説明

フェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法

【課題】アンテナパネルによる情報の送信に異常が生じても、該異常の影響が他のアンテナパネルに伝播することを防止する、ことを目的とする。
【解決手段】複数のアンテナ素子20が配列配置された複数のアンテナパネルを平面状に接続した構成を有し、各アンテナ素子20に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し送電マイクロ波を放射するフェーズドアレイアンテナ1は、各アンテナパネル毎に備えられた演算処理部50によって、アンテナ素子20から放射させる送電マイクロ波の移相量を演算する。そして、演算処理部50によって演算された移相量を示す位相情報は、各アンテナパネル毎に備えられた送受信部94によって、少なくとも3つ以上の隣接する他のアンテナパネルへ送信される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、SSPS(Space Solar Power System)に適用されるフェーズドアレイアンテナに関し、特に、受電設備への電力送電ビーム方向を高精度で制御することのできるフェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の利用による二酸化炭素排出量の増加に伴い、地球温暖化などの環境問題や化石燃料枯渇などのエネルギー問題がクローズアップされている。このためクリーンエネルギーの需要は年々高まっており、それらの問題に対する解決方法の一つとしてSSPS計画が挙げられている。
SSPS計画とは、図8に示すように、巨大な太陽電池パネルを搭載した人口衛星を赤道上空に打ち上げ、太陽光によって発電した電力を太陽電池パネルの中の発信モジュールによりマイクロ波に変換する。そして、マイクロ波100をマイクロ波送電部101から地上に設けた受電設備102へ送電し、地上において再び電力に変換して利用するという計画である。
【0003】
これにより太陽発電の欠点である天候や時間帯に左右されること無く、クリーンなエネルギーを安定して供給することができる。この計画の実現のためには、大電力送電、マイクロ波ビーム制御、運用コストの低減などが技術課題として挙げられ、それらを満足させる方法の一つとして、上記マイクロ波送電部101に積層アクティブ集積アンテナ(Active Integrated Antenna:AIA)を用いる方法が挙げられている。また、送電の更なる高効率化を図るために、上記積層アクティブ集積アンテナにレトロディレクティブ機能を搭載することなどが検討されている。
上記レトロディレクティブ機能とは、地上に設けられた受電設備102から送られてくるパイロット信号(誘導信号)をマイクロ波送電部101が備える送電アンテナにより受信し、受信したパイロット信号の位相情報を送電アンテナから放射させる送信波に反映させることによって、この送信波をパイロット信号の到来方向に指向させる機能である。
【0004】
また、SSPSにおける送電アンテナでは、二次元配列された約1m四方のアンテナパネルがそれぞれ結合点にて結合されることにより、大面積のアンテナを構築している。この大面積のアンテナは、結合点を中心に折れ曲がったりすることにより、各アンテナパネルから放射させるマイクロ波の位相面が異なり、電力レベルの高い不要波が目標地点以外に放射されることもあるため、位相面を揃える方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、レトロディレクティブ機能の一例が開示されており、パイロット信号の到来方向とアンテナパネルとがなす到来方向角度に基づいて、パイロット信号の到来方向に直交するアンテナ基準線と各アンテナ素子との間の距離を算出し、算出されたそれぞれの距離に応じて、各アンテナ素子から放射させるマイクロ波の移相量を決定し、補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−287451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の方法では、基準とするパネルを起点として、順に隣のアンテナパネルから出力されるマイクロ波の移相量を決定し、補正している。
各アンテナパネルが、移相量を決定する場合、他のアンテナパネルの通信機能に故障が発生していると、該アンテナパネルに隣接する他のアンテナパネルに移相量を送信できず、一部のアンテナパネルの通信故障が他のアンテナパネルに影響を与える可能性がある。また、一部のアンテナパネルが誤った移相量を送信すると、該アンテナパネルに隣接するパネルが誤った移相量を受信することとなり、誤った移相量が他のアンテナパネルに伝播する可能性がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、アンテナパネルによる情報の送信に異常が生じても、該異常の影響が他のアンテナパネルに伝播することを防止できるフェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のフェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法は以下の手段を採用する。
【0009】
すなわち、本発明に係るフェーズドアレイアンテナは、複数のアンテナ素子が配列配置された複数のアンテナパネルを平面状に接続した構成を有し、各前記アンテナ素子に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し信号を放射するフェーズドアレイアンテナであって、各前記アンテナパネル毎に備えられ、前記アンテナ素子から放射させる信号の移相量を演算する演算手段と、各前記アンテナパネル毎に備えられ、前記演算手段による前記移相量の演算に用いる演算情報を隣接する他の前記アンテナパネルから受信する受信手段と、各前記アンテナパネル毎に備えられ、少なくとも3つ以上の隣接する他の前記アンテナパネルへ、前記演算手段によって演算した前記演算情報を送信する送信手段と、を備える。
【0010】
本発明によれば、フェーズドアレイアンテナは、複数のアンテナ素子が配列配置された複数のアンテナパネルを平面状に接続した構成を有し、各前記アンテナ素子に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し信号を放射する。
【0011】
そして、各アンテナパネル毎に備えられた演算手段によって、アンテナ素子から放射させる信号の移相量が演算される。演算手段は、隣接する他のアンテナパネルから送信される演算情報を用いて移相量を演算するが、演算情報は、各アンテナパネル毎に備えられた受信手段によって受信される。
なお、信号とは、例えば送電マイクロ波であり、演算情報とは、例えば演算手段によって演算された移相量を示す情報である。
演算手段によって演算された演算情報は、各アンテナパネル毎に備えられた送信手段によって、少なくとも3つ以上の隣接する他のアンテナパネルへ送信される。
【0012】
ここで、2以下の隣接する他のアンテナパネルへ演算情報を送信するのでは、一部のアンテナパネルに通信機能の故障が生じている場合、通信機能が故障しているアンテナパネルに隣接した、通信機能が故障していないアンテナパネルへ演算情報が送信されない場合がある。
しかし、少なくとも3つ以上の隣接する他のアンテナパネルに演算情報を送信することによって、送信経路が冗長となり、通信機能が故障しているアンテナパネルを迂回して演算情報が送信されるので、通信機能が故障していないアンテナパネルに演算情報が送信されないことを防ぐことができる。
【0013】
従って、本発明は、アンテナパネルによる情報の送信に異常が生じても、該異常の影響が他のアンテナパネルに伝播することを防止できる。
【0014】
また、本発明のフェーズドアレイアンテナは、前記演算手段が、2つ以上の隣接する他の前記アンテナパネルからの前記演算情報を受信した後に、受信した前記演算情報毎に複数の演算を行い、多数決により演算の結果としての前記演算情報を決定し前記送信手段が、多数決により決定された前記演算情報を隣接する他の前記アンテナパネルへ送信する。
【0015】
本発明によれば、アンテナパネルが2つ以上の隣接する他のアンテナパネルからの演算情報を受信すると、演算手段によって、受信した演算情報毎に複数の演算が行われ、多数決により演算の結果としての演算情報が決定される。すなわち、演算の結果として異なる演算情報が複数得られた場合、同一の演算情報がより多い方が、正しい演算情報として決定される。なお、同一の演算情報には、完全に同一な演算情報の他に、差が所定範囲内に含まれる演算情報も含まれる。
このため、アンテナパネルが、誤った演算情報を受信したとしても、他のアンテナパネルから受信した正しい演算情報を用いて演算された演算情報を得ることとなるので、誤った演算情報が他のアンテナパネルに更に送信されること、すなわち、誤った演算情報の伝播が防止される。
【0016】
従って、本発明は、アンテナパネルによる情報の送信に異常が生じても、該異常の影響が他のアンテナパネルに伝播することを防止できる。
【0017】
また、本発明のフェーズドアレイアンテナは、前記演算手段が、隣接する他の前記アンテナパネルからの前記演算情報を2つ受信すると、受信した前記演算情報毎に演算を行い、演算の結果としての2つの前記演算情報が一致するか否かを判定し、前記送信手段が、2つの前記演算情報が一致しない場合、不一致を示す不一致情報を隣接する他の前記アンテナパネルへ送信し、2つの前記演算情報が一致した場合、該演算情報を隣接する他の前記アンテナパネルへ送信する。
【0018】
本発明によれば、隣接する他のアンテナパネルからの演算情報を2つ受信すると、演算手段によって、受信した演算情報毎に演算が行われ、演算の結果としての2つの演算情報が一致するか否かが判定され、2つの演算情報が一致しない場合に、送信手段によって、不一致を示す不一致情報が隣接する他のアンテナパネルへ送信される。
なお、演算手段は、不一致情報を受信した場合、受信した一つの演算情報で演算を行い、該演算による演算情報が送信手段によって隣接する他のアンテナパネルへ送信される。
【0019】
このように、演算の結果としての2つの演算情報の一致、不一致にかかわらず、隣接する他のアンテナパネルへ情報を送信することとなるので、本発明は、隣接する他のアンテナパネルへの情報の送受信が滞ることを防ぐことができる。
【0020】
また、本発明のフェーズドアレイアンテナは、前記演算手段が、演算の結果としての2つの前記演算情報が一致せず、その後、隣接する他の前記アンテナパネルから3つ目の前記演算情報を受信すると、該3つ目の前記演算情報を用いて演算を行い、多数決により演算情報を決定し、前記送信手段が、多数決により決定された前記演算情報を、隣接する他の前記アンテナパネルへ新たに送信する。
【0021】
本発明によれば、演算の結果としての2つの演算情報が一致せず、その後、隣接する他のアンテナパネルから3つ目の演算情報を受信すると、演算手段によって、3つ目の演算情報を用いて演算が行われ、多数決により演算の結果としての演算情報が決定される。そして、送信手段によって、3多数決により決定された演算情報が隣接する他のアンテナパネルへ新たに送信される。
【0022】
従って、本発明は、誤った演算情報の伝播を防止すると共に、正しい演算情報を伝播させることができる。
【0023】
一方、本発明に係るフェーズドアレイアンテナの位相制御方法は、複数のアンテナ素子が配列配置された複数のアンテナパネルを平面状に接続した構成を有し、各前記アンテナ素子に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し信号を放射するフェーズドアレイアンテナの位相制御方法であって、各前記アンテナパネル毎に備えられた受信手段によって、前記アンテナ素子から放射させる信号の移相量の演算に用いる演算情報を隣接する他の前記アンテナパネルから受信し、該演算情報を用いて前記移相量を演算する第1工程と、各前記アンテナパネル毎に備えられた送信手段によって、少なくとも3つ以上の隣接する他の前記アンテナパネルへ前記第1工程で演算した前記演算情報を送信する第2工程と、を含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、アンテナパネルによる情報の送信に異常が生じても、該異常の影響が他のアンテナパネルに伝播することを防止できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るフェーズドアレイアンテナにおけるアンテナパネル及びアンテナ素子の配列を示した図である。
【図2】本発明の実施形態に係るフェーズドアレイアンテナの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示したフェーズドアレイアンテナの一部を抜き出して示した図である。
【図4】アンテナパネルから2つの隣接する他のアンテナパネルへ位相情報が送信される例を示した模式図である。
【図5】本発明の実施形態に係るアンテナパネルから3つの隣接する他のアンテナパネルへ位相情報が送信される例を示した模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係る通信アルゴリズムの処理の流れを示す模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る通信アルゴリズムの処理の具体的な一例を示す模式図である。
【図8】宇宙太陽発電システムについて示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係るフェーズドアレイアンテナ及びその位相制御方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態では、本発明に係るフェーズドアレイアンテナをSSPSに適用した場合を例に挙げて説明する。
【0027】
図1は、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1の概略構成を示した図である。図1に示されるように、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、O−XYZの直交座標系において、X−Y平面上にN行N列で二次元配列された複数のアンテナパネルCを備えている。隣接するアンテナパネルCは、各結合点(図示略)において、結合されている。各アンテナパネルCは、例えば、一辺がA(例えば、1m程度)の正方形であり、このようなアンテナパネルCが互いに結合されていることにより、パネル全体として約2km四方の大型フェーズドアレイアンテナ1が構築されている。
【0028】
各アンテナパネルCには、複数のアンテナ素子20がX軸方向及びY軸方向に所定の距離間隔で、二次元配列されている。例えば、各アンテナパネルCには、X軸方向及びY軸方向に、互いの距離間隔がいずれもaとなるように、アンテナ素子20が2次元配列されている。なお、アンテナパネルCの端面とその端面に最も近いアンテナ素子20との距離は、いずれもa/2とされている。
【0029】
また、図1に示されるように、フェーズドアレイアンテナ1が有する複数のアンテナパネルCのうち、基準となるアンテナパネルCを基準パネルPとした場合に、基準パネルPの面上から所定高さhの位置に指示送信部(指示送信手段)32を備えている。指示送信部32は、無線通信を介して、フェーズドアレイアンテナ1の各アンテナパネルCに対して時刻同期パルスを送信する。
【0030】
また、指示送信部32の設けられる高さ位置hは、基準パネルPと基準パネルP以外の他の各アンテナパネルCとの時刻同期パルスの伝達距離差に基づいて算出される位相の誤差が、所定範囲内におさまるように設定することが好ましい。なお、指示送信部32が設けられる高さ位置hは、特に限定されないが、基準パネルPの面上からの距離(高さ)が大きくなるほど、基準パネルPと他の各アンテナパネルCとの間の時刻同期パルスの伝達距離差が短くなることから、本実施形態においては、基準パネルPの面上から約1キロメートルの位置とする。
【0031】
次に、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1の電気的構成について、図2を参照して説明する。なお、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、各アンテナパネルC毎に位相制御部92が設けられている。
原振31は、無線通信を介し、検出部40によって各アンテナパネルC間の到達位相φを推定する場合の基準となる基準信号fp+Δpを、各アンテナパネルCに対して送信する。なお、原振31によって、基準信号を送信する手法については、例えば、特開2004−325162号公報に詳述されている。これらの周知技術を採用することにより、原振31から基準信号を送信することが可能である。
指示送信部32は、時刻を同期させるパルス(時刻同期パルス)を検出部40に出力する。
【0032】
位相制御部92が備える受信回路30は、各アンテナパネルCの受信用アンテナ素子120により受信されたパイロット信号fを所定の周波数とするべく基準信号fp+Δpに基づいてダウンコンバートし、ダウンコンバートされたパイロット信号f´(=fΔp=fp+Δp−f)を検出部40に出力する。ここで、所定の周波数は、アンテナの大きさが所定範囲内となる周波数である。また、パイロット信号fをダウンコンバートした場合であっても、各アンテナパネルの受信回路30で受信したパイロット信号fの相対的な位相は維持されている。
【0033】
検出部40は、アンテナパネルCにおける、アンテナパネル面とパイロット信号の到来方向とがなす到来方向角度θ、及びアンテナパネルCにおけるパイロット信号の到達位相φをアンテナパネル毎に検出し、演算処理部50に出力する。具体的には、検出部40は、AD変換器41、候補決定部42、及び角度検出部43を備えている。
AD変換器41は、指示送信部32から取得した時刻同期パルスをトリガとし、各アンテナパネルCの受信回路30においてダウンコンバートされたパイロット信号f´における到達位相φ検出のタイミング情報を候補決定部42に出力する。
【0034】
候補決定部42は、基準信号fp+Δpに基づいてダウンコンバートされたパイロット信号f´と、AD変換器41から取得したタイミング情報とに基づいて、アンテナパネルC毎にパイロット信号f´の到達位相φを検出する。つまり、候補決定部42は、タイミング情報を受信した時点における基準信号の位置により、パイロット信号f´の到達位相φを検出する。また、候補決定部42は、アンテナパネルC毎に、パイロット信号fの到達位相φに基づいてアンテナパネルCの位置(以下「パネル位置」という)の候補Rを推定する。アンテナパネルCの位置の候補Rは、波長の整数倍分の位置候補である。候補決定部42は、到達位相φとパネル位置の候補Rとを演算処理部50に出力する。
【0035】
図3には、複数のアンテナパネルCが、地上からのパイロット信号を受信する様子を示している。例えば、候補決定部42は、基準パネルPの隣に位置するアンテナパネルC1jにおいて、パイロット信号fの到達位相φ1jの情報に基づいて、パイロット信号fを波形の頂上で受信していると検出し、パイロット信号fの位相が360°ずつ、ずれているR1j1,R1j2,R1j3をパネル位置の候補Rとして推定する。
【0036】
角度検出部43は、RF干渉計を備えており、各アンテナパネルCが備える複数の受信用アンテナ素子120により受信されたパイロット信号fの位相差を測ることにより、パイロット信号を送信した受電設備102(例えば、図8参照)の方向を求める。また、角度検出部43は、アンテナパネルC毎に、上記受信設備102の方向を示す到来方向角度θを推定し、演算処理部50へ出力する。
【0037】
演算処理部50は、マイクロコンピュータを備えており、入力された到来方向角度θ、到達位相φ、パネル位置の候補R、及び隣接する他のアンテナパネルCの位相情報(アンテナパネルCに配列配置された複数のアンテナ素子20から放射させる送電マイクロ波の移相量を示す情報)に基づいて、位相制御処理を実行することにより、各アンテナ素子20から送出させる送電マイクロ波の移相量を演算し、移相量を示す位相情報を各可変移相器80へ出力する。なお、位相制御処理とは、各アンテナパネルCにおいてパイロット信号fの到達位相φを検出し、到達位相φに基づいた位相制御処理を行うことにより、全アンテナ素子20から出力される送電マイクロ波の位相面を揃える処理である。
具体的には、演算処理部50は、位置特定部51及び移相量決定部52を備えている。
【0038】
位置特定部51は、到達位相φ及び到来方向角度θに基づいて、複数のアンテナパネルのうち、基準パネルPに対する各アンテナパネルの位置を特定する。また、基準パネルPは固定的に設定されている。
【0039】
ここで、図3を用いて、基準パネルPの1つ隣のアンテナパネルC1jの位置を推定する場合を例に挙げて説明する。位置特定部51は、アンテナパネルC1jの到達位相φ1jを求めた際に推定されたパネル位置の候補R(例えば、R1j1,R1j2,R1j3・・・)のうち、基準パネルPの位置から到来方向角度θ1jの位置となるパネル位置を選定し、選定されたパネル位置R1j1をアンテナパネルC1jの位置と特定する。
【0040】
このように、位置特定部51は、アンテナパネルCのパネル位置を特定するとともに、パネル位置の情報を移相量決定部52に出力する。なお、ここでは、アンテナパネルの到来方向角度θの誤差が、波長よりも小さいこととする。
移相量決定部52は、位置特定部51によって特定されたパネル位置の情報に基づいて、各アンテナ素子20から放射させる信号の移相量をそれぞれ決定する。例えば、移相量決定部52は、隣接する他のアンテナパネルCの位相情報に基づいて、アンテナ素子20から放射させる送電マイクロ波の移相量を決定する。
また、移相量決定部52は、送電マイクロ波の移相量を決定すると、各アンテナパネルCに対応する可変移相器80に移相量の情報を出力する。
【0041】
送受信部94は、隣接する他のアンテナパネルCで演算された位相情報を、該アンテナパネルCから受信し、演算処理部50で演算した結果としての位相情報を隣接する他のアンテナパネルCへ送信する。なお、本実施形態では、正方形とされたアンテナパネルCの各辺に隣接する他のアンテナパネルC間で位相情報を送受信する。
【0042】
一方、マイクロ波発生部60は、基準マイクロ波信号を生成して分波回路70へ出力する。分波回路70は、入力された基準マイクロ波信号を分波して、各アンテナ素子20にそれぞれ対応して設けられている可変移相器80に出力する。
各可変移相器80は、演算処理部50からそれぞれ入力された位相情報に基づいて、分波回路70から入力された基準位相の送電マイクロ波に移相量を生じさせ、電力増幅器90に出力する。
電力増幅器90は、アンテナ素子20にそれぞれ対応して設けられ、外部電源(宇宙太陽発電部)より供給された電力を可変移相器80から出力される信号の位相及び周波数の送電マイクロ波へ増幅し、アンテナ素子20へ出力する。
アンテナ素子20は、それぞれ電力増幅された各位相差を有する送電マイクロ波を受電設備102(図8参照)に向けて放射する。
【0043】
ここで、2以下の隣接する他のアンテナパネルCへ位相情報を送信するのでは、一部のアンテナパネルCに通信機能の故障、すなわち送受信部94に故障が生じている場合、通信機能が故障しているアンテナパネルCに隣接する、通信機能が故障していないアンテナパネルCへ位相情報が送信されない可能性がある。
図4は、2つの隣接する他のアンテナパネルCへ位相情報が送信される例を示している。
図4のアンテナパネルC1,C2は、通信機能が故障したアンテナパネルCであり、図4の矢印は、位相情報が送信される方向である。そして、図4に示すように、基準パネルPから順に隣接するアンテナパネルCへ位相情報が送信されても、アンテナパネルC1,C2に隣接するアンテナパネルC3へは位相情報が送信されない。
【0044】
そこで、本実施形態に係る送受信部94は、演算処理部50で演算した位相情報を、少なくとも3つ以上の隣接する他のアンテナパネルCへ送信する。これにより、アンテナパネルCの送信経路が冗長となり、通信機能が故障しているアンテナパネルCを迂回して位相情報が送信されるので、通信機能が故障していないアンテナパネルCに位相情報が送信されないことを防ぐことができる。
図5は、3つの隣接する他のアンテナパネルCへ位相情報が送信される例を示している。図5に示すように、3つの隣接する他のアンテナパネルCへ位相情報を送信することによって、通信機能が故障したアンテナパネルC2を回り込んで、通信機能が故障していないアンテナパネルC3へ位相情報が送信されることとなる。
なお、図5では、位相情報を送信する3つの隣接する他のアンテナパネルCに、位相情報を受信した他のアンテナパネルCを含まない。すなわち、アンテナパネルCは、位相情報を受信した他のアンテナパネルCにも、演算の結果としての位相情報を送信すると、4つの隣接する他のアンテナパネルCへ位相情報を送信することとなる。
【0045】
また、アンテナパネルCが備える送受信部94又は演算処理部50の故障により、誤った位相情報が、隣接する他のアンテナパネルCへ送信される場合がある。このような場合、誤った位相情報が他のパネルに伝播する可能性がある。
そこで、本実施形態に係る演算処理部50は、2つ以上の隣接する他のアンテナパネルCからの位相情報を受信した後に、受信した位相情報毎に複数の演算を行い、多数決により位相情報を決定する。そして、送受信部94は、多数決により決定した位相情報を隣接する他のアンテナパネルCへ送信する。すなわち、演算の結果として異なる位相情報が複数得られた場合、同一の位相情報がより多い方が、正しい位相情報として決定される。なお、同一の位相情報には、完全に同一な位相情報の他に、差が所定範囲内に含まれる位相情報も含まれる。
このように、アンテナパネルCが、他のアンテナパネルCから誤った位相情報を受信したとしても、他のアンテナパネルCから受信した正しい位相情報を用いて、位相情報を演算することとなるので、誤った位相情報が他のアンテナパネルCに更に送信されること、すなわち、誤った位相情報の伝播が防止される。
【0046】
図6は、本実施形態に係る通信アルゴリズムの処理の流れを示す模式図である。なお、図6において、「A」を正しい位相情報とし、「B」を誤った位相情報とし、正しい位相情報「A」を用いた演算の結果としての位相情報を「A」とする。しかし、実際には、位相情報は、他のアンテナパネルCから受信した位相情報を用いて演算された結果であるため、演算の結果としての位相情報と受信した位相情報は異なる場合がある。
なお、基準パネルP及び基準パネルPに隣接し2つ以上の位相情報を受信できないアンテナパネルCは、通信アルゴリズムによる処理を行うことなく、位相情報を演算する。
【0047】
通信アルゴリズムでは、まず、演算処理部50が、2つの隣接する他のアンテナパネルCから位相情報を受信するまで待機する(ステップ1)。
そして、演算処理部50は、2つの隣接する他のアンテナパネルCからの位相情報を受信する(ステップ2)と、受信した位相情報毎に演算を行い(ステップ3A,3B,3C)、演算の結果としての2つの位相情報が一致するか否かを判定する。
【0048】
演算の結果としての2つの位相情報が一致しない場合、すなわち、正しい位相情報「A」と誤った位相情報「B」とを受信した場合、演算処理部50は、位相情報の決定を保留し(ステップ3A)する。そして、送受信部94は、不一致を示す不一致情報(図6の「?」)を隣接する他のアンテナパネルCへ送信する(ステップ4A)。
そして、演算処理部50は、その後、隣接する他のアンテナパネルCから3つ目の位相情報を受信すると、3つ目の位相情報を用いて演算を行い、多数決により位相情報を決定する(ステップ5A)。
そして、送受信部94が、多数決によって決定された位相情報を隣接する他のアンテナパネルCへ新たに送信する(ステップ6)。
【0049】
一方、送受信部94が不一致情報「?」を受信した場合、演算処理部50は、受信した一つの位相情報「A」を用いて演算を行う(ステップ3B)。そして、送受信部94は、位相情報「A」を用いた演算の結果としての位相情報「A」を、隣接する他のアンテナパネルCへ送信する(ステップ6)。
【0050】
また、2つの演算の結果としての位相情報「A」が一致した場合、すなわち、正しい位相情報「A」を2つ受信した場合(ステップ3C)、演算処理部50による位相情報毎の演算の結果としての2つの位相情報は、一致する。そのため、送受信部94は、一致した位相情報「A」を隣接する他のアンテナパネルCへ送信する(ステップ6)。
【0051】
図7は、本実施形態に係る通信アルゴリズムの処理の具体的な一例を示す模式図である。アンテナパネルC上に表示されている「A」は、正しい位相情報を送信したアンテナパネルCを示し、「?」は、保留状態となっているアンテナパネルCを示している。また、「待」は、位相情報の受信待ち状態となっているアンテナパネルCを示し、「B」は、誤った位相情報を送信したアンテナパネルCを示している。
図7(A)は、初期状態の一例である。
図7(B)は、受信待ち状態となっているアンテナパネルC1が、位相情報「A」と位相情報「?」を受信し、演算の結果を位相情報「A」と決定した状態である。
図7(C)は、アンテナパネルC1が、位相情報「A」を隣り合う他のアンテナパネルCへ送信した状態である。
図7(D)は、保留状態となっていたアンテナパネルC2が、アンテナパネルC1から受信した位相情報「A」によって、演算の結果を位相情報「A」と決定し、決定した位相情報「A」を隣り合う他のアンテナパネルCへ送信した状態である。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、各アンテナパネルC毎に備えられた演算処理部50によって、アンテナ素子20から放射させる送電マイクロ波の移相量を演算する。そして、演算処理部50で演算された移相量を示す位相情報は、各アンテナパネルC毎に備えられた送受信部94によって、少なくとも3つ以上の隣接する他のアンテナパネルCへ送信される。
従って、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、アンテナパネルCによる位相情報の送信に異常が生じても、該異常の影響が他のアンテナパネルCに伝播することを防止できる。
【0053】
また、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、アンテナパネルCが2つ以上の隣接する他のアンテナパネルCからの位相情報を受信すると、演算処理部50によって、受信した位相情報毎に複数の演算を行い、多数決により演算の結果としての位相情報を決定し、送受信部94によって、多数決により決定した位相情報を隣接する他のアンテナパネルCへ送信する。
従って、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、誤った位相情報が他のアンテナパネルCに更に送信されること、すなわち、誤った位相情報の伝播を防止できるので、アンテナパネルCによる位相情報の送信に異常が生じても、該異常の影響が他のアンテナパネルCに伝播することを防止できる。
【0054】
また、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、隣接する他のアンテナパネルCからの位相情報を2つ受信すると、演算処理部50によって、受信した位相情報毎に演算を行い、演算の結果としての2つの位相情報が一致するか否かを判定し、2つの位相情報が一致しない場合に、送受信部94によって、不一致を示す不一致情報を隣接する他のアンテナパネルCへ送信する。
従って、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、演算の結果としての2つの位相情報の一致、不一致にかかわらず、隣接する他のアンテナパネルCへ情報を送信することとなるので、隣接する他のアンテナパネルCへの情報の送受信が滞ることを防ぐことができる。
【0055】
また、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、演算の結果としての2つの位相情報が一致せず、その後、隣接する他のアンテナパネルCから3つ目の位相情報を受信すると、演算処理部50によって、3つ目の位相情報を用いて演算を行い、多数決により演算の結果としての位相情報を決定し、送受信部94によって、多数決により決定された位相情報を隣接する他のアンテナパネルCへ新たに送信する。
従って、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ1は、誤った位相情報の伝播を防止すると共に、正しい位相情報を伝播させることができる。
【0056】
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0057】
例えば、上記実施形態では、位相情報を隣接する他のアンテナパネルCへ送信し、受信した位相情報を用いて演算する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、パイロット信号に基づいて演算したアンテナパネルCの位置を示す位置情報及びアンテナパネルCの角度を示す角度情報を隣接する他のアンテナパネルCへ送信し、受信した位置情報及び角度情報を用いて、アンテナ素子20から放射させる送電マイクロ波の移相量を演算する形態としてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、正方形とされたアンテナパネルCの各辺に隣接する他のアンテナパネルC間で位相情報を送受信する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、アンテナパネルCの角で隣接する他のアンテナパネルC間で位相情報を送受信する形態としてもよい。この形態の場合、5つ以上の隣接する他のアンテナパネルCへの位相情報の送信が可能となる。
【0059】
また、上記実施形態では、アンテナパネルCを正方形とする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、アンテナパネルCを五角形以上の多角形とする形態としてもよい。この形態の場合、5つ以上の隣接する他のアンテナパネルCへの位相情報の送信が可能となる。
【符号の説明】
【0060】
1 フェーズドアレイアンテナ
50 演算処理部
51 位置特定部
52 移相量決定部
92 位相制御部
94 送受信部
C アンテナパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子が配列配置された複数のアンテナパネルを平面状に接続した構成を有し、各前記アンテナ素子に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し信号を放射するフェーズドアレイアンテナであって、
各前記アンテナパネル毎に備えられ、前記アンテナ素子から放射させる信号の移相量を演算する演算手段と、
各前記アンテナパネル毎に備えられ、前記演算手段による前記移相量の演算に用いる演算情報を隣接する他の前記アンテナパネルから受信する受信手段と、
各前記アンテナパネル毎に備えられ、少なくとも3つ以上の隣接する他の前記アンテナパネルへ、前記演算手段によって演算した前記演算情報を送信する送信手段と、
を備えたフェーズドアレイアンテナ。
【請求項2】
前記演算手段は、2つ以上の隣接する他の前記アンテナパネルからの前記演算情報を受信した後に、受信した前記演算情報毎に複数の演算を行い、多数決により演算の結果としての前記演算情報を決定し、
前記送信手段は、多数決により決定された前記演算情報を隣接する他の前記アンテナパネルへ送信する請求項1記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項3】
前記演算手段は、隣接する他の前記アンテナパネルからの前記演算情報を2つ受信すると、受信した前記演算情報毎に演算を行い、演算の結果としての2つの前記演算情報が一致するか否かを判定し、
前記送信手段は、2つの前記演算情報が一致しない場合、不一致を示す不一致情報を隣接する他の前記アンテナパネルへ送信し、2つの前記演算情報が一致した場合、該演算情報を隣接する他の前記アンテナパネルへ送信する請求項2記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項4】
前記演算手段は、演算の結果としての2つの前記演算情報が一致せず、その後、隣接する他の前記アンテナパネルから3つ目の前記演算情報を受信すると、該3つ目の前記演算情報を用いて演算を行い、多数決により演算情報を決定し、
前記送信手段は、多数決により決定された前記演算情報を、隣接する他の前記アンテナパネルへ新たに送信する請求項3記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項5】
複数のアンテナ素子が配列配置された複数のアンテナパネルを平面状に接続した構成を有し、各前記アンテナ素子に入出力する信号の位相を制御することにより、受信設備から送信されたパイロット信号の到来方向に対し信号を放射するフェーズドアレイアンテナの位相制御方法であって、
各前記アンテナパネル毎に備えられた受信手段によって、前記アンテナ素子から放射させる信号の移相量の演算に用いる演算情報を隣接する他の前記アンテナパネルから受信し、該演算情報を用いて前記移相量を演算する第1工程と、
各前記アンテナパネル毎に備えられた送信手段によって、少なくとも3つ以上の隣接する他の前記アンテナパネルへ前記第1工程で演算した前記演算情報を送信する第2工程と、
を含むフェーズドアレイアンテナの位相制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−30914(P2013−30914A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164520(P2011−164520)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】