説明

フィルム加飾部品の製造方法、フィルム加飾部品および家電製品

【課題】家電製品に用いる外観部品に係り、特に、基材としてリサイクル材を用いつつも外観装飾性に富んだものであって、複雑な形状を有するものであっても、適切に加飾すること。
【解決手段】リサイクル材料である樹脂成形体を用いた基材と加飾材と接着剤とを用いて加飾部品を製造する製造方法において、所定の条件を満たす、基材と加飾材と接着剤とを用いることによって、加飾材が溶融樹脂と接触した際に、射出された樹脂が有する熱により加飾材の外観品位が損なわれることが無く、接着剤が十分に溶融するため加飾材と基材成形体との間の接着性が高い加飾部品を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品に用いる外観部品に係り、特に、基材としてリサイクル材を用いつつも外観装飾性に富んだものであって、複雑な形状を有するものであっても、適切に加飾することができるものである。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックを含むリサイクル材料を成形してなる基材と、基材の表面に樹脂フィルムを備えた積層体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、特許文献1に記載された従来の積層体の製造装置を示す概略構成図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−144495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加圧ロールによる加圧工法を用いたような場合、家電製品の曲率を有する樹脂成形体や複雑形状を有する樹脂成形体などに用いることができず用途が限られていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
リサイクル材料である樹脂成形体を用いた基材と加飾材と接着剤とを用いて加飾部品を製造する製造方法において、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、Xは条件(1)を満たすものとし、かつ、基材の軟化点をMx、加飾材の軟化点をMy、接着剤の軟化点をMzとした場合に、Mx、MyおよびMzは条件(2)を満たすものとし、リサイクル材料である樹脂成形体を溶融する工程と、金型内に加飾材を配置する工程と、溶融した前記樹脂成形体を前記金型に射出する工程と、を含み、前記加飾材は前記接着剤を介して前記基材の表面に貼付されることを特徴とする加飾部品の製造方法としたものである。
【0007】
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
条件(2) Mz<Mx<My
これによって、加飾材が溶融樹脂と接触した際に、射出された樹脂が有する熱により加飾材の外観品位が損なわれることが無く、接着剤が十分に溶融するため加飾材と基材成形体との間の接着性が高い加飾部品を製造することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、基材としてリサイクル材を用いつつも外観装飾性に富んだものであって、複雑な形状を有するものであっても、適切に加飾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1における製造装置を示す概略構成図
【図2】損失正接tanδの変化を示す概略図
【図3】本発明の実施の形態2における製造装置を示す概略構成図
【図4】従来の積層体の製造装置を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の発明は、リサイクル材料である樹脂成形体を用いた基材と加飾材と接着剤とを用いて加飾部品を製造する製造方法において、リサイクル材料からなる前記基材成形体の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、Xは条件(1)を満たすものとし、かつ、基材の軟化点をMx、加飾材の軟化点をMy、接着剤の軟化点をMzとした場合に、Mx、MyおよびMzは条件(2)を満たすものとし、リサイクル材料である樹脂成形体を溶融する工程と、金型内に加飾材を配置する工程と、溶融した前記樹脂成形体を前記金型に射出する工程と、を含み、前記加飾材は前記接着剤を介して前記基材の表面に貼付されることを特徴とする加飾部品の製造方法としたものである。
【0011】
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
条件(2) Mz<Mx<My
これによって、加飾材が溶融樹脂と接触した際に、射出された樹脂が有する熱により加飾材の外観品位が損なわれることが無く、接着剤が十分に溶融するため加飾材と基材成形体との間の接着性が高い加飾部品を製造することができる。
【0012】
第2の発明は、特に、第1の発明の加飾部品の製造方法において、前記加飾材を成形する工程を含むことを特徴とする製造方法としたものである。
【0013】
これによって、家電製品の曲率を有する樹脂成形体や複雑形状を有する樹脂成形体などに貼付することが可能となる。
【0014】
第3の発明は、特に、第1の発明の加飾部品の製造方法において、加飾材、接着剤、およびベースフィルムとから構成される加飾フィルムを用い、さらに、前記加飾フィルムを基材成形体に貼り付けた後に、前記ベースフィルムを前記基材成形体から離脱する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の加飾部品の製造方法としたものである。
【0015】
これによって、前記ベースフィルムの一部にのみ前記加飾材および前記接着剤を配置することで、前記基材成形体の一部にのみ前記加飾材を任意に貼り付けることが可能となる。
【0016】
第4の発明は、リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体と、前記基材を覆う加飾材と、前記基材成形体と前記加飾材との間に接着剤とを有する加飾部品であって、リサイクル材料からなる前記基材成形体の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、Xは条件(1)を満たすものとし、かつ、基材の軟化点をMx、加飾材の軟化点をMy、接着剤の軟化点をMzとした場合に、Mx、MyおよびMzは条件(2)を満たすことを特徴とする加飾部品としたものである。
【0017】
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
条件(2) Mz<Mx<My
これによって、家電製品の曲率を有する樹脂成形体や複雑形状を有する基材成形体であっても加飾材を貼り付けることが可能となっただけでなく、長期間にわたって加飾材がはがれることなく使用可能な加飾部品を実現した。
【0018】
第5の発明は、第4の発明の加飾部品を用いたことを特徴とする家電製品としたもので
ある。これによって、リサイクル材料の用途の拡大を図ることができる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態1)
以下、インサート成形を行う工程について説明する。図1は、インサート成形をする工程を示す説明図である。
【0021】
まず、図1(A)に示すように、加飾材31および接着剤32からなる樹脂フィルム37の予備成形を行う。ここで、予備成形とは、例えば、押圧型に挟んで押圧成形を行うことによって3次元形状に予め成形することである。図1(A)に示す例では、コの字型形状に予備成形している。この際、真空成形、圧空成形により予備成形を実施してもよい。
【0022】
次いで、図1(B)に示すように、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とが型開きされた状態において、図1(A)に示す予備成形をした樹脂フィルムを固定側の射出成型用金型33に密着させてセットする。
【0023】
次いで、図1(C)に示すように、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とを型閉めする。
【0024】
次いで、図1(D)に示すように、可動側の射出成型用金型34に設けられた射出ゲート35から溶融した樹脂を射出し、図1(E)に示すように、リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体39が形成される。なお、リサイクル材料として、例えば、回収したABSやポリプロピレン、もしくはポリスチレン樹脂を用いることによって実現される。
【0025】
ここでは、リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体39と加飾材31を接着することになるが、特に、雰囲気温度0℃を起点とし、200℃までの範囲について毎分2度の速度で昇温させながら連続的に測定した、リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体39の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、極大値Xが条件(1)を満たすことによって、リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体39の粘性が弾性よりも優位になり、型閉めした固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34の内部で十分に流動し、かつ型開きする際に離型不良が発生せず、良好な射出成形樹脂部品36を得ることが可能となる。
【0026】
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
図2は、雰囲気温度0℃を起点とし、200℃までの範囲について毎分2度の速度で昇温させながら連続的に測定した、リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体39の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδを、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表したものである。図中、損失正接tanδは昇温と共に増大し、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲において極大となる。さらに昇温を継続すると損失正接tanδは減少し、やがて収束する。このとき、損失正接tanδが極大となった測定温度をピーク温度52、そのときの損失正接tanδを極大値X51とする。
【0027】
損失正接tanδのピーク温度が100℃以上、130℃以下であることによって、成形時に、金型内部において、溶融樹脂が十分に流動し、いわゆるショートショット現象、および基材成形体39表面に波紋が形成されるいわゆるフローマーク現象が発生することを防ぎ、かつ成形後の放冷時に射出成形樹脂部品36の変形を防止する効果を奏する。
【0028】
また、極大値Xが1.0以上、10以下であることによって、成形時に、金型内部において、溶融樹脂が十分に流動し、いわゆるショートショット現象、および基材成形体39表面に波紋が形成されるいわゆるフローマーク現象の発生を防止し、かつ型開きする際に射出した溶融樹脂が、可動側の射出成型用金型34から離型せず、型開き後に固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34との双方に溶融樹脂が付着する、いわゆる離型不良発生を防止する効果を奏する。
【0029】
加えて、基材樹脂の軟化点Mxと接着剤32の軟化点Mzとの軟化点の関係がMz<Mxであることによって、溶融樹脂が有する熱によって接着剤32が効率よく融解し加飾材31と基材成形体間の接着性を向上するという効果を奏する。また、基材成形体39の軟化点Mxと加飾材31の軟化点Myとの軟化点の関係がMx<Myであることによって、事前成形した加飾材31の意匠、形状を損なうことなく、溶融樹脂を流し込むことが可能となり、家電製品の曲率を有する樹脂成形体や複雑形状を有する基材成形体39の加飾を可能にするという効果を奏する。
【0030】
次いで、図1(E)に示すように、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とが型開きされ、加飾材31、接着剤32が表面に貼付けられた射出成形樹脂部品36を得ることができる。この工程において、雰囲気温度0℃を起点とし、200℃までの範囲について毎分2度の速度で昇温させながら連続的に測定した、リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体39の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、極大値Xが条件(1)を満たすものとし、かつ、基材成形体の軟化点Mx、加飾材31の軟化点My、および接着剤32の軟化点Mzとの軟化点の関係が条件(2)を同時に満足することによって、型開き後取り出された射出成形樹脂部品36を室温下で放冷する過程において、基材成形体39の結晶化度が容易に高くなり、放冷後の変形、いわゆる反りが小さく、かつ加飾材31と接着剤32、および基材成形体39とから構成される、高耐衝撃性の加飾部品を得られる。
【0031】
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
条件(2) Mz<Mx<My
これにより、表層に黒点やフローマークが出現しやすいリサイクル材料である樹脂材料を用いた成形体であっても、加飾材31を表層に貼り付けることによって黒点やフローマークを容易に隠蔽することが可能となり、高品位な加飾部品を実現できる。かつ、加飾材と射出成形樹脂部品36との間の接着性が高く、表層に貼り付けた加飾材31がはがれにくく、長期的に使用することが可能である。
【0032】
(実施の形態2)
以下、インモールド転写成形を行う工程について図3を用いて説明する。
【0033】
まず、フィルムを金型間に挿入する工程がある。ここでは、図3(A)に示すように、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とが型開きされた状態において、すくなくともベースフィルム38、加飾材31、および接着剤32からなる樹脂フィルム37を挿入する。
【0034】
次に、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とを型閉めし、溶融樹脂を射出する工程がある。ここでは、図3(B)に示すように、可動側の射出成型用金型34に設けられた射出ゲート35から溶融した樹脂を射出する。この溶融樹脂は、リサイクル材料を溶融して得る。
【0035】
溶融樹脂が射出されることにより、樹脂フィルム37が固定側の射出成型用金型33に沿った形状に変形し、同時に基材成形体39が形成される。また、射出した溶融樹脂が有する熱により接着剤32が溶融され、加飾材31と、基材成形体39とが密着される。
【0036】
なお、リサイクル材料として、例えば、回収したABSやポリプロピレン、もしくはポリスチレン樹脂を用いることによって実現される。
【0037】
次に、図3(C)に示すように、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とが型開きされ、射出成形樹脂部品36を取り出す。その際、射出成形樹脂部品36からベースフィルムを剥離し、すくなくとも加飾材31が表面に転写された射出成形樹脂部品36を得ることができる。この工程において、雰囲気温度0℃を起点とし、200℃までの範囲について毎分2度の速度で昇温させながら連続的に測定した、溶融したリサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体39の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、極大値Xが条件(1)を満たし、かつ、基材樹脂の軟化点Mx、加飾材31の軟化点My、および接着剤32の軟化点Mzとの軟化点の関係が条件(2)を同時に満足することによって、型開き後取り出された射出成形樹脂部品36を室温下で放冷する過程において、基材成形体39結晶化度が容易に高くなり、放冷後の変形、いわゆる反りが小さく、かつ高耐衝撃性の射出成形樹脂部品36を得られる。
【0038】
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
条件(2) Mz<Mx<My
図2は、雰囲気温度0℃を起点とし、200℃までの範囲について毎分2度の速度で昇温させながら連続的に測定した、リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体39の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδを、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表したものである。図中、損失正接tanδは昇温と共に増大し、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲において極大となる。さらに昇温を継続すると損失正接tanδは減少し、やがて収束する。このとき、損失正接tanδが極大となった測定温度をピーク温度52、そのときの損失正接tanδを極大値X51とする。
【0039】
損失正接tanδのピーク温度が100℃以上、130℃以下であることによって、成形時に、金型内部において、溶融樹脂が十分に流動し、いわゆるショートショット現象、および基材成形体39表面に波紋が形成されるいわゆるフローマーク現象が発生することを防ぎ、かつ成形後の放冷時に射出成形樹脂部品36の変形を防止する効果を奏する。
【0040】
また、極大値Xが1.0以上、10以下であることによって、成形時に、金型内部において、溶融樹脂が十分に流動し、いわゆるショートショット現象、および基材成形体39表面に波紋が形成されるいわゆるフローマーク現象の発生を防止し、かつ型開きする際に射出した溶融樹脂が、可動側の射出成型用金型34から離型せず、型開き後に固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34との双方に溶融樹脂が付着する、いわゆる離型不良発生を防止する効果を奏する。
【0041】
以上に説明したように、インモールド成形では、溶融した樹脂が射出されることにより、基材成形体39が形成されるとともに、溶融した樹脂が有する熱によって接着剤32が溶融され、加飾材31と基材成形体39とが密着される。そして、型開きして得た射出成形樹脂部品36からベースフィルム38を剥離することで、すくなくとも加飾材31が貼付けられた射出成形樹脂部品36を得られる。
【0042】
また、本実施形態では、射出成形樹脂部品の一部分に加飾材31を貼付けたい場合に、接着剤32の塗り分けを行う。すると、インモールド成形において、接着剤32が塗布された部分の加飾材31と基材成形体39とが密着される。そして、型開きして得た射出成形樹脂部品36からベースフィルム38を剥離すると、加飾材31のうち、接着剤32が塗布されず、基材成形体39と密着されていない部分はベースフィルム38とともに剥離され、接着剤32によって密着された部分は剥離されることなく基材成形体39に密着された状態で残る。そのため、部分的に加飾材31が貼付けられた射出成形樹脂部品36を得られる。
【0043】
従って、マスキング処理を省略することができ、手間をかけずに射出成形樹脂部品36の必要な部分にだけ加飾材31を貼り付けた加飾部品を得ることができる。
【0044】
この加飾部品は、表層に黒点やフローマークが出現しやすいリサイクル材料である樹脂材料を用いた成形体であっても、表層に貼り付けた加飾材31によって黒点やフローマークを容易に隠蔽することが可能であり、高品位な加飾部品を実現できる。また、ベースフィルムを基材成形体39から剥離するために、射出成形樹脂部品36を再度リサイクル処理する場合に容易に再生できる特徴を有する。
【実施例1】
【0045】
(インサート成形工法)
[材料物性の測定方法、射出成形樹脂部品の製造方法および評価方法]
リサイクル材料からなる基材成形体39の損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδは、JIS K 7244に従い、レオメターを用いて測定した。具体的には、ティ・エイ・インスツルメント製応力制御式レオメータ(ARES)により、直径25mmの円盤状に切出した円盤形状の樹脂成形体試料を昇温速度2℃/分で加熱しながら1ラジアンの変形を加えた。このとき試料で生じる応力と昇温温度特性との関係から、粘性成分と相関性が高い損失弾性率G”を得た。
【0046】
樹脂の軟化点は、島津製作所の定荷重押出し形細管式レオメータフローテスタ(CFT500)により、1cmの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながらプランジャーにより約9.8×10N/mの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのダイから押し出して、このプランジャーのピストンストロークと温度との関係における昇温温度特性との関係から、ピストンストロークが立上り始める温度が流出開始温度(Tfb)、ピストンストローク特性の曲線の最低値と流出終了点の差の1/2を求め、それと曲線の最低値を加えた点の位置における温度を1/2法における溶融温度(軟化点Ts℃)となる。
【0047】
インサート成形は、以下のように実施した。
【0048】
まず、射出成形機のホッパーに体積基準の平均粒子径が1.0cm以下になるように粗粉砕したリサイクル材料である樹脂成形体の粉砕物を投入した。このとき粉砕には回転速度が毎分1000回転のカッターミルを用いた。
【0049】
次にホッパーに供給された粉砕物は回転するスクリューによりシリンダー内へと搬送され、過熱され溶融した。このとき、溶融後の樹脂の温度が200℃以上230℃の範囲となるようにシリンダー外周のヒーターを制御した。
【0050】
次に、加飾材31および接着剤32からなる樹脂フィルムの予備成形を行った。予備成形として、押圧成形を用いた。
【0051】
次いで、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とが型開きされた
状態において、予備成形を行なった樹脂フィルムを固定側の射出成型用金型33に密着させた。
【0052】
次いで、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とを型閉めした後、可動側の射出成型用金型34に設けられた射出ゲート35から、溶融した樹脂を金型内に射出した。このとき、射出時の圧力は200Kgf/cm以上500Kgf/cm以下の範囲で制御した。
【0053】
一方、金型は、温度が150℃を超えて200℃以下の範囲になるようにヒーターを制御して用いた。
【0054】
次いで、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とが型開きし、加飾材31が表面に貼り付けられた射出成形樹脂部品36を得た。
【0055】
こうして得た加飾材31が表面に貼り付けられた射出成形樹脂部品36について、成型性、写像性、接着性について評価した。
【0056】
成形性は、金型と異なる形状、具体的には金型に成形品となるべきところまで溶融樹脂がいきわたらない、いわゆるショートショット、溶融樹脂の流動が遅いことにより最表層に波紋が形成される、いわゆるフローマーク等の不良品発生を目視により判断した。成形品100個当たりの不良品発生率が5個未満であれば良好なレベル“A”、5個を超え20個未満であればやや不良発生率が高いレベル“B”、20個以上では問題あるレベル”C”で表す。
【0057】
写像性は、加飾材表面に、写像が歪み無く、鮮明に映りこむ状態を良好とする指標であり、BYK−Gardner製マイクロウェーブスキャンを用いたDOI値測定によりDOI値が85以上であれば良好なレベル“A”、50を超え80未満であればやや写像鮮明性が低いレベル“B”、50未満では問題あるレベル”C”で表す。
【0058】
剥離強度は、株式会社イマダ製フォースゲージを用いた90度剥離試験により、剥離強度が10N/10mm以上であれば良好なレベル“A”、5N/10mmを超え10N/10mm未満であればやや剥離強度が低いレベル“B”、5N/10mm未満では問題あるレベル”C”で表す。
【0059】
[材料物性の測定結果、および射出成形樹脂部品の評価結果]
(表1)は、本発明に係るリサイクル材料であるABS樹脂材料R1、r2、R3、R4、r5,r6、r7の損失正接tanδが極大値となる温度ピーク温度、損失正接tanδの極大値、および軟化点を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
(表2)は、本発明に係る加飾材であるF1、f2、f3の軟化点を表す。
【0062】
【表2】

【0063】
(表3)は、本発明に係る接着剤の軟化点B1、b2、b3の軟化点を表す。
【0064】
【表3】

【0065】
(表4)は、本実施例で使用した加飾材を貼付した加飾部品(P1〜P12)の構成、及び成形性の指標として成形不良率、外観品位の指標として写像性、接着性の指標として剥離強度を各々評価した結果を示す。
【0066】
【表4】

【0067】
本発明に係る加飾部品は、リサイクル材料である樹脂成形体を用いた基材と、前記基材を覆う加飾材と、前記成形体と前記加飾材との間に接着剤とを有する加飾部品であって、雰囲気温度0℃を起点とし、200℃までの範囲について毎分2度の速度で昇温させながら連続的に測定した、溶融したリサイクル材料である前記基材の損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、Xは条件(1)を満たすものとし、かつ、基材の軟化点をMx、加飾材の軟化点をMy、接着剤の軟化点をMzとした場合に、Mx、MyおよびMzは条件(2)を満たすことを特徴とするものである。
【0068】
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
条件(2) Mz<Mx<My
損失正接tanδのピーク温度が100℃未満である場合は、放冷時の貯蔵弾性率の増大に伴い、射出成形樹脂部品36が変形した。
【0069】
損失正接tanδのピーク温度が131℃以上である場合は、溶融したリサイクル材料である樹脂成形体の弾性が強く、金型内部において、溶融樹脂が十分に流動せず、いわゆるショートショット現象、および基材成形体39表面に波紋が形成されるいわゆるフローマーク現象が発生し、成形性における不良発生率が増大した。
【0070】
極大値Xが1.0以下である場合は、溶融したリサイクル材料である樹脂成形体の弾性が強く、金型内部において、溶融樹脂が十分に流動せず、いわゆるショートショット現象、および基材成形体39表面に波紋が形成されるいわゆるフローマーク現象が発生し、成形性における不良発生率が増大した。
【0071】
極大値Xが10以上である場合は、型開きする際に射出した樹脂が、可動側の射出成型用金型34から離型せず、型開き後に固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34との双方に溶融樹脂が付着する、いわゆる離型不良が発生した。
【0072】
接着剤32の軟化点をMzが基材の軟化点Mxよりも高い場合には、接着剤32が十分に溶融せず、加飾材31と射出成形樹脂部品36間の接着性が低下したために、成形後に
加飾材31が射出成形樹脂部品36から剥離した。
【0073】
加飾材の軟化点をMyが基材の軟化点をMxよりも低い場合は、加飾材31が基材の有する熱量により溶融し、放冷時に結晶化したため白濁して写像性が低下した。
【実施例2】
【0074】
(インモールド転写成形工法)
[材料物性の測定方法、射出成形樹脂部品の製造方法および評価方法]
リサイクル材料からなる基材成形体39の損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδは、JIS K 7244に従い、レオメターを用いて測定した。具体的には、ティ・エイ・インスツルメント製応力制御式レオメータ(ARES)により、直径25mmの円盤状に切出した円盤形状の樹脂成形体試料を昇温速度2℃/分で加熱しながら1ラジアンの変形を加えた。このとき試料で生じる応力と昇温温度特性との関係から、粘性成分と相関性が高い損失弾性率G”を得た。
【0075】
樹脂の軟化点は、島津製作所の定荷重押出し形細管式レオメータフローテスタ(CFT500)により、1cmの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながらプランジャーにより約9.8×10N/mの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのダイから押し出して、このプランジャーのピストンストロークと温度との関係における昇温温度特性との関係から、ピストンストロークが立上り始める温度が流出開始温度(Tfb)、ピストンストローク特性の曲線の最低値と流出終了点の差の1/2を求め、それと曲線の最低値を加えた点の位置における温度を1/2法における溶融温度(軟化点Ts℃)となる。
【0076】
インモールド転写成形は、以下のように実施した。まず、射出成形機のホッパーに体積基準の平均粒子径が1.0cm以下になるように粗粉砕したリサイクル材料であるABS樹脂成形体の粉砕物を投入した。このとき粉砕には回転速度が毎分1000回転のカッターミルを用いた。次にホッパーに供給された粉砕物は回転するスクリューによりシリンダー内へと搬送され、過熱され溶融した。このとき、溶融後の樹脂の温度が200℃以上230℃の範囲となるようにシリンダー外周のヒーターを制御した。
【0077】
次に、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とが型開きされた状態において、すくなくともベースフィルム38、加飾材31、および接着剤32からなる樹脂フィルム37を挿入した。
【0078】
次に、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とを型閉めした。このとき、金型は、温度が150℃を超えて200℃以下の範囲になるようにヒーターを制御して用いた。
【0079】
その後、溶融した樹脂を、可動側の射出成型用金型34に設けられた射出ゲート35から射出した。このとき射出時の圧力は200Kgf/cm以上500Kgf/cm以下の範囲で制御した。
【0080】
次に、固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34とを型開きし、射出成形樹脂部品36を得た。その際、射出成形樹脂部品36からベースフィルムを剥離し、加飾材31、接着剤32が表面に転写された射出成形樹脂部品36を得た。
【0081】
こうして得た加飾材31、接着剤32が表面に転写された射出成形樹脂部品36について、成型性、写像性、接着性について評価した。
【0082】
成形性は、金型と異なる形状、具体的には金型に成形品となるべきところまで溶融樹脂
がいきわたらない、いわゆるショートショット、溶融樹脂の流動が遅いことにより最表層に波紋が形成される、いわゆるフローマーク等の不良品発生を目視により判断した。成形品100個当たりの不良品発生率が5個未満であれば良好なレベル“A”、5個を超え20個未満であればやや不良発生率が高いレベル“B”、20個以上では問題あるレベル”C”で表す。
【0083】
写像性は、加飾材表面に、写像が歪み無く、鮮明に映りこむ状態を良好とする指標であり、BYK−Gardner製マイクロウェーブスキャンを用いたDOI値測定によりDOI値が85以上であれば良好なレベル“A”、50を超え80未満であればやや写像鮮明性が低いレベル“B”、50未満では問題あるレベル”C”で表す。
【0084】
剥離強度は、株式会社イマダ製フォースゲージを用いた90度剥離試験により、剥離強度が10N/10mm以上であれば良好なレベル“A”、5N/10mmを超え10N/10mm未満であればやや剥離強度が低いレベル“B”、5N/10mm未満では問題あるレベル”C”で表す。
【0085】
[材料物性の測定結果、および射出成形樹脂部品の評価結果]
(表5)は、本発明に係るリサイクル材料であるABS樹脂材料R1、r2、R3、R4、r5,r6、r7の損失正接tanδが極大値となる温度ピーク温度、損失正接tanδの極大値、および軟化点を示す。
【0086】
【表5】

【0087】
(表6)は、本発明に係る加飾材であるF1、f2、f3の軟化点を表す。
【0088】
【表6】

【0089】
(表7)は、本発明に係る接着剤の軟化点B1、b2、b3の軟化点を表す。
【0090】
【表7】

【0091】
(表8)は、本実施例で使用した加飾材を貼付した加飾部品(P13〜P24)の構成、及び成形性の指標として成形不良率、外観品位の指標として写像性、接着性の指標として剥離強度を各々評価した結果を示す。
【0092】
【表8】

【0093】
本発明に係る加飾部品は、リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体39と、前記基材を覆う加飾材31と、前記基材成形体と前記加飾材31との間に接着剤32とを有する加飾部品であって、雰囲気温度0℃を起点とし、200℃までの範囲について毎分2度の速度で昇温させながら連続的に測定した、リサイクル材料からなる前記基材成形体39の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、Xは条件(1)を満たすものとし、かつ、基材の軟化点をMx、加飾材の軟化点をMy、接着剤の軟化点をMzとした場合に、Mx、MyおよびMzは条件(2)を満たすことを特徴とするものである。
【0094】
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
条件(2) Mz<Mx<My
損失正接tanδのピーク温度が100℃未満である場合は、放冷時の貯蔵弾性率の増大に伴い、射出成形樹脂部品36が変形した。
【0095】
損失正接tanδのピーク温度が131℃以上である場合は、溶融したリサイクル材料である樹脂成形体の弾性が強く、金型内部において、溶融樹脂が十分に流動せず、いわゆるショートショット現象、および基材成形体39表面に波紋が形成されるいわゆるフローマーク現象が発生し、成形性における不良発生率が増大した。
【0096】
極大値Xが1.0以下である場合は、溶融したリサイクル材料である樹脂成形体の弾性が強く、金型内部において、溶融樹脂が十分に流動せず、いわゆるショートショット現象、および基材成形体39表面に波紋が形成されるいわゆるフローマーク現象が発生し、成形性における不良発生率が増大した。
【0097】
極大値Xが10以上である場合は、型開きする際に射出した樹脂が、可動側の射出成型用金型34から離型せず、型開き後に固定側の射出成型用金型33と可動側の射出成型用金型34との双方に溶融樹脂が付着する、いわゆる離型不良が発生した。
【0098】
接着剤32の軟化点をMzが基材の軟化点Mxよりも高い場合には、接着剤32が十分に溶融せず、加飾材31と射出成形樹脂部品36間の接着性が低下したために、成形後に加飾材31が射出成形樹脂部品36から剥離した。
【0099】
加飾材の軟化点をMyが基材の軟化点をMxよりも低い場合は、加飾材31が基材が有する熱により溶融し、放冷時に結晶化したため白濁して写像性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のように、本発明にかかるフィルム加飾部品の製造方法等は、外観品位を要求される用途に適用できる。例えば、掃除機、エアコン、温水洗浄便座、冷蔵庫、洗濯機、などの家電製品に利用可能である。
【0101】
また、本発明の構成は、特に、意匠面・裏面ともに人の目に触れ、人が触ることができる、かつ、別部品でフィルムの端部を覆い隠せない、フィルム端部に人が触れる部品に好適に用いられる。例えば、掃除機の蓋や、エアコンのパネルなどに利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
31 加飾材
32 接着剤
33 固定側の射出成型用金型
34 可動側の射出成型用金型
35 射出ゲート
36 射出成形樹脂部品
37 樹脂フィルム
39 基材成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクル材料である樹脂を用いた基材成形体と加飾材と接着剤とを用いて加飾部品を製造する製造方法において、リサイクル材料からなる前記基材成形体の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、Xは条件(1)を満たすものとし、かつ、基材の軟化点をMx、加飾材の軟化点をMy、接着剤の軟化点をMzとした場合に、Mx、MyおよびMzは条件(2)を満たすものとし、リサイクル材料である樹脂成形体を溶融する工程と、金型内に加飾材を配置する工程と、溶融した前記樹脂成形体を前記金型に射出する工程と、を含み、前記加飾材は前記接着剤を介して前記基材の表面に貼付されることを特徴とする加飾部品の製造方法。
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
条件(2) Mz<Mx<My
【請求項2】
さらに、前記加飾材を成形する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の加飾部品の製造方法。
【請求項3】
前記加飾材は加飾フィルムと加飾ベースとから構成され、
さらに、前記加飾フィルムを前記基材から離脱する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の加飾部品の製造方法。
【請求項4】
リサイクル材料である樹脂成形体を用いた基材と、前記基材を覆う加飾材と、前記成形体と前記加飾材との間に接着剤とを有する加飾部品であって、雰囲気温度0℃を起点とし、200℃までの範囲について毎分2度の速度で昇温させながら連続的に測定した、リサイクル材料からなる前記基材成形体の、損失弾性率G”を貯蔵弾性率G’で除した損失正接tanδが、横軸を測定温度、縦軸を損失正接tanδとして表した場合に、測定温度が100℃を超えて130℃以下の範囲に極大値Xを持ち、Xは条件(1)を満たすものとし、かつ、前記基材の軟化点をMx、前記加飾材の軟化点をMy、前記接着剤の軟化点をMzとした場合に、Mx、MyおよびMzは条件(2)を満たすことを特徴とする加飾部品。
条件(1) a<X<b (a=1.0、b=10)
条件(2) Mz<Mx<My
【請求項5】
請求項4に記載の加飾部品を用いたことを特徴とする家電製品。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192637(P2012−192637A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58834(P2011−58834)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】