説明

フェーズドアレイアンテナの位相校正方法及びフェーズドアレイアンテナ

【課題】各アンテナ素子から放射される電力の大きさを左右対称に中心軸から端にかけて小さくなるように設定したフェーズドアレイアンテナの位相校正方法を提供する。
【解決手段】アンテナ配列数が奇数の場合は配列中心のアンテナ素子21、偶数の場合は配列中心のペア及び配列の中心軸に対して対称の位置にある出力電力が等しく位相が校正された一対の送信アンテナ素子22,23に接続されている移相器42,43の位相を同じように変化させつつ、受信装置70で受信した受信電力の分布から、配列中心のアンテナ素子21及び一対の送信アンテナ素子22,23によって形成される指向性パターンを取得し、取得した指向性パターンにおいてサイドローブが所定の値以下となるように移相器42,43の位相値を設定する。同様に、配列中心のアンテナ素子21と、中心軸を対象に出力電力の大きさが等しい各ペア全て毎に上記、作業を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子を有するフェーズドアレイアンテナの位相校正方法及びその位相校正方法による位相校正機能を備えたフェーズドアレイアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のアンテナ素子を有するフェーズドアレイアンテナでは、所定の条件において、複数のアンテナ素子から出力される電波の位相が同じになるように、複数のアンテナ素子の位相を校正する必要がある。
【0003】
そこで、従来、複数のアンテナ素子の位相を校正する際、複数のアンテナ素子から所定の電力の電波を放射させた状態で、ある1つのアンテナ素子のみ位相を変化させて、そのときの複数のアンテナ素子全体の放射電力の変化を電波放射面の前面に設置した受信器で観測し、そのアンテナ素子の位相値を把握する、という工程をすべてのアンテナ素子に対して行うことにより、すべてのアンテナ素子の位相値を把握し、その位相値に基づいて各アンテナ素子の位相の校正を行う技術があった(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、従来技術として、複数のアンテナ素子を有するフェーズドアレイアンテナにおいて、サイドローブを低く抑えるため、複数のアンテナ素子の配列端にあるアンテナ素子に減衰器などを設け、配列中心のアンテナ素子よりも、配列の端のアンテナ素子から出力される電波の出力が小さくなるようにしたフェーズドアレイアンテナがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2004/013644 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、配列の端になるにつれ徐々にアンテナ素子から出力する電波の出力を小さくすることによってフェーズドアレイアンテナのサイドローブを抑制するようにしたフェーズドアレイアンテナの校正は正確に行うことができなかった。なぜなら、以下の2つの理由があるからである。
【0007】
(1)複数のアンテナ素子から所定の電力の電波を放射させた状態で、端のアンテナ素子を校正する場合、その位相を変化させただけでは、他のアンテナ素子からの放射電波の影響が大きく受信器で検出できる放射電力の変化が小さいため、校正対象となるアンテナ素子の位相を正確に把握できない。
【0008】
(2)(1)の問題点を解決するために、複数のアンテナ素子のうち2つのアンテナ素子の出力の差の指向性パターンから、NULL点を求め、求めたNULL点の位置が2つのアンテナ素子の中間点になるように、2つのアンテナ素子の位相を調整して、位相の校正を行うことが考えられる。しかし、複数のアンテナ素子から出力される電波の電力がアンテナ素子ごとに異なる場合には、図6に示すように、2つのアンテナ素子によって形成される指向性パターンにおけるNULL点の深度が浅くなるため、NULL点を正確に把握できない。
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、アンテナの中心部と端部とで電波出力が異なるようにして、サイドローブを抑制するようにしたフェーズドアレイアンテナの位相の校正を正確かつ容易に行うことができる位相校正技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための形態」欄において用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。
【0011】
上記「発明が解決しようとする課題」において述べた問題を解決するためになされた発明は、電波を発生させる発振器(10)と、複数のアンテナ素子(20)と、複数のアンテナ素子(20)の各々に接続され、アンテナ素子(20)から出力される電波の位相を変化させるための移相器(40)と、発振器(10)で発生された電波を、移相器(40)を介して複数のアンテナ素子(20)に分配する分配手段(50)と、移相器(40)及び分配手段(50)を制御する制御手段(70)と、複数のアンテナ素子(20)から放射される電波の電力を検出する受信手段(60)から出力される受信信号を入力する信号入力部(70)と、を備えたフェーズドアレイアンテナ(1)の位相校正方法であって、制御手段(70)において、
前記複数のアンテナ素子(20)のうち、配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子(22,23)毎に位相の校正を行った後、
複数のアンテナ素子(20)のうち、配列中心のアンテナ素子(21)及び配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子(22,23)のみに対して分配手段(50)を介して発振器(10)から出力される電波を供給し、
一対のアンテナ素子(22,23)に接続されている移相器(42,43)の位相を同じように変化させつつ、信号入力部(70)を介して、受信手段(60)で検出した受信電力の、複数のアンテナ素子(20)の配列方向に水平の方向の分布から配列中心のアンテナ素子(21)及び一対のアンテナ素子(22,23)によって形成される指向性パターンを取得し、
取得した指向性パターンにおいてサイドローブが所定の値となるように移相器(40)の位相値を設定する工程を、配列中心のアンテナ素子(21)及び配列の中心軸に対して対称の位置にあるすべての一対のアンテナ素子(22,23)に対して行うフェーズドアレイアンテナ(1)の位相校正方法である。
【0012】
このようなフェーズドアレイアンテナ(1)の位相校正方法によれば、各アンテナ素子(20)から放射される電力が異なる場合でも、容易に各アンテナ素子(20)から放射される位相を一致させ、所望の指向性パターンを得ることができる。以下説明する。
【0013】
フェーズドアレイアンテナ(1)を構成するアンテナ素子(20)配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子(22,23)のみに対して分配手段(50)を介して発振器(10)から出力される電波を供給する。
【0014】
そうすると、中心軸を対称とした一対のアンテナ素子(22,23)は、それぞれのアンテナ(22,23)から放射される電力が等しいため、アンテナ間の位相差に応じて急峻なヌルが形成される。
【0015】
例えば、一対のアンテナ素子(22,23)のうち、一方のアンテナ素子(22)の位相を固定、他方のアンテナ素子(23)の位相を0°から360°変化させながら、受信信号のレベルを計測し受信信号に表れるヌル位置を検出して、位相差を正確に把握し一致のアンテナ素子(22,23)間の位相校正を行うことが可能である。
【0016】
その工程を全ての中心軸を対象にした全ての一対のアンテナ素子(22,23)で行い、各一対のアンテナ素子(22,23)の位相を一致させる。
続いて、フェーズドアレイアンテナ(1)を構成するアンテナ素子(20)の配列中心のアンテナ素子(21)又はアンテナ配列数が偶数の場合は、配列中心のアンテナ素子(20)対及び配列の中心軸に対して対称の位置にある位相が一致した一対のアンテナ素子(22,23)のみに対して分配手段(50)を介して発振器(10)から出力される電波を供給する。
【0017】
そうすると、複数のアンテナ素子(20)の配列方向に水平の方向に対し、配列中心のアンテナ素子(21)及び一対のアンテナ素子(22,23)によって形成される、中心のアンテナ素子(21)を中心軸とする対称な指向性パターンが得られる(図4参照)。
【0018】
このとき、一対のアンテナ素子(22,23)に接続されている移相器(42,43)の位相を同じように変化させると、指向性パターンにおけるサイドローブの大きさが変化する(図4参照)。
【0019】
したがって、サイドローブが所定の値となるように、移相器(42,43)の位相値を設定すれば、各アンテナ素子(22,23)から放射される電力が異なる場合でも、容易に各アンテナ素子(22,23)から放射される位相を一致させ、所望の指向性パターンを得ることができる。
【0020】
そして、このようにして移相器(40)の位相を設定する工程を、配列中心のアンテナ素子(21)及び配列の中心軸に対して対称の位置にあるすべての一対のアンテナ素子に対して行えば、フェーズドアレイアンテナ(1)全体として、指向性パターンにおけるサイドローブを正確かつ容易に抑制することができるのである。
【0021】
請求項2に記載の発明は、発振器(10)、複数のアンテナ素子(20)、移相器(40)、分配手段(50)、アンテナ素子選択手段(70)、信号入力部(70)及び校正手段(70)を備えたフェーズドアレイアンテナ(1)である。
【0022】
発振器(10)は、電波を発生させるものであり、移相器(40)は、複数のアンテナ素子(20)の各々に接続され、アンテナ素子(20)から出力される電波の位相を変化させるためのものである。
【0023】
分配手段(50)は、発振器(10)で発生された電波を、移相器(40)を介して複数のアンテナ素子(20)に分配するものである。
なお、分配手段(50)は、例えば、発振器(10)で発生された電波を選択して複数のアンテナ素子(20)のうち1又は2以上のアンテナ素子(20)に供給する選択スイッチであってもよい。
【0024】
また、発振器(10)で発生された電波を複数のアンテナ素子(20)全部に分配する分配器とすべてのアンテナ素子(20)それぞれに接続された増幅器(30)とで構成し、電波を供給したいアンテナ素子(20)以外の増幅器(30)の増幅率を0にすることで、電波を1又は2以上のアンテナ素子(20)に供給するものであってもよい。さらに、増幅器(30)の代わりに、高周波スイッチを用いてもよい。
【0025】
アンテナ素子選択手段(70)は、複数のアンテナ素子(20)の位相を校正する際に、複数のアンテナ素子(20)のうち、配列中心のアンテナ素子(21)及び配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子(22,23)のみに対して分配手段(50)を介して発振器(10)から出力される電波を供給するものである。
【0026】
信号入力部(70)は、複数のアンテナ(20)から放射される電波の電力を検出する受信手段(60)から出力される受信信号を入力するものである。
校正手段(70)は、
複数のアンテナ素子(20)の位相を校正する際に、複数のアンテナ素子(20)のうち、配列中心のアンテナ素子(21)及び配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子(22,23)のみに対して分配手段(50)を介して発振器(10)から出力される電波を供給し、
一対のアンテナ素子(22,23)に接続されている移相器(42,43)の位相を同じように変化させつつ、信号入力部(70)を介して、受信手段(50)で検出した受信電力の、複数のアンテナ素子(20)の配列方向に水平の方向の分布から配列中心のアンテナ素子(21)及び一対のアンテナ素子(22,23)によって形成される指向性パターンを取得し、
取得した指向性パターンにおいてサイドローブが所定の値となるように移相器(40)の位相値を設定する工程を、配列中心のアンテナ素子(21)及び配列の中心軸に対して対称の位置にあるすべての一対のアンテナ素子(22,23)に対して行う。
【0027】
このようなフェーズドアレイアンテナ(1)では、請求項1に記載のフェーズドアレイアンテナ(1)の位相校正方法と同様に、指向性パターンにおけるサイドローブを正確かつ容易に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】フェーズドアレイアンテナの概略の構成を示すブロック図である。
【図2】位相校正処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】位相校正処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】基準アンテナ素子及び校正対象アンテナの3つのアンテナ素子で形成される指向性パターンの例を示す図である。
【図5】基準アンテナ素子及び校正対象アンテナの3つのアンテナ素子で形成される指向性パターンの、位相差を変化させたときのサイドローブレベルの変化を示した図である。
【図6】電波出力が異なる2つのアンテナ素子によって形成される指向性パターンの図である。
【図7】電波出力が異なる3つのアンテナ素子によって形成される指向性パターンの図である。
【図8】受信器を複数のアンテナ素子の電波放射面の前面に配置して指向性パターンを取得するようにした場合の概略の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0030】
図1は、本発明が適用されたフェーズドアレイアンテナ1の概略の構成を示すブロック図である。フェーズドアレイアンテナ1は、図1に示すように、発振器10、複数の送信アンテナ素子20、増幅器30、移相器40、分配装置50及び制御処理装置70を備えている。
【0031】
また、フェーズドアレイアンテナ1から出力される電波の放射電力を検出するための受信電力検出装置60が設けられている。
発振器10は、電波を発生させる装置であり、クライストロン、進行波管、マグネトロン、ガンダイオードなどで発振した高周波信号を、自動周波数制御回路を用いて、レーダに適した数GHzの安定した周波数を有する電波として出力する。
【0032】
複数の送信アンテナ素子20は、ホーンアンテナなどの開口面アンテナやパッチアンテナなどの平面アンテナであり、本実施形態では、これらの送信アンテナ素子20を直線上に等距離に配置してある。
【0033】
増幅器30は、いわゆる高周波増幅器であり、送信アンテナ素子20に供給する電波の必要な電力を確保するための装置であり、複数の送信アンテナ素子20の各々に接続されている。
【0034】
移相器40は、送信アンテナ素子20から出力される電波の位相を変化させるための装置であり、複数の送信アンテナ素子20の各々に接続されている。
移相器40としては、一般にPINダイオードを用いた線路切換型移相器やGaAsFETを用いた反射型位相器などが使用される。
【0035】
分配装置50は、発振器10で発生された電波を、移相器40を介して複数の送信アンテナ素子20に分配する装置であり、制御処理装置70から指令信号を受け、複数の送信アンテナ素子20のうち電波を供給する1または2以上の送信アンテナ素子20を選択する。
【0036】
受信電力検出装置60は、複数の送信アンテナ素子20から放射される電波の電力を検出し、検出した受信電力を制御処理装置70に出力する装置であり、受信アンテナ62、受信器64及びリフレクタ66から構成されている。
【0037】
受信アンテナ62は、複数の送信アンテナ素子20から出力された電波のうち、リフレクタ66から反射されてきた電波を受信する装置である。
リフレクタ66は、複数の送信アンテナ素子20から出力される電波を反射するコーナーリフレクタや金属板などの反射板であり、複数の送信アンテナ素子20の電波放射面の垂直0°方向に配置される。
【0038】
受信器64は、リフレクタ66から反射される電波を受信し、その電力を検出して制御処理装置70に出力する装置である。
制御処理装置70は、移相器40及び分配装置50を制御し、また受信器64で検出した電力を記録してレーダ検知エリア内の反射物の位置を特定する装置であり、図示しないCPU、ROM、RAM及びI/Oを備えている。制御処理装置70では、CPUがROMに格納されたプログラムを読み出し、以下に説明する位相校正処理を実行する。
【0039】
(制御処理装置70における位相校正処理)
次に、図2及び図3に基づいて制御処理装置70において実行される位相校正処理について説明する。図2、図3は、位相校正処理の流れを示すフローチャートである。
【0040】
位相校正処理では、まずS100において、CPUが、配列中心の軸に対して対称に位置する2つのアンテナ素子対(22、23)を選択し、この2つのアンテナ素子にのみ電力を供給する。この2つのアンテナ素子から出力される電力は等しく設定されている。
【0041】
続くS105において、CPUが、S100において選択したアンテナ素子に接続された移相器40を制御して、位相を校正し一致させる。
続くS110では、CPUが、出力電力の等しい一対のアンテナ素子対(22,23)それぞれの対のすべてにおいて、位相校正が完了したか判定するする。未だ位相校正が完了していないアンテナ素子対(22,23)が存在すると判定した場合(S110:No)、処理をS115に移行し、そのアンテナ素子対を選択し、S105に戻して位相を校正させる。
【0042】
すべてのアンテナ素子対に対して位相校正が完了していると判定した場合(S110:Yes)、処理をS120へ移行する。
S110が完了した時点では、出力電力が等しいアンテナ素子対の位相は一致しているものの、出力電力の異なるアンテナ素子同士、例えば、送信アンテナ素子21と送信アンテナ素子22,23の位相は校正できていない。
【0043】
そこで、次にS120以降において、出力電力の異なるアンテナ素子21(以下、基準アンテナ素子21とも呼ぶ)及び基準アンテナ素子21以外の一対の送信アンテナ素子22,23(以下、校正対象アンテナ素子22,23とも呼ぶ)間の位相を校正する。
【0044】
S120では基準アンテナ素子21および校正対象アンテナ素子22,23のみに対して分配装置50を介して発振器10から出力される電波が供給される。
つまり、発振器10から出力される電波が、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23のみに供給され、他の送信アンテナ素子20には供給されないように、CPUが分配装置50を設定する。
【0045】
ここで、基準アンテナ素子21とは、略直線上に配置された複数の送信アンテナ素子20のうち配列の中心に位置するアンテナ素子21であり、校正対象アンテナ素子22,23は、基準アンテナ素子21の位置を中心軸として線対称の位置にある一対の送信アンテナ素子22,22である。
【0046】
続くS125では、基準アンテナ素子21および校正対象アンテナ素子22,23の位相を0°に設定する。ここで、校正対象アンテナ素子22,23には、S105で算出した送信アンテナ素子22,23間の位相校正値が反映され、0°で一致しているものとする。
【0047】
続くS130では、CPUが、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23(合計3つのアンテナ素子21,22,23)によって形成される指向性パターンを取得する。
【0048】
つまり、CPUが、基準アンテナ素子21に接続されている移相器41の位相は固定したまま、校正対象アンテナ素子22,23に接続されている移相器42,43の位相を同じように変化させる。
【0049】
そのとき、受信電力検出装置60で受信した受信電力の、複数の送信アンテナ素子20の電波放射方向に垂直の方向の分布から、CPUが、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23によって形成される指向性パターンを取得するのである。
【0050】
ここで、指向性パターンの取得方法について図4に基づき説明する。図4は、校正対象アンテナ素子22,23の位相を変化させた場合に、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23の3つのアンテナ素子21,22,23で形成される指向性パターンの例を示す図である。
【0051】
図4(a)に示すように、3つのアンテナ素子21,22,23のうち中心のアンテナ素子21が基準アンテナ素子21、基準アンテナ素子21の左右のアンテナ素子がそれぞれ校正対象アンテナ素子22,23である。
【0052】
基準アンテナ素子21の位相を0とし、基準アンテナ素子21の左側の校正対象アンテナ素子22及び右側の校正対象アンテナ素子23の位相差をφとし、φが0となるように校正した場合の受信電力パターンを図4(b)に示す。
【0053】
図4(b)に示す受信電力パターンを得るためには、下記の式1〜式5により表されるθ1〜θ3を基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23に与える、つまり、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23の移相器41,42,43に与えればよい。
【0054】
θ1=φ−θd ・・・式1
θ2=0 ・・・式2
θ3=φ+θd ・・・式3
θd=k・d・sinθ ・・・式4
k=2π/λ ・・・式5
ただし、d:アンテナ間隔
λ:電波の波長
θ:指向性の最大放射方向
ここで、式4において、θを−90°から90°まで変化させ、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23の前面に設置したリフレクタ66から反射される電波を受信器64で受信するのである。
【0055】
このような手順を、S135、S140において校正対象アンテナ素子22,23に与える規準アンテナとの位相差φを0°から360°まで変化させて、S130で得られる受信電力パターンのサイドローブが所望の値となる位相を求める。基準アンテナ素子21(の移相器41)の位相に対する校正対象アンテナ素子22,23(の移相器42,43)の位相差φが0°、30°及び60°の場合を、それぞれ図4(b)中にA〜Cで示す。
【0056】
続くS145では、S130からS140において得られた受信電力パターンのグラフからサイドローブの値が所望の値となる移相器42,43の位相値をCPUが抽出する。
図5に、基準アンテナ素子21と校正対象アンテナ素子22,23の位相差φの変化と、50°方向に存在するサイドローブのレベルの変化との関係をプロットしたものを示す。本実施形態の場合、サイドローブが最も小さい、図4(b)にCで示すφ=60°を抽出する。
【0057】
続くS150では、CPUが、移相器42,43の位相を、S145において抽出した位相値φ=60°(図4(b)中C、図5で示す位相)に設定する。
続くS155では、CPUが、すべての校正対象アンテナ素子22,23に対して位相校正が終了したか否かを判定する。そして、すべての校正対象アンテナ素子22,23に対して位相校正を終了したと判定した場合(S155:Yes)、処理を終了し、すべての位相校正を終了していないと判定した場合には、処理をS160へ移行する。
【0058】
S160では、CPUが、校正対象アンテナ素子22,23を変更する。つまり、位相校正が終了した送信アンテナ素子22,23(校正対象アンテナ素子22,23)から他の送信アンテナ素子22,23(新たな校正対象アンテナ素子22,23)へと校正対象を変更する。
【0059】
その後、CPUが、処理をS125へ戻し、新たな校正対象アンテナ素子22,23と基準アンテナ素子21との間でS125〜S160の処理を繰り返す。
(フェーズドアレイアンテナ1の特徴)
以上のようなフェーズドアレイアンテナ1では、基準アンテナ素子21及び2つの校正対象アンテナ素子22,23の3つのアンテナ素子21,22,23によって形成される、基準アンテナ素子21を中心軸とする対称な指向性パターンが得られる。
【0060】
このとき、一対の送信アンテナ素子22,23に接続されている移相器42,43の位相を同じように変化させると、指向性パターンにおけるサイドローブの大きさが変化する(図4(b)参照)。
【0061】
したがって、サイドローブが所定の値以下となるように、移相器42,43の位相値を設定することにより、一対の送信アンテナ素子22,23の位相を校正することができる。
【0062】
このようにして移相器42,43の位相を設定する工程を、配列中心のアンテナ素子21及び配列の中心軸に対して対称の位置にあるすべての一対の送信アンテナ素子22,23に対して行えば、フェーズドアレイアンテナ1全体として、すべての送信アンテナ素子20の位相を校正することができる。
【0063】
ここで、図6及び図7に基づき、3つのアンテナ素子21,22,23によって形成される指向性パターンに基づいて校正を行う場合の優位性について、2つのアンテナ素子21,22の位相を変化させた場合と比較して説明する。
【0064】
図6は、電波出力が異なる2つのアンテナ素子21,22によって形成される指向性パターンの図であり、図7は、電波出力が異なる3つのアンテナ素子21,22,23(図4(a)参照)によって形成される指向性パターンの図である。
【0065】
図6(b)D中に、2つのアンテナ素子21,22(図6(a)参照)の出力が同じである場合、図6(b)中Eに、一方の送信アンテナ素子21の出力を1とし、他方の送信アンテナ素子22の出力を0.7とした場合、図6(b)中Fに、一方のアンテナ素子21の出力を1とし、他方の送信アンテナ素子22の出力を0.55とした場合の指向性パターンを示している。
【0066】
図6(b)に示すように、各アンテナ素子21,22から放射される電波の出力が同じであれば、指向性パターン中に深いNULL点が得られるが、アンテナ素子間の出力差が大きいほどNULL点が浅くなることが分かる。ヌル点が浅くなると、ヌル方位の検出精度が悪化し、ひいては校正精度が悪化することになる。
【0067】
これに対し、図7(a)に、3つのアンテナ素子21,22,23(図4(a)参照)の出力が同じである場合、図7(b)に、中心のアンテナ素子21の出力を1とし、他の送信アンテナ素子22,23の出力を0.7とした場合、図7(c)に、中心のアンテナ素子21の出力を1とし、他の送信アンテナ素子22,23の出力を0.55とした場合の指向性パターンを示している。
【0068】
図6(a)〜図6(c)に示すように、3つのアンテナ素子21,22,23により形成される指向性パターンでは、アンテナ素子21と、他の送信アンテナ素子22,23の位相差が変化するに従い、サイドローブレベルが大きく変化することが確認できる。
【0069】
したがって、3つのアンテナ素子21,22,23を用いると、サイドローブの変化を検出することができるので、より正確な校正ができる。
さらに、本実施形態では、リフレクタ66で複数の送信アンテナ素子20から出力される電波を反射させ、リフレクタ66から反射される電波を受信器64で受信することにより送信アンテナ素子20の指向性パターンを取得することができる。
【0070】
このようにすることで、リフレクタ66以外の構成品を一体化して構成することができるので、フェーズドアレイアンテナ1をコンパクトな構成とすることができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0071】
(1)上記実施形態では、指向性パターンを取得する際に、リフレクタ66に反射させた電波を受信器64で受信したが、図8に示すように、受信器64を複数の送信アンテナ素子20の電波放射面の前面に配置して指向性パターンを取得するようにしてもよい。
【0072】
(2)上記実施形態では、複数の送信アンテナ素子20を略直線上に配置したフェーズドアレイアンテナとしていたが、複数の送信アンテナ素子20を二次元平面上にマトリクス状に配置するようにしてもよい。
【0073】
この場合には、マトリクス状に配置したアンテナ素子のうち1つを基準アンテナ素子21とし、その送信アンテナ素子20の位相を基準として、行ごと及び列ごとに位相校正を実行すればよい。
【0074】
(3)上記実施形態では、指向性パターンを取得する際に、校正対象アンテナ素子22,23の位相θを−90°から90°まで変化させ、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23の前面に設置したリフレクタ66から反射される電波を受信器64で受信していたが、θを変化させず、受信器64を基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23の前面に設置し、基準アンテナ素子21及び校正対象アンテナ素子22,23の電波放射方向に垂直の方向に移動させつつ受信電力を計測することにより、指向性パターンを取得してもよい。
【0075】
(4)上記実施形態では、分配装置50によって、制御処理装置70から指令信号を受け、複数の送信アンテナ素子20のうち電波を供給する1または2以上の送信アンテナ素子20を選択する装置であったが、増幅器30を用いてもよい。
【0076】
つまり、分配装置50を単に発振器10で発生された電波を複数の送信アンテナ素子20に分配する機能のみを有する分配装置により電波を各送信アンテナ素子20に分配し、電波を供給したい送信アンテナ素子21,22,23以外の増幅器30の増幅率を0にすることで、電波を送信アンテナ素子21,22,23に供給するようにしてもよい。
【0077】
また、この場合、増幅器30の代わりに、高周波スイッチを用いても同じ効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1…フェーズドアレイアンテナ、10…発振器、20…送信アンテナ素子、21…基準アンテナ素子(送信アンテナ素子)、22,23…校正対象アンテナ素子(送信アンテナ素子)、30…増幅器、40,41,42,43…移相器、50…分配装置、60…受信電力検出装置、62…受信アンテナ、64…受信器、66…リフレクタ、70…制御処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を発生させる発振器と、
複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子の各々に接続され、前記アンテナ素子から出力される電波の位相を変化させるための移相器と、
前記発振器で発生された電波を、前記移相器を介して前記複数のアンテナ素子に分配する分配手段と、
前記移相器及び前記分配手段を制御する制御手段と、
前記複数のアンテナ素子から放射される電波の電力を検出する受信手段から出力される受信信号を入力する信号入力部と、
を備えたフェーズドアレイアンテナの位相校正方法であって、
前記制御手段において、
前記複数のアンテナ素子のうち、配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子毎に位相の校正を行った後、
前記複数のアンテナ素子のうち、配列中心のアンテナ素子及び配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子のみに対して前記分配手段を介して前記発振器から出力される電波を供給し、
前記一対のアンテナ素子に接続されている前記移相器の位相を同じように変化させつつ、前記信号入力部を介して、前記受信手段で検出した受信電力の、前記複数のアンテナ素子の配列方向に水平の方向の分布から前記配列中心のアンテナ素子及び前記一対のアンテナ素子によって形成される指向性パターンを取得し、
該取得した指向性パターンにおいてサイドローブが所定の値となるように前記移相器の位相値を設定する工程を、前記配列中心のアンテナ素子及び前記配列の中心軸に対して対称の位置にあるすべての一対のアンテナ素子に対して行うことを特徴とするフェーズドアレイアンテナの位相校正方法。
【請求項2】
電波を発生させる発振器と、
複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子の各々に接続され、前記アンテナ素子から出力される電波の位相を変化させるための移相器と、
前記発振器で発生された電波を、前記移相器を介して前記複数のアンテナ素子に分配する分配手段と、
前記複数のアンテナ素子の位相を校正する際に、前記複数のアンテナ素子のうち、配列中心のアンテナ素子及び配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子のみに対して前記分配手段を介して前記発振器から出力される電波を供給するアンテナ素子選択手段と、
前記複数のアンテナ素子から放射される電波の電力を検出する受信手段から出力される受信信号を入力する信号入力部と、
前記複数のアンテナ素子のうち、配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子毎に位相の校正を行った後、
前記複数のアンテナ素子の位相を校正する際に、前記複数のアンテナ素子のうち、配列中心のアンテナ素子及び配列の中心軸に対して対称の位置にある一対のアンテナ素子のみに対して前記分配手段を介して前記発振器から出力される電波を供給し、
前記一対のアンテナ素子に接続されている前記移相器の位相を同じように変化させつつ、前記信号入力部を介して、前記受信手段で検出した受信電力の、前記複数のアンテナ素子の配列方向に水平の方向の分布から前記配列中心のアンテナ素子及び前記一対のアンテナ素子によって形成される指向性パターンを取得し、
該取得した指向性パターンにおいてサイドローブが所定の値となるように前記移相器の位相値を設定する工程を、前記配列中心のアンテナ素子及び前記配列の中心軸に対して対称の位置にあるすべての一対のアンテナ素子に対して行う校正手段と、
を備えたことを特徴とするフェーズドアレイアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−124749(P2012−124749A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274512(P2010−274512)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】