説明

フィルム、タイヤ用インナーライナー及びそれを用いたタイヤ

【課題】ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、新品時及び走行後のタイヤの内圧保持性を向上させながらタイヤの重量を減少させ、更に冬場等の低温時の走行においても割れることなくバリア性を発揮することが可能なフィルム及びそれを用いたタイヤ用インナーライナー、並びにそのタイヤ用インナーライナーを備えたタイヤを提供する。
【解決手段】エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた、樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含み、前記粘弾性体(C)の−30℃における100%モジュラスが6MPa未満であることを特徴とするフィルムである。また、当該フィルムを用いたタイヤ用インナーライナー、並びにそのタイヤ用インナーライナーを備えたタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、新品時及び走行後のタイヤの内圧保持性を向上させながらタイヤの重量を減少させることができ、更に冬場等の低温時の走行においても割れることなくバリア性を発揮することが可能なタイヤ用インナーライナーに用い得るフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの内圧を保持するためにタイヤ内面に空気バリア層として配設されるインナーライナーには、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴム等を主原料とするゴム組成物が使用されている。しかしながら、これらブチル系ゴムを主原料とするゴム組成物は、空気バリア性が低いため、かかるゴム組成物をインナーライナーに使用した場合、インナーライナーの厚さを1mm前後とする必要があった。そのため、タイヤに占めるインナーライナーの重量が約5%となり、タイヤの重量を低減して自動車、農業用車両、及び建設作業用車両等の燃費を向上させる上で障害となっている。
【0003】
一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は、ガスバリア性に優れることが知られている。該EVOHは、空気透過量が上記ブチル系ゴムの100分の1以下であるため、インナーライナーに用いた場合、100μm以下の厚さでもタイヤの内圧保持性を大幅に向上させることができる上、タイヤの重量を低減することが可能である。
【0004】
ここで、上記ブチル系ゴムより空気透過性の低い樹脂は数多く存在するが、空気透過性がブチル系ゴムの10分の1程度の場合、100μmを超える厚さでないと、内圧保持性の改良効果が小さい。一方、100μmを超える厚さの場合、タイヤの重量を低減する効果が小さく、また、タイヤ屈曲時の変形によりインナーライナーが破断したり、インナーライナーにクラックが発生してしまい、バリア性を保持することが困難となる。そこで、耐屈曲性を向上させるために、融点170〜230℃のナイロン樹脂に、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物を含むエラストマーを配合したものをインナーライナーに使用する技術が開示されているが(特許文献1)、樹脂に対するエラストマーの比率が高いため、耐屈曲性は向上するもののナイロン樹脂が有するバリア性を保持できなくなるという問題がある。
【0005】
これに対し、上記EVOHをインナーライナーに使用した場合、インナーライナーの厚さを100μm以下にすることができるため、タイヤ転動時の屈曲変形で破断し難く、また、クラックも生じ難くなる。そのため、空気入りタイヤの内圧保持性を改良するために、EVOHをタイヤのインナーライナーに用いることは有効であるといえる。例えば、特開平6−40207号公報(特許文献2)には、EVOHからなるインナーライナーを備えた空気入りタイヤが開示されている。
【0006】
しかしながら、通常のEVOHをインナーライナーとして用いた場合、タイヤの内圧保持性を改良する効果は大きいものの、通常のEVOHはタイヤに通常用いられているゴムに比べ弾性率が大幅に高いため、屈曲時の変形で破断したり、クラックが生じることがあった。そのため、EVOHからなるインナーライナーを用いた場合、タイヤ使用前の内圧保持性は大きく向上するものの、タイヤ転動時に屈曲変形を受けた使用後のタイヤでは、内圧保持性が使用前と比べて低下することがあった。この問題を解決する手段として、特開2002−52904号公報(特許文献3)には、エチレン含有量20〜70モル%、ケン化度85%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体60〜99重量%及び疎水性可塑剤1〜40重量%からなるコンポジットフィルムをインナーライナーに使用する技術が開示されている。
【0007】
更に、特開2004−176048号公報(特許文献4)には、エチレン含有量25〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体100重量部に対してエポキシ化合物1〜50重量部を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体をインナーライナーに使用する技術が開示されており、該インナーライナーは、従来のEVOHからなるタイヤ用インナーライナーと比較して、ガスバリア性を保持したまま、より高度な耐屈曲性を有するとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−199713号公報
【特許文献2】特開平6−40207号公報
【特許文献3】特開2002−52904号公報
【特許文献4】特開2004−176048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献4に開示のインナーライナーは、耐屈曲性、及び冬場等の低温走行時における柔軟性が十分でないため割れやすく、優れたバリア性を発揮できない等、依然として改善の余地がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、タイヤの重量を減少させることが可能で、冬場等の低温走行時において割れにくいタイヤ用インナーライナーに用い得るフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた、樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含むことを特徴とするフィルムを用いたインナーライナーが、優れたガスバリア性及び耐屈曲性を有し冬場等の低温走行時に割れにくいこと、また、該インナーライナーを配設したタイヤが、新品時及び走行後の内圧保持性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明のフィルムは、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含み、
前記粘弾性体(C)の−30℃における100%モジュラスが6MPa未満であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記粘弾性体(C)が、水酸基と親和性の高い官能基を有する軟質高分子を含んでいる。
【0014】
また、本発明のフィルムの好適例の一例において、前記粘弾性体(C)は、マレイン酸、無水マレイン酸、イソシアネート、イソチアシアネート、アルコキシシラン、エポキシ、アミン、及びホウ素を含有する官能基を含む化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物で変性されているか、或いは、ホウ素含有基が導入されている軟質高分子を含んでなる。
【0015】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)が、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対し、エポキシ化合物(E)1〜50質量部を反応させて得られるものである。
【0016】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度が90%以上である。
【0017】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記エポキシ化合物(E)の分子量が500以下である。
【0018】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記エポキシ化合物(E)がグリシドール又はエポキシプロパンである。
【0019】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量が25〜50モル%である。
【0020】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記樹脂組成物(D)の−30℃におけるヤング率が1500MPa以下である。
【0021】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記樹脂組成物(D)における前記粘弾性体(C)の含有率が10〜70質量%の範囲である。
【0022】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記粘弾性体(C)の平均粒径が5μm以下である。
【0023】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記樹脂組成物(D)からなる層が架橋されている。
【0024】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下である。
【0025】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記樹脂組成物(D)からなる層一層あたりの厚さが500μm以下である。
【0026】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更にエラストマーからなる補助層(F)を一層以上備える。
【0027】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記エラストマーが、オレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー又はその水素添加物、或いはウレタン系エラストマーである。
【0028】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記樹脂組成物(D)からなる層が前記補助層(F)に挟まれている。
【0029】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記樹脂組成物(D)からなる層と当該層に隣接した補助層(F)との間及び互いに隣接した補助層(F)の間の少なくとも一箇所に、一層以上の接着剤層(G)を備える。
【0030】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記補助層(F)は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下である。
【0031】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記補助層(F)がブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムを含む。
【0032】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記補助層(F)がジエン系エラストマーを含む。
【0033】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記補助層(F)が熱可塑性ウレタン系エラストマーを含む。
【0034】
また、本発明のフィルムの好適例の一例においては、前記補助層(F)の厚さの合計が10〜2000μmの範囲である。
【0035】
また、本発明のタイヤ用インナーライナーは、前記のいずれかのフィルムを用いたものである。そして、本発明のタイヤは、当該タイヤ用インナーライナーを備える。
【0036】
また、本発明のタイヤの好適例の一例においては、
前記のいずれかのフィルムを用いたタイヤ用インナーライナーを備え、
前記補助層(F)は、ベルト端からビード部までの領域において、少なくとも30mmの幅に相当する部分の補助層(F)の厚さの合計が、ベルト下部に対応する部分の該補助層(F)の厚さの合計より0.2mm以上厚い。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、新品時及び走行後のタイヤの内圧保持性を向上させながらタイヤの重量を減少させることができ、更に冬場等の低温時の走行においても割れることなくバリア性を発揮することが可能なタイヤ用インナーライナーに用い得るフィルム及びそれを用いたタイヤ用インナーライナー、並びにそのタイヤ用インナーライナーを備えたタイヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤの一例の拡大部分断面図である。
【図3】本発明の空気入りタイヤの他の例の拡大部分断面図である。
【図4】本発明の空気入りタイヤの他の例の部分断面図である。
【図5】本発明において使用される押出機の好適なスクリュー構成の実施態様の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のフィルムは、タイヤ用インナーライナーに好適に用いることができるものであり、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレンビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含み、前記粘弾性体(C)の−30℃における100%モジュラスが6MPa未満であることを特徴とする。このように、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に、粘弾性体(C)を分散させた樹脂組成物(D)をインナーライナーとして使用することにより、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、新品時及び走行後のタイヤの内圧保持性を向上させながらタイヤの重量を減少させることができ、更に冬場等の低温時の走行においても割れることなくバリア性を発揮することが可能なインナーライナーに用い得るフィルムを提供することができる。なお、前記粘弾性体(C)の−30℃のM100(100%モジュラス)が6MPa以上であると、タイヤが突起を乗り越す時に生じる大きな歪みによるマトリクス樹脂中のクラック発生を防ぐことができない。なお、本発明のフィルムはタイヤ用インナーライナー以外のものにも用いることができる。
【0040】
本発明のフィルムにおいては、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に、−30℃におけるヤング率が前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体より小さい粘弾性体(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含むことが好ましい。上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)に、例えば、エポキシ化合物(E)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)は、通常のEVOHに比べて弾性率が低い。また、上記物性を満たす粘弾性体(C)を分散させることで、弾性率を更に低下させることができる。そのため、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む樹脂中に上記粘弾性体(C)を分散させてなる樹脂組成物(D)は、弾性率が大幅に低下しており、屈曲時の耐破断性が高く、またクラックも発生し難い。
【0041】
また、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を変性させて、結晶性を発現している水酸基を下記式(I)に示すような化学構造に変えることで、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の結晶性を低下させ、柔軟化することができる。
【化1】

(式中、R、R及びRは、C、H及びOの何れかを含む。)
【0042】
本発明のフィルムにおいては、上記粘弾性体(C)が、ジエン系又は非ジエン系ゴムのいずれか一方を含むことが好ましい。このように、上記粘弾性体(C)がジエン系又は非ジエン系ゴムのいずれか一方を含む場合、樹脂組成物(D)が広い温度範囲でエラスティックに振るまうことができるので、フィルム(インナーライナー)の耐疲労性を向上できる。
【0043】
また、前記粘弾性体(C)の主鎖骨格としては、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、水素添加SBR、天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、エチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴム、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴムや、一部に官能基を持つ変性天然ゴム、ニトリルゴム(NBR)、及びハロゲン基を含む粘弾性体(例えば、臭素化−ブチルゴム(Br−IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)及び下記式(II)で示される臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン)などが挙げられる。
【化2】

【0044】
また、本発明のフィルムにおいて、前記粘弾性体(C)は水酸基と親和性の高い、又は反応して前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)分子と前記粘弾性体(C)分子とを結合させる様な官能基を有することが好ましい。上記粘弾性体(C)が水酸基と親和性の高い官能基を有することで、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)中における粘弾性体(C)の分散径のバラツキが小さくなり、また、平均粒子径を小さくすることができる。ここで、水酸基と親和性の高い官能基としては、ホウ素含有基、マレイン酸、無水マレイン酸、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基、イソチアシアネート基、エポキシ基、アミン、アルコキシシランからなる群より選択される少なくとも一種の化合物で変性することにより導入される官能基、が挙げられる。
【0045】
前記官能基は、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)分子と直接反応できる、又は親和性の高いものに限られず、他の薬剤で予備反応させることにより、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)分子と反応できるような例も含む(例えば実施例13)。官能基は、前記粘弾性体(C)の重合体の重合時又はポスト重合時の処理によってあらかじめ付与させてもよいし、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)と樹脂組成物(D)とを混練りする際、又は混練りする直前に、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)と他の低分子化合物との反応によって導入してもよい。
【0046】
前記ホウ素含有基としては、ボロン酸基及び水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基が挙げられる。前記ホウ素含有基のうち、ボロン酸基とは下記式(III)で示されるものである。
【0047】
【化3】

【0048】
また、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基とは、水の存在下で加水分解を受けて上記式(III)で示されるボロン酸基に転化し得るホウ素含有基を指す。より具体的には、水単独、水と有機溶媒(トルエン、キシレン、アセトンなど)との混合物、5%ホウ酸水溶液と前記有機溶媒との混合物などを溶媒とし、室温〜150℃の条件下で10分〜2時間加水分解したときにボロン酸基に転化し得る官能基を意味する。このような官能基の代表例としては、下記式(IV)で示されるボロン酸エステル基、下記式(V)で示されるボロン酸無水物基、下記式(VI)で示されるボロン酸塩基などが挙げられる。
【0049】
【化4】

【0050】
【化5】

【0051】
【化6】

【0052】
[式中、X及びYは水素原子、脂肪族炭化水素基(炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、又はアルケニル基など)、脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)、芳香族炭化水素基(フェニル基、ビフェニル基など)を表し、XおよびYは同じであってもよいし異なっていてもよい。ただし、XおよびYがともに水素原子の場合は除かれる。また、XとYは結合していてもよい。またR、RおよびRは上記XおよびYと同様の水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基を表し、R、RおよびRは同じでもよいし異なっていてもよい。またMはアルカリ金属を表す。さらに、上記のX、Y、R、RおよびRは他の基、例えば水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子などを有していてもよい。]
【0053】
上記式(IV)で示されるボロン酸エステル基の具体例としては、ボロン酸ジメチルエステル基、ボロン酸ジエチルエステル基、ボロン酸ジブチルエステル基、ボロン酸ジシクロヘキシルエステル基、ボロン酸エチレングリコールエステル基、ボロン酸プロピレングリコールエステル基、ボロン酸1,3−プロパンジオールエステル基、ボロン酸1,3−ブタンジオールエステル基、ボロン酸ネオペンチルグリコールエステル基、ボロン酸カテコールエステル基、ボロン酸グリセリンエステル基、ボロン酸トリメチロールエタンエステル基、ボロン酸トリメチロールプロパンエステル基、ボロン酸ジエタノールアミンエステル基などが挙げられる。
【0054】
また、上記式(VI)で示されるボロン酸塩基としては、ボロン酸のアルカリ金属塩基などが挙げられる。具体的には、ボロン酸ナトリウム塩基、ボロン酸カリウム塩基などが挙げられる。
【0055】
このようなホウ素含有基のうち、熱安定性の観点からボロン酸環状エステル基が好ましい。ボロン酸環状エステル基としては、例えば5員環または6員環を含有するボロン酸環状エステル基が挙げられる。具体的には、ボロン酸エチレングリコールエステル基、ボロン酸プロピレングリコールエステル基、ボロン酸1,3−プロパンジオールエステル基、ボロン酸1,3−ブタンジオールエステル基、ボロン酸グリセリンエステル基などが挙げられる。
【0056】
本発明のフィルムにおいて、前記粘弾性体(C)を構成する高分子材料は、分子構造がランダムであり、Tm(融点)又はTg(ガラス転移点)が50℃以上のブロック又はセグメントを含まないか、或いは、含んだとしても、その量が少ないことが好ましい。例えば、前記粘弾性体(C)がスチレンのブロック又はセグメントを大量に含むと、室温付近ではスチレン層がガラス状態であり、非常に硬く振るまうため、樹脂組成物(D)の柔軟性が失われる。一方、例えばスチレンを含んでいても、分子構造がランダムであれば、樹脂組成物(D)の柔軟性は確保できる。ここでTgは示差走査熱量測定(DSC)により求めた。
【0057】
他方、前記粘弾性体(C)を構成する高分子材料は、ペレット形状の保持のために物性を損なわない範囲で少量のブロック成分を含んでもよい。例えば、前記粘弾性体(C)を構成する高分子材料がスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体である場合、該共重合体のポリスチレン含量は19%以下が好ましく、16%以下がより好ましい。
【0058】
また、本発明において、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の製造方法は、特に限定されないが、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対し、エポキシ化合物(E)1〜50質量部を反応させる製造方法が好適に挙げられる。より詳しくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体の溶液に、酸触媒又はアルカリ触媒存在下、好ましくは酸触媒存在下、エポキシ化合物(E)を添加し、反応させることによって変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を製造する。反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。また、酸触媒としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸及び三フッ化ホウ素等が挙げられ、アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキシド等が挙げられる。なお、触媒量は、エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対し、0.0001〜10質量部の範囲が好ましい。
【0059】
上記エポキシ化合物(E)としては、一価のエポキシ化合物が好ましい。二価以上のエポキシ化合物は、エチレン−ビニルアルコール共重合体と架橋反応し、ゲル、ブツ等を発生して、インナーライナーの品質を低下させることがある。なお、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造容易性、ガスバリア性、耐屈曲性及び耐疲労性の観点から、前記エポキシ化合物(E)は、一価のエポキシ化合物の中でも、分子量が500以下であることが好ましく、グリシドール及びエポキシプロパンが特に好ましい。また、上記エポキシ化合物(E)は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して1〜50質量部を反応させることが好ましく、2〜40質量部を反応させることが更に好ましく、5〜35質量部を反応させることが一層好ましい。
【0060】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、ガスバリア性、耐屈曲性及び耐疲労性を得る観点から、メルトフローレート(MFR)が190℃、2160g荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることが更に好ましく、0.5〜20g/10分であることが一層好ましい。
【0061】
また、該エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、ケン化度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが一層好ましい。ケン化度が90%未満では、インナーライナーのガスバリア性及び成形時の熱安定性が不十分となることがある。
【0062】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、エチレン含有量が25〜50モル%であることが好ましく、30〜48モル%であることが更に好ましく、35〜45モル%であることが一層好ましい。エチレン含有量が25モル%未満では、インナーライナーの耐屈曲性、耐疲労性及び溶融成形性が悪化することがあり、一方、50モル%を超えると、ガスバリア性を十分に確保できないことがある。
【0063】
上記樹脂組成物(D)は、−30℃におけるヤング率が1500MPa以下であることが好ましい。−30℃におけるヤング率が1500MPa以下であると、寒冷地で使用した際のインナーライナーの耐久性を向上させることができる。
【0064】
また、上記樹脂組成物(D)における粘弾性体(C)の含有率は、10〜80質量%の範囲であることが好ましく、20〜70質量%の範囲であることが更に好ましく、40〜70質量%の範囲であることが特に好ましい。粘弾性体(C)の含有率が10質量%未満では、インナーライナーの耐屈曲性を向上させる効果が小さく、一方、80質量%を超えると、インナーライナーのガスバリア性が低下することがある。更に、上記粘弾性体(C)は、平均粒径が5μm以下であることが好ましい。平均粒径が5μmを超えると、樹脂組成物(D)からなる層の耐屈曲性を十分に改善できないおそれがあり、インナーライナーのガスバリア性の低下、ひいてはタイヤの内圧保持性の悪化をもたらすことがある。なお、樹脂組成物(D)中の粘弾性体(C)の平均粒径は、例えば、サンプルを凍結し、該サンプルをミクロトームにより切片にして、透過電子顕微鏡(TEM)で観察することにより求められる。
【0065】
上記樹脂組成物(D)は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と粘弾性体(C)とを混練して調製することができる。また、上記樹脂組成物(D)は、溶融成形、好ましくはTダイ法、インフレーション法等の押出成形により、好ましくは120〜270℃の溶融温度でフィルムやシート等に成形され、インナーライナーとして使用される。
【0066】
前記樹脂組成物(D)からなる層は、成形加工時、例えばタイヤ等の加硫時などにおける耐熱性を上げるために架橋されていることが好ましい。前記樹脂組成物(D)からなる層が架橋されていない場合、タイヤの加硫工程でインナーライナーが著しく変形して不均一となり、インナーライナーのガスバリア性、耐屈曲性、耐疲労性が悪化することがある。ここで、架橋方法としては、エネルギー線を照射する方法が好ましく、該エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、α線、γ線等の電離放射線が挙げられ、これらの中でも電子線が特に好ましい。また、樹脂及び粘弾性体は電子線架橋型が好ましく、電子線崩壊型だと耐久性に劣る。電子線の照射は、樹脂組成物(D)をフィルムやシート等の成形体に加工した後に行うことが好ましい。ここで、電子線の線量は、2.5〜60Mradの範囲が好ましく、5〜50Mradの範囲が更に好ましい。電子線の線量が2.5Mrad未満では、架橋が進み難く、一方、60Mradを超えると、成形体の劣化が進み易くなる。また、60Mradを超えると成形体が硬くなりすぎ、割れ易くなることがある。
【0067】
また、上記樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが更に好ましく、5.0×10−13cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが一層好ましい。20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHgを超えると、フィルムをインナーライナーとして用いる際に、タイヤの内圧保持性を高めるために、樹脂組成物(D)からなる層を厚くせざるを得ず、タイヤの重量を十分に低減できなくなる。
【0068】
更に、上記樹脂組成物(D)からなる層の一層あたりの厚さは、500μm以下であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.5〜100μmの範囲であることが更に好ましく、1〜70μmの範囲であることが一層好ましい。樹脂組成物(D)からなる層の厚さが500μmを超えると、フィルムをインナーライナーとして用いる際に、従来のブチルゴム系のインナーライナーに対して重量の低減効果が小さくなる上、耐屈曲性及び耐疲労性が低下し、フィルム使用時にかかる屈曲変形により破断・亀裂が生じ易くなり、また、亀裂が伸展し易くなるため、フィルムのガスバリア性が使用前に比べて低下することがある。一方、0.1μm未満では、ガスバリア性が不十分で、タイヤの内圧保持性を十分に確保できないことがある。
【0069】
本発明のフィルムは、上記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更にエラストマーからなる補助層(F)を1層以上備えることが好ましい。ここで、上記補助層(F)に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の水酸基と親和性が高いエラストマーを用いると、補助層(F)が樹脂組成物(D)からなる層から剥離し難くなるため好ましい。そして、このように親和性が高いエラストマーを用いれば、樹脂組成物(D)からなる層に破断・亀裂が生じても亀裂が伸展し難いので、大きな破断及びクラックのような弊害を抑制することができ、タイヤの内圧保持性を十分に維持することができる。また、本発明のフィルムにおいて、樹脂組成物(D)よりも柔軟性又は耐クリープ性が優れる補助層(F)を1層以上積層すれば、補助層(F)がクッションの役割を担い樹脂組成物(D)への歪入力を緩和するため、本発明のインナーライナーの耐クラック性が向上する。
【0070】
本発明のフィルムにおいて、補助層(F)に用いる前記エラストマーは、ポリオレフィン、ブチル系エラストマー、ジエン系エラストマー又はウレタン系エラストマーであることが好ましい。本発明のフィルムの補助層がオレフィン系エラストマー、ブチル系エラストマー、ジエン系エラストマー又はその水素添加物、或いはウレタン系エラストマーであることにより、補助層が樹脂組成物からなる層(バリア層)よりも柔軟であるか又は耐クリープ性があるものとなってクッションの役割を担い、樹脂組成物(D)への歪入力を緩和することができ、当該フィルムの耐クラック性が向上する。
【0071】
また、本発明のフィルムにおいて、複数の前記樹脂組成物(D)と前記補助層(F)とが積層されている場合、前記樹脂組成物(D)が前記補助層(F)に挟まれていること(例えば、(F)/(D)/(F)、(F)/(D)/(F)/(D)/(F)、(F)/(D)/(F)/(D)/(F)/(D)/(F))が好ましい。なお、積層は、例えばTダイ法、インフレ法などの共押し出しで行うことができる。ここで、補助層(F)は、積層することが可能であり、種々の特性を持つエラストマーからなる補助層を多層化することが特に好ましい。なお、これらエラストマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
更に、本発明のフィルムは、上記樹脂組成物(D)からなる層と補助層(F)との間及び上記補助層(F)と異なるまたは同じ組成の補助層(F)との間の少なくとも一箇所に、一層以上の接着剤層(G)を備えることもできる。即ち、樹脂組成物(D)からなる層と、該層に隣接する補助層(F)との間や、多層化されている補助層の各補助層間に接着剤層(G)を備えることができる。なお、上記接着剤層(G)に使用する接着剤としては、塩化ゴム・イソシアネート系、変性オレフィン系(例えば、ブチルゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン、エチレン・ブテン、エチレン・オクテンを変性させたもの)又は変性ジエン系の接着剤が挙げられる。
【0073】
本発明のフィルムは、上記樹脂組成物(D)からなる層の他、補助層(F)と、必要に応じて接着剤層(G)とを備える場合、積層体(例えば、(D)/(G)、(F)/(D)/(F)/(G)、(D)/(G)/(F)、(F)/(D)/(F)/(D)/(F))として形成される。ここで、積層体を製造する方法としては、例えば、樹脂組成物(D)からなる層と他の層とをTダイ法、インフレ法などの共押し出しにより積層させる方法、樹脂組成物(D)からなる層と補助層(F)とを必要に応じて接着剤層(G)を用いて貼り合わせる方法等が挙げられる。更に、フィルムをインナーライナーとして用いる場合には、タイヤ成形時にドラム上で樹脂組成物(D)からなる層と補助層(F)とを必要に応じて接着剤層(G)を用いて貼り合わせる方法等が挙げられる。
【0074】
上記補助層(F)は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが更に好ましい。ここで、酸素透過係数は、ガス透過性の代表値として用いている。20℃、65%RHにおける補助層の酸素透過量が3.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下であると、フィルムをタイヤ用インナーライナーに用いた場合に、インナーライナーのガスバリア性に対する補強効果が十分に発揮され、タイヤの内圧保持性を高度に維持することが可能となる。また、上述した積層体は、ガスバリア性の観点から20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることが更に好ましい。
【0075】
上記補助層(F)に用いるエラストマーとしては、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン系エラストマー、熱可塑性ウレタン系エラストマーを好適に挙げることができる。ここで、ガスバリア性の観点からは、ブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴムが好ましく、ハロゲン化ブチルゴムが更に好ましい。また、樹脂組成物(D)からなる層に亀裂が生じた際の伸展を抑制するには、ブチルゴム及びジエン系エラストマーが好ましい。更に、補助層(F)を薄層化しつつ、亀裂の発生や伸展を抑制するには、樹脂組成物(D)からなる層よりも柔軟なエラストマー又は耐クリープ性に優れているエラストマーが好ましく、熱可塑性ウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー及びジエン系エラストマーが特に好ましい。
【0076】
上記ジエン系エラストマーとしては、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられ、これらの中でも天然ゴム、SBR、ブタジエンゴムが好ましい。これらジエン系エラストマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
また、本発明のフィルムにおいては、前記補助層(F)が熱可塑性ウレタン系エラストマーを含むことが好ましい。熱可塑性ウレタン系エラストマーは、ポリオールと、イソシアネート化合物と、短鎖ジオールとの反応によって得られる。ポリオール及び短鎖ジオールは、イソシアネート化合物との付加反応により、直鎖状ポリウレタンを形成する。ここで、ポリオールは、熱可塑性ウレタン系エラストマーにおいて柔軟な部分となり、イソシアネート化合物及び短鎖ジオールは硬い部分となる。なお、熱可塑性ウレタン系エラストマーは、原料の種類、配合量、重合条件等を変えることで、広範囲に性質を変えることができる。
【0078】
そして、本発明のフィルムの補助層(F)は、樹脂組成物(D)からなる層に隣接する補助層(F1)と、それ以外の補助層(F2)とを異なるエラストマーで構成しても良い。具体的には、本発明のフィルムは、樹脂組成物(D)からなる層と、樹脂組成物(D)からなる層に隣接する例えば熱可塑性ウレタン系エラストマーを含む補助層(F1)との積層体を、接着剤層(G)を介して例えばブチル系ゴム等のゴム組成物からなる補助層(F2)と積層した積層体(例えば、(F1)/(D)/(F1)/(G)/(F2))とすることができる。
【0079】
上記補助層(F)の厚さの合計は、10〜2000μmの範囲であることが好ましく、15〜1500μmの範囲であることが更に好ましく、20〜800μmの範囲であることが一層好ましい。補助層(F)の厚さの合計が10μm未満では、補強効果が十分に発揮されず、樹脂組成物(D)からなる層に破断・亀裂が生じた際の弊害を抑制することが困難となり、フィルムをタイヤ用インナーライナーに用いた場合に、タイヤの内圧保持性を十分に維持できないことがある。一方、補助層(F)の厚さの合計が2000μmを超えると、タイヤの重量の低減効果が小さくなる。
【0080】
上記補助層(F)は、300%伸び時における引張応力が200MPa以下であることが好ましく、100MPa以下であることが更に好ましく、70MPa以下であることが一層好ましい。該引張応力が200MPaを超えると、補助層(F)をインナーライナーに用いた際の耐屈曲性及び耐疲労性が低下することがある。
【0081】
本発明のタイヤは、カーカスの内側のタイヤ内面に上述したフィルムからなるインナーライナーを用いたことを特徴とする。以下に、図を参照しながら本発明のタイヤの一例を詳細に説明する。図1は、本発明のタイヤの一例の部分断面図である。図1に示すタイヤは、一対のビード部1及び一対のサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるトレッド部3とを有し、上記一対のビード部1間にトロイド状に延在して、これら各部1,2,3を補強するカーカス4と、該カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された2枚のベルト層からなるベルト5とを備え、更に、該カーカス4の内側のタイヤ内面にはインナーライナー6が配置されている。
【0082】
図示例のタイヤにおいて、カーカス4は、上記ビード部1内に夫々埋設した一対のビードコア7間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア7の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、本発明のタイヤにおいて、カーカス4のプライ数及び構造は、これに限られるものではない。
【0083】
また、図示例のタイヤにおいて、ベルト5は、2枚のベルト層からなるが、本発明のタイヤにおいては、ベルト5を構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。ここで、ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層からなり、2枚のベルト層は、該ベルト層を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト5を構成する。更に、図示例のタイヤは、上記ベルト5のタイヤ半径方向外側でベルト5の全体を覆うように配置されたベルト補強層8を備えるが、本発明のタイヤは、ベルト補強層8を有していなくてもよいし、他の構造のベルト補強層を備えることもできる。ここで、ベルト補強層8は、通常、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなる。
【0084】
なお、図示例のタイヤにおいて、インナーライナー6は、樹脂組成物(D)からなる層を一層のみ有するが、本発明のタイヤは、樹脂組成物(D)からなる層の耐屈曲性を改良するため、図2、図3に示すように補助層(F)を一層以上有することもできる。
【0085】
図2及び図3は、図1の枠で囲んだ部分IIに相当する、本発明のタイヤの他の例の拡大部分断面図である。図2に示すタイヤは、図1に示すインナーライナー6に代えて、樹脂組成物(D)からなる層9と、該樹脂組成物(D)からなる層9に隣接して配置された二層の補助層(F)10,11と、該補助層(F)11の外側に配置された接着剤層(G)12とからなるインナーライナー13を備える。また、図3に示すタイヤは、上記図2に示す接着剤層(G)12の外側に、更に補助層(F)14を有するインナーライナー15を備える。更に、図2及び図3に示すタイヤは、補助層(F)11の外側に接着剤層(G)12を一層備えるが、本発明のタイヤは、接着剤層(G)12を有しなくてもよいし、他の層の間に接着剤層(G)を一層以上備えることもできる。
【0086】
更に、本発明のタイヤにおいて、補助層(F)は、図4に示すように、ベルト端からビード部までの領域において、少なくとも30mmの幅に相当する部分(例えば、図4中、cで示した部分)の補助層(F)の任意の位置での厚さの合計が、ベルト5の存在している領域に対応する該補助層(F)の部分(図4中、aで示した部分)の任意の位置での厚さの合計より0.2mm以上厚いことが好ましい。これは、ビード部からベルト端部までの領域が最も歪が厳しくクラックが発生し易い領域であり、かかる領域の耐久性を向上させるためには、上記特定領域における補助層(F)を厚くするのが効果的であるからである。また、この少なくとも30mmの幅に相当する部分は、30mm以上であれば図4のbで示すどの領域でもよい。
【0087】
本発明のタイヤは、インナーライナーに上述した樹脂組成物(D)と、状況に応じて補助層(F)及び接着剤層(G)とを適用し、常法により製造することができる。なお、本発明のタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガス等を用いることができる。
【0088】
本発明のタイヤは、上記構成の本発明のフィルムを用いたインナーライナーを備えていればその他の構造については特に限定されず、種々の態様をとることができる。また、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、大型タイヤ、オフザロード用タイヤ、自動車用タイヤ、二輪車用タイヤ、航空機タイヤ、農業用タイヤなどに好適に適用できる。更に、本発明のタイヤは、空気入りタイヤでもソリッドタイヤでもよく、空気入りタイヤの場合、タイヤ内部には空気、窒素、ヘリウム等が充填されるが、コスト面より空気を充填することが多い。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0090】
(変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成例1)
加圧反応槽に、エチレン含量44モル%、ケン化度99.9%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(190℃、2160g荷重下でのMFR:5.5g/10分)2質量部及びN−メチル−2−ピロリドン8質量部を仕込み、120℃で2時間加熱撹拌して、エチレン−ビニルアルコール共重合体を完全に溶解させた。これにエポキシ化合物(E)としてエポキシプロパン0.4質量部を添加後、160℃で4時間加熱した。加熱終了後、蒸留水100質量部に析出させ、多量の蒸留水で充分にN−メチル−2−ピロリドン及び未反応のエポキシプロパンを洗浄し、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。更に、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、二軸押出機を用いて200℃で溶融し、ペレット化した。なお、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の23℃におけるヤング率は、下記の方法で測定した結果、1300MPaであった。
【0091】
(変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成例2)
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、図5に示すようにスクリュー構成、ベントおよび圧入口を設置した。バレルC1を水冷し、バレルC2〜C3を200℃、バレルC4〜C15を240℃に設定し、スクリュー回転数400rpmで運転した。C1の樹脂フィード口からEVOHを15kg/hrの割合でフィードし、溶融した後、ベント1から水および酸素を除去し、C9の液圧入口からグリシド−ルを2.5kg/hrの割合でフィ−ドすることにより(フィード時の圧力:6MPa)、グリシドール変性EVOHを得た。
【0092】
(変性粘弾性体(無水コハク酸変性SBR)の合成例3)
乾燥し、窒素置換された800ミリリットルの耐圧ガラス容器に、シクロヘキサン300g、1,3−ブタジエン41.25g、スチレン8.75g、ジテトラヒドロフリルプロパン0.38ミリモルを注入し、これにn−ブチルリチウム(BuLi)0.43ミリモルを加えた後、50℃で1.5時間重合を行った。ここに末端変性剤として3−トリエトキシシリルプロピル無水コハク酸0.43ミリモルを加えた後、さらに30分間変性反応を行った。この後、重合系にさらに2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)のイソプロパノール5質量%溶液0.5ミリリットルを加えて反応の停止を行い、さらに常法に従い乾燥することにより無水コハク酸変性SBRを得た。
【0093】
(変性粘弾性体(イソシアネート変性BR)の合成例4)
窒素置換された反応器に、シクロヘキサン2,000g、ブタジエン500g、テトラヒドロフラン10gを仕込んだ後、n−ブチルリチウムを添加し、断熱下30〜90℃で重合反応を行った。重合転化率が100%に達した後、ジフェニルメタンジイソシアネートをリチウム原子に対し2当量加えて反応させた。次いで、2,6−ジターシャリーブチル−P−クレゾールを添加後、シクロヘキサンを加熱除去してイソシアネート変性BRを得た。
【0094】
(イソシアネート変性SBRの合成例5)
窒素置換された内容積5Lの反応器に、シクロヘキサン2000g、1,3−ブタジエン450g、スチレン50g、及びテトラヒドロフラン25gを仕込んだ後、n−ブチルリチウム0.32gを加えて断熱下30〜90℃で重合反応を行なった。
重合転化率が100%に達した後、ジフェニルメタンジイソシアネートをn−ブチルリチウムに対して2当量加え反応させた。更に、老化防止剤としてジ−tert−ブチル−p−クレゾールをゴム100gに対して0.7g添加して、常法にて脱溶・乾燥を行なった。
【0095】
(変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成例6)
エチレン含有量を32モル%にした以外は合成例1と同様にして変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。更に、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、二軸押出機を用いて200℃で溶融し、ペレット化した。
【0096】
(−30℃のヤング率の測定方法)
東洋精機社製二軸押出機によって、下記押出条件で製膜し、厚さ20μmの単層フィルムを作製した。次に該フィルムを用いて、幅15mmの短冊状の試験片を作製し、−36℃、50%RHの条件下で恒温室内に1週間放置した後、株式会社島津製作所製オートグラフ[AG−A500型]を用いて、チャック間隔50mm、引張速度50mm/分の条件で、−30℃、50%RHにおけるS−Sカーブ(応力−歪み曲線)を測定し、S−Sカーブの初期傾きからヤング率を求めた。
【0097】
スクリュー:20mmφ、フルフライト
シリンダー、ダイ温度設定:C1/C2/C3/ダイ=200/200/200/200(℃)
【0098】
(酸素透過量の測定方法)
上記フィルムを、20℃、65%RHで5日間調湿した。得られた調湿済みのフィルムを2枚使用して、モダンコントロール社製MOCON OX−TRAN2/20型を用い、20℃、65%RHの条件下でJIS K7126(等圧法)に準拠して、酸素透過量を測定し、その平均値を求めた。
【0099】
(内圧保持性の評価方法)
後述する方法でタイヤを作製し、−30℃の雰囲気の中、空気圧140kPaで、80km/hの速度に相当する回転ドラム上に加重6kNで押し付けて10,000km走行させた。そして、走行させたタイヤ(試験タイヤ)と未走行タイヤとを6JJ×15のリムに装着した後内圧を240kPaとし、3ヶ月間放置した。3ヶ月後の内圧を測定し、下記式:
内圧保持性=((240−b)/(240−a))×100
[式中、aは試験タイヤの3ヶ月後の内圧、bは下記比較例1記載の未走行タイヤ(通常のゴムインナーライナーを用いた空気入りタイヤ)の3ヶ月後の内圧である]を用いて内圧保持性を評価した。また、比較例1の値を100として他の値を指数化した。
【0100】
(樹脂組成物(D)中の粘弾性体(C)の分散性の評価方法)
サンプルを凍結し、該サンプルをミクロトームにより切片にして、透過電子顕微鏡(TEM)で形態観察し、粘弾性体の平均粒子径が10μm以上のもの又は分散していない状態を「悪」と評価し、10μm以下で分散している状態を「良」と評価した。
【0101】
(亀裂の有無の評価方法)
インナーライナーに生じた亀裂の有無に関しては、ドラム走行後のタイヤのインナーライナー外観を目視観察して、亀裂の有無を評価した。これらの結果を表1〜3に示す。
【0102】
(実施例1〜15及び比較例1〜4のフィルム及び空気入りタイヤの作製)
合成例1及び2で得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体または合成例3で得られた無水コハク酸変性SBRと表中に示す粘弾性体(C)とを二軸押出機で混練し、表1〜3に示す配合処方の樹脂組成物(D)を得た。ここで、樹脂として、比較例4ではナイロン(宇部興産製ウベナイロン5033B)を用い、粘弾性体(C)には、エポキシ変性天然ゴム(E−NR)としてMu−ang Mai Guthrie Pubulic Company Limited社製、EPOXYPRENE 25(ポリマー1)を、無水マレイン酸変性スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)として旭化成製タフテックM1943(ポリマー2)を、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレンとしてエクソンモービルケミカル製のExxpro89−4(ポリマー3)を、変性ポリエチレン(変性EP)として三井化学(株)製、タフマーMP0620(ポリマー4)を、変性共重合ポリオレフィン(変性EB)として三井化学(株)製、タフマーMH7020(ポリマー5)を、未変性共重合ポリオレフィン(未変性EB)としてJSR(株)製、1050S(ポリマー6)を、実施例14で使用した変性オレフィンとしてJSR製、ダイナロン8630P(ポリマー7)を、実施例15で使用した変性オレフィンとしてJSR製、ダイナロン8630P(ポリマー7)とダイナロン4630P(ポリマー8)とをブレンドしたものを、未変性SBRとして旭化成製タフデン2000R(ポリマー9)を、グリシジルアミンとして大日本インキ化学製のEPICLON430(化合物1、テトラグリシジルアミン、DDM)を使用し、無水コハク酸変性SBR、イソシアネート変性BR及びイソシアネート変性SBRとして、それぞれ上記合成例3〜5により合成したものを使用した。また、上記ヤング率の測定方法を用いて樹脂組成物(D)の−30℃におけるヤング率を測定した。更に、粘弾性体の100%モジュラスを、JIS3号ダンベル型試験片を用いてJIS K6251−1993に準拠して測定した。結果を表1〜3に示す。
【0103】
次に、得られた樹脂組成物(D)と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルムである実施例1、2、7〜11、15(熱可塑性ポリウレタン層/樹脂組成物(D)層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各フィルムに使用した各層の厚みを表1〜3に示す。なお、実施例1、2、7〜11、15及び比較例1以外は樹脂組成物(D)の単層フィルムとした。
【0104】
次に、日新ハイボルテージ株式会社製電子線照射装置「生産用キュアトロンEBC200−100」を使用して、加速電圧200kV、照射エネルギー30Mradの条件で実施例1〜15、比較例3のフィルムに電子線照射して架橋処理を施した。実施例1、7については、得られた架橋フィルムの片面に接着剤層(G)として東洋化学研究所製メタロックR30Mを塗布し、厚さが500μmである補助層(F)の内面に貼り付けてインナーライナーを作製した。また、比較例3については、フィルムの片面に接着剤層(G)として東洋化学研究所製メタロックR30Mを塗布し、厚さが500μmである補助層(F)の内面に貼り付けてインナーライナーを作製した。
【0105】
得られたインナーライナーを用いて、図1に示す構造でサイズ:195/65R15の乗用車用空気入りタイヤを常法に従って作製した。使用したフィルムの組成等を表1〜3に示す。
【0106】
なお、前記補助層(F)としては、天然ゴム30質量部及び臭素化ブチルゴム[JSR(株)製,Bromobutyl 2244]70質量部に対して、GPFカーボンブラック[旭カーボン(株)製,#55]60質量部、SUNPAR2280[日本サン石油(株)製]7質量部、ステアリン酸[旭電化工業(株)製]1質量部、NOCCELER DM[大内新興化学工業(株)製]1.3質量部、酸化亜鉛[白水化学工業(株)製]3質量部及び硫黄[軽井沢精錬所製]0.5質量部を配合して調製したゴム組成物を用いた。また、前記補助層(F)に用いたゴム組成物は、300%伸び時における引張応力が6.5MPa、酸素透過量が6.0×10−10cm・cm/cm・sec・cmHgであった。ここで、300%伸び時における引張応力は、JIS K6251−1993に準拠して測定し、酸素透過量は上記の方法により測定した。
【0107】
なお、比較例1の空気入りタイヤは、フィルムを使用しないこと及び前記補助層(F)の厚さを1500μmとしたことを以外は上記方法と同様にして製造した。
【0108】
各樹脂の押出条件は以下の通りである。
各樹脂の押出温度:C1/C2/C3/ダイ=170/170/200/200℃
各樹脂の押出機仕様:
熱可塑性ポリウレタン:25mmφ押出機P25−18AC[大阪精機工作株式会社製]
樹脂組成物(D):20mmφ押出機ラボ機ME型CO−EXT[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様:500mm幅2種3層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
表1〜3から明らかなように、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、走行前及び走行後の内圧保持性が大幅に向上している上、走行後のタイヤに亀裂が発生していないことが分かる。また、実施例のタイヤのゴム組成物層は比較例にくらべて薄く、インナーライナーの重量が軽いため、タイヤの重量を軽量化することができる。実施例1及び7は、粘弾性体(C)が水酸基と親和性の高いイソシアネート基を含むため、樹脂組成物中での粘弾性体の分散性が良く、バリア性の保持とタイヤの耐亀裂性の確保との両立が可能である。また、粘弾性体(C)の−30℃における100%モジュラスが6MPaを超えている比較例3では樹脂組成物(D)の柔軟性が確保できず、タイヤ走行後インナーライナーに亀裂が生じていた。これに対して、実施例4ではスチレンがランダムであるため樹脂組成物(D)の柔軟性を確保できている。従って、本発明のインナーライナーはエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレンビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含み、前記粘弾性体(C)の−30℃における100%モジュラスが6MPa未満であることが好ましい。
【0113】
(実施例16〜26及び比較例5〜6のフィルム及び空気入りタイヤの作製)
合成例1、2及び6で得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体と表中に示す粘弾性体(C)とを二軸押出機で混練し、表4〜6に示す配合処方の樹脂組成物(D)を得た。ここで、粘弾性体(C)には、実施例16、24、25、26では、JSR製、ダイナロン8630P(ポリマー7)とダイナロン4630P(ポリマー8)とをブレンドしたものを、実施例17では、上記合成例5で合成したイソシアネート変性SBRと未変性SBR(ポリマー9、JSR製、#1500)とをブレンドしたものを、実施例18では、エポキシ変性E−NR(Mu−ang Mai Guthrie Pubulic Company Limited社製、EPOXYPRENE 25、ポリマー1)とIR2200(ポリマー10、日本ゼオン製)とをブレンドしたものを、実施例19では、エポキシ変性NR−50(Mu−ang Mai Guthrie Pubulic Company Limited社製、EPOXYPRENE 50、ポリマー11)とIR2200(ポリマー10、日本ゼオン製)とをブレンドしたものを、実施例20では、上記合成例4で合成したイソシアネート変性BRと未変性BR(ポリマー12、JSR製BR01)とをブレンドしたものを、実施例21では、三井化学(株)製、タフマーMH7020(ポリマー5)を、実施例22では、未変性共重合ポリオレフィン(未変性EB、JSR(株)製、1050S、ポリマー6)と変性共重合ポリオレフィン(変性EB、三井化学(株)製、タフマーMH7020、ポリマー5)とをブレンドしたものを、実施例23では、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン(エクソンモービルケミカル製、Exxpro89−4、ポリマー3)とグリシジルアミン(大日本インキ化学製、EPICLON430(テトラグリシジルアミン、DDM)、化合物1)とをブレンドしたものを、比較例5ではエポキシ変性SBS(ダイセル製、ポリマー13)を、比較例6では旭化成製タフテックM1943(ポリマー2)を使用した。また、上記ヤング率の測定方法により樹脂組成物(D)の−30℃におけるヤング率を測定した。更に、粘弾性体の100%モジュラスを、JIS3号ダンベル型試験片を用いてJIS K6251−1993に準拠して測定した。結果を表4〜6に示す。
【0114】
次に、得られた樹脂組成物(D)と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルムである実施例24(熱可塑性ポリウレタン層/樹脂組成物(D)層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各フィルムに使用した各層の厚みを表4〜6に示す。なお、実施例24以外は樹脂組成物(D)の単層フィルムとした。因みに、比較例6では製膜することができなかった。
【0115】
次に、日新ハイボルテージ株式会社製電子線照射装置「生産用キュアトロンEBC200−100」を使用して、加速電圧200kV、照射エネルギー30Mradの条件で実施例16〜26および比較例5のフィルムに電子線照射して架橋処理を施した。実施例16、20、24については、得られた架橋フィルムの片面に接着剤層(G)として東洋化学研究所製メタロックR30Mを塗布し、厚さが500μmである補助層(F)の内面に貼り付けてインナーライナーを作製した。また、実施例17〜19、21〜23、25〜26および比較例5については、フィルムをそのままインナーライナーとした。
【0116】
得られたインナーライナーを用いて、図1に示す構造でサイズ:195/65R15の乗用車用空気入りタイヤを常法に従って作製した。使用したフィルムの組成等を表4〜6に示す。
【0117】
なお、前記補助層(F)としては、上記実施例1、7および比較例3で用いたものと同じゴム組成物を用いた。
【0118】
各樹脂の押出条件は上記実施例1〜15および比較例1〜4と同一である。
【0119】
【表4】

【0120】
【表5】

【0121】
【表6】

【符号の説明】
【0122】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス
5 ベルト
6 インナーライナー
7 ビードコア
8 ベルト補強層
9 樹脂組成物(D)からなる層
10 補助層(F)
11 補助層(F)
12 接着剤層(G)
13 インナーライナー
14 補助層(F)
15 インナーライナー
a ベルト5の存在している領域
b ビード部からベルト端までの領域
c ベルト端からビード部までの領域において、少なくとも30mmの幅に相当する部分の一例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレンビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含み、
前記粘弾性体(C)の−30℃における100%モジュラスが6MPa未満であることを特徴とするフィルム。
【請求項2】
前記粘弾性体(C)が、水酸基と親和性の高い官能基を有する軟質高分子を含んでいることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記粘弾性体(C)が、マレイン酸、無水マレイン酸、イソシアネート、イソチアシアネート、アルコキシシラン、エポキシ、アミン、及びホウ素を含有する官能基を含む化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物で変性されているか、或いは、ホウ素含有基が導入されている軟質高分子を含んでなることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対し、エポキシ化合物(E)1〜50質量部を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を含むことを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
前記エポキシ化合物(E)の分子量が500以下であることを特徴とする請求項4に記載のフィルム。
【請求項7】
前記エポキシ化合物(E)がグリシドール又はエポキシプロパンであることを特徴とする請求項4に記載のフィルム。
【請求項8】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量が25〜50モル%であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項9】
前記樹脂組成物(D)の−30℃におけるヤング率が1500MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項10】
前記樹脂組成物(D)における前記粘弾性体(C)の含有率が10〜70質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項11】
前記粘弾性体(C)の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項12】
前記樹脂組成物(D)からなる層が架橋されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項13】
前記樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項14】
前記樹脂組成物(D)からなる層一層あたりの厚さが500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項15】
前記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更にエラストマーからなる補助層(F)を一層以上備えることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項16】
前記エラストマーが、オレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー又はその水素添加物、或いはウレタン系エラストマーであることを特徴とする請求項15に記載のフィルム。
【請求項17】
前記樹脂組成物(D)からなる層が前記補助層(F)に挟まれていることを特徴とする請求項15記載のフィルム。
【請求項18】
前記樹脂組成物(D)からなる層と、当該層に隣接した補助層(F)との間及び互いに隣接した補助層(F)の間の少なくとも一箇所に、一層以上の接着剤層(G)を備えることを特徴とする請求項15に記載のフィルム。
【請求項19】
前記補助層(F)は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10−9cm・cm/cm・sec・cmHg以下であることを特徴とする請求項15に記載のフィルム。
【請求項20】
前記補助層(F)がブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムを含むことを特徴とする請求項15に記載のフィルム。
【請求項21】
前記補助層(F)がジエン系エラストマーを含むことを特徴とする請求項15に記載のフィルム。
【請求項22】
前記補助層(F)が熱可塑性ウレタン系エラストマーを含むことを特徴とする請求項15に記載のフィルム。
【請求項23】
前記補助層(F)の厚さの合計が10〜2000μmの範囲であることを特徴とする請求項15に記載のフィルム。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれかに記載のフィルムを用いたタイヤ用インナーライナー。
【請求項25】
請求項24に記載のタイヤ用インナーライナーを備えることを特徴とするタイヤ。
【請求項26】
請求項15〜23のいずれかに記載のフィルムを用いたタイヤ用インナーライナーを備えるタイヤであって、
前記補助層(F)は、ベルト端からビード部までの領域において、少なくとも30mmの幅に相当する部分の補助層(F)の厚さの合計が、ベルト下部に対応する部分の該補助層(F)の厚さの合計より0.2mm以上厚いことを特徴とするタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−263653(P2009−263653A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83356(P2009−83356)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】