説明

フコース特異的レクチン

【解決手段】 フコース特異的レクチン遺伝子のクローニングが行われ、その塩基配列も決定された。また、このクローニングされた上記の新規遺伝子をベクターに挿入することにより宿主(麹菌)を形質転換した。
【効果】 形質転換体を培養することにより上記酵素を大量に生産することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フコースを特異的に認識するレクチン遺伝子に関するものであり、詳細には麹菌のフコース特異的レクチン遺伝子に関するものである。更に詳細には、本発明は、Aspergillus oryzaeより新規に単離したフコース特異的レクチン遺伝子を用いて、フコース特異的レクチンを大量に分泌生産させ、フコース測定用の臨床検査試薬など様々な産業分野に利用することを可能にするものである。
【背景技術】
【0002】
レクチンは、糖を特異的に認識して可逆的に結合する蛋白質である。レクチンは、元来19世紀末にヒマ種子の抽出物中に赤血球を凝集させる因子として発見された。その後、マメの種子をはじめとする多くの植物起源のレクチンが見出され、さらに脊椎動物、無脊椎動物、キノコ、微生物、ウイルスなど、あらゆる生物に見出された。これらのレクチンの生理学的な意義に関しても多くの議論が展開されており、細胞分化、形態形成、糖蛋白質の代謝などの内在的役割に加えて、細菌やウイルスに対する生体防御、共生や補食などの対外的役割についても報告されている。
【0003】
また、応用面においては、その結合糖鎖に対する特異性を利用して、血液型の研究をはじめ、がん細胞の表面糖鎖の研究、免疫学などの細胞生物学の分野での臨床試薬的応用が多く報告されている。また最近ヒラタケ子実体由来のレクチンに食欲抑制作用が確認され、機能性食品への応用も報告されている(特開平9−20675)。
【0004】
このようにレクチンは、様々な利用方法が報告されている産業上非常に重要なタンパク質である。しかしながら、現在市販されているレクチン蛋白は非常に高価なものが多く、広く産業上利用することができない。例えばヒイロチャワンタケ由来のレクチンは、フコースを特異的に認識するレクチンであるが、ヒイロチャワンタケにおける生産量は極めて低い。
【0005】
今後このようなレクチン蛋白質を、臨床検査試薬をはじめ広く産業上で利用するには、もっと安価でかつフコースに特異的なレクチンを生産する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者が解決しようとする課題は、フコース測定用の臨床検査試薬、糖鎖工学などの研究用試薬をはじめ様々な産業に利用可能な麹菌A.oryzae由来フコース特異的レクチンを、効率よく生産させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、清酒中のフェリクリシンを除去する研究の過程において、本発明者らは、フェリクリシンに結合するタンパク質を分離し、このタンパク質にレクチン様活性が認められることをはじめて見出し、各方面から検討の結果、これがフコース特異的レクチンであることを確認し、そしてこれを製造するには遺伝子工学的手法が適当であるとの観点にたった。
【0008】
そして、本発明者らは、鋭意研究の結果、フコース特異的レクチンをコードする遺伝子の取得、及びその塩基配列の決定に成功し、さらに該遺伝子を含有した形質転換体の作成、該遺伝子の発現(しかも真核生物による高発現)、該形質転換体の培養によるフコース特異的レクチン又はフコース特異的レクチン活性を有するタンパク質の製造(しかも大量製造)、そしてこの酵素(又は酵素活性を有するタンパク質)の利用を現実に確認するのに成功し、本発明の完成に至ったものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、麹菌のL−フコース特異的レクチンを大量に生産・分泌することがはじめて可能となり、従来活用が困難であったL−フコースの定量やフコースを含む糖鎖を解析する研究試薬に利用することができる。また本発明は麹菌の酵素を麹菌で生産させるため、生産される酵素蛋白は非常に安全性が高く、食品、医薬品、化粧品産業などへも応用が可能な画期的な技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。
【0011】
本発明者らは、清酒醸造において清酒の着色を起こす鉄イオンキレート低分子フェリクリシンを除去するために、フェリクリシン結合蛋白質を麹菌からスクリーニングした。まずフェリクリシンを担体へ固定化したカラムを作製し、A.oryzaeの菌体内蛋白質中のフェリクリシン結合蛋白質の単離を試みた。その結果、フェリクリシン固定化カラムに特異的に吸着する蛋白を単離した。このタンパク質はA.oryzaeを鉄制限培養した際に特異的に菌体内に誘導されるタンパク質であった。本蛋白質は、分子量約35000のサブユニットからなるホモダイマー蛋白質であった。このタンパク質の諸性質を検討した結果、レクチン様活性が認められ、特にフコースに特異的に反応するレクチンであることが示唆された。そこで本タンパク質をコードする遺伝子の取得を行った。
【0012】
まず、本蛋白質を還元カルボキシメチル化後、リシルエンドペプチダーゼ消化を行い、高速液体クロマトグラフィーにより数本のペプチドフラグメントを単離した。そのうちの2本のペプチドフラグメントのアミノ酸配列を決定することに成功した。次に得られたペプチド配列を参考にして、縮重オリゴヌクレオチドプライマーを合成し、これをフルオレッセン標識したものをプローブとしてA.oryzaeのラムダEMBL3ゲノムDNAファージライブラリーをスクリーニングした。その結果、本フェリクリシン結合蛋白質をコードするDNA配列の単離に成功した。
【0013】
その遺伝子配列を決定し、本遺伝子にコードされるアミノ酸配列と既知遺伝子データベースとのホモロジーを検索した結果、子のう菌キノコに属するヒイロチャワンタケAleuria aurantiaのフコース特異的レクチンと高いホモロジーを示した(J.Biochem., 107, 190〜196 1990)。そこで本蛋白質の赤血球凝集レクチン活性を検討した結果、赤血球凝集レクチン活性を示した。また各種単糖による赤血球凝集レクチン阻害活性を検討した結果、本蛋白質はL−フコースに特異的なレクチンであることが明らかとなった。
【0014】
単離した遺伝子は、フコース特異的レクチン遺伝子であって、本遺伝子はフコースを特異的に認識するレクチンをコードする遺伝子、フコース特異的レクチン活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、これらの遺伝子の少なくともひとつを含有する遺伝子から選ばれる少なくともひとつを指すものである(以下、単にフコース特異的レクチン遺伝子ということもある。)。本発明において、このようにして単離したフコース特異的レクチン遺伝子は、これを宿主に導入して発現せしめ、フコース特異的レクチン又はフコース特異的レクチン活性を有するタンパク質を製造するものである。なお、本発明において、フコース特異的レクチン活性を有するタンパク質にはフコース特異的レクチン遺伝子も包含されるものである。
【0015】
宿主としては、各種微生物が適宜使用可能であるが、本発明においては真核生物を利用することが可能であって、目的酵素を効率よく大量に生産できるという特徴を有する。真核生物、例えば麹菌A.oryzaeは清酒、醤油、味噌などの我が国の伝統的発酵産業で使用されてきた糸状菌である。本菌株の特徴は、上記発酵産業で有用なタンパク質を非常に大量に生産することである。本菌株が持つ高い蛋白生産能と醸造微生物としての安全性から、異種蛋白生産の宿主として注目されている(Biotechnology, 6, 1419(1988)、特開昭62−272988)。本発明者らの研究から、A.oryzaeを用いた異種蛋白生産においては、Aspergillus属などの近種の遺伝子であれば、その生産能はさらに増大することが認められた。特にA.oryzaeの遺伝子を、A.oryzaeの高発現プロモーター制御下で発現させた場合、非常に大量のタンパク質が生産されることを見いだした(特願平11−154271、特願2000−36754)。本発明は、この系を利用することによって、フコース特異的レクチン遺伝子を麹菌で効率的に発現せしめ、フコース特異的レクチン遺伝子を大量生産することにはじめて成功したものである。
【0016】
上記により単離したフコース特異的レクチン遺伝子は、単独で、あるいは麹菌のチロシナーゼ遺伝子(melO遺伝子:Biochem. Biophys.Acta., 1261(1)、p.151, 1995)のプロモーターや固体培養において特異的に大量発現する麹菌由来のグルコアミラーゼ遺伝子(glaB)のプロモーター(特願平11−154271、特開平11−243965)のような高発現プロモーターと共に、A.oryzaeにて発現させて、高純度な目的蛋白を大量に生産させるものである。
【0017】
遺伝子導入方法としては、常法が適宜利用されるが、例えば宿主としては、niaD変異株(硝酸を資化できない麹菌変異株:Nitrate Reductase欠損株、例えばAspergillus oryzae 1013−niaD(FERM P−17707))を用いる公知方法により、目的遺伝子であるフコース特異的レクチン遺伝子と形質転換用マーカー遺伝子であるniaD遺伝子(S.UnkleらMol. Gen. Genet., 218, p.99-104, 1989)を同時に導入する。この遺伝子導入の際に、ベクター配列などの異種遺伝子を排除することにより、異種遺伝子を全く含まないセルフクローニング株の形質転換体を得ることができる。そしてこの形質転換体を培養することにより、目的蛋白を菌体内又は菌体外に大量に分泌させることができる。
【0018】
このように本発明によれば、フコース特異的レクチン遺伝子をA.oryzaeから単離するのに成功し、目的蛋白をA.oryzaeによって大量に生産させることに成功したものである。そのうえ更に、該異種遺伝子を導入する場合、A.oryzae以外の異種DNAが混入しない方法を採用することにより、セルフクローニング株となり、組換え微生物の規制からも除外されるという著効が奏される。
【0019】
以下、本発明を更に具体的に説明する。
【0020】
まず、フェリクリシンのセリン残基とEpoxy-activated Sepharoseのエポキシ基を結合させて固定化フェリクリシンを作成した。次に鉄イオンを制限した培地で培養したA.oryzaeの菌体内抽出物を、このカラムに吸着させた。ほとんどの菌体内蛋白は固定化フェリクリシンカラムに吸着せず素通り画分に溶出されたが、分子量35000の蛋白が特異的にフェリクリシンカラムに吸着されていた。本蛋白は、0.5Mのクエン酸バッファーによりはじめてカラムから溶出が可能であり、またフェリクリシンを固定化しないカラムには全く吸着しなかった。従って、本タンパク質は固定化フェリクリシンに特異的に結合するタンパク質であると考えられた。また本タンパク質は、鉄イオンを豊富に含む培地では全く生産されず、鉄イオン欠乏によって誘導される蛋白であることも明らかとなった。またこのタンパク質の諸性質を検討した結果、レクチン活性が認められた。そこで本タンパク質をコードする遺伝子の単離を試みた。
【0021】
まず、本タンパク質の内部アミノ酸配列の決定を行った。タンパク質を断片化するために、最初にタンパク質をヨード酢酸によって分子内S−S結合をカルボキシメチル化(CM化)を行った。得られたCM化タンパク質をSDS存在下で、リシルエンドペプチダーゼにより限定分解を行い、そのペプチドフラグメントを液体クロマトグラフィーにより回収した。このペプチドフラグメントの中で2種類のペプチドの配列について気相式アミノ酸シーケンサーにより配列を決定することができた。得られたアミノ酸配列に基づいてオリゴDNAを合成し、これをプラークハイブリダイゼーションのプローブとして使用した。
【0022】
すなわち、この2種類の部分アミノ酸配列をもとに作製した縮重オリゴヌクレオチドプローブを用いて、A.oryzaeのラムダEMBLE3ファージライブラリーをスクリーニングして得られた遺伝子の塩基配列を決定した。その結果、本遺伝子は4つのイントロンを含む遺伝子からなり、推定されるタンパク質のアミノ酸配列は310残基であり、子のう菌キノコに属するヒイロチャワンタケAleuria aurantiaのフコース特異的レクチンとのホモロジーを示し、そのアミノ酸レベルでのホモロジーは26%であった。このホモロジー結果から、本蛋白質の赤血球凝集レクチン活性を検討した結果、赤血球凝集レクチン活性を示し、本蛋白質がフコース特異的レクチンであることが明らかとなった。また本遺伝子のプロモーター領域には、−144bpにTATAA−boxなどの真核生物プロモーターに特徴的な配列が存在していた。
【0023】
次にこの遺伝子のコーディング領域を、A.oryzaeでの高発現プロモーターであるmelOプロモーター下流に連結し、フコース特異的レクチンの麹菌での高生産を検討した。図10に示すA.oryzaeの遺伝子発現ベクターにmelOプロモーター(1.0kb)とフコース特異的レクチン遺伝子のコーディング領域(ATG下流1.1kb)の融合遺伝子を連結し、A.oryzaeのniaD変異株に導入した。その結果、図11のSDS−PAGEに示したようにmelOプロモーター制御下においてフコース特異的レクチンが菌体内に大量に確認された。この酵素蛋白を精製し、ウサギの赤血球凝集レクチン活性を検討した結果、その活性が認められた。
【0024】
また、本レクチンの特異性を検討するために、表1に示すように種々の単糖に対するウサギの赤血球凝集阻害活性を検討した結果、L−フコース、マンノース、N−アセチルノイラミン酸において凝集阻害活性が認められた。しかし、本レクチンのL−フコースに対する親和性は、表1に示すように、マンノース、N−アセチルノイラミン酸の約100倍強く、L−フコース特異的レクチンであることが明らかとなった。
【0025】
【表1】

【0026】
以上の結果より、クローニングした遺伝子断片には、フコース特異的レクチン活性を有する蛋白がコードされていることが確認できた。またこの遺伝子を用いて、フコース特異的レクチン活性を有する蛋白を高生産させることが可能であり、生産されたタンパク質は臨床検査試薬の他様々な産業分野で応用が可能であることも確認した。
【0027】
このようにして、新規なフコース特異的レクチン遺伝子を単離するのに成功した。そのDNAの塩基配列を配列表の配列番号2に示し(図3、図4)、新規なフコース特異的レクチンのアミノ酸配列を配列番号1に示す(図1、図2)。
【0028】
このようにして得た、melOプロモーター下流でフコース特異的レクチン遺伝子を発現する形質転換体の内、好適なもののひとつを工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−17946として寄託した。なお、melOプロモーターの塩基配列は、配列番号7及び図9に示す。
【0029】
次に、このレクチン蛋白をA.oryzaeのglaB遺伝子由来グルコアミラーゼのシグナル配列を用いて菌体外への分泌生産を検討した。図12に示すようにmelOプロモーター下流にA.oryzaeのグルコアミラーゼ遺伝子glaBのシグナル配列を連結し、フコース特異的レクチン遺伝子のコーディング領域(ATG下流1.1kb)を結合させた。本プラスミドをA.oryzaeのniaD変異株に導入した結果、得られた形質転換体は改変Czapek−Dox液体培地での液体培養により菌体外にL−フコース特異的レクチンを生産し、その生産量は、表2に示すように、2g/1L−ブロスを示し、かつ菌体外蛋白質の純度としても99%の純度を示した。
【0030】
【表2】

【0031】
以上の結果より、クローニングした遺伝子断片には、L−フコース特異的レクチン活性を有する蛋白がコードされていることが確認できた。またこの遺伝子を用いて、L−フコース特異的レクチン蛋白を菌体外に高純度かつ高生産させることが可能であり、生産されたタンパク質はフコースの定量の他様々な産業分野で応用が可能であることも確認した。
【0032】
生産されたタンパク質は、それ自体が試薬として有用であるだけでなく、フコースに対する特異性が高いため、血液型、がん細胞の表面糖鎖、免疫学その他研究用試薬、臨床用試薬として広く応用することができる。また、本タンパク質は、フコース測定用試薬として、バッファーその他必要な試薬とともに測定用キットを組むこともできる。
実施例
以下、本発明の実施例について述べる。
【実施例1】
【0033】
フェリクリシン結合蛋白質の精製と部分アミノ酸配列の決定
麹菌A.oryzaeの鉄制限培地(グルコース2%、硫酸マグネシウム0.1%、リン酸水素2カリウム0.1%、塩化カルシウム0.05%、硫安0.2%、硫酸亜鉛0.00001M、pH6.3)での液体培地培養により得られた菌体外フェリクリシンをシリカゲルカラムにより精製した。得られたフェリクリシンをエポキシ基活性化セファロース6B担体へ固定化したカラムを作製した。このカラムに対して、麹菌A.oryzaeを鉄制限培養した菌体内のタンパク質を供し、カラムを洗浄後、0.5Mクエン酸で溶出した蛋白質の性質を検討した。本フェリクリシン結合蛋白質は、純度99%の蛋白質であり、分子量35000のサブユニットからなるホモダイマーであった。
【0034】
次に、本タンパク質の内部アミノ酸配列の決定をするために、タンパク質を断片化した。まず目的のタンパク質をヨード酢酸によって分子内S−S結合をカルボキシメチル化(CM化)した。得られたCM化タンパク質をSDS存在下で、リシルエンドペプチダーゼにより限定分解を行い、ペプチドフラグメントを逆相系液体クロマトグラフィーにより回収した。回収したぺプチドの中で、2種類のペプチドについて気相式ペプチドシーケンサーにてその配列を決定した。得られたペプチドの内、配列FAP−4のアミノ酸配列を配列番号3(図5)に示し、配列FAP−12のアミノ酸配列を配列番号4(図6)に示す。
【実施例2】
【0035】
フェリクリシン結合蛋白質の遺伝子クローニングと全塩基配列の決定
本蛋白質の遺伝子クローニングを行うために、上記部分アミノ酸配列FAP−4の配列(配列番号3、図5)をもとに、縮重オリゴヌクレオチドプローブをオリゴDNA合成により作成した。その塩基配列を配列番号5及び図7に示す。なお、配列中のn及び図中のIは、いずれもデオキシイノシンを示し、縮重塩基はIUBコードにしたがった。
【0036】
上記により作成したオリゴDNAプローブは、これを3′−末端標識法によってフルオレッセンラベルし、ファージ(EMBL3ファージ)を用いたアスペルギルス・オリゼーO−1013株(工業技術院生命工学工業技術研究所寄託FERM P−16528)の染色体ジーンライブラリーより、プラークハイブリダイゼーション法によりフェリクリシン結合蛋白質遺伝子をクローニングした。この方法により、約10000個のファージクローンの中から、上記のプローブとハイブリダイズするクローンFA−4株を単離した。本クローンの遺伝子配列をオリゴDNAをプライマーとしてジデオキシ法により決定し、本クローンが確かにフェリクリシン結合蛋白質遺伝子であることを確認した。
【実施例3】
【0037】
フェリクリシン結合蛋白質遺伝子の全塩基配列とホモロジー検索
ポジティブクローンFA−4株をテンペレートとしてフェリクリシン結合蛋白質遺伝子の全塩基配列の決定を行った。プロモーター部分、コーディング領域、ターミネーター部分をあわせて2.1kbの配列を決定した(配列番号2:図3、図4)。上記配列の内、1位置から462の位置までがプロモーター部分であり、463の位置から1613の位置までの領域がコーディング領域であり、1614の位置から2122の位置までがターミネーター部分である。
【0038】
本遺伝子のコーディング領域は、1151bpであり、4つのイントロンに分断されており、塩基配列から推定されるタンパク質は310残基である。(配列番号1:図1、図2)。さらにこのコーディング領域上にタンパク質から得られた2種類の内部アミノ酸配列が含まれていることも確認した。
【0039】
次に本遺伝子のホモロジー検索を行ったところ、ヒイロチャワンタケA1euria aurantiaのフコース特異的レクチンとの高いホモロジーを示した。そこで、以下、この遺伝子をL−フコース特異的レクチン遺伝子(fleA)とする。
【実施例4】
【0040】
L−フコース特異的レクチン遺伝子の麹菌での発現
得られたL−フコース特異的レクチン遺伝子(fleA)の中のコーディング領域(配列番号2の463〜1613)を麹菌の高発現プロモーターであるmelOプロモーター下流に連結した。さらにこの融合遺伝子を麹菌発現ベクターであるpIN93のPstIサイトに挿入したL−フコース特異的レクチン発現プラスミドpMFL1を構築した(図10)。このpMFLlを、A.oryzaeのniaD変異株(工業技術院生命工学工業技術研究所寄託FERM P−17707)に常法に従い導入した。硝酸資化能が回復した株を遺伝子導入株として選択した。このようにして得た形質転換体の内、そのうちのひとつをAspergillus oryzae MEL−FAPと命名し、工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−17946として寄託した。
【0041】
得られた遺伝子導入株を、改変ツァペック−ドックス(Czapek−Dox)培地にて液体培養を行った結果、SDS−PAGEによる電気泳動のパターン(図11:図面代用写真、矢印がフコース特異的レクチンを示すバンドである。)から明らかなように、菌体内に大量の遺伝子産物が確認できた。このタンパク質の分子量は35kDaで、遺伝子配列から推定される分子量と一致している。
【0042】
次に、この菌体内蛋白のレクチン活性を、ウサギ赤血球を用いて測定した。本タンパク質には赤血球凝集反応が認められ、非常に強いレクチン活性を持つことが明らかとなった。なおレクチン活性の測定はF.Fukumoriらの方法(J.Biochem., 107, 190-196 1990)に従い行った。以上の結果より、単離したfleA遺伝子にはレクチン活性を有する蛋白がコードされていることが確認できた。
【実施例5】
【0043】
本レクチン蛋白質の基質特異性の検討
本レクチン蛋白質の基質特異性を検討するために、ウサギ赤血球凝集阻害活性を示す単糖のスクリーニングを行った。先の表1に示すように、L−フコース、N−アセチルノイラミン酸、マンノース、ガラクトース、グルコース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミンを検討した。その結果、L−フコース、N−アセチルノイラミン酸、マンノースにおいて、ウサギ赤血球凝集阻害活性が認められ、最小阻害濃度はそれぞれ0.3mM、50mM、50mMであった。よって本レクチンはL−フコース特異的レクチンであることが明らかとなった。
【実施例6】
【0044】
組み換えL−フコース特異的レクチンの大量分泌生産
L−フコース特異的レクチンの分離精製を容易にするために、麹菌A.oryzaeでのL−フコース特異的レクチンの菌体外分泌生産を検討した。melOプロモーター下流に、グルコアミラーゼ遺伝子glaB(特開平11−243965)中のシグナルベプチドコード塩基配列(配列番号6、図8)を連結した後、L−フコース特異的レクチン遺伝子の開始コドンから終止コドン(配列番号2の463〜1613)を結合させた。
【0045】
この融合遺伝子を麹菌発現ベクターであるpIN93のPstIサイトに挿入したL−フコース特異的レクチン発現プラスミドpMFL2を構築した(図12)。このpMFL2を、A.oryzaeのniaD変異株(工業技術院生命工学工業技術研究所寄託FERM P−17707)に常法に従い導入した。硝酸資化能が回復した株を遺伝子導入株として選択した。得られた遺伝子導入株を3LのCz−Dox培地で、30℃で10日間培養した結果、先の表2に示すようにその培養上清中の菌体外分泌蛋白質はその99%がL−フコース特異的レクチンであり、生産量は2g/1L−brothであった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】フコース特異的レクチンのアミノ酸配列を示す。
【図2】同上続きを示す。
【図3】フコース特異的レクチン遺伝子の塩基配列を示す。
【図4】同上続きを示す。
【図5】該レクチンの部分アミノ酸配列FAP−4を示す。
【図6】同上FAP−12を示す。
【図7】オリゴDNAプローブの塩基配列を示す。
【図8】glaB遺伝子中のシグナルペプチドをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
【図9】melOプロモーター遺伝子の塩基配列を示す。
【図10】フコース特異的レクチン活性を有するタンパク質発現プラスミドpMFL1の構築及びその制限酵素地図を示す。
【図11】該タンパク質の菌体内での発現を示す電気泳動のパターンを示す図面代用写真である。
【図12】該タンパク質発現プラスミドpMFL2の構築及びその制限酵素地図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列を有するフコース特異的レクチン活性を有するタンパク質。
【請求項2】
フコースを測定又は検出するための請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
フコース特異的レクチンとして使用するための請求項1に記載のタンパク質。
【請求項4】
配列番号2の塩基配列で示される、請求項1、2又は3に記載のタンパク質をコードする遺伝子のDNA。
【請求項5】
請求項4に記載のDNAの内、少なくともコーディング領域を含んでなる組換えベクター。
【請求項6】
請求項5の組換えベクターが組換えベクターpMFL1又はpMFL2である組換えベクター。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の組換えベクターを麹菌に導入してなる形質転換体。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換体がAspergillus oryzae MEL-FAP(FERM P-17946)である形質転換体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の形質転換体を利用すること、を特徴とするフコース特異的レクチン活性を有するタンパク質を生産する方法。
【請求項10】
請求項1に記載のタンパク質を使用してフコースを測定又は検出するフコースの測定検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−149398(P2006−149398A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5209(P2006−5209)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【分割の表示】特願2000−307979(P2000−307979)の分割
【原出願日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】