説明

フォトマスク保管方法、フォトマスクストッカー及び半導体装置の製造方法

【課題】フォトマスクのペリクル膜内空間に発生する成長性異物の原因となるアウトガス等を除去して、成長性異物の発生を抑えるフォトマスクの保管方法を提供することである。フォトマスクの成長性異物の有無の検査、成長性異物を除去する洗浄を行うことのないフォトマスク保管方法を提供する。
【解決手段】フォトマスク10を構成するペリクルフレーム13に、ペリクル膜内空間18と外部とをつなぐ通気孔15を設けたフォトマスク10を収納・保管するフォトマスクストッカー30に内部の気圧を制御する機能を持たせ、フォトマスクストッカー30内の雰囲気を減圧、常圧、加圧を繰り返すことで、ペリクル膜内空間18の雰囲気を、外部から供給された清浄度の高い雰囲気と置換させるフォトマスク保管方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置製造工程で使用するフォトマスクの保管中にペリクル膜内の雰囲気を置換するフォトマスク保管方法、このフォトマスク保管方法を用いるフォトマスクストッカー及びこのフォトマスク保管方法を用いたフォトマスクを用いる半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のフォトマスクは半導体業界のレベルアップ(高集積化、高精度化、高性能化)に伴い、要求される仕様も厳しいものになってきている。それに対応して、スキャナやステッパの露光波長は短くなり、露光エネルギーも増大傾向にある。
フォトマスクが、露光エネルギーの大きい紫外線の照射を続けて受けていると、フォトマスクに成長性異物(一般的に、HAZE(ヘイズ)とも呼ばれる。)が発生する。この成長性異物は、微小な異物として発生し始め、紫外線照射を続けることにより成長して大きくなって行く。
フォトマスクの表面にこの成長性異物が付着すると、半導体基板に所定のパターンを転写した際に、成長性異物が付着した箇所がパターンの一部として転写されるために、製造された半導体装置における欠陥となる。特に、パターン面の欠陥はウェーハに繰り返し転写されるため、共通欠陥となり、半導体装置の製造に与える影響は非常に大きい。
ペリクル膜をフォトマスクに装着した後、ペリクル膜内の空間には様々な物質(以下、アウトガスと記す。)が発生する。アウトガスとしては、例えば、ペリクル膜の接着剤、ペリクルフレーム内壁の粘着剤、レチクルへの接着剤、フォトマスクに残留している溶媒があり、その他に化学薬品等の残留薬液に含まれるSO等が挙げられる。アウトガス等は、時間経過とともにペリクル膜内空間で濃度を高め、しだいに濃縮しながら蓄積されていく。これらのアウトガス等は、大気雰囲気中に一般的に存在する物質、例えば、アンモニア等と化学反応を生ずやすい。例えば、アウトガス等のSOとアンモニアNHとが反応して、フォトマスク表面に硫酸アンモニウムなどの物質を発生させ、さらに、スキャナ等の露光光(紫外線など)によって駆動エネルギを得て反応が促進され、成長して半導体装置の製造に影響するような成長性異物が形成される。
【0003】
成長性異物は、一般には、上述したようにフォトマスクがスキャナ等の露光装置の露光光が照射されることで、雰囲気中のガスやフォトマスクに残った残留薬液が光化学反応を起こして形成、成長する異物をいう。現状、成長性異物の発生対策の一つとして、これらのアウトガス等を抑えることが要求されており、フォトマスクに使用される部材の材質の改良等が行われている。しかし、アウトガス等を完全になくすことは困難であり、時間経過とともにペリクル膜内空間の雰囲気にアウトガスが蓄積していくことは防止できない。したがって、成長性異物が発生した場合、その対策としては、再洗浄によるメンテナンスで成長性異物を除去することが多い。
繰り返し継続的に使用しているフォトマスクの使用中に、発生する成長性異物をその都度、検査、洗浄するのは、フォトマスク使用の運用上及び半導体装置の製造上において大変、効率が悪く、生産性を低下させる大きな要因となっている。
洗浄等のメンテナンスはフォトマスクとして使用するかぎりは継続的に実施する必要がある。洗浄によるメンテナンスは、ペリクル膜を貼り換えなければならない。ペリクル膜の貼り換えは、粘着材で強固に透光性基板に装着してあるペリクルを透光性基板から剥がす必要があり、透光性基板にキズを付けたり接着剤残の洗浄による汚染など、リスクが伴う。再洗浄だけではなく、フォトマスクのメンテナンスは、個々のフォトマスクに対して1枚、1枚、施すしかなく、大量に保管しているフォトマスクへの対処としては現実的でなく、メンテナンス費用も大きなコストになってしまう。
【0004】
そこで、成長性異物に対する対策として、例えば、特許文献1では、対向する二面の板がそれぞれ光透過性の材料からなり、内部を所定量の活性ガスを含む不活性ガスからなるパージガスで満たして、フォトマスクを収容することができる筐体と、前記筐体内部の気圧を調整することができる調整手段を有するフォトマスク収納装置が開示されている。また、圧力制御も、不活性ガスのの逆流を防止する減圧だけを行っている。特許文献2では、不活性ガスで置換すべきガス置換空間を囲み部材で囲んだ構造体に複数の通気孔を設け、構造体の周囲に空間を形成する容器内を不活性ガスで充満させることにより、ガス置換空間内に不活性ガスを侵入させ、記ガス置換空間内を不活性ガスで置換する不活性ガス置換方法が開示されている。引用文献2では、あくまでも容器内(露光装置チャンバー)とチャンバー外の圧力制御であり、排気口からの逆流を防止するためだけである。特許文献3では、露光装置内にレチクル乾燥装置を設けるものであって、露光部のレチクルステージにレチクルを装着する前に、レチクル乾燥装置において、保持部を用いて乾燥源に接触しないようにレチクルを保持し、排気機構を用いてチャンバ内を減圧にし、パージ機構によりチャンバ内をパージしながら、乾燥源を用いてレチクルを加熱乾燥するレチクル乾燥装置が開示されている。雰囲気の圧力としては、乾燥を促進させるために減圧させるのみである。特許文献4では、供給ノズルに供給する不活性ガスの圧力および排出ノズルから排出するガスの圧力ならびに包囲手段内に供給する不活性ガスの圧力および包囲手段内から排出するガスの圧力の少なくとも一方を制御する圧力制御手段を有する露光装置が開示されている。引用文献4では、一方から吸気させ、もう一方から排気させて雰囲気を置換させるもので、圧力を制御するものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−299220
【特許文献2】特開2003−228163
【特許文献3】特開2004−170802
【特許文献4】特開2006−060037
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、引用文献1では、チャンバー内の活性ガスの濃度を保ちつつ分子数を減らすもので、圧力制御は活性ガスの逆流を防止する減圧のみである。引用文献2では、圧力制御の記述はあるが、あくまでも容器内(露光装置チャンバー)とチャンバー外の圧力制御であり、排気口からの逆流防止が目的。従って常に一方が陽圧であり、もう一方が陰圧になるような制御するのみである。引用文献3では、乾燥を促進させるために減圧させることが記載されている。引用文献4では、ペリクルフレームに2つの通気孔を設け、一方から吸気させ、もう一方から排気させて雰囲気を置換させる。また、フォトマスク1枚毎に雰囲気置換させるため、作業効率が悪い。上記いずれの開示された引用文献に記載された発明でも、成長性異物の発生を効率的に抑制するのは困難である。
そこで、本発明は、フォトマスクのペリクル膜内空間に発生する成長性異物の原因となるアウトガスを除去して、成長性異物の発生を抑えるフォトマスクの保管方法を提供することである。フォトマスクの成長性異物の有無の検査、成長性異物を除去する洗浄を行うことのないフォトマスク保管方法、フォトマスクストッカーを提供することである。
さらに、半導体装置の製造工程に用いるフォトマスクを繰り返し使用しても成長性異物の発生を抑えて、フォトマスクの成長性異物の有無の検査、成長性異物を除去する洗浄する工程を設けることのない半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する手段である本発明の特徴を以下に挙げる。
本発明は、フォトマスクを構成するペリクルフレームに、ペリクル膜内空間と外部とをつなぐ通気孔を設けたフォトマスクを収納・保管するフォトマスクストッカーに内部の気圧を制御する機能を持たせ、フォトマスクストッカー内の雰囲気を減圧、常圧、加圧を繰り返すことで、ペリクル膜内空間の雰囲気を、外部から供給された清浄度の高い雰囲気と置換させるフォトマスク保管方法である。
ペリクル内雰囲気を常時、清浄度の高い雰囲気にすることで、成長性異物の発生要因のアウトガスを排除することが出来る。フォトマスクをストッカーに保管しておく環境下において、ペリクル膜内空間の雰囲気を清浄化することができ、継続的な実施が可能となる。成長性異物の発生の予防や対処として、1枚、1枚のメンテナンスは不要となり、コスト面や工数において効果があるレチクル品質を高い状態で維持することができる。結果として、塵等の単純な異物による転写への悪影響をなくすことができる。
【0008】
また、本発明は、フォトマスクを収納・保管するフォトマスクストッカーであって、フォトマスクストッカー内の雰囲気を減圧、常圧、加圧を繰り返し、さらに、それぞれのフォトマスクが、ペリクル膜内の雰囲気を置換する所定の回数をカウントするカウンターを備えるフォトマスクストッカーである。
このペリクル膜内の雰囲気を、所定の回数で置換することで、成長性異物の発生を抑えることができるまでアウトガスの濃度を低下させることができる。さらに、ここのフォトマスクの置換させた回数を数えるカウンターを設けることで、多数のフォトマスクを同時に管理することができる。
【0009】
また、本発明は、素子・配線パターン等の回路パターン形状をフォトマスクを用いて、ウェハ上に転写して各種半導体素子、磁気デバイス素子、誘電デバイス素子等を製造する半導体装置の製造方法である。
このフォトマスク管理方法によるフォトマスクを用いることで、露光(フォトリソグラフ)工程における成長性異物によるパターンのエラーを少なくすることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によって、長性異物の発生要因のアウトガスを排除することができ、これによって、半導体装置の製造工程に使用する際に1枚ずつ検査する必要のないフォトマスクの管理方法及びフォトマスクストッカーを提供することができた。
また、本発明によって、フォトマスクを繰り返し使用しても成長性異物の発生を抑えて、フォトマスクの成長性異物の有無の検査、成長性異物を除去する洗浄する工程を設けることのない半導体装置の製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、以下の説明はこの発明における最良の形態の例であって、この特許請求の範囲を限定するものではない。
本発明は、透光性基板11の表面に被転写体に転写するパターン14を形成する部分をペリクルフレーム13を設け、そのペリクルフレーム13にペリクル膜12とを設けているフォトマスク10をフォトマスクストッカー30内に収納するフォトマスク保管方法において、ペリクルフレーム14に雰囲気を吸排気する通気孔15を設け、フォトマスクストッカー30内の気圧を加圧及び/又は減圧させて、これを繰り返し行うことで、透光性基板11とペリクルフレーム13とペリクル膜12とで形成するペリクル膜内空間18の雰囲気を置換するフォトマスク管理方法である。
図1は、フォトマスクの構造を示す概略図である。単純な粉塵、ゴミなどの異物の付着を防止するためにフォトマスク10にはペリクル膜12が装着される。ペリクル膜12は金属性の外枠としてペリクルフレーム13の一方の開口部にニトロセルロース等の有機薄膜の薄い透明質の膜が、ポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂等の接着剤によって張られている。また、ペリクルフレーム13には内面と外面を貫通する通気調整用の通気孔15が設けられている。この通気孔15にはフィルター16が設けられており、通気孔15を通じて外面雰囲気に存在する異物(塵)の内面への侵入を防止する。ペリクル膜12側とは逆の開口部のペリクルフレーム13には透光性基板11へペリクルフレーム13を装着するために同様の接着剤が塗布されている。また、ペリクルフレーム13内壁部には異物(塵)をトラップするための粘着剤を塗布することがある。なお、透光性基板11としては、ガラス基板が用いられている。パターン14としては、アルミニウム、クロム等の真空蒸着された金属膜が用いられている。ペリクルフレーム13は、表面を陽極酸化処理したアルミニウム合金を用いられている。
このレチクル10をフォトリソグラフ工程における露光により照射された紫外線は、パターン14の形成されていない面側から入射して、パターン14が形成されている面側へ入射し、パターン14で一部は遮られ、その他は、透光性基板10とペリクル膜12との界面を通過して、ペリクル膜12へ入り、外部へ抜ける。
【0012】
図2は、フォトマスクストッカーの構成を示す概略図である。ベリクル膜12付きのフォトマスク10をフォトマスクストッカー30に保管する場合には、図2に示すように、フォトマスクストッカー30内にある収納部35に収納する。また、フォトマスクストッカー筐体31には、収納部35に外部雰囲気を供給する吸気部32と、収納部35から内部雰囲気を排気する排気部33と備えている。この吸気部32と排気部33とは、吸気口321にフィルター322を挟んで、粉塵等の単純な異物を除去し、ファン又はポンプの送風手段323に接続している。この送風手段323は、フォトマスクストッカー30外部に設けられている操作パネル34で操作される。このォトマスクストッカー30外部には、さらに、タイマー又はカウンター37を設け、ここのフォトマスク10を収納した時間又は吸排気の回数を計測するようにする。
また、収納部35には、ここのフォトマスク10を収納する場所毎に符号を付しておき、その符号の場所におかれたフォトマスク10の時間等を計測する。これによって、フォトマスク10のフォトマスクストッカー30に収納された時間等を明らかにし、ペリクル膜12内の空間の雰囲気の置換ができたか明確にすることができる。
図2では、吸気孔と排気孔を備えた構成を有するフォトマスクストッカーを示したが、これは例示であり、このような構成でなくとも、ストッカー内の圧力を減圧及び/又は加圧することができる構成であればよく、例えばフォトマスクストッカーに形成された共通の孔を用いて吸排気を行なう構成でもよい。またArやN等の不活性ガスを吸排気することによって加圧及び/又は減圧を行なってもよい。
【0013】
図3は、フォトマスクストッカー内を排気して減圧したときのレチクルの状態を模式的に表した図である。
フォトマスクストッカー30内の雰囲気を排気口33から排気して減圧する。しかし、フォトマスクストッカー30内にあるレチクルのペリクル膜内空間18は、排気前の圧力にあって、通気孔16を通してペリクル膜内空間18の雰囲気は排気されるが、通気孔16の大きさ、フィルターの種類によってペリクル膜12内外の雰囲気の圧力が等しくなるには所定の時間が必要である。従って、ペリクル膜12内外の雰囲気の圧力が等しくなるまでの間に、図3(a)に示すように、弾力性のあるペリクル膜12がペリクル膜内空間18の雰囲気圧力に押されて膨らんだ状態になる。膨らんだときの撓み量を矢印Aで示している。また、図3中の白い矢印は、雰囲気の圧力の大きさと方向を示している。黒い矢印は、雰囲気の流れを示している。
しかし、所定の時間が経過すると、図3(b)に示すように、ペリクル膜12が平坦な元の状態に戻り、その時に、斜線で示したペリクル膜内空間の一部18′を外部に排気したことになる。
その後、フォトマスクストッカー30を、元の気圧状態に戻すと、同様に、ペリクル膜12の内外の雰囲気の圧力が等しくなるには所定の時間が必要である。従って、ペリクル膜内外の雰囲気の圧力が等しくなるまでの間に、図3(c)に示すように、弾力性のあるペリクル膜がペリクル膜外の空間の雰囲気圧力に押されて萎んだ状態になる。萎んだときの撓み量を矢印B′で示している。このときに、排気した雰囲気量によって、萎む撓み量B′は異なるが、減圧状態の図3(a)の撓み量Aよりは、大きくなることはない。
しかし、所定の時間が経過すると、図3(d)に示すように、ペリクル膜12が平坦な元の状態に戻り、その時に、斜線で示したペリクル膜内空間の一部18″を外部から吸気したことになる。
このようにして、フォトマスクストッカー30で、常圧・減圧をすることで、ペリクル膜内空間18の雰囲気を交換することができる。特に、ペリクル膜内空間18へ吸気することで、ペリクル膜内空間18のアウトガス等の濃度を低下させ、次に、排気することで、アウトガス等を同時に排気することができる。このアウトガス等を排気することで、ペリクル膜内空間18に残留するアウトガス等の濃度を低下させ、成長性異物20の発生を抑えることができる。
【0014】
図4は、フォトマスクストッカー内を吸気して加圧したときのレチクルの状態を模式的に表した図である。
フォトマスクストッカー30内の雰囲気を吸気口32から吸気して加圧する。しかし、フォトマスクストッカー30内にあるフォトマスク10のペリクル膜内空間18は、吸気前の圧力にあって、通気孔16を通してペリクル膜内空間18の雰囲気は吸気されるが、通気孔16の大きさ、フィルター17の種類によってペリクル膜内外18の雰囲気の圧力が等しくなるには所定の時間が必要である。従って、ペリクル膜12の内外の雰囲気の圧力が等しくなるまでの間に、図4(a)に示すように、弾力性のあるペリクル膜12がペリクル膜外空間の雰囲気圧力に押されて萎んだ状態になる。萎んだときの撓み量を矢印Bで示している。図4中の白い矢印は、雰囲気の圧力の大きさと方向を示している。黒い矢印は、雰囲気の流れを示している。
しかし、所定の時間が経過すると、図4(b)に示すように、ペリクル膜12が平坦な元の状態に戻り、その時に、斜線で示したペリクル膜内空間18の一部18′を外部から吸気したことになる。
その後、フォトマスクストッカー30を、元の気圧状態に戻すと、同様に、ペリクル膜12の内外の雰囲気の圧力が等しくなるには所定の時間が必要である。従って、ペリクル膜18の内外の雰囲気の圧力が等しくなるまでの間に、図4(c)に示すように、弾力性のあるペリクル膜12がペリクル膜内空間18の雰囲気圧力に押されて膨らんだ状態になる。膨らんだときの撓み量を矢印Aで示している。このときに、排気した雰囲気量によって、膨らむ撓み量A′は異なるが、加圧状態の図4(a)の撓み量Bよりは、大きくなることはない。
しかし、所定の時間が経過すると、図4(d)に示すように、ペリクル膜12が平坦な元の状態に戻り、その時に、斜線で示したペリクル膜内空間18の一部18″を内部から排気したことになる。
このようにして、フォトマスクストッカー30で、常圧・加圧をすることで、ペリクル膜内空間18の雰囲気を交換することができる。特に、ペリクル膜内空間18を排気するときに、ペリクル膜内空間18に発生し、濃縮されたアウトガス等を同時に排気することができる。さらに、吸気することで、ペリクル膜内空間18に残留するアウトガス等の濃度を低下させることで、成長性異物20の発生を抑えることができる。
【0015】
図5は、フォトマスクストッカー内を吸気して加圧し、さらに、排気して減圧したときのレチクルの状態を模式的に表した図である。
フォトマスクストッカー30内の雰囲気を吸気口32から吸気して加圧する。しかし、フォトマスクストッカー30内にあるレチクルのペリクル膜内空間18は、吸気前の圧力にあって、通気孔16を通してペリクル膜内空間18の雰囲気は吸気されるが、ペリクル膜12の内外の雰囲気の圧力が等しくなるまでの間に、図5(a)に示すように、弾力性のあるペリクル膜がペリクル膜外空間18の雰囲気圧力に押されて萎んだ状態になる。萎んだときの撓み量を矢印Bで示している。
しかし、所定の時間が経過するとペリクル膜12が平坦な元の状態に戻り、その時に、斜線で示したペリクル膜内空間18の一部18′を外部から吸気したことになる。
しかし、ペリクル膜12が元の平坦な状態になる前に、その後、フォトマスクストッカー30を、排気して減圧すると、弾力性のあるペリクル膜12がペリクル膜内空間18の雰囲気圧力に押されて膨らんで、図5(b)に示すように、撓み量Aの状態までになる。これによって、ペリクル膜12の内外の圧力を同じにするために、ペリクル膜内空間18にあるアウトガス等を含む雰囲気の一部18′′′が排気される。
このときに、ペリクル膜12が平坦になる中間状態になるものであってもよい。さらに、その中間状態をゆっくりでも経過しながら、萎んだ状態から膨らむ状態にすることで、排気する雰囲気の量を大きくすることができ、雰囲気の交換を効率的に行うことができる。
さらに、常圧状態にすることなく加圧することで、図5(c)に示すように、弾力性のあるペリクル膜12がペリクル膜外空間18の雰囲気圧力に押されて萎んだ状態になる。この状態で、ペリクル膜内空間18に、常圧状態から減圧状態になるよりも大きな量の雰囲気を吸気されることで、ペリクル膜内空間18に残留するアウトガス等の濃度を大きく低下させることでき、成長性異物20の発生を抑えることができる。
【0016】
このときに、常圧・減圧状態、常圧・加圧状態、常圧・加圧・減圧状態において、吸・排気を繰り返すことで、ペリクル膜内空間18にあるアウトガス等の濃縮を防止し、また、アウトガス等の濃度を低下させることができる。
また、1回に吸・排気する容積を、ペリクル膜内空間18に対して10%以下を繰り返すことがこのましい。ペリクル膜内空間18では、接着剤等からアウトガス等が継続的に発生しており、これを、継続的に排除すると共に、常に、成長性異物20を発生させる濃度以下にするためには、2%以上を排気することが好ましい。2%未満では、繰り返し排気しても、発生するアウトガス等の濃度が次第に高くなってくるために、長く保管していたフォトマスクであっても、成長性異物20が発生することがある。
さらに、排気できる容積は高い程良いが、ペリクル膜12の膜強度、接着剤の強度、フォトマスクストッカー30の吸・排気能力等によって1回で排気できる容積に限界がある。この場合、10%以下の排気では、少なくとも、9回以上を繰り返して行う。9回以上の排気を行うことで、成長性異物20を発生を抑えることができるようになる。
したがって、フォトリソグラフ工程にかけて紫外光等の光線を露光する前には、2〜10%の範囲では、9〜45回以上の排気をすることが好ましい。本発明のフォトマスクストッカー30では、タイマー又はカウンターを設けることで、ペリクル膜内空間18の排気回数を計測することで、成長性異物20が発生しないまでにアウトガス等の濃度が低下していることを知ることができる。吸排気の速度を、一定にしておけば、排気の回数を時間に置き換えることもでき、時間を計測することでも成長性異物20が発生しないまでにアウトガス等の濃度が低下していることを知ることができる。
【0017】
また、ペリクル膜12の緩みの発生を防止するために、フォトマスクストッカー30内の加圧又は減圧の速度を、7.31hPs/min.以下で制御する。圧力を制御する手段としては、吸気供給量、吸気供給速度、吸気供給圧力、排気排出量、排気排出速度、排気排出圧のいずれか、または組み合わせを制御することにより、フォトマスクストッカー30内の圧力を変動させる。図2では、操作パネル上から、操作パネル34を介して、ファンまたはポンプをコントロールして、流量/速度または圧力を制御している。フォトマスクストッカー30内の圧力の制御量として、ペリクル膜12の緩みが発生しない気圧変動に制御する必要がある。フォトマスクストッカー30内の圧力の制御量として、ペリクル膜12の撓みが発生しない気圧変動に制御する必要がある。例えば、減圧又は加圧を7.31hPs/min.以下の変化量で設定することで、また、ペリクル膜12の撓み量を管理し、ペリクル膜が塑性変形させない範囲で加・減圧の速度を制御する。さらに、この速度で加・減圧を制御すると、ペリクル膜12に緩みが発生しないことは分かっている。ペリクル膜12としては、ニトロセルロース、フッ素ポリマー等の透光性の高い樹脂で、厚さが0.8〜2.0μmの範囲で用いられる。
さらに、ペリクル膜12の撓み量を±2mm以下にする。また、ペリクル膜12の撓み量を管理し、ペリクル膜12が塑性変形しない範囲で加,減圧の速度を制御する必要がある。ペリクルフレーム13にペリクル膜12を設けた場合、撓み量が±2mmを越えると、繰り返し吸・排気している間に剥離することがある。さらに、撓み量が±2mmを越えると、塑性変形を起こし、再利用できなくなることがある。この変化量は、ペリクルフレーム13の気圧調整孔の径、数量、フィルターの細かさ等によって制御することができる。
【0018】
次に、フォトマスク保管方法で保管していたフォトマスクを用いる半導体装置の製造プロセスを説明する。図6は、半導体装置の全体的な製造工程を示すフロー図である。最初に、設計工程で、使用・特性に合わせた半導体装置の回路設計を行なう(ステップS1)。マスク製作工程では、回路設計の設計パターンに基づいてフォトマスクを製作する(ステップS2)。
一方、ウェーハ製造工程では、シリコン等の材料を用いて半導体装置の基板となるウェーハを製造する(ステップS3)。次に、ウェーハ処理工程で、フォトマスクとウェーハを用いて、リソグラフィ技術によってウェーハ上に実際の回路を形成する(ステップS4)。
このウェーハ処理工程では、例えば、レジスト処理では、ウェーハに感光剤を塗布する(ステップS81)。次の、露光工程では、露光装置によってフォトマスク10を用いて回路パターンをウェーハ上のレジストに転写する(ステップS82)。現像工程では、露光したウェーハを現像して固定する(ステップS83)。次の、洗浄工程では、エッチングが済んで不要となったレジストを洗浄して取り除く(ステップS84)。これらの工程は、ウェーハ処理工程で、酸化等の工程の間で適宜用いられる。
酸化工程は、レジストが設けられたウェーハの表面を酸化させる(ステップS91)。CVD工程では、ウェーハ表面に絶縁膜を成膜する(ステップS92)。イオン打込み工程では、ウェーハにイオンを打ち込む(ステップS93)。さらに、エッチング工程では、ウェーハ表面をエッチングして所定の回路パターンにしたり、電極を形成する(ステップS94)。
これらのステップを繰り返し行なうことによって、ウェーハ上に多重に回路パターンを形成する。
次に、組立工程では、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の組立て工程を含むもので、作製されたウェーハを用いて半導体チップ化する(ステップS5)。検査工程では、製造された半導体装置の動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行なう(ステップS6)。こうした工程を経て半導体装置が完成し、これを出荷される(ステップS7)。
【0019】
図7は、フォトマスクに成長性異物が発生する状況を説明するための概略図である。このなかで、フォトマスク10上の成長性異物201、202は、ペリクル膜内空間18に残留するアウトガス等とフォトマスクストッカー30内、スキャナー・ステッパー内、クリーンルーム内、レチクル輸送ケース等にある、例えば、SO、NO(ここで、Xは自然数とする)イオン等が挙げられる。
これらの物質が存在している場所に、スキャナー・ステッパーでの高エネルギーの紫外線に照射されることで、光化学反応を引き起こし、硫酸アンモニウム等に代表される物質が生成し、いわゆる成長性異物20を発生させて、フォトマスク10上へ析出する。また、フォトマスク10上の成長性異物20は先ず、パターン14のない面に発生し始める。その後、紫外線暴露を続けると、ある程度透光性基板11面の異物が成長した後、成長性異物20は、レチクル10のパターン14が存在するパターン面に発生する。透光性基板11の成長性異物20は、スキャナー・ステッパーで露光する場合のフォーカス面ではないので、大きく成長しない限り、ウェーハへの歩留まりへの影響は小さい。また、パターン面の成長性異物20は、透光性基板11とペリクル膜12との間にあるために高さ方向には成長できないために、この間の空間を横方向に成長する。このために、パターン14とパターン14とをつなぐことがあり、これが、ウェーハに転写されると、回路、配線等が接続したパターン14がウェーハに形成されることになり、半導体装置の欠陥になる。本発明では、スキャナー・ステッパーでの高エネルギーの紫外線に照射されることは半導体装置の製造上避けることができないことから、ペリクル膜内空間18に発生するアウトガス等を置換して、成長性異物20の発生を抑えて、半導体装置の製造における欠陥の発生を防止する。また、フォトリソグラフ工程に用いる前にフォトマスク10に成長性異物20が存在するか検査する工程を省略することで半導体装置の製造におけるスループットを多くすることができる。
【0020】
また、フォトマスク10を収納するケース類やPODなどの運搬用治具からの発生ガスも同様の問題になるので、フォトマスクス10に外気との通気孔(フィルター)16を設けて、保管時にケースや治具内の雰囲気を置換するで、本発明のフォトマスク保管方法を適用することも可能である。
【0021】
以上、本発明を好ましい実施例について説明したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨内において様々な変形・変更が可能である。以下に、本発明の特徴を列挙する。
(付記1)
被転写体に転写するパターンを有する透光性基板と、前記透光性基板上に形成され、通気孔を有するペリクルフレームと、前記ペリクルフレームに支持されたペリクル膜とを設けているフォトマスクを、フォトマスクストッカー内にて保管するフォトマスク保管方法において、
前記フォトマスクストッカー内を加圧及び/又は減圧を繰り返すことを特徴としたフォトマスク保管方法。
(付記2)
付記1に記載のフォトマスク保管方法において、
1回の加圧又は減圧で、前記ペリクル膜内空間の10%以下を吸気又は排気させることを特徴としたフォトマスク保管方法。
(付記3)
付記1又は2に記載のフォトマスク保管方法において、
フォトマスクをフォトマスクストッカー内に収納中に、9回以上の吸排気を繰り返す
ことを特徴としたフォトマスク保管方法。
(付記4)
被転写体に転写するパターンを有する透光性基板と、該透光性基板上に形成され、通気孔を有するペリクルフレームと、前記ペリクルフレームに支持されたペリクル膜とを設けているフォトマスクを収納するフォトマスクストッカーにおいて、
前記フォトマスクストッカーは、フォトマスクストッカー内の気圧を加圧及び/又は減圧を行なえることを特徴としたフォトマスクストッカー。
(付記5)
半導体装置の製造方法において、
前記半導体装置の製造方法は、付記1ないし3のいずれかに記載のフォトマスク保管方法で保管されたフォトマスクを用いて、半導体基板に前記パターンを転写して半導体装置を製造する
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
(付記6)前記通気孔にはフィルターが取り付けられていることを特徴とする、付記1記載のフォトマスク保管方法。
(付記7)前記フォトマスクストッカーは、フォトマスクストッカーが備える吸気口及び排気口を通じて、前記加圧及び/又は減圧を行なうことを特徴とする、付記4記載のフォトマスクストッカー。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】フォトマスクの構造を示す概略図である。
【図2】フォトマスクストッカーの構成を示す概略図である。
【図3】フォトマスクストッカー内を排気して減圧したときのレチクルの状態を模式的に表した図である。
【図4】フォトマスクストッカー内を吸気して加圧したときのレチクルの状態を模式的に表した図である。
【図5】フォトマスクストッカー内を吸気して加圧し、さらに、排気して減圧したときのレチクルの状態を模式的に表した図である。
【図6】半導体装置の全体的な製造工程を示すフロー図である。
【図7】フォトマスクに成長性異物が発生する状況を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0023】
10 レチクル
11 透光性基板
12 ペリクル膜
13 ペリクルフレーム
14 パターン
20 成長性異物
30 フォトマスクストッカー
31 フォトマスクストッカー筐体
32 吸気部
321 吸気口
322 フィルター
323 送風手段
33 排気部
34 操作パネル
35 収納部
36 タイマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被転写体に転写するパターンを有する透光性基板と、前記透光性基板上に形成され、通気孔を有するペリクルフレームと、前記ペリクルフレームに支持されたペリクル膜とを設けているフォトマスクを、フォトマスクストッカー内にて保管するフォトマスク保管方法において、
前記フォトマスクストッカー内を加圧及び/又は減圧を繰り返す
ことを特徴としたフォトマスク保管方法。
【請求項2】
前記通気孔にはフィルターが取り付けられている
ことを特徴とする、請求項1記載のフォトマスク保管方法。
【請求項3】
被転写体に転写するパターンを有する透光性基板と、該透光性基板上に形成され、通気孔を有するペリクルフレームと、前記ペリクルフレームに支持されたペリクル膜とを設けているフォトマスクを収納するフォトマスクストッカーにおいて、
前記フォトマスクストッカーは、フォトマスクストッカー内の気圧を加圧及び/又は減圧を行なえる
ことを特徴としたフォトマスクストッカー。
【請求項4】
前記フォトマスクストッカーは、フォトマスクストッカーが備える吸気口及び排気口を通じて、前記加圧及び/又は減圧を行なう
ことを特徴とする、請求項3記載のフォトマスクストッカー。
【請求項5】
半導体装置の製造方法において、
前記半導体装置の製造方法は、請求項1又は2に記載のフォトマスク保管方法で保管されたフォトマスクを用いて、半導体基板にパターンを転写して半導体装置を製造する
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−298850(P2008−298850A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141956(P2007−141956)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(308014341)富士通マイクロエレクトロニクス株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】