説明

フィルムのカール矯正方法及び装置並びに積層フィルムの製造方法

【課題】積層フィルムのカールを効率よく矯正する。
【解決手段】第1相転移工程ではカールした状態の積層フィルムのうち外側の支持層10sへ水蒸気56を接触させる。支持層10sのガラス転移温度Tgが下がる。支持層10sでは、ガラス状態のゴム状態への相転移が起こる。第2相転移工程では支持層10sへの水蒸気の供給を停止する。支持層10sのガラス転移温度Tgが上昇する。支持層10sでは、ゴム状態からガラス状態への相転移が起こる。相転移により、当初のカールを矯正しうるカールが生じる。第1相転移工程と第2相転移工程とを連続して行うことにより、当初のカールを矯正することができる。第1相転移工程と並行して、ハードコート層10hを冷却する冷却工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムのカール矯正方法及び装置並びに積層フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムのうちセルロースアシレートフィルム等は、その優れた透明性、柔軟性などの特長を有する。このようなポリマーフィルムの用途は、窓ガラスに貼り付けるための窓貼り用フィルム、タッチパネル用フィルム、ITO基盤用フィルム、メンブレンスイッチ用フィルム、三次元加飾用フィルム、フラットパネルディスプレイ用の光学機能性フィルム等、多岐にわたる。
【0003】
上述したような用途のうち、ポリマーフィルムの表面を手、布、タッチペン等で接触する、又は擦るケースが想定される。かかる場合には、ポリマーフィルムの表面に傷がつくことを防ぐために、ポリマーフィルムよりも硬質なハードコート層をポリマーフィルムの表面に設ける。
【0004】
ハードコート層を表面に有するポリマーフィルムの製造方法の一例を説明する。まず、ポリマーフィルムの表面に、溶剤及び紫外線硬化剤を含む膜(以下、紫外線硬化性膜と称する)を形成する(膜形成工程と称する)。次に、紫外線硬化性膜から溶剤を蒸発させる。第3に、紫外線の照射により、紫外線硬化性膜に含まれる紫外線硬化剤の重合を行う(重合工程と称する)。この重合工程により、紫外線硬化性膜から、紫外線硬化剤の重合体を含む膜(以下、重合体膜と称する)を得ることができる。こうして、ポリマーフィルムからなる支持層と重合体膜からなるハードコート層とを有する積層フィルムを製造することができる。
【0005】
しかしながら、紫外線硬化剤の重合反応により、積層フィルムは、ハードコート層が内側を向くようにカールしてしまう。そこで、重合工程を経た積層フィルムに水蒸気を吹きつける工程(以下、水蒸気接触工程と称する)により、積層フィルムのカールを矯正していた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−195051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、製造された積層フィルムのカールを矯正するためには、積層フィルムに水蒸気接触工程を一定期間行う必要がある。このため、生産効率を向上させるためには、水蒸気接触工程に要する時間を短縮することが必要となる。
【0008】
また、積層フィルムを大量製造する場合、所定の速度で搬送される帯状の支持フィルムに膜形成工程、乾燥工程、重合工程及び水蒸気接触工程を順次行う。そして、支持フィルムの搬送速度が大きくなる(例えば、20m/分以上)につれて、水蒸気接触工程を行う水蒸気接触装置を搬送方向に長くしなければならない。
【0009】
特許文献1には、水蒸気接触工程に要する時間を短縮する方策について記載されていない。このように、特許文献1に記載の方法では、積層フィルムの生産効率の向上と、積層フィルムのカール矯正に供する装置の省スペース化との両立を図ることができない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、フィルムのカール矯正方法及び装置並びに積層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のフィルムのカール矯正方法は、カールした状態のフィルムのうち外側表面に露呈したガラス状態の外層がゴム状態となるまで、前記外側表面よりも高温の蒸気を前記外側表面に接触させる第1相転移工程と、前記ゴム状態の外層がガラス状態となるまで、前記蒸気の接触を停止する第2相転移工程と、前記第1相転移工程と並行して行われ、温度がTf1の前記外側表面の近傍にて単位体積当たりの雰囲気中に含まれる蒸気の量をVaとし、前記単位体積当たりの雰囲気中における前記温度Tf1の前記蒸気の飽和量をVsとするときに、Va/Vsで表される蒸気濃度の減少を抑えるように、前記カールしたフィルムのうち内側表面を冷却する冷却工程とを有することを特徴とする。
【0012】
前記外層をなす物質のガラス転移温度をTgとするときに、前記第1相転移工程における|Tf1−Tg|が小さくなるように前記冷却を行うことが好ましい。また、前記冷却は、前記外層がゴム状態であるときに行うことが好ましい。
【0013】
前記温度Tf1よりも低温の気体を前記内側表面にあてて前記冷却を行っても良いし、前記温度Tf1よりも低温のローラを前記内側表面に接触させて前記冷却を行っても良い。
【0014】
前記フィルムはウェブ状であり、前記フィルムは幅方向にてカールし、前記冷却は前記ウェブの幅方向端部に行うことが好ましい。また、前記フィルムは前記蒸気をなす物質の吸収が可能な材料から形成されることが好ましい。更に、前記蒸気は水蒸気であることが好ましい。
【0015】
本発明の積層フィルムの製造方法は、モノマーからなる膜を前記フィルムに形成する膜形成工程と、前記モノマーの重合により、前記フィルムに重合膜が重なる積層フィルムを得る重合工程と、前記重合工程により前記積層フィルムに生じたカールを矯正するカール矯正工程とを有し、前記カール矯正工程では、上記のフィルムのカール矯正方法を行うことを特徴とする。
【0016】
本発明のフィルムのカール矯正装置は、カールした状態のフィルムのうち外側表面に前記外側表面よりも高温の蒸気を接触させる蒸気接触手段と、前記フィルムのうち内側表面を冷却する冷却手段と、前記蒸気接触手段による前記蒸気の供給の開始及び停止を制御する蒸気接触制御手段と、前記冷却手段による前記冷却の開始及び停止を制御する冷却制御手段とを有し、前記蒸気接触制御手段は、前記外側表面に露呈したガラス状態の外層がゴム状態となるまで前記外側表面へ前記蒸気を供給した後、ゴム状態となった前記外層が再びガラス状態となるまで前記蒸気の供給を停止し、前記冷却制御手段は、前記蒸気が前記外側表面に接触する間、温度がTf1の前記外側表面の近傍にて単位体積当たりの雰囲気中に含まれる蒸気の量をVaとし、前記単位体積当たりの雰囲気中における前記温度Tf1の前記蒸気の飽和量をVsとするときに、Va/Vsで表される蒸気濃度の減少を抑えるように、前記内側表面の冷却を行うことを特徴とする。
【0017】
前記冷却制御手段は、前記外層をなす物質のガラス転移温度をTgとするときに、前記蒸気の接触時の|Tf1−Tg|が小さくなるように、前記内側表面の冷却を行うことが好ましい。また、前記冷却制御手段は、前記外層がゴム状態であるときに、前記内側表面の冷却を開始することが好ましい。
【0018】
前記冷却手段は、温度が前記内側表面よりも低い冷気を前記内側表面にあてても良いし、温度が前記内側表面よりも低い冷却ローラを前記内側表面に接触させても良い。
【0019】
前記フィルムはウェブ状であり、前記フィルムは幅方向にてカールし、前記冷却は前記ウェブの幅方向端部に行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、カールした状態のフィルムのうち外側表面へ蒸気を含む気体を接触させ、前記外側表面に露呈したガラス状態の外層をゴム状態にする第1相転移工程と並行して、内側表面を冷却する冷却工程を行うため、カールの矯正を短時間で行うことができる。したがって、本発明によれば、積層フィルムの生産効率の向上と、積層フィルムのカール矯正に供する装置の省スペース化との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】積層フィルムの概要を示す側面図である。
【図2】積層フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【図3】第1のカール矯正装置の概要を示す側面図である。
【図4】水蒸気供給ユニット及び冷却気体供給ユニットの概要を示す断面図である。
【図5】第1相転移工程及び第2相転移工程により、積層フィルムのカールが矯正される様子を示す説明図である。(a)は第1相転移工程前において、カール状態の積層フィルムの概要を示すものである。(b)は第1相転移工程中における積層フィルムについてのものであり、(c)は第2相転移工程後の積層フィルムについてのものである。
【図6】横軸は時間、縦軸は温度であり、冷却工程を行わずに、第1相転移工程及び第2相転移工程を行ったときの温度Tf1(実線)及び温度Tg(破線)の推移を示すグラフである。
【図7】横軸は時間、縦軸は水蒸気濃度Xであり、第1相転移工程における水蒸気濃度Xの推移を示すグラフである。
【図8】横軸は時間、縦軸は温度であり、第1相転移工程において冷却工程を行った場合の温度Tf1(実線)及び温度Tg(破線)の推移、並びに、冷却工程を行わずに第1相転移工程を行ったときの温度Tf1(二点鎖線)の推移を示すグラフである。
【図9】横軸は時間、縦軸は水蒸気濃度Xであり、第1相転移工程において冷却工程を行った場合の水蒸気濃度X(実線)の推移、及び冷却工程を行わずに第1相転移工程を行ったときの水蒸気濃度X(二点鎖線)の推移を示すグラフである。
【図10】第2のカール矯正装置の概要を示す断面図である。
【図11】オレシワの概要を示す平面図である。
【図12】オレシワの概要を示すXII−XII線断面図である。
【図13】カールの曲率を算出するために必要な、測定フィルムの長さL及び高さHの概要を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
積層フィルム10は、図1に示すように、支持層10sと、支持層10sに重なり、支持層10sよりも硬いハードコート層10hとを有する。積層フィルム10の厚さdは、特に限定されないが、5μm以上120μm以下であることが好ましく、20μm以上100μm以下であることがより好ましい。また、支持層10sの厚さdsとハードコート層10hの厚さdhとの比dh/dsは、例えば、0.04以上0.50以下であることが好ましく、0.10以上0.40以下であることがより好ましい。
【0023】
積層フィルム10は、図2に示す積層フィルム製造設備20にて製造される。積層フィルム製造設備20は、ロール状の支持フィルム(以下、支持フィルムロールと称する)21から帯状の支持フィルム22を送り出す送り出し部23と、支持フィルム22を用いて積層フィルム10をつくる製造ユニット24と、積層フィルム10を巻き芯にロール状に巻き取る巻き取り部25とを有する。
【0024】
送り出し部23と巻き取り部25との間には、製造ユニット24を貫通するように搬送路26が形成される。搬送路26には、送り出し部23から巻き取り部25に向かって複数の搬送ローラ27が並べられる。
【0025】
支持フィルム22の形成材料は、特に限定されないが、ポリマーであることが好ましい。そして、ポリマーとしては、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィン、ラクトン環含有重合体、環状ポリオレフィン、ポリカーボネイト等があげられる。なお、セルロースアシレートの詳細については後述する。また、積層フィルム10が光学用途のものである場合には、支持フィルム22の形成材料として、光透過性を有するものであることが好ましい。
【0026】
製造ユニット24は、支持フィルム22に膜30を形成する膜形成装置31と、膜30を乾燥する膜乾燥装置32と、膜30に所定の紫外線を照射する照射装置33と、紫外線照射によりつくられた積層フィルム10のカールを矯正するカール矯正装置34とが、送り出し部23から巻き取り部25に向って順次設けられる。なお、カール矯正装置34と巻き取り部25との間に、積層フィルム10を乾燥するフィルム乾燥装置38を設けてもよい。
【0027】
膜形成装置31は、塗布液を流出するダイ40を有する。ダイ40は、支持フィルム22の表面に塗布液を塗布する。塗布液の塗布により、支持フィルム22の表面には、塗布液からなる膜30が形成される。塗布液は、紫外線硬化性材料を適当な溶剤に溶解若しくはコロイド状分散して作製される。この際、紫外線硬化性材料の濃度は、用途に応じて適宜選択されるが、一般的には、10質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0028】
紫外線硬化性材料としては、例えば、電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーを用いることが好ましい。電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーの官能基としては、光、電子線、放射線重合性のものが好ましく、中でも光重合性官能基が好ましい。光重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の不飽和の重合性官能基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0029】
溶剤としては、支持フィルム22をなす物質を溶解させない化合物であることが好ましい。また、積層フィルム10における支持層10sとハードコート層10hとの密着性を向上させるために、支持フィルム22をなす物質を膨潤させる化合物であることが好ましい。更に、溶剤としては、紫外線硬化性材料が沈殿を生じることなく、均一に溶解又は分散されるものであれば特に制限はなく、2種類以上の溶剤を併用することもできる。
【0030】
溶剤の好ましい例としては、分散媒体としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。具体的には、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート等)、ケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、乳酸エチル等)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、シクロヘキサン、ハロゲン化炭化水素(例えばメチレンクロライド、メチルクロロホルム等)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン等)、アミド(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン等)、エーテル(例えばジオキサン、テトラハイドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)、エーテルアルコール(例えば1−メトキシ−2−プロパノール、エチルセルソルブ、メチルカルビノール等)、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報段落番号[0020]、特開平11−60807号公報段落番号[0037]等に記載の化合物) が挙げられる。
【0031】
これらの溶剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。好ましい溶剤としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。また、ケトン溶剤(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)を主にした塗布溶剤系も好ましく用いられ、ケトン系溶剤の含有量が硬化性組成物に含まれる全溶剤の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは30質量%以上である。
【0032】
膜乾燥装置32は、膜30に乾燥風43をあてる乾燥風供給機44を有する。照射装置33は、膜30に紫外線を照射する紫外線照射機46を有する。紫外線照射機46は、紫外線を発生する光源を有する。紫外線を発生する光源として、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることが出来る。
【0033】
カール矯正装置34は、積層フィルム10のカールを矯正する。カール矯正装置34の詳細は後述する。フィルム乾燥装置38は、積層フィルム10に乾燥風49をあてる乾燥風供給機48を有する。乾燥風49との接触により、積層フィルム10に含まれる水や溶剤等が蒸発する。
【0034】
(カール矯正装置)
カール矯正装置34は、図3及び図4に示すように、入口50i及び出口50oを有する水蒸気接触ケーシング50を備える。水蒸気接触ケーシング50内には入口50iから出口50oに向かって搬送ローラ27が並べられる。こうして、水蒸気接触ケーシング50内では、入口50iから出口50oに向かって搬送路26が形成される。
【0035】
水蒸気接触ケーシング50内には、水蒸気供給ユニット52と冷却気体供給ユニット53とセンサユニット54とが設けられる。水蒸気供給ユニット52は搬送路26の一方側に設けられ、冷却気体供給ユニット53は搬送路26の他方側に設けられる。センサユニット54は、水蒸気供給ユニット52よりも上流側から下流側にかけて、搬送路26に沿って並べられる。
【0036】
(水蒸気供給ユニット)
水蒸気供給ユニット52は、水蒸気56を送り出す送出口52aと水蒸気56を吸引する吸引口52bとを有する。水蒸気供給ユニット52は、搬送路26を搬送される積層フィルム10の支持層10sと送出口52aが対向するように配される。また、水蒸気供給ユニット52は、隣り合う搬送ローラ27の間に配されることが好ましい。吸引口52bは、送出口52aよりも搬送方向の上流側及び下流側に設けられることが好ましい。なお、吸引口52bを、送出口52aよりも搬送方向の上流側及び下流側のいずれか一方に設けても良い。
【0037】
(冷却気体供給ユニット)
冷却気体供給ユニット53は、冷却気体60を送り出す送出口53aを有する。冷却気体供給ユニット53は、搬送路26を搬送される積層フィルム10のハードコート層10hと送出口53aが対向するように配される。なお、冷却気体供給ユニット53に、冷却気体60を吸引する吸引口を設けても良い。
【0038】
水蒸気供給ユニット52は、送出口52aが支持層10sの幅方向両端部と対向するように設けられることが好ましい。また、冷却気体供給ユニット53は、送出口53aがハードコート層10hの幅方向両端部と対向するように設けられることが好ましい。
【0039】
センサユニット54は、支持層10sの温度Tf1を検知する温度センサと、支持層10s近傍の雰囲気における絶対湿度、すなわち水蒸気量Vaを検知する湿度センサとを有する。温度センサとして、例えば、赤外線式温度センサなどを用いることができる。湿度センサとして、例えば、赤外線式湿度センサなどを用いることができる。
【0040】
制御部65は、センサユニット54から支持層10sの温度Tf1と水蒸気量Vaとを読み取る。制御部65は、温度Tf1と水蒸気量Vaに基づいて、水蒸気供給ユニット52による水蒸気65の供給の開始及び停止の制御、又は、冷却気体供給ユニット53による冷却気体60の供給の開始及び停止の制御を行う。更に、制御部65は、水蒸気供給ユニット52が供給する水蒸気56の温度等、又は、冷却気体供給ユニット53が供給する冷却気体60の温度等を適宜調節する。
【0041】
(水蒸気)
水蒸気56は、飽和蒸気及び過熱蒸気のいずれであってもよい。水の沸点をBPとするときに、水蒸気56の温度TBは、例えば、BP℃以上(BP+20)℃以下であることが好ましい。また、水蒸気56の温度TBは、水蒸気56との接触により低下した支持層10sをなす物質のガラス転移温度よりもαだけ高いことが好ましい。ここで、αは60℃以下である。αが60℃を超えてしまうと、ガラス状態の支持層10sをゴム状態にさせるために十分な量の水分を支持層10s内に保持することが困難となる結果、ガラス状態からゴム状態への相転移が困難になるためである。
【0042】
(冷却気体)
冷却気体60は、空気であっても良いし、不活性ガスであってもよい。冷却気体60の温度TAは、温度Tf1よりも低く、水蒸気56の温度TBよりも低い。また、(また、TB−TA)の値は、0℃より大きく50℃以下であることが好ましい。
【0043】
本発明の作用について説明する。積層フィルム製造設備20では、図2に示すように、送り出し部23は、支持フィルム22を搬送路26へ送り出す。支持フィルム22は、製造ユニット24により積層フィルム10となって、巻き取り部25へ送られる。巻き取り部25は、積層フィルム10を巻き芯に巻き取る。
【0044】
次に、製造ユニット24における詳細を説明する。膜形成装置31は、支持フィルム22の表面に膜30を形成する。膜乾燥装置32は膜30に乾燥風43をあてて、膜30から溶剤を蒸発させる。照射装置33は、膜30に紫外線を照射する。紫外線の照射により、紫外線硬化性材料の重合が行われる。紫外線硬化性材料の重合により、膜30はハードコート層10h(図1参照)となる。こうして、支持フィルム22からなる支持層10s(図1参照)と、ハードコート層10h(図1参照)とを有する積層フィルム10が製造される。
【0045】
ここで、紫外線硬化性材料の重合に起因して体積が減少する結果、積層フィルム10には第1の内部応力が発生する。そして、第1の内部応力の発生により、ハードコート層10hが内側を向くようにカールしてしまう(図5(a)参照)。積層フィルム10に生じたカールを矯正するため、図3に示す水蒸気接触ケーシング50では、第1相転移工程71と第2相転移工程72とを連続して行う(図6参照)。
【0046】
(第1相転移工程)
時間t1から時間t2にかけて行われる第1相転移工程71では、水蒸気供給ユニット52は、制御部65の制御の下、カール状態の積層フィルム10の支持層10sへ水蒸気56をあてる(図3及び図4参照)。水蒸気56との接触により、支持層10sの含水率が上昇する結果、図6に示すように、支持層10sのガラス転移温度Tg(破線)が低下する。そして、ガラス転移温度Tg(破線)が支持層10sの温度Tf1(実線)を下回ると、支持層10sではガラス状態からゴム状態への相転移(以下、第1相転移と称する)が起こる(図5(b)参照)。なお、第1相転移は、支持層10s全体で起こっても良いし、支持層10sのうち、表層部分のみで起こっても良い。また、時間t2は、第1相転移が起きた時点としても良いし、第1相転移の後としても良い。
【0047】
(第2相転移工程)
時間t2から時間t3にかけて行われる第2相転移工程72では、水蒸気供給ユニット52は、制御部65の制御の下、支持層10sへの水蒸気56の供給を停止する。これにより、支持層10sにおける含水率が低下する結果、図6に示すように、支持層10sのガラス転移温度Tg(破線)が上昇する。そして、ガラス転移温度Tg(破線)が支持層10sの温度Tf1(実線)を上回ると、支持層10sではゴム状態からガラス状態への相転移(以下、第2相転移と称する)が起こる。
【0048】
第2相転移の際には、支持層10sの収縮が起こる。支持層10sの収縮の結果、支持層10sに第2の内部応力が発生する。第2の内部応力は当初のカールを相殺し得る。このように、第1相転移が起こるまで支持層10sへ水蒸気56の接触を行う第1相転移工程71と、第2相転移が起こるまで、支持層10sへ水蒸気56の接触を停止する第2相転移工程72により、第2の内部応力を発生させて、当初のカールを矯正することができる(図5(c)参照)。
【0049】
ここで、第2の内部応力を発生させるためには、第1相転移工程71において、支持層10sのガラス転移温度Tgが支持層10sの温度Tf1よりも低くなり、ガラス状態の支持層10sがゴム状態となるまで、水蒸気56を支持層10sに吸収させる必要がある。更に、単位時間当たりの支持層10sへの水蒸気56の吸収量KRは、支持層10sにおける水蒸気濃度Xが高くなるに従い多くなり、水蒸気濃度Xが低くなるに従いほど小さくなる。
【0050】
ここで、支持層10sにおける水蒸気濃度Xは、温度がTf1である支持層10s近傍の単位体積当たりの雰囲気に含まれる水蒸気量Vaを、温度Tf1における単位体積当たりの雰囲気の飽和水蒸気量Vsで除したものであり、制御部65により算出される。支持層10sにおける水蒸気濃度Xの算出方法は、例えば、次のように行う。まず、制御部65は、センサユニット54から支持層10sの温度Tf1と、支持層10s近傍の雰囲気に含まれる水蒸気量Vaとを読み取る。次に、制御部65は、温度Tf1における飽和水蒸気量Vsを算出する。最後に、制御部65は、水蒸気量Vaを飽和水蒸気量Vsで除することにより、支持層10sにおける水蒸気濃度Xを求めることができる。
【0051】
第1相転移工程71では、所定の量の水蒸気56を支持層10sに吸収させるために、支持層10sに水蒸気56を接触させる。そして、水蒸気56の温度は支持層10sの温度Tf1よりも高い。このため、第1相転移工程71では、水蒸気56の持つ熱エネルギーが積層フィルム10に蓄積される結果、支持層10sの温度Tf1は上昇してしまう。一方、支持層10s近傍の雰囲気における水蒸気量Vaは略一定である。このように、第1相転移工程71では時間の経過と共に水蒸気濃度Xが低下する結果(図7参照)、第1相転移工程71における水蒸気56の吸収量KRが小さくなってしまう。
【0052】
(冷却工程)
本発明では、図8に示すように、第1相転移工程71と並行して冷却工程73を行う。冷却工程73では、冷却気体供給ユニット53が冷却気体60をハードコート層10hにあてて、ハードコート層10hを冷却する。そして、この冷却工程73により、温度Tf1(実線)を、冷却工程73を行わなかった場合の温度Tf1(二点鎖線)よりも低いものにすることができる。更に、冷却工程73により、水蒸気濃度X(実線)を、冷却工程73を行わなかった場合の水蒸気濃度X(二点鎖線)よりも高いものにすることができる(図9参照)。このように、冷却工程73によれば、支持層10sにおける水蒸気濃度Xの低下を抑えることができる。
【0053】
したがって、本発明によれば、第1相転移工程71に起因する水蒸気濃度Xの低下を抑えるように、ハードコート層10hを冷却する冷却工程73を行うため、水蒸気56の吸収効率の低下を抑えることが可能となる。このように、本発明によれば、短時間で第1相転移工程71を行い、短時間でカールの矯正を行うことができる。
【0054】
冷却工程73の開始時間txは、水蒸気の吸収効率の向上を目的とする場合には、時間t1以後であって時間t2以前であれば、特に限定されないが、支持層10sがゴム状態となっている間(図8参照)であることがより好ましい。なお、第1相転移工程71における温度Tf1の急激な上昇を抑えることを目的として、冷却工程73を第1相転移工程71よりも先に開始してもよい。一方、冷却工程73の終了時間は、時間t2と同時であってもよいし、時間t2より前であっても良い。
【0055】
また、ハードコート層10hの冷却は、水蒸気の接触時、すなわち第1相転移工程71における|Tf1−Tg|の値が小さくなるように行うことが好ましい。ガラス状態の支持層10sに対して冷却工程73を行う場合には、ガラス状態からゴム状態への相転移が遅れない程度に行うことが好ましい。ゴム状態の支持層10sに対して冷却工程73を行う場合には、温度Tf1がガラス転移温度Tgを下回らないように、ハードコート層10hを冷却すればよく、温度Tf1がガラス転移温度Tgに近づくように、ハードコート層10hを冷却することが好ましい。冷却工程73により、ゴム状態の支持層10sの温度Tf1がガラス転移温度Tgを下回ると、支持層10sがゴム状態を維持できない。この結果、十分な大きさの第2の内部応力を発生させることが困難となる。したがって、支持層10sへ水蒸気56を接触させている間は、ゴム状態の支持層10sがガラス状態とならない程度に、ハードコート層10hを冷却することが、エネルギー利用効率およびカール矯正能力の点で好ましい。更に、ハードコート層10hの冷却は、結露が生じない程度に行うことが好ましい。例えば、冷却気体60の温度と水蒸気54の温度との差は、50℃以内であることが好ましい。
【0056】
冷却工程73において、水蒸気濃度Xの値は0.8以上4.4以下であることが好ましく、2.5以上4.0以下であることがより好ましい。
【0057】
なお、上記実施形態では、冷却工程73を第1相転移工程71と並行して行ったが、本発明はこれに限られず、後冷却工程を加えても良い。後冷却工程は、第2相転移工程と並行して行われ、収縮の規模を大きくするために、ハードコート層10hを冷却する。この後冷却工程により、第2の内部応力をより大きく発生させることができる。
【0058】
上記実施形態では、支持層10sの幅方向両端部に水蒸気56をあて、ハードコート層10hの幅方向両端部に冷却気体60をあてたが、本発明はこれに限られない。例えば、支持層10sの幅方向全域にわたり水蒸気56をあててもよい。この場合には、冷却気体60をあてる部分は、ハードコート層10hのうち、幅方向両端部のみでもよいし、幅方向全域にわたっていてもよい。
【0059】
なお、少なくとも、支持層10sの幅方向両端部に水蒸気56をあて、ハードコート層10hの幅方向両端部に冷却気体60をあてることが好ましい。積層フィルム10のうち少なくとも幅方向両端部においてカールの矯正が行われていれば、ケーシング等に設けられたスリット状の開口を積層フィルム10が通過する場合、ケーシング等に接触せずに積層フィルム10を搬送することができるためである。
【0060】
上記実施形態では、冷却工程73において、支持層10sの冷却のために、冷却気体供給ユニット53を用いて支持層10sに冷却気体60をあてたが、本発明はこれに限られず、冷却気体供給ユニット53に代わりに冷却ローラを用いて、支持層10sを冷却してもよい。以下、冷却ローラを用いた冷却工程を行う場合の水蒸気接触ケーシングについて説明するが、上記実施形態と同一の装置、部品などについては同一の符号を付し、その詳細の説明は省略し、上記実施形態と異なる部分を説明する。
【0061】
図10に示すように、水蒸気接触ケーシング50内には冷却ロール80が配される。冷却ロール80は、搬送路26の幅方向両端に配される。冷却ロール80には、ローラ温度調節装置が設けられる。ローラ温度調節装置は、伝熱媒体(水やオイル等)の流通可能なジャケットと、制御部65の制御の下、伝熱媒体の温度を調節する温度調節機と、ジャケット及び温度調節部の間で伝熱媒体を循環させる循環機とを備えることが好ましい。
【0062】
冷却ロール80は搬送路26の幅方向両端に配されるため、積層フィルム10が搬送路26を搬送されると、冷却ロール80は積層フィルム10のうち支持層10sの幅方向両端部を支持する。冷却ロール80の支持により、支持層10sの幅方向両端部を冷却することができる。
【0063】
冷却ロール80の温度TRは、温度Tf1よりも低く、水蒸気56の温度TBよりも低い。また、(TB−TR)の値は、0℃より大きく50℃以下であることが好ましい。
【0064】
上記実施形態では、搬送路26の幅方向両端のみに冷却ロール80を配したが、幅方向全域にわたって冷却ロール80を配しても良い。幅方向の全域において支持可能な冷却ロール80を用いて、幅方向の全域において支持層10sの冷却を行うことができる。
【0065】
なお、冷却ロール80とともに、冷却気体供給ユニット53を併用しても良い。
【0066】
冷却工程73における支持層10sの冷却方法は、冷却ローラを用いて支持層10sを冷却する接触冷却型と、冷却気体を用いて支持層10sを冷却する非接触冷却型とのいずれを用いることができる。しかしながら、接触冷却型の場合には、支持層10sとの接触により、積層フィルム10が変形する、又は積層フィルム10にオレシワが発生する弊害が考えられる。このような変形やオレシワ故障を考慮すると、冷却工程73における支持層10sの冷却方法としては、非接触冷却型のほうが好ましい。
【0067】
図11及び図12に示すように、オレシワ205は、積層フィルム10の表面から突出し、積層フィルム10の搬送方向Aに向かって伸びるように形成される。このようなオレシワ205は、高さHが1mm程度となる場合もある。このようなオレシワ205が発生した部分は、製品として用いることができない。
【0068】
オレシワの発生プロセスは、以下の通り推測される。
【0069】
(オレシワの発生プロセスその1)
支持層10sのうち搬送ローラ27と接触している部分は、搬送ローラ27の周面との摩擦力により巾方向への膨張することが困難である。このため、当該部分にて膨張が起こると当該部分は厚み方向へ膨張する結果、積層フィルム10が搬送ローラ27の周面に対して起立するように折れ曲がってしまう。こうして、オレシワ205が積層フィルム10に発生してしまう。
【0070】
(オレシワの発生プロセスその2)
支持層10sの温度よりも低い温度(例えば、20〜30℃低い)の搬送ローラ27を用いて積層フィルム10を搬送した場合、搬送ローラ27と接触した支持層10sでは収縮が起こる。搬送ローラ27との接触に起因する支持層10sの収縮により、積層フィルム10のうち搬送ローラよりも搬送方向上流側の部分、及び搬送方向下流側の部分とでは、幅が異なる。この幅の差に起因して、内部応力が発生する結果、オレシワ205が積層フィルム10に発生してしまう。
【0071】
(オレシワの発生プロセスその3)
支持層10sの一部において、ゴム状態からガラス状態への相転移が起こると、相転移に起因する支持層10sの収縮が起こる。そして、収縮している状態の支持層10sが搬送ローラ27と接触すると、同様にして、オレシワ205が積層フィルム10に発生してしまう。
【0072】
上記実施形態では、積層フィルムのカールの矯正のために水蒸気を用いたが、本発明は水蒸気に限られず、蒸気であれば良い。この蒸気としては、支持フィルム22を軟化させ得る物質の蒸気であり、より詳しくは、支持フィルム22を構成する物質のガラス転移温度Tgを低下させ得るものの蒸気である。当該物質としては、塩化メチレン、水、有機溶剤、水及び有機溶剤の混合物、または二以上の有機溶剤の混合物のいずれでもよい。有機溶剤としては、ジクロロメタン、酢酸メチル、アセトンなどがあげられる。
【0073】
上記実施形態では、紫外線硬化性材料と溶剤とを含む塗布液を用いたが、本発明はこれに限られず、紫外線硬化性材料と溶剤とを含む塗布液の代わりに、電子線硬化性材料と溶剤とを含む塗布液を用いてもよい。この場合には、紫外線の照射に代えて、電子線の照射を行えばよい。
【0074】
上記実施形態では、2層構造の積層フィルム10に生じたカールを矯正したが、本発明はこれに限られない。フィルムが蒸気をなす物質を吸収できる場合には、層の数、又は層構造を有するか否かに関わらず、フィルムに生じたカールを矯正することもできる。
【0075】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0076】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0077】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0078】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶剤において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0079】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0080】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【実施例】
【0081】
(ハードコート層用塗布液の調製)
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌した後、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターによる濾過を行い、ハードコート層用塗布液を得た。
メチルエチルケトン 900 質量部
シクロヘキサノン 100 質量部
部分カプロラクトン変性の多官能アクリレート(DPCA?20、日本化薬(株)製)
750 質量部
シリカゾル(MIBK?ST、日産化学工業(株)製) 200 質量部
光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
50 質量部
【0082】
透明支持体としてのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(TD80UF、富士フイルム(株)製、屈折率1.48、厚み80μm)上に、グラビアコーターを用いてハードコート層用塗布液を塗布した。塗布により形成された塗布膜を100℃で乾燥した後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm、照射量150mJ/cmの紫外線を照射して塗布膜を硬化させ、TACフィルム上に厚さ9μmのハードコート層を形成した。こうして、TACフィルム上にハードコート層が設けられた積層フィルムを得た。積層フィルムは、ハードコート層が内側になるようにカールしていた。このときの積層フィルムのカールの曲率C0は、20.9m−1であった。
【0083】
積層フィルムのカールの曲率は次のようにして測定した。積層フィルムから長手方向の長さが5mmのスリット状のフィルムを切り出した。更に、積層フィルムの幅方向へ150mm間隔でスリット状のフィルムを切断し、複数の測定フィルム100(縦の長さ5mm、横の長さ150mm)を得た。図13に示すように、平らな台102の上に、ハードコート層が下側を向くように測定フィルム100を配した。横方向における測定フィルム100の両端を結ぶ線分の長さLと、台102から測定フィルム100のうち最も高い位置100tまでの高さHとを測定した。そして、長さLと高さHとから、積層フィルムの幅方向における測定フィルム100のカールの曲率を算出した。
【0084】
(実験1)
曲率C0のカールを有する積層フィルムに対し、予熱工程と第1相転移工程と第2相転移工程とを順次行った。また、冷却工程は行なっていない。予熱工程では、予熱風を積層フィルムにあて、積層フィルムの温度を76℃にした。第1相転移工程では、水蒸気接触ケーシング50内にて、積層フィルムのうちTACフィルム側に、水蒸気を含む気体(温度T=110℃、絶対湿度AH=550g/m)を接触させた。第1相転移工程に要した時間は1.8秒であった。第1相転移工程により、TACフィルムのガラス転移温度は80℃まで低下した。なお、ガラス転移温度は、セイコーインスツルメント社製の示差走査熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分の条件で行い、測定環境を水蒸気飽和雰囲気として測定した。また、第1相転移工程の完了時における積層フィルムの温度Tfxは、105℃であった。
【0085】
(実験2〜3)
第1相転移工程と並行して冷却工程を行ったこと以外は、実験1と同様にして、積層フィルムのカールを矯正した。冷却工程では、積層フィルムのうちハードコート層側へ冷却気体をあてた。冷却工程に用いた冷却気体の温度Ta、及び第1相転移工程の完了時における積層フィルムの温度Tfxは、表1に示すとおりである。
【0086】
【表1】

【0087】
実験1〜3での、第1相転移工程及び第2相転移工程を経た積層フィルムについて、前述の方法により、カールの曲率C1を測定した。カールの曲率C1の測定値は、表1に示すとおりである。
【0088】
冷却工程を第1相転移工程と並行して行った実験2〜3では、冷却工程を行っていない実験1に対してカール曲率が小さい、つまりカール矯正能力が向上していることが確認できる。また、第1相転移工程の完了時における積層フィルムの温度Tfxに示される通り、冷却工程を行う意義は、水蒸気との接触による積層フィルムの温度上昇を抑える点にあるといえる。このように、第1相転移工程と並行して冷却工程を行うことにより、水蒸気濃度Xの低下を抑え、積層フィルムへの水蒸気の吸収が促進された結果、当初のカールを相殺し得る第2の内部応力が増大したものと考えられる。
【符号の説明】
【0089】
10 積層フィルム
10s 支持層
10h ハードコート層
26 搬送路
27 搬送ローラ
34 カール矯正装置
50 水蒸気接触ケーシング
52 水蒸気供給ユニット
53 冷却気体供給ユニット
56 水蒸気
60 冷却気体
71 第1相転移工程
72 第2相転移工程
73 冷却工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カールした状態のフィルムのうち外側表面に露呈したガラス状態の外層がゴム状態となるまで、前記外側表面よりも高温の蒸気を前記外側表面に接触させる第1相転移工程と、
前記ゴム状態の外層がガラス状態となるまで、前記蒸気の接触を停止する第2相転移工程と、
前記第1相転移工程と並行して行われ、温度がTf1の前記外側表面の近傍にて単位体積当たりの雰囲気中に含まれる蒸気の量をVaとし、前記単位体積当たりの雰囲気中における前記温度Tf1の前記蒸気の飽和量をVsとするときに、Va/Vsで表される蒸気濃度の減少を抑えるように、前記カールしたフィルムのうち内側表面を冷却する冷却工程とを有することを特徴とするフィルムのカール矯正方法。
【請求項2】
前記外層をなす物質のガラス転移温度をTgとするときに、前記第1相転移工程における|Tf1−Tg|が小さくなるように前記冷却を行うことを特徴とする請求項1記載のフィルムのカール矯正方法。
【請求項3】
前記冷却は、前記外層がゴム状態であるときに行うことを特徴とする請求項1または2記載のフィルムのカール矯正方法。
【請求項4】
前記温度Tf1よりも低温の気体を前記内側表面にあてて前記冷却を行うことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正方法。
【請求項5】
前記温度Tf1よりも低温のローラを前記内側表面に接触させて前記冷却を行うことを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正方法。
【請求項6】
前記フィルムはウェブ状であり、
前記フィルムは幅方向にてカールし、
前記冷却は前記ウェブの幅方向端部に行うことを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正方法。
【請求項7】
前記フィルムは前記蒸気をなす物質の吸収が可能な材料から形成されることを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正方法。
【請求項8】
前記蒸気は水蒸気であることを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正方法。
【請求項9】
モノマーからなる膜を前記フィルムに形成する膜形成工程と、
前記モノマーの重合により、前記フィルムに重合膜が重なる積層フィルムを得る重合工程と、
前記重合工程により前記積層フィルムに生じたカールを矯正するカール矯正工程とを有し、
前記カール矯正工程では、請求項1ないし8のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正方法を行うことを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項10】
カールした状態のフィルムのうち外側表面に前記外側表面よりも高温の蒸気を接触させる蒸気接触手段と、
前記フィルムのうち内側表面を冷却する冷却手段と、
前記蒸気接触手段による前記蒸気の供給の開始及び停止を制御する蒸気接触制御手段と、
前記冷却手段による前記冷却の開始及び停止を制御する冷却制御手段とを有し、
前記蒸気接触制御手段は、前記外側表面に露呈したガラス状態の外層がゴム状態となるまで前記外側表面へ前記蒸気を供給した後、ゴム状態となった前記外層が再びガラス状態となるまで前記蒸気の供給を停止し、
前記冷却制御手段は、前記蒸気が前記外側表面に接触する間、温度がTf1の前記外側表面の近傍にて単位体積当たりの雰囲気中に含まれる蒸気の量をVaとし、前記単位体積当たりの雰囲気中における前記温度Tf1の前記蒸気の飽和量をVsとするときに、Va/Vsで表される蒸気濃度の減少を抑えるように、前記内側表面の冷却を行うことを特徴とするフィルムのカール矯正装置。
【請求項11】
前記冷却制御手段は、前記外層をなす物質のガラス転移温度をTgとするときに、前記蒸気の接触時の|Tf1−Tg|が小さくなるように、前記内側表面の冷却を行うことを特徴とする請求項10記載のフィルムのカール矯正装置。
【請求項12】
前記冷却制御手段は、前記外層がゴム状態であるときに、前記内側表面の冷却を開始することを特徴とする請求項10または11記載のフィルムのカール矯正装置。
【請求項13】
前記冷却手段は、温度が前記内側表面よりも低い冷気を前記内側表面にあてることを特徴とする請求項10ないし12のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正装置。
【請求項14】
前記冷却手段は、温度が前記内側表面よりも低い冷却ローラを前記内側表面に接触させることを特徴とする請求項10ないし13のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正装置。
【請求項15】
前記フィルムはウェブ状であり、
前記フィルムは幅方向にてカールし、
前記冷却は前記ウェブの幅方向端部に行うことを特徴とする請求項10ないし14のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−143969(P2012−143969A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4191(P2011−4191)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】