説明

フェーズドアレーアンテナ装置

【課題】アンテナの開口を複数の電波装置で共用し、各電波装置に必要な性能を与えると共に、消費電力を抑制できるフェーズドアレーアンテナ装置を得る。
【解決手段】送信アンテナ6および受信アンテナ9の開口を分割することにより使用する複数の電波装置(レーダ、ECM、通信装置など)の機能を実現するフェーズドアレーアンテナ装置であって、複数の電波装置が必要とする開口寸法を計算する開口寸法計算部は、複数の電波装置が必要とする実効輻射電力、ビーム幅あるいはその両方を用いて、複数の電波装置に割り当てる開口寸法を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、ECM(Electronic Counter Measures)装置、通信機器など
の電波機器(電波装置とも称す)に用いるフェーズドアレーアンテナに関するものであって、特に、フェーズドアレーアンテナを複数の電波機器で共用するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ装置、ECM装置、通信装置などは、個別に空中線を備えていた。
しかし、艦船や航空機などにおいて、空中線を搭載するプラットホームが狭い所に新たな電波機器を設置する場合、空中線間で電磁干渉が生じたり、また、プラットホームが狭い場合には物理的に空中線が配置できない等の問題があった。
これらの問題を解決するため、1つの空中線を複数の電波機器で共用する方法が考えられる。
例えば、下記の非特許文献1では、1つのアレーアンテナの開口を分割し、レーダ、ECM装置、通信装置等で共用する方法が示されている。
【0003】
非特許文献1に示されたアレイアンテナ装置の場合には、送信アレイにおいて、近接配置された複数のアンテナ素子を1つの群として複数の群に群分けし、各群のアンテナ素子は、複数の送信信号発生器とクロスポイントスイッチとからなる信号分配器を介して接続されている。
上記非特許文献1のアレイアンテナ装置では、送信信号発生器で生成した送信高周波信号を分配して任意の群のアンテナ素子に給電し、送信アレイアンテナの開口面を分割することにより、それぞれを複数の通信や電子戦、レーダなどに割り当てて、同時に使用可能な構成としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】G.C.Tavik,et al., “The Advanced Multifunction RF Concept” IEEE Transactions on MicrowaveTheory and Techniques,Vol.53,No.3,March 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に示す方法では、レーダ装置、ECM装置、通信装置などの電波機器(電波装置)に割り当てるアレーアンテナの開口分割の寸法を、所望の任意の寸法に設定できない。
何故ならば、通常のアレーアンテナでは、送信信号はアンテナの外部で生成され、アンテナ内部では送信信号を分配してモジュールに供給するだけなので、信号を分配する範囲はアンテナ製造時の配線に依存し、配線を切り替えるにしてもアンテナ製造時に作りつけた数通りにしか切り替えられないためである。
従って、非特許文献1に示す方法では、各電波装置により適した開口寸法とすることができないという問題があった。
【0006】
即ち、大開口面積を必要とする電波機器(電波装置)に対しては十分な開口面積を確保できずに性能が劣化し、また、小開口面積でよい電波機器に対しては開口面積が必要以上に大きくなり過剰な性能となったり、あるいは消費電力が過大となってしまうという問題
があった。
また、非特許文献1には、開口分割の寸法の決定法に関する記述も無く、完全に自由な寸法で分割可能なアレーアンテナを用いたとしても、厳密に最適な分割寸法を決定することができないという課題があった。
【0007】
本発明はこれらの課題を解決するためのものであり、1つのアンテナの開口を分割して複数の電波機器(電波装置)で共用する場合において、各電波装置に必要十分な性能を与える開口の分割寸法を決定し、十分な性能を得ると共に、無駄な消費電力を無くすことができるフェーズドアレーアンテナ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るフェーズドアレーアンテナ装置は、2次元配列された複数の送信モジュールで構成された送信アンテナと2次元配列された複数の受信モジュールで構成された受信アンテナとを有し、前記送信アンテナおよび前記受信アンテナの開口を分割することにより使用する複数の電波装置の機能を実現するフェーズドアレーアンテナ装置であって、
前記複数の電波装置が必要とする開口寸法を計算する開口寸法計算部と、
前記開口寸法計算部の計算結果に基づいて前記送信アンテナの開口を分割すると共に、分割された各開口のビーム形成やビーム走査の制御を行う送信アンテナ制御部と、
前記開口寸法計算部の計算結果に基づいて前記受信アンテナの開口を分割し、前記複数の電波装置から受信する複数の受信信号を前記複数の電波装置の各機能に対応して制御する受信アンテナ制御部を備え、
前記開口寸法計算部は、前記複数の電波装置が必要とする実効輻射電力、ビーム幅あるいはその両方を用いて、前記複数の電波装置に割り当てる開口寸法を計算する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、開口寸法計算部は、複数の電波装置が必要とする実効輻射電力、ビーム幅、あるいはその両方を用いて、前記複数の電波装置に割り当てる開口寸法を計算するので、共用して使用する各電波装置に必要十分な性能を与える最適な開口の分割寸法(即ち、最適な分割開口面積)を決定し、各電波装置の所要性能を過不足なく実現することができると共に、無駄な消費電力を無くすことができるフェーズドアレーアンテナ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1に係るフェーズドアレーアンテナ装置の構成を説明するための図である。
【図2】実施の形態1に係るフェーズドアレーアンテナ装置の送信モジュールの内部構成を示す図である。
【図3】実施の形態1に係るフェーズドアレーアンテナ装置の受信モジュールの内部構成を示す図である。
【図4】実施の形態1に係るアレーアンテナ装置の分割開口の寸法を決定する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面にも基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
なお、図中において、同一符号は、同一あるいは相当のものであることを表す。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るフェーズドアレイアンテナ装置を説明するための図であり、図1(a)はフェーズドアレイアンテナ装置の全体構成を示す図、図1(b)は送信アレーアンテナ4および受信アレーアンテナ9を前面から見たときの図である。
図1(a)に示すように、送信アレーアンテナ4は複数の多数の送信モジュール6で構
成されており、送信アレーアンテナ4の前面には送信モジュール6からのRF信号を放射する複数の送信素子アンテナ7が多数配列されている。
【0012】
なお、図1(b)において、5は送信アレーアンテナ4の開口面、5aはレーダ機能を割り当てた送信開口、5bはECM機能を割り当てた送信開口、5cは通信機能を割り当てた送信開口を示している。
また、図1(b)において、10は受信アレーアンテナ9の開口面、10aはレーダ機能を割り当てた受信開口、10bはECM機能を割り当てた受信開口、10cは通信機能を割り当てた受信開口を示している。
【0013】
受信アレーアンテナ9は、送信アレーアンテナ4と同様に、複数の多数の受信モジュール11で構成され、2次元アレーアンテナを形成している。
図1(b)に示すように、本実施の形態による送信アレーアンテナ4および受信アレーアンテナ9は、開口面5あるいは開口面10内において、複数の電波装置にそれぞれ対応する開口が2次元に配列されたアレーアンテナを想定している。
なお、図1(b)における「COM」は、通信(Communication)のことである
【0014】
ところで、各機能(即ち、レーダ機能、ECM機能、通信機能など)を割り当てた開口の形状は、縦横に歪みのないビームを形成するためには、円形に近い形状が望ましいが、六角形が最も円形に近く、かつ、隙間無く複数の開口を配置するのに適した形状である。
従って、本実施の形態では、各機能を割り当てた開口の形状は六角形としている。
装置からの要請によっては縦横比の典なるビーム形状が必要となる場合があるが、その場合には縦横比の異なる開口形状(横に伸ばした六角形や長方形)にしてもよい。
【0015】
通常のアクティブ・フェーズドアレーアンテナでは、RF(Radio Frequency:高周波
)送信信号はアレーアンテナの外部で生成されて各モジュールに分配され、モジュール内において電力増幅と位相変化のみを行う。
これに対して、本実施形態で用いる送信モジュール6は、このような通常のモジュールとは異なり、各モジュール内部で送信信号を生成する。
図2は、本実施の形態における送信モジュール6の構成を示す図である。
各送信モジュール内部で送信信号を生成するために、図2に示すように、各送信モジュール6は、DDS(Direct Digital Synthesizer:任意波形発生器の一種)である送信信号発生器21、励振器22、周波数変換器23、電力増幅器24で構成される。
【0016】
各送信モジュール6は、送信アンテナ制御部3から送信されてくる各送信モジュールへの送信信号106をDDS(送信信号発生器)21でベースバンドの送信信号を生成し、生成した信号を周波数変換器23でRFの送信信号に変換する。
周波数変換器23の出力であるRF信号は、電力増幅器24で増幅され、送信素子アンテナ7に送られ、送信素子アンテナ7から送信信号として標的に向かって放射される。
このように、本実施の形態においては、レーダ、ECM、通信等の各機能に対応する送信信号を各送信モジュールの内部で生成するため、モジュール1個単位での開口分割を実現することができる。
【0017】
また、図3は、図1に示した各受信モジュール11の内部構成を示す図であって、受信モジュール11も内部に局部発振器34や周波数変換器33を有し、各モジュールごとにレーダ、ECM、通信等の異なる周波数帯の信号を受信することができるため、モジュール1個単位での開口分割を実現することができる。
受信モジュール11の具体的な動作については、後述する。
なお、このような、モジュールの内部に送信信号生成機能や受信機能を有するタイプのフェーズドアレーアンテナそのものは、例えば、文献「Garrod, “Digita
l Modules for Phased Array Radar” IEEE Inte
rnational Rader Conference,1995.」に示されている。
【0018】
各送信モジュール6は、図1に示すように、送信アンテナ制御部3によって制御され、アレーアンテナ全体として、開口分割や、分割された各開口のビーム形成やビーム走査等が行われる。分割された各開口は、レーダ機能やECM機能、通信機能を実現するための送信アンテナとなる。
本実施の形態における構成上での特徴は、送受信の開口分割寸法を計算する開口寸法計算部2を有することである。
開口寸法計算部2で計算された開口寸法データ102に基づき、送信アレーアンテナ4および受信アレーアンテナ9の開口分割を制御する。詳細な動作は後に述べる。
【0019】
次に、本実施の形態によるフェーズドアレーアンテナ装置の動作について説明する。
共通ユーザーインターフェース(共通U/I)1は、ユーザーからレーダ、ECM機能、通信機能等の起動が指示されると、開口要求データ101を開口寸法計算部2に送る。
なお、開口要求データとは開口を割り当ててもらう指示を意味する。
レーダ処理部14、ECM処理部15、通信処理部16等自体は、それぞれアンテナを有していないので、アレーアンテナに開口を割り当ててもらう必要がある。
開口寸法計算部2は、起動された電波装置および既に起動中の電波装置に必要な開口寸法を計算し、開口寸法データ102を送信アンテナ制御部3および受信アンテナ制御部8に送る。
【0020】
一方、共通ユーザーインターフェース1は、レーダ処理部14、ECM処理部15、通信処理部16に対して、起動が指示された電波装置に対応する処理部に起動指示データを送る。
各機能の処理部(即ち、レーダ処理部14、ECM処理部15、通信処理部16)は、起動指示データを受け取ると、各機能の周波数/ビーム走査角度/送信信号データを送信アンテナ制御部3に送る。
開口寸法データ102と各機能の周波数/ビーム走査角度/送信信号データ103〜105を受け取った送信アンテナ制御部3は、開口寸法データ102に従って各送信モジュールにレーダ、ECM、通信等の機能を割り当て、各送信モジュールに対して割り当てた機能の送信周波数/送信位相/送信信号データ106を送る。送信位相データは、全体として送信アレーアンテナ4がフェーズドアレーアンテナとして動作すべく、各モジュールに割り当てた機能のビーム走査角度データから算出する。
【0021】
図2に示すように、送信モジュール6内では、送信信号発生器21は送信信号データに従って送信信号を発生し、励振器22は送信周波数データと送信位相データに従って正弦波の励振信号を発生する。
そして、送信信号と励振信号は、周波数変換器23により混合されてRF信号となり、電力増幅器24により増幅されて送信素子アンテナ7から空間に放射される。
なお、図への記述および説明は省略したが、各処理段で発生する不要波は濾波器(図示なし)で適宜除去される。
複数の送信モジュール6から構成される送信アレーアンテナ4は、図1(b)の開口面から見たイメージに示すように、開口寸法データに従った寸法の送信開口5a〜5cを形成し、それぞれの開口が各機能の送信アンテナとして動作する。
【0022】
ここで、送信アンテナ制御部3が開口寸法データに従って、どのようにして送信開口5a〜5cを形成するのかを、以下に説明しておく。
まず、開口寸法から必要なモジュール数を計算する。これは開口寸法/素子アンテナ前面面積として求めることができる。次に、基本的な開口の形(例えば六角形)と相似形で
、かつ必要なモジュール数に近くなるように開口面を区切る。そして、区切られた開口面に含まれるモジュールに、閉口を要求してきた機能(レーダ、ECM、通信等)の送信信号
データを送り、その機能のためのモジュールとして動作するように指示する。
【0023】
一方、開口寸法データ102と各機能の周波数/ビーム走査角度データ103〜105は、受信アンテナ制御部8にも送られ、送信の場合と同様に、各受信モジュールに機能を割り当て、受信周波数/受信位相データ107を送る。
受信位相データは、全体として受信アレーアンテナ9がフェーズドアレーアンテナとして動作すべく、各モジュールに割り当てた機能のビーム走査角度データから算出する。
【0024】
図3に示すように、受信モジュール11内では、受信素子アンテナ12から入力した受信信号は、低雑音増幅器31で増幅され、受信周波数データに従って通過帯域が変更された周波数可変バンドパスフィルタ32により受信周波数付近の信号のみが通過する。
局部発振器34は、受信モジュールへの受信周波数データと受信位相データに従って正弦波の局発信号を発生する。
受信信号と局発信号は、周波数変換器33により混合されてベースバンド信号となり、A/D変換器35によってデジタルデータに変換されて受信信号データ108となる。
なお、送信モジュールの場合と同様に、各処理段で発生する不要波は濾波器(図示なし)で適宜除去される。
【0025】
共通受信信号処理部13では、受信モジュールへの機能割り当てデータ109に従って受信モジュールからの受信信号を合成し、各機能ごとの受信信号データ110〜112を生成する。
各機能ごとの受信信号データは、レーダ処理部14、ECM処理部15、通信処理部16に送られ、それぞれの処理部で各機能の処理を行い、表示データとして共通ユーザーインターフェース1に送られて表示される。
【0026】
ここで、レーダ処理部14、ECM処理部15および通信処理部16で行われる処理の例について説明する。
レーダ処理部14で行われる処理としては、例えば、次のようなものがある。
まず、周波数データ/ビーム走査角度データ/送信信号データ113を送信アンテナ制御部3に送り、送信信号を送信させる。
次に、目標物からの反射波を含んだ受信信号データ110を共通受信信号処理部13から受け取り、これを検波して目標物からの反射波(目標信号)を検出する。
【0027】
目標信号が見つからない場合は、ビームの方向を変えて(即ち、ビーム走査角度データを送信アンテナ制御部と受信アンテナ制御部に送って)受信・検波し、目標信号が見つかるまで繰り返す。
目標信号を発見したら、送信信号を送信してから目標信号が受信されるまでの時間を計測して、目標までの距離を算出(目標距離= [送信信号を送信してから目標信号が受信
されるまでの時間]×[光速]÷2)する。
また、ビームの走査角度から目標の方位を求める。
このようにして求めた目標物の方位と距離を、レーダ機能における表示データ113として共通ユーザーインタ一フェース1に出力する。
【0028】
ECM処理部15で行われる処理とは、例えば次のようなものである。
まず、共通受信信号処理部13から受信信号111を受け取って検波し、妨害対象である相手レーダ信号を検出する。
相手レーダ信号が見つからない場合は、ビームの方向を変えて(即ち、ビーム走査角度データを受信アンテナ制御部に送って)受信・検波し、相手レーダ信号が見つかるまで繰
り返す。
相手レーダ信号を発見したら、その諸元(パルス繰返し周期、パルス幅、変調方式等)を分析する。
そして、分析したこれらの諸元に基づき、妨害信号を生成し、送信信号データとして送信アンテナ制御部3に送って妨害波を送信する。
共通ユーザーインターフェース1に対しては、相手レーダの方向や諸元等を表示データ114として出力する。
【0029】
通信処理部16で行われる処理とは、例えば、次のようなものである。
共通ユーザーインターフェース1は、PC端末のような装置であり、文字データ、画像データ、音声データといったデータを扱うことができる。
まず、共通ユーザーインターフユース1から通信機能の起動指示があると、通信処理部16は、パイロット信号を送信信号データとして送信アンテナ制御部3に送り、送信アンテナ制御部3は、その信号を空間に送信し、通信相手を探して通信を確立する。
この通信を確立する動作には、送信アンテナのビーム走査角度を変えて送信し、通信相手の方向を探す処理も含む。
【0030】
このようにして通信が確立された後、共通ユーザーインターフェース1からは通信内容である文字データ、画像データ、音声データなどが通信処理部16に送られ、通信処理部16では、それをコーディング(符号化)する。
この符号化されたデータを送信信号データとして送信アンテナ制御部3に送り、空間に送信する。
また、受信側の処理では、通信処理部16は、共通受信信号処理部13から受信信号112を受け取ってデコーディング(復号化)し、復号化した文字データ、画像データ、音声データ等を表示データ115として共通ユーザーインターフェース1に出力する。
【0031】
ところで、「機能ごとの受信信号データ」とは、「それぞれの機能を割り当てられた開口ごとにビームを形成した後の受信信号」を意味する。
それぞれの開口は多数の受信モジュールで構成されているので、共通受信信号処理部13では、個々の受信モジュールからの受信信号108を各機能に割り当てられた開口ごとに集めてビーム形成する処理を行う。
「表示データ」とは、レーダの場合では目標物の方位と距離であり、共通ユーザーインターフェース1ではレーダスクリーンのような方法で画像を用いて表示することを想定している。
また、ECMの表示データは、相手レーダの方向と信号諸元等であり、文字や画像を利用して表示する。
また、通信での表示データは、受信した文字、画像、音声等のデータであり、共通ユーザーインターフェース1にはキーボード、表示装置、マイクやヘッドホン等が備えてあり、電子メールや電話、FAXなどとして使われることを想定している。
【0032】
次に、本発明において最も特徴的で重要な部分である開口寸法計算部2の動作について、図4のフローチャートを用いて説明する。
共通ユーザーインターフェース1から開口要求があると、開口寸法計算部2は、後に示すような計算方法で所要ERP(Effective Radiation Power;実効輻射電力)を計算す
る(ステップ201)。
次に、ビーム幅は、広い方が望ましい場合とそうでない場合(即ち、狭い方が望ましい場合)とで条件分岐する(ステップ202)。
ECM機能における妨害目標の方向や通信機能における通信相手の方向が不明の場合は、広いビーム幅の方が望ましい。このような場合には、所要ERPから所要開口寸法を計算する(ステップ207)。
【0033】
一方、通信機能において通信相手の方向が既知で通信の秘匿性を高めたい場合や、レーダ機能の場合は、ビーム幅が狭い方がよく、このような場合には所要ビーム幅から開口寸法を計算する(ステップ203)。
次に、ビーム幅から計算した開口寸法を用いて得られるERP(実効輻射電力)を計算する(ステップ204)。
得られるERPが所要ERPより大きいかどうかで条件分岐し(205)、得られるERPが所要ERPより大きい場合は所要ビーム幅から計算した開口寸法を所要開口寸法とする(ステップ206)。
【0034】
また、得られるERPが所要ERPより小さい場合は、所要ERPから所要開口寸法を計算する(ステップ207)。
最後に、このようにして求めた所要開口寸法(即ち、ステップ206およびステップ207で求めた所要開口寸法)が、アレーアンテナの未使用開口部分に確保可能かどうかで条件分岐し(ステップ208)、確保可能な場合は所要寸法の開口を確保して終了する(ステップ209)。
一方、既に動作中の機能の開口によって所要開口寸法が確保できない場合には、他に動作中の機能の有無で条件分岐し(210)、他に動作中の機能が無い場合にはアレーアンテナ全面を確保して終了する(ステップ211)。
一方、他に動作中の機能がある場合には、優先度の低い機能を停止し(ステップ212)、未使用開口面積を増大させて再び所要開口寸法を確保可能か判断する(ステップ208)。
【0035】
所要ERP計算(201)は次のように行う。
1)レーダの場合
以下の式(1)に示すように、受信系の最小受信感度、受信アンテナ利得、最大探知距離、想定目標のRCS(Radar Cross Section:レーダ反射断面積)から所要ERPを計
算する。
ERPRADAR = (4π)r_minmax/Gλσ ・・・ 式(1)
ここで、
r_min:最小受信感度[W]
max:最大探知距離[m]
:受信アンテナ利得
λ:波長[m]
σ:想定目標のRCS[m
【0036】
2)ECM機能の場合
以下の式(2)に示すように、仮の開口寸法で受信したり、他のESM(Electronic Support Measure)装置で観測した相手レーダ波の電力密度と、プラットホームも含めた自分のRCS(Radar Cross Section)から所要ERPを計算する。
ERPECM=PTARGET σ × α ・・・ 式(2)
ここで、
TARGET:相手レーダ波の電力密度[W/m2]
σ:自分のプラットホームのRCS[m2]
α:妨害を有効とするためのマージン係数
【0037】
3)通信機能の場合
以下の式(3)に示すように、仮の開口寸法で受信した通信相手の受信感度、通信相手までの距離、通信相手の受信アンテナ利得から所要ERPを計算する。通信相手までの距
離が不明な場合は想定する最大値とする。
ERPCOM = (4π)C_min/Gλ ・・・ 式(3)
ここで、
C_min:通信相手の受信感度[W]
R:通信相手までの距離[m]
:通信相手の受信アンテナ利得
λ:波長[m]
【0038】
これらの計算に必要な「自分と相手の電波機器の特性や距離、所要ビーム幅などの情報」は、オペレーターが指示して共通ユーザーインターフェース1からの開口要求データ101と共に送るか、各装置のデフォルト情報(即ち、各装置の初期設定値)として開口寸法計算部2で保持しておく。
【0039】
所要ビーム幅からの開口寸法計算(ステップ203)は次式ように行う。
水平開口寸法D= λ/B ・・・ 式(4)
垂直開口寸法D= λ/B ・・・ 式(5)
ここで、
:所要水平ビーム幅[rad]
:所要垂直ビーム幅[rad]
λ:波長[m]
開口寸法からのERP計算(204)は次式のように行う。
ERP = 4π(D/λ ・・・ 式(6)
ここで、
:アレーアンテナの単位面積当たりの送信電力
(=1素子の送信電力/1素子の占める面積)
【0040】
所要ERPから所要開口寸法の計算(207)は、以下の式(7)のように行う。
A =λ(ERP/4πP1/2 ・・・ 式(7)
ここで、A:所要開口面積
ERP:所要ERP
:アレーアンテナの単位面積当たりの送信電力
(=1素子の送信電力/1素子の占める面積)
式(7)は所要開口面積しか与えないので、アレーアンテナが正方形に近く、ビーム形状に特に条件が無い場合は、次式(8)のように水平寸法と垂直寸法が等しくなるように計算する。
= D= A1/2 ・・・ 式(8)
【0041】
また、アレーアンテナが六角形等の場合は、アレーアンテナと相似形で、面積が式(7)で計算した所要開口面積と等しくなるような形状としてもよい。
また、水平ビーム幅または垂直ビーム幅に所要の条件がある場合は、条件のある方向の寸法を式(4)または式(5)で計算し、求めた寸法を所要開口面積から除算して他方の寸法を定めてもよい。
また、開口寸法計算部2は、所要実効輻射電力から第1の開口面積を計算すると共に、所要ビーム幅から第2の開口面積を計算し、計算された第1の開口面積と第2の開口面積のうち大きい方を、複数の電波装置に割り当てる開口面積としてもよい。
所要ERPと所要ビーム幅の両方から計算した開口面積のうち大きい方を用いる場合、一方については過剰性能であるが、他方については過不足ない性能となり、双方について所要以上の性能を確保するという規範で開口面積を決定する場合における最小の開口面積となる。
【0042】
なお、これらの計算方法は一例であり、例えばレーダは受信アンテナの開口によっても探知性能が左右されるので、送受で開口の分割寸法を同一にすることを想定して所要性能から開口寸法を計算してもよい。
また、レーダ、ECM、通信等の機能はそれぞれ1系統ずつとして説明したが、レーダ
処理部14、ECM処理部15、通信処理部16の数を増やして、複数のレーダ機能、複数のECM機能、複数の通信機能を実現することもできる。このような場合においても図4のフローチャートを用いて、それぞれの機能に割り当てる開口寸法を計算することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態によるフェーズドアレーアンテナ装置は、2次元配列された複数の送信モジュール6で構成された送信アンテナ4と2次元配列された複数の受信モジュール11で構成された受信アンテナ9とを有し、送信アンテナ4および受信アンテナ9の開口を分割することにより使用する複数の電波装置の機能を実現するフェーズドアレーアンテナ装置であって、複数の電波装置が必要とする開口寸法を計算する開口寸法計算部2と、開口寸法計算部2の計算結果に基づいて送信アンテナ4の開口を分割すると共に、分割された各開口のビーム形成やビーム走査の制御を行う送信アンテナ制御部3と、開口寸法計算部2の計算結果に基づいて受信アンテナ9の開口を分割し、複数の電波装置から受信する複数の受信信号を複数の電波装置の各機能に対応して制御する受信アンテナ制御部8を備え、開口寸法計算部2は、複数の電波装置が必要とする実効輻射電力、ビーム幅、あるいはその両方を用いて、複数の電波装置に割り当てる開口寸法を計算する。
【0044】
また、開口寸法計算部2は、下記の式に基づいて各電波装置に割り当てる所要開口面積を計算する。
A = λ(ERP/4πP1/2
ここで、A:所要開口面積 λ:波長 ERP:所要実効輻射電力
:アレーアンテナの単位面積当たりの送信電力
また、開口寸法計算部2は、下記の式に基づいて各電波装置に割り当てる所要開口寸法を計算する。
水平開口寸法=波長/所要水平ビーム幅
垂直開口寸法=波長/所要垂直ビーム幅
また、開口寸法計算部2は、所要実効輻射電力から第1の開口面積を計算すると共に、所要ビーム幅から第2の開口面積を計算し、計算された第1の開口面積と第2の開口面積のうち大きい方を、複数の電波装置に割り当てる開口面積とする。
また、複数の電波装置は、レーダ、ECMあるいは通信の機能を有する装置である。
【0045】
また、電波装置がレーダの場合、下記式に基づいて実効輻射電力(ERPRADAR)を計算する。
ERPRADAR= (4π)r_minmax/Gλσ
ここで、Pr_min:最小受信感度[W] Rmax:最大探知距離[m]
:受信アンテナ利得 λ:波長[m] σ:想定目標のRCS[m
【0046】
また、電波装置がECMの場合、下記式に基づいて実効輻射電力(ERPECM)を計算する。
ERPECM =PTARGET σ × α
ここで、PTARGET:相手レーダ波の電力密度[W/m
σ:自分のプラットホームのRCS[m
α:妨害を有効とするためのマージン係数
【0047】
また、電波装置が通信装置の場合、下記式に基づいて実効輻射電力(ERPCOM)を
計算する。
ERPCOM = (4π)C_min/Gλ
ここで、PC_min:通信相手の受信感度[W]
R:通信相手までの距離[m] G:通信相手の受信アンテナ利得
λ:波長[m]
【0048】
本実施形態によると、所要ERPや所要ビーム幅に基づいて、レーダ、ECM、通信等の各機能に割り当てる開口寸法を決定するので、各機能の性能を過不足なく実現することができ、限られたアレーアンテナの開口を有効活用することができる。
即ち、同じ寸法の開口ならば、固定分割の場合に比べてより多数のレーダ、ECM、通信等の機能を実現できるという利点がある。
また、実現する機能の数が一定ならば、最小のアレーアンテナで、全ての機能を実現することができるという利点がある。
【0049】
即ち、本実施の形態によると、開口寸法計算部2は、複数の電波装置が必要とする実効輻射電力、ビーム幅、あるいはその両方を用いて、複数の電波装置に割り当てる開口寸法を計算するので、共用して使用する各電波装置に必要十分な性能を与える最適な開口の分割寸法(即ち、最適な分割開口面積)を決定し、各電波装置の所要性能を過不足なく実現することができると共に、無駄な消費電力を無くすことができる。
【0050】
なお、従来では、各電波装贋のアンテナは個別に装備されていたため、レーダや衛星通信設備のような回転するアンテナの場合、装置間でアンテナが正対して強い干渉が生じることがある。そのため、従来では他の装置のアンテナがある方向に対しては、レーダを停止するなどの措置がとられていた。
一方、本実施の形態によるフェーズドアレイアンテナ装置では、各電波装置のアンテナは同一平面内に配置されるので、正対することはないし、また、送信は全て送信アレーアンテナ、受信は全て受信アレーアンテナで纏めて行うので、送信アレーアンテナと受信アレーアンテナ間の干渉のみを防止すれば、電波装置間の電磁干渉は無くなる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、アレーアンテナの開口を分割して複数の電波装置で共用使用するフェーズドアレーアンテナ装置であって、各電波装置に必要十分な性能を与える開口の分割寸法を決定すると共に、無駄な消費電力を無くすことができるフェーズドアレーアンテナ装置の実現に有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 共通ユーザーインターフェース 2 開口寸法計算部
3 送信アンテナ制御部 4 送信アレーアンテナ
5 送信アレーアンテナの開口面
5a レーダ機能を割り当てた送信開口
5b ECM機能を割り当てた送信開口
5c 通信機能を割り当てた送信開口
6 送信モジュール 7 送信素子アンテナ
8 受信アンテナ制御部 9 受信アレーアンテナ
10 受信アレーアンテナを開口面
10a レーダ機能を割り当てた受信開口
10b ECM機能を割り当てた受信開口
10c 通信機能を割り当てた受信開口
11 受信モジュール 12 受信素子アンテナ
13 共通受信信号処理部 14 レーダ処理部
15 ECM処理部 16 通信処理部
21 送信信号発生器 22 励振器
23 周波数変換器 24 電力増幅器
31 低雑音増幅器 32 周波数可変バンドパスフィルタ
33 周波数変換器 34 局部発振器
35 A/D変換器
101 開口要求データ
102 開口寸法データ
103 レーダ機能の周波数/ビーム走査角度/送信信号データ
104 ECM機能の周波数/ビーム走査角度/送信信号データ
105 通信機能の周波数/ビーム走査角度/送信信号データ
106 各送信モジュールへの送信周波数/送信位相/送信信号データ
107 各受信モジュールへの受信周波数/受信位相データ
108 各受信モジュールからの受信信号データ
109 受信モジュールの機能割り当てデータ
110 レーダ機能の受信信号データ
111 ECM機能の受信信号データ
112 通信機能の受信信号データ
113 レーダ機能の起動指示/表示データ(双方向)
114 ECM機能の起動指示/表示データ(双方向)
115 通信機能の起動指示/表示データ(双方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元配列された複数の送信モジュールで構成された送信アンテナと2次元配列された複数の受信モジュールで構成された受信アンテナとを有し、前記送信アンテナおよび前記受信アンテナの開口を分割することにより使用する複数の電波装置の機能を実現するフェーズドアレーアンテナ装置であって、
前記複数の電波装置が必要とする開口寸法を計算する開口寸法計算部と、
前記開口寸法計算部の計算結果に基づいて前記送信アンテナの開口を分割すると共に、分割された各開口のビーム形成やビーム走査の制御を行う送信アンテナ制御部と、
前記開口寸法計算部の計算結果に基づいて前記受信アンテナの開口を分割し、前記複数の電波装置から受信する複数の受信信号を前記複数の電波装置の各機能に対応して制御する受信アンテナ制御部を備え、
前記開口寸法計算部は、前記複数の電波装置が必要とする実効輻射電力、ビーム幅あるいはその両方を用いて、前記複数の電波装置に割り当てる開口寸法を計算することを特徴とするフェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項2】
前記開口寸法計算部は、下記の式に基づいて各電波装置に割り当てる所要開口面積を計算することを特徴とする請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナ装置。
A = λ(ERP/4πP1/2
ここで、
A:所要開口面積 λ:波長 ERP:所要実効輻射電力
:アレーアンテナの単位面積当たりの送信電力
【請求項3】
前記開口寸法計算部は、下記の式に基づいて各電波装置に割り当てる所要開口寸法を計算することを特徴とする請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナ装置。
水平開口寸法=波長/所要水平ビーム幅
垂直開口寸法=波長/所要垂直ビーム幅
【請求項4】
前記開口寸法計算部は、所要実効輻射電力から第1の開口面積を計算すると共に、所要ビーム幅から第2の開口面積を計算し、
計算された前記第1の開口面積と前記第2の開口面積のうち大きい方を、前記複数の電波装置に割り当てる開口面積とすることを特徴とする請求項1のフェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項5】
前記複数の電波装置は、レーダ、ECMあるいは通信の機能を有する装置であることを徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項6】
上記電波装置がレーダの場合、下記式に基づいて実効輻射電力(ERPRADAR)を計算する事を特徴とする請求項2に記載のフェーズドアレーアンテナ装置。
ERPRADAR= (4π)r_minmax/Gλσ
ここで、
r_min:最小受信感度[W] Rmax:最大探知距離[m]
:受信アンテナ利得 λ:波長[m]
σ:想定目標のRCS[m
【請求項7】
上記電波装置がECMの場合、下記式に基づいて実効輻射電力(ERPECM)を計算する事を特徴とする請求項2に記載のフェーズドアレーアンテナ装置。
ERPECM =PTARGET σ × α
ここで、
TARGET:相手レーダ波の電力密度[W/m
σ:自分のプラットホームのRCS[m
α:妨害を有効とするためのマージン係数
【請求項8】
上記電波装置が通信装置の場合、下記式に基づいて実効輻射電力(ERPCOM)を計算する事を特徴とする請求項2に記載のフェーズドアレーアンテナ装置。
ERPCOM = (4π)C_min/Gλ
ここで、
C_min:通信相手の受信感度[W] R:通信相手までの距離[m]
:通信相手の受信アンテナ利得 λ:波長[m]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−195669(P2012−195669A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56540(P2011−56540)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】