説明

フェノール類二量体の製造方法

【課題】3価マンガンを用いてフェノール類二量体を高収率で得るための製造方法を提供する。
【解決手段】フェノール類を含有する溶液と3価マンガンを含有する溶液を混合してフェノール類二量体を製造するフェノール類二量体の製造方法において、混合時の液温が50℃以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール類二量体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3価マンガンの存在下にフェノール類二量体を生成させる従来技術については、以下がある。
非特許文献1には、ペルオキシダーゼ酵素の一種であり、リグニン分解酵素として見出されたマンガンペルオキシダーゼを用いた例が記載されている。この文献では、マンガンペルオキシダーゼの関与によりジメトキシフェノールからジメトキシベンゾキノン二量体が生成する反応において、フェノール類二量体であるジメトキシフェノール二量体を経て反応が進行する反応機構が提唱されている。
【0003】
一方、置換基を有するフェノール(フェノール類)の二量体(フェノール類二量体)は樹脂材料などとして広く用いられており、これを効率よく製造する方法が望まれている。
特許文献1には、フェノール類二量体の製造方法としては、フェノール類に水性溶媒および2価マンガン、酸化剤の存在下でマンガンペルオキシダーゼを作用させた後、還元剤を添加することで、フェノール類二量体を安定して製造する方法が開示されている。
特許文献2には、オキシダーゼを固定化した酵素充填層を有するカラム中で、ジアルキルフェノール又はジアルコキシフェノールを反応させて、フェノール類二量体を製造する方法が記載されている。
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、1992年、第267巻、第33号、p.23688−23695
【特許文献1】特開2005−229944号公報
【特許文献2】特開2006−180745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、化学反応を工業的スケールで行う場合には、低コストで目的物を製造できることが望まれる。しかし、特許文献1記載の方法は、マンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び基質を含む反応溶液中で重合体を製造しているため、重合反応終了後にマンガンペルオキシダーゼ、2価マンガン及び未反応基質を重合物から分離し、廃棄しなければならなかった。このため、再度、重合反応を行うには、反応系に新規にマンガンペルオキダーゼを供給する必要があり、一方で、廃棄されるマンガンペルオキシダーゼの処理にコストがかかるため、低コストで目的物を製造できるものではなかった。
【0005】
また、特許文献2に記載の方法は、固定化したマンガンペルオキシダーゼを用いて簡便に重合体や二量体が得られるものの、3価マンガンを用いた重合反応を、条件を精密に制御して行えるものではなく、目的とするフェノール類二量体を効率よく製造できるものではなかった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、3価マンガンを用いてフェノール類二量体を高収率で得るための製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、フェノール類と3価マンガンを用いて、目的とするフェノール類二量体を、高収率で得るために詳細な反応条件の検討を行った結果、反応液温を特定の温度以上に設定し、且つ、3価マンガンの量とフェノール類の量との割合を特定の比率に設定することにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のフェノール類二量体の製造方法は、フェノール類を含有する溶液と3価マンガンを含有する溶液を混合してフェノール類二量体を製造するフェノール類二量体の製造方法であって、混合時の液温が50℃以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、フェノール類を材料としてフェノール類二量体を安定して高効率で製造することができる。
さらに3価マンガンの濃度と基質濃度との混合比を制御することで、高収率をもってフェノール類二量体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るフェノール類二量体の製造方法は、フェノール類を含有する溶液と3価マンガンを含有する溶液を混合してフェノール類二量体を製造するフェノール類二量体の製造方法であって、混合時の液温が50℃以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、まず、水性溶媒中で、フェノール類と、3価マンガンとを反応させてフェノール類二量体を含む第一生成物を得る第一工程を行うことが好ましい。
第一工程は、例えば、マンガンの酸化数が+3であるマンガン化合物を、水性溶媒中に溶解させた反応液を調製し、該反応液にフェノール類を添加することで開始することができる。また、フェノール類を有機溶媒に溶解させた溶液に、3価マンガンを含有する水性溶媒を添加することで開始することもできる。
そしてこの第一工程においては、三価マンガン化合物を含有する溶液とフェノール類を含有する溶液とを混合するときに、混合時の液温が50℃以上となるようにする。
【0012】
水性溶媒としては、水、pH緩衝液、または、水もしくはpH緩衝液と有機溶媒との混合溶液が用いられる。
pH緩衝液としては、例えば、マロン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、乳酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、マレイン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、等が挙げられる。
【0013】
水性溶媒が水と有機溶媒の混合溶液である場合、有機溶媒の割合は10%以下、好ましくは5%以下である。ここで、利用しうる有機溶媒の代表的な例としては、ヘキサン、トリクロロメタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ブタノール、エタノール、メタノール、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ギ酸メチル、ジメチルホルムアミド、アセトン、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。
【0014】
本発明の製造方法においては、水性溶媒中に有機酸を含有させることが、3価マンガンを安定化させるために好ましい。有機酸として、マロン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、シュウ酸、マレイン酸などを用いることが好ましい。これらの有機酸は、酸化剤が還元されることに伴う2価マンガンの酸化によって生成する、3価マンガンと効率よく錯体を形成するからである。
特に、pH緩衝液として酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液等を用いる場合は、上記の好ましい有機酸を用いることが望ましい。
【0015】
本発明に用いられるフェノール類は、フェノール、及び炭素数1〜4のアルキル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシ基を有する。本発明に使用可能な炭素数1〜4のアルキル基を有するフェノール類としては、2,4−ジアルキルフェノール、2,6−ジアルキルフェノール、3,5−ジアルキルフェノール、2,3−ジアルキルフェノール、2,5−ジアルキルフェノール等の、各種置換位置の2置換フェノールが挙げられる。
また、炭素数1〜4のアルコキシ基を有するフェノール類としては、2,4−ジアルコキシフェノール、2,6−ジアルコキシフェノール、3,5−ジアルコキシフェノール、2,3−ジアルコキシフェノール、2,5−ジアルコキシフェノール等の、各種置換位置の2置換フェノールが挙げられる。
これらの中でも、2,4−体、2,6−体が好ましく、特に、2,6−ジアルキルフェノール、もしくは2,6−ジアルコキシフェノールを用いることが、フェノール類二量体の収率の観点から好ましい。
【0016】
フェノール類のアルキル基、もしくはアルコキシ基を構成するアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。このような炭素数1〜4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基が挙げられるが、メチル基であることが好ましい。2置換体においては、両置換基が、同じでも異なっていてもよい。
また、2,6−ジアルキルフェノールの中でも、2,6−ジメチルフェノールが特に好ましく用いられ、また、2,6−ジアルコキシフェノールの中でも、2,6−ジメトキシフェノールが特に好ましく用いられる。これは、得られるジアルキルフェノール二量体及びジアルコキシフェノール二量体の実用性という点で有利なためである。
【0017】
本発明においては、異なる2種以上のジアルキルフェノール及びジアルコキシフェノールを用いても構わない。
【0018】
本発明の製造方法においては、第一工程において、使用される3価マンガンを含む水性溶媒は、マンガンペルオキシダーゼと酸化剤と2価マンガンとを反応させて得られるものであってもよい(特開2005−229944号公報参照)。
【0019】
マンガンペルオキシダーゼとしては、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素が挙げられる。これらのマンガンペルオキシダーゼは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
酸化剤としては、例えば、過酸化水素、メチル過酸化物、エチル過酸化物等の過酸化物などが挙げられるが、反応性、経済性の点で過酸化水素が好ましい。
酸化剤の配合量は適宜調整されうる。例えば酸化剤として過酸化水素を用いる場合、マンガンペルオキシダーゼ及び2価マンガンを含有する溶液に添加された際の過酸化水素終濃度を10mmol/L以下とすることが好ましく、特にマンガンペルオキシダーゼの安定性を考慮して、0.01〜0.1mmol/Lとすることが特に好ましい。
【0021】
2価マンガンとしては、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物を用いることができる。使用可能なマンガン化合物としては、硫酸マンガン(II)等が例示されるが、これに限定されることはない。
【0022】
2価マンガンを有する化合物として、酢酸マンガン(II)、硫酸アンモニウムマンガン(II)、臭化マンガン(II)、炭酸マンガン(II)、塩化マンガン(II)、フッ化マンガン(II)、ギ酸マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、酸化マンガン(II)、過塩素酸マンガン(II)、リン酸マンガン(II)などが挙げられる。
【0023】
本発明の製造方法においては、第一工程において使用される3価マンガンを含む水性溶媒に含まれる酸化数+3を有するマンガンイオンは、工業用原料、試薬などの化学合成品の化合物であっても良い。
【0024】
酸化数+3を有するマンガンイオンを提供する前記化合物としては酢酸マンガン(III)、トリス(アセトニルアセトナト)マンガン(III)、硫酸マンガン(III)、ピロリン酸マンガン(III)、フッ化マンガン(III)、酸化マンガン(III)、リン酸マンガン(III)n水和物などが挙げられる。特に、酢酸マンガン(III)、トリス(アセトニルアセトナト)マンガン(III)が好ましい。
【0025】
第一工程において、3価マンガンを含む水性溶媒とフェノール類とを所望の反応液温に制御された下で、フェノール類二量体が生成する反応が進行し、フェノール類二量体を含む第一生成物が得られる。
また、この第一生成物には、ベンゾキノン類二量体が含まれることもある。例えば、フェノール類として2,6−ジアルキルフェノールを用いた場合、第一工程によって、2,6−ジアルキルフェノールから2,6−ジアルキルベンゾキノン二量体(2,2′,6,6′−テトラアルキルビフェノキノン)が生成する反応が起こり、2,6−ジアルキルベンゾキノン二量体を含む第一生成物が得られる。
【0026】
第一工程においては、3価マンガンを含む水性溶媒及びフェノール類とを反応器へと供給し、3価マンガンを含む水性溶媒及びフェノール類との混合時においては、反応器内の反応液温を50℃以上にすることが好ましく、さらに70℃以上にすることがより好ましい。温度が低すぎる場合は、3価マンガンとフェノール類との反応が進行しにくくなることがあり、温度が水性溶媒の沸点以上の程度に高い場合、反応の継続が困難となる。
【0027】
本発明で用いるフェノール類二量体を効率よく得るためには、反応器へ供給する3価マンガンの量(C)と反応器へ供給するフェノール類の量(S)との割合をC/S=2(mol/mol)以上とすることが好ましい。ここで、C/Sの値が、2より小さいと原料とするフェノール類の残存率が多く、フェノール類二量体の収量の低下が起こる。
【0028】
本発明においては、前記第一工程に引き続いて、第一工程で得られた第一生成物に還元剤を添加する第二工程を行うことが好ましい。特に、第一生成物がベンゾキノン類二量体を含む場合には、第一生成物中のベンゾキノン類二量体をフェノール類二量体に変換するため、第二工程を行うことが好ましい。第一生成物が十分なフェノール類二量体を含む場合、第二工程は省略してもよい。
ベンゾキノン類二量体を含む第一生成物に、還元剤を添加することで、ベンゾキノン類二量体が還元されてフェノール類二量体が生成する反応が開始される。例えば、2,6−ジアルキルベンゾキノン二量体が還元されて、2,6−ジアルキルフェノール二量体(3,3′,5,5′−テトラアルキルビフェニル−4,4′−ジオール)が生成する。この第二工程を行うことで、ジアルキルフェノール二量体を含む第二生成物が得られる。
【0029】
還元剤は特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム等があげられる。
還元剤の添加量は、第一生成物中のジアルキルベンゾキノン二量体濃度の当量であることが好ましいが、適宜使用量を調節することができる。
【0030】
本発明の製造方法では、前記第一工程において、3価マンガンとフェノール類とを反応液温が50℃以上の温度制御下で混合することにより、フェノール類からフェノール類二量体の生成する反応における二量体生成率を安定的に向上させることができる。
また、前記第一工程に引き続き第二工程を行うことにより、第一生成物中に含まれるベンゾキノン類二量体をフェノール類二量体に変換し、フェノール類二量体の生成量を高くすることができる。
【0031】
本発明において、第一工程の反応時間は、3価マンガン及びフェノール類を反応液中で共存させた時点、例えば3価マンガンを含む水性溶媒にフェノール類を含有する溶剤を添加した時点から、もしくはフェノール類を含有する溶剤に3価マンガンを含む水性溶媒を添加した時点から、還元剤が添加される時点までとなる。ここで、第一工程の反応時間は、フェノール類が充分に消費される時間とすることが好ましい。フェノール類の消費は、例えば、第一生成物を一部採取して高速液体クロマトグラフィーに供し、検出波長を270nm付近としてフェノール類の残存量を測定することによって確認可能である。
第一工程の好適な反応時間は、3価マンガン濃度とフェノール類濃度等により異なり得るが、好ましくは1分以上である。
【0032】
本発明の製造方法では、前記第一工程の後、還元剤を添加する第二工程を行うことで、第一生成物中のベンゾキノン類二量体からフェノール類二量体の生成反応を安定に進行させることができる。
【0033】
第二工程の反応液温は、還元反応を安定に進めるためには0℃以上とすることが好ましい。製造効率、副生物の生成抑制の面では反応液温が低い方が好ましく、25℃以下とすることが好ましい。また、反応液温は室温と同じであってもよい。
【0034】
本発明において、第二工程の反応時間は、還元剤の添加時点を起点とする。
第二工程の反応時間は、好ましくは1分から30分、さらに好ましくは5分から10分である。
【0035】
本発明の方法により得られるフェノール類二量体は、種々の分野、例えば、エポキシ樹脂、難燃剤、酸化防止剤、ポリエステル、ポリカーボネート等の製造、および芳香族ジオールが使用される他の用途に広く使用することができる。
本発明の製造方法により得られるフェノール類二量体は、上記の第二生成物中に高含有率で含まれる形態で得られる。したがって、本発明の方法により得られるフェノール類二量体を各種用途に使用する場合、第二生成物をそのまま用いてもよいし、あるいは公知の方法でフェノール類二量体を精製して使用してもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において、単位「M」は「mol/L」を、単位「mM」は「mmol/L」を示す。
【0037】
(実施例1)
本実施例においては、酵素としてマンガンペルオキシダーゼを用いた。緩衝液としては、マロン酸二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製「マロン酸二ナトリウム」)を用いたマロン酸緩衝液(pH4.5)を使用し、酸化数+2のマンガンイオンを有するマンガン化合物として硫酸マンガン(II)(和光純薬工業株式会社製「硫酸マンガン(II)五水和物」)を用いた。酸化数+3のマンガンイオンを有するマンガン化合物として酢酸マンガン(III)(Lancaster社製「酢酸マンガン(III)水和物」)を用いた。基質としては、ジアルキル置換フェノールである2,6−ジメチルフェノール(和光純薬工業株式会社製「2,6−ジメチルフェノール」)をメタノールに溶解したものを用いた。また、以下、還元剤として亜ジチオン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製「ハイドロサルファイトナトリウム」)を用いた。
【0038】
マンガンペルオキシダーゼとしては、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)の培養菌床から得られたマンガンペルオキシダーゼを用いた。このマンガンペルオキシダーゼの調製方法は特開2005−229944号公報に記載の方法に従った。
【0039】
(マンガンペルオキシダーゼによる3価マンガンを含む水性溶媒の調製)
特開2005−229944号公報に記載の方法に従って、3価マンガンを含む水性溶媒を調製した。
【0040】
(3価マンガン濃度の検出)
3価マンガンを含む水性溶媒中の3価マンガンの濃度を、270nmにおける吸光度を測定して検出した。吸光度測定は、UV−1650PC(商品名;株式会社島津製作所製)を用いて行った。測定値が分光光度計の測定限界を超える場合には、緩衝液にて3価マンガンを含む水性溶媒を適宜希釈してから、測定を行った。その結果、3価マンガンの濃度は4.0mMであることが判った。
【0041】
(3価マンガンを含む水性溶媒の反応器への供給)
前記にて得られた3価マンガンを含む水性溶媒のうち、1.98mLをピペットにて分取し、反応器であるガラス製の蓋付試験管に供給した。
【0042】
(3価マンガン濃度に応じた基質の濃度調製と供給)
前記にて検出された3価マンガンの濃度から算出された、反応器中における3価マンガン終濃度の2分の1の終濃度となるように、すなわち2.0mMとなるように、メタノールに溶解した50mMの基質である2,6−ジメチルフェノール20μLをピペットを用いて前記反応器へと供給した。この時、反応器中の3価マンガンの量(C)と2,6−ジメチルフェノールの量(S)とで表されるC/Sの値は2(mol/mol)であった。
【0043】
(基質の重合反応)
前記にて供給された3価マンガンを含む水性溶媒と、前記にて供給された基質とを、水浴中で50℃に加温した前記反応器中にて混合し、1分間撹拌することにより、3価マンガンによる基質の重合反応を行った。
【0044】
(フェノール類二量体の還元・抽出)
前記基質の重合反応終了後の反応器に、0.2gの亜ジチオン酸ナトリウムを加えた後、2mLの酢酸エチルを加え、基質及び2,6−ジメチルフェノール二量体を含む重合反応生成物を酢酸エチル層に抽出した。
【0045】
前記抽出物中における2,6−ジメチルフェノール二量体の濃度について、下記条件でHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による測定を行った。
検出装置:SPDM10A(商品名;株式会社島津製作所製)
カラム:イナートシルODS−3(商品名;ジーエルサイエンス株式会社)
溶出条件:水とアセトニトリルによるグラジエント溶出
0−5分:80% 水/20% アセトニトリル
5−21分:グラジエント
21−31分:0% 水/100% アセトニトリル
送液速度:1.0 mL/min
検出波長:270nm
【0046】
前記条件によるHPLC測定において検出された吸収ピークの面積比でもって、抽出物に含まれる2,6−ジメチルフェノール二量体と、2,6−ジメチルフェノールと、2,6−ジメチルベンゾキノンの含有比を求めた。
【0047】
テトラメチルビフェノール含有率とテトラメチルビフェノキノンの含有率の合計を、2,6−ジメチルフェノール二量体の収率(以下、二量体収率と略記する。)として算出した。なお、この例において、テトラメチルビフェノキノンは、ベンゾキノン類二量体に該当するが、第二工程を行って還元により容易にフェノール類二量体であるテトラメチルビフェノールを与えることから、ここでの二量体収率は、ベンゾキノン類二量体の収率を含むものとした。
【0048】
また、基質として供給した2,6−ジメチルフェノールの含有率を、2,6−ジメチルフェノールの残存率(以下、基質残存率と略記する。)とした。
【0049】
また、基質として供給した2,6−ジメチルフェノールの酸化体である2,6−ジメチルベンゾキノンの含有率を、2,6−ジメチルフェノールの酸化物率(以下、単量体酸化物率と略記する。)とした。
【0050】
さらに、基質として供給した2,6−ジメチルフェノールのうち、三量体以上の重合体の生成量の比率を、2,6−ジメチルフェノールのポリマー率(以下、ポリマー率と略記する。)とした。このポリマー率は、前記二量体収率、基質残存率及び単量体酸化物収率を用いて、下記式により算出した。
【0051】
(ポリマー率)[%]=100−(二量体収率)−(基質残存率)−(単量体酸化物率)
【0052】
その結果、二量体収率は94%であり、基質残存率は0%であり、単量体酸化物率は1%であり、ポリマー率は5%であった。
【0053】
(実施例2)
前記3価マンガンを含む水性溶媒と、前記2,6−ジメチルフェノールとを、水浴中で70℃に加温した前記反応器中で混合させたこと以外は、実施例1と同様に行った。この場合、反応器中の3価マンガンの量(C)と2,6−ジメチルフェノールの量(S)とで表されるC/Sの値は2(mol/mol)であった。その結果、2,6−ジメチルフェノール二量体収率は98%であり、基質残存率は0%であり、単量体酸化物率は1%であり、ポリマー率は1%であった。
【0054】
(比較例1)
前記3価マンガンを含む水性溶媒と、前記2,6−ジメチルフェノールとを、水浴中で25℃に保温した前記反応器中で混合させたこと以外は、実施例1と同様に行った。この場合、反応器中の3価マンガンの量(C)と2,6−ジメチルフェノールの量(S)とで表されるC/Sの値は2(mol/mol)であった。その結果、2,6−ジメチルフェノール二量体収率は77%であり、基質残存率は0%であり、単量体酸化物率は1%であり、ポリマー率は22%であった。
【0055】
(実施例3)
前記2,6−ジメチルフェノールの濃度を、その反応器中における終濃度が1.0mMとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様に行った。この場合、反応器中の3価マンガンの量(C)と2,6−ジメチルフェノールの量(S)とで表されるC/Sの値は4(mol/mol)であった。その結果、2,6−ジメチルフェノール二量体収率は93%であり、基質残存率は0%であり、単量体酸化物率は2%であり、ポリマー率は5%であった。
【0056】
(比較例2)
前記2,6−ジメチルフェノールの濃度を、その反応器中における終濃度が4.0mMとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様に行った。この場合、反応器中の3価マンガンの量(C)と2,6−ジメチルフェノールの量(S)とで表されるC/Sの値は1(mol/mol)であった。その結果、2,6−ジメチルフェノール二量体収率は85%であり、基質残存率は12%であり、単量体酸化物率は1%であり、ポリマー率は2%であった。
【0057】
(比較例3)
前記2,6−ジメチルフェノールの濃度を、その反応器中における終濃度が8.0mMとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様に行った。この場合、反応器中の3価マンガンの量(C)と2,6−ジメチルフェノールの量(S)とで表されるC/Sの値は0.5(mol/mol)であった。その結果、2,6−ジメチルフェノール二量体収率は68%であり、基質残存率は30%であり、単量体酸化物率は1%であり、ポリマー率は1%であった。
【0058】
(実施例4)
3価マンガンを含む水性溶媒として酢酸マンガン(III)を終濃度4mM含有する0.1Mマロン酸緩衝液を調製した。上記3価マンガンを含む水性溶媒と、前記2,6-ジメチルフェノールとを、水浴中で50℃に加温した前記反応器中で混合させたこと以外は、実施例1と同様に行った。この場合、反応器中の3価マンガンの量(C)と2,6−ジメチルフェノールの量(S)とで表されるC/Sの値は2(mol/mol)であった。その結果、2,6−ジメチルフェノール二量体収率は96%であり、基質残存率は0%であり、単量体酸化物率は1%であり、ポリマー率は3%であった。
【0059】
以上、実施例1〜4及び比較例1〜3の結果をまとめたものを、表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
このように、各実施例によれば二量体収率が高く、フェノール類二量体を高収率で製造することができることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類を含有する溶液と3価マンガンを含有する溶液を混合してフェノール類二量体を製造するフェノール類二量体の製造方法であって、
混合時の液温が50℃以上であることを特徴とするフェノール類二量体の製造方法。
【請求項2】
前記3価マンガンを含有する溶液が、有機酸を含むものである請求項1に記載のフェノール類二量体の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸が、マロン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、マレイン酸からなる群より選ばれる一種以上である請求項2に記載のフェノール類二量体の製造方法。
【請求項4】
前記3価マンガンを含有する溶液が、マンガンペルオキシダーゼと酸化剤と2価マンガンとを反応させて調製するものである請求項1〜3のいずれか一項に記載のフェノール類二量体の製造方法。
【請求項5】
3価マンガンの量(C)とフェノール類の量(S)との割合は、C/Sが2以上(mol/mol)である請求項1〜4のいずれか一項に記載のフェノール類二量体の製造方法。
【請求項6】
前記フェノール類が、フェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジメトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノールからなる群より選ばれる一種以上である請求項1〜5に記載のフェノール類二量体の製造方法。

【公開番号】特開2008−81449(P2008−81449A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263897(P2006−263897)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】