成分へ分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルタに関する。このフィルタは、例えばアルデヒド類を除去するフィルタとして好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒドを除去分解するためのフィルタとして酸素欠損が導入されたセリウムやジルコニウム等の貴金属酸化物を常温浄化触媒として、更に光触媒を加えてこれらをガス吸着担体としての活性炭に担持させてなるものが知られている(特許文献1)。
近年では、ホルムアルデヒドのみならずタバコ臭の成分であるアセトアルデヒドを常温で分解する触媒も提案されている(特許文献2)
【特許文献1】特開2002−263449号公報
【特許文献2】特開2004−148173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の触媒を用いるとアルデヒド類を常温かつ無光状態で分解することができる。
しかしながら、家屋室内や車輌室内においてのフィルタ使用には、その使用初期にアルデヒド類を大量に除去することが要求される。かかる特性を触媒のみで達成することは困難であるので、ガス吸着担体としての活性炭を併用することが多い。即ち、活性炭の吸着作用により初期段階において大量のアルデヒド類を吸着可能とし、この吸着されたアルデヒド類を活性炭に担持された触媒で分解し、もって活性炭のガス吸着機能を再生維持する。
【0004】
フィルタとして充分な初期性能を奏するには、即ち、初期段階で大量のアルデヒド類を空気中から除去するには、充分な量の活性炭が必要となる。
他方、触媒もその量が多ければ多いほどアルデヒト類の分解能力が大きくなるが、貴金属からなる触媒ではそのコストが嵩んでしまい工業的には触媒使用量が制限されることとなる。
活性炭に吸着されたガス成分を少量の触媒により効率よく分解するには、触媒を活性炭中において均等に分散担持させる必要がある。活性炭の使用量が多くなればなるほど少量の貴金属触媒を均等に分散担持させることは困難となる。両者の比重が大きく異なるからである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、触媒を担持した多孔質のガス吸着性担体からなる主活性成分を前記触媒を担持しない多孔質のガス吸着性担体からなる吸着成分へ分散させることにより、大量の担体中に少量の触媒を容易かつ確実に均等分散可能とした。主活性成分と吸着成分との比重差は、触媒とガス吸着性担体との比重差より小さいからである。これにより、工業的に安定した品質で少量の触媒を多量のガス吸着担体へ担持させることができる。
【0006】
さらに驚くべきことに、触媒を担持した多孔質のガス吸着性担体からなる主活性成分を触媒を担持しない多孔質のガス吸着性担体からなる吸着成分へ分散させることにより、触媒によるガス分解能が向上することが確認された。
換言すれば、触媒をガス吸着担体へ担持させたもの(主活性成分)のみに比べて、主活性成分を吸着性担体(吸着成分)へ分散させると、触媒量が同一にもかかわらず、ガス分解性能が向上する。この理由は、ガス成分の分子がガス吸着性担体の表面上で拡散し、その結果、ガス成分の分子が触媒とより接触しやすくなるためと考えられる。
【0007】
以下、上記の効果を確認した実験例を説明する。
10μm以下の平均粒径の活性炭に1.3重量%のPtを担持してなる主活性成分を0.01g準備する(比較例1)。吸着成分として同じ活性炭0.1gを準備する(比較例2)。実施例として比較例1の主活性成分と比較例2の吸着成分とを混合したものを用いる。
【0008】
実験は次のようにして行った(図1参照)。
比較例1及び2、実施例の試料を3Lの袋へ入れる。30Lの袋においてアセトアルデヒド濃度が80ppmの調整ガスを準備する。
調整ガスを各3Lの袋へ導入し、2時間後の各3Lの袋中のアセトアルデヒドの濃度を測定する。具体的には検知管(92Mガステック)を用いてアセトアルデヒドの濃度を測定しアセトアルデヒドの除去率を求める。
除去率は次の式より求められる。
(Ac初期濃度−Ac測定値)/Ac初期濃度 × 100 (%)
ここでAcはアセトアルデヒドを示す。
2時間後に二酸化炭素の濃度をガスクロで測り分解率を求める。
分解率は次の式より求められる。
(CO初期濃度−CO測定値)/CO初期濃度 × 1/2 × 100 (%)
ここで1/2を乗じているのはアセトアルデヒドの1分子から2分子のCOが生成されるからである。
【0009】
結果を図2に示す。
図2の結果から、活性成分単独では3%程度のアセトアルデヒト分解能しか示さないものが(比較例1参照)、吸着成分と混合することにより、アセトアルデヒドの分解能が8%まで向上することがわかる(実施例1)。この場合、活性炭の吸着能力は何ら影響されることはない(比較例2参照)。
上記の結果より、活性成分を吸着成分へ分散することによりフィルタの性能が向上することはもとより、高価な触媒の使用量を抑制しつつ、充分なガス分解能力を確保することができる。
【0010】
上記において、触媒は分解するガス成分に応じて適宜選択される。従って複数の触媒を併用することもできる。また、光触媒との併用も可能である。
なお、アルデヒド類を分解する触媒として、Pt,Ru,Rh,Pd,Ag,Au,Os,Cu,Co,Ni,Fe及びSnからなる群から選択される少なくとも一種の金属、前記金属の酸化物、前記金属の合金、並びに前記金属と他の金属との合金、からなる群から選択される少なくとも一種からなる微粒子を採用することができる。
【0011】
多孔質のガス吸着性担体も吸着すべき対象ガスに応じて適宜選択可能である。既述の実験例で用いた活性炭の他、チタニア、セピオライト、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、セリア及びセリア−ジルコニア複合酸化物等を用いることができる。これらの複数種類を併用することもできる。
活性成分における触媒とガス吸着担体との配合割合も任意選択可能である。例えば触媒としてPtを用い、ガス吸着担体として活性炭を用いた場合には、触媒の配合割合を3〜30重量%とすることが好ましく、5〜10重量%であるとより好ましい。
【0012】
吸着成分であるガス吸着性担体として活性炭、チタニア、セピオライト、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、セリア及びセリア−ジルコニア複合酸化物から選択される1種以上を、目的とする被吸着ガスに応じて、選択することができる。
吸着成分としてのガス吸着性担体は活性成分に用いられたガス吸着性担体と同一とすることが、均一分散性確保の見地から好ましい。勿論、両者を異なる材料とすることを何ら制限するものではないが、両者の比重を出来る限り近づけておくことが好ましい。
【0013】
主活性成分と吸着成分との配合割合は、除去対象となるガスの特性、ガスの濃度、使用態様等において任意に選択可能であるが、主活性成分/吸着成分=1/32.5〜1/2.33とすることが好ましい。両者の比が1/32.5より小さくなると、触媒の絶対量が不足して充分なガス分解性能を確保できなくなるおそれがある。また、1/2.33を超えると、触媒の絶対使用量が増加してコストが嵩みすぎるのでそれぞれ好ましくない。
【0014】
フィルタの形状は空気抵抗を低減しつつ充分な接触面積を確保する見地からハニカム状とすることが好ましい。ここにハニカム形状とは、六角形に限定されるものではなく、三角形、四角形等の多角形、楕円形、円形など空気を流通させることに支障がなければ任意に選択することができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例のフィルタについて説明をする。
実施例2のフィルタは次のよう作成した。
活性成分として粒径を10μm以下に制限した活性炭に1.3重量%のPtを担持させたものを10重量%準備した。当該活性成分を光触媒としての酸化チタン(10重量%)とともに吸着成分に混合する。なお、活性成分の活性炭と同じ活性炭を吸着成分として使用した。当該混合物に水、及びバインダと混練してハニカム状に押出成形する。その後、恒温層で乾燥させ適当な厚さ(例えば8mm)に切断する。実施例のハニカムフィルタは壁厚約0.2mm、開口幅約1.0mmとしている。なお、ハニカムフィルタの形状は縦50mm、横約250mmに調整した。
図3に示すように、このハニカムフィルタの周面はウレタンフォームで巻回されている。
【0016】
実施例3のフィルタは、実施例2のフィルタにおいて活性成分を20重量%とした。
また、比較例3のフィルタでは、活性成分として、セリウム酸化物及びジルコニウム酸化物からなる常温浄化触媒を担体とし、該担体に白金を触媒として担持したもの採用した。なお、当該常温浄化触媒の使用量は10重量%である。
【0017】
各実施例及び比較例のフィルタは図4に示すようにして空気清浄機1へ取り付けられる。即ち、空気清浄機1のケーシング3内には、空気の流れ方向に沿ってフィルタ5、紫外線ライト7及びファン9が配置される。ケーシング3の前面には空気取り込み用のスリットが形成され、ケーシング3の上面後端側には空気排出スリットが形成されている。
【0018】
かかる空気清浄機1は、図3に示すように、密閉容器B(容積:50L)内で運転される。この密閉容器B内へホルムアルデヒドを導入しその濃度が150ppmとなるようにする。図中の符号Cは密閉容器B内の圧力を一定に保つためのバッファである。そして、ホルムアルデヒドが分解されることにより発生する二酸化炭素の濃度の経時変化を汎用的なガスクロマトグラフィーにより測定する。
結果を図5に示す。
図5の結果より、10μm以下の平均粒径を有する活性炭へ白金触媒を担持させてなる活性成分を有するフィルタによりホルムアルデヒドがより効率よく分解されることが確認できる。
【0019】
同様に、密閉容器B内へアセトアルデヒドを導入しその濃度が150ppmとなるようにする。そして、アセトアルデヒドが分解されることにより発生する二酸化炭素の濃度の経時変化を汎用的なガスクロマトグラフィーにより測定した結果を図6に示す。
図6の結果より、10μm以下の平均粒径を有する活性炭へ白金触媒を担持させてなる活性成分を有するフィルタはアセトアルデヒドをも効率よく分解することが確認できる。この場合、白金の担持量が多くなると分解能も向上することもわかる。
【0020】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1はアセトアルデヒドの分解率を確認するための実験例で用いる装置の概略構造を示す。
【図2】アセトアルデヒドの分解効率を示すグラフ図である。
【図3】実施例のフィルタによるアルデヒド類の分解効率を検定する装置を示す。
【図4】実施例のフィルタの装着した空気清浄機の構成を示す。
【図5】実施例のフィルタによるホルムアルデヒドの分解効率を示すグラフ図である。
【図6】実施例のフィルタによるアセトアルデヒドの分解効率を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0022】
1 空気清浄機
10 換気部
20 清浄部
31、32 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を担持した多孔質のガス吸着性担体からなる主活性成分と、
前記触媒を担持しない多孔質のガス吸着性担体からなる吸着成分とが混合されているフィルタ。
【請求項2】
前記担体は活性炭である、ことを特徴とする請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記主活性成分は10μm以下の粒径の活性炭に1重量%以上のPtが担持されたものである、ことを特徴とする請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記主活性成分と前記吸着成分とは3:97〜30:70の重量割合で混合されている、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項5】
前記主活性成分と前記吸着成分とのより好ましい重量割合は5:95〜20:80である、ことを特徴とする請求項4に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記フィルタはハニカム状に賦形されている、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフィルタ。
【請求項7】
触媒を担持した多孔質のガス吸着性担体からなる主活性成分と前記触媒を担持しない多孔質のガス吸着性担体からなる吸着成分とを混合して混合体を形成し、
該混合体を賦形する、ことを特徴とするフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−181441(P2006−181441A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376374(P2004−376374)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】