説明

フェノールノボラック樹脂、その製造方法、それを用いたエポキシ樹脂組成物および硬化物

【課題】 低溶融粘度、高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性などに優れた新規なフェノールノボラック樹脂を提供する。
【解決手段】 一般式(1): 式中、Rは一般式(2): で示されるビフェニリレン基及びキシリレン基から選択される少なくとも1の2価のアリーレン基を表し、更に一般式(3): 式中、Rは、ヒドロキシル基又は炭素原子数1〜6のアルキル基である、で示される構成単位を含んでいてもよく、m及びnは、m/nが0.04〜20を満たす数であり、また、R、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ、ヒドロキシル基又は炭素原子数1から6個のアルキル基であり、p、q及びrは、それぞれ、0〜2の整数である、で示される構成単位を有し、150℃における溶融粘度が20〜100mPa・sである低軟化点フェノールノボラック樹脂に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種バインダー、コーティング材、積層材、成形材料等に有用な低軟化点フェノールノボラック樹脂、その製造方法およびそれを用いたエポキシ樹脂硬化物に関する。特に半導体封止用、プリント基板絶縁用などのエポキシ樹脂の硬化剤に好適な、低溶融粘度、高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性を兼ね備えた低軟化点フェノールノボラック樹脂、その製造方法およびそれを用いたエポキシ樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料、特に半導体封止用、プリント基板絶縁用などのエポキシ樹脂硬化剤として、各種のフェノール系重合体、例えばフェノールノボラック型樹脂、フェノールアラルキル樹脂等が使用されている。しかし近年、半導体パッケージの小型・薄型化、多ピン化、高密度実装化に伴い、より高性能な樹脂が求められている。
【0003】
BGA(Ball Grid Array)などの片面封止パッケージに用いた場合、パッケージの反りが小さいという優れた性能を有する。しかし最近の半導体パッケージでは、例えばBGAの場合、さらなるファインピッチ化や一括封止タイプになり、反りが小さいことの他に流動性が高いこと、基板表面との密着性が良いことなどが求められている。また低溶融粘度であれば流動性や密着性が向上し、フィラーも多く配合できるので半田耐熱性や耐水性の面でも有利になる。即ちこれら封止材への要求特性を満たすために、低溶融粘度、高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性を兼ね備えた低軟化点フェノールノボラック樹脂の出現が強く望まれている。
【0004】
またビルドアップ基板の層間絶縁材にも、耐水性に優れ、高ガラス転移温度で接着性のよいエポキシ樹脂組成物が望まれており、これを達成するために、元々耐水性や保存安定性に優れたフェノール系硬化剤で、低溶融粘度、高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性を兼ね備えたものが望まれている。
【0005】
電子材料用樹脂材料にはエポキシ樹脂が多く用いられ、そのエポキシ樹脂の硬化剤としては各種のフェノ−ルノボラック縮合体、アミン類、酸無水物が使用される。特に半導体(IC)封止用エポキシ樹脂の硬化剤としては、耐熱性、信頼性の面からフェノ−ル性ノボラック縮合体が主に用いられる。近年、ICの高集積化、パッケ−ジの小型、薄型化、また表面実装方式の適用が進み、その封止用材料には耐熱衝撃性および表面実装作業時のソルダリング耐熱性を一層向上させることが要求されている。ソルダリング耐熱性を左右する大きな要因として、封止用樹脂材料の吸湿性が挙げられる。すなわち、吸湿した封止用材料は表面実装作業時の高温下で水分の気化による内圧が発生し、内部剥離やパッケ−ジクラックが発生してソルダリング耐熱性が劣る。したがって、エポキシ樹脂硬化剤として使用されるフェノ−ル性ノボラック縮合体は低吸湿性であることが特に要求される。
【0006】
封止用材料の吸湿性を低下する方法として、充填材として封止用樹脂材料に充填される非吸湿性のシリカなどの充填材を増量する方法がある。この場合、ベ−スの樹脂材料の粘度が高いと充填材の高充填性が損なわれるので、硬化剤として用いるフェノール性ノボラック縮合体の粘度が低いことが望まれる。また、封止用材料には耐熱性、高強度、強靭性、難燃性、接着強さなどが求められる。封止用エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノ−ルノボラック縮合体を用いた従来の封止用樹脂材料では、吸湿性が比較的高く、また他の物性の面からも十分に満足できるものではなかった。
【0007】
そこで、吸湿性、耐熱性、接着性、難燃性などを向上させるために各種のフェノ−ルノボラック縮合体が提案されている。例えば、o−クレゾ−ルなどのアルキルフェノ−ル類を用いたノボラック縮合体、また、1−ナフト−ルなどのナフト−ル類を用いたノボラック縮合体がある(例えば、特許文献1から3参照)。また、フェノ−ルの縮合剤としてジ(ヒドロキシプロピル)ビフェニルを用いたフェノ−ル性化合物が開示されており(特許文献4参照)、ビス(メトキシメチル)ビフェニル混合物を用いたフェノ−ルノボラック縮合体を提案している(特許文献5参照)。さらに、ホルムアルデヒドを有効に利用した電子部品封止用エポキシ樹脂成型材料(特許文献6参照)が開示されている。
しかし、さらに一層の吸湿性、耐熱性、接着特性、難燃性などが向上した材料が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−230017号公報
【特許文献2】特開平05−078437号公報
【特許文献3】特開平05−086156号公報
【特許文献4】特開平05−117350号公報
【特許文献5】特開平08−143648号公報
【特許文献6】特開昭63−022824号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】D.W.van Krevelen,Polymer,16,61 5(1975)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、低溶融粘度、高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性などに優れ、特に電気および電子産業用、電子部品の封止用、積層板材料用のエポキシ樹脂用として好適に用いられる新規なフェノールノボラック樹脂およびこのフェノールノボラック樹脂をエポキシ化したエポキシ化フェノールノボラック縮合体およびそれをエポキシ樹脂用硬化剤と反応して得られたエポキシ樹脂硬化物を提供することにある。
【0011】
しかし、低吸湿化のためOH当量を上げるために、ビフェニル基の導入率を上げると、溶融粘度が上昇する。その結果、溶融粘度の上昇により流動性が悪く、そのため成形上のトラブルを引き起こす。溶融粘度を下げるために分子量を小さくしたりすると、ガラス転移温度が下がるとともに成形時の硬化性が低下する。すなわち、低吸湿性、低溶融粘度、硬化性と高ガラス転移温度の両立は原理的に難しいとされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記アリール基含有架橋基を持つフェノールノボラック樹脂の低吸湿性、高密着性、耐熱性物性を生かし、かつ溶融粘度が低いフェノール系硬化剤を得るために鋭意検討した結果、分子内の架橋基にアルキレン型重合体単位と、フェノール・ホルムアルデヒド重合体単位を共に有し、両者の重合度の比を特定範囲にすることにより、低溶融粘度で低吸湿性、高密着性、耐熱性の優れた低軟化点フェノールノボラック樹脂が得られることを見出し本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、下記一般式(1):
【0014】
【化1】

【0015】
式中、Rは下記一般式(2):
【化2】

で示されるビフェニリレン基及びキシリレン基から選択される少なくとも1の2価のアリーレン基を表し、更に下記一般式(3):
【0016】
【化3】

式中、Rは、ヒドロキシル基又は炭素原子数1〜6のアルキル基である、
で示される構成単位を含んでいてもよく、m及びnは、m/nが0.04〜20を満たす数であり、好ましくはm/nが0.05〜9であり、また、R、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ、ヒドロキシル基又は炭素原子数1から6個のアルキル基であり、p、q及びrは、それぞれ、0〜2の整数である、
で示される構成単位を有し、150℃における溶融粘度が20〜100mPa・s、好ましくは25〜90mPa・sであるである低軟化点フェノールノボラック樹脂に関する。
【0017】
また、本発明は、フェノール類、下記一般式(4):
【0018】
【化4】

式中、Xはハロゲン原子、ヒドロキシル基又は炭素原子数1〜6のアルコキシル基を表す、
で示される置換ビフェニレン化合物及び置換ベンゼン化合物の少なくとも1種、及びホルムアルデヒドを、酸触媒の存在下で縮合させることを特徴とする上記式(1)で示される低軟化点フェノールノボラック樹脂の製造方法に関する。
【0019】
本発明の製造方法においては、更に前記式(4)の化合物に加え、下記一般式(5):
【0020】
【化5】

式中、Rは、前記と同義である、
で示されるベンズアルデヒド化合物を含んでいてもよい。
【0021】
さらに本発明は、上記一般式(1)で示される低軟化点フェノールノボラック樹脂を含有するエポキシ樹脂硬化物に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の低軟化点フェノールノボラック樹脂は、分子内にアリール基含有架橋基型樹脂及びメチレン基架橋フェノールノボラック樹脂の重合単位を共に有し、両者の重合度及び両者の重合度の比が特定の範囲である構造とすることにより、エポキシ樹脂硬化剤に好適な、低溶融粘度、高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性を兼ね備えた樹脂である。これによりBGA等、最新の半導体封止材料に対応でき、エポキシ樹脂硬化剤として利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のフェノールノボラック樹脂は、上記一般式(1)で示されるアリール架橋基含有フェノールノボラック樹脂の重合単位のトータルをn個、メチレン架橋基を含有するフェノールノボラック樹脂の重合単位のトータルをm個有する共重合タイプの低軟化点フェノールノボラック樹脂であり、ブロック共重合体あるいはランダム共重合体であっても何ら問題はなく、一般式(1)において各重合単位の重合度のm/nの値が0.04〜20、好ましくは0.05〜9、更に好ましくは0.09〜6、最も好ましくは0.1〜2の樹脂で、かつ、150℃における溶融粘度が20〜100mPa・s、好ましくは25〜98mPa・sの樹脂である。また、上記構成単位(3)を含まない場合にも、各重合単位の重合度のm/nの値が0.04〜20、好ましくは0.05〜9、更に好ましくは0.09〜6、最も好ましくは0.1〜2の樹脂で、かつ、150℃における溶融粘度は20〜100mPa・sが好ましく、より好ましくは25〜98mPa・s、更に好ましくは30〜95mPa・sである。
【0024】
本発明の低軟化点フェノールノボラック樹脂においては、m/nが20を超えるとガラス転移温度が低くなり、さらに難燃性が低下する傾向が認められ好ましくない。一方、m/nが0.04未満では溶融粘度が上昇し流動性が悪くなり好ましくない。
【0025】
本発明で使用するフェノール類は、一般式(1)で記載のとおり、ベンゼン環にヒドロキシル基を少なくとも1個有し、R、RまたはRで置換されていてもよいフェノール類である。ここで、R、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、複数のR、R及びRは、それぞれ、同一でも異なっていてもよく、それぞれ、ヒドロキシル基または炭素原子数1から6個のアルキル基であり、p、q及びrは、それぞれ、0〜2の整数からなる置換基群である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖又は分岐の炭素原子数1〜6のアルキル基が挙げられ、これらは各種異性体をも含む。
これらのフェノール類は、単独でも2種以上を混合して用いても何ら問題はない。
具体的なフェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ヘキシルフェノール、キシレノール、ブチルメチルフェノール等の0〜2個の炭素原子数1〜6のアルキル基で置換された1価フェノールの他、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン等の2個のヒドロキシル基で置換された2価フェノールも挙げられるが、特にフェノールが好ましい。
【0026】
本発明でメチレン架橋基を形成する化合物としては、ホルムアルデヒドが好適に挙げられる。さらにホルムアルデヒドの形態としては、特に制限はないが、ホルムアルデヒド水溶液、及びパラホルムアルデヒド、トリオキサンなど酸存在下で分解してホルムアルデヒドとなる重合物を用いることもできる。
好ましくは、取り扱いの容易なホルムアルデヒド水溶液であり、市販品の42%ホルムアルデヒド水溶液をそのまま使用することもできる。
【0027】
本発明で使用するアリール基含有架橋基Rは、前記一般式(2)及び(3)で示される2価のアリーレン基が挙げられる。
このような2価のアリーレン基としては、例えば、4,4’−ビフェニリレン基、3,3’−ビフェニリレン基、2,2’−ビフェニリレン基、2,4’−ビフェニリレン基、1,4−キシリレン基、1,3−キシリレン基、1,2−キシリレン基等が挙げられる。
これらの中でも、本発明においては、特に、4,4’−ビフェニリレン基、1,4−キシリレン基が好ましい。
上記置換基に導くための具体的なアリール基含有架橋基形成用化合物としては、例えば、前記一般式(4)及び(5)で示される化合物が挙げられる。
前記一般式(4)及び(5)において、Xはハロゲン原子、ヒドロキシル基または炭素原子数1から6のアルコキシル基であり、Rはヒドロキシル基または炭素原子数1から6個のアルキル基である。ここで、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられるが、塩素原子が好ましい。アルコキシル基としては、例えば、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基、ペンチルオキシル基、ヘキシルオキシル基等の直鎖又は分岐の炭素原子数1〜6のアルコキシル基が挙げられ、これらは各種異性体をも含む。アルキル基としては、前記したものが挙げられる。
上記置換基に導くための具体的な化合物としては、例えば、4,4’−ジ(メトキシメチル)ビフェニル、2,2’−ジ(メトキシメチル)ビフェニル、2,4’−ジ(メトキシメチル)ビフェニル等のジ(アルコキシメチル)ビフェニル化合物、4.4’−ジ(クロロメチル)ビフェニル、2,2’−ジ(クロロメチル)ビフェニル、2,4’−ジ(クロロメチル)ビフェニル等のジ(ハロゲノメチル)ビフェニル化合物、4,4’−ジ(ヒドロキシメチル)ビフェニル、2,2’−ジ(ヒドロキシメチル)ビフェニル、2,4’−ジ(ヒドロキシメチル)ビフェニル等のジ(ヒドロキシメチル)ビフェニル化合物、1,4−ジ(メトキシメチル)ベンゼン、1,3−ジ(メトキシメチル)ベンゼン、1,2−ジ(メトキシメチル)ベンゼン等のジ(アルコキシメチル)ベンゼン化合物、1,4−ジ(クロロメチル)ベンゼン、1,3−ジ(クロロメチル)ベンゼン、1,2−ジ(クロロメチル)ベンゼン等のジ(ハロゲノメチル)ベンゼン化合物、1,4−ジ(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3−ジ(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,2−ジ(ヒドロキシメチル)ベンゼン等のジ(ヒドロキシメチル)ベンゼン化合物、ベンズアルデヒド、2−ヒドロキシベンズアルデヒド、3−ヒドロキシベンズアルデヒド、4−ヒドロキシベンズアルデヒド等のヒドロキシベンズアルデヒド化合物、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド等のアルキルベンズアルデヒド化合物等が挙げられる。
これら異性体においては、単独でも混合して使用することもできるが、好ましくは異性体の混合物として使用した場合である。
さらに好ましくは、ビフェニリレン化合物および/またはキシリレン化合物の異性体混合物である。
ビフェニリレン化合物および/またはキシリレン化合物の異性体混合では、1,4−体と4,4’−体が、少なくとも50モル%以上含む場合が、最も好ましい。
しかし、混合して使用する場合では、その混合比率は、4,4’−ビフェニリレン基1モルに対して20〜50モル%で1,4−キシリレン基を使用するのが好ましい。
【0028】
[低軟化点フェノールノボラック樹脂の製造方法]
【0029】
【化6】

【0030】
一般式(1)で示される低軟化点フェノールノボラック樹脂の製造方法は、酸触媒存在下、一定量のフェノール類に対して、n倍モルのR、即ち、アリール基含有架橋基形成用化合物と、m倍モルのホルムアルデヒドを同時に添加して1段の縮合反応で行うことができる。
この場合は、アリール基含有架橋基形成用化合物及びホルムアルデヒドの合計1モルに対し、好ましくはフェノール類を2〜10倍モル、より好ましくは3〜6倍モル、更に好ましくは4モル以上で使用すると共に、反応温度を低温(例えば、100℃前後)にてフェノール類とホルムアルデヒドの反応を優先的に行ない、主として低分子量のメチレン架橋基含有のフェノールノボラック樹脂を形成させ、次いで昇温または触媒を増量してメチレン架橋基含有フェノールノボラック樹脂、アリール基含有架橋基形成用化合物及びフェノール類を反応させる方式を採用するのが好ましい。
用いる酸触媒としては、特に限定はなく、塩酸、蓚酸、硫酸、リン酸等の無機酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸など、公知のものを単独であるいは2種以上併用して使用することができるが、硫酸、蓚酸又はパラトルエンスルホン酸が特に好ましい。
縮合反応の温度は、低温条件としては50〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、昇温時での反応温度は130〜230℃、好ましくは150〜200℃である。
縮合反応の時間は、反応温度や使用する触媒の種類および量により変動するが、1〜24時間程度である。
反応圧力は、通常、常圧下にて行うが、若干の加圧下あるいは減圧下にて実施しても何ら問題はない。
アリール基含有架橋基形成用化合物とホルムアルデヒドの合計1モルに対しフェノール類の使用量を2モル未満にするなど、上述の反応条件から大きく逸脱した場合には高分子量で溶融粘度の高いフェノールノボラック樹脂しか得られない場合があり好ましくない。
【0031】
そのため、本発明の低軟化点フェノールノボラック樹脂は、酸触媒の存在下で予めフェノール類とホルムアルデヒドを縮合させ、次いでRのアリール基含有架橋基形成用化合物を添加して縮合させる2段の縮合反応で製造することもできる。このような2段の縮合反応では、2段目の反応において新たにフェノール類を添加することができる.この場合も1段反応の場合と同様にフェノール類を過剰に使用することが好ましい。例えば、1段目の反応においてホルムアルデヒド1モルに対してフェノール類を2.5モル以上、より好ましくは3.3〜10モル存在させ、2段目の反応において追加するアリール基含有架橋基形成用化合物及びフェノール類は、1〜2段反応のトータルで仕込むアリール基含有架橋基形成用化合物とホルムアルデヒドの合計1モルに対して、1〜2段のトータルで仕込むフェノール類が3モル以上、より好ましくは3.3〜10モルの範囲で使用することが重要である。
このような2段の縮合反応で行うと、アリール基含有架橋基型フェノールノボラック樹脂及びメチレン架橋基含有フェノールノボラック樹脂の各重合単位の重合度、すなわちn及びmの分布が狭くなり、分子量のコントロールが容易となり、所望の溶融粘度の重合体が得やすいので、本発明の目的のためには好ましい。
2段階の縮合反応の一例を次の反応式に示す。
【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
2段階の縮合反応は、1段の縮合反応条件に準じて実施することができる。
前記1段縮合反応及び2段縮合反応における酸触媒の使用量は、その種類によっても異なるが、使用するフェノール類に対して、蓚酸の場合は0.1〜2.0質量%程度、硫酸の場合は0.05〜0.5質量%程度、またパラトルエンスルホン酸の場合は0.02〜0.1質量%程度使用するのがよい。とくに2段縮合反応を行なう場合では、2段目のアリール基含有架橋基をフェノール類及びメチレン架橋基フェノールノボラック樹脂と反応させる際には、硫酸又はパラトルエンスルホン酸を使用することが好ましい。また、反応温度はとくに限定はないが、60〜160℃程度の範囲に設定するのが好ましい。より好ましくは、80〜140℃である。
【0035】
酸触媒の存在下で縮合反応させた後、未反応のフェノール類及び酸触媒を除去することにより、本発明の低軟化点フェノールノボラック樹脂を得ることができる。
フェノール類の除去方法は、減圧下あるいは不活性ガスを吹き込みながら熱をかけ、フェノール類を蒸留し系外へ除去する方法が一般的である。酸触媒の除去は、水洗などの洗浄による方法が挙げられる。
【0036】
本発明の低軟化点フェノールノボラック樹脂の製造方法において、原料のフェノール類、アリール基含有架橋基形成用化合物及びホルムアルデヒドの使用量をコントロールするとともに、上記のように反応条件を設定することにより、所望の150℃における溶融粘度を有する樹脂を得ることができる。
【0037】
本発明の低軟化点フェノールノボラック樹脂は、分子内にアリール基架橋型のフェノールノボラック樹脂及びメチレン架橋型のフェノールノボラック樹脂の重合単位を特定の割合で共に有する構造であり、低溶融粘度、高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性を兼ね備えたエポキシ樹脂用の原料に適している。
【0038】
さらに、本発明の低軟化点フェノールノボラック樹脂は、バインダー、コーティング材、積層材、成形材料等の用途に広く使用できるが、特に低溶融粘度で、しかも高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性を有するところから、特に、半導体封止用、プリント基板絶縁用などのエポキシ用硬化剤に好適である。
【0039】
[エポキシ樹脂硬化物]
本発明の低軟化点フェノールノボラック樹脂は、一例としてエポキシ樹脂用硬化剤として用いることができる。エポキシ樹脂硬化物はフェノール系重合体とエポキシ樹脂及び硬化促進剤を混合し、100〜250℃の温度範囲で硬化させることにより得られる。
【0040】
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂など、分子中にエポキシ基を二個以上有するエポキシ樹脂が挙げられる。これらエポキシ樹脂は単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
(硬化促進剤)
硬化促進剤としては、エポキシ樹脂をフェノール系硬化剤で硬化させるための公知の硬化促進剤を用いることが出来る。このような硬化促進剤としては例えば有機ホスフィン化合物およびそのボロン塩、3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール類及びそのテトラフェニルボロン塩などを挙げることができるが、この中でも、硬化性や耐湿性の点から、トリフェニルホスフィン及び1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7(DBU)が好ましい。また、より高流動性にするためには、加熱により活性が発現する熱潜在性の硬化促進剤がより好ましく、テトラフェニルホスフォニウム・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルホスフォニウム誘導体が好ましい。
【0042】
(その他添加剤)
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、無機充填剤、離型剤、着色剤、難燃剤、低応力剤等を、添加または予め反応して用いることができる。とくに半導体封止用に使用する場合は、無機充填剤の添加は必須である.このような無機充填剤の例として、非晶性シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、ガラス、珪酸カルシウム、石膏、炭酸カルシウム、マグネサイト、クレー、タルク、マイカ、マグネシア、硫酸バリウムなどを挙げることができるが、とくに非晶性シリカ、結晶性シリカなどが好ましい.これら添加剤の使用量は、従来の半導体封止用エポキシ樹脂組成物における使用量と同様でよい。
【0043】
本発明のアルキル型樹脂は適当量のフェノールノボラック樹脂単位を有し、エポキシ樹脂硬化剤として用いた場合、高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性を維持し、しかも低粘度化を実現させることができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお本発明で得られたフェノールノボラック樹脂の評価方法を示す。
【0045】
(1)ICI粘度の測定
ICIコーンプレート粘度計:TOA工業(株)MODEL CV−1Sを使用した。
ICI粘度計のプレート温度を150℃に設定し、試料を約0.04g秤量する。
プレート部に秤量した樹脂を置き、上部よりコーンで押えつけ、90sec放置する。
コーンを回転させて、そのトルク値をICI粘度として読み取る。
(2)ゲルタイムの測定
エポキシ樹脂とフェノール樹脂を1:1の当量になるように試験管に仕込み、さらにTPPをエポキシに対して0.1wt%になるよう計量し、試験管に仕込む。
油温を150℃に設定したゲルタイマー(東芝時間計 SFO−304M)に試験管を設置し、SUS攪拌棒を使い、1秒間に1回転で攪拌する。
はじめは粘度が低く液状であるが、一定時間経過すると、樹脂の粘度が急激に上昇し、ゲル状となる。この間にかかった時間をゲルタイムとする。
この時間が短いほど、硬化性が良好という指標になる。
【0046】
表1に示した条件で合成したフェノールノボラック樹脂(実施例および比較例)を硬化剤として使用した場合、対するエポキシ樹脂は、日本化薬(株)製NC−3000(軟化点60℃、エポキシ等量270g/eq)のエポキシ化ビフェニルノボラック樹脂であり、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(TPPと略記することもある。)を使用した。
本発明の低軟化点フェノールノボラック樹脂および上記エポキシ樹脂を、フェノール水酸基当量とエポキシ当量比が1:1となるように配合し、TPP触媒は、該配合のエポキシ樹脂重量に対して1wt%仕込んだ。これらを、150℃に加熱して溶融混合し、真空脱泡した後に150℃の金型(厚さ4mm)に注型し、150℃、3時間で硬化させた後、さらに180℃、5時間かけて硬化して成形体を試作した。
得られた成形体(硬化物)の各種物性の試験方法は次の通り。
(3)Tg:TMA法(Thermal Mechanical Analysis、熱機械分析法)(昇温速度5℃/分)
(4)吸水率:24時間煮沸法、
(5)残炭率
残炭素と酸素指数とは比例関係にあり、一般的に難燃性の高い樹脂は、残炭率が高いと言われている(非特許文献1参照)。よって、難燃性の指標として測定した。
(測定方法)
上記の配合で硬化させた成形体を1.5cm角に切断し、重量を測定する。
切断したサンプルをルツボに入れ、800℃の電気炉で60分還元焼成する。
冷却後、サンプルの重量を測定する。
さらに800℃の電気炉で2時間かけ灰化させ、その重量を測定する。
下記式より残炭率(%)を求める。
残炭率(%)=(焼成後の重量−灰化後の重量)/試料の重量×100
【0047】
実施例1
撹拌装置、コンデンサー、及び窒素ガス導入管を備えたガラス製反応釜に、フェノール376g(4.0モル)、4,4’−ジメトキシメチルビフェニル(4,4’−BMMBと略記する。)226g(0.95)、42%ホルマリン水溶液3.6g(0.05モル)、50%硫酸水溶液0.22gを仕込み、100℃で1時間反応させた。
その後、反応温度を165℃に保ちながら3.5時間反応させた。その間、生成するメタノールを留去した。反応終了後、得られた反応溶液を冷却し、水洗を3回行った。油層を分離し、減圧蒸留により未反応フェノールを留去することにより340gのフェノールノボラック樹脂(150℃溶融粘度:90mPa・s)を得た。
得られたフェノールノボラック樹脂を用いて、上記の方法で成形体にした物性を表1示す。
【0048】
実施例2〜12および比較例1〜5
表1のモノマー組成にて使用した他は、実施例1記載の方法に準じてフェノールノボラック樹脂を得た。また、それぞれの硬化物の物性を表1に併せて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(1)ICI粘度の測定
ICIコーンプレート粘度計:TOA工業(株)MODEL CV−1Sを使用した。
ICI粘度計のプレート温度を150℃に設定し、試料を約0.04g秤量する。
プレート部に秤量した樹脂を置き、上部よりコーンで押えつけ、90sec放置する。
コーンを回転させて、そのトルク値をICI粘度として読み取る。
【0051】
表2に示した条件で合成したフェノールノボラック樹脂(実施例および比較例)を硬化剤として使用した場合、対するエポキシ樹脂は、日本化薬(株)製NC−3000(軟化点60℃、エポキシ等量270g/eq)のエポキシ化ビフェニルノボラック樹脂であり、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(TPPと略記することもある。)を使用した。
本発明の低軟化点フェノール樹脂および上記エポキシノボラック樹脂を、フェノール水酸基当量とエポキシ当量比が1:1となるように配合し、TPP触媒は、該配合のエポキシ樹脂重量に対して1wt%仕込んだ。これらを、150℃に加熱して溶融混合し、真空脱泡した後に150℃の金型(厚さ4mm)に注型し、150℃、3時間で硬化させた後、さらに180℃、5時間かけて硬化して成形体を試作した。
得られた成形体(硬化物)の各種物性の試験方法は次の通り。
(2)Tg:TMA法(Thermal Mechanical Analysis、熱機械分析法)(昇温速度5℃/分)
(3)吸水率:24時間煮沸法、
【0052】
実施例13
撹拌装置、コンデンサー、及び窒素ガス導入管を備えたガラス製反応釜に、フェノール376g(4.0モル)、4,4’−ジ(メトキシメチル)ビフェニル(以下4,4’−BMMBと略記する。)143g(0.60モル)、2,4’−ジ(メトキシメチル)ビフェニル(2,4’−BMMBと略記する。)36g(0.15モル)、2.2’−ジ(メトキシメチル)ビフェニル(2,2’−BMMBと略記する。)48g(0.20モル)、42%ホルマリン水溶液3.6g(0.05モル)、50%硫酸水溶液0.22gを仕込み、100℃で1時間反応させた。
その後、反応温度を165℃に保ちながら、さらに3.5時間反応させた。その間、生成するメタノールを留去した。反応終了後、得られた反応溶液を冷却し、水洗を3回行った。油層を分離し、減圧蒸留により未反応フェノールを留去することにより335gのフェノールノボラック樹脂(150℃溶融粘度:29mPa・s)を得た。
得られたフェノールノボラック樹脂を用いて、上記の方法で成形体にした硬化物の物性を表1示す。
【0053】
実施例14〜18および比較例6〜9
表2の成分割合にて各モノマーを使用した他は、実施例13記載の方法に準じてフェノールノボラック樹脂を合成した。さらにエポキシ樹脂硬化物を得た。各物性を表2に併記して示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2から明らかなように、実施例13〜18で得られたフェノールノボラック樹脂および該樹脂を含む硬化物は、低溶融粘度、高ガラス転移温度、低吸湿性の全てをバランス良く兼ね備えているが、比較例6〜9ではいずれかの物性値が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、低溶融粘度、高ガラス転移温度、低吸湿性、高密着性、耐熱性、及び難燃性などに優れ、特に電気および電子産業用、電子部品の封止用、積層板材料用のエポキシ樹脂用として好適に用いられる新規なフェノールノボラック樹脂およびこのフェノールノボラック樹脂をエポキシ化したエポキシ化フェノールノボラック縮合体およびそれをエポキシ樹脂用硬化剤と反応して得られたエポキシ樹脂硬化物を提供することができる。
また、ビフェニリレン基を含有するフェノールノボラック樹脂は難燃剤としても使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

式中、Rは下記一般式(2):
【化2】

で示されるビフェニリレン基及びキシリレン基から選択される少なくとも1の2価のアリーレン基を表し、更に下記一般式(3):
【化3】

式中、Rは、ヒドロキシル基又は炭素原子数1〜6のアルキル基である、
で示される構成単位を含んでいてもよく、m及びnは、m/nが0.04〜20を満たす数であり、また、R、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ、ヒドロキシル基又は炭素原子数1から6個のアルキル基であり、p、q及びrは、それぞれ、0〜2の整数である、
で示される構成単位を有し、150℃における溶融粘度が20〜100mPa・sであることを特徴とする低軟化点フェノールノボラック樹脂。
【請求項2】
Rに、少なくとも4,4’−ビフェニリレン架橋基を含有する請求の範囲第1項に記載の低軟化点フェノールノボラック樹脂。
【請求項3】
ビフェニリレン架橋基が、各異性体の混合物である請求の範囲第2項に記載の低軟化点フェノールノボラック樹脂。
【請求項4】
m/nが0.05〜9を満たす数である請求の範囲第1項記載の低軟化点フェノールノボラック樹脂。
【請求項5】
溶融粘度が25〜90mPa・sである請求の範囲第1項記載の低軟化点フェノールノボラック樹脂。
【請求項6】
フェノール類、下記一般式(4):
【化4】

式中、Xはハロゲン原子、ヒドロキシル基又は炭素原子数1〜6のアルコキシル基を表す、
で示される置換ビフェニレン化合物及び置換ベンゼン化合物の少なくとも1種、及びホルムアルデヒドを、酸触媒の存在下で縮合させることを特徴とする請求の範囲第1〜5項のいずれかに記載の低軟化点フェノールノボラック樹脂の製造方法。
【請求項7】
更に前記式(4)の化合物に加え、下記一般式(5):
【化5】

式中、Rは、前記と同義である、
で示されるベンズアルデヒド化合物を含んでなる請求の範囲第6項に記載の低軟化点フェノールノボラック樹脂の製造方法。
【請求項8】
(1)Rを構成する架橋基とホルムアルデヒドの使用合計モル数に対して、
(2)フェノール類を3モル倍以上で、
縮合させる工程を含むことを特徴とする請求の範囲第6項または第7項に記載の低軟化点フェノールノボラック樹脂の製造方法。
【請求項9】
酸触媒が、硫酸、塩酸、蓚酸およびパラトルエンスルホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1化合物であることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の低軟化点フェノールノボラック樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求の範囲第1〜5項のいずれか1項に記載の低軟化点フェノールノボラック樹脂、請求の範囲第6〜9項のいずれか1項に記載の製造方法で得られた低軟化点フェノールノボラック樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1樹脂成分を含有する硬化物。
【請求項11】
請求の範囲第10項に記載の硬化物がエポキシ樹脂と反応させて得られるエポキシ樹脂硬化物。

【公開番号】特開2012−167289(P2012−167289A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−135370(P2012−135370)
【出願日】平成24年6月15日(2012.6.15)
【分割の表示】特願2007−533179(P2007−533179)の分割
【原出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】