説明

フェノール系重合体、その製法及びその用途

【課題】 エポキシ樹脂系半導体封止材における硬化剤として有用な、難燃性、速硬化性、低溶融粘度を兼ね備えたフェノール系重合体、その製法及びその用途を提供する。
【解決手段】 フェノール類と、ビスメチルビフェニル化合物と、芳香族アルデヒドを、フェノール類に対するビスメチルビフェニル化合物と芳香族アルデヒドの和のモル比が0.10〜0.60であり、芳香族アルデヒド/ビスメチルビフェニル化合物(モル比)が5/95〜50/50となる割合で反応させて得られるフェノール系重合体、及び該フェノール系重合体とエポキシ樹脂からなるエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材、各種バインダー、コーティング材、積層材などに有用なフェノール系重合体、その製造方法及びそれをエポキシ樹脂硬化剤として用いたエポキシ樹脂組成物ないしはその硬化物に関する。特には、エポキシ樹脂系半導体封止材における硬化剤として有用な、難燃性、速硬化性、低溶融粘度を兼ね備えたフェノール系重合体及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の封止方法としては、経済性、生産性、物性のバランスが良好であるところからエポキシ樹脂による樹脂封止が一般的に使用されており、中でもオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とフェノールノボラック硬化剤とシリカなどの無機充填材とからなる樹脂封止が広く使用されてきた。しかし近年、LSIチップの大型化、パッケージの薄型化/小型化、実装方式の変更などに伴い、封止材に対する要求性能が大きく変わってきており、従来のエポキシ樹脂封止材料では、耐湿性、耐熱性、信頼性などの点で充分な対応が難しくなってきている。例えば、半田付け時の熱処理時に、吸湿水分の急激な気化膨張に伴うパッケージのクラックや剥離の発生が問題になっている。とくに最近では鉛フリー半田が多用されるようになり、この問題は一層厳しくなってきている。また難燃剤として使用されてきた臭素化合物やアンチモン化合物などが、環境問題からその使用が見直されている。
【0003】
このため吸湿性が低く、半田付け温度における弾性率が低い、接着性に優れたエポキシ樹脂や硬化剤の開発が望まれている。併せて、燃えにくく難燃性に優れたエポキシ樹脂や硬化剤の開発が望まれている。
【0004】
このような要望を満足する硬化剤として、4,4’−ビスメチルビフェニル化合物とフェノール類とから誘導されるビフェニル骨格を有するフェノール系重合体が注目されている(例えば特許文献1〜2参照)。ところが、かかるフェノール系重合体を硬化剤に用いたエポキシ樹脂組成物は、4,4’−キシリレン化合物とフェノール類から誘導されるフェノールアラルキル樹脂を硬化剤に用いたエポキシ樹脂組成物に比較して硬化性が劣るという難点があった。さらに半導体封止材などの製造時の混練ロールやニーダーの温度は120℃以下であり、これ以上の高い温度では、混練中にエポキシ樹脂と硬化剤の反応による粘度増加などの問題が起こるため、封止材の製造が困難となる。そのため、この用途に用いられる硬化剤やエポキシ樹脂は、その軟化点が100℃以下、好ましくは80℃以下のものが望ましい。一方、半導体封止材に配合することが必須の無機フィラーを多量に配合しても、成形時の溶融粘度を低く維持するためには、硬化剤やエポキシ樹脂の成形温度域での溶融粘度が低いことが望まれている。ところが上記文献記載のビフェニル骨格を有するフェノール系重合体は、溶融粘度を低下させるために平均分子量を小さくしていくと、結晶化が起き易くなり、軟化点が急激に上昇するという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−129092号公報
【特許文献2】特開2000−226498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者らは、上記ビフェニル骨格を有するフェノール系重合体の特性を実質的に損なうことなく、硬化性、粘度特性、難燃性などの改善されたフェノール系重合体を得るべく検討を行った。その結果、4,4’−ビスメチルビフェニル化合物とフェノール類の反応の際に特定量の芳香族アルデヒドを加えることによって、所望性状のフェノール系重合体を得ることが可能であることを見出すに至った。したがって本発明の目的は、改善された物性を有するフェノール系重合体、その製法及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で示されるフェノール系重合体に関する。
【0008】
【化1】

【0009】
式中、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基であり、(m+n+1)個のRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Rはアリール基であり、m個のRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。m、nは整数であって、m+nが2〜30、m/nが5/95〜50/50である。
【0010】
本発明はまた、下記一般式(2)で示されるフェノール類と、下記一般式(3)で示されるビフェニル化合物と、下記一般式(4)で示される芳香族アルデヒドを反応させてなるフェノール系重合体に関する。
【0011】
【化2】

【化3】

【化4】

【0012】
式(2)中、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基であり、式(3)中、Xはハロゲン、OH基又はOCH基であり、式(4)中、Rはアリール基である。上記フェノール系重合体は、好ましくはフェノール類に対するビフェニル化合物と芳香族アルデヒドの和のモル比が0.10〜0.60であり、芳香族アルデヒド/ビフェニル化合物(モル比)が5/95〜50/50の割合で反応させることによって得ることができる。
【0013】
上記反応においては、式(3)中のXがOH基又はOCH基である場合には、酸触媒の存在下で行うことができ、式(3)中のXがハロゲンである場合には、水の存在下で行うことができる。
【0014】
本発明はまた、上記フェノール系重合体からなるエポキシ樹脂用硬化剤及び上記フェノール系重合体とエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物、さらにはこれを硬化してなるエポキシ樹脂硬化物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形材、各種バインダー、コーティング材、積層材などに有用な、低軟化点、低溶融粘度のフェノール系重合体を提供することができる。かかるフェノール系重合体は、とくにエポキシ樹脂硬化剤として有用であり、とりわけ半導体封止用として用いた場合に、低溶融粘度、速硬化性、低吸水性、高接着性、熱時低弾性率で、難燃性に優れたエポキシ樹脂組成物を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の上記一般式(1)で示されるフェノール系重合体において、式中のRは、水素、炭素数1〜6のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソアミル、t−アミル、n−へキシルなど、又はアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基などであり、(m+n+1)個のRは、それぞれ同一又は異なるものであってよい。とくにRがすべて水素のものは、原料が安価で、エポキシ樹脂の硬化剤として優れた性能を示すので好ましい。また上記一般式(1)示されるフェノール系重合体において、Rはアリール基であり、m個のRはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基などであり、とくにフェニル基のものが好ましい。上記一般式(1)に示されるフェノール系重合体においてはまた、m及びnはそれぞれ1以上の整数であり、m及び/又はnの値が異なるものの2種以上の混合物であってもよい。溶融粘度を考慮すると、m+nの平均値は2〜30、好ましくは2〜15のものがよい。
【0017】
上記一般式(1)で示されるフェノール系重合体は、下記一般式(2)で示されるフェノール類と、下記一般式(3)で示されるビフェニル化合物と、下記一般式(4)で示される芳香族アルデヒドを反応させることによって得ることができる。
【0018】
【化5】

【化6】

【化7】

【0019】
上記式(2)及び(4)中のR及びRは、一般式(1)におけるR及びRと同じであり、上記式(3)中のXはハロゲン、OH基又はOCH基である。一般には、(2)、(3)及び(4)の反応によって一般式(1)で示されるフェノール系重合体のほかに、一般式(1)において、mが0又はnが0に該当するフェノール系重合体も同時に生成するので、一般式(1)に該当するフェノール系重合体を得たい場合にはこれらを反応生成物から除去すればよい。しかしながら一般式(1)においてmが0又はnが0に該当するフェノール系重合体を含有する上記反応生成物(フェノール系重合体)をそのままエポキシ樹脂の硬化剤として使用しても、所望性能を有するエポキシ樹脂組成物が得られるので、上記のような除去操作は通常は必要でない。
【0020】
一般式(2)で示されるフェノール類として具体的には、フェノール;o−、m−又はp−のクレゾール、エチルフェノール、n−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、t−ブチルフェノール、t−アミルフェノール、n−ヘキシルフェノール、フェニルフェノールなどを挙げることができる。とくにフェノールは好適な原料である。
【0021】
また一般式(3)で示されるビフェニル化合物において、Xはハロゲン、例えば塩素、臭素、沃素;OH基又はOCH基であり、具体的には、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル、4,4’−ビスブロモメチルビフェニル、4,4’−ビスヨードメチルビフェニル、4,4’−ビスヒドロキシメチルビフェニル、4,4’−ビスメトキシメチルビフェニルなどを例示することができる。
【0022】
さらに一般式(4)で示される芳香族アルデヒドとして具体的には、ベンズアルデヒド、p−トルアルデヒド、ナフチルアルデヒド、ビフェニルアルデヒドなどである。とくにベンズアルデヒドを使用するのが好ましい。
【0023】
上記(2)、(3)及び(4)の反応においては、適度な分子量とエポキシ樹脂用硬化剤としての優れた性能を有するフェノール系重合体を得るために、フェノール類に対するビフェニル化合物と芳香族アルデヒドの和のモル比が0.10〜0.60、好ましくは0.15〜0.40であり、芳香族アルデヒド/ビフェニル化合物(モル比)が5/95〜50/50、10/90〜55/45の割合で反応させるのがよい。上記反応は、触媒の存在下又は不存在下、60〜150℃程度の温度で1〜10時間程度反応させることによって得ることができる。すなわち上記(3)式において、XがOH基又はOCH基の場合は酸触媒の存在下で反応させることが必要であり、また上記(3)式においてXがハロゲンの場合には、僅かな水を存在させることによって反応を開始させることができ、また反応によって生じるハロゲン化水素によって、反応を進行させることができる。
【0024】
上記反応において使用可能な酸触媒としては、リン酸、硫酸、塩酸などの無機酸、蓚酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロメタンスルホン酸などの有機酸、塩化亜鉛、塩化第2錫、塩化第2鉄、ジエチル硫酸などのフリーデルクラフツ触媒を、単独又は併用して用いることができる。生成物のフェノール系重合体を半導体封止のような電子材料用途に使用する場合には、酸が残存するのは好ましくないため、酸触媒として塩酸を用いることにより、縮合反応混合物から減圧によってハロゲン化水素を簡単に除去することができるので好ましい。
【0025】
上記縮合反応によって得られる縮合反応混合物から、未反応原料(例えばフェノール類)、反応副生物(例えばハロゲン化水素やメタノール)、触媒(例えば塩酸)などを減圧下に除去することによって、反応生成物であるフェノール系重合体を分離することができる。このような反応生成物中には、すでに述べたように一般式(1)で示されるフェノール系重合体とともに、一般式(1)においてmが0又はnが0に該当するフェノール系重合体も含まれている。このような反応生成物から一般式(1)においてmが0又はnが0に該当するフェノール系重合体の一部又は全部を除去して、一般式(1)で示されるフェノール系重合体の純度を高めることはできる。しかしながらエポキシ樹脂の硬化剤としては、上記反応生成物であるフェノール系重合体をそのまま使用しても所望の性能を示すため、通常は上記のような高純度化の操作は必要でない。このような混合フェノール系重合体における平均的な組成は、一般式(1)において、mとnの比が原料の仕込み比率に従って、5/95〜50/50、10/90〜55/45の範囲にあり、またmの平均値が0.05〜2.5、好ましくは0.2〜1.2、nの平均値が0.7〜5.0、好ましくは1.1〜2.6、m+nの平均値が1.1〜7.0、好ましくは1.1〜5.0、mの平均値/nの平均値が5/95〜50/50、好ましくは10/90〜40/60の範囲に該当するものが得られる。また150℃におけるICI溶融粘度が10〜200mPa・s、好ましくは50〜180mPa・sの範囲にある。また上記反応生成物における未反応原料等の除去のために行われる上記減圧下の分離操作は、通常、130℃以上の温度で行なわれるので、該操作で得られる溶融状態の反応生成物をそのまま急冷・固化することにより、軟化点(JIS K2207)が50〜80℃程度の非晶性固体として単離することができる。
【0026】
このようにして得られる上記反応生成物であるフェノール系重合体は、一般には透明性が優れ、成形温度域での溶融粘度も低く、加工性に優れている。したがって成形材、各種バインダー、コーティング材、積層材などに使用することができる。とりわけエポキシ樹脂硬化剤として有用であり、エポキシ樹脂系半導体封止材における硬化剤として使用すると、硬化が速く、また低吸湿性、熱時低弾性率、高接着性、難燃性に優れたエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0027】
上記エポキシ樹脂組成物において、上記フェノール系重合体とともに使用することができるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール、ナフトールなどのキシリレン結合によるアラルキル樹脂のエポキシ化物、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタリン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などの分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が挙げられる。これらエポキシ樹脂は単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。耐湿性、熱時低弾性率、難燃性などを考慮すると、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などの2官能エポキシ樹脂や、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール、ナフトールなどのキシリレン結合によるアラルキル樹脂のエポキシ化物などから選ばれる芳香環の多い多官能型エポキシ樹脂を使用するのが好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂の硬化に際しては、硬化促進剤を併用することが望ましい。かかる硬化促進剤としては、エポキシ樹脂をフェノール樹脂系硬化剤で硬化させるための公知の硬化促進剤を用いることができ、例えば3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール類及びそのテトラフェニルボロン塩、有機ホスフィン化合物およびそのボロン塩、4級ホスホニウム塩などを挙げることができる。より具体的には、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセンー7などの3級アミン、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィンなどの有機ホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラナフトエ酸ボレートなどを挙げることができる。中でも低吸水性や信頼性の点から、有機ホスフィン化合物や4級ホスホニウム4級ボレート塩が好ましい。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、無機充填剤、カップリング剤、離型剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、低応力剤等を、添加または予め反応して用いることができる。また他の硬化剤を併用することもできる。このような他の硬化剤の例として、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、フェノールビフェニルアラルキル樹脂、フェノールナフチルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン型ノボラック樹脂などを挙げることができる。
【0030】
上記エポキシ樹脂組成物を半導体封止用に使用する場合は、無機充填剤の添加は必須である.このような無機充填剤の例として、非晶性シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、ガラス、珪酸カルシウム、石膏、炭酸カルシウム、マグネサイト、クレー、タルク、マイカ、マグネシア、硫酸バリウムなどを挙げることができるが、とくに非晶性シリカ、結晶性シリカなどが好ましい。また優れた成形性を維持しつつ、充填剤の配合量を高めるために、細密充填を可能とするような粒度分布の広い球形の充填剤を使用することが好ましい。
【0031】
カップリング剤の例としては、メルカプトシラン系、ビニルシラン系、アミノシラン系、エポキシシラン系などのシラン系カップリング剤やチタン系カップリング剤を、離型剤の例としてはカルナバワックス、パラフィンワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスなど、また着色剤としては、カーボンブラックなどをそれぞれ例示することができる。難燃剤の例としては、ハロゲン化エポキシ樹脂、ハロゲン化合物、リン化合物など、また難燃助剤としては三酸化アンチモンなどを挙げることができる。低応力化剤の例としては、シリコンゴム、変性ニトリルゴム、変性ブタジエンゴム、変性シリコンオイルなどを挙げることができる。
【0032】
本発明のフェノール系重合体とエポキシ樹脂の配合比は、耐熱性、機械的特性などを考慮すると、水酸基/エポキシ基の当量比が0.5〜1.5、とくに0.8〜1.2の範囲にあることが好ましい。また他の硬化剤と併用する場合においても、水酸基/エポキシ基の当量比が上記割合となるようにするのが好ましい。硬化促進剤は、硬化特性や諸物性を考慮すると、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部の範囲で使用するのが好ましい。さらに半導体封止用のエポキシ樹脂組成物においては、無機充填剤の種類によっても若干異なるが、半田耐熱性、成形性(溶融粘度、流動性)、低応力性、低吸水性などを考慮すると、無機充填剤を組成物全体の60〜93重量%を占めるような割合で配合することが好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂組成物を成形材料として調製する場合の一般的な方法としては、所定の割合の各原料を、例えばミキサーによって充分混合後、熱ロールやニーダーなどによって混練処理を加え、さらに冷却固化後、適当な大きさに粉砕し、必要に応じタブレット化するなどの方法を挙げることができる。このようにして得た成形材料は、例えば低圧トランスファー成形などにより半導体を封止し、半導体装置を製造することができる。エポキシ樹脂組成物の硬化は、例えば100〜250℃の温度範囲で行うことができる。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
フェノール582.6g(6.20モル)、4,4’−ジクロロメチルビフェニル420.0g(1.67モル)及びベンズアルデヒド19.7g(0.19モル)を、下部に抜出口のある4つ口フラスコに仕込み、温度を上昇させると、系内が70℃でスラリー状態になり、78℃で均一に溶け、HClの発生が始まった。80℃で3時間保持し、さらに150℃で1時間熱処理を加えた。反応で出てくるHClはそのまま系外へ揮散させ、アルカリ水でトラップした。この段階で未反応の4,4’−ジクロロメチルビフェニル及びベンズアルデヒドは残存しておらず、全て反応したことをガスクロマトグラフィで確認した。反応終了後、減圧することにより、系内に残存するHCl及び未反応のフェノールを系外へ除去した。最終的に30torrで150℃まで減圧処理することで、残存フェノールがガスクロマトグラフィで未検出になった。この反応生成物を150℃に保持しながら、抜き出し、淡褐黄色で透明な(結晶化による濁りのない)フェノール系重合体(1)594.0gを得た。
【0035】
このフェノール系重合体(1)のJIS K 2207に基づく軟化点は75℃であった。またICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融粘度は120mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した水酸基当量は208g/eqであった。
【0036】
フェノール系重合体(1)を、日本電子(株)製JMS−700高分解能質量検出器を用いてFD−MS法により分子量測定を行って得られたチャートを図1に示す。またフェノール系重合体(1)を重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、13C−NMR測定を行った。通常の13C−NMRスペクトルを図2に示す。また炭素原子団の種類を特定できるDEPT法のうち、DEPT135のスペクトルを図3(a)に、DEPT90のスペトルを図3(b)にそれぞれ示すと共に、対比を容易にするために図2のスペクトルを図3(c)に併記した。尚、13C−NMRの測定条件は次の通りである。
装置:日本電子(株)製JNM−ECA400超伝導FT−NMR装置
測定核:13
測定法:
通常法:プロトン完全デカップリング法
DEPT法:DEPT90及びDEPT135
パルス幅:
カーボン90°パルス:10マイクロ秒(観測側)
プロトン90°パルス:11マイクロ秒(照射側)
測定温度:40℃
【0037】
図2の35〜55ppm付近のピークは脂肪族構造に由来するものであり、115〜156ppm付近のピークは、不飽和構造に由来するものである。また図3において、DEPT135で上向きのピークのうち、DEPT90にて現われないものはメチル基であり、DEPT135で下向きのピークはメチレン基であり、DEPT90で上向きのピークはメチン基であり、通常のスペクトルのうち、DEPT135で上下いずれにも現われていないものは四級炭素である。図2及び図3より、フェノール系重合体(1)には、メチル基は存在せず、メチレン基、メチン基及び四級炭素から構成されること、四級炭素は脂肪族領域には見られず、不飽和構造の四級炭素であること、メチレン基は脂肪族領域のみから観察され、脂肪族のメチレン基であることなどから、図1に示した化学構造を強く支持する分析結果であった。
【0038】
これらの構造分析と図1における分子量ピークから、フェノール系重合体(1)には、一般式(1)においてR及びRが水素に該当し、m=1でn=1の重合体(分子量548)、m=2でn=1の重合体(分子量730)、m=1でn=2の重合体(分子量820)、m=2でn=2の重合体(分子量1002)、m=1でn=3の重合体(分子量1092)、m=2でn=3の重合体(分子量1274)、m=1でn=4の重合体(分子量1365)などが含まれているとともに、m=0でnが1以上(分子量366、638、910、1182、1455)及びn=0でmが1以上(分子量276、458)に該当する各種重合体が含まれていることが判った。
【0039】
[実施例2]
フェノールの仕込み量を624.2g(6.64モル)、4,4’−ジクロロメチルビフェニルの仕込み量を350.0g(1.39モル)、ベンズアルデヒドの仕込み量を63.3g(0.60モル)とした以外は、実施例1と同様にして行い、淡褐黄色の透明な(結晶化による濁りのない)フェノール系重合体(2)598.3gを得た。
このフェノール系重合体(2)のJIS K 2207に基づく軟化点は79℃であった。またICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融粘度は120mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した水酸基当量は191g/eqであった。
【0040】
[実施例3]
フェノールの仕込み量を661.5g(7.04モル)、4,4’−ジクロロメチルビフェニルの仕込み量を340.0g(1.35モル)、ベンズアルデヒドの仕込み量を61.5g(0.58モル)とした以外は、実施例1と同様にして行い、淡褐黄色の透明な(結晶化による濁りのない)フェノール系重合体(3)592.0gを得た。
このフェノール系重合体(3)のJIS K 2207に基づく軟化点は76℃であった。またICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融粘度は100mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した水酸基当量は201g/eqであった。
【0041】
[実施例4]
フェノールの仕込み量を641.5g(6.82モル)、4,4’−ジクロロメチルビフェニルの仕込み量を370.0g(1.47モル)、ベンズアルデヒドの仕込み量を17.4g(0.16モル)とした以外は、実施例1と同様にして行い、淡褐黄色の透明な(結晶化による濁りのない)フェノール系重合体(4)535.1gを得た。
このフェノール系重合体(4)のJIS K 2207に基づく軟化点は71℃であった。またICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融粘度は80mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した水酸基当量は198g/eqであった。
【0042】
[実施例5]
フェノールの仕込み量を668.8g(7.11モル)、4,4’−ジクロロメチルビフェニルの仕込み量を300.0g(1.19モル)、ベンズアルデヒドの仕込み量を54.3g(0.51モル)とした以外は、実施例1と同様にして行い、淡褐黄色の透明な(結晶化による濁りのない)フェノール系重合体(5)529.5gを得た。
このフェノール系重合体(5)のJIS K 2207に基づく軟化点は73℃であった。またICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融粘度は70mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した水酸基当量は191g/eqであった。
【0043】
[実施例6]
フェノールの仕込み量を702.2g(7.47モル)、4,4’−ジクロロメチルビフェニルの仕込み量を225.0g(0.90モル)、ベンズアルデヒドの仕込み量を95.0g(0.90モル)とした以外は、実施例1と同様にして行い、淡褐黄色の透明な(結晶化による濁りのない)フェノール系重合体(6)524.4gを得た。
このフェノール系重合体(6)のJIS K 2207に基づく軟化点は76℃であった。またICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融粘度は70mPa・sであった。さらにアセチル化逆滴定法により測定した水酸基当量は178g/eqであった。
【0044】
[実施例7]
下記一般式(5)
【化8】

(式中、Gはグリシジル基、nは1〜10の数)で示されるエポキシ樹脂A(日本化薬(株)製NC−3000P、ビフェニルアラルキル型、エポキシ当量272g/eq)、実施例1で得たフェノール系重合体(1)、溶融シリカ及びリン系硬化促進剤(2−(トリフェニルホスホニオ)フェノラート)を表1に示す割合で配合し、充分に混合した後、85℃±3℃の2本ロールで3分混練し、冷却、粉砕することにより、成形用組成物を得た。トランスファー成形機でこの成形用組成物を、圧力100kgf/cmで175℃、2分間成形した後、180℃、6時間のポストキュアを行い、吸水率用、曲げ弾性率用、ガラス転移温度(Tg)用及び難燃性試験用のテストピースを得た。
【0045】
これら成形材料の物性を、次の方法により測定した。
(1)吸水率
サンプル形状50mm径×3mmの円盤を、85℃、相対湿度85%雰囲気下で168時間吸水させたときの吸水率を測定。
吸水率(%)=(処理後の重量増加分/処理前の重量)×100
【0046】
(2)曲げ弾性率
サンプル形状80×10×4mmの短冊を260℃雰囲気で10分放置後、JIS K6911に準じて、260℃での曲げ弾性率を測定。
【0047】
(3)ガラス転移温度(Tg)
TMAにより、昇温速度5℃/分の条件で線膨張係数を測定し、線膨張係数の変曲点をTgとした。
【0048】
(4)難燃性
厚み1.6mm×幅10mm×長さ135mmのサンプルを用い、UL−V94に準拠して残炎時間を測定し、難燃性を評価した。
【0049】
これらの評価結果を表1に示す。
【0050】
[実施例8]
実施例1で得たフェノール系重合体(1)の代わりに、実施例2で得たフェノール系重合体(2)を用い、配合割合を表1のようにした以外は、実施例7と同様にして成形用組成物を調製し、その評価を行った。その結果を表1に併記する。
【0051】
[実施例9]
実施例1で得たフェノール系重合体(1)の代わりに、実施例3で得たフェノール系重合体(3)を用い、配合割合を表1のようにした以外は、実施例7と同様にして成形用組成物を調製し、その評価を行った。その結果を表1に併記する。
【0052】
[実施例10]
実施例1で得たフェノール系重合体(1)の代わりに、実施例4で得たフェノール系重合体(4)を用い、配合割合を表1のようにした以外は、実施例7と同様にして成形用組成物を調製し、その評価を行った。その結果を表1に併記する。
【0053】
[実施例11]
実施例1で得たフェノール系重合体(1)の代わりに、実施例5で得たフェノール系重合体(5)を用い、配合割合を表1のようにした以外は、実施例7と同様にして成形用組成物を調製し、その評価を行った。その結果を表1に併記する。
【0054】
[比較例1]
実施例1で得たフェノール系重合体(1)の代わりに、下記一般式(6)
【化9】

(式中、nは1〜10の数)で示されるフェノールビフェニルアラルキル樹脂(ICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融粘度は90mPa・s、水酸基当量205g/eq)を用い、配合割合を表1のようにした以外は、実施例7と同様にして成形用組成物を調製し、その評価を行った。その結果を表1に併記する。
【0055】
[比較例2]
実施例1で得たフェノール系重合体(1)の代わりに、下記一般式(7)
【化10】

(式中、nは1〜10の数)で示されるフェノールアラルキル樹脂(ICI溶融粘度計により測定した150℃における溶融粘度は90mPa・s、水酸基当量168g/eq)を用いると共に、配合割合を表1のようにした以外は、実施例7と同様にして成形用組成物を調製し、その評価を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例7〜11と比較例1を対比すると、実施例7〜11のものが、成形硬化性あるいは流動性のいずれかが比較例1のものより優れており、また、実施例7〜11のものが比較例1のものより、ガラス転移温度が高く、また残炎時間が短縮されていることが分かる。また実施例7〜11のものは、比較例2のフェノールアラルキル樹脂を硬化剤に用いた例に比較して、ガラス転移温度が高く、難燃性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1で得られたフェノール系重合体(1)のマススペクトルである。
【図2】上記フェノール系重合体(1)の13C−NMRスペクトルである。
【図3】上記フェノール系重合体(1)の13C−NMRスペクトルにおいて、(a)はDEPT135、(b)はDEPT90、(c)は通常法、のそれぞれのスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるフェノール系重合体。
【化1】

(式中、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基であり、(m+n+1)個のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Rはアリール基であり、m個のRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。m、nは整数であって、m+nが2〜30、m/nが5/95〜50/50である。)
【請求項2】
一般式(1)において、Rが全て水素であり、Rが全てフェニル基である請求項1に記載のフェノール系重合体。
【請求項3】
下記一般式(2)で示されるフェノール類と、下記一般式(3)で示されるビフェニル化合物と、下記一般式(4)で示される芳香族アルデヒドを反応させてなるフェノール系重合体。
【化2】

【化3】

【化4】

(式(2)中、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基であり、式(3)中、Xはハロゲン、OH基又はOCH基であり、式(4)中、Rはアリール基である。)
【請求項4】
フェノール類に対するビフェニル化合物と芳香族アルデヒドの和の反応モル比が0.10〜0.60であり、芳香族アルデヒド/ビフェニル化合物(反応モル比)が5/95〜50/50である請求項3に記載のフェノール系重合体。
【請求項5】
フェノール類がフェノールであり、芳香族アルデヒドがベンズアルデヒドである請求項3又は4に記載のフェノール系重合体。
【請求項6】
150℃におけるICI溶融粘度が、10〜200mPa・sである請求項3〜5のいずれかに記載のフェノール系重合体。
【請求項7】
上記一般式(2)で示されるフェノール類と、上記一般式(3)で示されるビフェニル化合物と、上記一般式(4)で示される芳香族アルデヒドを、酸触媒の存在下で反応させることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のフェノール系重合体の製造方法。
(但し、式(3)中のXはOH基又はOCH基である。)
【請求項8】
上記一般式(2)で示されるフェノール類と、上記一般式(3)で示されるビフェニル化合物と、上記一般式(4)で示される芳香族アルデヒドを、水の存在下で反応させることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のフェノール系重合体の製造方法。
(但し、式(3)中のXはハロゲンである。)
【請求項9】
請求項3〜6のいずれかに記載のフェノール系重合体からなるエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項10】
請求項3〜6のいずれかに記載のフェノール系重合体からなるエポキシ樹脂用硬化剤とエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
さらに無機充填剤を含有する請求項10に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
さらに硬化促進剤を含有する請求項10又は11に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
半導体封止用である請求項10〜12のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物。
【請求項15】
請求項13に記載のエポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなる半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−106928(P2007−106928A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300126(P2005−300126)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】