説明

フィルム延伸装置

【課題】縦方向に内部応力を発生させずにフィルムを横方向に延伸できるフィルム延伸装置を提供する。
【解決手段】フィルム2の両側端を把持して搬送し、フィルム2を搬送方向と直角方向に延伸する複数のクリップ7を有するフィルム延伸機において、クリップ7と同期してフィルム2の搬送方向に移動しながらクリップ7の間で上下移動する弛緩部材10を設ける。弛緩部材10は、クリップ7がフィルム2の両側端に配置され、且つ、フィルム2を把持する前に、クリップ7がフィルム2を把持する面よりも下方に突出し、クリップ7がフィルム2を把持した後に上方に後退する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載されているように、フィルムの両側に2本の無端チェインを配し、無端チェインに等間隔に設けたクリップでフィルムの両側端を把持して搬送しながら、両無端チェイン間の距離を拡げることでフィルムを横方向に延伸するフィルム延伸装置(テンタ)が公知である。
【0003】
一般に、帯状のフィルムを長手方向に引き延ばすと、フィルムの幅が細くなる。これと同様に、従来のフィルム延伸装置でフィルムを横方向に延伸すると、縦方向に収縮しようとする内部応力を生じる。このような縦方向の内部応力は、フィルムの分子配列などに影響を及ぼし、ときとして好ましくない特性を付与することになるという問題があった。
【0004】
また、特許文献2には、クリップの間でフィルムを弛ませて把持することで、横方向に延伸する際に縦方向にフィルムを収縮させることで、縦方向に内部応力を生じさせないフィルムの製造方法が記載されており、クリップの速度よりも速い速度でフィルムを送り込むことでフィルムに弛みを持たせる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示されている方法では、特に、均一な延伸のためにクリップの間隔を小さくした場合、クリップでフィルムを把持するタイミングのずれなどによってフィルムの弛み量がばらつき、フィルムの延伸状態が不均一になりやすいという問題があった。
【特許文献1】特開平5−319648号公報
【特許文献2】特開平5−241021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、前記問題点に鑑みて、本発明の課題は、縦方向に内部応力を発生させずにフィルムを横方向に延伸できるフィルム延伸装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明によるフィルム延伸装置は、フィルムの両側端を把持して搬送し、前記フィルムを前記搬送方向と直角方向に延伸する複数のクリップと、前記クリップと同期して前記フィルムの搬送方向に移動しながら前記クリップの間で上下移動する弛緩部材とを有し、前記弛緩部材は、前記クリップが前記フィルムの両側端に配置され、且つ、前記フィルムを把持する前に、前記クリップが前記フィルムを把持する面よりも下方に突出し、前記クリップが前記フィルムを把持した後に上方に後退するものとする。
【0008】
この構成によれば、弛緩部材が前記クリップの間にあるフィルムを押し下げることで、クリップの間でフィルムに弛みを持たせるように上流側のフィルムを一定量引き込むことができる。この弛みによって、フィルムを横方向に延伸した際の縦方向の縮を吸収するので、フィルムに縦方向の内部応力を生じさせない。また、フィルムの弛み量は、クリップと弛緩部材との位置関係によって決定されるのでばらつきが小さく、フィルムを均一に延伸ができる。
【0009】
また、本発明のフィルム延伸装置において、前記弛緩部材は、前記クリップの上方で、前記クリップの搬送方向と直角な軸周りに回転する回転体の外周に、それぞれ突出するように配列されてもよい。
【0010】
この構成によれば、簡単な機構で弛緩部材をクリップの間で上下させ、フィルムに弛みを持たせることができる。
【0011】
また、本発明のフィルム延伸装置において、前記弛緩部材は、前記フィルムの面と平行で、搬送方向に直角な弛緩棒部を有してもよい。
【0012】
この構成によれば、弛緩部材をクリップの内側からクリップの間に延伸させることで、弛緩部材を駆動する機構とクリップとの干渉を避けることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明のフィルム延伸装置は、弛緩部材によってフィルムを弛ませた状態でクリップによってフィルムを把持するので、横方向の延伸に付随する縦方向の収縮を吸収してフィルムに縦方向に内部応力を生じさせない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるフィルム延伸装置1の平面図である。フィルム延伸装置1において、フィルム2は、原反リール3からテンションローラ4およびガイドローラ5を通して2本の無端チェイン6の間に送り込まれる。無端チェイン6は、一定の間隔で多数のクリップ7が設けられており、フィルム2の両側端を把持して矢印方向に搬送すると共に、フィルム2を横方向に延伸して拡幅する。無端チェイン6の上方には、無端チェイン6の進行方向に直角な軸8周りに回転し、フィルム2の両側端を把持するクリップ7より内側に位置する2つの円盤状の回転体9が設けられており、各回転体9の外周部には各クリップ7の間に突出する弛緩部材10が設けられている。クリップ7に把持されて搬送され、拡幅されたフィルム2は、ガイドローラ11およびテンションローラ12を通して巻き取りリール13に巻き取られる。
【0015】
図2に、フィルム2中心から見た回転体9を示す。回転体9は、弛緩部材10の周速がフィルム2を搬送する無端チェイン6、つまり、クリップ7の速度と一致するように同期して回転する。弛緩部材10は、最も低い位置にあるとき、2つのクリップ7の中央に位置する。
【0016】
図3に、軸8の軸心を通る垂直断面を示し、クリップ7と最下点における弛緩部材10との関係を説明する。クリップ7は、上面にフィルム2が載置される固定片部7aと、固定片部7aの上方に延伸する支持腕部7bと、支持腕部7bの先端に把持軸7cで枢支され、固定片部7の上面に当接可能な把持片7dを有し、把持片7dは、上方に突接されたレバー部7eを案内することによって、固定片部7aとの間にフィルム2を把持(実線で図示)、或いは、固定片部7aから離間してフィルム2を開放(二点鎖線で図示)するように回動させられる。
【0017】
弛緩部材10は、丸棒を直角に折り曲げてなり、円盤状の回転体9の外周から径方向に突出する支持部10aと、軸8と平行な、換言すると、フィルム2の面と平行で無端チェイン6による搬送方向に直角な弛緩棒部10bとからなる。最下点において、弛緩部材10の下端、つまり、弛緩棒部10bの下面は、クリップ7の固定片部7aの上面、つまり、フィルム2が把持される面よりも下方に下降している。
【0018】
図4に、回転体9の回転による把持部材10の弛緩棒部10bのクリップ7の間での上下移動を詳しく示す。クリップ7は、無端チェイン6によって、矢印方向に進行する。図の右側の固定片部7aがフィルム2の側端の下に位置し、把持片7dがフィルム2を開放している状態のクリップ7の間に、回転体9の回転によって、弛緩部材10の弛緩棒部10bが下降してくる。弛緩棒部10bは、フィルム2に当接し、さらに下降することで、フィルム2を押し下げるが、前後が固定片部7aで支持されているので、2つのクリップ7の間で、フィルム2を下側に弛ませることになる。この弛んだ分のフィルム2は、下流のクリップ7がフィルム2を把持しているので、上流の原反リール3から引き出され、無端チェイン6に対してオーバーフィード(過供給)されることになる。
【0019】
弛緩部材10が最も低い位置に達したとき、上流側直近のクリップ7は、把持片7dを閉じてフィルム2の側端部を把持する。その後、弛緩部材10は上昇し、クリップ7の間から離脱するが、クリップ7は、フィルム2を弛んだ状態に把持したまま搬送する。
【0020】
その後、フィルム2の両側の無端チェイン6は、互いの間隔を広げ、フィルム2を横方向に延伸し、拡幅する。このとき、フィルム2は、縦方向に収縮するが、クリップ7の間の弛みが収縮分を補い、フィルム2に縦方向の内部応力を発生させない。これにより、フィルム2を、理想的に横方向に1軸延伸することができる。
【0021】
以上のように、本実施形態のフィルム延伸装置1では、加工が容易で精度の高い円盤状の回転体9に支持部10aと弛緩棒部10bとからなる弛緩部材10を固定した構造により、クリップ7の内側に回転体9を配置して回転体9とクリップ7との干渉を防止しつつ、弛緩部材10の弛緩棒部10bだけをクリップ7の間の正確な位置に延伸させることができる。また、弛緩部材10が丸棒であるのでフィルム2を傷つけずに弛ませることができる。
【0022】
また、フィルム延伸装置1において、軸8の高さを微調整すれば、フィルム2の弛み量(オーバーフィード量)を調節することができ、クリップ7で把持されないフィルム2の長さを必要最小限にすることができ、フィルム2の延伸を確実にできる。
【0023】
以上の実施形態において、弛緩部材10は、回転体9の外周に設けられているが、クリップ7と同期してフィルム2の搬送方向に移動しながらクリップ7の間で上下できればよく、フィルム2の上方で周回する無端チェインや、順番にフィルム2の搬送方向に移動する複数の直動装置など、如何なる機構で駆動されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のフィルム延伸装置の概略平面図。
【図2】図1のフィルム延伸装置の回転体付近のフィルム中心での断面図。
【図3】図1のクリップと弛緩部材のフィルム搬送方向から見た断面図。
【図4】図1のクリップをフィルム中心から見た側面図。
【符号の説明】
【0025】
1 フィルム延伸装置
2 フィルム
6 無端チェイン
7 クリップ
8 軸
9 回転体
10 弛緩部材
10b 弛緩棒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの両側端を把持して搬送し、前記フィルムを前記搬送方向と直角方向に延伸する複数のクリップと、
前記クリップと同期して前記フィルムの搬送方向に移動しながら前記クリップの間で上下移動する弛緩部材とを有し、
前記弛緩部材は、前記クリップが前記フィルムの両側端に配置され、且つ、前記フィルムを把持する前に、前記クリップが前記フィルムを把持する面よりも下方に突出し、前記クリップが前記フィルムを把持した後に上方に後退することを特徴とするフィルム延伸装置。
【請求項2】
前記弛緩部材は、前記クリップの上方で、前記クリップの搬送方向と直角な軸周りに回転する回転体の外周に、それぞれ突出するように配列されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルム延伸装置。
【請求項3】
前記弛緩部材は、前記フィルムの面と平行で、搬送方向に直角な弛緩棒部を有することを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム延伸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−98782(P2007−98782A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292095(P2005−292095)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(390002015)ヒラノ技研工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】