説明

フコキサンチン含有微細藻類培養物、及びその製造方法

【課題】効率的なフコキサンチンの製造方法を提供することである。
【解決手段】ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻、タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻、又はイソクリシス属(Isochrysis)に属する単細胞ハプト藻を培養する工程、及び培養物からフコキサンチンを採取する工程を含む、フコキサンチンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類を培養することによるフコキサンチンの製造方法、及びフコキサンチン含有微細藻類培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
フコキサンチンは、非プロビタミンA類のカロテノイドの一種で、キサントフィルに属する成分である。近年、フコキサンチンについて、抗肥満・抗糖尿病作用、抗癌作用、生体内抗酸化作用、血管新生抑制作用、及び抗炎症作用などの機能が報告されている。
【0003】
かかるフコキサンチンは、昆布やワカメなどの褐藻類、珪藻、黄金色藻、ラフィド藻、及びハプト藻に含まれることが知られている(非特許文献1)。しかしながら、昆布やワカメから抽出されるフコキサンチンの量は微量であり、フコキサンチンを製造するには、多量の藻類を調整する必要があった。
【0004】
フコキサンチンを含有する微細藻類としては、珪藻、黄金色藻、ラフィド藻、及びハプト藻が知られている(非特許文献1)。また、珪藻に属する微細藻類であるファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)は、培養液の鉄濃度を高くすることによって、クロロフィルやフコキサンチン等の色素含有量が増加したことが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】千原光雄編 「バイオディバーシティ・シリーズ3 藻類の多様性と系統」 裳華房発行 1999年
【非特許文献2】BioMetals 17: 45-52, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、昆布やワカメなどから微量にしか抽出されないフコキサンチンを、効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻、タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻、又はイソクリシス属(Isochrysis)に属する単細胞ハプト藻を培養することにより、効率的にフコキサンチンを製造することができることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、以下のものに関する。
[1] ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻、タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻、又はイソクリシス属(Isochrysis)に属する単細胞ハプト藻を培養する工程、及び
培養物からフコキサンチンを採取する工程を含む、フコキサンチンの製造方法。
[2] 前記培養工程における培養が、通気されながら行われるものである[1]に記載の製造方法。
[3] 前記培養工程における培養が、25μmol photons m−2−1以上の光照射に供されて行われる[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記培養工程における培養が、通気されながら行われ、かつ培養工程の前半を50μmol photons m−2−1以上の光照射に供され、培養工程の後半を50μmol photons m−2−1以下の光照射に供されて行われる、[1]に記載の製造方法。
[5] ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻が、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻が、タラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[7] フコキサンチンを含有する、ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻、タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻、又はイソクリシス属(Isochrysis)に属する単細胞ハプト藻を、通気しながら培養することにより得られる、培養物。
[8] 前記培養が、25μmol photons m−2−1以上の光照射に供されて行われる[7]に記載の培養物。
[9] 前記培養が、50μmol photons m−2−1以上の光照射に供されたのち、50μmol photons m−2−1以下の光照射に供されて行われる、[7]又は[8]に記載の培養物。
[10] ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻が、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)である[7]〜[9]のいずれかに記載の培養物。
[11] タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻が、タラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)である[7]〜[9]のいずれかに記載の培養物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フコキサンチンを効率的に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)AP08030株、タラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)AP08031株、及びイソクリシス sp.(Isochrysis sp.)AP08032株の成長率に対する、通気培養の有無による影響を示すグラフである。図1上段のグラフAの縦軸は、成長率を示す。図1中段のグラフBの縦軸は、微細藻類の乾燥重量(g dry wt)当りのフコキサンチン量(mg・g−1)を示す。図1下段のグラフCの縦軸は、成長率とフコキサンチン産生量との積を示す。図1のグラフの横軸において、「airated」は、通気培養にて生育させた群を、「not airated」は、静置培養にて生育させた群を表す。図1のグラフの横軸において、「freshwater」は、BG11培地を使用して生育させた群を表す。
【図2】ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)AP08030株の、成長率に対する、光強度の影響を示すグラフである。図2のグラフの横軸は、光強度(μmol photons m−2−1)を示し、縦軸は成長率を示す。
【図3】ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)AP08030株の、フコキサンチン産生能及び成長率に対する、光強度の影響を示すグラフである。図3のグラフの横軸は、光強度(μmol photons m−2−1)を示し、左縦軸はフコキサンチン量(mg/g)又はフコキサンチン量と成長率との積を示し、右縦軸は成長率を示す。図3中、黒四角はフコキサンチン量(mg/g)を、白抜きのダイヤはフコキサンチン量と成長率との積を、灰色のダイヤは成長率を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻、タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻、又はイソクリシス属(Isochrysis)に属する単細胞ハプト藻を培養する工程、及び培養物からフコキサンチンを採取する工程を含む、フコキサンチンの製造方法に関する。
【0012】
本発明に使用される微細藻類としては、ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻、タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻、又はイソクリシス属(Isochrysis)に属する単細胞ハプト藻が挙げられる。好ましい種に限定するならば、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)、タラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)が挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法において、前記微細藻類の培養に使用される培地は、沿岸海藻を生育させるのに適した培地であれば、いずれも使用できる。かかる培地としては、F/2培地、BG11培地などが挙げられる。中でもF/2培地がより適している。
【0014】
前記微細藻類は、その培養を通気性の良くすることにより、微細藻類のフコキサンチン産生能をより高めることができる。通気性が高まる培養法としては、例えば、通気培養、振とう培養、攪拌培養、及び通気攪拌培養等が挙げられるが、その他当技術分野に公知の培養法を用いても良い。
【0015】
光照射強度を弱く調節することにより、微細藻類のフコキサンチン産生能をより高めることができる。好ましい光照射強度は、25μmol photons m−2−1以上であり、より好ましくは、50μmol photons m−2−1以上である。なお、前記微細藻類は、光照射強度を弱くすることにより、その成長率は低くなる傾向にあるため、培養の前半を50μmol photons m−2−1以上の光照射にて行い、培養の後半を50μmol photons m−2−1以下の光照射にて行うことがより好ましい。なお、微細藻類の成長率は、50μmol photons m−2−1までは光照射強度に比例して成長率は高まるが、光照射強度が50μmol photons m−2−1以上の場合、その成長率は一定であることから、光照射強度の上限は、50μmol photons m−2−1を限度にしてもよい。また、光照射強度が0μmol photons m−2−1(暗所)の場合、微細藻類の成長率はほとんど0になるため、光照射強度の下限は、0より大きい必要があり、少なくとも5μmol photons m−2−1以上であることが好ましい。
【0016】
このようにして得られた微細藻類の培養物から、当技術分野に公知の抽出方法によりフコキサンチンを採取することができる。例えば、微細藻類をガラス繊維等のフィルター上に回収し、乾燥させてから、有機溶媒などによって抽出する方法や、フレンチプレスやホモジナイザーなどの一般的な方法により細胞を破砕してから、有機溶媒によって抽出する方法などが適用できる。フコキサンチンは、その抽出後の溶媒を、HPLC等の公知の方法により分離することにより得ることができる。
【0017】
また本発明は、前記微細藻類を用いるフコキサンチンの製造方法の過程において製造される、フコキサンチンを含有する、ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻、タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻、又はイソクリシス属(Isochrysis)に属する単細胞ハプト藻の培養物にも関する。
【実施例】
【0018】
本発明を以下、具体的な実施例に基づいて説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
[実施例1]
微細藻類の培養
微細藻類培養用培地(F/2培地)を、以下のようにして作製した。950mLの濾過滅菌された自然海水に、以下の表1に示す組成の各成分を加えた。その溶液を、濾過滅菌された自然海水で最終量1Lとし、オートクレーブ滅菌を行った。
【0020】
【表1】

【0021】
F/2培地に使用した微量金属溶液を、950mLの蒸留水に、表2に示す組成の各成分を溶解し、蒸留水で最終量1Lとすることによって作製した。
【0022】
【表2】

【0023】
F/2培地に使用したビタミン溶液を、950mLの蒸留水に、表3に示す組成の各成分を溶解し、蒸留水で最終量1Lとすることによって作製した。
【0024】
【表3】

【0025】
以下の表4に示す各微細藻類は、100mL三角フラスコを培養器として、50mLのF/2培地に播種し、光照射強度10μmol photons m−2−1で、18℃(室温)で4〜5日間、通気培養にて生育させた。
【0026】
フコキサンチン量の分析
付着性株の場合にはピペッティングにてはがし、なるべく均一な細胞懸濁液にした。その細胞懸濁液20mL中の藻体を、予め重量を測定しておいたWhatman社製 GF/Cグラスファイバー上に吸引濾過によって捕集し、70℃一晩乾燥後、再度重量を測定し、その差と濾過量から、培養液当たりの乾燥重量A(mg/mL culture)を求めた。また、残りの細胞懸濁液は、予め重量を測定しておいた50mLポリプロピレン遠心菅に移し、重量を再度測定して液量B(mL)を算出した後、遠心(11,000g、10分)によって細胞を収穫し、培地を捨て、アルミホイルに包み、−80℃に保存した。収穫した細胞ペレットの乾燥重量換算量をA×Bで求め、収穫量(mg dry wt)とした。上で得られた細胞ペレットを適当量の90%アセトン/水で再懸濁し、ガラス製目盛り付き試験管に移し、全量を2mLに合わせた。その再懸濁液1mLを、2mLマイクロチューブに移し、約1mL相当のジルコニア/シリカビーズ(0.1mm、BioSpec Products)と混合し、氷冷した後、Mixer Mill MM300(Retsch製)を用いて破砕処理を行った。振動数は30/sで、破砕条件は、2分破砕〜2分氷冷〜2分破砕とした。得られた抽出液数百μLを濾過した後、バイアルに移し、分析に供した。HPLCによるフコキサンチン分析は、以下のようにして行った。Water社のHPLC(Diode array detector付き)を使用し、カラムはTSK −gel ODS −80Ts 4.5×150mm、流量は1.0mL/min、カラム温度は、室温、HPLC移動相は(A)メタノール:水=(95:5(v/v))、(B)メタノール:テトラヒドロフラン=(70:30(v/v))で、0〜5分は(A)、5.0〜10.0分は(A)から(B)にリニアグラジエントをして、10.0〜18.0分は(B)、18.0〜18.1分は(B)から(A)にリニアグラジエントをして、18.1〜20.0分は(A)を流した。モニタリングは450nmで行った。
【0027】
微細藻類中に含まれるフコキサンチンの同定は、標品のフコキサンチンと微細藻類中のフコキサンチンと思われるピークのリテンションタイム及びスペクトルを比較して行った。標品のフコキサンチンをHPLCで分析した結果、リテンションタイムは3.8分付近で、スペクトルは449.8nmに吸収極大波長を持つ。微細藻類中に含まれる脂質はリテンションタイムが3.8〜3.9分付近、スペクトルは449.8nmに吸収極大波長を持つスペクトルを示すピークが存在した。リテンションタイム及びスペクトルから判断して、このピークがフコキサンチンであると同定した。
【0028】
以上の情報を元に、それぞれの微細藻類によるフコキサンチン産生量を調べた結果を、表4示す。フコキサンチン量は、微細藻類の乾燥重量(g dry wt)当りの量(mg)である。
【0029】
【表4】

【0030】
各微細藻類の入手先を、以下の表に示す。また、以下の微細藻類以外の藻類は、オランダ沿岸の海域から採取したものであり、微細藻類の形態、色素等に基づき表4のように分類を行った。
【0031】
【表5】

【0032】
以上の結果より、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)、タラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)、及びイソクリシス sp.(Isochrysis sp.)が、他の微細藻類に比べて有意にフコキサンチンを産生する能力を有することが示された。
【0033】
[実施例2]
ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)の培養
実施例1で用いたF/2培地を使用し、以下の表6に示す微細藻類を、100mL三角フラスコを培養器として、50mLのF/2培地に播種し、光照射強度10μmol photons m−2−1で、18℃(室温)で4〜5日間、通気培養にて生育させた。各微細藻類のフコキサンチン産生量の結果を、表6に示す。フコキサンチン産生量は、実施例1と同様の手法にて分析した。
【0034】
【表6】

【0035】
ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)について、AP08030以外の他の株においても同様に良好な結果が示された。
【0036】
[実施例3]
培養条件の検討−1
ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)AP08030株、タラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)AP08031株、及びイソクリシス sp.(Isochrysis sp.)AP08032株を用いて、微細藻類の最適な培養条件を検討した。
【0037】
各微細藻類を、50mLのF/2培地に播種し、光照射強度10μmol photons m−2−1で、18℃(室温)、二酸化炭素雰囲気下で4〜5日間、通気培養にて生育させた群(図1中「airated」と示されるグラフ)と、静置培養にて生育させた群(図1中「not airated」と示されるグラフ)とに分けて検討した。結果を、図1に示す。
【0038】
図1上段のグラフAより、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)AP08030株、タラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)AP08031株、及びイソクリシス sp.(Isochrysis sp.)AP08032株のいずれの株においても、通気培養にて生育させることによって、より微細藻類の成長が向上することが分かる。なお、成長率は、下記の数式で示される値である。
成長率 = ln(Nt / N0)/Δt
N0 (培養開始時の細胞数)、Nt (培養終了時の細胞数)
Δt (培養開始から終了までの培養時間)
【0039】
図1中段のグラフBより、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)AP08030株、及びタラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)AP08031株は、通気培養にて生育させることによって、フコキサンチン産生量が増加することが分かる。また、成長率とフコキサンチン産生量との積を示す図1下段のグラフCより、いずれの株においても、フコキサンチンを効率的に産生させるには、通気培養が最適であることが分かる。
【0040】
また、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)は、真水でも生育することが知られているため、培地としてF/2培地ではなく、BG11培地を用いる以外は、前述と同様の培養条件で(光照射強度10μmol photons m−2−1で、18℃(室温)で、4〜5日間培養)、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)AP08030株を培養生育した。また、通気培養にて生育させた群(図1中「airated」と示されるグラフ)と、静置培養にて生育させた群(図1中「not airated」と示されるグラフ)とに分けて検討した。結果を図1上段のグラフAに示す。
【0041】
BG11培地は、以下のようにして作製した。950mLの濾過滅菌された蒸留水に、以下の表7に示す組成の各成分を加えた。その溶液を、濾過滅菌された蒸留水で最終量1Lとし、オートクレーブ滅菌を行った後、1Nの塩酸溶液を用いpHを7.1に調整した。
【0042】
【表7】

【0043】
BG11培地に使用した微量金属溶液A5を、950mLの蒸留水に、表8に示す組成の各成分を溶解し、蒸留水で最終量1Lとすることによって作製した。
【0044】
【表8】

【0045】
この結果から、培地としてF/2培地ではなくBG11培地を用いた場合は、通気培養の方がフコキサンチン産生量が多いものの、成長率、及び成長率とフコキサンチン産生量との積の結果は、通気培養した場合と静置培養を行った場合とで有意な差はなかった。
【0046】
[実施例4]
培養条件の検討−2
微細藻類の成長率は、全体的なフコキサンチン産生にも影響するため、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)AP08030株を用いて、微細藻類の成長に最適な光照射強度の条件を検討した。
微細藻類を、50mLのF/2培地に播種し、18℃(室温)で4〜5日間、通気培養にて、様々な光照射強度で生育させた。結果を、図2に示す。
図2より、微細藻類の成長率は、光照射強度が強いほど高いことが分かる。
【0047】
[実施例5]
培養条件の検討−3
ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)AP08030株を用いて、微細藻類のフコキサンチン産生能において最適な光照射強度の条件を検討した。
微細藻類を、50mLのF/2培地に播種し、18℃(室温)で4〜5日間、通気培養にて、光照射強度を、25μmol photons m−2−1、50μmol photons m−2−1、又は75μmol photons m−2−1で生育させ、検討した。結果を、図3に示す。
【0048】
図3より、微細藻類のフコキサンチン産生能は光照射強度が弱いほど高く、微細藻類の成長度は、光照射強度が強いほど高いことが分かる。フコキサンチン量と成長率との積の結果より、フコキサンチン産生量は、成長率も大きく影響するため、微細藻類乾燥重量当りのフコキサンチン産生量は、光照射強度が強いほど高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のフコキサンチンの製造方法は、効率的にフコキサンチンを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻、タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻、又はイソクリシス属(Isochrysis)に属する単細胞ハプト藻を培養する工程、及び
培養物からフコキサンチンを採取する工程を含む、フコキサンチンの製造方法。
【請求項2】
前記培養工程における培養が、通気されながら行われるものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記培養工程における培養が、25μmol photons m−2−1以上の光照射に供されて行われる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記培養工程における培養が、通気されながら行われ、かつ培養工程の前半を50μmol photons m−2−1以上の光照射に供され、培養工程の後半を50μmol photons m−2−1以下の光照射に供されて行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻が、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻が、タラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
フコキサンチンを含有する、ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻、タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻、又はイソクリシス属(Isochrysis)に属する単細胞ハプト藻を、通気しながら培養することにより得られる、培養物。
【請求項8】
前記培養が、25μmol photons m−2−1以上の光照射に供されて行われる請求項7に記載の培養物。
【請求項9】
前記培養が、50μmol photons m−2−1以上の光照射に供されたのち、50μmol photons m−2−1以下の光照射に供されて行われる、請求項7又は8に記載の培養物。
【請求項10】
ファエオダクチルム属(Phaeodactylum)に属する単細胞珪藻が、ファエオダクチルム トリコニウタム(Phaeodactylum tricornutum)である請求項7〜9のいずれかに記載の培養物。
【請求項11】
タラシオシーラ属(Thalassiosira)に属する単細胞珪藻が、タラシオシーラ シュードナナ(Thalassiosira pseudonana)である請求項7〜9のいずれかに記載の培養物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−233517(P2010−233517A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86061(P2009−86061)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】