説明

フォトマスクの洗浄方法

【課題】フォトマスク上に付着した異物を、微小なパターンの破壊を抑制しつつ異物を除去し、かつ洗浄による新たな異物を付着させない洗浄方法を提供すること。
【解決手段】フォトマスクのパターン表面上に付着した異物を除去する洗浄方法であって、異物付着面に、液体状の異物除去材料を塗布して異物を囲む膜を形成する工程と、液体状の異物除去材料を固体化した膜とする工程と、固体化した膜を異物とともに除去する異物除去工程と、異物除去工程後にフォトマスク上に残存する異物除去材料に触媒を接触させる工程と、残存する異物除去材料を触媒により分解、除去する工程と、を有することを特徴とする、フォトマスクの洗浄方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィー法の露光工程において用いられるフォトマスク上に付着した異物を除去するための洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトマスクの洗浄は、化学洗浄と物理洗浄を組み合わせた洗浄を行うことが一般的である。化学洗浄に用いられる薬品としては、硫酸と過酸化水素水とを混合した硫酸過水やアンモニアと過酸化水素水とを混合したアンモニア過水が挙げられる。硫酸過水は、強い酸化力により金属や金属酸化物などの無機系異物を溶解除去する。また、レジスト残渣などの有機系異物も酸化分解する。
また、アンモニア過水は、アンモニアの溶解作用と過酸化水素の酸化作用により、フォトマスクの遮光パターンを構成するクロムやフォトマスク基板を構成するガラスの表面から有機系異物を離脱分解する。
上記硫酸過水やアンモニア過水といった薬液による化学洗浄だけで一律に短時間で異物を除去することは難しく、物理洗浄、例えば、超音波洗浄と併用されることが多い。
【0003】
物理洗浄は、付着力より大きな力を異物に加えて、フォトマスク基板上に付着した異物を取り除く方法であるが、加える力が大き過ぎると、異物を除去するだけでなくフォトマスクを傷つけることになる。
フォトマスクのパターン線幅の微細化に伴い、パターンの膜厚/線幅の割合を示すアスペクト比が大きくなる傾向にあり、また、フォトマスクパターン上の異物の許容サイズが小さくなる傾向にある。このため、パターン線幅の微細化により、パターンと基板との密着力が低下する一方、許容されるサイズの微小異物で除去困難さが進む。その結果、微小なパターンの破壊を防ぎつつ異物除去性能を高めることが困難となり、衝撃力に頼る従来の物理洗浄の適用が難しくなる。
ブラシ洗浄や超音波洗浄等の衝撃力に頼る物理洗浄に対して、特許文献1に示すような衝撃的な物理力を伴わない洗浄も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−107744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、ポリマー膜の形成を利用した異物の除去方法が提案されている。該提案では、液体ポリマーをフォトマスクパターン上に塗布後に加熱することにより固体フィルム化するという不可逆反応を利用して異物を取り囲む膜を形成している。異物を取り囲むポリマー膜形成後に、膜を溶解したり、膜を物理的に剥がすことにより、ポリマー膜に取り囲まれた異物を膜とともに除去することができる。該提案では、前記溶解や剥がしにおいてポリマー膜が完全に除去されることが重要となる。形成したポリマー膜がフォトマスクパターン上に僅かであっても残った場合、新たな異物が発生することになり、異物を残さない充分な洗浄を達成することができない。
【0006】
本発明は、前記の問題点に鑑みて提案するものであり、本発明が解決しようとする課題は、フォトマスク上に付着した異物を、微小なパターンの破壊を抑制しつつ異物を除去し、かつ洗浄による新たな異物を付着させない洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、異物を除去するための膜を形成する方法として、膜形成材料を異物を有するフォトマスクパターン上に塗布した後に、膜形成材料が融点以下となるよう空気で冷却、あるいは冷却材を接触させるなどして、固体の膜を形成する。この後に、前記膜が異物を保持した状態で前記膜をフォトマスクから引き剥がすことにより、膜に囲まれた異物も併せて除去することができる。
前述までの段階で、引き剥がし工程により微小な膜材料が残ってしまった場合でも、膜を引き剥がした後に触媒によって膜材料を分解することにより、フォトマスク上から完全に除去することが可能となる。
上記の方法の具体的な構成を以下に示す。
【0008】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、フォトマスクのパターン表面上に付着した異物を除去する洗浄方法であって、異物付着面に、液体状の異物除去材料を塗布して異物を囲む膜を形成する工程と、液体状の異物除去材料を固体化した膜とする工程と、固体化した膜を異物とともに除去する異物除去工程と、異物除去工程後にフォトマスク上に残存する異物除去材料に触媒を接触させる工程と、残存する異物除去材料を触媒により分解、除去する工程と、を有することを特徴とする、フォトマスクの洗浄方法である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、異物除去材料が炭素数20(融点36℃)〜炭素数40(融点81℃)のパラフィンであることを特徴とする、請求項1に記載のフォトマスクの洗浄方法である。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、液体状の異物除去材料を固体化した膜とする工程が、異物除去材料やフォトマスクと反応しない冷却気体を用いて冷却することを特徴とする、請求項1または2に記載のフォトマスクの洗浄方法である。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、冷却気体が、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素から選ばれることを特徴とする、請求項3に記載のフォトマスクの洗浄方法である。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、残存する異物除去材料を触媒により分解、除去する工程が、加熱により行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフォトマスクの洗浄方法である。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、前記加熱温度が210℃以下であることを特徴とする、請求項5に記載のフォトマスクの洗浄方法である。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、触媒が、ゼオライト、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、から選ばれることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のフォトマスクの洗浄方法である。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、触媒が、担体に担持されて用いられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のフォトマスクの洗浄方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、フォトマスクのパターン表面上の異物付着領域に、液体状の異物除去材料を塗布し、固体化して異物を囲む膜を形成し、固体化した膜を異物とともに除去した後にフォトマスク上に残存する異物除去材料を触媒により分解、除去する洗浄方法であるので、フォトマスク上に付着した異物を、微小なパターンの破壊を抑制しつつ除去し、かつ洗浄
による新たな異物を付着させないフォトマスクの充分な洗浄方法を提供できる。
また、本発明の洗浄方法は異物の付着している箇所のみを限定して処理することが可能であり、従来のウェット洗浄では実現できなかった部分洗浄が可能となるので、洗浄工程での外部環境との間で汚染の移動や拡散を防ぐことができ、系外とのクロスコンタミによる新たな異物を付着させることのない洗浄が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明における洗浄工程の一例をフォトマスクの板厚方向の断面からみて工程順に示す工程模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るフォトマスク洗浄方法の実施例をパターン面から示す平面模式図であって、(a)は、洗浄前の異物付着状態を示し、(b)は、洗浄途中の異物除去材料の残存状態を示し、(c)は、洗浄工程が完了した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に従って、その一例を詳細に説明する。なお、後述する実施形態は、本発明の具体的な構成例であり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
図1(a)〜(g)は、本発明における洗浄工程の一例をフォトマスクの板厚方向の断面からみて工程順に示す工程模式図である。
図1(a)に、フォトマスク基板1、パターン2からなるフォトマスク3のパターン側の表面に異物4を有する例を示す。フォトマスク基板1は、ガラス、石英等の平坦な透明板材からなり、表面にうねりやキズや汚れが無く、材料の内部に光学的に異質な領域を含まない均質な材料であり、熱や薬品に対して安定な特性を有することが望ましい。パターン2は、金属クロムやその酸化膜の単体や積層体等からなるパターン形成された遮光膜で構成され、良好な微細パターン形状が得られる加工性と、高い表面硬度と、基板1との密着性と、熱や薬品に対する安定な特性が望まれる。異物4は、発生要因により、形状と材質に各種のタイプが混在する可能性があり、様々な平面位置に出現する。
【0020】
図1(b)に、異物除去材料6をフォトマスク3のパターン側の表面に塗布する工程を示す。
異物除去材料6として、炭素数20以上のパラフィンが挙げられる。異物除去材料6は、融点以上の温度に加温した状態で、異物除去材料供給ノズル5から供給される。
本工程において、フォトマスク3は図示されていないスピンチャックに固定されて、回転させることにより、洗浄を行うパターン表面に均一に塗布することができる。
【0021】
また、予め異物4の箇所を確認していれば、フォトマスク3を回転させず、異物除去材料6を異物4を含む近傍にのみ塗布し、部分洗浄を行うことも可能である。
異物除去材料6がフォトマスク3のパターン面に塗布された後に、異物除去材料6の供給を停止し、基板をスピン回転させていた場合は、その後、スピンチャックの回転を停止する。図1(c)に示すように、少なくとも、異物4を囲むフォトマスクパターン面の一定の領域に、液体状の異物除去材料6が表面張力により堆積する。
【0022】
次に、図1(d)において、液体状の異物除去材料6を、室温にて空気で冷却し、融点以下の温度に下げ、固体化した異物除去材料7とすることができる。冷却には、異物除去材料と反応せず、パターンや基板のフォトマスク構成要素を腐食するなどの悪影響を及ぼさない他の気体を使用することもできる。
上述の気体として、たとえば、空気の他に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスや一酸化炭素、二酸化炭素を挙げることができる。
また、気体の流速及び流量に制限はないが、風圧によってフォトマスクパターンを損壊し
ない程度に、スピンチャック周りの気体の置換を行って自然冷却することが望ましい。
【0023】
また、液体状の異物除去材料6の上方から異物除去材料6の融点以下の温度の冷却材8、例えば、室温以下に冷却した純水をノズルから降下させ異物除去材料6に接触させ、スピン回転しながらの供給とその後のスピン乾燥を行うことで、上記と同様に固体化した異物除去材料7とすることができ、冷却時間を短縮することもできる(図1(e))。
【0024】
次に、図1(f)に示すように、融点以下となり固体化した異物除去材7を、図示していない真空ピンセットを用いて、フォトマスク3から引き剥がすことで、異物除去材7に保持された異物4を固体化した異物除去材7の膜とともに除去することができる。
固体化した異物除去材7を引き剥がす際の力に制限はないが、フォトマスクパターンを損壊しないよう、例えば20mm幅の帯状に、1N/20mm〜3N/20mmの力で剥がすことが望ましい。
なお、真空ピンセットは必要に応じて複数本を使用することで、適正な位置と形状に合わせて作業効率良く引き剥がしを行うことができる。
【0025】
上記の異物除去工程において、場合によっては、微小な異物除去材料の一部9がフォトマスク3上に残ることもある。そこで、図1(g)に示すように、触媒12を接触させることにより、フォトマスク3上に残存する異物除去材料の一部9を分解、除去する。
特に、残存する異物除去材料を接触させた触媒により分解、除去する工程が、加熱により行うものであることが好ましく、この場合の分解とは、前記触媒による燃焼も含む。
【0026】
残存する異物除去材料の一部9を分解、除去するために使用する触媒量については、使用した異物除去材の炭素数と残存した量から適宜決めることができる。予め、別のフォトマスクで予備実験を行っておくことが好ましい。
【0027】
触媒は、炭化水素を分解するために通常使用される物質から選択することができる。例としては、ゼオライト、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、などの固体触媒が挙げられる。
さらに、触媒は上記の物質単体でも良いが、上記物質を含む化合物や混合物をゼオライトやアルミナ等、一般に触媒担体として使用される物質に担持させたものでも良い。
【0028】
触媒による分解時の温度条件は、通常のフォトマスクの耐熱温度である210℃程度以下が望ましい。
使用後の触媒は真空ピンセットにて保持し、除去することができる。
【0029】
使用する異物除去材料である炭化水素は、パラフィンのうち、融点が30〜100℃程度であることが好ましく、特に炭素数20(融点36℃)〜炭素数40(融点81℃)であることが好ましい。
あまり炭素数の少ないパラフィンでは、固体化させるための温度が低いことが必要であり、また、炭素数の多いパラフィンでは、融点が高く、取扱いが煩雑となるため好ましくない。炭素数が多い場合、上記のほかに触媒での分解が不十分となる可能性があり、フォトマスク上に異物除去材料として残り易いので好ましくない。
パラフィンは、直鎖状の、いわゆるノルマルパラフィンであることが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を具体的に説明するが、これはあくまで一例であり、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0031】
図1に示した本発明の洗浄を行った。
この例では、異物除去材料には炭素数20のパラフィンを使用し、50℃で液化したパラフィン1mlをフォトマスク3上にマイクロピペットを用いて滴下し、回転数100rpmでスピンコートした。30秒後に回転を停止し、室温23℃にて空気で30℃まで冷却して固体化した異物除去材料の膜とした。
【0032】
評価にはフォトマスク基板1上にCrO(酸化クロム)パターン2が形成され、当該パターン外周部のCrO膜上に目視で確認できる大きさの異物4が付着した評価用フォトマスク3を用いた。
評価用フォトマスク3の洗浄を行い、洗浄後の評価用フォトマスク3上の異物4の有無を目視で確認した。
【0033】
評価結果を図2に示す。図2は、本発明の実施の形態に係るフォトマスク洗浄方法の実施例をパターン面から示す平面模式図であって、(a)は、洗浄前の異物付着状態を示し、(b)は、洗浄途中の異物除去材料の残存状態を示し、(c)は、洗浄工程が完了した状態を示す。
洗浄前の評価用フォトマスク3に付着していた異物4は、固体化した異物除去材料7の膜をフォトマスクから引き剥がした後に、確認されなかった。
評価用フォトマスク3上に異物除去材料の一部9が確認されたため、触媒12(ゼオライト)の結晶1gをフォトマスク基板1を担体として、異物除去材料の一部9と接触させ、200℃に設定したクリーンオーブンにて30分間加熱し、分解処理したところ、異物除去材料の一部9が消失したことを確認した。使用した触媒はNガスによるエアブローと真空吸引にて除去した。
【0034】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0035】
1・・・フォトマスク基板
2・・・パターン
3・・・フォトマスク
4・・・異物
5・・・異物除去材料供給ノズル
6・・・異物除去材料 (液体)
7・・・異物除去材料 (固体)
8・・・冷却材
9・・・異物除去材料の一部 (固体:マスク上残存)
10・・・異物除去材残り欠損部 (固体)
11・・・異物除去材料の一部 (気体)
12・・・触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスクのパターン表面上に付着した異物を除去する洗浄方法であって、
異物付着面に、液体状の異物除去材料を塗布して異物を囲む膜を形成する工程と、
液体状の異物除去材料を固体化した膜とする工程と、
固体化した膜を異物とともに除去する異物除去工程と、
異物除去工程後にフォトマスク上に残存する異物除去材料に触媒を接触させる工程と、
残存する異物除去材料を触媒により分解、除去する工程と、
を有することを特徴とする、フォトマスクの洗浄方法。
【請求項2】
異物除去材料が炭素数20(融点36℃)〜炭素数40(融点81℃)のパラフィンであることを特徴とする、請求項1に記載のフォトマスクの洗浄方法。
【請求項3】
液体状の異物除去材料を固体化した膜とする工程が、異物除去材料やフォトマスクと反応しない冷却気体を用いて冷却することを特徴とする、請求項1または2に記載のフォトマスクの洗浄方法。
【請求項4】
冷却気体が、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素から選ばれることを特徴とする、請求項3に記載のフォトマスクの洗浄方法。
【請求項5】
残存する異物除去材料を触媒により分解、除去する工程が、加熱により行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフォトマスクの洗浄方法。
【請求項6】
前記加熱温度が210℃以下であることを特徴とする、請求項5に記載のフォトマスクの洗浄方法。
【請求項7】
触媒が、ゼオライト、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、から選ばれることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のフォトマスクの洗浄方法。
【請求項8】
触媒が、担体に担持されて用いられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のフォトマスクの洗浄方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate