説明

フィルム型線量計及びフィルム型線量計による線量計測方法

【課題】より簡便に精度よく線量を計測可能としたフィルム型線量計及びフィルム型線量計による線量計測方法を提供する。
【解決手段】フィルム型線量計に放射線を照射して、感光層の厚みバラツキに対応した濃度ムラをフィルム型線量計に生じさせるステップと、濃度ムラの濃度分布データを第1データとして計測するステップと、線量の計測対象の放射線を濃度ムラが生じたフィルム型線量計に照射して感光層を感光させるステップと、感光した感光層の濃度分布データを第2データとして計測するステップと、第2データと第1データの差分をとって実質的な感光量データを抽出するステップとにより、感光層の厚みバラツキを排除した感光量データから放射線の線量を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム型線量計及びフィルム型線量計による線量計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場においては、X線などの放射線を利用して人体の内部の撮影を行い、人体の内部における異常の検出や、治療の進行度合いの確認などが行われている。
【0003】
特に、昨今では、診断分野における放射線の利用において、IVR(interventional radiology)のように、放射線を用いて人体を透過観察しながらカテーテルやガイドワイヤの挿入、あるいは穿刺針による治療が行われており、このような場合、患者は、比較的長時間、放射線に曝されるため、施術中における被ばく量が安全な範囲となっていることを確認することが求められている。しかも、この場合、施術中に放射線量を計測しなければならないため、施術の妨げとなることなく、放射線量を計測することが求められている。
【0004】
このような場合の線量の計測方法として、フィルム型線量計を用いた計測方法が知られている。特に、フィルム型線量計の一つであるラジオクロミックフィルムは軽元素で構成されていることにより、人体組織等価型であるので、人体組織等価型でないフィルム型線量計が放射線のエネルギーによる感度補正が必要になるのに対して、感度補正が不要であり、施術の妨げとなることなく線量を計測できるという利点があることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
なお、ラジオクロミックフィルムは低感度であるために、そのままではIVRや同類の術式には用いることができなかったが、様々な感度の改善手法が提案されたことにより、有力な計測方法となってきている。
【特許文献1】特表2007−003463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ラジオクロミックフィルムをはじめとするフィルム型線量計には、依然として、以下のような問題が残っていた。
【0007】
すなわち、フィルム型線量計では、放射線によって感光し、放射線量に応じて所定の濃度となる膜状の感光層が設けられているが、この感光層は、ほとんどの場合において均一な厚みとはなっておらず、無視することが困難な程度の厚みバラツキを有していた。
【0008】
すなわち、感光層の厚い領域では、感光層の薄い領域よりも感光反応を生じる元素の実質的な量が多くなっているため、同じ線量の放射線が照射されたとしても、感光層の厚い領域の方が感光層の薄い領域よりも濃くなって、あたかも放射線の線量が大きいかのような結果を示す場合があった。したがって、フィルム型線量計の濃度からそのまま線量を計測した場合には、感光層の厚みバラツキ分の誤差が含まれたままであるので、正しく計測できていないおそれがあった。
【0009】
そこで、感光層の厚みバラツキの影響を緩和するために、複数枚のフィルム型線量計を使用して、各フィルム型線量計での計測値の平均値を用いることが行われているが、各フィルム型線量計の処理に時間がかかるとともに、取り扱いが繁雑となるという不具合があった。
【0010】
本発明者らは、このような現状に鑑み、より簡便に精度よく線量を計測可能とすべく研究を行って、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のフィルム型線量計では、放射線によって感光する膜状の感光層を有するフィルム型線量計において、感光層にあらかじめ放射線を照射して感光させ、感光層の厚みバラツキに対応した濃度ムラを生じさせた。
【0012】
また、本発明の線量計測方法では、放射線によって感光する膜状の感光層を有するフィルム型線量計で放射線の線量を計測する線量計測方法において、フィルム型線量計に放射線を照射して、感光層の厚みバラツキに対応した濃度ムラをフィルム型線量計に生じさせるステップと、濃度ムラの濃度分布データを第1データとして計測するステップと、線量の計測対象の放射線を濃度ムラが生じたフィルム型線量計に照射して感光層を感光させるステップと、感光した感光層の濃度分布データを第2データとして計測するステップと、第2データと第1データの差分をとって実質的な感光量データを抽出するステップとを有することとした。
【0013】
さらに、本発明の線量計測方法では、以下の点にも特徴を有するものである。すなわち、
(1)第1データから、感光層の厚みバラツキを補正するための補正データを生成し、この補正データを用いて感光量データを補正すること。
(2)フィルム型線量計に設定した基準点の濃度に、基準点以外の地点の濃度を一致させるために、基準点以外の地点の濃度に乗ずる補正係数を補正データとすること。
(3)感光層において最も感光した部分の濃度に、それ以外の感光量となっている部分の濃度を嵩上げして全体として均一な濃度とする嵩上げ率を補正データとすること。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、感光層にあらかじめ放射線を照射して感光させ、感光層の厚みバラツキに対応した濃度ムラを生じさせたフィルム型線量計としたことにより、感光層の厚みバラツキのデータを取得することができるので、濃度ムラが生じたフィルム型線量計に放射線を照射してさらに感光させた後、感光層の厚みバラツキのデータに基づいて感光量を補正することにより、感光層の厚みバラツキに影響されない線量の計測を可能として、線量の計測精度の向上を図ることができる。
【0015】
したがって、濃度ムラを生じさせたフィルム型線量計では、濃度ムラに基づいて感光量を補正することにより、フィルム型線量計のどの部分を用いても同量の線量を計測することができ、線量計測の再現性を向上させることができる。
【0016】
しかも、フィルム型線量計のどの部分を用いても同量の線量を検出できることによって、従来であれば線量の計測ごとに作成が必要であった濃度−線量校正曲線を援用できるので、濃度−線量校正曲線の作成作業を不要とすることができ、より簡便に線量計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のフィルム型線量計及びフィルム型線量計による線量計測方法では、フィルム型線量計に設けられている放射線によって感光する膜状の感光層にあらかじめ放射線を照射し、感光層の厚みバラツキに対応した濃度ムラを生じさせているものである。なお、本発明においては、「放射線」とはX線やγ線などだけでなく、紫外線や可視光線なども含み、フィルム型線量計は所要の波長の光に感光する感光層を備えている。
【0018】
フィルム型線量計では、通常、不必要な感光を防止するために、線量の計測が行われるまではできるだけ放射線に曝されない状態で保存することが求められており、線量の計測前に放射線を照射することは禁忌行為とされていた。
【0019】
しかしながら、本発明者らは、フィルム型線量計に均一に放射線を照射して感光層を感光させることにより、フィルム型線量計に感光層の厚みバラツキに対応した濃度ムラが生じることを知見した。
【0020】
すなわち、濃度ムラにおける濃度分布のデータを感光層の厚みバラツキのデータとして用いて、線量の検出対象である放射線の照射後におけるフィルム型線量計の濃度を補正することにより実質的な感光量データを抽出して、放射線量のより正しい計測を可能とすることができる。
【0021】
例えば、図1(a)に示すように、感光層を何ら感光させていないフィルム型線量計に均一な放射線を照射することにより、図1(b)に示すように、感光層の厚みに応じた濃度ムラが生じたとする。図1中、一点鎖線は、矩形状としたフィルム型線量計の上下方向の略中間に横断状に設定した濃度の被計測部を示している。
【0022】
図2は、図1(b)の状態におけるフィルム型線量計の感光状態、すなわち、フィルム型線量計の濃度の計測結果の模式図である。ここで、フィルム型線量計の幅寸法をLとしている。説明の便宜上、図1(b)のフィルム型線量計では、図2に示すようにフィルム型線量計の幅方向に一定のグラデーションで濃度ムラを生じているものとする。このように、フィルム型線量計に、感光層の厚みバラツキに応じた濃度ムラを生じさせるために行う放射線の照射を先行照射と呼ぶこととする。
【0023】
フィルム型線量計の濃度は、フィルム型線量計用の既知のスキャナ装置、あるいは発光部と受光部を備えた既知の濃度計を用いて容易に計測することができる。
【0024】
フィルム型線量計には、図2に示す濃度分布データに応じた感光層の厚みのバラツキが生じていることとなっている。この濃度分布データが第1データである。
【0025】
次いで、図1(b)に示すように先行照射によって濃度ムラが生じたフィルム型線量計に、線量の計測対象の放射線を照射して感光層を感光させることにより、図1(c)に示すようにフィルム型線量計はさらに感光する。ここで、線量の計測対象の放射線の照射を本照射と呼ぶこととする。
【0026】
説明の便宜上、本照射では、フィルム型線量計の中央部分が最大の線量となるように照射していることとする。しかし、フィルム型線量計には、先行照射による感光層の感光が生じていることにより、本照射によって感光層がさらに感光されて、図3に示す濃度分布として濃度が計測される。この濃度分布データが第2データである。
【0027】
図1(d)は、図1(c)における濃度分布の各地点での濃度データと、第1(b)における濃度分布の各地点での濃度データとの差分をとって生成した濃度分布を示しており、図4に示す濃度分布データが得られることとなる。すなわち、フィルム型線量計の中央部分が最大の線量となる本照射による感光の結果が得られることとなる。
【0028】
このようにして得られた濃度分布を用いて放射線の線量を特定することにより、フィルム型線量計における感光層の厚みバラツキの影響を排除でき、本照射における濃度変化を正しくとらえることができる。
【0029】
図5は、先行照射後のフィルム型線量計における被計測部の濃度の実測データ、すなわち第1データであり、図6は、先行照射が施されたフィルム型線量計に対して本照射を行ったフィルム型線量計における被計測部の濃度の実測データ、すなわち第2データであり、図7は、第1データと第2データとの差分データである。ここで、フィルム型線量計にはラジオクロミックフィルムを用いた。
【0030】
第1データ及び第2データでは、全体的に右肩上がりのデータとなっているが、差分データでは右肩上がりとなっていないことが判る。このことからも、第1データであらわれている濃度ムラが、感光層の厚みバラツキに起因していることが明らかであると考えられる。
【0031】
したがって、差分データは、フィルム型線量計の感光層が本照射で実質的に感光した感光量データとして扱うことができ、この感光量データから線量をより正しく計測することができる。ここで、線量の計測とは、所定のデータベースに基づいて、フィルム型線量計の感光層の感光状態から照射された放射線の線量を特定することである。
【0032】
このように差分データを用いることにより、フィルム型線量計における感光層の厚みバラツキを無視することができるので、例えばラジオクロミックフィルムなどのように適当な大きさに切り出して使用されるフィルム型線量計では、切り出し方によって感度バラツキが生じることがなく、いずれのラジオクロミックフィルムであっても確実に線量を計測可能とすることができる。つまり、フィルム型線量計による線量計測の再現性を向上させることができる。
【0033】
特に、線量計測の再現性が向上することによって、これまで線量の計測ごとに行っていた濃度−線量校正曲線の作成が必ずしも必要でなくなり、一般的に大判状のフィルムとして供給されるフィルム型線量計のどの部分を用いても、線量の計測結果をほぼ同じ値とすることができる。したがって、濃度−線量校正曲線の作成は、フィルム型線量計の製造ロットごとに少なくとも1回行えばよく、同一の製造ロットのフィルム型線量計では濃度−線量校正曲線を援用し合うことにより、濃度−線量校正曲線の作成作業を不要として作業効率を向上させることができる。
【0034】
フィルム型線量計に濃度ムラを生じさせる先行照射は、フィルム型線量計の感光層を感光させることができる適宜の放射線の放射装置を用いることができ、例えば、フィルム型線量計がラジオクロミックフィルムの場合であれば、波長360nm付近の紫外光を照射可能な紫外線ランプなどを用いて先行照射用の照射装置を構成することができる。なお、ラジオクロミックフィルムが紫外線に対する防護層を備えている場合には、波長405nm付近の近紫外光を照射可能な光源などを用いて先行照射用の照射装置を構成することができる。したがって、照射装置を比較的低コストとすることができるとともに、フィルム型線量計を比較的均一に感光させることができる。
【0035】
前述したように、線量を計測する際には、フィルム型線量計に先行照射を行ってフィルム型線量計に感光層の厚みバラツキに対応した濃度ムラを生じさせているが、フィルム型線量計には、製造段階においてあらかじめ先行照射を行って濃度ムラを生じさせておいてもよい。
【0036】
このようにフィルム型線量計にはあらかじめ先行照射を行って濃度ムラを生じさておくことにより、フィルム型線量計の使用者は、先行照射の手間を省くことができる。
【0037】
なお、先行照射後、例えば2、3日以上の比較的長期間、本照射が行われない場合には、フィルム型線量計の感光層における感光状態が変化する場合があるので、濃度ムラにおける濃度分布データの計測、すなわち第1データの計測は、本照射の直前に行うことが望ましい。また、第1データと第2データの計測は、それぞれ同一のスキャナ装置あるいは濃度計を用いて行うことが望ましい。
【0038】
なお、スキャナ装置あるいは濃度計などによる第1データ及び第2データの計測結果は、スキャナ装置あるいは濃度計などの計測装置の出力部と接続したパーソナルコンピュータなどの電子計算機に入力し、この電子計算機によって第1データと第2データとの差分をとって感光量データの抽出を行っている。
【0039】
そして、電子計算機では、感光量データから放射線の線量を計測している。このとき、電子計算機は、あらかじめ入力された濃度−線量校正曲線に基づいて、感光量データから線量を計測している。
【0040】
ここで、電子計算機は、第1データと第2データとの差分である感光量データから直ちに放射線の線量を計測するのではなく、第1データから感光層の厚みバラツキを補正するための補正データを生成して、この補正データに基づいて感光量データを補正してもよい。
【0041】
すなわち、例えば、第1データが図2に示すようにフィルム型線量計の幅方向に一定のグラデーションで濃度ムラを生じている場合に、図8に示すように、フィルム型線量計にあらかじめ基準点を設定し、この基準点以外の地点の濃度に補正係数を乗じることにより基準点の濃度とする補正係数を補正データとして生成し、この補正データで感光量データを補正することにより、感光層の厚みバラツキによる本照射時の感光層の感光のバラツキを補正可能としてもよい。
【0042】
あるいは、図9に示すように、感光層において最も感光した部分の濃度に、それ以外の感光量となっている部分の濃度を嵩上げして全体として均一な濃度とする嵩上げ率を補正データとして生成し、この補正データで感光量データを補正することにより、感光層の厚みバラツキによる本照射時の感光層の感光のバラツキを補正可能としてもよい。
【0043】
このように、感光量データをフィルム型線量計の感光層における厚みバラツキによって補正することにより、感光量データの信頼性をさらに向上させることができ、放射線の線量をより正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)先行照射前のフィルム型線量計の説明図、(b)先行照射後のフィルム型線量計の説明図、(c)本照射後のフィルム型線量計の説明図、(d)本照射後の濃度と先行照射後の濃度との差分として得られる濃度分布の説明図である。
【図2】図1(b)の場合における被計測部の濃度の概略的なグラフである。
【図3】図1(c)の場合における被計測部の濃度の概略的なグラフである。
【図4】図1(d)の場合における被計測部の濃度の概略的なグラフである。
【図5】先行照射後のフィルム型線量計における被計測部の濃度の実測データである。
【図6】本照射後のフィルム型線量計における被計測部の濃度の実測データである。
【図7】図5の第1データと図6の第2データとの差分データである。
【図8】補正データの説明図である。
【図9】補正データの説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線によって感光する膜状の感光層を有するフィルム型線量計において、
前記感光層にあらかじめ放射線を照射して感光させ、前記感光層の厚みバラツキに対応した濃度ムラを生じさせていることを特徴とするフィルム型線量計。
【請求項2】
放射線によって感光する膜状の感光層を有するフィルム型線量計で放射線の線量を計測する線量計測方法において、
前記フィルム型線量計に放射線を照射して、前記感光層の厚みバラツキに対応した濃度ムラを前記フィルム型線量計に生じさせるステップと、
前記濃度ムラの濃度分布データを第1データとして計測するステップと、
線量の計測対象の放射線を前記濃度ムラが生じた前記フィルム型線量計に照射して前記感光層を感光させるステップと、
感光した前記感光層の濃度分布データを第2データとして計測するステップと、
前記第2データと前記第1データの差分をとって実質的な感光量データを抽出するステップと
を有する線量計測方法。
【請求項3】
前記第1データから、前記感光層の厚みバラツキを補正するための補正データを生成し、この補正データを用いて前記感光量データを補正することを特徴とする請求項に記載の線量計測方法。
【請求項4】
前記補正データは、前記フィルム型線量計に設定した基準点の濃度に、前記基準点以外の地点の濃度を一致させるために、前記基準点以外の地点の濃度に乗ずる補正係数であることを特徴とする請求項3に記載の線量計測方法。
【請求項5】
前記補正データは、前記感光層において最も感光した部分の濃度に、それ以外の感光量となっている部分の濃度を嵩上げして全体として均一な濃度とする嵩上げ率であることを特徴とする請求項3に記載の線量計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−47548(P2009−47548A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213903(P2007−213903)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】