フィルムコンデンサ
【課題】フィルムの絶縁抵抗の低下防止対策。
【解決手段】フィルムコンデンサ(10)は、コンデンサケース(11)と、コンデンサケース(11)内に収容され、フィルム(17)によって構成されるコンデンサ素子(15)と、コンデンサケース(11)内に充填されてコンデンサ素子(15)の周りを覆うエポキシ樹脂組成物(12)とを備えている。コンデンサ素子(15)とエポキシ樹脂組成物(12)との間に設けられ、エポキシ樹脂組成物(12)からコンデンサ素子(15)への侵入物を阻止するシリコン被膜(25)を備えている。
【解決手段】フィルムコンデンサ(10)は、コンデンサケース(11)と、コンデンサケース(11)内に収容され、フィルム(17)によって構成されるコンデンサ素子(15)と、コンデンサケース(11)内に充填されてコンデンサ素子(15)の周りを覆うエポキシ樹脂組成物(12)とを備えている。コンデンサ素子(15)とエポキシ樹脂組成物(12)との間に設けられ、エポキシ樹脂組成物(12)からコンデンサ素子(15)への侵入物を阻止するシリコン被膜(25)を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサに関し、特に、フィルムの絶縁抵抗の低下防止対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁材料からなるフィルムによってコンデンサ素子が構成されるフィルムコンデンサが知られている。このようなフィルムコンデンサでは、ケース内に収容したコンデンサ素子を樹脂封止することでコンデンサ素子が吸湿劣化するのを防止している。
【0003】
上記樹脂封止の方法としては、コンデンサ素子を収容したケース内にエポキシ樹脂やウレタン樹脂等の硬化性樹脂を流し込んで硬化させる方法や、液状ディップコート材や粉体塗装材で外装絶縁皮膜をコンデンサ素子の表面に形成する方法が主に用いられている。
【0004】
また、コンデンサ素子を構成するフィルム材料としては、比誘電率の高いポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の材質が用いられている。この高誘電率のフィルムを作製する方法としては、フィルムの材料を溶媒に溶かして塗布し、乾燥させることで薄膜のフィルムを形成する方法(いわゆる塗工法、又はキャスト工法)が知られている(特許文献1参照)。上記塗工法によるフィルムの製造では、ポリマー材料や高誘電率材料を溶剤に溶解させて塗料にしているため、塗工後に溶剤を乾燥させて除去する工程が必須となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−104911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フィルム材料に含まれる溶剤は乾燥によって揮発するが、フィルムから溶剤の抜けた部分(溶剤が揮発した部分)には微小な空隙が発生する。一方、上述したエポキシ樹脂やウレタン樹脂には、その内部に揮発性の溶剤や反応生成物等が含まれている。これらの物質は、電気抵抗が低いため、樹脂封止する際にコンデンサ素子の空隙に侵入すると、フィルムの絶縁抵抗が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、フィルムの絶縁抵抗の低下を防止しつつ、コンデンサ素子を封止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、コンデンサケース(11)と、該コンデンサケース(11)内に収容され、フィルム部材(17)によって構成されるコンデンサ素子(15)と、上記コンデンサケース(11)内に充填されて上記コンデンサ素子(15)の周りを覆う封止部材(12,13)とを備えたフィルムコンデンサであって、上記コンデンサ素子(15)と封止部材(12,13)との間に設けられ、樹脂材料からなると共に、封止部材(12,13)からコンデンサ素子(15)への侵入物を阻止する阻止膜(25,26)を備えている。
【0009】
上記第1の発明では、コンデンサケース(11)内にはフィルム部材(17)によって構成されるコンデンサ素子(15)を収容し、コンデンサケース(11)内へは封止部材(12,13)が充填されている。このため、コンデンサ素子(15)の周りは封止部材(12,13)に覆われている。封止部材(12,13)がコンデンサ素子(15)の周りを覆うことで、空気中の水分等がコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを防止している。
【0010】
そして、コンデンサ素子(15)と封止部材(12,13)との間に樹脂部材からなる阻止膜(25,26)を設けている。この阻止膜(25,26)は、侵入物(例えば封止部材に含まれる揮発性物質や反応生成物)がコンデンサ素子(15)の内部へ入り込むのを阻止している。コンデンサ素子(15)の内部では、フィルム部材(17)の内部の空隙に侵入物(例えば封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物)が入り込むことがないため、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下しない。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記コンデンサ素子(15)は、フィルム部材(17)の表面に電極膜(18)が形成された金属化フィルム部材(16)が巻回され、且つ巻回された金属化フィルム部材(16)の幅方向の両端のそれぞれに電極部材(19,19)が接続されて構成され、上記阻止膜(25,26)は、少なくとも上記各電極部材(19,19)と上記封止部材(12,13)との間に設けられている。
【0012】
上記第2の発明では、フィルム部材(17)の表面に電極膜(18)を形成した金属化フィルム(16)を巻回し、さらに巻回された金属化フィルム部材(16)の幅方向の両端のぞれぞれに電極部材(19,19)を接続することでコンデンサ素子(15)を形成している。第2の発明では、上記電極部材(19,19)と封止部材(12,13)との間に阻止膜(25,26)を設けている。この阻止膜(25,26)は、侵入物(例えば封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物)が電極部材(19,19)を介してコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを阻止している。コンデンサ素子(15)の内部では、フィルム部材(17)の内部の空隙に侵入物(例えば封止部材に含まれる揮発性物質や反応生成物)が入り込むことがないため、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下しない。
【0013】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記阻止膜(25,26)は、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質、又は反応生成物質がコンデンサ素子(15)へ侵入するのを阻止するよう構成されている。
【0014】
上記第3の発明では、阻止膜(25,26)では、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物がコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを阻止している。これにより、コンデンサ素子(15)の内部では、フィルム部材(17)の内部の空隙に揮発性物質や反応生成物が入り込むことがないため、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下しない。
【0015】
第4の発明は、上記第1〜第3の発明において、上記阻止膜(25,26)は、シリコン樹脂、又は合成樹脂で構成されている。
【0016】
上記第4の発明では、阻止膜(25,26)をシリコン樹脂、又は合成樹脂で構成している。このシリコン樹脂、又は合成樹脂で構成された阻止膜(25,26)は、揮発性物質や反応生成物がコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを阻止する。コンデンサ素子(15)の内部では、フィルム部材(17)の内部の空隙に揮発性物質や反応生成物が入り込むことがないため、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下しない。
【発明の効果】
【0017】
上記第1の発明によれば、コンデンサ素子(15)と封止部材(12,13)との間に阻止膜(25,26)を設けたため、封止部材(12,13)からコンデンサ素子(15)の内部へ侵入物(例えば封止部材に含まれる揮発性物質や反応生成物)が入り込むのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム部材(17)の内部の空隙に上記侵入物が入り込むのを防止することができる。この結果、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0018】
上記第2の発明によれば、電極部材(19,19)と封止部材(12,13)との間に阻止膜(25,26)を設けたため、封止部材(12,13)から電極部材(19,19)を介してコンデンサ素子(15)の内部へ侵入物(例えば封止部材に含まれる揮発性物質や反応生成物)が入り込むのを阻止することができる。つまり、コンデンサ素子(15)の全面を覆うことなく、コンデンサ素子(15)の内部に上記侵入物が入り込むのを確実に防止することができる。これにより、阻止膜(25,26)に用いる樹脂の使用量を削減することができる。
【0019】
上記第3の発明によれば、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物の通過を阻止する樹脂によって被膜を形成したため、封止部材(12,13)からコンデンサ素子(15)の内部へ揮発性物質や反応生成物が入り込むのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム部材(17)の内部の空隙に上記侵入物が入り込むのを防止することができる。この結果、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0020】
上記第4の発明によれば、阻止膜(25,26)をシリコン樹脂、又は合成樹脂で構成したため、揮発性物質や反応生成物が阻止膜(25,26)を通過するのを確実に防止することができる。つまり、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物質がコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム部材(17)の内部の空隙に上記侵入物が入り込むのを防止することができる。この結果、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1、及び3に係るフィルムコンデンサを示す概略の断面図である。
【図2】実施形態1〜4に係る巻回した金属化フィルムを示す概略の斜視図である。
【図3】実施形態1、及び比較例に係るフィルムにおける時間と絶縁抵抗との関係を示すグラフである。
【図4】実施形態2、及び4に係るフィルムコンデンサを示す概略の断面図である。
【図5】実施形態3に係るフィルムにおける時間と絶縁抵抗との関係を示すグラフである。
【図6】実施形態3の変形例2に係るフィルムにおける時間と絶縁抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】実施形態4に係るフィルムにおける時間と絶縁抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】実施形態1〜4の試験効果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
≪発明の実施形態1≫
本発明の実施形態1について図面に基づいて説明する。図1に本実施形態1に係るフィルムコンデンサ(10)を示す。このフィルムコンデンサ(10)は、コンデンサケース(11)内にシリコン被膜(25)に覆われたコンデンサ素子(15)を収容し、このコンデンサ素子(15)、及びシリコン被膜(25)の周りにエポキシ樹脂組成物(12)が充填されて構成されている。フィルムコンデンサ(10)は、例えばインバータ回路とコンバータ回路との間の平滑コンデンサ等として用いられている。
【0024】
上記コンデンサケース(11)は略長方体形状の箱体に形成されている。コンデンサケース(11)の内部にはシリコン被膜(25)に覆われたコンデンサ素子(15)が収容されると共に、コンデンサ素子(15)とシリコン被膜(25)の周りを覆うようにエポキシ樹脂組成物(12)が充填されている。
【0025】
上記エポキシ樹脂組成物(12)は、エポキシ基を有する熱硬化性のエポキシ樹脂(商品名:EX-664/H390、サンユレック(株)製)と硬化部材とからなり、本発明に係る封止部材を構成している。エポキシ樹脂組成物(12)は、空気に含まれる水分の通過を阻止するという機能を有している。つまり、コンデンサ素子(15)の周りをエポキシ樹脂組成物(12)で覆うことによってコンデンサケース(11)の外部空気に含まれる水分等によってコンデンサ素子(15)が吸湿するのを防止している。
【0026】
また、エポキシ樹脂組成物(12)は、エポキシ樹脂と、硬化部材とを組み合わせることでコンデンサケース(11)内で硬化させている。硬化部材は、硬化剤と硬化促進剤とからなるものである。この硬化剤は、本発明に係る揮発性物質を構成し、硬化促進剤は、本発明に係る反応生成物を構成している。本実施形態1では、硬化剤として酸無水物が使用されている。また、硬化促進剤として、例えば第3級アミン類、イミダゾール類、イミダゾリン類、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、及び有機酸金属塩等が使用されている。硬化促進剤は、単独として用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0027】
上記コンデンサ素子(15)は、図2に示すように、絶縁性を有する帯状のフィルム(17)の両面に金属膜(18)を蒸着させて形成した金属化フィルム(16)を上下2枚重ねにして、これらを円筒体状に巻回すると共に、巻回した金属化フィルム(16,16)の幅方向の両端にメタリコン(19,19)が接続されて形成されている。このとき、2枚の金属化フィルム(16,16)は、互いを左右方向に1mm程度、ずらした状態で重ねられている。
【0028】
上記各フィルム(17)は、無機酸化物を添加したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いて3〜10μm程度の膜厚に形成されており、本発明に係るフィルム部材を構成している。各フィルム(11)の両側の表面には、アルミニウム(Al)などの金属膜(18)が蒸着コーティングされている。この金属膜(18)は50Å〜400Å程度の膜厚に形成されている。
【0029】
上記メタリコン(19)は上記金属膜(18)と外部に延びる電極である銅線(20)との間を電気的に接続するものであって、本発明に係る電極部材を構成している。このメタリコン(19,19)は、巻回した金属化フィルム(16,16)の端部に亜鉛(Zn)等の金属を溶融噴射することで形成されている。各金属化フィルム(11)は、その幅方向の両端が吹き付けられたメタリコン(19,19)の内部に埋没することでメタリコン(19,19)によって固定支持されている。
【0030】
上記銅線(20)は、φ1.0mmの軟銅線に構成されている。銅線(20)はコンデンサケース(11)の外部まで延びてインバータ回路等とフィルムコンデンサ(10)とを接続する接続端子となるものである。銅線(20)は半田付けによってメタリコン(19,19)に対して取り付けられている。
【0031】
上記シリコン被膜(25)は、一液性加熱硬化型のシリコン樹脂材1(商品名:X-32-1964、信越化学工業(株)製)によって形成された薄膜であって、本発明に係る阻止膜を構成している。このシリコン樹脂材1には、上記エポキシ樹脂組成物(12)に含まれる硬化部材(硬化剤及び硬化促進剤)は、含まれていない。また、シリコン被膜(25)は、酸無水物や硬化促進剤の通過を防止する機能を有している。
【0032】
上記シリコン被膜(25)は、コンデンサ素子(15)の表面の全面を覆って形成されている。つまり、コンデンサケース(11)内において、コンデンサ素子(15)とエポキシ樹脂組成物(12)との間にはシリコン被膜(25)が介在している。
【0033】
本実施形態1のフィルムコンデンサ(10)では、エポキシ樹脂組成物(12)の内部に含まれる硬化部材(硬化剤である酸無水物や硬化促進剤)が揮発しても、シリコン被膜(25)がこれらの硬化部材の通過を阻止するため、これらの物質がコンデンサ素子(15)の内部に侵入するのを防止することができる。これにより、図3及び図8に示すように、フィルム(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0034】
−フィルムコンデンサ(10)の作製方法−
上記フィルムコンデンサ(10)の作製方法について具体的に説明する。
【0035】
フィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてフィルム(17)を作製する。フィルム(17)の成膜では、無機酸化物を添加したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を基材にコーティングして乾燥させ、基材から剥離することでフィルム(17)を得る。尚、無機酸化物を添加することでフィルム(17)の誘電率を高めている。このフィルム(17)に金属膜(18)を蒸着させて金属化フィルム(16)を形成する。そして、金属化フィルム(16)を2枚重ねにしたものを巻回し、巻回した金属化フィルム(16)の両端に亜鉛(Zn)等の金属を溶融噴射してメタリコン(19,19)を形成した。そして、メタリコン(19,19)に端子である銅線(20,20)を半田付けしてコンデンサ素子(15)を作製した。
【0036】
次に、コンデンサ素子(15)をシリコン樹脂材1に浸し、その表面の全面にシリコン被膜(25)を形成させ、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。
【0037】
その後、シリコン被膜(25)が形成されたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にエポキシ樹脂組成物(12)を流し込み、100℃の温度環境下で約2時間加熱し、エポキシ樹脂組成物(12)を硬化させる。
【0038】
−実施形態1の効果−
本実施形態1によれば、コンデンサ素子(15)とエポキシ樹脂組成物(12)との間にシリコン被膜(25)を設けたため、エポキシ樹脂組成物(12)に含まれる硬化剤である酸無水物や硬化促進剤がシリコン被膜(25)を通過し、コンデンサ素子(15)の内部へ入り込むのを阻止することができる。これらにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム(17)の内部の空隙に上記硬化剤である酸無水物や硬化促進剤が入り込むのを防止することができる。この結果、フィルム(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0039】
〈実施形態1の比較例〉
本実施形態1に対する比較例について説明する。
【0040】
本比較例に係るフィルムコンデンサでは、上記実施形態1のフィルムコンデンサ(10)と比較してコンデンサ素子の表面にシリコン被膜(25)を形成していないことが異なっている。
【0041】
本比較例におけるフィルムコンデンサの作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子を作製する。この際、巻回した金属化フィルムの両端のメタリコンに端子である銅線を半田付けしてコンデンサ素子を作製した。
【0042】
その後、コンデンサ素子をコンデンサケース内に収容する。そして、コンデンサケースにエポキシ樹脂組成物を流し込み、100℃の温度環境下で約2時間加熱し、エポキシ樹脂組成物を硬化させる。
【0043】
本比較例のフィルムコンデンサでは、エポキシ樹脂組成物の内部に含まれる硬化剤である酸無水物や硬化促進剤が揮発してコンデンサ素子の内部に侵入し、フィルムの空隙に入り込む。これにより、図3、及び図8に示すように、フィルムの絶縁抵抗が低下する。
【0044】
図8に示すように、上記実施形態1に係るフィルムコンデンサ(10)では、シリコン被膜(25)によってフィルム(17)の絶縁抵抗が低下しない
〈実施形態1の変形例〉
上記実施形態1の変形例では、上記実施形態1のシリコン被膜(25)を構成するシリコン樹脂材1を異なるシリコン樹脂材2(商品名:KE-1884、信越化学工業(株)製)によって形成している。図8に示すように、本変形例に係るフィルムコンデンサ(10)では、シリコン被膜(25)によってフィルム(17)の絶縁抵抗が低下しない。その他の構成、作用・効果は実施形態1と同様である。
【0045】
≪発明の実施形態2≫
次に、本発明に実施形態2について図面に基づいて詳細に説明する。図4に示すように、本実施形態2に係るフィルムコンデンサ(10)では、実施形態1に係るフィルムコンデンサ(10)に代えてシリコン被膜(25)を異なる位置に形成したものである。
【0046】
具体的に、本実施形態2に係るフィルムコンデンサ(10)では、図2に示すように、巻回した金属化フィルム(16)に、その長手方向(左右方向)の幅よりもやや長い幅の保護フィルム(22)が巻き付けられている。この保護フィルム(22)は、エポキシ樹脂組成物(12)とコンデンサ素子(15)とを仕切るものであり、エポキシ樹脂組成物(12)に含まれる硬化部材の通過を阻止する機能はない。そして、保護フィルム(22)とメタリコン(19,19)とで囲まれる部分には、シリコン被膜(25)が形成されている。これにより、エポキシ樹脂組成物(12)に含まれる硬化部材がメタリコン(19,19)を通過してコンデンサ素子(15)の内部に侵入するのを防止している。これにより、図8に示すように、フィルム(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0047】
本実施形態2に係るフィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子(15)を作製する。この際、巻回した金属化フィルム(16)の両端のメタリコン(19,19)に接続端子である銅線(20,20)を半田付けして取り付けている。
【0048】
次に、コンデンサ素子(15)の長手方向(左右方向)の幅よりも長い保護フィルム(22)をコンデンサ素子(15)に巻き付ける。そして、保護フィルム(22)と左端のメタリコン(19)とで囲まれる部分(コンデンサ素子(15)の左端部分)に、シリコン樹脂材1(商品名:X-32-1964、信越化学工業(株)製)を注入してシリコン被膜(25)を形成し、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。また、保護フィルム(22)と右端のメタリコン(19)とで囲まれる部分(コンデンサ素子(15)の右端部分)に、上記シリコン樹脂材1を注入してシリコン被膜(25)を形成し、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。尚、シリコン樹脂材2(商品名:KE-1884、信越化学工業(株)製)によってシリコン被膜(25)を構成してもよい。
【0049】
その後、左右両端のメタリコン(19,19)がシリコン被膜(25)に覆われたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にエポキシ樹脂(商品名:EX-664/H390、サンユレック(株)製)、硬化剤である酸無水物、及び硬化促進剤からなるエポキシ樹脂組成物(12)を流し込み、100℃の温度環境下で約2時間加熱し、エポキシ樹脂組成物(12)を硬化させる。
【0050】
本実施形態2によれば、メタリコン(19)とエポキシ樹脂組成物(12)との間にシリコン被膜(25)を設けたため、エポキシ樹脂組成物(12)からメタリコン(19,19)を介してコンデンサ素子(15)の内部へ硬化部材が入り込むのを阻止することができる。これにより、シリコン被膜(25)がコンデンサ素子(15)の全面を覆うことがないため、シリコン被膜(25)の形成に用いるシリコン樹脂材1の使用量を低減することができる。その他の構成、作用・効果は実施形態1と同様である。
【0051】
≪発明の実施形態3≫
次に、本発明の実施形態3について図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態3に係るフィルムコンデンサ(10)では、実施形態1に係るフィルムコンデンサ(10)が封止部材としてエポキシ樹脂組成物(12)を用いたのに代えてウレタン樹脂組成物(13)を用いている。ウレタン樹脂組成物(13)は、ウレタン樹脂(商品名:SU-1000A/B、サンユレック(株)製)と硬化部材とで構成されている。ウレタン樹脂組成物(13)は、ウレタン樹脂に硬化部材と組み合わせることでコンデンサケース(11)内で硬化させている。硬化部材は、硬化剤と硬化促進剤とからなり、硬化剤は、本発明に係る揮発性物質を構成し、硬化促進剤は反応生成物を構成している。
【0052】
本実施形態3に係るフィルムコンデンサ(10)は、シリコン樹脂材1(商品名:X-32-1964、信越化学工業(株)製)からなるシリコン被膜(25)がコンデンサ素子(15)の表面の全面を覆って形成されている。つまり、コンデンサケース(11)内において、コンデンサ素子(15)とウレタン樹脂組成物(13)との間にはシリコン被膜(25)が介在している。
【0053】
本実施形態3に係るフィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子(15)を作製する。この際、巻回した金属化フィルム(16)の幅方向の両端のメタリコン(19,19)に接続端子である銅線(20,20)を半田付けして取り付けている。
【0054】
次に、コンデンサ素子(15)をシリコン樹脂材1に浸し、その表面の全面にシリコン被膜(25)を形成させ、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。
【0055】
その後、シリコン被膜(25)が形成されたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にウレタン樹脂組成物(13)を流し込み、常温で一日間放置してウレタン樹脂組成物(13)を硬化させる。
【0056】
図5に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)をコンデンサケース(11)に充填しても、充填の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗は低下していない。
【0057】
本実施形態3によれば、ウレタン樹脂組成物(13)の内部に含まれる硬化部材が揮発しても、シリコン被膜(25)が硬化部材の通過を阻止するため、これらの物質がコンデンサ素子(15)の内部に侵入するのを防止することができる。これにより、図5及び図8に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)の封止の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗の低下を防止することができる。その他の構成、作用・効果は実施形態1と同様である。
【0058】
〈実施形態3の比較例〉
本実施形態3に対する比較例について説明する。
【0059】
本比較例に係るフィルムコンデンサでは、上記実施形態3のフィルムコンデンサ(10)と比較してコンデンサ素子の表面にシリコン被膜(25)を形成していないことが異なっている。
【0060】
本比較例におけるフィルムコンデンサの作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子を作製する。この際、巻回した金属化フィルムの両端のメタリコンに端子である銅線を半田付けして取り付ける。
【0061】
その後、コンデンサ素子をコンデンサケース内に収容する。そして、コンデンサケースにウレタン樹脂(商品名:SU-1000A/B、サンユレック(株)製)、硬化剤及び硬化促進剤からなるウレタン樹脂組成物を流し込み、常温で一日間放置してウレタン樹脂組成物を硬化させる。
【0062】
比較例のフィルムコンデンサでは、ウレタン樹脂組成物の内部に含まれる硬化部材が揮発してコンデンサ素子の内部に侵入し、フィルムの空隙に入り込む。これにより、図3及び図8に示すように、フィルムの絶縁抵抗が低下する。
【0063】
〈実施形態3の変形例1〉
上記実施形態3の変形例1では、図1に示すように、上記シリコン被膜(25)を構成するシリコン樹脂材1を異なるシリコン樹脂材2(商品名:KE-1884、信越化学工業(株)製)によって形成している。本変形例1に係るフィルムコンデンサ(10)では、シリコン被膜(25)によってフィルム(17)の絶縁抵抗が低下しない。その他の構成、作用・効果は実施形態3と同様である。
【0064】
〈実施形態3の変形例2〉
上記実施形態3の変形例2では、図1に示すように、本発明に係る阻止膜をシリコン被膜(25)に代えてワックス被膜(26)によって形成している。ワックス被膜(26)は、本発明に係る合成樹脂である石油系パラフィンワックス(商品名:ワックスレックス2480、エクソンモービル製)によって形成されている。
【0065】
ワックス被膜(26)は、コンデンサ素子(15)の表面の全面を覆って形成されている。つまり、コンデンサケース(11)内において、コンデンサ素子(15)とウレタン樹脂組成物(13)との間にはワックス被膜(26)が介在している。
【0066】
−フィルムコンデンサ(10)の作製方法−
上記フィルムコンデンサ(10)の作製方法について具体的に説明する。
【0067】
フィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてフィルム(17)を作製する。フィルム(17)の成膜では、無機酸化物を添加したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を基材にコーティングして乾燥させ、基材から剥離することでフィルム(17)を得る。尚、無機酸化物を添加することでフィルム(17)の誘電率を高めている。このフィルム(17)に金属膜(18)を蒸着させて金属化フィルム(16)を形成する。そして、金属化フィルム(16)を2枚重ねにしたものを巻回し、巻回した金属化フィルム(16)の両端に亜鉛(Zn)等の金属を溶融噴射してメタリコン(19,19)を形成した。そして、メタリコン(19,19)に接続端子である銅線(20,20)を半田付けして接続してコンデンサ素子(15)を作製した。
【0068】
次に、100℃で加熱して液状となった石油系パラフィンワックスにコンデンサ素子(15)を浸し、その表面の全面にワックス被膜(26)を付着させ、常温で硬化させる。
【0069】
その後、ワックス被膜(26)が形成されたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にウレタン樹脂組成物(13)を流し込み、常温で一日間放置してウレタン樹脂組成物(13)を硬化させる。
【0070】
図6に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)をコンデンサケース(11)に充填しても、充填の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗は低下していない。
【0071】
本変形例2によれば、ウレタン樹脂組成物(13)に含まれる硬化部材がワックス被膜(26)を通過し、コンデンサ素子(15)の内部へ入り込むのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム(17)の内部の空隙に硬化部材が入り込むのを防止することができる。この結果、図6及び図8に示すように、フィルム(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。その他の構成、作用・効果は実施形態3と同様である。
【0072】
≪発明の実施形態4≫
次に、本発明に実施形態4について図面に基づいて詳細に説明する。図4に示すように、本実施形態4に係るフィルムコンデンサ(10)では、実施形態3に係るフィルムコンデンサ(10)に代えてシリコン被膜(25)を異なる位置に形成したものである。
【0073】
具体的に、本実施形態4に係るフィルムコンデンサ(10)では、巻回した金属化フィルム(16)に、その長手方向(左右方向)の幅よりもやや長い幅の保護フィルム(22)が巻き付けられている。この保護フィルム(22)は、ウレタン樹脂組成物(13)とコンデンサ素子(15)とを仕切るものであり、ウレタン樹脂組成物(13)に含まれる硬化部材の通過を阻止する機能はない。そして、保護フィルム(22)とメタリコン(19,19)とで囲まれる部分には、シリコン被膜(25)が形成されている。これにより、ウレタン樹脂組成物(13)に含まれる硬化部材がメタリコン(19,19)を通過してコンデンサ素子(15)の内部に侵入するのを防止している。
【0074】
本実施形態4に係るフィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子(15)を作製する。この際、巻回した金属化フィルム(16)の両端のメタリコン(19,19)に接続端子である銅線(20,20)を半田付けして取り付けている。
【0075】
次に、コンデンサ素子(15)の長手方向(左右方向)の幅よりも長い保護フィルム(22)をコンデンサ素子(15)に巻き付ける。そして、保護フィルム(22)と左端のメタリコン(19)とで囲まれる部分(コンデンサ素子(15)の左端部分)に、シリコン樹脂材1(商品名:X-32-1964、信越化学工業(株)製)を注入してシリコン被膜(25)を形成させ、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。また、保護フィルム(22)と右端のメタリコン(19)とで囲まれる部分(コンデンサ素子(15)の右端部分)に、上記シリコン樹脂材1を注入してシリコン被膜(25)を形成させ、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。尚、シリコン樹脂材2(商品名:KE-1884、信越化学工業(株)製)によってシリコン被膜(25)を構成してもよい。
【0076】
その後、左右両端のメタリコン(19,19)がシリコン被膜(25)に覆われたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にウレタン樹脂(商品名:SU-1000A/B、サンユレック(株)製)、硬化剤及び硬化促進剤からなるウレタン樹脂組成物(13)を流し込み、常温で一日間放置してウレタン樹脂組成物(13)を硬化させる。
【0077】
図7に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)をコンデンサケース(11)に充填しても、充填の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗は低下していない。
【0078】
本実施形態4によれば、メタリコン(19)とウレタン樹脂組成物(13)との間にシリコン被膜(25)を設けたため、ウレタン樹脂組成物(13)からメタリコン(19,19)を介してコンデンサ素子(15)の内部へ硬化部材が入り込むのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)の全面を覆うことがないため、シリコン被膜(25)の形成に用いるシリコン樹脂材1の使用量を削減することができる。また、図7及び図8に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)の封止の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗の低下を防止することができる。その他の構成、作用・効果は実施形態3と同様である。
【0079】
〈その他の実施形態〉
本発明は、上記実施形態1〜4について、以下のような構成としてもよい。
【0080】
本実施形態1〜4では、本発明に係る阻止膜を構成する材料としてシリコン樹脂や合成樹脂を用いたが、本発明は、これらの樹脂に限定されるものではない。また、図1及び図4に示すように、上記実施形態1、2、及び4において、阻止膜を石油系パワフィンワックスで構成するようにしてもよい。
【0081】
尚、以上の実施形態1〜4は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明は、フィルムコンデンサについて有用である。
【符号の説明】
【0083】
11 コンデンサケース
12 エポキシ樹脂組成物
13 ウレタン樹脂組成物
15 コンデンサ素子
16 金属化フィルム
17 フィルム
19 メタリコン
25 シリコン被膜
26 ワックス被膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサに関し、特に、フィルムの絶縁抵抗の低下防止対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁材料からなるフィルムによってコンデンサ素子が構成されるフィルムコンデンサが知られている。このようなフィルムコンデンサでは、ケース内に収容したコンデンサ素子を樹脂封止することでコンデンサ素子が吸湿劣化するのを防止している。
【0003】
上記樹脂封止の方法としては、コンデンサ素子を収容したケース内にエポキシ樹脂やウレタン樹脂等の硬化性樹脂を流し込んで硬化させる方法や、液状ディップコート材や粉体塗装材で外装絶縁皮膜をコンデンサ素子の表面に形成する方法が主に用いられている。
【0004】
また、コンデンサ素子を構成するフィルム材料としては、比誘電率の高いポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の材質が用いられている。この高誘電率のフィルムを作製する方法としては、フィルムの材料を溶媒に溶かして塗布し、乾燥させることで薄膜のフィルムを形成する方法(いわゆる塗工法、又はキャスト工法)が知られている(特許文献1参照)。上記塗工法によるフィルムの製造では、ポリマー材料や高誘電率材料を溶剤に溶解させて塗料にしているため、塗工後に溶剤を乾燥させて除去する工程が必須となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−104911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フィルム材料に含まれる溶剤は乾燥によって揮発するが、フィルムから溶剤の抜けた部分(溶剤が揮発した部分)には微小な空隙が発生する。一方、上述したエポキシ樹脂やウレタン樹脂には、その内部に揮発性の溶剤や反応生成物等が含まれている。これらの物質は、電気抵抗が低いため、樹脂封止する際にコンデンサ素子の空隙に侵入すると、フィルムの絶縁抵抗が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、フィルムの絶縁抵抗の低下を防止しつつ、コンデンサ素子を封止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、コンデンサケース(11)と、該コンデンサケース(11)内に収容され、フィルム部材(17)によって構成されるコンデンサ素子(15)と、上記コンデンサケース(11)内に充填されて上記コンデンサ素子(15)の周りを覆う封止部材(12,13)とを備えたフィルムコンデンサであって、上記コンデンサ素子(15)と封止部材(12,13)との間に設けられ、樹脂材料からなると共に、封止部材(12,13)からコンデンサ素子(15)への侵入物を阻止する阻止膜(25,26)を備えている。
【0009】
上記第1の発明では、コンデンサケース(11)内にはフィルム部材(17)によって構成されるコンデンサ素子(15)を収容し、コンデンサケース(11)内へは封止部材(12,13)が充填されている。このため、コンデンサ素子(15)の周りは封止部材(12,13)に覆われている。封止部材(12,13)がコンデンサ素子(15)の周りを覆うことで、空気中の水分等がコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを防止している。
【0010】
そして、コンデンサ素子(15)と封止部材(12,13)との間に樹脂部材からなる阻止膜(25,26)を設けている。この阻止膜(25,26)は、侵入物(例えば封止部材に含まれる揮発性物質や反応生成物)がコンデンサ素子(15)の内部へ入り込むのを阻止している。コンデンサ素子(15)の内部では、フィルム部材(17)の内部の空隙に侵入物(例えば封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物)が入り込むことがないため、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下しない。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記コンデンサ素子(15)は、フィルム部材(17)の表面に電極膜(18)が形成された金属化フィルム部材(16)が巻回され、且つ巻回された金属化フィルム部材(16)の幅方向の両端のそれぞれに電極部材(19,19)が接続されて構成され、上記阻止膜(25,26)は、少なくとも上記各電極部材(19,19)と上記封止部材(12,13)との間に設けられている。
【0012】
上記第2の発明では、フィルム部材(17)の表面に電極膜(18)を形成した金属化フィルム(16)を巻回し、さらに巻回された金属化フィルム部材(16)の幅方向の両端のぞれぞれに電極部材(19,19)を接続することでコンデンサ素子(15)を形成している。第2の発明では、上記電極部材(19,19)と封止部材(12,13)との間に阻止膜(25,26)を設けている。この阻止膜(25,26)は、侵入物(例えば封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物)が電極部材(19,19)を介してコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを阻止している。コンデンサ素子(15)の内部では、フィルム部材(17)の内部の空隙に侵入物(例えば封止部材に含まれる揮発性物質や反応生成物)が入り込むことがないため、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下しない。
【0013】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記阻止膜(25,26)は、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質、又は反応生成物質がコンデンサ素子(15)へ侵入するのを阻止するよう構成されている。
【0014】
上記第3の発明では、阻止膜(25,26)では、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物がコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを阻止している。これにより、コンデンサ素子(15)の内部では、フィルム部材(17)の内部の空隙に揮発性物質や反応生成物が入り込むことがないため、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下しない。
【0015】
第4の発明は、上記第1〜第3の発明において、上記阻止膜(25,26)は、シリコン樹脂、又は合成樹脂で構成されている。
【0016】
上記第4の発明では、阻止膜(25,26)をシリコン樹脂、又は合成樹脂で構成している。このシリコン樹脂、又は合成樹脂で構成された阻止膜(25,26)は、揮発性物質や反応生成物がコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを阻止する。コンデンサ素子(15)の内部では、フィルム部材(17)の内部の空隙に揮発性物質や反応生成物が入り込むことがないため、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下しない。
【発明の効果】
【0017】
上記第1の発明によれば、コンデンサ素子(15)と封止部材(12,13)との間に阻止膜(25,26)を設けたため、封止部材(12,13)からコンデンサ素子(15)の内部へ侵入物(例えば封止部材に含まれる揮発性物質や反応生成物)が入り込むのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム部材(17)の内部の空隙に上記侵入物が入り込むのを防止することができる。この結果、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0018】
上記第2の発明によれば、電極部材(19,19)と封止部材(12,13)との間に阻止膜(25,26)を設けたため、封止部材(12,13)から電極部材(19,19)を介してコンデンサ素子(15)の内部へ侵入物(例えば封止部材に含まれる揮発性物質や反応生成物)が入り込むのを阻止することができる。つまり、コンデンサ素子(15)の全面を覆うことなく、コンデンサ素子(15)の内部に上記侵入物が入り込むのを確実に防止することができる。これにより、阻止膜(25,26)に用いる樹脂の使用量を削減することができる。
【0019】
上記第3の発明によれば、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物の通過を阻止する樹脂によって被膜を形成したため、封止部材(12,13)からコンデンサ素子(15)の内部へ揮発性物質や反応生成物が入り込むのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム部材(17)の内部の空隙に上記侵入物が入り込むのを防止することができる。この結果、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0020】
上記第4の発明によれば、阻止膜(25,26)をシリコン樹脂、又は合成樹脂で構成したため、揮発性物質や反応生成物が阻止膜(25,26)を通過するのを確実に防止することができる。つまり、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質や反応生成物質がコンデンサ素子(15)の内部へ侵入するのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム部材(17)の内部の空隙に上記侵入物が入り込むのを防止することができる。この結果、フィルム部材(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1、及び3に係るフィルムコンデンサを示す概略の断面図である。
【図2】実施形態1〜4に係る巻回した金属化フィルムを示す概略の斜視図である。
【図3】実施形態1、及び比較例に係るフィルムにおける時間と絶縁抵抗との関係を示すグラフである。
【図4】実施形態2、及び4に係るフィルムコンデンサを示す概略の断面図である。
【図5】実施形態3に係るフィルムにおける時間と絶縁抵抗との関係を示すグラフである。
【図6】実施形態3の変形例2に係るフィルムにおける時間と絶縁抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】実施形態4に係るフィルムにおける時間と絶縁抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】実施形態1〜4の試験効果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
≪発明の実施形態1≫
本発明の実施形態1について図面に基づいて説明する。図1に本実施形態1に係るフィルムコンデンサ(10)を示す。このフィルムコンデンサ(10)は、コンデンサケース(11)内にシリコン被膜(25)に覆われたコンデンサ素子(15)を収容し、このコンデンサ素子(15)、及びシリコン被膜(25)の周りにエポキシ樹脂組成物(12)が充填されて構成されている。フィルムコンデンサ(10)は、例えばインバータ回路とコンバータ回路との間の平滑コンデンサ等として用いられている。
【0024】
上記コンデンサケース(11)は略長方体形状の箱体に形成されている。コンデンサケース(11)の内部にはシリコン被膜(25)に覆われたコンデンサ素子(15)が収容されると共に、コンデンサ素子(15)とシリコン被膜(25)の周りを覆うようにエポキシ樹脂組成物(12)が充填されている。
【0025】
上記エポキシ樹脂組成物(12)は、エポキシ基を有する熱硬化性のエポキシ樹脂(商品名:EX-664/H390、サンユレック(株)製)と硬化部材とからなり、本発明に係る封止部材を構成している。エポキシ樹脂組成物(12)は、空気に含まれる水分の通過を阻止するという機能を有している。つまり、コンデンサ素子(15)の周りをエポキシ樹脂組成物(12)で覆うことによってコンデンサケース(11)の外部空気に含まれる水分等によってコンデンサ素子(15)が吸湿するのを防止している。
【0026】
また、エポキシ樹脂組成物(12)は、エポキシ樹脂と、硬化部材とを組み合わせることでコンデンサケース(11)内で硬化させている。硬化部材は、硬化剤と硬化促進剤とからなるものである。この硬化剤は、本発明に係る揮発性物質を構成し、硬化促進剤は、本発明に係る反応生成物を構成している。本実施形態1では、硬化剤として酸無水物が使用されている。また、硬化促進剤として、例えば第3級アミン類、イミダゾール類、イミダゾリン類、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、及び有機酸金属塩等が使用されている。硬化促進剤は、単独として用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0027】
上記コンデンサ素子(15)は、図2に示すように、絶縁性を有する帯状のフィルム(17)の両面に金属膜(18)を蒸着させて形成した金属化フィルム(16)を上下2枚重ねにして、これらを円筒体状に巻回すると共に、巻回した金属化フィルム(16,16)の幅方向の両端にメタリコン(19,19)が接続されて形成されている。このとき、2枚の金属化フィルム(16,16)は、互いを左右方向に1mm程度、ずらした状態で重ねられている。
【0028】
上記各フィルム(17)は、無機酸化物を添加したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いて3〜10μm程度の膜厚に形成されており、本発明に係るフィルム部材を構成している。各フィルム(11)の両側の表面には、アルミニウム(Al)などの金属膜(18)が蒸着コーティングされている。この金属膜(18)は50Å〜400Å程度の膜厚に形成されている。
【0029】
上記メタリコン(19)は上記金属膜(18)と外部に延びる電極である銅線(20)との間を電気的に接続するものであって、本発明に係る電極部材を構成している。このメタリコン(19,19)は、巻回した金属化フィルム(16,16)の端部に亜鉛(Zn)等の金属を溶融噴射することで形成されている。各金属化フィルム(11)は、その幅方向の両端が吹き付けられたメタリコン(19,19)の内部に埋没することでメタリコン(19,19)によって固定支持されている。
【0030】
上記銅線(20)は、φ1.0mmの軟銅線に構成されている。銅線(20)はコンデンサケース(11)の外部まで延びてインバータ回路等とフィルムコンデンサ(10)とを接続する接続端子となるものである。銅線(20)は半田付けによってメタリコン(19,19)に対して取り付けられている。
【0031】
上記シリコン被膜(25)は、一液性加熱硬化型のシリコン樹脂材1(商品名:X-32-1964、信越化学工業(株)製)によって形成された薄膜であって、本発明に係る阻止膜を構成している。このシリコン樹脂材1には、上記エポキシ樹脂組成物(12)に含まれる硬化部材(硬化剤及び硬化促進剤)は、含まれていない。また、シリコン被膜(25)は、酸無水物や硬化促進剤の通過を防止する機能を有している。
【0032】
上記シリコン被膜(25)は、コンデンサ素子(15)の表面の全面を覆って形成されている。つまり、コンデンサケース(11)内において、コンデンサ素子(15)とエポキシ樹脂組成物(12)との間にはシリコン被膜(25)が介在している。
【0033】
本実施形態1のフィルムコンデンサ(10)では、エポキシ樹脂組成物(12)の内部に含まれる硬化部材(硬化剤である酸無水物や硬化促進剤)が揮発しても、シリコン被膜(25)がこれらの硬化部材の通過を阻止するため、これらの物質がコンデンサ素子(15)の内部に侵入するのを防止することができる。これにより、図3及び図8に示すように、フィルム(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0034】
−フィルムコンデンサ(10)の作製方法−
上記フィルムコンデンサ(10)の作製方法について具体的に説明する。
【0035】
フィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてフィルム(17)を作製する。フィルム(17)の成膜では、無機酸化物を添加したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を基材にコーティングして乾燥させ、基材から剥離することでフィルム(17)を得る。尚、無機酸化物を添加することでフィルム(17)の誘電率を高めている。このフィルム(17)に金属膜(18)を蒸着させて金属化フィルム(16)を形成する。そして、金属化フィルム(16)を2枚重ねにしたものを巻回し、巻回した金属化フィルム(16)の両端に亜鉛(Zn)等の金属を溶融噴射してメタリコン(19,19)を形成した。そして、メタリコン(19,19)に端子である銅線(20,20)を半田付けしてコンデンサ素子(15)を作製した。
【0036】
次に、コンデンサ素子(15)をシリコン樹脂材1に浸し、その表面の全面にシリコン被膜(25)を形成させ、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。
【0037】
その後、シリコン被膜(25)が形成されたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にエポキシ樹脂組成物(12)を流し込み、100℃の温度環境下で約2時間加熱し、エポキシ樹脂組成物(12)を硬化させる。
【0038】
−実施形態1の効果−
本実施形態1によれば、コンデンサ素子(15)とエポキシ樹脂組成物(12)との間にシリコン被膜(25)を設けたため、エポキシ樹脂組成物(12)に含まれる硬化剤である酸無水物や硬化促進剤がシリコン被膜(25)を通過し、コンデンサ素子(15)の内部へ入り込むのを阻止することができる。これらにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム(17)の内部の空隙に上記硬化剤である酸無水物や硬化促進剤が入り込むのを防止することができる。この結果、フィルム(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0039】
〈実施形態1の比較例〉
本実施形態1に対する比較例について説明する。
【0040】
本比較例に係るフィルムコンデンサでは、上記実施形態1のフィルムコンデンサ(10)と比較してコンデンサ素子の表面にシリコン被膜(25)を形成していないことが異なっている。
【0041】
本比較例におけるフィルムコンデンサの作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子を作製する。この際、巻回した金属化フィルムの両端のメタリコンに端子である銅線を半田付けしてコンデンサ素子を作製した。
【0042】
その後、コンデンサ素子をコンデンサケース内に収容する。そして、コンデンサケースにエポキシ樹脂組成物を流し込み、100℃の温度環境下で約2時間加熱し、エポキシ樹脂組成物を硬化させる。
【0043】
本比較例のフィルムコンデンサでは、エポキシ樹脂組成物の内部に含まれる硬化剤である酸無水物や硬化促進剤が揮発してコンデンサ素子の内部に侵入し、フィルムの空隙に入り込む。これにより、図3、及び図8に示すように、フィルムの絶縁抵抗が低下する。
【0044】
図8に示すように、上記実施形態1に係るフィルムコンデンサ(10)では、シリコン被膜(25)によってフィルム(17)の絶縁抵抗が低下しない
〈実施形態1の変形例〉
上記実施形態1の変形例では、上記実施形態1のシリコン被膜(25)を構成するシリコン樹脂材1を異なるシリコン樹脂材2(商品名:KE-1884、信越化学工業(株)製)によって形成している。図8に示すように、本変形例に係るフィルムコンデンサ(10)では、シリコン被膜(25)によってフィルム(17)の絶縁抵抗が低下しない。その他の構成、作用・効果は実施形態1と同様である。
【0045】
≪発明の実施形態2≫
次に、本発明に実施形態2について図面に基づいて詳細に説明する。図4に示すように、本実施形態2に係るフィルムコンデンサ(10)では、実施形態1に係るフィルムコンデンサ(10)に代えてシリコン被膜(25)を異なる位置に形成したものである。
【0046】
具体的に、本実施形態2に係るフィルムコンデンサ(10)では、図2に示すように、巻回した金属化フィルム(16)に、その長手方向(左右方向)の幅よりもやや長い幅の保護フィルム(22)が巻き付けられている。この保護フィルム(22)は、エポキシ樹脂組成物(12)とコンデンサ素子(15)とを仕切るものであり、エポキシ樹脂組成物(12)に含まれる硬化部材の通過を阻止する機能はない。そして、保護フィルム(22)とメタリコン(19,19)とで囲まれる部分には、シリコン被膜(25)が形成されている。これにより、エポキシ樹脂組成物(12)に含まれる硬化部材がメタリコン(19,19)を通過してコンデンサ素子(15)の内部に侵入するのを防止している。これにより、図8に示すように、フィルム(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。
【0047】
本実施形態2に係るフィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子(15)を作製する。この際、巻回した金属化フィルム(16)の両端のメタリコン(19,19)に接続端子である銅線(20,20)を半田付けして取り付けている。
【0048】
次に、コンデンサ素子(15)の長手方向(左右方向)の幅よりも長い保護フィルム(22)をコンデンサ素子(15)に巻き付ける。そして、保護フィルム(22)と左端のメタリコン(19)とで囲まれる部分(コンデンサ素子(15)の左端部分)に、シリコン樹脂材1(商品名:X-32-1964、信越化学工業(株)製)を注入してシリコン被膜(25)を形成し、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。また、保護フィルム(22)と右端のメタリコン(19)とで囲まれる部分(コンデンサ素子(15)の右端部分)に、上記シリコン樹脂材1を注入してシリコン被膜(25)を形成し、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。尚、シリコン樹脂材2(商品名:KE-1884、信越化学工業(株)製)によってシリコン被膜(25)を構成してもよい。
【0049】
その後、左右両端のメタリコン(19,19)がシリコン被膜(25)に覆われたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にエポキシ樹脂(商品名:EX-664/H390、サンユレック(株)製)、硬化剤である酸無水物、及び硬化促進剤からなるエポキシ樹脂組成物(12)を流し込み、100℃の温度環境下で約2時間加熱し、エポキシ樹脂組成物(12)を硬化させる。
【0050】
本実施形態2によれば、メタリコン(19)とエポキシ樹脂組成物(12)との間にシリコン被膜(25)を設けたため、エポキシ樹脂組成物(12)からメタリコン(19,19)を介してコンデンサ素子(15)の内部へ硬化部材が入り込むのを阻止することができる。これにより、シリコン被膜(25)がコンデンサ素子(15)の全面を覆うことがないため、シリコン被膜(25)の形成に用いるシリコン樹脂材1の使用量を低減することができる。その他の構成、作用・効果は実施形態1と同様である。
【0051】
≪発明の実施形態3≫
次に、本発明の実施形態3について図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態3に係るフィルムコンデンサ(10)では、実施形態1に係るフィルムコンデンサ(10)が封止部材としてエポキシ樹脂組成物(12)を用いたのに代えてウレタン樹脂組成物(13)を用いている。ウレタン樹脂組成物(13)は、ウレタン樹脂(商品名:SU-1000A/B、サンユレック(株)製)と硬化部材とで構成されている。ウレタン樹脂組成物(13)は、ウレタン樹脂に硬化部材と組み合わせることでコンデンサケース(11)内で硬化させている。硬化部材は、硬化剤と硬化促進剤とからなり、硬化剤は、本発明に係る揮発性物質を構成し、硬化促進剤は反応生成物を構成している。
【0052】
本実施形態3に係るフィルムコンデンサ(10)は、シリコン樹脂材1(商品名:X-32-1964、信越化学工業(株)製)からなるシリコン被膜(25)がコンデンサ素子(15)の表面の全面を覆って形成されている。つまり、コンデンサケース(11)内において、コンデンサ素子(15)とウレタン樹脂組成物(13)との間にはシリコン被膜(25)が介在している。
【0053】
本実施形態3に係るフィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子(15)を作製する。この際、巻回した金属化フィルム(16)の幅方向の両端のメタリコン(19,19)に接続端子である銅線(20,20)を半田付けして取り付けている。
【0054】
次に、コンデンサ素子(15)をシリコン樹脂材1に浸し、その表面の全面にシリコン被膜(25)を形成させ、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。
【0055】
その後、シリコン被膜(25)が形成されたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にウレタン樹脂組成物(13)を流し込み、常温で一日間放置してウレタン樹脂組成物(13)を硬化させる。
【0056】
図5に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)をコンデンサケース(11)に充填しても、充填の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗は低下していない。
【0057】
本実施形態3によれば、ウレタン樹脂組成物(13)の内部に含まれる硬化部材が揮発しても、シリコン被膜(25)が硬化部材の通過を阻止するため、これらの物質がコンデンサ素子(15)の内部に侵入するのを防止することができる。これにより、図5及び図8に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)の封止の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗の低下を防止することができる。その他の構成、作用・効果は実施形態1と同様である。
【0058】
〈実施形態3の比較例〉
本実施形態3に対する比較例について説明する。
【0059】
本比較例に係るフィルムコンデンサでは、上記実施形態3のフィルムコンデンサ(10)と比較してコンデンサ素子の表面にシリコン被膜(25)を形成していないことが異なっている。
【0060】
本比較例におけるフィルムコンデンサの作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子を作製する。この際、巻回した金属化フィルムの両端のメタリコンに端子である銅線を半田付けして取り付ける。
【0061】
その後、コンデンサ素子をコンデンサケース内に収容する。そして、コンデンサケースにウレタン樹脂(商品名:SU-1000A/B、サンユレック(株)製)、硬化剤及び硬化促進剤からなるウレタン樹脂組成物を流し込み、常温で一日間放置してウレタン樹脂組成物を硬化させる。
【0062】
比較例のフィルムコンデンサでは、ウレタン樹脂組成物の内部に含まれる硬化部材が揮発してコンデンサ素子の内部に侵入し、フィルムの空隙に入り込む。これにより、図3及び図8に示すように、フィルムの絶縁抵抗が低下する。
【0063】
〈実施形態3の変形例1〉
上記実施形態3の変形例1では、図1に示すように、上記シリコン被膜(25)を構成するシリコン樹脂材1を異なるシリコン樹脂材2(商品名:KE-1884、信越化学工業(株)製)によって形成している。本変形例1に係るフィルムコンデンサ(10)では、シリコン被膜(25)によってフィルム(17)の絶縁抵抗が低下しない。その他の構成、作用・効果は実施形態3と同様である。
【0064】
〈実施形態3の変形例2〉
上記実施形態3の変形例2では、図1に示すように、本発明に係る阻止膜をシリコン被膜(25)に代えてワックス被膜(26)によって形成している。ワックス被膜(26)は、本発明に係る合成樹脂である石油系パラフィンワックス(商品名:ワックスレックス2480、エクソンモービル製)によって形成されている。
【0065】
ワックス被膜(26)は、コンデンサ素子(15)の表面の全面を覆って形成されている。つまり、コンデンサケース(11)内において、コンデンサ素子(15)とウレタン樹脂組成物(13)との間にはワックス被膜(26)が介在している。
【0066】
−フィルムコンデンサ(10)の作製方法−
上記フィルムコンデンサ(10)の作製方法について具体的に説明する。
【0067】
フィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてフィルム(17)を作製する。フィルム(17)の成膜では、無機酸化物を添加したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を基材にコーティングして乾燥させ、基材から剥離することでフィルム(17)を得る。尚、無機酸化物を添加することでフィルム(17)の誘電率を高めている。このフィルム(17)に金属膜(18)を蒸着させて金属化フィルム(16)を形成する。そして、金属化フィルム(16)を2枚重ねにしたものを巻回し、巻回した金属化フィルム(16)の両端に亜鉛(Zn)等の金属を溶融噴射してメタリコン(19,19)を形成した。そして、メタリコン(19,19)に接続端子である銅線(20,20)を半田付けして接続してコンデンサ素子(15)を作製した。
【0068】
次に、100℃で加熱して液状となった石油系パラフィンワックスにコンデンサ素子(15)を浸し、その表面の全面にワックス被膜(26)を付着させ、常温で硬化させる。
【0069】
その後、ワックス被膜(26)が形成されたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にウレタン樹脂組成物(13)を流し込み、常温で一日間放置してウレタン樹脂組成物(13)を硬化させる。
【0070】
図6に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)をコンデンサケース(11)に充填しても、充填の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗は低下していない。
【0071】
本変形例2によれば、ウレタン樹脂組成物(13)に含まれる硬化部材がワックス被膜(26)を通過し、コンデンサ素子(15)の内部へ入り込むのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)を構成するフィルム(17)の内部の空隙に硬化部材が入り込むのを防止することができる。この結果、図6及び図8に示すように、フィルム(17)の絶縁抵抗が低下するのを確実に防止することができる。その他の構成、作用・効果は実施形態3と同様である。
【0072】
≪発明の実施形態4≫
次に、本発明に実施形態4について図面に基づいて詳細に説明する。図4に示すように、本実施形態4に係るフィルムコンデンサ(10)では、実施形態3に係るフィルムコンデンサ(10)に代えてシリコン被膜(25)を異なる位置に形成したものである。
【0073】
具体的に、本実施形態4に係るフィルムコンデンサ(10)では、巻回した金属化フィルム(16)に、その長手方向(左右方向)の幅よりもやや長い幅の保護フィルム(22)が巻き付けられている。この保護フィルム(22)は、ウレタン樹脂組成物(13)とコンデンサ素子(15)とを仕切るものであり、ウレタン樹脂組成物(13)に含まれる硬化部材の通過を阻止する機能はない。そして、保護フィルム(22)とメタリコン(19,19)とで囲まれる部分には、シリコン被膜(25)が形成されている。これにより、ウレタン樹脂組成物(13)に含まれる硬化部材がメタリコン(19,19)を通過してコンデンサ素子(15)の内部に侵入するのを防止している。
【0074】
本実施形態4に係るフィルムコンデンサ(10)の作製では、まず、塗工法(キャスト工法)によって作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いてコンデンサ素子(15)を作製する。この際、巻回した金属化フィルム(16)の両端のメタリコン(19,19)に接続端子である銅線(20,20)を半田付けして取り付けている。
【0075】
次に、コンデンサ素子(15)の長手方向(左右方向)の幅よりも長い保護フィルム(22)をコンデンサ素子(15)に巻き付ける。そして、保護フィルム(22)と左端のメタリコン(19)とで囲まれる部分(コンデンサ素子(15)の左端部分)に、シリコン樹脂材1(商品名:X-32-1964、信越化学工業(株)製)を注入してシリコン被膜(25)を形成させ、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。また、保護フィルム(22)と右端のメタリコン(19)とで囲まれる部分(コンデンサ素子(15)の右端部分)に、上記シリコン樹脂材1を注入してシリコン被膜(25)を形成させ、120℃の温度環境下で約1時間加熱してシリコン被膜(25)を硬化させる。尚、シリコン樹脂材2(商品名:KE-1884、信越化学工業(株)製)によってシリコン被膜(25)を構成してもよい。
【0076】
その後、左右両端のメタリコン(19,19)がシリコン被膜(25)に覆われたコンデンサ素子(15)をコンデンサケース(11)内に収容する。そして、コンデンサケース(11)にウレタン樹脂(商品名:SU-1000A/B、サンユレック(株)製)、硬化剤及び硬化促進剤からなるウレタン樹脂組成物(13)を流し込み、常温で一日間放置してウレタン樹脂組成物(13)を硬化させる。
【0077】
図7に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)をコンデンサケース(11)に充填しても、充填の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗は低下していない。
【0078】
本実施形態4によれば、メタリコン(19)とウレタン樹脂組成物(13)との間にシリコン被膜(25)を設けたため、ウレタン樹脂組成物(13)からメタリコン(19,19)を介してコンデンサ素子(15)の内部へ硬化部材が入り込むのを阻止することができる。これにより、コンデンサ素子(15)の全面を覆うことがないため、シリコン被膜(25)の形成に用いるシリコン樹脂材1の使用量を削減することができる。また、図7及び図8に示すように、ウレタン樹脂組成物(13)の封止の前後でフィルム(17)の絶縁抵抗の低下を防止することができる。その他の構成、作用・効果は実施形態3と同様である。
【0079】
〈その他の実施形態〉
本発明は、上記実施形態1〜4について、以下のような構成としてもよい。
【0080】
本実施形態1〜4では、本発明に係る阻止膜を構成する材料としてシリコン樹脂や合成樹脂を用いたが、本発明は、これらの樹脂に限定されるものではない。また、図1及び図4に示すように、上記実施形態1、2、及び4において、阻止膜を石油系パワフィンワックスで構成するようにしてもよい。
【0081】
尚、以上の実施形態1〜4は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明は、フィルムコンデンサについて有用である。
【符号の説明】
【0083】
11 コンデンサケース
12 エポキシ樹脂組成物
13 ウレタン樹脂組成物
15 コンデンサ素子
16 金属化フィルム
17 フィルム
19 メタリコン
25 シリコン被膜
26 ワックス被膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサケース(11)と、
該コンデンサケース(11)内に収容され、フィルム部材(17)によって構成されるコンデンサ素子(15)と、
上記コンデンサケース(11)内に充填されて上記コンデンサ素子(15)の周りを覆う封止部材(12,13)とを備えたフィルムコンデンサであって、
上記コンデンサ素子(15)と封止部材(12,13)との間に設けられ、樹脂材料からなると共に、封止部材(12,13)からコンデンサ素子(15)への侵入物を阻止する阻止膜(25,26)を備えている
ことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項2】
請求項1において、
上記コンデンサ素子(15)は、フィルム部材(17)の表面に電極膜(18)が形成された金属化フィルム部材(16)が巻回され、且つ巻回された金属化フィルム部材(16)の幅方向の両端のそれぞれに電極部材(19,19)が接続されて構成され、
上記阻止膜(25,26)は、少なくとも上記各電極部材(19,19)と上記封止部材(12,13)との間に設けられている
ことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記阻止膜(25,26)は、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質、又は反応生成物質がコンデンサ素子(15)へ侵入するのを阻止するよう構成されている
ことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1つにおいて、
上記阻止膜(25,26)は、シリコン樹脂、又は合成樹脂で構成されている
ことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項1】
コンデンサケース(11)と、
該コンデンサケース(11)内に収容され、フィルム部材(17)によって構成されるコンデンサ素子(15)と、
上記コンデンサケース(11)内に充填されて上記コンデンサ素子(15)の周りを覆う封止部材(12,13)とを備えたフィルムコンデンサであって、
上記コンデンサ素子(15)と封止部材(12,13)との間に設けられ、樹脂材料からなると共に、封止部材(12,13)からコンデンサ素子(15)への侵入物を阻止する阻止膜(25,26)を備えている
ことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項2】
請求項1において、
上記コンデンサ素子(15)は、フィルム部材(17)の表面に電極膜(18)が形成された金属化フィルム部材(16)が巻回され、且つ巻回された金属化フィルム部材(16)の幅方向の両端のそれぞれに電極部材(19,19)が接続されて構成され、
上記阻止膜(25,26)は、少なくとも上記各電極部材(19,19)と上記封止部材(12,13)との間に設けられている
ことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記阻止膜(25,26)は、封止部材(12,13)に含まれる揮発性物質、又は反応生成物質がコンデンサ素子(15)へ侵入するのを阻止するよう構成されている
ことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1つにおいて、
上記阻止膜(25,26)は、シリコン樹脂、又は合成樹脂で構成されている
ことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2011−151253(P2011−151253A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12154(P2010−12154)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
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